説明

ビスマス系ガラス組成物および封着材料

【課題】500℃程度で仮焼成しても、ガラスに結晶が析出し難く、且つPbOを含有しなくても、450〜500℃で封着可能なビスマス系ガラス組成物および封着材料を創案すること。
【解決手段】本発明のビスマス系ガラス組成物は、ガラス組成として、下記酸化物換算のモル%で、Bi 32〜50%、B 10〜40%、ZnO 10〜29%、SnO 0.05〜5%、MgO+CaO+SrO+BaO 0〜20%含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネル(以下、PDP)、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ(以下、FED)、蛍光表示管(以下、VFD)等の平面表示装置の封着および圧電振動子パッケージ、ICパッケージ等の電子部品の封着に好適なビスマス系ガラス組成物および封着材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガラスは、ディスプレイ等の封着材料に用いられている。ガラスは、樹脂系の接着剤に比べ、化学的耐久性および耐熱性に優れるとともに、ディスプレイ等の気密性の確保に適している。
【0003】
これらのガラスは、ディスプレイ等に使用される構成部材を劣化させない温度で使用可能であることが要求される。それ故、上記特性を満足するガラスとして、PbOを多量に含有する鉛ホウ酸系ガラス(例えば、特許文献1参照)が広く用いられてきた。しかし、鉛ホウ酸系ガラスは、主成分のPbOに対して、環境上の問題が指摘されている。
【0004】
このような事情から、鉛ホウ酸系ガラスを無鉛ガラスに置き換えることが望まれており、鉛ホウ酸系ガラスの代替品として、種々の無鉛ガラスが開発されるに至っている。無鉛ガラスの中でも、ビスマス系ガラス(Bi−B系ガラス)は、化学耐久性、機械的強度等の諸特性が鉛ホウ酸系ガラスと略同等であるため、その代替候補として期待されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開昭63−315536号公報
【特許文献2】特開2000−128574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2には、電子部品の封着等に使用可能なビスマス系ガラスが示されている。しかし、このビスマス系ガラスは、鉛ホウ酸系ガラスと比較して、軟化点が高く、流動性が低いため、封着可能温度が高い。特に、本焼成温度(封着温度、二次焼成温度)が450〜500℃の場合、特許文献2に記載のビスマス系ガラスは流動性が低い。
【0006】
ビスマス系ガラスの流動性を高めるためには、軟化点を下げる成分であるBiの含有量を増加させる必要がある。しかし、Biの含有量を増加させると、焼成時に、Biを構成成分に含む結晶が析出しやすくなり、流動性が低下しやすくなる。特に、仮焼成温度(一次焼成温度、グレーズ温度)が500℃程度の場合、その傾向が顕著になる。したがって、ビスマス系ガラスにおいて、単純にガラス組成中のBiの含有量を増加させるだけでは、その流動性を高めることができない。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、500℃程度で仮焼成しても、ガラスに結晶が析出し難く、且つPbOを含有しなくても、450〜500℃で封着可能なビスマス系ガラス組成物および封着材料を創案することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、鋭意検討の結果、ビスマス系ガラスのガラス組成中にSnOを0.05〜5モル%導入することにより、Biの含有量を増加させても、焼成時に、ガラスに結晶が析出し難くなることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明のビスマス系ガラス組成物は、ガラス組成として、下記酸化物換算のモル%で、Bi 32〜50%、B 10〜40%、ZnO 10〜29%、SnO 0.05〜5%、MgO+CaO+SrO+BaO(MgO、CaO、SrOおよびBaOの合量) 0〜20%含有することを特徴とする。
【0009】
本発明のビスマス系ガラス組成物は、ガラス組成中にSnOを0.05〜5モル%含有する。このようにすれば、Bi−Bのガラスネットワークが安定化し、仮焼成工程で、酸化ビスマス単独で形成されるBi(ビスマイト)と、BiとBで形成される2Bi・Bまたは12Bi・Bが析出し難くなる。
