説明

ヒト成長ホルモン水性製剤

【課題】製薬的に許容し得る安定なヒト成長ホルモンの水性製剤の提供。
【解決手段】ヒト成長ホルモン、緩衝液、非イオン界面活性剤、また所望により、中性塩、マンニトール、または保存剤を含有する、製薬的に許容し得る水性製剤を用いる。本発明はまた、これに伴う方法、およびそのような製剤の調製方法、保存方法、並びに使用方法をも開示する。
【効果】上記の安定化製剤では、ヒト成長ホルモン水性製剤の変性を防止でき、28℃で6〜18ヶ月間保存できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト成長ホルモン(hGH)を含有する医薬品製剤、そのような製剤の製造方法および使用方法に関する。とりわけ本発明は、水性製剤中で増大した安定性を有するそのような医薬品製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
当業界において知られているヒト成長ホルモン製剤は全て、再構成の必要がある凍結乾燥調製物である。プロトロピン[Protropin:商標]hGHは、1バイアルにつき、hGH 5mg、マンニトール 40mg、一塩基性リン酸ナトリウム 0.1mg、二塩基性リン酸ナトリウム 1.6mgを含み、pH7.8に再構成される[非特許文献1]。ヒューマトロープ[Humatrope:商標]hGHは、1バイアルにつき、hGH 5mg、マンニトール 25mg、グリシン 5mg、二塩基性リン酸ナトリウム 1.13mgを含み、pH7.5に再構成される[非特許文献2]。
【0003】
成長ホルモン製剤に対する一般的評価に関しては、非特許文献3を参照する。タンパクの安定化に関する重要な他の刊行物は、以下の通りである。
【0004】
特許文献1は、グリシン、アラニン、ヒドロキシプロリン、グルタミン、およびアミノ酪酸といったような選択されたアミノ酸、並びに単糖、オリゴ糖といったような炭水化物、または糖アルコールを添加することによる、凝固因子IIおよびVIII、抗トロンビンIII、並びにプラスミノーゲンの熱安定化を開示している。
【0005】
特許文献2は、pH6.8〜8.0で弱親水性および弱疎水性の領域鎖を交互に含有する界面活性剤を500ppmまで添加することよる、水溶液における界面でのインスリン等のタンパクの変性防止方法を開示している。
【0006】
特許文献3は、ヒト血清アルブミンを使用してのインターロイキン−2の安定化方法を開示している。
【0007】
特許文献4は、非還元糖、糖アルコール、糖酸、ペンタエリトリトール、ラクトース、水溶性デキストラン、およびフィコールを含むポリオール、アミノ酸、生理学的pHで帯電する側鎖を有するアミノ酸のポリマー、並びにコリン塩を用いての成長促進ホルモンの安定化を開示している。
【0008】
特許文献5は、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン単位を含有し、約1,100〜約40,000の平均分子量を有するブロックコポリマーで形成されたゲルマトリックス中での成長促進ホルモンの安定化を開示している。
【0009】
特許文献6は、タンパクと炭水化物との複合体の水溶液であることを特徴とする、徐放性の生物学的に活性な組成物を開示している。
【0010】
特許文献7は、グリシンおよびマンニトールを使用しての成長ホルモンの安定化を開示している。
【0011】
【特許文献1】米国特許第4,297,344号
【特許文献2】米国特許第4,783,441号
【特許文献3】米国特許第4,812,557号
【特許文献4】欧州特許出願公開第0303746号
【特許文献5】欧州特許出願公開第0211601号
【特許文献6】欧州特許出願公開第0193917号
【特許文献7】オーストラリア特許出願第AU−A−30771/89号
【非特許文献1】フィジシャンズ・デスク・リファレンス(Physician's Desk Reference),メディカル・エコノミクス社(Medical Economics Co.),オラウェル(Orawell),ニュージャージー(NJ),1049頁,1992年
