説明

ヒネリ包装用ポリエステルフィルムの製造方法

【課題】 本発明は、製膜性と厚みの均一性に優れ、かつ良好なヒネリ適性を有する極めて有用なヒネリ包装用二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】 解決手段は、エチレンテレフタレート成分を主体とするポリエステルとブチレンテレフタレート成分を主体とするポリエステルの混合比が100:0〜50:50よりなり、かつ応力−ひずみ曲線における降伏点応力差(上降伏点応力と下降伏点応力との差)の縦方向での値と横方向での値の平均値が2MPa以上のヒネリ包装用ポリエステルフィルムの製造方法であって、混合ポリエステルの溶融樹脂を冷却固化したシートを横方向に延伸を行い、次いで緊張下で熱処理を行い、かつ横延伸倍率(TD×(−))と緊張熱処理温度(T(℃))の積(TD×・T)が200〜600であることを特徴とするヒネリ包装用ポリエステルフィルムの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒネリ包装用ポリエステルフィルムの製造方法に関し、さらに詳細には、製膜性と厚みの均一性に優れ、かつ優れたヒネリ適性を有するポリエステルフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒネリ適性の優れたフィルムとして、透明性がよいセロハンが広く使用されてきた。しかしながら、セロハンは吸湿性を有するため特性が季節により変動し、一定の品質のものを常に供給することが困難であり、かつ厚みの不均一性に起因する加工性の悪さが欠点とされてきた。一方、ポリエチレンテレフタレートフィルムは強靱性、耐熱性、耐水性、透明性等の優れた特性の良さがある反面、ヒネリ適性が劣るためにヒネリ包装用に用いることができないという欠点があった。
【0003】
かかる欠点を解消する方法として、共重合ポリエステルを二軸延伸した後、比較的高温(140〜235℃、好ましくは150〜230℃)で緊張熱処理を行い、配向度を低減させた(未延伸フィルムの平均屈折率をN0、二軸延伸フィルムの平均屈折率をN1とした時、0.003≦N1−N0≦0.021を満足させた)ポリエステルフィルムが開示されている。(例えば、特許文献1参照)。また、ポリエチレンテレフタレートと35℃以上のガラス転移温度を有するポリエステルと34℃以下のガラス転移温度を有するポリエステルからなる混合ポリエステルを二軸延伸した後、比較的高温(210〜220℃)で緊張熱処理した下降伏点応力/上降伏点応力の比が0.95以下のポリエステルフィルムが開示されている。(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、これらのポリエステルフィルムはヒネリ適性には優れているが、比較的高温で緊張熱処理を行うため、厚みの均一性がよくなく、その結果、印刷や蒸着等の加工工程でシワが発生しやすいという欠点があった。
【0005】
かかる欠点を解消する方法として、ポリエチレンテレフタレートを二軸延伸しただけの結晶化度が40%以下のポリエステルフィルムが開示されている。(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
しかしながら、該ポリエステルフィルムはヒネリ適性と厚みの均一性に優れているが、二軸延伸後にタルミが発生しやすく、二軸延伸後にフィルムの両端を切断する際、または製品ロールに仕上げるために裁断する際に破断しやすく、かつ製品ロールに前記タルミに起因したシワが発生しやすいという欠点があり、いまだ満足されるものではなかった。
【特許文献1】特許2505474号公報
【特許文献2】特開2003−311828号公報
【特許文献3】特表2005−513225号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記従来技術の問題点を解消することを目的とするものである。即ち、製膜性と厚みの均一性に優れ、かつ優れたヒネリ適性を有するポリエステルフィルムの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の発明は、エチレンテレフタレート成分を主体とするポリエステルとブチレンテレフタレート成分を主体とするポリエステルの混合比が100:0〜50:50よりなり、かつ応力−ひずみ曲線における降伏点応力差(上降伏点応力と下降伏点応力との差)の縦方向での値と横方向での値の平均値が2MPa以上のヒネリ包装用ポリエステルフィルムの製造方法であって、混合ポリエステルの溶融樹脂を冷却固化したシートを横方向に延伸を行い、次いで緊張下で熱処理を行い、かつ横延伸倍率(TD×(−))と緊張熱処理温度(T(℃