ヒト胚性幹細胞を作製するためのヒト卵母細胞の単為生殖的活性化
高O2圧下でのCa2+の操作および卵母細胞を低O2圧下でセリンスレオニンキナーゼ阻害剤と接触させる段階、活性化卵母細胞から内部細胞塊(ICM)を単離する段階、ならびに単離されたICMを高O2圧下で培養する段階を含む、O2圧の操作によってヒト卵母細胞を単為生殖的に活性化することに関する、ヒト幹細胞を作製する方法を開示する。さらに、ICM/幹細胞の培養にヒトフィーダー細胞/産物を使用することを含む、非ヒト動物産物の非存在下において活性化卵母細胞から幹細胞を作製する方法を記載する。開示の方法によって作製された幹細胞についても記載する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、概して胚性幹細胞、より具体的には単為生殖的活性化卵母細胞を用いてヒト胚性幹細胞を得る過程に関する。
【背景技術】
【0002】
背景情報
ヒト胚性幹細胞(ES)細胞は、多様な細胞型に分化し得る多能性細胞である。胚性幹細胞は、免疫不全マウスに注射した場合に分化型腫瘍(奇形腫)を形成する。しかし、胚様体(EB)を形成するようにインビトロで誘導される胚性幹細胞は、特定の増殖条件下でいくつかの組織に特有である複数の細胞型に分化する可能性がある胚性幹細胞株の供給源を提供する。例えば、ES細胞は、神経成長因子およびレチノイン酸の存在下でニューロンに分化する。
【0003】
ヒトES細胞およびその分化した子孫は、治療的移植ならびに薬物の試験および開発のための正常ヒト細胞の重要な供給源である。これらの目的に必要なのは、患者の必要性または適切な薬理学的試験に適した組織型に分化する十分な細胞の供給である。これに付随して、胚性幹細胞から分化細胞を生成する効率的かつ信頼性のある方法が必要である。
【0004】
現在、ヒト胚性幹細胞(hES)は3つの供給源:不妊症治療後に残ったおよび研究用に提供された胚盤胞、提供された配偶子(卵母細胞および精子)から作製された胚盤胞、ならびに核移植(NT)の産物に由来する。死体胎児組織は、ヒト胚性生殖細胞(hEG)の唯一の供給源である。hESおよびhEG細胞は、より特殊化した細胞または組織を作製する可能性に関わる顕著な科学的および治療的可能性を提供する。しかし、hESおよびhEG細胞の供給源に関する倫理的問題、ならびに研究にNTを使用することがヒトを作製するためにNTを使用することにつながり得るという懸念が、多くの国民の議論および討論を呼び起こしている。
【0005】
哺乳動物卵母細胞の単為生殖的活性化は、胚性幹細胞作製用に卵母細胞を調製するための精子/NTによる受精の代替法として用いられ得る。単為生殖的活性化とは、雄性配偶子からの寄与なしに雌性配偶子から、成体への最終的発達を伴ってまたは伴わずに胚細胞が生成されることである。
【0006】
哺乳動物卵母細胞の単為生殖的活性化は、いくつかの方法で誘導されている。活性化を誘導するために電気刺激を用いることは、電気融合が現行の核移植手順の一部であることから特に興味深い。胚細胞-卵母細胞膜融合に用いられる電気融合装置を用いた電気刺激によるインビトロでの単為生殖的活性化が報告されている。
【0007】
マウス卵母細胞は、Ca+2-Mg+2不含培地への曝露、ヒアルロニダーゼを含む培地、エタノールへの曝露、Ca+2イオノフォアまたはキレート剤、タンパク質合成の阻害剤、および電気刺激によって活性化されている。これらの手順により、マウス卵母細胞の単為生殖的活性化および発生は高い率で起こったが、これらの手順は若いウシ卵母細胞を活性化しなかった、および/またはそのより低い発生率をもたらした。さらに、マウス卵母細胞の受精および単為生殖的活性化はまた、排卵後の加齢に依存する。
【0008】
エタノール、電気刺激、室温への曝露、および電気刺激とシクロヘキシミドによるタンパク質阻害との組み合わせによるウシ卵母細胞の活性化が報告されている。これらの過程は細胞内Ca+2を上昇させると考えられるが、卵母細胞が28時間超加齢した場合に最も成功する。
【発明の開示】
【0009】
発明の概要
本発明は、特定の条件がヒト卵母細胞を単為生殖的に活性化するのに最適であるという将来性のある発見に基づく。
【0010】
1つの態様において、ヒト幹細胞を作製する方法であって、卵母細胞を高酸素(O2)圧でイオノフォアと接触させる段階および卵母細胞を低O2圧下でセリン・スレオニンキナーゼ阻害剤と接触させる段階を含む卵母細胞を単為生殖的に活性化する段階、活性化卵母細胞を胚盤胞が形成されるまで低O2圧で培養する段階、胚盤胞をフィーダー細胞層に移し、移した胚盤胞を高O2圧下で培養する段階、胚盤胞の栄養外胚葉から内部細胞塊(ICM)を機械的に単離する段階、ならびにICMの細胞をフィーダー細胞層上で培養する段階を含み、ICM細胞を培養する段階を高O2圧下で行う方法を提供する。好ましくは、卵母細胞はヒトである。
【0011】
関連局面において、低O2圧は、約2% O2〜約5% O2のO2濃度を含み、約5% CO2および約90%窒素(N2)〜93% N2をさらに含む気体混合環境でのインキュベーションにより維持する。
【0012】
別の態様において、ヒト中期II卵母細胞を活性化する方法であって、ヒト中期II卵母細胞を体外受精(IVF)培地中で高O2圧下でインキュベートする段階、細胞をイオノフォアを含むIVF培地中で高O2圧下でインキュベートし、その後細胞をセリン・スレオニンキナーゼ阻害剤(STKI)を含むIVF培地中で低O2圧下でインキュベートすることにより活性化する段階、およびSTKI処理細胞を胚盤胞が形成されるまで低O2圧下でインキュベートする段階を含み、胚盤胞から得られた内部細胞塊(ICM)が培養可能な幹細胞を生じる方法を提供する。高O2圧は、約5% CO2、約20% O2、および約75% N2を有する気体混合環境で細胞をインキュベートすることにより維持し得る。
【0013】
関連局面において、活性化後のインキュベーション段階のためのO2圧は、約2% O2〜約5% O2のO2濃度を含み、約5% CO2および約90% N2〜93% N2をさらに含む気体混合環境で細胞をインキュベートすることにより維持する。
【0014】
別の関連局面において、IVF培地は本質的に非ヒト産物を含まない。
【0015】
さらなる関連局面において、本発明の方法によって調製される単離された卵母細胞を提供するが、これにはそのような卵母細胞から調製される単離された内部細胞塊(ICM)およびそこから単離される対応する幹細胞も含まれる。
【0016】
別の局面において、胚性幹細胞およびその分化した子孫をもたらす、哺乳動物卵母細胞のヒト単為生殖的活性化を提供する。このような細胞および子孫は卵母細胞ドナーと実質的に同質遺伝子的であり、そのため卵母細胞ドナーに関して細胞の自己移植が可能となり、卵母細胞ドナーの免疫系による拒絶が典型的に回避される。
【0017】
関連局面において、単為生殖的活性化卵母細胞に由来するhES細胞株の細胞バンクを提供する。
【0018】
1つの態様において、凍結保存卵母細胞または単為生殖体からヒト幹細胞を作製する方法であって、卵母細胞または単為生殖体の細胞質に凍結保存剤をマイクロインジェクションする段階、卵母細胞または単為生殖体を極低温貯蔵温度まで凍結してこれを休眠状態に入らせる段階、卵母細胞または単為生殖体を休眠状態で貯蔵する段階、卵母細胞または単為生殖体を融解する段階、卵母細胞を高O2圧でイオノフォアと接触させる段階および卵母細胞を低O2圧下でセリン・スレオニンキナーゼ阻害剤と接触させる段階を含む卵母細胞を単為生殖的に活性化する段階、単為生殖体または活性化卵母細胞を胚盤胞が形成されるまで低O2圧下で培養する段階、胚盤胞の栄養外胚葉から内部細胞塊(ICM)を単離する段階、ならびにICMの細胞をフィーダー細胞層上で培養する段階を含み、培養段階を高O2圧下で行う方法を提供する。
【0019】
別の態様において、ヒトドナーからの単為生殖的活性化卵母細胞に由来する自己幹細胞を提供する。1つの局面において、幹細胞はドナー細胞と実質的に同一のハプロタイプを有する。関連局面において、幹細胞はドナー細胞と遺伝的に実質的に同一である。
【0020】
1つの局面において、幹細胞は一塩基多型(SNP)マーカーに従ってドナーの完全同胞であると同定される。別の局面において、幹細胞はドナー起源に従ってゲノム的に刷り込まれている。
【0021】
1つの態様において、ヒトドナーからの単為生殖的活性化卵母細胞から得られた幹細胞に由来する分化細胞を開示する。関連局面において、分化細胞には、これらに限定されないが、神経細胞、心臓細胞、平滑筋細胞、横紋筋細胞、内皮細胞、骨芽細胞、オリゴデンドロサイト、造血細胞、脂肪細胞、間質細胞、軟骨細胞、アストロサイト、樹状細胞、ケラチノサイト、膵島、リンパ球前駆細胞、肥満細胞、中胚葉細胞、および内胚葉細胞が含まれる。さらなる関連局面において、分化細胞は、これらに限定されないが、神経フィラメント68、NCAM、βIII-チューブリン、GFAP、α-アクチニン、デスミン、PECAM-1、VE-カドヘリン、α-フェトプロテイン、またはこれらの組み合わせを含む1つまたは複数のマーカーを発現する。
【0022】
別の局面において、自己幹細胞を含む細胞株であって、幹細胞がヒトドナーからの単為生殖的活性化卵母細胞に由来する細胞株を開示する。1つの局面において、細胞はSSEA-1を発現しない。別の局面において、細胞株の細胞は、外胚葉、中胚葉、および内胚葉生殖系列を生じる。
【0023】
1つの態様において、凍結保存単為生殖体を含み、単為生殖体が1名または複数名のヒトドナーからの単為生殖的活性化卵母細胞に由来する細胞バンクを開示する。関連局面において、単為生殖体は、胚盤胞が形成されるまで低O2圧下で培養されたものである。
【0024】
1つの態様において、凍結保存自己幹細胞を含み、幹細胞が1名または複数名のヒトドナーからの単為生殖的活性化卵母細胞に由来する細胞バンクを開示する。
【0025】
別の態様において、分化細胞を含む細胞組成物であって、分化細胞がヒトドナーからの単為生殖的活性化卵母細胞から得られた幹細胞に由来する細胞組成物を投与する段階を含む、それを必要とする対象を治療する方法。1つの局面において、分化細胞は、神経細胞、心臓細胞、平滑筋細胞、横紋筋細胞、内皮細胞、骨芽細胞、オリゴデンドロサイト、造血細胞、脂肪細胞、間質細胞、軟骨細胞、アストロサイト、樹状細胞、ケラチノサイト、膵島、リンパ球前駆細胞、肥満細胞、中胚葉細胞、および内胚葉細胞からなる群より選択される。
【0026】
関連局面において、対象は、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、ALS、脊髄欠損または損傷、多発性硬化症、筋ジストロフィー、嚢胞性線維症、肝疾患、糖尿病、心疾患、網膜疾患(黄斑変性症および網膜色素変性症など)、軟骨欠損または損傷、熱傷、足部潰瘍、血管疾患、尿路疾患、エイズ、および癌からなる群より選択される疾患を呈する。
【0027】
1つの態様において、クローンヒト胚性幹細胞を作製する方法であって、前もって受精したヒト卵母細胞から第1前核を除去する段階、第2前核を除核卵母細胞に移植する段階であって、第2前核がドナー卵母細胞もしくはドナーの母親の卵母細胞、または活性化の前にその前核がドナー体細胞の核によって置換された単為生殖的活性化卵母細胞に由来する段階、および得られた卵母細胞を胚盤胞が形成されるまで培養する段階を含み、胚盤胞の内部細胞塊が胚性幹細胞を含む方法を開示する。
【0028】
本発明による例示的な方法および組成物を、以下により詳細に記載する。
【0029】
発明の詳細な説明
本組成物、方法、および培養法について記載する前に、本発明が記載の特定の組成物、方法、および実験条件に限定されず、したがって組成物、方法、および条件が変更可能であることが理解されるべきである。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、本明細書で使用する専門用語は特定の態様を説明する目的のためのみのものであって、限定を意図するものではないこともまた理解されるべきである。
【0030】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用する単数形「1つの」、「ある」、および「その」とは、特記する場合を除き、その対象物の複数形も含む。したがって、例えば「その方法」への言及は、本開示を読めば当業者に明らかとなるであろう本明細書に記載する種類などの1つまたは複数の方法および/または段階を含む。
【0031】
「分化」とは、細胞にある特殊化した機能を獲得させ、他のある特殊化した機能単位に変化する能力を失わせる、細胞内で起こる変化を指す。分化できる細胞は、全能性、多能性、多分化能細胞のいずれかであり得る。分化は、成熟成体細胞に対して部分的または完全であってよい。
【0032】
雌性発生とは、すべて雌性起源(好ましくはヒト雌性起源)の哺乳動物DNA、例えばヒトまたは非ヒト霊長類卵母細胞DNAを含む、卵母細胞または他の胚細胞型などの細胞の活性化によって起こる、識別可能な栄養外胚葉および内部細胞塊を含む胚の生成を指す。そのような雌性哺乳動物DNAは、例えば少なくとも1つのDNA配列の挿入、欠失、もしくは置換によって遺伝子改変されてもよく、または改変されなくてもよい。例えば、DNAは、所望のコード配列または胚形成を促進もしくは阻害する配列の挿入または欠失によって改変され得る。典型的に、そのような胚は、すべて雌性起源のDNAを含む卵母細胞のインビトロ活性化によって得られる。雌性発生は、以下で定義する単為生殖を含む。これはまた、精子DNAが活性化卵母細胞中のDNAに寄与しない活性化法を含む。
【0033】
関連局面において、卵母細胞は、IVFのために調製された過排卵対象から得られる。IVFで用いられる、ホルモンによる女性対象の処置などの「過排卵」技法は、自然の周期における通常の単一の卵子よりもむしろいくつかの卵子(卵母細胞)を生成するように卵巣を刺激するよう設計されている。
【0034】
卵子生成を促進するのに必要な薬物には、これらに限定されないが以下のものが含まれる:Lupron(ゴナドトロピン放出ホルモン作動薬)、Orgalutran、Antagon、またはCetrotide(ゴナドトロピン放出ホルモン拮抗薬)、Follistim、Bravelle、またはGonal-F(FSH、卵胞刺激ホルモン)、Repronex(FSHとLH、黄体形成ホルモンの組み合わせ)、およびPregnylまたはNovarel(hCG、ヒト繊毛性ゴナドトロピン)。
【0035】
関連局面において、卵子の採取は経膣超音波誘導下で行い得る。これを達成するには、各卵胞の位置を特定するために超音波を用いて、針を膣壁を通して卵巣に挿入する(IV鎮静法下で)。卵胞液を試験管中に吸引して卵子を得る。
【0036】
卵母細胞の活性化が精子進入なしに起こる過程である「単為生殖」(「単為生殖的(parthenogenically、parthenogenetically)活性化」は互換的に用いられる)とは、すべて雌性起源のDNAを含む卵母細胞または胚細胞(例えば、卵割球)の活性化によって得られる、栄養外胚葉および内部細胞塊を含む初期胚の発生を指す。関連局面において、「単為生殖体」とは、そのような活性化によって得られる結果として生じた細胞を指す。別の関連局面において、胚盤胞とは、外側栄養膜細胞および内部細胞塊(ICM)でできた細胞の中空球を含む、受精または活性化卵母細胞の分割段階を指す。さらなる関連局面において、「胚盤胞形成」とは、卵母細胞の受精または活性化後の、卵母細胞を引き続き培地中でしばらく培養して、外側栄養膜細胞およびICMからできた細胞の中空球にまで発生させる過程(例えば、5〜6日)を指す。
【0037】
1つの態様において、単為生殖的活性化卵母細胞によりクローンヒト胚性幹細胞株を作製する過程を開示する。単為生殖は自然界において生殖の稀な形態ではないものの、哺乳動物ではこの形態の生殖ができることは知られていない。しかしながら、近交系マウス系統LT/Svの雌の卵母細胞において、自発的な単為生殖が10%の割合で見出され得る(Ozil and Huneau, Development (2001) 128:917-928;Vrana et al., Proc Natl Acad Sci USA (2003) 100(Suppl 1):11911-11916;Berkowitz and Goldstein, New Eng J Med (1996) 335(23):1740-1748)。有胎盤哺乳動物の卵母細胞は、インビトロで単為生殖を起こすように誘発することができる;しかし、胚発生は成功していない。
【0038】
哺乳動物卵母細胞の単為生殖的活性化および活性化卵母細胞の代理母への移植後、胚の生存には限界がある:マウスでは10日間;ヒツジでは21日間;ブタでは29日間;およびウサギでは11.5日間(Kure-bayashi et al., Theriogenology (2000) 53:1105-1119;Hagemann et al., Mol Reprod Dev (1998) 50:154-162;Surani and Barton, Science (1983) 222:1034-1036)。この発生停止の理由は、遺伝子刷り込みによる可能性が高い。母性および父性ゲノムは後成的に異なること、ならびに胚発生の成功には両セットが必要であることが示されている(Surani, Cell (1998) 93:309-312;Sasaki et al., (1992) 6:1843-1856)。単為生殖体では、遺伝物質のすべてが母性起源であるはずであり、したがって父性刷り込みを欠いているはずである。父性刷り込みは、胚体外組織発生、したがって除核卵母細胞の受精後の栄養膜組織の発生に関与すると考えられている(Stevens, Nature (1978) 276:266-267)。そのため動物では、除核接合子は、その後に単為生殖的活性化を伴う核移植に有用であり得る。
【0039】
哺乳動物の単為生殖体は限られた発生を起こすに過ぎず、胚は最終的に死滅する。カニクイザル(Macac fascicularis)では、中期II期にある卵母細胞のわずかに14パーセントが、インビトロ単為生殖的活性化後に、8日間の培養を経て胚盤胞期にまで発生した(Monk, Genes Dev (1988) 2:921-925)。同様に、核移植後にインビトロで単為生殖的に活性化したヒト卵母細胞の12パーセントが、胚盤胞期にまで発生した(Monk, 1988)。いずれの場合も、幹細胞株が1つ作製された。
【0040】
LT/Sv近交系マウス系統の処女雌において自発的活性化単為生殖体として形成された胚は、数日以内に死滅する。これらの胚の内部細胞塊(ICM)を含む細胞から、受精除核C57BL/6jマウス卵母細胞への核移植を行うと、LT/Svゲノムを有するクローンマウスが得られる(Kaufman et al., Nature (1977) 265:53-55)。このように、受精卵母細胞を用いることによって、単為生殖体の全期発生が可能となる。1つの局面においては、受精除核ヒト卵母細胞を用いて、ドナー核を含む単為生殖胚の胚盤胞期までの発生を支持し得る。
【0041】
1つの態様においては、ドナーの卵母細胞またはドナーの母親の卵母細胞の前核を、単為生殖的活性化後に、雄性および雌性前核を除去した受精ヒト卵母細胞に移植し得る。
【0042】
別の態様においては、ドナーの体細胞の核をドナー卵母細胞に移植し、その後この卵母細胞を単為生殖により活性化する段階、ならびに活性化卵母細胞の前核を雄性および雌性前核を除去した受精卵母細胞に移植する段階を含む、ヒト幹細胞を作製するための2段階過程を開示する。
【0043】
別の態様においては、ドナーの体細胞由来の核を受精除核ヒト卵母細胞に移植し、その後単為生殖的に活性化し得る。上記の3つの態様を以下の流れ図により説明する。
【0044】
「多能性細胞」とは、未分化状態で長期間、理論上は無期限にインビトロで維持することができ、異なる分化した組織型、すなわち外胚葉、中胚葉、および内胚葉を生じ得る、すべて雌性または雄性起源のDNAを含む細胞の活性化により生成される胚由来の細胞を指す。細胞の多能性状態は好ましくは、雄性発生または雌性発生法により生成される胚の内部細胞塊またはその内部細胞塊由来の細胞を適切な条件下で培養することにより、例えば線維芽細胞フィーダー層もしくは別のフィーダー層または白血病抑制因子(LIF)を含む培養物上で培養することにより維持される。そのような培養細胞の多能性状態は、種々の方法、例えば、(i) 多能性細胞に特有であるマーカーの発現の確認;(ii) 多能性細胞の遺伝子型を現す細胞を含むキメラ動物の作製;(iii) 動物、例えばSCIDマウスへの細胞の注入による、異なる分化細胞型のインビボでの生成;および(iv) 胚様体および他の分化細胞型への細胞のインビトロでの分化(例えば、フィーダー層またはLIFの非存在下で培養した場合)の観察により確認することができる。
【0045】
「二倍体細胞」とは、すべて雄性または雌性起源の二倍体DNA含有物を有する細胞、例えば卵母細胞または卵割球を指す。
【0046】
「一倍体細胞」とは、すべて雄性または雌性起源である一倍体DNA含有物を有する細胞、例えば卵母細胞または卵割球を指す。
【0047】
活性化とは、例えばこれに限定されないが減数分裂の中期IIにある受精または未受精卵が、典型的に染色分体対の分離、第2極体の放出を含む過程を起こし、それぞれ1本の染色分体を有する半数の染色体を有する卵母細胞を生じる過程を指す。活性化は、すべて雄性または雌性起源のDNAを含む細胞を誘発して、識別可能な内部細胞塊および栄養外胚葉を有する胚にまで発生させる方法であって、多能性細胞の作製に有用であるが、それ自体は生存活性のある子孫にまで発達させることができない可能性が高い方法を含む。活性化は、例えば以下の1つの条件下で行うことができる:(1) 第2極体の放出を引き起こさない条件;(ii) 極体の放出を引き起こすが、極体の放出が阻害される条件;または(iii) 一倍体卵母細胞の最初の細胞分裂を阻害する条件。
【0048】
「中期II」とは、細胞のDNA含有物が、各染色体が2本の染色分体によって示される半数の染色体からなる細胞発生の段階を指す。
【0049】
1つの態様において、中期II卵母細胞は、種々のO2圧気体環境下において卵母細胞をインキュベートすることにより活性化する。関連局面において、低O2圧気体環境は、約2%、3%、4%、または5%のO2濃度を含む気体混合物によって作製する。さらなる関連局面において、気体混合物は約5% CO2を含む。さらに、気体混合物は、約90% N2、91% N2、または93% N2を含む。この気体混合物は、約5% CO2、20% O2、および75% N2である5% CO2空気と区別されるはずである。
【0050】
「O2圧」とは、流体(すなわち、液体または気体)中の酸素の分圧(気体混合物の単一成分による圧力)を指す。低圧とは酸素の分圧(pO2)が低い場合であり、高圧とはpO2が高い場合である。
【0051】
「定義された培地条件」とは、最適な増殖に必要なその中の成分の濃度が詳細な、細胞を培養するための環境を指す。例えば、細胞の用途(例えば、治療適用)に応じて、異種タンパク質を含む条件から細胞を取り出すことは重要である;すなわち、培養条件は動物質を含まない条件であるか、または非ヒト動物タンパク質を含まない。関連局面において、「体外受精(IVF)培地」とは、その上または中で受精卵母細胞が増殖し得る、化学的に定義された物質を含む栄養系である。
【0052】
「細胞外マトリックス(ECM)基質」とは、最適な増殖を支持する細胞下の表面を指す。例えば、そのようなECM基質には、これらに限定されないが、マトリゲル、ラミニン、ゼラチン、およびフィブロネクチン基質が含まれる。関連局面において、そのような基質は、IV型コラーゲン、エンタクチン、ヘパリン硫酸プロテオグリカンを含み、種々の増殖因子(例えば、bFGF、上皮増殖因子、インスリン様増殖因子-1、血小板由来増殖因子、神経成長因子、およびTGF-β-1)を含み得る。
【0053】
「胚」とは、任意に修飾され得るすべて雄性または雌性起源のDNAを含む細胞、例えば卵母細胞または他の胚細胞の活性化によって生じ、識別可能な栄養外胚葉および内部細胞塊を含み、生存能力のある子孫を生じることができず、かつDNAがすべて雄性または雌性起源である胚を指す。内部細胞塊またはその中に含まれる細胞は、上記のように多能性細胞の作製に有用である。
【0054】
「内部細胞塊(ICM)」とは、胎児組織を生じる胚の内部を指す。本明細書において、これらの細胞は、インビトロで多能性細胞の連続した供給源を提供するために用いられる。さらに、ICMには、雄性発生または雌性発生から生じる胚、すなわちすべて雄性または雌性起源のDNAを含む細胞の活性化により生じる胚の内部が含まれる。そのようなDNAは、例えばヒトDNA、例えばヒト卵母細胞または精子DNAであり、遺伝子改変されている場合もあればされていない場合もある。
【0055】
「栄養外胚葉」とは胎盤組織を生じる初期胚の他の部分を指し、これには、雄性発生または雌性発生から生じる胚、すなわちすべて雄性または雌性起源のDNAを含む細胞、例えばヒト卵母細胞または精子の活性化により生じる胚の組織が含まれる。
【0056】
「分化細胞」とは、特定の分化した状態、すなわち非胚状態を有する非胚細胞を指す。3つの最初期分化細胞型は、内胚葉、中胚葉、および外胚葉である。
【0057】
「実質的に同一である」とは、相違を測定する能力(例えば、HLAタイピング、SNP解析などによる)において本質的に同じであることにほぼ近い、特定の特徴に関する同一性の質を指す。
【0058】
「組織適合性」とは、生物が外来組織の移植片を許容する程度を指す。
【0059】
「ゲノム刷り込み」とは、ゲノム全体にわたるいくつかの遺伝子が、それらの親起源に従って単一対立遺伝子的に発現する機構を指す。
【0060】
文法上の変化形を含めた「ホモプラスミー」とは、細胞または個体内に同じミトコンドリアDNA(mtDNA)型が存在することを指す。
【0061】
文法上の変化形を含めた「ヘテロプラスミー」とは、細胞または個体内に2つ以上のミトコンドリアDNA(mtDNA)型の混合物が存在することを指す。
【0062】
「片親性」とは、そこから別のものが生じ、それに対してその別のものが補助的なままである1つまたは複数の細胞または個体を指す。
【0063】
「機械的に単離すること」とは、物理的力により細胞凝集体を分離する過程を指す。例えば、そのような過程は、非ヒト物質を含む可能性がある酵素(または他の細胞切断産物)の使用を排除する。
【0064】
天然環境において、卵巣からの未成熟卵母細胞(卵子)は、減数分裂を経て減数分裂の中期IIまで進行する成熟過程を起こす。次いで、卵母細胞は中期IIで停止する。中期IIでは、細胞のDNA含有物は、それぞれ2本の染色分体によって示される半数の染色体からなる。
【0065】
そのような卵母細胞は、例えばこれに限定されないが糖のマイクロインジェクションによる凍結保存によって、永久に維持することができる。
【0066】
1つの態様において、凍結保存卵母細胞または単為生殖体からヒト幹細胞を作製する方法であって、卵母細胞または単為生殖体の細胞質に凍結保存剤をマイクロインジェクションする段階、卵母細胞または単為生殖体を極低温貯蔵温度まで凍結してこれを休眠状態に入らせる段階、卵母細胞または単為生殖体を休眠状態で貯蔵する段階、卵母細胞または単為生殖体を融解する段階、卵母細胞をイオノフォアの存在下において高O2圧下で単為生殖的に活性化し、その後卵母細胞を低O2圧下でセリン・スレオニンキナーゼ阻害剤と接触させる段階、活性化卵母細胞または単為生殖体を胚盤胞が形成されるまで培養する段階、胚盤胞から内部細胞塊(ICM)を単離する段階、およびICMの細胞をヒトフィーダー細胞層上で培養する段階を含み、ICM細胞を培養する段階を高O2圧下で行う方法を提供する。
【0067】
1つの局面において、記載通りに得られた卵母細胞は、胚試験済みミネラルオイル(Sigma)で被覆した改変等張IVFまたは任意の他の適切な培地に移す。必要に応じて、卵母細胞は、マイクロインジェクション用に計画した量と同じ濃度の細胞外糖と共にインキュベートし得る。例えば、0.1 M糖を注入するには、卵母細胞を0.1 M糖を含むDMEM/F-12中で平衡化し得る。1つの局面において、凍結保存剤は、標準的なDMEMよりも低いNa+濃度(すなわち、Na+低培地)を含む。関連局面において、凍結保存剤は、標準的なDMEMよりも高いK+濃度(すなわち、K+高)を含む。さらなる関連局面において、凍結保存剤は、標準的なDMEMよりも低いNa+濃度および高いK+濃度(すなわち、Na+低/K+高培地)を含む。1つの局面において、凍結保存剤は、これに限定されないがHEPESを含む有機緩衝液を含む。別の局面において、凍結保存剤は、アポトーシスタンパク質(例えば、カパーゼ(capase))を阻害する成分を含む。
【0068】
または、マイクロインジェクションの前に細胞容積を減少させるために、卵母細胞を任意に、NaClなどの任意の他の実質的非透過性溶質で平衡化することができる。細胞容積のこの最初の減少で、マイクロインジェクションの前に高張培地中でインキュベートしていない卵母細胞と比較して、マイクロインジェクションした卵母細胞の最終容積がより小さくなり得る。最終容積がこのように小さくなることで、卵母細胞の膨張による潜在的有害作用が最小限に抑えられ得る。マイクロインジェクション用の細胞を調製するためのこの一般的手順はまた、他の細胞型(例えば、活性化卵母細胞、hES細胞など)にも使用することができる。
【0069】
次いで、卵母細胞に凍結保存剤をマイクロインジェクションする。マイクロインジェクションの装置および手順は当技術分野において十分に特徴づけられており、細胞内に小分子を注入する際の使用が知られているマイクロインジェクション装置を本発明において用いることができる。例示的なマイクロインジェクション段階では、卵母細胞に圧力10 psiで30ミリ秒間マイクロインジェクションし得る。標準的なマイクロインジェクション技法の別の例は、Nakayama and Yanagimachi(Nature Biotech. 16:639-642, 1998)により記載されている方法である。
【0070】
本過程で有用な凍結保存剤には、凍結保護特性を有し、通常は非透過性である任意の化学物質が含まれる。特に、凍結保存剤は、単独の、または他の従来の凍結保存剤と混合した糖を含み得る。トレハロース、スクロース、フルクトース、およびラフィノースなどの炭水化物糖を、約1.0 M以下、より好ましくは0.4 M以下の濃度までマイクロインジェクションすることができる。1つの局面において、濃度は0.05 M〜0.20 Mである。さらに、貯蔵前に、細胞外の糖または従来の凍結保存剤を添加してもよい。マイクロインジェクション前に細胞を高張溶液中でインキュベートした場合、実質的非透過性溶質はマイクロインジェクション後に培地中に残存させてもよく、またはこの溶質を低濃度含むまたは含まない培地で細胞を洗浄することにより培地から除去してもよい。
【0071】
大きすぎて膜を通過することができないために通常細胞膜を透過しないある種の糖または多糖は、凍結保存目的に関して優れた生理化学的および生物学的特性を有する。これらの糖は通常はそれ自体では細胞膜を通過しないが、記載の方法を用いることで、通常は非透過性であるこれらの糖を細胞内にマイクロインジェクションして有益な効果をもたらすことができる。
【0072】
本方法において凍結保存剤として特に有用である、細胞に対する安定または保存効果を有する非透過性糖には、スクロース、トレハロース、フルクトース、デキストラン、およびラフィノースが含まれる。これらの糖の中でも、グルコースの非還元二糖であるトレハロースは、細胞構造を安定化する上で低濃度で並はずれて効果的であることが示されている。細胞外の糖脂質または糖タンパク質の添加もまた、細胞膜を安定化し得る。
【0073】
凍結保存剤のマイクロインジェクション後、細胞を貯蔵用に調製する。凍結および/または乾燥の種々の方法を使用して、細胞を貯蔵用に調製することができる。特に、本明細書においては3つのアプローチ:真空乾燥または風乾、凍結乾燥、および凍結融解手順を記載する。乾燥過程は、安定化された生体物質を外気温で輸送および貯蔵できるという利点を有する。
【0074】
典型的には、1〜2 M DMSOを負荷した卵母細胞を中間温度(-60℃〜-80℃)まで非常に遅い冷却速度(0.3〜0.5℃/分)で冷却してから、貯蔵のために液体窒素中に入れる。次いで、試料をこの温度で貯蔵し得る。
【0075】
次に懸濁した材料を、例えば液体窒素(LN2)中にバイアルを所望の時間放置することにより、凍結保存温度で貯蔵し得る。
【0076】
タンパク質を真空乾燥または風乾するおよび凍結乾燥する手順は、当技術分野において十分に特徴づけられており(Franks et al., 「Materials Science and the Production of Shelf-Stable Biologicals」, BioPharm, October 1991, p. 39;Shalaev et al., 「Changes in the Physical State of Model Mixtures during Freezing and Drying: Impact on Product Quality」, Cryobiol. 33, 14-26 (1996))、そのような手順を用いて、記載の方法により貯蔵するための細胞懸濁液を調製することができる。風乾に加えて、細胞懸濁液から水分を除去するために用いられ得る他の対流乾燥法は、窒素または他の気体の対流を含む。
【0077】
