説明

ヒトMRP1阻害剤のスクリーニング方法

【課題】安価で簡便な多剤耐性蛋白質MRP1阻害剤のスクリーニング法を提供すること。
【解決手段】ヒトmrp1遺伝子を導入したunc-31; sdf-14二重変異体の線虫Caenorhabditis elegansに被検体を投与し、その耐性幼虫形成を検出することを特徴とする、多剤耐性蛋白質MRP1阻害剤のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線虫の二重変異体が示す耐性幼虫形成を指標とするヒト多剤耐性蛋白質MRP1阻害剤のスクリーニング法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩酸イリノテカン等のカンプトテシン類、ミトキサントロン等の抗癌剤は、抗悪性腫瘍効果が極めて高いことから広く用いられているが、長期連用により抗癌効果が低下する場合のあることが指摘されている。最近、癌細胞によるこれらの抗癌剤に対する耐性獲得のメカニズムの研究により、ABCトランスポーターの一つであるMRP1(multidrug resistance-associated protein 1)が、これらの抗癌剤耐性獲得に関与していることが知られている(非特許文献1)。すなわち、抗癌剤が長期連用されると癌細胞内にMRP1が過剰発現し、当該MRP1は抗癌剤を細胞外へ排出することにより抗癌剤の細胞内蓄積を減少させる作用を有する。
【0003】
薬剤のMRP1阻害効果のスクリーニング方法としては、例えば、MRP1を過剰発現させた培養細胞を用いたMTTアッセイという抗癌剤感受性試験が知られている。すなわち、pre-incubationした培養細胞に抗癌剤と被検体(阻害剤)を同時に加え、2日間培養後、ミトコンドリアのsuccinic dehydrogenase(SD) 活性をテトラゾリウム塩(MTT)を用いた呈色反応で測定し、細胞の生死、つまり抗癌剤に対する培養細胞の感受性を判定する。このような培養細胞を用いたMTTアッセイを行うためには、クリーンベンチ、CO2インキュベータなどの設備を揃える必要があるだけでなく、細胞培養用具、試薬等にコストがかかる。
【0004】
ところで、C. elegansは、ゲノムサイズ108塩基対の非寄生性の土壌線虫であり、その受精卵は半日で孵化し、1〜4齢の幼虫を経て成虫になるが、孵化直後に餌が不足し個体密度が高くなると、3齢幼虫の代わりに耐性幼虫(dauer幼虫)となる。耐性幼虫形成に関する遺伝子は、耐性幼虫形成の突然変異体の原因遺伝子をクローニングすることにより、ヒト蛋白質のホモログをコードするものが多数存在することが判明している(非特許文献2〜4)。
また、線虫C. elegansのunc-31遺伝子は、ヒトのcalcium activated protein for secretion (CAPS)ホモログをコードする。その遺伝子変異体は運動異常を示し、25℃付近で飼育した場合に野生型と同様に耐性幼虫形成を示さないが、ある遺伝子変異Xとの二重変異体にすると、25℃付近で耐性幼虫形成を示す場合がある(非特許文献5、6)。
【非特許文献1】Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95(26), 15665-15670(1998).
【非特許文献2】Nature, 382(6591): 536-539, 1996.
【非特許文献3】Science, 274(5291): 1389-1391, 1996.
【非特許文献4】Science, 277(5328): 942-946, 1997.
【非特許文献5】Neuron, 18(4): 613-622, 1997.
