説明

ビストロピリデンジアミン、その製造法、その遷移金属錯体及び該遷移金属錯体を含む触媒

【課題】ホスフィンの使用を必要とせず、かつ触媒反応において良好な性能を示す触媒系及びリガンドを提供する。
【解決手段】式(I)の化合物。


(式中RおよびRはそれぞれ独立して式(II))

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビストロピリデンジアミン、その製造法及び触媒におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
Deblon(Thesis No.13920, ETH Zurich, 2000, 第5章)及びMaire(Thesis No.14396, ETH Zurich, 2001)には、オレフィン−ホスフィン化合物の遷移金属錯体が殊に均一触媒反応、殊に水素化又はヒドロシリル化に特に適当であることが開示されている。
【0003】
しかしながら、しばしば高価でありかつ酸化に敏感なホスフィンを省き得ることは、工業的適用のために有利であろう。従って、そのために適当であり、ホスフィンの使用を必要とせず、かつ触媒反応において良好な性能を示す触媒系及びリガンドを提供する必要がある。
【非特許文献1】Deblon(Thesis No.13920, ETH Zurich, 2000, 第5章)
【非特許文献2】Maire(Thesis No.14396, ETH Zurich, 2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、ホスフィンの使用を必要とせず、かつ触媒反応において良好な性能を示す触媒系及びリガンドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
式(I)
【0006】
【化1】

[式中、
*は(S)立体配置又は(R)立体配置であってよいステレオジェン炭素原子を表し、
及びRはそれぞれ独立してC〜C12−アルキル、C〜C12−アルコキシ、C〜C12−ハロアルコキシ、C〜C12−ハロアルキル、C〜C14−アリール、C〜C15−アリールアルキルの群から選択されているか、又は一緒になってC〜C12−アルキレン又はC〜C12−アルケニレンであり、
及びRはそれぞれ独立して式(II)
【0007】
【化2】

の基であり、ここで、
矢印はそれぞれ窒素原子への全体の基の結合か、又は前記の矢印が芳香族系の中央に向いている場合には任意の位置における芳香族骨格への個々の基の結合を表し、
及びRはそれぞれ独立してフッ素、塩素、臭素、ヨウ素、ニトロ、遊離ホルミル又は保護されたホルミル、C〜C12−アルキル、C〜C12−アルコキシ、C〜C12−ハロアルコキシ、C〜C12−ハロアルキル、C〜C14−アリール、C〜C15−アリールアルキル又は式(IV)
L−Q−T−W (IV)
(ここで、それぞれ独立して
Lは欠失しているか又はC〜C−アルキレン又はC〜C−アルケニレンであり、
Qは欠失しているか又は酸素、硫黄又はNRであり、
Tはカルボニル基であり、
WはR、OR、NHR又はN(R10であり、
ここで、N(R10は全体として5員環式アミノ基又は6員環式アミノ基であってもよい)
の基、又は式(Va−g)
【0008】
【化3】

