説明

ビニルアルコール系重合体およびその製造方法

【課題】 力学的特性、耐水性、耐候性、無色透明性、水溶液の粘度安定性に優れ、無機物との混合液を容易に調製でき、皮膜、塗膜、成形体、その他の用途に有効に使用できるビニルアルコール系重合体及びその製造方法の提供。
【解決手段】 粘度平均重合度4000〜8000;ケン化度99.50〜99.97モル%;1,2−グリコール結合単位含有量1〜1.5モル%;粘度1000mPa・sのビニルアルコール系重合体水溶液が10℃で粘度20000mPa・sまで増粘する時間が50〜250分;及びビニルアルコール系重合体水溶液の光路長30mmのセルを用いて測定してなる波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(測定温度20℃)が0.02L/g以下であるビニルアルコール系重合体並びにその製法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビニルアルコール系重合体およびその製造方法に関する。より詳細には、重合度が高く、耐水性、耐候性、透明性に優れ、着色がなく、しかも粘度安定性に優れるビニルアルコール系重合体水溶液、無機物含有ビニルアルコール系重合体水溶液などを調製することのできるビニルアルコール系重合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコールで代表されるビニルアルコール系重合体は水溶性の合成高分子として知られており、合成繊維ビニロンの原料、紙や繊維の加工剤、接着剤、乳化重合および懸濁重合用の安定剤、無機物のバインダー、フィルムなど、種々の用途に広く用いられている。ビニルアルコール系重合体は、他の合成高分子と比べて強度特性および造膜性が特に優れており、それらの特性を活かして、紙の表面特性を改善するためのクリアーコーティング剤、顔料コーティングにおけるバインダー、水溶性フィルムや光学用フィルムの製造原料などとして重用されている。
【0003】
ビニルアルコール系重合体の特性である強度特性、無機物に対するバインダー力、造膜性などを更に向上させる目的で種々の検討がなされており、その1つとして、ビニルアルコール系重合体を高重合度化することが従来から試みられている。
そのような従来技術として、例えば、ビニルエステルの重合に当たって、重合系内の圧力を500mmHg以下に保ちつつ、重合系内の温度を50℃以下にして、ビニルエステルを沸騰させながら重合を行ってビニルエステル系重合体を製造し、それにより得られるビニルエステル系重合体をケン化してポリビニルアルコールを製造する方法が知られている(特許文献1)。しかし、この方法による場合は、重合度が4000以上の高重合度のポリビニルアルコールが得られにくく、しかも得られるポリビニルアルコールは、着色が生じていて無色透明性に劣っていたり、耐水性に劣っていたり、水溶液にしたときの粘度安定性に劣るなどの問題がある。
【0004】
また、他の従来技術として、ビニルエステルを乳化剤の存在下に減圧下で乳化重合してビニルエステル系重合体を製造し、それにより得られるビニルエステル系重合体をケン化してビニルアルコール系重合体を製造する方法が知られている(特許文献2)。この方法による場合は、水性媒体中でビニルエステルを乳化重合していることにより、重合熱の除去および重合時のスケールの発生防止が可能であるが、乳化重合により生成したビニルエステル系重合体粒子を含む水性エマルジヨンを多量のアルコール中に投入してビニルエステル系重合体粒子をアルコールに溶解した後に、未反応のビニルエステルの除去およびそれに続くビニルエステル系重合体のケン化処理を行うため、ビニルアルコール系重合体の製造工程が複雑になり易い。また、この方法による場合は、生成するビニルエステル系重合体およびそれをケン化して得られるビニルアルコール系重合体中に乳化重合に用いた乳化剤が混入して、着色や品質低下などを生ずる恐れがある。さらに、この方法による場合は、重合度が10,000を超す、取り扱いにくい、超高重合度のビニルアルコール系重合体が一般に生成し易い。また、この特許文献2には、この方法により得られるビニルアルコール系重合体の物性(例えば、ビニルアルコール系重合体から得られる皮膜やフィルムなどの成形体の耐水性、着色の有無、耐候性、ビニルアルコール系重合体から調製した水溶液の粘度安定性など)について何ら開示されていない。
【0005】
上記の点から、重合度が高く、力学的特性に優れ、しかも取り扱い性、耐水性、耐候性、透明性、造膜性に優れ、着色がなく、しかも粘度安定性に優れる水溶液や無機物含有水溶液などを調製することのできるビニルアルコール系重合体およびその製造方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭33−3045号公報
【特許文献2】特開平5−117307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、重合度が高く、力学的特性に優れ、しかも取り扱い性、耐水性、耐候性、透明性、造膜性に優れ、着色がなく、粘度安定性に優れる水溶液を調製することができ、耐水性に優れる皮膜やフィルムなどの成形体や無機物混合皮膜などを製造することのできるビニルアルコール系重合体およびその製造方法を提供することである。
具体的には、本発明は、重合度が高く、力学的特性、耐水性、耐候性に優れ、重合度が高いにも拘わらず取り扱い性に優れていて、ビニルアルコール系重合体水溶液を円滑に調製することができ、しかもそれにより得られるビニルアルコール系重合体水溶液が粘度安定性に優れていて長時間放置しても増粘が小さく、当該ビニルアルコール系重合体から得られる皮膜、フィルム、その他の成形体に着色がなく、当該ビニルアルコール系重合体からなる皮膜などの成形体を水に浸漬した際の溶出率が小さく、当該ビニルアルコール系重合体と無機物との混合水溶液の調製が容易で、当該混合水溶液から得られる無機物混合皮膜などの成形体が耐水性に優れているなどの種々の優れた特性を兼ね備えるビニルアルコール系重合体、およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく検討を重ねてきた。その結果、粘度平均重合度(P)が4000〜8000およびケン化度が99.50〜99.97モル%で、且つ1,2−グリコール結合単位の含有量が特定の範囲にあり、しかも水溶液にしたときに特定の増粘特性および吸光度を示すビニルアルコール系重合体が、力学的特性、耐水性、耐候性、無色透明性に優れ、しかも水溶液にしたときの粘度安定性に優れていること、そして当該ビニルアルコール系重合体から形成した皮膜やその他の成形体に着色がないこと、当該ビニルアルコール系重合体から形成した皮膜などの成形体を水に浸漬した際の溶出率が小さく耐水性に優れること、当該ビニルアルコール系重合体と無機物との混合溶液が容易に調製でき、当該混合溶液から形成した皮膜などの成形体が水に対する膨潤度が小さく耐水性に優れていることなどを見出した。
【0009】
さらに、本発明者らは、前記した優れた特性を有するビニルアルコール系重合体は、ビニルエステル系単量体に対してアルコールを所定の割合で混合したビニルエステル系単量体混合物を重合槽内に仕込んで、当該ビニルエステル系単量体混合物の大気圧下での沸点以下の温度で、重合槽内の圧力を減圧状態に保ちながら沸騰状態で、所定の重合率でビニルエステル系単量体を重合してビニルエステル系重合体を製造し、次いで前記ビニルエステル系重合体を含む反応生成物に重合禁止剤を添加し、反応生成物中に残存するビニルエステル系単量体をアルコールで置換して除去した後に、アルカリ性物質の存在下に、ビニルエステル系重合体を所定のケン化度を有するビニルアルコール系重合体が得られるようにしてケン化することによって円滑に製造できることを見出し、それらの知見に基づいて本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1) 下記の要件《1》〜《5》を満足することを特徴とするビニルアルコール系重合体である。
《1》粘度平均重合度(P)が4000〜8000である;
《2》ケン化度が99.50〜99.97モル%である;
《3》1,2−グリコール結合単位の含有量が1〜1.5モル%である;
《4》当該ビニルアルコール系重合体を水に溶解して10℃での粘度が10000mPa・sであるビニルアルコール系重合体水溶液を調製し、その水溶液を10℃で静置したときに、粘度が20000mPa・sまで増加するのに要する時間が50〜250分である;および、
《5》当該ビニルアルコール系重合体を水に溶解して調製した濃度30g/Lのビニルアルコール系重合体水溶液[粘度平均重合度(P)が6000未満のビニルアルコール系重合体の場合]または濃度10g/Lのビニルアルコール系重合体水溶液[粘度平均重合度(P)が6000以上のビニルアルコール系重合体の場合]の、光路長30mmのセルを用いて測定してなる、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(測定温度20℃)が、いずれも0.02L/g以下である。
そして、本発明は、
(2) 酢酸ナトリウムの含有量が2質量%以下である前記(1)のビニルアルコール系重合体である。
【0011】
さらに、本発明は、
(3)(i)ビニルエステル系単量体100質量部に対してアルコールを2.5〜10質量部の割合で含むビニルエステル系単量体混合物を重合槽内に仕込み、当該ビニルエステル系単量体混合物の大気圧下での沸点以下の温度で、重合槽内の圧力を減圧状態に保ちながら沸騰状態で、重合率8〜30質量%でビニルエステル系単量体を重合して、ケン化後に粘度平均重合度(P)が4000〜8000のビニルアルコール系重合体となる重合度を有するビニルエステル系重合体を製造し、次いで(ii)前記(i)の工程で得られるビニルエステル系重合体を含む反応生成物に重合禁止剤を添加し、反応生成物中に残存するビニルエステル系単量体をアルコールで置換して除去した後、アルカリ性物質の存在下に、ビニルエステル系重合体を、ケン化度99.50〜99.97モル%のビニルアルコール系重合体を生成する条件下でケン化することを特徴とする前記(1)または(2)のビニルアルコール系重合体の製造方法である。
【0012】
そして、本発明は、
(4)前記(i)の重合工程において、ビニルエステル系単量体100質量部に対してアルコールを2.5〜8質量部の割合で含むビニルエステル系単量体混合物を重合槽内に仕込み、重合率10〜20質量%でビニルエステル系単量体を重合してビニルエステル系重合体を製造する、前記(3)のビニルアルコール系重合体の製造方法;
(5) 前記(i)の重合工程を、ビニルエステル系単量体の分解によるアルデヒド生成を抑制する有機酸の存在下で行う前記(3)または(4)のビニルアルコール系重合体の製造方法;および、
(6) 前記(ii)の工程において、重合禁止剤の添加量が、反応生成物中に残存する未分解の重合開始剤1モルに対して1〜10モルである前記(3)〜(5)のいずれかのビニルアルコール系重合体の製造方法;
である。
【発明の効果】
【0013】
上記の要件《1》〜《5》を満足する本発明のビニルアルコール系重合体は、力学的特性、耐水性、耐候性、無色透明性に優れ、しかも水溶液にしたときの粘度安定性に優れている。そのため、本発明のビニルアルコール系重合体から形成した皮膜、塗膜、成形体などは、着色がなく、無色透明性に優れていて、長期間経っても変色が生じにくく、しかも水に浸漬した際に溶出率および膨潤度が小さく耐水性に、更に傷がつきにくく、耐傷性にも優れている。
さらに、本発明のビニルアルコール系重合体は、無機物と安定な混合溶液を形成し、当該混合溶液から皮膜などを円滑に製造することができ、それにより得られる皮膜などは水に対する膨潤度が小さく、耐水性に優れている。そのため、本発明のビニルアルコール系重合体は、無機物と併用してコーティング剤などにしたときに優れた性能を発揮する。
また、本発明のビニルアルコール系重合体を用いてコーティング剤を調製し、それを基材に塗工することにより、インク吸収性、光沢度などの各種性能に優れるインクジェット記録材を得ることができる。
本発明の製造方法により、上記した優れた特性を備える本発明のビニルアルコール系重合体を円滑に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明のビニルアルコール系重合体は、上記したように、
《1》粘度平均重合度(P)が4000〜8000である;
《2》ケン化度が99.50〜99.97モル%である;
《3》1,2−グリコール結合単位の含有量が1〜1.5モル%である;
《4》当該ビニルアルコール系重合体を水に溶解して10℃での粘度が10000mPa・sであるビニルアルコール系重合体水溶液を調製し、その水溶液を10℃で静置したときに、粘度が20000mPa・sまで増加するのに要する時間が50〜250分である;および、
《5》当該ビニルアルコール系重合体を水に溶解して調製した濃度30g/Lのビニルアルコール系重合体水溶液[粘度平均重合度(P)が6000未満のビニルアルコール系重合体の場合]または濃度10g/Lのビニルアルコール系重合体水溶液[粘度平均重合度(P)が6000以上のビニルアルコール系重合体の場合]の、光路長30mmのセルを用いて測定してなる、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(測定温度20℃)が、いずれも0.02L/g以下である;
という5つの要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体である。
【0015】
本発明のビニルアルコール系重合体は、「粘度平均重合度(P)が4000〜8000である」という上記の要件《1》を満足することが必要である。本発明のビニルアルコール系重合体は当該要件《1》を満足することにより、耐水性、耐熱性、取り扱い性に優れ、さらにビニルアルコール系重合体水溶液の調製の容易性、ビニルアルコール系重合体水溶液の粘度安定性、無機物との混合水溶液の調製の容易性などに優れる。
ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度(P)が4000未満であると、ビニルアルコール系重合体中に無機物を含有させて形成した皮膜や被膜などが水に膨潤し易くなり、耐水性が低下する。また、ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度(P)が4000未満であると、ビニルアルコール系重合体水溶液の粘度安定性が低下して経時的な増粘が大きくなることがある。一方、ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度(P)が8000を超えると、ビニルアルコール系重合体の水溶液粘度が高くなりすぎて取り扱い性に劣るようになり、しかもビニルアルコール系重合体と無機物との混合水溶液の調製が困難になり易い。
本発明のビニルアルコール系重合体は、耐水性、取り扱い性、水溶液にしたときの粘度安定性、ビニルアルコール系重合体と無機物との混合水溶液の調製の容易性などの点から、粘度平均重合度(P)が4200〜7500であることが好ましく、4500〜7000であることがより好ましい。
【0016】
ここで、本明細書におけるビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される粘度平均重合度である。すなわち、ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度(P)は、ビニルアルコール系重合体をケン化度99.5モル%以上に再ケン化し、精製した後、その水溶液を用いて30℃の水中で測定した極限粘度[η]から、以下の数式(I)に従って求められる。

