説明

ビスマス系ガラス組成物およびビスマス系材料

【課題】500℃以下の温度で焼成が可能であるとともに、PbOを含有しないために環境問題が生じたり、電気絶縁性が低下する恐れがないガラス組成物を提供する。
【解決手段】本発明のビスマス系ガラス組成物は、モル分率で、Bi23 30〜50%、B23 10〜40%、BaO+SrO 1〜10%、ZnO 0〜30%、CuO 0〜20%、Fe23 0〜5%、SiO2+Al23 0〜5%、Cs2O 0〜5%、F2 0〜20%の組成を有し、かつ、Bi23/(BaO+SrO)が3.5〜35.0の関係を満たし、本質的にPbOを含まないことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子部品の接着、封着、被覆等に好適なビスマス系ガラス組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から電子部品の接着や封着材料として、或いは電子部品に形成された電極や抵抗体の保護や絶縁のための被覆材料としてガラスが用いられている。
【0003】
これらのガラスは、その用途に応じて化学耐久性、機械的強度、流動性、電気絶縁性等種々の特性が要求されるが、何れの用途にも共通する特性として、低温で焼成可能であることが挙げられる。それゆえ何れの用途においても、ガラスの融点を下げる効果が極めて大きいPbOを多量に含有した低融点ガラスが広く用いられている。
【特許文献1】特開平2−30639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら最近、PbO含有ガラスに対して環境上の問題が指摘されており、PbOを含まないガラスに置換することが望まれている。またPbOを多量に含有するガラスを用いて電気絶縁膜を形成すると、Pb2+イオンが拡散して電気絶縁性が低下し易いという不都合もある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、500℃以下の温度で焼成が可能であるとともに、PbOを含有しないために環境問題が生じたり、電気絶縁性が低下する恐れがないガラス組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のビスマス系ガラスは、モル分率で、Bi23 30〜50%、B23 10〜40%、BaO+SrO 1〜10%、ZnO 0〜30%、CuO 0〜20%、Fe23 0〜5%、SiO2+Al23 0〜5%、Cs2O 0〜5%、F2 0〜20%の組成を有し、かつ、Bi23/(BaO+SrO)が3.5〜35.0の関係を満たし、本質的にPbOを含有しないことを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のビスマス系ガラス組成物の組成を上記のように限定した理由は次のとおりである。
【0008】
Bi23はガラスの軟化点を下げるための主要成分であり、その含有量は30〜50%、好ましくは35〜45%である。Bi23の含有量が30%より少ないと転移点が高くなり過ぎて500℃以下で焼成できなくなり、50%より多いと安定なガラスが得られなくなる。
【0009】
23はガラス形成成分として必須であり、その含有量は10〜40%、好ましくは18〜40%である。B23の含有量が10%より少ないとガラスが不安定になって失透し易くなる。また失透を生じない場合でも、焼成時に結晶の析出速度が極めて大きく、接着、封着、被覆等の作業に必要な流動性が得られない。一方、B23が40%より多くなるとガラスの粘性が高くなり過ぎて500℃以下の温度で焼成が困難になる。
【0010】
BaOとSrOはガラスの安定化に大きな効果があり、これらを合量で1〜10%、好ましくは1〜9%(望ましくは2〜9%)、より好ましくは1〜7.9%、更に好ましくは1〜7.2%含有する。これらの成分の合量が1%より少ないとその効果がなく、一方、10%より多くなると転移点が高くなる。なおBaOの含有量は0〜10%、特に2〜9%であることが好ましく、またSrOの含有量は0〜5%、特に0〜3%であることが好ましい。
【0011】
また、Bi23と(BaO+SrO)の割合は、低融点でかつ安定なガラスを得る上で重要な要素であり、モル比でBi23/(BaO+SrO)が3.5〜35.0(望ましくは5.35〜35.0)、好ましくは4.0〜15.0、さらに好ましくは5.0〜10.0である。Bi23/(BaO+SrO)が3.5未満になると、ガラスの転移点が高くなり、500℃以下の温度で封着し難くなる。また35.0を超えると結晶の析出速度が極めて大きくなって流動性が悪くなる。
【0012】
ZnOはガラスの安定化に大きな効果があり、その含有量は0〜30%、好ましくは15〜25%である。その含有量が30%より多くなるとガラスが結晶化しやすくなって流動性が悪くなる。
【0013】
CuOはガラスを安定化するための成分であり、その含有量は0〜20%、好ましくは0〜15%である。CuOが20%を超えると結晶の析出速度が極めて大きくなって流動性が悪くなる。
【0014】
Fe23はガラスを安定化するための成分であり、その含有量は0〜5%、好ましくは0〜2%である。Fe23が5%を超えると逆にガラスが不安定になる。
【0015】
SiO2及びAl23は何れもガラスをより安定化させるために含有させる成分であり、合量で5%以下、好ましくは2%以下使用する。これらの成分が上記範囲を超えるとガラスの粘性が高くなり過ぎて好ましくない。なおSiO2及びAl23の含有量はそれぞれ0〜2%であることが好ましい。
【0016】
Cs2OとF2はガラスをより低粘性化する成分であり、Cs2Oの含有量は0〜5%、好ましくは0〜3%、F2の含有量は0〜20%、好ましくは0〜10%である。これらの成分が上記範囲を超えるとガラスの化学耐久性が低下する。
【0017】
なお上記成分以外にも、ガラスの粘性や熱膨張係数の調整のために、MgO、La23、TiO2、ZrO2、V25、Nb25、MoO3、WO3、TeO2、Ag2O、Na2O、K2O、Li2O等を5%以下添加することが可能である。ただしPbO等、環境上問題のある成分の添加は避けるべきである。
【0018】
