説明

ヒトES細胞より分離された新規miRNA

本発明は新規のmiRNAs分子に関するものにして、より詳細にはヒトES細胞から分離された新規miRNA分子に関するものである。本発明で提供されるmiRNA分子は未分化である人間幹細胞の初期胚発達段階のための分子的マーカーとして有効に使われるようになる。また本発明のmiRNA分子は哺乳類ES細胞の調節において主要な役割を果たすようになる。従って、ヒトES細胞の調節ネットワークを分析するのに有効に使われるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規miRNA分子に関するものであり、より詳細にはヒトES細胞から分離されたmiRNA分子に関する。
【背景技術】
【0002】
ES細胞(embryonic stem cells;ESCs)は、マウスにおいて初めて確立され、現在ヒトを含む多様な哺乳類から確立されている。ES細胞は限定された細胞培養条件の下で未分化状態の自己再生(self-renewal)能力がほとんど制限されずに分化能力を有していることが特徴である(非特許文献1、2、3)。in vitroで分化する間、ES細胞は多様な種類の特殊化した体細胞形態に分化が可能であり、初期の胚発生段階の多くを再現する。このようにES細胞は多様な臨床と生物工学への適用において無限の資源としての可能性を有している(非特許文献2、4、5、6)。
【0003】
現在マウスES細胞の自己再生と全分化能(pluripotency)に関与するいくつかの分子調節因子が知られている。全ての全分化能細胞の伝統的なマーカーであるPOUファミリー転写因子であるOct4は着床前胚(pre-implantation embryos)、外胚葉(epiblast)、生殖細胞(germ cells)とES細胞、胚性生殖細胞(embryonic germ cells)、胚性腫瘍細胞(embryonic carcinoma cells)を含む全分化能幹細胞(pluripotent stem cells)で特異的に発現される(非特許文献7、8)。Oct4は全分化能状態を有する細胞株の確立と維持に決定的な働きをする(非特許文献9、10、11)。白血病抑制因子(Leukemia inhibitory factor, LIF)はStat3の活性を通じてマウスES細胞の自己再生を維持することができる。Oct4とStat3は多様な共同因子と共にそれぞれ相互作用をし、多様な標的遺伝子の発現を調節する(非特許文献12)。二つの異なる転写因子であるSox2とFoxD3はマウス胚において全分化能のために必須因子であることが知られている(非特許文献13、14)。つい最近ではホモプロテイン NanogがLIF/Stat3と関係なくマウスES細胞の自己再生維持に関与していることが明かされた(非特許文献15、16)。
【0004】
最初のヒトES細胞株は最近になって確立され(非特許文献17)、12個の細胞株が全世界で公に用いられている(NIH Human Embryonic Stem Cell Registry)。ES細胞の優れた潜在性にも関わらず、ヒトES細胞は多くの情報源になっていない。これは主に細胞培養が技術的に難しいためである。ヒトES細胞を維持して増殖するのは多くの労働力と熟練した技術が必要である。さらに、ヒトES細胞の増殖速度はマウスES細胞より3倍以上長く必要とされる(非特許文献18)。自己再生の調節を含む多くの部分において、ヒトES細胞はマウスES細胞と比べて多くの異なる特徴を示す。マウスから見つかった調節因子の内、Oct4を含む極めて少数の調節因子のみがヒトES細胞においても同様の調節役割を果たす。LIFはヒトES細胞の自己再生の維持に影響を及ぼさないことが知られている(非特許文献19)。ヒトES細胞における調節機能の分析はヒトES細胞の応用のみならず、幹細胞の理解を大きく高めるようになるであろう。
Small RNA研究の最近の進歩に従い、microRNAs(以下、miRNAs'とする)が発達と分化に重要な調節因子として作用していることが分かった。miRNAsはおおよそ22ヌクレオチド(nt)長として非コード(noncoding) small RNAの大集団(family)で構成されている。miRNAsの機能に関する知見は線虫(シーエレガンス:Caenorhabditis elegans)で発見されたmiRNAであるlin-4(非特許文献20、21、22)とlet-7(非特許文献23)の発生調節に関する研究から始まった。lin-4とlet-7 RNAは標的mRNAに結合して転写を抑制することにより初期の発達時期の調節に重要な役目をする。更に、他の例としてはキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)で究明されたbantam RNAにして、発達過程の間に一時的で組織特異的な方法で発現され、hid mRNAの転写抑制により細胞増殖を刺激し、アポトーシスを抑制する作用があると知られている(非特許文献24)。最近miR-181を含むいくつかのマウスmiRNAsは血液生成(hematopoiesis)を調節するものと報告された(非特許文献25)。植物においてmiRNAsは発達過程に重要な転写因子に対して高度の相補的状態を示す(非特許文献25、26、27、28、29)。このようなmiRNAsは標的mRNAの分裂(cleavage)や翻訳抑制を誘導し、そのために植物発達と器官形成を調節するようになる。
【0005】
miRNAsの発現はしばしば組織特異的で、発逹段階において特異的に現われるものの、その調節機作は未だに多く知られていない(非特許文献30、31、32、33、34)。本発明者らは以前の報告でmiRNAsが最初の長い転写体として(pri-miRNAsと命名)転写されることを示した(非特許文献35)。この最初の転写体は核内でRNaseIII形態タンパク質であるDroshaによってpre-miRNAsと呼ばれる約70nt長のstem-loop形態で切れるようになる(非特許文献36)。この初期過程後にpre-miRNAsはExportin-5によって細胞質に移動するようになり(非特許文献37、38)、更に他のRNaseIII形態タンパク質であるDicerによりおおよそ22nt長の成熟したmiRNAsが作られる(非特許文献39、40、41、42)。このような多段階過程と区分(compartmentalization)の複合的段階を研究することによりmiRNAsによる発生過程の調節を明らかにすることができるであろう。
【0006】
今まで300個以上のmiRNAsが多様な真核生物より報告された(非特許文献21、30、32、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55)。さらにmiRNAs遺伝子の大部分が大きさ別に分類されたRNAサンプルからcDNAクローニングを通じて発見された。最近更に多くのmiRNA遺伝子らがコンピュータを用いた手順による方法で脊椎動物、線虫(C.elegans)及びショウジョウバエ(Drosophila)から発見された。生物情報学の分析によれば、ヒトにおいて200-255個のmiRNAsが存在すると示され、これは予想の全体遺伝子数の1%に該当する(非特許文献56)。もし、予想が正しければ、100個ぐらいの遺伝子が特定されずに残っている。なぜならば、152個がヒトから発見され、その中で109個は実験的に検証されている(非特許文献57)ことからみて、特定の発生段階と状態でのみ発現されるmiRNAはクローニングや実験的な検証が難しい。しかし、未だにヒトES細胞からmiRNAが分離されたことは皆無である。
【0007】
【非特許文献1】Evans et. al., Nature, 292:154-156, 1981
【非特許文献2】Martin, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 78: 7634-7638, 1981
【非特許文献3】Smith, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 2001
【非特許文献4】Brustle, Science, 285:754-756, 1999
【非特許文献5】Li et al., Curr. Biol., 8:971-974, 1998
【非特許文献6】Pera et al., J. Cell. Sci., 113:5-10, 2000
【非特許文献7】Palmieri et al., Dev. Biol., 166:259-267, 1994
【非特許文献8】Yeom et al., Development, 122:881-894, 1996
【非特許文献9】Nichols et al., Cell, 95:379-391, 1998
【非特許文献10】Niwa et al., Nat. Genet., 24:372-376, 2000
【非特許文献11】Pesce et al., BioEssays, 20:722-732, 1998