粘度平均重合度(P)=([η]×1000/8.29)(1/0.62) (I)
【0017】
本発明のビニルアルコール系重合体は、「ケン化度が99.50〜99.97モル%である」という上記の要件《2》を満足することが必要であり、当該要件《2》を満足することにより、ビニルアルコール系重合体水溶液の調製や、ビニルアルコール系重合体と無機物の混合水溶液の調製が容易であり、しかもそれらの水溶液からは、耐水性に優れる皮膜、皮膜、成形体などが形成される。
ビニルアルコール系重合体のケン化度が99.50モル%未満であると、ビニルアルコール系重合体を水に溶解して10℃での粘度が10000mPa・sであるビニルアルコール系重合体水溶液を調製し、その水溶液を10℃で静置したときに、粘度が20000mPa・sまで増加するのに要する時間が250分を超えるようになり、当該ビニルアルコール系重合体水溶液から形成した皮膜、被膜、成形体や、ビニルアルコール系重合体と無機物の混合水溶液から形成した皮膜や被膜などの水膨潤度が大きくなって、耐水性が低下する。一方、ビニルアルコール系重合体のケン化度が99.97モル%を超えると、ビニルアルコール系重合体の水溶液や、ビニルアルコール系重合体と無機物を含む混合水溶液などの調製が困難になり、しかも水溶液にしたときに経時増粘が大きく、水溶液の安定性および取り扱い性が不良になる。
本発明のビニルアルコール系重合体のケン化度は、耐水性、ビニルアルコール系重合体水溶液や、ビニルアルコール系重合体と無機物の混合水溶液の調製の容易性、ビニルアルコール系重合体水溶液の粘度安定性、取り扱い性などの点から、99.58〜99.96モル%であることが好ましく、99.65〜99.95モル%であることがより好ましい。
【0018】
本発明のビニルアルコール系重合体は、「1,2−グリコール結合単位の含有量が1〜1.5モル%である」という上記の要件《3》を満足することが必要である。ビニルアルコール系重合体が当該要件《3》を満足することにより、耐水性に優れ、ビニルアルコール系重合体水溶液の調製が容易で、ビニルアルコール系重合体と無機物の混合水溶液の調製が容易で、しかもビニルアルコール水溶液の粘度安定性などに優れている。
ビニルアルコール系重合体における1,2−グリコール結合単位の含有量が1モル%未満であると、ビニルアルコール系重合体を用いて調製した水溶液の粘度安定性が低下し、経時増粘が大きくなり易く、またビニルアルコール系重合体と無機物との混合水溶液の調製が困難になり易い。一方、ビニルアルコール系重合体における1,2−グリコール結合単位の含有量が1.5モル%を超えると、ビニルアルコール系重合体からなる成形体(皮膜、フィルム、無機物含有皮膜など)の耐水性が低下したものになり易い。
本発明のビニルアルコール系重合体は、耐水性、ビニルアルコール系重合体水溶液の調製の容易性、ビニルアルコール系重合体から調製した水溶液の粘度安定性、ビニルアルコール系重合体と無機物との混合水溶液の調製の容易性などの点から、1,2−グリコール結合単位をビニルアルコール系重合体を構成する全構造単位の合計モル数に基づいて、1.2〜1.5モル%の割合で有することが好ましい。
【0019】
本明細書における「1,2−グリコール結合単位の含有量」とは、ビニルアルコール系重合体における「全ビニルアルコール単位」に対する「1,2−グリコール結合単位」の割合(モル%)を意味する。
1,2−グリコール結合単位の含有量は、以下の実施例に記載するように、NMRを使用して求めることができる。
【0020】
後記する本発明の製造方法を採用することによって、1,2−グリコール結合単位の含有量が1〜1.5モル%の範囲にある本発明のビニルアルコール系重合体を円滑に製造することができる。また、本発明の方法にしたがってビニルアルコール系重合体を製造するに当たり、ビニルエステル系重合体の製造時にビニルエステル系単量体に少量のエチレンカーボネートを共重合させたり、重合温度を変化させることなどによっても、1,2−グリコール結合単位の含有量を更に調整することができる。
【0021】
本発明のビニルアルコール系重合体は、「当該ビニルアルコール系重合体を水に溶解して10℃での粘度が10000mPa・sであるビニルアルコール系重合体水溶液を調製し、その水溶液を10℃で静置したときに、粘度が20000mPa・sまで増加するのに要する時間が50〜250分である」という上記の要件《4》を満足することが必要である。ビニルアルコール系重合体が当該要件《4》を満足することによって、長時間にわたって増粘の少ない、粘度安定性および取り扱い性に優れるビニルアルコール系重合体水溶液や、無機物とビニルアルコール系重合体の混合水溶液を調製することができ、しかも耐水性に優れる皮膜、被膜、成形体、無機物との混合皮膜などを形成することができる。
粘度10000mPa・sのビニルアルコール系重合体水溶液の粘度が10℃で20000mPa・sまで増加するのに要する時間が50分未満であるビニルアルコール系重合体は、無機物との混合水溶液を調製した際に早期にゲル化が生じて、安定な混合水溶液を調製することができない。一方、粘度10000mPa・sのビニルアルコール系重合体水溶液の粘度が10℃で20000mPa・sまで増加するのに要する時間が250分を超えるビニルアルコール系重合体は、無機物とビニルアルコール系重合体の混合水溶液を用いて形成した皮膜などが水に膨潤し易く、耐水性に劣る。
本発明のビニルアルコール系重合体は、当該ビニルアルコール系重合体を水に溶解して10℃での粘度が10000mPa・sであるビニルアルコール系重合体水溶液を調製し、その水溶液を10℃で静置したときに、粘度が20000mPa・sまで増加するのに要する時間が60〜240分であることが好ましい。
【0022】
重合度、ケン化度および1,2−グリコール結合単位の含有量を、本発明で規定する範囲内で調整することによって、上記の要件《4》を満足する水溶液粘度挙動を示すビニルアルコール系重合体にすることができる。
また、ビニルアルコール系重合体における酢酸ナトリウムなどの含有量を調整することによっても、上記の要件《4》を満足する水溶液粘度挙動を示すビニルアルコール系重合体を得ることができる。すなわち、酢酸ナトリウムの含有量が多いとビニルアルコール系重合体水溶液の増粘速度が増加し、一方酢酸ナトリウムの含有量が少ないとビニルアルコール系重合体水溶液の増粘速度が低下する。そのため、本発明のビニルアルコール系重合体では、要件《4》を満足する限りは酢酸ナトリウムの含有量は特に制限されないが、酢酸ナトリウムの含有量をビニルアルコール系重合体の質量に基づいて2質量%以下、更には1質量%以下、特に0.5質量%以下にすることによって、上記の要件《4》を満足する水溶液挙動を有するビニルアルコール系重合体をより円滑に得ることができる。
【0023】
ビニルアルコール系重合体が上記の要件《4》を満足するか否かを調べるための「10℃での粘度が10000mPa・sであるビニルアルコール系重合体水溶液」は、ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度(P)(以下単に「重合度」ということがある)に応じて、ビニルアルコール系重合体の水溶液の調製時にビニルアルコール系重合体の濃度を変化調整することによって得ることができる。例えば、ビニルアルコール系重合体の重合度が2400であれば約11質量%の濃度に、重合度が4000であれば約8質量%の濃度に、重合度が5000であれば約7質量%の濃度に、重合度が6000であれば約6質量%の濃度に、また重合度が8000であれば約4質量%の濃度にすることによって、10℃での粘度が10000mPa・sのビニルアルコール系重合体水溶液を調製することができる。但し、微調整は必要である。
【0024】
本発明のビニルアルコール系重合体は、「当該ビニルアルコール系重合体を水に溶解して調製した濃度30g/Lのビニルアルコール系重合体水溶液[粘度平均重合度(P)が6000未満のビニルアルコール系重合体の場合]または濃度10g/Lのビニルアルコール系重合体水溶液[粘度平均重合度(P)が6000以上のビニルアルコール系重合体の場合]の、光路長30mmのセルを用いて測定してなる、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(測定温度20℃)が、いずれも0.02L/g以下である」という上記の要件《5》を満足することが必要である。
ここで、本明細書でいう、『ビニルアルコール系重合体を水に溶解して調製した濃度30g/Lのビニルアルコール系重合体水溶液[粘度平均重合度(P)が6000未満のビニルアルコール系重合体の場合]または濃度10g/Lのビニルアルコール系重合体水溶液[粘度平均重合度(P)が6000以上のビニルアルコール系重合体の場合]の、光路長30mmのセルを用いて測定してなる、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(測定温度20℃)』とは、前記した濃度30g/Lまたは濃度10g/Lのビニルアルコール系重合体水溶液の吸光度を、光路長30mmのセルを用いて測定して得られる、波長280nmにおける吸光度および波長320nmにおける吸光度の値を、測定に使用したビニルアルコール系重合体水溶液の濃度(単位g/L)で除した値(単位L/g)をいう。
以下、当該濃度補正後の吸光度を、「波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)」というように記載することがある。
【0025】
ビニルアルコール系重合体が当該要件《5》を満足することにより、着色がなく色調に優れ、しかも耐候性にも優れていて変色のない皮膜、被膜、成形体などを形成することができる。
前記濃度のビニルアルコール系重合体水溶液の、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)が0.02L/gを超えると、ビニルアルコール系重合体よりなる皮膜、被膜、成形体などに着色が生じたり、耐候性が低下する。
