ビタビ復号装置、再生システム、ビタビ復号方法、ビタビ復号プログラム及び記録媒体
【課題】ページデータを光学的に再生することにより得られ、光の強度に応じた値を示す2次元再生信号をビタビ復号するビタビ復号装置において、ブランチメトリックの算出に用いる想定信号値をより正確に求めることによって、ビタビ復号結果のエラーレートを低減する。
【解決手段】ブランチメトリック演算回路8は、光の振幅に基づいて想定される2次元インパルス応答行列と、この2次元インパルス応答行列に対応するトレリス状態の遷移に対応するビット行列との2次元畳み込みにより得られる上記遷移の想定振幅値の2乗値に応じた想定信号値を用いてブランチメトリックを求める。2次元ビタビ復号回路4は、このブランチメトリックに基づいてビタビ復号を行う。
【解決手段】ブランチメトリック演算回路8は、光の振幅に基づいて想定される2次元インパルス応答行列と、この2次元インパルス応答行列に対応するトレリス状態の遷移に対応するビット行列との2次元畳み込みにより得られる上記遷移の想定振幅値の2乗値に応じた想定信号値を用いてブランチメトリックを求める。2次元ビタビ復号回路4は、このブランチメトリックに基づいてビタビ復号を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラムメモリなどディジタル情報を2次元的に記録再生する光メモリシステムに好適に適用できるビタビ復号に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ホログラフィを用いて情報を2次元的に、すなわちページデータとして記録し再生するホログラムメモリが、次世代の高密度記録再生システムとして脚光を浴びつつある。
【0003】
図9に示すように、このシステムでは、情報データを記録する場合には、複数の画素よりなる空間光変調器20(例えば液晶パネルなど)を用いて、記録すべき情報データに基づいて記録信号光を空間光変調し、レンズ21を通した記録信号光とコヒーレントな記録参照光とを干渉させることにより干渉縞を生成し、この干渉縞により形成される像を2次元情報としてホログラム媒体22に記録する。
【0004】
ホログラム媒体22としては、ニオブ酸リチウムに代表される無機系のフォトリフラクティブ結晶を用いた書き換え型媒体や、有機高分子材料であるフォトポリマーを用いた追記型媒体がある。
【0005】
一方、記録された干渉縞をホログラム媒体22から読み出すことにより情報データを再生する場合には、ホログラム媒体22に対して記録参照光と同じ入射角度にて再生参照光を照射することにより生成される反射光あるいは透過光を、レンズ23を通して複数の画素を有する受光素子24(例えばCCDなど)によって受光して再生信号を生成し、生成された再生信号を用いて元の情報データを再生する。
【0006】
なお、上記のようにして得られた2次元的な再生信号は、信号の2次元波形を示していると捉えることもでき、また、上記2次元的な再生信号のうちある方向に沿って配列された再生信号は、信号の1次元波形を示していると捉えることもできる。このように、再生信号を波形と捉えて「再生波形信号」と称することもある。
【0007】
このように上記システムでは、2次元のページデータ単位で再生が行われるため、1次元で再生を行う従来の光ディスクよりも大幅に再生速度を向上することが可能となる。
【0008】
ここで、ホログラムメモリシステムにおいては、その記録過程及び再生過程において種々の雑音が混入する(特に、記録媒体の不均質性に起因して雑音が発生する場合が多い)ことがあり、この雑音の影響によってSN比が低下する。また、隣接する画素からの再生信号の影響、すなわち画素間干渉の発生もあり、正確に元の信号を再生できない場合もある。
【0009】
そこで従来、雑音および画素間干渉の影響を低減して正確に情報データを再生する手法として、受光素子から出力される再生信号に対してビタビ復号処理を行う手法が研究されており、その一手法として、判定帰還ビタビ復号法(Decision Feedback Viterbi Algorithm)が開発されている(特許文献1参照)。
【0010】
上記判定帰還ビタビ復号法は、ページデータの横方向(行方向)に沿ってビタビ復号を行うことにより1行ずつ復号ビットを決定する処理を1行ずつ下(列方向)にずらしながら行い、その際、直前の復号結果(フィードバック行)を次行のビタビ復号に利用する判定帰還を行う点が特徴である。
【0011】
従来の判定帰還ビタビ復号法について図10及び図11を用いてその概要を説明する。画素間干渉を図10のような3行3列の行列で表される2次元インパルス応答h’として想定すると、トレリス状態は2行2列の行列として定義され、トレリス線図は図11のように表現される。なお、「2次元インパルス応答」とは、単位インパルス信号(1ビットのみの信号レベルが1であり、それ以外のビットの信号レベルが全て0であるような2次元ビット行列)を線形システムに入力したときの出力信号を意味する。図10の2次元インパルス応答h’では、中心の画素だけでなく周辺の隣接画素においても信号レベルが生じており、画素間干渉の発生が想定されていることが分かる。
【0012】
トレリス状態を[k,l;m,n]([k,l;m,n]は、行ベクトル[k,l]及び[m,n]を列方向に並べた行列を意味する。以下においてもこの表記に準じて行列を表記する。)で表記すると、k、l、m、nはいずれも0又は1なので、2の4乗=16種類のトレリス状態が存在する。
【0013】
各トレリス状態から次のトレリス状態へのブランチは4本ずつあり、各トレリス状態へ入力するブランチも4本ずつある。各ブランチが想定する想定値(「想定波形レベル」ともいう。)は、ブランチに繋がる2つのトレリス状態を結合した2行3列の行列に、その1つ上のフィードバック行(フィードバック行の詳細は後述)を結合させた3行3列の行列によって決定される。
【0014】
例えば[0,0;0,1]→[0,1;1,0]のブランチが想定するレベルは、その1つ上のフィードバック行が[1,1,0]であったとすると、行列[1,1,0;0,0,1;0,1,0]によって決定される。具体的には、インパルス応答h’と行列[1,1,0;0,0,1;0,1,0]との2次元畳み込み演算によって求まる0.31がこのブランチの想定値となる。
【0015】
ビタビ復号処理は、左から右へ行方向に行われる。再生信号を行方向に走査することによって得られる再生波形信号と各ブランチの想定波形レベルとの2乗誤差をブランチメトリック、各トレリス状態に至るパスの累積ブランチメトリックをパスメトリックとし、各トレリス状態に入力する4本のパスのうちパスメトリックが最小のものを生き残りパスとして残す。
【0016】
これを行方向に繰り返すと、所定時間だけ前(左方向)に遡れば生き残りパスが1本に収束しているので、これを正解パスとして決定していく(この「所定時間」はパスメモリ長と呼ばれる)。この過程は従来の1次元ビタビ復号と原理的に同じなので詳細な説明は省略するが、1次元ビタビ復号と異なるのは、1次元だと正解パスがビット系列そのものに対応するのに対し、2次元では正解パスが行列になるので複数のビット行(上記例では2行)に対応する点である。
【0017】
この2行のビット行のうち、2行目は3行目以降のビット行からの影響を考慮していない、すなわち画素間干渉の影響を部分的にしか考慮しておらず信頼性に乏しいため、上下左右からの波形干渉が全て考慮に入れられてビタビ復号される1行目のみが復号ビットとして出力される。
【0018】
上記のような行方向のビタビ復号によって得られるのは1行分のビット行なので、ページデータ全体を復号するためには、この処理を1行ずつ列方向(下方向)にずらしながら繰り返す。
【0019】
ここで判定帰還の考え方が導入される。判定帰還は、1つ上の行の復号結果をフィードバック行として次の行のビタビ復号に反映させる手法であり、具体的には上記で説明したように、次の行のブランチの想定波形レベルを決める処理に用いることによって反映している。
【0020】
判定帰還の手順をもう少し詳しく説明する。受光素子24の最上端の行で受光した再生波形信号に基づいて再生するときは、当該最上端の行のさらに上の行における受光量が0であると見なせるので、最上行からの再生波形信号に基づいて再生するときには、フィードバック行を全て0とする。
【0021】
次に、上から2行目からの再生波形信号に基づいて再生するときは、1行目(最上端の行)では正確にビット行が復号されたと仮定し、これをフィードバック行として2行目の復号に用いる。
【0022】
更に、上から3行目の行からの再生波形信号に基づいて再生するときは、2行目の行では正確にビット行が復号されたと仮定し、これをフィードバック行として3行目の復号に用いる。
【0023】
このように、現在の復号対象行の1つ上の行では正確に復号処理がなされたと仮定して、1つ上の行の影響を考慮に入れつつ(すなわち列方向の判定帰還を行い)現在の行からの再生波形信号についてビタビ復号を行っているので、列方向の画素間干渉の影響をより考慮に入れたビタビ復号処理が実行されており、行方向のみの再生波形の変化を用いた従来の1次元ビタビ復号処理に比べて、より正確な復号処理ができる。
【特許文献1】米国特許第5,740,184号(1998年発行)
【非特許文献1】谷田貝豊彦著「現代人の物理5 光とフーリエ変換」朝倉書店、1992年5月15日、p.12-15
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
上記背景技術においては、画素間干渉は2次元インパルス応答h’として表現され、各ブランチが想定する想定波形レベルは、ブランチに繋がる2つのトレリス状態とフィードバック行とから定まるビット行列と、h’との2次元畳み込み演算によって決定されている。
【0025】
ここで、CCDの各画素に受光されて出力される信号は、光の強度(パワー)に相当する。一方、2次元畳み込み演算の光学的な意味は、複数の光源からの光波を重ね合わせることであるが、ホログラムメモリシステムにおいては、空間光変調器20の各画素からの光波が複数の光源に相当するため、これらの光源はコヒーレントである。従って、光学理論の見地に基づいて考えると、光波の重ね合わせ、すなわち2次元畳み込み演算は、光の振幅に基づいて行うのが適切である(非特許文献1参照)。
【0026】
しかるに上記背景技術においてはこのことが全く考慮されていなかったため、各ブランチの想定波形レベルの設定の精度が十分ではなく、高性能なビタビ復号が実現できないという問題があった。
【0027】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ページデータの2次元再生信号のビタビ復号において、復号結果のエラーレートを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明に係るビタビ復号装置は、ページデータを光学的に再生することにより得られ、光の強度に応じた信号値を示す2次元再生信号をビタビ復号するビタビ復号装置であって、上記課題を解決するために、前記2次元再生信号に対応するトレリス状態の遷移と、前記2次元再生信号とに基づいて、前記遷移のブランチメトリックを求めるブランチメトリック演算手段と、前記ブランチメトリックに基づいてビタビ復号を行うビタビ復号手段とを備え、光の振幅に基づいて想定される前記トレリス状態の遷移の想定値を想定振幅値とすると、前記ブランチメトリック演算手段は、前記想定振幅値の2乗値に応じた想定信号値を用いてブランチメトリックを求めることを特徴としている。
【0029】