【非特許文献2】フィジシャンズ・デスク・リファレンス,1266頁,1992年
【非特許文献3】カレント・コミュニケーションズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current Communications in Molecular Biology),D.マーシャック(Marshak)およびD.リウ(Liu)編,23〜30頁,コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー出版社(Cold Spring Harbor Laboratory Press),コールド・スプリング・ハーバー,ニュージャージー,1989年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
hGHは、幾つかの分解経路、特に脱アミド化、凝集、ペプチド基本骨格のクリッピング、およびメチオニン残基の酸化を受ける。これら反応の多くは、タンパクから水を除去することにより有意に緩徐され得る。しかし、hGHに関する水性製剤の開発には、再構成の誤りを無くすことにより投与量の精度を増し、さらに臨床的には製品の使用を簡易化することにより患者のコンプライアンスを増すという利点がある。従って、本発明の目的は、分解産物を許容し得る程に制御でき、激しい撹拌(これは凝集を招く)に対して安定であり、また微生物汚染に対して耐性(これは多様な使用包装を可能とする)である水性hGH製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様は、製薬的に許容し得る安定なヒト成長ホルモンの水性製剤であって、ヒト成長ホルモン、緩衝液、非イオン界面活性剤、また所望により、中性塩、マンニトール、および保存剤を含む製剤である。
【0014】
本発明のさらなる態様は、ヒト成長ホルモン水性製剤の変性防止方法であって、ヒト成長ホルモンと0.1〜5%(w/v)(重量/体積)の非イオン界面活性剤とを混合することより成る方法である。本発明のまたさらなる他の態様では、この安定化製剤は28℃で6〜18カ月間保存される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
米国特許第5,096,885号(これは先行技術ではない)は、グリシン、マンニトール、非イオン界面活性剤、および緩衝液を含有する凍結乾燥用のhGH製剤を開示している。本発明は、グリシンの不存在下、予想外に安定化された水性製剤を提供する。
【0016】
〈A.定義〉
次の用語は、明細書および請求の範囲で使用する通り、以下に説明する意味を有している。
【0017】
「ヒト成長ホルモン」または「hGH」という用語は、天然供給源の抽出および精製を包含する方法により、また細胞培養系の組換えにより産生されるヒト成長ホルモンを示す。その配列と特性は、例えば、ホルモン・ドラッグズ[(Hormone Drugs),ゲリガイアン(Gueriguian)ら,米国特許条約,ロックビル(Rockville),メリーランド(MD)(1982年)]に詳述されている。同様に、この用語は、生物学的に活性なヒト成長ホルモン等価物(例えば、全配列中で一つまたはそれ以上のアミノ酸が異なっているもの)を包含する。さらに、本出願で使用する該用語は、hGHの置換、欠失および挿入アミノ酸変異体、または翻訳後修飾体を包含する。注目される2つの種は、191個のアミノ酸から成る天然種(ソマトロピン)と、通常、組換えにより得られる192個のアミノ酸から成るN−末端メチオニン(met)種(ソマトレム)である。
【0018】
hGHの「製薬的に有効な量」という用語は、投与療法において治療効果を発揮する量を示す。本発明の組成物は、hGHを少なくとも約0.1mg/ml、約10mg/ml以上、好ましくは約1mg/ml〜約20mg/ml、さらに好ましくは約1mg/ml〜約5mg/ml量含有するよう調製する。下垂体性小人症を患っている人間の患者へ投与する際にこれらの組成物を使用する場合は、例えば、意図する処置に対する現在の適用療法に対応して、これらの組成物を約0.1mg/ml〜約10mg/ml含有する。その濃度範囲は本発明にとって重要ではなく、また臨床医によって種々に変更され得る。
