説明

ヒドラジド架橋を有するポリ−α(1→4)グルコピラノース−ベースのマトリクス

本発明は、ポリ−α(1→4)グルコピラノース及び反応性ヒドラジド基から形成された生体適合性及び生分解性のある架橋された重合体マトリクスを提供する。このマトリクスは、体内の薬物送達及び細胞治療を含む様々な用途に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2008年4月28日に出願された、「Low Molecular Weight Poly−α(1−4)Glucopyranose−Based Matrices with Hydrazide Crosslinking」を名称とする米国仮特許出願第61/125,712号の優先権を主張する。当該出願の開示内容を引用することによって本願に援用する。
【0002】
[発明の分野]
本発明は、体内で使用するための生体適合性及び生分解性を有するマトリクスに関する。この生分解性マトリクスは、細胞物質を含み、in vivoで細胞骨格として使用され得るか、又は、該マトリクスから放出され得る治療用化合物を含んでいてもよい。
【0003】
[背景]
高分子ヒドロゲルマトリクスは、様々な病状の治療に有用な生体材料として記載されている(例えば、米国特許第5,529,914号、第5,854,382号、第6,007,833号、第6,051,248号、第6,153,211号、第6,316,522号、第6,818,018号、および第7,070,809号を参照)。用いられる高分子材料に応じて、これらのマトリクスは、生体安定性を有しているか、又は、移植期間後に生分解可能であってよい。これらのマトリクスを形成するために用いられる高分子材料は、生体適合性があることが望ましく、これは、高分子材料が、ヒドロゲルが設置又は形成された生物に、生物学的に逆作用しないことを意味している。このため、一般に、これらのin vivoでの存在または濃度によって、体に望ましくない副作用を生じさせる産物に分解するような生体分解性材料の使用は、回避されることが望ましい。これらの望ましくない副作用には、免疫反応、肝臓において分解産物が毒を形成すること、または、体内の細胞もしくは組織に与える他の有害影響を引き起こす、もしくは誘発することが含まれる。
【0004】
ヒドロゲルマトリクスは、天然組織を擬態すると共に組織の治癒を促進する、構造的特性及び化学的特性を有する。これによって、ヒドロゲルマトリクスにおける、対象を治療するための好ましい効果をもたらす能力が、引き起こされ得る。ヒドロゲルマトリクスはまた、組織に対して保護的効力を発揮し、(例えば、炎症反応の場合の)組織又は細胞の損傷を妨げる。
【0005】
ヒドロゲルマトリクスは、ヒドロゲルが位置する部位又は形成された部位の組織に治療効果を与えるように意図された薬物と共に用いられる場合がある。例えば、標的組織の治療に、マトリクスからの拡散によって放出される薬物、又は、ヒドロゲルマトリクスの分解によって放出される薬物を使用することが提案されている。
【0006】
様々な形態の医学的用途に、ヒドロゲルマトリクスが提案されている。ヒドロゲルマトリクスが、組織再生及び傷の治癒を促進するように意図された、傷口への組織−治癒物品として形成されている場合がある。このように適用する場合、これらのヒドロゲルマトリクスは無定形であり、典型的にはヒドロゲルマトリクスを形成する組成物が適用される組織に適合する。これらのマトリクスは、例えば、マトリクスを形成する組成物を治療部位に適用すること、及び、ヒドロゲルを形成する材料の架橋を生じさせる組成物の処置によって、in situで形成され得る。
【0007】
他にも、移植可能な医療機器に関連付けられたヒドロゲルマトリクスが形成され得る。この場合、マトリクスは、機器の表面上の被覆剤、又は、機器の空隙に適合する充填剤といった、より明確な形態を有していてよい。
【0008】
ヒドロゲルマトリクスを、in situで形成された物品として、又は移植可能な医療機器と共に、形成及び使用するためには、多くの課題が残っている。
【0009】
生分解性のマトリクスの場合、1つの課題は、好適な分解特性を有するマトリクスをin vivoで調製することである。例えば、ヒアルロン酸及びアルギン酸といった幾つかの天然高分子は、重合体においては生分解性であるが、これらの天然高分子は、架橋されて、生体非分解性のヒドロゲルマトリクスを形成することが可能である。他方、多量のエステル結合を有する高分子材料から形成されたヒドロゲルマトリクスは、典型的には、バルクが腐食することによって分解する。バルクの腐食は、マトリクスを、あまりに急速に、及び/又は、とめどなく分解させ得る。これは、マトリクスの分裂を生じさせ、内展性のマトリクスが循環系の中に分裂するという望ましくない損失を引き起こすことがある。
【0010】
さらに、多くのヒドロゲルマトリクスは、移植処置時又は制御しながら膨張させる際の十分な耐久性といった、望ましい物理的特性を有していない。例えば、親水性が高いマトリクスは、水を速やかに吸収し、重合体を可塑化し、結果的に、軟質のゲル状マトリクスを生じさせる。この特徴は、拡張時にマトリクスが裂け、その物理的完全性を破壊するため、望ましくない。
【0011】
従来技術の幾つかのヒドロゲルは、その高分子材料の保存を化学物質に依存している。これらの化学物質の多くは、組織の損傷を引き起こし得る小型の化合物であり、このため、体内での使用は望ましくない。
【0012】
さらに、薬を放出するためのヒドロゲルマトリクスは、概して、それほど良好には開発されていない。治療薬を放出するためのヒドロゲルマトリクスは、典型的には、放出のコントロールが不十分であるため問題があるとされている。例えば、多くの場合、大部分の治療薬は、マトリクスから短時間で勢いよく放出され、結果的に、ヒドロゲルマトリクスから該治療薬が空になる。この勢いよく放出されることは、特に、治療効果が長期にわたって必要とされる場合には、望ましくない。この短期に勢いよく放出されることは、高分子材料が親水性であることによって引き起こされると考えられる。高分子材料の親水性は、水をマトリクスの中に導き、被覆剤の浸透圧を増大させる。結果として、薬物のマトリクスに対する浸透性は、著しく増大し、薬物は、治療的に効果のない速度で溶出する。
【0013】
さらに、特定の高分子材料、試薬、及び/又は、ヒドロゲルの調製方法は、特定の治療薬に、不適合又は不向きであり得る。例えば、重合体マクロマーを用いた技術では、ヒドロゲルの形成は、典型的には、遊離基発生システムを用いて行われる。残念ながら、遊離基は、核酸等の多くの巨大分子を損傷し、細胞さえも損傷し得る。また、多くの荷電群を有する重合体を、ヒドロゲルを形成する材料として使用することは、逆に荷電された治療薬を引き付け、ゲルからのそれらの放出を変更させてしまう。あるいは、高度に荷電された重合体から形成され、細胞物質を含むマトリクスは、細胞における望ましくない細胞応答を生じさせることがある。
【0014】
本発明の実施形態は、これらの、従来技術のヒドロゲル技術に関連する1つまたは複数の課題に取り組むものである。
【0015】
[概要]
本発明は、例えば病状の治療のために体内で使用可能な、生体適合性および生分解性を有するマトリクスに関する。このマトリクスは、穏やかな条件下で架橋され得る多糖ベースの物質から形成される。この物質は、本発明の幾つかの実施形態下では、細胞又は治療用巨大分子といった反応しやすい生体物質の封入に特に適している。具体的には、マトリクスは、ポリ−α(1→4)グルコピラノースを含む高分子材料と、反応性ヒドラジド基とから形成される。反応性ヒドラジド基は、架橋されたマトリクスの連結基(linking groups)を形成するために用いられる。このマトリクスは、生体適合性に欠けた低分子量架橋成分若しくは活性剤、又は、生物に対して潜在的に毒性を有している低分子量架橋成分若しくは活性剤を用いずに、形成され得る。任意で、マトリクスに生物活性剤を含む微粒子が含まれていてもよい。
【0016】
これらの高分子材料および反応性ヒドラジド化学物質を用いて形成されたマトリクスは、in vivoでの使用に適した物理的特性、例えば、耐久性、制限された膨潤性、in vivoでの生分解性及び生体適合性を有している。
【0017】
一態様では、本発明は、ポリ−α(1→4)グルコピラノースを含む重合体セグメントを含む、生体適合性及び生分解性のある架橋された重合体マトリクスを提供する。このポリ−α(1→4)グルコピラノースを含む重合体セグメントは、次の化学式から選択された化学物質を含むリンカーセグメントで架橋されている。
【0018】
【化1】

【0019】
これらの化学物質のアミン基若しくはカルボニル基、又はこれらの両方が、マトリクスを形成する高分子材料の一部に直接結合されていてもよいし、または、さらなる原子を有する、より大きなリンカーの一部であってもよい。幾つかの態様では、マトリクスは、500,000Da以下の分子量を有するポリ−α(1→4)グルコピラノースから形成される。
【0020】
任意で、マトリクスは、ポリ−α(1→4)グルコピラノースに加えて、ポリ−α(1→4)グルコピラノースを含む重合体セグメントとは異なる、マトリクス形成成分を含むことが可能である。例えば、幾つかの場合において、マトリクスは、合成の親水性高分子又はポリペプチドを有する、マトリクス形成成分を含む。
【0021】
リンカーセグメントが、重合体セグメント又は成分からぶら下がっている(ペンダントしている)反応ヒドラジド基から、形成される場合もある。リンカーセグメントはまた、エステル基を含む。in vivoで用いる場合、マトリクスの分解は、ポリ−α(1→4)グルコピラノースを含むセグメントの酵素分解によって、および、エステル基の非酵素加水分解によって、引き起こされ得る。リンカーセグメント内にエステル基が存在するため、マトリクスの分解率が増大し得る。本発明の幾つかの態様では、リンカーセグメントの一部はエステル基を含む。
【0022】
他の一態様では、本発明は、生体適合性および生体分解性のある架橋された重合体マトリクスを形成するシステムを提供する。このシステムは、第1のペンダント反応基を有するα(1→4)グルコピラノース重合体を含む。このシステムはまた、第2の反応基を有する第2の重合体を含む。第1のペンダント反応基は、第2の反応基と反応し、第1の反応基および第2の反応基のいずれか一方は、ヒドラジド基を含み、他方の反応基は、ヒドラジド反応基を含む。また、第1のペンダント反応基は、α(1→4)グルコピラノース重合体において、0.05〜約1.0の範囲の置換度である。第2の反応基を有する第2の重合体は、α(1→4)グルコピラノース重合体であってもよいし、またはα(1→4)グルコピラノース重合体とは異なる成分であってもよい。
【0023】
本発明はまた、生体適合性及び生分解性のある架橋された重合体マトリクスの調製方法を提供する。本方法は、ペンダントヒドラジド基又はペンダントヒドラジド反応基を有するポリ−α(1→4)グルコピラノースを含む第1の組成物を提供するステップと、ポリ−α(1→4)グルコピラノースと同一又は異なる、マトリクス形成成分を含む第2の組成物を提供するステップとを含む。このマトリクス形成成分は、ペンダントヒドラジド基又はペンダントヒドラジド−反応基を含む。ポリ−α(1→4)グルコピラノースのペンダント基と、マトリクス形成成分のペンダント基とが反応して、生体適合性及び生分解性のある架橋された重合体マトリクスを形成する。幾つかの態様では、ポリ−α(1→4)グルコピラノースは、500,000Da以下の分子量を有している。
【0024】
幾つかの実施形態では、マトリクスは、生物活性剤を含み、マトリクスが体内に設置又は形成されると、生物活性剤を放出することが可能である。生物活性剤を含有するマトリクスは、移植可能な物品の形をしていてもよいし、移植可能な機器に関連付けられていてもよい。これは、例えば機器の表面上の被覆剤の形をしていてもよいし、または、機器の一部の中への充填剤であってよい。
【0025】
関連する態様では、本発明は、対象を治療する方法を提供する。本方法は、本発明の生分解性のマトリクスを体内に形成又は設置することを含み、該マトリクスは、生物活性剤若しくは生体粒子、又はその両方を含む。マトリクスを体内に形成又は設置した後、マトリクスが分解し、対象に向かって放出する。1つまたは複数の生物活性剤又は生体粒子を選択し、マトリクスの中に含有させ、病気を治療することが可能である。
【0026】
幾つかの態様では、生分解性のマトリクスは、ポリペプチド、多糖類、又はポリヌクレオチドといった巨大分子である生物活性剤を含んでいてよい。このマトリクスは、ウイルス粒子等の生体粒子、原核細胞及び真核細胞等の細胞を含んでいてよい。
【0027】
幾つかの実施形態では、対象に遺伝子療法を施す際に、本発明のマトリクスを用いてもよい。この方法は、マトリクスから、組織又は細胞に作用して生物学的効果をもたらすポリヌクレオチドを放出することを含む。幾つかの態様では、ポリヌクレオチドを、標的タンパク質をコードする遺伝子の発現を低減させることによって疾病を治療するために用いる。ポリヌクレオチドは、ウイルスベクター又は微粒子等のマトリクス内の粒子状物質内にあってもよい。
【0028】
マトリクスの形成は、巨大分子等の敏感な生体材料、及び、細胞を含む生体粒子に有利なマイルドな条件を用いて行われ得る。例えば、本発明の方法は、材料を高熱又は極端なpHの状態に曝すことなく、架橋されたマトリクスの形成を可能にする。巨大分子及び生体粒子を損傷し得る、ラジカル成分又は酸化剤の使用が、回避され得る。例えば、重合体マトリクス形成材料を反応させて、マトリクスを形成することが可能である。これは、生体適合性を有さない低分子量架橋成分若しくは活性剤、又は生物にとって潜在的に毒性を有している低分子量架橋成分若しくは活性剤を用いずに形成可能である。
【0029】
多くの実施形態において、マトリクスは、少なくとも部分的に、ポリ−α(1→4)グルコピラノースを含む重合体セグメントから形成されるので、マトリクスのin vivoでの分解は、主に、マトリクスの表面上のポリ−α(1→4)グルコピラノースの酵素分解によって生じる。結果として、酵素活性によって引き起こされる、マトリクス材料の表面浸食は、生物活性剤又は生体粒子を放出させると同時に、多糖類分解を生じさせることが可能である。この場合、生物活性剤が無傷マトリクスから拡散することによる生物活性剤の損失は、わずかであるか、または損失は全く生じない。他の場合、マトリクスは、マトリクス分解の前にマトリクスから拡散可能な、生物活性剤によって調製可能である。
【0030】
マトリクスの有する物理的特性及び化学的特性により、治療的に望ましい速度でマトリクスから生物活性剤が放出され得る。本発明に関する実験の結果は、マトリクスが、治療的に効果のある一定の速度で生物活性剤を放出可能であることを示している。これによって、マトリクスは、病状を治療するための、生物活性剤の持続放出に役立つことが可能である。
【0031】
幾つかの実施形態では、マトリクスは細胞骨格の形をしている。これらの実施形態では、本発明のマトリクス、及び、該マトリクスを形成するために用いられる方法が、細胞に対してニュートラルであり、望ましくない細胞応答を生じさせないか、又は、細胞の生存を全体的に低下させないことが分かった。マトリクスは、容易に修飾可能であり、マトリクス内の細胞を維持するための微細環境を提供可能である。マトリクスを、多糖類マトリクスのフレームワーク内に引き付ける点を細胞に提供可能な細胞接着因子を用いて、調製可能である場合もある。マトリクスタンパク質及びその一部といった細胞接着因子は、マトリクス材料の一部と反応して、多糖類マトリクスを修飾することが可能である。
【0032】
従って、本発明は、生体適合性および生体分解性のある架橋された重合体マトリクスを含む細胞骨格を提供する。この重合体マトリクスは、次の化学式
【0033】
【化2】

