説明

ビスフェノールAの製造方法

【課題】本発明は、高純度ビスフェノールA製造プロセスの連続晶析工程における製造装置内壁への結晶の付着、特に晶析塔入口流路の内壁における結晶の付着の進行を、連続運転中に、晶析工程の運転や製品の品質に影響を与えることなく抑制し、安定した運転を長期間継続可能とするビスフェノールAの製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】晶析塔と、該晶析塔から晶析液の一部を抜き出して、該晶析塔に循環させるための再循環流路がある晶析工程において、該再循環流路中の流量を一定時間増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフェノールとアセトンを酸性触媒存在下に反応させてビスフェノールAを含有する反応液を得る反応工程、得られた反応混合物から軽沸成分除去して晶析原料を調製する軽沸物除去工程、得られた晶析原料を冷却してビスフェノールAとフェノールの付加物を得た後に固液分離する晶析工程、及び得られたビスフェノールAとフェノールの付加物からフェノールを分離して、ビスフェノールAを回収する脱フェノール工程を有するビスフェノールAの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノールAは、通常、フェノールとアセトンとを酸性触媒存在下に反応させることにより製造される。反応器の出口液の組成は、ビスフェノールAの他に未反応フェノール、未反応アセトン、反応生成水、および反応副生物からなっており、得られた反応混合物から軽沸成分除去して晶析原料を調製する軽沸物除去工程、得られた晶析原料を冷却してビスフェノールAとフェノールの付加物(以下、「アダクト結晶」と称することがある)を得た後に固液分離する晶析工程、及び得られたビスフェノールAとフェノールの付加物からフェノールを分離して、ビスフェノールAを回収する脱フェノール工程を経てビスフェノールAを得る方法が一般的である。
【0003】
上記晶析工程で、晶析塔を有し、該晶析塔から晶析液の一部を抜き出して該晶析塔へ循環させる工程を有する場合、運転を継続するにつれて、晶析液を循環させるポンプ及び流路の内壁、及び流路中に設置された熱交換器の内部に結晶の付着(以下、これを「ファウリング」と称することがある)が進行して、熱交換器の伝熱効率の低下や、循環流路の流量低下により冷却能力が不足し、十分な晶析塔の冷却が不可能となり、プラントの連続運転の妨げになっていた。
【0004】
上記ファウリングの防止方法としては、これまで様々な方法が開示されている。例えば、循環流路を並列に複数個設け、晶析塔から晶析液の一部を抜き出して晶析塔に循環させる一方で、他の流路は再循環流路と切り離して独立に循環させ、その際に該独立循環流路に含まれる熱交換器に熱媒を導入することで、晶析液を付着した結晶を溶解するに十分な温度にして循環させて該独立循環流路中のポンプ及び流路の内壁、及び該流路中に設置された熱交換器の内部に付着した結晶を除去した後に、再び独立循環流路を再循環流路に復帰させる方法で、連続的に晶析を実施しながらも、定期的に各ポンプ、流路の内壁及び熱交換器の内部に付着した結晶を除去しながら運転を継続する方法が開示されている(特許文献1)。
【0005】
しかし、上記方法により付着物の除去を行う場合においても、装置の構造上、高温の晶析液を循環させることができない部分ができてしまい、連続運転が維持できず、結局定期的にプラントを停止して、固液分離工程を除く晶析工程全体の温度を上昇させて付着した結晶を溶解する必要があるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平05−015701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の高純度ビスフェノールA製造プロセスの連続晶析工程において、避け
ることができなかった製造装置内壁への結晶の付着、特に晶析塔入口流路の内壁における結晶の付着の進行を、連続運転中に、晶析工程の運転や製品の品質に影響を与えることなく抑制し、安定した運転を長期間継続可能とするビスフェノールAの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