【非特許文献12】Niwa et al., Gene Dev., 12:2048-2060, 1998
【非特許文献13】Avilion et al., Gene Dev., 17:126-140, 2003
【非特許文献14】Hanna et al., Gene Dev., 16:2650-2661, 2002
【非特許文献15】Chambers et al., Cell, 113:643-655, 2003
【非特許文献16】Mitsui et al., Cell, 113:631-642, 2003
【非特許文献17】Thomson et al., Science, 282:1145-1147, 1998
【非特許文献18】Amit et al., Dev. Biol., 227:271-278, 2000
【非特許文献19】Reubinoff et al., Nat. Biotechnol., 18:399-404, 2000
【非特許文献20】Olsen and Ambros, Dev. Biol., 216:671-680, 1999
【非特許文献21】Lee et al., Cell, 75: 843-854, 1993
【非特許文献22】Wightman et al., Cell, 75:855-862, 1993
【非特許文献23】Reinhart et al., Nature, 403:901-906, 2000
【非特許文献24】Brennecke et al., Cell, 113:25-26, 2003
【非特許文献25】Chen et al., Science, 303:83-86, 2003
【非特許文献26】Aukerman and Sakai, Plant Cell, 2003
【非特許文献27】Llave et al., Science, 297:2053-2056, 2002b
【非特許文献28】Palatnik et al., Nature, 425:257-263, 2003
【非特許文献29】Rhoades et al., Cell, 110:513-520, 2002
【非特許文献30】Aravin et al., Dev. Cell, 5:337-350, 2003
【非特許文献31】Krichevsky et al., RNA, 9:1274-1281, 2003
【非特許文献32】Lagos-Quintana et al., Science, 294:853-858, 2002
【非特許文献33】Pasquinelli et al., Nature, 408-86-89, 2000
【非特許文献34】Sempere et al., Dev. Biol. 259:9-18, 2003
【非特許文献35】Lee et al., EMBO J., 21:4663-4670, 2002
【非特許文献36】Lee et al., Nature, 425:415-1419, 2003
【非特許文献37】Lund et al., Science, 303:95-98, 2003
【非特許文献38】Yi et al., Genes Dev., 2003
【非特許文献39】Grishok et al., Cell,106:23-24, 2001
【非特許文献40】Hutvagner et al., Science, 293:834-838, 2001
【非特許文献41】Kettinget al., Genes Dev., 15:2654-2659, 2001
【非特許文献42】Knight and Bass, Science, 293:2269-2271, 2001
【非特許文献43】Dostie et al., RNA, 9:180-186, 2003
【非特許文献44】Gradet al., Mol. Cell., 11:1253-1263, 2003
【非特許文献45】Lagos-Quintana et al., Curr. Biol. 12:735-739, 2002
【非特許文献46】Lagos-Quintana et al., RNA, 9:175-179, 2003
【非特許文献47】Lai et al., Genome Biol., 4, R42, 2003
【非特許文献48】Lau et al., Science, 294:858-862, 2001
【非特許文献49】Lee and Ambros, Science, 294:862-864, 2001
【非特許文献50】Limet al., Genes Dev., 2, 2, 2003b
【非特許文献51】Llave et al., Plant Cell, 14:1605-1619, 2002a
【非特許文献52】Mourelatos et al., Genes Dev., 16:720-728, 2002
【非特許文献53】Park et al., Curr. Biol., 12:1484-1495, 2002
【非特許文献54】Reinhart et al., Nature, 403-901-906, 2000
【非特許文献55】Reinhart et al., Genes Dev., 16:1616-1626, 2002
【非特許文献56】Lim et al., Science, 299, 1540, 2003a
【非特許文献57】Brennecke and Cohen, Genome Biol., 4, 228, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的はヒトES細胞から分離された新規miRNA及びその用途を提供することである。
このような本発明の目的を果たすために、本発明は(a)配列番号1〜配列番号17に記載される群より選ばれるいずれかの塩基配列;(b)上記の塩基配列と相補的な塩基配列;(c)上記の(a)又は(b)の塩基配列と少なくとも80%以上の同一性(identity)を有する塩基配列;及び(d)ストリンジェントな条件下で上記の(a)、(b)又は(c)の塩基配列とハイブリダイゼーションされる塩基配列からなる群より選ばれるいずれかの塩基配列を含む、ヒトES細胞から分離された核酸分子及びその用途を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1(a) 配列番号1〜配列番号17に記載する群より選ばれるいずれかの塩基配列;
(b) 上記の塩基配列と相補的な塩基配列;
(c) 上記の(a)又は(b)の塩基配列と少なくとも80%以上の同一性(identity)を有する塩基配列;及び
(d) ストリンジェントな条件の下で上記の(a)、(b)又は(c)の塩基配列とハイブリダイズする塩基配列からなる群より選ばれるいずれかの塩基配列を含む、ヒトES細胞から分離された核酸分子。
2 上記の核酸分子はmiRNA分子又はそのアナログであることを特徴とする、前記1に記載の核酸分子。
3 上記の核酸分子はmiRNA前駆体分子であることを特徴とする、前記1に記載の核酸分子。
4 配列番号84〜配列番号99からなる群より選ばれるいずれかの塩基配列を有することを特徴とする、前記3に記載の核酸分子。
5 前記1に記載の核酸分子を含むベクター。
6 前記1に記載の核酸分子を有効成分として含む 薬学的組成物。
7 診断用であることを特徴とする、前記6に記載の薬学的組成物。
8 治療用であることを特徴とする、前記6に記載の薬学的組成物。
9 前記1に記載の核酸分子を含むヒト幹細胞に特異的なマーカー。
10 上記のヒト幹細胞はES細胞、胚性腫瘍幹細胞及び成体神経幹細胞からなる群より選ばれることを特徴とする、前記9に記載のマーカー。
11 上記のヒト幹細胞は未分化のES細胞であることを特徴とする、前記9に記載のマーカー。
12 配列番号1〜配列番号10及び配列番号13〜配列番号16からなる群より選ばれる一つ以上の塩基配列を有することを特徴とする、前記11に記載のマーカー。
13 (a) 幹細胞からRNAサンプルを抽出する段階;及び
(b) 上記の抽出されたRNAサンプルにおいて配列番号1〜10及び13〜16からなる群より選ばれる塩基配列を有する核酸分子の発現の有無を調べる段階を含むヒト幹細胞の分化の可否を確認する方法。
14 (a) 幹細胞からRNAサンプルを抽出する段階;及び
(b) 上記の抽出されたRNAサンプルにおいて配列番号1〜10及び13〜16からなる群より選ばれる塩基配列を有する核酸分子の発現の有無を調べる段階を含むヒト幹細胞類型の判別方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
ヒトES細胞からmiRNAを分離したのは本発明で初めてである。
本発明によるmiRNAは下記の表1に記載されたとおりに配列番号1ないし配列番号17でからなる群より選ばれる塩基配列を有する。
【表1】

【0011】