【0019】
〈B.一般的方法〉
本発明ではグリシンを必要としない。グリシンは本発明の水性製剤の任意成分であり、以後に再構成する凍結乾燥製剤に比べ、グリシンは本発明の水性製剤ではあまり有利な点を有していない。グリシンの量は、0mg/ml〜約7mg/mlの範囲である。
【0020】
非イオン界面活性剤には、ポリソルベート20または80等といったようなポリソルベート、およびポロキサマー184または188といったようなポロキサマー、プルロニック[(Pluronic:商標)]ポリオール、並びに他のエチレン/ポリプロピレンブロックポリマー等が包含される。安定な水性製剤を得るのに有効な量を使用するが、これは通常、約0.1%(w/v)〜約5%(w/v)、さらに好ましくは0.1%(w/v)〜約1%(w/v)の範囲内である。非イオン界面活性剤を使用することで、該製剤はタンパクの変性を起こすことなく、ひずみおよび表面ストレスにさらされるのを可能とする。例えば、そのような界面活性剤を含有する製剤は、肺投与および針のないジェットインジェクターガンで使用するようなエアゾール装置に適用される。
【0021】
緩衝液には、リン酸塩、トリス、クエン酸塩、コハク酸塩、酢酸塩、およびヒスチジン緩衝液が包含される。該緩衝液は約2mM〜約50mMの範囲内が最も有利である。好ましい緩衝液はクエン酸ナトリウム緩衝液である。
【0022】
保存剤を製剤に含有して微生物の成育を遅滞させることにより、hGHの「多様な使用」包装が可能となる。保存剤には、フェノール、ベンジルアルコール、メタ−クレゾール、メチルパラベン、プロピルパラベン、塩化ベンザルコニウム、および塩化ベンゼトニウム等がある。好ましい保存剤には、0.2〜0.4%(w/v)のフェノールおよび0.7〜1%(w/v)のベンジルアルコールが包含される。
【0023】
緩衝液で調節する、水性hGH製剤に適当なpH範囲は、約4〜8、さらに好ましくは約5.5〜約7、最も有利には6.0である。好ましくは、脱アミド化、凝集、およびhGHの沈降を最小とする緩衝液濃度範囲を選択する。
【0024】
マンニトールは、所望により、水性hGH製剤中に包含させることができる。マンニトールの好ましい量は、約5mg/ml〜約50mg/mlである。マンニトールの代替物として、ラクトース、トレハロース、スタチオース、ソルビトール、キシリトール、リビトール、ミオイノシトール、ガラクチトール等といったような他の糖または糖アルコールが使用される。
【0025】
所望により、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムといったような中性塩を糖または糖アルコールの代わりとして使用できる。該塩の濃度は製剤中に存在する他の成分に依存するが、ほぼ等張となるよう調節する。例えば、NaClの濃度範囲は、存在する他の成分に応じて50〜200mMとすることができる。
好ましい態様では、本発明の製剤は、pH6.0で以下の成分を含む。
【0026】
成 分 量(mg)
hGH 5
塩化ナトリウム 8.8
ポリソルベート20 2.0
クエン酸ナトリウム 2.5
フェノール 2.5
滅菌水 1ml
【0027】
上記量は先でより詳細に述べた範囲内で幾分変更可能であり、また該材料は、成分カテゴリーの範囲内で代替可能であることが分かるであろう。すなわち、ポリソルベート80、またはポロキサマーをポリソルベート20に代替することができ、コハク酸塩または酢酸塩緩衝液を代わりに使用でき、また他の保存剤および異なったpHを使用することができる。さらに、一つ以上の緩衝剤、保存剤、糖、中性塩、または非イオン界面活性剤を使用することができる。好ましくは、該製剤は等張および無菌である。
【0028】
