説明

ヒドロキシル基含有エステルの製造方法

【課題】ヒドロキシル基含有エステルの製造方法において反応効率を従来より向上させる。
【解決手段】少なくとも塩基性触媒の存在下に、マイクロ波を照射することによって、カルボン酸とエポキシ化合物とを反応させてヒドロキシル基含有エステルを得る。1つの態様において、上記反応は塩基性触媒および重合禁止剤の存在下に実施され、カルボン酸化合物は(メタ)アクリル酸であり、エポキシ化合物は含フッ素エポキシ化合物であり、ヒドロキシル基含有エステルは含フッ素(メタ)アクリレート化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエステル製造、より詳細にはカルボン酸とエポキシ化合物とを反応させてヒドロキシル基含有エステルを得る方法、例えば(メタ)アクリル酸と含フッ素エポキシ化合物とを反応させて含フッ素(メタ)アクリレート化合物を得る方法に関する。
【0002】
尚、本発明において、用語「(メタ)アクリル酸」はアクリル酸およびメタクリル酸を総称するものとして用い、用語「(メタ)アクリレート」はアクリレートおよびメタクリレートを総称するものとして用いる。
【背景技術】
【0003】
含フッ素(メタ)アクリレート化合物は、重合性のある含フッ素単量体となるものである。このような単量体より得られる重合体は紙製品や繊維製品に撥水撥油性を付与するのに有用であることが知られている。
【0004】
従来、含フッ素(メタ)アクリレート化合物は、一般に塩基性触媒および重合禁止剤の存在下に、(メタ)アクリル酸を(通常はこれを過剰にして)含フッ素エポキシ化合物と反応させて製造されることが知られている(例えば非特許文献1および2を参照のこと)。
【0005】
これらの製造方法では、外部の熱源からの伝熱により加熱する方法(以下、「外部加熱」とも言う)が採られている。しかし、このような外部加熱では加熱が均一にならなかったり、反応に長時間を要したりするため、製造効率が高くない。
【0006】
近年、外部加熱に代えて、マイクロ波の照射により加熱する方法を用いることが提案されている(例えば非特許文献3を参照のこと)。エステル製造に関しては、酸とアルコールとの脱水縮合反応によってエステルを得る方法(特許文献1を参照のこと)や、(メタ)アクリル酸とヒドロキシル基含有化合物との脱水縮合反応によってエステルを得る方法(特許文献2および3を参照のこと)において、マイクロ波を照射して加熱することが知られている。
【0007】
【特許文献1】特開平7−330667号公報
【特許文献2】特開2000−119216号公報
【特許文献3】特開2006−151923号公報
【非特許文献1】C. Guery、外2名、'ETUDE DE LA REACTION DE L'ACIDE METHACRYLIQUE AVEC UN EPOXYDE FLUORE. CATALYSE PAR LE SEL DE POTASSIUM DE L'ACIDE.'、Journal of Fluorine Chemistry、1987年、第35巻、p.497−512
【非特許文献2】Vladimir Cirkva、外2名、'Fluorinated epoxides 5. Highly selective synthesis of diepoxides from α,ω-diiodoperfluoroalkanes. Regioselectivity of nucleophilic epoxide-ring opening and new amphiphilic compounds and monomers'、Journal of Fluorine Chemistry、2000年、第102巻、p.349−361
【非特許文献3】徳山英利、外1名、「マイクロ波照射による反応の迅速化」、有機合成化学協会誌、2005年、第63巻、p.523−538
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
エステル製造のうち、カルボン酸とエポキシ化合物とを反応させてヒドロキシル基含有エステルを得る方法においては、外部加熱が実施されており、マイクロ波を照射することはこれまで試みられていない。カルボン酸とエポキシ化合物とからヒドロキシル基含有エステルを生成する反応は水を副生せず、上述したような脱水縮合反応によるエステル化とは全く異なるものである。
【0009】
本発明の目的は、ヒドロキシル基含有エステルの製造方法において反応効率を従来より向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1つの要旨においては、少なくとも塩基性触媒の存在下に、マイクロ波を照射することによって、カルボン酸とエポキシ化合物とを反応させてヒドロキシル基含有エステルを得る、ヒドロキシル基含有エステルの製造方法が提供される。
【0011】
本発明のヒドロキシル基含有エステルの製造方法によれば、反応効率が向上すること、より詳細には反応における頻度因子が増加して反応時間が短縮されることが本発明者らにより確認された。その理由は、本発明を限定するものではないが、例えば以下のように考えられ得る。カルボン酸および塩基性触媒はそのイオン形態と平衡状態にある。イオン形態にあるカルボン酸および触媒はエポキシ化合物と作用して、カルボン酸に由来する負の極性部分と触媒に由来する正の極性部分との双極子を有する極性中間体が形成される。その後、この極性中間体から触媒が脱離してヒドロキシル基含有エステルが得られる。このような反応機構においてマイクロ波が照射されると、双極子を有する極性中間体の活性が高まり、その結果、頻度因子が増加し、反応時間が短縮され、これにより反応効率が向上するものと理解され得る。
【0012】
また、本発明のヒドロキシル基含有エステルの製造方法によれば、反応原料として用いるカルボン酸およびエポキシ化合物ならびに塩基性触媒が反応混合物中で極性を有する分子(より詳細には、極性カルボン酸(またはカルボン酸イオン)、極性エポキシ化合物、極性塩基性触媒、および上記の極性中間体など)を生じ得、これはマイクロ波反応性分子であるので、外部加熱によらず、マイクロ波照射により反応系を加熱することができる。マイクロ波照射による加熱は、マイクロ波反応性分子による内部発熱であるため、均一かつ迅速に加熱でき、更に、容器や雰囲気等によるエネルギーロスがないのでエネルギー利用効率が高いという利点がある。本発明におけるマイクロ波照射による加熱は、マイクロ波加熱用溶媒や水の不存在下において実現可能である。しかし、本発明はこれに限定されず、用いるエポキシ化合物や塩基性触媒等によっては、有機溶媒または水性溶媒などが共存していてもよい。
【0013】
本発明の1つの態様においては、
上記反応を塩基性触媒および重合禁止剤の存在下に実施し、
カルボン酸化合物はアクリル酸およびメタクリル酸から選択され、
エポキシ化合物は一般式(a)、(a)または(a
【化1】