本発明のビニルアルコール系重合体では、当該ビニルアルコール系重合体を水に溶解して調製した前記濃度のビニルアルコール系重合体水溶液の、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)(測定温度20℃)が、いずれも0.018L/g以下であることが好ましい。
前記ビニルアルコール系重合体水溶液の、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)の下限値は特に制限されないが、前記吸光度が0.008L/g未満となるビニルアルコール系重合体は、製造工程中に生じる不純物除去などに手間やコストがかかるので、前記吸光度は0.008L/g以上であることが実用的である。
後述する本発明の製造方法を採用することによって、前記濃度のビニルアルコール系重合体水溶液の、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)(測定温度20℃)がいずれも0.02L/g以下となる本発明のビニルアルコール系重合体を円滑に製造することができる。
【0026】
本発明のビニルアルコール系重合体は、本発明の目的および効果を損なわない範囲内であれば、必要に応じて他の共重合性単量体に由来する構造単位の1種または2種以上を有していてもよい。本発明のビニルアルコール系重合体が有していてもよい他の共重合性単量体に由来する構造単位の割合は、他の単量体に由来する構造単位の種類、ビニルアルコール系重合体の用途などに応じて異なりうるが、一般的には、ビニルアルコール系重合体を構成する全構造単位に対して20モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることが更に好ましい。
【0027】
本発明のビニルアルコール系重合体が必要に応じて有することのできる他の共重合性単量体に由来する構造単位としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセンなどのα−オレフィン類;フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸などのカルボン酸またはその誘導体;アクリル酸またはその塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピルなどのアクリル酸エステル類;メタクリル酸またはその塩、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピルなどのメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミドなどのアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミドなどのメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテルなどのヒドロキシ基含有ビニルエーテル類;アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテルなどのアリルエーテル類;オキシアルキレン基を有する単量体;酢酸イソプロペニル、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オールなどのヒドロキシ基含有α−オレフィン類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのスルホン酸基を有する単量体;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミンなどのカチオン基を有する単量体;ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリエトキシシランなどのシリル基を有する単量体などに由来する構造単位を挙げることができる。本発明のビニルアルコール系重合体は前記した単量体に由来する構造単位の1種または2種以上を有することができる。
【0028】
本発明のビニルアルコール系重合体は、上記した5つの要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体であればいずれの方法で製造してもよい。
そのうちでも、本発明のビニルアルコール系重合体は、(i)ビニルエステル系単量体100質量部に対してアルコールを2.5〜10質量部の割合で含むビニルエステル系単量体混合物を重合槽内に仕込み、当該ビニルエステル系単量体混合物の大気圧下での沸点以下の温度で、重合槽内の圧力を減圧状態に保ちながら沸騰状態で、重合率8〜30質量%でビニルエステル系単量体を重合して、ケン化後に粘度平均重合度(P)が4000〜8000のビニルアルコール系重合体となる重合度を有するビニルエステル系重合体を製造し、次いで(ii)前記(i)の工程で得られるビニルエステル系重合体を含む反応生成物に重合禁止剤を添加し、反応生成物中に残存するビニルエステル系単量体をアルコールで置換して除去した後、アルカリ性物質の存在下に、ビニルエステル系重合体を、ケン化度99.50〜99.97モル%でビニルアルコール系重合体を生成する条件下でケン化する、本発明の製造方法によって円滑に製造することができる。
【0029】
ビニルエステル系単量体の重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などが知られているが、本発明の製造方法では、上記(i)の重合工程[以下「重合工程(i)」ということがある]において、ビニルエステル系単量体100質量部に対して2.5〜10質量部という少量のアルコールを含むビニルエステル系単量体混合物を用いる溶液重合法(溶液重合法に準じた方法)によってまずビニルエステル系重合体を製造する。ビニルエステル系重合体を製造するための重合工程(i)およびその後の上記(ii)の工程は、回分式(バッチ式)で行ってもよいし、連続式で行ってもよい。そのうちでも、生産効率などの観点から連続式で行うことが好ましい。
【0030】
連続式によって重合工程(i)(ビニルエステル系重合体の製造)および上記(ii)の工程(残留単量体の重合禁止処理とそれに続くビニルエステル系重合体のケン化処理)を行なう場合は、ビニルエステル系単量体とアルコールを両者の質量比が本発明で規定する範囲内になるように重合槽に連続的に供給し、本発明で規定する重合率および重合度になるように重合槽内に所定の時間滞留させながら重合を行なって所定の重合度のビニルエステル系重合体を形成させると共に、ビニルエステル系重合体を含む反応生成物を重合槽から連続的に取り出した後に、当該反応生成物に重合禁止剤を添加し、反応生成物中に残存するビニルエステル系単量体をアルコールで置換して除去した後、アルカリ性物質の存在下にビニルエステル系重合体を所定のケン化度にケン化する。
その際に、重合槽へのビニルエステル系単量体を主体とする単量体およびアルコールの供給量と反応生成物の重合槽からの取り出し量(単位時間当たりの供給量と取り出し量)、重合槽内での滞留時間などは、ビニルエステル系単量体とアルコールの質量比、重合温度、重合率、重合槽の規模、重合速度などに応じて調整する。重合率を8〜30質量%の範囲内にするためには、重合槽内での滞留時間は、一般的に1〜12時間、特に2〜6時間であることが好ましい。
【0031】
また、回分式(バッチ式)で重合工程(i)(ビニルエステル系重合体の製造)および上記(ii)の工程(重合の停止とビニルエステル系重合体のケン化)を行なう場合は、ビニルエステル系単量体の重合と重合により生成したビニルエステル系重合体のケン化の両方を同じ重合槽内で行なってもよいし、または重合槽内でビニルエステル系単量体を重合した後にビニルエステル系重合体を含む反応生成物を重合槽から取り出して、重合槽外でビニルエステル系重合体のケン化を行なってもよい。その際の、重合槽へのビニルエステル系単量体を主体とする単量体およびアルコールの供給量、重合槽内での重合時間などは、ビニルエステル系単量体とアルコールの質量比、重合温度、重合率、重合槽の規模、重合速度などに応じて調整する。重合率を8〜30質量%の範囲内にするためには、重合槽内での重合時間は、一般的に1〜12時間、特に2〜6時間であることが好ましい。
【0032】
重合工程(i)で用いるビニルエステル系単量体としては、ビニルエステル系重合体の製造に用い得ることが従来から知られているビニルエステル系単量体のいずれもが使用でき、具体例としては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニルなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、ビニルエステル系単量体としては、酢酸ビニルが、汎用性、取り扱い性などの点から好ましく用いられる。
【0033】
重合工程(i)で用いるビニルエステル系単量体混合物は、本発明の目的および効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて、他の共重合性単量体を含有していてもよく、他の共重合性単量体を含有する場合は、ビニルエステル系単量体混合物中に含まれる全単量体の合計モル数に対して20モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることが更に好ましい。
ビニルエステル系単量体混合物が含有し得る他の共重合性単量体の種類としては、本発明のビニルアルコール系重合体が必要に応じて有していてもよい他の共重合単量体に由来する構造単位を構成する単量体として、上記の段落0026に例示したものを挙げることができ、それらの1種または2種以上を用いることができる。
【0034】
重合工程(i)で用いるアルコールとしては、メタノール(メチルアルコール)、エタノール(エチルアルコール)、プロパノール(プロピルアルコール)などの低級アルコールが、取り扱い性の点から好ましく用いられ、そのうちでもメタノールが汎用性の点からより好ましく用いられる。
