説明

ビタミンA類を含有する水性組成物

【課題】本発明の目的は、ビタミンA類と、アルギン酸及び/又はその塩とを含有していながら、ビタミンA類が安定化されており、しかも粘度の経時的安定性も優れている水性組成物を提供することである。
【解決手段】(A)ビタミンA類、(B)アルギン酸及び/又はその塩、及び(C)ビタミンE類を組み合わせて配合して、水性組成物を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビタミンA類を含む水性組成物において、アルギン酸及び/又はその塩と、ビタミンE類を同時に配合することによりビタミンA類の安定性が改善され、該組成物の粘度の安定性が改善され、同時に該組成物のゲル化特性が安定に保たれ、ひいてはビタミンA類及びビタミンE類に基づく生理活性作用を効果的に享受できる水性組成物に関する。更に、本発明は、ビタミンA類を安定化させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンA類は疲れ目の回復作用等を有しており、眼科分野で使用されている。しかしながら、ビタミンA類は、紫外線、酸素、高温等に対して不安定化され易いため、ビタミンA類を水性組成物に配合して製品化するためには、ビタミンA類の安定性を改善することが必要とされる。従来、ビタミンA類の安定化には、トコフェロール等の抗酸化剤の使用が有効であることが報告されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、抗酸化剤のみによるビタミンA類の安定化方法では、その効果は十分なものとはいえず、ビタミンA類の作用を安定且つ効果的に獲得できる製品を開発するためには、ビタミンA類の安定性をより一層向上させることが必要とされている。
【0003】
一方、アルギン酸は、Ca2+イオン等の二価以上の陽イオンによって部分的に架橋されてゲル化(高粘度化)する作用を有しており、眼科分野で使用可能な成分であることが既に知られている(例えば、特許文献2参照)。アルギン酸を含む水性組成物を眼に適用すると、眼粘膜に存在するCa2+イオンとアルギン酸が接触することにより、眼粘膜上で該組成物がゲル化(高粘度化)し、眼粘膜上での該組成物の滞留性を高めたり、有効成分の効果を持続させるために有用であることも分かっている。その反面、アルギン酸は、水性組成物中で経時的に低分子化する傾向がある。そのため、アルギン酸を含有する水性組成物においては、組成物の粘度が経時的に低下し、製剤設計上、長期にわたり粘度を安定に保持できないという問題があった。また一方で、アルギン酸が低分子化し、これを含有する水性組成物の粘度が経時的に低下することで、アルギン酸が保有する高粘度化特性(ゲル化特性)が損なわれ、その結果適用部位において組成物の安定したゲル化ができなくなり、ひいては適用部位において所望の製剤特性を発揮できないという問題もあった。
【0004】
従来の技術では、抗酸化剤により付与されたビタミンA類の安定性を一層向上させる手段、及びアルギン酸を含む水性組成物の粘度の経時的安定化を図る手段は知られておらず、ましてや、ビタミンA類とアルギン酸の双方を含有したとき、ビタミンA類の安定化と該組成物の粘度の安定化を同時に実現する手段については、一切分かっていない。
【特許文献1】特開平5−17350号公報
【特許文献2】特開2002−332248号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ビタミンA類を含有する水性組成物であって、ビタミンA類が安定化されており、しかも該組成物の粘度の経時的安定性も優れている水性組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、(A)ビタミンA類、(B)アルギン酸及び/又はその塩、及び(C)ビタミンE類を組み合わせて配合することによって、ビタミンA類の経時的安定性、並びに該水性組成物の粘度の経時的安定性を兼ね備え得ることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて更に改良を重ねることにより完成したものである。
【0007】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の組成物及び方法を提供する:
項1. 次の(A)〜(C)成分を含有することを特徴とする、水性組成物:
(A)ビタミンA類、
(B)アルギン酸及び/又はその塩、
(C)ビタミンE類。
項2. (A)成分1万単位(国際単位)に対して、(B)成分が0.00001〜5g、且つ(C)成分が0.00001〜0.5gの比率で含まれる項1に記載の水性組成物。
