説明

ヒト化抗ヒトCD34抗体、その調製方法および使用

本発明は、ヒト化抗ヒトCD34抗体およびその調製方法を提供する。ヒト化抗ヒトCD34抗体は、原型であるマウス由来抗体の親和性および特異性を保持している。抗体は、ナノ磁気物質とコンジュゲートして、骨髄造血幹細胞を選別するための免疫磁気ビーズを調製することができる。この抗体を用いると、HAMAの出現率が効果的に減少し、造血幹細胞の臨床的移植の安全性が改善される可能性があり、この抗体は一部の悪性血液病および固体腫瘍の治療に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオテクノロジー、特に、抗体、その調製方法および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
造血幹細胞/造血前駆細胞(HSC)の移植は、現在、特定の悪性血液病および固形腫瘍に対する唯一の効果的治療方法であるとよく理解されている。しかし、グラフトに多数のTリンパ球が含有されるので、グラフティングした後に急性の重篤な移植片対宿主病(GVHD)が起こり、これは、グラフティングされる異種遺伝子の造血幹細胞が長く生存できるか否かに影響する主要な原因の1つである。造血幹細胞/造血前駆細胞の移植に関する主な問題は、グラフト中の不純物細胞による干渉を除くための多量の精製造血幹細胞をいかに得るかである。それゆえ、グラフト中の特定の細胞を一掃または濃縮することは、現在のグラフティング分野に関係する問題である。HSCには明確な形態学的特徴がないが、主にリンパ球様の単核芽細胞として機能するので、HSCは細胞表面上のいくつかのタンパク質によってのみ同定することができる。110kDaの膜貫通型糖タンパク質であるCD34は、今までのところヒトHSCで発現されることが認識されている抗原の最も広く古いものであり、HSCの質および量を評価するための良いマーカーである。CD34抗体に基づく正の選択技術の開発により、CD34+造血幹細胞は、実験動物および人間において造血機能の再構成を示し[Andrews RG,Bryant EM,Bartelmez SH,Muirhead DT,Knitter GH,Bensinger W,Strong DM,Bernstien ID(1992)CD34 marrow cells,devoid of T and B Lymphocytes,reconstitute stable lymphopoiesis and myelopoiesis in lethally irradiated baboons.Blood 80:1693][Shpall EJ,Jones RB,Franklin W,Bearman S,Stemmer S,Hami L,Petsche D,Taffs S,Myers S,Purdy M,Heimfeld S,Halligan J,Berenson RJ(1994)Transplantation of autologous CD34 hematopoietic progenitor cells into breast cancer patient following high−dose chemotherapy.J Clin Oncol 12:28]、それゆえ、CD34+はその独特の生物学的特性および機能のために、造血幹細胞グラフティングの最適な標的細胞になっている。
【0003】
現在、細胞を分離および精製するために最も用いられている方法としては、接着法、分画遠心法、不連続密度勾配法などが挙げられる。これらの技術は多くの実際的な問題を解決しているにもかかわらず、分離および精製に関して、操作時間が長いこと、細胞の回収率が低いこと、およびコストが高いことから、細胞生物学の進展ならびに細胞バイオテクノロジー製品の開発および適用を妨げている。免疫磁気による細胞選択技術は、近年開発された新規細胞分離技術であり、操作が単純かつ容易であること、分離純度が高いこと、および細胞活性が維持されることなどの利点を有し、種々の骨髄細胞および血球、腫瘍細胞、細菌および他の微生物などの分離および検査に使用することができる。したがって、免疫磁気による細胞選択技術は、生物医学分野の研究者に支持されている。近年、免疫磁気ビーズは、徐々にサブミクロンサイズに開発されており、それによって、磁気ビーズによる細胞分離を低い磁場勾配で容易かつ迅速に行うことができ、続いて分析および適用を、細胞表面から磁気ビーズを解離させずに直接行うことができ、またビーズは分離後に細胞活性に影響を与えない。分離の原理は、磁気ナノ粒子を、その表面に抗体をコンジュゲートするためのベクターとして用い、抗体の特異的な親和性によって、磁気ナノ粒子上の抗体が細胞上の特異的な表面抗原に結合して細胞−抗体−磁気ナノ粒子複合体が形成され、印加磁場の指向制御下で、標的細胞を元の細胞混合物から直接、親和性吸着、洗浄および脱離などの操作による1ステップで単離することができるというものである。ナノ磁気細胞親和性分離は、容易かつ便利な磁気分離および高選択性親和性分離の二重の利点を有する。
【0004】
免疫磁気ビーズが世に出ると、骨髄造血幹細胞を選別するために、CD34モノクローナル抗体を磁気ナノ微粒子にコンジュゲートすることによって調製した免疫磁気ビーズの使用が、臨床的な造血幹細胞移植に適用されてきた。磁気分離が、細胞を選別する際に、操作が容易かつ便利である、分離が迅速かつ完璧である、細胞純度が高いなどの利点を有するという事実のおかげで、特定の悪性血液病、重篤な免疫不全ならびに腫瘍の放射線療法および化学療法に起因する造血機能の低下に対して、HSC移植が第1の選択になっている。造血幹細胞移植の過程中に、磁気ビーズに結合したこれらの抗体は、造血幹細胞と一緒にヒトの体内に必然的に侵入する。ハイブリドーマ技術によって産生されるマウス由来モノクローナル抗体は、ヒトの体内に侵入後、ヒト抗マウス抗体反応(HAMA)を引き起こす可能性がある[Winter G,Harris WJ.Humanized antibodies.Immunol Today.1993 Jun;14(6):243−6]。それゆえ、当業者にとって、遺伝子工学技術により、マウスの成分を減少させ、HAMAの発生率を効果的に減少させることができる免疫原性の低い抗体を構築することが差し迫った問題である。
【0005】