【0035】
重合工程(i)で用いる重合開始剤としては、ビニルエステル系単量体の重合に用い得ることが従来から知られている重合開始剤のいずれもが使用でき、具体例としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、その他のアゾ系開始剤、過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシジカーボネート、その他の過酸化物系開始剤などを挙げることができる。そのうちでも、重合開始剤としては、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)が低温活性が高い点から好ましく用いられる。
重合開始剤の使用量は、一般に、ビニルエステル系単量体をも含めた全重合性単量体の合計質量に対して、0.0001〜0.02質量%(1〜200質量ppm)、特に0.0005〜0.01質量%(5〜100質量ppm)程度とすることが、上記の要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体が円滑に得られる点から好ましい。
【0036】
また、重合工程(i)を、ビニルエステル系単量体混合物中に2−メルカプトエタノール、n−ドデシルメルカプタン、メルカプト酢酸、3−メルカプトプロピオン酸などのチオール化合物を存在させて行い、それにより得られるビニルエステル系重合体を上記(ii)の工程でケン化すると、上記の要件《1》〜《5》を満足する、チオール化合物に由来する官能基が末端に導入されたビニルアルコール系重合体を得ることができ、本発明は当該ビニルアルコール系重合体をも本発明の範囲に包含する。
【0037】
重合工程(i)で用いるビニルエステル系単量体混合物(重合槽内中のビニルエステル系単量体混合物)は、上記の要件《1》〜《5》を満足する本発明のビニルアルコール系重合体を高い生産効率で円滑に得るために、ビニルエステル系単量体100質量部に対してアルコールを2.5〜10質量部の割合で含有していることが必要であり、2.5〜8質量部の割合で含有していることが好ましい。
前記ビニルエステル系単量体混合物中のアルコールの含有割合が、ビニルエステル系単量体100質量部に対して2.5質量部未満であると、上記の要件《5》で規定する水溶液吸光度を満足するビニルアルコール系重合体が得られなくなり、得られるビニルアルコール系重合体は着色が生じていて、色調に劣り、しかも耐候性にも劣ったものとなる。一方、ビニルエステル系単量体100質量部に対してアルコールの含有量が10質量部を超えると、ビニルエステル系重合体の生産効率、ひいてはビニルアルコール系重合体の生産効率が大きく低下すると共に、ビニルアルコール系重合体と無機物との混合水溶液から形成した皮膜、被膜などが水に膨潤し易くなり、耐水性が低下する。
【0038】
重合工程(i)は、上記の要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体を円滑に得るために、ビニルエステル系単量体混合物(ビニルエステル系単量体とアルコールの混合液)の大気圧下における沸点以下の温度で、重合槽内の圧力を減圧状態に保ちながら沸騰状態で、ビニルエステル系単量体を重合する。
ビニルエステル系単量体の重合時の温度が、ビニルエステル系単量体混合物の大気圧下での沸点よりも高い温度であると、ビニルアルコール系重合体における1,2−グリコール結合単位の含有量が1.5モル%を超えてしまい、要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体を得ることが困難になる。その上、それによって得られるビニルアルコール系重合体と無機物との混合水溶液から形成した皮膜、被膜などは水に膨潤し易くなり、耐水性に劣るようになる。
また、ビニルエステル系単量体の重合時の温度が、ビニルエステル系単量体混合物の大気圧下での沸点以下の温度であっても、減圧状態にせず(沸騰させず)に重合を行った場合には、ビニルアルコール系重合体水溶液の、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)(測定温度20℃)がいずれも0.02L/gを超えることがあり、要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体を得ることが困難になる。その結果、当該ビニルアルコール系重合体から成形した皮膜の耐候性が低下するようになる。
【0039】
重合工程(i)における重合槽内の温度(重合温度)は、5〜60℃であることが好ましく、20〜50℃であることがより好ましく、30〜50℃であることがさらに好ましい。
また、前記した温度における重合槽内のビニルエステル系単量体混合物を沸騰状態にするために、重合槽内の圧力(絶対圧)は1〜100KPa、特に20〜90KPaであることが好ましい。
酢酸ビニルの大気圧下での沸点は73℃、メタノールの大気圧下での沸点は64℃であることから、ビニルエステル系単量体として酢酸ビニルを用い、アルコールとしてメタノールを用いて重合工程(i)でビニルエステル系重合体を製造する場合には、重合工程(i)での重合槽内の温度(重合温度)を5〜60℃、特に20〜50℃とし、且つ重合槽内の圧力(絶対圧)を1〜100KPa、特に30〜90KPaにしてビニルエステル系重合体を製造することが好ましい。
【0040】
さらに、重合工程(i)では、上記の要件《1》〜《5》を満足するビニルアルコール系重合体を生産効率よく円滑に得るために、ビニルエステル系単量体の重合率を8〜30質量%の範囲に維持しながら重合槽内でビニルエステル系単量体を重合させる。
重合工程(i)において、ビニルエステル系単量体の重合率が8質量%未満であると、生産効率が低下し、一方ビニルエステル系単量体の重合率が30質量%を超えると、得られるビニルアルコール系重合体の重合度が4000未満であったり、1,2−グリコール結合単位の含有量が1.5モル%を超えたり、また上記の要件《5》を満足する水溶液吸光度を示すビニルアルコール系重合体を得ることが困難になったり、ビニルアルコール系重合体と無機物の混合水溶液から形成した皮膜の耐水性が低下することがある。
重合工程(i)では、ビニルエステル系単量体の重合率が10〜20質量%の範囲になるようにして重合を行うことが好ましい。
【0041】
また、重合工程(i)において、ビニルエステル系単量体の分解によるアルデヒド生成を抑制するために、ビニルエステル系単量体混合物中に乳酸、酒石酸などの有機酸類を添加すると、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)がより低くて、着色のより少ないビニルアルコール系重合体水溶液を与えるビニルアルコール系重合体を得ることができる。
ビニルエステル系単量体混合物中に乳酸、酒石酸などの有機酸類を添加する場合は、当該有機酸類の添加量は、ビニルエステル系単量体の質量に基づいて、0.0001〜0.02質量%(1〜200質量ppm)であることが好ましく、0.0001〜0.01質量%(1〜100質量ppm)であることがより好ましい。
【0042】
重合工程(i)でビニルエステル系重合体を製造した後、次いで上記(ii)の工程[以下「工程(ii)」ということがある]において、重合工程(i)で得られたビニルエステル系重合体を含む反応生成物に重合禁止剤を添加して以降の重合を禁止または抑制し、その状態で反応生成物中に残存するビニルエステル系単量体をアルコールで置換して除去した後、アルカリ性物質の存在下にビニルエステル系重合体をケン化してビニルアルコール系重合体を製造する。
【0043】
重合禁止剤の種類および添加量によって、ケン化後に得られるビニルアルコール系重合体の水溶液吸光度が影響を受ける。重合禁止剤の添加量は、一般に重合工程(i)で得られる反応生成物中に含まれる未分解の重合開始剤1モルに対して、1〜10モルであることが好ましく、1〜5モルであることがより好ましく、1〜3モルであることが更に好ましい。重合禁止剤の添加量が多すぎると、ビニルアルコール系重合体の耐候性の低下、ビニルアルコール系重合体の水溶液吸光度の増大が生じ易くなる。一方、重合禁止剤の添加量の少ない場合には、重合工程(i)で得られる反応生成物中に含まれるビニルエステル系重合体の重合が更に進んで、目的どおりの重合度にならないことがある。
【0044】
重合禁止剤の種類としては、ラジカルを安定化させて重合反応を阻害する、分子量が1000以下の共役二重結合を有する化合物や、芳香族化合物などが好ましく用いられる。
重合禁止剤として用い得る共役二重結合を有する化合物の具体例としては、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジエチル−1,3−ブタジエン、2−t−ブチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ペンタジエン、2,4−ジメチル−1,3−ペンタジエン、3,4−ジメチル−1,3−ペンタジエン、3−エチル−1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、4−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエン、1,3−オクタジエン、1,3−シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、1−メトキシ−1,3−ブタジエン、2−メトキシ−1,3−ブタジエン、1−エトキシ−1,3−ブタジエン、2−エトキシ−1,3−ブタジエン、2−ニトロ−1,3−ブタジエン、クロロプレン、1−クロロ−1,3−ブタジエン、1−ブロモ−1,3−ブタジエン、2−ブロモ−1,3−ブタジエン、フルベン、トロポン、オシメン、フェランドレン、ミルセン、ファルネセン、センブレン、ソルビン酸、ソルビン酸エステル、ソルビン酸塩、アビエチン酸などの炭素−炭素二重結合2個の共役構造よりなる共役ジエン;1,3,5−ヘキサトリエン、2,4,6−オクタトリエン−1−カルボン酸、エレオステアリン酸、桐油、コレカルシフェロールなどの炭素−炭素二重結合3個の共役構造からなる共役トリエン;シクロオクタテトラエン、2,4,6,8−デカテトラエン−1−カルボン酸、レチノール、レチノイン酸などの炭素−炭素二重結合4個以上の共役構造からなる共役ポリエンなどが挙げられる。なお、1,3−ペンタジエン、ミルセン、ファルネセンのように、複数の立体異性体を有するものについては、そのいずれを用いてもよい。