【0010】
第二に、本発明のビスマス系ガラス組成物は、CuO+Fe(CuOおよびFeの合量)を0.01〜15%含有することを特徴とする。このようにすれば、ガラスの耐失透性を更に高めることができる。
【0011】
第三に、本発明のビスマス系ガラス組成物は、BaOを1〜15%含有することを特徴とする。このようにすれば、ガラスの耐失透性を更に高めることができる。
【0012】
第四に、本発明のビスマス系ガラス組成物は、実質的にPbOを含有しないことを特徴とする。ここで、「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス組成中のPbOの含有量が1000ppm(質量)以下の場合を指す。このようにすれば、近年の環境的要請を満たすことができる。
【0013】
第五に、本発明のビスマス系ガラス組成物は、封着または被覆に用いることを特徴とする。
【0014】
第六に、本発明の封着材料は、ガラス粉末と耐火性フィラー粉末を含有する封着材料において、上記のビスマス系ガラス組成物からなるガラス粉末 50〜100体積%と、耐火性フィラー粉末 0〜50体積%とを含有することを特徴とする。このようにすれば、被封着物の熱膨張係数に整合するように、封着材料の熱膨張係数を下げることができる。なお、本発明の封着材料は、耐火性フィラー粉末を添加することなく、ガラス粉末のみで構成されていてもよい。
【0015】
第七に、本発明の封着材料は、耐火性フィラー粉末が、ウイレマイト、コーディエライト、ジルコン、β−ユークリプタイト、石英ガラス、アルミナ、ムライト、アルミナ−シリカ系セラミックスから選ばれる一種または二種以上であることを特徴とする。
【0016】
第八に、本発明の封着材料は、結晶化温度が550℃以上であることを特徴とする。ここで、「結晶化温度」とは、示差熱分析(DTA、大気中、昇温速度10℃/分、室温から測定開始)で結晶化ピークが発現する温度を指す。このようにすれば、仮焼成工程および本焼成工程でガラスに失透が生じ難くなり、平面表示装置等の製造歩留まりを高めることができる。
【0017】
第九に、本発明の封着材料は、PDPまたは有機ELディスプレイに用いることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のビスマス系ガラス組成物において、各成分の含有範囲を上記のように規定した理由を以下に説明する。なお、以下の%表示は、特に断りがある場合を除き、モル%を指す。
【0019】
Biは、軟化点を低くするための主要成分であり、その含有量は32〜50%、好ましくは32〜45%、より好ましくは34〜40%、更に好ましくは34〜37%である。Biの含有量が30%より少ないと、軟化点が高くなり過ぎて、500℃以下の温度で焼成し難くなる。一方、Biの含有量が50%より多いと、ガラスが失透しやすくなることに加えて、Biの導入原料が高価であることから、バッチコストが高騰する。
【0020】
は、ガラス形成成分として必須であり、その含有量は10〜40%、好ましくは15〜30%、より好ましくは15〜28%、更に好ましくは18〜23%である。Bの含有量が10%より少ないと、ガラスネットワークが形成され難くなるため、ガラスが失透しやすくなる。一方、Bの含有量が40%より多いと、ガラスの粘性が高くなる傾向があり、500℃以下の温度で焼成し難くなる。
【0021】
ZnOは、焼成時の失透を抑制する効果があり、その含有量は10〜29%、好ましくは11〜25%、より好ましくは13〜22%である。ZnOの含有量が10%より少ないと、或いはZnOの含有量が25%より多いと、500℃程度の仮焼成工程でガラスに結晶が析出しやすくなるため、450〜500℃の本焼成工程で流動性が低下し、部材同士を気密封着し難くなる。
【0022】
SnOは、仮焼成工程でガラスに失透が生じ、本焼成工程で流動性が低下することを防止する成分であり、必須成分である。また、SnOは、ビスマス系ガラスの耐失透性を顕著に向上させる効果があり、複数回の焼成工程を実行しても、ガラスが失透し難くなる。SnOの含有量は0.05〜5%、好ましくは0.3〜1.5%である。ビスマス系ガラスの軟化点を下げるためには、ガラス組成中にBiを多量に含有させる必要があるが、モル%でBiの含有量が30%以上になると、500℃程度の仮焼成工程でガラスに結晶が析出しやすくなる。この原因としては、仮焼成工程で酸化ビスマス単独で形成されるBi(ビスマイト)と、BiとBで形成される2Bi・Bまたは12Bi・Bが析出するためであると考えられる。これらの結晶物が多く析出すると、流動性が阻害されるが、ガラス組成中にSnOを添加すれば、Bi−Bのガラスネットワークを安定化させ、これらの結晶の析出を抑制することができる。ただし、SnOを5%以上添加すると、ガラス組成の成分バランスが損なわれ、逆にガラスに結晶が析出しやすくなる。