【0034】
から選択された化学物質を含むリンカーセグメントを有するポリ−α(1→4)グルコピラノースを含む重合体セグメントを有しており、このリンカーセグメントは、重合体セグメントと、マトリクス形成成分とを架橋させる。幾つかのケースでは、ポリ−α(1→4)グルコピラノースを含む重合体セグメントは、500,000Da以下の分子量を有している。
【0035】
任意により、ポリ−α(1→4)グルコピラノースに加えて、ポリ−α(1→4)グルコピラノースを含む重合体セグメントとは異なる、マトリクス形成成分を、マトリクスは含んでいてもよい。また、このマトリクスは、細胞を含み、in vivoの分解が可能である。
【0036】
本発明のマトリクス及び細胞骨格を、対象を治療するための方法において用いてもよい。この方法は、本発明のマトリクス成分を有する生分解性の細胞骨格を、体内に形成又は設置することを含み、細胞骨格は細胞を含む。細胞骨格は、1つまたは複数の方法において、対象に治療効果を提供可能である。組織の損傷の場合、細胞骨格は、より好ましい組織改造を促進することが可能である。例えば、マトリクス内の細胞によって生成される因子が放出され、損傷された組織にポジティブに作用して、組織治癒を促進することが可能である。他の一実施例として、損傷を受けた組織と接触した後、細胞骨格は分解し、組織再構築に有利な細胞源を提供することが可能である。
【0037】
具体的な一実施例では、細胞骨格は、心臓血管組織に接触して設置される。治療することが可能な心臓血管組織は、手術等の侵襲的手技において、組織損傷され得るか、または、虚血性の出来事から損傷を受け得る。
【0038】
本発明に関する実験の結果は、細胞の存在下で反応したポリ−α(1→4)グルコピラノース試薬が、細胞に対して損傷を与えなかっただけでなく、マトリクス内に含まれていた細胞の生存を維持することも可能であったことを示していた。これは、マトリクスを細胞療法のための賦形剤として用いるためには、望ましいことである。さらに、細胞を適切な条件下で増殖させることを可能にするマトリクスが形成された。
【0039】
生体分解性のマトリクス材料は細胞接着因子による修飾を受けやすかった。これらの修飾は、細胞生存、細胞機能及び/又は細胞保持に対する所望のポジティブな影響を有することが示された。
【0040】
[図面の簡単な説明]
図1は、時間の経過に伴うマルトデキストリンベースのマトリクスからのプラスミドDNAの放出を示すグラフである。
【0041】
図2は、時間の経過に伴うマルトデキストリンベースのマトリクスからのsiRNAの放出を示すグラフである。
【0042】
図3は、時間の経過に伴うマルトデキストリンベースのマトリクスからのプラスミドDNAの放出を示すグラフである。
【0043】
図4は、時間の経過に伴うマルトデキストリンベースのマトリクスからのポリプレックス(polyplexed)DNAの放出を示すグラフである。
【0044】
図5は、時間の経過に伴うマルトデキストリンベースのマトリクスの分解を示すグラフである。
【0045】
図6は、所定の時点において、マルトデキストリンベースのマトリクス内に存在する、ヒト軟骨細胞(HC)およびヒト皮膚線維芽細胞(HDC)の数を示すグラフである。
【0046】
図7は、フォトコラーゲンの濃度に応じて変動する、誘導体化されたマルトデキストリンベースのマトリクス内に存在するヒト軟骨細胞の数を示すグラフである。
【0047】
図8は、フォトコラーゲンの濃度に応じて変動する、誘導体化されたマルトデキストリンベースのマトリクス内に存在するヒト皮膚線維芽細胞の数を示すグラフである。
【0048】
図9は、フォトRGDの濃度に応じて変動する、誘導体化されマルトデキストリンベースのマトリクス内に存在するヒト軟骨細胞、ヒト皮膚線維芽細胞及びヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)の数を示すグラフである。
【0049】
図10は、マルトデキストリン−ヘパリン又はマルトデキストリン−ヒアルロン酸ベースのマトリクス内に存在する、ヒト軟骨細胞、ヒト皮膚線維芽細胞、およびヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)の数を示すグラフである。
【0050】
[詳細な説明]
本明細書に記載される本発明の実施形態は、包括的なものであることを意図するものでもなく、または、本発明を以下の詳細な説明に開示される正確な形態に限定することを意図するものでもない。むしろ、これらの実施形態は、当業者が本発明の原理および実施について評価および理解することが可能なように、選択および記載されたものである。
【0051】
本明細書に記載する全ての公開文献および特許文献を、引用することによって、本願に援用する。本明細書に記載された公開文献および特許文献は、単に開示のために提供されるものである。本明細書中では、どの文献も、本願発明者が、本明細書に引用された公開文献および/または特許文献を含む任意の公開文献及び/又は特許文献よりも先行する権利がないことの許可として解釈されるべきではない。
【0052】
本明細書に使用される場合、「マトリクス」は、架橋された材料の組成物を指す。一般に、マトリクス形成材料が架橋されている場合、これらの材料を含む組成物は、液体状態からゲル状態に遷移し、これによって、「ゲル」又は「ゲル化組成物」を形成する。ゲルは、ゲルに一定の度合いの耐久性及び膨潤性を与える、一定の粘弾性特性及びレオロジー特性を有していてよい。
【0053】
本発明の材料を架橋させて、医学的用途又は治療的用途に有用な特定の形のマトリクスを提供することが可能である。典型的なマトリクスの形態には、移植可能な医療機器の表面上の被覆剤、架橋された材料から形成された移植可能な3次元的医学物品、細胞骨格、封止剤及び内展性組成物の形態が含まれる。
【0054】
本発明の生体分解性のマトリクス材料は、移植可能な医療機器(例えば、ステント、チューブ、動脈瘤コイル)、in−situの送達物品(例えば、細胞送達物又は生物活性剤送達物品)を形成することといった、様々な用途において有用であり、組織封止剤としても使用され得る。
【0055】
マトリクスはまた、体内で分解可能であってよい。本明細書に使用される場合、「分解性の」または「生分解性の」という用語は、(1)加水分解性のマトリクス材料、(2)酵素分解性のマトリクス材料、又は、(3)加水分解性、且つ、酵素分解性のマトリクス材料に関する。本明細書に使用される場合、「加水分解性の」という用語は、加水分解反応によって分解可能であるマトリクス材料に関する。本明細書に使用される場合、「酵素分解性の」という用語は、マトリクスを調製するために用いられる特定の高分子材料の領域を特異的に開裂する酵素の存在下で分解可能なマトリクス材料を指す。酵素分解性のマトリクスは、一般に、酵素によらない加水分解に対して安定であってよい。これは、マトリクスを分解することが可能な酵素が存在しなければ、マトリクスは、単なる加水分解によっては分解しないことを意味している。
【0056】
一態様では、本発明は、重合体セグメント及びリンカーセグメントを有する、生体適合性及び生分解性のある架橋された重合体マトリクスを提供する。重合体マトリクスのセグメントは、重合体マトリクスの一部の化学物質を指す。マトリクスを形成する材料の一部は、ポリ−α(1→4)グルコピラノースである。マトリクスを形成する材料の他の一部は、リンカーセグメントである。リンカーセグメントは、一般に、一方のポリ−α(1→4)グルコピラノース含有セグメントを他方のポリ−α(1→4)グルコピラノース含有セグメントに連結する化学物質、又は、一方のポリ−α(1→4)グルコピラノース含有セグメントを、ポリ−α(1→4)グルコピラノース含有セグメントとは異なるマトリクス材料、例えば、高分子材料又は非高分子材料を含む別のセグメントに連結する化学物質を指す。
【0057】
実施の幾つかの形態では、マトリクスは、第1のペンダント反応基を含むα(1→4)グルコピラノース重合体が、当該第1のペンダント反応基と反応する第2の反応基を含む第2の成分と反応することによって、形成され得る。第1のペンダント反応基または第2の反応基の一方は、ヒドラジド基を含む。例えば、α(1→4)グルコピラノース重合体は、ペンダントヒドラジド基を含むことが可能である。第2の成分は、α(1→4)グルコピラノース重合体であってもよいし、または、α(1→4)グルコピラノース重合体とは異なる成分であってもよい。ここで、第2の成分は、ヒドラジド基と反応する基を含む。典型的なヒドラジド−反応基には、アルデヒド、ハロゲン化アシル、NHS−エステル、カルボン酸、イミドエステル、ヒドロキシルメチルホスフィン、イミダゾール及び不飽和エステルが含まれる。
【0058】
α(1→4)グルコピラノース重合体は、α(1→4)リンケージを有する反復単量体α−D−グルコピラノース(Glc)を含む。α(1→4)グルコピラノース重合体の一部(3単量体単位)が以下に示される。
【0059】
【化3】

【0060】
複数の態様では、α(1→4)グルコピラノース重合体は、直線状であるか(すなわち、実質的または全体的に分岐していない)、または、非環状である。比較すると、分岐したα(1→4)グルコピラノース重合体の例は、でんぷんであり、環状のα(1→4)グルコピラノース重合体の例は、シクロデキストリンである。
【0061】
典型的な直線状のα(1→4)グルコピラノース重合体の例は、マルトデキストリン及びアミロースである。
【0062】
「アミロース」又は「アミロース重合体」とは、α−1,4リンケージによって連結された反復α−D−グルコピラノース単位を有する直鎖状の重合体を指す。幾つかのアミロース重合体は、極めてわずかな量の、α−1,6リンケージを介した枝分かれ(リンケージの約0.5%よりも少ない)を有していてよいが、それでも、枝分かれしていない直鎖状のアミロース重合体が示す物理的特性と同じ物理的特性を示すことが可能である。概して、植物源に由来するアミロース重合体は、約1×10Da以下の分子量を有している。これに比べて、アミロペクチンは、直鎖状の部分を形成するためにα−1,4リンケージによって連結された反復グルコピラノース単位を有する枝分かれ重合体であり、直鎖状の部分は、α−1,6リンケージによって一緒に連結されている。一般に、枝分かれ点のリンケージは、全リンケージの1%よりも多く、典型的には、全リンケージの4%〜5%である。概して、植物源に由来するアミロペクチンは、1×10Da以上の分子量を有している。
【0063】
アミロースは、様々な源から得ることが可能であるか、又は様々な源に存在している。典型的には、アミロースは、非動物源から、例えば植物源から得られる。アミロース含有量が高いでんぷん製剤、精製されたアミロース、合成によって作られたアミロース、又は濃縮されたアミロース製剤を、ペンダントヒドラジド基又はヒドラジド−反応基を有するアミロース誘導体の製剤に用いてもよい。
【0064】
アミロース重合体を誘導体化するプロセスの前、間、及び/又は後に、疎水性誘導体を提供するステップ、アミロースの量を凝縮するステップ、又はアミロースを精製するステップを行なってもよい。例えば、アミロース製剤においてある量のアミロペクチンが存在するならば、このアミロペクチンの量を、でんぷんをアミロペクチナーゼで処理することによって、低減することが可能である。アミロペクチナーゼは、α−1,6リンケージを開裂し、結果的にアミロペクチンをアミロースに脱分岐する。
【0065】
精製又は濃縮されたアミロース製剤は、商業的に入手可能であり、また、クロマトグラフィーなどの標準的な生化学的技術を用いて調製することも可能である。例えば、平均分子量が70kDaである合成アミロースは、Nakano Vinegar社(日本愛知県)から得ることが可能である。
【0066】
概して、「マルトデキストリン」とは、一般に平均分子量がアミロースよりも少ない線状のα(1→4)グルコピラノース重合体を指す。
【0067】
マルトデキストリンは、典型的には、でんぷんスラリーを、85〜90℃の温度において、耐熱性のα−アミラーゼで加水分解して、所望の程度の加水分解に到達させ、その後、α−アミラーゼを第2の熱処理によって不活性化することによって生成される。マルトデキストリンは、濾過によって精製され、その後、噴霧乾燥されて、最終生成物になることが可能である。マルトデキストリンは、典型的には、それらのデキストロース当量(DE)値によって特徴付けられる。デキストロース当量(DE)値は、加水分解の程度に関連しており、DE=MWデキストロース/数を平均化したMWでんぷん加水分解物×100で定義される。一般に、マルトデキストリンは、アミロース分子よりも少ない分子量を有していると考えられている。
【0068】
デキストロース(グルコース)に完全に加水分解されたでんぷん製剤のDEは、100であるが、でんぷんのDEは約0である。0よりも多いが100よりも少ないDEは、平均分子量のでんぷん加水分解物を特徴とし、マルトデキストリンは、20よりも少ないDEを有していると考えられる。様々な分子量、例えば、約500Da〜1×10Daの範囲のマルトデキストリンが、市販されている(例えば、フランスのGPC社、Muscatine社、IA社、およびRoquette社)。
【0069】
マルトデキストリン及びアミロースといった、α(1→4)グルコピラノース重合体を含む製剤は、分画を行なうことが可能である。例えば、マルトデキストリン又はアミロース製剤に、異なる孔径を有する限外濾過膜を用いたダイアフィルトレーションを行なってよい。これは、同一出願人による米国特許出願第11/904,805号(米国特許公開第2008/0089923A1号として公開された(2008年4月17日))に記載されている。一例として、ダイアフィルトレーションプロセスにおいて、分子量が低減された約1K〜約500Kの範囲の膜を備える1つ又は複数のカセットを使用して、平均分子量が500KDa以下、例えば、約100KDa〜約500KDaの範囲、約30KDa〜約100KDaの範囲、または、約1KDa〜約30KDaの範囲の多糖類製剤を提供することが可能である。
【0070】
これらの、アミロース及びマルトデキストリン重合体を用いることの利点のため、幾つかの態様では、α(1→4)グルコピラノース重合体製剤は、平均500,000Da以下、250,000Da以下、100,000Da以下、又は50,000Da以下の分子量を有している。α(1→4)グルコピラノース重合体製剤の典型的なサイズの範囲は、約1000Da〜約500,000Da、約100,000Da〜約500,000Da、約1000Da〜約50,000Da、約1000Da〜約30,000Da,約1000Da〜約25,000Da、約1000Da〜約20,000Da、約1000Da〜約15,000Da、および約1000Da〜約10,000Daの範囲である。
【0071】
本明細書に使用される場合、重合体の「分子量」とは、「重量平均分子量」又はMを指す。Mは、分子量を測定する絶対法であり、多糖類製剤といった重合体(製剤)の分子量を測定するために特に有用である。重合体製剤は、典型的に、個々の分子量の変動がわずかである重合体を含む。重合体は、比較的分子量の高い分子であり、重合体製剤内で変動がわずかであることは、重合体製剤の全体的な特性には悪影響を与えない。重量平均分子量(M)は、次の式によって定義することが可能である。
【0072】
【数1】

【0073】
ここで、Nは、質量がMである試料中の重合体のモル数を示し、Σは、製剤中の全てのN(種)の合計である。Mは、光散乱法又は超遠心分離法といった一般的な技術を用いて測定可能である。重合体製剤の分子量を定義するために用いられるM及び他の用語の説明については、例えば、Allcock, H.R. and Lampe, F.W. (1990) Contemporary Pokymer Chemistry; 271頁に見出すことが可能である。
【0074】
複数の態様では、マトリクスは、ヒドラジド基を含む第1のペンダント反応基を有するα(1→4)グルコピラノース重合体と、当該ヒドラジド基と反応する第2の反応基を含む、別のα(1→4)グルコピラノース重合体とを用いて調製される。
【0075】
任意により、及び、本発明の他の態様においては、マトリクスは、第1のペンダント反応基を有するα(1→4)グルコピラノース重合体と、α(1→4)グルコピラノース重合体とは異なる第2の成分とを用いて調製され得る。例えば、第2の成分は、α(1→4)グルコピラノース重合体の第1の基と反応する基を有する重合体二官能性架橋剤であってよい。他の任意の一形態として、α(1→4)グルコピラノース重合体とは異なる1つ以上の成分を用いて、マトリクスを調製してもよい。
【0076】
幾つかの態様では、第2の成分は、生体適合性のある重合体に由来している。例えば、第2の成分は、生体適合性のある親水性の重合体から形成されていてよい。マトリクス形成のための第2の成分を形成するために用いられ得る典型的な生体適合性のある親水性の重合体には、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリ(酸化プロピレン)(PPO)、ポリ(メタ)アクリルアミド(PAA)及びポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、PEG−PPO(ポリエチレングリコールおよびポリ酸化プロピレンの共重合体)、セグメント化された親水性ウレタン、並びに、ポリビニルアルコールが含まれる。
【0077】
幾つかの実施形態では、第2の成分は、ヒドロキシ官能化合物から調製される。典型的には、ヒドロキシ官能化合物は、少なくとも2個のヒドロキシル基、より具体的にいうと、分子当たり約2〜4個のヒドロキシル基を有している。ヒドロキシル基を誘導体化して、ヒドラジド−反応基又はヒドラジド基を提供する、すなわち、第2の成分に、制限された一定の数の反応基を提供する。このような第2の成分は、本発明に係る生分解性のマトリクスの形成に利点を提供することが可能である。幾つかの実施形態では、ヒドロキシ官能化合物を誘導体化して、2つのヒドラジド−反応基を有する第2の成分を提供する。幾つかの態様では、ヒドロキシ官能化合物は、約10,000Da以下の分子量を有している。
【0078】
第2の成分は、低分子量ポリオールから調製され得る。例えば、第2の成分は、ポリ(エチレングリコール)、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリメチロールプロパンエトキシレート又はペンタエリスリトールエトキシレートから形成可能である。幾つかの実施形態では、第2の成分は、HO−(CH−CH−O)−Hという構造を有する、エチレングリコール重合体またはオリゴマーに基づいている。nの典型的な値は、約3〜約150の範囲にあり、ポリ(エチレングリコール)平均分子量(M)の数は、約100Da〜約20,000Da、より典型的には約200Da〜約3500Daの範囲にある。
【0079】
第2の成分は、ポリペプチドから調製され得る。本明細書に使用される場合、ポリペプチドとは、2つ以上のアミノ酸残基を含む、オリゴマー又は重合体を指し、当該技術においてタンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド等と呼ばれる化合物を包含することを意図している。
【0080】
幾つかの態様では、第2の成分は、マトリクスタンパク質又はその一部であるポリペプチドから調製される。マトリクスタンパク質又はその一部は、細胞接着因子であってよい。典型的な細胞接着因子には、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンA、ラミニンB1、ラミニンB2、コラーゲンI及びトロンボスポンジンから選択される因子が含まれる。細胞接着因子の典型的な有効成分には、RGDS、LDV、REDV、RGDV、LRGDN、IKVAV、YIGSR、PDSGR、RNIAEIIKDA、RGDT、DGEA、GTPGPQGIAGQRGVV、RGD、VTXG、およびFYVVMWKから選択されるポリペプチドが含まれる。
【0081】
実施の幾つかの形態では、第2の成分は、約150Da〜約10,000Da、約200〜約5,000Da、または約250Da〜約2,500Daの範囲の分子量を有するポリペプチドから調製される。
【0082】
ペンダント反応性ヒドラジド又はペンダントヒドラジド−反応基を有するα(1→4)グルコピラノース重合体は、本明細書に記載する技術及び当該技術において公知の技術を用いて調製することが可能である。本明細書に示す構造に示されるように、自然状態において、α(1→4)グルコピラノース重合体は、α−D−グルコピラノース単量体単位当たり3つのヒドロキシル基を有している。少なくとも1つのヒドロキシル基、及び、より典型的には、α(1→4)グルコピラノース重合体のヒドロキシル基の一部を誘導体化して、該重合体上に、ペンダント反応性ヒドラジド又はペンダントヒドラジド−反応基を提供する。例えば、α(1→4)グルコピラノース重合体を誘導体化して、2つ以上のペンダント反応性ヒドラジド又はペンダントヒドラジド−反応基を提供することが可能である。これらは、重合体の長さに沿って無作為に離間させることが可能である。
【0083】
実施の一形態では、ヒドラジド官能α(1→4)グルコピラノース重合体の調製を、自然源に由来するα(1→4)グルコピラノース重合体、活性化剤、および、ヒドラジンまたはヒドラジド含有化合物を用いて、行なうことが可能である。
【0084】
重合体の誘導では、高分子材料、活性化剤及びヒドラジン又はヒドラジド含有化合物の濃度、溶媒及び反応条件(例えば時間及び温度)の選択は、α(1→4)グルコピラノース重合体の誘導の所望のレベル及びペンダントヒドラジド基の性質に基づいて選択され得る。
【0085】
α(1→4)グルコピラノース重合体は、好適な溶媒系において溶解し得る。好適な溶媒系には、極性溶媒、または複数の溶媒の組み合わせが含まれる。典型的な溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO)である。追加的又は選択的に、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ピリジン、1−メチル−2−ピロリジノン、水及びニトロベンゼンといった溶媒を用いてもよい。
【0086】
活性化ステップには、活性化されたポリα(1→4)グルコピラノース中間生成物を産生する様々な活性化剤を用いてよい。活性化されたポリα(1→4)グルコピラノース中間生成物は、ヒドラジンのアミノ基又はヒドラジン含有化合物と良好に反応する。好ましい一活性化剤は、1,1’−カルボニルジイミダゾール(CDI)である。あるいは、ポリα(1→4)グルコピラノースのヒドロキシル基を、クロロギ酸エステル、例えば、クロロギ酸エステルの例には、4−ニトロフェニルクロロギ酸エステル、ペンタフルオロフェニルクロロギ酸エステル及びサクシンイミジルクロロギ酸エステルとの反応によって活性化させてもよい。重合体中に形成された、活性化されたヒドロキシル基の数は、一般に、用いられる活性化剤の相対量と反応条件によって制御可能である。実施の一形態では、活性化剤は、α(1→4)グルコピラノース重合体のグラム当たり約3.1mmolの量で、用いられる。幾つかのケースでは、活性化剤を、α(1→4)グルコピラノース重合体に、グラム当たり約0.1mmol〜グラム当たり約6mmolの範囲のある量で用いて、合成を行なうことが可能である。
【0087】
その後、活性化されたα(1→4)グルコピラノース重合体を含有する溶液に、ヒドラジン又はヒドラジド基含有化合物を添加する。典型的には、ヒドラジン又はヒドラジド含有化合物を、添加された活性化剤の量を超えるモル(例えば、10倍のモル過剰、又は約12倍のモル過剰)で添加する。ヒドラジンおよび化学式(a)のヒドラジド基含有化合物を以下に示す。
【0088】
【化4】