また、本発明に係るビタビ復号方法は、ページデータを光学的に再生することにより得られ、光の強度に応じた信号値を示す2次元再生信号をビタビ復号するビタビ復号方法であって、上記課題を解決するために、前記2次元再生信号に対応するトレリス状態の遷移と、前記2次元再生信号とに基づいて、前記遷移のブランチメトリックを求めるブランチメトリック演算処理と、前記ブランチメトリックに基づいてビタビ復号を行うビタビ復号処理とを備え、光の振幅に基づいて想定される前記トレリス状態の遷移の想定値を想定振幅値とすると、前記ブランチメトリック演算処理では、前記想定振幅値の2乗値に応じた想定信号値を用いてブランチメトリックを求めることを特徴としている。
【0030】
ここで、「光学的に再生」とは、典型的には、ページデータの記録された媒体に対して光を照射することにより生成される反射光や透過光を、CCDやCMOSセンサなどの受光素子によって受光することにより再生することに相当するが、これらに限らず、光の強度に応じた値を示す2次元再生信号を得ることができる再生であればよい。
【0031】
また、「光の強度に応じた値」とは、光の強度と線形的な関係のある値を意味する(ただし、当然のことながらノイズなどの非本質的要因によって線形性が崩れている場合を除外するものではない)。したがって、「光の強度に応じた値」には、光の強度値そのもの以外に、光の強度値に対して増幅やシフトが施された値も含むが、光の強度値の平方根など非線形的に変換された値は含まない。
【0032】
また、「2乗値に応じた想定信号値」とは、2乗値と線形的な関係のある値を意味する(ただし、当然のことながらノイズなどの非本質的要因によって線形性が崩れている場合を除外するものではない)。したがって、「2乗値に応じた想定信号値」には、2乗値そのもの以外に、2乗値に対して増幅やシフトが施された値も含むが、2乗値の平方根など非線形的に変換された値は含まない。
【0033】
上記構成又は方法では、ページデータを光学的に再生することにより得られ、光の強度に応じた信号値を示す2次元再生信号をビタビ復号するにあたり、想定振幅値(つまり、光の振幅に基づいて想定されるトレリス状態の遷移の想定値)をそのまま用いてブランチメトリックを求めるのではなく、この想定振幅値の2乗値に応じた想定信号値を用いて上記ブランチメトリックを求める。これにより、上記想定振幅値をそのまま想定信号値とする場合と比較して、ビタビ復号により適した想定信号値を設定することが可能となる。なぜなら、上記2次元再生信号は光の強度に応じた信号値を示す信号であり、光の振幅と強度との間には振幅の絶対値の2乗が強度であるという関係があるからである。
【0034】
このように、ビタビ復号により適した想定信号値を設定することができる結果、高性能なビタビ復号を実現することができ、エラーレートの低い再生が可能となる。
【0035】
本発明に係るビタビ復号装置は、上記ビタビ復号装置において、前記ビタビ復号手段は、前記ページデータにおける復号対象行を含む複数行に対するビタビ復号を行うものであり、前記ビタビ復号手段により行われたビタビ復号の結果生き残ったパスのうち、復号対象行に対応する復号ビット行を復号結果として出力する復号ビット出力手段と、直前の復号対象行に関して前記復号ビット出力手段が出力した復号ビット行を記憶する復号ビット記憶手段と、トレリス状態の遷移と前記復号ビット記憶手段から出力された復号ビット行とから定まるビット行列と、前記再生において光の振幅として想定される2次元インパルス応答行列との2次元畳み込み演算により前記想定振幅値を算出して前記想定信号値を求める想定信号値演算手段とをさらに備える構成とすることができる。
【0036】
ここで、「2次元インパルス応答」とは、単位インパルス信号(1ビットのみの信号レベルが1であり、それ以外のビットの信号レベルが全て0であるような2次元ビット行列)を線形システムに入力したときの出力信号を意味し、「2次元インパルス応答行列」とは、この出力信号からなる行列を意味する。
【0037】
上記構成では、前記2次元再生信号について想定されるトレリス状態の遷移と、上記2次元再生信号とに基づいて遷移のブランチメトリックを求めるとともに、上記再生において光の振幅として想定される2次元インパルス応答行列と、上記遷移に対応するビット行列との2次元畳み込みを行って上記遷移の想定振幅値を得る。
【0038】
これにより、前述した光学理論の見地に基づいた演算、つまり、光の振幅に応じた2次元畳み込み演算を行うことになるので、光学理論的に適切な演算を行うことができる。
【0039】
本発明に係るビタビ復号装置は、上記ビタビ復号装置において、単位インパルス信号に相当するビット行列を再生することにより得られた2次元再生信号の平方根を求めて前記2次元インパルス応答行列を生成する応答行列演算手段をさらに備えていてもよい。
【0040】
ここで、「単位インパルス信号」とは、上述のように、1ビットのみの信号レベルが1であり、それ以外のビットの信号レベルが全て0であるような2次元ビット行列を意味する。
【0041】
上記構成では、ページデータを記録する個々の記録媒体や再生環境ごとに、それらに適した2次元インパルス応答行列を生成し、これを用いてブランチメトリックを求めることができる。その結果、さらに高性能なビタビ復号を実現することができ、さらにエラーレートの低い再生が可能となる。
【0042】
本発明に係る再生システムは、上記何れかのビタビ復号装置と、ページデータを光学的に再生することにより前記2次元再生信号を得る再生装置とを備えることにより構成することができる。
【0043】
本発明に係るビタビ復号プログラムは、上記ビタビ復号装置としてコンピュータを動作させるために、コンピュータを前記各手段として機能させるためのプログラムである。また、本発明に係る記録媒体は、上記ビタビ復号プログラムを記載したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【0044】
上記プログラム又は記録媒体を用いることにより、コンピュータを上記ビタビ復号装置の各手段として機能させることによって上記ビタビ復号装置を実現することができる。
【発明の効果】
【0045】
本発明に係るビタビ復号装置は、以上のように、光の振幅に基づいて想定されるトレリス状態の遷移の想定値を想定振幅値とすると、ブランチメトリック演算手段は、想定振幅値の2乗値に応じた想定信号値を用いてブランチメトリックを求める構成である。
【0046】
また、本発明に係るビタビ復号方法は、以上のように、ブランチメトリック演算処理では、想定振幅値の2乗値に応じた想定信号値を用いてブランチメトリックを求める方法である。
【0047】
これにより、上記想定振幅値をそのまま想定信号値とする場合と比較して、ビタビ復号により適した想定信号値を設定することが可能となる。なぜなら、上記2次元再生信号は光の強度に応じた信号値を示す信号であり、光の振幅と強度との間には振幅の絶対値の2乗が強度であるという関係があるからである。
【0048】
このように、ビタビ復号により適した想定信号値を設定することができる結果、高性能なビタビ復号を実現することができ、エラーレートの低い再生が可能となるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
〔実施形態1〕
本発明の第1の実施形態について図1から図5に基づいて説明する。
【0050】
図1は、本発明のビタビ復号装置及びビタビ復号方法を適用した本実施形態のホログラムメモリ再生システム(再生システム)10の構成を示すブロック図である。ホログラムメモリ再生システム10は、ホログラムメモリ再生装置(再生装置)1、バッファメモリ2、2次元波形等化回路3、2次元ビタビ復号回路4、復号ビット行出力回路5、復号ビットレジスタ6、想定波形レベル設定回路7、及びブランチメトリック演算回路8を備えている。
【0051】
ホログラムメモリ再生装置1は、背景技術欄において図9に基づいて説明したシステムのうち再生側の構成に相当しており、干渉縞として情報が記録されたホログラム媒体に対して再生参照光を照射することにより生成される反射光あるいは透過光(コヒーレント光)を、レンズを通して複数の画素を有する受光素子(例えばCCDやCMOSセンサなど)によって受光して再生信号を生成する装置である。
【0052】
なお、背景技術欄において述べたとおり、再生信号を波形と捉えて「再生波形信号」と称することもある。
【0053】
バッファメモリ2は、ホログラムメモリ再生装置1によって生成された再生信号をページデータ単位で記憶する記憶装置である。なお、バッファメモリ2に記憶されるページデータ単位の再生信号は、背景技術欄において説明したとおり画素間干渉の影響を受けた2次元再生信号となっている。
【0054】
2次元波形等化回路3は、ホログラムメモリ再生装置1によって生成された再生波形信号(より正確にはバッファメモリ2に記憶された再生波形信号)に対して2次元的な波形等化を施すことにより、再生波形信号を、想定波形レベル設定回路7において想定する信号により適した信号に変換する回路である。なお、2次元波形等化回路3の構成や波形等価の処理内容は周知であるので、これらに関する詳細な説明は省略する。
【0055】
2次元ビタビ復号回路4は、ブランチメトリック演算回路8によって求められたブランチメトリックを累積したパスメトリックに基づいて、各トレリス状態毎に生き残りパスを決定する処理を繰り返して、2次元ビタビ復号を行う回路である。
【0056】
復号ビット行出力回路5は、2次元ビタビ復号回路4における復号によって生き残ったパスに含まれる復号ビット列のうち、復号結果として適切なもの(復号対象行に対応する復号ビット行)を抽出して出力する回路である。
【0057】
復号ビットレジスタ6は、復号ビット行出力回路5から出力された復号ビット列を保持するレジスタである。
【0058】
想定波形レベル設定回路7は、復号ビットレジスタ6に保持された復号ビット列を用いて、ブランチメトリック演算回路8において使用する想定波形レベル(想定信号値)wを算出し、ブランチメトリック演算回路8に送る回路である。
【0059】
ブランチメトリック演算回路8は、2次元波形等化回路3によって波形等化された信号xに対する各ブランチ毎のブランチメトリックを、想定波形レベル設定回路7によって求められた想定波形レベルwとの2乗誤差(x−w)2として求める回路である。
【0060】
なお、ホログラムメモリ再生システム10のうち、2次元波形等化回路3、2次元ビタビ復号回路4、復号ビット行出力回路5、復号ビットレジスタ6、想定波形レベル設定回路7、及びブランチメトリック演算回路8は、ビタビ復号装置12を構成している。
【0061】
また、2次元ビタビ復号回路4はビタビ復号手段、復号ビット行出力回路5は復号ビット出力手段、復号ビットレジスタ6は復号ビット記憶手段、想定波形レベル設定回路7は想定信号値演算手段、ブランチメトリック演算回路8はブランチメトリック演算手段にそれぞれ対応している。
【0062】
図2はホログラムメモリ再生装置1における所定の応答行列hを示している。2次元ビタビ復号回路4の動作は、この応答行列hを想定したものである。そこで、この応答行列hを想定応答行列hと称する。
【0063】
また、この想定応答行列hは、ホログラムメモリ再生装置1における再生において、受光素子の受光する光の強度ではなく、当該光の振幅に基づいて想定される2次元インパルス応答行列である。なお、「2次元インパルス応答」とは、単位インパルス信号(1ビットのみの信号レベルが1であり、それ以外のビットの信号レベルが全て0であるような2次元ビット行列)を線形システムに入力したときの出力信号を意味し、「2次元インパルス応答行列」とは、この出力信号からなる行列を意味する。
【0064】
説明の簡略化のため、想定応答行列hは画素間干渉のビット幅が3の場合で説明するが、これに限るものではなく、想定応答行列としてはホログラムメモリ再生装置1の応答特性に近いものを想定すればよい。