【0023】
MgO+CaO+SrO+BaOは、焼成時の失透を抑制する効果があり、その含有量は0〜20%、好ましくは1〜15%、より好ましくは3〜10%である。MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が15%より多いと、ガラス転移点が高くなり過ぎ、450〜500℃の本焼成工程で流動性が低下し、部材同士を気密封着できない場合がある。なお、BaOの含有量は1〜15%、特に2〜13%が好ましい。また、SrO、MgO、CaOの含有量は、それぞれ0〜5%、特に0〜3%が好ましい。
【0024】
本発明のビスマス系ガラス組成物は、上記成分以外にも下記の成分を40%まで含有することができる。
【0025】
CuO+Feは、耐失透性を向上させる成分であり、その含有量は0〜15%、好ましくは0.01〜10%、より好ましくは0.1〜10%である。ビスマス系ガラスの軟化点を下げるためには、ガラス組成中にBiを多量に含有させる必要があるが、Biの含有量を増加させると、焼成時にガラスが失透しやすくなり、この失透に起因して封着材料の流動性が阻害される。特に、Biの含有量が30%以上になると、その傾向が顕著になる。この対策として、本発明のビスマス系ガラス組成物は、SnOを0.05%以上含有しているが、更にCuO+Feを適量添加すれば、Biの含有量が30%以上であっても、より効果的にガラスの失透を抑制することができる。CuO+Feの含有量が15%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれ、逆に結晶の析出速度が速くなり、すなわち耐失透性が低下して、流動性が低下する傾向がある。なお、CuO+Feの含有量を1%以上にすれば、耐失透性を顕著に高めることができる。
【0026】
CuOは、耐失透性を向上させる成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0.1〜10%である。CuOの含有量が10%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれ、逆に結晶の析出速度が速くなり、すなわち失透傾向が増大して、流動性が低下する傾向がある。
【0027】
Feは、耐失透性を向上させる成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0.1〜10%、より好ましくは0.3〜5%である。Feの含有量が10%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれ、逆に結晶の析出速度が速くなり、すなわち失透傾向が増大して、流動性が低下する傾向がある。
【0028】
SiO+Al(SiOおよびAlの合量)は、焼成時に、ガラスに結晶が析出する事態を抑制する成分であるとともに、耐水性を向上させる成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0〜5%、より好ましくは0〜2%である。SiO+Alの含有量が10%より多いと、軟化点が高くなり過ぎ、500℃以下の温度で焼成し難くなる。
【0029】
WOは、耐失透性を向上させる成分であり、その含有量は0〜5%、好ましくは0〜2%である。WOの含有量が5%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれ、逆に耐失透性が低下しやすくなる。
【0030】
Sbは、耐失透性を向上させる成分であり、その含有量は0〜5%、好ましくは0〜2%である。Sbの含有量が5%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれ、逆に耐失透性が低下しやすくなる。なお、Sbは、環境的観点から、その使用が制限される場合があり、そのような場合には、Sbを実質的に含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にSbを含有しない」とは、ガラス組成中のSbの含有量が1000ppm(質量)以下の場合を指す。
【0031】