また本発明には、上記の表1に記載されたmiRNAsの塩基配列と相補的な塩基配列を有する核酸分子も本発明に含まれる。更に、本発明には、配列番号1〜配列番号17からなる群より選ばれる塩基配列又はこれと相補的な塩基配列と少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは95%以上の同一性(identity)を有する塩基配列を持つ核酸分子も含まれる。上記において同一性’とは、二つの配列間に一致する程度を指し、より具体的には整列された二つの配列において同位置にある塩基が正確に一致する程度を指す。上記の同一性は、BLAST(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)、FASTA(http://bioweb.pasteur.fr/seqanal/interfaces/fasta.html)又は相同性検索(Smith Waterman Algorithm)等の当業者にはよく知られた同一性検索プログラムを用いて調査することができる。
【0012】
更に、本発明には配列番号1ないし配列番号17でからなる群より選ばれる塩基配列;これと相補的な塩基配列;及び上記の塩基配列らと少なくとも80%以上の同一性を塩基配列からなる群より選ばれるいずれかの塩基配列とストリンジェントな条件で相補的結合、即ちハイブリダイゼーション(hybridization)を形成する塩基配列が含まれる。
上記の相補的な結合条件は当業者にはよく知られた一般的なハイブリダイゼーションの条件でもあり得る。好ましくは、1×SSCと0.1%のSDSで1時間45℃又は48℃で反応(洗浄)させることを含み、より好ましくは50℃で0.2×SSCと0.1%SDSで1時間反応させることができる。上記の反応を通じて相補的結合が行われない塩基は除去される。
【0013】
本発明による核酸分子は、好ましくは18ないし100nt、より好ましくは18ないし100nt長を有することができる。本発明の核酸分子の中で成熟したmiRNAsは主に19〜24nt、特に21、22又は23nt長を有することができる。また本発明の核酸分子は一般的に50〜100nt、好ましくは65〜95nt長を有するmiRNA前駆体分子(miRNA precursor molecule, pre-miRNA)として提供できる。上記のmiRNA前駆体分子は約100nt長以下の1次転写体のプロセッシングによって生ずる。上記のmiRNA前駆体分子は下記の表2のとおり配列番号84ないし配列番号99で成り立つからなる群より選ばれるいずれかの塩基配列を有することができ、図1に図示された2次構造を有するのが好ましい。
【0014】
【表2】

【0015】
上記のmiRNA前駆体分子は当業者にはよく知られた通常的な方法、例えば、MFOLDプログラム(http://www.bioinfo.rpi.edu/applications/mfold/old/rna)(Zuker et al., Algorithms and Thermodynamics for RNA Secondary Structure Prediction: A Practical Guide. Kluwer Academic Publishing, Dordrecht, The Netherlands, 1999)によって確認できる。
【0016】
本発明による核酸分子は一本鎖又は二本鎖の形態で存在することができる。miRNAは主に一本鎖分子である一方、pre-miRNAsは主に二本鎖部分を形成することができる少なくとも部分的に自己-相補的な分子(例:stem-及びloop-構造)である。
また本発明の核酸分子はRNA、DNA又は糖-又は骨格-変形リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドのような核酸アナログ分子(analog molecules)であり得る。またPNA(peptide nucleic acids)又はLNA(locked nucleic acids)のような他の核酸アナログ分子も相応しい。
【0017】
本発明の核酸分子は少なくとも一つの変形された核酸アナログを含む、即ち自然的に生成されるリボヌクレオチド又はデオキシヌクレオチドが非自然的に生成されるヌクレオチドに変形されたRNA-又はDNA分子であり得る。上記の変形された核酸アナログは、例えば核酸分子の5'-末端及び/又は3'-末端に位置することができる。
好ましい核酸アナログは糖-又は骨格-変形リボヌクレオチドである。またヌクレオベース(nucleobase)-変形リボヌクレオチド、即ち次のような自然的に発生するヌクレオチドベースの代わりに非-自然的に発生するヌクレオベースを含むリボヌクレオチドが相応しいと報告された。例えば、5'位置に変形されたウリジン又はシチジン(例:5-(2-アミノ)プロピルウリジン、5-ブロモウリジン);8-位置に変形されたアデノシン及びグアデノシン(例:8-ブロモグアノシン);デアザ(deaza)ヌクレオチド(例:7-デアザ-アデノシン);及びO- and N-アルキル化(O- and N-alkylated)ヌクレオチド(例: N6-メチルアデノシン)。好ましい糖-変形リボヌクレオチドにおいて2'-OHグループは、H、OR、R、ハロ(halo)、SH、SR、NH2、NHR、NR2又はCN(ここで、RはC1-C6アルキル、アルケニル又はアルキニルで、ハロはF、Cl、Br又はIである)から成る群より選ばれるグループによって置き換えられる。好ましい骨格-変形リボヌクレオチドで隣接したリボヌクレオチドに連結されているホスホエステルグループは変形されたグループ、例えば、ホスホチオエイトグループに置き換えられる。上記の記載された変形が組合せ得る。
【0018】
本発明の核酸分子は化学合成方法又は組換え方法(例: 合成DNAテンプレート又は組換え有機体から分離されたDNA-プラスミドから酵素学的転写)によって得られる。転写にはT7、T3又はSP6RNA重合酵素のような典型的なファージRNA-重合酵素が用いられる。
【0019】
本発明の核酸分子は発現調節配列に操作できるように結合させた、ベクター内に挿入される。上記において発現とは、転写又は上記に記載されたとおりのmiRNA分子又はmiRNA前駆体分子を作り出す任意的な付加プロセッシングを指す。上記においてベクターとは、好ましくはDNAベクター、例えば、ウイルス性ベクター又はプラスミドであり得る。特に、真核生物、特に哺乳類の細胞で核酸分子の適切な発現ベクターであり得る。
上記のウイルス性ベクターとしては、これに限定されないものの、レトロウイルス(retrovirus)、アデノウイルス(adenovirus)、ヘルペスウイルス(herpes virus)及びアビポスウイルス(avipox virus)等を用いることができる。上記のレトロウイルスベクターとは、ウイルス遺伝子が全て除去されるか又は変更されて、非-ウイルスタンパク質がウイルスベクターによって感染された細胞内で作られるように作製されたものである。遺伝子療法のためのレトロウイルスベクターの主な長所は、多量の遺伝子を複製細胞内に伝達し、細胞DNA内に伝達された遺伝子を正確に統合し、遺伝子形質感染後に連続的な感染が誘発されないことである(Miller, A.D., Nature, 357:455-460, 1992)。FDAで認証されたレトロウイルスベクターはPA317アムポトロピックレトロウイルスパッケージ細胞を用いて製造したものである(Miller, A.D. and Buttimore, C., Molec. Cell Biol., 6:2895-2902, 1986)。また非-レトロウイルスベクターとしては、上記で言及したとおりのアデノウイルスがある(Rosenfeld et al., Cell, 68:143-155, 1992; Jaffe et al., Nature Genetics, 1:372-378, 1992; Lemarchand et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:6482-6486, 1992)。アデノウイルスの主な長所は、多量のDNA断片(36kbゲノム)を運び、極めて高い力価で非-複製細胞を感染させることができる能力があるということである。またヘルペスウイルスもヒト遺伝子療法のために有効に用いられる(Wolfe, J.H., et al., Nature Genetics, 1:379-384, 1992)。その他にも、公知された適切なウイルスベクターが本発明に用いられる。
【0020】
また上記のプラスミドとしては、当業者にはよく知られた哺乳類の発現プラスミドを用いることができる。例えば、これに限定されないものの、pRK5(ヨーロッパ特許第307,247号)、pSV16B(国際特許公開第91/08291号)及びpVL1392(PharMingen)等が代表的である。
【発明の実施の形態】
【0021】
本発明は、核酸分子の診断学的又は治療学的用途を提供する。例えば、miRNAsはmiRNA-分子の差別的発現又はmiRNA-分子状に特徴付けられるmiRNA-連関病因性疾患の細胞類型又は組織類型を決定又は分類するために、生物学的サンプル(例: 組織セクション)で検出される。更にmiRNAs分子の一時的な発現を分析することによって細胞の発達学的段階を確認することができる。