【0065】
2次元ビタビ復号回路4の動作を表現するトレリス線図は図11で示した背景技術のものと同様である。想定応答行列hの画素間干渉のビット幅が3であり、判定帰還ビタビ復号法を適用しているため、2行2列の行列としてトレリス状態が定義されている(復号対象行の1つ上の行はフィードバック行を用いることができるため、行の幅が3−1=2となる)。2行2列(計4ビット)なのでトレリス状態数は2の4乗=16通りであり、各トレリス状態に入力するブランチ及び出力するブランチはいずれも4本である。
【0066】
図3に、ブランチの想定波形レベル(トレリス状態の遷移に対して想定される想定信号値)の一例として、トレリス状態[1,0;0,1]に入力する4本のブランチについての想定波形レベルを示す。図3の想定波形レベルは、ブランチに対応するフィードバック行が[1,0,1]であった場合について求めたものである。想定波形レベルは以下のようにして求められる。
【0067】
トレリス状態[0,1;0,0]→[1,0;0,1]のブランチが定めるビット行列は、フィードバック行[1,0,1]と合わせると[1,0,1;0,1,0;0,0,1]となる。
【0068】
図4のように、まず最初にこのビット行列と想定応答行列hとの2次元畳み込み演算を行うと、その結果の行列の中心の値0.5がこのトレリス状態の遷移において想定される光の振幅に対応する想定値として得られる。なぜなら、上記2次元畳み込み演算において用いた想定応答行列hは、上述のとおり、光の強度ではなく、当該光の振幅に基づいて想定される2次元インパルス応答行列であるからである。
【0069】
一方、CCDにて検出される信号は光の強度に対応した信号なので、光の振幅と強度の間には振幅の絶対値の2乗が強度であるという関係があることを考慮すると、光の振幅として得られた0.5を2乗した値0.25が光の強度に対応する。従って、この値0.25を想定波形レベルとして用いれば、より正確な想定波形レベルを設定することが可能となる。
【0070】
全てのブランチの想定波形レベルも同様に求めることができ、フィードバック行が[f1,f2,f3]であるとき、トレリス状態の遷移[p,q;s,t]→[q,r;t,u]に対応するブランチの想定波形レベルwは、[f1,f2,f3;p,q,r;s,t,u]とhの2次元畳み込み行列の中心の値の2乗値として計算される。このような想定波形レベルwの決定方法が、本発明の特徴である。
【0071】
従来技術のように、トレリス状態の遷移に対応するビット行列と想定応答行列hとの2次元畳み込み演算結果を2乗せずにそのまま想定波形レベルとして用いたとすると、図4のようなビット行列(この行列の外側が全て0であるとした場合)の想定波形レベルは、図4の2次元畳み込み演算結果そのものが用いられることになる。
【0072】
一方、このビット行列をCCDで検出することにより得られる再生信号は、この2次元畳み込み演算結果の要素を全て2乗したものに近い信号であるため、例えば3行目の再生波形信号のレベルは、0.0009、0.0576、0.25、0.1296、0.0036、に近い信号(実際の再生波形信号にはこれらにノイズが含まれる)となる。
【0073】
このような再生波形信号と、0.03、0.24、0.5、0.36、0.06、なる想定波形信号とはレベル比が対応しない。再生波形信号を増幅器などを用いて比例倍したとしても、2乗した値と一致させることはできない(例えば、上記5ビット分の再生波形信号の真ん中の0.25を想定波形レベルに合わせるために一律2倍に増幅しても、増幅後の再生波形信号0.0018、0.1152、0.5、0.2592、0.0072、は真ん中のビットのレベルが想定波形レベルと一致するだけで、それ以外のビットとは一致しない)。
【0074】
従って、従来技術のような想定波形レベルを用いた場合、ビタビ復号の性能が十分に得られないことになる。
【0075】
上記の説明から分かるように、ブランチの想定波形レベルはフィードバック行によって変化する。従って想定波形レベル設定回路7は、フィードバック行[f1,f2,f3]に基づいて各ブランチの想定波形レベルwを計算し、ブランチメトリック演算回路8にてブランチメトリック計算に用いる想定波形レベルwを可変設定する。
【0076】
この想定波形レベルwは、復号ビットレジスタ6から入力されたフィードバック行[f1,f2,f3]に応じて上記計算例のような計算を毎回行って設定する構成であってもよいし、予め計算された想定波形レベルをルックアップテーブルなどのメモリに記憶しておき、フィードバック行に応じて対応する値をメモリから読み出して設定する構成であってもよい。
【0077】
なお、トレリス状態の遷移[p,q;s,t]→[q,r;t,u]に対応するブランチが生き残った場合、復号ビットとして[q;t]の2ビットが決定されるが、上下左右からの波形干渉が全て考慮に入れられてビタビ復号される1行目のビットqのみが、復号ビットとして出力される。
【0078】
次に、図1に示した上記構成のホログラムメモリ再生システム10による再生動作を図5のフローチャートを用いて説明すると以下の通りである。
【0079】
ホログラムメモリ再生装置1において、ホログラム媒体(100行100列のページ情報データが記録されているものとする)に再生参照光が照射され、受光素子(100行100列のCCDアレイ)から2次元の再生波形信号が出力される動作については、背景技術において説明したとおりであるので詳細は省略する。上記出力された2次元の再生波形信号は、バッファメモリ2に記憶される(ステップS1)。
【0080】
まず、復号対象行iを1行目とし(ステップS2)、行方向のビタビ復号をj=1列目から開始する(ステップS3)。
【0081】
次に、1行1列目に対応する再生波形信号がバッファメモリ2から読み出されて、2次元波形等化回路3を介してxとしてブランチメトリック演算回路8に入力される(ステップS4)。
【0082】
ここで、2次元波形等化回路3は、再生波形信号をブランチメトリック演算回路8において想定する信号により適した信号に変換するものであり、この処理によって再生波形信号をそのままビタビ復号する構成に比べて更にエラーレートの低い復号を実現することが可能となる。したがって、エラーレートの観点からは2次元波形等化回路3を設けておくことが望ましいが、回路規模の観点から2次元波形等化回路3を省いてホログラムメモリ再生システム10を構成することもできる。
【0083】
次に、2次元ビタビ復号回路4及びブランチメトリック演算回路8は、図11のトレリス線図に基づいて行方向にビタビ復号を実行する。すなわち、入力された1行1列目の記録ビットの再生波形信号xと、対応する想定波形レベルwとの2乗誤差(x−w)2をブランチメトリックとして求め、更に各トレリス状態に至るまでに累積されたブランチメトリック、すなわちパスメトリックに基づいて生き残りパスの決定を行う(ステップS5)。
【0084】
ここで、ビタビ復号において用いられる想定波形レベルwは、ブランチ毎に定まるビット行列と復号ビットレジスタ6に記憶されたフィードバック行[f1,f2,f3]とから想定波形レベル設定回路7により求められた数値であることは前述の通りである。
【0085】
次に、2次元ビタビ復号回路4のパスメモリ長をLとすると、現在の第j列が第L列より前か後かを判定し(ステップS6)、第j列が第L列よりも後なら、復号ビット行出力回路5が、生き残りパスの第(j−L)列のトレリス状態のビット2行[q;t]のうち、1行目のビットqだけを取り出して復号ビット行として出力する(ステップS7)。
【0086】
この復号ビット行は、復号結果そのものであるが、同時に復号ビットレジスタ6にも記憶される(ステップS8)。
【0087】
以上のS4からS8までの処理を、1列ずつ行方向にずらして進めていき(ステップS9)、パスメモリ長Lの分だけ余分に、すなわち(100+L)列分の復号が終われば(ステップS10)、1行ずつ列方向にずらして(ステップS11)、100行分全ての復号ビット行が得られるまで上記S3からS11の処理を繰り返す(ステップS12)。
【0088】
このとき、1行上の復号ビット行が復号ビットレジスタ6に記憶されているので、これをフィードバック行として次の行のビタビ復号に用いる。
【0089】
以上の動作により、最終的にページデータとしての復号結果のビットマップが得られる。
【0090】
以上説明したとおり、背景技術では各ブランチの想定波形レベルを正しく決めることができず、高性能なビタビ復号を実現できなかったのに対し、本実施形態では、ブランチに繋がる2つのトレリス状態とフィードバック行とから定まるビット行列と応答行列hとの2次元畳み込み演算の2乗値に基づいて想定波形レベルをより正確に求めることができるため、ビタビ復号結果のエラーレートを更に低減する効果を得ることが可能となる。
【0091】
〔実施形態2〕
本発明の第2の実施形態について図6から図8に基づいて説明する。
【0092】
上記実施形態1においては、ホログラムメモリ再生装置1の応答特性に近いものとして図2のような所定の応答行列hを予め想定して、想定波形レベル設定回路7が想定波形レベルを求める構成としていた。本実施形態では、最初にテスト再生を行うことにより応答行列hを求めた上で、想定波形レベルを求める構成について説明する。
【0093】
図6は、本発明のビタビ復号装置及びビタビ復号方法を適用した本実施形態のホログラムメモリ再生システム11の構成を示すブロック図である。なお、ホログラムメモリ再生システム11の構成要素において、実施形態1におけるホログラムメモリ再生システム10の構成要素と同等の機能を有する構成要素については、同一の符号を付記してその説明を省略する。
【0094】
ホログラムメモリ再生システム11がホログラムメモリ再生システム10と異なっている点は、ホログラムメモリ再生システム11では、応答行列演算回路9が備えられている点と、応答行列演算回路9にて求められた応答行列hを用いて、想定波形レベル設定回路7が想定波形レベルwを決定する点である。
【0095】
なお、ホログラムメモリ再生システム11のうち、2次元波形等化回路3、2次元ビタビ復号回路4、復号ビット行出力回路5、復号ビットレジスタ6、想定波形レベル設定回路7、ブランチメトリック演算回路8、及び応答行列演算回路9は、ビタビ復号装置13を構成しており、応答行列演算回路9が応答行列演算手段に対応している。
【0096】
図6に示した上記構成のホログラムメモリ再生システム11によるテスト再生動作について、図7のフローチャートを用いて説明すると以下の通りである。
【0097】
ホログラムメモリ再生装置1に図示しないホログラム媒体が装着されると(ステップS20)、ホログラムメモリ再生装置1はまず最初に、図8のような特定パターンが予め記録された箇所にアクセスして再生参照光を照射し、2次元の再生波形信号を再生する(ステップS21)。
【0098】
図8の特定パターンは、中心ビットが1でそれ以外は全て値が0であるような単位インパルス信号であるので、再生された再生波形信号は2次元インパルス応答に相当するものである。この2次元インパルス応答が応答行列演算回路9に入力されると、各行列要素の平方根が求められて(ステップS22)、応答行列hとして想定波形レベル設定回路7に出力される(ステップS23)。
【0099】
以降の通常の再生動作は、実施形態1において図5のフローチャートで示した再生動作とほぼ同じであるため詳細な説明は省略するが、図5のステップS5において想定波形レベル設定回路7が、応答行列演算回路9で求められた応答行列hを用いて想定波形レベルを設定し、ブランチメトリックを算出する点が異なっている。
【0100】