In+Ga(InおよびGaの合量)は、ガラスの失透を抑制するための成分であり、焼成時にガラスに結晶が析出して、流動性が損なわれる事態を防止する成分であり、その含有量は0〜5%、好ましくは0〜3%、より好ましくは0〜1%である。In+Gaの含有量が5%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれ、逆に耐失透性が低下しやすくなる。
【0032】
LiO、NaO、KOおよびCsOのアルカリ金属酸化物は、軟化点を下げる成分であるが、溶融時にガラスの失透を促進する作用を有するため、これらの成分の含有量を合量で2%以下に規制するのが好ましい。
【0033】
は、溶融時にガラスの失透を抑制する成分であるが、その含有量が多いと、溶融時にガラスが分相しやくなる。それ故、Pの含有量は1%以下とするのが好ましい。
【0034】
MoO+La+Y+CeO(MoO、La、YおよびCeOの合量)は、溶融時にガラスの分相を抑制する効果があるが、これらの成分の含有量が多いと、軟化点が高くなり過ぎ、500℃以下で焼成し難くなる。よって、MoO+La+Y+CeOの含有量は3%以下が好ましい。
【0035】
本発明のビスマス系ガラス組成物は、PbOの含有を排除するものではないが、既述の通り、環境的観点から実質的にPbOを含有しないことが好ましい。また、ガラス組成中にPbOを添加すると、Pb2+が拡散して、電気絶縁性が低下する虞があり、電極等の被覆用途に使用し難くなる。
【0036】
なお、本発明のビスマス系ガラス組成物は、上記成分以外にも、他の成分を10%まで添加することが可能である。
【0037】
本発明のビスマス系ガラス組成物において、軟化点は450℃以下、特に435℃以下が好ましい。このようにすれば、ガラスの流動性を高めることができる。なお、上記軟化点は、平均粒子径D50が10μmのガラス粉末を測定試料として、マクロ型DTA(大気中、昇温速度10℃/分、室温から測定開始)で測定した値である。
【0038】
封着材料の熱膨張係数は、被封着物の熱膨張係数に対して5〜25×10−7/℃程度低く設計することが重要である。これは、封着後に封着部位にかかる応力をコンプレッション(圧縮)側にして封着部位の応力破壊を防止するためである。
【0039】
本発明のビスマス系ガラス組成物において、ビスマス系ガラスの熱膨張係数が、被封着物の熱膨張係数に整合する場合、ガラス粉末を封着材料にすることができる。ビスマス系ガラスの熱膨張係数が、被封着物の熱膨張係数に整合しない場合、ガラス粉末に耐火性フィラー粉末を添加し、被封着物の熱膨張係数に整合させる必要がある。例えば、被封着物が高歪点ガラス(85×10−7/℃)、ソーダ板ガラス(90×10−7/℃)等の場合、ガラス粉末に耐火性フィラー粉末を添加する必要性が高い。耐火性フィラー粉末を添加する場合、その割合は、ガラス粉末 50〜95体積%、耐火性フィラー粉末 5〜50体積%、好ましくはガラス粉末 50〜92体積%、耐火性フィラー粉末 8〜50体積%、より好ましくはガラス粉末 60〜90体積%、耐火性フィラー粉末 10〜40体積%である。両者の割合をこのように規定した理由は、耐火性フィラー粉末が5体積%より少ないと、被封着物と熱膨張係数が整合し難くなり、残留応力により封着部位が応力破壊しやすくなり、50体積%より多いと、封着材料の流動性が低下し、部材同士を気密封着し難くなるからである。
【0040】
耐火性フィラー粉末は、ガラス粉末に添加しても耐失透性を低下させない程度に反応性が低いことが要求される。また、耐火性フィラー粉末は、用途によっては熱膨張係数が低く、或いは機械的強度が高いことが要求される。本発明の封着材料は、種々の耐火性フィラー粉末を含有することができる。具体的には、耐火性フィラー粉末として、アルミナ、アルミナ−シリカ系セラミックス、ウイレマイト、コーディエライト、ジルコン、ジルコニア、酸化錫、チタン酸アルミニウム、リン酸ジルコニウム、リン酸タングステン酸ジルコニウム、タングステン酸ジルコニウム、石英ガラス、β−スポジュメン、ムライト、チタニア、石英ガラス、β−ユークリプタイト、β−石英固溶体、[AB(MO]の基本構造を有する化合物、
A:Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cu、Ni、Mn等
B:Zr、Ti、Sn、Nb、Al、Sc、Y等
M:P、Si、W、Mo等
から選ばれる一種または二種以上が使用可能である。
【0041】
本発明の封着材料において、耐火性フィラー粉末は、ウイレマイト、コーディエライト、ジルコン、β−ユークリプタイト、石英ガラス、アルミナ、ムライト、アルミナ−シリカ系セラミックスから選ばれる一種または二種以上が好ましい。これらの耐火性フィラー粉末は、ビスマス系ガラスと適合性が良好であり、耐失透性を低下させ難い性質を有している。
