説明

ビスマスの電解採取方法および得られたビスマスの精製法。

【課題】塩酸浴を用いたビスマスの電解採取において、陽極からの塩素ガス発生を伴わず、電着ビスマスが陰極から剥離落下しない板状の電着を可能とし、かつ、高電流密度で生産性を高める。
【解決手段】 ビスマスを含む塩酸溶液から電解採取によって金属ビスマスを製造する方法において、陽極と陰極の間を陽イオン交換膜で仕切り、硫酸溶液のアノライトと、ビスマスを含む塩酸溶液のカソライトをそれぞれ陽極室、陰極室に入れ、各溶液を定量で液循環させながら、回転式の陰極にビスマスを電着させるビスマスの電解採取方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解採取により金属ビスマスを製造する方法および得られたビスマスの精製法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスマスを含む塩酸浴から電解採取により金属ビスマスを製造する方法には、陽極からの塩素ガスの発生や、陰極に電着したビスマス粉末の一部が剥離し塩酸浴中で再溶解する等の問題があった。
そこで、これらの解決手段として、陽イオン交換膜を用いて陽極を塩酸溶液から隔離する隔膜電解法(特許文献1:特開平8−311679)や、陰極から剥離し電解槽に落下したビスマス粉末をメッシュ電極で捕集する電解採取法(特許文献2:特開平10−158879)等の手法がこれまで提供されてきた。
【0003】
しかしながら上述の方法では、電着物は依然粉末状或いは粒状のままであるため、電着物への不純物混入が問題となりやすく、粉末状或いは粉状電着物の剥離回収、洗浄、乾燥、運搬といった操業上のハンドリングが容易ではなかった。
さらに、電流密度が20A/m2程度と低いため、その生産性もあまり効率的ではなかった。
【特許文献1】特開平8−311679「ビスマスの電解採取方法」
【特許文献2】特開平10−158879「アンチモン、ビスマスの電解採取方法及び装置」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明の目的は、ビスマスを含む塩酸浴から電解採取により金属ビスマスを製造する方法において、陽極からの塩素ガス発生を伴わず、電着ビスマスが陰極から剥離落下しない板状の電着を可能とし、高電流密度で生産性の高いビスマスの電解採取法を提供する。

【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以上の問題を解決するため、
(1) ビスマスを含む塩酸溶液から電解採取によって金属ビスマスを製造する方法において、陽極と陰極の間を陽イオン交換膜で仕切り、硫酸溶液のアノライトと、ビスマスを含む塩酸溶液のカソライトをそれぞれ陽極室、陰極室に入れ、各溶液を定量で液循環させながら、回転式の陰極にビスマスを電着させるビスマスの電解採取方法。
(2) 上記(1)において、カソライトに高ビスマス濃度の塩酸溶液を添加し、電着により減少するカソライトのビスマス濃度を一定量に保持するビスマスの電解採取方法。
(3) 上記(1)〜(2)において、カソード電流密度を50〜150A/m2で電解することを特徴とするビスマスの電解採取方法。
(4) 上記(1)〜(3)において、電解採取により得られた金属ビスマスとアルカリ剤とを混合し、溶解炉において320〜350℃に保持し残留する不純物を除去するビスマスの精製方法。
を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明を実施することにより以下の効果を得ることができる。
(1)電解採取を行うにあたり、陽イオン交換膜を使用することにより、陽極
からの塩素ガスの発生を抑制することができる。
(2)電解採取を行うにあたり、回転電極を使用することにより、電着ビスマ
スが陰極から剥離落下することなく、板状の金属ビスマスを製造できる。
(3)回転電極の使用により、電解採取の電流密度を上げることが可能であり、
金属ビスマスの生産性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明を適用した電解採取装置の概念図を図1に示す。
電解槽(4)には陽イオン交換膜(3)で仕切られた陽極室と陰極室がそれぞれ設けられている。
陽極(1)は、DSA電極(チタン表面を酸化インジウム等で処理した抗酸化型電極)、陰極(2)は、チタン製又はニオブ製の回転式電極が使用されている。
電解槽を陽イオン交換膜で仕切るのは、陰極室から陽極室への塩素イオン浸入を防ぐためであり、これにより陽極からの塩素ガス発生を抑制することができる。
上述の陰極(2)は円盤形状をしており、駆動機器(モーター)等を使い一定速度で回転するようにしている。回転数は、20〜100rpm程度で行う。一般に、塩酸浴での電解採取では浴の強攪拌を行うことで陰極表面の拡散層を薄くし、粉状電着の防止を図っているが、今回のように回転電極を使用することで陰極表面の拡散層を薄くし、浴の強攪拌をしなくても陰極から剥離しない板状で滑らかな電着を可能としいている。同時に電流密度を高くすることが出来、生産性も上昇することに成る。
通電電流は、0.4〜0.8A、カソード電流密度を50から150A/m2で行う。
【0008】
陽極室のアノライトは、1〜5mol/L程度の硫酸溶液であり、陰極室のカソライトは、ビスマスを40〜70g/L含む1〜5mol/L程度の塩酸溶液を使用する。前記各液は、チューブポンプ等を用いて定量で液循環を行う。
アノライトは、30〜250ml/minで、カソライトは、5〜50ml/minで溶液の循環を行うことが好ましい。
ビスマスの陰極(2)への電着が進行するにつれ、カソライトのビスマス濃度は減少してゆくので、カソライトのビスマス濃度をある一定量に保持するため、50〜150g/Lと高ビスマス濃度に調製した塩酸1〜5mol/L程度の塩酸溶液をカソライトに添加する。
また電解採取により得られたビスマスをより精製するため金属ビスマスを
1〜10mm角程度に粉砕し、アルカリ剤例えば苛性ソーダと重量比1:2〜1:3程度に混合し、磁性のルツボ等に入れ、溶解炉にて溶解する。
溶解温度は、320〜350℃において行う。これによりイオウ、鉛、アンチモン、水銀、塩素等の不純物が、1mass ppm未満と減少し、99.999mass%以上のビスマスが得られる。
【実施例】
【0009】
(実施例1)
以下、本発明の効果を検証するため、銅電解液からMRT樹脂を用いて回収し製造した硫酸ビスマス使い、これを塩酸に溶解して電解採取を行い、金属ビスマスを製造した時の結果を示す。
図1に示すような電解槽を使い、アノライトに2mol/L濃度の硫酸と、カソライトに、ビスマス濃度を52g/Lに調製した2.5mol/L濃度の塩酸溶液を用いた。
【0010】
上記のアノライト及びカソライトを陽極室及び陰極室にそれぞれ入れ、アノライトは流量50ml/minで、カソライトは流量10ml/minで溶液の循環を行った。この時、カソライトのビスマス濃度を保持するため、ビスマス濃度を87g/Lに調製した2.5mol/L濃度の塩酸溶液を流量0.53ml/minで陰極室に添加した。
【0011】
陰極を50rpmで回転させながら、通電電流0.616A、カソード電流密度を100A/m2に調整し24時間電解採取を行った結果、平滑で板状の金属ビスマスを陰極より得ることができ、陰極室の底には剥離した電着物は見られなかった。
電解採取前後のカソライトの液組成を表1に示した。この時の電流効率は86%であった。
【0012】
【表1】

