説明

ヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法、ヒートシンク付パワーモジュール用基板及びパワーモジュール

【課題】ヒートシンク接合工程における接合温度を低く設定しても、ヒートシンクと第二の金属板とを強固に接合できるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を提供する。
【解決手段】第二の金属板の他面にヒートシンクを接合するヒートシンク接合工程は、第二の金属板の他面とヒートシンクの接合面のうち少なくとも一方にCu層を形成するCu層形成工程S01と、Cu層を介して第二の金属板とヒートシンクとを積層するヒートシンク積層工程S02と、第二の金属板とヒートシンクとを積層方向に加圧するとともに加熱し、Cu層のCuを第二の金属板及びヒートシンクに拡散させることによって溶融金属領域を形成するヒートシンク加熱工程S03と、この溶融金属領域を凝固させることによって第二の金属板とヒートシンクとを接合する溶融金属凝固工程S04と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、大電流、高電圧を制御する半導体装置に用いられるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法、ヒートシンク付パワーモジュール用基板、及び、パワーモジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の中でも電力供給のためのパワー素子は、発熱量が比較的高いため、これを搭載する基板としては、例えば、AlN(窒化アルミ)やSi(窒化ケイ素)などからなるセラミックス基板上にAl(アルミニウム)の第一の金属板が接合されるとともに、基板の反対側にAl(アルミニウム)の第二の金属板を介してヒートシンクが接続されたヒートシンク付パワーモジュール用基板が用いられる。
このようなヒートシンク付パワーモジュール用基板では、第一の金属板は回路層として形成され、第一の金属板の上には、はんだ材を介してパワー素子の半導体チップが搭載される。
【0003】
従来、前述のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、例えば特許文献1に記載されているように、以下の手順で製造される。
まず、セラミックス基板の一方の面にろう材を介して第一の金属板を積層し、セラミックス基板の他方の面にろう材を介して第二の金属板を積層して、これを積層方向に所定の圧力で加圧するとともに加熱し、セラミックス基板と第一の金属板及び第二の金属板とを接合させる(セラミックス基板接合工程)。
次に、第二の金属板のうちセラミックス基板とは反対側の面に、ろう材を介してヒートシンクを積層し、積層方向に所定の圧力で加圧するとともに加熱し、これにより第二の金属板とヒートシンクとを接合させる(ヒートシンク接合工程)。
すなわち、ヒートシンク付パワーモジュール用基板は、上述のセラミックス基板接合工程と、その後に実施されるヒートシンク接合工程とによって製造されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−009212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、第二の金属板とヒートシンクとをろう付けする際には、融点を低く設定するためにSiを7.5質量%以上含有するAl−Si系合金のろう材箔が使用されることが多い。このようにSiを比較的多く含有するAl−Si系合金においては、延性が不十分であることから圧延等によって箔材を製造するのが困難であった。
さらに、ヒートシンクと第二の金属板との間にろう材箔を配置し、これらを積層方向に加圧して加熱することになるが、この加圧に際してろう材箔の位置がずれないように、ろう材箔、ヒートシンク及び第二の金属板を積層配置する必要があった。
また、ろう材箔を用いた場合、第二の金属板とヒートシンクとの界面部分には、第二の金属板及びヒートシンクの表面、ろう材箔の両面の4つの面において酸化被膜が存在することになり、酸化被膜の合計厚さが厚くなる傾向にあった。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、ヒートシンクと第二の金属板とを接合するヒートシンク接合工程における接合温度を低く設定しても、ヒートシンクと第二の金属板とを強固に接合でき、セラミックス基板と第一の金属板及び第二の金属板とを接合するセラミックス基板接合工程における接合温度も比較的低く設定することができ、高品質なヒートシンク付パワーモジュール用基板を提供することが可能なヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法、及び、この製造方法によって得られるヒートシンク付パワーモジュール用基板、パワーモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法は、セラミックス基板と、該セラミックス基板の表面に一面が接合されたアルミニウムからなる第一の金属板と、前記セラミックス基板の裏面に一面が接合されたアルミニウムからなる第二の金属板と、該第二の金属板の前記セラミックス基板と接合された前記一面と反対側の他面に接合されたアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるヒートシンクとを備えるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法であって、前記セラミックス基板と前記第一の金属板、及び、前記セラミックス基板と前記第二の金属板とを接合するセラミックス基板接合工程と、前記第二の金属板の他面に前記ヒートシンクを接合するヒートシンク接合工程と、を有し、前記ヒートシンク接合工程は、前記第二の金属板の他面と前記ヒートシンクの接合面のうち少なくとも一方にCuを固着してCu層を形成するCu層形成工程と、前記Cu層を介して前記第二の金属板と前記ヒートシンクとを積層するヒートシンク積層工程と、積層された前記第二の金属板と前記ヒートシンクとを積層方向に加圧するとともに加熱し、前記第二の金属板と前記ヒートシンクとの界面に溶融金属領域を形成するヒートシンク加熱工程と、この溶融金属領域を凝固させることによって、前記第二の金属板と前記ヒートシンクとを接合する溶融金属凝固工程と、を有し、前記ヒートシンク加熱工程において、前記Cu層のCuを前記第二の金属板及び前記ヒートシンクに拡散させることにより、前記第二の金属板と前記ヒートシンクとの界面に、前記溶融金属領域を形成することを特徴としている。
【0008】
この構成のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法においては、第二の金属板の他面にヒートシンクを接合するヒートシンク接合工程が、前記第二の金属板の他面と前記ヒートシンクの接合面のうち少なくとも一方にCuを固着してCu層を形成するCu層形成工程を備えているので、第二の金属板とヒートシンクとの接合界面には、Cuが介在することになる。このCuは、アルミニウムの融点を降下させる元素であるため、比較的低温条件において、ヒートシンクと第二の金属板との界面に溶融金属領域を形成することができる。
よって、比較的低温、短時間の接合条件で接合しても、ヒートシンクと第二の金属板とを強固に接合することが可能となる。
【0009】
また、加熱工程において、Cu層内のCuを前記第二の金属板及びヒートシンク側に拡散させることにより、前記ヒートシンクと前記第二の金属板との界面に前記溶融金属領域を形成し、この溶融金属領域を凝固させることで、前記第二の金属板と前記ヒートシンクを接合する構成としているので、製造が困難なAl−Si系のろう材箔等を用いる必要がなく、低コストで、第二の金属板とヒートシンクとが確実に接合されたヒートシンク付パワーモジュール用基板を製造することができる。
【0010】
さらに、ろう材箔を使用せずに、前記ヒートシンクの接合面及び前記第二の金属板の他面のうち少なくとも一方に直接Cuを固着しているので、ろう材箔の位置合わせ作業等を行う必要がない。
しかも、第二の金属板及びヒートシンクに直接Cuを固着した場合、酸化被膜は、第二の金属板及びヒートシンクの表面にのみ形成されることになり、第二の金属板及びヒートシンクの界面に存在する酸化被膜の合計厚さが薄くなるので、初期接合の歩留りが向上する。
【0011】
ここで、前記Cu層形成工程において、前記第二の金属板の他面と前記ヒートシンクの接合面のうち少なくとも一方に、Cuに加えて、Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着することが好ましい。
この場合、第二の金属板とヒートシンクとの接合界面には、Cuに加えて、Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素が介在することになる。ここで、Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiといった元素は、アルミニウムの融点を降下させる元素であるため、比較的低温条件において、第二の金属板とヒートシンクとの界面に確実に溶融金属領域を形成することができる。
よって、比較的低温、短時間の接合条件で接合しても、第二の金属板とヒートシンクとをさらに強固に接合することが可能となる。
【0012】
また、前記Cu層形成工程では、CuとともにAlを固着させる構成とすることが好ましい。
この場合、CuとともにAlを固着させているので、形成されるCu層がAlを含有することになり、このCu層が優先的に溶融し、第二の金属板とヒートシンクとの界面に溶融金属領域を確実に形成することが可能となり、第二の金属板とヒートシンクとを強固に接合することができる。なお、CuとともにAlを固着させるには、CuとAlとを同時に蒸着してもよいし、CuとAlの合金をターゲットとしてスパッタリングしてもよい。さらに、CuとAlを積層してもよい。
