説明

ヒール付き靴

【課題】射出成形できると共に防滑性に優れ且つ歩行音が生じないリフトを備えたヒール付き靴を提供することを目的とする。
【解決手段】 ヒール付き靴に取り付けられるリフトの素材に、熱可塑性ポリウレタンエラストマーにスチレンブタジエン合成ゴムとワックスを含有したものを使用する。熱可塑性ポリウレタンエラストマーにスチレンブタジエン合成ゴムを含有させると、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの耐摩耗性を落とすことなく、硬度を下げることができる。また、ワックスを含有することで、スチレンブタジエン合成ゴムの分解温度を、熱可塑性ポリウレタンを射出成形する際の溶解温度以上まで上げる事ができ、スチレンブタジエン合成ゴムが含有された熱可塑性ポリウレタンエラストマーのヒールリフトの射出成形を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイヒールやサンダル、ブーツ、その他のヒール付き靴に関する。
【背景技術】
【0002】
靴底のヒールの下端に取り付けられるリフトの素材には、耐摩耗性に優れた熱可塑性ポリウレタンエラストマーが一般的に用いられている。特開平6−78806号公報には、熱可塑性ポリウレタンエラストマー自体の耐摩耗性を高める手段として、熱可塑性ポリウレタンエラストマーに炭素繊維を加えることが提案されている。
【特許文献1】特開平6−78806号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、熱可塑性ポリウレタンエラストマーは硬いために、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを素材としたリフトが取り付けられた靴は、滑り易く、さらに、歩いた際にコツコツという歩行音が生じ、その音と振動が頭に響き歩行者に不快感を与えてしまう。
【0004】
歩行音が生じ難く、且つ、防滑性の良いリフトを実現するには、硬度の低い素材の開発が必須であった。
【0005】
例えば熱可塑性ポリウレタンエラストマーの硬度を下げる手法として、熱可塑性ポリウレタンエラストマーに天然ゴムなどを混入する手法がある。
【0006】
リフトを射出成型する場合、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの溶融温度である180℃前後に熱可塑性ポリウレタンエラストマーを加熱する工程を経る必要がある。しかし、天然ゴムの分解温度は90℃前後であるので、天然ゴムを混入した熱可塑性ポリウレタンエラストマーを射出成型しようとすると、加熱工程で天然ゴムが分解してしまう。そのため、天然ゴムを混入した熱可塑性ポリウレタンエラストマーを射出成形によってリフトを成型することができない。
【0007】
そこで、本発明は、射出成形できると共に防滑性に優れ且つ歩行音が生じないリフトを備えたヒール付き靴を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のヒール付き靴に取り付けられるリフトの素材に、熱可塑性ポリウレタンエラストマーにスチレンブタジエン合成ゴムとワックスを含有したものを用いる。熱可塑性ポリウレタンエラストマーにスチレンブタジエン合成ゴムを含有させると、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの耐摩耗性を落とすことなく、硬度を下げることができる。
【0009】
歩行音が生じず、且つ、防滑性を向上させるためには、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの硬度は低いほどよいが、余り低いとリフトが型崩れを起こし歩き難くなる可能性があるので、熱可塑性ポリウレタンエラストマーのD硬度は60〜70が好ましい。D硬度を60〜70にする配合例として、スチレンとブタジエンの重量割合が4:6のスチレンブタジエン合成ゴムと熱可塑性ポリウレタンエラストマーの重量割合を3:7とするものがある。