項3. 眼科用組成物である、項1又は2に記載の水性組成物。
項4. (A)ビタミンA類を含有する水性組成物に、(B)アルギン酸及び/又はその塩、及び(C)ビタミンE類を配合することを特徴とする、ビタミンA類の安定化方法。
項5. (B)アルギン酸及び/又はその塩を含有する水性組成物に、(A)ビタミンA類及び(C)ビタミンE類を配合することを特徴とする、該水性組成物の粘度の安定化方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水性組成物は、(A)ビタミンA類、(B)アルギン酸及び/又はその塩、及び(C)ビタミンE類を組み合わせて含有することによって、ビタミンA類の安定性と水性組成物の粘度の経時的安定性が共に改善されている。従って、本発明の水性組成物によれば、長期間保存しても、製造直後の成分濃度や物性を安定に保持し、有効成分の効果や使用感を安定に保つことができる。
【0009】
更に、本発明の水性組成物は、アルギン酸及び/又はその塩を含有しており、該成分の低分子化が抑制されていることから、該成分に基づいて、眼粘膜等の適用部位に存在するCa2+イオンと接触してゲル化する性質をより安定して備えている。このような本発明の水性組成物のゲル化特性は、適用部位での滞留性を向上させ、ひいてはビタミンA類及びビタミンE類に基づく生理活性作用の持続性の向上をもたらす。更に、本発明の水性組成物中のビタミンA類は、安定化されていることに加え、該組成物の安定したゲル化特性により適用部位での滞留性も向上している。かかる有用作用に基づいて、本発明の水性組成物によれば、ビタミンA類の生理活性作用をより効果的に享受することが可能である。
【0010】
従って、本発明の水性組成物によれば、ビタミンA類の安定性と該組成物の粘度の安定性が改善され、該組成物のゲル化特性が安定に保たれ、ひいてはビタミンA類及びビタミンE類に基づく生理活性作用を効果的に享受することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。尚、本明細書において、水性組成物とは水を含有する組成物のことである。該水性組成物として、例えば、組成物100重量部当たり、水を1重量部以上、好ましくは5重量部以上、より好ましくは20重量部以上、更に好ましくは50重量部以上、特に好ましくは80重量部以上、更に特に好ましくは90重量部以上含有するものが例示される。
【0012】
(I)水性組成物
本発明の水性組成物は、(A)ビタミンA類(本明細書において、単に(A)成分と表記することもある)を含有する。
【0013】
本発明に使用されるビタミンA類については、薬理学的に又は生理学的に許容されることを限度として特に限定されないが、具体例として、レチノール(ビタミンA1);3‐デヒドロレチノール(ビタミンA2);これらの誘導体(例えば、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール等)等が挙げられる。これらの中で好ましくは、酢酸レチノール及びパルミチン酸レチノールである。本発明において、上記ビタミンA類は、1種単独で使用しても、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0014】
本発明の水性組成物における上記(A)成分の配合割合は、特に制限されるものではなく、該(A)成分の種類、該組成物の用途や形態等に応じて適宜設定できる。上記(A)成分の配合割合の一例として、水性組成物中に、該組成物の総量に対して、該(A)成分が総量で50〜500000単位/100mL、好ましくは100〜200000単位/100mL;例えば水性組成物が点眼剤であれば、更に好ましくは1000〜100000単位/100mL、特に好ましくは5000〜50000単位/100mL;例えば水性組成物が洗眼剤であれば、更に好ましくは100〜10000単位/100mL、特に好ましくは500〜5000単位/100mLとなる割合が例示される。なお、本明細書において、上記(A)成分に関する「単位」とは、国際単位(I.U.)である。
【0015】
本発明の水性組成物は、更に(B)アルギン酸及び/又はその塩(本明細書において、単に(B)成分と表記することもある)を含有する。
【0016】
アルギン酸とは、マンヌロン酸(以下、単に「M」と表示することもある)とグルロン酸(以下、単に「G」と表示することもある)から構成される多糖類であり、マンヌロン酸のホモポリマー画分(MM画分)、グルロン酸のホモポリマー画分(GG画分)、及びマンヌロン酸とグルロン酸がランダムに配列した画分(MG画分)が任意に結合したブロック共重合体である。
【0017】