【0089】
ここで、ヒドラジド基含有化合物のRは、α(1→4)グルコピラノース重合体の活性化されたヒドロキシル基と反応する基を含む。
【0090】
ヒドラジド基含有化合物の1つのサブセットは、ジヒドラジド化合物である。1つの具体的なジヒドラジド化合物は、カルボヒドラジドである。このカルボヒドラジドは、ヒドラジド機能性α(1→4)グルコピラノース重合体を生成するために用いることが可能である。
【0091】
ヒドラジド基含有化合物の1つのサブセットは、以下に示す化学式(b)のジヒドラジド化合物である。
【0092】
【化5】

【0093】
ここで、Rは、共有結合、又は、1−12個の炭素原子を有するような、環状の、直鎖状の、若しくは分岐した炭素含有基である。幾つかの態様では、Rは、−(CH−基であり、ここで、nは1〜12である。化学式(b)のジヒドラジド化合物の具体的な例には、オキサリルジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド及びアジピン酸ジヒドラジドが含まれる。
【0094】
化学式(b)の他のジヒドラジド化合物は、Rが天然又は合成のアミノ酸残基を含む化合物である。
【0095】
幾つかの態様では、ヒドラジド基含有化合物(a)のRは、化学式(c)の化合物を提供する、カルボキシル、カルボン酸塩、またはエステル基を含む。
【0096】
【化6】

【0097】
ここで、Rは、環状の、直鎖状の、又は分岐した炭素含有基であり、Rは、H又は陽イオンであり、Rは、H又は保護基である。
【0098】
化学式(c)では、Rは、ヒドラジド基を、カルボキシル、カルボン酸塩又はエステル基に橋架けしていてよい。幾つかの態様では、Rは、−(CH−基であり、ここで、nは1〜12である。幾つかの態様では、Rは、酸に鋭敏な保護基である。典型的な酸に鋭敏な保護基は、t−ブトキシカルボニル(BOC)、トリチル(trt)、t−ブチルジメチルシリル(TBDMS)、およびカルボベンジルオキシ(Cbz)基から成る群から選択されていてよい。
【0099】
典型的なヒドラジド誘導体、例えばマルトデキストリン−ヒドラジド(MD−Hyd)は、ペンダントヒドラジド基のマルトデキストリンに対する比率が、グラム(MD)当たり約0.1mmol(Hyd)〜グラム(MD)当たり約2mmol(Hyd)の範囲、より具体的には、グラム当たり約0.5mmol〜グラム当たり約1.5mmolの範囲である。典型的な1つの比率は、グラム当たり約1.25mmolである。
【0100】
誘導のレベルを表す他の方法は、置換度(DS)によって表すことである。単量体単位当たり3つのヒドロキシル基を有する、マルトデキストリン及び他の多糖類では、平均して、単量体単位当たり1つのヒドロキシル基の置換(ヒドラジド−含有部分で)が、置換度1(DS1)と呼ばれ、完全に置換されたマルトデキストリンは、DS3を有している。典型的なヒドラジド誘導体、例えばマルトデキストリン−ヒドラジド(MD−Hyd)は、約0.05〜約1.0の範囲、約0.1〜約1.0の範囲、およびより具体的には、約0.2〜約0.7の範囲のDSを有している。1つの典型的なDSは約0.5である。
【0101】
ヒドラジド−誘導体化されたα(1→4)グルコピラノース重合体の例は、以下に示す構造(d)〜(g)のうちのいずれかを含む重合体であり、ここで、RおよびRの意味するところは、それぞれ、化学式(b)および(c)に対応している。
【0102】
【化7】