このように、ホログラム媒体が新しく装着される毎に、2次元インパルス応答に相当する再生波形信号をテスト再生し、更にこの平方根を計算することによって応答行列hを求める構成とすることによって、所定の(予め固定された)応答行列を用いる構成に比べて、ホログラム媒体の特性の差異や再生環境の変動に応じてより適切な想定波形レベルに基づいてビタビ復号を行うことができるため、更にエラーレートの低い再生の実現が可能となる。
【0101】
但し、テスト再生を行うタイミングは、ホログラム媒体が新しく装着された時だけに限らず、一定の時間間隔で定期的に実行してもよい。それによって、再生環境の短時間の変動にも追従させることができ、信頼性がより向上する。
【0102】
なお、上記実施形態1及び2において説明したホログラムメモリ再生システム10・11では、行方向で2次元ビタビ復号を実行し、これを列方向に繰り返すことによって2次元再生信号全体を復号するビタビ復号方法を用いて説明したが、行および列の定義自体に意味はないので、行と列を入れ替えた構成であっても構わないことはもちろんである。
【0103】
また、説明で用いた上下、左右の関係にも意味はなく、上と下、左と右を入れ替えた構成であっても当然構わない。更に言えば、本発明はメトリックの演算に用いる想定波形レベルの決定方法に関するものであるため、メトリック演算を行う限りにおいて、その効果はビタビ復号の方式によらず得られるものである。
【0104】
また、上記実施形態1及び2では、再生システムの例としてホログラムメモリシステムについて説明したが、再生システムはこれに限らず、2次元信号の再生を行うシステムにおいて等しくその効果を発揮することができる。すなわち、他の再生システムとしてQRコードに代表される2次元バーコード再生システムなどにも本発明を適用することができる。
【0105】
また、上記実施形態1及び2において説明したホログラムメモリ再生システム10・11の各ブロックは、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにコンピュータを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0106】
すなわち、復号装置(図1のホログラムメモリ再生システム10、あるいは図6のホログラムメモリ再生システム11のうち、ホログラムメモリ再生装置1及びバッファメモリ2を除いた装置)は、この装置の各機能を実現するビタビ復号プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、上記プログラムを格納したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置などを備えたコンピュータによって実現することもできる。
【0107】
つまり、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである復号プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、コンピュータに供給し、そのコンピュータが記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても達成可能である。
【0108】
このように本明細書において、手段とは必ずしも物理的手段を意味するものではなく、各手段の機能がソフトウェアによって実現される場合も含む。さらに、1つの手段の機能が2つ以上の物理的手段により実現されても、もしくは2つ以上の手段の機能が1つの物理的手段により実現されてもよい。
【0109】
本発明の特徴は、次のように表現することもできる。すなわち、本発明に係るビタビ復号装置は、ページデータの2次元再生信号をビタビ復号を用いて再生する装置であって、トレリス状態の遷移について想定される想定信号値に対する再生信号の誤差を求めるメトリック演算手段と、前記誤差に基づいてビタビ復号を行うビタビ復号手段とを備え、前記メトリック演算手段は、トレリス状態の遷移により定まるビット行列と所定の応答行列との2次元畳み込みの2乗値に基づいて求めた前記想定信号値を用いる構成である。
【0110】
また、本発明に係るビタビ復号装置は、上記ビタビ復号装置において、前記ビタビ復号の結果生き残ったパスのうち、復号対象行に対応する復号ビット行を復号結果として出力する復号ビット出力手段と、直前の復号対象行に関して前記復号ビット出力手段が出力した復号ビット行を記憶する復号ビット記憶手段と、トレリス状態の遷移と前記復号ビット記憶手段が記憶する復号ビット行とから定まるビット行列と所定の応答行列との2次元畳み込みの2乗値に基づいて前記想定信号値を求める想定信号値演算手段とを備えるように構成することもできる。
【0111】
また、本発明に係るビタビ復号装置は、上記ビタビ復号装置において、所定の1ビットのみ値が1で、それ以外のビットは全て値が0であるような単位インパルス信号に相当するビット行列のテスト再生信号を生成するテスト再生手段と、前記テスト再生手段にて生成されたテスト再生信号の平方根を求めて前記所定の応答行列とする応答行列演算手段とをさらに備えていてもよい。
【0112】
また、本発明に係るビタビ復号方法は、ページデータの2次元再生信号をビタビ復号する方法において、トレリス状態の遷移について想定される想定信号値に対する再生信号の誤差を求めるメトリック演算処理と、前記誤差に基づいてビタビ復号を行うビタビ復号処理とを含み、前記メトリック演算処理は、トレリス状態の遷移により定まるビット行列と所定の応答行列との2次元畳み込みの2乗値に基づいて求めた前記想定信号値を用いる方法である。
【0113】
また、本発明に係るビタビ復号方法は、上記ビタビ復号方法において、所定の1ビットのみ値が1で、それ以外のビットは全て値が0であるようなテスト用ビット行列が記録された記録媒体から、単位インパルス信号に相当するテスト再生信号を生成するテスト再生処理と、前記テスト再生処理にて生成されたテスト再生信号の平方根を求めて前記所定の応答行列とする応答行列演算処理とをさらに含んでいてもよい。
【0114】
本発明に係るビタビ復号装置又はビタビ復号方法によれば、各ブランチの想定波形レベルを正しく設定することができるので、高性能なビタビ復号を実現することができ、エラーレートの低い再生が可能となる。
【0115】
また、テスト再生信号を用いてインパルス応答に相当する応答行列を決定し、想定波形レベルを求める構成とすることによって、個々のホログラムメモリ媒体および再生環境により適した想定波形レベルを用いることができるため、エラーレートを更に低く改善することが可能となる。
【0116】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
2次元信号に対してエラーレートの低い復号を可能とする本発明は、2次元信号を再生するホログラムメモリ再生装置や、QRコードに代表される2次元バーコード再生装置などに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明の第1の実施形態におけるホログラムメモリ再生システムの構成を示すブロック図である。
【図2】図1のホログラムメモリ再生システムにおける応答行列の1例を示す図である。
【図3】図1のホログラムメモリ再生システムでのブランチに対応する想定波形レベルの1例を示す図である。
【図4】図3の想定波形レベルを求めるための2次元畳み込み演算の1例を説明する図である。
【図5】図1のホログラムメモリ再生システムの再生動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第2の実施形態におけるホログラムメモリ再生システムの構成を示すブロック図である。
【図7】図6のホログラムメモリ再生システムの再生動作を示すフローチャートである。
【図8】図6のホログラムメモリ再生システムのテスト再生に用いる単位インパルス信号を示す図である。
【図9】従来のホログラムメモリ記録再生装置の構成を示すブロック図である。
【図10】従来のホログラムメモリ再生システムの想定インパルス応答を示す図である。
【図11】従来の判定帰還ビタビ復号法を表現するトレリス線図である。
【符号の説明】
【0119】
1 ホログラムメモリ再生装置(再生装置)
2 バッファメモリ
3 2次元波形等化回路
4 2次元ビタビ復号回路(ビタビ復号手段)
5 復号ビット行出力回路(復号ビット出力手段)
6 復号ビットレジスタ(復号ビット記憶手段)
7 想定波形レベル設定回路(想定信号値設定手段)
8 ブランチメトリック演算回路(ブランチメトリック演算手段)
9 応答行列演算回路(応答行列演算手段)
10 ホログラムメモリ再生システム
11 ホログラムメモリ再生システム
12 ビタビ復号装置
13 ビタビ復号装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラムメモリなどディジタル情報を2次元的に記録再生する光メモリシステムに好適に適用できるビタビ復号に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ホログラフィを用いて情報を2次元的に、すなわちページデータとして記録し再生するホログラムメモリが、次世代の高密度記録再生システムとして脚光を浴びつつある。
【0003】
図9に示すように、このシステムでは、情報データを記録する場合には、複数の画素よりなる空間光変調器20(例えば液晶パネルなど)を用いて、記録すべき情報データに基づいて記録信号光を空間光変調し、レンズ21を通した記録信号光とコヒーレントな記録参照光とを干渉させることにより干渉縞を生成し、この干渉縞により形成される像を2次元情報としてホログラム媒体22に記録する。
【0004】
ホログラム媒体22としては、ニオブ酸リチウムに代表される無機系のフォトリフラクティブ結晶を用いた書き換え型媒体や、有機高分子材料であるフォトポリマーを用いた追記型媒体がある。
【0005】
一方、記録された干渉縞をホログラム媒体22から読み出すことにより情報データを再生する場合には、ホログラム媒体22に対して記録参照光と同じ入射角度にて再生参照光を照射することにより生成される反射光あるいは透過光を、レンズ23を通して複数の画素を有する受光素子24(例えばCCDなど)によって受光して再生信号を生成し、生成された再生信号を用いて元の情報データを再生する。
【0006】
なお、上記のようにして得られた2次元的な再生信号は、信号の2次元波形を示していると捉えることもでき、また、上記2次元的な再生信号のうちある方向に沿って配列された再生信号は、信号の1次元波形を示していると捉えることもできる。このように、再生信号を波形と捉えて「再生波形信号」と称することもある。
【0007】
このように上記システムでは、2次元のページデータ単位で再生が行われるため、1次元で再生を行う従来の光ディスクよりも大幅に再生速度を向上することが可能となる。
【0008】
ここで、ホログラムメモリシステムにおいては、その記録過程及び再生過程において種々の雑音が混入する(特に、記録媒体の不均質性に起因して雑音が発生する場合が多い)ことがあり、この雑音の影響によってSN比が低下する。また、隣接する画素からの再生信号の影響、すなわち画素間干渉の発生もあり、正確に元の信号を再生できない場合もある。
【0009】
そこで従来、雑音および画素間干渉の影響を低減して正確に情報データを再生する手法として、受光素子から出力される再生信号に対してビタビ復号処理を行う手法が研究されており、その一手法として、判定帰還ビタビ復号法(Decision Feedback Viterbi Algorithm)が開発されている(特許文献1参照)。
【0010】