[式中、Rf、RfおよびRfは直鎖状または分枝状ポリフルオロカーボン基であり、R、R、R、RおよびRは各々独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基またはアラルキル基である]で表される含フッ素エポキシ化合物であり、
ヒドロキシル基含有エステルは一般式(b)、(b)または(b
【化2】

[式中、Rf、Rf、Rf、R、R、R、RおよびRは上記と同じであり、Rは水素原子またはメチル基である]で表される含フッ素(メタ)アクリレート化合物である。
【0014】
本発明のこの態様によれば、とりわけ反応効率が向上すること、より詳細には反応における頻度因子が顕著に増加して反応時間が大幅に短縮されることが本発明者らにより確認された。
【0015】
塩基性触媒としては、アミン、より具体的には例えば3級アミンおよび4級アンモニウム塩から選択されるものを用いることができる。3級アミンには、トリエチルアミン、トリプロピルアミンなどが含まれる。4級アンモニウム塩には、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムブロマイドなどが含まれる。特にトリエチルアミンを用いることが好ましい。
【0016】
また、塩基性触媒として、一般式 M(OH)[式中、n=1または2、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属]で表される金属水酸化物を用いてもよい。このような金属水酸化物には、例えば水酸化カリウム(KOH)および水酸化ナトリウム(NaOH)などが含まれる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ヒドロキシル基含有エステルの製造方法において反応効率を従来より向上させることができる。より詳細には、本発明によれば、マイクロ波照射によって、カルボン酸とエポキシ化合物とからヒドロキシル基含有エステルを得る反応の頻度因子が増加して反応時間が短縮され、これにより反応効率を向上させることができる。加えて、マイクロ波照射によって、均一かつ迅速に加熱でき、またエネルギー利用効率が高いという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の1つの実施形態におけるヒドロキシル基含有エステルの製造方法、より詳細には含フッ素(メタ)アクリレート化合物の製造方法について説明する。
【0019】
まず、反応器に原料として(メタ)アクリル酸および含フッ素エポキシ化合物を塩基性触媒および重合禁止剤と一緒に供給する。
【0020】
(メタ)アクリル酸には、アクリル酸またはメタクリル酸あるいはこれらの混合物を用い得る。
【0021】
含フッ素エポキシ化合物には、一般式(a)、(a)または(a
【化3】