【0103】
【化8】

【0104】
【化9】

【0105】
及び
【0106】
【化10】

【0107】
概して、ヒドラジド置換度の高い多糖類は、第2の成分との反応性がより高い。結果として、反応性成分の化合により、高度に置換された多糖類を有する組成物は、急速にゲル化し、結果的に、より高度に架橋された固いゲルになる。
【0108】
ヒドラジド基と反応する基、例えばアルデヒド基を有するα(1→4)グルコピラノース重合体の調製を行なうこことが可能である。実施の一形態では、アルデヒド−機能性α(1→4)グルコピラノース重合体の調製は、α(1→4)グルコピラノース重合体および酸化剤を用いて行なわれ得る。
【0109】
アルカリ金属過ヨウ素酸塩などの酸化剤を用いて、グルコピラノース環のヒドロキシル基をアルデヒド基に変換することが可能である。既知の方法には、グルコピラノース環の制限された数のヒドロキシル基を、アルデヒド基に変換することが可能な条件下で行なわれ得る、過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO)を用いた方法がある。例えば、グルコピラノース環のCおよびCヒドロキシル基は、過ヨウ素酸ナトリウムの存在下で、ジアルデヒドに変換され得る。
【0110】
この酸化反応は、典型的には、約4〜約5の範囲といったより低いpHにおいて行なわれる。重合体に沿って形成されたアルデヒド基の数は、一般に、過ヨウ素酸ナトリウムの相対量、及び反応条件によって制御される。実施の一形態では、過ヨウ素酸ナトリウムは、α(1→4)グルコピラノース重合体のグラム当たり約1.54mmolの量で用いられる。幾つかのケースでは、過ヨウ素酸ナトリウムを、α(1→4)グルコピラノース重合体に、グラム当たり約0.1mmol〜グラム当たり約4mmolの範囲の量で用いて、合成が行われ得る。
【0111】
主なヒドロキシル基を選択的に酸化させるために、他の酸化剤、例えば、デス−マーチンペルヨージナン(DMP)または2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルラジカル(TEMPO)を用いてもよい。
【0112】
誘導体化されたα(1→4)グルコピラノース重合体とは異なる第2の成分を用いて、マトリクスを形成する場合、マトリクスは、ヒドラジド化学物質を含む合成スキームを用いて、調製され得る。
【0113】
例えば、幾つかの態様では、第2の成分は、制限された所定の数のヒドロキシル基を有するポリオールと、活性化剤およびヒドラジドとが反応することによって形成される。例えば、ヒドラジド−誘導体化されたポリ(エチレングリコール)は、ヒドラジド−多糖類を調製するための反応スキームに似た反応スキームを用いて調製され得る。
【0114】
ポリエチレングリコールなどのジオールでは、誘導は、ジオールよりも少なくとも2倍の過剰のモルのCDIなどの活性化剤を用いて、行なうことが可能である。実施の幾つかの形態では、活性化剤とジオールとのモル比は、約2:1〜約4:1の範囲である。一般に、ジオールの重合を回避するためには、ジヒドラジド化合物を、活性化剤またはジオールよりも過剰のモル(例えば10倍という過剰のモル)で用いる必要がある。
【0115】
他の態様では、第2の成分は、ヒドラジド−誘導体化されたポリペプチドを含む。好ましくは、ヒドラジド−誘導体化されたポリペプチドは、所望の配列、例えば、アミノ酸残基に挟まれた細胞接着タンパク質の活性ドメイン、またはヒドラジド基に結合された配列(すなわちポリペプチドは、マトリクス形成に用いられるペンダント反応性ヒドラジド基を有する)を含む。これに関して、細胞接着タンパク質の活性ドメインを含有する配列の化学物質は、ヒドラジド誘導によっては変化せず、従って配列は、自然の細胞接着機能性を維持し得る。
【0116】
実施の一形態では、ヒドラジド−誘導体化されたポリペプチドを調製する。最初に、(a)N−末端アミノ酸残基若しくは配列とC−末端アミノ酸残基若しくは配列とに挟まれた所望の配列を有するペプチドを得ることであって、上記N−末端アミノ酸残基若しくは配列、及び上記C−末端アミノ酸残基若しくは配列は、システイン残基を含む。その後、(b)システイン残基のスルフヒドリル基を、スルフヒドリル−反応基およびヒドラジド基を含む成分と反応させる。この反応は、ほぼ中性またはそれ以下のpHにおいて行われ、スルフヒドリルとスルフヒドリル−反応基との間の反応を制限することが望ましい。
【0117】
フランキング(隣接)システイン残基又はシステイン残基含有配列を有する所望のペプチドを、当該技術において公知のアミノ−末端保護および側鎖保護化学物質の任意の組み合わせを用いたSPPS(固相ペプチド合成)によって、合成可能である。典型的且つ好適なSPPSは、アミノ−末端保護に、従来の、塩基を取り除くことが可能な9−フルオレニル−メチルオキシカルボニル(Fmoc)化学物質を用いる。例えば、Carpin et al. (1972), J. Org. Chem. 37(22):3404−3409、又は、「Fmoc Solid Phase Peptide Synthesis,」 Chan, W. C. and White, P. D., Eds. (2000) Oxford UNIVERSITY Press Oxford Engを参照されたい。典型的且つ好適なSPPSはまた、個々のアミノ酸に適した、従来の酸に鋭敏な側鎖保護基(例えばt−ブトキシカルボニル(BOC)、tert−ブチル、t−ブチルエステルなど)を用いてもよい。樹脂からペプチドを開裂すること、および、側鎖保護基を取り除くことは、公知の手順を用いて行なうことが可能である。公知の手順の例には、(例えばトリフルオロ酢酸(TFA)を用いた)acidolytic開裂および全体的な脱保護などが挙げられる。所望により、クロマトグラフ技術または他の公知の好適な技術を用いて、ペプチドを精製してもよい。
【0118】
SPPSは、一般式(NH)−U−X−Z−(COOH)のペプチドを提供することが可能である。ここで、Uはシステイン残基を含むアミノ酸配列であり、Xは細胞接着タンパク質の活性ドメインといった所望のアミノ酸配列であり、Zはシステイン残基を含む他のアミノ酸配列である。典型的な実施形態では、式U−X−Zのペプチドを調製する。該ペプチドは、約5〜約20アミノ酸残基、または約5〜約15アミノ酸残基を有している。
【0119】
脱保護され単離されたペプチドを、その後、スルフヒドリル−反応基及びヒドラジド基を有する成分と反応させて、ペプチドにペプチドのシステイン残基からペンダントされたヒドラジド基を供与することが可能である。典型的なスルフヒドリル反応性の、ヒドラジド成分は、3,3’−N−[ε−マレイミドカプロン酸]ヒドラジド(EMCH)などを含む。3,3’−N−[ε−マレイミドカプロン酸]ヒドラジド(EMCH)は、Thermo Fisher Scientific社(Rockford, IL)から入手可能である。この反応は、酢酸塩等の水性緩衝液において、中性のpH、例えば約2〜約7.5.の範囲のpH、または好ましくはそれよりも低いpHで、行なうことが可能である。
【0120】
ヒドラジド基と反応する基、例えばアルデヒド基を有する、第2の成分の調製を行なうことが可能である。例えば、ジオール等のヒドロキシル基含有化合物は、過ヨウ素酸塩等の酸化剤と反応して、ペンダント反応性アルデヒド基を提供することが可能である。
【0121】
また、アルデヒド−官能基化されたアミノ酸およびペプチドを入手してもよいし、合成してもよい。例えば、ヒドロキシル基を有するアミノ酸を含有するジアミノ酸を購入してもよいし、合成してもよい。次に、ヒドロキシル基を、TEMPO−媒介された化学物質(又は他の当該技術において公知の酸化化学物質)を用いて酸化させて、アルデヒド基を生成することが可能である。次に、これらの反応基を、ヒドラジド成分に架橋させて、生体分解性のマトリクスを形成することが可能である。
【0122】
本発明のマトリクスは、第1のペンダント反応基を有するα(1→4)グルコピラノース重合体を、第1のペンダント反応基と反応する第2の反応基を含む第2の成分と化合させることによって調製することが可能である。これらの成分は互いに反応し合うので、これらの成分は、一般に、化合するまで分離された状態で維持される。
【0123】
複数の態様では、反応性のマトリクス形成成分を有する個々の組成物(例えば液組成)を調製し、その後、この組成物を混合して、ゲル生成を開始する。幾つかの態様では、2つの組成物(例えば、マトリクス形成成分をそれぞれ有する組成物A及びB)を一緒に混合して、混合された1つの組成物を形成する。この組成物は、第1のペンダント反応基を有する少なくとも1つのα(1→4)グルコピラノース重合体と、該α(1→4)グルコピラノース重合体と同一または異なり得る別の成分とによる、マトリクス形成材料を有している。第2の成分は、第1の基と反応する第2の基を有している。
【0124】
特定の用途によっては、この混合された組成物は、一定の量の、マトリクス形成材料を有していてよい。酵素分解によって生物活性剤を放出することが可能なマトリクスの調製には、マトリクス形成材料を高濃度で有する混合組成物を用いて、マトリクスを調製することが望ましい。幾つかの態様では、この生物活性剤は、ポリヌクレオチド、多糖類及びポリペプチドから選択される高分子剤である。
【0125】
例えば、これらのマトリクスでは、混合物中の、マトリクス形成材料の濃度は、一般に、約20mg/mLよりも高い、約25mg/mL以上、約40mg/mL以上、約50mg/mL以上、約60mg/mL以上、約70mg/mL以上、約80mg/mL以上、約90mg/mL以上、又は、約100mg/mL以上であってよく、例えば、約20mg/mL〜約500mg/mL、約25mg/mL(2.44%wtの固体)〜約250mg/mL(20%wtの固体)、約40mg/mL(3.85%wtの固体)〜約200mg/mL(16.7%wtの固体)、または約50(4.76%wtの固体)mg/mL〜約150mg/mL(13%wtの固体)の範囲であってよい。また、これらの濃度は、細胞の存在下でマトリクスを形成して細胞骨格を提供する場合にも用いられ得る。
【0126】
幾つかの実施形態では、混合物中の主なマトリクス形成材料をα(1→4)グルコピラノース重合体から得る。すなわち、主なマトリクス形成成分として、混合物中には、α(1→4)グルコピラノース重合体誘導体が、他のマトリクス形成材料の量よりも多い量で存在する。幾つかのケースでは、α(1→4)グルコピラノース重合体誘導体は、混合物中に、マトリクス形成材料の全量の約50%以上(固体マトリクス形成材料の重量に基づく)、約60%以上、約70%以上、約80%以上、または約90%以上の量で存在する。典型的な範囲は、(固体マトリクス形成材料の重量に基づいて)約50%〜約99%、約60%〜約99%、約70%〜約99%、約80%〜約99%、または、約90%〜約99%である。幾つかの態様では、この混合物は、α(1→4)グルコピラノース誘導体とは異なる他のマトリクス形成材料を含有しないか、または、ほとんど含有しない。これらの態様では、混合物中のマトリクス形成材料の、ほぼ全て又は完全に全ては、α(1→4)グルコピラノース重合体から得られる。
【0127】
幾つかの実施形態では、この混合物は、α(1→4)グルコピラノース重合体から導出された材料(例えば、ジオール化合物のヒドラジド又はヒドラジド−反応性誘導体)とは異なるマトリクス形成材料である、第2の成分を含む。この第2の成分は、混合物中に、マトリクス形成材料の全量の約50%(固体マトリクス形成材料の重量に基づく)よりも低い量、約40%よりも低い量、約30%よりも低い量、約20%よりも低い量、約10%よりも低い量において存在している。典型的な範囲は、約1%〜約50%(固体マトリクス形成材料の重量に基づく)、約1%〜約40%、約1%〜約30%、約1%〜約20%、または約1%〜約10%である。典型的な実施形態では、第2の成分は、ポリ(エチレングリコール)又はポリペプチドから得られる。
【0128】
マトリクス形成材料を含む組成物は、任意により、緩衝剤、補形剤及び/又は生物活性剤といった、1つまたは複数の他の非マトリクス形成材料を含んでいてもよい。
【0129】
組成物のpHは、従来の、リン酸緩衝剤、ホウ酸塩緩衝剤及び重炭酸イオン緩衝剤等の緩衝材料を用いて制御可能である。ほとんどの実施形態では、マトリクスを形成する組成物のpHは、約7と約8との間である。このpHは、多くの敏感な生物活性剤との使用に有利であるが、他のpH値も特定の用途に適している。
【0130】
マトリクスの特性を変化又は改善することが可能な、他の重合体又は非高分子化合物を、混合物中に含ませることが可能である。これらの任意により含まれる化合物は、形成されたマトリクスの弾性、柔軟性、湿潤性、若しくは粘着特性、(またはこれらの組み合わせ)を変化させることが可能である。
【0131】
典型的な任意の成分には、1つ又は複数の可塑剤が含まれる。好適な可塑剤には、グリセロール、ジエチレングリコール、ソルビトール、ソルビトールエステル、マルチトール、サッカロース、フルクトース、転化糖、コーンシロップ、及びこれらの混合物が含まれる。可塑剤の量および種類は、既知の基準および技術を用いて容易に決定することが可能である。
【0132】
本発明の幾つかの態様では、官能成分は、生分解性のマトリクスを形成する高分子材料に、光反応基によって共有結合されている。この官能成分は、ポリヌクレオチド、多糖類、及びポリペプチドから選択されるような高分子成分であってよい。この官能成分は、マトリクスの特性を、所望の用途に適するように変化させることが可能である。例えば、マトリクスは、細胞接着因子であるポリペプチドで修飾することが可能であり、ポリペプチドは、その後、反応した光反応基によって、マトリクス材料に付着される。このような修飾されたマトリクスは、細胞がマトリクスに含まれているならば、細胞にとって改善された条件を与えることが可能である。他の例には、IGF等の成長因子をマトリクスに付着させて、細胞生存を増大させることが含まれる。
【0133】
ポリヌクレオチド、多糖類、およびポリペプチドといった生体適合性のある試薬を、潜在的光反応基(latent photoreactive groups)などの潜在的反応基(latent reactive groups)で誘導体化させてもよい。これらの潜在的光反応基については、当該技術分野において記載されている。コラーゲン、フィブロネクチン及びラミニンといった光誘導体化されたポリペプチドは、米国特許第5,744,515号に記載されるように調製可能であり、フォトRGDは、米国特許第6,121,027号に記載されるように調製可能である。潜在的光反応基は、特異的に与えられる外部刺激に応答し、活性種を生成させ、結果的に標的に共有結合する基である。潜在的反応基は、その共有結合を、保存状態下で変化させずに保持するが、活性化すると、他の分子との共有結合を形成する。
【0134】
マトリクス材料の光誘導は、様々な方法を用いて行われ得る。実施の一形態では、発光試薬を、マルトデキストリン−ヒドラジド等のマトリクス形成材料と混合し、その後、活性化させて、発光試薬をマルトデキストリンヒドラジドに共有結合させる。ヒドラジド基は反応せずに残り、その後、誘導体化されたマルトデキストリンが他のマトリクス形成材料と化合して、ゲルが形成される。
【0135】
実施の他の形態では、マトリクス形成材料が化合されたときに、発光試薬が存在し、その後、マトリクスの形成後に、発光試薬は活性化され、該試薬はマトリクス材料に結合する。実施のさらに他の一形態では、発光試薬無しでマトリクスを形成し、その後、発光試薬は、形成されたマトリクスに添加され、活性化されて、該試薬はマトリクス材料に結合する。マトリクスの特性に応じて(すなわち、マトリクスが発光試薬に対して浸透性があるかどうかに応じて)、該試薬をゲルの外側に結合させてもよいし、または、ゲルの外側と内側との両方に結合させてもよい。
【0136】
実施の幾つかの形態では、発光タンパク質などの発光−試薬を、マトリクス材料と反応させる。この時の発光−試薬の量は、マトリクス形成材料の1mg当たり約1ng〜約100μgの範囲である。
【0137】
本発明の幾つかの態様では、マトリクスは、1つまたは複数の生物活性剤を含む。マトリクスを調製するために用いられる組成物は、生物活性剤を含んでいてもよい。マトリクス形成材料が化合され、混合された組成物がゲル化するときに、この生物活性剤はマトリクス内に封入され得る。
【0138】
生物活性剤の一部を以下に記載する。生物活性剤の全体的なリストは、生物活性剤の水溶性に関する情報に加えて、The Merck Index, Thirteenth Edition, Merck & Co. (2001)に見出すことが可能である。
【0139】
本発明に従って調製されたマトリクスは、次の1つまたは複数のクラスに含まれる生物活性剤を放出するために用いられ得る。これらのクラスには、ACE阻害剤、アクチン阻害剤、鎮痛剤、麻酔剤、降圧剤、抗ポリメラーゼ、抗分泌薬、抗AIDS物質、抗アポトーシス剤、抗生物質、抗癌性物質、抗コリン作用薬、抗凝血剤、抗けいれん薬、抗うつ剤、制吐剤、抗真菌剤、抗緑内障溶質、抗ヒスタミン剤、血圧降下薬、抗炎症薬(NSAIDなど)、代謝拮抗物質、抗有糸分裂物質、酸化防止剤、抗寄生虫剤、および/または抗パーキンソン物質、抗増殖性物質(抗血管形成剤を含む)、抗原虫溶質、抗精神病物質、解熱剤、防腐剤、鎮痙薬、抗ウイルス物質、カルシウムチャンネル遮断薬、細胞周期タンパク質、細胞応答改変遺伝子、キレート化剤、化学療法薬、ドパミン作動薬、細胞外マトリクス成分、線維素溶解薬、遊離基捕捉剤、成長因子、成長ホルモンアンタゴニスト、家庭要因、睡眠薬、免疫抑制剤、免疫毒素、表面糖タンパク質受容体の阻害剤、微小管阻害剤、縮瞳薬、筋肉収縮剤、筋肉弛緩剤、神経毒、神経伝達物質、ポリヌクレオチドおよびその誘導体、オピオイド、光線力学療法剤、プロスタグランジン、リモデリング阻害剤、スタチン、ステロイド、血栓溶解剤、精神安定剤、血管拡張剤及び血管痙攣阻害剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0140】
本発明の幾つかの態様では、マトリクスは、巨大分子である生物活性剤を含む。典型的な巨大分子は、ポリヌクレオチド、多糖類及びポリペプチドからなる群より選択され得る。幾つかの態様では、生物活性剤は約1000Da以上の分子量を有している。
【0141】
マトリクスから放出され得る生物活性剤の1つのクラスには、ポリヌクレオチドが含まれる。本明細書に使用される場合、「ポリヌクレオチド」は、2つ以上の単量体ヌクレオチドの重合体を含む。ヌクレオチドは、DNAに見られるような自然発生型ヌクレオチド(アデニン、チミン、グアニン及びシトシンベースのデオキシリボヌクレオチド)、及びRNAに見られるような自然発生型ヌクレオチド(アデニン、ウラシル、グアニン及びシトシンベースのリボヌクレオチド)、並びに、非天然ヌクレオチド又は合成ヌクレオチドから選択されることが可能である。
【0142】
マトリクスから放出され得るポリヌクレオチドの種類には、プラスミド、ファージ、コスミド、エピソーム、融合可能なDNA断片、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスDNAおよびRNA、アプタマー、修飾されたDNAおよびRNA、iRNA(免疫リボ核酸)、リボザイム、siRNA(低分子干渉RNA)、miRNA(マイクロRNA)、ロックされた核酸並びにshRNA(ショートヘアピンRNA)が含まれる。
【0143】
アプタマーは、DNA又はRNA分子を含み、他の核酸及びタンパク質といった標的分子に選択的に結合可能であるという点において、抗体と同様の機能をする。治療用アプタマーの一例には、加齢性黄斑変性の治療のためのpegylated 抗VEGFポリヌクレオチド pegaptanib (Macugen(商標))が挙げられる。
【0144】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、mRNAの特異的相補部分とハイブリダイズする。アンチセンス分子によるハイブリダイゼーションは、RNA二本鎖を、RNAseHによって分解させ、標的とされるmRNAによってコードされたタンパク質の産生を減少させる。疾病の治療用に承認された、または臨床試験中である、アンチセンスオリゴヌクレオチドの例には、フォミビルセン(CMV網膜炎)、アリカフォルセン(クローン病)、およびオブリメルセン(癌)が含まれる。
【0145】
RNA干渉(RNAi)は、標的特異性遺伝子サイレンシングを指し、これは、低分子干渉RNA(siRNA)を用いて行われ得る。細胞内に導入された二本鎖siRNAは、RNAが導入されたサイレンシング複合体によって認識される。このサイレンシング複合体は、鎖を分離させ、アンチセンス鎖を標的mRNAにハイブリダイズすることを促進し、その後、標的鎖を開裂する。従って、siRNAは、選択タンパク質の発現を低減することが可能である。
【0146】
リボザイムとして知られる、幾つかの酵素RNA分子は、この標的RNA分子の開裂および破壊を触媒することが可能である。Angiozyme(商標)として知られる、血管形成におけるVEGF受容体をエンコードするFLT−1のmRNに対して特異的なリボザイムが、進行性の充実性腫瘍を治療するために用いられている。
【0147】
幾つかの態様では、マトリクスは、約1000塩基〜約10,000塩基(プラスミドDNA)、または約20塩基〜約1000塩基(一本鎖オリゴヌクレオチド)、又は約19塩基〜約30塩基(siRNA)の範囲のサイズを有するポリヌクレオチドを含む。
【0148】
マトリクスはまた、核酸の機能を促進するキャリア成分を含んでいてもよい。キャリア成分は、分解を阻害し、核酸が細胞の中に入ることを促進することが可能である。核酸の機能を促進することが可能なキャリア成分には、ポリカチオン性のキャリア成分が含まれる。ポリカチオン性のキャリア成分は、核酸に結合し、該核酸を凝縮させ、過剰な正電荷を有する複合体構造を形成可能である。
【0149】
キャリア成分には、陽イオン性重合体および陽イオン性脂質が含まれるが、これらに限定されない。キャリア成分の具体的な例には、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウム(DOTAP)、ポリカチオン含有シクロデキストリン、ヒストン、カチオン化されたヒト血清アルブミン,アミノ多糖類(例えばキトサン)、ペプチド(例えばポリ−L−リジン,ポリ−L−オルニチン、およびポリ−4−ヒドロキシル−プロリンエステル)、タンパク質形質導入ドメインを含有するペプチド、ポリアミン(例えば、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリプロピレンイミン、ポリアミドアミンデンドリマー、及びポリβ−アミノエステル)が含まれる。他のキャリア剤(carrier agents)には、固体核酸脂質ナノ粒子(SNALP)、リポソーム、タンパク質形質導入ドメイン及びポリビニルピロリドン(PVP)が含まれ得る。さらに、キャリアは、当該キャリアを特定の細胞の種類に標的化することが可能な分子に抱合され得る。標的化剤の例には、特定の細胞表面分子を認識及び結合する抗体及びペプチドが含まれる。
【0150】
キャリア成分は商業的に入手してもよいし、公知技術を用いて調製してもよい。また、例えば、ポリカチオン性のキャリアは、核酸対ポリカチオン性キャリアの重量割合が約10:1〜約1:20の範囲でマトリクス中に含まれ得る。
【0151】
特にsiRNA及びプラスミドといったポリヌクレオチドの送達を行なうための生分解性マトリクスは、調製する間におけるポリヌクレオチドの最低限の分解によって調製され得る。また、in vivoに設置されたとき、マトリクスは、当該マトリクス中でのポリヌクレオチドの分解を防ぎ、治療のための期間にわたって放出することを調節することができる。
【0152】
生分解性マトリクスは、ウイルス粒子等の生体粒子を用いてポリヌクレオチドを送達することもできる。ウイルス遺伝子の送達は、別の治療的なアプローチであり、ウイルス粒子が生分解性マトリクスから放出されることによって対象を治療することが考えられている。マトリクスに入れられ、放出され得るウイルス系の例としては、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス等が挙げられる。
【0153】
本発明のある側面において、マトリクスは当該マトリクスから放出され得るポリペプチドを含む。ポリペプチドは、2以上のアミノ酸残基を含むオリゴマー又は重合体であり、当技術分野において、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド等の化合物を包含することが意図される。例として、ペプチドは、抗体(モノクロナル抗体及びポリクロナル抗体を含む)、抗体誘導体(ダイアボディ、F(ab)フラグメント、ヒト化抗体を含む)、サイトカイン、成長因子、受容体リガンド、酵素等を含む。ポリペプチドはまた、これらの改変物又は他の生体分子若しくは生体適合性のある化合物との抱合物を含む。例えば、ポリペプチドは、ペプチド−核酸(PNA)抱合物、多糖類−ペプチド抱合物(例えば、グリオシレートされたポリペプチド及び糖タンパク質)、又はポリ(エチレングリコール)−ポリペプチド抱合物(PEGポリペプチド)であり得る。
【0154】
マトリクスに含まれ得るポリペプチドの一種類は抗体及び抗体フラグメントである。様々な抗体及び抗体フラグメントが商業的に入手できるし、寄託又は寄託試料から得られるし、公知技術によって調製され得る。例えば、モノクロナル抗体(mAbs)は、培地中の連続継代細胞系により抗体分子を製造するいかなる技術からでも得られる。これらの技術は、例えば、ハイブリドーマ技術(Kohler and Milstein, Nature, 256:495−497 (1975))、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kosbor et al., Immunology Today, 4:72 (1983))、EBV−ハイブリドーマ技術(Cole et al., Monoclonal bodys and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp. 77−96 (1985))を含む。このような抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA、IgD及びこれらのサブクラスを含む、いかなる免疫グロブリン分類のものであってもよい。
【0155】
Fab又はFab’2フラグメントは、それぞれ、パパイン又はペプシン消化を含む標準的な技術により、モノクロナル抗体から得られる。Fab又はFab’2フラグメントを生成するためのキットは商業的に入手でき、例えば、Pierce Chemical (Rockford, IL)がある。
【0156】
抗体及び抗体フラグメントの例としては、trastuzumab(Herceptin(商標))を含む治療用の抗体、ヒト化抗HER2モノクロナル抗体(mAb);alemtuzumab(Campath(商標))、ヒト化抗CD52mAb;gemtuzumab(Mylotarg(商標))、ヒト化抗CD33mAb;rituximab(Rituxan(商標))、キメラ抗CD20mAb;ibritumomab(Zevalin(商標))、ベータ放射放射性同位体と抱合したネズミmAb;tositumomab(Bexxar(商標))、ネズミ抗CD20mAb;edrecolomab(Panorex(商標))、ネズミ抗上皮細胞接着分子mAb;cetuximab(Erbitux(商標))、キメラ抗EGFRmAb;bevacizumab(Avastin(商標))、ヒト化抗VEGFmAb、Ranibizumab(Lucentis(商標))、抗血管内皮増殖因子mAbフラグメント、satumomab(OncoScint(商標))抗パンカルシノーマ抗原(Tag−72)mAb、pertuzumab(Omnitarg(商標))抗HER2mAb及びdaclizumab(Zenapax(商標))抗IL−2受容体mAbが含まれるが、これらに限定されない。
【0157】
ポリペプチドは、細胞応答修飾因子から選択され得る。細胞応答修飾因子は、血小板由来増殖因子(PDGF)、色素上皮由来因子(PEDF)、好中球活性化タンパク質、単球走化性タンパク質、マクロファージ炎症性タンパク質、SIS(小型誘導分泌)タンパク質、血小板因子、血小板基礎タンパク質、メラノーマ成長刺激活性物質、表皮成長因子、形質転換成長因子(アルファ)、線維芽細胞成長因子、血小板由来の内皮細胞成長因子、インスリン様成長因子、神経成長因子、血管内皮成長因子、骨形態形成タンパク質、骨成長/軟骨−誘導因子(アルファ及びベータ)等の化学走化性因子を含む。他の細胞応答修飾因子は、インターロイキン1〜インターロイキン10を含む、インターロイキン、インターロイキン阻害剤、又はインターロイキン受容体、;アルファ、ベータ及びガンマを含むインターフェロン;エリスロポイエチン、顆粒球コロニー刺激因子、マクロファージコロニー刺激因子を含む造血因子;アルファ及びベータを含む腫瘍壊死因子;ベータ1、ベータ2、ベータ3、インヒビン及びアクチビンを含む形質転換成長因子(ベータ);を含む。
【0158】
ポリペプチドは、プロテアーゼ、ホスホリパーゼ、リパーゼ、グリコシダーゼ、コレステロール・エステラーゼ、ヌクレアーゼ等の治療酵素からも選択され得る。
【0159】
具体例としては、組み換えヒト組織プラスミノーゲン活性剤(アルテプラーゼ)、RNaseA、RNaseU、コンドロイチナーゼ、ペガスパルガーゼ(pegaspargase)、アルギニンデアミナーゼ、ヴィブリオリシン(vibriolysin)、サルコシダーゼ(sarcosidase)、N−アセチルガラクトスアミン−4−サルファターゼ、グルコセレブロシダーゼ、α−ガラクトシダーゼ及びラロニダーゼ(laronidase)が挙げられる。
【0160】
幾つかの態様において、マトリクスは生物活性剤を含む。この生物活性剤は微粒子中に存在している。微粒子は、完全に又は実質的に、病気の治療又は予防のために選択された生物活性剤の形状であり得る。又は、微粒子は生物活性剤を組み合わせた物(例えば、2つ以上の異なる生物活性剤)の形であり得る。他のケースでは、生物活性剤と他の成分の形であり得る。当該他の成分は、微粒子からの生物活性剤の放出をさらに調節できる(加えて、マトリクスが与えるいかなる放出効果を調節する)重合体などのように、対象に対する治療を意図しないものである。
【0161】
微粒子に含まれる生物活性剤は、微粒子からの生物活性剤の放出を調節する放出調節成分を含むことができる。幾つかの態様において、放出調節成分は、人間の体液又は組織に微粒子が接触した後に、微粒子を浸食、溶解及び/又は分解する、微粒子内に存在する材料である。成分の浸食、溶解又は分解は、治療を望む期間の間、治療により有効な量が存在するように、微粒子からの生物活性剤の放出を遅くできる。幾つかの態様において、微粒子は生物活性剤及び分解性又は浸食可能な重合体を含む。
【0162】
また、マトリクスは、実質的に又は全てが生物活性剤で形成された微粒子を含むことができる。生物活性剤のみで形成された微粒子は、当技術において既に報告されている。例えば、パクリタキセル微粒子の製剤が米国特許第6,610,317号に述べられている。それゆえ、本発明の幾つかの態様において、微粒子は低分子量生物活性剤から構成される。
【0163】
幾つかの製剤では、マトリクスは主にポリペプチドで構成される。ポリペプチド微粒子は、通常、米国特許出願公開第20090028956号(Slagerら)として、標題「ポリペプチド微粒子」で公開されている米国特許出願番号12/215,504号に記載の方法で形成され得る。通常、これらの微粒子は、ポリペプチド核を形成するための人工降雨剤とポリペプチドとを結合させて、さらにポリペプチド核の周りにポリペプチドを合体させるために溶液を相分離剤と混合して、ミクスチャを作り、ポリペプチド微粒子を作るためにミクスチャを冷まして、ポリペプチド微粒子から相分離剤の全て又は一部を除去することにより溶液中に形成される。この方法は、主に抗体又は抗体フラグメントで形成された微粒子の製剤にとって特に有利であり、多分散性が低く、ポリペプチド活性を良い状態で保てる、所望の大きさの微粒子を提供することができる。それゆえ、本発明の別の側面において、微粒子は、ポリペプチドのようなより高い分子量の生物活性剤によって構成される。
【0164】
別の側面において、マトリクスは細胞骨格で形成される。本明細書に使用される場合、「細胞骨格」は、ポリ−α(1→4)グルコピラノースを含む重合体セグメント及びここに述べたリンカーセグメントを含む、細胞を保持し、運ぶことに好適な高分子材料のマトリクスをいう。
【0165】
細胞骨格はそれだけで体内に用いてもよく、また、移植可能な物品又は機器と組み合わせて用いてもよい。そのような例として、コラーゲンスポンジ、代用血管、センサ、メッシュ、パッチ等が挙げられる。
【0166】
細胞骨格は、増強、修復、機能的修復及び/又は組織構造体の置換をする機能を果たすことができる。機能しない瘢痕組織となる通常の傷の治癒反応を変えるための治療をするために、典型的に、細胞骨格は、標的組織の近くか、上又は中に形成されるか、埋め込まれ、配置される。埋め込みが終わると、次に、典型的には、細胞骨格は分解する。細胞骨格マトリクスの分解の前、分解している間、分解後に、骨格が組織修復を促進する。
【0167】
例えば、骨格は、哺乳類宿主中において、周囲の組織の再構築を促進できる。従って、幾つかの態様において、細胞骨格は、組織置換の機能を果たすことができ、組織修復のための鋳型の再構築の機能をも果たすことができる。
【0168】
好適な細胞骨格は、埋め込まれたときに宿主細胞の修復及び/又は置換をすることに適した、化学的、物理的及び/又は構造上の特性を含む特性を有することができる。細胞骨格の化学的特性の例は、細胞骨格が埋め込まれたとき又は対象内で形成されたときに、細胞の付着及び成長に適している化学的性質が挙げられる。細胞骨格は、細胞接着因子、成長因子及び/又はサイトカイン、細胞の存続性の維持及び/又は組織再生プロセスの一部である細胞反応の促進に有益な物等の成分を含むことができる。物理特性の例は、埋め込まれた位置の組織の機械的特性と同様の機械的特性を含む。例えば、細胞骨格が心臓(常に動いている組織)の上又は中に、形成又は埋め込まれたとき、細胞骨格は所望の治療のための構造的な全体性を与えつつ、患者の心臓組織を動かす機械的特性を有する物が選択される。骨格は、損傷を受けた組織の機械的な強度を増やし、壁応力を減らすための付加的な機械的特性を与えることもできる。付加的な分子は、細胞治療の標的となっている場所、及び/又は、局地的な微細環境の調節を助ける場所である、好ましくない病気の領域の細胞が生存することを、しばしば助けることもできる。マトリクスが分解されると、細胞は、局地組織中で一体となるか又は局地組織中に移動する潜在能力及びより高い臨床転帰を促進するための分解しているマトリクスの再構築を行なう潜在能力を有する。
【0169】
細胞骨格は、マトリクス中で細胞を生存した状態で維持する構造的特性を有し得る。マトリクス材料への細胞の付着は、ここに述べた材料及び方法を利用でき、細胞の増殖を促進することができる。マトリクスの構造的特性は細胞により生産された成分をマトリクスの外に拡散させることができ、マトリクスの中に栄養分を拡散させることができる。
【0170】
構造的特性についていえば、組織骨格は、ここに述べたポリ−α(1→4)グルコピラノースを含む重合体セグメント及びリンカーセグメントから形成された網目状の重合体で構成される、網目状の通気孔を含む。細胞骨格は、分子成分(ポリペプチド及び低分子量成分等)を十分に骨格の中及び外に出すことができる、所望の平均孔径を有するように調製され得る。細胞骨格マトリクスの調製は、ここに述べた方法及び材料を用いることにより行なわれる。
【0171】
幾つかのケースにおいて、マトリクスを形成する組成物がガス発生成分を含むことによって、マトリクスの気孔率を増やすことができる。ガス発生成分は、マトリクス中にマイクロバブルを形成するゲルとして、マトリクスを効果的に形成することができる。ガス発生成分は、システムが備える二つの組成に分けられる二つの化合物を含む。一つの化合物はガス発生化合物であり、他は当該ガス発生化合物と反応してガスを放出させる活性剤である。典型的なガス発生成分のペアは、重炭酸塩(例えば、重炭酸カリウム又は重炭酸ナトリウム)等の炭酸含有化合物と、クエン酸などの生体適合性のある酸とである。典型的な気孔形成組成物は、米国特許出願公開第20090093550号(Rolfesら)として公開されている米国特許出願番号12/284,210に開示されている。
【0172】
より大きな孔径のマトリクスは、細胞をマトリクス中で、マトリクスが損傷しない限り、効果的に保持することができ、体液に存在する成分をマトリクス中に拡散させ、同様に、細胞によって生産された成分をマトリクス外に拡散させて、マトリクス周辺の組織に生物学的効果をもたらすことができる。大きな孔径をもつように形成されたマトリクスは、細胞を網目状化して、細胞に血管供給を迅速に行なわせることができる。
【0173】
細胞骨格は、in vivoに形成又は配置されたとき所望の分解速度となるように調製され得る。適用できる速度は、数日から12ヶ月にわたる範囲を取り得る。in vivoの標的位置でマトリクスが分解すると、再生産した組織及び細胞に置換することができる。幾つかの実施形態では、数時間、数日、数週間、数ヶ月のオーダーの期間、細胞を保持するために細胞骨格は調製される。骨格が分解するにつれ、取り込まれている細胞物質は、局所組織に再生の効果を与え続ける。分解する間、骨格に取り込まれている細胞は、マトリクス中でエンドセリン化の速度を増やす因子(例えば成長因子)を生産してもよい。
【0174】
本発明の細胞骨格によって行なわれる処置の種類に応じて、様々な種類の細胞がマトリクス中に含まれ得る。マトリクスに含まれ得る細胞の例は、血小板、誘導された多分化能を有する幹細胞を含む分化及び非分化幹細胞(成熟及び未発達のもの)、T リンパ球、B リンパ球、乳酸菌、含脂肪細胞、星状細胞、好塩基球、肝細胞、ニューロン、心筋細胞、軟骨細胞、上皮細胞、樹枝状細胞、内分泌細胞、内皮細胞、好酸球、赤血球、線維芽細胞、濾胞上皮細胞、神経節細胞、肝細胞、内皮細胞、ライディヒ細胞、実質細胞、リンパ球、リゾチーム分泌細胞、マクロファージ、肥満細胞、巨核球、メラニン細胞、単核白血球、筋様細胞、頸部神経細胞、好中球、乏突起膠細胞、卵母細胞、骨芽細胞、骨軟骨吸収細胞、破骨細胞、骨細胞、プラズマ細胞、精母細胞、網状赤血球、シュワン細胞、セルトリ細胞、骨格筋細胞及び平滑筋細胞を含む。
【0175】
幾つかの態様において、ポリ−α(1→4)グルコピラノースとは異なる材料を含むマトリクス形成成分を用いて細胞骨格は形成される。幾つかの態様において、第2の成分は、細胞接着因子として機能するポリペプチドを含む。例えば、細胞骨格は、ペンダントヒドラジド基を有するポリ−α(1→4)グルコピラノースと、骨格の中に取り込まれている細胞の存在下で細胞と付着する、ペンダントアルデヒド基を有する細胞付着ペプチドとの組み合わせにより調製され得る。その形成において、細胞を取り込んだマトリクス中で、重要な役割をするペプチドを含むマトリクスのセグメントを伴って形成されることができる。
【0176】
細胞骨格を形成しているマトリクス中の細胞付着セグメントの存在は、細胞が付着することができる場所を提供することから望ましい。多くの細胞は骨格依存的である。これは、それらの細胞が増殖又は分化するための基質に付着する種類であることを意味している。in vivoで、細胞は、覆っている上皮又は内皮を支持する構造である基底膜に存在するタンパク質因子に付着できる。細胞付着を促進するECMタンパク質は、通常、人組織中に見つけることができる。基底膜は「basal lamina」と呼ばれる膜及び内在する網目状のコラーゲン繊維により構成される。
【0177】
細胞接着因子は、様々な方法でマトリクス中に導入され得る。一つの一般的な方法は、マトリクス形成材料に細胞接着因子を共有結合させることである。一つの実施形態では、細胞接着因子は、リンカーセグメントを介してα(1→4)グルコピラノース重合体に共有結合しているタンパク質又はペプチドである。例えば、反応性アルデヒド基を有するペプチドは、α(1→4)グルコピラノース重合体のペンダントヒドラジド基と反応することができる。別の実施の仕方としては、細胞接着因子は、マトリクス形成材料の一部と共有結合するように反応する光反応基を有するタンパク質又はペプチドである。
【0178】
分化を促進するか、又は、細胞の成長若しくは増殖を促進するための生物学的因子の細胞に生産させるために、細胞の生存を維持し、アポトーシスを阻害する別の因子をマトリクス中に含ませることができる。
【0179】
幾つかのケースにおいて、成長因子及び/又は分化因子はマトリクスと結合されている。成長因子又は分化因子は、細胞及びマトリクス形成成分を含むマトリクスを形成する組成物に含まれ得る。マトリクスは、成長因子又は分化因子がマトリクス形成材料に共有結合しなくても形成され得る。
【0180】
用語「成長因子」は、本明細書に使用される場合、細胞又は組織の増殖を促進する生物活性分子を意味する。典型的な成長因子は、形質転換成長因子アルファ(TGF−α)、形質転換成長因子ベータ(TGF−β)、AA、AB及びBBイソ型を含む血小板由来成長因子(PDGF)、FGF酸性イソ型1及び2、FGF基礎型2及びFGF4、8、9及び10を含む線維芽細胞成長因子(FGF)、NGF2.5s、NGF7.0s及びベータNGF及びニュートロフィンを含む神経成長因子(NGF)、脳由来神経因子、軟骨由来因子、骨成長因子(BGF)、塩基性線維芽細胞成長因子、インスリン様成長因子(IGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、EG−VEGF、VEGF関連タンパク質、Bv8、VEGF−E、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、インスリン様成長因子(IGF)I及びII、肝細胞成長因子、グリア神経栄養成長因子(GDNF)、幹細胞因子(SCF)、ケラチノサイト成長因子(KGF)、TGFsアルファ、ベータ、ベータ1、ベータ2及びベータ3を含む形質転換成長因子(TGF)、骨格成長因子、骨マトリクス由来成長因子及び骨由来成長因子並びにこれらの混合物を含むがこれに限定されない。成長因子は細胞又は組織の分化を促進してもよい。例えば、TGFは細胞又は組織の成長及び/又は分化を促進してもよい。好ましい成長因子はVEGF、NGFs、PDGF−AA、PDGF−BB、PDGF−AB、FGFb、FGFa及びBGFを含む。
【0181】
用語「分化因子」は、本明細書において使用される場合、細胞の分化を促進する生物活性分子を意味する。この用語は、骨形態形成タンパク質(BMP)、ニュートロフィン、コロニー刺激因子(CSF)又は形質転換成長因子を含むがこれに限定されない。CSFは、顆粒−CSF、マクロファージ−CSF、顆粒球−マクロファージ−CSF、エリスロポイエチン、IL−3を含む。分化因子は細胞又は組織の成長を促進してもよい。例えば、TGF及びIL−3は細胞の分化又は成長を促進してもよい。
【0182】
成長因子又は分化因子は、例えば上述の米国特許出願公開第20090028956号に述べられている物のように、微粒子中に存在させることができる。
【0183】
生分解性マトリクスを形成するために、通常、マトリクス形成が望まれるときまで、第1及び第2のマトリクス形成成分が互いに分けて保持される。マトリクス形成は、単にマトリクス形成成分を混合して、ゲル生成を引き起こさせることによって起こり得る。
【0184】
マトリクスの調製の一形態では、第1及び第2のマトリクス形成成分は、二重シリンジ混合装置の互いに隔てられたチャンバーに入れられる。マトリクスを形成したいときに、装置の両方のシリンジプランジャを共に手圧で同時に扱うことによって、それぞれのシリンジから固定混合装置中(例えば、「分流」型のミキサ)に第1及び第2の成分を流し込み、第1及び第2の成分が互いに所定の割合で混合される。混合した後、混合された組成物は、装置の所望の位置に設置され得る一つのオリフィスの出口を通して装置から出される。有用な二重シリンジ混合装置は、Mixpac Systems AG (Rotkreuz, CH)の商業称号「MIXPAC」があるので、商業的に入手可能である。
【0185】
幾つかの態様において、第1の成分を含む組成物と第2の成分を含む組成物とがほぼ同じ粘度を有する組成物を準備することによって、効率のよい混合を行なうことができる。例えば、成分の固体のパーセント(固体%)を適切な緩衝液による適切な希釈を行なうことにより、粘度を調製することができる。緩衝液はリン酸緩衝生理食塩水を含むがこれに限定されない。
【0186】
本発明のマトリクス形成成分は、架橋されたマトリクスを得るために反応させることができる。
【0187】
例えば、幾つかの態様において、マトリクスの一部は化学式(h)又は(i)で示される化学構造を含む。
【0188】
【化11】

