説明

ヒンジ部品の加工方法

【課題】摩耗し難い高強度鋼板を素材とした場合であっても、金型への加工負荷が小さく、加工精度の高いヒンジ部品を低コストで製造する。
【解決手段】一方の部材端部に断面円形の凹部を、目標凹部径と同じ径を有するとともに、基部に所要の肩半径Rをもって突出する断面円形の凸部を有するパンチを用いて押出加工し、他方の部材端部に断面円形の凸部を、目標凸部径と同じ径の断面円形の孔を有するとともに、当該孔の周囲に窪み部を有し、当該窪み部と前記孔とが前記パンチ基部の肩半径Rと同じ肩半径Rをもって滑らかに連なっているダイスを用いて押出し加工し、一方の部材端部に設けた断面円形の凹部に他方の部材端部に設けた断面円形の凸部を嵌合させてヒンジ部材を構築する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話、電子辞書、ノートパソコンなどの、機器本体とカバー(蓋体)とを回動可能に連結するヒンジ部品の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種の装置にあっては、操作部ないし送話器を備えた本体部(以下、「部品B」と記す。)と、モニターないしアンテナと受話器とを備えたカバー部(以下、「部品A」と記す。)が、ヒンジ部を軸に互いに回転して折り畳み可能に構成されている(例えば特許文献1参照)。
そして、部品Aと部品Bとのヒンジ結合構造は、例えば図1に見られるように、部品Bの端部に設けられた断面円形の凹部に、部品Aの端部に設けられた断面円形の凸部が嵌合された構造となっているものが多い。
【0003】
部品Aの凸部は押出し加工法により、また部品Bの凹部は打抜き加工法により形成する場合が多い。通常は、例えば図2に示すとおり、ブランクに対する半抜き程度の押出加工により部材Aに凸部を形成するとともに、ブランクに対する打抜き加工による孔の形成によって部材Bに凹部を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−165784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、部品Aや部品Bとしては、加工しやすい比較的軟質な材料を素材としている場合が多い。ヒンジ接合部は互いに摺動し合う部位であるため、素材が軟質な場合、摩耗損失が激しく、比較的短時間でガタツキを生じたり、係合が外れたりすることがある。
そこで、素材として摩耗し難い材料を用いようとすると、前記押出し加工や打抜き加工を施す際の金型負担が大きくなる。すなわち、摩耗し難い高強度鋼板を用いようとすると、金型への加工負荷が大きくなって、修繕などによるコストが増すことにもなる。
【0006】
本発明は、このような問題点を解消するために案出されたものであり、摩耗し難い高強度鋼板を素材とした場合であっても、金型への加工負荷が小さく、加工精度の高いヒンジ部品を低コストで製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のヒンジ部品の加工方法は、その目的を達成するため、一方の部材端部に設けた断面円形の凹部に他方の部材端部に設けた断面円形の凸部を嵌合させたヒンジ部材を加工する方法であって、一方の部材端部に断面円形の凹部を、目標凹部径と同じ径を有するとともに、基部に所要の肩半径Rをもって突出する断面円形の凸部を有するパンチを用いて押出し加工し、他方の部材端部に断面円形の凸部を、目標凸部径と同じ径の断面円形の孔を有するとともに、当該孔が前記パンチ基部の肩半径Rと同じ肩半径Rを有しているダイスを用いて押出し加工することを特徴とする。
【0008】
前記一方の部材端部に断面円形の凹部を形成する際、目標凹部径と同じ径を有するとともに、基部に所要の肩半径Rをもって突出する断面円形の凸部を有するパンチを用いて押出し加工した後、さらに目標凹部径と同じ径を有するパンチを用いて打抜き加工を行ってもよい。
また、前記一方の部材端部に断面円形の凹部を形成する際、二段階に分けず、基部に所要の肩半径Rをもって突出する断面円形の凸部を有するパンチの長さを当該部材の板材の厚さよりも長くして一段で打抜き、肩半径Rの貫通孔を作製してもよい。
【0009】