【0022】
本発明のmiRNA-302b*、miR-302b、miR-302c*、miR-302c、miR-302a*、miR-302d及びmiR-367はヒト胚性腫瘍幹細胞でも発現する。またmiR-374の場合にはヒトの子宮頸部癌細胞株(HeLa)で特異的に発現する。従って、上記の核酸分子は治療学的用途に適する。即ち、上記の核酸分子は癌のような発達学的異常(developmental dysfunction)と関連した疾患又は発達学的過程のターゲットや調節者(modulators)として用いられる。
【0023】
また本発明の核酸分子は配列番号 1 ないし配列番号 17からなる群より選ばれるいずれかの核酸分子に少なくとも部分的に相補的な遺伝子の発現調節者として通常的に用いられることができる。更に、miRNA分子は治療学的スクリーニング過程のためのターゲットとして働くことができる。即ち、miRNA分子の阻害又は活性化はアポトーシスのような細胞分化過程(cellular differentiation process)を調節することができる。
【0024】
更に、本発明の核酸分子は、それらのターゲット(例: 腫瘍遺伝子(oncogene)、多重薬剤-抵抗性遺伝子又は他の治療学的ターゲット遺伝子)に対する特異性を変換するために、配列-変形miRNA分子の生成の基質として用いることができる。上記の変形された新規miRNA分子は配列番号1ないし配列番号17からなる群より選ばれるいずれかの塩基配列を持つmiRNAs(出発物質)と少なくとも80%以上の同一性(identity)を有することができる。更に、本発明のmiRNA分子は対称的にプロセッシングされた後更に治療学的に係わっているターゲットを対象とする二本鎖siRNAsを生産するために変形される。
【0025】
また本発明の核酸分子は組織の再プログラミング過程のために用いられる。例えば、分化された細胞株は他の細胞型又は幹細胞内でmiRNA分子を発現させることによって形質転換できる。
診断学的又は治療学的用途のために、本発明の核酸分子は薬学的組成物の形態で提供される。上記の薬学的組成物は活性成分として本発明の核酸分子を少なくとも一つ含むことができ、薬学的に許容される担体を更に含む。
【0026】
本発明による薬学的組成物の投与は当業者にはよく知られた方法で行うことができる。上記の核酸分子は試験管内及び生体内で目標のターゲット細胞内に導入される。
一般的に使われる遺伝子転移技術は、一時的形質感染(transient transection)、微細注射、形質導入、細胞融合、リン酸カルシウム沈澱法、リポソームが媒介された形質感染(liposome-mediated transfection)、DEAEデキストラン-媒介された形質感染(DEAE Dextran-mediated transfection)、ポリブレン-媒介された形質感染(polybrene-mediated trans fection)、電気穿孔法(electroporation)、遺伝子銃(gene gun)及びウイルス性方法を含む(Wu et al., J. Bio. Chem., 267:963-967, 1992; Wu and Wu, J. Bio. Chem., 263:14621-14624, 1988; Graham et al., Virol., 52:456, 1973; McCutchan
et al., J. Natl. Cancer Inst., 41:351, 1968; Chu et al., Nucl. Acids Res., 15:1311, 1987; Fraley et al., J. Biol. Chem., 255:10431, 1980; and Capecchi, Cell, 22:479, 1980)。またDNAを細胞内に取り入れるための最近の技術である陽イオンリポソームを用いた方法を利用することができる(Felgner et al., Proc. Natl. Acad., Sci., U. S. A. 84:7413, 1987)。上記の陽イオンリポソームとしては常用化されているTfx50(Promega)又はリポペクタミン2000(Life Technologies)を用いることができる。
【0027】
本発明の薬学的組成物は溶液(例: 注射可能な溶液)、クリーム、軟膏、錠剤、懸濁液等のような形態に製造され得る。上記の組成物は注射、経口、局所、鼻腔、直腸等の経路を通じて投与される。本発明の組成物に含まれることができる担体は薬学的に許容される担体ならば、制限無く用いることができる。本発明の核酸分子のターゲット細胞内への導入効率を増加させることができる能力を有する担体を用いるのが好ましい。適した担体としては、リポソーム、より好ましくは陽イオンリポソームを担体として用いることができる。
【0028】
更に本発明は、本発明による核酸分子を含む未分化されたヒト幹細胞に特異的なマーカーを提供する。上記のヒト幹細胞とは、ES細胞、胚性腫瘍幹細胞又は成体神経幹細胞である。上記のES細胞は好ましくは未分化されたES細胞である。本発明による核酸分子の中でも特に配列番号1〜10及び配列番号13〜16からなる群より選ばれる塩基配列を有する核酸分子は、未分化されたヒトES細胞に特異的に発現されるので、上記の核酸分子は未分化されたヒトES細胞に特異的なマーカーで有効に用いられる。
【0029】
また本発明は(a)幹細胞から総RNAサンプルを抽出する段階; 及び(b)上記の抽出されたRNAサンプルにて配列番号1〜10及び13〜16からなる群より選ばれる塩基配列を有する核酸分子の発現有無を調査する段階を含む幹細胞の類型決定方法を提供する。
幹細胞から総RNAの抽出は当業者にはよく知られた方法で行われる。好ましくはTRIzol 試薬(Gibco BRL)を用いて抽出することができる。抽出された総RNAサンプルから本発明による核酸分子の発現有無は当業者にはよく知られた一般的な方法を通じて調査することができる。好ましくは上記の核酸分子に対するプローブを用いたノーザンブロット分析を行って調査することができる。上記のプローブとしては、配列番号37〜41、43〜47及び51〜54で記載される塩基配列を有する核酸を用いることができる。
【0030】
このように幹細胞の類型決定は、各核酸分子に特異的なプローブを用いて核酸分子一つの発現有無を調査して行うこともでき、他の方法としては同一の染色体内に存在するmiRNAを含むクラスター全体の発現有無を調査して行うこともできる。この場合にはRT-PCRを通じて調査するのが好ましい。RT-PCRの分析に必要なプライマーはクラスターの境界にある塩基配列を用いてデザインすることができる。例えば、4番染色体に存在する本発明による核酸分子を含むクラスター(miR-302b*〜302b〜302c*〜302c〜302a*〜302a〜302d〜367)の発現を調査することができる。この場合には配列番号74及び配列番号75で記載される塩基配列を有するプライマーセットを用いてRT-PCRを行うことができる。また19番染色体に存在するクラスター(miR-371〜372〜373*〜373)の発現を調査することもできる。この場合には配列番号76及び配列番号77で記載される塩基配列を有するプライマーセットを用いてRT-PCRを行うことができる。
【0031】
本発明による方法によってヒトES細胞とマウスES細胞とを区分することができ、更にヒトES細胞とヒト胚性腫瘍幹細胞を選抜することができる。特に、ヒトES細胞を選抜しようとする場合には、ヒトES細胞に特異的に発現する配列番号1ないし7からなる群より選ばれる塩基配列を有する核酸分子又はこれを含むクラスター(miR-302b*〜302b〜302c*〜302c〜302a*〜302a〜302d〜367)の発現を調査することができる。またヒト胚性腫瘍幹細胞を選抜しようとする場合には(a)ヒトES細胞及び胚性腫瘍幹細胞で全て発現する核酸分子(配列番号1ないし配列番号7)又はこれを含むクラスター及び(b)ヒトES細胞にのみ特異的な核酸分子(配列番号8〜10及び配列番号13〜16)又はこれを含むクラスターの発現を二つとも調査して遂行することができる。即ち、幹細胞RNAサンプルにおいて、上記の(a)核酸分子の発現は検出されるものの、(b)核酸分子の発現が検出されない場合には胚性腫瘍幹細胞として判断される。
【0032】
本発明で提供する核酸及びこれを用いた上記の方法は、ヒトES細胞とマウスES細胞の増殖及び分化のメカニズムの差異が究明できる要因として活用することができる。またヒトES細胞とヒト胚性腫瘍幹細胞にて差別的に発現するmiRNAsを用いてこれらの幹細胞の発生のメカニズムと発達様相が分析できる調節因子を提供することができる。
【0033】