【0013】
また、前記セラミックス基板接合工程は、前記セラミックス基板と前記第一の金属板との接合界面における前記セラミックス基板の接合面と前記第一の金属板の接合面のうちの少なくとも一方にCu又はSiのうちの1種以上を固着して第1金属層を形成するとともに、前記セラミックス基板と前記第二の金属板との接合界面における前記セラミックス基板の接合面と前記第二の金属板の接合面のうちの少なくとも一方にCu又はSiのうちの1種以上を固着して第2金属層を形成する金属固着工程と、前記第1金属層を介して前記セラミックス基板と前記第一の金属板とを積層するとともに、前記第2金属層を介して前記セラミックス基板と前記第二の金属板とを積層するセラミックス基板積層工程と、積層された前記第一の金属板と前記セラミックス基板と前記第二の金属板とを積層方向に加圧するとともに加熱し、前記第一の金属板と前記セラミックス基板との界面及び前記セラミックス基板と前記第二の金属板との界面に、第一溶融金属領域及び第二溶融金属領域を形成するセラミックス基板加熱工程と、この第一溶融金属領域及び第二溶融金属領域を凝固させることによって、前記第一の金属板と前記セラミックス基板及び前記セラミックス基板と前記第二の金属板とを接合する第一溶融金属及び第二溶融金属凝固工程と、を有し、前記セラミックス基板加熱工程において、前記第1金属層及び前記第2金属層のCu又はSiのうちの1種以上を前記第一の金属板及び前記第二の金属板に拡散させることにより、前記第一の金属板と前記セラミックス基板との界面及び前記セラミックス基板と前記第二の金属板との界面に、前記第一溶融金属領域及び前記第二溶融金属領域を形成する構成としてもよい。
【0014】
この場合、セラミックス基板と第一の金属板、及び、セラミックス基板と第二の金属板の接合においても、ろう材を用いる必要がなくなり、低コストで、セラミックス基板と第一の金属板及び第二の金属板とを確実に接合することができる。
また、セラミックス基板と第一の金属板及び第二の金属板の接合界面には、Cu又はSiのうちの1種以上が介在することになるので、比較的低温、短時間の接合条件で接合しても、セラミックス基板と第一の金属板及び第二の金属板とを強固に接合することが可能となる。
【0015】
ここで、前記金属固着工程において、前記セラミックス基板と前記第一の金属板との接合界面における前記セラミックス基板の接合面と前記第一の金属板の接合面のうちの少なくとも一方に、あるいは、前記セラミックス基板と前記第二の金属板との接合界面における前記セラミックス基板の接合面と前記第二の金属板の接合面のうちの少なくとも一方に、Cu又はSiのうちの1種以上に加えてZn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着することが好ましい。
【0016】
この場合、前記セラミックス基板と前記第一の金属板との接合界面、あるいは、前記セラミックス基板と前記第二の金属板との接合界面には、Cu又はSiのうちの1種以上に加えてZn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素が介在することになる。ここで、Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiといった元素は、アルミニウムの融点を降下させる元素であるため、比較的低温条件において、前記セラミックス基板と前記第一の金属板との界面に第一溶融金属領域を、あるいは、前記セラミックス基板と前記第二の金属板との界面に第二溶融金属領域を、確実に形成することができる。
よって、比較的低温、短時間の接合条件で接合しても、セラミックス基板と第一の金属板及び第二の金属板とをさらに強固に接合することが可能となる。
【0017】
さらに、前記セラミックス基板接合工程と、前記ヒートシンク接合工程と、を同時に行うことが好ましい。
この場合、ヒートシンク積層工程とセラミックス基板積層工程、ヒートシンク加熱工程とセラミックス基板加熱工程、溶融金属凝固工程と第一溶融金属及び第二溶融金属凝固工程と、をそれぞれ同時に行うことによって、接合に掛かるコストを大幅に削減することができる。また、繰り返し加熱、冷却を行わずに済むので、このヒートシンク付パワーモジュール用基板の反りの低減も図ることができる。
【0018】
また、前記Cu層形成工程は、めっき、蒸着、CVD、スパッタリング、コールドスプレー、又は、粉末が分散しているペースト及びインクなどの塗布によって前記ヒートシンクの接合面及び前記第二の金属板の他面のうち少なくとも一方に、Cuを固着させることが好ましい。
この場合、めっき、蒸着、CVD、スパッタリング、コールドスプレー、又は、粉末が分散しているペースト及びインクなどの塗布によって、Cuが前記ヒートシンクの接合面及び前記第二の金属板の他面のうち少なくとも一方に確実に固着されるので、ヒートシンクと第二の金属板との接合界面にCuを確実に介在させることが可能となる。また、Cuの固着量を精度良く調整することができ、溶融金属領域を確実に形成して、ヒートシンクと第二の金属板とを強固に接合することが可能となる。
【0019】
さらに、前記第二の金属板が、複数の金属板が積層されて構成されていることが好ましい。
この場合、第二の金属板が、複数の金属板が積層された構造とされているので、ヒートシンクとセラミックス基板との熱膨張係数の差に起因する熱歪みをこの第二の金属板で十分に緩和することができ、セラミックス基板での割れの発生を抑制することができる。
【0020】
本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、セラミックス基板と、該セラミックス基板の表面に一面が接合されたアルミニウムからなる第一の金属板と、前記セラミックス基板の裏面に一面が接合されたアルミニウムからなる第二の金属板と、該第二の金属板の前記セラミックス基板と接合された前記一面と反対側の他面に接合されたアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるヒートシンクとを備え、前記第二の金属板及び前記ヒートシンクには、Cuが固溶されており、前記第二の金属板及び前記ヒートシンクの接合界面近傍におけるCu濃度が0.05質量%以上5質量%以下の範囲内に設定されていることを特徴としている。
【0021】
この構成のヒートシンク付パワーモジュール用基板によれば、前記第二の金属板及び前記ヒートシンクに、それぞれCuが固溶しているので、第二の金属板及びヒートシンクのそれぞれの接合界面側部分が固溶強化することになる。
ここで、前記第二の金属板及び前記ヒートシンクの接合界面近傍におけるCu濃度が0.05質量%以上とされているので、前記第二の金属板及び前記ヒートシンクの接合界面側部分を確実に固溶強化することができる。また、前記第二の金属板及び前記ヒートシンクの接合界面近傍におけるCu濃度が5質量%以下とされているので、前記第二の金属板及び前記ヒートシンクの接合界面の強度が過剰に高くなることを防止でき、熱歪みを前記第二の金属板及び前記ヒートシンクで吸収することができる。
【0022】
また、前記第二の金属板及び前記ヒートシンクには、Cuに加えて、Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素が固溶されていることが好ましい。
この場合、前記第二の金属板及び前記ヒートシンクに、Cuに加えて、Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素が固溶しているので、前記第二の金属板及び前記ヒートシンクの接合界面側部分を確実に固溶強化させることができる。
【0023】
なお、前記第一の金属板と前記セラミックス基板との接合界面近傍、あるいは、前記第二の金属板と前記セラミックス基板との接合界面近傍において、Cu又はSiのうちの1種以上に加えてZn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素が固溶されていることが好ましい。
この場合、前記第一の金属板と前記セラミックス基板との接合界面近傍、あるいは、前記第二の金属板と前記セラミックス基板との接合界面近傍に、Cu又はSiのうちの1種以上に加えてZn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素が固溶しているので、前記第一の金属板及び前記第二の金属板のうち前記セラミックス基板との接合界面側部分を確実に固溶強化させることができる。
【0024】
また、前記第二の金属板の厚さが、前記第一の金属板の厚さよりも厚くなるように設定されていることが好ましい。
この場合、ヒートシンクが設けられている側の剛性を、その反対側の剛性と比較して高くすることができ、これにより冷却後の反りをさらに抑えることができる。
【0025】
さらに、前記第二の金属板が、複数の金属板が積層されて構成されていることが好ましい。
この場合、第二の金属板が、複数の金属板が積層された構造とされているので、ヒートシンクとセラミックス基板との熱膨張係数の差に起因する熱歪みをこの第二の金属板で十分に緩和することができ、セラミックス基板での割れの発生を抑制することができる。
【0026】
本発明のパワーモジュールは、前述のヒートシンク付パワーモジュール用基板と、該ヒートシンク付パワーモジュール用基板上に搭載される電子部品と、を備えたことを特徴としている。