晶析工程の流路中の付着物の除去については、上記特許文献1の方法以外にも、Chemical Engineering and Processing,38, (1999),449-461において、該流路中の流量を、周期的に、かつパルス的に変動させた場合、ファウリングが抑制できるという結果が報告されている。この結果において、パルスの長さは0.5秒程度であり、パルス間の周期は10秒で、パルス間の周期を長くしていくと抑制効果は低下し、20分以上にするとほとんどファウリング抑制効果は見られないことが記載されている。
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、上記のパルス的な短時間の流量の増加では、ビスフェノールA製造方法の晶析工程の流路等に付着する付着物の除去はされないことを見出し、晶析塔と、該晶析塔から晶析液の一部を抜き出して、該晶析塔に循環させるための再循環流路がある晶析工程において、該再循環流路中の流量を一定時間増加させることにより上記課題を解決できることを見いだして本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、
(1)フェノールとアセトンを酸性触媒存在下に反応させてビスフェノールAを含有する反応液を得る反応工程、得られた反応混合物から軽沸成分除去して晶析原料を調製する軽沸物除去工程、得られた晶析原料を冷却してビスフェノールAとフェノールの付加物を得た後に濾過してこれを分離する晶析工程、及び得られたビスフェノールAとフェノールの付加物からフェノールを分離して、ビスフェノールAを回収する脱フェノール工程を有するビスフェノールAの製造法において、
前記晶析工程が、晶析塔と、該晶析塔から晶析液の一部を抜き出して、該晶析塔に循環させるための再循環流路があり、該再循環流路中の流量を一定時間増加させることを特徴とするビスフェノールAの製造方法、
(2)前記晶析工程が、晶析塔と、該晶析塔から晶析液の一部を抜き出して、該晶析塔に循環させるための再循環流路、及び再循環流路と独立させることができる2つ以上の独立
循環流路があり、
該独立循環流路の少なくとも1つが独立状態にあるときには、他の独立循環流路は再循環流路の一部となるように相互に切替えが可能であり、
前記独立循環流路中には、少なくとも1台のポンプが設置されていて、流路が独立循環流路となっている場合には独立循環流路中に液を循環させるために機能し、流路が再循環流路となっている場合には、再循環流路中に晶析液を循環させるために機能し、
前記独立循環流路の切替え時に、独立循環流路と再循環流路を連結して、両流路中に設置されたポンプを一定時間同時に駆動して、再循環流路中の流量を増加させることを特徴とする上記(1)に記載のビスフェノールAの製造方法、
(3)前記独立循環流路中に、流路中に付着した付着物を溶解するのに充分な温度の晶析液を前記付着物の溶解に充分量循環させることにより該独立循環流路の洗浄を行うことを特徴とする上記(2)に記載の方法、
(4)前記独立循環流路中に、少なくとも1つの熱交換器を有することを特徴とする上記(2)または(3)に記載の方法、
に存する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のビスフェノールAの製造方法によると、これまで、プラントを停止しなければファウリングの除去ができなかった箇所について、連続運転中にファウリング除去ができ
るので、ビスフェノールA製造工程の連続運転日数が大幅に増大するので、工業的に効率良いビスフェノールAの製造方法が提供されるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の製造方法の晶析工程を示す図である。Aは、範囲aが独立循環流路となっている状態を示し、Bは独立循環流路の切替えを行って、範囲bが独立循環流路となっている状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態や例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
本発明のビスフェノールAの製造方法は、フェノールとアセトンを酸性触媒存在下に反応させてビスフェノールAを含有する反応液を得る反応工程、得られた反応混合物から軽沸成分除去して晶析原料を調製する軽沸物除去工程、得られた晶析原料を冷却してビスフェノールAとフェノールの付加物を得た後に固液分離する晶析工程、及び得られたビスフェノールAとフェノールの付加物からフェノールを分離して、ビスフェノールAを回収する脱フェノール工程を有するビスフェノールAの製造法において、前記晶析工程が、晶析塔と、該晶析塔から晶析液の一部を抜き出して、該晶析塔に循環させるための再循環流路、及び再循環流路と独立させることができる独立循環流路が2つ以上あり、該独立循環流路の少なくとも1つが独立状態にあるときには、他の独立循環流路は再循環流路の一部となるように相互に切替えが可能であり、前記独立循環流路中には、少なくとも1台のポンプが設置されていて、流路が独立循環流路となっている場合には独立循環流路中に液を循環させるために機能し、流路が再循環流路となっている場合には、再循環流路中に晶析液を循環させるために機能し、前記独立循環流路の切替え時に、独立循環流路と再循環流路を連結して、両流路中に設置されたポンプを一定時間同時に駆動して、再循環流路中の流量を増加させることを特徴とする方法である。