【0042】
また、耐火性フィラー粉末の表面を、アルミナ、酸化亜鉛、ジルコン、チタニア、ジルコニア等の微粉末でコーティングすると、焼成時におけるガラス粉末と耐火性フィラー粉末の反応を調整することができる。
【0043】
本発明の封着材料において、軟化点は475℃以下が好ましく、460℃以下がより好ましい。このようにすれば、450〜500℃の本焼成工程で封着材料の流動性を高めることができる。なお、上記軟化点は、マクロ型DTA(大気中、昇温速度10℃/分、室温から測定開始)で測定した値である。
【0044】
本発明の封着材料において、結晶化温度は550℃以上が好ましく、570℃以上がより好ましく、600℃以上が更に好ましい。結晶化温度を高めると、仮焼成工程および本焼成工程でガラスに結晶が析出し難くなり、平面表示装置等の気密性を確保しやすくなるとともに、複数回の焼成工程を実行しても、ガラスが失透し難くなる。
【0045】
封着材料は、粉末のまま使用に供してもよいが、ビークルと均一に混練し、ペーストに加工すると取り扱いやすい。ビークルは、主に溶媒と樹脂とからなり、樹脂はペーストの粘性を調整する目的で添加される。また、必要に応じて、界面活性剤、増粘剤等を添加することもできる。作製されたペーストは、ディスペンサーやスクリーン印刷機等の塗布機を用いて塗布される。
【0046】
樹脂としては、アクリル酸エステル(アクリル樹脂)、エチルセルロース、ポリエチレングリコール誘導体、ニトロセルロース、ポリメチルスチレン、ポリエチレンカーボネート、メタクリル酸エステル等が使用可能である。特に、アクリル酸エステル、ニトロセルロースは、熱分解性が良好であるため、好ましい。
【0047】
溶媒としては、N、N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、α−ターピネオール、高級アルコール、γ−ブチルラクトン(γ−BL)、テトラリン、ブチルカルビトールアセテート、酢酸エチル、酢酸イソアミル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ベンジルアルコール、トルエン、3−メトキシ−3−メチルブタノール、水、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン等が使用可能である。特に、α−ターピネオールは、高粘性であり、樹脂等の溶解性も良好であるため、好ましい。
【0048】
本発明の封着材料は、所定形状に焼結し、タブレットとするのが好ましい。PDP等の平面表示装置において、排気管をパネルに封着させるために、リング状に成形加工されたタブレット(プレスフリット・ガラス焼結体・ガラス成形体)が用いられている。タブレットには、排気管を挿入するための挿入孔が形成されており、この挿入孔に排気管を挿入し、排気管の先端部をパネルの排気孔の位置に合わせ、クリップ等で固定される。その後、本焼成工程でタブレットを軟化させることにより、排気管がパネルに取り付けられる。本発明の封着材料をタブレットに加工すれば、排気管の取り付けにあたって、排気設備へ接続しやすくなるとともに、パネルに対して排気管の傾きを低減することができ、更には平面表示装置の発光能力を維持しつつ、気密信頼性が保たれるように取り付けることができる。
【0049】
一般的に、タブレットは、複数回の焼成工程を別途独立に経て、以下のように作製される。まず、封着材料に樹脂や溶剤を添加し、スラリーを形成する。その後、このスラリーをスプレードライヤー等の造粒装置に投入し、顆粒を作製する。その際、顆粒は、溶剤が揮発する温度(100〜200℃程度)で乾燥される。さらに、作製された顆粒は、所定の寸法に設計された金型に投入され、リング状に乾式プレス成形され、プレス体が作製される。次に、ベルト炉等の焼成炉にて、このプレス体に残存する樹脂を分解揮発させるとともに、封着材料の軟化点程度の温度で焼結すれば、所定形状のタブレットを得ることができる。また、焼結は、複数回行われる場合がある。このようにすれば、タブレットの強度が向上し、タブレットの欠損、破壊等を効果的に防止することができる。
【0050】
