説明

ビスフェノール類の高純度ビスヒドロキシエチルエーテルの製造方法

【課題】 ビスフェノール類のビスヒドロキシエチルエーテルを製造する方法において、未反応物や副生成物が少ないビスフェノール類の高純度ビスヒドロキシエチルエーテルの製造方法を提供する。
【解決手段】 ビスフェノール類(A)の高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B)を製造する方法であって、触媒(C)の存在下にビスフェノール類(A)にエチレンオキサイドを付加反応させて、ビスフェノール類(A)のエチレンオキサイド平均1.8〜2.1モル付加物(B0)を得た後、更に、前記(B0)に含まれるビスフェノール類(A)のモノヒドロキシエチルエーテル(B1)のモル数に対して0.5〜4.0倍モルのエチレンクロロヒドリンを仕込んでエーテル化反応させることを特徴とするビスフェノール類(A)のビスヒドロキシエチルエーテル(B)の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスフェノール類の高純度ビスヒドロキシエチルエーテルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂及びポリカーボネート樹脂等の原料としてビスフェノール類が使用されているが、ビスフェノール類が有するフェノール性の水酸基は多塩基酸等との反応性が低いため、反応性を改善する目的でビスフェノール類にエチレンオキサイド(以下、EOと略記する。)を付加してアルコール性の水酸基とし、多塩基酸等との反応性を高めたものが前記樹脂の原料として知られている(特許文献1)。しかしながら、ビスフェノール類にEOを付加する場合、EOの付加モル数が多くなると、例えばポリエステル樹脂の原料として使用した場合、ポリエステル樹脂のガラス転移点が低下し耐熱性を低下させるという問題があった。
【0003】
ビスフェノール類の多塩基酸等との反応性を改善し、かつ各種樹脂の原料とした際に耐熱性等の物性に影響を与えにくいものとして、ビスフェノール類のビスヒドロキシエチルエーテルが挙げられる。ビスフェノール類のビスヒドロキシエチルエーテルの製造方法としては、ビスフェノール類にエチレンクロロヒドリンを反応させる方法が知られている(特許文献2)。しかしながら、ビスフェノール類にエチレンクロロヒドリンを反応させる際には、触媒としてビスフェノール類と等量以上のアルカリを必要とし、反応後に触媒を精製するためには再結晶が必要であり、効率的な製造方法ではなかった。そこで、ビスフェノール類からビスフェノール類のビスヒドロキシエチルエーテルを製造する方法において、未反応物や副生成物が少ないビスフェノール類の高純度ビスヒドロキシエチルエーテルの製造方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−227540号公報
【特許文献2】米国特許第2331265号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ビスフェノール類からビスフェノール類のビスヒドロキシエチルエーテルを製造する方法において、未反応物や副生成物が少ないビスフェノール類の高純度ビスヒドロキシエチルエーテルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、ビスフェノール類(A)の高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B)を製造する方法であって、触媒(C)の存在下にビスフェノール類(A)にEOを付加反応させて、ビスフェノール類(A)のEO平均1.80〜2.10モル付加物(B0)を得た後、更に、前記(B0)に含まれるビスフェノール類(A)のモノヒドロキシエチルエーテル(B1)のモル数に対して0.5〜4.0倍モルのエチレンクロロヒドリンを仕込んでエーテル化反応させることを特徴とするビスフェノール類(A)の高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B)の製造方法;及びビスフェノール類(A)の高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B)のモル数に基づき、ビスフェノール類(A)のモノヒドロキシエチルエーテル(B1)の含有量が1.0モル%以下であり、かつビスフェノール類(A)のエチレンオキサイド3モル以上付加物(B2)の含有量が7.0モル%以下であるビスフェノール類(A)の高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B);である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によると、未反応物や副生成物が少ないビスフェノール類の高純度ビスヒドロキシエチルエーテルが得られるため、多塩基酸等との反応性が高く、また各種樹脂の原料とした際に耐熱性等の物性に影響を与えにくい。