この構成のパワーモジュールによれば、ヒートシンクと第二の金属板との接合強度が高く、使用環境が厳しい場合であっても、半導体素子等の電子部品からの熱を放散させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、ヒートシンクと第二の金属板とを接合するヒートシンク接合工程における接合温度を低く設定しても、ヒートシンクと第二の金属板とを強固に接合でき、セラミックス基板と第一の金属板及び第二の金属板とを接合するセラミックス基板接合工程における接合温度も比較的低く設定することができ、高品質なヒートシンク付パワーモジュール用基板を提供することが可能なヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法、及び、この製造方法によって得られるヒートシンク付パワーモジュール用基板、パワーモジュールを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【図2】本発明の第1の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板の金属層及びヒートシンクのCu濃度分布を示す説明図である。
【図3】本発明の第1の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法のフロー図である。
【図4】本発明の第1の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図5】図4における第二の金属板(金属層)とヒートシンクとの接合界面近傍を示す説明図である。
【図6】本発明の第2の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【図7】本発明の第2の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板の金属層及びヒートシンクのCu濃度分布及びGe濃度分布を示す説明図である。
【図8】本発明の第2の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法のフロー図である。
【図9】本発明の第2の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図10】本発明の第3の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【図11】本発明の第3の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板の金属層及びヒートシンクのCu濃度分布及びAg濃度分布を示す説明図である。
【図12】本発明の第3の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法のフロー図である。
【図13】本発明の第3の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図14】本発明の第3の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図15】本発明の第4の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【図16】本発明の第4の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法のフロー図である。
【図17】本発明の第4の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図18】本発明の第4の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図19】本発明の他の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
図1に本発明の第1の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板及びパワーモジュールを示す。
このパワーモジュール1は、回路層12が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12の表面にはんだ層2を介して接合された半導体チップ3と、ヒートシンク40とを備えている。ここで、はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、回路層12とはんだ層2との間にNiメッキ層(図示なし)が設けられている。
【0030】
パワーモジュール用基板10は、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(図1において下面)に配設された金属層13とを備えている。
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。なお、本実施形態では、図1に示すように、セラミック基板11の幅は、回路層12及び金属層13の幅より広く設定されている。
【0031】
回路層12は、セラミックス基板11の一方の面に導電性を有する金属板22が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層12は、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板22がセラミックス基板11に接合されることにより形成されている。
金属層13は、セラミックス基板11の他方の面に金属板23が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層13は、回路層12と同様に、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板23がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
【0032】
ヒートシンク40は、前述のパワーモジュール用基板10を冷却するためのものであり、パワーモジュール用基板10と接合される天板部41と、冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路42と、を備えている。ヒートシンク40(天板部41)は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
【0033】
そして、図2に示すように、金属層13(金属板23)とヒートシンク40との接合界面30においては、金属層13(金属板23)及びヒートシンク40に、Cuが固溶している。金属層13及びヒートシンク40の接合界面30近傍には、接合界面30から積層方向に離間するにしたがい漸次Cu濃度が低下する濃度傾斜層33、34が形成されている。ここで、この濃度傾斜層33、34の接合界面30側(金属層13及びヒートシンク40の接合界面30近傍)のCu濃度が、0.05質量%以上5質量%以下の範囲内に設定されている。
なお、金属層13及びヒートシンク40の接合界面30近傍のCuの濃度は、EPMA分析(スポット径30μm)によって、接合界面30から50μmの位置で5点測定した平均値である。また、図2のグラフは、金属層13(金属板23)及びヒートシンク40(天板部41)の幅中央部分において積層方向にライン分析を行い、前述の50μm位置での濃度を基準として求めたものである。
【0034】
以下に、前述の構成のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法について、図3から図5を参照して説明する。
【0035】
(Cu層形成工程S01/Cu固着工程S11)
まず、図4、図5に示すように、回路層12となる金属板22の一面に、スパッタリングによってCuを固着して第1Cu層24を形成するとともに、金属層13となる金属板23の一面に、スパッタリングによってCuを固着して第2Cu層25を形成する(Cu固着工程S11)。
また、金属層13となる金属板23の他面に、スパッタリングによってCuを固着してCu層26を形成する(Cu層形成工程S01)。
ここで、本実施形態では、第1Cu層24、第2Cu層25及びCu層26におけるCu量は、0.08mg/cm以上2.7mg/cm以下に設定されている。
【0036】
(ヒートシンク積層工程S02/セラミックス基板積層工程S12)
次に、図4に示すように、金属板22をセラミックス基板11の一方の面側に積層し、かつ、金属板23をセラミックス基板11の他方の面側に積層する(セラミックス基板積層工程S12)。このとき、図4に示すように、金属板22の第1Cu層24、金属板23の第2Cu層25が形成された面がセラミックス基板11を向くように、金属板22、23を積層する。
さらに、金属板23の他方の面側に、ヒートシンク40を積層する(ヒートシンク積層工程S02)。このとき、図4に示すように、金属板23のCu層26が形成された面がヒートシンク40を向くように、金属板23とヒートシンク40とを積層する。
すなわち、金属板22、23とセラミックス基板11との間にそれぞれ第1Cu層24、第2Cu層25を介在させ、金属板23とヒートシンク40との間にCu層26を介在させているのである。
【0037】
(ヒートシンク加熱工程S03/セラミックス基板加熱工程S13)
次に、金属板22、セラミックス基板11、金属板23、ヒートシンク40を積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm)した状態で真空加熱炉内に装入して加熱し、金属板22、23とセラミックス基板11との界面にそれぞれ第一溶融金属領域27、第二溶融金属領域28を形成する(セラミックス基板加熱工程S13)。
また、同時に、金属板23とヒートシンク40との間に溶融金属領域29を形成する(ヒートシンク加熱工程S03)。
溶融金属領域29は、図5に示すように、Cu層26のCuが金属板23側及びヒートシンク40側に拡散することによって、金属板23及びヒートシンク40のCu層26近傍のCu濃度が上昇して融点が低くなることにより形成されるものである。