(ここで、
L、Q、W及びR10はそれぞれ式(IV)に定義されている通りであり、Zは水素又はMである)
の基の群から選択されており、
及びRはそれぞれ独立して水素、シアノ、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、C〜C18−アルキル、C〜C24−アリール、C〜C25−アリールアルキル、COM(ここで、Mはアルカリ金属イオンか又は有機アンモニウムイオンであってよい)、CONH、SON(R(ここで、Rは水素、C〜C12−アルキル、C〜C14−アリール又はC〜C15−アリールアルキルである)、SOM又は式(III)
T−Het−R10 (III)
(ここで、
Tは欠失しているか又はカルボニルであり、
Hetは酸素又はNRであり、
10はC〜C18−アルキル、C〜C24−アリール又はC〜C25−アリールアルキルであるか、又はN(R10は全体として5員環式アミノ基又は6員環式アミノ基である)
の基であり、
n及びmはそれぞれ独立して0、1、2又は3である]
の化合物が見出された。
【0009】
式(I)の化合物はキラルである。本発明は、それ自体で存在する全ての立体異性体及びその任意の混合物を含む。本発明の明細書において、立体異性的に富化された(鏡像異性的に富化された、又はジアステレオ異性的に富化された)という用語は、立体異性的に純粋な(鏡像異性的に純粋な、又はジアステレオ異性的に純粋な)化合物、又は、一方の立体異性体(鏡像異性体又はジアステレオ異性体)が他方の立体異性体(鏡像異性体又はジアステレオ異性体)よりも大きい相対的割合で存在する立体異性体(鏡像異性体又はジアステレオ異性体)の混合物を意味する。立体異性体的に富化された、とは、例えばかつ有利に、一方の立体異性体の含量が、特定の立体異性体の合計に対して50質量%〜100質量%、更に有利に70質量%〜100質量%、最も有利には90質量%〜100質量%であることを意味する。
【0010】
本発明の範囲には、上記及び下記の、一般的又は有利な範囲内での、基の定義、パラメータ及び説明の全ての組合せ、即ち特定の範囲から有利な範囲の間での全ての組合せが含まれる。
【0011】
本発明の明細書において特に記載がない限り、アリールは炭素環式芳香族基、有利にフェニル、ナフチル、フェナントレニル又はアントラセニルであるか、又は複素芳香族基であり、ここで環1個当たり0、1、2又は3個の骨格炭素原子、しかしながら全分子中で少なくとも1個の骨格炭素原子は、窒素、硫黄及び酸素の群から選択されたヘテロ原子により置換されており、有利にピリジニル、オキサゾリル、チオフェニル、ベンゾフラニル、ベンゾチオフェニル、ジベンゾフラニル、ジベンゾチオフェニル、フラニル、インドリル、ピリダジニル、ピラジニル、イミダゾリル、ピリミジニル及びキノリニルである。
【0012】
更に、炭素環式芳香族基又は複素芳香族基は、環1個当たり5個までの同じか又は異なる置換基により置換されていてよい。例えば、かつ有利に、置換基は、臭素、フッ素、塩素、ニトロ、シアノ、遊離ホルミル又は保護されたホルミル、遊離ヒドロキシル又は保護されたヒドロキシル、C〜C12−アルキル、C〜C12−ハロアルキル、C〜C12−アルコキシ、C〜C12−ハロアルコキシ、C〜C14−アリール、例えばフェニル、C〜C15−アリールアルキル、例えばベンジル、ジ(C〜C12−アルキル)アミノ、(C〜C12−アルキル)アミノ、CO(C〜C12−アルキル)、OCO(C〜C12−アルキル)、NHCO(C〜C12−アルキル)、N(C〜C−アルキル)CO(C〜C12−アルキル)、CO(C〜C14−アリール)、OCO(C〜C14−アリール)、NHCO(C〜C14−アリール)、N(C〜C−アルキル)CO(C〜C14−アリール)、COO−(C〜C12−アルキル)、COO−(C〜C14−アリール)、CON(C〜C12−アルキル)又はCONH(C〜C12−アルキル)COM、CONH、SONH、SON(C〜C12−アルキル)、SOM(ここで、Mはそれぞれの場合において置換されていてもよいアンモニウム、リチウム、ナトリウム又はカリウムである)の群から選択されている。
【0013】
例えば、かつ有利に、アリールはフェニル又はナフチルであり、これは更に、フッ素、塩素、シアノ、C〜C−アルキル、C〜C−ペルフルオロアルキル、C〜C−アルコキシ、フェニル、ベンジル、ジ(C〜C12−アルキル)アミノ、CO(C〜C12−アルキル)、COO−(C〜C12−アルキル)、CON(C〜C12−アルキル)又はSON(C〜C12−アルキル)の群から選択された、環1個当たり0、1、2又は3個の基により置換されていてよい。
【0014】
更に有利に、アリールはフェニルであり、これは更にフッ素、塩素、シアノ、C〜C−アルキル、C〜C−ペルフルオロアルキル、C〜C−アルコキシ、フェニル又はSON(C〜C−アルキル)の群から選択された、環1個当たり0、1又は2個の基により置換されていてよい。
【0015】
本発明の明細書において、定義及び有利な範囲が、アリールオキシ置換基及びアリールアルキル基のアリール部分にも同様に適用される。
【0016】
本発明の明細書において特に記載がない限り、保護されたホルミルは、アミナール、アセタール又は混合されたアミナールアセタールへの変換により保護されるホルミル基であり、アミナール、アセタール及び混合されたアミナールアセタールは非環式又は環式であってよい。
【0017】
例えば、かつ有利に、保護されたホルミルは1,1−(2,4−ジオキシシクロペンタンジイル)基である。
【0018】
本発明の明細書において特に記載がない限り、保護されたヒドロキシルは、ケタール、アセタール又は混合されたアミナールアセタールへの変換により保護されるヒドロキシル基であり、アセタール及び混合されたアミナールアセタールは非環式又は環式であってよい。
【0019】
例えば、及び有利に、保護されたヒドロキシルはテトラヒドロピラニル基(O−THP)である。
【0020】