))の積(TD×・T)が200〜600であることを特徴とするヒネリ包装用ポリエステルフィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のヒネリ包装用ポリエステルフィルムの製造方法は、製膜性と厚みの均一性に優れ、かつ得られたポリエステルフィルムのヒネリ適性が優れるため、極めて有用なポリエステルフィルムの製造方法であるといえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法は、エチレンテレフタレート成分を主体とするポリエステルとブチレンテレフタレート成分を主体とするポリエステルの混合比が100:0〜50:50よりなり、かつ応力−ひずみ曲線における降伏点応力差(上降伏点応力と下降伏点応力との差)の縦方向での値と横方向での値の平均値が2MPa以上のポリエステルフィルムの製造方法であって、混合ポリエステルの溶融樹脂を冷却固化したシートを横方向に延伸を行い、次いで緊張下で熱処理を行い、かつ横延伸倍率(TD×(−))と緊張熱処理温度(T(℃))の積(TD×・T)が200〜600であることを特徴とするポリエステルフィルムの製造方法である。
【0011】
本発明では、フィルムを構成するポリエステルは、エチレンテレフタレート成分を主体とするポリエステルとブチレンテレフタレート成分を主体とするポリエステルとの混合比が100:0〜50:50であることが得られたフィルムの耐熱性、耐水性、透明性等と良好な製膜性を確保する点から必要である。
【0012】
ブチレンテレフタレート成分を主体とするポリエステルが50重量%を超える場合、製膜性が悪くなるため好ましくない。
【0013】
本発明では、フィルムを構成するポリエステルは、その目的を阻害しない範囲で他の共重合成分を含むことができる。使用できる他の共重合成分のうち、ジカルボン酸成分として、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸,コハク酸,アジピン酸,セバシン酸,デカンジカルボン酸,マレイン酸,フマル酸,ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、p−オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸が使用できる。また、グリコール成分として、プロパンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物,ビスフェノールSのエチレンオキサイド付加物等の芳香族グリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が使用できる。このほか少量のアミド結合、ウレタン結合、エーテル結合、カーボネート結合等を含有する化合物を含んでいてもよい。
【0014】
本発明では、公知の押出機で溶融押出したポリエステルを冷却固化したシートをポリエステルのガラス転移温度以上の温度で3.0〜6.0倍横方向に延伸を行い、次いで、公知の巾方向を一定長とした熱固定処理(例えば、フィルムの両端をクリップで把持して行う熱固定処理)を60〜130℃で1〜20秒間実施することが好ましい。
【0015】
本発明では、上記の製膜方法において、横延伸倍率(T×(−))と熱固定温度(T(℃))の積(T×・T)を200〜600に制御することが製膜性と厚みの均一性を良化させ、かつ製品ロールの外観を良化させるために必要である。T×・Tが200未満の場合、得られたポリエステルフィルムの厚みの均一性が悪いため好ましくない。逆に、T×・Tが600を越える場合、緊張熱処理後にポリエステルフィルムの両端部を切断する工程へ通膜する際フィルムが破断しやすいため、または、フィルム製膜中もこの工程でフィルムの両端部および/またはフィルムが破断しやすいため好ましくない。
【0016】
本発明では、ポリエステルの極限粘度は、0.5dl/g以上であることが好ましい。極限粘度が0.5dl/g未満の場合、緊張熱処理後にポリエステルフィルムの両端部を切断する工程で、フィルムの両端部および/またはフィルムが破断しやすく好ましくない。
【0017】
本発明では、ポリエステルフィルムの厚みは15〜60μmであることが好ましい。ポリエステルフィルムの厚みが15μm未満の場合、得られたフィルムをヒネリ包装に用いた場合、フィルムの腰感が劣るため好ましくない。逆に、60μmを超える場合、得られたフィルムのヒネリ適性が劣るため好ましくない。
【実施例】
【0018】
以下、実施例をもとに本発明を説明する。
【0019】
実施例および比較例に用いた評価方法について説明する。
(1)降伏点応力差(Δσ(MPa))