で表されるものを用い得る。
式中、Rf、RfおよびRfは直鎖状または分枝状ポリフルオロカーボン基である。Rf、RfおよびRfの炭素数は、例えば1〜23、好ましくは2〜12であり得るが、これに限定されない。一般的に、Rf、RfおよびRfは直鎖状のパーフルオロカーボン基であり、RfはCF(CFn−1−で表され、RfおよびRfは−(CF−で表され得る(これら式中、nは1以上の整数、例えば1〜23、好ましくは2〜12である)。
また式中、R、R、R、RおよびRは各々独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基またはアラルキル基である。
【0022】
含フッ素エポキシ化合物は一般式(a)、(a)または(a)で表される限り、1種であっても、2種以上であってもよい。
【0023】
含フッ素エポキシ化合物は固体状態のものを利用してもよく、その場合、これを有機溶媒に溶解または懸濁させることにより反応させることができる。
有機溶媒としては、非プロトン性溶媒であれば特に限定なく使用でき、具体例としては、エーテル、スルホラン、グライム、ケトン、エステル、アミド、ニトリルなどを挙げることができ、特に、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、テトラヒドロフラン、スルホラン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリルなどが好ましい。
また、有機溶媒として、フッ素系炭化水素類、より具体的にはクロロフルオロカーボン(CFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、およびハイドロフルオロカーボン(HFC)を用いることもできる。
CFCとしては、1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタン(CFC−113)などが挙げられる。
HCFCとしては、ジフルオロクロロメタン(HCFC−22)、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン(HCFC−141b)、1,1−ジクロロ−2,2,2−トリフルオロエタン(HCFC−123)、1−クロロ−1,1−ジフルオロエタン(HCFC−142b)、ジクロロペンタフルオロプロパン(HCFC−225)などが挙げられる。
HFCとしては、一般式 C2x+2−y[式中、xおよびyは、4≦x≦6および6≦y≦12を満たす整数であり、かつ、y≦2x+2である]で表されるフッ化脂肪族炭化水素などが挙げられ、具体的には、C、C、C、C、C、C、C10、C、C12で表される化合物などを例示でき、好ましくは1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365)、1,1,2,3,4,4−ヘキサフルオロブタン(HCFCFHCFHCFH)、1,1,1,2,2,3,3,4−オクタフルオロブタン(CFCFCFCHF)、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロペンタン(HCF(CFCFHCH)、1,1,2,3,3,4,5,5−オクタフルオロペンタン(HCFCFHCFCFHCFH)、1,1,2,2,3,3,4,4,5−ノナフルオロペンタン(HCF(CFCHF)、1,1,1,2,3,3,4,4,5,5−デカフルオロペンタン(CFCFHCFCFCFH)、1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロヘキサン(CF(CFCHCH)、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−ドデカフルオロヘキサン(HCF(CFCFH)、2−トリフルオロメチル−1,1,1,3,4,4,5,5,5−ノナフルオロペンタン((CFCHCFHCFCF)などである。
【0024】
含フッ素エポキシ化合物に対する(メタ)アクリル酸の量は、特に限定されるものではないが、一般式(a)または(a)で表される含フッ素エポキシ化合物を用いる場合は、例えば約0.8〜5倍モル、好ましくは約0.9〜2倍モルであり、一般式(a)で表される含フッ素エポキシ化合物を用いる場合は、例えば約1.6〜10倍モル、好ましくは約1.8〜4倍モルである。
【0025】