【0014】
(1)反応工程
本発明のビスフェノールA製造方法におけるアセトンとフェノールの縮合反応は、公知の方法を用いることができるが、具体例として以下に詳述する。
使用し得る酸性触媒としては通常ビスフェノールAの製造触媒として用いられる酸性のイオン交換樹脂であれば何れのものでもよいが、ベンゼン環総数の2〜16%程度にスルホン酸基を導入したスチレン−ジビニルベンゼン共重合型の酸性陽イオン交換樹脂が好ましい。
【0015】
またこの触媒を用いて反応を行う際にメルカプタン類の化合物を助触媒として共存させるのがよい。このメルカプタン類は、分子内にチオール基を遊離の形で有する化合物を意味し、アルキルメルカプタンや、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基等の置換基1種以上を有するアルキルメルカプタン類、例えばメルカプトカルボン酸、アミノアルカンチオール、メルカプトアルコール等を用いることができる。具体的には、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、等のアルキルメルカプタン、チオグリコール酸、β−メルカプトプロピオン酸等のチオカルボン酸、2−アミノエタンチオール、2−ピリジルエタンチオール、4−ピリジルエタンチオール等のアミノアルカンチオール、メルカプトエタノール等のメルカプトアルコール等が挙げられる。上記助触媒は、原料であるフェノールやアセトンと同時に加えても良いが、アミノ基のような塩基構造を持つものを使用する場合、あらかじめ上記酸型イオン交換樹脂と反応させて、触媒中のスルホン酸基と助触媒のアミノ基のような塩基を反応させて触媒上に固定化させて用いても良い。また、これらの上記助触媒は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
アルキルメルカプタン等のような助触媒を反応時に添加して反応を行う場合は、原料のアセトンに対して、0.1〜20モル% 、好ましくは、1〜10モル% の範囲で添加するのが好ましく、アミノアルカンチオール等のような助触媒を固定化して反応を行う場合はスルホン酸型酸性イオン交換樹脂のスルホン酸基の1〜50%に助触媒をイオン結合させて固定化
するのがよい。助触媒の使用量が少なすぎると実用的な反応速度が得られないという問題があり、助触媒の使用量が多すぎると使用量に見合う活性の上昇が見られず、経済的ではない。
【0017】
原料のフェノールとアセトンのモル比については特に制限はないが、フェノールを化学量論的量よりも過剰に用いるのがよく、アセトン1モル当たり、3〜30モル、好ましくは5
〜20モルのフェノールが用いられる。アセトン1モルあたりのフェノールの使用量が3モルよりも小さいとビスフェノールAの選択率が低下し、30モルより大きい場合は反応速度の低下、装置の巨大化等の問題が発生する。
【0018】
フェノールとアセトンとの縮合反応は、反応方式に特に制限はないが、助触媒を固定化した酸型イオン交換樹脂を充填した反応器に、フェノールとアセトンを連続的に供給して反応させる固定床連続反応方式を用いるのが好ましい。この際、反応器の器数は1器で反応を行ってもよいが、2器以上を直列または並列に配置して反応させてもよい。反応温度は、通常40〜130℃、好ましくは40〜90℃である。反応温度が40℃未満では反応液が固化
するおそれがあるので好ましくなく、130℃以上の高温では反応触媒である酸性イオン交
換樹脂の酸性基が触媒から脱離してビスフェノールAに混入してビスフェノールA分解の原因となったり、高温により触媒が分解して触媒寿命が低下したりする。原料であるフェノールとアセトンの混合物のLHSV(液空間速度)は、0.2〜20hr-1で通液するのが好ましい。
【0019】
(2)軽沸物除去工程