ヒト化抗体は、マウス由来モノクローナル抗体の欠陥を克服するために開発された遺伝子工学による新規の抗体である。ヒト化抗体の最初の世代は、マウスモノクローナル抗体の可変領域とヒト抗体の定常領域から構成されるキメラ抗体である。抗体と抗原の間の親和性は抗体の可変領域で決定されるので、キメラ抗体は良好な親和性を保ち、それと同時に、免疫原性がある程度まで減少する。抗体の可変領域は、超可変領域(CDR)とフレーム領域(FR)から構成され、CDRは、抗体の抗原への結合を直接媒介する高度可変領域であり、FR領域は、比較的保存的であり、免疫原性を産生する可変領域内の主要領域であるCDR領域の空間的な位置を維持するための支持体として使用される。キメラ抗体はマウス由来抗体の可変領域を保持しているので、臨床的な適用において、なお強力なHAMA反応を引き起こす可能性がある。したがって、キメラ抗体の免疫原性を最大限減少させるために、マウスCDR領域をヒト由来抗体のFR領域に直接グラフティングし、CDRグラフト抗体、すなわちヒト化抗体を得ることが考えられる。しかし、特定のフレームワーク残基がCDRコンホメーションの保存に重要である、または抗原結合に直接関連するため、マウスCDRを単独で移動させると、通常、抗原結合が著しく低下する。ほとんどの場合、ヒト化抗体を首尾よく設計するには、これらのキーマウス残基をヒトフレームワークに再導入して親和性を回復させることが必要である。それゆえ、抗体をヒト化するためには、FRの抗体活性に影響する重要な残基をいかに決定するかが重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、マウスCDR領域をヒト化抗体のフレームワーク領域内にグラフティングすることによって得られた良好な親和性を保ち、同時にヒト化抗体のフレームワーク領域のアミノ酸配列を再形成している抗体である、ヒト化抗ヒトCD34抗体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明は、少なくとも1つの抗原結合部位を含むヒト化抗ヒトCD34抗体であって、前記抗原結合部位が、
配列番号6に示すアミノ酸配列を有する第1の可変領域を含む第1ドメインと、
配列番号8に示すアミノ酸配列を有する第2の可変領域を含む第2ドメインと
を少なくとも含む、ヒト化抗ヒトCD34抗体を提供する。
【0008】
上記の第1の可変領域および第2の可変領域は、それぞれ、免疫グロブリンの重鎖可変領域および軽鎖可変領域に対応し、第1の可変領域の超可変領域(CDR)は順次CDR1、CDR2およびCDR3を含み、そのアミノ酸配列は、それぞれ、CDR1:GYTFTNYGMN、CDR2:WINTNTGEPKYAEEFKGおよびCDR3:GYGNYARGAWLAYである。上記のCDR領域に加え、第1の可変領域はヒト免疫グロブリン重鎖可変領域由来のフレームワーク領域(FR)をさらに含む。抗体の親和性を改善するために、本発明においてフレームワーク領域のアミノ酸を部分的に再形成させ、それによって、アミノ酸配列が配列番号6であり、配列番号5がそれをコードする対応ヌクレオチド配列である、第1の可変領域が得られる。同様に、第2の可変領域の超可変領域(CDR)は順次CDR1’、CDR2’およびCDR3’を含み、そのアミノ酸配列は、それぞれ、CDR1’:RSSQTIVHSNGNTYLE、CDR2’:QVSNRFSおよびCDR3’:FQGSHVPRTである。上記のCDR領域に加え、第2の可変領域はヒト免疫グロブリン軽鎖可変領域由来のフレームワーク領域(FR)をさらに含む。抗体の親和性を改善するために、本発明においてフレームワーク領域のアミノ酸を部分的に再形成させ、それによって、アミノ酸配列が配列番号8であり、配列番号7がそれをコードする対応ヌクレオチド配列である、第2の可変領域が得られる。
【0009】
さらに、本発明のヒト化抗ヒトCD34抗体において、前記抗原結合部位は、
1)前記第1の可変領域およびヒト免疫グロブリン重鎖定常領域またはその断片を含む免疫グロブリン重鎖またはその断片と
2)前記第2の可変領域およびヒト免疫グロブリン軽鎖定常領域またはその断片を含む免疫グロブリン軽鎖またはその断片と
を含む。
【0010】
ヒト免疫グロブリン定常領域は、各種免疫グロブリンから選択することができ、ヒト免疫グロブリン重鎖定常領域またはその断片が、配列番号2に示すアミノ酸配列を有するγ型(IgG1)であり、ヒト軽鎖定常領域またはその断片が、κ型またはλ型であることが好ましく、軽鎖定常領域の好ましいアミノ酸配列は配列番号4に示す。
【0011】
本発明の他の目的は、上記のヒト化ヒトCD34抗体をコードするヌクレオチド分子を提供することであり、そのヌクレオチド分子によって形質転換される宿主も本発明に含まれる。
【0012】
本発明は、さらに、上記のヒト化抗CD34抗体の調製方法であって、コンピュータを使った分子モデリングに基づいてヒト化抗体h4C8のアミノ酸配列を設計すること、重鎖可変領域遺伝子および軽鎖可変領域遺伝子の全遺伝子合成を行い、その遺伝子をヒト抗体の重鎖定常領域および軽鎖定常領域で繋げること、それぞれ遺伝子組換えであるが、真核細胞発現ベクターにクローニングしてヒト化抗体の重鎖および軽鎖に対する発現ベクターを構築すること、次いで軽鎖発現ベクターおよび重鎖発現ベクターをリポソーム法によりCHO細胞中に共トランスフェクトすること、ならびに次いでスクリーニング、培養および精製して産物を得ることを含む方法も提供する。
【0013】
本発明において、得られた抗体を用いて連続した実験を行い、in vitroでの抗原結合活性アッセイの結果から、h4C8が、抗原CD34を高度に発現しているヒト骨髄性白血病細胞KG−1aに特異的に結合できることが示されている。競合阻害試験の結果から、h4C8が、原型であるマウス由来抗体の親和性および特異性を保持していることが示されている。この抗体は、骨髄造血幹細胞を選別するためにナノ磁気物質にコンジュゲートして免疫磁気ビーズを調製することができる。この抗体を用いると、HAMAの出現率が効果的に減少し、造血幹細胞の臨床的移植の安全性が改善される可能性があり、この抗体は一部の悪性血液病および固体腫瘍の治療に使用することができる。
【0014】
カルボジイミド/N−ヒドロキシスクシンイミド(EDC/NHS)法を用いて、磁気ビーズ表面のカルボキシル基を活性化させ、次いで活性化したカルボキシル基を抗体のアミノ基と反応させ、CD34抗体をコンジュゲートし、細胞を効果的に単離することができるCD34+免疫磁気ビーズを調製する。選別モデルを、CD34+KG−1a細胞およびCD34−Raji細胞を用いて調製し、CD34モノクローナル免疫磁気ビーズを用いてCD34+細胞を選別する。同じく、CD34+免疫磁気ナノ粒子を用いて臍帯血幹細胞を選別し、選別によって得られた細胞の純度および収率を分析する。
【0015】
磁気ナノ粒子に結合する抗CD34モノクローナル抗体を抗体ベクターとして用いてCD34+造血幹細胞/造血前駆細胞に結合させ、そのようにして免疫複合体を形成する。印加磁場の影響下で、この複合体を動的に移動させ、磁気ナノ粒子上の抗体に特異的に結合する造血幹細胞/造血前駆細胞を他の細胞(CD34抗原を発現しない腫瘍細胞)から単離する。精製した造血幹細胞を元の患者に移入して造血系および免疫系を再構築させ、腫瘍の再発を効果的に減少させる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】4C8モノクローナル抗体を分子シミュレーションした構造の概略図である。FR領域残基を薄い灰色のリボンで表し、CDR領域残基を濃い灰色のリボンで表し、CDR領域の周囲5オングストローム(Å)以内の9個のFR領域残基を薄い灰色の球棒で表している。