【0189】
化学式(h)及び(i)において、G〜Gは重合体セグメントのポリ−α(1→4)グルコピラノースの単量体単位を示す。幾つかの実施形態では、G又はGはα(1→4)グルコピラノース重合体とは異なる重合体の化学基(例えば、ポリエチレングリコール等のポリオール重合体由来の基)で置換されている。同様に、幾つかの実施形態では、G又はGはα(1→4)グルコピラノース重合体とは異なる重合体由来の化学基で置換されている。
【0190】
幾つかの態様において、マトリクスの一部(先に示したリンカーセグメント)は、化学式(j)及び(k)のうち一つの構造を含む。
【0191】
【化12】

【0192】
式(j)において、Q及びQはα(1→4)グルコピラノース重合体の単量体単位を示すか、又は、Q及びQのうちの一つがα(1→4)グルコピラノース重合体とは異なる重合体成分の一部であり、少なくとも一つのQ又はQはα(1→4)グルコピラノース重合体の単量体単位である。また、R及びRは独立して、O又は環状、直鎖状若しくは分岐した、酸素及び/又は窒素等の1又は複数のヘテロ原子を含む炭素含有基である。
【0193】
式(k)において、Q及びQはα(1→4)グルコピラノース重合体の単量体単位を示すか、又は、Q及びQのうちの一つがα(1→4)グルコピラノース重合体とは異なる重合体成分の一部であり、少なくとも一つのQ又はQはα(1→4)グルコピラノース重合体の単量体単位である。また、Rは共有結合か、又は、環状、直鎖状若しくは分岐した、酸素及び/又は窒素等の1又は複数のヘテロ原子を含む炭素含有基である。
【0194】
幾つかの態様において、リンカー基はエステル基を含む。例えば、幾つかの態様では、マトリクスの一部(先に示したリンカーセグメント)は、以下の化学式(l)又は(m)を含む。
【0195】
【化13】