本発明の方法で有用な例示的な蒸発真空乾燥手順は、12ウェルプレートのウェルに各20μlを入れる段階、外気温で2時間真空乾燥する段階を含み得る。当然のことながら、バイアル中の細胞を乾燥させる段階を含む他の乾燥法を用いることもできる。この様式で調製した細胞は、乾燥状態で貯蔵し、DMEMまたは任意の他の適切な培地で希釈することにより再水和することができる。
【0078】
貯蔵用の細胞を調製するために凍結乾燥を使用する本発明の方法は、細胞懸濁液の凍結から開始する。当技術分野において公知である凍結法を使用することができるが、凍結融解法に関して本明細書において記載した単純な浸漬凍結法を、凍結乾燥手順における凍結段階に使用してもよい。
【0079】
凍結後、2段階の乾燥過程を使用し得る。第1段階では、凍結した水を蒸発させるために昇華エネルギーを加える。2次乾燥は、試料中の純粋な結晶氷が昇華された後に行う。凍結乾燥細胞は、真空乾燥に関して上記したのと同じ様式で貯蔵および水和することができる。その後、生存細胞を回復させ得る。
【0080】
凍結または乾燥状態から細胞を回復させた後、外部凍結保存剤を任意に培地から除去し得る。例えば、低濃度の凍結保存剤を含む相当する培地を添加することによって、培地を希釈することができる。例えば、回復させた細胞は、細胞貯蔵に使用した濃度よりも低濃度の糖を含む培地中で約5分間インキュベートし得る。このインキュベーションに関して、培地は、凍結保存剤として使用したものと同じ糖;ガラクトースなどの異なる凍結保存剤;または任意の他の実質的非透過性溶質を含み得る。培地のモル浸透圧濃度の減少によって誘導される浸透圧ショックを最小限に抑えるために、毎回より低濃度の凍結保存剤でこの希釈段階を複数回行うことによって、細胞外凍結保存剤の濃度をゆっくりと減少させることができる。この希釈段階は、存在する細胞外凍結保存剤がなくなるまで、または凍結保存剤の濃度または培地のモル浸透圧濃度が所望のレベルに減少するまで繰り返すことができる。
【0081】
単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および自己幹細胞は、将来の必要性に応じて、細胞の回復を可能にする様式で貯蔵または「バンク化」することができる。単為生殖的活性化卵母細胞および自己幹細胞の一定分量を任意の時点で取り出して、多くの未分化細胞の培養物にまで増殖させ、次いで特定の細胞型または組織型に分化させることができ、その後疾患を治療するために、または対象中の多機能組織と置換するために用いることができる。細胞は単為生殖的にドナーに由来するため、個体または近親者が細胞に長期間アクセスできるように細胞を保存し得る。
【0082】
1つの態様において、単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞試料を貯蔵するための細胞バンクを提供する。別の態様において、そのような細胞バンクを管理する方法を提供する。その全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願公開第20030215942号は、幹細胞バンクシステムの例を提供する。
【0083】
上記のような方法を用いて、単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および自己幹細胞試料の単離およびインビトロ増殖、ならびにそれらの凍結保存により、移植可能なヒト幹細胞の「バンク」の確立が容易になる。より少量の細胞を貯蔵することが可能であるため、バンク化手順は比較的小さな空間を占め得る。したがって、多くの個体の細胞を、比較的わずかな費用で短期的または長期的に貯蔵または「バンク化」することができる。
【0084】
1つの態様においては、試料の一部は、処理および貯蔵の前または後に試験に利用される。
【0085】
本発明はまた、試料の位置を探す必要がある場合に容易に検索できるように、単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞試料を記録するまたはこれに索引を付ける方法を提供する。この目的を達成するには、任意の索引付けおよび検索システムを用いることができる。単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞を貯蔵できるように、任意の適切な型の貯蔵システムを用いることができる。試料は個体試料を貯蔵するように設計することができ、または何百、何千、およびさらには何百万という異なる細胞試料を貯蔵するよう設計することができる。
【0086】
貯蔵された単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞試料は、信頼性のあるかつ正確な検索のために索引を付けることができる。例えば、各試料に英数字コード、バーコード、もしくは任意の他の方法、またはそれらの組み合わせで印を付けることができる。また、各単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞試料、ならびにバンク中のその位置の同定を可能にする、ならびにバンク外にある細胞試料の供給源および/または型の同定を可能にする情報のアクセス可能でかつ可読のリストが存在してもよい。この索引付けシステムは、例えば手作業でまたは非手作業で当技術分野において公知である任意の方法で管理することができ、例えばコンピュータおよび従来のソフトウェアを用いることができる。
【0087】
1つの態様においては、試料が必要な場合にいつでもドナーが利用できるように、索引付けシステムを用いて細胞試料を組織化する。他の態様においては、細胞試料は、元のドナーと血縁関係にある個体によって利用され得る。索引付けシステムに一旦記録された時点で、細胞試料を適合目的のために利用することができ、例えば適合プログラムは適合する型情報を用いて個体を同定し、個体は適合する試料の提供を受ける選択権を有する。
【0088】
貯蔵バンクシステムは、複数の個体および複数の細胞試料に関連した複数の記録を記憶するシステムを含み得る。各記録は、細胞試料または特定の個体に関する型情報、遺伝型情報、または表現形情報を含み得る。1つの態様において、システムは、試料の型と試料の入手を希望する個体の型を適合させる交差適合表を含む。
【0089】
1つの態様において、データベースシステムは、バンク中の各単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞試料の情報を記憶する。特定の情報は、各試料と関連して記憶される。情報は、特定のドナー、例えばドナーの同定およびドナーの病歴と関連がある。例えば、各試料のHLA型を同定することができ、HLA型情報が各試料と関連して記憶され得る。記憶される情報はまた、在庫情報であってよい。各試料と共に記憶される情報は探索可能であり、直ちに位置を探しクライアントに提供できるような方法で試料を特定する。
【0090】
したがって、本発明の態様は、ドナー、寄託日、寄託細胞の型、存在する細胞表面マーカーの型、ドナーに関する遺伝情報、または他の適切な情報、ならびに維持記録および貯蔵細胞の位置などの貯蔵の詳細、ならびに他の有用な情報などの情報を含むコンピュータベースのシステムを利用する。
【0091】
「コンピュータベースのシステム」という用語は、貯蔵細胞に関する情報を記憶、探索、および検索するために用いられるハードウェア、ソフトウェア、およびデータベースを指す。コンピュータベースのシステムは好ましくは、上記の記憶媒体、ならびにデータにアクセスするおよびデータを操作するためのプロセッサを含む。本態様のコンピュータベースのシステムのハードウェアは、中央演算処理装置(CPU)およびデータベースを含む。当業者は、現在利用できるコンピュータベースのシステムのいずれか1つが適切であることを容易に理解し得る。
【0092】
1つの態様において、コンピュータシステムは、メインメモリ(好ましくはRAMとして実装される)、ならびにハードドライブおよびリムーバブル媒体記憶装置などの種々の2次記憶装置に接続されたバスに接続されたプロセッサを含む。リムーバブル媒体記録装置は、例えばフロッピーディスクドライブ、DVDドライブ、光ディスクドライブ、コンパクトディスクドライブ、磁気テープドライブなどを示し得る。制御論理および/またはその中に記録されたデータを含むフロッピーディスク、コンパクトディスク、磁気テープなどのリムーバブル記憶媒体は、リムーバブル記憶装置に挿入することができる。コンピュータシステムは、リムーバブル媒体記憶装置に一旦挿入されたリムーバル媒体記録装置から制御論理および/またはデータを読み出すための適切なソフトウェアを含む。単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞に関する情報は、周知の様式でメインメモリ、2次記憶装置のいずれか、および/またはリムーバブル記憶媒体に保存され得る。これらのデータにアクセスするおよびこれらのデータを処理するためのソフトウェア(探索ツール、比較ツールなど)は、実行中のメインメモリ中に存在する。
【0093】
本明細書で使用する「データベース」とは、単為生殖的活性化卵母細胞および/または自己幹細胞収集物ならびにドナーに関する任意の有用な情報を記憶し得るメモリを指す。
【0094】
貯蔵された単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞に関するデータは、種々の形式の種々のデータ処理プログラムで記憶および操作することができる。例えば、データは、Microsoft WORDまたはWORDPERFECTなどの文書処理ファイルにテキストとして、DB2、SYBASE、またはORACLEなどの当業者に周知の種々のデータベースプログラムでASCIIファイル、htmlファイル、またはpdfファイルとして記憶することができる。
【0095】
「探索プログラム」とは、データベース中の凍結保存試料に関する詳細を探索するため、またはそのような試料に関する情報を比較するために、コンピュータベースのシステム上で実行される1つまたは複数のプログラムを指す。「検索プログラム」とは、データベース中の関心対象のパラメータを同定するために、コンピュータベースのシステム上で実行され得る1つまたは複数のプログラムを指す。例えば、検索プログラムを用いて、特定のプロファイルと適合する試料、特定のマーカーもしくはDNA配列を有する試料を見出すこと、または特定の個体に相当する試料の位置を見出すことができる。
【0096】
1つの細胞バンク中に貯蔵できる細胞試料の数に上限はない。1つの態様においては、異なる個体からの数百の産物が、1つのバンクまたは貯蔵設備に貯蔵される。別の態様においては、最大で数百万までの産物が、1つの貯蔵施設に貯蔵され得る。単一の貯蔵施設を用いて単為生殖的活性化卵母細胞および/または自己幹細胞試料を保存することができ、または複数の貯蔵施設を使用することもできる。
【0097】
本発明のいくつかの態様において、貯蔵設備は、例えば自動ロボット検索機構および細胞試料操作機構などの、貯蔵細胞試料を組織化するおよびそのような試料に索引を付ける任意の方法のための手段を有し得る。設備は、細胞試料を処理するための顕微操作装置を含み得る。細胞試料の効率的な貯蔵および検索には、公知の従来技術を用いることができる。例示的な技術には、これらに限定されないが、機械視覚、ロボティクス、自動搬送システム(Automated Guided Vehicle System)、自動倉庫システム(Automated Storage and Retrieval Systems)、コンピュータ統合生産、コンピュータ支援工程設計(Computer Aided Process Planning)、統計的プロセス制御などが含まれる。
【0098】
試料を必要とする個体に関連した型情報または他の情報は、例えばデータベースシステム、索引付けシステムなどの、適切な適合産物を同定するために用いることのできるシステムに記録することができる。システムに一旦記録された時点で、個体の型とドナー細胞試料との間で適合が行われ得る。好ましい態様において、ドナー試料は、試料を必要とする個体と同じ個体に由来する。しかし、類似してはいるが同一ではないドナー/レシピエント適合もまた用いることができる。適合試料は、適合する型識別子を有する個体に使用することができる。本発明の1つの態様において、個体の識別情報は細胞試料と関連して記憶される。いくつかの態様において、適合過程は試料の採取の頃に行われるか、または処理、貯蔵中の任意の時点で、もしくは必要に応じて行われ得る。したがって、本発明のいくつかの態様では、適合過程は、個体が細胞試料を実際に必要とする前に行われる。
【0099】
単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞試料が個体によって必要とされる場合、それは必要に応じて数分以内に検索され、研究、移植、または他の目的に利用され得る。試料はまた、それを移植または他の必要性のために調製する目的でさらに処理され得る。
【0100】
通常、卵母細胞はこの段階で排卵され、精子で受精する。精子は、活性化と称される過程で減数分裂の完了を開始する。活性化の間に、染色分体の対は分離し、第2極体が放出され、卵母細胞はそれぞれ1本の染色分体を有する半数の染色体を保持する。精子は染色体のもう一方の一倍体相補体を提供して、単一の染色分体を有する完全な二倍体細胞が作製される。次に染色体は、最初の細胞周期中のDNA合成を経て進行する。これらの細胞は次いで胚へと発生する。
【0101】
これに対して本明細書に記載する胚は、細胞、典型的にはすべて雄性または雌性起源のDNAを含む哺乳動物卵母細胞または卵割球の人工的活性化により発生する。発明の背景で説明したように、未受精卵母細胞の人工的活性化に関する多くの方法が文献に報告されている。そのような方法には、物理的方法、例えば培養卵母細胞の穿刺、操作などの機械的方法、冷却および加熱などの熱的方法、電気パルスの反復、トリプシン、プロナーゼ、ヒアルロニダーゼなどの酵素処理、浸透圧処理、2価陽イオンならびにイオノマイシンおよびA23187などのカルシウムイオノフォアによるようなイオン処理、エーテル、エタノール、テトラカイン、リグノカイン、プロカイン、フェノチアジンなどの麻酔薬の使用、チオリダジン、トリフルオペラジン、フルフェナジン、クロロプロマジンなどの精神安定剤、シクロヘキシミド、プロマイシンなどのタンパク質合成阻害剤の使用、リン酸化阻害剤、例えばスタウロスポリン、2-アミノプリン、スフィンゴシン、およびDMAPなどのプロテインキナーゼ阻害剤の使用、これらの組み合わせ、加えて他の方法が含まれる。
【0102】
そのような活性化法は当技術分野で周知であり、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,945,577号に記載されている。
【0103】
1つの態様においては、中期IIにあるヒト細胞、典型的にはすべて雄性または雌性起源のDNAを含む卵母細胞または卵割球を、卵母細胞の人工的活性化をもたらすために人工的に活性化する。
【0104】
関連局面においては、二倍体である活性化細胞、例えば卵母細胞を、栄養外胚葉および内部細胞塊を含む胚に発生させる。これは、胚盤胞発生を促進する公知の方法および培地を用いて引き起こすことができる。
【0105】
雌性発生胚を培養して識別可能な栄養外胚葉および内部細胞塊を生じさせた後、内部細胞塊の細胞を用いて所望の多能性細胞株を作製する。これは、内部細胞塊に由来する細胞または内部細胞塊全体を、分化を阻害する培養物中に移すことによって達成し得る。これは、分化を阻害するフィーダー層、例えば出生後ヒト組織に由来する線維芽細胞などの線維芽細胞もしくは上皮細胞、またはLIFを産生する他の細胞上に内部細胞塊を移すことによって行うことができる。これらに限定されないが、馴化培地(Amit et al., Developmental Biol (2000) 227:271-278)、bFGFおよびTGF-β1(LIFを伴うまたは伴わない)(Amit et al., Biol Reprod (2004) 70:837-845)、gp130/STAT3経路を活性化する因子(Hoffman and Carpenter, Nature Biotech (2005) 23(6):699-708)、PI3K/Akt、PKB経路を活性化する因子(Kim et al., FEBS Lett (2005) 579:534-540)、骨形成タンパク質(BMP)スーパーファミリーのメンバーである因子(Hoffman and Carpenter (2005)、前記)、および標準/β-カテニンWntシグナル伝達経路を活性化する因子(例えば、GSK-3特異的阻害剤;Sato et al., Nat Med (2004) 10:55-63)の添加を含む他の因子/成分を用いて、細胞を未分化状態で維持するための適切な培養条件を提供することができる。関連局面において、このような因子は、フィーダー細胞および/またはECM基質を含む培養条件を含み得る(Hoffman and Carpenter (2005)、前記)。
【0106】
1つの局面において、内部細胞塊細胞は、ヒト出生後包皮もしくは皮膚線維芽細胞または白血病抑制因子を産生する他の細胞上で、または白血病抑制因子の存在下で培養する。関連局面においては、フィーダー細胞を、ICMと共に播種する前に不活化する。例えば、フィーダー細胞は、抗生物質を用いて有糸分裂的に不活化することができる。関連局面において、抗生物質は、これに限定されないがマイトマイシンCであってよい。
【0107】
培養は、細胞を長期間、理論的には永久に未分化の多能性状態で維持する条件下で行う。1つの態様においては、卵母細胞をカルシウムイオノフォアにより高O2圧下で単為生殖的に活性化し、その後卵母細胞を低O2圧下でセリン・スレオニンキナーゼ阻害剤と接触させる。単為生殖的活性化卵母細胞から生じたICMを高O2圧下で培養するが、この場合細胞は例えば、20% O2を含む気体混合物を用いて維持する。1つの局面において、培養可能とは、培養し得ることまたは培養に適していることを指す。関連局面において、ICMの単離は4日間の胚盤胞培養後に機械的に行い、この場合の培養はフィーダー細胞上で行う。そのような培養は例えば、免疫手術の場合のように、動物源に由来する物質を使用する必要性を排除する。
【0108】
関連局面において、ICM用の培地には、これに限定されないがヒト臍帯血清を含む非動物血清を補充し、この場合、血清は定義された培地(例えば、IVF、MediCult A/S、デンマーク;Vitrolife、スウェーデン;またはZander IVF, Inc.、フロリダ州、ベロビーチから入手可能)中に存在する。別の局面において、提供する培地および過程は動物産物を含まない。関連局面において、動物産物は、非ヒト供給源に由来する血清、インターフェロン、ケモカイン、サイトカイン、ホルモン、および増殖因子を含む産物である。
【0109】
本発明によって作製された細胞の多能性状態は、種々の方法により確認することができる。例えば、細胞を、特有のES細胞マーカーの有無に関して試験することができる。ヒトES細胞の場合、そのようなマーカーの例は前記に同定されており、これにはSSEA-4、SSEA-3、TRA-1-60、TRA-1-81、およびOCT 4が含まれ、当技術分野で公知である。
【0110】
また多能性は、適切な動物、例えばSCIDマウスに細胞を注入し、分化細胞および組織の生成を観察することによって確認することができる。多能性を確認するさらに別の方法は、本多能性細胞を用いてキメラ動物を作製し、導入した細胞の異なる細胞型への寄与を観察することである。キメラ動物を作製する方法は当技術分野で周知であり、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,642,433号に記載されている。
【0111】
多能性を確認するさらに別の方法は、分化を支持する条件下で培養した場合の(例えば、線維芽細胞フィーダー層の除去)、胚様体または他の分化細胞型へのES細胞分化を観察することである。この方法を利用して、本多能性細胞が組織培養で胚様体および異なる分化細胞型を生じることが確認された。
【0112】
完全に雌性起源のDNAに由来する生じた多能性細胞および細胞株、好ましくはヒト多能性細胞および細胞株は、多くの治療および診断適用を有する。そのような多能性細胞は、多くの疾患状態の治療において細胞移植療法または遺伝子治療(遺伝子改変されている場合)に用いることができる。
【0113】
この点で、マウス胚性幹(ES)細胞はほぼすべての細胞型に分化し得ることが知られている。したがって、本発明に従って作製されたヒト多能性(ES)細胞は、類似の分化能を有するはずである。本発明による多能性細胞は、公知の方法に従って、所望の細胞型が得られるよう分化させるために誘導される。例えば、本発明に従って作製されたヒトES細胞は、例えば分化培地中で細胞分化を提供する条件下で培養することにより、造血幹細胞、筋細胞、心筋細胞、肝細胞、島細胞、網膜細胞、軟骨細胞、上皮細胞、尿路細胞などに分化するよう誘導することができる。ES細胞の分化をもたらす培地および方法は当技術分野で公知であり、適切な培養条件も当技術分野で公知である。
【0114】
例えば、Palacios et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:7530-7537 (1995)は、幹細胞を誘導手順に供することによる胚細胞株からの造血幹細胞の生成を教示しており、これは、最初にそのような細胞の凝集物をレチノイン酸を欠く懸濁培地中で培養し、その後レチノイン酸を含む同じ培地中で培養し、次に細胞凝集物を細胞接着を提供する基質に移すことを含む。
【0115】
さらに、Pedersen, J. Reprod. Fertil. Dev., 6:543-552 (1994)は、特に造血細胞、筋細胞、心筋細胞、神経細胞を含む種々の分化細胞型を生成するための胚性幹細胞のインビトロ分化法を開示している多くの論文について言及する総説である。
【0116】
さらに、Bain et al., Dev. Biol. 168:342-357 (1995)は、神経特性を有する神経細胞を生成するための、胚性幹細胞のインビトロ分化を教示している。これらの参考文献は、胚細胞または幹細胞から分化細胞を得るための報告された方法の例である。これらの参考文献、および特に胚性幹細胞を分化させる方法に関するその中の開示内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。したがって、当業者であれば、公知の方法および培地を用いて、遺伝子改変またはトランスジェニックES細胞を含む本ES細胞を培養して、所望の分化細胞型、例えば神経細胞、筋細胞、造血細胞などを得ることができる。本明細書に記載する方法によって作製される多能性細胞は、任意の所望の分化細胞型を得るために用いることができる。分化ヒト細胞の治療的使用法は、比類なきものである。例えば、ヒト造血幹細胞は、骨髄移植を必要とする医学的治療において用いることができる。このような手順は、多くの疾患、例えば卵巣癌および白血病などの後期癌、ならびにエイズなどの免疫系を損なう疾患を治療するために用いられる。造血幹細胞は、例えば男性または女性の癌またはエイズ患者に由来する雄性または雌性DNAを除核卵母細胞と組み合わせ、上記の多能性細胞を得て、このような細胞を分化を支持する条件下で造血幹細胞が得られるまで培養することにより得ることができる。そのような造血細胞は、癌およびエイズを含む疾患の治療に用いられ得る。
【0117】
または、本多能性細胞を神経細胞株を生成する分化条件下で培養することにより、このような細胞を用いて神経障害患者を治療することができる。このようなヒト神経細胞の移植により治療可能な特定の疾患には、一例として、特にパーキンソン病、アルツハイマー病、ALS、および脳性麻痺が含まれる。パーキンソン病の特定の症例において、移植された胎児脳神経細胞が周囲の細胞と正しく連結して、ドーパミンを産生することが実証されている。これは、パーキンソン病症状の長期回復をもたらし得る。関連局面においては、手、足、および脊髄の損傷後に運動を回復させるために、神経前駆体を用いて、切断された/損傷した神経線維を再結合することができる。
【0118】
本発明の1つの目的は、卵母細胞ドナーへの自己移植に適した分化細胞を生成するために使用できる多能性ヒト細胞を、本質的に無制限に提供することである。不妊治療後に残ったまたはNTを用いて作製された胚盤胞に由来するヒト胚性幹細胞およびその分化子孫は、同種細胞移植療法に用いられた場合に、レシピエントの免疫系によって拒絶される可能性が高い。単為生殖的に導出された幹細胞は、現在の移植法に付随する重要な問題、すなわち卵母細胞ドナーに関する宿主対移植片または移植片対宿主拒絶のために起こり得る移植組織の拒絶を軽減し得る分化細胞をもたらすはずである。従来、拒絶は、シクロスポリンなどの抗拒絶剤の投与により防止または軽減される。しかしこのような薬物は、顕著な副作用、例えば免疫抑制、発癌性特性を有し、加えて非常に高価である。開示の方法により生成された細胞は、卵母細胞ドナーに関する抗拒絶剤の必要性を排除するか、または少なくとも大幅に減少させるはずである。
【0119】
本発明の別の目的は、卵母細胞ドナーの家族のメンバー(例えば、兄弟姉妹)に対する同種移植に適した分化細胞を生成するために使用できる多能性ヒト細胞を、本質的に無制限に提供することである。細胞は、卵母細胞ドナーの直接の家族メンバーの細胞と免疫学的および遺伝学的に類似しており、よってドナーの家族メンバーによって拒絶される可能性は低い。
【0120】
本方法の別の目的は、哺乳動物卵母細胞の単為生殖的活性化がSCNTと比較して比較的単純な手順であり、より少ない細胞操作で幹細胞が作製されることである。
【0121】
哺乳動物卵母細胞の単為生殖的活性化は、卵母細胞の機械的操作を必要とする方法(例えば、SCNT)よりも、幹細胞の作製においてより効率的であることが示されている。
【0122】
SCNTの1つの欠点は、ミトコンドリア呼吸鎖活性欠損を有する対象が、SCNT胎児および子孫において一般的に遭遇する異常との顕著な類似性を有する表現形を示すことである(Hiendleder et al, Repro Fertil Dev (2005) 17(1-2):69-83)。細胞は一般的に1つのミトコンドリアDNA(mtDNA)型のみを含み、これはホモプラスミーと称されるが、ヘテロプラスミーは、通常変異体および野生型mt DNA分子の組み合わせとして存在するか、または野生型変種の組み合わせを形成する(Spikings et al., Hum Repro Update (2006) 12(4):401-415)。ヘテロプラスミーはミトコンドリア病をもたらし得るため、母系のみの伝達を保証するために種々の機構が存在する。しかし、ホモプラスミーを維持するための正常な機構を迂回する手順の使用が増加していることから(例えば、細胞質移植(CT)およびSCNT)、撹乱したミトコンドリア機能が、これらの供給源に由来する幹細胞に固有となる可能性がある。
【0123】
1つの局面において、単為生殖体は片親性であるため、ヘテロプラスミーの可溶性が最小限に抑えられる。
【0124】
細胞療法により治療可能な他の疾患および病態には、一例として、脊髄損傷、多発性硬化症、筋ジストロフィー、糖尿病、急性疾患(ウイルス性肝炎、薬物過剰(アセトアミノフェン)など)、慢性疾患(慢性肝炎など(一般的に肝硬変をもたらす))、遺伝的肝臓障害(B型血友病、第IX因子欠損症、ビリルビン代謝障害、尿素回路障害、リソソーム蓄積症、a1-抗トリプシン欠乏症など)を含む肝疾患、心疾患、軟骨置換、熱傷、足部潰瘍、胃腸疾患、血管疾患、腎疾患、網膜疾患、尿路疾患、ならびに加齢関連疾患および病態が含まれる。
【0125】
この方法を用いて、欠陥遺伝子、例えば欠陥免疫系遺伝子、嚢胞性線維症遺伝子を置換すること、または増殖因子、リンホカイン、サイトカイン、酵素などの治療上有益なタンパク質の発現をもたらす遺伝子を導入することができる。
【0126】
例えば、脳由来成長因子をコードする遺伝子を本発明に従って作製されたヒト多能性細胞に導入し、この細胞を神経細胞へと分化させ、この細胞をパーキンソン病患者に移植して、このような疾患における神経細胞の消失を遅延させることができる。
【0127】
また、本多能性ヒトES細胞は、特に初期発生の調節に関与する遺伝子を研究するための、分化のインビトロモデルとして使用することができる。また、本ES細胞を用いて生成された分化細胞組織および器官は、薬物研究において用いることができる。
【0128】
さらに、本ES細胞またはこれに由来する分化細胞は、他のES細胞および細胞コロニーを作製するための核ドナーとして用いることができる。
【0129】
さらに、本開示に従って得られる多能性細胞は、胚形成に関与するタンパク質および遺伝子を同定するために用いることができる。これは、例えば示差的発現により、すなわち本発明に従って提供される多能性細胞において発現するmRNAを、これらの細胞が異なる細胞型、例えば神経細胞、心筋細胞、他の筋細胞、皮膚細胞などへと分化する際に発現するmRNAと比較することにより行い得る。こうして、どの遺伝子が特定の細胞型の分化に関与しているかを決定することが可能になると考えられる。
【0130】
さらに、デュシェーヌ型筋ジストロフィーをもたらす遺伝子異常のような特定の遺伝子異常を有するES細胞および/またはその分化子孫は、遺伝子異常に関連した特定の疾患を研究するためのモデルとして用いることができる。
【0131】
また、所望の分化細胞型の生成および増殖を誘導する条件を同定するために、記載の方法に従って作製された多能性細胞株を、様々な濃度の様々な増殖因子の混合物、および異なる細胞マトリックス上で培養するなどの異なる細胞培養条件下、または異なる気体分圧下に曝露することも、本開示の別の目的である。
【0132】
以下の実施例は本発明の説明を意図するものであって、限定を意図するものではない。
【0133】
実施例1
ヒト単為生殖胚形成幹細胞の作製
材料および方法
ドナーは、金銭的報酬を受けずに卵母細胞、卵丘細胞、および血液(DNA解析用)を自発的に提供した。ドナーは包括的なインフォームドコンセント書類に署名し、提供された材料はすべて研究のために使用し、生殖目的で使用しないことが通知された。卵母細胞ドナーは卵巣刺激の前に、ヒトの細胞、組織、ならびに細胞および組織に基づく製品のドナーに関するFDA適格性判定指針(食品医薬品局。2004年5月付の(法案)Guidance for Industry: Eligibility Determination for Donors of Human Cells, Tissues, and Cellular and Tissue Based Products (HCT/Ps))およびロシア保険省の規則N 67(02.26.03)に従って、適合性に関する健康診断を受けた。これには、X線、血液および尿検査、ならびに肝機能試験が含まれた。ドナーはまた、梅毒、HIV、HBV、およびHCV検査を受けた。
【0134】
卵母細胞は、標準的なホルモン刺激を用いて対象ドナーで過排卵を生じさせて得た。月経周期の3〜13日目に、ドナー卵子それぞれにFSHによる卵巣刺激を与えた。全部で1500 IUのFShを投与した。ドナーの月経周期の10〜14日目に、0.25 mg/日のゴナドリベリン拮抗薬Orgalutran(Organon、オランダ)を注射した。ドナーの月経周期の12〜14日目に、75 IU FSH+75 IU LH(Menopur、Ferring GmbH、ドイツ)を毎日注射した。ドナーの月経周期の14日目に、超音波検査により直径18 mm〜20 mmの卵胞が示されるという条件において、単回8000 IU用量のhGC(Choragon、Ferring GmbH、ドイツ)を投与した。およそ16日目であるhCG注射の約35時間後に、経膣穿刺を行った。超音波誘導下針吸引により、麻酔したドナーの胞状卵胞から卵胞液を滅菌試験管に採取した。
【0135】
卵胞液から卵丘卵母細胞複合体(COC)を取り出し、Flushing Medium(MediCult)で洗浄し、その後流動パラフィン(MediCult)重層を伴うUniversal IVF培地(MediCult、表1を参照)中、37℃加湿雰囲気において20% O2、5% CO2下で2時間インキュベートした。
【0136】
(表1)IVF培地
【0137】
活性化の前に、卵丘卵母細胞複合体(COC)をSynVitro Hyadase(Medicult, A/S、デンマーク)で処理して卵丘細胞を除去し、その後パラフィン重層したUniversal IVF培地中で30分間インキュベートした。
【0138】
この時点以後、卵母細胞および胚の培養は、イオノマイシン処理を除いて、酸素低減気体混合物(90% N2+5% O2+5% CO2)を用いて37℃の加湿雰囲気下で行った。卵母細胞は、20% O2、5% CO2という気体環境下の37℃のCO2インキュベーター内で5μMイオノマイシン中で5分間インキュベートし、その後90% N2、5% O2、および5% CO2、37℃でいう気体環境において、パラフィン重層したIVF培地中で1 mM 6-ジメチルアミノプリン(DMAP)と共に4時間培養することにより活性化した。次いで、卵母細胞をIVFで3回洗浄した。活性化および培養は、4ウェルプレート(Nunclon, A/S、デンマーク)で、流動パラフィン油(MediCult, A/S、デンマーク)を重層した培地500μl中で行った。
【0139】
活性化卵母細胞は、5% O2、5% CO2、および90% N2を含む気体環境においてIVF培地中で培養し、活性化卵母細胞から作製された胚も同じ気体混合物中で培養した。