塩基性触媒には、3級アミンまたは4級アンモニウム塩から選択される1種以上を使用し得る。3級アミンには、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミンなどが含まれる。4級アンモニウム塩には、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムブロマイドなどが含まれる。特にトリエチルアミンを用いることが好ましい。しかし、本発明はこれに限定されず、プロピルアミンなどの1級アミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミンなどの2級アミン、ピリジンなどの芳香族アミン、あるいは、一般式 M(OH)[式中、n=1または2、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属]で表される金属水酸化物などを含む任意の適切な塩基性触媒を用い得る。但し、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの固体触媒を用いる場合、反応系が均一になるように、水などの水性溶媒(またはプロトン系溶媒)と共に用いることが好ましい。
【0026】
塩基性触媒の量は、特に限定されるものではないが、(メタ)アクリル酸に対して、例えば約1/1000〜1倍モルであり、好ましくは約1/200〜1/2倍モルである。
【0027】
重合禁止剤には、任意の適切な重合禁止剤を用いるが、例えばヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、p−t−ブチルカテコールおよびフェノチアジンなどを用い得る。
【0028】
重合禁止剤の量は、特に限定されるものではないが、(メタ)アクリル酸の重量に対して、例えば約100〜50000ppmであり、好ましくは約500〜10000ppmである。
【0029】
尚、重合禁止剤は、本実施形態のようにカルボン酸化合物として(メタ)アクリル酸を用いる場合、(メタ)アクリル酸同士の重合を防止するためにはほぼ必須である。しかし、使用するカルボン酸化合物によっては重合が問題にならないこともあり、そのような場合には重合禁止剤は不要である。
【0030】
これらを反応器に供給する際、(メタ)アクリル酸がマイクロ波に対して有意に曝露される前に重合禁止剤と混合される限り、特に限定されない。
【0031】
その後、以上のようにして反応器に供給された材料より成る反応混合物に対してマイクロ波を照射する。
【0032】
マイクロ波は、一般的に約0.3GHz〜300GHzの周波数(これに対応する波長は約1m〜1mmである)を有する電波(電磁波)を言う。理論的にはこの範囲内で任意の周波数を有するマイクロ波を利用し得るが、法的規制に従って適切な範囲の周波数を有するマイクロ波が利用されるべきである。マイクロ波は、既知の技術を利用して、市販の装置などによって発生させることができる。
【0033】
マイクロ波を照射することによって、外部加熱によらず、反応混合物を所望の温度に加熱することができる。例えば、反応混合物を所定の設定温度まで加熱して維持するようにマイクロ波の照射条件を制御し得る。
【0034】
マイクロ波は、連続波(連続的照射)またはパルス波(断続的照射)のいずれであってもよいが、反応混合物が過熱されるのを防止するため、照射するマイクロ波エネルギーの量(換言すれば、マイクロ波の照射出力)を調節することが好ましい。連続波の場合、マイクロ波の照射出力は、反応混合物の温度を実質的に一定に保つように変動可能であることが好ましい。
【0035】
マイクロ波照射による加熱は、反応原料として用いるカルボン酸およびエポキシ化合物ならびに塩基性触媒の少なくとも1つが反応混合物中で生じ得る極性を有する分子(より詳細には、極性カルボン酸(またはカルボン酸イオン)、極性エポキシ化合物、極性塩基性触媒)や、後述する極性中間体などのマイクロ波反応性分子による内部発熱であるため、均一かつ迅速に加熱でき、更に、反応器や雰囲気等によるエネルギーロスがないのでエネルギー利用効率が高いという利点がある。
【0036】
反応の際の温度は、例えば約50〜200℃、好ましくは突沸および重合防止の観点から約70〜130℃とし得る。反応の際の圧力は、適宜設定してよく、簡便には大気圧とし得るが、例えば真空(または減圧)下または大気圧より高い圧力としてもよい。また、反応させる間、より高い反応効率を得るために反応混合物を撹拌することが好ましい。
【0037】
これによって、反応器内にて(メタ)アクリル酸と含フッ素エポキシ化合物が塩基性触媒の作用を受けて反応(エステル化)し、含フッ素(メタ)アクリレート化合物を生成する。
【0038】
生成する含フッ素(メタ)アクリレート化合物は、一般式(b)、(b)または(b
【化4】