なお、上述の圧力が1kgf/cm未満の場合には、セラミックス基板11と金属板22、23との接合及び金属板23とヒートシンク40との接合を良好に行うことができなくなるおそれがある。また、上述の圧力が35kgf/cmを超えた場合には、金属板22,23及びヒートシンク40が変形するおそれがある。よって、上述の加圧圧力は、1〜35kgf/cmの範囲内とすることが好ましい。
ここで、本実施形態では、真空加熱炉内の圧力は10−6Pa以上10−3Pa以下の範囲内に、加熱温度は600℃以上650℃以下の範囲内に設定している。
【0038】
(溶融金属凝固工程S04/第一溶融金属及び第二溶融金属凝固工程S14)
次に、溶融金属領域29が形成された状態で温度を一定に保持しておく。すると、溶融金属領域29中のCuが、さらに金属板23側及びヒートシンク40側へと拡散していくことになる。これにより、溶融金属領域29であった部分のCu濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していくことになる。つまり、ヒートシンク40と金属板23とは、いわゆる拡散接合(Transient Liquid Phase Diffusion Bonding)によって接合されているのである。このようにして凝固が進行した後に、常温にまで冷却を行う。
【0039】
同様に、第一溶融金属領域27、第二溶融金属領域28中のCuが、さらに金属板22、23側へと拡散していくことになる。これにより、第一溶融金属領域27、第二溶融金属領域28であった部分のCu濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していくことになる。これにより、セラミックス基板11と金属板22、23とが接合される。
【0040】
以上のようにして、回路層12及び金属層13となる金属板22、23とセラミックス基板11とが接合され、かつ、金属板23とヒートシンク40とが接合され、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板が製造される。
【0041】
以上のような構成とされた本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板及びパワーモジュール1においては、金属層13となる金属板23とヒートシンク40との間にCu層26を形成するCu層形成工程S01を備えているので、金属板23とヒートシンク40との接合界面30には、Cuが介在することになる。ここで、Cuは、Alに対して反応性の高い元素であるため、接合界面30にCuが存在することによってアルミニウムからなる金属板23及びヒートシンク40の表面が活性化することになる。よって、金属板23とヒートシンク40とを強固に接合することが可能となる。
【0042】
また、本実施形態では、金属板22、23のセラミックス基板11との接合面にCuを固着させるCu固着工程S11を備えているので、金属板22、23とセラミックス基板11の接合界面にもCuが介在することになり、セラミックス基板11と金属板22、23とを強固に接合することが可能となる。
【0043】
さらに、ヒートシンク加熱工程S03において、金属板23の他面に形成されたCu層26のCuを金属板23側及びヒートシンク40側に拡散させることによって溶融金属領域29を形成し、溶融金属凝固工程S04において、溶融金属領域29中のCuをさらに金属板23側及びヒートシンク40側へ拡散させることによって凝固させて、ヒートシンク40と金属層13(金属板23)とを接合する構成としているので、比較的低温、短時間の接合条件で接合しても、ヒートシンク40と金属板23とを強固に接合することが可能となる。
【0044】
また、本実施形態では、セラミックス基板11と回路層12(金属板22)及び金属層13(金属板23)についても、セラミックス基板加熱工程S13において、金属板22、23の接合面に形成された第1Cu層24、第2Cu層25のCuを金属板22、23側に拡散させることによって第一溶融金属領域27、第二溶融金属領域28を形成し、第一溶融金属及び第二溶融金属凝固工程S14において、第一溶融金属領域27、第二溶融金属領域28中のCuをさらに金属板22、23側へ拡散させることによって凝固させて、セラミックス基板11と回路層12(金属板22)及び金属層13(金属板23)とを接合する構成としているので、比較的低温、短時間の接合条件で接合しても、セラミックス基板11と回路層12(金属板22)及び金属層13(金属板23)とを強固に接合することが可能となる。
【0045】
さらに、ヒートシンク40と金属板23との接合、及び、セラミックス基板11と金属板22、23との接合に、ろう材箔を使用していないので、ろう材箔の位置合わせ作業等を行う必要がなく、確実に、ヒートシンク40と金属板23、セラミックス基板11と金属板22,23、をそれぞれ接合することができる。よって、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板を、低コストで効率良く製出することが可能となる。
【0046】
また、本実施形態では、セラミックス基板11と金属板22、23との接合と、金属板23とヒートシンク40との接合とを、同時に行う構成としているので、これらの接合に掛かるコストを大幅に削減することができる。また、セラミックス基板11に対して繰り返し加熱、冷却を行わずに済むので、このヒートシンク付パワーモジュール用基板の反りの低減を図ることができ、高品質なヒートシンク付パワーモジュール用基板を製出することができる。
【0047】
さらに、Cu層形成工程S01は、スパッタリングによって金属板23の他面にCuを固着させてCu層26を形成する構成としているので、ヒートシンク40と金属板23との間にCuを確実に介在させることが可能となる。また、Cuの固着量を精度良く調整することができ、溶融金属領域29を確実に形成して、ヒートシンク40との金属板23とを強固に接合することが可能となる。
【0048】
また、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板においては、ヒートシンク40と金属層13(金属板23)との接合界面30において、金属層13(金属板23)及びヒートシンク40にCuが固溶しており、金属層13及びヒートシンク40のそれぞれの接合界面30側のCu濃度が、0.05質量%以上5質量%以下の範囲内に設定されているので、金属層13(金属板23)及びヒートシンク40の接合界面30側の部分が固溶強化し、金属層13(金属板23)及びヒートシンク40における亀裂の発生を防止することができる。よって、信頼性の高いヒートシンク付パワーモジュール用基板を提供することができる。
【0049】
次に、本発明の第2の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板及びパワーモジュールについて、図6から図9を用いて説明する。
このパワーモジュール101は、回路層112が配設されたパワーモジュール用基板110と、回路層112の表面にはんだ層2を介して接合された半導体チップ3と、ヒートシンク140とを備えている。
【0050】
パワーモジュール用基板110は、セラミックス基板111と、このセラミックス基板111の一方の面(図6において上面)に配設された回路層112と、セラミックス基板111の他方の面(図6において下面)に配設された金属層113とを備えている。
セラミックス基板111は絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されている。
【0051】
回路層112は、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板122がセラミックス基板111に接合されることにより形成されている。
金属層113は、回路層112と同様に、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板123がセラミックス基板111に接合されることで形成されている。
なお、本実施形態では、図6に示すように、金属層113の厚さが回路層112の厚さよりも厚くなるように設定されている。
【0052】
ヒートシンク140は、前述のパワーモジュール用基板110を冷却するためのものであり、パワーモジュール用基板110と接合される天板部141と、冷却媒体を流通するための流路142と、を備えている。ヒートシンク140(天板部141)は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
【0053】
そして、図7に示すように、金属層113(金属板123)とヒートシンク140との接合界面130においては、金属層113(金属板123)及びヒートシンク140に、Cuに加えてZn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素が固溶している。なお、本実施形態では、添加元素としてGeが固溶している。
【0054】
また、回路層112(金属板122)とセラミックス基板111との接合界面、及び、金属層113(金属板123)とセラミックス基板111との接合界面においては、Cuに加えてZn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素が固溶している。なお、本実施形態では、添加元素としてGeが固溶している。
【0055】
ここで、金属層113及びヒートシンク140の接合界面130近傍には、接合界面130から積層方向に離間するにしたがい漸次Cu濃度及びGe濃度が低下する濃度傾斜層133、134が形成されている。ここで、この濃度傾斜層133、134の接合界面130側(金属層113及びヒートシンク140の接合界面130近傍)のCuと添加元素(本実施形態ではGe)の合計の濃度が、0.05質量%以上6.5質量%以下の範囲内に設定されている。