上記反応工程で生成したビスフェノールAを含有する反応混合物は、未反応のアセトン、フェノール、生成した水等の軽沸物を含むので、これらを除去する軽沸物除去工程に供される。軽沸物除去方法は、公知の方法を用いることができるが、例えば、蒸留が用いられる。軽沸物の除去の前に反応混合物をフィルターろ過すると、触媒残渣や触媒破砕物を除去し、製品のビスフェノールA の分解や色相を抑制することができるので好ましい。
フィルターろ過する場合には、フィルターとして、ガラス繊維等でできたカートリッジフィルター、セラミックスフィルター、ステンレス鋼等でできた焼成金属フィルター、フッ素樹脂等でできたメンブレンフィルター等を使用することができる。これらのフィルターのうち30ミクロン以上の粒子を補足できるようなものを使用することが好ましい。
【0020】
次いで、未反応のアセトンやフェノール、反応で生成した水、反応で使用したメルカプタン化合物等(これらを、本明細書中では「軽沸物」と称することがある)が除去される。軽沸物を蒸留により除去する場合、液との接触面がステンレス鋼(例えばSUS304、SUS316、SUS316L等)等でできている蒸留塔を1本もしくは2本以上用いて、一般に圧力5〜100kPa、温度70〜180℃で減圧蒸留することが好ましい。温度が高すぎるとビスフェノールAが分解する恐れがあり好ましくない。該軽沸物を除去した残部、具体的には上記蒸留塔の塔底液等を晶析原料として晶析工程に供する。
【0021】
(3)晶析工程
晶析工程においては、ビスフェノールAとフェノールとが1:1で付加した付加物と、ビスフェノールAを得た後にこれを分離する。晶析を行う前に、濃度や組成を調整するために、例えば、特開平6−25045号公報に記載のとおりフェノール、水、アセトン、C5〜C7の炭化水素等を上記晶析原料に加えても良い。このように調整されて晶析塔へ供給される液を、晶析液と称する。
【0022】
本発明の晶析工程は、晶析塔と、該晶析塔から晶析液の一部を抜き出して、該晶析塔に循環させるための再循環流路があり、本願発明のビスフェノールAの製造法では、該再循環流路中の流量を一定時間増加させることを特徴とする。一定時間とは、例えば10秒〜1時間が好ましい。特に好ましくは、5分〜30分である。10秒以下では、循環流路全体の流
速が上昇しきれない。5分以上で付着物を十分に剥離することができ、1時間以上流量を増加させてもその流量において剥離により除去できる付着物は全て除去されるので更なる効果は見られない。また、流量の増加量としては、10〜100%が好ましい。10%以下であると十分なファウリング除去効果が得られず、100%以上とすると圧損の増加、アダクトの破砕促進といった悪影響が強くなり効率が悪化する。
【0023】
また、本発明の晶析工程の好ましい例として、少なくとも晶析塔と、該晶析塔から晶析液の一部を抜き出して該晶析塔に循環させるための再循環流路、及び再循環流路と独立させることができる独立循環流路が2つ以上あり、該独立循環流路の少なくとも1つが独立状態にあるときには、他の少なくとも1つの独立循環流路は再循環流路の一部となるように相互に切替えが可能であり、前記独立循環流路中には、少なくとも1台のポンプが設置されていて、流路が独立循環流路となっている場合には独立循環流路中に液を循環させるために機能し、流路が再循環流路となっている場合には、再循環流路中に晶析液を循環させるために機能する構造を有するものが挙げられる。
【0024】
晶析塔の形状、材質等については特に限定されないが、晶析塔内の内液が攪拌されていることが好ましく、攪拌翼等により機械的な力を加えて攪拌してもよいが、晶析塔内をプロセス液が下から上へらせん状に流れることにより、外部からの機械的な力を加えることなく自流で攪拌されるように液を供給することが望ましい。内液と接触する晶析塔、流路、ポンプ、熱交換器等の材質は、晶析液がフェノールを含有しているため、カーボンスチールであると腐食の問題があるのでステンレス鋼が好ましい。特にSUS304、316、316L等が好ましい。ポンプの種類は、ターボ形ポンプが好ましく、スラリーを循環させるので破砕を防ぐ目的から、斜流ポンプがより望ましい。
【0025】
晶析液は晶析塔に供給して、40〜70℃に冷却し、アダクト結晶を析出させて該アダクト結晶とフェノールとを主成分とするスラリー液を得る。晶析温度が40℃より低いとフェノールが固化する恐れがあり、70℃以上であるとビスフェノールAの溶解ロスが大きくなるため好ましくない。冷却は、晶析液の一部を抜き出してその流路中に設置された外部熱交換器により冷却する方法が好ましく用いられるが、晶析液を減圧下の晶析塔に供給して液からの蒸発潜熱を利用して冷却する方法等も用いることができる。
【0026】