で表されるものである。
式中、Rf、Rf、Rf、R、R、R、RおよびRは上記と同じであり、Rは水素原子またはメチル基である。
得られる含フッ素(メタ)アクリレート化合物は、原料の含フッ素エポキシ化合物が上記一般式(a)で表される場合には上記一般式(b)で表されるものに対応し、原料の含フッ素エポキシ化合物が上記一般式(a)で表される場合には上記一般式(b)で表されるものに対応し、原料の含フッ素エポキシ化合物が上記一般式(a)で表される場合には上記一般式(b)で表されるものに対応する。
【0039】
より詳細には、本実施形態を限定するものではないが、例えば(メタ)アクリル酸にアクリル酸を、含フッ素エポキシ化合物として3−パーフルオロブチル−1,2−エポキシプロパンを、塩基性触媒としてトリエチルアミンを用いて反応させる場合、以下のような反応機構を経るものと考えられる(非特許文献1を参照のこと)。
【化5】

上記の反応機構中、点線で囲んだ化合物が、カルボン酸に由来する負の極性部分と触媒に由来する正の極性部分との双極子を有する極性中間体である。このような反応機構においてマイクロ波が照射されると、双極子を有する極性中間体の活性が高まり、その結果、頻度因子が増加して反応時間が短縮され、これにより反応効率が向上するものと理解され得る。
しかし、本発明はいかなる理論によっても拘束されないことに留意されるべきである。
【0040】
尚、頻度因子は、反応速度論の分野においてよく知られており、アレニウス式(1)に基づいて実験的に求められ得る。
【数1】

式中、Eaは活性化エネルギー、Rは気体定数、Tは絶対温度、kは速度定数、Aが頻度因子である。
より詳細には、以下のようにして求められる。
まず、1次反応であると仮定した場合、以下の式が成立する。
【数2】

式中、Cは原料(エポキシ化合物)濃度、CA0は原料(エポキシ化合物)初期濃度であり、kは速度定数、tは時間である。
よって、式(2)より、温度条件一定下にてt対−ln(C/CA0)をプロット(一次反応プロット)して、直線関係が認められれば一次反応であることが認められ、そして原点を通る線形近似により、温度Tにおける速度定数kが求められる。このようにして異なる温度Tについて速度定数kをそれぞれ求める。そして、式(1’)より、lnk対1/Tをプロットして(アレニウスプロット)、線形近似により頻度因子Aおよび活性化エネルギーEaが求められる。
【0041】
以上のようにして、ヒドロキシル基含有エステルとして含フッ素(メタ)アクリレート化合物が得られる。
【0042】
本実施形態のヒドロキシル基含有エステルの製造方法は、連続式、半連続式および回分式(バッチ式)のいずれで実施してもよい。
【0043】
本実施形態によれば、(メタ)アクリル酸と含フッ素エポキシ化合物とから含フッ素(メタ)アクリレート化合物を得る反応の効率を著しく向上させることができる。より詳細には、本実施形態によれば、マイクロ波照射によって、反応の頻度因子が増加して反応時間が短縮され、これにより反応効率を向上させることができる。加えて、マイクロ波照射によって、(メタ)アクリル酸および/またはエポキシ化合物に由来する極性分子や極性塩基性触媒、および極性中間体に作用し、反応系(または反応混合物)を均一かつ迅速に加熱でき、またエネルギー利用効率が高いという利点がある。
【0044】
以上、本発明の1つの実施形態について詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されず、種々の改変が可能であろう。
【実施例】
【0045】
(実施例1〜3)
50mLの三つ口フラスコに3−パーフルオロブチル−1,2−エポキシプロパン8.590g(0.031mol)、トリエチルアミン(EtN)1.163g(0.011mol)、t−ブチルカテコール0.010g(0.06mmol)およびアクリル酸3.36(0.047mol)を仕込んだ。
このフラスコに撹拌子を入れ、還流管を設け、熱電対を反応混合物に挿入した上、マイクロ波式有機化学反応実験装置グリーンモチーフIb(株式会社IDX製、シングルモード導波管型、発生周波数2.45GHz)に設置した。そして、マイクロ波出力を210Wに設定し、反応混合物の温度をそれぞれ70℃(実施例1)、80℃(実施例2)および90℃(実施例3)に保つように設定して、反応混合物に対して電磁撹拌機で撹拌を行いながらマイクロ波を照射した。反応温度はそれぞれ約70℃(実施例1)、約80℃(実施例2)および90℃(実施例3)であり、反応圧力はいずれも大気圧であった。マイクロ波の実際の照射出力は各設定温度を保つように変動し、実質30〜90Wであった。
所定の反応時間(マイクロ波照射開始からの経過時間とし、以下の実施例についても同様である)にて反応混合物をサンプリングした。
得られたサンプルをガスクロマトグラフィーにて分析して、3−パーフルオロブチル−1,2−エポキシプロパンの転化率、目的物質である3−パーフルオロブチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレートへの選択率および収率を算出した。結果を表1〜3に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
(比較例1〜3)
50mLの三つ口フラスコに3−パーフルオロブチル−1,2−エポキシプロパン5.670g(0.021mol)、トリエチルアミン(EtN)0.770g(0.008mol)、t−ブチルカテコール0.006g(0.04mmol)およびアクリル酸2.22g(0.031mol)を仕込んだ。
このフラスコに撹拌子を入れ、それぞれ70℃(比較例1)、80℃(比較例2)および90℃(比較例3)に維持した水浴に浸して伝熱により加熱しつつ(外部加熱)、反応混合物を電磁撹拌機で撹拌した。反応温度はそれぞれ約70℃(比較例1)、約80℃(比較例2)および90℃(比較例3)であり、反応圧力はいずれも大気圧であった。
所定の反応時間(水浴への浸漬開始からの経過時間とし、以下の比較例についても同様である)にて反応混合物をサンプリングした。
得られたサンプルを上記と同様にガスクロマトグラフィーにて分析して、3−パーフルオロブチル−1,2−エポキシプロパンの転化率、目的物質である3−パーフルオロブチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレートへの選択率および収率を算出した。結果を表4〜6に示す。
【0050】
【表4】