本発明に係るタブレットは、拡径された排気管の先端部に取り付けてタブレット一体型排気管として用いることが好ましい。このようにすれば、排気孔を起点にして、タブレットと排気管の位置合わせを行う必要がなくなり、排気管の取り付け作業を簡略化することができる。タブレット一体型排気管を製造するためには、排気管の一端にタブレットを接触させた状態で焼成し、タブレットを排気管の先端部に接着させておく必要がある。このような場合、治具で排気管を固定し、この状態の排気管にタブレットを挿入し焼成する方法を採用することができる。排気管を固定する治具は、タブレットが融着しない材質、例えば、カーボン治具等を用いることが好ましい。また、排気管とタブレットの接着は、封着材料の軟化点付近で短時間、例えば5〜10分程度行えばよい。
【0051】
排気管としては、アルカリ金属酸化物を所定量含有させたSiO−Al−B系ガラスが好適であるが、特に日本電気硝子株式会社製の商品グレード「FE−2」が好適である。この排気管は、熱膨張係数が85×10−7/℃、耐熱温度が550℃であり、寸法が、例えば外径5mm、内径3.5mmである。また、自立安定性を向上させるために、排気管の先端部分を拡径化するのが好ましく、先端部にフレア部またはフランジ部を形成するのが好ましい。排気管の先端部分を拡径化する方法として、種々の方法を採用することができる。特に、排気管の先端部を回転させながらガスバーナーを用いて加熱し、数種類の治具を用いて所定の形状に加工する方法が量産性に優れるため好ましい。
【0052】
このような構成のタブレット一体型排気管の一例を図1に示す。図1は、タブレット一体型排気管の断面図であり、排気管1の先端部が拡径化されており、排気管のパネル側の先端部にタブレット2が接着されている。
【0053】
本発明に係るタブレット一体型排気管は、別の態様として、拡径された排気管の先端部にタブレットと、高融点タブレットとが取り付けられており、且つタブレットを拡径された排気管の先端部側に取り付けて、高融点タブレットをタブレットよりも後端部側に取り付けることが好ましい。このような構成にすれば、タブレットが排気管の先端部側に取り付けられているので、パネル等に排気管を取り付ける際にパネル等と接触する面積は、排気管だけの場合よりも広くなり、パネル等の上に排気管を安定して自立させることができ、パネルに対して垂直に取り付けやすくなる。また、このような構成にすれば、タブレット一体型排気管の製造工程において、タブレットを排気管に固着させる際、治具とタブレットの間に高融点タブレットを配置させることにより、タブレット一体型排気管を製造することができるため、特殊な治具を使用する必要がなくなり、製造工程を簡略化することができる。
【0054】
上記構成のタブレット一体型排気管において、タブレットは、好ましくは排気管の先端部の外周面に固着され、更に好ましくは排気管の先端部の外周面のみに固着され、排気管先端部の先端面、すなわちパネル等と接着する面には固着されない。このようにすれば、真空排気工程で封着材料がパネル等に形成された排気孔へ流れ込む事態を容易に防止することができる。また、高融点タブレットは、排気管に直接接着せず、タブレットを介して排気管に固定すれば、本焼成工程で高融点タブレット部分をクリップで固定した状態で排気管を加圧封着できるため、好ましい。図2にこのような構成のタブレット一体型排気管の一例を示す。図2は、タブレット一体型排気管の断面図であり、排気管1の先端部が拡径化されており、排気管1のフランジ部分1aの外周面側の先端部分にタブレット2が接着している。一方、高融点タブレット3は排気管1の外周面側に接着していない。また、タブレット2は、フランジ部分1aの先端部側に取り付けられて、高融点タブレット3がタブレット2よりもフランジ部分1aの後端部側に取り付けられている。
【0055】
高融点タブレットとして、日本電気硝子株式会社製の商品グレード「ST−4」、「FN−13」を用いるのが好ましい。高融点タブレットは、上記の方法で作製することができる。また、高融点タブレットの材質として、セラミックス、金属等を用いることもできる。
【0056】
PDPの製造工程において、封着材料は、以下のような焼成工程を経る。まず、PDPの背面ガラス基板の外周縁部にビークル内に分散された封着材料を塗布し、仮焼成を行い、高温でビークル成分を熱分解または焼却する。仮焼成工程は、ビークルに使用される樹脂が完全に熱分解する温度条件、例えば400〜500℃程度で行われる。次に、本焼成でPDPの前面ガラス基板と背面ガラス基板を封着する。本焼成工程は、封着材料が軟化変形する温度条件、例えば450〜500℃程度で行われる。最後に、排気管を通してPDP内部を真空排気した後、希ガスを必要量注入して排気管を封止する。なお、背面ガラス基板と排気管の封着には、上記のタブレットまたはタブレット一体型排気管を使用することができる。
【0057】