JIS C 2151により応力−ひずみ曲線を測定し(縦方向と横方向それぞれ5点)、縦方向と横方向の上降伏点応力と下降伏点応力の差(縦方向での値と横方向での値の平均値)を降伏点応力差とする。
【0020】
(2)ポリエステルフィルムの厚みの均一性(TV(%))
ポリエステルフィルムの中央部から長さ1m(中央から左右50cm)×巾4cmのフィルム片を縦方向に連続して3個切り出したものを測定サンプルとする。該測定サンプルをアンリツ電気社製の連続厚み計(マイクロメーター:K306C、レコーダー:K310C)を用いて下記の条件で測定する。測定サンプル1m内の(最大値−最小値)を求め,3個の平均値(ΔT平均)を算出する。次いで、平均厚み(T平均:連続厚み測定後のフィルム片を3枚重ねて一方の端部から5cmのところを基準とし、5cmピッチでダイアルゲージを用いて18点測定し、18点の厚みの合計値を54で除した値)を算出する。次いで、TV=(ΔT平均/T平均)×100(%)を算出し、TVが8%以下を実用性ありと評価する。
[連続厚みの測定条件]
フィルムの送り速度:1.5m/分
マイクロメーターのスケール:±5μm
レコーダーのハイカット:5Hz
レコーダーのスケール:±2μm
レコーダーのチャート速度:2.5mm/秒
レコーダーの測定レンジ:×1
【0021】
(3)ポリエステルの極限粘度
ポリエステル0.1gをフェノール/テトラクロロエタン(容積比で3/2)の混合溶媒25ml中に溶解させ、30℃でオストワルド粘度計を用いて測定する。
【0022】
(4)ヒネリ適性
ポリエステルフィルムから10cm×10cmのサンプル片を切りだし、直径2cmの丸棒に5cmはみ出すように、長手方向に巻き付ける。次いで、はみ出した部分を360°ひねり、360°から戻った角度を測定する(n=100)。これらの平均値を求め、○を実用性ありと評価する。
○:ひねり戻り角度が75°以下
△:ひねり戻り角度が75〜85°
×:ひねり戻り角度が85°以上
【0023】
実施例および比較例に用いたポリエステル原料、製膜条件、T×・T、厚みの均一性、降伏点応力差、ヒネリ適性を表1に示す。
(1)A:ポリエチレンテレフタレート(極限粘度:0.72dl/g、平均粒径:1.3μmの凝集シリカを1000ppm配合)
(2)B:ポリエチレンテレフタレート・イソフタレート(エチレンイソフタレートの繰り返し単位10モル%、極限粘度:0.72dl/g、平均粒径:1.3μmの凝集シリカを1000ppm配合)
(3)C:テレフタル酸とエチレングリコール/ネオペンチルグリコール(モル% 90/10)との共重合ポリエステル(極限粘度:0.72dl/g、平均粒径:1.3μmの凝集シリカを1000ppm配合)
(4)D:ポリブチレンテレフタレート(極限粘度:1.2dl/g)
【0024】
[実施例1]
ポリエステル原料としてAを用い、120℃で24時間減圧乾燥(1.3hPa)し、単軸押出機を用いて280℃で溶融させた後、45cm幅のTダイより冷却ロール(周速50m/分)上へキャストして(冷却ロール周面に対向するように設置した直径が30μmのタングステンワイヤー電極から7.2kVの電圧を印加し、0.2mAの電流を流して静電密着させて)未延伸シートを得た。該未延伸シートをテンターで予熱温度95℃、延伸温度85℃で横方向に4.0倍延伸 次いで110℃で定長巾熱固定処理して厚さ30μmのポリエステルフィルムを得た。
本実施例の方法は、表1からわかるように、降伏点応力差が6MPaであり、優れたヒネリ包装用二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法であるといえる。
【0025】
[実施例2]
ポリエステル原料としてBとDの混合物(B/D:75/25重量%)を用い、予熱温度95℃、延伸温度71℃で横方向に4.0倍延伸した以外は実施例1と同様にして厚さ30μmのポリエステルフィルムを得た。
本実施例の方法は、表1からわかるように、降伏点応力差が8MPaであり、優れたヒネリ包装用ポリエステルフィルムの製造方法であるといえる。
【0026】
[実施例3]
ポリエステル原料としてBとDの混合物(B/D:90/25重量%)を用い、予熱温度95℃、延伸温度73℃で横方向に5.0倍延伸した以外は実施例1と同様にして厚さ30μmのポリエステルフィルムを得た。
本実施例の方法は、表1からわかるように、降伏点応力差が6MPaであり、優れたヒネリ包装用ポリエステルフィルムの製造方法であるといえる。
【0027】
[実施例4]
ポリエステル原料としてBとDの混合物(B/D:90/10重量%)を用い、予熱温度95℃、延伸温度71℃で横方向に4.0倍延伸した以外は実施例1と同様にして厚さ30μmのポリエステルフィルムを得た。