通例、本発明の製剤は、安定な形態での調製を損なわない量で、また有効で安全な医薬品投与に適当な量で他の成分を含有する。例えば、当業者に周知の他の製薬的に許容し得る賦形剤が、該組成物の一部を成し得る。これには、例えば、種々の増量剤、さらなる緩衝剤、キレート化剤、酸化防止剤、補助溶剤等がある。これらの具体例には、トリメチルアミン塩(「トリス緩衝液」)、およびエデト酸二ナトリウムが包含され得る。
【実施例】
【0029】
〈A.アッセイ法〉
0.5ml/分の流量、45℃でTSK DEAE 5PWカラム(1.0×7.5cm)を用い、陰イオン交換クロマトグラフィー(HPIEC)を行った。このカラムは、10%(w/v)のアセトニトリルを含有する50mMのリン酸カリウム(pH 5.5)で平衡とした。10%(w/v)の一定のアセトニトリルを含む50〜100mMのリン酸カリウム(pH 5.5)の25分グラジエントを使用し、溶離を行った。カラムには、タンパク83μgを充填した。230nmで検出した。
【0030】
非変性サイズ排除クロマトグラフィーは、150mMの塩化ナトリウムを含有する50mMのリン酸ナトリウム(pH 7.2)中のTSK 2000 SWXLカラムを用いて行った。その流量は1ml/分であり、カラム充填量は50〜75μgであり、214および280nmのいずれかで検出した。
【0031】
変性サイズ排除クロマトグラフィーは、200mMのリン酸ナトリウム(pH 6.8〜7.2)/0.1% SDS中、ゾルバックス(Zorbax) GF250カラムを用いて行った。その流量は1.0ml/分であり、カラム充填量は50〜75μgであり、214および280nmのいずれかで検出した。
【0032】
〈B.製剤調製〉
一般に、これらの実験例における分析用の水性hGH製剤サンプルは、ゲル濾過カラム上で緩衝液交換することにより調製した。その溶離緩衝液は、塩化ナトリウムまたはマンニトールのいずれか、緩衝液および非イオン界面活性剤をそれらの最終比率で含有していた。この結果として得られる溶液を所望のhGH濃度まで希釈して、保存剤を添加した。その溶液を滅菌メンブランフィルター(孔サイズ:0.2ミクロン程度のもの)を使用して滅菌濾過し、1型3cc滅菌ガラスバイアルの1つに注ぎ入れ、栓をして、水性タイプのブチルゴム栓やアルミニウムフリップオフタイプのふたで密閉した。
【0033】
実験例で使用する該水性hGH製剤は、溶液1mlにつき、ソマトロピン 5.0mg[Genentech,Inc.]、マンニトール 45.0mg、フェノール 2.5mg、ポリソルベート20 2.0mg、およびクエン酸ナトリウム 2.5mgを含み、pH6.0であった。本例において比較対象として使用する凍結乾燥製剤は、再構成後の滅菌溶液1mlにつき、ソマトロピン 5.0mg、グリシン 1.7mg、マンニトール 45.0mg、リン酸ナトリウム 1.7mg、ベンジルアルコール 9mgを含んでいた。
【0034】
〈C.実施例 I〉
水性製剤の化学的安定性
hGH水性製剤のバイアル[ロット 12738/55−102および12738/55−105]を2〜8℃という適した保存温度、もしくは15℃または25℃という高い保存温度でインキュベートした後、幾つかの時点で取り出し、pH、色および外観、並びにタンパク濃度の変化を調べた。さらに、極度なストレス状態での分解パターンを研究するために、サンプルを40℃でインキュベートした。また水性製剤に関する分解パターンを凍結乾燥成長ホルモンに関する既知の分解パターンと比較した。
【0035】
2〜8℃で一年間保存した場合、該水性製剤は、pH、色および外観、並びにタンパク濃度に僅かな変化を示した。2〜8℃で一年間保存したサンプルに対して行った非変性サイズ排除HPLCでは、薬物製品は有意な凝集を全く示さなかった(図1)。この結果は、グリシンが凍結乾燥製剤における凝集を防ぐのに有用であるという米国特許第5,096,885号の教示から見て予想外なことである。
【0036】
8℃以上の温度では、pHまたはタンパク濃度における変化は全時間にわたって殆ど、もしくは全く観察されなかった。目視観察により、40℃で保存したサンプルでは時間に伴って乳白光の増大が示された。この変化は、15〜25℃で保存している間が最小であり、2〜8℃で保存している間には観測されなかった。