近年、PDPの製造効率を向上させるために、封着材料と蛍光体材料の仮焼成を同時に行う場合がある。一般的に、蛍光体材料の仮焼成温度は500℃程度である。よって、封着材料と蛍光体材料の仮焼成を同時に行う場合、仮焼成温度は500℃程度になる。本発明の封着材料は、500℃程度で仮焼成しても、ガラスに結晶が析出し難く、450〜500℃で良好に流動するため、PDPの封着に好適であり、特に封着材料と蛍光体材料の仮焼成を同時に行う場合に好適である。
【0058】
本発明の封着材料は、有機ELディスプレイに用いることが好ましい。このようにすれば、有機ELディスプレイ内の気密性を確保することができ、その結果、有機発光層等の経時劣化を防ぐことができ、有機ELディスプレイの長寿命化を図ることができる。
【0059】
有機ELディスプレイは、有機発光層やTFT等が熱劣化しやすいため、低温で封着する必要がある。このような事情から、有機ELディスプレイの技術分野では、構成部材の熱劣化を抑制するために、レーザー光等で封着材料を局所加熱し、ガラス基板同士を封着する検討がなされている。本発明の封着材料において、ガラス組成中のCuO+Feの含有量を0.1%以上とすれば、ガラスがレーザー光等を吸収しやすくなり、本用途に好適に使用することができる。また、本発明の封着材料は、450〜500℃の温度域で良好に流動するため、レーザー光等の局所加熱でガラス基板同士を強固に封着することができる。
【0060】
有機ELディスプレイの封着に用いる場合、封着材料の熱膨張係数は65×10−7/℃未満が好ましく、60×10−7/℃未満がより好ましい。一般的に、有機ELディスプレイは、ガラス基板として、無アルカリガラス基板(40×10−7/℃以下)が使用される。封着材料の熱膨張係数を65×10−7/℃未満に規制すれば、封着部位に不当な引っ張り応力が残留し難くなり、膨張差に起因したクラックが発生し難くなる。
【実施例1】
【0061】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。
【0062】
表1は、本発明の実施例(試料A〜E)および比較例(試料F、G)を示している。
【0063】
【表1】

【0064】
次のようにして、試料A〜Gを調製した。
【0065】
まず、表中に示したガラス組成となるように各種酸化物、炭酸塩等のガラス原料を調合し、ガラスバッチを準備した後、このガラスバッチを白金坩堝に入れ、900〜1100℃で1〜2時間溶融した。次に、溶融ガラスの一部を押棒式熱膨張係数測定(TMA)用サンプルとしてステンレス製の金型に流し出し、その他の溶融ガラスを水冷ローラーでフィルム状に成形した。最後に、フィルム状のガラスをボールミルで粉砕した後、目開き105メッシュの篩を通過させ、平均粒子径D50が10μmの各ガラス粉末を得た。
【0066】
試料A〜Gについて、ガラス転移点、軟化点、熱膨張係数および失透状態を評価した。
【0067】
ガラス転移点は、TMA装置で測定した値である。熱膨張係数は、TMA装置を用いて、30〜300℃の温度範囲で測定した値である。
【0068】
軟化点は、マクロ型DTAにより求めた値である。DTAにおいて、測定雰囲気は大気中、昇温速度は10℃/分とし、室温から測定を開始した。
【0069】
失透状態は、次のようにして評価した。まず各ガラス粉末をφ10mm×5mm厚の圧粉体になるように乾式プレスした後、これを500℃30分間焼成した。次に、光学顕微鏡(倍率100倍)を用いて、焼成体の表面状態を観察し、焼成体の表面に結晶が認められなかったものを「○」、焼成体の表面に結晶が認められたものを「×」として評価した。
【0070】
表1から明らかなように、試料A〜Eは、ガラス組成中にSnOを含有しているため、失透状態の評価が良好であった。一方、試料F、Gは、ガラス組成中にSnOを含有していないため、失透状態の評価が不良であった。
【実施例2】
【0071】
表2は、本発明の実施例(試料No.1〜5)および比較例(試料No.6、7)を示している。
【0072】
【表2】

【0073】
表中に示す割合でガラス粉末と耐火性フィラー粉末を混合し、試料No.1〜7を作製した。
【0074】
耐火性フィラー粉末には、ウイレマイト(表中ではWLMと表記)、コーディエライト(表中ではCDRと表記)、ジルコン(表中ではZSと表記)を用いた。また、耐火性フィラー粉末の平均粒子径D50は10μmとした。
【0075】
以上の試料を用いて、ガラス転移点、軟化点、熱膨張係数、流動径および失透状態を評価した。
【0076】