【0045】
また、重合禁止剤として用い得る芳香族化合物の具体例としては、p−ベンゾキノン、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、2−フェニル−1−プロペン、2−フェニル−1−ブテン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、3,5−ジフェニル−5−メチル−2−ヘプテン、2,4,6−トリフェニル−4,6−ジメチル−1−ヘプテン、3,5,7−トリフェニル−5−エチル−7−メチル−2−ノネン、1,3−ジフェニル−1−ブテン、2,4−ジフェニル−4−メチル−2−ペンテン、3,5−ジフェニル−5−メチル−3−ヘプテン、1,3,5−トリフェニル−1−ヘキセン、2,4,6−トリフェニル−4,6−ジメチル−2−ヘプテン、3,5,7−トリフェニル−5−エチル−7−メチル−3−ノネン、1−フェニル−1,3−ブタジエン、1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエンなどの芳香族系化合物が挙げられる。
本発明では、重合工程(i)で用いる重合開始剤の種類などに応じて、上記した重合禁止剤の1種または2種以上を用いることができる。
そのうちでも、本発明では、重合禁止剤としては、ソルビン酸、ソルビン酸エステル、ソルビン酸塩が、ビニルアルコール系重合体の耐候性の点から好ましく用いられる。
【0046】
反応生成物に重合禁止剤を添加した後、反応生成物中に含まれる未反応のビニルエステル系単量体およびその他の共重合性単量体(以下これらを総称して「未反応のビニルエステル系単量体類」ということがある)をアルコールで置換して反応生成物外に排出させて除き、ビニルエステル系重合体のアルコール溶液にする。ビニルエステル系重合体のアルコール溶液中に未反応のビニルエステル系単量体類が混入すると、次のケン化処理時に当該単量体が分解し、アルデヒドなどが生成し、得られるビニルアルコール系重合体の水溶液吸光度の増大を招く原因となる。そのため、反応生成物からの未反応のビニルエステル系単量体類の除去率は99%以上であることが好ましく、99.5%以上であることがより好ましく、99.8%以上であることが更に好ましい。
重合禁止剤を添加した反応生成物に含まれる未反応のビニルエステル系単量体類をアルコールで置換して除く方法としては、(1)反応生成物をアルコール蒸気と接触させる方法、(2)反応生成物にアルコールを添加して減圧操作で未反応のビニルエステル系単量体類と添加したアルコールを共沸させる方法、(3)反応生成物に含まれる未反応のビニルエステル系単量体類を直接蒸発留去する方法、などを挙げることができる。その中でも(1)の方法が経済性および操作性の点から好ましく採用される。
【0047】
前記したアルコールによる置換処理によって得られるビニルエステル系重合体のアルコール溶液にアルカリ性物質を加えて、アルカリ性物質の存在下にビニルエステル系重合体をケン化して、ケン化度が99.50〜99.97モル%のビニルアルコール系重合体を製造する。
ビニルエステル系重合体のケン化用触媒であるアルカリ性物質としては、ビニルエステル系重合体のケン化用触媒として従来から知られているアルカリ性物質のいずれもが使用でき、そのうちでも、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物およびナトリウムメトキシドなどのアルカリ金属アルコキシドの1種または2種以上が好ましく用いられ、特に水酸化ナトリウムが、汎用性、取り扱い性の点からより好ましく用いられる。
ケン化用触媒であるアルカリ性物質の使用量は、ビニルエステル系重合体中のビニルエステル系単量体単位1モルに対して0.005〜0.2モルの範囲内であることが好ましく、0.007〜0.1モルの範囲内であることがより好ましい。ケン化用触媒であるアルカリ性物質は、ケン化反応の初期に一括して添加してもよいし、またはケン化反応の初期に一部を添加し、残りをケン化反応の途中で追加して添加してもよい。
【0048】
ケン化反応はアルコール溶媒、特にメタノール中で行なうことが好ましいが、必要に応じて、酢酸メチル、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどのアルコール以外の有機溶媒中で行なってもよいし、またはアルコールと前記したアルコール以外の有機溶媒の混合溶媒中で行なってもよい。ビニルエステル系重合体のケン化に当たっては、ケン化反応を円滑に行なうために、有機溶媒(特にアルコール、そのうちでもメタノール)の含水率が0.001〜1質量%であることが好ましく、0.003〜0.9質量%であることがより好ましく、0.005〜0.8質量%であることが更に好ましい。
【0049】
ケン化処理の温度は、5〜80℃、特に20〜70℃が好ましく、ケン化処理の時間は5分間〜10時間、特に10分間〜5時間が好ましい。
ケン化度が99.50〜99.97モル%のビニルアルコール系重合体を得るために、ケン化処理に用いるビニルエステル系重合体の重合度、ケン化処理溶液中でのビニルエステル系重合体の濃度、含水率などに応じて、上記したアルカリ性物質の濃度、温度、処理時間の範囲から、ケン化度が99.50〜99.97モル%のビニルアルコール系重合体を得るのに適した条件を採用する。
上記した条件のうちでも、アルカリ性物質(特に水酸化ナトリウム)の濃度をビニルエステル系単量体1モルに対して0.007〜0.100モル、特に0.010〜0.050モルにし、温度を20〜70℃、特に30〜60℃にし、ケン化処理時間を10分〜5時間、特に20分〜4時間にしてケン化処理を行なうと、ケン化度が99.50〜99.97モル%のビニルアルコール系重合体を円滑に製造することができる。
ケン化処理の終了後に、必要に応じて、残存するケン化触媒(アルカリ性物質)を中和してもよく、使用可能な中和剤として、例えば、酢酸、乳酸などの有機酸、酢酸メチルなどのエステル化合物などを挙げることができる。
【0050】
上記した一連の工程によって、上記の要件《1》〜《5》を満足する本発明のビニルアルコール系重合体が得られる。
本発明のビニルアルコール系重合体は、上記の要件《1》〜《5》を満足していることによって、耐水性、耐候性、力学的特性に優れ、着色がなく無色透明性に優れ、ビニルアルコール系重合体水溶液の経時増粘が適度な範囲にあって取り扱い性に優れ、無機物との親和性が高く耐水性に優れる無機物含有皮膜などを形成するので、それらの特性を活かして種々の用途に有効に使用することができる。
本発明のビニルアルコール系重合体の用途としては、例えば、インクジェット記録材におけるインク受理層のバインダー、紙の内添サイズ剤、繊維加工剤、染料、グラスファイバーのコーティング剤、金属の表面コート剤、防曇剤等の被覆剤、木材、紙、アルミ箔、プラスティック等の接着剤、不織布バインダー、繊維状バインダー、石膏ボードおよび繊維板等の建材用バインダー、各種エマルジョン系接着剤の増粘剤、尿素樹脂系接着剤の添加剤、セメントおよびモルタル用添加剤、ホットメルト型接着剤、感圧接着剤などの各接着剤、エチレン、酢酸ビニル、塩化ビニルなどの各種エチレン系不飽和単量体の乳化重合用分散剤、塗料、接着剤などにおける顔料分散用安定剤、塩化ビニル、塩化ビニリデン、スチレン、(メタ)アクリル酸、酢酸ビニルなどの各種エチレン性不飽和単量体の懸濁重合用分散安定剤、繊維、フィルム、シート、パイプ、チューブ、水溶性繊維等の成形体、疎水性樹脂への親水性付与剤、複合繊維、フィルムその他の成形体用添加剤等の合成樹脂用配合剤、土質改良剤、土質安定剤等を挙げることができる。
また、本発明のビニルアルコール系重合体をアセトアルデヒドやブチルアルデヒドなどのアルデヒド化合物を用いてアセタール化して得られるビニルアセタール系重合体は、安全ガラス用中間膜、セラミックスバインダー、インク分散剤、感光性材料などの用途に有用である。
【実施例】
【0051】
以下に実施例などにより本発明について具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例などにより何ら限定されるものではない。
以下の例において、重合率、反応生成物からの未反応の酢酸ビニル単量体の除去率(追出し率)、ビニルアルコール系重合体(ポリビニルアルコール)の重合度(粘度平均重合度)、ケン化度、1,2−グリコール結合単位の含有量および酢酸ナトリウムの含有量、ビニルアルコール系重合体水溶液(ポリビニルアルコール水溶液)の粘度安定性、ビニルアルコール系重合体水溶液(ポリビニルアルコール水溶液)の波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)、ビニルアルコール系重合体皮膜(ポリビニルアルコール皮膜)の耐水性(水溶出率)および耐候性、並びに無機物含有ビニルアルコール系重合体皮膜(無機物含有ポリビニルアルコール皮膜)の耐水性(水膨潤度)は、次のようにして算出または評価した(以後「ポリビニルアルコール」を「PVA」ということがある)。
【0052】
(1)重合率の算出方法および算出のための操作方法:
重合槽から取り出したポリ酢酸ビニルを含む反応生成物の1〜2gを採取して、その質量(A)(g)を正確に測定する。測定後に重合禁止剤であるヒドロキノンの0.25質量%メタノール溶液1mlを加えて、160〜170℃の乾燥機内で30分間乾燥して未反応の酢酸ビニルおよびメタノールを除去し、乾燥後の残留物(ポリ酢酸ビニル)の質量(B)(g)を測定して、下記の数式(II)から重合率を求める。