【図2】ヒト化抗体h4C8の重鎖(図2−1)および軽鎖(図2−2)のアミノ酸配列と関連配列の並列図である。4C8VHおよび4C8VLはそれぞれ、マウス由来モノクローナル抗体4C8の重鎖可変領域および軽鎖可変領域を表し、ヒト抗体AAC18206の重鎖可変領域およびヒト抗体BAC01734の軽鎖可変領域は、それぞれ、ヒト化抗体hu4C8の重鎖フレームワーク領域および軽鎖フレームワーク領域として選択され、hu4C8VHaおよびhu4C8VHbは、それぞれ異なるヒト化抗体の重鎖可変領域を表し、h4C8VLaおよびh4C8VLbは、それぞれ異なるヒト化抗体の軽鎖可変領域を表し、ダッシュは、ヒト抗体AAC18206またはBAC01734の対応残基と同一であるアミノ酸を表し、CDR領域は角括弧で表し、カバットの番号付け(Kabat numbering manner)に従ってアミノ酸に番号を付けている[E.A.Kabat,T.T.Wu,H.M.Perry,K.S.Gottesman,C.Foeller,Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth ed.,United States Department of Health and Human Services,Bethesda,MD,1991.]。
【図3】ヒト化4C8抗体の抗原結合活性アッセイの結果を示すグラフである。
【図4】競合阻害試験の結果を示すグラフである。
【図5】CD34免疫磁気ビーズを用いたCD34+細胞系の選別試験の結果を示すグラフである。前側は、選別前の混在した状態の細胞であり、左側のピークはCD34−Raji細胞であり、右側のピークはCD34+KG−1a細胞である。後ろ側は、選別後の正の細胞集団であり、CD34−Raji細胞が取り除かれてCD34+細胞が効果的に濃縮されている。
【図6】CD34免疫磁気ビーズを用いた、ヒト臍帯血幹細胞選別試験の結果を示すグラフである。前側は、選別前の臍帯血幹細胞であり、左側のピークはCD34−細胞集団であり、右側のピークはCD34+細胞集団である。後ろ側は、選別後の正の細胞集団であり、CD34−細胞が取り除かれてCD34+幹細胞が効果的に濃縮されている。
【図7】ヒト化抗CD34抗体とマウス由来抗体My10の競合阻害試験の結果を示すグラフである。
【図8】ヒト化抗CD34抗体およびマウス由来抗体My10をビーズにコンジュゲートした後の臍帯血幹細胞選別の競合試験結果を示すグラフである(左側のピークは選別前の試験結果であり、右側のピークは選別後の試験結果である)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の実施例は、単に本発明をさらに説明するものであり、本発明を限定するものであると理解されるべきではない。
【0018】
KG−1a(ヒト白血病細胞、ATCC、CCL−246.1)
【0019】
Raji(ヒトBリンパ腫細胞、ATCC、CCL−86)
【0020】
本発明において、4C8は、本出願人により2007年12月13日に出願された出願に基づく、2008年8月20日に公開されたタイトルが抗ヒトCD34抗体、その調製方法および使用である中国特許出願第200710094456.9号の発明に開示されている方法によって得られたものを意味し、その方法は下記に詳細を述べる。
【0021】
ヒト抗体の軽鎖定常領域および重鎖定常領域をコードする遺伝子のクローニング
健康なヒトリンパ腫細胞をリンパ腫細胞分離溶液(Dingguo Biotechnology Development Company、CHINA)から単離し、全RNAを、Trizol試薬(Invitrogen)を用いて抽出し、抗体の重鎖定常領域および軽鎖定常領域をコードする遺伝子を、それぞれ参照文献(Cell,1980,22:197−207)および参照文献(Nucleic Acids Research, 1982, 10: 4071−4079)で報告されている配列に従って設計したプライマーを用いて、RT−PCR反応によって増幅した。PCR産物を、アガロースゲル電気泳動により精製し、回収してpGEM−Tベクターにクローニングし、配列決定による検証によって正しいクローンを得た。配列番号1および2は、それぞれ、重鎖定常領域(CH)のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を示す。配列番号3および4は、それぞれ、軽鎖定常領域(CL)のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を示す。本例において、正しいクローンをpGEM−T/CHおよびpGEM−T/CLとマークした。
【実施例1】
【0022】
抗ヒトCD34モノクローナル抗体4C8の調製−−−細胞融合ハイブリドーマによるモノクローナル抗体の調製
BALB/cマウス(SHANGHAI LABORATORY ANIMAL CENTERから入手)を、CD34を高度に発現しているKG−1a細胞(KG−1a細胞 ATCC CCL−246.1)で免疫し、脾臓内のBリンパ球に抗ヒトCD34抗体を産生させ、免疫したマウス由来の脾細胞をNS−1(BALB/cマウス骨髄腫細胞)と融合し、HATにより選択的に培養し、培養後、抗ヒトCD34の陽性クローンを選択し、クローニングした後、サブクローンを選択して単一のクローン細胞により抗体が産生されることを確実にし、次いで各クローン細胞の培養物の上澄みを採取し、次いで、ProteinGカラムによる精製によって抗ヒトCD34モノクローナル抗体4C8を得た。
【実施例2】
【0023】
キメラ抗体c4C8の構築
抗ヒトCD34モノクローナル抗体4C8の可変領域をコードする遺伝子のクローニング
全RNAを、抗ヒトCD34を分泌するハイブリドーマ細胞4C8 2×10個から、「Trizol Reagent」試薬キット(Gibco BRL,USA)をその取扱説明書に従って用いて抽出した。3種の遺伝子特異的プライマー、GSP1、GSP2、GSP3を、それぞれ、抗体(IgG1、κ)の重鎖定常領域および軽鎖定常領域の相応な位置を選択することにより設計した。ここで、GSP1は、可変領域遺伝子から最も遠く離れており、逆転写反応に使用し、GSP2は、PCR増幅の最初の実行に使用し、GSP3は、ネステッド増幅に使用する。プライマーは、SHANGHAI SANGON BIOLOGICAL TECHNOLOGY&SERVICES CO.,LTDにより合成され、その配列は下記であった:GSP1−H,5’−GTA GAG GTC AGA CTG CAG GAC−3’;GSP2−H,5’−CTC AGG GAA ATA GCC CTT GAC−3’;GSP3−H,5’−AGA TCC AGG GGC CAG TGG ATA GAC−3’.GSP1−L,5’−TTG CTG TCC TGA TCA GTC CAA CT−3’;GSP2−L,5’−TGT CGT TCA CTG CCA TCA ATC TT−3’;GSP3−L,5’−TTG TTC AAG AAG CAC ACG ACT GA−3’