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明におけるビスフェノール類(A)の高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B)[以下において、単に「高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B)」又は「(B)」と表記する場合がある。]とは、ビスフェノール類(A)が有する2つのフェノール性水酸基の両方に1モルずつEOが付加した化合物を主成分とし、ビスヒドロキシエチルエーテルを92モル%以上、好ましくは94.5モル%以上、更に好ましくは96.8モル%以上、最も好ましくは98.9モル%以上含むものである。
【0009】
本発明の製造方法において使用されるビスフェノール類(A)としては、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールF、及び前記ビスフェノール類に炭素数1〜30のアルキル基又はハロゲンが1〜8個置換したもの(例えばトリクロロビスフェノールA、テトラクロロビスフェノールA及びジブロモビスフェノールF等のハロゲン置換体;2−メチルビスフェノールA(ビスフェノールC)、2,6−ジメチルビスフェノールA及び2,2‘−ジエチルビスフェノールF等のアルキル置換体)等が挙げられる。これらのうち好ましいのは、ビスフェノールA、ビスフェノールF及びビスフェノールSであり、更に好ましいのはビスフェノールAである。
【0010】
ビスフェノール類(A)のEO平均1.80〜2.10モル付加物(B0)におけるEO平均付加モル数(以下、EOavと略記する。)は1.80〜2.10モルであり、好ましいのは1.85〜2.05モルである。EOavが1.80モル未満であると、ビスフェノール類(A)のモノヒドロキシエチルエーテル(B1)[以下において、単に「モノヒドロキシエチルエーテル(B1)」と表記する場合がある。]の含有量が多くなり、エチレンクロロヒドリンの必要量が多くなり好ましくない。EOavが2.10モルより多いと、ビスフェノール類(A)のエチレンオキサイド3モル以上付加物(B2)[以下において、単に「エチレンオキサイド3モル以上付加物(B2)」と表記する場合がある。]が多くなり好ましくない。
【0011】
前記EOavは、JIS K0070の方法に準じて水酸基価を測定し、以下の計算式から算出することができる。
EOav=[(112,200/水酸基価)−ビスフェノール類(A)の分子量]/44
【0012】
本発明の製造方法において、ビスフェノール類(A)のEO平均1.80〜2.10モル付加物(B0)を得るためのEOの仕込みモル数は、目的の付加モル数よりもやや多いモル数とすることが好ましい。好ましくは目的の付加モル数の1.01〜1.1倍モルである。
【0013】
エチレンオキサイド付加反応における触媒(C)としては、アルカリ金属水酸化物(水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム及び水酸化セシウム等)、アルカリ土類金属水酸化物(水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び水酸化バリウム等)、アミン類(トリメチルアミン及びトリエチルアミン等)及び四級アンモニウム塩(水酸化テトラメチルアンモニウム等)等が挙げられる。これらのうち、モノヒドロキシエチルエーテル(B1)及びエチレンオキサイド3モル以上付加物(B2)の含有量を更に少なくするという観点から好ましいのは、アルカリ金属水酸化物、アミン類及び四級アンモニウム塩であり、更に好ましいのはアルカリ金属水酸化物であり、特に好ましいのは水酸化リチウムである。触媒(C)の使用量は、ビスフェノール類(A)1モルに対して0.1〜5モル%であり、好ましいのは0.2〜4モル%である。
【0014】