【0196】
化学式(l)において、Q及びQはα(1→4)グルコピラノース重合体の単量体単位を示すか、又は、Q及びQのうちの一つがα(1→4)グルコピラノース重合体とは異なる重合体成分の一部であり、少なくとも一つのQ又はQはα(1→4)グルコピラノース重合体の単量体単位である。また、Rは環状、直鎖状又は分岐した炭素含有基であり、Rは共有結合か、又は、環状、直鎖状若しくは分岐した、酸素及び/又は窒素等の1又は複数のヘテロ原子を含む炭素含有基である。幾つかの態様では、Rは−(CH−基であり、nは1〜12である。
【0197】
化学式(m)において、Q及びQはα(1→4)グルコピラノース重合体の単量体単位を示すか、又は、Q及びQのうちの一つがα(1→4)グルコピラノース重合体とは異なる重合体成分の一部であり、少なくとも一つのQ又はQはα(1→4)グルコピラノース重合体の単量体単位である。また、Rは環状、直鎖状又は分岐した炭素含有基であり、RはO又は環状、直鎖状若しくは分岐した、酸素及び/又は窒素等の1又は複数のヘテロ原子を含む炭素含有基である。
【0198】
幾つかの態様において、化学式(l)又は(m)のRは−(CH−基であり、nは1〜12である。
【0199】
幾つかのケースにおいて、例えば、マトリクスのリンカーセグメントは、ヒドラジド基と、アルデヒド、ハロゲン化アシル、NHS−エステル、カルボキシル酸、イミドエステル、ヒドロキシル、メチルホスフィン及び不飽和エステルから選択される基との反応により形成された化学基を含む。具体的な側面において、マトリクスのリンカーセグメントはヒドラジド基がアルデヒド基と反応することにより形成された化学基を含む。
【0200】
形成されたマトリクスの機械的特性を測定するための試験が実行され得る。動的力学加熱試験からは、ストレス下の変形に伴う機械的反応を測定することにより、マトリクスの粘弾性特性及びレオロジー特性の情報を得ることができる。測定は圧縮係数及び剪断係数の決定を含む。重要な粘弾性のパラメータ(圧縮係数及び剪断係数を含む)は、ストレス、変形、振動数、温度又は時間の関数である振動で測ることができる。これらの測定には、商業的に入手可能なレオメーター(例えば、TA Instruments, New Castle, Delawareから入手可能である)を用いることができる。ヒドロゲルの機械的特性の試験は、Anseth et al. (1996) Mechanical properties of hydrogels and their experimental determination, Biomaterials, 17:1647.にも記載されている。
【0201】
マトリクスの複合力学定数(G*)を決定するための測定を行なうことができる:G*=G’+iG’’=σ*/γ*、ここで、G’は実(弾性又は貯蔵弾性)係数であり、G’’は虚数(粘性又は損失弾性)係数であり、これらの定義は剪断モードでの試験が利用可能であり、Gは剪断係数をいい、σは剪断ストレスをいい、γは剪断ひずみをいう。
【0202】
マトリクスは膨張(又は浸透)圧を測ることもできる。商業的に入手可能なテクスチャ分析器(例えば、Texture Technologies Corp; Scarsdale, NYから販売されるStable Micro Systemsを利用できる)を用いて、これらの測定を行なうことができる。テクスチャ分析器は張力又は圧力の力及び距離の測定を行なうことができる。
【0203】
幾つかの使用の方法において、マトリクス形成は、マトリクス形成成分がゲルを形成するために配置される、標的組織の位置のようなin situで実行される。in situで形成されたマトリクスは、復元、促進及び/又は組織の成長又は機能の増強を含む様々な病気又は適応症の治療に用いられる。典型的な用途は、心臓血管、整形、神経細胞、糖尿病、歯科、脊髄及び骨移植の問題のin situでの治療である。これらの機能は、本発明の生分解性材料のマトリクスをホスト組織と接触させて、配置又は形成することにより与えられる。例えば、マトリクス間に及び/又はマトリクス中に新しい組織の形成を促進するか又は可能にすることにより、マトリクスは、組織成長又は機能の修復又は促進をすることができる。組織上の効果は、マトリクス材料それ自体、マトリクスから放出された生物活性剤(細胞骨格にて細胞から生産された生物活性剤など)、存在するのであれば細胞、又はこれらの組み合わせによってもたらされる。
【0204】
幾つかの使用の方法において、マトリクスは、体内にマトリクスが誘導されるに先立って、物品の中に形成されるか、又は、機器と結合される。例えば、マトリクスは、体に埋め込まれ得る所定の構造を有する物品の形であり得る(フィラメント又はメッシュ等)。そのような物品はここでは「医療移植器」という。所定の構造の医療移植器は、溶接、押出加工、成形、切断、鋳造等のあらゆる好適なプロセスにより形成される。実施の一形態において、反応性成分を含む組成物は、混合され、マトリクスを所望の形の物品に形成する金型に注入される。
【0205】
この物品は一つ又は複数の目的に用いられ得る。例えば、体内において生物活性剤を放出又は保持する目的である。例えば、この物品は、生物活性剤含有医療移植器又は貯蔵器であり得る。この物品は、機械的又は物理的特性を体の一部に与え得る。生分解性の物品は所望の用途に適した期間内で分解し得る。
【0206】
幾つかの態様において、マトリクスは被覆剤の形である。「被覆剤」は本明細書において使用される場合、一つ又は複数の「被膜」を含み得る。それぞれの被膜は被覆剤材料を含んでいる。多くのケースにおいて、被覆剤は、マトリクスを形成している高分子材料を含む材料の単一層からなる。他のケースでは、被覆剤は、一つ以上の被膜、少なくとも一つのマトリクスを形成している高分子材料を含む被膜を含む。被膜剤に層がある場合、層は同じか又は異なる材料で構成され得る。
【0207】
マトリクス形成材料は、被覆剤を形成する機器の表面に、様々な方法で供給され得る。例えば、機器の表面にマトリクス形成材料を浸す、スプレーする、覆う、又は塗ることにより被膜を形成することができ、被膜剤を形成する表面上に材料を保持することができる。幾つかのケースにおいて、機器の表面に混合された組成物を適用する前に反応性成分を混合することができる。他のケースでは、反応性成分は個別に機器の表面に供給され得る。そして、この成分は装置上で被覆剤の形成を維持している他のものと互いに接触する。
【0208】
幾つかのケースにおいて、マトリクス形成材料は、移植可能な機器の表面の封止剤を形成する。封止剤は、表面に、体に対して不浸透性のバリアをもたらす。徐々に、封止剤は分解して、その機能は、マトリクスの材料に浸透した組織に置換される。それゆえ、封止被覆剤は、生分解性及び相対的な不浸透性(つまり、封止被覆剤の分解に対して)といった、特別な特性を有している。封止被覆剤はコンプライアント及び/又はコンフォーマルであってもよく、柔軟性、弾性及び曲げ性といった特性を持つことができる。
【0209】
本明細書に使用され、封止被覆剤の機能に関連して用いられる非浸透性は、大量の液体又は流体の、封止被覆剤が結合された基質を通る移動が、激減することをいう。例えば、封止被覆剤は血液の移動に関して非浸透性であり得る。非浸透性は、マトリクスが分解し、組織に置換される間、保持される。
【0210】
マトリクスは、あらゆる好適な方法、又は、被覆剤、保護膜、封止剤又は充填剤等のあらゆる好適な形で、移植可能な機器又は物品に結合され得る。移植可能な機器又は物品は、病気の予防又は治療のために哺乳動物の中に一時的又は永続的に誘導されるものである。これらの機器は、動脈、静脈、心臓の心室又は心房等の、器官、組織又は器官の内腔に残される、皮下に、経皮に、又は外科的な方法で導入されるものを含む。
【0211】
典型的な医療用の物品は、血管移植、グラフト、外科機器;合成人工器官;人工器官、ステント−グラフト及び血管内−ステント組み合わせ物品を含む人工血管;小口径グラフト、腹部大動脈瘤グラフト;創傷包帯及び創傷保護器具;止血バリア;メッシュ及びヘルニアプラグ;子宮止血パッチ、心房敗血欠損(ASD)パッチ、卵円孔開存(PFO)パッチ、心室中隔欠損(VSD)パッチ、及び他の一般的な心臓パッチを含むパッチ;ASD、PFO、及びVSDクロージャー;経皮クロージャー機器、僧帽弁修復機器;左心耳フィルター;弁環状形成機器、カテーテル;中心静脈アクセスカテーテル、血管アクセスカテーテル、膿瘍排膿カテーテル、薬物注入カテーテル、非経口的栄養補給カテーテル、静脈内カテーテル(例えば、抗血栓剤で処理されたもの)、脳卒中治療カテーテル、血圧及びステントグラフトカテーテル;吻合機器及び吻合クロージャー;動脈瘤排除機器;グルコースセンサを含むバイオセンサ;心臓センサ;受胎調節機器;豊胸手術機器;感染対策機器;メンブレン;組織骨格;組織関連材料;脳脊髄液(CSF)シャント、緑内障ドレーンシャントを含むシャント;歯科用品及び歯科移植品;耳排液チューブ、鼓膜切開通気管等の耳用機器;眼科機器;排液チューブカフ、埋植薬物注入チューブカフ、カテーテルカフ、縫合カフを含むカフ及び装置のカフ部分;脊髄麻酔及び神経学的機器;神経再生コンデット;神経学的カテーテル;神経パッチ;整形接合移植器、骨修復/増強機器、軟骨修復機器等の整形外科機器;尿道インプラント、膀胱機器、腎臓機器、血液透析機器、人工肛門袋付属機器、胆管排液製品等の泌尿器機器及び尿道機器を含む。
【0212】
幾つかの態様において、マトリクスは眼科物品に使われる。眼科物品は眼の外側又は内側の位置に配置され得る。幾つかの態様では、物品と共に用いられるマトリクスは、眼の前方セグメント(レンズの前)及び/又は眼の後方セグメント(レンズの後)のための生物活性剤に用いられ得る。
【0213】
眼の内側用の物品は眼のいかなる所望の位置の中にも備えられ得る。幾つかの態様では、眼科物品は硝子体等の眼球内の位置にも用いられ得る。例として、非直線状の眼球内機器について記載した米国特許番号6,719,750B2(“Devices for Intraocular Drug Delivery”Varner et al.)及び米国特許番号5,466,233(“Tack for Intraocular Drug Delivery and Method for Inserting and Removing Same,” Weiner et al.)に記載された眼球内装置が含まれるがこれに限定されない。
【0214】
本発明のマトリクスは、多孔質の表面を有する移植可能な物品とともに用いられ得る。多くのケースにおいて、物品の多孔質の表面は繊維状又は繊維様品質である。多孔質の表面は、織った材料、編んだ材料、網目状の材料を含む布地から形成される。特に有用な布地材料は、織られた材料であり、いかなる好適な公知の織りパターンによっても形成され得る。
【0215】
多孔質の表面は、グラフト、さやのような覆い、カバー、パッチ、スリーブ、ラップ、ケースなどのような物の表面であり得る。これらのような物品は、それ自体が医学物品としての機能を果たすことができるし、他の医学物品と合わせて用いられることもできる(例えば、ここに述べたような物品)。
【0216】
幾つかの使用の方法において、マトリクス形成は、ゲルを形成するマトリクス形成成分が配置された標的組織位置等のin situで行なわれる。マトリクスを形成する組成物は、送達コンデットを用いる標的組織位置に運ばれ得る。
【0217】
幾つかの実施の態様において、カテーテル又はマイクロカテーテルがマトリクス形成材料を標的位置に運ぶために用いられ得る。一般に、マイクロカテーテルは、約5フレンチ(fr)以下といった非常に小さい直径を有している(「フレンチ」は一般にカテーテルの外径の単位をいい、Fr×0.33=mmでのカテーテルの外径である)。幾つかの態様では、マトリクス形成のための標的位置は血管系の内部であり、しばしば、例えば、約1.7フレンチ〜約2.3フレンチの約2.3フレンチ以下のサイズの極めて小さいマイクロカテーテルが用いられるといわれている(商業的に入手可能であり、例えば、Boston Scientific Excelsior SL−10 #168189が挙げられる)。本発明の組成物は、これらのサイズのマイクロカテーテルを通って、マトリクス形成材料を標的位置に運ぶ量に適切な流速で運ばれる。
【0218】
実際には、二重内腔マイクロカテーテルが、対象の血管系に挿入され、マイクロカテーテルの末端が標的位置に来るように誘導され得る。マトリクス形成材料を含む第1及び第2の組成物が運ばれ、標的位置の中で混合され得る。
【0219】
マトリクス形成材料を含む組成物は、より大きな直径のカテーテルを用いても運ばれ得る。より大きな直径のカテーテルは、本発明の組成物を泌尿生殖器系の部位に運ぶために用いられ得る。
【0220】
幾つかの態様において、標的位置の動脈瘤の処置を実行する方法が行なわれる。生分解性の本発明の材料で動脈瘤を充填し、動脈瘤を安定させ、動脈瘤のサイズが大きくなり破裂する可能性を減らすことができる。
【0221】
一般に、体内での形成及び配置の後、生分解性のマトリクスはその表面が浸食される。マトリクスは、少なくとも部分的にポリ−α(1→4)グルコピラノースを含む重合体セグメントから形成されているので、in vivoでのマトリクスの分解は、マトリクスの表面でポリ−α(1→4)グルコピラノースが酵素分解されることによって起こる。ポリ−α(1→4)グルコピラノースを土台とするマトリクスの酵素分解は、通常の血清の成分である単糖グルコースを自然発生せ、放出させる結果となる。これは本発明のマトリクスを体に用いる際に有利である。
【0222】
炭水化物分解酵素がポリ−α(1→4)グルコピラノースを土台とするマトリクスに接触すると、マトリクスのポリ−α(1→4)グルコピラノースセグメントの酵素分解を引き起こす。ポリ−α(1→4)グルコピラノースに特異的な炭水化物分解酵素はα−アミラーゼである。アミラーゼのための血清濃度は、約50〜100U/リットルと見積もられ、硝子体の濃度もまたこの範囲に収まる(Varela, R.A., and Bossart, G.D. (2005) J Am Vet Med Assoc 226:88−92)。
【0223】
マトリクスと追加の炭水化物分解酵素(例えば、典型的な体からの生産物に含まれるものより多い量の炭水化物分解酵素)とが接触することにより、マトリクスの分解量が増える。例えば、炭水化物分解酵素が投与され得るし、又は、炭水化物分解酵素はマトリクス若しくはマトリクスが結合された機器と共に用いられ得る。ここで、そのようなマトリクス又は機器の部分から放出される炭水化物分解酵素は、局所的な被覆剤の分解を引き起こす。
【0224】
〔実施例1 マルトデキストリン−ヒドラジドの合成〕
アンバーバイアル瓶の中で、無水ジメチルスルホキシド(DMSO)(20.0mL)に、計量したマルトデキストリン(5.00g、30.84mmol)を溶解した。活性化剤、1,1’−カルボニルジイミダゾール(CDI)(2.50g、15.42mmol)を計量し、25mLのDMSOに溶解させた。CDI溶液を、マルトデキストリンを含むバイアル瓶の中にゆっくりとピペットで入れ、磁気スタラーで攪拌しながら、室温で25分間活性化を続けた。また、無水ヒドラジン(9.68mL,308.38mmol)を、シリンジを介して、CDI/マルトデキストリン反応溶液に加えた。この反応は2〜3時間続けた。反応が完了すると、溶液を脱イオン水で希釈し、Spectra/Por MWCO 1000透析管(VWR International)の中に入れた。脱イオン水中での透析を36時間行なった。生成物をチューブから取り出し、凍結乾燥して白色粉末にした。TNBSアミンアッセイにより、ポリマー1グラム当たり負荷平準1.3mmolのヒドラジドが示された。
【0225】
〔実施例2 マルトデキストリン−スクシニル−ヒドラジドの合成〕
アンバーバイアル瓶の中で、実施例1に述べたように無水DMSO(12mL)に、計量したマルトデキストリン(3.00g、18.5mmol)を溶解した。活性化剤、1,1’−カルボニルジイミダゾール(CDI)(1.50g、9.25mmol)を計量し、25mLのDMSOに溶解させた。CDI溶液を、マルトデキストリンを含むバイアル瓶の中にゆっくりとピペットで入れ、磁気スタラーで攪拌しながら、室温で25分間活性化を続けた。また、コハク酸ジヒドラジド(13.52g、95.5mmol)を80mLの脱イオン水中に溶解した。活性化が終了すると、コハク酸ジヒドラジド溶液をCDI/マルトデキストリン溶液中に注ぎ、2時間反応させた。反応が終了すると、溶液を、36時間、Spectra/Por MWCOの中で脱イオン水に対して透析した。得られた物質を凍結乾燥して、最終的に白色粉末を得た。陽子NMRにより、マルトデキストリン1グラム当たり負荷1.548mmolのコハク酸ヒドラジドが示された。
【0226】
〔実施例3 ポリ(エチレングリコール)3350−ジスクシニル−ヒドラジドの合成〕
アンバーバイアル瓶の中で、無水テトラヒドロフラン(THF)25mLに、ポリ(エチレングリコール)3350(5.00g、1.49mmol:PEG3350)を溶解した。予め5mLのTHFに溶解していたCDI(0.81g、5mmol)をゆっくりとPEG3350溶液に加えた。磁気スタラーで攪拌しながら、室温で2.5時間活性化を続けた。また、コハク酸ジヒドラジド(4.36g、29.8mmol)を、90mLの200mM酢酸ナトリウム緩衝液pH5.8に溶解した。コハク酸ジヒドラジド溶液をCDI/PEG3350溶液に加え、一晩かけて反応させた。生成物をSpectra/Por MWCO 1000透析管に入れて精製を行なった。生成物を脱イオン水で2日間透析した。澄んだ溶液が管から取り除かれ、凍結乾燥により綿毛のような白色固体を得た。生成物は4℃で保存した。構造解析は重水素クロロホルム(CdCl)による H−NMRを用いて行なった。結果は、PEG3350がコハク酸ヒドラジド基で完全に誘導体化されたことを示した(PEG33501分子あたり二つのヒドラジド基)。
【0227】
〔実施例4 マルトデキストリン−アジピル−ヒドラジドの合成〕
アンバーバイアル瓶の中で、実施例1に述べたように無水DMSO(15mL)に、計量したマルトデキストリン(2.00g、12.3mmol)を溶解した。別途、アジピン酸ジヒドラジド(10.74g、61.7mmol)を15mLの脱イオン水を含む35mLのDMSO中に溶解した。アジピン酸ジヒドラジド溶液を、溶解を助けるために50℃で2時間攪拌した。アジピン酸ジヒドラジド溶液は乳白色のままであった。CDI(1.00g、6.17mmol)を8mLのDMSOに溶解して、マルトデキストリン溶液中に入れた。マルトデキストリンの活性化を20分間行なった。マルトデキストリン溶液をアジピン酸ジヒドラジド溶液中にゆっくり注いだ。反応は磁気スタラーで攪拌しながら55℃で一晩行なった。生成物をSpectra/Por MWCO 1000透析管に入れて精製を行なった。透析は2日行なった。透析が終わると、生成物を凍結乾燥して綿毛のような白色粉末を得た。
【0228】
DMSOを用いた H−NMRにより、アジピン酸ジヒドラジドの負荷平準を測定した。最終重合体1グラム当たり、0.792mmolのアジピン酸ジヒドラジドの負荷平準であった。
【0229】
〔実施例5 過ヨウ素酸塩法を用いたマルトデキストリン−アルデヒドの合成〕
アンバーバイアル瓶の中で、実施例1に述べたようにマルトデキストリン(5.00g、30.8mmol)を0.05M酢酸ナトリウム緩衝液pH5.0(30mL)中に溶解した。溶液を5〜10℃に15分間冷却した。アンバージャーを使う前に、新鮮な0.45M過ヨウ素酸ナトリウム溶液をすぐに作り、同様に5〜10℃に冷却した。冷却した過ヨウ素酸塩溶液(17.1mL,7.71mmol)をゆっくりと冷却したマルトデキストリン溶液中に注いだ。反応は氷浴中で2時間かけて、磁気スタラーで攪拌しながら行なった。その時間の最後に、3mLのエチレングリコールにより反応溶液の反応を止めた。精製するために、粗溶液をSpectra/Por MWCO 1000透析管中に注ぎ、脱イオン水で2日間透析した。精製した溶液を凍結乾燥して白色粉末を得た。
【0230】
〔実施例6 TEMPO媒介酸化を用いたマルトデキストリン−アルデヒドの合成〕
0.5MNaHCO及び0.05MKCOを含む緩衝液を作製した。約125mLのこの緩衝液を125mLのDMSOと混合した。アンバーバイアル瓶の中で、実施例1に述べたようにマルトデキストリン(10.00g、61.7mmol)をDMSO/緩衝液混合液中に溶解した。TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシ、遊離基)(0.96g、6.17mmol)及びテトラブチルアンモニウムクロライド(TBACl)(1.71g、6.17mmol)を、マルトデキストリン/DMSO/緩衝液に加え、溶解した。N−クロロスクシニミド(NCS)(10.29g、77mmol)をマルトデキストリン溶液に、ゆっくりと発熱を最低限に抑える条件で加えた。反応は室温で3時間行なった。Spectra/Por MWCO 1000透析管中で脱イオン水により溶液を36時間透析することで精製した。最終生成物を凍結乾燥して綿毛のような白色の粉末を得た。さらなる解析は行なわなかった。
【0231】
〔実施例7 ポリ(エチレングリコール)−ジスクシニル−ヒドラジドの合成〕
アンバーバイアル瓶の中で、ポリ(エチレングリコール)540(2.00g、3.70mmol;PEG540)を10mLの無水テトラヒドロフラン(THF)中に完全に溶解した。5mLのTHFに予め溶解したCDI(1.50g、9.25mmol)をPEG540溶液にゆっくり加えた。活性化は、磁気スタラーで攪拌しながら、室温で2.5時間行なった。また、コハク酸ジヒドラジド(5.41g、37.0mmol)を90mLの200M酢酸ナトリウム緩衝液pH5.8に溶解した。コハク酸ジヒドラジド溶液をPEG540/CDI溶液に加え、一晩反応させた。Spectra/Por MWCO 500透析管中に生成物を入れて、精製を行なった。透析は脱イオン水を用いて2日行なった。澄んだ溶液を管から取り除き、凍結乾燥して、綿毛のような白色固体を得た。生成物は4℃で保存した。重水素クロロホルム(CdCl)を用いた1H−NMRにより構造解析を行なった。結果は、PEG540がコハク酸ヒドラジド基で完全に誘導体化されたことを示した。
【0232】
ポリ(エチレングリコール)540−ジコハク酸ヒドラジドと同じ合成方法を用いて、最初の分子量が1000、1500、2000及び3350のポリ(エチレングリコール)をコハク酸ジヒドラジドと反応させて、CDIによる活性化の後に、コハク酸ジヒドラジド誘導体を得た。
【0233】
〔実施例8 ポリ(エチレングリコール)3350−ヒドラジドの合成〕
アンバーバイアル瓶中で、実施例3に記載のように、PEG3350(10.00g、2.99mmol)を100mLの無水テトラヒドロフラン(THF)中に完全に溶解した。予め5mLのTHF中に溶解したCDI(1.06g、6.57mmol)をゆっくりとPEG3350溶液に加えた。活性化は、磁気スタラーで攪拌しながら、室温で2.5時間行なった。また、ヒドラジン(1.4mL、44.8mmol)を200M酢酸ナトリウム緩衝液pH5.8中に溶解した。ヒドラジン溶液をPEG3350/CDI溶液に加え、一晩反応させた。Spectra/Por MWCO 1000透析管中に生成物を入れて精製を行なった。透析は脱イオン水で2日間行なった。澄んだ溶液を管から取り除き、凍結乾燥して、綿毛のような白色の固体を得た。生成物は4℃で保存した。
【0234】
誘導体化の予測レベルは1分子あたり2ヒドラジドである。
【0235】
ポリ(エチレングリコール)3350−ヒドラジドの合成方法と同じ方法を用いて、最初の分子量が540、1000、1500及び2000のポリ(エチレングリコール)をヒドラジンと反応させて、CDIによる活性化の後に、ヒドラジド誘導体を得た。
【0236】
〔実施例9 マルトデキストリンマトリクス〕
実施例2で得たマルトデキストリン−スクシニルヒドラジドを脱イオン水に250mg/mLとなるように溶解した。実施例5で得たマルトデキストリンアルデヒドも水に250mg/mLとなるように溶解した。二つの溶液を一緒に1:1の割合でガラス板上にピペットで移して混ぜた。これら二つの溶液が接触するとすぐに重合が起こった。ゲルは強固で透明であった。
【0237】
〔実施例10 PEG2000−マルトデキストリンマトリクス〕
PEG2000−スクシニルヒドラジドを脱イオン水に500mg/mLとなるように溶解した。実施例5で得たマルトデキストリンアルデヒドも水に500mg/mLとなるように溶解した。二つの溶液を一緒に1:1の割合でガラス板上にピペットで移して混ぜた。透明で、かなり均質のゲルが形成され、ゲル中には泡が存在していた。
【0238】
〔実施例11 マルトデキストリンマトリクス〕
実施例1で得たマルトデキストリン−ヒドラジドを脱イオン水に500mg/mLとなるように溶解した。実施例5で得たマルトデキストリンアルデヒドも水に500mg/mLとなるように溶解した。二つの溶液を一緒に1:1の割合でガラス板上にピペットで移して混ぜた。ガラス板上では、互いの溶液が接触するとすぐに重合が起き、若干かすんだゲルが得られた。このかすみは、組成物の急速な重合のため、十分な攪拌が不可能だったためである。溶液中のマルトデキストリンベースの試薬の濃度を低くし、二重の急速に動くシリンジを用いれば、より均質なゲルが得られた。これらの試薬から得られたゲルは、ピペットで移したもの、及び、二重の急速に動くシリンジを用いたもののいずれにおいて、とても硬いマトリクスを形成した。
【0239】
〔実施例12 マルトデキストリンマトリクス〕
実施例11で得たマルトデキストリン−アジポ−ヒドラジドを脱イオン水に250mg/mLとなるように溶解した。実施例5で得たマルトデキストリンアルデヒドもまた、水に250mg/mLとなるように溶解した。これら二つの溶液を共に1:1の割合でガラス板上にピペットで移して混ぜた。ガラス板上では、互いの溶液が接触してすぐに重合した。ゲルは透明で弾性があった。
【0240】
〔実施例13 マルトデキストリン−L−グルタミル−γ−ヒドラジド〕
アンバーバイアル瓶中で、マルトデキストリン(3.00g,18.5mmol)をDMSO(12mL)中に溶解した。活性化剤、1,1’−カルボニルジイミダゾール(CDI)(1.50g,9.25mmol)を25mLのDMSO中に溶解した。この溶液を、マルトデキストリンを含む瓶中にゆっくりとピペットで入れ、磁気スタラーで撹拌しながら、室温で25分間活性化を続けた。また、L−グルタミン酸 γ−ヒドラジド(1.49g,9.25mmol)を15mLの脱イオン水中に溶解した。この溶液を55℃で25分間撹拌した。活性化が終了すると、L−グルタミン酸 γ−ヒドラジドをマルトデキストリン溶液に注ぎ込み、室温で2時間撹拌した。その後、この溶液を、Spectra/Por MWCOの透析チューブ中で36時間、脱イオン水中で透析した。その後生成物を凍結乾燥した。
【0241】
〔実施例14 マルトデキストリンマトリクスからのDNAおよびsiRNAの放出〕
gWiz−GFPプラスミドDNA(5757bps,Aldevron,Fargo,ND)を、LabelIT(登録商標)試薬(Mirus Bio,Madison,WI)を用いてCy−3蛍光タグでラベルした。Cy−3ラベルした21bpのsiRNAをAmbion(Austin,TX)から購入した。実施例1に記載されたヒドラジド マルトデキストリン−ヒドラジド(MD−Hyd)を水に100mg/mL又は200mg/mLとなるように溶解した。実施例5に記載されたマルトデキストリン−アルデヒド(MD−Ald)を水に50mg/mL又は100mg/mLとなるように溶解した。100μLのMD−Ald溶液をマイクロ遠心チューブのキャップに加え、50μg(10μl)の蛍光ラベルしたプラスミドDNAとともに、又は50pmol(10μl)の蛍光ラベルしたsiRNAとともに、混合した。100μLのMD−Hydを加え、ピペッティングによって混合した。溶液を10分間ゲル化させると、ゲル中の最終濃度は、MD−Hyd/MD−Aldが50/25又は100/50mg/mlであった。
【0242】
その後、ゲルを、23,000U/Lのブタのアミラーゼ(Sigma,St.Louis,MO)を含む1mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、又はこのアミラーゼを含まない1mLのリン酸緩衝生理食塩水中に、置いた。所定の時間おきに、溶液を完全に除去し、新鮮な溶液に取り替えた。放出された核酸の量を、蛍光プレートリーダーを用いて544nmの励起光及び590nmの発光により測定した。
【0243】
DNA及びsiRNAの放出結果をそれぞれ図1及び図2に示す。プラスミドDNAの放出率は、MD濃度とアミラーゼの存在との両方に依存することが分かった。アミラーゼ非存在下では、ゲルから放出又は溶出されたプラスミドDNAは相対的に少なかった。しかしながら、アミラーゼ存在下では、プラスミドDNAの放出は漸進的であり、MD−Hyd/MD−Aldの濃度がより低いゲル中では、より速い放出が観察された。
【0244】
siRNAの放出は迅速であった。MD濃度又はアミラーゼにかかわらず、24時間でほぼ完全に放出された。放出されたDNA及びsiRNAは、それぞれアガロース又はポリアクリルアミド電気泳動によって、無傷であることが分かった。
【0245】
〔実施例15 マルトデキストリンマトリクス〕
3つのアミン反応性の小さい分子の架橋剤をMD−Hydと反応させ、ヒドロゲルを形成させた。全ての架橋剤をPierce Biotechnology(Rockford,IL)から購入した。Β−[Tris(hydroxymethyl)phosphino]propionic acid(THPP,MW=196Da)は、第一級アミン及び第二級アミンと反応する三官能性架橋剤である。Dimethyl adipimidate(DMA,MW=245Da)は、アミノ基と反応する二官能性イミドエステルである。Bis[sulfosuccinimidyl]suberate(BS,MW=572Da)は、第一級アミンと反応する二官能性NHS−エステルである。実施例1に記載されたMD−Hydを、リン酸緩衝生理食塩水(PBS,pH7.4)に500mg/mLとなるように溶解した。THPP、DMA及びBSをPBSに50mg/mLとなるように溶解した。100μLのMD−Hydを、マイクロ遠心キャップ中のそれぞれの架橋溶液の100μLに個々に加えた。そしてピペッティングにより混合した。その結果、全ての架橋剤において10分以内に安定なゲルが形成された。
【0246】
〔実施例16 マルトデキストリンマトリクスからのDNAの放出〕
本実施例では、実施例1、5、14及び15に記載の試薬を使用した。MD−Hyd(100mg)及びプラスミドDNA(120μg)を180μLのPBSに溶解した。PBS中の500mg/mLのTHPP20μLを、MD−Hyd/DNA溶液とボルテックスにより混合した。その後、混合した溶液を、2×100μLの分量にてプラスチックプレートに移し、10分間ゲル化させた。その後、それぞれの100μlゲルを4つに分けた。その結果、約500mg/mLの濃度のMD−Hydと、15μgのプラスミドDNAとを有する25μLのゲルとなった。その後、ゲルを、1600U/Lのブタのアミラーゼを含む200μLのPBS、又はブタのアミラーゼを含まない200μLのPBS中に置いた。選択された時間おきに溶出バッファーを除去し、新鮮なバッファーに取り替えた。溶出液中のプラスミドDNAの量を、等量の溶出液と1μg/mLの臭化エチジウム溶液とを混合し、蛍光プレートリーダーで励起光535nm、発光605nmにて読み取ることにより、測定した。結果を図3に示す。アミラーゼに触れていないゲルからは、プラスミドDNAがほとんど放出されなかった。アミラーゼ中でインキュベートされたゲルは、24日後に、プラスミドDNAの0次放出を示した。
【0247】
〔実施例17 マルトデキストリンマトリクスからのポリプレックスDNA放出〕
本実施例では、実施例1、5、14及び15に記載された試薬を使用した。ポリエチレンイミン(PEI,25kDa,分岐した)をシグマ(St.Louis,MO)から取得した。実施例1に記載したMD−HydをPBS(pH=7.4)に1000mg/mLとなるように溶解した。等量のCy−3ラベルしたDNA水溶液とPEI水溶液とを混ぜ、10μg/mlのDNAと6μg/mLのPEIとを含む混合液を生成させることにより、PEI/DNA ポリプレックスを調製した。その後、最終濃度がDNA1mg/mL、PEI600μg/mLとなるように、ポリプレックスを真空下で遠心した。5mgのDNA又はBSを60μLのポリプレックス溶液に溶解した。その後、60μLのMD−Hydと混合し、ヒドロゲルを生成させた。その後、これらのゲルを6等分に分割し、最終濃度が500mg/mLのMD−Hyd、及び10μgのポリプレックスDNAを含むゲルとした。その後、ゲルを、0.07mg/mLのブタのアミラーゼを含む500μLのPBS又はこのアミラーゼを含まない500μLのPBS中に置いた。選択した時間ごとにバッファーを除去し、新鮮なバッファーに取り替えた。放出されたポリプレックスDNAの量は、蛍光プレートリーダーを用いて、544nmの励起光及び590nmの発光により測定した。
【0248】
ポリプレックス放出の結果を図4に示す。アミラーゼを含まない放出バッファーに置かれたゲル中では、DMAに架橋されたゲル及びBSに架橋されたゲルのどちらについても、ポリプレックスの放出はゆっくりだった。アミラーゼの存在下では、放出は、BSに架橋されたゲルの場合は全ての時間において、DMAに架橋されたゲルの場合は144時間において、酵素がない場合よりも多かった。
【0249】
〔実施例18 マルトデキストリンマトリクスの形成及び性質〕
実施例1で得たマルトデキストリン−ヒドラジドをPBS中で溶解し、以下の濃度の溶液を調製した:100mg/mLおよび200mg/mL。実施例7で得たマルトデキストリンアルデヒドもまた、PBS中で溶解し、以下の濃度の溶液を調製した:100mg/mL、200mg/mL、及び400mg/mL。これらの溶液を0.45μmのシリンジフィルターに通してフィルター滅菌した。
【0250】
その後、マルトデキストリン−ヒドラジド及びマルトデキストリンアルデヒド溶液を、全量が100μLとなるように一緒に混合した。重合時間は、粘稠性の溶液を形成し始める時間と、その後形状を保持し、硬いマトリクスとなる最終的な時間とを記録することにより、測定した。硬さは経験的に求められた。そして、溶液(0)、フィブリンヒドロゲル(1)、又はコラーゲンヒドロゲル(2)の硬さを比較した。比は、それぞれの成分の容量に関する(例えば、2:1は、40μLのMD−aldを20μLのMD−hydと混合することである)。この結果を表1に示す。
【0251】
【表1】