重合率(質量%)={B/A(100−C)}×100 (II)

[式中、Cは反応生成物に含まれているメタノール量(質量%)を示す。]
【0053】
(2)未反応の酢酸ビニル除去率(追出し率)の算出方法及び算出のための操作方法:
(i)重合槽より取り出した反応生成物にソルビン酸を添加して重合反応を停止させた後、メタノール蒸気と向流的に接触させて未反応の酢酸ビニルを除去する処理(追い出し処理)を行って得られる、ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液を4〜6g採取して、その質量(D)(g)を測定する。測定後にメタノールを添加して溶解し、臭素の1.7質量%酢酸溶液を5ml加え、さらにヨウ化カリウムの5質量%水溶液を10ml加える。指示薬として澱粉の0.5質量%水溶液を2〜4ml加え、0.1Nチオ硫酸ナトリウム水溶液で無色になるまで滴定して滴定量を(E1)とする。別に、メタノールのみを用いて同様の操作を行い、その時の0.1Nチオ硫酸ナトリウム水溶液で無色になるまでの滴定量を(E0)(ml)とする。次式(III) に従って、ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液中に残存する酢酸ビニル[F](質量%)を求める。

酢酸ビニルの含有量(F)(質量%)=0.0043×(E0−E1)×100/D (III)

(ii)(i)と同様に追い出し処理後のポリ酢酸ビニルのメタノール溶液を用いて、ポリ酢酸ビニルの含有量を求めるために、該メタノール溶液を1〜2g採取して、その質量(G)(g)を測定する。160〜170℃の乾燥機内で30分間乾燥する。乾燥後の質量(H)(g)を測定して、次式(IV)に従ってポリ酢酸ビニル[P](質量%)を求める。

ポリ酢酸ビニル[P](質量%)=(H/G)×100 (IV)

(iii)上述の(i)及び(ii)より得られた、酢酸ビニルの含有量(F)及びポリ酢酸ビニル(P)を用い、次式(V)に従って、追い出し率を求める。

追い出し率(%)={P/(P+F)}×100 (V)
【0054】
(3)PVAの重合度(粘度平均重合度):
JIS−K6726に準じて、上記した数式(I)により、以下の実施例および比較例で得られたPVAの重合度[粘度平均重合度(P)]を求めた。
【0055】
(4)PVAのケン化度:
JIS−K6726に記載されている方法に従って、以下の実施例および比較例で得られたPVAのケン化度(モル%)を求めた。
【0056】
(5)PVAの1,2−グリコール結合単位の含有量:
(i) 以下の実施例または比較例で得られたPVAに、水酸化ナトリウムのメタノール溶液を、PVA中のビニルアルコール単位1モルに対して水酸化ナトリウム量が0.1モルとなる量で加え、60℃で5時間再ケン化し、得られたPVAをメタノールにて1週間ソックスレー抽出することで、ケン化度が99.9モル%以上の精製PVAを得る。
(ii) 上記(i)で得られるケン化度が99.9モル%以上の精製PVAを90℃で2日間減圧乾燥してメタノールを完全に除去した後、ジメチルスルホキシド−d6(DMSO−d6)に溶解して0.1質量%溶液にし、当該溶液にトリフルオロ酢酸を数滴(約0.1ml)加えて、80℃で核磁気共鳴装置(日本電子社製「AL−400」)を使用して、そのプロトンNMRを測定した。
PVA(PVA)に含まれる1,2−グリコール結合単位の含有量は、ビニルアルコール単位のメチンに由来する3.2〜4.0ppmのピーク(積分値α)と、1,2−グリコール結合単位の1つのメチンに由来する3.25ppmのピーク(積分値β)とから、次の数式(V)に従って算出される。

PVAの1,2−グリコール結合単位の含有量(モル%)=100×β/α (VI)
【0057】
(6)PVAの酢酸ナトリウムの含有量:
JIS−K6726に記載の溶解電導法に従って、PVAの酢酸ナトリウムの含有量を求めた。
【0058】
(7)PVA水溶液の粘度安定性:
以下の実施例および比較例で得られたPVAのそれぞれを用いて、濃度を調整して10℃での水溶液の粘度がB型粘度計(東京計器社製「B型粘度計」)にて10000mPa・sであるPVA水溶液をそれぞれ調製し、当該PVA水溶液を10℃の恒温槽中に放置して、所定時間ごとに当該PVA水溶液の粘度をB型粘度計にて測定して、横軸に時間を、縦軸に粘度をプロットし、それによって得られたグラフからPVA水溶液の粘度が10℃で20000mPa・sに到達した時間を求めて、粘度安定性の評価を行なった。なお、PVA水溶液の粘度の測定は最大で360分まで行なった。
具体的には、上記で調製した1つの実施例または比較例のPVA水溶液を13個のトールビーカー(容量300ml)に均等に分注し、13個のトールビーカーの全てを10℃の恒温水槽中に同時に入れて放置しながら、1番目のビーカー内のPVA水溶液の粘度を測定開始時に測定し、2番目のビーカー内のPVA水溶液の粘度を測定開始から30分後に測定し、3番目のビーカー内のPVA水溶液の粘度を測定開始から60分後に測定し、4番目のビーカー内のPVA水溶液の粘度を測定開始から90分後に測定し、以後5〜13番目のビーカー内のPVA水溶液について30分毎に測定して、横軸に時間を、縦軸に粘度をプロットし、それによって得られたグラフから粘度が20000mPa・sに到達した時間を求めた。
なお、ビーカー内のPVA水溶液の粘度が測定開始から360分を経過する前に20000mPa・sに到達した場合には、その時点で粘度の測定を終了した。
【0059】
(8)PVA水溶液の波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm):
(i) 以下の実施例および比較例で得られたPVAのそれぞれを用いて、PVA水溶液を調製し、JIS−K0115に記載の分光光度計(島津製作所製「UV−1700」)を使用し、光路長30mmの石英製セル(島津製作所製「S10−UV30」)を用いて、温度20℃で波長190〜400nmの紫外線領域での吸光度を測定し、波長280nmにおける吸光度(Aa280)および波長320nmにおける吸光度(Aa320)を求めた。
前記した吸光度(Aa280)および吸光度(Aa320)の測定に使用したPVA水溶液の濃度は、重合度が6000未満のPVAでは30g/Lとし、重合度が6000以上のPVAでは10g/Lとした。その際にPVA水溶液の濃度の測定は、JIS−K6726に記載の方法により行なった。
(ii) 前記(i)と同じ分光光度計および石英製セルを使用して、温度20℃で、PVA水溶液の調製に使用した水の波長190〜400nmの紫外線領域での吸光度を測定し、波長280nmにおける水の吸光度(Ab280)および波長320nmにおける水の吸光度(Ab320)を求めた。
(iii) 下記の数式(VII−1)および(VII−2)から、PVA水溶液の波長280nmおよび320nmにおける水質補正した吸光度(A280)および吸光度(A320)を求めた。

水質補正した吸光度(A280)=吸光度(Aa280)−吸光度(Ab280) (VII−1)
水質補正した吸光度(A320)=吸光度(Aa320)−吸光度(Ab320) (VII−2)

(iv) 上記の数式(VII−1)で得られた水質補正した吸光度(A280)を、測定に使用したPVA水溶液の濃度(C)(g/L)で除し、それにより得られた値[吸光度(A280)/C](L/g)を、本発明における「PVA水溶液の波長280nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)」とした。
また、上記の数式(VII−2)で得られた水質補正した吸光度(A320)を、測定に使用したPVA水溶液の濃度(C)(g/L)で除し、それにより得られた値[吸光度(A320)/C](L/g)を、本発明における「PVA水溶液の波長320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)」とした。
【0060】
(9)PVA皮膜の耐水性(PVA皮膜の水溶出率):
(i) 蒸留水を用いてPVAの2質量%水溶液を調製し、この水溶液を20℃で膜状に流延した後、20℃で1週間乾燥して厚さ40μmのPVA皮膜を製造した。これにより得られたPVA皮膜を120℃で10分間熱処理した後、縦×横=10cm×10cmの大きさに切り出して試験片を作製し、その質量(W0)を測定した。
(ii) 上記(i)で作製した試験片を20℃の蒸留水に24時間浸漬した後、取り出し(回収し)、表面に付着した水分をガーゼで拭き取り、105℃で16時間乾燥した後、乾燥時の質量(W1)を測定し、下記の数式(VIII)からPVA皮膜の水溶出率(質量%)を求めて、下記の表1に示す評価基準にしたがってPVA皮膜の耐水性を評価した。

PVA皮膜の水溶出率(質量%)={(W0−W1)/W0}×100 (VIII)
【0061】
【表1】

【0062】
(10)PVA皮膜の耐候性:
(i) 蒸留水を用いてPVAの2質量%水溶液を調製し、この水溶液を20℃で膜状に流延した後、20℃で1週間乾燥して厚さ150μmのPVA皮膜を製造した。これにより得られたPVA皮膜を120℃で10分間熱処理した後、縦×横=20cm×20cmの大きさに切り出して試験片を作製した。
(ii) 上記(i)で作製した試験片を用いて、サンシャインウェザーメーター(スガ試験機製「S80」)を使用して、ブラックパネル温度63℃、湿度50%の条件で2000時間放置し、放置前後のb値の変化量(Δb)を求めて、耐候性の評価を行なった。
なお、b値はSMカラーコンピューター(スガ試験機製)で測定した。b値の変化量(Δb)の値が大きいほど黄変し易く、耐候性に劣ることを示す。
【0063】
(11)無機物含有PVA皮膜の耐水性:
(i) 蒸留水を用いてPVAの2質量%水溶液を調製し、この水溶液に、PVA:コロイダルシリカの質量比が100:50となるように、コロイダルシリカ(日産化学工業製「スノーテックスST−O」)の20質量%水分散液を加えてPVA/コロイダルシリカ混合液を調製した後、当該PVA/コロイダルシリカ混合液を20℃で膜状に流延し、次いで温度20℃で1週間乾燥して厚さ40μmの無機物含有PVA皮膜を製造した。これにより得られた無機物含有PVA皮膜を120℃で10分間熱処理した後、縦×横=10cm×10cmの大きさに切り出して試験片を作製した。
(ii) 上記(i)で作製した試験片を20℃の蒸留水に24時間浸漬した後、取り出し(回収し)、表面に付着した水分をガーゼで拭き取り、水膨潤時の質量(W2)を測定した。水膨潤時の質量を測定した試験片を105℃で16時間乾燥し、乾燥時の質量(W3)を測定し、下記の数式(IX)から無機物含有PVA皮膜の水膨潤度(倍)を求めて、下記の表2に示す評価基準にしたがって無機物含有PVA皮膜の耐水性を評価した。