エチレンオキサイド付加反応において、ビスフェノール類(A)は、一般にその融点が150℃以上(例えば、ビスフェノールAの融点は158〜159℃)であるため、高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B)の製造を120℃以下で均一系で行うためには、溶媒を使用するのが好ましい。溶媒としては、水、トルエン及びキシレン等の有機溶剤が挙げられる。これらのうち、モノヒドロキシエチルエーテル(B1)及びエチレンオキサイド3モル以上付加物(B2)の含有量を少なくする観点から、水を使用するのが好ましい。水の使用量は、ビスフェノール類(A)の重量に基づき、好ましいのは5〜30重量%であり、更に好ましいのは5〜20重量%である。水を5重量%以上加えて加温することにより、水とビスフェノール類(A)とを120℃以下で均一に混合することができる。水の使用量を30重量%以下にすることにより、副生成物であるエチレングリコール、ジエチレングリコール及びポリエチレングリコール等の生成量を減らすことができる。
【0015】
エチレンオキサイド付加反応の反応条件としては、ビスフェノール類(A)、触媒(C)及び必要により溶媒を加圧反応容器に仕込みEOを吹き込み、常圧又は加圧下に1段階又は多段階で反応を行ない、EOの付加反応終了後は、溶媒及び残存EOを減圧下に留去する方法が挙げられる。EOの付加反応時の反応温度は、通常30〜180℃であり、好ましいのは60〜120℃である。反応温度が120℃以下であると、エチレンオキサイド3モル以上付加物(B2)が生成し難くなるため好ましい。反応温度が60℃以上であると、製造に要する時間が短くなり、生産効率が上がるため好ましい。
【0016】
本発明におけるエチレンクロロヒドリンによるエーテル化反応は、前記(B0)のうちのモノヒドロキシエチルエーテル(B1)が有するフェノール性水酸基をエチレンクロロヒドリンでエーテル化反応させ、前記(B)の純度を向上させる目的の反応である。エチレンクロロヒドリンの仕込みモル数は、前記(B0)に含まれるモノヒドロキシエチルエーテル(B1)のモル数に対して通常0.5〜4.0倍モルであり、好ましいのは0.7〜3.0倍モルであり、更に好ましいのは0.9〜2.0倍モルである。エチレンクロロヒドリンが0.5倍モル未満では純度の向上が少なく、4.0倍モルを超えると過剰のエチレンクロロヒドリンを除去する工程が長くなる。(B0)に含まれる(B1)のモル数は、液体クロマトグラフィー(以下、LCと略記する。)分析により(B1)の含有モル%を測定することから算出できる。LCの測定条件は以下の通りである。
【0017】
<LCの測定条件>
LC測定装置 : LC−20AD[島津製作所(株)製]
カラム : CAPCELL PAK C18
(4.6mmOX 250mm)[(株)資生堂製]
溶離液 : アセトニトリル/水=30/70(体積%)
流速 : 1.0ml/min
検出器 : SPD−M20A[島津製作所(株)製]
検出波長 : 275nm
注入量 : 2μl
【0018】
エチレンクロロヒドリンによるエーテル化反応は、(B0)に触媒(C)の存在下所定量のエチレンクロロヒドリンを仕込み、反応終了後は残存するエチレンクロロヒドリンを減圧下に留去し、精製する方法が挙げられる。反応温度は、通常30〜180℃であり、好ましいのは60〜120℃である。触媒(C)は、EOを付加させた時に用いた触媒(C)をそのまま用いてもよいし、新たに触媒(C)を追加してもよい。触媒(C)の使用量は、エチレンクロロヒドリンの仕込みモル数と等モル以上であることが好ましい。また、反応時にはトルエン及びキシレン等の有機溶媒を使用し、反応終了後に減圧留去してもよい。反応時に副生した塩酸塩及び有機溶媒は、高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B)を各種樹脂の原料とした際に耐熱性等の物性に影響を与えない範囲であれば、(B)中に残存させてもよい。
【0019】
本発明のビスフェノール類(A)の高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B)は、(B)のモル数に基づき、ビスフェノール類(A)のモノヒドロキシエチルエーテル(B1)の含有量が1.0モル%以下であり、かつビスフェノール類(A)のエチレンオキサイド3モル以上付加物(B2)の含有量が7.0モル%以下である。好ましいのは、(B1)の含有量が0.5モル%以下でありかつ(B2)の含有量が5.0モル%以下であり、更に好ましいのは、(B1)の含有量が0.2モル%以下でありかつ(B2)の含有量が3.0モル%以下であり、最も好ましいのは、(B1)の含有量が0.2モル%以下でありかつ(B2)の含有量が0.9モル%以下である。前記(B1)、前記(B2)及び未反応のビスフェノール類(A)の含有量(モル%)は、前記(B1)の含有モル%の分析方法と同様に、LC分析により測定することができる。また、LC分析の測定条件も同様の条件で行うことができる。