【0024】
GSP1をプライマーとして用い、5’RACE試薬キット(Gibco BRL,US)の取扱説明書に従って、全RNAをcDNAに逆転写し、次いでポリ(C)テールを第1鎖cDNAの3’末端に付加し、テーリング後、GSP2およびAAPをプライマーとして用いてPCR増幅を行い、増幅産物を100倍希釈し、AUAPおよびGSP3をプライマーとして用いてネステッドPCR増幅を行った。どちらのPCR反応もホットスタートPCRで行い、反応条件は、94℃で5分;94℃で45秒、60℃で45秒、72℃で70秒を30サイクル;72℃で7分であった。ネステッドPCR産物を1%アガロースゲル電気泳動により分離し、次いで対象の断片を回収および精製し、pGEM−Tイージーベクターにクローニングし、陽性クローンを選択して配列決定し、配列決定の結果について分析を行った。次いで、配列決定により確認された正しいpGEM−T/Vを鋳型として利用し、HセンスプライマーAAG CTT GCC GCC ACC ATG GAT TGG CTG TGG AAC TTGおよびHアンチセンスプライマーGCT AGC TGC AGA GAC AGT GAC CAGを設計し、ワンステップRT−PCR反応を用いてVH鎖可変領域遺伝子を増幅し、その5’末端にHindIII制限酵素部位が含まれ、3’末端にNheI制限酵素部位が含まれるようにした。反応条件は、50℃で30分;95℃で15分;94℃で50秒、58℃で50秒、72℃で50秒を30サイクル;72℃で10分であった。PCR産物を、アガロースゲル電気泳動により精製し、回収してpGEM−Tベクター(Promega)にクローニングし、陽性クローンを選択し、配列決定により検証し、その結果から、配列が5’RACEの配列と完全に一致することが実証された。配列番号9および配列番号10は、それぞれ、4C8重鎖可変領域のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を示す。本実施例において、正しいクローンをpGEM−T/VHと命名した。
【0025】
配列決定により検証された正しいpGEM−T/Vを鋳型として利用して、HセンスプライマーAAG CTT GCC GCC ACC ATG AAG TTG CCT GTT AGG CTGおよびLアンチセンスプライマーGAC AGA TGG TGC AGC CAC AGT CCG TTT GAT TTC CAG CTT Gを設計し、ワンステップRT−PCRを用いてVL遺伝子を増幅し、その5’末端にHindIII制限酵素部位が含まれ、3’末端にヒト抗体軽鎖定常領域の5’末端に相補的な配列が含まれるようにした。反応条件は、94℃で5分;94℃で50秒、58℃で50秒、72℃で1分を30サイクル;72℃で10分であった。PCR産物を、アガロースゲル電気泳動により精製し、回収してpGEM−Tベクター(Promega)にクローニングし、陽性クローンを選択し、配列決定により検証し、その結果から、配列が5’RACEの配列と完全に一致することが実証された。配列番号11および配列番号12は、それぞれ、4C8軽鎖可変領域のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を示す。本実施例において、正しいクローンをpGEM−T/VLと命名した。
【0026】
キメラ抗体c4C8の構築
ワンステップRT−PCR後、配列決定により正しいとされた上記のプラスミドpGEM−T/VHを、HindIIIおよびNheIにより消化し、アガロースゲル電気泳動により精製し、回収した後に得られた430bpの消化断片を、同じくHindIIIおよびNheIによって消化したプラスミドpGEM−T/CHとライゲーションし、正しいクローンを選択し、HindIIIおよびEcoRIによって消化し、アガロースゲル電気泳動により精製した後、対象の断片を回収し、T4DNAリガーゼ(Invitrogen,US)を用いて、HindIIIおよびEcoRIによって消化したpcDNA3.1(+)(Invitrogen,US)とライゲーションし、真核細胞発現ベクターpcDNA3.1(+)(VHCH)を構築した。
【0027】
ワンステップRT−PCR後、配列決定により正しいとされた上記プラスミドpGEM−T/VLを、反応条件が、50℃で30分;95℃で15分;94℃で50秒、58℃で50秒、72℃で50秒を30サイクル;72℃で10分であるオーバーラッピングPCRを用いて、正しいクローンpGEM−T/VLの軽鎖定常領域に直接融合し、5’末端にHindIII制限酵素部位が含まれ、3’末端にEcoRI制限酵素部位が含まれるPCR産物VLCLを得た。アガロースゲル電気泳動により精製した後、PCR産物を回収し、pGEM−Tベクター(Promega)にクローニングし、陽性クローンを選択し、配列決定した。配列決定により正しいとされたVLCL遺伝子を、HindIIIおよびEcoRIによってpGEM−Tベクターから切断し、pcDNA3.1/ZEO(+)ベクター(Invitrogen,US)にクローニングして真核細胞発現ベクターpcDNA3.1/ZEO(+)(VLCL)を構築した。
【0028】