本発明の明細書において特に記載がない限り、アルキル、アルキレン、アルコキシ、アルケニル及びアルケニレンは、それぞれ直鎖、環式、分枝鎖又は非分枝鎖のアルキル、アルキレン、アルコキシ、アルケニル及びアルケニレン基であり、各々は更に、C〜C−アルコキシにより、アルキル、アルキレン、アルコキシ、アルケニル又はアルケニレン基の各炭素原子が酸素、窒素及び硫黄の群から選択された多くて1個のヘテロ原子を有するように置換されていてよい。
【0021】
同じことがアリールアルキル基のアルキレン部分にも適用される。
【0022】
例えば、本発明の明細書において、C〜C−アルキルは有利にメチル、エチル、2−エトキシエチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、t−ブチルであり、C〜C−アルキルは更に例えばn−ペンチル、シクロヘキシル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル又はイソオクチルであり、C〜C12−アルキルは更に例えばノルボルニル、アダマンチル、n−デシル及びn−ドデシルであり、C〜C18−アルキルは更にn−ヘキサデシル及びn−オクタデシルである。
【0023】
例えば、本発明の明細書において、C〜C−アルキレンは有利にメチレン、1,1−エチレン、1,2−エチレン、1,1−プロピレン、1,2−プロピレン、1,3−プロピレン、1,1−ブチレン、1,2−ブチレン、2,3−ブチレン及び1,4−ブチレン、1,5−ペンチレン、1,6−ヘキシレン、1,1ーシクロヘキシレン、1,4−シクロヘキシレン、1,2−シクロヘキシレン及び1,8−オクチレンである。
【0024】
例えば、本発明の明細書において、C〜C−アルコキシは有利にメトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、n−プロポキシ、n−ブトキシ及びt−ブトキシであり、C〜C−アルコキシは更にシクロヘキシルオキシである。
【0025】
例えば、本発明の明細書において、C〜C−アルケニルは有利にアリル、3−プロペニル及び4−ブテニルである。
【0026】
例えば、本発明の明細書において、C〜C−アルケニレンは有利に2−ブテンジイルである。
【0027】
本発明の明細書において特に記載がない限り、ハロアルキル及びハロアルコキシはそれぞれ直鎖、環式、分枝鎖又は非分枝鎖のアルキル及びアルコキシ基であり、各々はハロゲン原子により一置換、他置換又は完全に置換されている。フッ素により完全に置換されている基はそれぞれペルフルオロアルキル及びペルフルオロアルコキシと呼称される。
【0028】
例えば、本発明の明細書において、C〜C12−ハロアルキルはトリフルオロメチル、2,2,2−トリフルオロエチル、クロロメチル、フルオロメチル、ブロモメチル、2−ブロモエチル、2−クロロエチル、ノナフルオロブチル、n−ペルフルオクチル又はn−ペルフルオロドデシルである。
【0029】
式(I)の化合物のための有利な置換パターンを以下に定義する:
*は有利に同一の立体配置、即ち(S),(S)立体配置又は(R),(R)立体配置を有するステレオジェン炭素原子を指し、
及びRは有利にそれぞれ独立してC〜C12−アルキル、C〜C14−アリールの群から選択されているか、又は一緒になってC〜C12−アルキレンであり、更に有利に同様にC〜C−アルキル、フェニルの群から選択されるか、又は一緒になって1,4−ブチレンであり、
及びRは有利にそれぞれ独立して式(II)の基であり、ここで、
及びRはそれぞれ独立して水素、フッ素、ヨウ素、C〜C12−アルキル、C〜C12−アルコキシ、C〜C10−アリール又は式(IV)の基であり、
ここで、Tは同様にカルボニルであり、
Hetは酸素又はNRであり、
n及びmはそれぞれ独立して0又は1であり、
及びRはそれぞれ独立してフッ素、臭素、ニトロ、C〜C−アルキル、C〜C−アルコキシ又は式(Vb)及び(Vg)の基の群から選択されており、
及びRは更に有利に式(II)の基であり、ここで、
及びRはそれぞれ独立して水素、C〜C12−アルキル、C〜C12−アルコキシ、C〜C10−アリールであり、
n及びmはそれぞれ同様に0又は1であり、
及びRはそれぞれ同様にフッ素及び式(Vb)及び(Vg)の基の群から選択されており、
及びRは最も有利にいずれかが式(II)の基であり、ここで、
及びRはそれぞれ独立して水素、C〜C12−アルキル、C〜C12−アルコキシ又はC〜C10−アリールであり、
n及びmはそれぞれ0である。
【0030】
式(I)の化合物のうち、以下の群から選択される窒素原子上の基を有するものは極めて殊に有利である:
10−シアノ−5H−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イル(CNtrop)、5H−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イル(trop)、10−メチル−5H−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イル(Metrop)、10−メトキシ−5H−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イル(MeOtrop)、10−フェニル−5H−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イル(Phtrop)、10,11−ジフェニル−5H−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イル(Ph2trop)[(5S)−10−[(−)−メンチルオキシ]−5H−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イル]、(S−メンチルオキシtrop)及び[(5R)−10−[(−)−メンチルオキシ]−5H−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イル](R−メンチルオキシtrop)。
【0031】
式(I)の化合物を製造するために、式(VI)
【0032】
【化4】