本実施例の方法は、表1からわかるように、降伏点応力差が8MPaであり、優れたヒネリ包装用ポリエステルフィルムの製造方法であるといえる。
【0028】
[実施例5]
ポリエステル原料としてCとDの混合物(C/D:75/25重量%)を用い、予熱温度95℃、延伸温度71℃で横方向に4.0倍延伸した以外は実施例1と同様にして厚さ30μmのポリエステルフィルムを得た。
本実施例の方法は、表1からわかるように、降伏点応力差が7MPaであり、優れたヒネリ包装用ポリエステルフィルムの製造方法であるといえる。
【0029】
[比較例1]
テンターで予熱温度98℃、延伸温度95℃で横方向に3.9倍延伸し、次いで予熱温度80℃、延伸温度105℃で縦方向に4.2倍延伸した以外は実施例1と同様にして厚さ30μmのポリエステルフィルムを得た。
この方法は、表1からわかるように、降伏点応力差が1MPa未満(上降伏点は認められるが、明確な下降伏点が認められない)であり、ヒネリ適性が劣るため、ヒネリ包装用二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法として好ましくない。
【0030】
[比較例2]
定長巾熱固定処理温度を165℃とした以外は実施例1と同様にして厚さ30μmのポリエステルフィルムを得ようとしたが、フィルムの両端部を切断する際、破断することが多く、ポリエステルフィルムを安定して得られなかった。
この方法は、ヒネリ包装用二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法として好ましくない。
【0031】
[比較例3]
周速34m/分の冷却ロールへキャストし、予熱温度105℃、延伸温度90℃で横方向に5.8倍延伸した以外は実施例1と同様にして厚さ30μmのポリエステルフィルムを得た。
この方法は、降伏点応力差が7MPaであり、ヒネリ適性は良好であったが、厚みの均一性が悪いためヒネリ包装用二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法として好ましくない。
【0032】
[比較例4]
横延伸倍率を1.6倍とした以外は実施例1と同様にして厚さ30μmのポリエステルフィルムを得た。
この方法は、表1からわかるように、表1からわかるように、降伏点応力差が10MPaであり、ヒネリ適性は良好であったが、厚みの均一性が悪いためヒネリ包装用二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法として好ましくない。
【0033】
[比較例5]
ポリエステル原料としてBとDの混合物(B/D:20/80重量%)を用い、周速30m/分の冷却ロールへキャストし、予熱温度60℃、延伸温度72℃で横延伸倍率4.0倍とした以外は実施例1と同様にして厚さ30μmのポリエステルフィルムを得ようとしたが、冷却ロールで冷却後にシートの両端部が割れることが多くポリエステルフィルムを安定して得られなかった。
この方法は、ヒネリ包装用二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法として好ましくない。
【0034】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のポリエステルフィルムは、製膜性と厚みの均一性に優れ、かつ得られたフィルムが十分な降伏点応力差を有するためヒネリ適性に優れており、ヒネリ包装用ポリエステルフィルムの製造方法として極めて有用であるといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンテレフタレート成分を主体とするポリエステルとブチレンテレフタレート成分を主体とするポリエステルの混合比が100:0〜50:50よりなり、かつ応力−ひずみ曲線における降伏点応力差(上降伏点応力と下降伏点応力との差)の縦方向での値と横方向での値の平均値が2MPa以上のヒネリ包装用ポリエステルフィルムの製造方法であって、混合ポリエステルの溶融樹脂を冷却固化したシートを横方向に延伸を行い、次いで緊張下で熱処理を行い、かつ横延伸倍率(TD×(−))と緊張熱処理温度(T(℃))の積(TD×・T)が200〜600であることを特徴とするヒネリ包装用ポリエステルフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2007−69524(P2007−69524A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−260763(P2005−260763)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】