【0140】
活性化卵母細胞は、胚盤胞スコアづけ改良(Blastocyst Scoring Modification)で1AAまたは2AA(Shady Grove Fertility Center、メリーランド州、ロックビル、およびGeorgia Reproductive Specialists、ジョージア州、アトランタ)である、内部細胞塊(ICM)を含む十分に拡張した胚盤胞が観察されるまで、上記条件 (すなわち、低O2圧)下でIVF中でインキュベートした。
【0141】
0.5%プロナーゼ(Sigma、セントルイス)処理により、透明帯を除去した。ヒト脾臓細胞に対するウマ抗血清と共にインキュベートし、その後モルモット補体に曝露する免疫手術により、胚盤胞からICMを単離した。処理した胚盤胞を穏やかにピペッティングして、栄養外胚葉細胞をICMから除去した。
【0142】
胚盤胞全体からICMを誘導する場合には、10%ヒト臍帯血血清、5 ng/mlヒト組換えLIF(Chemicon Int'l, Inc.、カリフォルニア州、テメキュラ)、4 ng/ml組換えヒトFGF(Chemicon Int'l, Inc.、カリフォルニア州、テメキュラ)、およびペニシリン・ストレプトマイシン(100 U/100μg)を添加した、phESCの培養用に設計された培地(すなわち、VitroHES(商標)培地(例えば、DMEM/高グルコース培地、VitroLife、スウェーデン)により、胚盤胞をフィーダー層上に乗せた。胚盤胞が接着し、栄養膜細胞が拡張した時点で、ICMが目に見えるようになった。さらに3〜4日間培養し、細く引いたガラスピペットを用いて、栄養外胚葉生成物からICMを機械的に薄く切り取ることによりICMを単離した。さらに、IMC細胞を、96ウェルプレートでVitroHES(商標)培地(上記の通りに処方)中、有糸分裂的に不活化した出生後ヒト皮膚線維芽細胞のフィーダー細胞層上で、5% CO2および20% O2、37℃で培養した。この気体混合物を用いて幹細胞を培養した。ヒト線維芽細胞培養物は、非動物材料を用いて作製した。線維芽細胞の不活化は、10μg/mlマイトマイシンC(Sigma、ミズーリ州、セントルイス)を用いて3時間行った。
【0143】
別の方法においては、胚盤胞をヒト脾臓細胞に対するウマ抗血清と共にインキュベートし、その後ウサギ補体に曝露することにより免疫手術を行った。処理した胚盤胞を穏やかにピペッティングして、栄養外胚葉細胞をICMから除去した。単離されたICMのさらなる培養は、ヒト臍帯血血清を含む培地を用いて導出された、遺伝的に非関連の個体から得られた(親の同意を得て)新生児ヒト皮膚線維芽細胞(HSF)のフィーダー層上で行った。HSFフィーダー層は、マイトマイシンCを用いて有糸分裂的に不活化した。
【0144】
HSFを培養するための培地は、90% DMEM(高グルコース、L-グルタミン(Invitrogen)、10%ヒト臍帯血血清、およびペニシリン・ストレプトマイシン(100 U/100 mg)を添加 Invitrogen)からなった。
【0145】
ICMおよびphESCの培養には、4 ng/ml hrbFGF、5 ng/ml hrLIF、および10%ヒト臍帯血血清を添加したVitroHES(商標)(Vitrolife)を使用した。ICMを新鮮なフィーダー層上に機械的にプレーティングし、3〜4日間培養した。培養して5日後に、最初のコロニーを機械的に切断し、再プレーティングした。その後の継代はすべて、5〜6日間の培養後に行った。初期の継代では、コロニーを機械的に凝集塊に分割して、再プレーティングした。phESCのさらなる継代は、IV型コラゲナーゼ処理および機械的解離により行った。phESCの増殖は、加湿雰囲気において37℃、5% CO2で行った。
【0146】
卵母細胞の活性化
最初のドナーから卵母細胞4個を活性化し、活性化卵母細胞を5% O2、5% CO2、および90% N2を含む気体環境においてIVF培地中で培養し、5日間にわたり追跡した。表2は、活性化卵母細胞の成熟の過程を示す。卵母細胞はそれぞれ4ウェルプレートで分離した。
【0147】
(表2)活性化卵母細胞の培養*
*細胞は、1日目はM1(商標)培地(MediCult)中で、2〜5日目はM2(商標)培地(MediCult)中で培養した。培地は毎日交換した。M1(商標)およびM2(商標)は、ヒト血清アルブミン、グルコースおよび派生代謝産物、生理的塩類、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン類、ヌクレオチド、炭酸水素ナトリウム、ストレプトマイシン(40 mg/l)、ペニシリン(40,000 IU/l)、ならびにフェノールレッドを含んでいた。
【0148】
N4から内部細胞塊を単離し、上記に概説した通りにヒト線維芽細胞フィーダー細胞に移した。N1およびN2は6日目に変性した。さらに、6日目に、N3はICM 2ABの十分に拡張した胚盤胞を生じた。そこで、6日目にN3をヒト線維芽細胞フィーダー細胞に移した。N4由来のICMは変化しなかった。N3を用いて幹細胞を単離した。
【0149】
ICM細胞を、5% CO2および95% N2を含む気体環境においてVitroHES(商標)中で培養し、45日間にわたり追跡した。表2aは、N3 ICM細胞培養の過程を示す。
【0150】
(表2a)N3-ICM培養の過程*
*細胞は、M2(商標)培地(MediCult)で培養した。
**これらの継代は、プロナーゼ消化により行った。
【0151】
幹細胞の単離
ドナー5名による卵母細胞から、MediCult培地の使用およびその後の低減酸素下での培養により、培養の5および6日目に胚盤胞23個が生成された。この胚盤胞のうち11個は、目に見えるICMを有していた(表3)。
【0152】
(表3)単為生殖体および単為生殖胚性幹細胞株の作製
1-卵母細胞2個は活性化されなかった;2-卵母細胞1個は活性化後に変性した;3-卵母細胞1個は活性化されなかった;4-卵母細胞2個は中期Iにあったため廃棄した。
【0153】
これらの結果から、単為生殖的活性化卵母細胞からの胚盤法の形成は約57.5%の成功率であることが示される。
【0154】
免疫組織化学染色
免疫染色のため、フィーダー層上のhES細胞コロニーおよびphESC細胞をマイクロカバーガラス上に播種し、PBSで2回洗浄し、100%メタノールで-20℃にて5分間固定した。細胞をPBS+0.05% Tween-20で2回洗浄し、PBS+0.1% Triton X-100で室温にて10分間透過処理した。細胞を洗浄した後、ブロッキング溶液(PBS+0.05% Tween-20+4パーセントヤギ血清+3パーセントヒト臍帯血血清)を用いて室温(RT)で30分間インキュベートすることにより、非特異的結合をブロッキングした。モノクローナル抗体をブロッキング溶液で希釈し、RTで1時間使用した:ChemiconによるSSEA-1(MAB4301)(1:30)、SSEA-3(MAB4303)(1:10)、SSEA-4(MAB4304)(1:50)、OCT-4(MAB4305)(1:30)、TRA-1-60(MAB4360)(1:50)、およびTRA-1-81(MAB4381)(1:50)。細胞を洗浄した後、二次抗体Alexa Fluor 546(オレンジ色蛍光)および488(緑色蛍光)(Molecular Probes、Invitrogen)をPBS+0.05% Tween-20で1:1000希釈し、RTで1時間適用した。細胞を洗浄し、核をPBS+0.05% Tween-20中のDAPI(Sigma) 0.1μg/mlでRTにて10分間染色した。細胞を洗浄し、Mowiol(Calbiochem)でスライド上に封入した。蛍光顕微鏡により蛍光像を可視化した。
【0155】
3週齢の胚様体におけるまたは収縮性胚様体における中胚葉マーカーの検出には、筋特異的マーカーとしてのモノクローナルマウス抗デスミン抗体、抗ヒトαアクチニン抗体(Chemicon)、および内皮マーカーとしての抗ヒトCD31/PECAM-1抗体(R&D Systems)、抗ヒトVEカドヘリン(DC144)抗体(R&D Systems)を使用した。
【0156】
胚様体における内胚葉マーカーの検出には、モノクローナルマウス抗ヒトα-フェトプロテイン抗体(R&D Systems)を使用した。
【0157】
アルカリホスファターゼおよびテロメラーゼ活性
アルカリホスファターゼおよびテロメラーゼ活性は、APキットおよびTRAPEZE(商標)キット(Chemicon)を用いて製造業者の仕様書に従って行った。
【0158】
核型分析
核型を分析するため、hES細胞を10μg/mlデメコルチン(Sigma)で2時間処理し、0.05%トリプシン/EDTA(Invitrogen)で回収し、700 x rpmで3分間遠心分離した。ペレットを0.56% KCl 5 mlで再懸濁し、RTで15分間インキュベートした。遠心分離を繰り返した後、上清を除去し、細胞を再懸濁して、メタノール/酢酸(3:1)の氷冷混合物 5 mlで+4℃にて5分間固定した。細胞の固定を2回繰り返した後、細胞懸濁液を顕微鏡スライド上に乗せ、標本をギムザ改良染色液(Sigma)で染色した。この様式で調製した細胞による中期のものを、標準的なGバンド法で分析した。5/1000という数の中期展開物が明らかとなり、中期のもの63個を分析した。
【0159】
胚様体の形成
hESおよびphESC細胞コロニーを機械的に凝集塊に分割し、85%ノックアウトDMEM、15%ヒト臍帯血血清、1 x MEM NEAA、1 mM Glutamax、0.055 mM β-メルカプトエタノール、ペニシリン・ストレプトマイシン(50 U/50 mg)、4 ng/ml hrbFGF(血清以外すべてInvitrogen)を含む培地中、1.5%アガロース(Sigma)で予め被覆した24ウェルプレートのウェルに入れた。ヒトEBを懸濁培養で14日間培養し、培養皿に入れて成長させるか、または懸濁状態でさらに1週間培養した。
【0160】
培養皿表面に接着した2週齢胚様体を、分化培地:DMEM/F12、B27、2 mM Glutamax、ペニシリン・ストレプトマイシン(100 U/100μg)、および20 ng/ml hrbFGF(すべてInvitrogen)中で1週間にわたって培養することにより、神経分化を誘導した。いくつかの胚様体は神経形態を有する分化細胞を生じ、他の胚様体は解離し、ニューロスフェアを生成するようさらに培養した。
【0161】
胚様体の形成に使用したのと同じ培地で接着表面上にプレーティングしてから5日後に、律動的に拍動する胚様体が自発的に現れた。
【0162】
HLAタイピング
ドナー血液、hES、phESC細胞、およびヒト新生児皮膚線維芽細胞(NSF)から、Dynal製Dynabeads DNA Direct Blood(Invitrogen)を用いてゲノムDNAを抽出した。HLAタイピングは、製造業者の仕様書に従って、対立遺伝子特異的配列プライマー(PCR-SSP、Protrans)を用いてPCRにより行った。HLAクラスI遺伝子(HLA A*、B*、Cw*)は、A*01-A*80、B*07-B*83、Cw*01-Cw*18領域を規定するPROTRANS HLA A* B* Cw*を用いてタイピングした。HLAクラスII遺伝子(HLA DRB1*、DRB3*、DRB4*、DRB5*、DQA1*、DQB1*)は、DRB1*01-DRB1*16(DR1-DR18)、DRB3*、DRB4*、DRB5*領域を規定するPROTRANS HLA DRB1*、およびDQB1*02-DQB1*06(DQ2-DQ9)、DQA1*0101-DQA1*0601領域を規定するPROTRANS HLA DQB1* DQA1*を用いて解析した。PCR増幅は:94℃で2分;94℃で10秒、65℃で1分の10サイクル;94℃で10秒、61℃で50秒、72℃で30秒の20サイクルで達成した。増幅産物は2%アガロースゲルで検出した。
【0163】
Affimetrix SNPマイクロアレイ解析
血液、卵丘細胞、phESC、およびNSFから、フェノール/クロロホルム抽出法によりゲノムDNAを単離した。Affimetrix Mapping 50K Hind 240 Array(Affimetrix GeneChip Mapping 100Kキットの一部)を用いて、白人対象4名から得られたこれらのDNA試料の遺伝子型を同定した。データセットは当初、57,244個の2成分性SNPマーカーを含んでいた。このマーカー数は、ゲノム試料の等価性を同定するためおよびヘテロ接合性を試験するために必要な数よりも多いため、常染色体22本のうち15本(第1〜15染色体)を選択した。無作為抽出中に所与の染色体に関してマーカーが選択されない、または単一のマーカーしか選択されないという可能性を減らすため、短い7本の染色体は除いた。マーカー1,459個を、Relcheck(バージョン0.67、著作権(著作権) 2000 Karl W. Broman、Johns Hopkins University、GNU一般公有使用許諾バージョン2(1991年6月)の下で許可される)によって解析した。
【0164】
ゲノム刷り込み解析
Li et al. (J Biol Chem (2002) 277(16):13518-13527)の記載する通りに、全核酸を調製した。Tri試薬(Sigma)を用いて、またはQiagen(カリフォルニア州、バレンシア)によるRNA調製キットを用いて、細胞からRNAおよびDNAを抽出した。
【0165】
種々の試料(図3を参照)に由来するRNAを含むノーザンブロットを、標準的な方法によりフィルター上にブロットした(例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 1989, 2nd ed, Cold Spring Harbor Pressを参照されたい)。ノーザンフィルターを、mRNAに特異的にハイブリダイズする単一の標準的なオリゴヌクレオチドプローブとハイブリダイズさせた。オリゴヌクレオチドプローブは、[γ32P]ATP(Amersham Biosciences)で末端標識した。その後フィルターを、0.1% SDSを含む0.2 X SSC(1 X SSC=0.15 M NaClおよび0.015 Mクエン酸ナトリウム)で、60℃にてそれぞれ10分間で3回洗浄し、PhosphorImager(Molecular Dynamics)により解析した。オリゴヌクレオチドプローブの配列は、以下のアクセッション番号に基づく配列から入手した:NP002393(Peg1_2およびPeg1_A;これらの遺伝子に関しては、ヒトPEG1が2つの別のプロモーターから転写されて、2つのアイソフォームの転写産物をもたらし、そのうちの一方(アイソフォーム1_2)のみが刷り込まれる。父性発現アイソフォーム1は、父性対立遺伝子のエキソン1中の非メチル化CpGアイランドと協同して起こり、一方、母性遺伝子(アイソフォーム1_A)中の対応するCpGアイランドは十分にメチル化されている。例えば、Li et al. (2002)、前記を参照されたい);CAG29346(SNRPN);AF087017(H19);NR_001564(不活性X特異的転写産物-XIST);およびP04406(GAPDH)。
【0166】
DNAフィンガープリント解析
血液、hES細胞、およびNSFから、フェノール/クロロホルム抽出によりゲノムDNAを単離し、HinfI制限酵素(Fermentas)で消化し、0.8%アガロースゲルに負荷した。電気泳動した後、変性DNAをサザンブロッティングによりナイロン膜(Hybond N、Amersham)に転写し、32P標識(CAC)5オリゴヌクレオチドプローブとハイブリダイズさせた。Cronex増感スクリーンを用いてX線フィルム(Kodak XAR)上に膜を曝露した後、データを解析した。
【0167】
単一遺伝子座PCR遺伝子型同定
血液ドナーDNAと幹細胞DNAとの間でミニサテライト遺伝子座に関して対立遺伝子同一性を決定するため、11の多型部位((1) 3'アポリポタンパク質B超可変ミニサテライト遺伝子座(3'ApoB);(2) D1S80(PMCT118)超可変ミニサテライト遺伝子座(D1S80);(3) D6S366;(4) D16S359;(5) D7S820;(6) ヒトフォンウィルブランド因子遺伝子超可変ミニサテライト遺伝子座II(vWFII);(7) D13S317;(8) ヒトフォンウィルブランド因子遺伝子超可変ミニサテライト遺伝子座(vWA);(9) CFS-1受容体遺伝子のヒトc-fms癌原遺伝子マイクロサテライト遺伝子座(CSF1PO);(10) ヒト甲状腺ペルオキシダーゼ遺伝子マイクロサテライト遺伝子座(TPOX);および(11) ヒトチロシン水酸化酵素遺伝子マイクロサテライト遺伝子座(TH01))を、PCR遺伝子型同定により解析した。上記の多型部位に関して決定された公知の集団(すなわち、ロシア人および白人-アメリカ人集団)の対立遺伝子頻度を、試験試料(すなわち、hES、NSF、およびドナー血液DNA)におけるこれらの部位の対立遺伝子頻度と比較した。染色体位置、Genbank遺伝子座および遺伝子座定義、反復配列データ、対立遺伝子ラダー範囲、VNTRラダーサイズ範囲、他の公知の対立遺伝子、対立遺伝子サイズ、PCR手順、および解析された開示集団の11のミニサテライト遺伝子座に関する対立遺伝子頻度結果を以下に提供する。
【0168】
(1) 3'アポリポタンパク質B超可変ミニサテライト遺伝子座(3'ApoB VNTR)
染色体位置:2p23-p23
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:APOB、アポリポタンパク質B(Ag(x)抗原を含む)非翻訳領域
反復配列5'-3':
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):450+10+2プライマー+連結
VNTRラダーサイズ範囲(反復数、Ludwig et al, 1989による):30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52
他の公知の対立遺伝子(反復数):25、27、28、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、54、55
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):36/36
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、1分
伸長およびプライマー連結 60℃、2分
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0169】
解析は、Verbenko et al. (Apolipoprotein B 3'-VNTR polymorphism in Eastern European populations. Eur J Hum Gen (2003) 11(1):444-451)に記載されている通りに行い得る。表4を参照されたい。
【0170】
(表4)ロシア人集団の対立遺伝子頻度
【0171】
(2) D1S80(pMCT118)超可変ミニサテライト遺伝子座(D1S80 VNTR)
染色体位置:1p35-36
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:ヒトD1S80およびMCT118遺伝子
反復配列5'-3':
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):387-762
VNTRラダーサイズ範囲(反復数):16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、34、35、36、37、40、41
他の公知の対立遺伝子(反復数):13、14、15、38、39、>41
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):18/29
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、45秒
プライマー連結 60℃、30秒
伸長 72℃、45秒
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0172】
解析は、Verbenko et al. (Allele frequencies for D1S80 (pMCT118) locus in some Eastern European populations. J Forensic Sci (2003) 48(l):207-208)に記載されている通りに行い得る。表5を参照されたい。
【0173】
(表5)ロシア人集団の対立遺伝子頻度
【0174】
(3) D6S366
染色体位置:6q21-qter
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:該当なし
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):150-162
STRラダーサイズ範囲(反復数):12、13、15
他の公知の対立遺伝子(反復数):10、11、14、16、17
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):13/14
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、1分
伸長およびプライマー連結 60℃、2分
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0175】
解析は、Efremov et al. (An expert evaluation of molecular genetic individualizing systems based on the HUMvWFII and D6S366 tetranucleotide tandem repeats. Sud Med Ekspert (1998) 41(2):33-36)に記載されている通りに行い得る。表6を参照されたい。
【0176】
(表6)ロシア人集団の対立遺伝子頻度
【0177】
(4) D16S539
染色体位置:16q24-qter
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:該当なし
反復配列5'-3':(AGAT)n
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):264-304
STRラダーサイズ範囲(反復数):5、8、9、10、11、12、13、14、15
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):11/12
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、45秒
プライマー連結 64℃、30秒
伸長 72℃、30秒
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0178】
解析は、GenePrint(登録商標) STRシステム(銀染色検出)技術マニュアル番号D004、Promega Corporation、米国、ウィスコンシン州、マディソン:1993-2001に記載されている通りに行った。表7を参照されたい。
【0179】
(表7)白人-アメリカ人の対立遺伝子頻度
【0180】
(5) D7S820
染色体位置:7q11.21-22
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:該当なし
反復配列5'-3':(AGAT)n
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):215-247
VNTRラダーサイズ範囲(反復数):6、7、8、9、10、11、12、13、14
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):9/11
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、45秒
プライマー連結 64℃、30秒
伸長 72℃、30秒
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0181】
解析は、GenePrint(登録商標) STRシステム(銀染色検出)技術マニュアル番号D004、Promega Corporation、米国、ウィスコンシン州、マディソン:1993-2001に記載されている通りに行った。表8を参照されたい。
【0182】
(表8)異なる集団におけるD7S820の対立遺伝子頻度
【0183】
(6) ヒトフォンウィルブランド因子遺伝子超可変ミニサテライト遺伝子座II(vWFII)
染色体位置:12p13.3-12p13.2
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:HUMvWFII、ヒトフォンウィルブランド因子遺伝子
反復配列5'-3':(ATCT)n/(AGAT)n
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):154-178
STRラダーサイズ範囲(反復数):9、11、12、13
他の公知の対立遺伝子(反復数):8、10、14、15
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):13/13
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、1分
伸長およびプライマー連結 60℃、2分
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0184】
解析は、Efremov et al. (An expert evaluation of molecular genetic individualizing systems based on the HUMvWFII and D6S366 tetranucleotide tandem repeats. Sud Med Ekspert (1998) 41(2):33-36)に記載されている通りに行い得る。表9を参照されたい。
【0185】
(表9)ロシア人集団の対立遺伝子頻度
【0186】
(7) D13S317
染色体位置:13q22-q31
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:該当なし
反復配列5'-3':(AGAT)n
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):165-197
STRラダーサイズ範囲(反復数):8、9、10、11、12、13、14、15
他の公知の対立遺伝子(反復数):7
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):8/8
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、45秒
プライマー連結 64℃、30秒
伸長 72℃、30秒
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0187】
解析は、GenePrint(登録商標) STRシステム(銀染色検出)技術マニュアル番号D004、Promega Corporation、米国、ウィスコンシン州、マディソン:1993-2001に記載されている通りに行った。表10を参照されたい。
【0188】
(表10)異なる集団におけるD13S317の対立遺伝子頻度
【0189】
(8) ヒトフォンウィルブランド因子遺伝子超可変ミニサテライト遺伝子座(vWA)
染色体位置:12p12pter
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:HUMVWFA31、ヒトフォンウィルブランド因子遺伝子
反復配列5'-3':(AGAT)n
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):139-167
STRラダーサイズ範囲(反復数):14、16、17、18
他の公知の対立遺伝子(反復数):11、12、13、15、19、20、21
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):16/16
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、1分
伸長およびプライマー連結 60℃、2分
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0190】
解析は、GenePrint(登録商標) STRシステム(銀染色検出)技術マニュアル番号D004、Promega Corporation、米国、ウィスコンシン州、マディソン:1993-2001に記載されている通りに行った。表11を参照されたい。
【0191】
(表11)異なる集団におけるHUMVWFA31の対立遺伝子頻度
【0192】
(9) CSF-1受容体遺伝子のヒトc-fms癌原遺伝子マイクロサテライト遺伝子座(CSF1PO)
染色体位置:5q33.3-34
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:HUMCSF1PO、ヒトc-fms癌原遺伝子
反復配列5'-3':(AGAT)n
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):295-327
STRラダーサイズ範囲(反復数):7、8、9、10、11、12、13、14、15
他の公知の対立遺伝子(反復数):6
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):9/10
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、45秒
プライマー連結 64℃、30秒
伸長 72℃ 30秒
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0193】
解析は、GenePrint(登録商標) STRシステム(銀染色検出)技術マニュアル番号D004、Promega Corporation、米国、ウィスコンシン州、マディソン:1993-2001に記載されている通りに行った。表12を参照されたい。
【0194】
(表12)白人-アメリカ人の対立遺伝子頻度
【0195】
(10) ヒト甲状腺ペルオキシダーゼ遺伝子マイクロサテライト遺伝子座(TPOX)
染色体位置:2p25.1-pter
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:HUMTPOX、ヒト甲状腺ペルオキシダーゼ遺伝子
反復配列5'-3':(AATG)n
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):224-252
STRラダーサイズ範囲(反復数):6、7、8、9、10、11、12、13
他の公知の対立遺伝子(反復数):なし
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):8/9
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、45秒
プライマー連結 64℃、30秒
伸長 72℃ 30秒
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0196】
解析は、GenePrint(登録商標) STRシステム(銀染色検出)技術マニュアル番号D004、Promega Corporation、米国、ウィスコンシン州、マディソン:1993-2001に記載されている通りに行った。表13を参照されたい。
【0197】
(表13)白人-アメリカ人の対立遺伝子頻度
【0198】
(11) ヒトチロシン水酸化酵素遺伝子マイクロサテライト遺伝子座(TH01)
染色体位置:5q33.3-34
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:HUMTHO1、ヒトチロシン水酸化酵素遺伝子
反復配列5'-3':(AATG)n
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):179-203
STRラダーサイズ範囲(反復数):5、6、7、8、9、10、11
他の公知の対立遺伝子(反復数):9.3
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):9.3/9.3
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、45秒
プライマー連結 64℃、30秒
伸長 72℃ 30秒
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0199】
解析は、GenePrint(登録商標) STRシステム(銀染色検出)技術マニュアル番号D004、Promega Corporation、米国、ウィスコンシン州、マディソン:1993-2001に記載されている通りに行った。表14を参照されたい。
【0200】
(表14)白人-アメリカ人の対立遺伝子頻度