[式中、
及びRはそれぞれ上記に定義されている通りである]
の化合物を、有利に場合により有機溶剤の存在下で、式(VII)
【0033】
【化5】

[式中、
、R、R、R、n及びmはそれぞれ上記に定義されている通りであり、
Aktは塩素、臭素、ヨウ素、トリフルオロアセチル又はスルホニルオキシ基である]
の化合物と反応させ、形成された式(VIIIa)及び/又は(VIIIb)及び/又は(VIIIc)
【0034】
【化6】

のアンモニウム塩を、有利に、塩基の存在下で、現場で、又は後続の反応工程において、式(I)の化合物に変換する。
【0035】
式(VII)の化合物は刊行物の記載から公知であるか、又は刊行物の記載と同様に合成することができる。
【0036】
反応は、場合により、及び有利に、有機溶剤の存在下で実施されてよい。適当な有機溶剤は例えば以下のものである:
脂肪族又は芳香族の、ハロゲン化されていてよい炭化水素、例えば種々のベンジン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、種々の石油エーテル、ヘキサン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素;エーテル、例えばジエチルエーテル、メチルt−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン又はエチレングリコールジメチルエーテル又はエチレングリコールジエチルエーテル、又はそのような有機溶剤の混合物。ジクロロメタンは有利である。
【0037】
適当な塩基は例えば:アルカリ土類金属又はアルカリ金属水素化物、水酸化物、アミド、アルキル置換されたジシリルアミド、ジアルキルアミド、アルコキシド又はカーボネート、例えば水素化ナトリウム、ナトリウムアミド、リチウムジエチルアミド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムビストリメチルシリルアミド、ナトリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシド、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウム、3級アミン、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、テトラメチルグアニジン、N,N−ジメチルアニリン、ジアザビシクロオクタン(DABCO)、ジアザビシクロノネン(DBN)又はジアザビシクロウンデセン(DBU)、ピペリジン及びN−メチルピペリジンである。炭酸カリウムは有利である。
【0038】
式(I)の化合物の製造法及び不可欠な中間体としての式(VIII)の化合物の製造法はどちらも本発明により完全に含まれる。
【0039】
本発明は、式(I)の化合物の遷移金属錯体及び本発明による式(I)の化合物の遷移金属錯体を含む触媒をも含む。
【0040】
有利な遷移金属錯体は、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金及び銅の遷移金属錯体であり、有利にルテニウム、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム及び白金の遷移金属錯体であり、更に有利にロジウム及びイリジウムの遷移金属錯体である。
【0041】
使用される触媒は、例えば、式(I)の化合物及び金属化合物から得られる単離された遷移金属錯体か、又は、式(I)の化合物及び触媒反応の反応媒体中の金属化合物から得られる遷移金属錯体であってよい。
【0042】
適当な金属化合物は、例えば及び有利に、式(IXa)
(Y (IXa)
[式中、
はルテニウム、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金又は銅であり、
はクロリド、ブロミド、アセテート、ニトレート、メタンスルホネート、トリフルオロメタンスルホネート又はアセチルアセトネートであり、
pはルテニウム、ロジウム及びイリジウムの場合には3であり、ニッケル、パラジウム及び白金の場合には2であり、銅の場合には1である]
の金属化合物、又は一般式(IXb)
(Y (IXb)
[式中、
はアニオン、例えばクロリド、ブロミド、アセテート、メタンスルホネート、トリフルオロメタンスルホネート、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ペルクロレート、ヘキサフルオロアンチモネート、テトラ(ビス−3,5−トリフルオロメチルフェニル)ボレート又はテトラフェニルボレートであり、
pはロジウム及びイリジウムの場合には1であり、ニッケル、パラジウム、白金及びルテニウムの場合には2であり、銅の場合には1であり、
はそれぞれの場合においてC〜C12−アルケン、例えばエチレン又はシクロオクテン、又はニトリル、例えばアセトニトリル、ベンゾニトリル又はベンジルニトリルであるか、又は