【非特許文献6】Genetics, 156(3): 1047-1067, 2000.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明の目的は、安価で簡便な多剤耐性蛋白質MRP1阻害剤のスクリーニング法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、かかる現状に鑑み、簡単で安価な多剤耐性蛋白質MRP1阻害剤のスクリーニング法について鋭意検討したところ、線虫C. elegansのunc-31;sdf-14の二重変異体は耐性幼虫を形成するが、これにヒトmrp1遺伝子を導入すると耐性幼虫形成が減少することを見出した。また、ヒトmrp1遺伝子を導入した線虫C. elegansのunc-31;sdf-14二重変異体にMRP1阻害剤を与えると、耐性幼虫(dauer幼虫)形成が増加するようになることから、この耐性幼虫形成を測定すれば多剤耐性蛋白質MRP1阻害剤を簡便にスクリーニングできることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、ヒトmrp1遺伝子を導入したunc-31; sdf-14二重変異体の線虫Caenorhabditis elegansに被検体を投与し、その耐性幼虫形成を検出することを特徴とする、多剤耐性蛋白質MRP1阻害剤のスクリーニング方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ヒト多剤耐性蛋白質MRP1阻害剤の阻害作用を、培養細胞を用いなくても線虫を使って測定できるため、多剤耐性蛋白質MRP1阻害剤を安価にスクリーニングできる。本発明によれば、耐性幼虫形成という安価な実体顕微鏡で観察可能な指標で判定できるため、操作が簡便である。また、線虫は成育が早く、短期間でのスクリーニングが可能である。
従って、本発明は抗癌剤に対する多剤耐性蛋白質MRP1阻害剤のスクリーニング法として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明では、線虫C. elegansのunc-31(e169); sdf-14(ut153)二重変異体を使用する。unc-31(e169)変異体は、運動異常変異体としてBrennerにより分離されており(Genetics, 77: 71-94, 1974.)、Caenorhabditis Genetics Center, University of Minnesota, USAより入手したものを使用できる。unc-31遺伝子は、この変異体を使って、Livingstoneによりポジショナルクローニング法により同定され(Livingstone PhD thesis, Darwin College, University of Cambridge, 1991.、Proc.Nati.Acad.Sci.USA.93:12593-12598, 1996.)、calcium activated protein for secretion(CAPS)ホモログをコードすることが判明している。unc-31遺伝子の塩基配列は、Genbank accession number: Z69665、アミノ酸配列は、SwissProt accession number: Q23658に登録されている。
【0009】
sdf-14(ut153)変異は、unc-31(e169); Ex[unc-31(+)]という遺伝子型を有する線虫に突然変異を誘起した後、餌が十分にあっても耐性幼虫形成を示す二重変異体unc-31(e169); sdf-14(ut153)として分離されている(鈴木教郎、学位論文、総合研究大学院大学、1997)。sdf-14遺伝子は、矢部らによりこの変異体を用いてポジショナルクローニング法により同定され、F57C12.5遺伝子であることが明らかとなっている。F57C12.5遺伝子がヒトMRP1ホモログをコードすることは、既にBroeksら(EMBO J., 15(22):6132-6143, 1996.)により明らかとなっていた。F57C12.5遺伝子の塩基配列は、Genbank accession number: U41554、アミノ酸配列は、SwissProt accession number: Q9N2N3(isoform a)、Q95QE2(isoform b)、Q8MQ16(isoform c)、Q7YZW1(isoform d)に登録されている。なお、線虫C.elegansは全ゲノム配列が決定されている(Wormbase: http://www.wormbase.org/)。
【0010】