【0252】
〔実施例19 マルトデキストリンマトリクスのアミラーゼ分解〕
マルトデキストリン−ヒドラジドとマルトデキストリン−アルデヒドとを材料として形成されたマルトデキストリンマトリクスの分解率を理解するため、分解実験を行なった。
【0253】
マルトデキストリンマトリクス(全量60μL)を、マルトデキストリン−ヒドラジドとマルトデキストリンアルデヒトを1:1の質量比で用いて形成させた。実施例1で得たマルトデキストリン−ヒドラジドを、PBS中に200mg/mLとなるように溶解した。実施例5で得たマルトデキストリンアルデヒドもまた、PBS中に200mg/mLとなるように溶解した。それぞれのマルトデキストリンベースの溶液を合わせ、混合してゲルを形成させた。
【0254】
他のマルトデキストリンマトリクス(全量60μL)を、マルトデキストリン−ヒドラジドとマルトデキストリンアルデヒドとを1:2の質量比で用いて形成させた。実施例1で得たマルトデキストリン−ヒドラジドを、PBS中に200mg/mLとなるように溶解した。実施例5で得たマルトデキストリンアルデヒドを、PBS中に200mg/mLとなるように溶解した。マルトデキストリン−アルデヒドベースの溶液40μLを、マルトデキストリン−ヒドラジドベースの溶液20μLと合わせ、混合してゲルを形成させた。
【0255】
その後、形成したゲルを、アミラーゼを用いた分解実験のためにマイクロエッペンドルフチューブ中に置いた。ブタのアミラーゼ溶液を、PBS中に低濃度(920U/L)及び高濃度(23,000U/L)となるように調製した。500μLのアミラーゼ溶液をチューブに個々に加え、37℃でインキュベートした。アミラーゼ溶液を1週間に3回取り換えた。0,8,20,30,及び60日目に、試料を回収した。その後、試料を真空回転させ、乾燥室で乾燥させた後、残ったゲルの全質量を測定した。コントロールとして、アミラーゼなしに、マルトデキストリンゲルをPBS中に置いた。分解実験の結果を図5に示す。
【0256】
〔実施例20 マルトデキストリンマトリクスベースの細胞骨格〕
マルトデキストリンベースの試薬を、細胞の存在下で反応させ、生体分解性の細胞骨格を作製した。
【0257】
実施例1で得たマルトデキストリン−ヒドラジドを、PBS中に200mg/mLとなるように溶解した。実施例5で得たマルトデキストリンアルデヒドもまた、PBS中に200mg/mLとなるように溶解した。これらの溶液を、0.45μmシリンジフィルターに通してフィルター滅菌した。
【0258】
ヒト軟骨細胞(HC)(Cell Applications,San Diego,California)、又はヒト皮膚線維芽細胞(HDF)(Cell Applications)を含む組成物を、マルトデキストリン−アルデヒド1mL中に1.25×10細胞となるように調製した。
【0259】
遠心した細胞をマルトデキストリン−アルデヒド1mL中に1.25×10細胞(40μl中に50,000細胞)となるように再懸濁することにより、軟骨細胞と線維芽細胞とを、個々のマトリクス中に包含させた。その後、このマルトデキストリン−アルデヒド/細胞の混合液を、96ウェルプレートのウェル中に、1ウェルあたり40μlとなるように置いた。それぞれのウェルに、20μlのマルトデキストリン−ヒドラジド溶液を混合し、全量60μlとし、マトリクス形成を促進させた。マトリクス中に細胞が均一に分布することを、初期に観察した。それぞれのゲルは、約50,000細胞を包含した。
【0260】
その後の30分の重合後、200μLの細胞培地(Fibroblast Growth Media and Chondrocyte Growth Media,Cell Applications)を、それぞれのマトリクスに加えた。このプレートを37℃でインキュベートした。1,2,及び7日目の全細胞数及び生存度を、製造プロトコールにしたがってCyQuant(Invitrogen)で測定し、図6に示した。生存度を、非定量性生存度染色(Invitrogen)によって評価し、90%以上であることを記録した(データは示さない)。
【0261】
〔実施例21 発光タンパク質修飾を有するマルトデキストリンマトリクスベースの細胞骨格〕
マルトデキストリンベースの試薬と、フォトマトリクスタンパク質とを反応させ、反応性の発光基を解してマトリクス材料と結合したマトリクスタンパク質を有する生体分解性マトリクスを形成させた。その後、このマトリクスに細胞を接種し、細胞骨格を作製した。
【0262】
実施例1で得たマルトデキストリン−ヒドラジドを、PBS中に200mg/mLとなるように溶解した。実施例5で得たマルトデキストリンアルデヒドもまた、PBS中に200mg/mLとなるように溶解した。これらの溶液を、0.45μmシリンジフィルターに通してフィルター滅菌した。
【0263】
米国特許第5,744,515号明細書の実施例1に記載のようにフォトコラーゲンとフォトRGDとを調製した。米国特許第6,121,027号明細書の実施例1に記載のようにフォトRGDを調製した。マルトデキストリン混合液で使用するためのフォトコラーゲン及びフォトRGDの最終濃度は、10μg/mL、100μg/mL、500μg/mL及び1000μg/mLであった。
【0264】
マルトデキストリン−ヒドラジド溶液40μLを、それぞれのウェルに加えた。マトリクス形成を開始させるため、マルトデキストリン−ヒドラジド20μLをピペットで入れて混合した。20分間ゲル化させた。100μLのフォトRGD又はフォトコラーゲンをそれぞれのウェルの上に加え、冷蔵チャンバー内でDimax(365nm)ランプを用いて60秒間照射した。照射中、プレートは、ランプハウジングの下部から7.5インチとした。
【0265】
次に、ゲルをPBSによって洗浄した後、ヒト軟骨細胞(HC)(Cell Applications)又はヒト皮膚線維芽細胞(HDF)(Cell Applications)を、5000細胞/ゲル(1ウェルあたり200μLの培地に懸濁した細胞)となるように上に接種した。37℃でインキュベーションして2時間後、接着していない細胞を取り除くため、培地を交換した。
【0266】
それぞれのマトリクスにおいて培地を交換した後、プレートを37℃でインキュベートした。3日目の全細胞数及び製造度を、製造プロトコールにしたがってCyQuant(Invitrogen)で測定した。図7〜9で示すように、フォトRGD及びフォトコラーゲンの濃度レベルが増加することによって、接着及び全体的な細胞数に対するフォトRGD及びフォトコラーゲンの効果を観察した。
【0267】
〔実施例22 マルトデキストリン−ヘパリン及びマルトデキストリン−アルデヒドのマトリクスベースの細胞骨格〕
実施例1で得たマルトデキストリン−ヒドラジドを、PBS中に200mg/mLとなるように溶解した。また、実施例5で得たマルトデキストリンアルデヒドを、PBS中に200mg/mLとなるように溶解した。また、ヘパリンアルデヒドを、PBS中に200mg/mLとなるように溶解した。これらの溶液を、0.45μmシリンジフィルターに通してフィルター滅菌した。
【0268】
20μLのマルトデキストリン−アルデヒドと20μlのヘパリン−アルデヒドとを混合することにより、それぞれのヘパリン−アルデヒドゲルを作製した。20μLのマルトデキストリン−ヒドラジドを加えて、マトリクス形成を開始させ、その後ゲルを15分間硬化させた。
【0269】
実施例1で得たマルトデキストリン−ヒドラジドを、PBS中に200mg/mLとなるように溶解した。また、実施例5で得たマルトデキストリンアルデヒドを、PBS中に200mg/mLとなるように溶解した。また、HAアルデヒドを、PBS中に20mg/mLとなるように溶解した。これらの溶液を、0.45μmシリンジフィルターに通してフィルター滅菌した。
【0270】
26μlのマルトデキストリン−アルデヒドと、26μlのHA−アルデヒドとを混合することにより、それぞれのHA−アルデヒドゲルを作製した。その後8μLのマルトデキストリン−ヒドラジドを加えてマトリクス形成を開始させ、15分間ゲルを硬化させた。
【0271】
〔実施例23 加圧試験〕
酸化マルトデキストリン(実施例5により調製)及びヒドラジドから誘導体化されたポリ(エチレングリコール)(実施例8により調製)から形成したマトリクスの物理的特性を、圧縮力試験及び膨潤性試験により測定した。このゲルの圧縮力を、TAXT2(商標)テクスチュア分析器を使用して、圧縮力を測定するために用いられる直径5mmのボールプローブにより試験した。この方法は、0.5mm/秒の速度で、4gの引金作用により試験した。プローブは、標準の深さと比較して、材料の深さの25%まで圧縮された。この結果を表2に示す。
【0272】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0273】
【図1】図1は、時間の経過に伴うマルトデキストリンベースのマトリクスからのプラスミドDNAの放出を示すグラフである。
【図2】図2は、時間の経過に伴うマルトデキストリンベースのマトリクスからのsiRNAの放出を示すグラフである。
【図3】図3は、時間の経過に伴うマルトデキストリンベースのマトリクスからのプラスミドDNAの放出を示すグラフである。
【図4】図4は、時間の経過に伴うマルトデキストリンベースのマトリクスからのポリプレックス(polyplexed)DNAの放出を示すグラフである。
【図5】図5は、時間の経過に伴うマルトデキストリンベースのマトリクスの分解を示すグラフである。
【図6】図6は、所定の時点において、マルトデキストリンベースのマトリクス内に存在する、ヒト軟骨細胞(HC)およびヒト皮膚線維芽細胞(HDC)の数を示すグラフである。
【図7】図7は、フォトコラーゲンの濃度に応じて変動する、誘導体化されたマルトデキストリンベースのマトリクス内に存在するヒト軟骨細胞の数を示すグラフである。
【図8】図8は、フォトコラーゲンの濃度に応じて変動する、誘導体化されたマルトデキストリンベースのマトリクス内に存在するヒト皮膚線維芽細胞の数を示すグラフである。
【図9】図9は、フォトRGDの濃度に応じて変動する、誘導体化されマルトデキストリンベースのマトリクス内に存在するヒト軟骨細胞、ヒト皮膚線維芽細胞及びヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)の数を示すグラフである。
【図10】図10は、マルトデキストリン−ヘパリン又はマルトデキストリン−ヒアルロン酸ベースのマトリクス内に存在する、ヒト軟骨細胞、ヒト皮膚線維芽細胞、およびヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)の数を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ−α(1→4)グルコピラノース重合体セグメント及び下記の化学式I及び化学式IIから選択されるリンカーセグメントを有し、
【化1】