【0201】
結果
本方法によるhES細胞は、胚性幹細胞に典型的な多くの特徴:細胞質脂肪体、低い細胞質/核比、および明白に識別可能な核小体を示す。hES細胞コロニーは、インビトロ受精後に導出されたヒト胚性幹細胞に関して以前に報告された形態と類似の形態を示す。細胞は、アルカリホスファターゼ(図1A)、オクタマー結合転写因子4 mRNA(Oct-4)(図1B)、時期特異的胚抗原1(SSEA-1)(図1C)、時期特異的胚抗原3(SSEA-3)(図1D)、時期特異的胚抗原4(SSEA-4)(図1E)、腫瘍拒絶抗原1-60(TRA-1-60)(図1F)、腫瘍拒絶抗原1-81(TRA-1-81)(図1G)に関して免疫反応陽性であり、時期特異的胚抗原1(SSEA-1)(図1C)(マウス胚性幹細胞では陽性であるが、ヒトでは陽性ではない)に関して陰性であった。テロメラーゼ活性は複製不死性と相関する場合が多く、典型的に生殖細胞、癌細胞、および幹細胞を含む種々の幹細胞で発現し、大部分の体細胞型には存在しない。3カ月のインビトロ増殖後に本方法によって調製した細胞は、その未分化形態を維持し、高レベルのテロメラーゼ活性を示した(図2A)。細胞の多能性は胚様体の形成によりインビトロで調べ(図2B、2C)、Gバンド核型分析から、細胞が正常なヒト46XX核型を有することが示される(図2D)。
【0202】
卵母細胞ドナーの血液、ES細胞、およびHNSFフィーダー細胞において、サザンブロッティングおよび32P標識(CAC)sオリゴヌクレオチドプローブを用いたハイブリダイゼーション(図2E)、ならびに異なる遺伝子座での単一遺伝子座ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によりDNAフィンガープリント解析を行った。
【0203】
単一遺伝子座PCRでは、遺伝子型同定から、血液(ドナー) DNAとOL1 DNAとの間で、(D7S820 1つを除く)すべての遺伝子座について対立遺伝子が同一であることが明らかになった。表15を参照されたい。
【0204】
(表15)単一遺伝子座PCR遺伝子型同定
【0205】
すべてのヘテロ接合性ドナー遺伝子座(D7S820 1つを除く)のヘテロ接合性(ヘテロ接合)は、hES遺伝子座において変化していなかった。hES DNAにおけるD7S820のホモ接合性(ホモ接合)は、DNA複製およびDNA修復中の見落とし鎖誤対合による変異(マイクロサテライト反復中への1つのAGATモノマーの挿入)の結果である。
【0206】
これらの結果は、多遺伝子座DNAフィンガープリントで得られた結果(ドナーDNAおよびhES DNAに関して実質的に同一のフィンガープリントパターンが認められた)と一致する。
【0207】
図2Eから、hES細胞のヘテロ接合性、および卵母細胞ドナーの血液とのその同一性、ならびにhES細胞とフィーダー細胞との間に類似性が存在しないことが実証される。hES細胞株のDNAプロファイルを、MHCクラスIおよびクラスII内の多型遺伝子を用いるPCRに基づくハプロタイプ解析によって確認した。卵母細胞ドナー血液細胞、hES細胞、およびフィーダーHNSFによる全ゲノムDNAを遺伝子型同定し、比較した。データから、hES細胞とドナー血液の細胞が相互に識別不能であり、したがって自己のものと見なされ、いずれもフィーダー細胞のDNAと区別されるはずであることが実証された(表16)。
【0208】
(表16)HLAタイピング
【0209】
DNAフィンガープリントおよびHLAタイピング解析から、hES細胞がヘテロ接合性であり、ドナーの遺伝物質全体を含むことが確認された。これらの結果は、単為生殖サル幹細胞株によるデータと一致するが(Vrana et al., Proc Natl Acad Sci USA (2003) 100(Suppl 1):11911-11916)、単為生殖マウス幹細胞株によるデータとは一致せず(Lin et al., Stem Cells (2003) 21:153-161)、この幹細胞はドナー遺伝物質の半分を含む。
【0210】
phESC株は、hES細胞で予測される形態、細胞が密に詰まったコロニーの形成、顕著な核小体、および低い細胞質対核比示す(図4)。これらの細胞は、従来のhESマーカー、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81、およびOCT-4を発現し、未分化マウス胚性幹細胞の陽性マーカーであるSSEA-1を発現しない(図4)。いずれの株に由来する細胞も、高レベルのアルカリホスファターゼおよびテロメラーゼ活性を示す(図5および図6)。Gバンド核型分析から、phESC-7株を例外として、phESC株が正常なヒト46,XX核型を有することが示された(図7)。phESC-7株の細胞の約91%が47,XXX核型を有し、9%の細胞が48,XXX,+6核型を有する。株において異なる程度のX染色体異形が認められた;phESC-1およびphESC-6株の約12%;phESC-5株の42%;ならびに細胞株phESC7、phESC-3、およびphESC-4のそれぞれ70、80、および86%(図7)。
【0211】
全phESC株、ドナー体細胞、およびフィーダー細胞において、比較DNAプロファイリングを行った。これらの試験では、染色体変化を調べるため、およびドナーの体細胞とのphESCの遺伝的類似性を確認するために、Affimetrix SNPマイクロアレイ(Mapping 50K Hind 240 Array)を使用した。phESC株とその関連ドナー体細胞との対をなす遺伝子型関係はすべて「完全同胞」であると同定され、他の組み合わせの対はすべて「非関連」であると同定された。内部対照により、同じphESC株に由来する分割培養物間の対をなす遺伝子型関係は、「一卵性双生児」であると同定された(表17、データベースS1)。
【0212】
(表17)データベースS1
phESCおよび関連ドナー由来のDNA試料を同定するデータベースS1
DNA試料は以下のように番号付けした:1-ヒト新生児皮膚線維芽細胞;2-phESC-7株ドナー;3-phESC-7株;4-phESC-1株;5-phESC-1株;6-phESC-3株;7-phESC-4株;8-phESC-5株;9-phESC-6株;10-phESC-6株ドナー;11-phESC-3〜phESC-5株ドナー;および12-phESC-1株ドナー。
結果から、1対(試料4-5)のみが一卵性(MZ)双生児であると同定されたことが示される。他の10対(試料2-3、4-12、5-12、6-7、6-11、7-8、7-11、8-11、9-10)は完全同胞であると同定され、他の組み合わせの対はすべて非関連であると同定された。出力中のIBS欄は、対が同定され、0、1、または2対立遺伝子状態同一を共有するマーカーの数を示す(遺伝子型同定に誤差のない理想的な条件下におけるMZ双生児では、すべてのマーカーがIBS=2に位置しなくてはならない)。出力はP(観察されたマーカー|所与の関係)を直接示していないが、類似性の尺度として、LODスコア‐log10{P(観察されたマーカー|推定される関係/P(観察されるマーカー/最大尤度が得られ、よってコールが作成された関係)}を示す。LODスコアが小さいほど、2つの試料間の推定される関係の可能性が低いことを示す。
【0213】
SNPマーカー1,459個の比較解析からphESCヘテロ接合性が明らかとなり、関連のドナー体細胞遺伝子型と比較して、phESC細胞遺伝子型に変化が起こったことが示された。以前にヘテロ接合性であった体細胞ゲノムのいくつかの部分は、関連のphESC細胞株ゲノムにおいてホモ接合性になっていた。このヘテロ接合性からホモ接合性へのパターンは、phESC-1、PhESC-3、phESC-4、phESC-5、およびphESC-6株の11〜15%で起こり、phESC7株では19%であった(データベースS2)。さらに、同じ卵母細胞ドナーに由来したphESCとphESC5-株の間で、遺伝子の相違が認められた(表18、データベースS2)。
【0214】
(表18)データベースS2
データベースS2 phESC(「pC」と略す)株のヘテロ接合性
結果から、導出されたphESC株のヘテロ接合性が示され、関連ドナー遺伝子型との比較により遺伝子型の変化が示される。ドナーゲノムのヘテロ接合性部分の一部は、phESCにおいてホモ接合性になっていた。染色体-染色体番号;RS ID-dbSNPデータベースにおけるRS番号;塩基対-Affimetrix GeneChipにより記録されている塩基対距離;白人における頻度A-白人集団におけるA対立遺伝子の頻度。
【0215】
以前の研究では、マウス卵母細胞の単為生殖的活性化によってホモ接合性胚性幹細胞株が生じた(Lin et al., Stem Cells (2003) 21:152)。ヒト卵母細胞では、卵母細胞の単為生殖的活性化後の第2減数分裂の抑制および二倍体胚の生成により、完全にホモ接合性のhES細胞は導出されない。
【0216】
HLAタイピングの結果に基づくと、いずれのphESC株に由来する分化細胞も卵母細胞ドナーと完全に組織適合性であるはずであり、よってこれは治療用途の細胞を作製するための方法となる(表19)。
【0217】
(表19)phESC細胞株のHLAタイピング
【0218】
フィーダー細胞として使用したヒト線維芽細胞に由来する遺伝物質のDNAプロファイリングから、phESC細胞株へのヒト線維芽細胞由来物質の混入がないことが明らかとなった(表19)。
【0219】
phESC-1株は、35継代に及ぶ10カ月の培養中、未分化のままであった。他の細胞株も、少なくとも21継代にわたり培養に成功した。いずれのphESC株に由来する細胞も懸濁培養で胞状胚様体を形成し、インビトロでの分化後に全3つの胚葉:外胚葉、中胚葉、および内胚葉の派生物を生じた(図4)。phESC-1株による胚様体の約5%が、プレーティングして5日後に拍動する細胞を生じた。phESC-6株は、色素上皮様細胞を生成した(図4I、K)。外胚葉分化は、神経特異的マーカー神経フィラメント68(図4A)、NCAM(図4B)、βIII-チューブリン(図4C)、およびグリア細胞マーカーGFAP(図4D、M)の陽性免疫細胞化学染色により示される。分化細胞は、筋特異的マーカーであるα-アクチニン(図4G)およびデスミン(図4J)、ならびに内皮マーカーPECAM-1(図4E)およびVE-カドヘリン(図4F)を含む中胚葉マーカーに関して陽性であった。内胚葉分化は、α-フェトプロテインに関する分化派生物の陽性染色によって示される。これらのデータから、phESCが、ヒト人体のすべての細胞型をもたらす3つの胚葉に分化し得ること実証される。
【0220】
phESC-7の核型変化は、これを臨床的使用から排除する理由となり得る。ヒト胚におけるゲノム刷り込みの変化は、母性または父性発現遺伝子に関連した疾患の発症に寄与し得る(Gabriel et al., Proc Natl Acad Sci USA (1998) 95:14857)。phESC株の他の特徴を調べるため、および細胞療法における使用の適合性を決定するために、刷り込み解析を行った。
【0221】
ノーザンブロットを作製し、上記に概説したようにDNAプローブSNRPN、Peg1_2、Peg1_A、H19、およびGAPDH(内部対照として)でスクリーニングした。ブロットした核酸は、NSF、新生児皮膚線維芽細胞;hES、受精卵母細胞に由来するヒト胚性幹細胞株;1、phESC-1;2、phESC-3、3、phESC-4、4、phESC-5;5、phESC-6;6 phESC-7から得た。NSF RT-、hES RT-、1 RT-は陰性対照である。図3に刷り込みブロットの結果を示す。
【0222】
母性刷り込み遺伝子Peg1_Aは、試験した細胞株のすべてにおいて強い結合を示す。より弱い(Peg1_Aと比較して)が一貫した結合が、すべての細胞株において母性刷り込み遺伝子H19に関して認められた。SNRPNは、主にNSF、hES、phESC-4、およびphESC-6において結合を示す。Peg1_2は、主にNSF、hES、phESC-1(より弱いシグナル)、phESC-3、phESC-5、およびphESC-6において結合を示す。GAPDH結合により、すべての株においてRNAが同様に負荷されたことが確認された。
【0223】
本発明を上記の実施例を参照して説明したが、修正および変更が本発明の精神および範囲の範囲内に包含されることが理解されよう。したがって、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限される。
【0224】
参考文献
【図面の簡単な説明】
【0225】
【図1A】単為生殖的に導出されたhES細胞に関するアルカリホスファターゼの表面マーカー発現の顕微鏡写真を示す。
【図1B】表面マーカーOct4の発現の顕微鏡写真を示す。
【図1C】表面マーカーSSEA-1の発現の顕微鏡写真を示す。
【図1D】表面マーカーSSEA-3の発現の顕微鏡写真を示す。
【図1E】表面マーカーSSEA-4の発現の顕微鏡写真を示す。
【図1F】表面マーカーTRA-1-60の発現の顕微鏡写真を示す。
【図1G】表面マーカーTRA-1-81の発現の顕微鏡写真を示す。
【図2A】単為生殖的に導出されたhES細胞に関するテロメラーゼ活性の解析を示す。500、1000、および10000(単位)の抽出物を用いて解析を行った。ΔH-熱処理試験抽出物(陰性対照);陽性対照-テロメラーゼ陽性細胞;CHAPS-溶解緩衝液;TSR8-対照鋳型。
【図2B】単為生殖的に導出されたhES細胞からの胚様体形成、9日培養の顕微鏡写真を示す。
【図2C】単為生殖的に導出されたhES細胞からの胚様体形成、10日培養の顕微鏡写真を示す。
【図2D】単為生殖的に導出されたhES細胞の核型を示す。
【図2E】単為生殖的に導出されたhES細胞のDNAフィンガープリント解析の結果を示す。1-卵母細胞ドナーの血液のDNA;2-同じドナーに由来する単為生殖hES細胞のDNA;3-ヒトフィーダー線維芽細胞のDNA。
【図3】ゲノム刷り込みに関連する遺伝子の発現を特徴づけるノーザンブロットを示す。DNAプローブ:SNRPN、Peg1_2、Peg1_A、H19、およびGAPDH(内部対照として)。NSF、新生児皮膚線維芽細胞;hES、受精卵母細胞に由来するヒト胚性幹細胞株;1、phESC-1;2、phESC-3、3、phESC-4、4、phESC-5;5、phESC-6;6 phESC-7。NSF RT-、hES RT-、1 RT-は陰性対照である。
【図4】phESCの全3つの胚葉の派生物への分化を示す。外胚葉分化は、神経特異的マーカー68(A)、NCAM(B)、βIII-チューブリン(C)、およびグリア細胞マーカーGFAP(D、M)の陽性免疫細胞化学染色により示される。分化細胞は、中胚葉マーカー:筋特異的α-アクチニン(G)およびデスミン(J)、内皮マーカーPECAM-1(E)およびVE-カドヘリン(F)に関して陽性であった。内胚葉分化は、α-フェトプロテイン(H、L)の陽性染色によって示される。phESCは色素上皮様細胞を生成した(I、K)。倍率(I) x 100;(A〜H、J〜M)、x 400。
【図5】特異的マーカーに関するphESC株の特徴づけを示す。ヒトフィーダー層細胞上のphESCの未分化コロニー(A〜F)、SSEA-1に関する陰性染色(G〜L)、細胞表面マーカーSSEA-3(M〜R)、SSEA-4(S〜X)の発現。倍率(A)〜(E) x 100;(F) x 200;(G)〜(X) x 400。フィーダー細胞上のphESCコロニーのアルカリホスファターゼ陽性染色(A〜F)、OCT-4(G〜L)、TRA-1-60(K〜R)、およびTRA-1-81(S〜X)。倍率(A、B、O、R) x 100;(C〜F,M,S,X) x 200;(G〜L、N、P、Q、T〜W) x 400。
【図6】phESC細胞が陽性対照細胞と比較して高レベルのテロメラーゼ活性を有することを示す;「+」-細胞500個からの抽出物;「−」-不活化テロメラーゼを有する熱処理細胞抽出物;「対照+」-テロメラーゼ陽性細胞抽出物(TRAPEZEキットに同梱されている);「B」-CHAPS溶解緩衝液、プライマー-ダイマー/PCR混入対照;TSR8-テロメラーゼ定量対照鋳型(0.1および0.2アトモル/μl);「M」-マーカー、DNAラダー。
【図7】phESC株のGバンド核型を示す。phESC1 (A)、phESC-3 (B)、phESC-4 (C)、phESC-5 (D)、およびphESC-6 (E)株は正常な46、XX核型を有する。phESC-7株は47、XXX核型を有する(F)。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、概して胚性幹細胞、より具体的には単為生殖的活性化卵母細胞を用いてヒト胚性幹細胞を得る過程に関する。
【背景技術】
【0002】
背景情報
ヒト胚性幹細胞(ES)細胞は、多様な細胞型に分化し得る多能性細胞である。胚性幹細胞は、免疫不全マウスに注射した場合に分化型腫瘍(奇形腫)を形成する。しかし、胚様体(EB)を形成するようにインビトロで誘導される胚性幹細胞は、特定の増殖条件下でいくつかの組織に特有である複数の細胞型に分化する可能性がある胚性幹細胞株の供給源を提供する。例えば、ES細胞は、神経成長因子およびレチノイン酸の存在下でニューロンに分化する。
【0003】
ヒトES細胞およびその分化した子孫は、治療的移植ならびに薬物の試験および開発のための正常ヒト細胞の重要な供給源である。これらの目的に必要なのは、患者の必要性または適切な薬理学的試験に適した組織型に分化する十分な細胞の供給である。これに付随して、胚性幹細胞から分化細胞を生成する効率的かつ信頼性のある方法が必要である。
【0004】
現在、ヒト胚性幹細胞(hES)は3つの供給源:不妊症治療後に残ったおよび研究用に提供された胚盤胞、提供された配偶子(卵母細胞および精子)から作製された胚盤胞、ならびに核移植(NT)の産物に由来する。死体胎児組織は、ヒト胚性生殖細胞(hEG)の唯一の供給源である。hESおよびhEG細胞は、より特殊化した細胞または組織を作製する可能性に関わる顕著な科学的および治療的可能性を提供する。しかし、hESおよびhEG細胞の供給源に関する倫理的問題、ならびに研究にNTを使用することがヒトを作製するためにNTを使用することにつながり得るという懸念が、多くの国民の議論および討論を呼び起こしている。
【0005】
哺乳動物卵母細胞の単為生殖的活性化は、胚性幹細胞作製用に卵母細胞を調製するための精子/NTによる受精の代替法として用いられ得る。単為生殖的活性化とは、雄性配偶子からの寄与なしに雌性配偶子から、成体への最終的発達を伴ってまたは伴わずに胚細胞が生成されることである。
【0006】
哺乳動物卵母細胞の単為生殖的活性化は、いくつかの方法で誘導されている。活性化を誘導するために電気刺激を用いることは、電気融合が現行の核移植手順の一部であることから特に興味深い。胚細胞-卵母細胞膜融合に用いられる電気融合装置を用いた電気刺激によるインビトロでの単為生殖的活性化が報告されている。
【0007】
マウス卵母細胞は、Ca+2-Mg+2不含培地への曝露、ヒアルロニダーゼを含む培地、エタノールへの曝露、Ca+2イオノフォアまたはキレート剤、タンパク質合成の阻害剤、および電気刺激によって活性化されている。これらの手順により、マウス卵母細胞の単為生殖的活性化および発生は高い率で起こったが、これらの手順は若いウシ卵母細胞を活性化しなかった、および/またはそのより低い発生率をもたらした。さらに、マウス卵母細胞の受精および単為生殖的活性化はまた、排卵後の加齢に依存する。
【0008】
エタノール、電気刺激、室温への曝露、および電気刺激とシクロヘキシミドによるタンパク質阻害との組み合わせによるウシ卵母細胞の活性化が報告されている。これらの過程は細胞内Ca+2を上昇させると考えられるが、卵母細胞が28時間超加齢した場合に最も成功する。
【発明の開示】
【0009】
発明の概要
本発明は、特定の条件がヒト卵母細胞を単為生殖的に活性化するのに最適であるという将来性のある発見に基づく。
【0010】
1つの態様において、ヒト幹細胞を作製する方法であって、卵母細胞を高酸素(O2)圧でイオノフォアと接触させる段階および卵母細胞を低O2圧下でセリン・スレオニンキナーゼ阻害剤と接触させる段階を含む卵母細胞を単為生殖的に活性化する段階、活性化卵母細胞を胚盤胞が形成されるまで低O2圧で培養する段階、胚盤胞をフィーダー細胞層に移し、移した胚盤胞を高O2圧下で培養する段階、胚盤胞の栄養外胚葉から内部細胞塊(ICM)を機械的に単離する段階、ならびにICMの細胞をフィーダー細胞層上で培養する段階を含み、ICM細胞を培養する段階を高O2圧下で行う方法を提供する。好ましくは、卵母細胞はヒトである。
【0011】
関連局面において、低O2圧は、約2% O2〜約5% O2のO2濃度を含み、約5% CO2および約90%窒素(N2)〜93% N2をさらに含む気体混合環境でのインキュベーションにより維持する。
【0012】
別の態様において、ヒト中期II卵母細胞を活性化する方法であって、ヒト中期II卵母細胞を体外受精(IVF)培地中で高O2圧下でインキュベートする段階、細胞をイオノフォアを含むIVF培地中で高O2圧下でインキュベートし、その後細胞をセリン・スレオニンキナーゼ阻害剤(STKI)を含むIVF培地中で低O2圧下でインキュベートすることにより活性化する段階、およびSTKI処理細胞を胚盤胞が形成されるまで低O2圧下でインキュベートする段階を含み、胚盤胞から得られた内部細胞塊(ICM)が培養可能な幹細胞を生じる方法を提供する。高O2圧は、約5% CO2、約20% O2、および約75% N2を有する気体混合環境で細胞をインキュベートすることにより維持し得る。
【0013】
関連局面において、活性化後のインキュベーション段階のためのO2圧は、約2% O2〜約5% O2のO2濃度を含み、約5% CO2および約90% N2〜93% N2をさらに含む気体混合環境で細胞をインキュベートすることにより維持する。
【0014】
別の関連局面において、IVF培地は本質的に非ヒト産物を含まない。
【0015】
さらなる関連局面において、本発明の方法によって調製される単離された卵母細胞を提供するが、これにはそのような卵母細胞から調製される単離された内部細胞塊(ICM)およびそこから単離される対応する幹細胞も含まれる。
【0016】
別の局面において、胚性幹細胞およびその分化した子孫をもたらす、哺乳動物卵母細胞のヒト単為生殖的活性化を提供する。このような細胞および子孫は卵母細胞ドナーと実質的に同質遺伝子的であり、そのため卵母細胞ドナーに関して細胞の自己移植が可能となり、卵母細胞ドナーの免疫系による拒絶が典型的に回避される。
【0017】
関連局面において、単為生殖的活性化卵母細胞に由来するhES細胞株の細胞バンクを提供する。
【0018】
1つの態様において、凍結保存卵母細胞または単為生殖体からヒト幹細胞を作製する方法であって、卵母細胞または単為生殖体の細胞質に凍結保存剤をマイクロインジェクションする段階、卵母細胞または単為生殖体を極低温貯蔵温度まで凍結してこれを休眠状態に入らせる段階、卵母細胞または単為生殖体を休眠状態で貯蔵する段階、卵母細胞または単為生殖体を融解する段階、卵母細胞を高O2圧でイオノフォアと接触させる段階および卵母細胞を低O2圧下でセリン・スレオニンキナーゼ阻害剤と接触させる段階を含む卵母細胞を単為生殖的に活性化する段階、単為生殖体または活性化卵母細胞を胚盤胞が形成されるまで低O2圧下で培養する段階、胚盤胞の栄養外胚葉から内部細胞塊(ICM)を単離する段階、ならびにICMの細胞をフィーダー細胞層上で培養する段階を含み、培養段階を高O2圧下で行う方法を提供する。
【0019】
別の態様において、ヒトドナーからの単為生殖的活性化卵母細胞に由来する自己幹細胞を提供する。1つの局面において、幹細胞はドナー細胞と実質的に同一のハプロタイプを有する。関連局面において、幹細胞はドナー細胞と遺伝的に実質的に同一である。
【0020】
1つの局面において、幹細胞は一塩基多型(SNP)マーカーに従ってドナーの完全同胞であると同定される。別の局面において、幹細胞はドナー起源に従ってゲノム的に刷り込まれている。
【0021】
1つの態様において、ヒトドナーからの単為生殖的活性化卵母細胞から得られた幹細胞に由来する分化細胞を開示する。関連局面において、分化細胞には、これらに限定されないが、神経細胞、心臓細胞、平滑筋細胞、横紋筋細胞、内皮細胞、骨芽細胞、オリゴデンドロサイト、造血細胞、脂肪細胞、間質細胞、軟骨細胞、アストロサイト、樹状細胞、ケラチノサイト、膵島、リンパ球前駆細胞、肥満細胞、中胚葉細胞、および内胚葉細胞が含まれる。さらなる関連局面において、分化細胞は、これらに限定されないが、神経フィラメント68、NCAM、βIII-チューブリン、GFAP、α-アクチニン、デスミン、PECAM-1、VE-カドヘリン、α-フェトプロテイン、またはこれらの組み合わせを含む1つまたは複数のマーカーを発現する。
【0022】
別の局面において、自己幹細胞を含む細胞株であって、幹細胞がヒトドナーからの単為生殖的活性化卵母細胞に由来する細胞株を開示する。1つの局面において、細胞はSSEA-1を発現しない。別の局面において、細胞株の細胞は、外胚葉、中胚葉、および内胚葉生殖系列を生じる。
【0023】
1つの態様において、凍結保存単為生殖体を含み、単為生殖体が1名または複数名のヒトドナーからの単為生殖的活性化卵母細胞に由来する細胞バンクを開示する。関連局面において、単為生殖体は、胚盤胞が形成されるまで低O2圧下で培養されたものである。
【0024】
1つの態様において、凍結保存自己幹細胞を含み、幹細胞が1名または複数名のヒトドナーからの単為生殖的活性化卵母細胞に由来する細胞バンクを開示する。
【0025】
別の態様において、分化細胞を含む細胞組成物であって、分化細胞がヒトドナーからの単為生殖的活性化卵母細胞から得られた幹細胞に由来する細胞組成物を投与する段階を含む、それを必要とする対象を治療する方法。1つの局面において、分化細胞は、神経細胞、心臓細胞、平滑筋細胞、横紋筋細胞、内皮細胞、骨芽細胞、オリゴデンドロサイト、造血細胞、脂肪細胞、間質細胞、軟骨細胞、アストロサイト、樹状細胞、ケラチノサイト、膵島、リンパ球前駆細胞、肥満細胞、中胚葉細胞、および内胚葉細胞からなる群より選択される。
【0026】
関連局面において、対象は、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、ALS、脊髄欠損または損傷、多発性硬化症、筋ジストロフィー、嚢胞性線維症、肝疾患、糖尿病、心疾患、網膜疾患(黄斑変性症および網膜色素変性症など)、軟骨欠損または損傷、熱傷、足部潰瘍、血管疾患、尿路疾患、エイズ、および癌からなる群より選択される疾患を呈する。
【0027】
1つの態様において、クローンヒト胚性幹細胞を作製する方法であって、前もって受精したヒト卵母細胞から第1前核を除去する段階、第2前核を除核卵母細胞に移植する段階であって、第2前核がドナー卵母細胞もしくはドナーの母親の卵母細胞、または活性化の前にその前核がドナー体細胞の核によって置換された単為生殖的活性化卵母細胞に由来する段階、および得られた卵母細胞を胚盤胞が形成されるまで培養する段階を含み、胚盤胞の内部細胞塊が胚性幹細胞を含む方法を開示する。
【0028】
本発明による例示的な方法および組成物を、以下により詳細に記載する。
【0029】
発明の詳細な説明
本組成物、方法、および培養法について記載する前に、本発明が記載の特定の組成物、方法、および実験条件に限定されず、したがって組成物、方法、および条件が変更可能であることが理解されるべきである。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、本明細書で使用する専門用語は特定の態様を説明する目的のためのみのものであって、限定を意図するものではないこともまた理解されるべきである。
【0030】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用する単数形「1つの」、「ある」、および「その」とは、特記する場合を除き、その対象物の複数形も含む。したがって、例えば「その方法」への言及は、本開示を読めば当業者に明らかとなるであろう本明細書に記載する種類などの1つまたは複数の方法および/または段階を含む。
【0031】
「分化」とは、細胞にある特殊化した機能を獲得させ、他のある特殊化した機能単位に変化する能力を失わせる、細胞内で起こる変化を指す。分化できる細胞は、全能性、多能性、多分化能細胞のいずれかであり得る。分化は、成熟成体細胞に対して部分的または完全であってよい。
【0032】
雌性発生とは、すべて雌性起源(好ましくはヒト雌性起源)の哺乳動物DNA、例えばヒトまたは非ヒト霊長類卵母細胞DNAを含む、卵母細胞または他の胚細胞型などの細胞の活性化によって起こる、識別可能な栄養外胚葉および内部細胞塊を含む胚の生成を指す。そのような雌性哺乳動物DNAは、例えば少なくとも1つのDNA配列の挿入、欠失、もしくは置換によって遺伝子改変されてもよく、または改変されなくてもよい。例えば、DNAは、所望のコード配列または胚形成を促進もしくは阻害する配列の挿入または欠失によって改変され得る。典型的に、そのような胚は、すべて雌性起源のDNAを含む卵母細胞のインビトロ活性化によって得られる。雌性発生は、以下で定義する単為生殖を含む。これはまた、精子DNAが活性化卵母細胞中のDNAに寄与しない活性化法を含む。
【0033】
関連局面において、卵母細胞は、IVFのために調製された過排卵対象から得られる。IVFで用いられる、ホルモンによる女性対象の処置などの「過排卵」技法は、自然の周期における通常の単一の卵子よりもむしろいくつかの卵子(卵母細胞)を生成するように卵巣を刺激するよう設計されている。
【0034】
卵子生成を促進するのに必要な薬物には、これらに限定されないが以下のものが含まれる:Lupron(ゴナドトロピン放出ホルモン作動薬)、Orgalutran、Antagon、またはCetrotide(ゴナドトロピン放出ホルモン拮抗薬)、Follistim、Bravelle、またはGonal-F(FSH、卵胞刺激ホルモン)、Repronex(FSHとLH、黄体形成ホルモンの組み合わせ)、およびPregnylまたはNovarel(hCG、ヒト繊毛性ゴナドトロピン)。
【0035】
関連局面において、卵子の採取は経膣超音波誘導下で行い得る。これを達成するには、各卵胞の位置を特定するために超音波を用いて、針を膣壁を通して卵巣に挿入する(IV鎮静法下で)。卵胞液を試験管中に吸引して卵子を得る。
【0036】
卵母細胞の活性化が精子進入なしに起こる過程である「単為生殖」(「単為生殖的(parthenogenically、parthenogenetically)活性化」は互換的に用いられる)とは、すべて雌性起源のDNAを含む卵母細胞または胚細胞(例えば、卵割球)の活性化によって得られる、栄養外胚葉および内部細胞塊を含む初期胚の発生を指す。関連局面において、「単為生殖体」とは、そのような活性化によって得られる結果として生じた細胞を指す。別の関連局面において、胚盤胞とは、外側栄養膜細胞および内部細胞塊(ICM)でできた細胞の中空球を含む、受精または活性化卵母細胞の分割段階を指す。さらなる関連局面において、「胚盤胞形成」とは、卵母細胞の受精または活性化後の、卵母細胞を引き続き培地中でしばらく培養して、外側栄養膜細胞およびICMからできた細胞の中空球にまで発生させる過程(例えば、5〜6日)を指す。
【0037】
1つの態様において、単為生殖的活性化卵母細胞によりクローンヒト胚性幹細胞株を作製する過程を開示する。単為生殖は自然界において生殖の稀な形態ではないものの、哺乳動物ではこの形態の生殖ができることは知られていない。しかしながら、近交系マウス系統LT/Svの雌の卵母細胞において、自発的な単為生殖が10%の割合で見出され得る(Ozil and Huneau, Development (2001) 128:917-928;Vrana et al., Proc Natl Acad Sci USA (2003) 100(Suppl 1):11911-11916;Berkowitz and Goldstein, New Eng J Med (1996) 335(23):1740-1748)。有胎盤哺乳動物の卵母細胞は、インビトロで単為生殖を起こすように誘発することができる;しかし、胚発生は成功していない。
【0038】
哺乳動物卵母細胞の単為生殖的活性化および活性化卵母細胞の代理母への移植後、胚の生存には限界がある:マウスでは10日間;ヒツジでは21日間;ブタでは29日間;およびウサギでは11.5日間(Kure-bayashi et al., Theriogenology (2000) 53:1105-1119;Hagemann et al., Mol Reprod Dev (1998) 50:154-162;Surani and Barton, Science (1983) 222:1034-1036)。この発生停止の理由は、遺伝子刷り込みによる可能性が高い。母性および父性ゲノムは後成的に異なること、ならびに胚発生の成功には両セットが必要であることが示されている(Surani, Cell (1998) 93:309-312;Sasaki et al., (1992) 6:1843-1856)。単為生殖体では、遺伝物質のすべてが母性起源であるはずであり、したがって父性刷り込みを欠いているはずである。父性刷り込みは、胚体外組織発生、したがって除核卵母細胞の受精後の栄養膜組織の発生に関与すると考えられている(Stevens, Nature (1978) 276:266-267)。そのため動物では、除核接合子は、その後に単為生殖的活性化を伴う核移植に有用であり得る。