は一緒になって(C〜C12)−ジエン、例えばノルボルナジエン又は1,5−シクロオクタジエンである]
の金属化合物、又は式(IXc)
[M (IXc)
[式中、
はルテニウムであり、
はアリール基、例えばシメン、メシチル、フェニル又はシクロオクタジエン、ノルボルナジエン又はメチルアリルである]
の金属化合物、又は式(IXd)
Me[M(Y] (IXd)
[式中、
はパラジウム、ニッケル、イリジウム又はロジウムであり、
はクロリド又はブロミドであり、
Meはリチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム又は有機アンモニウムであり、
pはロジウム及びイリジウムの場合には3であり、ニッケル、パラジウム及び白金の場合には2である]
の金属化合物、又は式(IXe)
[M(B]An (IXe)
[式中、
はイリジウム又はロジウムであり、
は(C〜C12)−ジエン、例えばノルボルナジエン又は1,5−シクロオクタジエンであり、
Anは非配位アニオン又は弱配位アニオン、例えばメタンスルホネート、トリフルオロメタンスルホネート、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ペルクロレート、ヘキサフルオロアンチモネート、テトラ(ビス−3,5−トリフルオロメチルフェニル)ボレート又はテトラフェニルボレートである]
の金属化合物である。
【0043】
適当な金属化合物は更に例えば、Ni(1,5−シクロオクタジエン)、Pd(ジベンジリデンアセトン)、Pd[PPh、シクロペンタジエニルRu、Rh(acac)(CO)、[RhCl(CO)]、Ir(ピリジン)(1,5−シクロオクタジエン)、Ir(acac)(CO)、[IrCl(CO)]、Cu(フェニル)Br、Cu(フェニル)Cl、Cu(フェニル)I、Cu(PPhBr、[Cu(CHCN)]BF及び[Cu(CHCN)]PF又は多核架橋錯体、例えば[Rh(COD)Cl]及び[Rh(COD)Br]、[Rh(エテン)Cl]、[Rh(シクロオクテン)Cl]である。
【0044】
使用される金属化合物は、好ましくは以下の化合物である:
[Rh(COD)Cl]、[Rh(COD)Br]、[Rh(COD)]ClO、[Rh(COD)]BF、[Rh(COD)]PF、[Rh(COD)]OTf、[Rh(COD)]BAr(Ar=3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)、[Rh(COD)]SbF、RuCl(COD)、[(シメン)RuCl、[(ベンゼン)RuCl、[(メシチレン)RuCl、[(シメン)RuBr、[(シメン)RuI、[(シメン)Ru(BF、[(シメン)Ru(PF、[(シメン)Ru(BAr(Ar=3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)、[(シメン)Ru(SbF、[Ir(COD)Cl]、[Ir(COD)]PF、[Ir(COD)]ClO、[Ir(COD)]SbF、[Ir(COD)]BF、[Ir(COD)]OTf、[Ir(COD)]BAr(Ar=3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)、RuCl、NiCl、RhCl、PdCl、PdBr、Pd(OAc)、Pd(ジベンジリデンアセトン)、Pd(アセチルアセトネート)、Rh(アセチルアセトネート)(CO)、[RhCl(CO)]、Ir(ピリジン)(1,5−シクロオクタジエン)、Ir(アセチルアセトネート)(CO)、[IrCl(CO)]、[Rh(nbd)Cl]、[Rh(nbd)Br]、[Rh(nbd)]ClO、[Rh(nbd)]BF、[Rh(nbd)]PF、[Rh(nbd)]OTf、[Rh(nbd)]BAr(Ar=3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)、[Rh(nbd)]SbF、RuCl(nbd)、[Ir(nbd)]PF、[Rh(nbd)]ClO、[Rh(nbd)]BF、[Rh(nbd)]PF、[Rh(nbd)]OTf、(Ar=3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)、Ir(ピリジン)(nbd)、[Ru(DMSO)Cl]、[Ru(CHCN)Cl]、[Ru(PhCN)Cl]、[Ru(COD)Cl、[Ru(COD)(メタリル)]、[Ru(アセチルアセトネート)]。
【0045】
Rh(アセチルアセトネート)(CO)、[RhCl(CO)]及びIr(アセチルアセトネート)(CO)、[IrCl(CO)]、[Rh(nbd)]ClO、[Rh(nbd)]BF、[Rh(nbd)]PF、[Rh(nbd)]OTf、[Ir(nbd)]ClO、[Ir(nbd)]BF、[Ir(nbd)]PF、[Ir(nbd)]OTf、[Ir(nbd)]ClO、[Ir(nbd)]BF、[Ir(nbd)]PF、[Ir(nbd)]OTf、[Ir(nbd)]ClO、[Ir(nbd)]BF、[Ir(nbd)]PF及び[Ir(nbd)]OTfは更に有利である。