【0010】
スチレンブタジエン合成ゴムのスチレンとブタジエンの重量割合は、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの物性に影響を及ぼす。例えば、スチレンとブタジエンの重量割合が3:7よりもスチレンの重量割合が低い場合、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの硬度がリフトの素材として必要な硬度より低くなる。また、スチレンとブタジエンの重量割合が5:5よりもスチレンの重量割合が高い場合、脆くて光沢の無い熱可塑性ポリウレタンエラストマーが生成されてしまう。
【0011】
従って、本発明に用いるスチレンブタジエン合成ゴムのスチレンとブタジエンの重量割合は、3:7〜5:5であることが好ましい。
【0012】
上記でD硬度60〜70の熱可塑性ポリウレタンエラストマーを生成する場合の配合例を記載したが、リフトに要求されるD硬度が60〜70以外である場合は、スチレンブタジエン合成ゴムと熱可塑性ポリウレタンエラストマーの重量割合を変えることで、要求される硬度の熱可塑性ポリウレタンエラストマーを生成してもよい。例えば、D硬度が70以上の硬目のリフトが要求される場合は、スチレンブタジエン合成ゴムと熱可塑性ポリウレタンエラストマーの重量割合を2:8や1:9等スチレンブタジエン合成ゴムの割合を3:7の場合より少なくする。一方、D硬度が60以下の柔らかめのリフトが要求される場合は、スチレンブタジエン合成ゴムと熱可塑性ポリウレタンエラストマーの重量割合を4:6等スチレンブタジエン合成ゴムの割合を3:7の場合より多くする。
【0013】
リフトを射出成形する際には、スチレンブタジエン合成ゴムを含有した熱可塑性ポリウレタンエラストマーを溶融させる必要がある。しかし、熱可塑性ポリウレタンエラストマーは上述のように180℃前後で溶融するので、射出成形の際の溶融温度は180℃前後となる。しかし、スチレンブタジエン合成ゴムは、130℃前後で分解するので、熱可塑性ポリウレタンエラストマーにスチレンブタジエン合成ゴムを含有させた素材では、リフトを射出成形することができない。リフトを射出成形できるようにするために、スチレンブタジエン合成ゴムが含有した熱可塑性ポリウレタンエラストマーにワックスを含有させて、スチレンブタジエン合成ゴムの分解温度を射出成形の際の溶融温度以上とする。
【0014】
ワックスの含有量は、スチレンブタジエンの分解温度が溶融温度以上となる量であれば、限定されるものでない。但し、ワックスの含有量を多くすると、射出成型後の熱可塑性ポリウレタンエラストマーから油が滲み出、ワックスの含有量を少なくすると、射出成形の際に熱可塑性ポリウレタンエラストマーの滑りが悪く、リフトの射出成形が困難となる。従って、スチレンブタジエン合成ゴムを含有した熱可塑性ポリウレタンエラストマーとワックスの重量割合は、100:0.2〜0.3程度となる量が好ましい。
【0015】
以上のように、熱可塑性ポリウレタンエラストマーにスチレンブタジエン合成ゴムとワックスを含有させることで、熱可塑性ポリウレタンエラストマーでリフトを射出成形することが可能となる。更に、ワックスを含有することによって、リフトの光沢が増す効果もえられる。
【0016】
また、女性用ピンヒールなどヒール本体の接地部が1cm程度の小さいヒール付き靴では、接地部に掛かる応力が大きいために、接地部の小さいヒール付き靴のリフトには耐摩耗性が要求される。耐摩耗性が要求されるヒール付き靴においては、リフトの素材として、ポリカーボネート系ポリウレタン又はポリアセタール樹脂ユピタールの何れかと、ワックスとが含有された熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いる。
【0017】