本発明において使用されるアルギン酸の由来については、特に限定されるものではなく、例えば、レッソニア科(Lessonia nigrescens等)、コンブ科(Laminaria Japonica等)等の藻類由来のものが使用される。
【0018】
本発明に使用されるアルギン酸において、そのグルロン酸に対するマンヌロン酸の構成比率(M/G比;モル比)については、特に制限されず、例えばM/G比が0.4〜4.0の範囲に含まれるものが広く使用される。M/G比が小さい程、組成物のゲル化が開始し易い傾向があり、配合される他の薬理活性成分の適用部位における滞留性を向上させるという観点からは、M/G比が2.5以下、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.6以下であることが望ましい。特に、M/G比が、好ましくは0.4〜2.0、より好ましくは0.5〜1.6、特に好ましくは1.0〜1.6の範囲に含まれるものを使用することが望ましい。なお、本発明において、M/G比は、アルギン酸をブロック単位で分解したものを分画し、それぞれを定量することにより算出される値であり、具体的には、A. Haug et al., Carbohyd. Res. 32(1974), p.217-225に記載の方法に従って測定される。
【0019】
また、本発明に使用されるアルギン酸において、MM画分、GG画分及びMG画分の比率についても、特に制限されず、水性組成物の用途や形状に応じて適宜選択することができる。
【0020】
また、本発明で使用されるアルギン酸は、低分子量のものから高分子量のものまで適宜使用することができる。
【0021】
更に、アルギン酸の塩としては、薬理学的に又は生理学的に許容されることを限度として、特に制限されるものではない。アルギン酸の塩として、具体的には、ナトリウム塩、カリウム塩、トリエタノールアミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。これらのアルギン酸の塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0022】
本発明の水性組成物には、これらのアルギン酸及びその塩の中から、一種を選択して単独で使用してもよく、二種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。特に、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウムは水溶性であり、本発明において好適に使用される。
【0023】
アルギン酸及びその塩は、紀文フードケミファ株式会社、株式会社キミカ、富士化学工業株式会社、Kelco社(UK)、Sigma社(US)、PRONOVA biopolymer社(NO)等から市販されており、本発明では、これらの市販品を使用することができる。
【0024】
本発明の水性組成物における上記(B)成分の配合割合は、特に制限されるものではなく、該(B)成分の種類、該組成物の用途や形態等に応じて適宜設定できる。上記(B)成分の配合割合の一例として、水性組成物中に、該組成物の総量に対して、該(B)成分が総量で0.001〜5w/v%、好ましくは0.001〜1 w/v%;例えば水性組成物が点眼剤であれば、更に好ましくは0.001〜0.5w/v%、特に好ましくは0.005〜0.2w/v%;例えば水性組成物が洗眼剤であれば、更に好ましくは0.001〜0.2w/v%、特に好ましくは0.005〜0.1w/v%となる割合が例示される。
【0025】
更に、本発明の水性組成物は、上記(A)及び(B)成分に加えて、(C)ビタミンE類を含有する。水性組成物において、上記(A)〜(C)成分を一体不可分として含有することによって、ビタミンA類の安定化を一層良好にすると同時に、水性組成物の粘度の経時的安定性をも改善することが可能になる。
【0026】
本発明に使用されるビタミンE類は、薬理学的に又は生理学的に許容される限り、特に制限されるものではないが、具体例として、α-, β-, γ-,又はδ-トコフェロール;α-, β-, γ-,又はδ-トコトリエノール;これら誘導体(例えば、酢酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール、コハク酸トコフェロール);ビタミンEリノレート等が挙げられる。上記トコフェロール及びトコトリエノールは、d体(天然ビタミンE等)又はdl体の別を問わず使用できる。これらの中で、好ましくは、酢酸トコフェロールである。本発明において、上記ビタミンE類は、1種単独で使用しても、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