以上の組成を有するガラスは、500℃以下の温度で良好な流動性を示す非結晶性又は結晶性のガラスである。また30〜300℃における熱膨張係数が約100×10-7/℃以上であり、これと適合する高膨張材料を500℃以下の温度で接着、封着又は被覆することが可能である。
【0019】
一方、熱膨張係数の適合しない材料の接着、封着又は被覆を行う場合、対象物との熱膨張係数差を是正するために、耐火性フィラーを混合して使用することが可能である。また機械的強度が不足する場合も耐火性フィラーを混合して使用することができる。
【0020】
耐火性フィラーを混合する場合、その混合割合はガラス45〜95体積%と耐火性フィラー55〜5体積%であることが好ましい。両者の割合をこのように規定した理由は、耐火性フィラーが5体積%より少ないとその効果がなく、55体積%より多くなると流動性が悪くなり易いためである。
【0021】
耐火性フィラーとしては、チタン酸鉛系セラミック、ウイレマイト系セラミック、β−ユークリプタイト、コーディエライト、ジルコン系セラミック、酸化錫系セラミック、ムライト、石英ガラス、アルミナ等の粉末を単独、或は組み合わせて使用することが好ましい。
【0022】
なお本発明のビスマス系ガラス組成物の具体的な用途としては、(1)蛍光表示管用パッケージの封着、絶縁層の形成、(2)プラズマディスプレイ−パネルの気密封着、絶縁層や誘電体層の形成、バリアリブの形成、(3)磁気ヘッド−コア同士又はコアとスライダーの封着、等が挙げられる。また使用時の形態は特に制限はなく、粉末状、板状、棒状等、その用途に応じて種々の形態に成形して使用することができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明のビスマス系ガラス組成物を実施例に基づいて詳細に説明する。
【0024】
表1〜3は、本発明の実施例(試料No.1〜12)及び比較例(試料No.13〜15)を示すものである。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
表の各試料は次のようにして調製した。
【0029】
まず表に示したガラス組成となるように各種酸化物、炭酸塩等を調合したガラスバッチを準備し、これを白金坩堝に入れて900〜1000℃で2時間溶融した後、溶融ガラスをステンレス製の金型に流しだして成形した。得られた各試料について、ガラス転移点、30〜300℃における熱膨張係数、焼成温度、及び結晶性か非結晶性かを評価した。結果を表に示す。
【0030】
表から明らかなように、本発明の実施例であるNo.1〜12の各試料は、ガラス転移点が345〜373℃、30〜300℃の温度範囲における熱膨張係数が109〜119×10-7/℃であり、焼成温度が500℃以下であった。また試料No.1、3、4、7、9、12は結晶性であり、試料No.2、5、6、8、10、11は非結晶性であった。
【0031】
一方、比較例であるNo.13の試料はBaOとSrOの含有量が1%未満であり、またBi23/(BaO+SrO)が35.0を超える。このためガラスの結晶化傾向が著しく、その結果、流動性が悪く、500℃以下で焼成できなかった。No.14の試料はBaOとSrOが合量で10%を超え、Bi23/(BaO+SrO)が3.5未満であるために、またNo.15の試料はBi23が30%未満であるために、ガラス転移点が高くなり、何れも500℃以下の温度で焼成できなかった。
【0032】
なお転移点は示差熱分析装置(DTA)により求めた。熱膨張係数は、成形したガラス体を直径4mm、長さ40mmの円柱状に研磨加工し、押し棒式熱膨張係数測定装置を用いて測定した。焼成温度は、次のようにして求めた。まずガラス体を粉砕してガラス粉末を得、ガラスの真比重に相当する重量のガラス粉末を金型を用いて外径20mm、高さ約5mmのボタン状に加圧成形した。次いでこのボタンを板ガラスの上に載せて電気炉に入れ、10℃/分の速度で昇温し、種々の温度で10分間保持した。このようにして得られたボタンの外径が21〜22mmの範囲にある温度を焼成温度とした。また結晶性か非結晶性かの判定は、焼成温度で10分間加熱された後の試料の外観を顕微鏡で観察し、結晶の析出状態から評価した。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上のように本発明のビスマス系ガラス組成物は、PbOを含有しないため、環境問題を引き起こす心配がない。また500℃以下の温度で焼成できるため、従来のPbOを含有する低融点ガラスの代替材料として、電子部品の接着、封着、被覆等の用途に使用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル分率で、Bi23 30〜50%、B23 10〜40%、BaO+SrO 1〜10%、ZnO 0〜30%、CuO 0〜20%、Fe23 0〜5%、SiO2+Al23 0〜5%、Cs2O 0〜5%、F2 0〜20%の組成を有し、かつ、Bi23/(BaO+SrO)が3.5〜35.0の関係を満たし、本質的にPbOを含まないことを特徴とするビスマス系ガラス組成物。
【請求項2】
モル分率で、BaO+SrOが1〜7.9%であることを特徴とする請求項1に記載のビスマス系ガラス組成物。
【請求項3】
モル分率で、Bi23/(BaO+SrO)が5.35〜35.0の関係を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のビスマス系ガラス組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のビスマス系ガラス組成物からなるガラス45〜95体積%と、耐火性フィラー55〜5体積%とを含むことを特徴とするビスマス系材料。

【公開番号】特開2007−169162(P2007−169162A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−78255(P2007−78255)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【分割の表示】特願平10−299712の分割
【原出願日】平成10年10月21日(1998.10.21)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】