熱可塑性ポリウレタンエラストマーにポリカーボネート系ポリウレタン又はポリアセタール樹脂ユピタールを含有させると、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの耐摩耗性を著しく向上させることができる。ポリカーボネート系ポリウレタン又はポリアセタール樹脂ユピタールと共にワックスを含有させるのは、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの耐摩耗性をより良くするためである。
【0018】
熱可塑性ポリウレタンエラストマーにポリカーボネート系ポリウレタンを含有させる場合、熱可塑性ポリウレタンエラストマーとポリカーボネート系ポリウレタンの重量割合は1:9〜3:7の範囲が好ましい。一方、熱可塑性ポリウレタンエラストマーにポリアセタール樹脂ユピタールを含有させる場合、熱可塑性ポリウレタンエラストマーとポリアセタール樹脂ユピタールの重量割合を1:9〜2:8の範囲が好ましい。
【0019】
上記の範囲よりもポリカーボネート系ポリウレタン又はポリアセタール樹脂ユピタールの重量割合が高いと、熱可塑性ポリウレタンエラストマーがリフトの素材として硬くなりすぎる。一方、この範囲よりもポリカーボネート系ポリウレタン又はポリアセタール樹脂ユピタールの重量割合が低いと、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの耐摩耗性が向上しない。
【0020】
なお、ポリカーボネート系ポリウレタン又はポリアセタール樹脂ユピタールを含有させる場合のワックスの重量配分は、スチレンブタジエン合成ゴムの場合と同じ理由により、ポリカーボネート系ポリウレタン又はポリアセタール樹脂ユピタールが含有した熱可塑性ポリウレタンエラストマー100に対してワックス0.2〜0.3程度が好ましい。
【0021】
スチレンブタジエン合成ゴム、ポリカーボネート系ポリウレタン又はポリアセタール樹脂ユピタールとワックスが含有された熱可塑性ポリウレタンエラストマーで成形したリフトを日光に当てると、リフトが白い粉を噴く場合がある。白い粉が噴くのは、熱可塑性ポリウレタンエラストマーとスチレンブタジエン合成ゴム、ポリカーボネート系ポリウレタン又はポリアセタール樹脂ユピタールとワックスが十分に馴染んでいないことが原因である。
【0022】
白い粉が噴くことを防止するために、射出成型したリフトに熱処理を施して、熱可塑性ポリウレタンエラストマーとこれに含有された成分を十分に馴染ませる。この熱処理は、リフトの大きさにもよるが、例えば、100℃〜120℃雰囲気に3〜8時間リフトを放置することで行うことができる。
【0023】
このような熱処理を施すことで、射出成型したリフトに白い粉が噴くことを防止することができる。
【0024】
また、射出成型したリフトが水分を含んでいるとリフトにフラッシュができるが、このような熱処理を施すことで射出成型したリフトの水分を飛ばす事もできるので、熱処理によりフラッシュの発生を防ぐ事もできる。
【0025】
以上のように、白い粉が噴くこととフラッシュの発生を防止することができるので、熱処理によってリフトの商品価値の低下を防ぐ事ができる。更に、熱処理をリフトに施すと、耐摩耗性が約2割向上するので、熱処理によって、リフトの商品価値の低下を防ぐと共にリフトの耐摩耗性を向上させる2つの効果を得ることができる。
【0026】
また、ヒール本体の素材を、リフトの素材よりも硬い熱可塑性ポリウレタンエラストマーで形成してもよい。熱可塑性ポリウレタンの硬度の調整は、例えば、熱可塑性ポリウレタンエラストマーに含有するスチレンブタジエン合成ゴムの含有量を増減させることで行なうことができる。
【0027】
ヒール本体のA硬度を例えば80〜95とすると、リフトがD硬度60〜70程度の柔らかいものであっても、ヒール本体が硬質なので、ヒール付き靴が、型崩れせず、高い耐久性を有すると共に、ヒール本体もクッション性を有してヒール付き靴の耐衝撃性をより一層向上させることができる。
【0028】