【0037】
分解産物の量は、クロマトグラムの全hGH領域が占める領域パーセンテージとして計算した。次いで、100%から分解産物のパーセンテージを減じ、log10をとって、日数時間に対してプロットすることにより、各々の反応に対する速度定数を計算した。これらのデータを通るようにして引いた直線の傾きを反応定数(k)として使用した。15、25、および40℃で各々計算した反応速度定数の絶対値の自然対数(ln)を絶対温度の逆関数としてプロットした後、5℃まで外挿することにより、アレニウス分析を行った。サイズ排除HPLCより得られたデータのアレニウスおよび実時間速度分析(図2)では、18カ月保存した後の成長ホルモン凝集量は1%(w/v)未満であることが示される。
【0038】
40℃で保存した水性hGH製剤に関して行った陰イオン交換HPLC分析では、28日間にわたって酸性ピークが増大することが示された(図3)。約16、17.5、および26分の時点で溶離するこれら3本のピークは、149、152、および149+152位でのhGHの脱アミド化により生じた。この方法により得られたデータのアレニウスおよび実時間速度分析(図4)を上記のようにプロットすると、2〜8℃で18カ月保存したこれらのロットにおける脱アミド化hGHの量は約9%(w/v)であることが示される。これには、0時間の時点での、約2.4%(w/v)の脱アミド化hGHに関する初期量が含まれる。15%(w/v)程度の脱アミド化値が他のhGH製品に関して報告された[ラーハマー(Larhammar),H.ら,(1985年),インターナショナル・ジャーナル・オブ・ファーマシューティクス(Int.J.Pharmaceutics) 23:13〜23]。脱アミド化速度は水性状態においてより速いが、この速度はpH6.0およびそれ以下で最小となる。
【0039】
〈D.実施例 II〉
水性製剤の物理的安定性
凍結乾燥成長ホルモンの6つのバイアル各々を注入用静菌水[(BWFI),米国特許]1mlで再構成した。溶解後、その含有物を3ccのバイアルへ移し、栓をして密閉すると、水性製剤と同じ形状のものが得られる。hGH水性製剤の物理的安定性に対する撹拌効果を調べるために、hGH水性製剤の6つのバイアルと再構成した凍結乾燥hGHの6つのバイアルとを、円筒型グラス−コル撹拌機(Glas−Col Shaker−in−the−Round)を用い、2.5の作動調節点を使用して8±1cmの水平振動を与えながら、1分間につき240ジョルト(jolts)で、水平としたまま上下に激しく室温で24時間撹拌する。各々の製剤に対し、全て同じだけの力が確実にかかるよう、12個全てのサンプルを撹拌機の上へ一直線状に置いた。アッセイを行うために、30分、6時間、および24時間の時点でバイアルを2つずつ取り出した。
【0040】
その結果を表1に示す。撹拌によっての水性製剤の視覚的透明度における変化は極く僅かであった。成長ホルモンのモノマーの全含量には、非変性サイズ排除HPLCアッセイで見い出されるような変化はなかった。このアッセイでは非共有凝集物を検出したが、変性サイズ排除HPLCアッセイでは、これをSDSにより完全に分散させる。
【0041】
比較により、これらの結果はまた、撹拌して僅か30分後でも、再構成した凍結乾燥製品は処置に対し感受性がより強いということを示した。この感受性は、本発明の水性製剤以外に、現在有用な全てのhGH製剤にとって典型的である。非イオン界面活性剤の包接物は、発生するこの現象を防ぐのに最も重要な因子である。
【0042】
〈表 1〉 凍結乾燥製剤に対する水性製剤の室温での攪拌効果
サンプル 色/外観 % % %
HPSEC 溶解 全
モノマー タンパク モノマー

未撹拌のもの
水性製剤 透明/無色 99.7 ND ND
水性製剤 透明/無色 99.9 ND ND
凍結乾燥製剤 透明/無色 99.0 100 99.0
凍結乾燥製剤 透明/無色 ND 100 ND

0.5時間攪拌したもの
水性製剤 極僅かに乳白光 99.9 100 99.9