3×10個のCHO−K1細胞を、3.5cmの組織培養皿に播種し、細胞が90〜95%融合するまで培養した時にトランスフェクトした:プラスミド10μg(プラスミドcDNA3.1(+)(VHCH)4μg、プラスミドpcDNA3.1/ZEO(+)(VLCL)6μg)およびLipofectamine2000 Reagent(Invitrogen)20μlを、それぞれ、血清を含まないDMEM培地500μlに溶解させ、室温で5分間静置し、上記2種の液体を混合し、室温で20分間インキュベートしてDNA−リポソーム複合体を形成した。この期間中、培地皿中の血清含有培地を、血清を含まないDMEM培地3mlと入れ替え、次いで形成されたDNA−リポソーム複合体をプレートに加え、COインキュベーター内で4時間培養し、次いで10%血清含有DMEM完全培地2mlを補充し、COインキュベーター内で持続的に培養した。トランスフェクションの24時間後、細胞を600μg/mlのG418および250μg/mlのZeocinを含有する選択培地に移して耐性クローンを選択した。細胞培養物の上澄みを利用し、ELISAによって、高度に発現しているクローンを選択した:ヤギ抗ヒトIgG(Fc)をELISAプレート上にコーティングし、4℃で一晩置き、2%BSA−PBSを用いて37℃で2時間、ブロッキングし、試験対象の耐性クローン培養物の上澄みまたは標準試料(ヒト骨髄腫IgG1、κ)を加え、37℃で2時間加温インキュベートし、化合反応のためにHRP−ヤギ抗ヒトIgG(κ)を加え、37℃で1時間加温インキュベートし、TMBを加えて37℃で5分間作用させ、最後にHSOを用いて反応を止め、A450値を測定した。選択によって得られた、高度に発現しているクローンを、血清を含まない培地で拡大培養し、ProteinA親和性カラム(GE company)によって、キメラ抗体c4C8を単離し精製した。精製された抗体を、PBSを用いて透析し、紫外線吸収法を定量化に用いた。
【実施例3】
【0029】
ヒト化抗体4C8の構築
マウス由来4C8モノクローナル抗体の可変領域(Fv)の三次元構造の相同性モデリング
マウス由来4C8モノクローナル抗体の可変領域の三次元構造を、Accelrys companyのInsight IIソフトウェアパッケージにより作製した。まず、4C8の重鎖可変領域タンパク質および軽鎖可変領域タンパク質の鋳型タンパク質を、それぞれ、BLASTプログラムによってProtein Data Bank(PDB)で検索した。最も高い相同性を有する抗体1A4Jを、図1に示したような、Insight IIプログラムを用いた4C8の三次元構造モデリングのための、4C8のモデリング鋳型として選択した。
【0030】
ヒト化4C8抗体の設計および構築
BLASTプログラムを用いて、4C8の軽鎖可変領域および重鎖可変領域に最も類似したヒト由来の鋳型を、Genbankデータベースで検索した。4C8の重鎖可変領域と最も高い相同性を有するヒト由来抗体は、68%の類似性を持つヒト抗体AAC18206(GenBank No.AAC18206)であり、4C8の軽鎖可変領域と最も高い相同性を有するヒト由来抗体は、80%の類似性を持つBAC01734(GenBank No.BAC01734)である。従って、AAC18206およびBAC01734を、それぞれ、4C8の重鎖および軽鎖のヒト化鋳型として使用した。まず、4C8の重鎖CDR領域および軽鎖CDR領域を、それぞれ、ヒト化鋳型AAC18206およびBAC01734にグラフティングしてCDRがグラフティングされた抗体、それぞれ重鎖および軽鎖に対して、h4C8Haおよびh4C8Laを形成した。h4C8Haの可変領域およびh4C8Laの可変領域のアミノ酸配列を図2に示す。ヒト化抗体の重鎖可変遺伝子および軽鎖可変遺伝子(h4C8VHaおよびh4C8VLa)を全遺伝子合成により合成し、次いでh4C8VHa遺伝子およびpGEM−T/CHベクターを鋳型として用いて、オーバーラッピングPCRによってヒト化抗体の重鎖遺伝子を合成した。反応条件は、95℃で15分;94℃で50秒、58℃で50秒、72℃で50秒を30サイクル;72℃で10分であった。加えて、このヒト化重鎖遺伝子は、5’末端にHindIII制限酵素部位およびシグナルペプチド遺伝子配列、3’末端に翻訳停止コードTAAおよびEcoRI制限酵素部位を有するようにした。シグナルペプチドの配列は配列番号:(ATGGATTTTCAGGTGCAGATTTTCAGCTTCCTGCTAATCAGTGCCTCAGTCATAATATCCAGAGGA)に示す。最後に、PCR増幅産物をアガロースゲル電気泳動によって分離し、対象のバンドを回収し、pGEMTベクターにクローニングして陽性クローンを選択し配列決定した。正しい配列を持つクローンを選択し、HindIIIおよびEcoRIによって消化し、アガロースゲル電気泳動を行った後、ヒト化抗体の重鎖断片H4C8VHaCHを回収し、HindIIIおよびEcoRIによって消化したプラスミドpcDNA3.1(+)(Invitrogen,USA)とライゲーションして、ヒト化重鎖真核生物発現ベクターpcDNA3.1(+)(h4C8VHaCH)を構築した。
【0031】
h4C8VLa遺伝子およびpGEM−T/CLベクターを鋳型として用いて、オーバーラッピングPCRによって、ヒト化抗体の軽鎖遺伝子を合成した。反応条件は、95℃で15分;94℃で50秒、58℃で50秒、72℃で50秒を30サイクル;72℃で10分であった。このようにして得られたPCR産物はh4C8VLaCLであり、5’末端にHindIII制限酵素部位およびシグナルペプチド遺伝子配列、3’末端に翻訳停止コードTAAおよびEcoRI制限酵素部位を含む。シグナルペプチドの配列は配列番号:(ATGGATTTTCAGGTGCAGATTTTCAGCTTCCTGCTAATCAGTGCCTCAGTCATAATATCCAGAGGA)に示す。正しい配列を持つクローンを選択し、HindIIIおよびEcoRIによって消化し、アガロースゲル電気泳動を行った後、ヒト化抗体の軽鎖断片H4C8VLaCLを回収し、同じくHindIIIおよびEcoRIによって消化したプラスミドpcDNA3.1(+)ベクター(Invitrogen,USA)とライゲーションして、ヒト化重鎖真核生物発現ベクターpcDNA3.1/ZEO(+)(h4C8VLaCL)を構築した。
【0032】
COS−1細胞(ATCC CRL 1650)を、0.8×10/ウェルで24ウェルの組織培養プレートに播種し、10%FCS含有RPMI1640/DMEM混合培地(16/DM培地)を用いて90〜95%融合するまで培養してトランスフェクションを行った:プラスミド1μg(軽鎖発現ベクター0.6μg、重鎖発現ベクター0.4μg)およびLipofectamine2000 Reagent 2μlを、それぞれ、血清を含まない16/DM培地50μlに溶解させ、室温で5分間静置し、上記2種の液体を混合し、室温で20分間インキュベートしてDNA−リポソーム複合体を形成した。この期間中に、24ウェル培養プレート中の血清含有培地を、血清を含まない16/DM培地0.5mlと入れ替え、次いで形成されたDNA−リポソーム複合体をウェルに加え、COインキュベーター内で4時間培養し、次いで20%FCS含有16/DM培地0.5mlを補充し、COインキュベーター内で持続的に培養した。72時間後、培養物の上澄みを分析のために利用し、培養物の上澄み中の抗体含有量をELISAにより決定した:ヤギ抗ヒトIgG(Fc)をELISAプレート上にコーティングし、4℃で一晩置き、2%BSA−PBSを用いて37℃で2時間、ブロッキングし、試験対象の培養物の上澄みおよび標準試料(ヒト骨髄腫IgG1、κ)を加え、37℃で2時間インキュベートし、化合反応のためにHRP−ヤギ抗ヒトκを加え、37℃で1時間インキュベートし、TMBを加えて37℃で5分間作用させ、最後にHSOを用いて反応を止め、OD450値を測定した。