また、ヒール本体をリフトの素材よりも硬い熱可塑性ポリウレタンエラストマーで形成し、ヒール本体を上記したD硬度60〜70の熱可塑性ポリウレタンエラストマーのリフトで被覆して、リフトでヒール本体を包むようにして、リフトとヒール本体を一体化させてもよい。
【発明の効果】
【0029】
以上のように、本発明によれば、防滑性に優れ且つ歩行音が生じないリフトを射出成形することができ、このリフトをヒール本体の下端に取り付けることで、防滑性に優れ且つ歩行音が生じないヒール付き靴を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本実施の形態では、本発明のヒール付き靴1は、図1に示すように踵部2にやや高いヒール本体3を取着し、このヒール本体3の下端面にリフト4を取着している。ヒール本体3は、ABS、ポリウレタン、PP、PE、EVA、ナイロン、熱可塑性ポリウレタンエラストマー等のA硬度80〜95の硬い樹脂材で形成され、リフト4は、熱可塑性ポリウレタンエラストマーのD硬度60〜70のやや柔らかいが、耐摩耗性に優れた素材で形成されている。
【0031】
リフト4の素材となる熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、スチレンとブタジエンの重量割合が4:6のスチレンブタジエン合成ゴムとワックスを含有している。
【0032】
リフト4の製造は、予め100〜120℃で乾燥させられた熱可塑性ポリウレタンエラストマーと、60〜80℃で乾燥させられたスチレンブタジエン合成ゴムを60〜80℃を用いる。本実施の形態では、乾燥した可塑性ポリウレタンエラストマー70kgに、乾燥したスチレンブタジエン合成ゴム30kgとワックス200gを混入して、スチレンブタジエン合成ゴムとワックスが均一に分散するように約30分これらを混合機にて混合する。
【0033】
混合が終了すると、混合が終了した熱可塑性ポリウレタンエラストマーを160℃〜180℃の温度に加熱して溶融させ、図2、3のように5〜6mmの厚さのリフト4に成形する。その後、成形されたリフト4を120℃雰囲気で3〜5時間熱処理させる。これによりリフト4が完成する。
【0034】
このような条件に従って完成されたリフト4は、D硬度が60〜70となり、JIS K 7311に準じた摩耗試験の結果、摩耗量は、67cmkw−Hとなった。この摩耗量は、D硬度が65のEVAに比べて約1/10倍、D硬度が65のウレタンに比べて約1/7と、これらの樹脂材に比べて耐摩耗性が著しく良い。また、本実施の形態では、予め乾燥させた熱可塑性ポリウレタンとスチレンブタジエン合成ゴムを用い、更に、射出成型したリフトを熱処理によって乾燥させているので、射出成型されたリフトは、ほとんど水分が含まれず、フラッシュの発生が防止されている。
【0035】
また、本実施の形態では、スチレンとブタジエンの重量割合が4:6のスチレンブタジエン合成ゴムを使用しているが、この重量割合が3:7と5:5のスチレンブタジエン合成ゴムを使用した場合、摩耗量はこの重量割合が4:6のスチレンブタジエン合成ゴムを使用した場合とさほど変わらない。しかし、D硬度は、重量割合が3:7のスチレンブタジエン合成ゴムを使用した場合は、40〜50、重量割合が5:5のスチレンブタジエン合成ゴムを使用した場合は、50〜55となる。従って、D硬度が60〜70のリフト4の素材として、熱可塑性ポリウレタンエラストマーとスチレンブタジエン合成ゴムの重量割合が7:3のものを使用する場合、最適なスチレンブタジエン合成ゴムのスチレンとブタジエンの重量割合は4:6である。
【0036】
以上のようにして完成されたリフト4をヒール本体3の下端に取り付けると、靴1で歩いてもコツコツという歩行音が生じず、その音と振動が頭に響かなくなる。
【0037】
また、リフト4を、図1〜3のように、接地する下端面を凹凸状や波状等にして滑り止め部5を形成すると、ヒールの防滑性を高めることができる。
【0038】