/無色
水性製剤 極僅かに乳白光 100.0 100 100.0
/無色
凍結乾燥製剤 僅かに乳白光 93.6 100 93.6
/無色
凍結乾燥製剤 透明/無色 92.8 100 92.8

6時間攪拌したもの
水性製剤 僅かに乳白光 99.9 100 99.9
/無色
水性製剤 乳白光/無色 99.8 100 99.8
凍結乾燥製剤 非常に乳白光 80.5 73 58.8
/黄色ないし褐色
凍結乾燥製剤 非常に乳白光 72.7 61.7 44.9
/黄色ないし褐色

24時間攪拌したもの
水性製剤 僅かに乳白光 99.8 100 99.8
/無色
水性製剤 透明/無色 99.8 ND ND
凍結乾燥製剤 非常に混濁 60.6 21.5 13.0
/黄色ないし褐色
凍結乾燥製剤 非常に混濁 56.7 14.8 8.4
/黄色ないし褐色

全モノマー = (% モノマー × % 溶解タンパク)/ 100
【0043】
〈E.実施例 III〉
水性製剤中での保存効果
標準米国特許試験を採用して短縮するという方法により、hGH水性製剤のサンプルは細菌問題を起こしやすかった。この試験では、細菌の最終濃度が105〜106CFU/mlとなるよう、大腸菌(E.coli)または黄色ブドウ球菌(S.aureus)のいずれかの懸濁液をhGH水性製剤に添加した。20〜25℃でインキュベーションを開始した直後、また4〜24時間インキュベートした後、チューブ内に残存している生存可能な細菌を数えた。試験期間の微生物濃度におけるパーセンテージの変化を次の方程式により計算した。
【0044】
初期価(%)=(T=X時間の時点での数)/(T=0時間の時点での数)×100
【0045】
この実験の結果では、2種の細菌にとって、生存可能な細菌の濃度は、24時間後には初期濃度の0.01%未満に減少することが示された。
【0046】
〈F.実施例 IV〉
塩によるマンニトールの代替
この実験では、hGHの水性製剤を塩、マンニトール、および非イオン界面活性剤の濃度をいろいろと変えたものと比較した。製剤は全て、5mg/mlのhGH、0.25%(w/v)のフェノール、10mMのクエン酸ナトリウムを含有しており、pHは6.0であった。サンプルは2〜8℃で3〜4カ月保存した。図5は、指示した製剤中に存在するモノマーのパーセンテージを示す。以下の表は、各々の製剤の組成を示す。これらの結果は、界面活性剤の存在下、マンニトールが中性塩で代替された製剤中で、予想外なhGHの安定性を実証するものである。
【0047】
〈表 2〉 図5で試験した製剤
製剤ロット 組 成
42 0.1%(w/v) ポリソルベート20
50mM マンニトール
47 0.1%(w/v) ポロキサマー188
0.1M NaCl
51 0.5%(w/v) ポリソルベート20
50mM マンニトール
52 0.1%(w/v) ポロキサマー188
50mM マンニトール
53 0.1%(w/v) ポロキサマー184
50mM マンニトール
60 0.2%(w/v) ポリソルベート20
0.1M NaCl
61 0.2%(w/v) ポリソルベート20
0.05M NaCl
62 0.2%(w/v) ポリソルベート20
0.15M NaCl
63 0.2%(w/v) ポリソルベート20
50mM マンニトール
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】40℃(すなわち、熱的ストレスを与えて)で28日間保存した水性成長ホルモン製剤、および5℃(すなわち、推奨されている保存条件下)で1年間保存した水性成長ホルモン製剤のサイズ排除クロマトグラムである。
【図2】水性製剤中での成長ホルモン凝集に関するアレニウス速度分析のプロットである。
【図3】熱的ストレス(40℃)を与えた水性製剤hGHサンプルを、推奨されている条件下(2〜8℃)に一年間保存した水性製剤hGHサンプルと比較している陰イオン交換クロマトグラムである。
【図4】水性製剤中でのhGHの脱アミド化に関するアレニウス速度分析のプロットである。