上記判定帰還ビタビ復号法は、ページデータの横方向(行方向)に沿ってビタビ復号を行うことにより1行ずつ復号ビットを決定する処理を1行ずつ下(列方向)にずらしながら行い、その際、直前の復号結果(フィードバック行)を次行のビタビ復号に利用する判定帰還を行う点が特徴である。
【0011】
従来の判定帰還ビタビ復号法について図10及び図11を用いてその概要を説明する。画素間干渉を図10のような3行3列の行列で表される2次元インパルス応答h’として想定すると、トレリス状態は2行2列の行列として定義され、トレリス線図は図11のように表現される。なお、「2次元インパルス応答」とは、単位インパルス信号(1ビットのみの信号レベルが1であり、それ以外のビットの信号レベルが全て0であるような2次元ビット行列)を線形システムに入力したときの出力信号を意味する。図10の2次元インパルス応答h’では、中心の画素だけでなく周辺の隣接画素においても信号レベルが生じており、画素間干渉の発生が想定されていることが分かる。
【0012】
トレリス状態を[k,l;m,n]([k,l;m,n]は、行ベクトル[k,l]及び[m,n]を列方向に並べた行列を意味する。以下においてもこの表記に準じて行列を表記する。)で表記すると、k、l、m、nはいずれも0又は1なので、2の4乗=16種類のトレリス状態が存在する。
【0013】
各トレリス状態から次のトレリス状態へのブランチは4本ずつあり、各トレリス状態へ入力するブランチも4本ずつある。各ブランチが想定する想定値(「想定波形レベル」ともいう。)は、ブランチに繋がる2つのトレリス状態を結合した2行3列の行列に、その1つ上のフィードバック行(フィードバック行の詳細は後述)を結合させた3行3列の行列によって決定される。
【0014】
例えば[0,0;0,1]→[0,1;1,0]のブランチが想定するレベルは、その1つ上のフィードバック行が[1,1,0]であったとすると、行列[1,1,0;0,0,1;0,1,0]によって決定される。具体的には、インパルス応答h’と行列[1,1,0;0,0,1;0,1,0]との2次元畳み込み演算によって求まる0.31がこのブランチの想定値となる。
【0015】
ビタビ復号処理は、左から右へ行方向に行われる。再生信号を行方向に走査することによって得られる再生波形信号と各ブランチの想定波形レベルとの2乗誤差をブランチメトリック、各トレリス状態に至るパスの累積ブランチメトリックをパスメトリックとし、各トレリス状態に入力する4本のパスのうちパスメトリックが最小のものを生き残りパスとして残す。
【0016】
これを行方向に繰り返すと、所定時間だけ前(左方向)に遡れば生き残りパスが1本に収束しているので、これを正解パスとして決定していく(この「所定時間」はパスメモリ長と呼ばれる)。この過程は従来の1次元ビタビ復号と原理的に同じなので詳細な説明は省略するが、1次元ビタビ復号と異なるのは、1次元だと正解パスがビット系列そのものに対応するのに対し、2次元では正解パスが行列になるので複数のビット行(上記例では2行)に対応する点である。
【0017】
この2行のビット行のうち、2行目は3行目以降のビット行からの影響を考慮していない、すなわち画素間干渉の影響を部分的にしか考慮しておらず信頼性に乏しいため、上下左右からの波形干渉が全て考慮に入れられてビタビ復号される1行目のみが復号ビットとして出力される。
【0018】
上記のような行方向のビタビ復号によって得られるのは1行分のビット行なので、ページデータ全体を復号するためには、この処理を1行ずつ列方向(下方向)にずらしながら繰り返す。
【0019】
ここで判定帰還の考え方が導入される。判定帰還は、1つ上の行の復号結果をフィードバック行として次の行のビタビ復号に反映させる手法であり、具体的には上記で説明したように、次の行のブランチの想定波形レベルを決める処理に用いることによって反映している。
【0020】
判定帰還の手順をもう少し詳しく説明する。受光素子24の最上端の行で受光した再生波形信号に基づいて再生するときは、当該最上端の行のさらに上の行における受光量が0であると見なせるので、最上行からの再生波形信号に基づいて再生するときには、フィードバック行を全て0とする。
【0021】
次に、上から2行目からの再生波形信号に基づいて再生するときは、1行目(最上端の行)では正確にビット行が復号されたと仮定し、これをフィードバック行として2行目の復号に用いる。
【0022】
更に、上から3行目の行からの再生波形信号に基づいて再生するときは、2行目の行では正確にビット行が復号されたと仮定し、これをフィードバック行として3行目の復号に用いる。
【0023】
このように、現在の復号対象行の1つ上の行では正確に復号処理がなされたと仮定して、1つ上の行の影響を考慮に入れつつ(すなわち列方向の判定帰還を行い)現在の行からの再生波形信号についてビタビ復号を行っているので、列方向の画素間干渉の影響をより考慮に入れたビタビ復号処理が実行されており、行方向のみの再生波形の変化を用いた従来の1次元ビタビ復号処理に比べて、より正確な復号処理ができる。
【特許文献1】米国特許第5,740,184号(1998年発行)
【非特許文献1】谷田貝豊彦著「現代人の物理5 光とフーリエ変換」朝倉書店、1992年5月15日、p.12-15
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
上記背景技術においては、画素間干渉は2次元インパルス応答h’として表現され、各ブランチが想定する想定波形レベルは、ブランチに繋がる2つのトレリス状態とフィードバック行とから定まるビット行列と、h’との2次元畳み込み演算によって決定されている。
【0025】
ここで、CCDの各画素に受光されて出力される信号は、光の強度(パワー)に相当する。一方、2次元畳み込み演算の光学的な意味は、複数の光源からの光波を重ね合わせることであるが、ホログラムメモリシステムにおいては、空間光変調器20の各画素からの光波が複数の光源に相当するため、これらの光源はコヒーレントである。従って、光学理論の見地に基づいて考えると、光波の重ね合わせ、すなわち2次元畳み込み演算は、光の振幅に基づいて行うのが適切である(非特許文献1参照)。
【0026】
しかるに上記背景技術においてはこのことが全く考慮されていなかったため、各ブランチの想定波形レベルの設定の精度が十分ではなく、高性能なビタビ復号が実現できないという問題があった。
【0027】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ページデータの2次元再生信号のビタビ復号において、復号結果のエラーレートを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明に係るビタビ復号装置は、ページデータを光学的に再生することにより得られ、光の強度に応じた信号値を示す2次元再生信号をビタビ復号するビタビ復号装置であって、上記課題を解決するために、前記2次元再生信号に対応するトレリス状態の遷移と、前記2次元再生信号とに基づいて、前記遷移のブランチメトリックを求めるブランチメトリック演算手段と、前記ブランチメトリックに基づいてビタビ復号を行うビタビ復号手段とを備え、光の振幅に基づいて想定される前記トレリス状態の遷移の想定値を想定振幅値とすると、前記ブランチメトリック演算手段は、前記想定振幅値の2乗値に応じた想定信号値を用いてブランチメトリックを求めることを特徴としている。
【0029】
また、本発明に係るビタビ復号方法は、ページデータを光学的に再生することにより得られ、光の強度に応じた信号値を示す2次元再生信号をビタビ復号するビタビ復号方法であって、上記課題を解決するために、前記2次元再生信号に対応するトレリス状態の遷移と、前記2次元再生信号とに基づいて、前記遷移のブランチメトリックを求めるブランチメトリック演算処理と、前記ブランチメトリックに基づいてビタビ復号を行うビタビ復号処理とを備え、光の振幅に基づいて想定される前記トレリス状態の遷移の想定値を想定振幅値とすると、前記ブランチメトリック演算処理では、前記想定振幅値の2乗値に応じた想定信号値を用いてブランチメトリックを求めることを特徴としている。
【0030】
ここで、「光学的に再生」とは、典型的には、ページデータの記録された媒体に対して光を照射することにより生成される反射光や透過光を、CCDやCMOSセンサなどの受光素子によって受光することにより再生することに相当するが、これらに限らず、光の強度に応じた値を示す2次元再生信号を得ることができる再生であればよい。
【0031】
また、「光の強度に応じた値」とは、光の強度と線形的な関係のある値を意味する(ただし、当然のことながらノイズなどの非本質的要因によって線形性が崩れている場合を除外するものではない)。したがって、「光の強度に応じた値」には、光の強度値そのもの以外に、光の強度値に対して増幅やシフトが施された値も含むが、光の強度値の平方根など非線形的に変換された値は含まない。
【0032】
また、「2乗値に応じた想定信号値」とは、2乗値と線形的な関係のある値を意味する(ただし、当然のことながらノイズなどの非本質的要因によって線形性が崩れている場合を除外するものではない)。したがって、「2乗値に応じた想定信号値」には、2乗値そのもの以外に、2乗値に対して増幅やシフトが施された値も含むが、2乗値の平方根など非線形的に変換された値は含まない。
【0033】
上記構成又は方法では、ページデータを光学的に再生することにより得られ、光の強度に応じた信号値を示す2次元再生信号をビタビ復号するにあたり、想定振幅値(つまり、光の振幅に基づいて想定されるトレリス状態の遷移の想定値)をそのまま用いてブランチメトリックを求めるのではなく、この想定振幅値の2乗値に応じた想定信号値を用いて上記ブランチメトリックを求める。これにより、上記想定振幅値をそのまま想定信号値とする場合と比較して、ビタビ復号により適した想定信号値を設定することが可能となる。なぜなら、上記2次元再生信号は光の強度に応じた信号値を示す信号であり、光の振幅と強度との間には振幅の絶対値の2乗が強度であるという関係があるからである。
【0034】
このように、ビタビ復号により適した想定信号値を設定することができる結果、高性能なビタビ復号を実現することができ、エラーレートの低い再生が可能となる。
【0035】
本発明に係るビタビ復号装置は、上記ビタビ復号装置において、前記ビタビ復号手段は、前記ページデータにおける復号対象行を含む複数行に対するビタビ復号を行うものであり、前記ビタビ復号手段により行われたビタビ復号の結果生き残ったパスのうち、復号対象行に対応する復号ビット行を復号結果として出力する復号ビット出力手段と、直前の復号対象行に関して前記復号ビット出力手段が出力した復号ビット行を記憶する復号ビット記憶手段と、トレリス状態の遷移と前記復号ビット記憶手段から出力された復号ビット行とから定まるビット行列と、前記再生において光の振幅として想定される2次元インパルス応答行列との2次元畳み込み演算により前記想定振幅値を算出して前記想定信号値を求める想定信号値演算手段とをさらに備える構成とすることができる。
【0036】
ここで、「2次元インパルス応答」とは、単位インパルス信号(1ビットのみの信号レベルが1であり、それ以外のビットの信号レベルが全て0であるような2次元ビット行列)を線形システムに入力したときの出力信号を意味し、「2次元インパルス応答行列」とは、この出力信号からなる行列を意味する。
【0037】
上記構成では、前記2次元再生信号について想定されるトレリス状態の遷移と、上記2次元再生信号とに基づいて遷移のブランチメトリックを求めるとともに、上記再生において光の振幅として想定される2次元インパルス応答行列と、上記遷移に対応するビット行列との2次元畳み込みを行って上記遷移の想定振幅値を得る。