更に、本発明による核酸を用いて、ヒトES細胞の分化有無を確認することができる。従って、本発明は(a)幹細胞から総RNAサンプルを抽出する段階;及び(b)上記の抽出されたRNAサンプルで配列番号1〜10及び13〜16からなる群より選ばれる塩基配列を有する核酸分子の発現有無を調査する段階を含むヒトES細胞の分化有無を確認する方法を提供する。幹細胞から総RNAの抽出及び抽出された総RNAサンプルから本発明による核酸分子の発現有無の調査は上述のとおりである。上記のプローブとしては、配列番号37〜41、43〜47及び51〜54で記載される塩基配列を有する核酸を用いることができる。上記の方法は、好ましくは4番染色体に存在するmiRNA(miR-302b*〜302b〜302c*〜302c〜302a*〜302a〜302d〜367)又はこれを含むクラスターの発現又は19番染色体に存在するmiRNAs(miR-371, miR-372, miR-373*及びmiR-373)又はこれを含むクラスターの発現をノーザンブロット分析やRT-PCRで調査して行うことができる。最も好ましくは、19番染色体に存在するmiRNAs(miR-371, miR-372, miR-373* 及び miR-373)又はこれを含むクラスターの発現をノーザンブロット分析やRT-PCRで調査して行うことができる。
【0034】
本発明の一実施例では、ヒトES細胞からmiRNAsの特性を有する36個のsmall RNAをクローニングした。そのうちに16個のmiRNAsは多様な哺乳類の組織及び細胞株にて以前報告されたのと一致した。また残りの20個の中で3個のmiRNAsはマウスからクローニングされたものと一致した(Houbaviy et al., Dev. Cell, 5:351-358, 2003)。マウスES細胞の研究と比較する時、ヒト及びマウスES細胞のmiRNAs pool間との興味深い類似性がある。幹細胞に特異的に多いmiRNAsの遺伝子は互いに極めて高い相関関係を有し、クラスターからなっている。4番染色体にあるmiR-302b、miR-302cそしてmiR-302dはマウスのES細胞でクローニングされたmiR-302に密接な相同性(homologues)があると明らかになった(Houbaviy et al., Dev. Cell, 5:351-358, 2003)。
【0035】
本発明ではmiR-302と関係あるmirRNA-like塩基配列を更に見つけた(表3参照)。マウスのmiR-302と関連した塩基配列は、またマウスの3番染色体で遺伝子のクラスターを成している。更に、他のmiRNAsのセット(set)である19番染色体にあるmiR-371、miR-372、miR-373*、そしてmiR-373は、マウスES細胞で発現されるmiR-290、miR-291-s、miR-291-as、miR-292-s、miR-292-as、miR-293、miR-294、そしてmiR-295のヒトと相同(homologue)である(Houbaviy et al., Dev. Cell, 5:351-358, 2003)。興味深いのは、ヒトES細胞で特異的にクラスターを形成する二つのmiRNAsがマウスのゲノムに保存的に存在するということである。例え、多くの相同遺伝子(homologous genes)が異なって、その塩基配列がヒトとマウスのクラスターで変異を示しても、これは多様な保存された調節機作を暗示する。このような保存されたmiRNAsが哺乳類のES細胞の調節において主な機能をするに違いない。
【0036】
しかしながら、注目するべきことは、ヒトとマウスからクローニングされたmiRNAsの相当数は異なるということである。本研究で確認された20個のmiRNAsの中で7個はマウスES細胞のmiRNAと一致しなかった。言い換えれば、マウスES細胞からクローニングされた15個のmiRNAsの中で5個は本研究結果にある塩基配列と関連性がなかった(Houbaviy et al., Dev. Cell, 5:351-358, 2003)。このような結果はヒト及びマウスのES細胞において調節ネットワークが根本的に異なることを示唆する。
【0037】
本発明の他の実施例では、ヒトES細胞からクローニングされた36個のmiRNAsの発現様相を分析した。ヒトES細胞から分離されたmiRNAsは4個のグループに分類することができる。
(1)ヒトES細胞とヒト胚性腫瘍幹細胞で発現するmiRNAs; miR-302b*、miR-302b、miR-302c*、miR-302c、miR-302a*、miR-302a、miR-302d及びmiR-367(表2及び図2の明るい灰色のブロック)。これらのmiRNAsは哺乳類の全分化能幹細胞で保存された機能を有する。これらの中でmiR-302aを除いた残りのmiRNAsは本発明で初めて提供する新規なものである。
【0038】
(2)ヒトES細胞では特異的に発現されるものの、ヒト胚性腫瘍幹細胞を含む他の細胞では発現されないmiRNAs;miR-200c、miR-368、miR-154*、miR-371、miR-372、miR-373*及びmiR-373(表3及び図2の濃い灰色のブロック)。これらのmiRNAsはES細胞でのみ特異的な機能をし、二つの全分化能幹細胞;ES細胞と胚性腫瘍幹細胞間の違いに対する分子的基礎を分析するのに有効に用いられる。これらのmiRNAsは全て本発明で初めて提供する新規なものである。
【0039】
(3)ヒトES細胞では珍しく存在するものの、ヒト子宮頸部癌細胞株であるHeLa及びマウス繊維芽細胞株であるSTO細胞では豊富に存在するmiRNAs;let-7a, miR-301, miR-374, miR-21, miR-29b 及び miR-29。これらのmiRNAsの中でmiR-374は本発明で初めて提供する新規なものである。このような発達段階別に特異的に発現するmiRNAsは線虫類のlet-7のように発達と分化調節に関与する。
【0040】
(4)最後のグループはmiR-16、miR-17-5p、miR-19b、miR-26a、miR-92、miR-103、miR-130a及びmiR-222で構成されている。これらは殆ど実験されたサンプル細胞株で発現されるので(図2参照)、基本的な細胞の機能に寄与する。
【0041】
特に、本発明で提供するmiRNAsの中でmiR-200c、miR-368、miR-154*、4番染色体に存在するmiR-302b*〜302b〜302c*〜302c〜302a*〜302a〜302d〜367クラスター及び19番染色体に存在するmiR-371〜372〜373*〜373クラスターは未分化されたヒトES細胞で特異的に発現する(図2及び図4参照)。その中でも19番染色体に存在するmiRNA遺伝子クラスターの発現様相は興味深い。上記のmiRNAsクラスターの発現は現在知られているES細胞の初期表示因子であるOct4の発現様相よりもっと早く反応し(図4参照)、ES細胞の未分化時期にのみ発現され、分化が始ると、これらの発現は急激に減少する。従って、興味深いのは上記の19番染色体に存在するmiRNAsが特にヒトES細胞の維持と分化の初期調節因子に作用することができ、これらはOct4を含む知られている因子らより先に作用する。これらのmiRNAsは以前知られていなかった胚発達の初期段階を説明することができる。
【0042】
また本発明者らは、miR-371〜372〜373*〜373(19番染色体)及びmiR-302b*〜302b〜302c*〜302c〜302a*〜302a〜302d〜367(4番染色体)クラスターの発現がヒト成体神経幹細胞でも検出されることを確認した(図6参照)。上記のmiRNA分子らはヒト成体神経幹細胞においても幹細胞の増殖及び分化調節機作に関与する。
【0043】
本発明で提供する大部分のmiRNAsは、miRNAsの前駆体のただ一本鎖からRNAがクローニングされるか又はノーザンブロット分析で確認された。本発明では4個のmiRNAs(miR-302b、miR-302c、miR-302a及びmiR-373hairpins)遺伝子が幹細胞(stem)の両方のストランド(strands)に一致(corresponding)する小さなRNAで作られることを確認した(表3及び図1参照)。しかしながら、二つの反対側の鎖のクローンの頻度は同じではない。これはこれらのmiRNAsの割合に不均衡の度合いがあることを表す。miR-302bとmiR-302cの場合、二つの側面のクローニング頻度間の割合がそれぞれ22.5:1、そして10:1であった。標準命名法によると(Ambros et al., RNA, 9:277-279, 2003)、それぞれの塩基対で少なく発現される方に星印で表示することにした。siRNA duplexesを用いた最近の研究において、このような不均衡はDicer processingによる反対側の鎖の非対称分解(asymmetric degradation)から起きるという。これによれば、5'末端に安定していないストランドが生存し、より良い機会を有するようになる(Khvorova et al., Cell, 115:209-216, 2003; Schwarz et al., Cell, 115:199-208, 2003)。本発明で提供する新規miRNAs前駆体の69%がこれと全く一致し、このような法則は一般的に妥当な論理ではあるものの、miRNAsのためのストランドの選択に対する機作はsiRNAより更に複雑である。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