【0046】
使用される金属化合物の量は、使用される式(I)の化合物に関して、金属含分に対して、例えば25〜200モル%であってよく;有利に80〜140モル%、極めて殊に有利に90〜120モル%、更に有利に95〜105モル%である。
【0047】
式(I)の化合物の極めて殊に有利な遷移金属錯体は、式(Xa)、(Xb)又は(Xc)
[M(I)]An (Xa)
[M(I)(CO)Hal]An (Xb)
[Ir(I)(ジオレフィン)]An (Xc)
に従う遷移金属錯体であり、ここで、それぞれの場合において、
はロジウム又はイリジウムであり、
(I)は式(I)の化合物であり、
ジオレフィンはジエン、例えば1,5−シクロオクタジエン又はノルボルナジエンであり、
Anは、金属原子のあり得る配位を考慮せずに、アニオン、例えばクロリド、ブロミド、ヨージド、メタンスルホネート、トリフルオロメタンスルホネート、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ペルクロレート、ヘキサフルオロアンチモネート、テトラ(ビス−3,5−トリフルオロメチルフェニル)ボレート又はテトラフェニルボレートであり、
Halはクロリド、ブロミド又はヨージドである。
【0048】
現場で製造された遷移金属錯体か又は単離された遷移金属錯体を含む触媒は、殊に均一系触媒作用における使用のために適当である。
【0049】
本発明による触媒を、水素化のために、更に有利に、化合物が冒頭に記載された前提条件下でキラルである場合には不斉水素化のために使用することは有利である。
【0050】
有利な水素化は、例えばプロキラルC=C結合の水素化、例えばプロキラルエナミン、オレフィン、エノールエーテルの水素化、C=O結合、例えばプロキラルケトンの水素化、及びC=N結合、例えばプロキラルイミンの水素化である。殊に好ましい不斉水素化は、C=O結合、例えばプロキラルケトンの水素化である。
【0051】
有利な実施態様において、水素化は水素供与体分子及び場合により塩基の存在下で実施される。
【0052】
水素供与体分子は、例えば分子水素、ギ酸、エタノール又はイソプロパノールであり;塩基は、例えばアルコキシド又は3級アミンである。水素供与体分子と塩基との殊に有利な混合物は、ギ酸とトリエチルアミンとの混合物、殊にその共沸混合物、及びカリウムイソプロポキシドとイソプロパノールとの混合物である。
【0053】
使用される金属化合物の量又は使用される遷移金属錯体の量は、個々の金属含分に対して、例えば0.001〜20モル%であってよく、使用される基体に対して、有利に0.001〜2モル%、最も有利に0.001〜1モル%であってよい。
【0054】
有利な実施態様において、不斉水素化は、例えば、現場で金属化合物と式(I)の化合物から、場合により適当な有機溶剤中で触媒を生成し、基体を添加し、反応混合物を、反応温度で、水素圧下におくか、又は他の水素供与体分子と塩基との混合物と混合するというように実施することができる。
【0055】
本発明による触媒は、殊に、医薬品及び農薬の活性成分、又はこれらの2つのクラスの中間体の製造法において殊に適当である。
【0056】
本発明の利点は、危険なく取り扱うことのできる容易に入手可能な化合物を用いて、高性能の触媒の全クラスを製造することができることである。
【実施例】
【0057】
実施例1:
(S,S)−1,2−ビス(5H−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イル)−1,2−ジフェニルエタンジアミン(S,S−DPENtrop)の合成
5H−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イルクロリド667mg(2.95ミリモル、2当量)を室温でCHCl20ml中の(S,S)−ジフェニルエタンジアミン313mg(1.47ミリモル)に添加した。10分後、白色の沈殿物が形成された。懸濁液を更に2時間撹拌し、濃縮し、残留物を10質量%炭酸カリウム水溶液及びCHClで抽出した。有機相を除去し、水相をCHClで更に2回除去した。収集した有機相を硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濃縮した。溶離剤としてヘキサン/ジエチルエーテル(体積で3:2)及び引き続きジエチルエーテルを用いたシリカゲル上でのクロマトグラフィーにより、無色のフォームとしてのDPENtrop(1.43ミリモル、97%)846mgが示された。
【0058】
CDCl中で、化合物は対称的立体配座(約68%)及び非対称的立体配座(約32%)で存在する。
【0059】
【化7】