【0020】
本発明の高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B)の製造時には、その特性を損なわない範囲で、添加剤を含有してもよい。添加剤としては消泡剤(シリコーン系消泡剤、ポリオキシアルキレン系消泡剤及び鉱物油系消泡剤等)及び酸化防止剤(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール及びベンゾトリアゾール類等)等が挙げられる。添加剤の含有量は、ビスフェノール類(A)の重量に基づき、好ましいのは0〜0.5重量%である。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0022】
<実施例1>
温度計、加熱冷却装置、撹拌機、滴下ボンベ及びストリッピング装置を備えたガラス製耐圧反応容器に、ビスフェノールA228部(1.0モル部)、水45.6部(ビスフェノールAに対して20重量%)及び水酸化リチウム1水和物1.68部(0.04モル部)を仕込み、窒素置換を行った後110℃に昇温し、ビスフェノールAと水とを均一に混合した。次いでEO88部(2.0モル部)を100〜120℃、反応圧0.2MPa以下で7時間かけて滴下し、130℃に昇温後、−0.099MPaで残存EO及び水を留去した後、EOav及び(B1)含有量を測定したところ、EOav=1.97モル、(B1)含有量=0.035モル部(3.5モル%)であった。次いで110〜120℃に昇温後エチレンクロロヒドリン4.0部[0.050モル部、(B1)のモル数に対して1.4倍モル]を仕込み2時間反応させ、130℃、−0.099MPaで残存エチレンクロロヒドリンを留去し、ビスフェノールAの高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B−1)を得た。
【0023】
<実施例2>
実施例1と同様の反応容器に、ビスフェノールA228部(1.0モル部)、水45.6部(ビスフェノールAに対して20重量%)及び水酸化カリウム2.24部(0.04モル部)を仕込み、窒素置換を行った後110℃に昇温し、ビスフェノールAと水とを均一に混合した。次いでEO90部(2.05モル部)を100〜120℃、反応圧0.2MPa以下で6時間かけて滴下し、130℃に昇温後、−0.099MPaで残存EO及び水を留去した後、EOav及び(B1)含有量を測定したところ、EOav=2.02モル、(B1)含有量=0.028モル部(2.8モル%)であった。次いで110〜120℃に昇温後エチレンクロロヒドリン4.0部[0.050モル部、(B1)のモル数に対して1.8倍モル]を仕込み2時間反応させ、130℃、−0.099MPaで残存エチレンクロロヒドリンを留去し、ビスフェノールAの高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B−2)を得た。
【0024】
<実施例3>
実施例1と同様の反応容器に、ビスフェノールA228部(1.0モル部)、トルエン45.6部(ビスフェノールAに対して20重量%)及び水酸化カリウム2.24部(0.04モル部)を仕込み、窒素置換を行った後110℃に昇温し、ビスフェノールAとトルエンとを均一に混合した。次いでEO90部(2.05モル部)を100〜120℃、反応圧0.2MPa以下で6時間かけて滴下し、130℃に昇温後、−0.099MPaで残存EO及びトルエンを留去した後、EOav及び(B1)含有量を測定したところ、EOav=2.04モル、(B1)含有量=0.021モル部(2.1モル%)であった。次いで110〜120℃に昇温後エチレンクロロヒドリン3.2部[0.040モル部、(B1)のモル数に対して1.9倍モル]を仕込み2時間反応させ、130℃、−0.099MPaでトルエン及び残存エチレンクロロヒドリンを留去し、ビスフェノールAの高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B−3)を得た。