但し、下記の実施例は本発明を例示するものであり、本発明の内容がそれに限定されるものではない。
【0045】
<参考例1>
ES細胞の培養
ヒトES細胞であるSNU-hES3(ソウル大学)とMIZ-hES1(ミズメディ病院)をDMEM/F12(Gibco BRL)に20%(v/v) 血清代替物(Gibco BRL)、ペニシリン (100 IU/ml, Gibco BRL)、ストレプトマイシン(100 ug/ml, Gibco BRL)、0.1mM 非必須アミノ酸(NAA, Gibco BRL)、0.1mM-メルカプトエタノール(Sigma)、4ng/ml basic FGF (R&D)を添加した培地で培養維持した。培地は毎日取り替え、ヒトES細胞のコロニーはマイトマイシンC(sigma)を前処理したマウス細胞であるSTO(ATCC CRL-1503) feeder 細胞層の上で維持させ、機械的に分離し、5〜6日ごとに新しいSTO feederの上に移して培養した。一方、HS-3 マウスES細胞(Postech)は基本培養方法(Evans and Kaufman, Nature, 292: 154-156, 1981)に準じて培養維持した。
【0046】
<参考例 2>
ヒトES細胞の分化
胚様体(Embryoid body :EBs)を製造するために、ヒトES細胞のコロニーをガラスピペットを用いて分離した後、pluronic F-127(Sigma)でコーティングされたシャーレに移して10日間培養した。EBの培養液はbFGFを添加しないヒトES細胞の培養液を用い、2日ごとにピペットを用いて培養液を交換した。SNU-hES3から作ったEBを分化させるために、ポリ-L-オルニチン(0,01% (v/v))/ フィブロネクチン(5g/ ml (w/v))でコーティングされた組織培養皿で培養した後、20ng/ml bFGFが添加されたN2補充培地で毎日取り替え、5日間培養した。飽和された細胞らは機械的方法を用いて分離した後イエローチップを用いて粉砕し、ポリ-L-オルニチン/フィブロネクチンでコーティングされた組織培養皿に移して培養した。分化誘導のために、N2 培地に20ng/ml bFGFを添加して5日間培養した。細胞が飽和された時にトリプシンを処理した後2:1又は3:1にポリ-L-オルニチン/ フィブロネクチンでコーティングされた培養皿に移して培養した。
【0047】
<実施例 1>
ヒトES細胞からmiRNAsのクローニング
<1-1> ヒトES細胞からcDNAライブラリー作製培養
ヒトES細胞から発現されるmiRNAsを同定するために、2個の独立的なcDNAライブラリーを作製した。細胞株からTRIzol試薬(Gibco BRL)を用いて総RNAを抽出した。以降、cDNAライブラリーは未分化されたヒトES細胞(SNU-hES3, 韓国細胞応用研究事業団登録細胞株)からsize fractionated RNA(17〜26nt)を用いたクローニング方法で作製した(Lagos-Quintana et al. Science, 294: 853-858, 2001)。この際にヒトES細胞 SNU-hES3の未分化状態は未分化マーカーであるOct4 mRNAの一定した発現の有無をRT-PCRで測定して確認した。この際にRT-PCRは次のような方法で実施した。上記の細胞から抽出した総RNA 2〜5μgをSUPERSCRIPT(Gibco BRL)で1次ストランドのcDNAを合成した後、配列番号37及び配列番号38で記載される塩基配列を有するプライマーを用いてPCR法を行った。またヒトES細胞の未分化状態を判定するために、アルカリホスファターゼ(AP)及び発達段階に特異的に発現される胚細胞の抗原(胚細胞の表面表示因子)であるSSEA-1、SSEA-3及びSSEA-4の発現を免疫染色で確認した。その結果、上記のSNU-hES3細胞でOct4、AP、SSEA-3及びSSEA-4の発現が高い水準で現われていることを確認し、未分化状態を維持していることを確認した(結果は図示していない)。
【0048】
<1-2> ヒトES細胞からmiRNAsクローニング及び生物情報学的分析
上記の実施例 <1-1>で作製したcDNAライブラリーからラゴス-クインタナ等の方法(Lagos-Quintana et al. Science, 294: 853-858, 2001)の方法を参照し、miRNAsをクローニングした。クローニングされたmiRNAsのデータベース分析はBLASTサーバー(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST) (Altschul et al., J. Mol. Biol. 215:403-410, 1990)とENSEMBLサーバー (http://www.ensembl.org) (Hubbard et al., Nucleic Acids Res., 30:38-41, 2002)を用いた。またmiRNA塩基配列間の塩基整列はCLUSTALW (http://www.ebi.ac.kr/clustalw/)を用いた(Higgins and Sharp, Dev. Cell, 5:351-358, 1988)。
【0049】
その結果、1,475個のsmall cDNAsで塩基配列を得て、その中で733個は重複しない塩基配列であった。これらの塩基配列の約70%がより長く暗号化される遺伝子座で発現される鎖及びtRNA、rRNAのようなcoding又はnoncoding RNAsを暗号化するものとして以前究明された鎖に一致した。
また遺伝子分解産物又はsiRNAs(small interfereing RNAs)からmiRNAsを区別するために、MFOLDプログラム(http://www.bioinfo.rpi.edu/applications/mfold/old/rna)(Zuker et al., Algorithms and Thermodynamics for RNA Secondary Structure Prediction: A Practical Guide. Kluwer Academic Publishing, Dordrecht, The Netherlands, 1999)を利用してRNAを含むクローンらの2次構造、即ちstem-loopが形成できるか否かを確認した。その結果、36個のRNAsが正確なヘアピン構造(hairpin)を作ると確認された(下記の表1及び図1参照)。
【0050】
【表3】

【0051】
(a) 本発明で新しく同定されたmiRNAsは上記に示した。明るい灰色のブロックはES細胞とEC細胞とで発現されるmiRNAsを示し、濃い灰色のブロックはEC細胞を含む他の細胞らでは発現されずにES細胞でのみ発現されるmiRNAsを示す。
(b) 同定された遺伝子配列の中で最も長いものを表記した。
(c) 各ライブラリーで発見されたクローンの数。
(d) マウス(Mm)、ラット(Rn)及びフグ (Fr)にある相同ステムループ(homologus stem loop)の存在を示す。上記の相同ステムループはゲノム配列を基に推定されたものである。
【0052】
(e)ノーザンブロット分析によって決定された発現パターン。単一数字(digit)の数は図2に示したとおり異なる細胞株で与えられたmiRNAの相対的なバンド強度を現わし、他のmiRNAsの相対的な発現水準に対する情報は与えない。5個の数字は HeLa、STO、mES、SNU-hES1及びhECから連続的に得たバンド強度を現わす。6個の数字は HeLa、STO、mES、SNU-hES1、Miz-hES3及びhECから連続的に得たバンド強度を示す。Sは約22nt周りの塗沫標本(smear)であり、与えられたmiRNAの発現水準の判断が不可能である。
【0053】
上記の表3に記載された36個のRNAクローンの中で16個は多様な哺乳類の成体組織や細胞株で以前報告されたものと同一だった(上記の表3の下のパネル)。興味深いことに、残っている20個のRNAsがクローンの大部分であった(158個のクローンの中で122個;77%)(上記の表3の上のパネル)。このような結果は、類似したクローニング方法を用いた最近の他の研究で約600個のクローンの中で91%が以前同定されたmiRNAsに一致するという最近の研究結果と対照されるものとして興味深い(Lagos-Quintata et al., RNA, 9:175-179, 2003)。二つの研究の根本的な違いはRNAを抽出した資源が異なるものである。即ち、ラゴス−クィンタナ(Lagos-Quintata)等は18.5周齢の成体マウスの多様な組織とヒト骨母細胞肉腫(osteoblast sarcoma)細胞株であるSaos2(Lagos-Quintata et al., RNA, 9:175-179, 2003)でRNAsを抽出した一方、本発明ではヒトES細胞からRNAsを抽出した。