【0060】
実施例2:
(R,R)−1,2−ビス(5H−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イル)−1,2−ジアミノシクロヘキサン(R,R−DACHtrop)の合成
飽和炭酸カリウム水溶液20mlを滴下漏斗中でCHCl15ml中の(R,R)−ジアミノシクロヘキサン(1.00ミリモル)の酒石酸塩264mgに添加した。混合物を強力に振盪し、有機相を除去した。水相をCHCl5mlで更に2回除去し、収集した有機相を硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過した。トリエチルアミン3ml及びその後5H−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−5−イルクロリド454mg(2.00ミリモル)をこの溶液に添加した。溶液を室温で15分間撹拌し、その後加熱して5分間沸騰させた。これを行った際、白色の固体が沈殿した。溶剤を減圧下で除去することにより無色の固体が生じ、これをCHCl50ml及び10質量%炭酸カリウム水溶液20ml中に取り出した。有機相を除去し、水相をCHCl20mlで更に2回抽出した。収集した有機相を硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮した。溶離剤としてヘキサン/ジエチルエーテル(体積で1:1)及び引き続きジエチルエーテルを用いたシリカゲル上でのクロマトグラフィーにより、無色の固形物としてのDACHtrop444mg(0.90ミリモル、90%)が示された。
【0061】
【化8】