【0039】
哺乳動物の単為生殖体は限られた発生を起こすに過ぎず、胚は最終的に死滅する。カニクイザル(Macac fascicularis)では、中期II期にある卵母細胞のわずかに14パーセントが、インビトロ単為生殖的活性化後に、8日間の培養を経て胚盤胞期にまで発生した(Monk, Genes Dev (1988) 2:921-925)。同様に、核移植後にインビトロで単為生殖的に活性化したヒト卵母細胞の12パーセントが、胚盤胞期にまで発生した(Monk, 1988)。いずれの場合も、幹細胞株が1つ作製された。
【0040】
LT/Sv近交系マウス系統の処女雌において自発的活性化単為生殖体として形成された胚は、数日以内に死滅する。これらの胚の内部細胞塊(ICM)を含む細胞から、受精除核C57BL/6jマウス卵母細胞への核移植を行うと、LT/Svゲノムを有するクローンマウスが得られる(Kaufman et al., Nature (1977) 265:53-55)。このように、受精卵母細胞を用いることによって、単為生殖体の全期発生が可能となる。1つの局面においては、受精除核ヒト卵母細胞を用いて、ドナー核を含む単為生殖胚の胚盤胞期までの発生を支持し得る。
【0041】
1つの態様においては、ドナーの卵母細胞またはドナーの母親の卵母細胞の前核を、単為生殖的活性化後に、雄性および雌性前核を除去した受精ヒト卵母細胞に移植し得る。
【0042】
別の態様においては、ドナーの体細胞の核をドナー卵母細胞に移植し、その後この卵母細胞を単為生殖により活性化する段階、ならびに活性化卵母細胞の前核を雄性および雌性前核を除去した受精卵母細胞に移植する段階を含む、ヒト幹細胞を作製するための2段階過程を開示する。
【0043】
別の態様においては、ドナーの体細胞由来の核を受精除核ヒト卵母細胞に移植し、その後単為生殖的に活性化し得る。上記の3つの態様を以下の流れ図により説明する。
【0044】
「多能性細胞」とは、未分化状態で長期間、理論上は無期限にインビトロで維持することができ、異なる分化した組織型、すなわち外胚葉、中胚葉、および内胚葉を生じ得る、すべて雌性または雄性起源のDNAを含む細胞の活性化により生成される胚由来の細胞を指す。細胞の多能性状態は好ましくは、雄性発生または雌性発生法により生成される胚の内部細胞塊またはその内部細胞塊由来の細胞を適切な条件下で培養することにより、例えば線維芽細胞フィーダー層もしくは別のフィーダー層または白血病抑制因子(LIF)を含む培養物上で培養することにより維持される。そのような培養細胞の多能性状態は、種々の方法、例えば、(i) 多能性細胞に特有であるマーカーの発現の確認;(ii) 多能性細胞の遺伝子型を現す細胞を含むキメラ動物の作製;(iii) 動物、例えばSCIDマウスへの細胞の注入による、異なる分化細胞型のインビボでの生成;および(iv) 胚様体および他の分化細胞型への細胞のインビトロでの分化(例えば、フィーダー層またはLIFの非存在下で培養した場合)の観察により確認することができる。
【0045】
「二倍体細胞」とは、すべて雄性または雌性起源の二倍体DNA含有物を有する細胞、例えば卵母細胞または卵割球を指す。
【0046】
「一倍体細胞」とは、すべて雄性または雌性起源である一倍体DNA含有物を有する細胞、例えば卵母細胞または卵割球を指す。
【0047】
活性化とは、例えばこれに限定されないが減数分裂の中期IIにある受精または未受精卵が、典型的に染色分体対の分離、第2極体の放出を含む過程を起こし、それぞれ1本の染色分体を有する半数の染色体を有する卵母細胞を生じる過程を指す。活性化は、すべて雄性または雌性起源のDNAを含む細胞を誘発して、識別可能な内部細胞塊および栄養外胚葉を有する胚にまで発生させる方法であって、多能性細胞の作製に有用であるが、それ自体は生存活性のある子孫にまで発達させることができない可能性が高い方法を含む。活性化は、例えば以下の1つの条件下で行うことができる:(1) 第2極体の放出を引き起こさない条件;(ii) 極体の放出を引き起こすが、極体の放出が阻害される条件;または(iii) 一倍体卵母細胞の最初の細胞分裂を阻害する条件。
【0048】
「中期II」とは、細胞のDNA含有物が、各染色体が2本の染色分体によって示される半数の染色体からなる細胞発生の段階を指す。
【0049】
1つの態様において、中期II卵母細胞は、種々のO2圧気体環境下において卵母細胞をインキュベートすることにより活性化する。関連局面において、低O2圧気体環境は、約2%、3%、4%、または5%のO2濃度を含む気体混合物によって作製する。さらなる関連局面において、気体混合物は約5% CO2を含む。さらに、気体混合物は、約90% N2、91% N2、または93% N2を含む。この気体混合物は、約5% CO2、20% O2、および75% N2である5% CO2空気と区別されるはずである。
【0050】
「O2圧」とは、流体(すなわち、液体または気体)中の酸素の分圧(気体混合物の単一成分による圧力)を指す。低圧とは酸素の分圧(pO2)が低い場合であり、高圧とはpO2が高い場合である。
【0051】
「定義された培地条件」とは、最適な増殖に必要なその中の成分の濃度が詳細な、細胞を培養するための環境を指す。例えば、細胞の用途(例えば、治療適用)に応じて、異種タンパク質を含む条件から細胞を取り出すことは重要である;すなわち、培養条件は動物質を含まない条件であるか、または非ヒト動物タンパク質を含まない。関連局面において、「体外受精(IVF)培地」とは、その上または中で受精卵母細胞が増殖し得る、化学的に定義された物質を含む栄養系である。
【0052】
「細胞外マトリックス(ECM)基質」とは、最適な増殖を支持する細胞下の表面を指す。例えば、そのようなECM基質には、これらに限定されないが、マトリゲル、ラミニン、ゼラチン、およびフィブロネクチン基質が含まれる。関連局面において、そのような基質は、IV型コラーゲン、エンタクチン、ヘパリン硫酸プロテオグリカンを含み、種々の増殖因子(例えば、bFGF、上皮増殖因子、インスリン様増殖因子-1、血小板由来増殖因子、神経成長因子、およびTGF-β-1)を含み得る。
【0053】
「胚」とは、任意に修飾され得るすべて雄性または雌性起源のDNAを含む細胞、例えば卵母細胞または他の胚細胞の活性化によって生じ、識別可能な栄養外胚葉および内部細胞塊を含み、生存能力のある子孫を生じることができず、かつDNAがすべて雄性または雌性起源である胚を指す。内部細胞塊またはその中に含まれる細胞は、上記のように多能性細胞の作製に有用である。
【0054】
「内部細胞塊(ICM)」とは、胎児組織を生じる胚の内部を指す。本明細書において、これらの細胞は、インビトロで多能性細胞の連続した供給源を提供するために用いられる。さらに、ICMには、雄性発生または雌性発生から生じる胚、すなわちすべて雄性または雌性起源のDNAを含む細胞の活性化により生じる胚の内部が含まれる。そのようなDNAは、例えばヒトDNA、例えばヒト卵母細胞または精子DNAであり、遺伝子改変されている場合もあればされていない場合もある。
【0055】
「栄養外胚葉」とは胎盤組織を生じる初期胚の他の部分を指し、これには、雄性発生または雌性発生から生じる胚、すなわちすべて雄性または雌性起源のDNAを含む細胞、例えばヒト卵母細胞または精子の活性化により生じる胚の組織が含まれる。
【0056】
「分化細胞」とは、特定の分化した状態、すなわち非胚状態を有する非胚細胞を指す。3つの最初期分化細胞型は、内胚葉、中胚葉、および外胚葉である。
【0057】
「実質的に同一である」とは、相違を測定する能力(例えば、HLAタイピング、SNP解析などによる)において本質的に同じであることにほぼ近い、特定の特徴に関する同一性の質を指す。
【0058】
「組織適合性」とは、生物が外来組織の移植片を許容する程度を指す。
【0059】
「ゲノム刷り込み」とは、ゲノム全体にわたるいくつかの遺伝子が、それらの親起源に従って単一対立遺伝子的に発現する機構を指す。
【0060】
文法上の変化形を含めた「ホモプラスミー」とは、細胞または個体内に同じミトコンドリアDNA(mtDNA)型が存在することを指す。
【0061】
文法上の変化形を含めた「ヘテロプラスミー」とは、細胞または個体内に2つ以上のミトコンドリアDNA(mtDNA)型の混合物が存在することを指す。
【0062】
「片親性」とは、そこから別のものが生じ、それに対してその別のものが補助的なままである1つまたは複数の細胞または個体を指す。
【0063】
「機械的に単離すること」とは、物理的力により細胞凝集体を分離する過程を指す。例えば、そのような過程は、非ヒト物質を含む可能性がある酵素(または他の細胞切断産物)の使用を排除する。
【0064】
天然環境において、卵巣からの未成熟卵母細胞(卵子)は、減数分裂を経て減数分裂の中期IIまで進行する成熟過程を起こす。次いで、卵母細胞は中期IIで停止する。中期IIでは、細胞のDNA含有物は、それぞれ2本の染色分体によって示される半数の染色体からなる。
【0065】
そのような卵母細胞は、例えばこれに限定されないが糖のマイクロインジェクションによる凍結保存によって、永久に維持することができる。
【0066】
1つの態様において、凍結保存卵母細胞または単為生殖体からヒト幹細胞を作製する方法であって、卵母細胞または単為生殖体の細胞質に凍結保存剤をマイクロインジェクションする段階、卵母細胞または単為生殖体を極低温貯蔵温度まで凍結してこれを休眠状態に入らせる段階、卵母細胞または単為生殖体を休眠状態で貯蔵する段階、卵母細胞または単為生殖体を融解する段階、卵母細胞をイオノフォアの存在下において高O2圧下で単為生殖的に活性化し、その後卵母細胞を低O2圧下でセリン・スレオニンキナーゼ阻害剤と接触させる段階、活性化卵母細胞または単為生殖体を胚盤胞が形成されるまで培養する段階、胚盤胞から内部細胞塊(ICM)を単離する段階、およびICMの細胞をヒトフィーダー細胞層上で培養する段階を含み、ICM細胞を培養する段階を高O2圧下で行う方法を提供する。
【0067】
1つの局面において、記載通りに得られた卵母細胞は、胚試験済みミネラルオイル(Sigma)で被覆した改変等張IVFまたは任意の他の適切な培地に移す。必要に応じて、卵母細胞は、マイクロインジェクション用に計画した量と同じ濃度の細胞外糖と共にインキュベートし得る。例えば、0.1 M糖を注入するには、卵母細胞を0.1 M糖を含むDMEM/F-12中で平衡化し得る。1つの局面において、凍結保存剤は、標準的なDMEMよりも低いNa+濃度(すなわち、Na+低培地)を含む。関連局面において、凍結保存剤は、標準的なDMEMよりも高いK+濃度(すなわち、K+高)を含む。さらなる関連局面において、凍結保存剤は、標準的なDMEMよりも低いNa+濃度および高いK+濃度(すなわち、Na+低/K+高培地)を含む。1つの局面において、凍結保存剤は、これに限定されないがHEPESを含む有機緩衝液を含む。別の局面において、凍結保存剤は、アポトーシスタンパク質(例えば、カパーゼ(capase))を阻害する成分を含む。
【0068】
または、マイクロインジェクションの前に細胞容積を減少させるために、卵母細胞を任意に、NaClなどの任意の他の実質的非透過性溶質で平衡化することができる。細胞容積のこの最初の減少で、マイクロインジェクションの前に高張培地中でインキュベートしていない卵母細胞と比較して、マイクロインジェクションした卵母細胞の最終容積がより小さくなり得る。最終容積がこのように小さくなることで、卵母細胞の膨張による潜在的有害作用が最小限に抑えられ得る。マイクロインジェクション用の細胞を調製するためのこの一般的手順はまた、他の細胞型(例えば、活性化卵母細胞、hES細胞など)にも使用することができる。
【0069】
次いで、卵母細胞に凍結保存剤をマイクロインジェクションする。マイクロインジェクションの装置および手順は当技術分野において十分に特徴づけられており、細胞内に小分子を注入する際の使用が知られているマイクロインジェクション装置を本発明において用いることができる。例示的なマイクロインジェクション段階では、卵母細胞に圧力10 psiで30ミリ秒間マイクロインジェクションし得る。標準的なマイクロインジェクション技法の別の例は、Nakayama and Yanagimachi(Nature Biotech. 16:639-642, 1998)により記載されている方法である。
【0070】
本過程で有用な凍結保存剤には、凍結保護特性を有し、通常は非透過性である任意の化学物質が含まれる。特に、凍結保存剤は、単独の、または他の従来の凍結保存剤と混合した糖を含み得る。トレハロース、スクロース、フルクトース、およびラフィノースなどの炭水化物糖を、約1.0 M以下、より好ましくは0.4 M以下の濃度までマイクロインジェクションすることができる。1つの局面において、濃度は0.05 M〜0.20 Mである。さらに、貯蔵前に、細胞外の糖または従来の凍結保存剤を添加してもよい。マイクロインジェクション前に細胞を高張溶液中でインキュベートした場合、実質的非透過性溶質はマイクロインジェクション後に培地中に残存させてもよく、またはこの溶質を低濃度含むまたは含まない培地で細胞を洗浄することにより培地から除去してもよい。
【0071】
大きすぎて膜を通過することができないために通常細胞膜を透過しないある種の糖または多糖は、凍結保存目的に関して優れた生理化学的および生物学的特性を有する。これらの糖は通常はそれ自体では細胞膜を通過しないが、記載の方法を用いることで、通常は非透過性であるこれらの糖を細胞内にマイクロインジェクションして有益な効果をもたらすことができる。
【0072】
本方法において凍結保存剤として特に有用である、細胞に対する安定または保存効果を有する非透過性糖には、スクロース、トレハロース、フルクトース、デキストラン、およびラフィノースが含まれる。これらの糖の中でも、グルコースの非還元二糖であるトレハロースは、細胞構造を安定化する上で低濃度で並はずれて効果的であることが示されている。細胞外の糖脂質または糖タンパク質の添加もまた、細胞膜を安定化し得る。
【0073】
凍結保存剤のマイクロインジェクション後、細胞を貯蔵用に調製する。凍結および/または乾燥の種々の方法を使用して、細胞を貯蔵用に調製することができる。特に、本明細書においては3つのアプローチ:真空乾燥または風乾、凍結乾燥、および凍結融解手順を記載する。乾燥過程は、安定化された生体物質を外気温で輸送および貯蔵できるという利点を有する。
【0074】
典型的には、1〜2 M DMSOを負荷した卵母細胞を中間温度(-60℃〜-80℃)まで非常に遅い冷却速度(0.3〜0.5℃/分)で冷却してから、貯蔵のために液体窒素中に入れる。次いで、試料をこの温度で貯蔵し得る。
【0075】
次に懸濁した材料を、例えば液体窒素(LN2)中にバイアルを所望の時間放置することにより、凍結保存温度で貯蔵し得る。
【0076】
タンパク質を真空乾燥または風乾するおよび凍結乾燥する手順は、当技術分野において十分に特徴づけられており(Franks et al., 「Materials Science and the Production of Shelf-Stable Biologicals」, BioPharm, October 1991, p. 39;Shalaev et al., 「Changes in the Physical State of Model Mixtures during Freezing and Drying: Impact on Product Quality」, Cryobiol. 33, 14-26 (1996))、そのような手順を用いて、記載の方法により貯蔵するための細胞懸濁液を調製することができる。風乾に加えて、細胞懸濁液から水分を除去するために用いられ得る他の対流乾燥法は、窒素または他の気体の対流を含む。
【0077】
本発明の方法で有用な例示的な蒸発真空乾燥手順は、12ウェルプレートのウェルに各20μlを入れる段階、外気温で2時間真空乾燥する段階を含み得る。当然のことながら、バイアル中の細胞を乾燥させる段階を含む他の乾燥法を用いることもできる。この様式で調製した細胞は、乾燥状態で貯蔵し、DMEMまたは任意の他の適切な培地で希釈することにより再水和することができる。
【0078】
貯蔵用の細胞を調製するために凍結乾燥を使用する本発明の方法は、細胞懸濁液の凍結から開始する。当技術分野において公知である凍結法を使用することができるが、凍結融解法に関して本明細書において記載した単純な浸漬凍結法を、凍結乾燥手順における凍結段階に使用してもよい。
【0079】
凍結後、2段階の乾燥過程を使用し得る。第1段階では、凍結した水を蒸発させるために昇華エネルギーを加える。2次乾燥は、試料中の純粋な結晶氷が昇華された後に行う。凍結乾燥細胞は、真空乾燥に関して上記したのと同じ様式で貯蔵および水和することができる。その後、生存細胞を回復させ得る。
【0080】
凍結または乾燥状態から細胞を回復させた後、外部凍結保存剤を任意に培地から除去し得る。例えば、低濃度の凍結保存剤を含む相当する培地を添加することによって、培地を希釈することができる。例えば、回復させた細胞は、細胞貯蔵に使用した濃度よりも低濃度の糖を含む培地中で約5分間インキュベートし得る。このインキュベーションに関して、培地は、凍結保存剤として使用したものと同じ糖;ガラクトースなどの異なる凍結保存剤;または任意の他の実質的非透過性溶質を含み得る。培地のモル浸透圧濃度の減少によって誘導される浸透圧ショックを最小限に抑えるために、毎回より低濃度の凍結保存剤でこの希釈段階を複数回行うことによって、細胞外凍結保存剤の濃度をゆっくりと減少させることができる。この希釈段階は、存在する細胞外凍結保存剤がなくなるまで、または凍結保存剤の濃度または培地のモル浸透圧濃度が所望のレベルに減少するまで繰り返すことができる。
【0081】
単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および自己幹細胞は、将来の必要性に応じて、細胞の回復を可能にする様式で貯蔵または「バンク化」することができる。単為生殖的活性化卵母細胞および自己幹細胞の一定分量を任意の時点で取り出して、多くの未分化細胞の培養物にまで増殖させ、次いで特定の細胞型または組織型に分化させることができ、その後疾患を治療するために、または対象中の多機能組織と置換するために用いることができる。細胞は単為生殖的にドナーに由来するため、個体または近親者が細胞に長期間アクセスできるように細胞を保存し得る。
【0082】
1つの態様において、単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞試料を貯蔵するための細胞バンクを提供する。別の態様において、そのような細胞バンクを管理する方法を提供する。その全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願公開第20030215942号は、幹細胞バンクシステムの例を提供する。
【0083】
上記のような方法を用いて、単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および自己幹細胞試料の単離およびインビトロ増殖、ならびにそれらの凍結保存により、移植可能なヒト幹細胞の「バンク」の確立が容易になる。より少量の細胞を貯蔵することが可能であるため、バンク化手順は比較的小さな空間を占め得る。したがって、多くの個体の細胞を、比較的わずかな費用で短期的または長期的に貯蔵または「バンク化」することができる。
【0084】
1つの態様においては、試料の一部は、処理および貯蔵の前または後に試験に利用される。
【0085】
本発明はまた、試料の位置を探す必要がある場合に容易に検索できるように、単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞試料を記録するまたはこれに索引を付ける方法を提供する。この目的を達成するには、任意の索引付けおよび検索システムを用いることができる。単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞を貯蔵できるように、任意の適切な型の貯蔵システムを用いることができる。試料は個体試料を貯蔵するように設計することができ、または何百、何千、およびさらには何百万という異なる細胞試料を貯蔵するよう設計することができる。
【0086】
貯蔵された単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞試料は、信頼性のあるかつ正確な検索のために索引を付けることができる。例えば、各試料に英数字コード、バーコード、もしくは任意の他の方法、またはそれらの組み合わせで印を付けることができる。また、各単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞試料、ならびにバンク中のその位置の同定を可能にする、ならびにバンク外にある細胞試料の供給源および/または型の同定を可能にする情報のアクセス可能でかつ可読のリストが存在してもよい。この索引付けシステムは、例えば手作業でまたは非手作業で当技術分野において公知である任意の方法で管理することができ、例えばコンピュータおよび従来のソフトウェアを用いることができる。
【0087】
1つの態様においては、試料が必要な場合にいつでもドナーが利用できるように、索引付けシステムを用いて細胞試料を組織化する。他の態様においては、細胞試料は、元のドナーと血縁関係にある個体によって利用され得る。索引付けシステムに一旦記録された時点で、細胞試料を適合目的のために利用することができ、例えば適合プログラムは適合する型情報を用いて個体を同定し、個体は適合する試料の提供を受ける選択権を有する。
【0088】
貯蔵バンクシステムは、複数の個体および複数の細胞試料に関連した複数の記録を記憶するシステムを含み得る。各記録は、細胞試料または特定の個体に関する型情報、遺伝型情報、または表現形情報を含み得る。1つの態様において、システムは、試料の型と試料の入手を希望する個体の型を適合させる交差適合表を含む。
【0089】
1つの態様において、データベースシステムは、バンク中の各単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞試料の情報を記憶する。特定の情報は、各試料と関連して記憶される。情報は、特定のドナー、例えばドナーの同定およびドナーの病歴と関連がある。例えば、各試料のHLA型を同定することができ、HLA型情報が各試料と関連して記憶され得る。記憶される情報はまた、在庫情報であってよい。各試料と共に記憶される情報は探索可能であり、直ちに位置を探しクライアントに提供できるような方法で試料を特定する。
【0090】
したがって、本発明の態様は、ドナー、寄託日、寄託細胞の型、存在する細胞表面マーカーの型、ドナーに関する遺伝情報、または他の適切な情報、ならびに維持記録および貯蔵細胞の位置などの貯蔵の詳細、ならびに他の有用な情報などの情報を含むコンピュータベースのシステムを利用する。
【0091】
「コンピュータベースのシステム」という用語は、貯蔵細胞に関する情報を記憶、探索、および検索するために用いられるハードウェア、ソフトウェア、およびデータベースを指す。コンピュータベースのシステムは好ましくは、上記の記憶媒体、ならびにデータにアクセスするおよびデータを操作するためのプロセッサを含む。本態様のコンピュータベースのシステムのハードウェアは、中央演算処理装置(CPU)およびデータベースを含む。当業者は、現在利用できるコンピュータベースのシステムのいずれか1つが適切であることを容易に理解し得る。
【0092】
1つの態様において、コンピュータシステムは、メインメモリ(好ましくはRAMとして実装される)、ならびにハードドライブおよびリムーバブル媒体記憶装置などの種々の2次記憶装置に接続されたバスに接続されたプロセッサを含む。リムーバブル媒体記録装置は、例えばフロッピーディスクドライブ、DVDドライブ、光ディスクドライブ、コンパクトディスクドライブ、磁気テープドライブなどを示し得る。制御論理および/またはその中に記録されたデータを含むフロッピーディスク、コンパクトディスク、磁気テープなどのリムーバブル記憶媒体は、リムーバブル記憶装置に挿入することができる。コンピュータシステムは、リムーバブル媒体記憶装置に一旦挿入されたリムーバル媒体記録装置から制御論理および/またはデータを読み出すための適切なソフトウェアを含む。単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞に関する情報は、周知の様式でメインメモリ、2次記憶装置のいずれか、および/またはリムーバブル記憶媒体に保存され得る。これらのデータにアクセスするおよびこれらのデータを処理するためのソフトウェア(探索ツール、比較ツールなど)は、実行中のメインメモリ中に存在する。
【0093】
本明細書で使用する「データベース」とは、単為生殖的活性化卵母細胞および/または自己幹細胞収集物ならびにドナーに関する任意の有用な情報を記憶し得るメモリを指す。
【0094】
貯蔵された単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞に関するデータは、種々の形式の種々のデータ処理プログラムで記憶および操作することができる。例えば、データは、Microsoft WORDまたはWORDPERFECTなどの文書処理ファイルにテキストとして、DB2、SYBASE、またはORACLEなどの当業者に周知の種々のデータベースプログラムでASCIIファイル、htmlファイル、またはpdfファイルとして記憶することができる。
【0095】
「探索プログラム」とは、データベース中の凍結保存試料に関する詳細を探索するため、またはそのような試料に関する情報を比較するために、コンピュータベースのシステム上で実行される1つまたは複数のプログラムを指す。「検索プログラム」とは、データベース中の関心対象のパラメータを同定するために、コンピュータベースのシステム上で実行され得る1つまたは複数のプログラムを指す。例えば、検索プログラムを用いて、特定のプロファイルと適合する試料、特定のマーカーもしくはDNA配列を有する試料を見出すこと、または特定の個体に相当する試料の位置を見出すことができる。
【0096】
1つの細胞バンク中に貯蔵できる細胞試料の数に上限はない。1つの態様においては、異なる個体からの数百の産物が、1つのバンクまたは貯蔵設備に貯蔵される。別の態様においては、最大で数百万までの産物が、1つの貯蔵施設に貯蔵され得る。単一の貯蔵施設を用いて単為生殖的活性化卵母細胞および/または自己幹細胞試料を保存することができ、または複数の貯蔵施設を使用することもできる。
【0097】
本発明のいくつかの態様において、貯蔵設備は、例えば自動ロボット検索機構および細胞試料操作機構などの、貯蔵細胞試料を組織化するおよびそのような試料に索引を付ける任意の方法のための手段を有し得る。設備は、細胞試料を処理するための顕微操作装置を含み得る。細胞試料の効率的な貯蔵および検索には、公知の従来技術を用いることができる。例示的な技術には、これらに限定されないが、機械視覚、ロボティクス、自動搬送システム(Automated Guided Vehicle System)、自動倉庫システム(Automated Storage and Retrieval Systems)、コンピュータ統合生産、コンピュータ支援工程設計(Computer Aided Process Planning)、統計的プロセス制御などが含まれる。
【0098】
試料を必要とする個体に関連した型情報または他の情報は、例えばデータベースシステム、索引付けシステムなどの、適切な適合産物を同定するために用いることのできるシステムに記録することができる。システムに一旦記録された時点で、個体の型とドナー細胞試料との間で適合が行われ得る。好ましい態様において、ドナー試料は、試料を必要とする個体と同じ個体に由来する。しかし、類似してはいるが同一ではないドナー/レシピエント適合もまた用いることができる。適合試料は、適合する型識別子を有する個体に使用することができる。本発明の1つの態様において、個体の識別情報は細胞試料と関連して記憶される。いくつかの態様において、適合過程は試料の採取の頃に行われるか、または処理、貯蔵中の任意の時点で、もしくは必要に応じて行われ得る。したがって、本発明のいくつかの態様では、適合過程は、個体が細胞試料を実際に必要とする前に行われる。
【0099】
単為生殖的活性化卵母細胞、胚盤胞、ICM、および/または自己幹細胞試料が個体によって必要とされる場合、それは必要に応じて数分以内に検索され、研究、移植、または他の目的に利用され得る。試料はまた、それを移植または他の必要性のために調製する目的でさらに処理され得る。
【0100】
通常、卵母細胞はこの段階で排卵され、精子で受精する。精子は、活性化と称される過程で減数分裂の完了を開始する。活性化の間に、染色分体の対は分離し、第2極体が放出され、卵母細胞はそれぞれ1本の染色分体を有する半数の染色体を保持する。精子は染色体のもう一方の一倍体相補体を提供して、単一の染色分体を有する完全な二倍体細胞が作製される。次に染色体は、最初の細胞周期中のDNA合成を経て進行する。これらの細胞は次いで胚へと発生する。
【0101】
これに対して本明細書に記載する胚は、細胞、典型的にはすべて雄性または雌性起源のDNAを含む哺乳動物卵母細胞または卵割球の人工的活性化により発生する。発明の背景で説明したように、未受精卵母細胞の人工的活性化に関する多くの方法が文献に報告されている。そのような方法には、物理的方法、例えば培養卵母細胞の穿刺、操作などの機械的方法、冷却および加熱などの熱的方法、電気パルスの反復、トリプシン、プロナーゼ、ヒアルロニダーゼなどの酵素処理、浸透圧処理、2価陽イオンならびにイオノマイシンおよびA23187などのカルシウムイオノフォアによるようなイオン処理、エーテル、エタノール、テトラカイン、リグノカイン、プロカイン、フェノチアジンなどの麻酔薬の使用、チオリダジン、トリフルオペラジン、フルフェナジン、クロロプロマジンなどの精神安定剤、シクロヘキシミド、プロマイシンなどのタンパク質合成阻害剤の使用、リン酸化阻害剤、例えばスタウロスポリン、2-アミノプリン、スフィンゴシン、およびDMAPなどのプロテインキナーゼ阻害剤の使用、これらの組み合わせ、加えて他の方法が含まれる。
【0102】
そのような活性化法は当技術分野で周知であり、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,945,577号に記載されている。
【0103】
1つの態様においては、中期IIにあるヒト細胞、典型的にはすべて雄性または雌性起源のDNAを含む卵母細胞または卵割球を、卵母細胞の人工的活性化をもたらすために人工的に活性化する。
【0104】
関連局面においては、二倍体である活性化細胞、例えば卵母細胞を、栄養外胚葉および内部細胞塊を含む胚に発生させる。これは、胚盤胞発生を促進する公知の方法および培地を用いて引き起こすことができる。
【0105】
雌性発生胚を培養して識別可能な栄養外胚葉および内部細胞塊を生じさせた後、内部細胞塊の細胞を用いて所望の多能性細胞株を作製する。これは、内部細胞塊に由来する細胞または内部細胞塊全体を、分化を阻害する培養物中に移すことによって達成し得る。これは、分化を阻害するフィーダー層、例えば出生後ヒト組織に由来する線維芽細胞などの線維芽細胞もしくは上皮細胞、またはLIFを産生する他の細胞上に内部細胞塊を移すことによって行うことができる。これらに限定されないが、馴化培地(Amit et al., Developmental Biol (2000) 227:271-278)、bFGFおよびTGF-β1(LIFを伴うまたは伴わない)(Amit et al., Biol Reprod (2004) 70:837-845)、gp130/STAT3経路を活性化する因子(Hoffman and Carpenter, Nature Biotech (2005) 23(6):699-708)、PI3K/Akt、PKB経路を活性化する因子(Kim et al., FEBS Lett (2005) 579:534-540)、骨形成タンパク質(BMP)スーパーファミリーのメンバーである因子(Hoffman and Carpenter (2005)、前記)、および標準/β-カテニンWntシグナル伝達経路を活性化する因子(例えば、GSK-3特異的阻害剤;Sato et al., Nat Med (2004) 10:55-63)の添加を含む他の因子/成分を用いて、細胞を未分化状態で維持するための適切な培養条件を提供することができる。関連局面において、このような因子は、フィーダー細胞および/またはECM基質を含む培養条件を含み得る(Hoffman and Carpenter (2005)、前記)。
【0106】
1つの局面において、内部細胞塊細胞は、ヒト出生後包皮もしくは皮膚線維芽細胞または白血病抑制因子を産生する他の細胞上で、または白血病抑制因子の存在下で培養する。関連局面においては、フィーダー細胞を、ICMと共に播種する前に不活化する。例えば、フィーダー細胞は、抗生物質を用いて有糸分裂的に不活化することができる。関連局面において、抗生物質は、これに限定されないがマイトマイシンCであってよい。
【0107】