【0033】
ヒトKG−1a細胞を、細胞1×10個/mlになるように2%FCS−PBSに再懸濁させ、ヒト化抗体をトランスフェクトしたCOS細胞培養物の上澄みを、異なる希釈度で、それぞれ加え、それらを4℃で60分間インキュベートし、次いで細胞を2%FCS−PBSで2回洗浄し、次いでFITC−ヤギ抗ヒトIgG(H+L)を細胞に加え、4℃で60分間インキュベートし、洗浄した後、細胞をフローサイトメトリー(FCM)によって分析し、蛍光強度を計算した。その結果から、c4C8キメラ抗体と比べて、h4C8Haおよびh4C8Laから構成されるヒト化抗体(h4C8Ha/h4C8La)は、その活性がほとんど完全に失われることが示されている(図3)。それゆえ、高い親和性を持つヒト化抗体を得るために、さらに、4C8抗体の結合活性にもしかしたら影響しうるFR領域のマウス由来残基について分析および復帰突然変異を行う必要がある。
【0034】
モデリングした4C8モノクローナル抗体の可変領域の三次元構造を分析することにより、CDR領域の周囲5Å内の9つのフレームワーク残基、L3Leu、L4Leu、L46Leu、H2Ile、H46Lys、H68Ala、H69Leu、H82aAsn、およびH91Pheが、ヒト化鋳型の対応する位置と異なると同時に、原型である抗体のCDRコンホメーションに影響する可能性があることが発見された。構築されたCDRグラフティング抗体内にこれらのマウス由来アミノ酸残基を残したままヒト化抗体(h4C8Hb/h4C8Lb)を得ることができる。h4C8Hbおよびh4C8Lbの可変領域に対するアミノ酸配列を図2に示す。配列番号5および6は、それぞれ、h4C8Hbのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を示す。配列番号7および8は、それぞれ、h4C8Lbのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を示す。h4C8Hbの3つのCDR領域のアミノ酸配列は、それぞれ、HCDR1(GYTFTNYGMN)、HCDR2(WINTNTGEPKYAEEFKG)、HCDR3(GYGNYARGAWLAY)である(図2−1のH4C8VHb参照)。h4C8Lbの3つのCDR領域のアミノ酸配列は、それぞれ、LCDR1(RSSQTIVHSNGNTYLE)、LCDR2(QVSNRFS)、LCDR3(FQGSHVPRT)である(図2−2のH4C8VLb参照)。ヒト化抗体の重鎖可変領域遺伝子および軽鎖可変領域遺伝子(h4C8VHb/h4C8VLb)を、それぞれ、オーバーラッピングPCRを用いて合成し、ヒト化抗体(h4C8Ha/h4C8La)についてと同じ方法を用いて軽鎖発現ベクターpcDNA3.1/ZEO(+)(h4C8VLbCL)および重鎖発現ベクターpcDNA3.1(+)(h4C8VHbCH)を構築した。次いで、軽鎖発現ベクターおよび重鎖発現ベクターをCOS−1細胞に共トランスフェクトした。フローサイトメトリーアッセイを行って抗体の抗原結合活性を決定し、その結果、KG−1aに対するこの抗体の結合能は4C8キメラ抗体の結合能と同様であることが示され、よってこのヒト化抗体(h4C8Ha/h4C8La)をh4C8として設計した。
【実施例4】
【0035】
ヒト化抗体の安定発現および精製
3×10個のCHO−K1細胞(ATCC CRL−9618)を、3.5cmの組織培養皿に播種し、細胞が90〜95%融合するまで培養した時にトランスフェクトした:プラスミド10μg(プラスミドpcDNA3.1(+)(Vh4C8HbCH)4μg、プラスミドpcDNA3.1/ZERO(+)(Vh4C8LbCL)6μgおよびLipofectamine2000 Reagent(Invitrogen)20μlを、それぞれ、血清を含まないDMEM培地500μlに溶解させ、室温で5分間静置し、上記2種の液体を混合し、室温で20分間インキュベートしてDNA−リポソーム複合体を形成した。この期間中、培地皿中の血清含有培地を、血清を含まないDMEM培地3mlと入れ替え、次いで形成されたDNA−リポソーム複合体をプレートに加え、COインキュベーター内で4時間培養し、次いで10%血清含有DMEM完全培地2mlを補充し、COインキュベーター内で持続的に培養した。トランスフェクションの24時間後、細胞を600μg/mlのG418および250μg/mlのZeocinを含有する選択培地に移して耐性クローンを選択した。細胞培養物の上澄みを利用し、高度に発現しているクローンを選択した:ヤギ抗ヒトIgG(Fc)をELISAプレート上にコーティングし、4℃で一晩置き、2%BSA−PBSを用いて37℃で2時間、ブロッキングし、試験対象の耐性クローン培養物の上澄みまたは標準試料(ヒト骨髄腫IgG1、κ)を加え、37℃で2時間加温インキュベートし、化合反応のためにHRP−ヤギ抗ヒトIgG(κ)を加え、37℃で1時間加温インキュベートし、TMBを加えて37℃で5分間作用させ、最後にHSOを用いて反応を止め、A450値を測定した。選択によって得られた、高度に発現しているクローンを、血清を含まない培地で拡大培養し、ProteinA親和性カラム(GE company)によって、ヒト化抗体h4C8を単離し、精製した。精製された抗体を、PBSを用いて透析し、紫外線吸収法を定量化に用いた。
【実施例5】
【0036】
競合阻害試験
固定したほぼ飽和濃度の蛍光標識精製抗体FITC−4C8と、非標識抗体の段階希釈液を、それぞれ混合し、次いで、標的のKG−1a細胞に加え(1×10個/ml)、4℃で60分間インキュベートし、細胞を1%のFCS−PBSで2回洗浄し、分析のためにCellquestソフトウェアを用いたFCMによって試験した。ヒト化抗CD3モノクローナル抗体hu12F6を対照として用いた(調製については、Li BH,Wang H,Dai JX, Ji JJ,Qian WZ,Zhang DP,Hou S,Guo YJ.Construction and characterization of a humanized anti−human CD3 monoclonal antibody 12F6 with effective immunoregulation functions.Immunology.2005,116(4):487−98を参照されたい)。競合抗体の各濃度について、管を3連で用意した。競合抗体が存在しない場合に得られた蛍光強度の平均を示す最大蛍光強度を用いてIC50値を計算した。
【0037】
試験結果を図4に示す。抗体h4C8は、蛍光標識抗体FITC−4C8のKG−1aへの結合を完全に遮断し、h4C8とFITC−4C8のIC50値はほぼ同じであり、このことは、このヒト化抗体が、原型であるマウス由来抗体の特異性および親和性と同様の特異性および親和性を有することを示唆している。