unc-31(e169); sdf-14(ut153)二重変異体の分離方法としては、まず、unc-31;Ex[unc-31(+)]変異体株を突然変異誘発する。ここで、unc-31; Ex[unc-31(+)]変異体株は、例えばunc-31(e169)変異体に野生型unc-31遺伝子を持つコスミド・クローンC14G10 (Audrey Fraser, Sanger Institute, UKより入手可能)をマイクロインジェクションすることによって作製できる。導入された遺伝子は染色体外に存在し、ある割合で失われるため、unc-31; Ex[unc-31(+)]の子孫には、unc-31; Ex[unc-31(+)](運動が正常)とunc-31(運動が異常)が混在する。unc-31; Ex[unc-31(+)]変異体株の突然変異誘発は、当該分野で通常使用される方法によって行えばよい。例えば、メタンスルホン酸エチル(EMS)等の突然変異誘発剤で処理する方法が好ましい。unc-31変異の存在下でのみ耐性幼虫を形成する変異xの同定は、unc-31; x; Ex[unc-31(+)]は耐性幼虫を形成しないが、unc-31;xは耐性幼虫を形成する点を判断基準として行えばよい。すなわち、unc-31; Ex[unc-31(+)]に変異を誘起して形成した線虫unc-31; x; Ex[unc-31(+)]を1匹ずつ増やして、その子孫(unc-31; x; Ex[unc-31(+)]とunc-31;xが混在する)に運動が正常な耐性幼虫がいないが運動異常の耐性幼虫がいるものを選択すればよい。
【0011】
sdf-14遺伝子はポジショナルクローニングの結果、ヒトMRP1ホモログをコードすることが判明した。sdf-14遺伝子のクローニングについては、当該分野で通常使用される方法によって行えばよい。例えば、STSマッピング法(Genetics, 131: 609-624, 1992.)、三因子交雑法(The Nematode Caenorhabditis elegans, Chapter Methods, pp.587-606, 1988. Cold Spring Harbor Laboratory Press)又はSNPマッピング法(Nat. Genet. 28(2):160-164, 2001.)を用いてマッピングを行い、sdf-14遺伝子が位置する領域を狭め、その領域の野生型をマイクロインジェクションによりunc-31; sdf-14二重変異体に導入する。導入された遺伝子がsdf-14変異遺伝子の野生型遺伝子の場合には、unc-31; sdf-14二重変異体の耐性幼虫形成は著しく減少する。すなわち、耐性幼虫形成を著しく減少させた遺伝子がsdf-14遺伝子である。
【0012】
シークエンス(ABI PRISM 3100 Genetic Analyzer)の結果、sdf-14遺伝子の3つの変異アリルut151、ut153及びut155は、表1に示すように塩基配列、アミノ酸配列がそれぞれ置換していることが判明した。また、Broeksら(EMBO J., 15(22):6132-43, 1996.)により単離された変異アリルpk89は、塩基配列3901−7112が欠失している。
【0013】
【表1】

【0014】
sdf-14遺伝子を発現させるコンストラクトを作製する方法としては、プロモーター領域とpoly-Aシグナルを含む遺伝子配列を適当なベクターに挿入したコンストラクトを作製すればよい。プロモーター領域とpoly-Aシグナルを含む遺伝子配列は、例えばコスミドF57C12 (Dr. Audrey Fraser, Sanger Institute, UKより入手可能)から制限酵素により切断した断片や野生型ゲノムDNAを鋳型としたPCRで増幅した断片から得ることができる。
【0015】
ヒトMRP1遺伝子を線虫C. elegans様に発現させるコンストラクトを作製する方法としては、C. elegansのsdf-14遺伝子のプロモーター下流にヒトmrp1cDNA (Science, 258: 1650-1654, 1992.、Genbank accession number: L05628に登録)を連結した発現コンストラクトを作製すればよい。例えば、pPD49.26ベクターのMCS Iにsdf-14遺伝子のプロモーター配列を挿入し、MCS IIにヒトmrp1cDNAを挿入すればよい。
pPD49.26ベクターは、Andrew Fireらにより作製され、Andrew Fire、Stanford University School of Medicine, USAより入手可能である。また、Neuon, 17: 707-718, 1996.にも記載がある。pPD49.26ベクターの塩基配列情報については、http://genome-www.stanford.
edu/group/fire/から入手可能である。poly-Aシグナルは、pPD49.26ベクターに予め付加されている配列を使用すればよい。
【0016】
SDF-14発現コンストラクトやヒトMRP1発現コンストラクトのunc-31(e169); sdf-14(ut153)二重変異体への導入は、マイクロインジェクションにより行えばよい。導入に用いるSDF-14発現コンストラクトの濃度は、5〜10ng/μlが好ましい。ヒトMRP1発現コンストラクトの濃度は、40 ng/μlが好ましい。
【0017】
上記方法により得られた形質転換体に対するMRP1阻害剤をスクリーニングするには、成虫となった形質転換体を通常の飼育に用いる培地(但し、被検体を寒天培地に含む)で一定時間産卵させた後、成虫を取り除き、孵化した卵の生育を観察すればよい。被検体の投与方法としては、被検体を適当な溶媒、例えばジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール等のアルコール類や水に溶解し、オートクレーブ後、60℃以下に冷却した培地に加え、十分撹拌した後分注すればよい。