培養は、細胞を長期間、理論的には永久に未分化の多能性状態で維持する条件下で行う。1つの態様においては、卵母細胞をカルシウムイオノフォアにより高O2圧下で単為生殖的に活性化し、その後卵母細胞を低O2圧下でセリン・スレオニンキナーゼ阻害剤と接触させる。単為生殖的活性化卵母細胞から生じたICMを高O2圧下で培養するが、この場合細胞は例えば、20% O2を含む気体混合物を用いて維持する。1つの局面において、培養可能とは、培養し得ることまたは培養に適していることを指す。関連局面において、ICMの単離は4日間の胚盤胞培養後に機械的に行い、この場合の培養はフィーダー細胞上で行う。そのような培養は例えば、免疫手術の場合のように、動物源に由来する物質を使用する必要性を排除する。
【0108】
関連局面において、ICM用の培地には、これに限定されないがヒト臍帯血清を含む非動物血清を補充し、この場合、血清は定義された培地(例えば、IVF、MediCult A/S、デンマーク;Vitrolife、スウェーデン;またはZander IVF, Inc.、フロリダ州、ベロビーチから入手可能)中に存在する。別の局面において、提供する培地および過程は動物産物を含まない。関連局面において、動物産物は、非ヒト供給源に由来する血清、インターフェロン、ケモカイン、サイトカイン、ホルモン、および増殖因子を含む産物である。
【0109】
本発明によって作製された細胞の多能性状態は、種々の方法により確認することができる。例えば、細胞を、特有のES細胞マーカーの有無に関して試験することができる。ヒトES細胞の場合、そのようなマーカーの例は前記に同定されており、これにはSSEA-4、SSEA-3、TRA-1-60、TRA-1-81、およびOCT 4が含まれ、当技術分野で公知である。
【0110】
また多能性は、適切な動物、例えばSCIDマウスに細胞を注入し、分化細胞および組織の生成を観察することによって確認することができる。多能性を確認するさらに別の方法は、本多能性細胞を用いてキメラ動物を作製し、導入した細胞の異なる細胞型への寄与を観察することである。キメラ動物を作製する方法は当技術分野で周知であり、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,642,433号に記載されている。
【0111】
多能性を確認するさらに別の方法は、分化を支持する条件下で培養した場合の(例えば、線維芽細胞フィーダー層の除去)、胚様体または他の分化細胞型へのES細胞分化を観察することである。この方法を利用して、本多能性細胞が組織培養で胚様体および異なる分化細胞型を生じることが確認された。
【0112】
完全に雌性起源のDNAに由来する生じた多能性細胞および細胞株、好ましくはヒト多能性細胞および細胞株は、多くの治療および診断適用を有する。そのような多能性細胞は、多くの疾患状態の治療において細胞移植療法または遺伝子治療(遺伝子改変されている場合)に用いることができる。
【0113】
この点で、マウス胚性幹(ES)細胞はほぼすべての細胞型に分化し得ることが知られている。したがって、本発明に従って作製されたヒト多能性(ES)細胞は、類似の分化能を有するはずである。本発明による多能性細胞は、公知の方法に従って、所望の細胞型が得られるよう分化させるために誘導される。例えば、本発明に従って作製されたヒトES細胞は、例えば分化培地中で細胞分化を提供する条件下で培養することにより、造血幹細胞、筋細胞、心筋細胞、肝細胞、島細胞、網膜細胞、軟骨細胞、上皮細胞、尿路細胞などに分化するよう誘導することができる。ES細胞の分化をもたらす培地および方法は当技術分野で公知であり、適切な培養条件も当技術分野で公知である。
【0114】
例えば、Palacios et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:7530-7537 (1995)は、幹細胞を誘導手順に供することによる胚細胞株からの造血幹細胞の生成を教示しており、これは、最初にそのような細胞の凝集物をレチノイン酸を欠く懸濁培地中で培養し、その後レチノイン酸を含む同じ培地中で培養し、次に細胞凝集物を細胞接着を提供する基質に移すことを含む。
【0115】
さらに、Pedersen, J. Reprod. Fertil. Dev., 6:543-552 (1994)は、特に造血細胞、筋細胞、心筋細胞、神経細胞を含む種々の分化細胞型を生成するための胚性幹細胞のインビトロ分化法を開示している多くの論文について言及する総説である。
【0116】
さらに、Bain et al., Dev. Biol. 168:342-357 (1995)は、神経特性を有する神経細胞を生成するための、胚性幹細胞のインビトロ分化を教示している。これらの参考文献は、胚細胞または幹細胞から分化細胞を得るための報告された方法の例である。これらの参考文献、および特に胚性幹細胞を分化させる方法に関するその中の開示内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。したがって、当業者であれば、公知の方法および培地を用いて、遺伝子改変またはトランスジェニックES細胞を含む本ES細胞を培養して、所望の分化細胞型、例えば神経細胞、筋細胞、造血細胞などを得ることができる。本明細書に記載する方法によって作製される多能性細胞は、任意の所望の分化細胞型を得るために用いることができる。分化ヒト細胞の治療的使用法は、比類なきものである。例えば、ヒト造血幹細胞は、骨髄移植を必要とする医学的治療において用いることができる。このような手順は、多くの疾患、例えば卵巣癌および白血病などの後期癌、ならびにエイズなどの免疫系を損なう疾患を治療するために用いられる。造血幹細胞は、例えば男性または女性の癌またはエイズ患者に由来する雄性または雌性DNAを除核卵母細胞と組み合わせ、上記の多能性細胞を得て、このような細胞を分化を支持する条件下で造血幹細胞が得られるまで培養することにより得ることができる。そのような造血細胞は、癌およびエイズを含む疾患の治療に用いられ得る。
【0117】
または、本多能性細胞を神経細胞株を生成する分化条件下で培養することにより、このような細胞を用いて神経障害患者を治療することができる。このようなヒト神経細胞の移植により治療可能な特定の疾患には、一例として、特にパーキンソン病、アルツハイマー病、ALS、および脳性麻痺が含まれる。パーキンソン病の特定の症例において、移植された胎児脳神経細胞が周囲の細胞と正しく連結して、ドーパミンを産生することが実証されている。これは、パーキンソン病症状の長期回復をもたらし得る。関連局面においては、手、足、および脊髄の損傷後に運動を回復させるために、神経前駆体を用いて、切断された/損傷した神経線維を再結合することができる。
【0118】
本発明の1つの目的は、卵母細胞ドナーへの自己移植に適した分化細胞を生成するために使用できる多能性ヒト細胞を、本質的に無制限に提供することである。不妊治療後に残ったまたはNTを用いて作製された胚盤胞に由来するヒト胚性幹細胞およびその分化子孫は、同種細胞移植療法に用いられた場合に、レシピエントの免疫系によって拒絶される可能性が高い。単為生殖的に導出された幹細胞は、現在の移植法に付随する重要な問題、すなわち卵母細胞ドナーに関する宿主対移植片または移植片対宿主拒絶のために起こり得る移植組織の拒絶を軽減し得る分化細胞をもたらすはずである。従来、拒絶は、シクロスポリンなどの抗拒絶剤の投与により防止または軽減される。しかしこのような薬物は、顕著な副作用、例えば免疫抑制、発癌性特性を有し、加えて非常に高価である。開示の方法により生成された細胞は、卵母細胞ドナーに関する抗拒絶剤の必要性を排除するか、または少なくとも大幅に減少させるはずである。
【0119】
本発明の別の目的は、卵母細胞ドナーの家族のメンバー(例えば、兄弟姉妹)に対する同種移植に適した分化細胞を生成するために使用できる多能性ヒト細胞を、本質的に無制限に提供することである。細胞は、卵母細胞ドナーの直接の家族メンバーの細胞と免疫学的および遺伝学的に類似しており、よってドナーの家族メンバーによって拒絶される可能性は低い。
【0120】
本方法の別の目的は、哺乳動物卵母細胞の単為生殖的活性化がSCNTと比較して比較的単純な手順であり、より少ない細胞操作で幹細胞が作製されることである。
【0121】
哺乳動物卵母細胞の単為生殖的活性化は、卵母細胞の機械的操作を必要とする方法(例えば、SCNT)よりも、幹細胞の作製においてより効率的であることが示されている。
【0122】
SCNTの1つの欠点は、ミトコンドリア呼吸鎖活性欠損を有する対象が、SCNT胎児および子孫において一般的に遭遇する異常との顕著な類似性を有する表現形を示すことである(Hiendleder et al, Repro Fertil Dev (2005) 17(1-2):69-83)。細胞は一般的に1つのミトコンドリアDNA(mtDNA)型のみを含み、これはホモプラスミーと称されるが、ヘテロプラスミーは、通常変異体および野生型mt DNA分子の組み合わせとして存在するか、または野生型変種の組み合わせを形成する(Spikings et al., Hum Repro Update (2006) 12(4):401-415)。ヘテロプラスミーはミトコンドリア病をもたらし得るため、母系のみの伝達を保証するために種々の機構が存在する。しかし、ホモプラスミーを維持するための正常な機構を迂回する手順の使用が増加していることから(例えば、細胞質移植(CT)およびSCNT)、撹乱したミトコンドリア機能が、これらの供給源に由来する幹細胞に固有となる可能性がある。
【0123】
1つの局面において、単為生殖体は片親性であるため、ヘテロプラスミーの可溶性が最小限に抑えられる。
【0124】
細胞療法により治療可能な他の疾患および病態には、一例として、脊髄損傷、多発性硬化症、筋ジストロフィー、糖尿病、急性疾患(ウイルス性肝炎、薬物過剰(アセトアミノフェン)など)、慢性疾患(慢性肝炎など(一般的に肝硬変をもたらす))、遺伝的肝臓障害(B型血友病、第IX因子欠損症、ビリルビン代謝障害、尿素回路障害、リソソーム蓄積症、a1-抗トリプシン欠乏症など)を含む肝疾患、心疾患、軟骨置換、熱傷、足部潰瘍、胃腸疾患、血管疾患、腎疾患、網膜疾患、尿路疾患、ならびに加齢関連疾患および病態が含まれる。
【0125】
この方法を用いて、欠陥遺伝子、例えば欠陥免疫系遺伝子、嚢胞性線維症遺伝子を置換すること、または増殖因子、リンホカイン、サイトカイン、酵素などの治療上有益なタンパク質の発現をもたらす遺伝子を導入することができる。
【0126】
例えば、脳由来成長因子をコードする遺伝子を本発明に従って作製されたヒト多能性細胞に導入し、この細胞を神経細胞へと分化させ、この細胞をパーキンソン病患者に移植して、このような疾患における神経細胞の消失を遅延させることができる。
【0127】
また、本多能性ヒトES細胞は、特に初期発生の調節に関与する遺伝子を研究するための、分化のインビトロモデルとして使用することができる。また、本ES細胞を用いて生成された分化細胞組織および器官は、薬物研究において用いることができる。
【0128】
さらに、本ES細胞またはこれに由来する分化細胞は、他のES細胞および細胞コロニーを作製するための核ドナーとして用いることができる。
【0129】
さらに、本開示に従って得られる多能性細胞は、胚形成に関与するタンパク質および遺伝子を同定するために用いることができる。これは、例えば示差的発現により、すなわち本発明に従って提供される多能性細胞において発現するmRNAを、これらの細胞が異なる細胞型、例えば神経細胞、心筋細胞、他の筋細胞、皮膚細胞などへと分化する際に発現するmRNAと比較することにより行い得る。こうして、どの遺伝子が特定の細胞型の分化に関与しているかを決定することが可能になると考えられる。
【0130】
さらに、デュシェーヌ型筋ジストロフィーをもたらす遺伝子異常のような特定の遺伝子異常を有するES細胞および/またはその分化子孫は、遺伝子異常に関連した特定の疾患を研究するためのモデルとして用いることができる。
【0131】
また、所望の分化細胞型の生成および増殖を誘導する条件を同定するために、記載の方法に従って作製された多能性細胞株を、様々な濃度の様々な増殖因子の混合物、および異なる細胞マトリックス上で培養するなどの異なる細胞培養条件下、または異なる気体分圧下に曝露することも、本開示の別の目的である。
【0132】
以下の実施例は本発明の説明を意図するものであって、限定を意図するものではない。
【0133】
実施例1
ヒト単為生殖胚形成幹細胞の作製
材料および方法
ドナーは、金銭的報酬を受けずに卵母細胞、卵丘細胞、および血液(DNA解析用)を自発的に提供した。ドナーは包括的なインフォームドコンセント書類に署名し、提供された材料はすべて研究のために使用し、生殖目的で使用しないことが通知された。卵母細胞ドナーは卵巣刺激の前に、ヒトの細胞、組織、ならびに細胞および組織に基づく製品のドナーに関するFDA適格性判定指針(食品医薬品局。2004年5月付の(法案)Guidance for Industry: Eligibility Determination for Donors of Human Cells, Tissues, and Cellular and Tissue Based Products (HCT/Ps))およびロシア保険省の規則N 67(02.26.03)に従って、適合性に関する健康診断を受けた。これには、X線、血液および尿検査、ならびに肝機能試験が含まれた。ドナーはまた、梅毒、HIV、HBV、およびHCV検査を受けた。
【0134】
卵母細胞は、標準的なホルモン刺激を用いて対象ドナーで過排卵を生じさせて得た。月経周期の3〜13日目に、ドナー卵子それぞれにFSHによる卵巣刺激を与えた。全部で1500 IUのFShを投与した。ドナーの月経周期の10〜14日目に、0.25 mg/日のゴナドリベリン拮抗薬Orgalutran(Organon、オランダ)を注射した。ドナーの月経周期の12〜14日目に、75 IU FSH+75 IU LH(Menopur、Ferring GmbH、ドイツ)を毎日注射した。ドナーの月経周期の14日目に、超音波検査により直径18 mm〜20 mmの卵胞が示されるという条件において、単回8000 IU用量のhGC(Choragon、Ferring GmbH、ドイツ)を投与した。およそ16日目であるhCG注射の約35時間後に、経膣穿刺を行った。超音波誘導下針吸引により、麻酔したドナーの胞状卵胞から卵胞液を滅菌試験管に採取した。
【0135】
卵胞液から卵丘卵母細胞複合体(COC)を取り出し、Flushing Medium(MediCult)で洗浄し、その後流動パラフィン(MediCult)重層を伴うUniversal IVF培地(MediCult、表1を参照)中、37℃加湿雰囲気において20% O2、5% CO2下で2時間インキュベートした。
【0136】
(表1)IVF培地
【0137】
活性化の前に、卵丘卵母細胞複合体(COC)をSynVitro Hyadase(Medicult, A/S、デンマーク)で処理して卵丘細胞を除去し、その後パラフィン重層したUniversal IVF培地中で30分間インキュベートした。
【0138】
この時点以後、卵母細胞および胚の培養は、イオノマイシン処理を除いて、酸素低減気体混合物(90% N2+5% O2+5% CO2)を用いて37℃の加湿雰囲気下で行った。卵母細胞は、20% O2、5% CO2という気体環境下の37℃のCO2インキュベーター内で5μMイオノマイシン中で5分間インキュベートし、その後90% N2、5% O2、および5% CO2、37℃でいう気体環境において、パラフィン重層したIVF培地中で1 mM 6-ジメチルアミノプリン(DMAP)と共に4時間培養することにより活性化した。次いで、卵母細胞をIVFで3回洗浄した。活性化および培養は、4ウェルプレート(Nunclon, A/S、デンマーク)で、流動パラフィン油(MediCult, A/S、デンマーク)を重層した培地500μl中で行った。
【0139】
活性化卵母細胞は、5% O2、5% CO2、および90% N2を含む気体環境においてIVF培地中で培養し、活性化卵母細胞から作製された胚も同じ気体混合物中で培養した。
【0140】
活性化卵母細胞は、胚盤胞スコアづけ改良(Blastocyst Scoring Modification)で1AAまたは2AA(Shady Grove Fertility Center、メリーランド州、ロックビル、およびGeorgia Reproductive Specialists、ジョージア州、アトランタ)である、内部細胞塊(ICM)を含む十分に拡張した胚盤胞が観察されるまで、上記条件 (すなわち、低O2圧)下でIVF中でインキュベートした。
【0141】
0.5%プロナーゼ(Sigma、セントルイス)処理により、透明帯を除去した。ヒト脾臓細胞に対するウマ抗血清と共にインキュベートし、その後モルモット補体に曝露する免疫手術により、胚盤胞からICMを単離した。処理した胚盤胞を穏やかにピペッティングして、栄養外胚葉細胞をICMから除去した。
【0142】
胚盤胞全体からICMを誘導する場合には、10%ヒト臍帯血血清、5 ng/mlヒト組換えLIF(Chemicon Int'l, Inc.、カリフォルニア州、テメキュラ)、4 ng/ml組換えヒトFGF(Chemicon Int'l, Inc.、カリフォルニア州、テメキュラ)、およびペニシリン・ストレプトマイシン(100 U/100μg)を添加した、phESCの培養用に設計された培地(すなわち、VitroHES(商標)培地(例えば、DMEM/高グルコース培地、VitroLife、スウェーデン)により、胚盤胞をフィーダー層上に乗せた。胚盤胞が接着し、栄養膜細胞が拡張した時点で、ICMが目に見えるようになった。さらに3〜4日間培養し、細く引いたガラスピペットを用いて、栄養外胚葉生成物からICMを機械的に薄く切り取ることによりICMを単離した。さらに、IMC細胞を、96ウェルプレートでVitroHES(商標)培地(上記の通りに処方)中、有糸分裂的に不活化した出生後ヒト皮膚線維芽細胞のフィーダー細胞層上で、5% CO2および20% O2、37℃で培養した。この気体混合物を用いて幹細胞を培養した。ヒト線維芽細胞培養物は、非動物材料を用いて作製した。線維芽細胞の不活化は、10μg/mlマイトマイシンC(Sigma、ミズーリ州、セントルイス)を用いて3時間行った。
【0143】
別の方法においては、胚盤胞をヒト脾臓細胞に対するウマ抗血清と共にインキュベートし、その後ウサギ補体に曝露することにより免疫手術を行った。処理した胚盤胞を穏やかにピペッティングして、栄養外胚葉細胞をICMから除去した。単離されたICMのさらなる培養は、ヒト臍帯血血清を含む培地を用いて導出された、遺伝的に非関連の個体から得られた(親の同意を得て)新生児ヒト皮膚線維芽細胞(HSF)のフィーダー層上で行った。HSFフィーダー層は、マイトマイシンCを用いて有糸分裂的に不活化した。
【0144】
HSFを培養するための培地は、90% DMEM(高グルコース、L-グルタミン(Invitrogen)、10%ヒト臍帯血血清、およびペニシリン・ストレプトマイシン(100 U/100 mg)を添加 Invitrogen)からなった。
【0145】
ICMおよびphESCの培養には、4 ng/ml hrbFGF、5 ng/ml hrLIF、および10%ヒト臍帯血血清を添加したVitroHES(商標)(Vitrolife)を使用した。ICMを新鮮なフィーダー層上に機械的にプレーティングし、3〜4日間培養した。培養して5日後に、最初のコロニーを機械的に切断し、再プレーティングした。その後の継代はすべて、5〜6日間の培養後に行った。初期の継代では、コロニーを機械的に凝集塊に分割して、再プレーティングした。phESCのさらなる継代は、IV型コラゲナーゼ処理および機械的解離により行った。phESCの増殖は、加湿雰囲気において37℃、5% CO2で行った。
【0146】
卵母細胞の活性化
最初のドナーから卵母細胞4個を活性化し、活性化卵母細胞を5% O2、5% CO2、および90% N2を含む気体環境においてIVF培地中で培養し、5日間にわたり追跡した。表2は、活性化卵母細胞の成熟の過程を示す。卵母細胞はそれぞれ4ウェルプレートで分離した。
【0147】
(表2)活性化卵母細胞の培養*
*細胞は、1日目はM1(商標)培地(MediCult)中で、2〜5日目はM2(商標)培地(MediCult)中で培養した。培地は毎日交換した。M1(商標)およびM2(商標)は、ヒト血清アルブミン、グルコースおよび派生代謝産物、生理的塩類、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン類、ヌクレオチド、炭酸水素ナトリウム、ストレプトマイシン(40 mg/l)、ペニシリン(40,000 IU/l)、ならびにフェノールレッドを含んでいた。
【0148】
N4から内部細胞塊を単離し、上記に概説した通りにヒト線維芽細胞フィーダー細胞に移した。N1およびN2は6日目に変性した。さらに、6日目に、N3はICM 2ABの十分に拡張した胚盤胞を生じた。そこで、6日目にN3をヒト線維芽細胞フィーダー細胞に移した。N4由来のICMは変化しなかった。N3を用いて幹細胞を単離した。
【0149】
ICM細胞を、5% CO2および95% N2を含む気体環境においてVitroHES(商標)中で培養し、45日間にわたり追跡した。表2aは、N3 ICM細胞培養の過程を示す。
【0150】
(表2a)N3-ICM培養の過程*
*細胞は、M2(商標)培地(MediCult)で培養した。
**これらの継代は、プロナーゼ消化により行った。
【0151】
幹細胞の単離
ドナー5名による卵母細胞から、MediCult培地の使用およびその後の低減酸素下での培養により、培養の5および6日目に胚盤胞23個が生成された。この胚盤胞のうち11個は、目に見えるICMを有していた(表3)。
【0152】
(表3)単為生殖体および単為生殖胚性幹細胞株の作製
1-卵母細胞2個は活性化されなかった;2-卵母細胞1個は活性化後に変性した;3-卵母細胞1個は活性化されなかった;4-卵母細胞2個は中期Iにあったため廃棄した。
【0153】
これらの結果から、単為生殖的活性化卵母細胞からの胚盤法の形成は約57.5%の成功率であることが示される。
【0154】
免疫組織化学染色
免疫染色のため、フィーダー層上のhES細胞コロニーおよびphESC細胞をマイクロカバーガラス上に播種し、PBSで2回洗浄し、100%メタノールで-20℃にて5分間固定した。細胞をPBS+0.05% Tween-20で2回洗浄し、PBS+0.1% Triton X-100で室温にて10分間透過処理した。細胞を洗浄した後、ブロッキング溶液(PBS+0.05% Tween-20+4パーセントヤギ血清+3パーセントヒト臍帯血血清)を用いて室温(RT)で30分間インキュベートすることにより、非特異的結合をブロッキングした。モノクローナル抗体をブロッキング溶液で希釈し、RTで1時間使用した:ChemiconによるSSEA-1(MAB4301)(1:30)、SSEA-3(MAB4303)(1:10)、SSEA-4(MAB4304)(1:50)、OCT-4(MAB4305)(1:30)、TRA-1-60(MAB4360)(1:50)、およびTRA-1-81(MAB4381)(1:50)。細胞を洗浄した後、二次抗体Alexa Fluor 546(オレンジ色蛍光)および488(緑色蛍光)(Molecular Probes、Invitrogen)をPBS+0.05% Tween-20で1:1000希釈し、RTで1時間適用した。細胞を洗浄し、核をPBS+0.05% Tween-20中のDAPI(Sigma) 0.1μg/mlでRTにて10分間染色した。細胞を洗浄し、Mowiol(Calbiochem)でスライド上に封入した。蛍光顕微鏡により蛍光像を可視化した。
【0155】
3週齢の胚様体におけるまたは収縮性胚様体における中胚葉マーカーの検出には、筋特異的マーカーとしてのモノクローナルマウス抗デスミン抗体、抗ヒトαアクチニン抗体(Chemicon)、および内皮マーカーとしての抗ヒトCD31/PECAM-1抗体(R&D Systems)、抗ヒトVEカドヘリン(DC144)抗体(R&D Systems)を使用した。
【0156】
胚様体における内胚葉マーカーの検出には、モノクローナルマウス抗ヒトα-フェトプロテイン抗体(R&D Systems)を使用した。
【0157】
アルカリホスファターゼおよびテロメラーゼ活性
アルカリホスファターゼおよびテロメラーゼ活性は、APキットおよびTRAPEZE(商標)キット(Chemicon)を用いて製造業者の仕様書に従って行った。
【0158】
核型分析
核型を分析するため、hES細胞を10μg/mlデメコルチン(Sigma)で2時間処理し、0.05%トリプシン/EDTA(Invitrogen)で回収し、700 x rpmで3分間遠心分離した。ペレットを0.56% KCl 5 mlで再懸濁し、RTで15分間インキュベートした。遠心分離を繰り返した後、上清を除去し、細胞を再懸濁して、メタノール/酢酸(3:1)の氷冷混合物 5 mlで+4℃にて5分間固定した。細胞の固定を2回繰り返した後、細胞懸濁液を顕微鏡スライド上に乗せ、標本をギムザ改良染色液(Sigma)で染色した。この様式で調製した細胞による中期のものを、標準的なGバンド法で分析した。5/1000という数の中期展開物が明らかとなり、中期のもの63個を分析した。
【0159】
胚様体の形成
hESおよびphESC細胞コロニーを機械的に凝集塊に分割し、85%ノックアウトDMEM、15%ヒト臍帯血血清、1 x MEM NEAA、1 mM Glutamax、0.055 mM β-メルカプトエタノール、ペニシリン・ストレプトマイシン(50 U/50 mg)、4 ng/ml hrbFGF(血清以外すべてInvitrogen)を含む培地中、1.5%アガロース(Sigma)で予め被覆した24ウェルプレートのウェルに入れた。ヒトEBを懸濁培養で14日間培養し、培養皿に入れて成長させるか、または懸濁状態でさらに1週間培養した。
【0160】
培養皿表面に接着した2週齢胚様体を、分化培地:DMEM/F12、B27、2 mM Glutamax、ペニシリン・ストレプトマイシン(100 U/100μg)、および20 ng/ml hrbFGF(すべてInvitrogen)中で1週間にわたって培養することにより、神経分化を誘導した。いくつかの胚様体は神経形態を有する分化細胞を生じ、他の胚様体は解離し、ニューロスフェアを生成するようさらに培養した。
【0161】
胚様体の形成に使用したのと同じ培地で接着表面上にプレーティングしてから5日後に、律動的に拍動する胚様体が自発的に現れた。
【0162】
HLAタイピング
ドナー血液、hES、phESC細胞、およびヒト新生児皮膚線維芽細胞(NSF)から、Dynal製Dynabeads DNA Direct Blood(Invitrogen)を用いてゲノムDNAを抽出した。HLAタイピングは、製造業者の仕様書に従って、対立遺伝子特異的配列プライマー(PCR-SSP、Protrans)を用いてPCRにより行った。HLAクラスI遺伝子(HLA A*、B*、Cw*)は、A*01-A*80、B*07-B*83、Cw*01-Cw*18領域を規定するPROTRANS HLA A* B* Cw*を用いてタイピングした。HLAクラスII遺伝子(HLA DRB1*、DRB3*、DRB4*、DRB5*、DQA1*、DQB1*)は、DRB1*01-DRB1*16(DR1-DR18)、DRB3*、DRB4*、DRB5*領域を規定するPROTRANS HLA DRB1*、およびDQB1*02-DQB1*06(DQ2-DQ9)、DQA1*0101-DQA1*0601領域を規定するPROTRANS HLA DQB1* DQA1*を用いて解析した。PCR増幅は:94℃で2分;94℃で10秒、65℃で1分の10サイクル;94℃で10秒、61℃で50秒、72℃で30秒の20サイクルで達成した。増幅産物は2%アガロースゲルで検出した。
【0163】
Affimetrix SNPマイクロアレイ解析
血液、卵丘細胞、phESC、およびNSFから、フェノール/クロロホルム抽出法によりゲノムDNAを単離した。Affimetrix Mapping 50K Hind 240 Array(Affimetrix GeneChip Mapping 100Kキットの一部)を用いて、白人対象4名から得られたこれらのDNA試料の遺伝子型を同定した。データセットは当初、57,244個の2成分性SNPマーカーを含んでいた。このマーカー数は、ゲノム試料の等価性を同定するためおよびヘテロ接合性を試験するために必要な数よりも多いため、常染色体22本のうち15本(第1〜15染色体)を選択した。無作為抽出中に所与の染色体に関してマーカーが選択されない、または単一のマーカーしか選択されないという可能性を減らすため、短い7本の染色体は除いた。マーカー1,459個を、Relcheck(バージョン0.67、著作権(著作権) 2000 Karl W. Broman、Johns Hopkins University、GNU一般公有使用許諾バージョン2(1991年6月)の下で許可される)によって解析した。
【0164】
ゲノム刷り込み解析
Li et al. (J Biol Chem (2002) 277(16):13518-13527)の記載する通りに、全核酸を調製した。Tri試薬(Sigma)を用いて、またはQiagen(カリフォルニア州、バレンシア)によるRNA調製キットを用いて、細胞からRNAおよびDNAを抽出した。
【0165】
種々の試料(図3を参照)に由来するRNAを含むノーザンブロットを、標準的な方法によりフィルター上にブロットした(例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 1989, 2nd ed, Cold Spring Harbor Pressを参照されたい)。ノーザンフィルターを、mRNAに特異的にハイブリダイズする単一の標準的なオリゴヌクレオチドプローブとハイブリダイズさせた。オリゴヌクレオチドプローブは、[γ32P]ATP(Amersham Biosciences)で末端標識した。その後フィルターを、0.1% SDSを含む0.2 X SSC(1 X SSC=0.15 M NaClおよび0.015 Mクエン酸ナトリウム)で、60℃にてそれぞれ10分間で3回洗浄し、PhosphorImager(Molecular Dynamics)により解析した。オリゴヌクレオチドプローブの配列は、以下のアクセッション番号に基づく配列から入手した:NP002393(Peg1_2およびPeg1_A;これらの遺伝子に関しては、ヒトPEG1が2つの別のプロモーターから転写されて、2つのアイソフォームの転写産物をもたらし、そのうちの一方(アイソフォーム1_2)のみが刷り込まれる。父性発現アイソフォーム1は、父性対立遺伝子のエキソン1中の非メチル化CpGアイランドと協同して起こり、一方、母性遺伝子(アイソフォーム1_A)中の対応するCpGアイランドは十分にメチル化されている。例えば、Li et al. (2002)、前記を参照されたい);CAG29346(SNRPN);AF087017(H19);NR_001564(不活性X特異的転写産物-XIST);およびP04406(GAPDH)。
【0166】
DNAフィンガープリント解析
血液、hES細胞、およびNSFから、フェノール/クロロホルム抽出によりゲノムDNAを単離し、HinfI制限酵素(Fermentas)で消化し、0.8%アガロースゲルに負荷した。電気泳動した後、変性DNAをサザンブロッティングによりナイロン膜(Hybond N、Amersham)に転写し、32P標識(CAC)5オリゴヌクレオチドプローブとハイブリダイズさせた。Cronex増感スクリーンを用いてX線フィルム(Kodak XAR)上に膜を曝露した後、データを解析した。
【0167】
単一遺伝子座PCR遺伝子型同定
血液ドナーDNAと幹細胞DNAとの間でミニサテライト遺伝子座に関して対立遺伝子同一性を決定するため、11の多型部位((1) 3'アポリポタンパク質B超可変ミニサテライト遺伝子座(3'ApoB);(2) D1S80(PMCT118)超可変ミニサテライト遺伝子座(D1S80);(3) D6S366;(4) D16S359;(5) D7S820;(6) ヒトフォンウィルブランド因子遺伝子超可変ミニサテライト遺伝子座II(vWFII);(7) D13S317;(8) ヒトフォンウィルブランド因子遺伝子超可変ミニサテライト遺伝子座(vWA);(9) CFS-1受容体遺伝子のヒトc-fms癌原遺伝子マイクロサテライト遺伝子座(CSF1PO);(10) ヒト甲状腺ペルオキシダーゼ遺伝子マイクロサテライト遺伝子座(TPOX);および(11) ヒトチロシン水酸化酵素遺伝子マイクロサテライト遺伝子座(TH01))を、PCR遺伝子型同定により解析した。上記の多型部位に関して決定された公知の集団(すなわち、ロシア人および白人-アメリカ人集団)の対立遺伝子頻度を、試験試料(すなわち、hES、NSF、およびドナー血液DNA)におけるこれらの部位の対立遺伝子頻度と比較した。染色体位置、Genbank遺伝子座および遺伝子座定義、反復配列データ、対立遺伝子ラダー範囲、VNTRラダーサイズ範囲、他の公知の対立遺伝子、対立遺伝子サイズ、PCR手順、および解析された開示集団の11のミニサテライト遺伝子座に関する対立遺伝子頻度結果を以下に提供する。
【0168】
(1) 3'アポリポタンパク質B超可変ミニサテライト遺伝子座(3'ApoB VNTR)
染色体位置:2p23-p23
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:APOB、アポリポタンパク質B(Ag(x)抗原を含む)非翻訳領域
反復配列5'-3':
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):450+10+2プライマー+連結