【0025】
<実施例4>
実施例1と同様の反応容器に、ビスフェノールA228部(1.0モル部)、水45.6部(ビスフェノールAに対して20重量%)及び水酸化リチウム1水和物1.68部(0.04モル部)を仕込み、窒素置換を行った後110℃に昇温し、ビスフェノールAと水とを均一に混合した。次いでEO84部(1.91モル部)を100〜120℃、反応圧0.2MPa以下で6時間かけて滴下し、130℃に昇温後、−0.099MPaで残存EO及び水を留去した後、EOav及び(B1)含有量を測定したところ、EOav=1.85モル、(B1)含有量=0.16モル部(16.0モル%)であった。その後、水酸化ナトリウム6.00部(0.15モル部)を仕込み、次いで110〜120℃に昇温後エチレンクロロヒドリン16.1部[0.20モル部、(B1)のモル数に対して1.3倍モル]を仕込み2時間反応させ、130℃、−0.099MPaで残存エチレンクロロヒドリンを留去し、ビスフェノールAの高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B−4)を得た。
【0026】
<実施例5>
実施例1と同様の反応容器に、ビスフェノールA228部(1.0モル部)、水45.6部(ビスフェノールAに対して20重量%)及び水酸化リチウム1水和物1.68部(0.04モル部)を仕込み、窒素置換を行った後110℃に昇温し、ビスフェノールAと水とを均一に混合した。次いでEO92部(2.14モル部)を100〜120℃、反応圧0.2MPa以下で8時間かけて滴下し、130℃に昇温後、−0.099MPaで残存EO及び水を留去した後、EOav及び(B1)含有量を測定したところ、EOav=2.10モル、(B1)含有量=0.011モル部(1.1モル%)であった。次いで110〜120℃にてエチレンクロロヒドリン3.2部[0.040モル部、(B1)のモル数に対して3.6倍モル]を仕込み2時間反応させ、130℃、−0.099MPaで残存エチレンクロロヒドリンを留去し、ビスフェノールAの高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B−5)を得た。
【0027】
<実施例6>
実施例1と同様の反応容器に、ビスフェノールF200部(1.0モル部)、水40.0部(ビスフェノールFに対して20重量%)及び水酸化リチウム1水和物1.68部(0.04モル部)を仕込み、窒素置換を行った後110℃に昇温し、ビスフェノールFと水とを均一に混合した。次いでEO88部(2.0モル部)を100〜120℃、反応圧0.2MPa以下で7時間かけて滴下し、130℃に昇温後、−0.099MPaで残存EO及び水を留去した後、EOav及び(B1)含有量を測定したところ、EOav=1.97モル、(B1)含有量=0.041モル部(4.1モル%)であった。次いで110〜120℃に昇温後エチレンクロロヒドリン4.0部[0.050モル部、(B1)のモル数に対して1.2倍モル]を仕込み2時間反応させ、130℃、−0.099MPaで残存エチレンクロロヒドリンを留去し、ビスフェノールFの高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B−6)を得た。
【0028】
<実施例7>
実施例1と同様の反応容器に、ビスフェノールS250部(1.0モル部)、トルエン250部(ビスフェノールSに対して100重量%)及び水酸化リチウム1水和物1.68部(0.04モル部)を仕込み、窒素置換を行った後110℃に昇温し、ビスフェノールSとトルエンとを均一に混合した。次いでEO92部(2.09モル部)を100〜120℃、反応圧0.2MPa以下で7時間かけて滴下し、130℃に昇温後、−0.099MPaで残存EO及びトルエンを留去した後、EOav及び(B1)含有量を測定したところ、EOav=2.02モル、(B1)含有量=0.020モル部(2.0モル%)であった。次いで110〜120℃に昇温後エチレンクロロヒドリン3.2部[0.040モル部、(B1)のモル数に対して2.0倍モル]を仕込み2時間反応させ、130℃、−0.099MPaで残存エチレンクロロヒドリンを留去し、ビスフェノールSの高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B−7)を得た。
【0029】
<実施例8>