なお、金属層113及びヒートシンク140の接合界面130近傍のCu濃度及びGe濃度は、EPMA分析(スポット径30μm)によって、接合界面130から50μmの位置で5点測定した平均値である。また、図7のグラフは、金属層113(金属板123)及びヒートシンク140(天板部141)の幅中央部分において積層方向にライン分析を行い、前述の50μm位置での濃度を基準として求めたものである。
【0056】
以下に、前述の構成のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法について、図8及び図9を参照して説明する。
【0057】
(Cu固着工程S101)
まず、図9に示すように、回路層112となる金属板122の一面に、スパッタリングによってCuを固着して第1Cu層124を形成するとともに、金属層113となる金属板123の一面に、スパッタリングによってCuを固着して第2Cu層125を形成する。なお、この第1Cu層124、第2Cu層125には、Cuに加えてZn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素が固着されており、本実施形態では、添加元素としてGeを用いている。
【0058】
(セラミックス基板積層工程S102)
次に、金属板122をセラミックス基板111の一方の面側に積層し、かつ、金属板123をセラミックス基板111の他方の面側に積層する。このとき、金属板122の第1Cu層124、金属板123の第2Cu層125が形成された面がセラミックス基板111を向くように、金属板122、123を積層する。
【0059】
(セラミックス基板加熱工程S103)
次に、金属板122、セラミックス基板111、金属板123を積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm)した状態で真空加熱炉内に装入して加熱し、金属板122、123とセラミックス基板111との界面にそれぞれ第一溶融金属領域、第二溶融金属領域を形成する。
ここで、本実施形態では、真空加熱炉内の圧力は10−6Pa以上10−3Pa以下の範囲内に、加熱温度は600℃以上650℃以下の範囲内に設定している。
【0060】
(第一溶融金属及び第二溶融金属凝固工程S104)
次に、第一溶融金属領域、第二溶融金属領域が形成された状態で温度を一定に保持しておき、第一溶融金属領域、第二溶融金属領域中のCuを、金属板122、123側へと拡散させ、温度を一定に保持した状態で凝固させ、セラミックス基板111と金属板122、123を接合する。このようにして、パワーモジュール用基板110を製出する。
【0061】
(Cu層形成工程S105/ヒートシンク積層工程S106)
次に、パワーモジュール用基板110の金属層113の他方の面側に、Cu及びGeを固着してCu層126を形成する。このCu層126におけるCu量は、0.08mg/cm以上2.7mg/cm以下に設定されており、Ge量は、0.002mg/cm以上2.5mg/cm以下に設定されている。
そして、このCu層126を介して、金属層113の他方の面側にヒートシンク140を積層する。
【0062】
(ヒートシンク加熱工程S107)
次に、パワーモジュール用基板110とヒートシンク140を積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm)した状態で真空加熱炉内に装入して加熱し、金属層113とヒートシンク140との間に溶融金属領域を形成する。
ここで、本実施形態では、真空加熱炉内の圧力は10−6Pa以上10−3Pa以下の範囲内に、加熱温度は600℃以上650℃以下の範囲内に設定している。
【0063】
(溶融金属凝固工程S108)
次に、溶融金属領域が形成された状態で温度を一定に保持しておく。すると、溶融金属領域中のCu及びGeが、さらに金属層113側及びヒートシンク140側へと拡散していくことになる。これにより、溶融金属領域であった部分のCu濃度及びGe濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していくことになる。このようにして凝固が進行した後に、常温にまで冷却を行う。
【0064】
このようにして、パワーモジュール用基板110とヒートシンク140とが接合され、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板が製造される。
【0065】
以上のような構成とされた本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板及びパワーモジュール101においては、ヒートシンク140と金属層113との間に、CuとともにGeを固着させ、これらCuとGeを拡散させることによって溶融金属領域を形成し、さらに溶融金属領域中のCuとGeを拡散させて、ヒートシンク140とパワーモジュール用基板110とを接合しているので、比較的低温条件においても、ヒートシンク140とパワーモジュール用基板110とを確実に接合することが可能となる。
【0066】
また、Cuに加えてGeを添加し、これらCuとGeを拡散させて溶融金属領域を形成する構成としているので、ヒートシンク140及び金属層113の接合界面130近傍の融点をさらに低下させることができ、ヒートシンク加熱工程S107における接合温度を、セラミックス基板加熱工程S103における接合温度よりも低く設定しても、ヒートシンク140とパワーモジュール用基板110とを接合することができる。
【0067】
さらに、本実施形態では、金属層113の厚さが、回路層112の厚さよりも厚くなるように構成されているので、セラミックス基板111を基準として、金属層113側(すなわち、ヒートシンク140が設けられている側)の剛性が、回路層112側の剛性よりも高く設定されることになり、接合後のヒートシンク付パワーモジュール用基板の反りを抑制することができる。
【0068】
次に、本発明の第3の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板及びパワーモジュールについて、図10から図14を用いて説明する。
このパワーモジュール201は、回路層212が配設されたパワーモジュール用基板210と、回路層212の表面にはんだ層2を介して接合された半導体チップ3と、ヒートシンク240とを備えている。
【0069】
パワーモジュール用基板210は、セラミックス基板211と、このセラミックス基板211の一方の面(図10において上面)に配設された回路層212と、セラミックス基板211の他方の面(図10において下面)に配設された金属層213とを備えている。 なお、セラミックス基板211は絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されている。
【0070】
回路層212は、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板222がセラミックス基板211に接合されることにより形成されている。
金属層213は、回路層212と同様に、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板223がセラミックス基板211に接合されることで形成されている。
【0071】
ヒートシンク240は、前述のパワーモジュール用基板210を冷却するためのものである。本実施形態であるヒートシンク240は、パワーモジュール用基板210と接合される天板部241と、この天板部241に対向するように配置された底板部245と、天板部241と底板部245との間に介装されたコルゲートフィン246と、を備えており、天板部241と底板部245とコルゲートフィン246とによって、冷却媒体が流通する流路242が画成されている。
【0072】
ここで、このヒートシンク240は、天板部241とコルゲートフィン246、コルゲートフィン246と底板部245が、それぞれろう付けされることによって構成されている。本実施形態では、図14に示すように、天板部241及び底板部245は、A3003合金からなる基材層241A、245Aと、A4045合金からなる接合層241B、245Bとが積層された積層アルミ板で構成されており、接合層241B、245Bがコルゲートフィン246側を向くように、天板部241及び底板部245が配設されている。つまり、天板部241の基材層241Aが金属層213に接する構成とされているのである。
【0073】
そして、図11に示すように、ヒートシンク240(天板部241の基材層241A)と金属層213(金属板223)との接合界面230においては、金属層213(金属板223)及びヒートシンク240(天板部241の基材層241A)に、Cuに加えてZn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素が固溶している。なお、本実施形態では、添加元素としてAgが固溶している。
【0074】
また、回路層212(金属板222)とセラミックス基板211との接合界面、及び、金属層213(金属板223)とセラミックス基板211との接合界面においては、Cuに加えてZn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素が固溶しており、本実施形態ではAgが固溶している。
【0075】
ここで、金属層213及びヒートシンク240の接合界面230近傍には、接合界面230から積層方向に離間するにしたがい漸次Cu濃度及びAg濃度が低下する濃度傾斜層233、234が形成されている。ここで、この濃度傾斜層233、234の接合界面230側(金属層213及びヒートシンク240の接合界面230近傍)のCuと添加元素(本実施形態ではAg)の合計の濃度が、0.05質量%以上6.5質量%以下の範囲内に設定されている。