ガラス転移点は、TMA装置で測定した値である。熱膨張係数は、TMA装置を用いて、30〜300℃の温度範囲で測定した値である。なお、ガラス転移点および熱膨張係数の測定試料として、各試料No.1〜7を緻密に焼結させたものを使用した。
【0077】
軟化点は、マクロ型DTAにより求めた値である。DTAにおいて、測定雰囲気は大気、昇温速度は10℃/分とし、室温から測定を開始した。
【0078】
流動径は、次のようにして評価した。まず真比重に相当する質量の各試料をφ20mmのボタン状に乾式プレスし、次に500℃で20分間焼成した後、フローボタンの直径を測定した。なお、焼成に際し、昇降温速度を10℃/分、焼成開始温度を50℃、焼成終了温度を50℃とした。
【0079】
失透状態は、次のようにして評価した。まず各試料No.1〜7をφ10mm×5mm厚の圧粉体になるように乾式プレスした後、これを500℃30分間焼成した。次に、光学顕微鏡(倍率100倍)を用いて、焼成体の表面状態を観察し、焼成体の表面に結晶が認められなかったものを「○」、焼成体の表面に結晶が認められたものを「×」とし、評価した。
【0080】
表2から明らかなように、試料No.1〜5は、ガラス粉末がガラス組成中にSnOを含んでいるため、失透状態の評価が良好であった。一方、試料F、Gは、ガラス粉末がガラス組成中にSnOを含んでいないため、失透状態の評価が不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
上記説明の通り、本発明のビスマス系ガラス組成物および封着材料は、PDP、有機ELディスプレイの封着に好適であるが、これ以外にも(1)FED、VFD等の平面表示装置の封着、(2)圧電振動子パッケージ、ICパッケージ等の電子部品の封着、(3)PDP、VFD等の電極の被覆、(4)磁気ヘッドのコア同士またはコアとスライダーの封着、(5)シリコン太陽電池、色素増感型太陽電池等の太陽電池の封着に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明に係るタブレット一体型排気管を示す断面概念図である。
【図2】本発明に係るタブレット一体型排気管を示す断面概念図である。
【符号の説明】
【0083】
1 排気管
2 タブレット
3 高融点タブレット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、下記酸化物換算のモル%で、Bi 32〜50%、B 10〜40%、ZnO 10〜29%、SnO 0.05〜5%、MgO+CaO+SrO+BaO 0〜20%含有することを特徴とするビスマス系ガラス組成物。
【請求項2】
CuO+Feを0.01〜15%含有することを特徴とする請求項1に記載のビスマス系ガラス組成物。
【請求項3】
BaOを1〜15%含有することを特徴とする請求項1または2に記載のビスマス系ガラス組成物。
【請求項4】
実質的にPbOを含有しないことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のビスマス系ガラス組成物。
【請求項5】
封着または被覆に用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のビスマス系ガラス組成物。
【請求項6】
ガラス粉末と耐火性フィラー粉末を含有する封着材料において、
請求項1〜4のいずれかに記載のビスマス系ガラス組成物からなるガラス粉末 50〜100体積%と、耐火性フィラー粉末 0〜50体積%とを含有することを特徴とする封着材料。
【請求項7】
耐火性フィラー粉末が、ウイレマイト、コーディエライト、ジルコン、β−ユークリプタイト、石英ガラス、アルミナ、ムライト、アルミナ−シリカ系セラミックスから選ばれる一種または二種以上であることを特徴とする請求項6に記載の封着材料。
【請求項8】
結晶化温度が550℃以上であることを特徴とする請求項6または7に記載の封着材料。
【請求項9】
プラズマディスプレイパネルまたは有機ELディスプレイに用いることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の封着材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−13332(P2010−13332A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176462(P2008−176462)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】