無機物含有PVA皮膜の水膨潤度(倍)=W2/W3 (IX)
【0064】
【表2】

【0065】
《実施例1》[「PVA−1a」の製造]
(1) 撹拌機、温度計、温水ジャケットおよび水冷コンデンサーを備え付けた内容積6600リットル、高さ3m、塔径(内径)1.8mの重合槽に、予め脱酸素した酢酸ビニルを679.5kg/毎時、メタノールを22.9kg/毎時、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)の0.5質量%メタノール溶液を7.0kg/毎時、および酢酸ビニルに対する酒石酸の添加量が20ppmとなるように酒石酸の0.3質量%メタノール溶液を連続的に仕込み(4.5kg/毎時)、重合槽内での滞留時間が4.5時間となるように重合槽内に維持しながら酢酸ビニルを重合させると共に、重合槽内の内容物(反応生成物)をギヤーポンプで連続的に重合槽から取り出した。このときの重合槽内における全メタノール量は、酢酸ビニル100質量部に対して5.06質量部であった。
その際に、重合槽内およびコンデンサー内を36±1KPa(絶対圧)の減圧状態に保って内容物を沸騰させると、内容物の温度は40±0.5℃に保持され、重合槽から取り出した内容物(反応生成物)中の酢酸ビニルの重合率は12質量%であった。
(2) 重合槽より取り出した反応生成物に、ソルビン酸の0.26質量%メタノール溶液を7.0kg/毎時の割合で添加して重合反応を停止させた後、反応生成物をトレイを備えた塔の頂部から常圧の状態で且つ716.8kg/毎時の割合で流下させ、一方塔の下部から温度90℃および圧力(ゲージ圧)190KPaのメタノール蒸気を600kg/毎時の量で吹き込んで、反応生成物に含まれている未反応の酢酸ビニルを反応生成物から向流的に追い出して[未反応の酢酸ビニルの除去率(追出し率)99.9%]、塔の下部からポリ酢酸ビニルを21質量%の割合で含有するメタノール溶液を回収した。
【0066】
(3) 上記(2)で得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液に、ポリ酢酸ビニルの酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.023となるように水酸化ナトリウムの6質量%メタノール溶液を撹拌下に加えて、30℃でケン化反応を開始させた。ケン化反応の進行に伴ってゲル化物が生成し、ケン化反応の開始から50分経過した時点でゲル化物を粉砕してメタノールで膨潤したPVAを得た。PVAをその5質量倍のメタノールで洗浄し、次いで55℃で1時間、100℃で2時間乾燥してPVA(「PVA−1a」という)を得た。
(4) 上記(3)で得られた「PVA−1a」の重合度は5500、ケン化度は99.51モル%、1,2−グリコール結合単位の含有量は1.4モル%、酢酸ナトリウムの含有量は0.4質量%であった。
また、上記(3)で得られた「PVA−1a」の水溶液の粘度安定性、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)、「PVA−1a」から形成した皮膜の耐水性(水溶出率)および耐候性、並びに「PVA−1a」から形成した無機物含有PVA皮膜の耐水性(水膨潤度)を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表3に示すとおりであった。
【0067】
《実施例2〜6》[「PVA−2a」〜「PVA−6a」の製造]
(1) 下記の表3に示す条件を採用した以外は実施例1と同様にして、「PVA−2a」〜「PVA−6a」をそれぞれ製造した。なお、「PVA−2a」〜「PVA−6a」を製造するための、酢酸ビニルの重合工程では、実施例1と同様に、酢酸ビニルに対する酒石酸の添加量が20ppmとなるように酒石酸の0.3質量%メタノール溶液を重合槽に連続的に仕込んだ。
(2) 上記(1)で得られた「PVA−2a」〜「PVA−6a」の重合度、ケン化度、1,2−グリコール結合単位の含有量および酢酸ナトリウムの含有量は下記の表3に示すとおりであった。
また、上記(1)で得られた「PVA−2a」〜「PVA−6a]の水溶液の粘度安定性、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)、[PVA−2a」〜「PVA−6a」から得られた皮膜の耐水性(水溶出率)および耐候性、並びに「PVA−2a」〜「PVA−6a」から得られた無機物含有PVA皮膜の耐水性(水膨潤度)を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表3に示すとおりであった。
【0068】
《実施例7〜12》[「PVA−7a」〜「PVA−12a」の製造]
(1) 下記の表4に示す条件を採用した以外は実施例1と同様にして、「PVA−7a」〜「PVA−12a」をそれぞれ製造した。なお、「PVA−7a」〜「PVA−12a」を製造するための、酢酸ビニルの重合工程では、実施例1と同様に、酢酸ビニルに対する酒石酸の添加量が20ppmとなるように酒石酸の0.3質量%メタノール溶液を重合槽に連続的に仕込んだ。
(2) 上記(1)で得られた「PVA−7a」〜「PVA−12a」の重合度、ケン化度、1,2−グリコール結合単位の含有量および酢酸ナトリウムの含有量は下記の表4に示すとおりであった。
また、上記(1)で得られた「PVA−7a」〜「PVA−12a]の水溶液の粘度安定性、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)、[PVA−7a」〜「PVA−12a」から得られた皮膜の耐水性(水溶出率)および耐候性、並びに「PVA−7a」〜「PVA−12a」から得られた無機物含有PVA皮膜の耐水性(水膨潤度)を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表4に示すとおりであった。
【0069】
《比較例1〜7》[「PVA−1b」〜「PVA−7b」の製造]
(1) 下記の表5に示す条件を採用した以外は実施例1と同様にして、「PVA−1b」〜「PVA−7b」をそれぞれ製造した。なお、「PVA−1b」〜「PVA−7b」を製造するための、酢酸ビニルの重合工程では、実施例1と同様に、酢酸ビニルに対する酒石酸の添加量が20ppmとなるように酒石酸の0.3質量%メタノール溶液を重合槽に連続的に仕込んだ。
(2) 上記(1)で得られた「PVA−1b」〜「PVA−7b」の重合度、ケン化度、1,2−グリコール結合単位の含有量および酢酸ナトリウムの含有量は下記の表5に示すとおりであった。
また、上記(1)で得られた「PVA−1b」〜「PVA−7b」の水溶液の粘度安定性、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)、[PVA−1b]〜「PVA−7b」から得られた皮膜の耐水性(水溶出率)および耐候性、並びに「PVA−1b」〜「PVA−7b」から得られた無機物含有PVA皮膜の耐水性(水膨潤度)を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表5に示すとおりであった。
なお、下記の表5に示すように、比較例2(PVA−2b)、比較例4(PVA−4b)、比較例6(PVA−6b)および比較例7(PVA−7b)では、PVA水溶液にコロイダルシリカの水性分散液を混合してPVA/コロイダルシリカ混合液を調製した際にゲル化が生じて皮膜を得ることができなかった。
【0070】
《比較例8〜13》[「PVA−8b」〜「PVA−13b」の製造]
(1) 下記の表6に示す条件を採用した以外は実施例1と同様にして、「PVA−8b」〜「PVA−13b」をそれぞれ製造した。なお、「PVA−8b」〜「PVA−13b」を製造するための、酢酸ビニルの重合工程では、実施例1と同様に、酢酸ビニルに対する酒石酸の添加量が20ppmとなるように酒石酸の0.3質量%メタノール溶液を重合槽に連続的に仕込んだ。
(2) 上記(1)で得られた「PVA−8b」〜「PVA−13b」の重合度、ケン化度、1,2−グリコール結合単位の含有量および酢酸ナトリウムの含有量は下記の表6に示すとおりであった。
また、上記(1)で得られた「PVA−8b」〜「PVA−13b」の水溶液の粘度安定性、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)、[PVA−8b]〜「PVA−13b」から得られた皮膜の耐水性(水溶出率)および耐候性、並びに「PVA−13b」〜「PVA−13b」から得られた無機物含有PVA皮膜の耐水性(水膨潤度)を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表6に示すとおりであった。
【0071】
《比較例14》[「PVA−14b」の製造]
(1) 特許文献2(特開平5−117307号公報)の実施例1と同様にしてPVA(PVA−14b)を製造した。
すなわち、撹拌機、温度計、窒素導入管およびドライアイス冷却管を取り付けた反応器にイオン交換水100質量部、酢酸ビニル1000質量部、ポリオキシエチレン[POE(40)]ノニルフェニルエーテル(三洋化成株式会社製「ノニポール400」)40質量部、ロンガリット1.25質量部およびFeSO4・7H2Oを0.12質量部の割合で仕込み、30分間煮沸した後、窒素を導入しながら5℃まで冷却し、別途脱気したイオン交換水を用いて調製した0.07質量%の過酸化水素水を10質量部/毎時で均一に連続添加しながら減圧度(絶対圧)35Torr(4.7KPa)で重合を開始した。重合中は、酢酸ビニルを絶えず還流していた。重合率が64.7質量%に達した時点(重合開始4.1時間後)に過酸化水素の添加を停止して重合を停止した。
(2) 上記(1)で得られたポリ酢酸ビニルのエマルジヨンを、室温下でメタノール25000質量部にヒドロキノンモノメチルエーテル1質量部を溶解した液に投入し、撹拌しながら溶解した。減圧下でメタノールを添加しながら、未反応の酢酸ビニルを除去し、ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液を得た。
(3) 上記(2)で得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液を、濃度6質量%、[NaOH]/[酢酸ビニル単位](モル比)=0.15および温度40℃の条件下でケン化してPVAにした。ケン化反応の進行に伴ってゲル化物が生成し、ケン化反応の開始から60分経過した時点でゲル化物を粉砕してメタノールで膨潤したPVAを得た。PVAをその5質量倍のメタノールで洗浄し、次いで55℃で1時間、100℃で2時間乾燥してPVA(「PVA−14b」という)を得た。
【0072】
(4) 上記(3)で得られた「PVA−14b」の重合度は19800、ケン化度は99.75モル%、1,2−グリコール含有量は0.5モル%、酢酸ナトリウム含有量は1.5質量%であった。なお、「PVA−14b」の前記重合度は、上記(3)で得られたPVA−14bを再酢化して得られたポリ酢酸ビニルのアセトン溶液を30℃で測定した極限粘度から求めた値であり、当該極限粘度から粘度平均重合度(P)を算出するために、P=([η]×1000/7.94)(1/0.62)の数式を採用した(ポリ酢酸ビニルの極限粘度から重合度を求めたため)。
また、上記(3)で得られた「PVA−14b」の水溶液の粘度安定性、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)、「PVA−14b」から形成した皮膜の耐水性(溶出率)および耐候性を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表6に示すとおりであった。
なお、下記の表6に示すように、この比較例14(PVA−14b)では、PVA水溶液にコロイダルシリカの水性分散液を混合してPVA/コロイダルシリカ混合液を調製した際にゲル化して、皮膜を得ることができなかった。
【0073】
【表3】