実施例1と同様の反応容器に、2−メチルビスフェノールA256部(1.0モル部)、水51.2部(2−メチルビスフェノールAに対して20重量%)及び水酸化リチウム1水和物1.68部(0.04モル部)を仕込み、窒素置換を行った後110℃に昇温し、2−メチルビスフェノールAと水とを均一に混合した。次いでEO92部(2.09モル部)を100〜120℃、反応圧0.2MPa以下で7時間かけて滴下し、130℃に昇温後、−0.099MPaで残存EO及び水を留去した後、EOav及び(B1)含有量を測定したところ、EOav=1.97モル、(B1)含有量=0.039モル部(3.9モル%)であった。次いで110〜120℃に昇温後エチレンクロロヒドリン4.0部[0.050モル部、(B1)のモル数に対して1.3倍モル]を仕込み2時間反応させ、130℃、−0.099MPaで残存エチレンクロロヒドリンを留去し、2−メチルビスフェノールAの高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B−8)を得た。
【0030】
<実施例9>
実施例1と同様の反応容器に、ビスフェノールA228部(1.0モル部)、トルエン45.6部(ビスフェノールAに対して20重量%)及びトリエチルアミン2.36部(0.04モル部)を仕込み、窒素置換を行った後110℃に昇温し、ビスフェノールAとトルエンとを均一に混合した。次いでEO92部(2.09モル部)を100〜120℃、反応圧0.2MPa以下で7時間かけて滴下し、130℃に昇温後、−0.099MPaで残存EO及びトルエンを留去した後、EOav及び(B1)含有量を測定したところ、EOav=2.04モル、(B1)含有量=0.021モル部(2.1モル%)であった。次いで110〜120℃に昇温後エチレンクロロヒドリン2.4部[0.030モル部、(B1)のモル数に対して1.4倍モル]を仕込み2時間反応させ、130℃、−0.099MPaで残存エチレンクロロヒドリンを留去し、ビスフェノールAの高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B−9)を得た。
【0031】
<実施例10>
実施例1と同様の反応容器に、ビスフェノールA228部(1.0モル部)、トルエン45.6部(ビスフェノールAに対して20重量%)及び水酸化テトラメチルアンモニウム25重量%水溶液14.6部(0.04モル部)を仕込み、窒素置換を行った後110℃に昇温し、ビスフェノールAとトルエンとを均一に混合した。次いでEO92部(2.09モル部)を100〜120℃、反応圧0.2MPa以下で7時間かけて滴下し、130℃に昇温後、−0.099MPaで残存EO及びトルエンを留去した後、EOav及び(B1)含有量を測定したところ、EOav=2.02モル、(B1)含有量=0.017モル部(1.7モル%)であった。次いで110〜120℃に昇温後エチレンクロロヒドリン3.2部[0.040モル部、(B1)のモル数に対して1.4倍モル]を仕込み2時間反応させ、130℃、−0.099MPaで残存エチレンクロロヒドリンを留去し、ビスフェノールAの高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B−10)を得た。
【0032】
<実施例11>
温度計、加熱冷却装置、撹拌機、滴下ボンベ及びストリッピング装置を備えたガラス製耐圧反応容器に、ビスフェノールA228部(1.0モル部)及び水酸化リチウム1水和物1.68部(0.04モル部)を仕込み、窒素置換を行った後160℃に昇温し、EO16部(0.36モル部)を160〜170℃、反応圧0.2MPa以下で2時間かけて滴下した。その後、100〜120℃に冷却し、EO76部(1.73モル部)を5時間かけて滴下し、−0.099MPaで残存EOを留去した後、EOav及び(B1)含有量を測定したところ、EOav=2.05モル、(B1)含有量=0.041モル%(4.1モル%)であった。次いで110〜120℃に昇温後エチレンクロロヒドリン4.0部[0.050モル部、(B1)のモル数に対して1.2倍モル]を仕込み2時間反応させ、130℃、−0.099MPaで残存エチレンクロロヒドリンを留去し、ビスフェノールAの高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B−11)を得た。
【0033】
<比較例1>