【0038】
これにより、前述した光学理論の見地に基づいた演算、つまり、光の振幅に応じた2次元畳み込み演算を行うことになるので、光学理論的に適切な演算を行うことができる。
【0039】
本発明に係るビタビ復号装置は、上記ビタビ復号装置において、単位インパルス信号に相当するビット行列を再生することにより得られた2次元再生信号の平方根を求めて前記2次元インパルス応答行列を生成する応答行列演算手段をさらに備えていてもよい。
【0040】
ここで、「単位インパルス信号」とは、上述のように、1ビットのみの信号レベルが1であり、それ以外のビットの信号レベルが全て0であるような2次元ビット行列を意味する。
【0041】
上記構成では、ページデータを記録する個々の記録媒体や再生環境ごとに、それらに適した2次元インパルス応答行列を生成し、これを用いてブランチメトリックを求めることができる。その結果、さらに高性能なビタビ復号を実現することができ、さらにエラーレートの低い再生が可能となる。
【0042】
本発明に係る再生システムは、上記何れかのビタビ復号装置と、ページデータを光学的に再生することにより前記2次元再生信号を得る再生装置とを備えることにより構成することができる。
【0043】
本発明に係るビタビ復号プログラムは、上記ビタビ復号装置としてコンピュータを動作させるために、コンピュータを前記各手段として機能させるためのプログラムである。また、本発明に係る記録媒体は、上記ビタビ復号プログラムを記載したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【0044】
上記プログラム又は記録媒体を用いることにより、コンピュータを上記ビタビ復号装置の各手段として機能させることによって上記ビタビ復号装置を実現することができる。
【発明の効果】
【0045】
本発明に係るビタビ復号装置は、以上のように、光の振幅に基づいて想定されるトレリス状態の遷移の想定値を想定振幅値とすると、ブランチメトリック演算手段は、想定振幅値の2乗値に応じた想定信号値を用いてブランチメトリックを求める構成である。
【0046】
また、本発明に係るビタビ復号方法は、以上のように、ブランチメトリック演算処理では、想定振幅値の2乗値に応じた想定信号値を用いてブランチメトリックを求める方法である。
【0047】
これにより、上記想定振幅値をそのまま想定信号値とする場合と比較して、ビタビ復号により適した想定信号値を設定することが可能となる。なぜなら、上記2次元再生信号は光の強度に応じた信号値を示す信号であり、光の振幅と強度との間には振幅の絶対値の2乗が強度であるという関係があるからである。
【0048】
このように、ビタビ復号により適した想定信号値を設定することができる結果、高性能なビタビ復号を実現することができ、エラーレートの低い再生が可能となるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
〔実施形態1〕
本発明の第1の実施形態について図1から図5に基づいて説明する。
【0050】
図1は、本発明のビタビ復号装置及びビタビ復号方法を適用した本実施形態のホログラムメモリ再生システム(再生システム)10の構成を示すブロック図である。ホログラムメモリ再生システム10は、ホログラムメモリ再生装置(再生装置)1、バッファメモリ2、2次元波形等化回路3、2次元ビタビ復号回路4、復号ビット行出力回路5、復号ビットレジスタ6、想定波形レベル設定回路7、及びブランチメトリック演算回路8を備えている。
【0051】
ホログラムメモリ再生装置1は、背景技術欄において図9に基づいて説明したシステムのうち再生側の構成に相当しており、干渉縞として情報が記録されたホログラム媒体に対して再生参照光を照射することにより生成される反射光あるいは透過光(コヒーレント光)を、レンズを通して複数の画素を有する受光素子(例えばCCDやCMOSセンサなど)によって受光して再生信号を生成する装置である。
【0052】
なお、背景技術欄において述べたとおり、再生信号を波形と捉えて「再生波形信号」と称することもある。
【0053】
バッファメモリ2は、ホログラムメモリ再生装置1によって生成された再生信号をページデータ単位で記憶する記憶装置である。なお、バッファメモリ2に記憶されるページデータ単位の再生信号は、背景技術欄において説明したとおり画素間干渉の影響を受けた2次元再生信号となっている。
【0054】
2次元波形等化回路3は、ホログラムメモリ再生装置1によって生成された再生波形信号(より正確にはバッファメモリ2に記憶された再生波形信号)に対して2次元的な波形等化を施すことにより、再生波形信号を、想定波形レベル設定回路7において想定する信号により適した信号に変換する回路である。なお、2次元波形等化回路3の構成や波形等価の処理内容は周知であるので、これらに関する詳細な説明は省略する。
【0055】
2次元ビタビ復号回路4は、ブランチメトリック演算回路8によって求められたブランチメトリックを累積したパスメトリックに基づいて、各トレリス状態毎に生き残りパスを決定する処理を繰り返して、2次元ビタビ復号を行う回路である。
【0056】
復号ビット行出力回路5は、2次元ビタビ復号回路4における復号によって生き残ったパスに含まれる復号ビット列のうち、復号結果として適切なもの(復号対象行に対応する復号ビット行)を抽出して出力する回路である。
【0057】
復号ビットレジスタ6は、復号ビット行出力回路5から出力された復号ビット列を保持するレジスタである。
【0058】
想定波形レベル設定回路7は、復号ビットレジスタ6に保持された復号ビット列を用いて、ブランチメトリック演算回路8において使用する想定波形レベル(想定信号値)wを算出し、ブランチメトリック演算回路8に送る回路である。
【0059】
ブランチメトリック演算回路8は、2次元波形等化回路3によって波形等化された信号xに対する各ブランチ毎のブランチメトリックを、想定波形レベル設定回路7によって求められた想定波形レベルwとの2乗誤差(x−w)2として求める回路である。
【0060】
なお、ホログラムメモリ再生システム10のうち、2次元波形等化回路3、2次元ビタビ復号回路4、復号ビット行出力回路5、復号ビットレジスタ6、想定波形レベル設定回路7、及びブランチメトリック演算回路8は、ビタビ復号装置12を構成している。
【0061】
また、2次元ビタビ復号回路4はビタビ復号手段、復号ビット行出力回路5は復号ビット出力手段、復号ビットレジスタ6は復号ビット記憶手段、想定波形レベル設定回路7は想定信号値演算手段、ブランチメトリック演算回路8はブランチメトリック演算手段にそれぞれ対応している。
【0062】
図2はホログラムメモリ再生装置1における所定の応答行列hを示している。2次元ビタビ復号回路4の動作は、この応答行列hを想定したものである。そこで、この応答行列hを想定応答行列hと称する。
【0063】
また、この想定応答行列hは、ホログラムメモリ再生装置1における再生において、受光素子の受光する光の強度ではなく、当該光の振幅に基づいて想定される2次元インパルス応答行列である。なお、「2次元インパルス応答」とは、単位インパルス信号(1ビットのみの信号レベルが1であり、それ以外のビットの信号レベルが全て0であるような2次元ビット行列)を線形システムに入力したときの出力信号を意味し、「2次元インパルス応答行列」とは、この出力信号からなる行列を意味する。
【0064】
説明の簡略化のため、想定応答行列hは画素間干渉のビット幅が3の場合で説明するが、これに限るものではなく、想定応答行列としてはホログラムメモリ再生装置1の応答特性に近いものを想定すればよい。
【0065】
2次元ビタビ復号回路4の動作を表現するトレリス線図は図11で示した背景技術のものと同様である。想定応答行列hの画素間干渉のビット幅が3であり、判定帰還ビタビ復号法を適用しているため、2行2列の行列としてトレリス状態が定義されている(復号対象行の1つ上の行はフィードバック行を用いることができるため、行の幅が3−1=2となる)。2行2列(計4ビット)なのでトレリス状態数は2の4乗=16通りであり、各トレリス状態に入力するブランチ及び出力するブランチはいずれも4本である。
【0066】
図3に、ブランチの想定波形レベル(トレリス状態の遷移に対して想定される想定信号値)の一例として、トレリス状態[1,0;0,1]に入力する4本のブランチについての想定波形レベルを示す。図3の想定波形レベルは、ブランチに対応するフィードバック行が[1,0,1]であった場合について求めたものである。想定波形レベルは以下のようにして求められる。
【0067】
トレリス状態[0,1;0,0]→[1,0;0,1]のブランチが定めるビット行列は、フィードバック行[1,0,1]と合わせると[1,0,1;0,1,0;0,0,1]となる。
【0068】
図4のように、まず最初にこのビット行列と想定応答行列hとの2次元畳み込み演算を行うと、その結果の行列の中心の値0.5がこのトレリス状態の遷移において想定される光の振幅に対応する想定値として得られる。なぜなら、上記2次元畳み込み演算において用いた想定応答行列hは、上述のとおり、光の強度ではなく、当該光の振幅に基づいて想定される2次元インパルス応答行列であるからである。
【0069】
一方、CCDにて検出される信号は光の強度に対応した信号なので、光の振幅と強度の間には振幅の絶対値の2乗が強度であるという関係があることを考慮すると、光の振幅として得られた0.5を2乗した値0.25が光の強度に対応する。従って、この値0.25を想定波形レベルとして用いれば、より正確な想定波形レベルを設定することが可能となる。
【0070】
全てのブランチの想定波形レベルも同様に求めることができ、フィードバック行が[f1,f2,f3]であるとき、トレリス状態の遷移[p,q;s,t]→[q,r;t,u]に対応するブランチの想定波形レベルwは、[f1,f2,f3;p,q,r;s,t,u]とhの2次元畳み込み行列の中心の値の2乗値として計算される。このような想定波形レベルwの決定方法が、本発明の特徴である。
【0071】
従来技術のように、トレリス状態の遷移に対応するビット行列と想定応答行列hとの2次元畳み込み演算結果を2乗せずにそのまま想定波形レベルとして用いたとすると、図4のようなビット行列(この行列の外側が全て0であるとした場合)の想定波形レベルは、図4の2次元畳み込み演算結果そのものが用いられることになる。
【0072】
一方、このビット行列をCCDで検出することにより得られる再生信号は、この2次元畳み込み演算結果の要素を全て2乗したものに近い信号であるため、例えば3行目の再生波形信号のレベルは、0.0009、0.0576、0.25、0.1296、0.0036、に近い信号(実際の再生波形信号にはこれらにノイズが含まれる)となる。
【0073】
このような再生波形信号と、0.03、0.24、0.5、0.36、0.06、なる想定波形信号とはレベル比が対応しない。再生波形信号を増幅器などを用いて比例倍したとしても、2乗した値と一致させることはできない(例えば、上記5ビット分の再生波形信号の真ん中の0.25を想定波形レベルに合わせるために一律2倍に増幅しても、増幅後の再生波形信号0.0018、0.1152、0.5、0.2592、0.0072、は真ん中のビットのレベルが想定波形レベルと一致するだけで、それ以外のビットとは一致しない)。
【0074】
従って、従来技術のような想定波形レベルを用いた場合、ビタビ復号の性能が十分に得られないことになる。
【0075】
上記の説明から分かるように、ブランチの想定波形レベルはフィードバック行によって変化する。従って想定波形レベル設定回路7は、フィードバック行[f1,f2,f3]に基づいて各ブランチの想定波形レベルwを計算し、ブランチメトリック演算回路8にてブランチメトリック計算に用いる想定波形レベルwを可変設定する。