なお、金属層213及びヒートシンク240の接合界面230近傍のCu濃度及びAg濃度は、EPMA分析(スポット径30μm)によって、接合界面230から50μmの位置で5点測定した平均値である。また、図11のグラフは、金属層213(金属板223)及びヒートシンク240(天板部241)の幅中央部分において積層方向にライン分析を行い、前述の50μm位置での濃度を基準として求めたものである。
【0076】
以下に、前述の構成のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法について説明する。
【0077】
(Cu固着工程S201)
まず、図13に示すように、回路層212となる金属板222の一面に、スパッタリングによってCuを固着して第1Cu層224を形成するとともに、金属層213となる金属板223の一面に、スパッタリングによってCuを固着して第2Cu層225を形成する。なお、この第1Cu層224、第2Cu層225には、Cuに加えてZn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素が固着されており、本実施形態では、添加元素としてAgを用いている。
ここで、本実施形態では、第1Cu層224、第2Cu層225におけるCu量は、0.08mg/cm以上2.7mg/cm以下に設定されている。また、Ag量は、0.08mg/cm以上5.4mg/cm以下に設定されている。
【0078】
(セラミックス基板積層工程S202)
次に、図13に示すように、金属板222をセラミックス基板211の一方の面側に積層し、かつ、金属板223をセラミックス基板211の他方の面側に積層する。このとき、図13に示すように、金属板222の第1Cu層224、金属板223の第2Cu層225が形成された面がセラミックス基板211を向くように、金属板222、223を積層する。すなわち、金属板222、223とセラミックス基板211との間にそれぞれ第1Cu層224、第2Cu層225を介在させているのである。
【0079】
(セラミックス基板加熱工程S203)
次に、金属板222、セラミックス基板211、金属板223を積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm)した状態で、真空加熱炉内に装入して加熱し、金属板222、223とセラミックス基板211との界面にそれぞれ第一溶融金属領域、第二溶融金属領域を形成する。
ここで、本実施形態では、真空加熱炉内の圧力は10−6Pa以上10−3Pa以下の範囲内に、加熱温度は600℃以上650℃以下の範囲内に設定している。
【0080】
(第一溶融金属及び第二溶融金属凝固工程S204)
次に、第一溶融金属領域、第二溶融金属領域が形成された状態で温度を一定に保持しておく。すると、第一溶融金属領域、第二溶融金属領域中のCu及びAgが、さらに金属板222、223側へと拡散していくことになる。これにより、第一溶融金属領域、第二溶融金属領域であった部分のCu濃度及びAg濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していく。これにより、セラミックス基板211と金属板222、223とが接合され、パワーモジュール用基板210が製出されることになる。
【0081】
(Cu層形成工程S205)
次に、金属層213の他方の面に、スパッタリングによってCu及びAgを固着してCu層226を形成する。ここで、本実施形態では、Cu層226におけるCu量は、0.08mg/cm以上2.7mg/cm以下に設定され、Ag量は、0.08mg/cm以上5.4mg/cm以下に設定されている。
【0082】
(ヒートシンク積層工程S206)
次に、図14に示すように、パワーモジュール用基板210の金属層213の他方の面側に、ヒートシンク240を構成する天板部241、コルゲートフィン246、底板部245を積層する。このとき、天板部241の接合層241B及び底板部245の接合層245Bがコルゲートフィン246側を向くように、天板部241及び底板部245を積層する。また、天板部241とコルゲートフィン246、底板部245とコルゲートフィン246との間には、例えば、KAlFを主成分とするフラックス(図示なし)を介在させておく。
また、金属板223のCu層226が形成された面が、ヒートシンク240の天板部241を向くように配置し、金属板223とヒートシンク240との間にCu層226を介在させる。
【0083】
(ヒートシンク加熱工程S207)
次に、積層されたパワーモジュール用基板210、天板部241、コルゲートフィン246及び底板部245を積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm)した状態で、雰囲気加熱炉内に装入して加熱し、金属板223とヒートシンク240の天板部241との間に溶融金属領域を形成する。同時に、天板部241とコルゲートフィン246、底板部245とコルゲートフィン246との間にも、接合層241B、245Bを溶融させた溶融金属層を形成する。
ここで、本実施形態では、雰囲気加熱炉内は、窒素ガス雰囲気とされており、加熱温度は550℃以上630℃以下の範囲内に設定している。
【0084】
(溶融金属凝固工程S208)
次に、溶融金属領域が形成された状態で温度を一定に保持しておく。すると、溶融金属領域中のCu及びAgが、さらに金属板223側及びヒートシンク240の天板部241側へと拡散していくことになる。これにより、溶融金属領域であった部分のCu濃度及びAg濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していくことになる。つまり、ヒートシンク240の天板部241と金属板223とは、いわゆる拡散接合(Transient Liquid Phase Diffusion Bonding)によって接合されているのである。このようにして凝固が進行した後に、常温にまで冷却を行う。
【0085】
また、天板部241とコルゲートフィン246、底板部245とコルゲートフィン246の間に形成された溶融金属層が凝固することによって、天板部241とコルゲートフィン246、底板部245とコルゲートフィン246とがろう付けされることになる。このとき、天板部241、コルゲートフィン246、底板部245の表面には、酸化被膜が形成されているが、前述のフラックスによってこれらの酸化被膜が除去される。
【0086】
このようにして、天板部241とコルゲートフィン246と底板部245とがろう付けされてヒートシンク240が形成されるとともに、このヒートシンク240とパワーモジュール用基板210とが接合されて本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板が製造される。
【0087】
以上のような構成とされた本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法においては、ヒートシンク240と金属層213との間に、CuとともにAgを固着させ、これらCuとAgを拡散させることによって溶融金属領域を形成し、さらに溶融金属領域中のCuとAgを拡散させて、ヒートシンク240とパワーモジュール用基板210とを接合しているので、比較的低温条件においても、ヒートシンク240とパワーモジュール用基板210とを確実に接合することが可能となる。
【0088】
ここで、ヒートシンク240を、フラックスを用いたろう付けによって形成する場合、窒素ガス雰囲気で550℃以上630℃以下の温度条件で接合することになるが、本実施形態では、ヒートシンク240とパワーモジュール用基板210との接合に、Cuと添加元素(Ag)とを用いていて、前述のように、低温条件での接合及び窒素ガス雰囲気での接合が可能なことから、ヒートシンク240とパワーモジュール用基板210との接合と同時に、天板部241とコルゲートフィン246と底板部245とを、ろう付けによって接合してヒートシンク240を製出することができる。よって、このヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造工程を省略することができ、製作コストの削減を図ることができる。
【0089】
次に、本発明の第4の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板及びパワーモジュールについて、図15から図18を用いて説明する。
このパワーモジュール301は、回路層312が配設されたパワーモジュール用基板310と、回路層312の表面にはんだ層2を介して接合された半導体チップ3と、ヒートシンク340とを備えている。
【0090】
パワーモジュール用基板310は、セラミックス基板311と、このセラミックス基板311の一方の面(図15において上面)に配設された回路層312と、セラミックス基板311の他方の面(図15において下面)に配設された金属層313とを備えている。 なお、セラミックス基板311は絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されている。
【0091】
回路層312は、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板322がセラミックス基板311に接合されることにより形成されている。
金属層313は、回路層312と同様に、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板323がセラミックス基板311に接合されることで形成されている。
【0092】