【0018】
被検体がMRP1阻害作用を有する場合、その被検体存在下25.5℃で飼育した個体は、投与2〜3日後に耐性幼虫形成を示し、成長が停止する。一方、被検体がMRP1阻害作用を有さない場合又は被検体を投与しなかった場合には、L1〜L4幼虫を経て成虫となる。従って、本発明では被検体投与3〜4日後に耐性幼虫と非耐性幼虫(L4幼虫又は成虫)の個体数を計測すればよい。個体数の計測は実体顕微鏡下で観察すればよい。この際、1%SDS溶液を加えれば、耐性幼虫以外の個体は溶解するので観察が容易である。
【0019】
後記実施例に示すように、C. elegansのunc-31(e169); sdf-14(ut153)二重変異体は、耐性幼虫形成を示し(図2)、この二重変異体にヒトmrp1遺伝子を導入し、ヒトMRP1蛋白質を発現させると、耐性幼虫形成が激減した(図3)。
さらに、この耐性幼虫形成の激減はヒトMRP1阻害剤で阻害された。すなわちヒトMRP1阻害剤存在下で耐性幼虫形成が増加した(図4)。特に被検体として、2-[4-(ジフェニルメチル)-1-ピペラジニル]エチル-5-(トランス-4,6-ジメチル-1,3,2-ジオキサホスホリナン-2-イル)-2,6-ジメチル-4-(3-ニトロフェニル)-3-ピリジンカルボキシレート P オキシド(PAK-104P)(Cancer Res. 50(10):3055-61.)を投与したときに顕著な阻害作用が認められ、しかもその阻害作用はヒトMRP1蛋白質に特異的であった(図4、5)。
【0020】
ヒトmrp1遺伝子は、特にビンクリスチン、シクロホスファミド、メソトレキセート等の抗癌剤の耐性に関与するため、本発明はこれらの抗癌剤に対する多剤耐性蛋白質MRP1の阻害剤のスクリーニングに適する。
【実施例】
【0021】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0022】
実施例1<unc-31(e169); sdf-x 二重変異体の分離>
(1)unc-31(e169); Ex[unc-31(+)]線虫株の作製
unc-31(e169)変異体(Genetics, 77: 71-94, 1974. Caenorhabditis Genetics Center, University of Minnesota より入手した)に、野生型unc-31遺伝子を持つコスミド・クローンC14G10(Dr. Audrey Fraser, the Sanger Institute, UKより入手した)をマイクロインジェクションにより導入し、unc-31(e169); Ex[unc-31(+)]を得た。この線虫株では、導入したunc-31遺伝子のクローンは多数、縦列につながって染色体外に存在する。そのため、ある確率で失われ、子孫には野生型表現型を持つunc-31(e169); Ex[unc-31(+)]の線虫と運動異常表現型を持つunc-31(e169)の線虫が存在する。
【0023】
(2)変異の導入
S. Brenner (Genetics, 77: 71-94, 1974.)のEMS(メタンスルホン酸エチル)を使った方法に従い、unc-31(e169); Ex[unc-31(+)]線虫株に変異を導入した。
【0024】
(3)スクリーニング
EMS処理したunc-31(e169); Ex[unc-31(+)] (P0)を1匹ずつ25℃で飼育した。以下、スクリーニングの際の飼育温度は全て25℃で行った。その子孫(F1)のunc-31(e169); Ex[unc-31(+)]、すなわち、運動異常を示さない個体の中から成虫で卵を持つものを5匹ずつ選び、1匹ずつ飼育した。
ほとんどのF2個体が成虫となる3日目に耐性幼虫の存在の有無と耐性幼虫の運動異常の有無を観察した。全ての耐性幼虫が運動異常を示したプレートから、unc-31(e169); Ex[unc-31(+)]、すなわち、運動異常を示さない成虫を数匹選び、1匹ずつ植え継いだ。このような植え継ぎを繰り返し、植え継ぎをした全ての個体の子孫に耐性幼虫が存在し、且つ、その耐性幼虫全てが運動異常を示した場合、目的の二重変異、すなわち、unc-31(e169);
sdf-xが単離されたと判断した。合計5539匹のF1をスクリーニングし、unc-31(e169); sdf-xを示すものが44株得られた。相補性試験により、これらの変異は少なくとも14の遺伝子座に分類された。
【0025】
実施例2<sdf-14遺伝子のクローニング>
(1)sdf-14遺伝子の導入
単離された変異遺伝子の1つ、sdf-14をSTSマッピング法、三因子交雑法及びSNPマッピング法を用いてマップしたところ、sdf-14遺伝子座は、X染色体のコスミドM02E1からF02G3の間に存在することが判明した。この領域に含まれる遺伝子をマイクロインジェクションによりunc-31(e169); sdf-14二重変異体に導入したところ、F57C12.5遺伝子を導入したときにのみ、二重変異体の耐性幼虫形成の表現型が回復することが判明した(日本分子生物学会年会、2002など)。C. elegansのデータベース (Wormbase: http://www.wormbase.org/)により、F57C12.5遺伝子はヒトMRP1ホモログをコードしていることが判明した。F57C12.5遺伝子がヒトMRP1ホモログをコードしていることは、Broeksら(EMBO J., 15(22):6132-6143, 1996.)により既に判明していた。