従来のゴム材等では、このすべり止め部は容易に成形できるが、この熱可塑性ポリウレタンエラストマーは収縮性が激しく、通常ではひけが大きくなって実現できなかったもので、上記のように軟質状とすることで、熱可塑性ポリウレタンエラストマーでも実現できるようになった。
【0039】
ヒール本体3は、上述したように、ABS、ポリウレタン、PP、PE、EVA、ナイロン、熱可塑性ポリウレタンエラストマー等のA硬度80〜95の硬い樹脂材で形成することができるが、これらの樹脂のうちヒール本体3の素材としては、耐摩耗性、耐衝撃性のある熱可塑性ポリウレタンエラストマーが最適である。
【0040】
熱可塑性ポリウレタンエラストマーのヒール本体3は、熱可塑性ポリウレタンエラストマーとスチレンブタジエン合成ゴムとワックスを混合したものを射出成型によって成型することができる。ヒール本体3の素材となるA硬度が80〜95の熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、熱可塑性ポリウレタンエラストマーに含有させるスチレンブタジエン合成ゴムの量をリフト4の素材の場合よりも少な目にすることで生成することができる。
【0041】
リフト4やヒール本体3に使用される熱可塑性ポリウレタンエラストマーとしては、エーテルタイプ、ポリエステルタイプ、ポリ炭酸エステルタイプが適用できる。
【0042】
以上のように成形されたリフト4に、図2、図3のような金属の棒状の固定具6を1ないし複数個装着させ、上記したヒール本体3側に開孔した固定孔7に、固定具6を挿入することで、リフト4をヒール本体3の下端に固定することができる。
【0043】
固定孔7と固定具6によってリフト4をヒール本体3に固定する場合、例えば固定具6よりも径の小さい固定孔7をヒール本体3の下端に形成し、図4に示すように、リフト4をハンマー20で叩いて、固定具6を固定孔7にはめ込んでリフト4をヒール本体3に固定することができる。
【0044】
また、図5(a)、(b)のように踵部2に、ABS、ポリウレタン、PP、PE、EVA、ナイロン、熱可塑性ポリウレタンエラストマー等のA硬度80〜95の硬い樹脂材からなるヒール本体3として機能する芯体8と、その芯体8の外側を上記したリフト4と同じ素材の熱可塑性ポリウレタンエラストマーのD硬度60〜70の柔らかい耐摩耗性に優れた材料で被覆して、芯体8と芯体8を被覆する熱可塑性ポリウレタンエラストマーを一体化してもよい。このように芯体8を被覆することで、芯体8の下端に熱可塑性ポリウレタンエラストマーが配置され、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの芯体8の下端部分がリフト4として機能することができる。
【0045】
D硬度60〜70の熱可塑性ポリウレタンエラストマーで芯体8を覆うことで、固定具6等を使用しなくても、リフト4を強固にヒール本体3に固定することができる。このように、固定具6を用いずにリフト4とヒール本体3を一体的に形成すると、ヒール付き靴1の部品数を減らせて量産化をし易くできる。
【0046】
なお、ヒール本体3、リフト4には、金属性のパイプ、棒、針金などの導通材を装着しておいて、靴1に発生する静電気を有効に接地面に放電するようにできる。また、上記したヒール本体3、リフト4にアルミニウム、炭素、銅、錫などの帯電性かつ放電性のある金属微粉末を混合し、歩行によってヒール本体3、リフト4に圧力がかかるとヒール本体3やリフト4が伸縮を繰り返すので、ヒール本体3、リフト4に発生する電気が金属微粉末に蓄電され、歩行中に静電気が移動する条件が整ったときに一気に放電して静電気に悩まされるのを防止できる。また、左右の靴1のそれぞれのヒール本体3の外側を内側に比べて1〜3mmだけ高くすることにより、O脚の人でも歩行し易くなる。
【0047】