ヒートシンク340は、前述のパワーモジュール用基板310を冷却するためのものである。本実施形態であるヒートシンク340は、パワーモジュール用基板310と接合される天板部341と、この天板部341に対向するように配置された底板部345と、天板部341と底板部345との間に介装されたコルゲートフィン346と、を備えており、天板部341と底板部345とコルゲートフィン346とによって、冷却媒体が流通する流路342が画成されている。
ここで、このヒートシンク340は、天板部341とコルゲートフィン346、コルゲートフィン346と底板部345が、それぞれろう付けされることによって構成されている。
【0093】
そしてヒートシンク340の天板部341と金属層313(金属板323)との接合界面においては、金属層313(金属板323)及び天板部341に、Cuに加えてZn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素が固溶している。なお、本実施形態では、添加元素としてAgが固溶している。
また、回路層312(金属板322)とセラミックス基板311との接合界面、及び、金属層313(金属板323)とセラミックス基板311との接合界面においては、Cuに加えてZn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素が固溶しており、本実施形態ではAgが固溶している。
【0094】
以下に、前述の構成のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法について説明する。
【0095】
(固着層形成工程S301)
まず、図17に示すように、回路層312となる金属板322の一面に、スパッタリングによってCuを固着して第1Cu層324を形成するとともに、金属層313となる金属板323の一面に、スパッタリングによってCuを固着して第2Cu層325を形成する。さらに、金属板323の他面にもスパッタリングによってCuを固着してCu層326を形成する。
なお、この第1Cu層324、第2Cu層325、Cu層326には、Cuに加えてZn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素が固着されており、本実施形態では、添加元素としてAgを用いている。
ここで、本実施形態では、第1Cu層324、第2Cu層325、Cu層326におけるCu量は、0.08mg/cm以上2.7mg/cm以下に設定されている。また、Ag量は、0.08mg/cm以上5.4mg/cm以下に設定されている。
【0096】
(積層工程S302)
次に、図17に示すように、金属板322をセラミックス基板311の一方の面側に積層し、かつ、金属板323をセラミックス基板311の他方の面側に積層する。このとき、図17に示すように、金属板322の第1Cu層324、金属板323の第2Cu層325が形成された面がセラミックス基板311を向くように、金属板322、323を積層する。
さらに、金属板323のCu層326が形成された面側に、天板部341を積層配置する。
【0097】
(加熱工程S303)
次に、金属板322、セラミックス基板311、金属板323、天板部341を積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm)した状態で、真空加熱炉内に装入して加熱し、金属板322、323とセラミックス基板311との界面にそれぞれ第一溶融金属領域、第二溶融金属領域を形成するとともに、金属板323と天板部341との間に、溶融金属領域を形成する。
ここで、本実施形態では、真空加熱炉内の圧力は10−6Pa以上10−3Pa以下の範囲内に、加熱温度は600℃以上650℃以下の範囲内に設定している。
【0098】
(溶融金属凝固工程S304)
次に、第一溶融金属領域、第二溶融金属領域が形成された状態で温度を一定に保持しておく。すると、第一溶融金属領域、第二溶融金属領域中のCu及びAgが、さらに金属板322、323側へと拡散していくことになる。すると、第一溶融金属領域、第二溶融金属領域であった部分のCu濃度及びAg濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していく。これにより、セラミックス基板311と金属板322、323とが接合される。
また、溶融金属領域が形成された状態で温度を一定に保持しておく。すると、溶融金属領域中のCu及びAgが、金属板323及び天板部341側へと拡散していくことになる。すると、溶融金属領域であった部分のCu濃度及びAg濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していく。これにより、金属板323と天板部341とが接合される。
【0099】
(フィン積層工程S305)
次に、図18に示すように、天板部341の他方の面側に、ろう材箔347(例えば、Al−10%Si合金箔等の低融点アルミニウム合金箔)、コルゲートフィン346、底板部345を積層する。このとき、底板部345の接合層345Bがコルゲートフィン346側を向くように底板部345を積層する。また、天板部341とコルゲートフィン346、底板部345とコルゲートフィン346との間には、例えば、KAlFを主成分とするフラックス(図示なし)を介在させておく。
【0100】
(ろう付け工程S306)
次に、天板部341、コルゲートフィン346及び底板部345を積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm)した状態で、雰囲気加熱炉内に装入して加熱し、天板部341とコルゲートフィン346、底板部345とコルゲートフィン346との間に、ろう材箔347及び接合層345Bを溶融させた溶融金属層を形成する。
ここで、本実施形態では、雰囲気加熱炉内は、窒素ガス雰囲気とされており、加熱温度は550℃以上630℃以下の範囲内に設定している。
そして、冷却することによって、天板部341とコルゲートフィン346、底板部345とコルゲートフィン346の間に形成された溶融金属層を凝固させ、天板部341とコルゲートフィン346、底板部345とコルゲートフィン346とをろう付けする。このとき、天板部341、コルゲートフィン346、底板部345の表面には、酸化被膜が形成されているが、前述のフラックスによってこれらの酸化被膜が除去されることになる。
【0101】
このようにして、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板が製造される。
【0102】
以上のような構成とされた本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法においては、ヒートシンク340の天板部341と金属層313との間に、CuとともにAgを固着させ、これらCuとAgを拡散させることによって溶融金属領域を形成し、さらに溶融金属領域中のCuとAgを拡散させて、ヒートシンク340の天板部341とパワーモジュール用基板310とを接合しているので、比較的低温条件においても、ヒートシンク340の天板部341とパワーモジュール用基板310とを確実に接合することが可能となる。
【0103】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、回路層及び金属層を構成する金属板を純度99.99%の純アルミニウムの圧延板としたものとして説明したが、これに限定されることはなく、純度99%のアルミニウム(2Nアルミニウム)であってもよい。
また、セラミックス基板をAlNで構成されたものとして説明したが、これに限定されることはなく、Si、Al等の他のセラミックスで構成されていてもよい。
【0104】
さらに、第2、第3、第4の実施形態においては、Cu層形成工程で、Cuとともに添加元素としてGe又はAgを固着させるものとして説明したが、これに限定されることはない。添加元素として、Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上を用いても良い。ここで、Cuと添加元素の固着量の合計は、0.08mg/cm以上10mg/cm以下とすることが好ましい。
【0105】
さらに、Cu層形成工程において、金属層となる金属板の他面にCuを固着させる構成としたものとして説明したが、これに限定されることはなく、ヒートシンクの接合面にCuを固着させてもよいし、ヒートシンクの接合面及び金属板の他面に、それぞれCuを固着させてもよい。
また、Cu層形成工程において、スパッタによってCu及び前記添加元素を固着するものとして説明したが、これに限定されることはなく、めっき、蒸着、CVD、コールドスプレー、又は、粉末が分散しているペースト及びインクなどの塗布等でCuを固着させてもよい。
さらに、Cu層形成工程において、CuとともにAlを固着する構成としてもよい。
【0106】
また、本実施形態では、ヒートシンクの上に一つのパワーモジュール用基板が接合された構成として説明したが、これに限定されることはなく、一つのヒートシンクの上に複数のパワーモジュール用基板が接合されていてもよい。
【0107】
また、第1、第2の実施形態において、ヒートシンクと金属層(金属板)との接合を、真空加熱炉を用いて行うものとして説明したが、これに限定されることはなく、N雰囲気、Ar雰囲気及びHe雰囲気等でヒートシンクと金属層(金属板)との接合を行ってもよい。
さらに、セラミックス基板と金属板とをろう材を使用せずに接合したものとして説明したが、これに限定されることはなく、セラミックス基板と金属板とをろう材を使用して接合したパワーモジュール用基板を用いてもよい。
【0108】
また、第3の実施形態において、天板部及び底板部が、基材層と接合層とを備えた積層アルミ材で構成されたものとして説明したが、これに限定されることはなく、コルゲートフィンを、例えばA3003からなる芯材とこの芯材の両面にA4045からなる接合層とを備えたクラッド材で構成してもよい。この場合、天板部及び底板部は、単純なアルミニウム板を用いることができる。