いずれの場合であっても、前記ダイスとして、前記孔の周囲に窪み部を有し、当該窪み部と前記孔が前記パンチ基部の肩半径Rと同じ肩半径Rをもって滑らかに連なっているダイスを用いて押出し加工することが好ましい。
さらに、一方の部材端部に凹部を形成する加工、および他方の部材端部に凸部を形成する加工を、コーナーRを付与したパンチおよびダイスを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のヒンジ部品の加工方法によれば、部品Bの端部に設けられた断面円形の凹部に、部品Aの端部に設けられた断面円形の凸部が、それらに形成されたRを介して精度良く嵌合される形態となるために、ガタツキ等の発生が低減される。また押出し加工に際し、コーナーRが付されたパンチおよびダイスの使用により金型負担が軽減されるため、金型の長期使用が可能となって製造コスト低減にも繋がる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ヒンジ部品の使用例を説明する図
【図2】ヒンジ部品の一般的な加工方法を説明する図
【図3】ヒンジ部品の一方にRを付したときの不具合発生状況を説明する図
【図4】ヒンジ部品の他方にRを付したときの不具合発生状況を説明する図
【図5】本発明のヒンジ部品加工方法の一例を説明する図
【図6】本発明のヒンジ部品加工方法の他の例を説明する図
【図7】本発明方法で部品Aを作製する際の金型形状を説明する図
【図8】本発明方法で部品Bを作製する際の金型形状を説明する図
【図9】既存方法で部品Aを作製する際の金型形状を説明する図
【図10】既存方法で部品Bを作製する際の金型形状を説明する図
【図11】平行度を測定する位置を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0012】
パンチとダイスを用いて押出し加工や打抜き加工を施す際、金型負担を軽減する意味ではパンチおよびダイスの先端肩部にコーナーRを付すことが有効である。
したがって、例えば図3(a)のように部品Aの基部にRを付して設けられた凸部を、部品Bに設けられた凹部にガタツキなく精度良く勘合させようとすると、図3(b)のように部品Bの凹部上端が部品AのR止まりに乗り上げるため、部品Aと部品Bの間に隙間が生じることになる。このため、部品Aを部品Bに対して矢印方向に回転させる運動が生じた際、部品Bによる受けがないため、部品Aと部品Bの間で双方向矢印で示す方向へのぐらつきが生じる。さらに接点部分に応力が集中するため疲労強度が低下するおそれがある。
【0013】
一方、図4(a)のように部品Aと部品Bを密着させるためには勘合部の孔径をR止りまで拡大すると、部品Aを部品Bに対して接触面と平行に矢印方向に回転させると部品Bの孔が部品AのR止りに乗り上げるためスムーズな回転運動ができなくなる。
そこで、本発明においては、ガタツキなく部品Aと部品Bを密着させるため、部品Aの凸部基部、および部品Bの凹部先端部におよそ同じ大きさのRを付すこととしたものである。ただし、部品Aと部品Bを完全に密着させてしまうと、部品Aと部品Bの相対的な摺動回転時に摩擦抵抗が大きくなるため、部品Aの凸部基部周辺に僅かな段差平面部を確保し、両者間の接触面積を低減している。
【0014】
以下に、本発明のヒンジ部品の加工方法を、図を用いて説明する。
部品Aについては、図5に示すように、目標凸部径と同じ径の断面円形の孔を有するとともに、この孔が前記パンチ基部の肩半径Rと同じ肩半径Rを有しているダイスを用いて押出し加工する。このダイスとしては、断面円形の孔の周囲に窪み部を有し、この窪み部と前記孔とが所定の肩半径R1をもって滑らかに連なっているものを用いることが好ましい。押出し加工する際のパンチ形状には特に制限はないが、凸部の形成を容易にするため、すなわち材料流れを円滑に行わせるために、目標の凸部径よりの大きい径の、しかも先端コーナー部にRが付されているものを使用することが好ましい。
【0015】
このような押出し加工を行うことにより、基部で肩半径R1なる湾曲面をもって本体部に繋がる凸部が形成された部品Aが得られる。なお、断面円形の孔の周囲に窪み部を有するダイスを用いて押出し加工された場合には、この部品Aには、凸部の周囲にダイスの窪み部に対応する段差平面部が設けられることとなる。