本願発明の晶析工程について、図1の記載を参考に以下に詳細に説明する。上記晶析液は、流路101を通して晶析塔1に導入され、冷却されることにより晶析が行われる。晶析
液の冷却は、晶析塔から流路102を介して晶析液の一部を抜き出し、流路中に存在する熱
交換器により冷却し、流路103を介して晶析塔へ循環する(以下、これを「再循環」と称
する)ことにより行われる。上記再循環がされる再循環流路中には、再循環流路と独立させることができる独立循環流路である範囲aで示される流路と、範囲bで示される流路がある。
【0027】
これらの独立循環流路について、範囲aで示される流路が独立状態で、他の独立循環流
路(範囲b)は再循環流路の一部となるようにするには、バルブ11及び14を閉め、12、13、15を開放すればよい(図1−A)。また、これら独立循環流路は相互に切り替えが可能であるので、範囲bで示される流路が独立状態にあり、他の独立循環流路(範囲a)が再循環流路の一部となるように切り替えることができる。具体的には、バルブ12、13及び15を閉めて、11及び14を開放することにより行うことができる(図1−B)。
【0028】
前記独立循環流路中には、少なくとも1台のポンプが設置されていて、流路が独立循環流路となっている場合には、該独立循環流路中に液を循環させるために機能し、流路が再循環流路となっている場合には、再循環流路中に晶析液を循環させるために機能する。図1Aでは、範囲aの独立循環流路中に存在するポンプ4は、該独立循環流路内の液循環のために用いられ、ポンプ5は、再循環流路内の液循環のために用いられる。また、独立循環
流路中には少なくとも1台以上の熱交換器を有することが好ましい。熱交換器の種類は、一般的なシェルアンドチューブ熱交換器、スパイラル式熱交換器、プレート式熱交換器等を用いることができる。また、該熱交換器は、再循環流路中で、晶析液の冷却を行うこともできるし、後述する独立循環流路中のファウリング除去のために熱媒に切替えられるような構造となっていることが好ましい。
【0029】
独立循環流路を再循環流路から独立させる方法は、上記のように流路中に設置されたバルブの開閉を調整することにより行うことが好ましいが、これに限られるものではない。さらに、本発明の方法の晶析工程において、晶析塔は1つとは限らず、複数の晶析塔を有していてもよく、その場合、上記独立循環流路は、複数の晶析塔の再循環流路として機能する構造を有していてもよい。
【0030】
本発明のビスフェノールAの製造方法の晶析工程においては、運転を継続するにつれて、上記再循環流路の内壁や、設置されているポンプの内壁、及び晶析塔が外部冷却式の場合はその熱交換器内部でファウリングが進行する。本願発明の方法では、晶析工程において、晶析塔から晶析液の一部を抜き出して晶析塔に循環させる一方で、独立循環流路を上記の方法で形成し、再循環流路と切り離して独立に加熱した晶析液等を循環させることにより、ファウリングを除去する。
【0031】
独立循環流路中を循環させる液は、ファウリングの除去を行い得るものであれば特に制限はないが、アダクト結晶溶解温度以上に加熱した晶析液が好ましい。アダクト結晶溶解温度とは、具体的には、例えば、50〜100℃である。循環させる液の加熱方法は、特に制
限はないが、好ましくは、独立循環流路中に設置した熱交換器に熱媒を導入して循環させることで行われる。加熱した晶析液等を独立循環流路中に循環させる時間は、晶析液等の循環液がアダクト結晶温度以上に到達した後、少なくとも10分間である。その後に、他の流路を独立循環流路として切り替えて、新たに独立循環流路となった流路で、上記のファウリング除去方法を行うことにより、連続的に晶析工程を実施しながらも、定期的に各ポンプ、流路の内壁及び熱交換器の内部に付着したファウリングを除去しながら運転を継続することができる。
【0032】
独立循環流路の切り替え、及びファウリング除去は、2〜24時間ごとに行うことが好ま
しく、順番に全ての独立循環流路を切替えていくことが好ましい。独立循環流路の切り替えは、電子的制御等により自動化することもできる。
本発明の方法では、前記独立循環流路の切替え時に、独立循環流路と再循環流路を連結して、両流路中に設置されたポンプを一定時間同時に駆動して、循環流路中の流量を増加させる。図1で説明すると、範囲aの独立循環流路から、範囲bの独立循環流路へ切り替える際に、バルブ11〜15の全てを開放して、独立循環流路と再循環流路を連結し、さらに、一定時間ポンプ4と5を同時に駆動する。このとき連結する独立循環流路は、1つ以上であればよく、複数の独立循環流路を連結させてもよい。
【0033】