また、前述のとおり、sdf-14には、3つの変異体アリル(ut151、t153、ut155)が存在するが、その変異については表1に示したとおりである。
【0026】
図2より、unc-31(e169); sdf-14(ut153)二重変異体は耐性幼虫形成を示すが、単一変異体unc-31(e169)、sdf-14(ut153)はいずれも耐性幼虫形成を示さなかった。本発明者らが、単離したsdf-14変異体の他のアリル、ut151、ut155、また、Caenorhabditis Genetics Center, University of Minnesota より入手したpk89(EMBO J., 15(22):6132-6143, 1996.)についても、単一変異体では耐性幼虫形成を示さなかった。
【0027】
(2)SDF-14発現コンストラクトの作製
C.elegans mrp-1/sdf-14遺伝子のプロモーター配列約3.7kbp(Xbal site)(配列番号10)とpoly-Aシグナル約1.8kbp(Aor51HI site)を含むコーディング領域(約11kbp)をpBluescriptII KS(-)(STRATAGEME)に挿入し、SDF-14発現コンストラクト(配列番号3)を作製した(図1のコンストラクト1)。SphI〜Aor51HI領域はコスミドF57C12(Audrey Fraser, Sanger Institute, UKより入手可能)から制限酵素カットにより得た。プロモーター配列〜SphI領域は、野生型のゲノムDNAを鋳型とし、PCR増幅したDNA断片から得た。PCR法では、F57C12.5-4 primer GCT GGA TGA TTT GCA CTT CGA GTA GTT GGC (配列番号1)及びF57C12.5-35 primer GCC GAA CAT CAA TTT GAC GG(配列番号2)を用い、94℃で30秒の反応を1回行った後、94℃で20秒、55℃で30秒、72℃で4分の反応を28回繰り返し、最後に72℃で7分の反応を1回行った。
【0028】
(3)ヒトmrp1発現コンストラクトの作製
ヒトMRP1蛋白質をC. elegansのMRP-1様に発現させるため、C. elegans mrp-1/sdf-14のプロモーターの下流に、ヒトmrp1 cDNA(Science, 258: 1650-1654, 1992. GenBank accession number: L05628、配列番号11)を繋いだヒトMRP1発現コンストラクトを作製した(図1のコンストラクト2)。コンストラクトの作製には、pPD49.26ベクターを用いた。C. elegans sdf-14/mrp-1プロモーター配列は、図1のSDF-14発現コンストラクトで用いた領域と同一であり、上流にXbaI site及び下流にXmaI siteをPCR法で付加し、pPD49.26ベクターのMCSIに挿入した。また、ヒトmrp1 cDNAは、開始コドン直前にC. elegans sdf-14/mrp-1の開始コドン直前の上流配列11塩基とKpnI site及びStopコドン下流にSacI siteをPCRで付加し、pPD49.26ベクターのMCSIIに挿入した。poly-Aシグナルは、pPD49.26ベクターに既に付加されている配列を用いた。
【0029】
以下にPCR法の条件を示す。
(i) XbaI siteとXmaI siteの付加
-3707/XbaI-FW primer GCT CTA GAA TTA TAT CAC TTT TCG (配列番号4)及び -3707/XmaI-RV primer TCC CCC CGG GTT CTT AAT TGG CTC GGT TCG G (配列番号5)を用い、94℃で30秒の反応を1回行った後、94℃で20秒、55℃で30秒、72℃で4分の反応を28回繰り返し、最後に72℃で7分の反応を1回行った。
(ii) 上流配列11塩基とKpnI siteの付加
hmrp1/KpnI-1FW primer CGG GGT ACC AAT TAA GAA ATG GCG CTC CGG GGC TTC TG (下線は上流配列11塩基を示す)(配列番号6)及びhmrp1-121RV primer CCC ACA CGA GGA CCG TG)(配列番号7)を用い、94℃で30秒の反応を1回行った後、94℃で20秒、55℃で30秒、72℃で30秒の反応を28回繰り返し、最後に72℃で3分の反応を1回行った。
(iii) SacI siteの付加
hmrp1/3881FW primer GCT GGT TCG GAT GTC ATC TG (配列番号8)及びhmrp1/SacI-4739RV primer GAT GCG GAG CTC TAT CAC ACC AAG CCG GCG TC (配列番号9)を用い、94℃で30秒の反応を1回行った後、94℃で20秒、55℃で30秒、72℃で60秒の反応を28回繰り返し、最後に72℃で3分の反応を1回行った。
【0030】