【0038】
【表1】



【実施例6】
【0039】
免疫磁気ビーズの調製
活性化:pH6.0、0.01mol/LのNaHPOTween溶液(0.05%Tween−20)を活性化緩衝溶液として利用し、カルボキシルビーズ(Bangs laboratories,BioMag Carboxyl(BM570),USA)2mgを2mlの遠心分離管に入れ、活性化緩衝溶液500μlを加えてボルテックスミキサーで均一に混合し、次いで遠心分離管をMagnetic Separation Rack上に置き、磁気ビーズが完全に吸着した後、上澄みを小型の真空ポンプによって抽出した。活性化緩衝溶液500μlを加えて磁気ビーズを2回、洗浄し直し、次いで、活性化緩衝溶液485μlを磁気ビーズに加え、カルボジイミド(EDC、最初の濃度0.5g/ml)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS、最初の濃度0.25g/ml)をそれぞれ2.5mg加え、ボルテックスミキサーで均一に混合して、磁気ビーズの表面のカルボキシル基2mgを室温で30分間、活性化させた。
【0040】
コンジュゲート:pH7.4、0.01mol/Lのリン酸Tween溶液(PBST、0.05%Tween−20)500μlをコンジュゲート緩衝液として用い、活性化緩衝溶液500μlを加えて活性化した磁気ビーズを3回洗浄し直し、次いでコンジュゲート緩衝液500μlを加えて磁気ビーズを2回洗浄した。コンジュゲート緩衝液475μlを加えて洗浄した磁気ビーズを再懸濁させ、6mg/mlの抗CD34抗体25μlを加え、磁気ビーズ上の活性化したカルボキシル基を、室温で3時間、抗CD34抗体のアミノ基と反応させ、次いで抗体を磁気ビーズの表面にコンジュゲートして、免疫磁気ビーズを得た。
【0041】
ブロッキング:コンジュゲートした磁気ビーズをコンジュゲート緩衝液500μlで2回洗浄し、1%のウシ血清アルブミン(BSA)含有コンジュゲート緩衝液500μlを加えて30分間磁気ビーズをブロッキングした。
【0042】
貯蔵:コンジュゲートした磁気ビーズをコンジュゲート緩衝液500μlで2回洗浄し、磁気ビーズを、0.02%NaN、0.1%BSAを含有するpH7.4、0.01mol/Lのリン酸Tween溶液(0.05%Tween−20)500μl中に再懸濁させ、次いで使用するために冷蔵庫内で4℃で貯蔵した。
【実施例7】
【0043】
CD34免疫磁気ビーズによるCD34+細胞系の選別
CD34+KG−1a(ヒト白血病細胞)とCD34−Raji(ヒトBリンパ腫細胞)をin vitroで1:10の比率で混合し、ヒト臍帯血単核細胞(または動員された末梢血単核細胞)を模倣する。
【0044】
0.1MのPBS溶液の調製:NaCl 8g、KCl 0.2g、NaHPO−12HO 3.488g、 KHPO 0.2gにMilli−Q水を加えて1000mlにし、pH7.4に調整し、0.22μmフィルターを用いて滅菌し、4℃で貯蔵する。
【0045】
免疫磁気ビーズ選別緩衝液の調製:2mMのEDTAおよび0.5%BSAを含有する0.1MのPBS溶液。
【0046】
選別緩衝液を細胞10個当たり90μlの比率で加えて上記の混合細胞を再懸濁させ、
上記の細胞懸濁液に、CD34免疫磁気ビーズを細胞10個当たり10μlの比率で加え、混合して4〜8℃で15分間インキュベートし、
選別緩衝液を細胞10個当たり1000μlの比率(10個未満の細胞に対しても1000μlを適用できる)で加えて細胞を再懸濁させ、遠心分離管を磁場に置き、上澄みを取り除き、
上記のステップを2回繰り返し、
細胞沈殿物を、選別緩衝液500μlを用いて再懸濁させ、CD34+KG−1a細胞を得る。
【0047】
細胞を、CD34−FITC(8G12、BD Bioscience、340668、選別抗体に対する競合作用を有さない)で染色し、選別によって得られた細胞の純度は95%を超えることが同定され、選別細胞を計測したところ、CD34+細胞の選別収率は90%を超えた。結果を図5に示す。
【実施例8】
【0048】
CD34免疫磁気ビーズによるヒト臍帯血幹細胞の選別
ヒト臍帯血からCD34+血液幹細胞を選別した。
【0049】
0.1MのPBS溶液の調製:NaCl 8g、KCl 0.2g、NaHPO−12HO 3.488g、 KHPO 0.2gにMilli−Q水を加えて1000mlにし、pH7.4に調整し、0.22μmフィルターを用いて滅菌し、4℃で貯蔵する。
【0050】
免疫磁気ビーズ選別緩衝液の調製:2mMのEDTAおよび0.5%BSAを含有する0.1MのPBS溶液。
【0051】
健康な母性臍帯血からFicollを用いて単核細胞を単離する。
【0052】
選別緩衝液を細胞10個当たり90μlの比率で加えて単核細胞を再懸濁させ、
上記の細胞懸濁液に、CD34免疫磁気ビーズを細胞10個当たり10μlの比率で加え、混合して4〜8℃で15分間インキュベートし、
選別緩衝液を細胞10個当たり1000μlの比率(10個未満の細胞に対しても1000μlを適用できる)で加えて細胞を再懸濁させ、遠心分離管を磁場に置き、上澄みを取り除き、
上記のステップを2回繰り返し、
細胞沈殿物を、選別緩衝液500μlを用いて再懸濁させ、CD34+血液幹細胞を得る。
【0053】
細胞を、CD34−FITC(8G12、BD Bioscience、340668、選別抗体に対する競合作用を有さない)で染色し、選別によって得られた細胞の純度は95%を超えることが同定され、選別細胞を計測したところ、CD34+細胞の選別収率は90%を超えた。結果を図6に示す。
【0054】
この結果は、我々が調製したCD34免疫磁気ビーズを用いた臍帯血幹細胞の選別によって得られた純度および収率が、臨床に適用するための必要性に見合い、骨髄血幹細胞の臨床的移植において使用できることが見込まれることを示している。
【実施例9】
【0055】
ヒト化抗CD34抗体およびマウス由来抗体My10の競合阻害試験