この段差平面部の径は、凸部径の2倍程度とすることが好ましい。この段差平面部を設けることにより、部品Aと後述の部品Bとが接する面積が小さくなり、摺動抵抗を小さくすることができる。
【0016】
部品Bについては、同じく図5に示すように、目標凹部径と同じ径を有するとともに、基部に所要の肩半径R2をもって突出する断面円形の凸部を有するパンチを用いて押出し加工する。この際のダイス形状には特に制限はないが、凹部の形成を容易にするため、すなわち材料流れを円滑に行わせるために、目標の凹部径よりの小さい径の、しかもコーナー部にRが付されているものを使用することが好ましい。
部品Aおよび部品Bを製造する際に、それらの肩半径R1、R2をR1=R2とするとき、部品Aおよび部品Bがその凹凸部でガタツキなく嵌合される。
【0017】
なお、部品Bにあっては、その製造時、図6に示すように、肩半径R2の凹部を形成した後、目標凹部径と同じ径を有するパンチを用いて打抜き加工を施しても良い。また、二段階に分けず、基部に所要の肩半径R2をもって突出する断面円形の凸部を有するパンチの長さを部品B作製用板材の厚さよりも長くして一段で打抜き、肩半径R2の貫通孔を作製してもよい。
【実施例】
【0018】
供試材として、表1に示す成分組成と、表2に示す機械的特性を有する厚さ1mmのステンレス鋼板を用い、図5、6に示す形態で部品Aおよび部品B、B’を作製した。
なお、部品Aを作製するに当たっては、図7に示すサイズの金型を用い、加工圧40kNで、また部品B、B’を作製するに当たっては、図8に示すサイズの金型を用い、加工圧30kNで行った。
【0019】
比較のために、既存の方法として、図9,10に示すサイズの金型を用い、それぞれ加工圧40kN,30kNで部品Aおよび部品Bを作製した。
各加工品について、図11に示す位置で平行度を測定した。
その結果を表3に示すが、本発明方法の採用により平行度が格段に改善されていることがわかる。なお、表3中、発明パターン1は、図5に示す形態で部品Bを作製した事例であり、発明パターン2は、図6に示す二段階目に打抜き加工を加えた形態で部品Bを作製した事例である。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の部材端部に設けた断面円形の凹部に他方の部材端部に設けた断面円形の凸部を嵌合させたヒンジ部材を加工する方法であって、
一方の部材端部に断面円形の凹部を、目標凹部径と同じ径を有するとともに、基部に所要の肩半径Rをもって突出する断面円形の凸部を有するパンチを用いて押出し加工し、
他方の部材端部に断面円形の凸部を、目標凸部径と同じ径の断面円形の孔を有するとともに、当該孔が前記パンチ基部の肩半径Rと同じ肩半径Rを有しているダイスを用いて押出し加工することを特徴とするヒンジ部品の加工方法。
【請求項2】
前記一方の部材端部に断面円形の凹部を形成する際、目標凹部径と同じ径を有するとともに、基部に所要の肩半径Rをもって突出する断面円形の凸部を有するパンチを用いて押出し加工した後、目標凹部径と同じ径を有するパンチを用いて打抜き加工を行う請求項1に記載のヒンジ部品の加工方法。
【請求項3】
一方の部材端部に設けた断面円形の凹部に他方の部材端部に設けた断面円形の凸部を嵌合させたヒンジ部材を加工する方法であって、
一方の部材端部に断面円形の凹部を、目標凹部径と同じ径を有するとともに、基部に所要の肩半径Rをもって突出し、被加工部材の厚さよりも長い断面円形の凸部を有するパンチを用いて打抜き加工し、
他方の部材端部に断面円形の凸部を、目標凸部径と同じ径の断面円形の孔を有するとともに、当該孔が前記パンチ基部の肩半径Rと同じ肩半径Rを有しているダイスを用いて押出し加工することを特徴とするヒンジ部品の加工方法。
【請求項4】
前記ダイスとして、前記孔の周囲に窪み部を有し、当該窪み部と前記孔が前記パンチ基部の肩半径Rと同じ肩半径Rをもって滑らかに連なっているダイスを用いて押出し加工する請求項1〜3のいずれか1項に記載のヒンジ部品の加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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