【0076】
この想定波形レベルwは、復号ビットレジスタ6から入力されたフィードバック行[f1,f2,f3]に応じて上記計算例のような計算を毎回行って設定する構成であってもよいし、予め計算された想定波形レベルをルックアップテーブルなどのメモリに記憶しておき、フィードバック行に応じて対応する値をメモリから読み出して設定する構成であってもよい。
【0077】
なお、トレリス状態の遷移[p,q;s,t]→[q,r;t,u]に対応するブランチが生き残った場合、復号ビットとして[q;t]の2ビットが決定されるが、上下左右からの波形干渉が全て考慮に入れられてビタビ復号される1行目のビットqのみが、復号ビットとして出力される。
【0078】
次に、図1に示した上記構成のホログラムメモリ再生システム10による再生動作を図5のフローチャートを用いて説明すると以下の通りである。
【0079】
ホログラムメモリ再生装置1において、ホログラム媒体(100行100列のページ情報データが記録されているものとする)に再生参照光が照射され、受光素子(100行100列のCCDアレイ)から2次元の再生波形信号が出力される動作については、背景技術において説明したとおりであるので詳細は省略する。上記出力された2次元の再生波形信号は、バッファメモリ2に記憶される(ステップS1)。
【0080】
まず、復号対象行iを1行目とし(ステップS2)、行方向のビタビ復号をj=1列目から開始する(ステップS3)。
【0081】
次に、1行1列目に対応する再生波形信号がバッファメモリ2から読み出されて、2次元波形等化回路3を介してxとしてブランチメトリック演算回路8に入力される(ステップS4)。
【0082】
ここで、2次元波形等化回路3は、再生波形信号をブランチメトリック演算回路8において想定する信号により適した信号に変換するものであり、この処理によって再生波形信号をそのままビタビ復号する構成に比べて更にエラーレートの低い復号を実現することが可能となる。したがって、エラーレートの観点からは2次元波形等化回路3を設けておくことが望ましいが、回路規模の観点から2次元波形等化回路3を省いてホログラムメモリ再生システム10を構成することもできる。
【0083】
次に、2次元ビタビ復号回路4及びブランチメトリック演算回路8は、図11のトレリス線図に基づいて行方向にビタビ復号を実行する。すなわち、入力された1行1列目の記録ビットの再生波形信号xと、対応する想定波形レベルwとの2乗誤差(x−w)2をブランチメトリックとして求め、更に各トレリス状態に至るまでに累積されたブランチメトリック、すなわちパスメトリックに基づいて生き残りパスの決定を行う(ステップS5)。
【0084】
ここで、ビタビ復号において用いられる想定波形レベルwは、ブランチ毎に定まるビット行列と復号ビットレジスタ6に記憶されたフィードバック行[f1,f2,f3]とから想定波形レベル設定回路7により求められた数値であることは前述の通りである。
【0085】
次に、2次元ビタビ復号回路4のパスメモリ長をLとすると、現在の第j列が第L列より前か後かを判定し(ステップS6)、第j列が第L列よりも後なら、復号ビット行出力回路5が、生き残りパスの第(j−L)列のトレリス状態のビット2行[q;t]のうち、1行目のビットqだけを取り出して復号ビット行として出力する(ステップS7)。
【0086】
この復号ビット行は、復号結果そのものであるが、同時に復号ビットレジスタ6にも記憶される(ステップS8)。
【0087】
以上のS4からS8までの処理を、1列ずつ行方向にずらして進めていき(ステップS9)、パスメモリ長Lの分だけ余分に、すなわち(100+L)列分の復号が終われば(ステップS10)、1行ずつ列方向にずらして(ステップS11)、100行分全ての復号ビット行が得られるまで上記S3からS11の処理を繰り返す(ステップS12)。
【0088】
このとき、1行上の復号ビット行が復号ビットレジスタ6に記憶されているので、これをフィードバック行として次の行のビタビ復号に用いる。
【0089】
以上の動作により、最終的にページデータとしての復号結果のビットマップが得られる。
【0090】
以上説明したとおり、背景技術では各ブランチの想定波形レベルを正しく決めることができず、高性能なビタビ復号を実現できなかったのに対し、本実施形態では、ブランチに繋がる2つのトレリス状態とフィードバック行とから定まるビット行列と応答行列hとの2次元畳み込み演算の2乗値に基づいて想定波形レベルをより正確に求めることができるため、ビタビ復号結果のエラーレートを更に低減する効果を得ることが可能となる。
【0091】
〔実施形態2〕
本発明の第2の実施形態について図6から図8に基づいて説明する。
【0092】
上記実施形態1においては、ホログラムメモリ再生装置1の応答特性に近いものとして図2のような所定の応答行列hを予め想定して、想定波形レベル設定回路7が想定波形レベルを求める構成としていた。本実施形態では、最初にテスト再生を行うことにより応答行列hを求めた上で、想定波形レベルを求める構成について説明する。
【0093】
図6は、本発明のビタビ復号装置及びビタビ復号方法を適用した本実施形態のホログラムメモリ再生システム11の構成を示すブロック図である。なお、ホログラムメモリ再生システム11の構成要素において、実施形態1におけるホログラムメモリ再生システム10の構成要素と同等の機能を有する構成要素については、同一の符号を付記してその説明を省略する。
【0094】
ホログラムメモリ再生システム11がホログラムメモリ再生システム10と異なっている点は、ホログラムメモリ再生システム11では、応答行列演算回路9が備えられている点と、応答行列演算回路9にて求められた応答行列hを用いて、想定波形レベル設定回路7が想定波形レベルwを決定する点である。
【0095】
なお、ホログラムメモリ再生システム11のうち、2次元波形等化回路3、2次元ビタビ復号回路4、復号ビット行出力回路5、復号ビットレジスタ6、想定波形レベル設定回路7、ブランチメトリック演算回路8、及び応答行列演算回路9は、ビタビ復号装置13を構成しており、応答行列演算回路9が応答行列演算手段に対応している。
【0096】
図6に示した上記構成のホログラムメモリ再生システム11によるテスト再生動作について、図7のフローチャートを用いて説明すると以下の通りである。
【0097】
ホログラムメモリ再生装置1に図示しないホログラム媒体が装着されると(ステップS20)、ホログラムメモリ再生装置1はまず最初に、図8のような特定パターンが予め記録された箇所にアクセスして再生参照光を照射し、2次元の再生波形信号を再生する(ステップS21)。
【0098】
図8の特定パターンは、中心ビットが1でそれ以外は全て値が0であるような単位インパルス信号であるので、再生された再生波形信号は2次元インパルス応答に相当するものである。この2次元インパルス応答が応答行列演算回路9に入力されると、各行列要素の平方根が求められて(ステップS22)、応答行列hとして想定波形レベル設定回路7に出力される(ステップS23)。
【0099】
以降の通常の再生動作は、実施形態1において図5のフローチャートで示した再生動作とほぼ同じであるため詳細な説明は省略するが、図5のステップS5において想定波形レベル設定回路7が、応答行列演算回路9で求められた応答行列hを用いて想定波形レベルを設定し、ブランチメトリックを算出する点が異なっている。
【0100】
このように、ホログラム媒体が新しく装着される毎に、2次元インパルス応答に相当する再生波形信号をテスト再生し、更にこの平方根を計算することによって応答行列hを求める構成とすることによって、所定の(予め固定された)応答行列を用いる構成に比べて、ホログラム媒体の特性の差異や再生環境の変動に応じてより適切な想定波形レベルに基づいてビタビ復号を行うことができるため、更にエラーレートの低い再生の実現が可能となる。
【0101】
但し、テスト再生を行うタイミングは、ホログラム媒体が新しく装着された時だけに限らず、一定の時間間隔で定期的に実行してもよい。それによって、再生環境の短時間の変動にも追従させることができ、信頼性がより向上する。
【0102】
なお、上記実施形態1及び2において説明したホログラムメモリ再生システム10・11では、行方向で2次元ビタビ復号を実行し、これを列方向に繰り返すことによって2次元再生信号全体を復号するビタビ復号方法を用いて説明したが、行および列の定義自体に意味はないので、行と列を入れ替えた構成であっても構わないことはもちろんである。
【0103】
また、説明で用いた上下、左右の関係にも意味はなく、上と下、左と右を入れ替えた構成であっても当然構わない。更に言えば、本発明はメトリックの演算に用いる想定波形レベルの決定方法に関するものであるため、メトリック演算を行う限りにおいて、その効果はビタビ復号の方式によらず得られるものである。
【0104】
また、上記実施形態1及び2では、再生システムの例としてホログラムメモリシステムについて説明したが、再生システムはこれに限らず、2次元信号の再生を行うシステムにおいて等しくその効果を発揮することができる。すなわち、他の再生システムとしてQRコードに代表される2次元バーコード再生システムなどにも本発明を適用することができる。
【0105】
また、上記実施形態1及び2において説明したホログラムメモリ再生システム10・11の各ブロックは、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにコンピュータを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0106】
すなわち、復号装置(図1のホログラムメモリ再生システム10、あるいは図6のホログラムメモリ再生システム11のうち、ホログラムメモリ再生装置1及びバッファメモリ2を除いた装置)は、この装置の各機能を実現するビタビ復号プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、上記プログラムを格納したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置などを備えたコンピュータによって実現することもできる。
【0107】
つまり、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである復号プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、コンピュータに供給し、そのコンピュータが記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても達成可能である。
【0108】
このように本明細書において、手段とは必ずしも物理的手段を意味するものではなく、各手段の機能がソフトウェアによって実現される場合も含む。さらに、1つの手段の機能が2つ以上の物理的手段により実現されても、もしくは2つ以上の手段の機能が1つの物理的手段により実現されてもよい。
【0109】
本発明の特徴は、次のように表現することもできる。すなわち、本発明に係るビタビ復号装置は、ページデータの2次元再生信号をビタビ復号を用いて再生する装置であって、トレリス状態の遷移について想定される想定信号値に対する再生信号の誤差を求めるメトリック演算手段と、前記誤差に基づいてビタビ復号を行うビタビ復号手段とを備え、前記メトリック演算手段は、トレリス状態の遷移により定まるビット行列と所定の応答行列との2次元畳み込みの2乗値に基づいて求めた前記想定信号値を用いる構成である。
【0110】