【0109】
また、天板部、コルゲートフィン、底板部の材質は、本実施形態に限定されることはない。
さらに、コルゲートフィンの形状等を含め、ヒートシンクの構造も本実施形態に限定されるものではない。例えば、第3、第4の実施形態における天板部のみを放熱板としてパワーモジュール用基板に接合したものであってもよい。
【0110】
さらに、図19に示すように、第二の金属板413を、複数の金属板413A、413Bを積層した構造としてもよい。この場合、第二の金属板413のうち一方側(図19において上側)に位置する金属板413Aがセラミックス基板411に接合され、他方側(図19において下側)に位置する金属板413Bがヒートシンク440の天板部441に接合されることになる。そして、他方側に位置する金属板413Bとヒートシンク440の天板部441との間にCu層を形成することで、他方側に位置する金属板413Bとヒートシンク440の天板部441とが接合されているのである。ここで、積層された金属板413A、413B同士をCu層を介して接合することで第二の金属板413を構成してもよい。なお、図19では、2枚の金属板413A、413Bを積層させたものとしているが、積層する枚数に制限はない。また、図19に示すように、積層する金属板同士の大きさ、形状が異なっていても良いし、同じ大きさ、形状に調整されたものであってもよい。さらに、これらの金属板の組成が異なっていても良い。
【符号の説明】
【0111】
10、110、210、310、410 パワーモジュール用基板
11、111、211、311、411 セラミックス基板
12、112、212、312、412 回路層(第一の金属板)
13、113、213、313、413 金属層(第二の金属板)
40、140、240、340、440 ヒートシンク
24、124、224、324 第1Cu層(第1金属層)
25、125,225、325 第2Cu層(第2金属層)
26、126、226、326 Cu層
27 第一溶融金属領域
28 第二溶融金属領域
29 溶融金属領域
30、130、230 接合界面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板と、該セラミックス基板の表面に一面が接合されたアルミニウムからなる第一の金属板と、前記セラミックス基板の裏面に一面が接合されたアルミニウムからなる第二の金属板と、該第二の金属板の前記セラミックス基板と接合された前記一面と反対側の他面に接合されたアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるヒートシンクとを備えるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記セラミックス基板と前記第一の金属板、及び、前記セラミックス基板と前記第二の金属板とを接合するセラミックス基板接合工程と、
前記第二の金属板の他面に前記ヒートシンクを接合するヒートシンク接合工程と、を有し、
前記ヒートシンク接合工程は、
前記第二の金属板の他面と前記ヒートシンクの接合面のうち少なくとも一方にCuを固着してCu層を形成するCu層形成工程と、
前記Cu層を介して前記第二の金属板と前記ヒートシンクとを積層するヒートシンク積層工程と、
積層された前記第二の金属板と前記ヒートシンクとを積層方向に加圧するとともに加熱し、前記第二の金属板と前記ヒートシンクとの界面に溶融金属領域を形成するヒートシンク加熱工程と、
この溶融金属領域を凝固させることによって、前記第二の金属板と前記ヒートシンクとを接合する溶融金属凝固工程と、を有し、
前記ヒートシンク加熱工程において、前記Cu層のCuを前記第二の金属板及び前記ヒートシンクに拡散させることにより、前記第二の金属板と前記ヒートシンクとの界面に、前記溶融金属領域を形成することを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項2】
前記Cu層形成工程において、前記第二の金属板の他面と前記ヒートシンクの接合面のうち少なくとも一方に、Cuに加えて、Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着することを特徴とする請求項1に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項3】
前記Cu層形成工程では、CuとともにAlを固着させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項4】
前記セラミックス基板接合工程は、
前記セラミックス基板と前記第一の金属板との接合界面における前記セラミックス基板の接合面と前記第一の金属板の接合面のうちの少なくとも一方にCu又はSiのうちの1種以上を固着して第1金属層を形成するとともに、前記セラミックス基板と前記第二の金属板との接合界面における前記セラミックス基板の接合面と前記第二の金属板の接合面のうちの少なくとも一方にCu又はSiのうちの1種以上を固着して第2金属層を形成する金属固着工程と、
前記第1金属層を介して前記セラミックス基板と前記第一の金属板とを積層するとともに、前記第2金属層を介して前記セラミックス基板と前記第二の金属板とを積層するセラミックス基板積層工程と、
積層された前記第一の金属板と前記セラミックス基板と前記第二の金属板とを積層方向に加圧するとともに加熱し、前記第一の金属板と前記セラミックス基板との界面及び前記セラミックス基板と前記第二の金属板との界面に、第一溶融金属領域及び第二溶融金属領域を形成するセラミックス基板加熱工程と、
この第一溶融金属領域及び第二溶融金属領域を凝固させることによって、前記第一の金属板と前記セラミックス基板及び前記セラミックス基板と前記第二の金属板とを接合する第一溶融金属及び第二溶融金属凝固工程と、を有し、
前記セラミックス基板加熱工程において、前記第1金属層及び前記第2金属層のCu又はSiのうちの1種以上を前記第一の金属板及び前記第二の金属板に拡散させることにより、前記第一の金属板と前記セラミックス基板との界面及び前記セラミックス基板と前記第二の金属板との界面に、前記第一溶融金属領域及び前記第二溶融金属領域を形成することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項5】
前記セラミックス基板接合工程と、前記ヒートシンク接合工程と、を同時に行うことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項6】
前記Cu層形成工程は、めっき、蒸着、CVD、スパッタリング、コールドスプレー、又は、粉末が分散しているペースト及びインクなどの塗布によって前記ヒートシンクの接合面及び前記第二の金属板の接合面のうち少なくとも一方に、Cuを固着させることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項7】
前記第二の金属板が、複数の金属板が積層されて構成されていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項8】
セラミックス基板と、
該セラミックス基板の表面に一面が接合されたアルミニウムからなる第一の金属板と、
前記セラミックス基板の裏面に一面が接合されたアルミニウムからなる第二の金属板と、
該第二の金属板の前記セラミックス基板と接合された前記一面と反対側の他面に接合されたアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるヒートシンクとを備え、
前記第二の金属板及び前記ヒートシンクには、Cuが固溶されており、前記第二の金属板及び前記ヒートシンクの接合界面近傍におけるCu濃度が0.05質量%以上5質量%以下の範囲内に設定されていることを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板。
【請求項9】
前記第二の金属板及び前記ヒートシンクには、Cuに加えて、Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素が固溶されていることを特徴とする請求項8に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板。
【請求項10】
前記第一の金属板と前記セラミックス基板との接合界面近傍、あるいは、前記第二の金属板と前記セラミックス基板との接合界面近傍において、Cu又はSiのうちの1種以上に加えてZn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素が固溶されていることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板。
【請求項11】
前記第二の金属板の厚さが、前記第一の金属板の厚さよりも厚くなるように設定されていることを特徴とする請求項8から請求項10のいずれか一項に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板。
【請求項12】
前記第二の金属板が、複数の金属板が積層されて構成されていることを特徴とする請求項8から請求項11のいずれか一項に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板。
【請求項13】
請求項8から請求項12のいずれか一項に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板と、
該ヒートシンク付パワーモジュール用基板上に搭載される電子部品と、を備えたことを特徴とするパワーモジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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