ポンプを同時に駆動して流量を増加させる時間は10秒〜1時間が好ましい。特に好ましくは、5分〜30分である。10秒以下では、循環流路全体の流速が上昇しきれず、5分以上では付着物を十分に剥離することができ、1時間以上流量を増加させてもその流量において
剥離により除去できる付着物は全て除去されるので更なる効果は見られない。また、流量
の増加量としては、10〜100%が好ましい。10%以下であると十分なファウリング除去効果が得られず、100%以上とすると圧損の増加、アダクトの破砕促進といった悪影響が強くなり効率が悪化する。
【0034】
ポンプを同時に駆動させて流量を増加させるのは、全ての独立循環流路の切替え時に行う必要はなく、例えば、2〜8時間ごとに行うことが好ましい。また、晶析液に接触している内壁部分のファウリングの厚みが運転日数に対して直線的に増加するわけではなく、誘導期間を経た後に急激に増加するので、上記流量の増加はファウリングがあまり進行していない運転当初から行うことが好ましい。
【0035】
上記で得られたスラリーは、ろ過や遠心分離等の公知の手段により、アダクト結晶と晶析母液と呼ばれる液成分に分離する。ろ過や遠心分離の方法に特に制限はないが、減圧式や加圧式のベルトフィルターやロータリーフィルムエバポレーターのような装置により濾過及び分離を行うのが好ましい。晶析母液は、反応器へ循環させたり、一部又は全部を酸もしくはアルカリを加えて熱分解処理し、生成する重質分を蒸留により系外に除去する。残りの成分は熱分解処理の条件を操作することにより、フェノールのみを回収しても良いし、フェノールとイソプロペニルフェノールとして回収した後、スルホン酸型の酸性イオン交換樹脂のような酸性触媒と接触させることによりビスフェノールAとして回収しても良い。また、これらの操作の前もしくは後ろで一部又は全部を異性化処理することにより、不純物として含まれる2、4’異性体を4、4’ビスフェノールAに変換して回収しても良い。
【0036】
(4)脱フェノール工程
分離された結晶がビスフェノールAとフェノールの1:1付加物であるアダクト結晶の場合は、結晶からフェノールを分離する。フェノール分離方法については、公知の方法を用いることができるが、具体的には、100〜160℃にアダクト結晶を加熱溶融し、得られた溶融液から、例えば、蒸留装置、薄膜蒸発器、フラッシュ蒸発器等を1基〜数基組み合わせて使用することにより、大部分のフェノールを分離する方法等が採用される。
【0037】
また、溶融液中に残存している微量のフェノールを分離するために、上記の操作を行った後、温度150〜250℃にて、スチームストリッピング等により残存フェノールを分離し、ビスフェノールAを精製する方法も採用される。この操作により残存フェノールは1000重量ppm以下、好ましくは300重量ppm以下、さらに好ましくは50重量ppm以下となる。
かくして得られた高純度で溶融状態のビスフェノールAは、造粒塔やフレーカーに送られ、固体のプリルやフレークとなって製品ビスフェノールAとなる。大規模な製造装置では一般に造粒塔により直径0.5〜4mm程度の粒子が製造され、製品ビスフェノールAとなる。また、溶融法等によるポリカーポネート樹脂の製造等に供する場合のように、ビスフェノールAを粒子化をせずに溶融状態のまま移送することも出来る。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の方法を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
<実施例1>
図1-A及びBに示すフローのような晶析工程を含む製造プラントにおいて、連続的にビ
スフェノールAの製造を実施した。
【0039】
流路101から102t/hでフィードされたフェノール、ビスフェノールA、2、4’-異性体等の不純物からなる晶析液は晶析塔1にてビスフェノールAとフェノールのアダクト結晶を
冷却晶析により生じ、65℃でスラリー濃度16%のスラリーとして流路102を通じて次工程
に送った。冷却は、晶析塔出口からのスラリーの一部を熱交換器2または3に通じることに
よって行った。熱交換器は一般的なシェルチューブ型の熱交換器であり、シェル側には冷却水、もしくは温水を導入した。
【0040】
熱交換器2、3はそのどちらかが晶析塔の冷却に使われているとき、他方は97℃の温水をシェル側に導入して、チューブ内に付着した付着物の溶解作業を行った。また、熱交換器3は別の晶析塔のとの兼用器であるため別の晶析塔の冷却のために使用する時間帯もあ