また、本発明に係るビタビ復号装置は、上記ビタビ復号装置において、前記ビタビ復号の結果生き残ったパスのうち、復号対象行に対応する復号ビット行を復号結果として出力する復号ビット出力手段と、直前の復号対象行に関して前記復号ビット出力手段が出力した復号ビット行を記憶する復号ビット記憶手段と、トレリス状態の遷移と前記復号ビット記憶手段が記憶する復号ビット行とから定まるビット行列と所定の応答行列との2次元畳み込みの2乗値に基づいて前記想定信号値を求める想定信号値演算手段とを備えるように構成することもできる。
【0111】
また、本発明に係るビタビ復号装置は、上記ビタビ復号装置において、所定の1ビットのみ値が1で、それ以外のビットは全て値が0であるような単位インパルス信号に相当するビット行列のテスト再生信号を生成するテスト再生手段と、前記テスト再生手段にて生成されたテスト再生信号の平方根を求めて前記所定の応答行列とする応答行列演算手段とをさらに備えていてもよい。
【0112】
また、本発明に係るビタビ復号方法は、ページデータの2次元再生信号をビタビ復号する方法において、トレリス状態の遷移について想定される想定信号値に対する再生信号の誤差を求めるメトリック演算処理と、前記誤差に基づいてビタビ復号を行うビタビ復号処理とを含み、前記メトリック演算処理は、トレリス状態の遷移により定まるビット行列と所定の応答行列との2次元畳み込みの2乗値に基づいて求めた前記想定信号値を用いる方法である。
【0113】
また、本発明に係るビタビ復号方法は、上記ビタビ復号方法において、所定の1ビットのみ値が1で、それ以外のビットは全て値が0であるようなテスト用ビット行列が記録された記録媒体から、単位インパルス信号に相当するテスト再生信号を生成するテスト再生処理と、前記テスト再生処理にて生成されたテスト再生信号の平方根を求めて前記所定の応答行列とする応答行列演算処理とをさらに含んでいてもよい。
【0114】
本発明に係るビタビ復号装置又はビタビ復号方法によれば、各ブランチの想定波形レベルを正しく設定することができるので、高性能なビタビ復号を実現することができ、エラーレートの低い再生が可能となる。
【0115】
また、テスト再生信号を用いてインパルス応答に相当する応答行列を決定し、想定波形レベルを求める構成とすることによって、個々のホログラムメモリ媒体および再生環境により適した想定波形レベルを用いることができるため、エラーレートを更に低く改善することが可能となる。
【0116】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
2次元信号に対してエラーレートの低い復号を可能とする本発明は、2次元信号を再生するホログラムメモリ再生装置や、QRコードに代表される2次元バーコード再生装置などに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明の第1の実施形態におけるホログラムメモリ再生システムの構成を示すブロック図である。
【図2】図1のホログラムメモリ再生システムにおける応答行列の1例を示す図である。
【図3】図1のホログラムメモリ再生システムでのブランチに対応する想定波形レベルの1例を示す図である。
【図4】図3の想定波形レベルを求めるための2次元畳み込み演算の1例を説明する図である。
【図5】図1のホログラムメモリ再生システムの再生動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第2の実施形態におけるホログラムメモリ再生システムの構成を示すブロック図である。
【図7】図6のホログラムメモリ再生システムの再生動作を示すフローチャートである。
【図8】図6のホログラムメモリ再生システムのテスト再生に用いる単位インパルス信号を示す図である。
【図9】従来のホログラムメモリ記録再生装置の構成を示すブロック図である。
【図10】従来のホログラムメモリ再生システムの想定インパルス応答を示す図である。
【図11】従来の判定帰還ビタビ復号法を表現するトレリス線図である。
【符号の説明】
【0119】
1 ホログラムメモリ再生装置(再生装置)
2 バッファメモリ
3 2次元波形等化回路
4 2次元ビタビ復号回路(ビタビ復号手段)
5 復号ビット行出力回路(復号ビット出力手段)
6 復号ビットレジスタ(復号ビット記憶手段)
7 想定波形レベル設定回路(想定信号値設定手段)
8 ブランチメトリック演算回路(ブランチメトリック演算手段)
9 応答行列演算回路(応答行列演算手段)
10 ホログラムメモリ再生システム
11 ホログラムメモリ再生システム
12 ビタビ復号装置
13 ビタビ復号装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ページデータを光学的に再生することにより得られ、光の強度に応じた信号値を示す2次元再生信号をビタビ復号するビタビ復号装置において、
前記2次元再生信号に対応するトレリス状態の遷移と、前記2次元再生信号とに基づいて、前記遷移のブランチメトリックを求めるブランチメトリック演算手段と、
前記ブランチメトリックに基づいてビタビ復号を行うビタビ復号手段とを備え、
光の振幅に基づいて想定される前記トレリス状態の遷移の想定値を想定振幅値とすると、
前記ブランチメトリック演算手段は、前記想定振幅値の2乗値に応じた想定信号値を用いてブランチメトリックを求めることを特徴とするビタビ復号装置。
【請求項2】
前記ビタビ復号手段は、前記ページデータにおける復号対象行を含む複数行に対するビタビ復号を行うものであり、
前記ビタビ復号手段により行われたビタビ復号の結果生き残ったパスのうち、復号対象行に対応する復号ビット行を復号結果として出力する復号ビット出力手段と、
直前の復号対象行に関して前記復号ビット出力手段が出力した復号ビット行を記憶する復号ビット記憶手段と、
トレリス状態の遷移と前記復号ビット記憶手段から出力された復号ビット行とから定まるビット行列と、前記再生において光の振幅として想定される2次元インパルス応答行列との2次元畳み込み演算により前記想定振幅値を算出して前記想定信号値を求める想定信号値演算手段とをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のビタビ復号装置。
【請求項3】
単位インパルス信号に相当するビット行列を再生することにより得られた2次元再生信号の平方根を求めて前記2次元インパルス応答行列を生成する応答行列演算手段をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載のビタビ復号装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載のビタビ復号装置と、
ページデータを光学的に再生することにより前記2次元再生信号を得る再生装置とを備えることを特徴とする再生システム。
【請求項5】
ページデータを光学的に再生することにより得られ、光の強度に応じた信号値を示す2次元再生信号をビタビ復号するビタビ復号方法において、
前記2次元再生信号に対応するトレリス状態の遷移と、前記2次元再生信号とに基づいて、前記遷移のブランチメトリックを求めるブランチメトリック演算処理と、
前記ブランチメトリックに基づいてビタビ復号を行うビタビ復号処理とを備え、
光の振幅に基づいて想定される前記トレリス状態の遷移の想定値を想定振幅値とすると、
前記ブランチメトリック演算処理では、前記想定振幅値の2乗値に応じた想定信号値を用いてブランチメトリックを求めることを特徴とするビタビ復号方法。
【請求項6】
請求項1から3の何れか1項に記載のビタビ復号装置としてコンピュータを動作させるために、コンピュータを前記各手段として機能させるためのビタビ復号プログラム。
【請求項7】
請求項6に記載のビタビ復号プログラムを記載したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項1】
ページデータを光学的に再生することにより得られ、光の強度に応じた信号値を示す2次元再生信号をビタビ復号するビタビ復号装置において、
前記2次元再生信号に対応するトレリス状態の遷移と、前記2次元再生信号とに基づいて、前記遷移のブランチメトリックを求めるブランチメトリック演算手段と、
前記ブランチメトリックに基づいてビタビ復号を行うビタビ復号手段とを備え、
光の振幅に基づいて想定される前記トレリス状態の遷移の想定値を想定振幅値とすると、
前記ブランチメトリック演算手段は、前記想定振幅値の2乗値に応じた想定信号値を用いてブランチメトリックを求めることを特徴とするビタビ復号装置。
【請求項2】
前記ビタビ復号手段は、前記ページデータにおける復号対象行を含む複数行に対するビタビ復号を行うものであり、
前記ビタビ復号手段により行われたビタビ復号の結果生き残ったパスのうち、復号対象行に対応する復号ビット行を復号結果として出力する復号ビット出力手段と、
直前の復号対象行に関して前記復号ビット出力手段が出力した復号ビット行を記憶する復号ビット記憶手段と、
トレリス状態の遷移と前記復号ビット記憶手段から出力された復号ビット行とから定まるビット行列と、前記再生において光の振幅として想定される2次元インパルス応答行列との2次元畳み込み演算により前記想定振幅値を算出して前記想定信号値を求める想定信号値演算手段とをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のビタビ復号装置。
【請求項3】
単位インパルス信号に相当するビット行列を再生することにより得られた2次元再生信号の平方根を求めて前記2次元インパルス応答行列を生成する応答行列演算手段をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載のビタビ復号装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載のビタビ復号装置と、
ページデータを光学的に再生することにより前記2次元再生信号を得る再生装置とを備えることを特徴とする再生システム。
【請求項5】
ページデータを光学的に再生することにより得られ、光の強度に応じた信号値を示す2次元再生信号をビタビ復号するビタビ復号方法において、
前記2次元再生信号に対応するトレリス状態の遷移と、前記2次元再生信号とに基づいて、前記遷移のブランチメトリックを求めるブランチメトリック演算処理と、
前記ブランチメトリックに基づいてビタビ復号を行うビタビ復号処理とを備え、
光の振幅に基づいて想定される前記トレリス状態の遷移の想定値を想定振幅値とすると、
前記ブランチメトリック演算処理では、前記想定振幅値の2乗値に応じた想定信号値を用いてブランチメトリックを求めることを特徴とするビタビ復号方法。
【請求項6】
請求項1から3の何れか1項に記載のビタビ復号装置としてコンピュータを動作させるために、コンピュータを前記各手段として機能させるためのビタビ復号プログラム。
【請求項7】
請求項6に記載のビタビ復号プログラムを記載したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−188617(P2007−188617A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−8012(P2006−8012)
【出願日】平成18年1月16日(2006.1.16)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年1月16日(2006.1.16)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
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