図6は、特に女性用のハイヒールについての適用例で、このハイヒールのヒール本体3、リフト4についても図1のハイヒールと同様に本発明を適用することができる。この際、高くて細いヒール本体3の折損防止のために、鉄、鋼、アルミニウムの棒やパイプのヒール支持材9をヒール本体3に内装することが好ましい。また、このヒール支持材9をパイプで構成し、パイプの内面に筒状等のアルミ箔等の金属箔を装着したり、めっきや金属粉をコーティングしたりして靴に発生する静電気を蓄電するようにし、リフト4に導電性を持たせて蓄電された電気が地面に放電されるようにしてもよい。
【0048】
また、図7、図8のように、靴底10に沿った形状に裁断したEVA、ABS樹脂等の厚さが4mmの靴底シート11の足指根元部12から土踏まず部13に掛けた接地部に船形状の深さが3.5mmの凹所部14を一体的に靴底10に凹設し、この凹所部14に熱可塑性ポリウレタンエラストマーの耐摩耗性のある厚さ4mmの靴底シート15を熱溶着して、靴1の底面の耐摩耗性を良くすることもできる。このように靴底シート15を凹所部14に貼り付けると、上記したヒール本体3と靴底の前方部の耐摩耗性を向上でき、且つ、前方部の耐久性とクッション性を格段に向上させることができるので、靴1は、歩き易くなると共に高い防音効果も発揮する。
【0049】
この靴底シート15は、耐摩耗性、耐衝撃性のある熱可塑性ポリウレタンエラストマーにポリエチレンやスチレン樹脂を5〜10重量%の所定量を混合して硬度60〜70のものとして、上記のようにシート状として靴底10を形成することができる。なお、上記靴底シート15には、上記のように熱可塑性ポリウレタンエラストマーであるにも関わらず、公知の靴底のように凹凸状、波状、吸盤状などのすべり防止部を設けることができる。
【0050】
また、女性用ピンヒールなど接地部が1cm程度のヒール付き靴では、接地部に掛かる応力が大きいために耐摩耗性が要求される。耐摩耗性が要求されるヒール付き靴においては、上記したスチレンブタジエン合成ゴムに代えて、ポリカーボネート系ポリウレタン又は、ポリアセタール樹脂ユピタールを含有させた熱可塑性ポリウレタンエラストマーをリフトの素材に用いる。
【0051】
熱可塑性ポリウレタンエラストマー30kg、ポリカーボネート系ポリウレタン70kg、ワックス200kgを含有させた場合のリフトの摩耗量は、JIS K 7311に準じた摩耗試験で9〜13cmkw−Hであり、A硬度が100〜120であった。また、熱可塑性ポリウレタンエラストマー10kgに、ポリアセタール樹脂ユピタール90kg、ワックス200gを含有させた場合のリフトの摩耗量は、JIS K 7311に準じた摩耗試験で0.4〜2cmkw−Hであり、A硬度が100〜120であった。
【0052】
上記したように、スチレンブタジエン合成ゴムを含有させた熱可塑性ポリウレタンエラストマーの摩耗量は67cmkw−Hであるので、ポリカーボネート系ポリウレタンやポリアセタール樹脂ユピタールを含有させた熱可塑性ポリウレタンエラストマーの耐摩耗性は著しく高い。よって、ポリカーボネート系ポリウレタン又は、ポリアセタール樹脂ユピタールを含有させた熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、接地部が小さいヒール付き靴に適した素材である。
【0053】
ポリカーボネート系ポリウレタン又は、ポリアセタール樹脂ユピタールとワックスを含有させた熱可塑性ポリウレタンエラストマーの製造方法は、上記したスチレンブタジエン合成ゴムとワックスを含有させた熱可塑性ポリウレタンエラストマーのリフトと基本的に同じである。
【0054】
即ち、リフトの成型に用いる熱可塑性ポリウレタンエラストマーと、ポリカーボネート系ポリウレタン又はポリアセタール樹脂ユピタールは、予め乾燥をさせておく。
【0055】
ポリカーボネート系ポリウレタンを用いる場合は、乾燥した熱可塑性ポリウレタンエラストマー30kgに、乾燥したポリカーボネート系ポリウレタン70kgと、ワックス200gを混入する。一方、ポリアセタール樹脂ユピタールを用いる場合は、乾燥した熱可塑性ポリウレタンエラストマー10kgに、乾燥したポリアセタール樹脂ユピタール90kgと、ワックス200gを混入する。