った。冷却及び、加熱による溶解は、それぞれの晶析塔の冷却需要、熱交換器伝面への付着物の付着のしやすさに応じた最適なタイムスケジュールで運転した。本実施例においては、熱交換器2は5時間おきに90分間、熱交換器3は5時間おきに70分間の溶解作業を実施した。これらの溶解作業時間及びインターバルは、他の熱交換器の洗浄により多少前後することがあった。熱交換器2が付着物の溶解作業を行っているとき、2を含む流路は切り離され単独で循環しており、その間3を冷却器として稼動させた。この場合、それぞれのバル
ブはバルブ11:閉、12:開、13:開、14:閉、15:開とした。
【0041】
次に、2を冷却器として使用するために、シェル側の温水を抜く作業を行った。この時
にバルブ11を開けて、バルブ12を閉じるとポンプ4と5の並列運転となり流路103、104の
流量が1700t/hから2000t/hに18%増加した。このシェル側の温水を抜く作業に必要な時間は20分間であり、その後、バルブ13:閉、15:閉として熱交換器2により晶析塔の冷却を開始した。このポンプ並列運転による20分間の流量の増加を6時間おきに実施した。そ
の結果、110日連続でロードを保ったまま晶析塔を運転することができた。
【0042】
上記で、ホンプを2台運転した際の流速の上昇が18%であったため、一般に流速に比例
する剥離速度は18%アップしたと計算される。また、6時間間隔で20分間ポンプを2台運
転したので、全体の運転時間に対する2台運転時間は5.6%であった。以上のことより、剥離を0.18 × 0.056 = 1%促進しただけで、連続運転日数が85日から110日へと30%も劇的
に向上した。
【0043】
<比較例1>
実施例1において、シェル側の温水を抜く作業中もバルブ11:閉、12:開のままとし、その後、一度に、バルブ11:開、12:閉、13:閉、15:閉として冷却器を切り替えた以外は、実施例1と同様にして運転を行った。この結果、ロードを保ったまま連続で晶析塔を運転できる日数は85日であった。
【符号の説明】
【0044】
1 晶析塔
2 熱交換器
3 熱交換器
4 ポンプ
5 ポンプ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノールとアセトンを酸性触媒存在下に反応させてビスフェノールAを含有する反応液を得る反応工程、得られた反応混合物から軽沸成分除去して晶析原料を調製する軽沸物除去工程、得られた晶析原料を冷却してビスフェノールAとフェノールの付加物を得た後に濾過してこれを分離する晶析工程、及び得られたビスフェノールAとフェノールの付加物からフェノールを分離して、ビスフェノールAを回収する脱フェノール工程を有するビスフェノールAの製造法において、
前記晶析工程が、晶析塔と、該晶析塔から晶析液の一部を抜き出して、該晶析塔に循環させるための再循環流路があり、該再循環流路中の流量を一定時間増加させることを特徴とするビスフェノールAの製造方法。
【請求項2】
前記晶析工程が、晶析塔と、該晶析塔から晶析液の一部を抜き出して、該晶析塔に循環させるための再循環流路、及び再循環流路と独立させることができる2つ以上の独立循環流路があり、
該独立循環流路の少なくとも1つが独立状態にあるときには、他の独立循環流路は再循環流路の一部となるように相互に切替えが可能であり、
前記独立循環流路中には、少なくとも1台のポンプが設置されていて、流路が独立循環流路となっている場合には独立循環流路中に液を循環させるために機能し、流路が再循環流路となっている場合には、再循環流路中に晶析液を循環させるために機能し、
前記独立循環流路の切替え時に、独立循環流路と再循環流路を連結して、両流路中に設置されたポンプを一定時間同時に駆動して、再循環流路中の流量を増加させることを特徴とする請求項1に記載のビスフェノールAの製造方法。
【請求項3】
前記独立循環流路中に、流路中に付着した付着物を溶解するのに充分な温度の晶析液を前記付着物の溶解に充分量循環させることにより該独立循環流路の洗浄を行うことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記独立循環流路中に、少なくとも1つの熱交換器を有することを特徴とする請求項2または3に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−12345(P2012−12345A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151217(P2010−151217)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】