【0013】
陰極に電着した金属ビスマスの品位を表2に示した。
鉛、イオウ、アンチモン、塩素等一部の不純物が、含まれるが99.97mass%
以上の高品位のビスマスが、簡単に得られた。
【表2】

(実施例2)
【0014】
上述の電解採取によって製造した板状の金属ビスマスを軽く粉砕し、該金属ビスマスと試薬苛性ソーダ(粒状)を重量比1:1.33の比率で混合して容積30mlの磁性ルツボに入れ蓋をし、電気炉に装入して大気雰囲気下の330℃で2時間保持しビスマスの溶融精製を行った。この精製により得られたビスマスメタルの品位を表3に示す。電解採取のみでなく、苛性ソーダを溶剤に使った溶融精製を加えることで金属ビスマスの純度はさらに向上し、99.999mass%以上の高品位のビスマスを得ることが出来た。


【0015】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】電解槽及び電極、隔膜の配置を示す概略図を示す。
【符号の説明】
【0017】
(1)陽極
(2)回転式の陰極
(3)陽イオン交換膜
(4)電解槽










【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスマスを含む塩酸溶液から電解採取によって金属ビスマスを製造する方法において、陽極と陰極の間を陽イオン交換膜で仕切り、硫酸溶液のアノライトと、ビスマスを含む塩酸溶液のカソライトをそれぞれ陽極室、陰極室に入れ、各溶液を定量で液循環させながら、回転式の陰極にビスマスを電着させることを特徴とするビスマスの電解採取方法。
【請求項2】
請求項1において、カソライトに高ビスマス濃度の塩酸溶液を添加し、電着により減少するカソライトのビスマス濃度を一定量に保持することを特徴とするビスマスの電解採取方法。
【請求項3】
請求項1〜2において、カソード電流密度を50〜150A/m2で電解することを特徴とするビスマスの電解採取方法。
【請求項4】
請求項1〜3において、電解採取により得られた金属ビスマスとアルカリ剤とを混合し、溶解炉において320〜350℃に保持し残留する不純物を除去することを特徴とするビスマスの精製方法。















【図1】
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【公開番号】特開2006−89806(P2006−89806A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−277126(P2004−277126)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(397027134)日鉱金属株式会社 (29)
【Fターム(参考)】