ほぼ飽和濃度のFITC−CD34(My10)(BD、348053)ならびに非標識の精製抗体h4C8および非標識のMy10(マウス抗ヒトCD34ハイブリドーマ細胞(ATCC、HB8483、抗My10クローン)の段階希釈液を、血清を含まないハイブリドーマ−SFM培地(GIBCO、12045)で培養した。rProteinA親和性クロマトグラフィー(GE)により精製した後、培養物の上澄みをそれぞれ混合し、次いで標的細胞KG−1a(1×10/ml)に加え、4℃で60分間インキュベートし、細胞を1%FCS−PBSで2回洗浄し、分析のためにCellquestソフトウェアを用いたFCMにより試験した。ヒト化抗CD3モノクローナル抗体hu12F6を対照として用いた(調製については、Li BH,Wang H,Dai JX, Ji JJ,Qian WZ,Zhang DP,Hou S,Guo YJ.Construction and characterization of a humanized anti−human CD3 monoclonal antibody 12F6 with effective immunoregulation functions.Immunology.2005,116(4):487−98を参照されたい)。競合抗体の各濃度について、管を3連で用意した。競合抗体が存在しない場合に得られた蛍光強度の平均を示す最大蛍光強度を用いてIC50値を計算した。この試験を3回繰り返し、統計的な結果を得る。表2を参照されたい。
【0056】
試験結果を図7に示す。抗体h4C8によって遮断される蛍光標識抗体FITC−My10のKG−1a細胞への結合についてのIC50値は、マウス由来モノクローナル抗体My10によるものよりも小さく(P<0.05、t検定)、それゆえ、h4C8の親和性はマウス由来モノクローナル抗体My10よりもすぐれている。
【0057】
【表2】

【実施例10】
【0058】
ヒト化抗CD34抗体およびマウス由来抗体My10の磁気ビーズへのコンジュゲート後の臍帯血幹細胞選別に対する比較試験
マウス抗ヒトCD34ハイブリドーマ細胞(ATCC、HB8483、抗My10クローン)を、血清を含まないハイブリドーマ−SFM培地(GIBCO、12045)を用いて培養した。培養物の上澄みをrProteinA親和性クロマトグラフィー(GE)により精製し、磁気ビーズ調製条件の必要性に見合った抗CD34モノクローナル抗体(My10)を得た。
【0059】
My10およびh4C8を、実施例6の方法に従って磁気ビーズにコンジュゲートして、CD34ナノ免疫磁気ビーズを調製した。
【0060】
ヒト臍帯血幹細胞を、実施例8の方法に従って、My10およびh4C8ナノ免疫磁気ビーズにより選別した。選別によって得られた陽性細胞を、血球計測プレートにより計測し、2種の磁気ビーズによる選別によって得られた細胞の収率を計算し、選別によって得られた陽性細胞をFITC−抗CD34(BD、348053、8G12)によって染色し、2種の磁気ビーズによる選択によって得られた細胞の純度を同定した。染色の結果を図8に示す(左側のピークは選別前の試験結果であり、右側のピークは選別後の試験結果である)。
【0061】
比較試験の結果を表3に示した。
【0062】
【表3】



【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のヒト化抗CD34抗体は、原型であるマウス由来抗体の親和性および特異性を保持している。この抗体は、ナノ磁気物質とコンジュゲートして、骨髄造血幹細胞を選別するための免疫磁気ビーズを調製することができる。この抗体を用いると、HAMAの出現率が効果的に減少し、造血幹細胞の臨床的移植の安全性が改善される可能性があり、この抗体は、特定の悪性血液病および固形腫瘍の治療に使用することができる。本発明のヒト化抗CD34抗体は、遺伝子組換え技術によって得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの抗原結合部位を含むヒト化抗ヒトCD34抗体であって、前記抗原結合部位が、
配列番号6に示すアミノ酸配列を有する第1の可変領域を含む第1ドメインと、
配列番号8に示すアミノ酸配列を有する第2の可変領域を含む第2ドメインと
を少なくとも含む、ヒト化抗ヒトCD34抗体。
【請求項2】
前記抗原結合部位が、
1)前記第1の可変領域およびヒト免疫グロブリン重鎖定常領域またはその断片を含む免疫グロブリン重鎖またはその断片と、
2)前記第2の可変領域およびヒト免疫グロブリン軽鎖定常領域またはその断片を含む免疫グロブリン軽鎖またはその断片と
を含む、請求項1に記載のヒト化抗ヒトCD34抗体。
【請求項3】
前記ヒト免疫グロブリン重鎖定常領域またはその断片がγ型であり、前記ヒト免疫グロブリン軽鎖定常領域またはその断片がκ型またはλ型である、請求項2に記載のヒト化抗ヒトCD34抗体。
【請求項4】
配列番号5に示す、第1の可変領域をコードするヌクレオチド配列と、配列番号7に示す、第2の可変領域をコードするヌクレオチド配列とを少なくとも含む、請求項1に記載のヒト化抗ヒトCD34抗体をコードするヌクレオチド分子。
【請求項5】
下記の配列、
a)前記第1の可変領域をコードするヌクレオチド配列およびヒト免疫グロブリン重鎖定常領域またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む、免疫グロブリン重鎖またはその断片をコードするヌクレオチド配列と、
b)前記第2の可変領域をコードするヌクレオチド配列およびヒト免疫グロブリン軽鎖定常領域またはその断片をコードするヌクレオチド配列を含む、免疫グロブリン軽鎖またはその断片をコードするヌクレオチド配列と
を含む、請求項4に記載のヌクレオチド分子。
【請求項6】
前記重鎖定常領域のヌクレオチド配列が配列番号1に示され、前記軽鎖定常領域のヌクレオチド配列が配列番号3に示される、請求項5に記載のヌクレオチド分子。
【請求項7】
請求項1に記載のヒト化抗ヒトCD34抗体を含有する免疫コンジュゲート。
【請求項8】
免疫磁気ビーズである、請求項7に記載の免疫コンジュゲート。
【請求項9】
骨髄造血幹細胞/骨髄造血前駆細胞の選別における、請求項1に記載のヒト化抗ヒトCD34抗体の使用。
【請求項10】
請求項1に記載のヒト化抗ヒトCD34抗体の調製方法であって、
1)請求項4から6のいずれか一項に記載のヌクレオチド分子を使用して発現ベクターを形質転換し、得られた発現ベクターを使用して宿主細胞を形質転換するステップと、
2)前記宿主細胞を培養するステップと、
3)前記宿主細胞によって発現されたヒト化抗ヒトCD34抗体を採取、分離および精製するステップと
を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−505810(P2011−505810A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−537235(P2010−537235)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【国際出願番号】PCT/CN2008/001963
【国際公開番号】WO2009/079922
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(510164027)シャンハイ グオジアン バイオ−テック インスティチュート (1)
【Fターム(参考)】