実施例1と同様の反応容器に、ビスフェノールA228部(1.0モル部)、水45.6部(ビスフェノールAに対して20重量%)及び水酸化リチウム1水和物1.68部(0.04モル部)を仕込み、窒素置換を行った後110℃に昇温し、ビスフェノールAと水とを均一に混合した。次いでEO92部(2.09モル部)を100〜120℃、反応圧0.2MPa以下で7時間かけて滴下し、室温まで冷却後リン酸1.3部を投入して水酸化リチウム1水和物を中和し、130℃に昇温後、−0.099MPaで残存EO及び水を留去し、ビスフェノールAのビスヒドロキシエチルエーテル(B’−1)を得た。(B’−1)のEOav=2.03モルであった。
【0034】
<比較例2>
実施例1と同様の反応容器に、ビスフェノールA228部(1.0モル部)、トルエン45.6部(ビスフェノールAに対して20重量%)及び水酸化カリウム2.24部(0.04モル部)を仕込み、窒素置換を行った後110℃に昇温し、ビスフェノールAとトルエンとを均一に混合した。次いでEO93部(2.11モル部)を100〜120℃、反応圧0.2MPa以下で7時間かけて滴下し、室温まで冷却後リン酸1.3部を投入して水酸化リチウム1水和物を中和し、130℃に昇温後、−0.099MPaで残存EO及びトルエンを留去し、ビスフェノールAのビスヒドロキシエチルエーテル(B’−2)を得た。(B’−2)のEOav=2.14モルであった。
【0035】
実施例1〜11及び比較例1、2で得られた(B−1)〜(B−11)、(B’−1)、(B’−2)について、ビスフェノール類(A)の高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B)のモル数に基づき、モノヒドロキシエチルエーテル(B1)、エチレンオキサイド3モル以上付加物(B2)及び未反応のビスフェノール類(A)の含有量の測定結果を表1及び表2に示す。表1におけるN.D.は、検出されなかったことを表す。なお、含有量の測定は、前記LC分析と同様の方法で行った。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
表1及び表2の結果から、本発明のビスフェノール類(A)の高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B)の製造方法は、比較例1、2と比較して、モノヒドロキシエチルエーテル(B1)及びエチレンオキサイド3モル以上付加物(B2)の含有量が少ないことが明らかである。
【0039】
実施例1で得られたビスフェノールAの高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B−1)、比較例2で得られたビスフェノールAのビスヒドロキシエチルエーテル(B’−2)をそれぞれ用いてポリエステル樹脂を製造した。
【0040】
<製造例1>(B−1)を用いたポリエステル樹脂(X−1)の製造
温度計、加熱冷却装置、撹拌機、ストリッピング装置及び窒素導入管を備えた反応容器に、ビスフェノールAの高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B−1)370部、テレフタル酸166部及びエステル化触媒であるテトラブトキシチタネート0.5部を仕込み、窒素を液中に通気しながら230℃に昇温し、常圧で生成水を留去しながらエステル化反応を行った。常圧で生成水の留出がなくなってから徐々に系内を減圧にして更にエステル化反応を行い、酸価が0.8になった時点で室温まで冷却し、ポリエステル樹脂(X−1)を得た。
【0041】
<比較製造例1>(B’−2)を用いたポリエステル樹脂(X−2)の製造
ビスフェノールAの高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B−1)370部を比較例2で得られたビスフェノールAのビスヒドロキシエチルエーテル(B’−2)370部に変更した以外は製造例1と同様にして、ポリエステル樹脂(X−2)を得た。
【0042】
ポリエステル樹脂(X−1)及び(X−2)の数平均分子量並びにガラス転移点を以下の方法で測定した。測定結果を表3に示す。
【0043】
<ポリエステル樹脂の数平均分子量の測定>
ゲルパーミエーションクラマトグラフィーにより、ポリエステル樹脂(X−1)及び(X−2)の数平均分子量を測定した。測定条件は以下の通りである。
装置 : 東ソー(株)製 HLC−8120
カラム : TSK GEL GMH6 2本[東ソー(株)製]
測定温度 : 25℃
試料溶液 : 0.25重量%のテトラヒドロフラン溶液
溶液注入量 : 200μl
検出装置 : 屈折率検出器
なお、分子量校正曲線は標準ポリスチレンを用いて作成した。