上記の結果から成体組織の細胞又は他の細胞株とは異なる特異的なmiRNAsのsetがヒトES細胞に極めて豊富に存在することが確かめられた。
【0054】
上記の残っている20個のRNAの中でも3個は最近マウスES細胞から同定された3個のmiRNAs(Houbaviy et al., Dev. Cell, 5:351-358, 2003)と一致すると調査された: miR-296(miR-296), miR-301(miR-301)と miR-302(miR-302a)。従って、本発明でヒトES細胞から分離したmiRNAsの中で17個のmiRNAsは新規のものである(上記の表1参照)。
【0055】
<実施例2>
新規miRNAsのヒトES細胞における特異的発現分析
上記の実施例1でクローニングされたmiRNAsの発現を確認するために、未分化ヒトES細胞(SNU-hES3, ソウル大学)、マウスES細胞(HS-3, Postech)、そしてヒト胚芽腫瘍幹細胞株(NTERA2, ATCC, CRL-1973, USA)から抽出した総RNAを用いてノーザンブロット分析を行った。
ヒトES細胞からmiRNAの発現を確認するために、更に他のヒトES細胞であるMIZ-hES1 細胞(ミズメディ病院)を使用した。この細胞はアメリカのNIHにヒトES細胞として公式的に登録されたものである。対照群としてヒト子宮癌細胞株(human cervical carcinoma cell line)であるHeLa細胞及びマウス繊維芽細胞(mouse fibroblast cell line)であるSTO細胞から分離した総RNAを用いた。
各細胞株から分離した総RNA(100μg)を12.5%変性ポリアクリルアミドゲルにローディングして電気泳動した。以降、溶解されたRNAを約12時間 ゼータ電位GT blotting membrane(Bio-Rad)にブロッティングした。オリゴヌクレオチドは32P- γ ATPを用いて5'の末端に表示した後、プローブとして使用した。以降、ExpressHybハイブリダイゼーション溶液(Clontech)を用いて前ハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーションを行った。使用したプローブは下記の表4のとおりである:
【0056】
【表4】

【0057】
その結果、図2で見るとおり、本発明で同定した17個の新規miRNAsの中でmiR-369、miR-370及びmiR-374を除いた残りの14個のmiRNAsはヒト幹細胞に特異的に発現された; miR-302b*、miR-302b、miR-302c*、miR-302c、miR-302a*、miR-302d、miR-367、miR-200c、miR-368、miR-154*、miR-371、miR-372、miR-373*及びmiR-373。この中でmiR-302b*、miR-302b、miR-302c*、miR-302c、miR-302a*、miR-302d、miR-367はヒトES細胞及びヒト胚芽腫瘍幹細胞で全て発現された。一方、miR-200c、miR-368、miR-154*、miR-371、miR-372、miR-373*及びmiR-373はヒトES細胞でのみ特異的に発現された。残りの三つのクローンの中でmiR-374は主としてHeLaとSTO細胞株で発現された。miR-369及びmiR-370はその発現を確認することができなかったものの、これらは極めて低い水準で発現された可能性がある(結果は図示していない)。
【0058】
上記の結果から本発明で提供するmiRNAsの大部分がヒト幹細胞に特異的に発現されることを確認することができた。一方、以前の研究でマウスES細胞で発現されるmiR-302(Houbaviy et al., Dev. Cell, 5:351-358, 2003)として報告されたmiR-302aはマウスES細胞(mES)、ヒトES細胞(hES)及びヒト胚芽腫瘍幹細胞(hEC)から全て特異的に発現された。更に、以前マウスES細胞からクローニングされたmiR-296は発現程度が弱く現われ、発現の特異性に対する判断が難しかった。miR-301は全てのサンプルで検出された。
【0059】
<実施例3>
miRNAs遺伝子の遺伝子クラスターの分析
上記の実施例1で同定されたmiRNAsの中で12のmiRNAsのゲノム遺伝子座(genomic loci)は2個の遺伝子クラスターで確認された。
8個のmiRNAs遺伝子座(miR-302b, miR-302b*, miR-302c, miR-302c*, miR-302a, miR-302a*, miR-302d及びmiR-367)は4番染色体に約700bpの範囲内に位置した。上記の8個のmiRNAs遺伝子の中でmiR-302aを除いた他のmiRNAsは本発明で提供する新規miRNAsである。他の4個のmiRNAs(miRNA-371, miR-372, miR-373 及び miR-373*)は19番染色体の約1050bpの範囲内で発見された。これらのmiRNAsの塩基配列を比べてみると、上記のクラスター内にあるmiRNAsは極めて密接に連関されていることが分かる(図3参照)。
【0060】
特に、4番染色体にある4個のmiRNAs(miR-302b, miR-302c, miR302a(miR-302), 及びmiR-302d)は互いに高い相同性(homology)を示した。これらの塩基配列相同性はlin-4とlet-7クラスターのようにmiRNAs塩基配列の5'の位置でより高く現われた。このような発見は5'塩基配列を通じて初めで標的遺伝子を認識するという仮説と一致するものである(Lai, Nat. Gent., 30:363-364, 2002)。このような連関されたmiRNAsは同一な標的塩基配列を認識し、同じmRNA又は他のmRNAの保存された付着部位に作用するはずである。従って、このようなmiRNAs遺伝子クラスターを理解することは、予想されるmRNA標的遺伝子を確認することに役立つはずである。このmiRNAsクラスターの共通した遺伝子配列は5'-UAAGUGCUUCCAUGUUUNNGUNN-3'(配列番号73)である(図3A参照)。このmiRNAsはヒトES細胞において最も多く存在する一方、マウスと相同またはホモロジーンであるmiR-302はマウスES細胞で比較的少なく発現された(Houbaviy et al., Dev. Cell, 5:351-358, 2003)。興味深いことは、このクラスターと関係した追加遺伝子配列がマウス3番染色体で発見された(表3参照)ことである。この潜在的なマウス相同遺伝子はstem-loop構造を形成し、遺伝子クラスターを形成している。
【0061】
本発明で提供するmiRNAsの中でmiR-371、miR-372及びmiR-373は19番染色体にてクラスターとして発見された(図3B参照)。Houbaviy等によって発見されたmiRNAsの中でマウスのmiR-290、miR-291-s、miR-291-as、miR-292-s、miR-292-as、miR-293、miR-294、及びmiR-295はヒトのものと相同性を有し、マウスES細胞で発現する。マウスmiR-291-295は2.2kb長で一つのクラスターとして位置している(Houbaviy et al., Dev. Cell, 5:351-358, 2003)。
【0062】
2個のmiRNA遺伝子クラスター、例えば4番染色体上に存在するmiR302a/miR-302と19番染色体上に存在するmiR-372は類似性を有し、このような結果から2個のmiRNAs遺伝子クラスターは同じ先祖miRNA遺伝子から由来されたといえる。
【0063】
<実施例4>
ヒトES細胞の分化過程においてmiRNAの発現様相分析
ヒトES細胞が分化する間にmiRNAの発現様相をRT-PCRで確認した。クラスターmiRNA 遺伝子は一般的にpri-miRNAs(polycystronic primary transcripts)に転写される(Lee et al., EMBO J., 21:4663-4671, 2002)。よって、本発明者らは全体クラスターを含むpri-miRNAsを検出するために、70ntのstem loopクラスターの境界をプライマーとして選択した。RT-PCR分析に用いられたプライマーを下記の表5に示す。
【0064】
【表5】

【0065】
ヒトES細胞株(SNU-hES3とMiz-hES1)、これらからそれぞれ由来した胚様体(EB:embryoid body)(SNU-hES3(EB)と Miz-hES1(EB))、上記の培養体から由来した分化された細胞(SNU-hES3(Dif))、そしてHeLa細胞から総RNAをそれぞれ抽出した。ヒトES細胞株からEBの製造は上記の参照例2に記載された方法により行った。以降、上記の表5に記載されたプライマーを用いて上記の実施例1に記載された方法と同一な方法によってRT-PCRを行った。