【0062】
実施例3:
[Ir(Cl)(CO)(S,S−DPENtrop)]の合成
CDCN(0.45ml)中の実施例1からのS,S−DPENtrop29.6mg(0.05ミリモル)及び[Ir(CO)(Cl)]15.5mg(0.05ミリモル)の懸濁液を3時間に亘って60℃に加熱した。冷却の経過中、[Ir(Cl)(CO)(DPENtrop)]31mg(0.036ミリモル、72%)が晶出した。
【0063】
代替的な合成:アセトニトリル5mlを一酸化炭素の雰囲気下でDPENtrop119mg(0.20ミリモル)及び[Ir(COD)(Cl)]67mg(0.10ミリモル)に添加した。これを行った際に生じた黄緑色の溶液を室温で1時間撹拌した後に濾過し、減圧下で濃縮した。残留物をトルエンから再結晶することにより、[Ir(Cl)(CO)(DPENTrop)]127mg(0.15ミリモル、75%)が生じた。
【0064】
【化9】

【0065】
【化10】

【0066】
実施例4:
[Ir(Cl)(CO)(S,S−DPENtrop)]を用いた接触移動水素化
アセトフェノン120mg(1ミリモル)及びカリウムt−ブトキシド11mg(0.1ミリモル)を2−プロパノール10ml中の実施例3からの[Ir(Cl)(CO)(DPENtrop)]0.01ミリモルの溶液に添加し、混合物を80℃で1時間加熱した。反応溶液のガスクロマトグラフィー(Machery-Nagel Lipodex-E キラルカラム)により、アセトフェノンから(R)−1−フェニルエタノールへの完全な変換が示された。82%eeの鏡像異性的過剰で生成物が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

[式中、
*は(S)立体配置又は(R)立体配置であってよいステレオジェン炭素原子を表し、
及びRはそれぞれ独立してC〜C12−アルキル、C〜C12−アルコキシ、C〜C12−ハロアルコキシ、C〜C12−ハロアルキル、C〜C14−アリール、C〜C15−アリールアルキルの群から選択されているか、又は一緒になってC〜C12−アルキレン又はC〜C12−アルケニレンであり、
及びRはそれぞれ独立して式(II)
【化2】

の基であり、ここで、
矢印はそれぞれ窒素原子への全体の基の結合か、又は前記の矢印が芳香族系の中央に向いている場合には任意の位置における芳香族骨格への個々の基の結合を表し、
及びRはそれぞれ独立してフッ素、塩素、臭素、ヨウ素、ニトロ、遊離ホルミル又は保護されたホルミル、C〜C12−アルキル、C〜C12−アルコキシ、C〜C12−ハロアルコキシ、C〜C12−ハロアルキル、C〜C14−アリール、C〜C15−アリールアルキル又は式(IV)
L−Q−T−W (IV)
(ここで、それぞれ独立して
Lは欠失しているか又はC〜C−アルキレン又はC〜C−アルケニレンであり、
Qは欠失しているか又は酸素、硫黄又はNRであり、
Tはカルボニル基であり、
WはR、OR、NHR又はN(R10であり、
ここで、N(R10は全体として5員環式アミノ基又は6員環式アミノ基であってもよい)
の基、又は式(Va−g)
【化3】

(ここで、
L、Q、W及びR10はそれぞれ式(IV)に定義されている通りであり、Zは水素又はMである)
の基の群から選択されており、
及びRはそれぞれ独立して水素、シアノ、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、C〜C18−アルキル、C〜C24−アリール、C〜C25−アリールアルキル、COM(ここで、Mはアルカリ金属イオンか又は有機アンモニウムイオンであってよい)、CONH、SON(R(ここで、Rは水素、C〜C12−アルキル、C〜C14−アリール又はC〜C15−アリールアルキルである)、SOM又は式(III)
T−Het−R10 (III)
(ここで、
Tは欠失しているか又はカルボニルであり、
Hetは酸素又はNRであり、
10はC〜C18−アルキル、C〜C24−アリール又はC〜C25−アリールアルキルであるか、又はN(R10は全体として5員環式アミノ基又は6員環式アミノ基である)
の基であり、
n及びmはそれぞれ独立して0、1、2又は3である]
の化合物。
【請求項2】
請求項1記載の化合物の製造法において、式(VI)
【化4】

[式中、
及びRはそれぞれ請求項1に定義されている通りである]
の化合物を式(VII)
【化5】

[式中、
、R、R、R、n及びmはそれぞれ請求項1に定義されている通りであり、
Aktは塩素、臭素、ヨウ素、トリフルオロアセチル又はスルホニルオキシ基である]
の化合物と反応させ、形成された式(VIIIa)及び/又は(VIIIb)及び/又は(VIIIc)
【化6】

のアンモニウム塩を、塩基の存在下で、現場で、又は後続の反応工程において、請求項1記載の式(I)の化合物に変換することを特徴とする、請求項1記載の化合物の製造法。
【請求項3】
請求項2記載の式(VIIIa)、(VIIIb)及び(VIIIc)の化合物。
【請求項4】
請求項1記載の式(I)の化合物の遷移金属錯体。
【請求項5】
請求項4記載の遷移金属錯体を含む触媒。

【公開番号】特開2006−8683(P2006−8683A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−167426(P2005−167426)
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【出願人】(504419760)ランクセス ドイチュラント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (58)
【Fターム(参考)】