(4)コンストラクトの導入
上記のSDF-14発現コンストラクト又はヒトmrp1発現コンストラクトをDNAマーカー (gcy-10::GFP: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1997 94(7): 3384-3387)と共に、それぞれunc-31(e169); sdf-14(ut153)二重変異体にマイクロインジェクションし、形質転換体を得た。マイクロインジェクションには、SDF-14発現コンストラクトを5〜10 ng/μl、ヒトmrp1発現コンストラクトを40 ng/μl、gcy-10::GFPを25〜30 ng/μl用いた。
【0031】
(5)耐性幼虫形成アッセイ
上記で得た形質転換体の成虫3〜8匹を通常の飼育に用いる培地で25.5℃、8〜3時間卵を産ませた後、成虫を取り除いた。その後、卵を25.5℃で2〜4日間生育し、耐性幼虫及び非耐性幼虫(すなわち、L4幼虫又は成虫)の個体数を、蛍光実体顕微鏡(Leica、MZ FLIII)を用いて計測し、耐性幼虫形成率を求めた。結果を図3に示す。
耐性幼虫形成率(%)=耐性幼虫数/全線虫数×100
【0032】
図3から明らかなように、unc-31(e169); sdf-14(ut153)二重変異体に、野生型のC.elegans sdf-14/mrp-1遺伝子又は野生型のヒトmrp1遺伝子をマイクロインジェクションにより導入した形質転換体は、耐性幼虫形成が著しく減少することが判明した。この結果より、耐性幼虫形成に関して、野生型のヒトMRP1蛋白質は、C. elegansのSDF-14/MRP-1蛋白質の機能を代替できることが判明した。
【0033】
実施例3<ヒトMRP1阻害剤存在下での耐性幼虫形成アッセイ>
被検体として、PAK-104P、AG-A(アゴステロール-A(Tetrahedron Lett., 39:6303-6306.))、及びMK571(3-[[3-[2-(7-クロロキノリン-2-イル)ビニル]フェニル]-(2-ジメチルカルバモイルエチルスルファニル)メチルスルファニル]プロピオン酸(Can J Physiol Pharmacol., 67:17-28.))を用いた。PAK-104P、AG-A及びMK571は、それぞれジメチルスルホキシド、エタノール及び水に溶解し、寒天培地中に、10〜100μM(又は10〜200μM)の濃度で加えた。寒天培地中のジメチルスルホキシド及びエタノールの最終濃度は、それぞれ、0.33%及び0.1%である。次いで、上記と同様にして耐性幼虫と非耐性幼虫の個体数を計測した。結果を図4及び5に示す。
【0034】
図4及び5から明らかなように、野生型のヒトMRP1蛋白質を発現させた形質転換体においては、PAK-104Pによる阻害がみられ、耐性幼虫形成率が上昇した(図4A)。一方、野生型のC. elegans SDF-14/MRP-1蛋白質を発現させた形質転換体においては阻害は見られなかった(図5A)。このことから、PAK-104Pによる阻害効果は、C. elegans SDF-14/MRP-1蛋白質や他の蛋白質ではなく、ヒトMRP1蛋白質に特異的であることが判明した。
AG-AやMK571を用いた場合には、ヒトMRP1蛋白質及びC. elegans MRP-1蛋白質のいずれに対してもほとんど阻害作用が認められなかった(図4B、C、図5B、C)。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】マイクロインジェクションに用いたコンストラクト1及びコンストラクト2を示す図である。
【図2】unc-31(e169); sdf-14(ut153)二重変異体が耐性幼虫形成を示す図である。
【図3】unc-31(e169); sdf-14(ut153)二重変異体の耐性幼虫形成が、野生型の線虫sdf-14/mrp-1遺伝子又は野生型のヒトmrp1遺伝子の導入により表現型unc-31に回復することを示す図である。
【図4】ヒトMRP1蛋白質を発現させて耐性幼虫形成が抑制された形質転換体に対する多剤耐性蛋白質MRP1阻害剤の影響を示す図である。
【図5】C. elegans MRP-1蛋白質を発現させて耐性幼虫形成が抑制された形質転換体に対する多剤耐性蛋白質MRP1阻害剤の影響を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトmrp1遺伝子を導入したunc-31; sdf-14二重変異体の線虫Caenorhabditis elegansに被検体を投与し、その耐性幼虫形成を検出することを特徴とする、多剤耐性蛋白質MRP1阻害剤のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−121981(P2006−121981A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−314935(P2004−314935)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(504202472)大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 (119)
【Fターム(参考)】