少なくとも上記リンカーセグメントの一部分が上記ポリ−α(1→4)グルコピラノース重合体セグメントと共有結合している、生体適合性及び生分解性のある架橋された重合体マトリクス。
【請求項2】
上記リンカーセグメントが、下記の化学式III及び化学式IVから選択される、請求項1に記載の生体適合性及び生分解性のある架橋された重合体マトリクス。
【化2】

ただし、化学式IIIにおいて、Q及びQは単量体単位α(1→4)グルコピラノース重合体を示すか、又は、Q及びQのうち少なくとも一つがα(1→4)グルコピラノース重合体の単量体単位であって、Q及びQのうちの一つがα(1→4)グルコピラノース重合体とは異なる重合体成分の一部分を示し;R及びRは互いに独立してO、又は、環状、直鎖状もしくは分岐した炭素含有基を示し、該炭素含有基は酸素及び窒素から選択されるヘテロ原子を有し;
化学式IVにおいて、Q及びQは単量体単位α(1→4)グルコピラノース重合体を示すか、又は、Q及びQのうち少なくとも一つがα(1→4)グルコピラノース重合体の単量体単位であって、Q及びQのうちの一つがα(1→4)グルコピラノース重合体とは異なる重合体成分の一部分を示し、Rは共有結合か、又は、環状、直鎖状又は分岐した炭素含有基を示し、該炭素含有基は酸素及び窒素から選択されるヘテロ原子を有する。
【請求項3】
親水性であり生体適合性を有する重合体を含む第2の重合体セグメントを含む、請求項1に記載の生体適合性及び生分解性のある架橋された重合体マトリクス。
【請求項4】
上記第2の重合体セグメントが、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリ(酸化プロピレン)(PPO)、ポリ(メタ)アクリルアミド(PAA)及びポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリメチロールプロパンエトキシレート、ペンタエリスリトールエトキシレート、PEG−PPO(ポリエチレングリコール及びポリ酸化プロピレンの共重合体)、セグメント化された親水性ウレタン並びにポリビニルアルコールからなる群より選択される、親水性であり生体適合性を有する化合物を含む、請求項3に記載の生体適合性及び生分解性のある架橋された重合体マトリクス。
【請求項5】
上記リンカーセグメントがエステル基をさらに含む、請求項1に記載の生体適合性及び生分解性のある架橋された重合体マトリクス。
【請求項6】
生物活性剤を含む、請求項1に記載の生体適合性及び生分解性のある架橋された重合体マトリクス。
【請求項7】
生物活性剤を含む微粒子を含む、請求項6に記載の生体適合性及び生分解性のある架橋された重合体マトリクス。
【請求項8】
上記生物活性剤が、細胞への核酸の導入を促進するキャリア成分と結合している核酸を含む、請求項6に記載の生体適合性及び生分解性のある架橋された重合体マトリクス。
【請求項9】
上記生物活性剤が、ポリペプチド、多糖類及びポリヌクレオチドから選択される、請求項6に記載の生体適合性及び生分解性のある架橋された重合体マトリクス。
【請求項10】
ウイルス粒子及び細胞からなる群より選択される生体粒子を含む、請求項1に記載の生体適合性及び生分解性のある架橋された重合体マトリクス。
【請求項11】
マトリクスが細胞接着因子をさらに含み、細胞がマトリクス中で上記細胞接着因子に付着している、請求項1に記載の生体適合性及び生分解性のある架橋された重合体マトリクス。
【請求項12】
上記細胞接着因子が、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンA、ラミニンB1、ラミニンB2、コラーゲンI及びトロンボスポンジン並びにそれらの有効成分である、請求項11に記載の生体適合性及び生分解性のある架橋された重合体マトリクス。
【請求項13】
上記細胞接着因子が、上記リンカーセグメントを介してマトリクスに共有結合しているか、又は、反応基を介してマトリクスに共有結合している、請求項11に記載の生体適合性及び生分解性のある架橋された重合体マトリクス。
【請求項14】
上記ポリ−α(1→4)グルコピラノース重合体セグメントが、マトリクス中に、マトリクスを形成する固体の全量に対して50重量%以上である、請求項1に記載の生体適合性及び生分解性のある架橋された重合体マトリクス。
【請求項15】
第1のペンダント反応基を有するα(1→4)グルコピラノース重合体及び、上記第1のペンダント反応基に対して反応性を有する第2のペンダント反応基を有する第2の重合体を含み、
上記第1のペンダント反応基又は上記第2のペンダント反応基のどちらかがヒドラジド基を含み、
上記ヒドラジド基又は上記第2のペンダント反応基が、α(1→4)グルコピラノース重合体に対して0.05〜約1.0の範囲の置換度を有し、
ヒドラジド基を有していない方の上記第1のペンダント反応基又は上記第2のペンダント反応基がヒドラジド反応基を有し、
上記第2の重合体の成分は、α(1→4)グルコピラノース重合体、又はα(1→4)グルコピラノース重合体とは異なる成分を含む、生体適合性及び生分解性のある架橋された重合体マトリクスを形成するためのシステム。
【請求項16】
上記ヒドラジド反応基が、アルデヒド、ハロゲン化アシル、NHS−エステル、カルボキシル酸、イミダゾール、ヒドロキシルメチルホスフィン及び不飽和エステルからなる群より選択される基である、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
上記α(1→4)グルコピラノース重合体がペンダントヒドラジド基を含む、請求項15に記載のシステム。
【請求項18】
上記α(1→4)グルコピラノース重合体が、0.1〜約1.0の置換度の範囲で、第1のペンダント反応基又は第2のペンダント反応基を有する、請求項15に記載のシステム。
【請求項19】
上記α(1→4)グルコピラノース重合体、上記第2の重合体、又はその両方が、500,000Da以下の分子量である、請求項15に記載のシステム。
【請求項20】
上記α(1→4)グルコピラノース重合体の一部が、下記の化学式V、化学式VI、化学式VII又は化学式VIIIに示す構造を有している、請求項15に記載のシステム。
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

ただし、化学式VII及び化学式VIIIにおいて、R及びRは環状、直鎖状又は分岐した炭素数1〜12の炭素含有基を示す。
【請求項21】
及びRが−(CH−基であり、nが1〜12である、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
上記第2の重合体の成分がペンダントアルデヒド基を含むα(1→4)グルコピラノース重合体である、請求項15に記載のシステム。
【請求項23】
第1のペンダント反応基を含むα(1→4)グルコピラノース重合体を、上記第1のペンダント反応基と反応性を有する第2のペンダント反応基を含む第2の成分を接触させるステップを含み、
上記第1のペンダント反応基又は上記第2のペンダント反応基が、ヒドラジド基を含むが、ヒドラジド反応基を含むヒドラジド基は含まず、
上記ヒドラジド基又は上記第2のペンダント反応基が、α(1→4)グルコピラノース重合体に対して0.05〜約1.0の範囲の置換度を有し、
上記第2の重合体の成分は、α(1→4)グルコピラノース重合体、又はα(1→4)グルコピラノース重合体とは異なる成分を含む、生体適合性及び生分解性のある架橋された重合体マトリクスを形成する方法。
【請求項24】
上記接触させるステップが、上記α(1→4)グルコピラノース重合体及び上記第2の成分を含むマトリクス形成材料を含む水溶液組成物であって、上記マトリクス形成材料を20mg/mL〜約500mg/mLの範囲で含む水溶液組成物中で行なわれる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
上記接触させるステップがin vivo又はin situで行なわれる、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
対象の状態を処置する方法であって、
請求項1に記載の生体適合性及び生分解性のある架橋された重合体マトリクスを、体の標的位置にて設置するか、又は形成するステップを含み、上記体内では、標的位置にて上記マトリクスが時間をかけて分解し、かつ上記標的位置にある重合体マトリクスの存在が上記状態を処置しうる、方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公表番号】特表2011−518940(P2011−518940A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507421(P2011−507421)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【国際出願番号】PCT/US2009/002567
【国際公開番号】WO2009/134344
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(506112683)サーモディクス,インコーポレイティド (50)
【Fターム(参考)】