【0051】
【表5】

【0052】
【表6】

【0053】
(実施例4)
トリエチルアミン(EtN)1.163g(0.011mol)に代えて、テトラブチルアンモニウムブロマイド(BuNBr)0.151g(0.47mmol)を用いたこと以外は実施例1と同様の手順に従った。結果を表7に示す。
【0054】
【表7】

【0055】
(比較例4)
トリエチルアミン(EtN)0.770g(0.008mol)に代えて、テトラブチルアンモニウムブロマイド(BuNBr)0.100g(0.31mmol)を用いたこと以外は比較例1と同様の手順に従った。結果を表8に示す。
【0056】
【表8】

【0057】
(比較例5)
トリエチルアミン(EtN)0.770g(0.008mol)を用いなかった(即ち、触媒を使用しなかった)こと以外は実施例1と同様の手順に従った。この場合、反応時間1h、2hおよび3hにて反応混合物をサンプリングし、得られたサンプルを上記と同様にガスクロマトグラフィーにて分析したが、いずれのサンプルにおいても反応は実質上進行せず、収率は0%であった。
【0058】
以上の実施例1〜4および比較例1〜5のいずれにおいても、アクリル酸の重合物は認められなかった。
【0059】
実施例1〜4および比較例1〜5について、上記結果より得られた収率を反応時間に対してプロットしたグラフを図1〜4に示す。図1〜4を参照しながら実施例1〜4と比較例1〜4をそれぞれ比較すると、触媒および反応温度が同じである場合、マイクロ波照射のほうが外部加熱よりも収率が速やかに上昇し、マイクロ波照射により反応時間を短縮できることが理解される。また、図3〜4を参照しながら実施例1と実施例4および比較例1と比較例4をそれぞれ比較すると、反応温度が同じである場合、EtNを用いたほうがBuNBrを用いるより収率が速やかに上昇し、この反応系において触媒はEtNのほうがBuNBrより好ましいことが理解される。加えて、比較例5より、触媒不存在下ではマイクロ波を照射しても反応はほとんど進行せず、触媒の存在が必須であることが理解される。
【0060】
実施例1〜4および比較例1〜4について、表1〜8を参照して、マイクロ波照射と外部加熱とで実質的な差は認められず、また、EtNとBuNBrとでも実質的な差は認められなかった。
【0061】
実施例1〜4および比較例1〜4について、表1〜8における転化率および反応時間のデータより、図5〜7に示すように一次反応プロットを行って、速度定数kを求めた。結果を表9に示す。
尚、この一次反応プロットおよび線形近似に際しては、反応時間ゼロのときは転化率ゼロ%という理論データを追加し、かつ、ある程度の転化率に達すると反応がそれ以上進行し難くなって一次反応でなくなってしまうので、高い直線性が得られるように反応時間を個々に限定したデータ(実施例1は1時間以内、実施例2は30分以内、実施例3は7分以内、実施例4は7.5時間以内、比較例1は4時間以内、比較例2は2時間以内、比較例3は0.5時間以内、比較例4は20時間以内)を採用した。
【0062】
【表9】