【図5】マンニトールを中性塩と代替している種々の製剤中に存在するモノマーのパーセンテージに関するグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製薬的に許容し得る安定なヒト成長ホルモンの水性製剤であって、
a) ヒト成長ホルモン、
b) 緩衝液、
c) 非イオン界面活性剤、
d) 所望によりマンニトール、
e) 所望により中性塩、および
f) 所望により保存剤、
から成る製剤。
【請求項2】
非イオン界面活性剤が約0.1%(w/v)〜約1%(w/v)の範囲内で存在する、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
非イオン界面活性剤がポロキサマーである、請求項1に記載の製剤。
【請求項4】
非イオン界面活性剤がポリソルベートである、請求項1に記載の製剤。
【請求項5】
ポロキサマーがポロキサマー188またはポロキサマー184である、請求項3に記載の製剤。
【請求項6】
ポリソルベートがポリソルベート20またはポリソルベート80である、請求項4に記載の製剤。
【請求項7】
マンニトールの濃度が約5mg/ml〜約50mg/mlである、請求項1に記載の製剤。
【請求項8】
緩衝液がクエン酸塩緩衝液である、請求項1に記載の製剤。
【請求項9】
緩衝液濃度が約2mM〜約50mMである、請求項1に記載の製剤。
【請求項10】
緩衝液がリン酸塩、トリス、コハク酸塩、酢酸塩、およびヒスチジン緩衝液より成る群から選択される、請求項1に記載の製剤。
【請求項11】
該製剤が無菌である、請求項1に記載の製剤。
【請求項12】
該製剤が等張である、請求項1に記載の製剤。
【請求項13】
中性塩が塩化ナトリウムである、請求項1に記載の製剤。
【請求項14】
保存剤がフェノール、ベンジルアルコール、メタ−クレゾール、メチルパラベン、プロピルパラベン、塩化ベンザルコニウム、および塩化ベンゼトニウムより成る群から選択される、請求項1に記載の製剤。
【請求項15】
5mg/mlのhGH、8.8mg/mlの塩化ナトリウム、2.0mg/mlのポリソルベート20、2.5mg/mlのクエン酸ナトリウム、および2.5mg/mlのフェノールを含み、pHが6.0である水性hGH製剤。
【請求項16】
ヒト成長ホルモン水性製剤の変性防止方法であって、ヒト成長ホルモンと0.1〜5%(w/v)の非イオン界面活性剤とを混合することより成る方法。
【請求項17】
非イオン界面活性剤がポロキサマーである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
非イオン界面活性剤がポリソルベートである、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
ポロキサマーがポロキサマー188またはポロキサマー184である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
ポリソルベートがポリソルベート20またはポリソルベート80である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
2〜8℃で6〜18カ月間保存するヒト成長ホルモン水性製剤の変性防止方法であって、ヒト成長ホルモンと0.1〜5%(w/v)の非イオン界面活性剤とを混合することより成る方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−45841(P2007−45841A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−280928(P2006−280928)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【分割の表示】特願平6−505439の分割
【原出願日】平成5年7月29日(1993.7.29)
【出願人】(596168317)ジェネンテック・インコーポレーテッド (372)
【氏名又は名称原語表記】GENENTECH,INC.
【Fターム(参考)】