VNTRラダーサイズ範囲(反復数、Ludwig et al, 1989による):30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52
他の公知の対立遺伝子(反復数):25、27、28、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、54、55
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):36/36
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、1分
伸長およびプライマー連結 60℃、2分
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0169】
解析は、Verbenko et al. (Apolipoprotein B 3'-VNTR polymorphism in Eastern European populations. Eur J Hum Gen (2003) 11(1):444-451)に記載されている通りに行い得る。表4を参照されたい。
【0170】
(表4)ロシア人集団の対立遺伝子頻度
【0171】
(2) D1S80(pMCT118)超可変ミニサテライト遺伝子座(D1S80 VNTR)
染色体位置:1p35-36
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:ヒトD1S80およびMCT118遺伝子
反復配列5'-3':
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):387-762
VNTRラダーサイズ範囲(反復数):16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、34、35、36、37、40、41
他の公知の対立遺伝子(反復数):13、14、15、38、39、>41
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):18/29
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、45秒
プライマー連結 60℃、30秒
伸長 72℃、45秒
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0172】
解析は、Verbenko et al. (Allele frequencies for D1S80 (pMCT118) locus in some Eastern European populations. J Forensic Sci (2003) 48(l):207-208)に記載されている通りに行い得る。表5を参照されたい。
【0173】
(表5)ロシア人集団の対立遺伝子頻度
【0174】
(3) D6S366
染色体位置:6q21-qter
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:該当なし
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):150-162
STRラダーサイズ範囲(反復数):12、13、15
他の公知の対立遺伝子(反復数):10、11、14、16、17
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):13/14
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、1分
伸長およびプライマー連結 60℃、2分
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0175】
解析は、Efremov et al. (An expert evaluation of molecular genetic individualizing systems based on the HUMvWFII and D6S366 tetranucleotide tandem repeats. Sud Med Ekspert (1998) 41(2):33-36)に記載されている通りに行い得る。表6を参照されたい。
【0176】
(表6)ロシア人集団の対立遺伝子頻度
【0177】
(4) D16S539
染色体位置:16q24-qter
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:該当なし
反復配列5'-3':(AGAT)n
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):264-304
STRラダーサイズ範囲(反復数):5、8、9、10、11、12、13、14、15
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):11/12
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、45秒
プライマー連結 64℃、30秒
伸長 72℃、30秒
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0178】
解析は、GenePrint(登録商標) STRシステム(銀染色検出)技術マニュアル番号D004、Promega Corporation、米国、ウィスコンシン州、マディソン:1993-2001に記載されている通りに行った。表7を参照されたい。
【0179】
(表7)白人-アメリカ人の対立遺伝子頻度
【0180】
(5) D7S820
染色体位置:7q11.21-22
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:該当なし
反復配列5'-3':(AGAT)n
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):215-247
VNTRラダーサイズ範囲(反復数):6、7、8、9、10、11、12、13、14
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):9/11
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、45秒
プライマー連結 64℃、30秒
伸長 72℃、30秒
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0181】
解析は、GenePrint(登録商標) STRシステム(銀染色検出)技術マニュアル番号D004、Promega Corporation、米国、ウィスコンシン州、マディソン:1993-2001に記載されている通りに行った。表8を参照されたい。
【0182】
(表8)異なる集団におけるD7S820の対立遺伝子頻度
【0183】
(6) ヒトフォンウィルブランド因子遺伝子超可変ミニサテライト遺伝子座II(vWFII)
染色体位置:12p13.3-12p13.2
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:HUMvWFII、ヒトフォンウィルブランド因子遺伝子
反復配列5'-3':(ATCT)n/(AGAT)n
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):154-178
STRラダーサイズ範囲(反復数):9、11、12、13
他の公知の対立遺伝子(反復数):8、10、14、15
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):13/13
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、1分
伸長およびプライマー連結 60℃、2分
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0184】
解析は、Efremov et al. (An expert evaluation of molecular genetic individualizing systems based on the HUMvWFII and D6S366 tetranucleotide tandem repeats. Sud Med Ekspert (1998) 41(2):33-36)に記載されている通りに行い得る。表9を参照されたい。
【0185】
(表9)ロシア人集団の対立遺伝子頻度
【0186】
(7) D13S317
染色体位置:13q22-q31
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:該当なし
反復配列5'-3':(AGAT)n
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):165-197
STRラダーサイズ範囲(反復数):8、9、10、11、12、13、14、15
他の公知の対立遺伝子(反復数):7
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):8/8
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、45秒
プライマー連結 64℃、30秒
伸長 72℃、30秒
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0187】
解析は、GenePrint(登録商標) STRシステム(銀染色検出)技術マニュアル番号D004、Promega Corporation、米国、ウィスコンシン州、マディソン:1993-2001に記載されている通りに行った。表10を参照されたい。
【0188】
(表10)異なる集団におけるD13S317の対立遺伝子頻度
【0189】
(8) ヒトフォンウィルブランド因子遺伝子超可変ミニサテライト遺伝子座(vWA)
染色体位置:12p12pter
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:HUMVWFA31、ヒトフォンウィルブランド因子遺伝子
反復配列5'-3':(AGAT)n
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):139-167
STRラダーサイズ範囲(反復数):14、16、17、18
他の公知の対立遺伝子(反復数):11、12、13、15、19、20、21
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):16/16
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、1分
伸長およびプライマー連結 60℃、2分
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0190】
解析は、GenePrint(登録商標) STRシステム(銀染色検出)技術マニュアル番号D004、Promega Corporation、米国、ウィスコンシン州、マディソン:1993-2001に記載されている通りに行った。表11を参照されたい。
【0191】
(表11)異なる集団におけるHUMVWFA31の対立遺伝子頻度
【0192】
(9) CSF-1受容体遺伝子のヒトc-fms癌原遺伝子マイクロサテライト遺伝子座(CSF1PO)
染色体位置:5q33.3-34
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:HUMCSF1PO、ヒトc-fms癌原遺伝子
反復配列5'-3':(AGAT)n
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):295-327
STRラダーサイズ範囲(反復数):7、8、9、10、11、12、13、14、15
他の公知の対立遺伝子(反復数):6
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):9/10
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、45秒
プライマー連結 64℃、30秒
伸長 72℃ 30秒
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0193】
解析は、GenePrint(登録商標) STRシステム(銀染色検出)技術マニュアル番号D004、Promega Corporation、米国、ウィスコンシン州、マディソン:1993-2001に記載されている通りに行った。表12を参照されたい。
【0194】
(表12)白人-アメリカ人の対立遺伝子頻度
【0195】
(10) ヒト甲状腺ペルオキシダーゼ遺伝子マイクロサテライト遺伝子座(TPOX)
染色体位置:2p25.1-pter
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:HUMTPOX、ヒト甲状腺ペルオキシダーゼ遺伝子
反復配列5'-3':(AATG)n
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):224-252
STRラダーサイズ範囲(反復数):6、7、8、9、10、11、12、13
他の公知の対立遺伝子(反復数):なし
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):8/9
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、45秒
プライマー連結 64℃、30秒
伸長 72℃ 30秒
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0196】
解析は、GenePrint(登録商標) STRシステム(銀染色検出)技術マニュアル番号D004、Promega Corporation、米国、ウィスコンシン州、マディソン:1993-2001に記載されている通りに行った。表13を参照されたい。
【0197】
(表13)白人-アメリカ人の対立遺伝子頻度
【0198】
(11) ヒトチロシン水酸化酵素遺伝子マイクロサテライト遺伝子座(TH01)
染色体位置:5q33.3-34
Genbank遺伝子座および遺伝子座定義:HUMTHO1、ヒトチロシン水酸化酵素遺伝子
反復配列5'-3':(AATG)n
対立遺伝子ラダーサイズ範囲(塩基):179-203
STRラダーサイズ範囲(反復数):5、6、7、8、9、10、11
他の公知の対立遺伝子(反復数):9.3
Promega K562 DNA(登録商標)対立遺伝子サイズ(反復数):9.3/9.3
PCR手順:
サーマルサイクラー:DNA Technology Ltd.、ロシア
最初のインキュベーション: 95℃、2分
30サイクルのサイクリング:
変性 94℃、45秒
プライマー連結 64℃、30秒
伸長 72℃ 30秒
伸長段階: 72℃、5分
保持段階: 4℃、無制限
【0199】
解析は、GenePrint(登録商標) STRシステム(銀染色検出)技術マニュアル番号D004、Promega Corporation、米国、ウィスコンシン州、マディソン:1993-2001に記載されている通りに行った。表14を参照されたい。
【0200】
(表14)白人-アメリカ人の対立遺伝子頻度
【0201】
結果
本方法によるhES細胞は、胚性幹細胞に典型的な多くの特徴:細胞質脂肪体、低い細胞質/核比、および明白に識別可能な核小体を示す。hES細胞コロニーは、インビトロ受精後に導出されたヒト胚性幹細胞に関して以前に報告された形態と類似の形態を示す。細胞は、アルカリホスファターゼ(図1A)、オクタマー結合転写因子4 mRNA(Oct-4)(図1B)、時期特異的胚抗原1(SSEA-1)(図1C)、時期特異的胚抗原3(SSEA-3)(図1D)、時期特異的胚抗原4(SSEA-4)(図1E)、腫瘍拒絶抗原1-60(TRA-1-60)(図1F)、腫瘍拒絶抗原1-81(TRA-1-81)(図1G)に関して免疫反応陽性であり、時期特異的胚抗原1(SSEA-1)(図1C)(マウス胚性幹細胞では陽性であるが、ヒトでは陽性ではない)に関して陰性であった。テロメラーゼ活性は複製不死性と相関する場合が多く、典型的に生殖細胞、癌細胞、および幹細胞を含む種々の幹細胞で発現し、大部分の体細胞型には存在しない。3カ月のインビトロ増殖後に本方法によって調製した細胞は、その未分化形態を維持し、高レベルのテロメラーゼ活性を示した(図2A)。細胞の多能性は胚様体の形成によりインビトロで調べ(図2B、2C)、Gバンド核型分析から、細胞が正常なヒト46XX核型を有することが示される(図2D)。
【0202】
卵母細胞ドナーの血液、ES細胞、およびHNSFフィーダー細胞において、サザンブロッティングおよび32P標識(CAC)sオリゴヌクレオチドプローブを用いたハイブリダイゼーション(図2E)、ならびに異なる遺伝子座での単一遺伝子座ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によりDNAフィンガープリント解析を行った。
【0203】
単一遺伝子座PCRでは、遺伝子型同定から、血液(ドナー) DNAとOL1 DNAとの間で、(D7S820 1つを除く)すべての遺伝子座について対立遺伝子が同一であることが明らかになった。表15を参照されたい。
【0204】
(表15)単一遺伝子座PCR遺伝子型同定
【0205】
すべてのヘテロ接合性ドナー遺伝子座(D7S820 1つを除く)のヘテロ接合性(ヘテロ接合)は、hES遺伝子座において変化していなかった。hES DNAにおけるD7S820のホモ接合性(ホモ接合)は、DNA複製およびDNA修復中の見落とし鎖誤対合による変異(マイクロサテライト反復中への1つのAGATモノマーの挿入)の結果である。
【0206】
これらの結果は、多遺伝子座DNAフィンガープリントで得られた結果(ドナーDNAおよびhES DNAに関して実質的に同一のフィンガープリントパターンが認められた)と一致する。
【0207】
図2Eから、hES細胞のヘテロ接合性、および卵母細胞ドナーの血液とのその同一性、ならびにhES細胞とフィーダー細胞との間に類似性が存在しないことが実証される。hES細胞株のDNAプロファイルを、MHCクラスIおよびクラスII内の多型遺伝子を用いるPCRに基づくハプロタイプ解析によって確認した。卵母細胞ドナー血液細胞、hES細胞、およびフィーダーHNSFによる全ゲノムDNAを遺伝子型同定し、比較した。データから、hES細胞とドナー血液の細胞が相互に識別不能であり、したがって自己のものと見なされ、いずれもフィーダー細胞のDNAと区別されるはずであることが実証された(表16)。
【0208】
(表16)HLAタイピング
【0209】
DNAフィンガープリントおよびHLAタイピング解析から、hES細胞がヘテロ接合性であり、ドナーの遺伝物質全体を含むことが確認された。これらの結果は、単為生殖サル幹細胞株によるデータと一致するが(Vrana et al., Proc Natl Acad Sci USA (2003) 100(Suppl 1):11911-11916)、単為生殖マウス幹細胞株によるデータとは一致せず(Lin et al., Stem Cells (2003) 21:153-161)、この幹細胞はドナー遺伝物質の半分を含む。
【0210】
phESC株は、hES細胞で予測される形態、細胞が密に詰まったコロニーの形成、顕著な核小体、および低い細胞質対核比示す(図4)。これらの細胞は、従来のhESマーカー、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81、およびOCT-4を発現し、未分化マウス胚性幹細胞の陽性マーカーであるSSEA-1を発現しない(図4)。いずれの株に由来する細胞も、高レベルのアルカリホスファターゼおよびテロメラーゼ活性を示す(図5および図6)。Gバンド核型分析から、phESC-7株を例外として、phESC株が正常なヒト46,XX核型を有することが示された(図7)。phESC-7株の細胞の約91%が47,XXX核型を有し、9%の細胞が48,XXX,+6核型を有する。株において異なる程度のX染色体異形が認められた;phESC-1およびphESC-6株の約12%;phESC-5株の42%;ならびに細胞株phESC7、phESC-3、およびphESC-4のそれぞれ70、80、および86%(図7)。
【0211】
全phESC株、ドナー体細胞、およびフィーダー細胞において、比較DNAプロファイリングを行った。これらの試験では、染色体変化を調べるため、およびドナーの体細胞とのphESCの遺伝的類似性を確認するために、Affimetrix SNPマイクロアレイ(Mapping 50K Hind 240 Array)を使用した。phESC株とその関連ドナー体細胞との対をなす遺伝子型関係はすべて「完全同胞」であると同定され、他の組み合わせの対はすべて「非関連」であると同定された。内部対照により、同じphESC株に由来する分割培養物間の対をなす遺伝子型関係は、「一卵性双生児」であると同定された(表17、データベースS1)。
【0212】
(表17)データベースS1
phESCおよび関連ドナー由来のDNA試料を同定するデータベースS1
DNA試料は以下のように番号付けした:1-ヒト新生児皮膚線維芽細胞;2-phESC-7株ドナー;3-phESC-7株;4-phESC-1株;5-phESC-1株;6-phESC-3株;7-phESC-4株;8-phESC-5株;9-phESC-6株;10-phESC-6株ドナー;11-phESC-3〜phESC-5株ドナー;および12-phESC-1株ドナー。
結果から、1対(試料4-5)のみが一卵性(MZ)双生児であると同定されたことが示される。他の10対(試料2-3、4-12、5-12、6-7、6-11、7-8、7-11、8-11、9-10)は完全同胞であると同定され、他の組み合わせの対はすべて非関連であると同定された。出力中のIBS欄は、対が同定され、0、1、または2対立遺伝子状態同一を共有するマーカーの数を示す(遺伝子型同定に誤差のない理想的な条件下におけるMZ双生児では、すべてのマーカーがIBS=2に位置しなくてはならない)。出力はP(観察されたマーカー|所与の関係)を直接示していないが、類似性の尺度として、LODスコア‐log10{P(観察されたマーカー|推定される関係/P(観察されるマーカー/最大尤度が得られ、よってコールが作成された関係)}を示す。LODスコアが小さいほど、2つの試料間の推定される関係の可能性が低いことを示す。
【0213】
SNPマーカー1,459個の比較解析からphESCヘテロ接合性が明らかとなり、関連のドナー体細胞遺伝子型と比較して、phESC細胞遺伝子型に変化が起こったことが示された。以前にヘテロ接合性であった体細胞ゲノムのいくつかの部分は、関連のphESC細胞株ゲノムにおいてホモ接合性になっていた。このヘテロ接合性からホモ接合性へのパターンは、phESC-1、PhESC-3、phESC-4、phESC-5、およびphESC-6株の11〜15%で起こり、phESC7株では19%であった(データベースS2)。さらに、同じ卵母細胞ドナーに由来したphESCとphESC5-株の間で、遺伝子の相違が認められた(表18、データベースS2)。
【0214】
(表18)データベースS2
データベースS2 phESC(「pC」と略す)株のヘテロ接合性
結果から、導出されたphESC株のヘテロ接合性が示され、関連ドナー遺伝子型との比較により遺伝子型の変化が示される。ドナーゲノムのヘテロ接合性部分の一部は、phESCにおいてホモ接合性になっていた。染色体-染色体番号;RS ID-dbSNPデータベースにおけるRS番号;塩基対-Affimetrix GeneChipにより記録されている塩基対距離;白人における頻度A-白人集団におけるA対立遺伝子の頻度。
【0215】
以前の研究では、マウス卵母細胞の単為生殖的活性化によってホモ接合性胚性幹細胞株が生じた(Lin et al., Stem Cells (2003) 21:152)。ヒト卵母細胞では、卵母細胞の単為生殖的活性化後の第2減数分裂の抑制および二倍体胚の生成により、完全にホモ接合性のhES細胞は導出されない。
【0216】
HLAタイピングの結果に基づくと、いずれのphESC株に由来する分化細胞も卵母細胞ドナーと完全に組織適合性であるはずであり、よってこれは治療用途の細胞を作製するための方法となる(表19)。
【0217】
(表19)phESC細胞株のHLAタイピング
【0218】
フィーダー細胞として使用したヒト線維芽細胞に由来する遺伝物質のDNAプロファイリングから、phESC細胞株へのヒト線維芽細胞由来物質の混入がないことが明らかとなった(表19)。
【0219】
phESC-1株は、35継代に及ぶ10カ月の培養中、未分化のままであった。他の細胞株も、少なくとも21継代にわたり培養に成功した。いずれのphESC株に由来する細胞も懸濁培養で胞状胚様体を形成し、インビトロでの分化後に全3つの胚葉:外胚葉、中胚葉、および内胚葉の派生物を生じた(図4)。phESC-1株による胚様体の約5%が、プレーティングして5日後に拍動する細胞を生じた。phESC-6株は、色素上皮様細胞を生成した(図4I、K)。外胚葉分化は、神経特異的マーカー神経フィラメント68(図4A)、NCAM(図4B)、βIII-チューブリン(図4C)、およびグリア細胞マーカーGFAP(図4D、M)の陽性免疫細胞化学染色により示される。分化細胞は、筋特異的マーカーであるα-アクチニン(図4G)およびデスミン(図4J)、ならびに内皮マーカーPECAM-1(図4E)およびVE-カドヘリン(図4F)を含む中胚葉マーカーに関して陽性であった。内胚葉分化は、α-フェトプロテインに関する分化派生物の陽性染色によって示される。これらのデータから、phESCが、ヒト人体のすべての細胞型をもたらす3つの胚葉に分化し得ること実証される。
【0220】
phESC-7の核型変化は、これを臨床的使用から排除する理由となり得る。ヒト胚におけるゲノム刷り込みの変化は、母性または父性発現遺伝子に関連した疾患の発症に寄与し得る(Gabriel et al., Proc Natl Acad Sci USA (1998) 95:14857)。phESC株の他の特徴を調べるため、および細胞療法における使用の適合性を決定するために、刷り込み解析を行った。
【0221】
ノーザンブロットを作製し、上記に概説したようにDNAプローブSNRPN、Peg1_2、Peg1_A、H19、およびGAPDH(内部対照として)でスクリーニングした。ブロットした核酸は、NSF、新生児皮膚線維芽細胞;hES、受精卵母細胞に由来するヒト胚性幹細胞株;1、phESC-1;2、phESC-3、3、phESC-4、4、phESC-5;5、phESC-6;6 phESC-7から得た。NSF RT-、hES RT-、1 RT-は陰性対照である。図3に刷り込みブロットの結果を示す。
【0222】
母性刷り込み遺伝子Peg1_Aは、試験した細胞株のすべてにおいて強い結合を示す。より弱い(Peg1_Aと比較して)が一貫した結合が、すべての細胞株において母性刷り込み遺伝子H19に関して認められた。SNRPNは、主にNSF、hES、phESC-4、およびphESC-6において結合を示す。Peg1_2は、主にNSF、hES、phESC-1(より弱いシグナル)、phESC-3、phESC-5、およびphESC-6において結合を示す。GAPDH結合により、すべての株においてRNAが同様に負荷されたことが確認された。
【0223】
本発明を上記の実施例を参照して説明したが、修正および変更が本発明の精神および範囲の範囲内に包含されることが理解されよう。したがって、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限される。
【0224】
参考文献
【図面の簡単な説明】
【0225】
【図1A】単為生殖的に導出されたhES細胞に関するアルカリホスファターゼの表面マーカー発現の顕微鏡写真を示す。
【図1B】表面マーカーOct4の発現の顕微鏡写真を示す。
【図1C】表面マーカーSSEA-1の発現の顕微鏡写真を示す。
【図1D】表面マーカーSSEA-3の発現の顕微鏡写真を示す。
【図1E】表面マーカーSSEA-4の発現の顕微鏡写真を示す。
【図1F】表面マーカーTRA-1-60の発現の顕微鏡写真を示す。
【図1G】表面マーカーTRA-1-81の発現の顕微鏡写真を示す。
【図2A】単為生殖的に導出されたhES細胞に関するテロメラーゼ活性の解析を示す。500、1000、および10000(単位)の抽出物を用いて解析を行った。ΔH-熱処理試験抽出物(陰性対照);陽性対照-テロメラーゼ陽性細胞;CHAPS-溶解緩衝液;TSR8-対照鋳型。
【図2B】単為生殖的に導出されたhES細胞からの胚様体形成、9日培養の顕微鏡写真を示す。
【図2C】単為生殖的に導出されたhES細胞からの胚様体形成、10日培養の顕微鏡写真を示す。
【図2D】単為生殖的に導出されたhES細胞の核型を示す。
【図2E】単為生殖的に導出されたhES細胞のDNAフィンガープリント解析の結果を示す。1-卵母細胞ドナーの血液のDNA;2-同じドナーに由来する単為生殖hES細胞のDNA;3-ヒトフィーダー線維芽細胞のDNA。
【図3】ゲノム刷り込みに関連する遺伝子の発現を特徴づけるノーザンブロットを示す。DNAプローブ:SNRPN、Peg1_2、Peg1_A、H19、およびGAPDH(内部対照として)。NSF、新生児皮膚線維芽細胞;hES、受精卵母細胞に由来するヒト胚性幹細胞株;1、phESC-1;2、phESC-3、3、phESC-4、4、phESC-5;5、phESC-6;6 phESC-7。NSF RT-、hES RT-、1 RT-は陰性対照である。
【図4】phESCの全3つの胚葉の派生物への分化を示す。外胚葉分化は、神経特異的マーカー68(A)、NCAM(B)、βIII-チューブリン(C)、およびグリア細胞マーカーGFAP(D、M)の陽性免疫細胞化学染色により示される。分化細胞は、中胚葉マーカー:筋特異的α-アクチニン(G)およびデスミン(J)、内皮マーカーPECAM-1(E)およびVE-カドヘリン(F)に関して陽性であった。内胚葉分化は、α-フェトプロテイン(H、L)の陽性染色によって示される。phESCは色素上皮様細胞を生成した(I、K)。倍率(I) x 100;(A〜H、J〜M)、x 400。
【図5】特異的マーカーに関するphESC株の特徴づけを示す。ヒトフィーダー層細胞上のphESCの未分化コロニー(A〜F)、SSEA-1に関する陰性染色(G〜L)、細胞表面マーカーSSEA-3(M〜R)、SSEA-4(S〜X)の発現。倍率(A)〜(E) x 100;(F) x 200;(G)〜(X) x 400。フィーダー細胞上のphESCコロニーのアルカリホスファターゼ陽性染色(A〜F)、OCT-4(G〜L)、TRA-1-60(K〜R)、およびTRA-1-81(S〜X)。倍率(A、B、O、R) x 100;(C〜F,M,S,X) x 200;(G〜L、N、P、Q、T〜W) x 400。
【図6】phESC細胞が陽性対照細胞と比較して高レベルのテロメラーゼ活性を有することを示す;「+」-細胞500個からの抽出物;「−」-不活化テロメラーゼを有する熱処理細胞抽出物;「対照+」-テロメラーゼ陽性細胞抽出物(TRAPEZEキットに同梱されている);「B」-CHAPS溶解緩衝液、プライマー-ダイマー/PCR混入対照;TSR8-テロメラーゼ定量対照鋳型(0.1および0.2アトモル/μl);「M」-マーカー、DNAラダー。
【図7】phESC株のGバンド核型を示す。phESC1 (A)、phESC-3 (B)、phESC-4 (C)、phESC-5 (D)、およびphESC-6 (E)株は正常な46、XX核型を有する。phESC-7株は47、XXX核型を有する(F)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト幹細胞を作製する方法であって、
a) i) 卵母細胞を高O2圧でイオノフォアと接触させる段階、およびii) 卵母細胞を低O2圧下でセリン・スレオニンキナーゼ阻害剤と接触させる段階を含む、ヒト卵母細胞を単為生殖的に活性化する段階;
b) 段階(a)の活性化卵母細胞を、胚盤胞が形成されるまで低O2圧で培養する段階;
c) 胚盤胞をフィーダー細胞層に移し、移した胚盤胞を高O2圧下で培養する段階;
d) 段階(c)の胚盤胞の栄養外胚葉から内部細胞塊(ICM)を機械的に単離する段階;ならびに
e) 段階(d)のICMの細胞をフィーダー細胞層上で培養する段階を含み、
段階(e)の培養段階を高O2圧下で行う方法。
【請求項2】
約2% O2〜約5% O2のO2濃度を含む気体混合環境でのインキュベーションにより低O2圧を維持する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
気体混合環境が約5% CO2および約90% N2〜93% N2をさらに含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
約5% CO2および約20% O2を含む気体混合環境でのインキュベーションにより高O2圧を維持する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