【0063】
表9を参照して、実施例1〜4と比較例1〜4をそれぞれ比較すると、触媒および反応温度が同じである場合、マイクロ波照射のほうが外部加熱よりも速度定数が大きくなり、このことからもマイクロ波照射により反応時間を短縮できることが理解される。例えば、実施例1の速度定数kは比較例1の約3.0倍であり、実施例4の速度定数kは比較例4の約2.5倍であった。また、実施例1と実施例4および比較例1と比較例4をそれぞれ比較すると、反応温度が同じである場合、EtNを用いたほうがBuNBrを用いるより速度定数が大きく、このことからもこの反応系において触媒はEtNのほうがBuNBrより好ましいことが理解される。実施例1の速度定数kは比較例4の実に約15.3倍であった。
【0064】
更に、実施例1〜3および比較例1〜3について、表9における速度定数および反応温度のデータより、図8に示すようにアレニウスプロットを行って、それぞれの頻度因子Aおよび活性化エネルギーEaを求めた。結果を表10に示す。
【0065】
【表10】

【0066】
表10を参照して、活性化エネルギーEaはマイクロ波照射と外部加熱とで実質的に相違しないが、頻度因子Aはマイクロ波照射のほうが外部加熱よりも大きいことが確認された。実施例1〜3の頻度因子Aは比較例1〜3の実に約32.5倍であった。よって、マイクロ波照射のほうが外部加熱よりも速度定数kが大きくなっていたのは、頻度因子Aが大きくなっていることに起因するものであることが判明した。これは、マイクロ波の照射が極性分子の配向性に寄与し、よって、衝突頻度の増加に有効に作用したものと思われる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
ヒドロキシル基含有エステルは、電池や光学材料などの化学品、医薬品/農薬品の中間体などとして幅広く利用され得る。特に、含フッ素(メタ)アクリレート化合物は、重合性のある含フッ素単量体であり、これより得られる重合体は撥水撥油剤などとして利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施例1〜3について反応時間に対して収率をプロットしたグラフである。
【図2】比較例1〜3について反応時間に対して収率をプロットしたグラフである。
【図3】実施例1および4について反応時間に対して収率をプロットしたグラフである。
【図4】比較例1、4および5について反応時間に対して収率をプロットしたグラフである。
【図5】実施例1〜3についての一次反応プロットである。
【図6】比較例1〜3についての一次反応プロットである。
【図7】実施例4および比較例4についての一次反応プロットである。
【図8】実施例1〜3および比較例1〜3についての一次反応プロットである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも塩基性触媒の存在下に、マイクロ波を照射することによって、カルボン酸とエポキシ化合物とを反応させてヒドロキシル基含有エステルを得る、ヒドロキシル基含有エステルの製造方法。
【請求項2】
反応を塩基性触媒および重合禁止剤の存在下に実施し、
カルボン酸化合物はアクリル酸およびメタクリル酸から選択され、
エポキシ化合物は一般式(a)、(a)または(a
【化1】

[式中、Rf、RfおよびRfは直鎖状または分枝状ポリフルオロカーボン基であり、R、R、R、RおよびRは各々独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基またはアラルキル基である]で表される含フッ素エポキシ化合物であり、
ヒドロキシル基含有エステルは一般式(b)、(b)または(b
【化2】

[式中、Rf、Rf、Rf、R、R、R、RおよびRは上記と同じであり、Rは水素原子またはメチル基である]で表される含フッ素(メタ)アクリレート化合物である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
塩基性触媒がアミンおよび一般式 M(OH)[式中、n=1または2、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属]で表される金属水酸化物から選択される、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
アミンが3級アミンおよび4級アンモニウム塩から選択される、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
3級アミンがトリエチルアミンである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
一般式 M(OH)[式中、n=1または2、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属]で表される金属水酸化物が水酸化カリウム(KOH)または水酸化ナトリウム(NaOH)である、請求項3に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−203208(P2009−203208A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−49983(P2008−49983)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】