【0056】
混入した後の製造工程は、ポリカーボネート系ポリウレタンを用いた場合もポリアセタール樹脂ユピタールを用いる場合もスチレンブタジエン合成ゴムを用いた場合と同じである。即ち、30分間混合機で混合し、その後ポリカーボネート系ポリウレタン又はポリアセタール樹脂ユピターとワックスが混合された熱可塑性ポリウレタンエラストマーを160℃〜180℃の温度に加熱して溶融させ、図2、3のように5〜6mmの厚さのリフト4に成形し、成形されたリフト4を120℃雰囲気で3〜5時間熱処理させる。
【0057】
またリフト4のヒール本体3の取り付けは、スチレンブタジエン合成ゴムが含有された熱可塑性ポリウレタンエラストマーと同じように、ハンマー20等でリフト4を叩いて、固定具6を固定孔7にはめ込んで行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施例の側面図である。
【図2】同上のヒール部の側断面図である。
【図3】同上のヒール部の正面図である。
【図4】リフトをハンマーで叩いてヒール本体に固定する場面を示す図。
【図5】同上のそれぞれ他の実施例のヒール部の側断面図である。
【図6】同上の他の実施例のハイヒールの側面図である。
【図7】同上のさらに他の実施例の靴底部の裏面図である。
【図8】同上の靴底部の構造説明用断面図である。
【符号の説明】
【0059】
1 靴
2 ヒール部
3 ヒール本体
4 リフト
5 滑り止め部
8 芯体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンブタジエン合成ゴムとワックスを含有した熱可塑性ポリウレタンエラストマーを素材とするリフトをヒール本体の下端に取り付けたことを特徴とするヒール付き靴。
【請求項2】
上記ヒール本体は、上記リフトの素材よりも硬度の高い熱可塑性ポリウレタンエラストマーを素材とした請求項1に記載のヒール付き靴。
【請求項3】
上記ヒール本体を上記リフトで被覆して上記ヒール本体と上記リフトを一体化させた請求項1に記載のヒール付き靴。
【請求項4】
上記リフトの接地部に凹凸状や波状の滑り止め部を設けた請求項1ないし3のいずれかに記載のヒール付き靴。
【請求項5】
ポリカーボネート系ポリウレタン又はポリアセタール樹脂ユピタールとワックスを含有した熱可塑性ポリウレタンエラストマーを素材とするリフトをヒール本体の下端に取り付けたことを特徴とするヒール付き靴。
【請求項6】
スチレンブタジエン合成ゴムとワックスとを熱可塑性ポリウレタンエラストマーに含有させ、
スチレンブタジエン合成ゴムとワックスを含有した熱可塑性ポリウレタンエラストマーを射出成形によってリフトに成形し、
成形したリフトをヒール本体の下端に取り付けることを特徴とするヒール付き靴の製造方法。
【請求項7】
ポリカーボネート系ポリウレタン又はポリアセタール樹脂ユピタールとワックスを熱可塑性ポリウレタンエラストマーに含有させ、
ポリカーボネート系ポリウレタン又はポリアセタール樹脂ユピタールとワックスを含有した熱可塑性ポリウレタンエラストマーを射出成形によってリフトに成形し、
成形したリフトをヒール本体の下端に取り付けることを特徴とするヒール付き靴の製造方法。
【請求項8】
上記射出成形によって成形されたリフトを熱処理させ、
熱処理させたリフトをヒール本体の下端に取り付ける請求項6又は7に記載のヒール付き靴の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−314673(P2006−314673A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−142466(P2005−142466)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(593202531)株式会社大徳 (3)
【Fターム(参考)】