イオノフォアがイオノマイシンおよびA23187からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
セリン・スレオニンキナーゼ阻害剤がスタウロスポリン、2-アミノプリン、スフィンゴシン、および6-ジメチルアミノプリン(DMAP)からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
治療適用のために、活性化、単離、および培養段階を定義された培地条件下で行う、請求項1記載の方法。
【請求項8】
培地がヒト臍帯血漿を含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
培地が約10%ヒト臍帯血漿を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
フィーダー細胞層がヒト線維芽細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
線維芽細胞が出生後ヒト皮膚線維芽細胞である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
フィーダー細胞を抗生物質で不活化する、請求項10記載の方法。
【請求項13】
抗生物質がマイトマイシンCである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
請求項1記載の方法によって調製される単離された幹細胞。
【請求項15】
ヒト中期II卵母細胞を活性化する方法であって、
a) ヒト中期II卵母細胞を体外受精(IVF)培地中でインキュベートする段階;
b) 段階(a)の細胞をイオノフォアを含むIVF培地中でインキュベートする段階;
c) 段階(b)の細胞をセリン・スレオニンキナーゼ阻害剤を含むIVF培地中でインキュベートする段階;および
d) 段階(c)の細胞を、胚盤胞が形成されるまで新鮮なIVF培地中でインキュベートする段階を含み、
インキュベーション段階(a)および(b)を高O2圧下で行い、段階(d)の胚盤胞から得られた内部細胞塊(ICM)が培養可能な幹細胞を生じる方法。
【請求項16】
インキュベーション段階(c)および(d)のO2圧を、約2% O2〜5% O2のO2濃度を含む気体混合物環境で細胞をインキュベートすることによって維持する、請求項15記載の方法。
【請求項17】
気体混合物環境が約5% CO2および約90% N2〜93% N2をさらに含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
卵母細胞をヒアルロニダーゼと共にインキュベートする段階をさらに含む、請求項15記載の方法。
【請求項19】
インキュベーション段階(a)を約37℃で約2時間行う、請求項15記載の方法。
【請求項20】
インキュベーション段階(b)を約37℃で約5分間行う、請求項15記載の方法。
【請求項21】
インキュベーション段階(c)を約37℃で約4時間行う、請求項15記載の方法。
【請求項22】
インキュベーション段階(d)を約37℃で約24時間行う、請求項15記載の方法。
【請求項23】
IVF培地が非ヒト産物を含まない、請求項15記載の方法。
【請求項24】
イオノフォアがイオノマイシンおよびA23187からなる群より選択される、請求項23記載の方法。
【請求項25】
イオノフォアがイオノマイシンである、請求項24記載の方法。
【請求項26】
セリン・スレオニンキナーゼ阻害剤がスタウロスポリン、2-アミノプリン、スフィンゴシン、および6-ジメチルアミノプリン(DMAP)からなる群より選択される、請求項23記載の方法。
【請求項27】
セリン・スレオニンキナーゼ阻害剤がDMAPである、請求項26記載の方法。
【請求項28】
請求項15記載の方法によって調製される単離された卵母細胞。
【請求項29】
請求項28記載の卵母細胞から調製される単離された内部細胞塊(ICM)。
【請求項30】
凍結保存卵母細胞または単為生殖体からヒト幹細胞を作製する方法であって、
(a) 卵母細胞または単為生殖体の細胞質に凍結保存剤をマイクロインジェクションする段階;
(b) 卵母細胞または単為生殖体を極低温貯蔵温度まで凍結して、卵母細胞または単為生殖体を休眠状態に入らせる段階;
(c) 卵母細胞または単為生殖体を休眠状態で貯蔵する段階;
(d) 卵母細胞または単為生殖体を融解する段階;
(e) i) 卵母細胞を高O2圧でイオノフォアと接触させる段階、およびii) 卵母細胞を低O2圧下でセリン・スレオニンキナーゼ阻害剤と接触させる段階を含む、段階(d)の卵母細胞を単為生殖的に活性化する段階;
(f) 段階(d)の単為生殖体または段階(e)の卵母細胞を、胚盤胞が形成されるまで低O2圧で培養する段階;
(g) 胚盤胞の栄養外胚葉から内部細胞塊(ICM)を単離する段階;ならびに
(h) 段階(g)のICMの細胞をフィーダー細胞層または細胞外マトリックス(ECM)基質上で培養する段階を含み、
培養段階(g)を高O2圧下で行う方法。
【請求項31】
フィーダー細胞がヒト供給源に由来する、請求項30記載の方法。
【請求項32】
凍結保存剤が(i) 糖を含み、(ii) 哺乳動物細胞膜に関して実質的に非透過性であり、かつ(iii) 卵母細胞または単為生殖体が一時的に休眠状態で貯蔵され、活性化状態に実質的に回復され得るように、卵母細胞または単為生殖体の生存率を維持する、請求項30記載の方法。
【請求項33】
卵母細胞または単為生殖体を、哺乳動物細胞膜に関して実質的に非透過性であり、かつ卵母細胞または単為生殖体の細胞膜を安定化する細胞外凍結保存剤と接触させる段階をさらに含む、請求項28記載の方法。
【請求項34】
凍結保存剤が、スクロース、トレハロース、フルクトース、デキストラン、およびラフィノースからなる群より選択される少なくとも1つの糖を含む、請求項30記載の方法。
【請求項35】
凍結保存剤が、グルコース、ソルビトール、マンニトール、ラクトース、マルトース、およびスタキオースからなる群より選択される少なくとも1つの糖を含む、請求項30記載の方法。
【請求項36】
卵母細胞または単為生殖体を浸漬凍結する、請求項30記載の方法。
【請求項37】
凍結保存剤がNa+低/K+高培地を含む、請求項30記載の方法。
【請求項38】
凍結保存剤が有機緩衝液を含む、請求項30記載の方法。
【請求項39】
有機緩衝液がHEPESである、請求項38記載の方法。
【請求項40】
凍結保存剤がアポトーシスタンパク質を阻害する成分を含む、請求項30記載の方法。
【請求項41】
成分がカパーゼ(capase)である、請求項30記載の方法。
【請求項42】
卵母細胞または単為生殖体を、少なくとも約-50℃である最終温度まで約0.3〜6℃/分の速度で冷却する、請求項36記載の方法。
【請求項43】
卵母細胞または単為生殖体を、約-50〜-10℃である最終温度まで約0.3〜3℃/分の速度で冷却する、請求項42記載の方法。
【請求項44】
段階(b)が、乾燥貯蔵を可能にするのに十分なレベルまで卵母細胞または単為生殖体を乾燥させる段階を含む、請求項30記載の方法。
【請求項45】
段階(b)が、卵母細胞または単為生殖体を凍結乾燥する段階を含む、請求項30記載の方法。
【請求項46】
段階(b)が、卵母細胞または単為生殖体を真空または対流乾燥する段階を含む、請求項30記載の方法。
【請求項47】
段階(d)が、卵母細胞または単為生殖体を再水和する段階を含む、請求項30記載の方法。
【請求項48】
ヒトドナーからの単為生殖的活性化卵母細胞に由来する自己幹細胞。
【請求項49】
ドナー卵母細胞と実質的に同一のハプロタイプを有する、請求項48記載の幹細胞。
【請求項50】
(i) インビトロ培養で1年超にわたり増殖し、(ii) 培養を通して内胚葉、中胚葉、および外胚葉組織の派生物に分化する能力を維持し、かつ(iii) 線維芽細胞フィーダー層上で培養した場合に分化が抑制される、請求項48記載の幹細胞。
【請求項51】
染色体が正倍数体であり、長期培養を通して変化しない核型を維持する、請求項50記載の幹細胞。
【請求項52】
ドナー卵母細胞と遺伝的に実質的に同一である、請求項48記載の幹細胞。
【請求項53】
46、XX核型を有する、請求項52記載の幹細胞。
【請求項54】
一塩基多型(SNP)マーカーに従ってドナーの完全同胞であると同定される、請求項52記載の幹細胞。
【請求項55】
ドナーと組織適合性である、請求項52記載の幹細胞。
【請求項56】
ドナー起源に従ってゲノム的に刷り込まれている、請求項48記載の幹細胞。
【請求項57】
SNRPN、Peg1_2、Peg_1A、XIST、およびH19からなる群より選択される1つまたは複数の遺伝子を発現する、請求項56記載の幹細胞。
【請求項58】
SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81、およびOCT-4からなる群より選択される1つまたは複数のマーカーを発現する、請求項48記載の幹細胞。
【請求項59】
ホモプラスミー(homoplasmic)ミトコンドリアDNA(mtDNA)を含む、請求項48記載の幹細胞。
【請求項60】
ヒトドナーからの単為生殖的活性化卵母細胞から得られた幹細胞に由来する分化細胞。
【請求項61】
卵母細胞ドナーと組織適合性である、請求項60記載の分化細胞。
【請求項62】
神経細胞、心臓細胞、平滑筋細胞、横紋筋細胞、内皮細胞、骨芽細胞、オリゴデンドロサイト、造血細胞、脂肪細胞、間質細胞、軟骨細胞、アストロサイト、樹状細胞、ケラチノサイト、膵島、リンパ球前駆細胞、肥満細胞、中胚葉細胞、および内胚葉細胞からなる群より選択される、請求項60記載の分化細胞。
【請求項63】
神経フィラメント68、NCAM、βIII-チューブリン、GFAP、またはこれらの組み合わせを発現する、請求項62記載の分化細胞。
【請求項64】
α-アクチニン、デスミン、またはこれらの組み合わせを発現する、請求項62記載の分化細胞。
【請求項65】
PECAM-1、VE-カドヘリン、またはこれらの組み合わせを発現する、請求項62記載の分化細胞。
【請求項66】
α-フェトプロテインを発現する、請求項62記載の分化細胞。
【請求項67】
ホモプラスミーミトコンドリアDNA(mtDNA)を含む、請求項62記載の分化細胞。
【請求項68】
自己幹細胞を含む細胞株であって、幹細胞がヒトドナーからの単為生殖的活性化卵母細胞に由来する細胞株。
【請求項69】
各細胞が46、XX核型を有する、請求項68記載の細胞株。
【請求項70】
各細胞がドナー卵母細胞と遺伝的に実質的に同一である、請求項68記載の細胞株。
【請求項71】
各細胞がドナー起源に従って遺伝的に刷り込まれている、請求項68記載の細胞株。
【請求項72】
細胞がSSEA-1を発現しない、請求項68記載の細胞株。
【請求項73】
細胞が外胚葉、中胚葉、および内胚葉生殖系列を生じる、請求項68記載の細胞株。
【請求項74】
それぞれ別個の細胞株の細胞がホモプラスミーミトコンドリアDNA(mtDNA)を含む、請求項68記載の細胞株。
【請求項75】
自己幹細胞を含む幹細胞のライブラリーであって、幹細胞が1名または複数名のヒトドナーからの単為生殖的活性化卵母細胞に由来する、幹細胞のライブラリー。
【請求項76】
各ライブラリーメンバーが、一塩基多型(SNP)マーカーに従って完全同胞、半同胞、または非関連であると同定される、請求項75記載のライブラリー。
【請求項77】
卵母細胞ドナーがライブラリーのメンバーと組織適合性である、請求項75記載のライブラリー。
【請求項78】
ライブラリーのメンバーが卵母細胞ドナー起源に従ってゲノム的に刷り込まれている、請求項75記載のライブラリー。
【請求項79】
各メンバーがヒト集団に存在する少なくとも1つのMHC対立遺伝子に関してホモ接合性である、請求項75記載のライブラリー。
【請求項80】
各メンバーがライブラリーの他のメンバーと異なる組み合わせのMHC対立遺伝子に関してホモ接合性である、請求項75記載のライブラリー。
【請求項81】
各メンバーが1つまたは複数のHLAクラスI遺伝子およびHLAクラスII遺伝子に関して少なくともホモ接合性である、請求項75記載のライブラリー。
【請求項82】
HLAクラスI遺伝子がHLA A*、HLA B*、HLAおよびCw*ハプロタイプ組み合わせから選択される、請求項81記載のライブラリー。
【請求項83】
HLAクラスII遺伝子がHLA DRB1*、DRB3*、DRB4*、DRB5*、DQA1*、およびDQB1*ハプロタイプ組み合わせから選択される、請求項81記載のライブラリー。
【請求項84】
各メンバーが、(i) インビトロ培養で1年超にわたり増殖し、(ii) 培養を通して内胚葉、中胚葉、および外胚葉組織の1つまたはすべての派生物に分化する能力を維持し、かつ(iii) 線維芽細胞フィーダー層上で培養した場合に分化が抑制される、請求項75記載のライブラリー。
【請求項85】
各メンバーが、染色体が正倍数体であり、長期培養を通して変化しない核型を維持する、請求項84記載のライブラリー。
【請求項86】
各メンバーが外胚葉、中胚葉、および内胚葉生殖系列細胞に分化し得る、請求項75記載のライブラリー。
【請求項87】
凍結保存単為生殖体を含む細胞バンクであって、単為生殖体が1名または複数名のヒトドナーからの単為生殖的活性化卵母細胞に由来する、細胞バンク。
【請求項88】
単為生殖体が、胚盤胞が形成されるまで低O2圧下で培養された、請求項87記載の細胞バンク。
【請求項89】
凍結保存自己幹細胞を含む細胞バンクであって、幹細胞が1名または複数名のヒトドナーからの単為生殖的活性化卵母細胞に由来する、細胞バンク。
【請求項90】
方法が、分化細胞を含む細胞組成物を投与する段階を含み、ここで分化細胞がヒトドナーからの単為生殖的活性化卵母細胞から得られた幹細胞に由来する、それを必要とする対象を治療する方法。
【請求項91】
分化細胞が、神経細胞、心臓細胞、平滑筋細胞、横紋筋細胞、内皮細胞、骨芽細胞、オリゴデンドロサイト、造血細胞、脂肪細胞、間質細胞、軟骨細胞、アストロサイト、樹状細胞、ケラチノサイト、膵島、リンパ球前駆細胞、肥満細胞、中胚葉細胞、および内胚葉細胞からなる群より選択される、請求項90記載の方法。
【請求項92】
対象が、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、ALS、脊髄欠損または損傷、多発性硬化症、筋ジストロフィー、嚢胞性線維症、肝疾患、糖尿病、心疾患、黄斑変性症、軟骨欠損または損傷、熱傷、足部潰瘍、血管疾患、尿路疾患、エイズ、および癌からなる群より選択される疾患を呈する、請求項90記載の方法。
【請求項93】
クローンヒト胚性幹細胞株を作製する方法であって、
a) 前もって受精したヒト卵母細胞から第1前核を除去する段階;
b) 第2前核を段階(a)の除核卵母細胞に移植する段階であって、
第2前核が
i) ドナー卵母細胞もしくはドナーの母親の卵母細胞、または
ii) 活性化の前に卵母細胞の前核がドナー体細胞の核によって置換された単為生殖的活性化卵母細胞
に由来する、段階;および
c) 段階(b)の得られた卵母細胞を、胚盤胞が形成されるまで培養する段階
を含み、胚盤胞の内部細胞塊が胚性幹細胞を含む、方法。
【請求項1】
ヒト幹細胞を作製する方法であって、
a) i) 卵母細胞を高O2圧でイオノフォアと接触させる段階、およびii) 卵母細胞を低O2圧下でセリン・スレオニンキナーゼ阻害剤と接触させる段階を含む、ヒト卵母細胞を単為生殖的に活性化する段階;
b) 段階(a)の活性化卵母細胞を、胚盤胞が形成されるまで低O2圧で培養する段階;
c) 胚盤胞をフィーダー細胞層に移し、移した胚盤胞を高O2圧下で培養する段階;
d) 段階(c)の胚盤胞の栄養外胚葉から内部細胞塊(ICM)を機械的に単離する段階;ならびに
e) 段階(d)のICMの細胞をフィーダー細胞層上で培養する段階を含み、
段階(e)の培養段階を高O2圧下で行う方法。
【請求項2】
約2% O2〜約5% O2のO2濃度を含む気体混合環境でのインキュベーションにより低O2圧を維持する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
気体混合環境が約5% CO2および約90% N2〜93% N2をさらに含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
約5% CO2および約20% O2を含む気体混合環境でのインキュベーションにより高O2圧を維持する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
イオノフォアがイオノマイシンおよびA23187からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
セリン・スレオニンキナーゼ阻害剤がスタウロスポリン、2-アミノプリン、スフィンゴシン、および6-ジメチルアミノプリン(DMAP)からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
治療適用のために、活性化、単離、および培養段階を定義された培地条件下で行う、請求項1記載の方法。
【請求項8】
培地がヒト臍帯血漿を含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
培地が約10%ヒト臍帯血漿を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
フィーダー細胞層がヒト線維芽細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
線維芽細胞が出生後ヒト皮膚線維芽細胞である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
フィーダー細胞を抗生物質で不活化する、請求項10記載の方法。
【請求項13】
抗生物質がマイトマイシンCである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
請求項1記載の方法によって調製される単離された幹細胞。
【請求項15】
ヒト中期II卵母細胞を活性化する方法であって、
a) ヒト中期II卵母細胞を体外受精(IVF)培地中でインキュベートする段階;
b) 段階(a)の細胞をイオノフォアを含むIVF培地中でインキュベートする段階;
c) 段階(b)の細胞をセリン・スレオニンキナーゼ阻害剤を含むIVF培地中でインキュベートする段階;および
d) 段階(c)の細胞を、胚盤胞が形成されるまで新鮮なIVF培地中でインキュベートする段階を含み、
インキュベーション段階(a)および(b)を高O2圧下で行い、段階(d)の胚盤胞から得られた内部細胞塊(ICM)が培養可能な幹細胞を生じる方法。
【請求項16】
インキュベーション段階(c)および(d)のO2圧を、約2% O2〜5% O2のO2濃度を含む気体混合物環境で細胞をインキュベートすることによって維持する、請求項15記載の方法。
【請求項17】
気体混合物環境が約5% CO2および約90% N2〜93% N2をさらに含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
卵母細胞をヒアルロニダーゼと共にインキュベートする段階をさらに含む、請求項15記載の方法。
【請求項19】
インキュベーション段階(a)を約37℃で約2時間行う、請求項15記載の方法。
【請求項20】
インキュベーション段階(b)を約37℃で約5分間行う、請求項15記載の方法。
【請求項21】
インキュベーション段階(c)を約37℃で約4時間行う、請求項15記載の方法。
【請求項22】
インキュベーション段階(d)を約37℃で約24時間行う、請求項15記載の方法。
【請求項23】
IVF培地が非ヒト産物を含まない、請求項15記載の方法。
【請求項24】
イオノフォアがイオノマイシンおよびA23187からなる群より選択される、請求項23記載の方法。
【請求項25】
イオノフォアがイオノマイシンである、請求項24記載の方法。
【請求項26】
セリン・スレオニンキナーゼ阻害剤がスタウロスポリン、2-アミノプリン、スフィンゴシン、および6-ジメチルアミノプリン(DMAP)からなる群より選択される、請求項23記載の方法。
【請求項27】
セリン・スレオニンキナーゼ阻害剤がDMAPである、請求項26記載の方法。
【請求項28】
請求項15記載の方法によって調製される単離された卵母細胞。
【請求項29】
請求項28記載の卵母細胞から調製される単離された内部細胞塊(ICM)。
【請求項30】
凍結保存卵母細胞または単為生殖体からヒト幹細胞を作製する方法であって、
(a) 卵母細胞または単為生殖体の細胞質に凍結保存剤をマイクロインジェクションする段階;
(b) 卵母細胞または単為生殖体を極低温貯蔵温度まで凍結して、卵母細胞または単為生殖体を休眠状態に入らせる段階;
(c) 卵母細胞または単為生殖体を休眠状態で貯蔵する段階;
(d) 卵母細胞または単為生殖体を融解する段階;
(e) i) 卵母細胞を高O2圧でイオノフォアと接触させる段階、およびii) 卵母細胞を低O2圧下でセリン・スレオニンキナーゼ阻害剤と接触させる段階を含む、段階(d)の卵母細胞を単為生殖的に活性化する段階;
(f) 段階(d)の単為生殖体または段階(e)の卵母細胞を、胚盤胞が形成されるまで低O2圧で培養する段階;
(g) 胚盤胞の栄養外胚葉から内部細胞塊(ICM)を単離する段階;ならびに
(h) 段階(g)のICMの細胞をフィーダー細胞層または細胞外マトリックス(ECM)基質上で培養する段階を含み、
培養段階(g)を高O2圧下で行う方法。
【請求項31】
フィーダー細胞がヒト供給源に由来する、請求項30記載の方法。
【請求項32】
凍結保存剤が(i) 糖を含み、(ii) 哺乳動物細胞膜に関して実質的に非透過性であり、かつ(iii) 卵母細胞または単為生殖体が一時的に休眠状態で貯蔵され、活性化状態に実質的に回復され得るように、卵母細胞または単為生殖体の生存率を維持する、請求項30記載の方法。
【請求項33】
卵母細胞または単為生殖体を、哺乳動物細胞膜に関して実質的に非透過性であり、かつ卵母細胞または単為生殖体の細胞膜を安定化する細胞外凍結保存剤と接触させる段階をさらに含む、請求項28記載の方法。
【請求項34】
凍結保存剤が、スクロース、トレハロース、フルクトース、デキストラン、およびラフィノースからなる群より選択される少なくとも1つの糖を含む、請求項30記載の方法。
【請求項35】
凍結保存剤が、グルコース、ソルビトール、マンニトール、ラクトース、マルトース、およびスタキオースからなる群より選択される少なくとも1つの糖を含む、請求項30記載の方法。
【請求項36】
卵母細胞または単為生殖体を浸漬凍結する、請求項30記載の方法。
【請求項37】
凍結保存剤がNa+低/K+高培地を含む、請求項30記載の方法。
【請求項38】
凍結保存剤が有機緩衝液を含む、請求項30記載の方法。
【請求項39】
有機緩衝液がHEPESである、請求項38記載の方法。
【請求項40】
凍結保存剤がアポトーシスタンパク質を阻害する成分を含む、請求項30記載の方法。
【請求項41】
成分がカパーゼ(capase)である、請求項30記載の方法。
【請求項42】
卵母細胞または単為生殖体を、少なくとも約-50℃である最終温度まで約0.3〜6℃/分の速度で冷却する、請求項36記載の方法。
【請求項43】
卵母細胞または単為生殖体を、約-50〜-10℃である最終温度まで約0.3〜3℃/分の速度で冷却する、請求項42記載の方法。
【請求項44】
段階(b)が、乾燥貯蔵を可能にするのに十分なレベルまで卵母細胞または単為生殖体を乾燥させる段階を含む、請求項30記載の方法。
【請求項45】
段階(b)が、卵母細胞または単為生殖体を凍結乾燥する段階を含む、請求項30記載の方法。
【請求項46】
段階(b)が、卵母細胞または単為生殖体を真空または対流乾燥する段階を含む、請求項30記載の方法。
【請求項47】
段階(d)が、卵母細胞または単為生殖体を再水和する段階を含む、請求項30記載の方法。
【請求項48】
ヒトドナーからの単為生殖的活性化卵母細胞に由来する自己幹細胞。
【請求項49】
ドナー卵母細胞と実質的に同一のハプロタイプを有する、請求項48記載の幹細胞。
【請求項50】
(i) インビトロ培養で1年超にわたり増殖し、(ii) 培養を通して内胚葉、中胚葉、および外胚葉組織の派生物に分化する能力を維持し、かつ(iii) 線維芽細胞フィーダー層上で培養した場合に分化が抑制される、請求項48記載の幹細胞。
【請求項51】
染色体が正倍数体であり、長期培養を通して変化しない核型を維持する、請求項50記載の幹細胞。
【請求項52】
ドナー卵母細胞と遺伝的に実質的に同一である、請求項48記載の幹細胞。
【請求項53】
46、XX核型を有する、請求項52記載の幹細胞。
【請求項54】
一塩基多型(SNP)マーカーに従ってドナーの完全同胞であると同定される、請求項52記載の幹細胞。
【請求項55】
ドナーと組織適合性である、請求項52記載の幹細胞。
【請求項56】
ドナー起源に従ってゲノム的に刷り込まれている、請求項48記載の幹細胞。
【請求項57】
SNRPN、Peg1_2、Peg_1A、XIST、およびH19からなる群より選択される1つまたは複数の遺伝子を発現する、請求項56記載の幹細胞。
【請求項58】
SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81、およびOCT-4からなる群より選択される1つまたは複数のマーカーを発現する、請求項48記載の幹細胞。
【請求項59】
ホモプラスミー(homoplasmic)ミトコンドリアDNA(mtDNA)を含む、請求項48記載の幹細胞。
【請求項60】
ヒトドナーからの単為生殖的活性化卵母細胞から得られた幹細胞に由来する分化細胞。
【請求項61】
卵母細胞ドナーと組織適合性である、請求項60記載の分化細胞。
【請求項62】
神経細胞、心臓細胞、平滑筋細胞、横紋筋細胞、内皮細胞、骨芽細胞、オリゴデンドロサイト、造血細胞、脂肪細胞、間質細胞、軟骨細胞、アストロサイト、樹状細胞、ケラチノサイト、膵島、リンパ球前駆細胞、肥満細胞、中胚葉細胞、および内胚葉細胞からなる群より選択される、請求項60記載の分化細胞。
【請求項63】
神経フィラメント68、NCAM、βIII-チューブリン、GFAP、またはこれらの組み合わせを発現する、請求項62記載の分化細胞。
【請求項64】
α-アクチニン、デスミン、またはこれらの組み合わせを発現する、請求項62記載の分化細胞。
【請求項65】
PECAM-1、VE-カドヘリン、またはこれらの組み合わせを発現する、請求項62記載の分化細胞。
【請求項66】
α-フェトプロテインを発現する、請求項62記載の分化細胞。
【請求項67】
ホモプラスミーミトコンドリアDNA(mtDNA)を含む、請求項62記載の分化細胞。
【請求項68】
自己幹細胞を含む細胞株であって、幹細胞がヒトドナーからの単為生殖的活性化卵母細胞に由来する細胞株。
【請求項69】
各細胞が46、XX核型を有する、請求項68記載の細胞株。
【請求項70】
各細胞がドナー卵母細胞と遺伝的に実質的に同一である、請求項68記載の細胞株。
【請求項71】
各細胞がドナー起源に従って遺伝的に刷り込まれている、請求項68記載の細胞株。
【請求項72】
細胞がSSEA-1を発現しない、請求項68記載の細胞株。
【請求項73】
細胞が外胚葉、中胚葉、および内胚葉生殖系列を生じる、請求項68記載の細胞株。
【請求項74】
それぞれ別個の細胞株の細胞がホモプラスミーミトコンドリアDNA(mtDNA)を含む、請求項68記載の細胞株。
【請求項75】
自己幹細胞を含む幹細胞のライブラリーであって、幹細胞が1名または複数名のヒトドナーからの単為生殖的活性化卵母細胞に由来する、幹細胞のライブラリー。
【請求項76】
各ライブラリーメンバーが、一塩基多型(SNP)マーカーに従って完全同胞、半同胞、または非関連であると同定される、請求項75記載のライブラリー。
【請求項77】
卵母細胞ドナーがライブラリーのメンバーと組織適合性である、請求項75記載のライブラリー。
【請求項78】
ライブラリーのメンバーが卵母細胞ドナー起源に従ってゲノム的に刷り込まれている、請求項75記載のライブラリー。
【請求項79】
各メンバーがヒト集団に存在する少なくとも1つのMHC対立遺伝子に関してホモ接合性である、請求項75記載のライブラリー。
【請求項80】
各メンバーがライブラリーの他のメンバーと異なる組み合わせのMHC対立遺伝子に関してホモ接合性である、請求項75記載のライブラリー。
【請求項81】
各メンバーが1つまたは複数のHLAクラスI遺伝子およびHLAクラスII遺伝子に関して少なくともホモ接合性である、請求項75記載のライブラリー。
【請求項82】
HLAクラスI遺伝子がHLA A*、HLA B*、HLAおよびCw*ハプロタイプ組み合わせから選択される、請求項81記載のライブラリー。
【請求項83】
HLAクラスII遺伝子がHLA DRB1*、DRB3*、DRB4*、DRB5*、DQA1*、およびDQB1*ハプロタイプ組み合わせから選択される、請求項81記載のライブラリー。
【請求項84】
各メンバーが、(i) インビトロ培養で1年超にわたり増殖し、(ii) 培養を通して内胚葉、中胚葉、および外胚葉組織の1つまたはすべての派生物に分化する能力を維持し、かつ(iii) 線維芽細胞フィーダー層上で培養した場合に分化が抑制される、請求項75記載のライブラリー。
【請求項85】
各メンバーが、染色体が正倍数体であり、長期培養を通して変化しない核型を維持する、請求項84記載のライブラリー。
【請求項86】
各メンバーが外胚葉、中胚葉、および内胚葉生殖系列細胞に分化し得る、請求項75記載のライブラリー。
【請求項87】
凍結保存単為生殖体を含む細胞バンクであって、単為生殖体が1名または複数名のヒトドナーからの単為生殖的活性化卵母細胞に由来する、細胞バンク。
【請求項88】
単為生殖体が、胚盤胞が形成されるまで低O2圧下で培養された、請求項87記載の細胞バンク。
【請求項89】
凍結保存自己幹細胞を含む細胞バンクであって、幹細胞が1名または複数名のヒトドナーからの単為生殖的活性化卵母細胞に由来する、細胞バンク。
【請求項90】
方法が、分化細胞を含む細胞組成物を投与する段階を含み、ここで分化細胞がヒトドナーからの単為生殖的活性化卵母細胞から得られた幹細胞に由来する、それを必要とする対象を治療する方法。
【請求項91】
分化細胞が、神経細胞、心臓細胞、平滑筋細胞、横紋筋細胞、内皮細胞、骨芽細胞、オリゴデンドロサイト、造血細胞、脂肪細胞、間質細胞、軟骨細胞、アストロサイト、樹状細胞、ケラチノサイト、膵島、リンパ球前駆細胞、肥満細胞、中胚葉細胞、および内胚葉細胞からなる群より選択される、請求項90記載の方法。
【請求項92】
対象が、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、ALS、脊髄欠損または損傷、多発性硬化症、筋ジストロフィー、嚢胞性線維症、肝疾患、糖尿病、心疾患、黄斑変性症、軟骨欠損または損傷、熱傷、足部潰瘍、血管疾患、尿路疾患、エイズ、および癌からなる群より選択される疾患を呈する、請求項90記載の方法。
【請求項93】
クローンヒト胚性幹細胞株を作製する方法であって、
a) 前もって受精したヒト卵母細胞から第1前核を除去する段階;
b) 第2前核を段階(a)の除核卵母細胞に移植する段階であって、
第2前核が
i) ドナー卵母細胞もしくはドナーの母親の卵母細胞、または
ii) 活性化の前に卵母細胞の前核がドナー体細胞の核によって置換された単為生殖的活性化卵母細胞
に由来する、段階;および
c) 段階(b)の得られた卵母細胞を、胚盤胞が形成されるまで培養する段階
を含み、胚盤胞の内部細胞塊が胚性幹細胞を含む、方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図1G】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図3】
【図4】
【図5−1】
【図5−2】
【図6】
【図7】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図1G】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図3】
【図4】
【図5−1】
【図5−2】
【図6】
【図7】
【公表番号】特表2009−512450(P2009−512450A)
【公表日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−536842(P2008−536842)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際出願番号】PCT/US2006/041133
【国際公開番号】WO2007/047979
【国際公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(308035276)インターナショナル ステム セル コーポレイション (5)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際出願番号】PCT/US2006/041133
【国際公開番号】WO2007/047979
【国際公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(308035276)インターナショナル ステム セル コーポレイション (5)
【Fターム(参考)】
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