その結果、予想されるPCR生成物(707bp及び1056bp)を2個のヒトES細胞株(SNU-hES3とMiz-hES1)で発現を確認した(図4のレーン2及びレーン5参照)。これはクラスターmiRNAが単一転写単位(single transcriptional units)であるという事実を示すものである。またヒトES細胞がEBに発達する間、2個のmiRNA遺伝子クラスターの1次転写体水準が減少すると明かされた(図4のレーン3及びレーン6参照)。この発現水準はEBから分化された細胞であるほどさらに減少した(図4のレーン4参照)。これは本発明によるmiRNAs遺伝子クラスターがヒトES細胞で特異的に発現し、分化が進行されつつ急激に減少するということを示している。
【0066】
また本発明者らは細胞の分化程度を確認するために、上記の実施例1に記載された方法によって分化段階でOct4 mRNAの発現を確認した(図4参照)。その結果、興味深いことに、19番染色体クラスター(miRNA-371-372-373-373*)の発現減少はOct4発現より先に現われた。19番染色体と違って、4番染色体のポリシストロニック転写体はヒト胚芽腫瘍幹細胞で発現され(図4のレーン7参照)、これは上記の図2で確認したノーザンブロット分析の結果と一致するものである(図2参照)。
【0067】
またヒトES細胞からクローニングされない対照群miRNA(miR-30a)はHeLa細胞でのみ検出され、他の細胞ではほとんど見つからなかった。これは上記の実施例2で確認したノーザンブロット分析の結果と一致するものである(図2及び図4参照)。一方、図2で見るとおり、成熟したlet-7a-1はHeLa細胞とSTO細胞株でのみ現われ、Pri-let-7a-1転写体は全ての細胞株で発現された。これはlet-7a-1のプロセッシング(processing)が転写後に調節されることを示す。このような事実はmiRNAsの発現が発達の間にどのように調節されるか理解することが重要である。
【0068】
<実施例5>
ヒト成体神経幹細胞における発現分析
<5-1> 成体神経幹細胞の培養
8-12週の胎児端脳の脳室周囲の部位で得た細胞を安定的に培養した。以降、5×105細胞/mlの濃度で神経幹細胞浮遊液を作り、組織培養皿で培養した。培養液はDMEM/F12を基本培養液にしてbFGF(10-20 mg/ml)、ヘパリン(8mg/ml)及びEGF(10-20mg/ml)を添加したN2培養液(Gibco BRL)を使用した。培養液は5日ごとに取替えて培養した。
【0069】
<5-2> RT-PCR分析
上記の実施例<5-1>で用意されたヒト成体神経幹細胞(hNSC)とヒトES細胞株(Miz-hES1)で総RNAをそれぞれ抽出した。本発明によるmiRNAsを含むクラスター(miR-302b*〜302b〜302c*〜302c〜302a*〜302a〜302d〜367及びmiR-371〜372〜373*〜373)の発現を配列番号74/75及び配列番号76/77のプライマーセットをそれぞれ用いて、上記の実施例1に記載された方法と同一な方法によってRT-PCRを行った。対照群としてヒトβ-アクチンの発現を共に調査した。
その結果、図6で見るとおりに、4番染色体に存在するmiR-302b*〜302b〜302c*〜302c〜302a*〜302a〜302d〜367クラスターと19番染色体に存在するmiR-371〜372〜373*〜373クラスターがヒトES細胞だけではなくヒト成体神経幹細胞(hNSC)においても特異的に発現することを確認した。それによって本発明によるmiRNAsはヒトES細胞だけではなく成体神経幹細胞においても幹細胞の増殖及び分化調節機作に関与すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上調べたとおり、本発明ではヒト幹細胞から新規のmiRNAsをクローニングした。本発明で提供されるmiRNA分子は未分化されたヒト幹細胞の初期胚発達段階のための分子的マーカーとして有効に用いられる。また本発明のmiRNA分子は哺乳類ES細胞の調節において主な機能をする。従って、ヒトES細胞の調節ネットワーク分析に有効に使われる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明で提供するmiRNA前駆体の予想される構造を現わしたものである。RNA2次構造の予想は、MFOLD(version 3.1)で行い、螺旋状の断片(helical segment)でG/U流動塩基対に合うように記載した。miRNAの配列は下線で表示した。
【図2】ヒトES細胞からクローニングされたmiRNAsのノーザンブロット分析結果である。ES細胞と胚性腫瘍幹細胞の両方で発現されるmiRNAはブラックボックス内の明るい灰色のブロックで、ES細胞でのみ特異的に発現されるmiRNAsは黒のブロックで表示した。
【図3】本発明のmiRNAクラスターに一致するゲノムDNAの断片らを多重配列整列をしたものである。成熟したmiRNAsで主に発現する位置はボックスで、弱く発現する位置は下線で表示した。また保存された部位は星印で表示した。
【図4】未分化されたヒトES細胞で本発明のmiRNA遺伝子クラスターの特異的な発現をRT-PCRで分析した結果である。
【図5】本発明のmiRNA遺伝子クラスターのゲノム構成(genomic organization)を概略的に図示したものである。
【図6】ヒト成体神経幹細胞で本発明のmiRNA遺伝子クラスターの特異的な発現をRT-PCRで分析した結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 配列番号1〜配列番号17に記載する群より選ばれるいずれかの塩基配列;
(b) 上記の塩基配列と相補的な塩基配列;
(c) 上記の(a)又は(b)の塩基配列と少なくとも80%以上の同一性(identity)を有する塩基配列;及び
(d) ストリンジェントな条件の下で上記の(a)、(b)又は(c)の塩基配列とハイブリダイズする塩基配列からなる群より選ばれるいずれかの塩基配列を含む、ヒトES細胞から分離された核酸分子。
【請求項2】
上記の核酸分子はmiRNA分子又はそのアナログであることを特徴とする、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項3】
上記の核酸分子はmiRNA前駆体分子であることを特徴とする、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項4】
配列番号84〜配列番号99からなる群より選ばれるいずれかの塩基配列を有することを特徴とする、請求項3に記載の核酸分子。
【請求項5】
請求項1に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項6】
請求項1に記載の核酸分子を有効成分として含む 薬学的組成物。
【請求項7】
診断用であることを特徴とする、請求項6に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
治療用であることを特徴とする、請求項6に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の核酸分子を含むヒト幹細胞に特異的なマーカー。
【請求項10】
上記のヒト幹細胞はES細胞、胚性腫瘍幹細胞及び成体神経幹細胞からなる群より選ばれることを特徴とする、請求項9に記載のマーカー。
【請求項11】
上記のヒト幹細胞は未分化のES細胞であることを特徴とする、請求項9に記載のマーカー。
【請求項12】
配列番号1〜配列番号10及び配列番号13〜配列番号16からなる群より選ばれる一つ以上の塩基配列を有することを特徴とする、請求項11に記載のマーカー。
【請求項13】
(a)幹細胞からRNAサンプルを抽出する段階;及び
(b)上記の抽出されたRNAサンプルにおいて配列番号1〜10及び13〜16からなる群より選ばれる塩基配列を有する核酸分子の発現の有無を調べる段階を含むヒト幹細胞の分化の可否を確認する方法。
【請求項14】
(a)幹細胞からRNAサンプルを抽出する段階;及び
(b)上記の抽出されたRNAサンプルにおいて配列番号1〜10及び13〜16からなる群より選ばれる塩基配列を有する核酸分子の発現の有無を調べる段階を含むヒト幹細胞類型の判別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−518402(P2007−518402A)
【公表日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−545233(P2006−545233)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【国際出願番号】PCT/KR2004/003308
【国際公開番号】WO2005/056797
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(506206672)
【Fターム(参考)】