本発明の水性組成物における上記(C)成分の配合割合は、特に制限されるものではなく、該(C)成分の種類、該組成物の用途や形態等に応じて適宜設定できる。上記(C)成分の配合割合の一例として、水性組成物中に、該組成物の総量に対して、該(C)成分が総量で0.00005〜1w/v%、好ましくは0.0001〜0.5w/v%;例えば水性組成物が点眼剤であれば、更に好ましくは0.001〜0.1w/v%、特に好ましくは0.005〜0.05w/v%;例えば水性組成物が洗眼剤であれば、更に好ましくは0.0001〜0.01 w/v%、特に好ましくは0.0005〜0.005 w/v%となる割合が例示される。
【0028】
本発明の水性組成物において、ビタミンA類の安定性及び該水性組成物の粘度の経時的安定性をより一層効果的に獲得し、ひいては組成物のゲル化特性を安定に保ち、ビタミンA類及びビタミンE類に基づく生理活性作用を一層効果的に享受するためには、上記(A)〜(C)成分が以下に示す配合比を充足しておくことが望ましい。
(A)成分1万単位に対して、(B)成分が0.00001〜5g且つ(C)成分が0.00001〜0.5g、好ましくは(B)成分が0.0001〜5g且つ(C)成分が0.0001〜0.5g、更に好ましくは(B)成分が0.001〜5g且つ(C)成分が0.001〜0.5g、特に好ましくは、(B)成分が0.001〜2g且つ(C)成分が0.001〜0.1g。
【0029】
本発明の水性組成物の粘度についても、特に制限されるものではないが、水性組成物の皮膚、鼻粘膜、眼粘膜上等での滞留性、点眼剤の場合には点眼のし易さ等を向上させるという観点から、1.2〜100mPa・s、好ましくは1.3〜50mPa・s、更に好ましくは1.4〜30mPa・s、特に好ましくは1.5〜15 mPa・s、更に特に好ましくは1.6〜10mPa・sの範囲を満たしていることが望ましい。上記粘度は、第十四改正日本薬局法 一般試験法、45.粘度測定法、第2法回転粘度計法、「(3)円すい−平板形回転粘度計」の項に記載の方法に従って測定される。より具体的な粘度の測定条件は、以下の通りである。
【0030】
粘度の測定においては、市販の粘度計、例えば、E 型粘度計[トキメック(TOKIMEC)製、東機産業(日本)から販売]、E 型粘度計「DIGITAL VISCOMETER DVM−E」(東京計器製)、シンクローレクトリックPC型(ブルックフィールド、米)、フェランティシャーリー(フェランティ、英)、ロートビスコR(ハーケ、独)、IGKハイシャーレオメーター(石田技研、日本)、島津レオメーターR(島津製作所、日本)、ワイセンベルグレオゴニオメーター(サンガモ、英)、メカニカルスペクトロメーター(レオメトリックス、米)等を利用できる。そして、これらの市販の粘度計とローターを適宜選択し、披検試料測定毎にJIS Z8809により規定されている石油系の炭化水素油(ニュートン流体)を校正用標準液として適宜調整することにより、20℃における粘度を測定することができる。
【0031】
より具体的には、図1に示すように、円すい1と平円板2との間の角度αの隙間に試料を入れ、円すい1又は平円板2を一定の角速度ω若しくはトルクTで回転させ、定常状態に達したときの平円板2又は円すい1が受けるトルク若しくは角速度を測定し、試料の粘度ηを次式により算出することによって粘度を測定した。
η =100×(3α/2πR)・(T/ω)
η :試料の粘度(mPa・s)(Pa・s= 10mPa・s)
α :平円板2と円すい1がなす角度(rad)
π :円周率
R : 円すい1の半径(cm)
T : 平円板2又は円すい1面に作用するトルク(10−7N・m)
ω : 角速度(rad/s)。
【0032】
また、本発明の水性組成物には、更に緩衝剤を配合することが好ましい。本発明の水性組成物に配合できる緩衝剤としては、薬理学的に又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる緩衝剤の一例として、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、イプシロン−アミノカプロン酸等が挙げられる。これらの緩衝剤は組み合わせて使用しても良い。好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤及びクエン酸緩衝剤である。本発明の効果を一層顕著ならしめるために特に好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤またはリン酸緩衝剤である。ホウ酸緩衝剤としては、ホウ酸アルカリ金属塩、ホウ酸アルカリ土類金属塩などのホウ酸塩が挙げられる。