【0044】
<ガラス転移点の測定>
ASTM D3418−82に規定の方法(DSC法)でポリエステル樹脂(X−1)及び(X−2)のガラス転移点を測定した。
示差走査熱量計:DSC20、SSC/580[セイコー電子工業(株)製]
【0045】
【表3】

【0046】
表3の結果から明らかなように、本発明の製造方法で得られたビスフェノールAの高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B−1)を用いて製造したポリエステル樹脂(X−1)は、比較例2で得られたビスフェノールAのビスヒドロキシエチルエーテル(B’−2)を用いて製造したポリエステル樹脂(X−2)と比較してガラス転移点が高い。これは、前記(B−1)中の(B1)及び(B2)含有量が、前記(B’−2)中の(B1)及び(B2)含有量よりも少ないためであると推定される。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の製造方法で得られたビスフェノール類(A)の高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B)は、従来品よりもモノヒドロキシエチルエーテル(B1)及びエチレンオキサイド3モル以上付加物(B2)の含有量が少ないため、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂及びポリカーボネート樹脂等の原料として有用である。また、本発明の製造方法で得られたビスフェノール類(A)の高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B)の水酸基を、例えばエピクロルヒドリンによるエポキシ変性、アリルクロライドによるアリル変性、(メタ)アクリル酸によるアクリル変性したものは、その他の樹脂原料としても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノール類(A)の高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B)を製造する方法であって、触媒(C)の存在下にビスフェノール類(A)にエチレンオキサイドを付加反応させて、ビスフェノール類(A)のエチレンオキサイド平均1.80〜2.10モル付加物(B0)を得た後、更に、前記(B0)に含まれるビスフェノール類(A)のモノヒドロキシエチルエーテル(B1)のモル数に対して0.5〜4.0倍モルのエチレンクロロヒドリンを仕込んでエーテル化反応させることを特徴とするビスフェノール類(A)の高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B)の製造方法。
【請求項2】
前記ビスフェノール類(A)が、ビスフェノールAである請求項1記載の高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B)の製造方法。
【請求項3】
前記エチレンオキサイドを付加反応させる工程において、更に水を存在させることを特徴とする請求項1又は2記載の高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B)の製造方法。
【請求項4】
触媒(C)が水酸化リチウムである請求項1〜3いずれかに記載のビスフェノール類(A)の高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B)の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の製造方法で得られ、高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B)のモル数に基づき、ビスフェノール類(A)のモノヒドロキシエチルエーテル(B1)の含有量が1.0モル%以下であり、かつビスフェノール類(A)のエチレンオキサイド3モル以上付加物(B2)の含有量が7.0モル%以下であるビスフェノール類(A)の高純度ビスヒドロキシエチルエーテル(B)。

【公開番号】特開2011−37792(P2011−37792A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188452(P2009−188452)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】