リン酸緩衝剤としては、リン酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ土類金属塩などのリン酸塩が挙げられる。クエン酸緩衝剤としては、クエン酸アルカリ金属塩、クエン酸アルカリ土類金属塩などのクエン酸塩が挙げられる。より具体的な例として、ホウ酸又はその塩(ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂など)又はそれらの水和物、リン酸又はその塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウムなど)又はそれらの水和物、炭酸又はその塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウムなど)又はそれらの水和物、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウムなど)又はそれらの水和物、酢酸又はその塩(酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウムなど)又はそれらの水和物等が例示できる。これらの緩衝剤は1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0033】
本発明の水性組成物に緩衝剤を配合する場合、該緩衝剤の配合割合については、使用する緩衝剤の種類や期待される効果等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、該組成物の総重量に対して該緩衝剤が0.001〜10w/v%、好ましくは0.1〜5w/v%程度となるような割合を挙げることができる。より具体的には、水性組成物中の緩衝剤の割合が、ホウ酸緩衝剤又はリン酸緩衝剤を用いる場合であれば、例えば0.001〜10w/v%、好ましくは0.01〜5w/v%程度;炭酸緩衝剤を用いる場合であれば、例えば0.001〜5w/v%、好ましくは0.005〜3w/v%程度;クエン酸緩衝剤を用いる場合であれば、例えば0.001〜5w/v%、好ましくは0.005〜3w/v%程度;酢酸緩衝剤を用いる場合であれば、例えば0.001〜5w/v%、好ましくは0.005〜3w/v%程度;イプシロン−アミノカプロン酸を用いる場合であれば、例えば0.005〜10w/v%、好ましくは0.01〜5w/v%程度となるような割合が例示される。
【0034】
更に、本発明の効果を一層顕著ならしめるために、本発明の水性組成物は、非イオン性界面活性剤を含有する事が好ましい。
【0035】
非イオン性界面活性剤としては、ポロクサマー407、ポロクサマー235、ポロクサマー188、ポロクサマー403、ポロクサマー237、ポロクサマー124等のPOE・POPブロックコポリマー;モノラウリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノパルミチン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート40)、モノステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート60)、トリステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート65)、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80)、等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類;POE(60)硬化ヒマシ油等のPOE硬化ヒマシ油;POE(9)ラウリルエーテル等のPOEアルキルエーテル類;POE(20)POP(4) セチルエーテル等のPOE・POPアルキルエーテル類;POE(10)ノニルフェニルエーテル等のPOEアルキルフェニルエーテル類等が挙げられる。好ましくは、ポロクサマー407、ポリソルベート80、POE(60)硬化ヒマシ油であり、これらの中でも特に好ましくはポリソルベート80である。尚、POEはポリオキシエチレン、POPはポリオキシプロピレンの略である。また、括弧内の数字は付加モル数を示す。
【0036】
本発明の水性組成物において、上記非イオン性界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
本発明の水性組成物中の非イオン性界面活性剤の配合割合は、特に制限されるものではなく、該剤の種類、該組成物の用途や形態等に応じて適宜設定できる。非イオン性界面活性剤の配合割合の一例として、水性組成物の総量当たり、0.0001〜1.0w/v%、好ましくは0.0005〜1.0w/v%、更に好ましくは0.001〜0.5w/v%が例示される。より具体的には、水性組成物が点眼剤であれば、非イオン性界面活性剤の配合割合が、特に好ましくは0.01〜0.5w/v%、更に特に好ましくは0.05〜0.3w/v%;水性組成物が洗眼剤であれば、非イオン性界面活性剤の配合割合が、特に好ましくは0.001〜0.05w/v%、更に特に好ましくは0.005〜0.03w/v%が例示される。
【0038】
本発明の水性組成物は、液状若しくはゲル状、好ましくは液状であり、該組成物の基剤として、眼科的に許容される水、好ましくは精製水や超純水が使用される。
【0039】
本発明の水性組成物のpHについては、薬理学的に又は生理学的に許容できる範囲内であれば特に限定されるものではない。本発明の水性組成物のpHの一例として5〜9、好ましくは5.5〜8.5、更に好ましくは6〜8となる範囲を挙げることができる。また、上記pH範囲内であれば、眼やレンズに適用しても安全であり、眼科用の水性組成物として有用である。
【0040】
本発明の水性組成物は、更に必要に応じて、生体に許容される範囲内の浸透圧比に調節することができる。適切な浸透圧比は該組成物の用途や形態等により異なるが、通常0.2〜2.5、好ましくは0.3〜1.7、更に好ましくは0.4〜1.6、より好ましくは0.5〜1.5、特に好ましくは0.6〜1.4程度である。
【0041】
本発明の水性組成物において浸透圧比は、第十四改正日本薬局方に基づき0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液の浸透圧に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)に準じて測定する。浸透圧比測定用標準液は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500〜650℃で40〜50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム含有水溶液)を用いる。
【0042】
上記pH及び浸透圧比の調整は無機塩及び多価アルコール、糖アルコール、糖類などを用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。
【0043】
本発明の水性組成物は、本発明の効果を妨げないことを限度として、上記成分の他に、種々の成分(薬理活性成分や生理活性成分を含む)を組み合わせて含有することができる。前述するように、本発明の水性組成物は、適用部位におけるゲル化特性が安定に保たれているので、本発明の眼科用組成物に薬理活性成分や生理活性成分を配合すると、これらの成分の適用部位での滞留性の向上、ひいてはこれらの成分の薬理活性作用や生理活性作用を効果的に享受することも期待できる。このような成分の種類は特に制限されず、例えば、一般用医薬品製造(輸入)承認基準2000年版(薬事審査研究会監修)に記載された各種医薬における有効成分が例示できる。具体的に、眼科用薬において用いられる成分としては、次のような成分が挙げられる。
【0044】
エピネフリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、塩酸フェニレフリン、塩酸メチルエフェドリン、硝酸ナファゾリン、メチル硫酸ネオスチグミン、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛、アラントイン、イプシロン−アミノカプロン酸、塩化リゾチーム、アズレンスルホン酸ナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、塩化ベルベリン、硫酸ベルベリン、塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸ピリドキシン、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、パンテノール、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸マグネシウム・カリウム、アミノエチルスルホン酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム、スルファメトキサゾール、スルフイソキサゾール、スルファメトキサゾールナトリウム、スルフイソミジンナトリウム、グルコース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール(完全又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン等。
【0045】
更に、本発明の水性組成物を各種所望の形態に調製するために、本発明の効果を損なわない範囲で、常法に従い、様々な成分や添加物を適宜選択し、一種またはそれ以上を併用して配合することができる。それらの成分または添加物として、例えば、医薬品添加物事典2005(日本医薬品添加剤協会編集)に記載された各種添加物が例示できる。代表的な成分として次の添加物が挙げられる。
【0046】
マクロゴール、アルキルジアミノエチルグリシン、塩化ベンザルコニウム、パラベン類、ソルビン酸カリウム、ポリヘキサメチレンビグアニド、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、グリセリン、プロピレングリコール、カンフル、ゲラニオール、ボルネオール、メントール、ウイキョウ油、クールミント油、スペアミント油、ペパーミント油、ベルガモット油、ユーカリ油、ローズ油、エデト酸ナトリウム、クエン酸、トロメタモール等。
【0047】
本発明の水性組成物は、点鼻剤や洗鼻剤等として処方することもできるが、眼科用組成物として好適に使用される。眼科用組成物として、具体的には、点眼剤(コンタクトレンズを装着したまま使用可能な点眼剤を含む)、洗眼剤(コンタクトレンズを装着したまま使用可能な洗眼剤を含む)、コンタクトレンズケア用液剤(コンタクトレンズ消毒液、コンタクトレンズ用保存液、コンタクトレンズ用洗浄液、及びコンタクトレンズ用洗浄保存液)等の形態で使用される。これらの形態の中でも、好ましくは点眼剤及び洗眼剤であり、特に好ましくは点眼剤である。
【0048】
本発明の水性組成物は、公知の方法に従って製造される。例えば、精製水、生理食塩水等の水性溶媒等に、上記(A)〜(C)成分、必要に応じて他の成分を所望の濃度となるように添加し、常法に準じて調製すればよい。
【0049】
(II) ビタミンA類の安定化方法
また、前述するように、ビタミンA類を含む水性組成物に、アルギン酸及び/又はその塩と、ビタミンE類を組み合わせて配合することによって、ビタミンA類の安定化が可能になる。従って、更に本発明は、(A)ビタミンA類を含有する水性組成物に、(B)アルギン酸及び/又はその塩、及び(C)ビタミンE類を配合することを特徴とする、ビタミンA類の安定化方法をも提供する。当該方法において、(A)〜(C)成分の種類や配合割合、その他の配合成分等については、前記(I)の水性組成物の欄に記載の通りである。
【0050】
(III) アルギン酸及び/又はその塩を含む水性組成物の粘度安定化方法
更に、前述するように、アルギン酸及び/又はその塩を含む水性組成物に、ビタミンA類及びビタミンE類を配合することによって、該水性組成物の粘度の経時的安定性を向上させることが可能になる。従って、更に本発明は、(B)アルギン酸及び/又はその塩を含有する水性組成物に、(A)ビタミンA類及び(C)ビタミンE類を配合することを特徴とする、該水性組成物の粘度の安定化方法をも提供する。当該方法においても、(A)〜(C)成分の種類や配合割合、その他の配合成分等については、前記(I)の水性組成物の欄の内容を援用できる。
【実施例】
【0051】
以下に、試験例、実施例等に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、以下で使用したアルギン酸は、M/G比の規格が1.0〜1.6のLessonia nigrescens由来のものである。
【0052】
試験例1 パルミチン酸レチノールの安定性の評価−1
表1に記載の処方に従い、パルミチン酸レチノール含有水溶液(実施例1及び比較例1−3)を調製した。各々のパルミチン酸レチノール含有水溶液を濾過後、ガラスアンプル(容量10mL)に8mLずつ充填し、60℃で1日間、暗所で保存した(n=2)。保存開始前及び保存1日後に、パルミチン酸レチノール含有水溶液中のパルミチン酸レチノール濃度をHPLCにより測定し、下記式に従ってパルミチン酸レチノール残存率を算出した。
【0053】
【数1】

【0054】
結果を表1に併せて示す。パルミチン酸レチノールとアルギン酸を組み合わせて配合した比較例2の水溶液では、パルミチン酸レチノールを単独で含む比較例1の水溶液に比して、パルミチン酸レチノールの残存率が低下していたことから、アルギン酸を単独で配合すると、パルミチン酸レチノールの安定性が損なわれることが示唆された。これに対して、パルミチン酸レチノールとアルギン酸と酢酸トコフェロールとを含む実施例1の水溶液では、パルミチン酸レチノールが安定に保持されており、しかもアルギン酸を含有するにも拘らず、実施例1におけるパルミチン酸レチノールの残存率は、パルミチン酸レチノールと酢酸トコフェロールを含む比較例3の水溶液よりも高い値を示していた。
【0055】
【表1】

【0056】
試験例2 水性組成物の粘度安定性の評価
表2に記載の処方に従い、水性組成物(実施例2及び比較例4)を調製した。調製直後に、下記の方法に従って粘度を測定した。それぞれの水性組成物10mLを無色透明ガラススクリューバイアル瓶(容量10mL)に充填して密栓し、これを60℃の恒温器内で遮光条件下で7日間保存し、保存後の粘度を再度同様の方法で測定した。測定された粘度から、下記式に従って粘度低下率(%)を算出した。
【0057】
【数2】

【0058】
<粘度の測定方法>
粘度の測定は、E型粘度計「DIGITAL VISCOMETER DVM−E」(東京計器製)を用い、以下の手順で実施した。先ず、水性組成物1mLを所定のプレートに入れ、これを標準コーンローター(1°34′、半径24mm)の所定の位置に設置し、温度が20℃になるまで放置した。次いで、100rpmで回転させ、4分後に、表示された粘度を読み取り、測定値とした。高精度の測定結果を得るために、水性組成物の粘度測定前に、JIS Z 8809 により規定されている石油系の炭化水素油(ニュートン流体)を校正用標準液として用い、測定値が標準液の粘度に一致するように調整した。
【0059】
結果を表2に併せて示す。この結果から、比較例4の水性組成物では、粘度低下率が大きかったが、実施例2の水性組成物では粘度の低下が比較例4の半分程度に抑制されていることが明らかとなった。また、この結果より、アルギン酸の低分子化が抑制され、実施例2の水性組成物のゲル化特性についても、損なわれ難く、安定に保たれることが明らかとなった。
【0060】
【表2】

【0061】
試験例3 パルミチン酸レチノールの安定性の評価−2
表3に記載の処方に従い、水性組成物(実施例3−7)を調製した。それぞれの水性組成物について、上記試験例1と同様の方法でパルミチン酸レチノールの安定性を評価したところ、いずれの水性組成物でも、パルミチン酸レチノールが安定に保持されていることが確認できた。
【0062】
【表3】

【0063】
処方例1−3
下表4に記載の処方で、点眼剤(処方例1−3)を調製した。また、各点眼剤について調製直後の粘度を、上記試験例2に記載の方法に従って測定した。表4中、パルミチン酸レチノール以外の成分の配合割合の単位は「w/v%」であり、パルミチン酸レチノールの配合割合の単位は、「国際単位/100mL」である。
【0064】
【表4】

【0065】
処方例4−40
下表5−9に記載の処方で、点眼剤(処方例4−11、25−30)、洗眼剤(処方例12−18、31−36)、点鼻剤(処方例19−24、37−39)、及び洗鼻剤(処方例40)を調製した。なお、これらの製剤については、浸透圧比が0.6〜1.4の範囲になるように調整した。表5−9中、パルミチン酸レチノール及び酢酸レチノール以外の成分の配合割合の単位は「w/v%」であり、パルミチン酸レチノール及び酢酸レチノールの配合割合の単位は、「国際単位/100mL」である。
【0066】
【表5】

【0067】
【表6】

【0068】
【表7】

【0069】
【表8】

【0070】
【表9】

【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】試験例2において用いた円すい−平板形回転粘度計による測定装置の模式図を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(A)〜(C)成分を含有することを特徴とする、水性組成物:
(A)ビタミンA類、
(B)アルギン酸及び/又はその塩、
(C)ビタミンE類。
【請求項2】
(A)成分1万単位(国際単位)に対して、(B)成分が0.00001〜5g、且つ(C)成分が0.00001〜0.5gの比率で含まれる、請求項1に記載の水性組成物。
【請求項3】
眼科用組成物である、請求項1又は2に記載の水性組成物。
【請求項4】
(A)ビタミンA類を含有する水性組成物に、(B)アルギン酸及び/又はその塩、及び(C)ビタミンE類を配合することを特徴とする、ビタミンA類の安定化方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−31165(P2008−31165A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−177724(P2007−177724)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】