【0074】
【表4】

【0075】
【表5】

【0076】
【表6】

【0077】
上記の表3〜表6の結果にみるように、実施例1〜12で得られたPVAは、上記の要件《1》〜《5》を満足していることによって、PVA水溶液の280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)が低くて着色がなく、色調(無色透明性)に優れている。
しかも、上記の要件《1》〜《5》を満足する実施例1〜12のPVAから形成したPVA皮膜は水溶出率が小さくて耐水性に優れ、Δbが小さくて耐候性に優れ、その上当該PVAを用いてゲル化を生ずることなく無機物含有PVA皮膜を円滑に製造することができ、それにより得られた無機物含有PVA皮膜が水膨潤度が小さくて耐水性に優れている。
【0078】
それに対して、比較例1、3および5のPVAは、ケン化度が99.40モル%または99.30モル%であって上記の要件《2》を満足しておらず(ケン化度が本発明における下限値よりも小さく)、さらに粘度10000mPa・sのPVA水溶液が10℃で粘度20000mPa・sに増加するまでの時間が300分または280分であって上記の要件《4》をも満足していない(増粘時間が本発明における上限値を超えている)ことにより、当該PVAを用いて形成した無機物含有PVA皮膜の水膨潤度が高くて耐水性に劣っている。
【0079】
また、比較例2、4、6および7のPVAは、ケン化度がいずれも99.99モル%であって上記の要件《2》を満足しておらず(ケン化度が本発明における上限値を超えており)、さらに粘度10000mPa・sのPVA水溶液が10℃で粘度20000mPa・sに増加するまでの時間が5分、30分、20分または15分であって上記の要件《4》をも満足していない(増粘時間が本発明における下限値よりも短い)ことにより、当該PVAを用いて無機物含有PVA皮膜を製造しようとしたときにゲル化が生じて無機物含有PVA皮膜を製造することができない。しかも、比較例4のPVAから形成した皮膜は、Δbの値が大きく、耐候性に劣っている。
【0080】
比較例8〜11のPVAは、1,2−グリコール結合単位の含有量が1.6モル%または1.7モル%であって、上記の要件《3》を満足しておらず(1,2−グリコール結合単位が本発明における上限値を超えており)、またこれらの比較例のPVAのうち、比較例8〜10のPVAは重合度が3500または2400であって上記の要件《1》を満足していない(重合度が本発明における下限値よりも小さい)ことにより、当該PVAから形成した皮膜の水溶出率が高く、耐水性に劣っている。
【0081】
比較例12および比較例13のPVAは、当該PVAの水溶液の波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)(測定温度20℃)がいずれも0.02L/gを超えているために、当該PVAから形成した皮膜のΔb値が大きく、耐候性に劣っている。
また、比較例14のPVAは、重合度が19800と高すぎて上記の要件《1》を満足しておらず、1,2−グリコール結合単位の含有量が0.5モル%で上記の要件《3》を満足しておらず、しかも当該PVAの水溶液の波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(セル光路長30mm)(測定温度20℃)がいずれも0.02L/gを超えているために、当該PVAから形成した皮膜のΔb値が大きく、耐候性に劣っており、更に当該PVAを用いて無機物含有PVA皮膜を製造しようとしたときにゲル化が生じて無機物含有PVA皮膜を製造することができない。
【0082】
更に、上記の表3〜6の結果にみるように、上記の実施例1〜12では、本発明の製造方法を採用してPVAを製造していることによって要件《1》〜《5》を満足するPVAが得られている。
それに対して、比較例1〜7では、ケン化度が99.50〜99.97モル%の範囲になるようにしてケン化処理を行っておらず、比較例8〜10では酢酸ビニルとメタノール混合物の大気圧での沸点で酢酸ビニルを重合しており(減圧下で重合していない)、比較例11でも同様に酢酸ビニルとメタノール混合物の大気圧での沸点で酢酸ビニルを重合しており(減圧下で重合していない)且つ酢酸ビニルの重合時のアルコール量が本発明の範囲よりも少なく、比較例12では酢酸ビニルとメタノール混合物の大気圧での沸点以下の温度で減圧下で重合されているものの、酢酸ビニルの重合時にアルコール量が本発明の範囲よりも少なく、比較例13では酢酸ビニルとメタノール混合物の大気圧での沸点以下の温度で重合されているものの減圧下で重合されていないために、上記《1》〜《5》を同時に満足するPVAが得られていない。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のビニルアルコール系重合体は、力学的特性、耐水性、耐候性に優れ、着色がなく色調に優れ、水溶液にしたときの粘度安定性に優れ、無機物との混合液を容易に調製することができて、耐水性、耐候性および色調に優れる皮膜、塗膜、成形体などを形成することができるので、それらの特性を活かして、各種コーティング剤、インクジェット記録材をはじめとして種々の用途に有効に使用することができる。
本発明の製造方法により、上記した優れた特性を備える本発明のビニルアルコール系重合体を円滑に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の要件《1》〜《5》を満足することを特徴とするビニルアルコール系重合体。
《1》粘度平均重合度(P)が4000〜8000である;
《2》ケン化度が99.50〜99.97モル%である;
《3》1,2−グリコール結合単位の含有量が1〜1.5モル%である;
《4》当該ビニルアルコール系重合体を水に溶解して10℃での粘度が10000mPa・sであるビニルアルコール系重合体水溶液を調製し、その水溶液を10℃で静置したときに、粘度が20000mPa・sまで増加するのに要する時間が50〜250分である;および、
《5》当該ビニルアルコール系重合体を水に溶解して調製した濃度30g/Lのビニルアルコール系重合体水溶液[粘度平均重合度(P)が6000未満のビニルアルコール系重合体の場合]または濃度10g/Lのビニルアルコール系重合体水溶液[粘度平均重合度(P)が6000以上のビニルアルコール系重合体の場合]の、光路長30mmのセルを用いて測定してなる、波長280nmおよび320nmにおける濃度補正後の吸光度(測定温度20℃)が、いずれも0.02L/g以下である。
【請求項2】
酢酸ナトリウムの含有量が2質量%以下である請求項1に記載のビニルアルコール系重合体。
【請求項3】
(i)ビニルエステル系単量体100質量部に対してアルコールを2.5〜10質量部の割合で含むビニルエステル系単量体混合物を重合槽内に仕込み、当該ビニルエステル系単量体混合物の大気圧下での沸点以下の温度で、重合槽内の圧力を減圧状態に保ちながら沸騰状態で、重合率8〜30質量%でビニルエステル系単量体を重合して、ケン化後に粘度平均重合度(P)が4000〜8000のビニルアルコール系重合体となる重合度を有するビニルエステル系重合体を製造し、次いで(ii)前記(i)の工程で得られるビニルエステル系重合体を含む反応生成物に重合禁止剤を添加し、反応生成物中に残存するビニルエステル系単量体をアルコールで置換して除去した後、アルカリ性物質の存在下に、ビニルエステル系重合体を、ケン化度99.50〜99.97モル%のビニルアルコール系重合体を生成する条件下でケン化することを特徴とする請求項1または2に記載のビニルアルコール系重合体の製造方法。
【請求項4】
前記(i)の重合工程において、ビニルエステル系単量体100質量部に対してアルコールを2.5〜8質量部の割合で含むビニルエステル系単量体混合物を重合槽内に仕込み、重合率10〜20質量%でビニルエステル系単量体を重合してビニルエステル系重合体を製造する、請求項3に記載のビニルアルコール系重合体の製造方法。
【請求項5】
前記(i)の重合工程を、ビニルエステル系単量体の分解によるアルデヒド生成を抑制する有機酸の存在下で行う請求項3または4に記載のビニルアルコール系重合体の製造方法。
【請求項6】
前記(ii)の工程において、重合禁止剤の添加量が、反応生成物中に残存する未分解の重合開始剤1モルに対して1〜10モルである請求項3〜5のいずれか1項に記載のビニルアルコール系重合体の製造方法。

【公開番号】特開2009−221461(P2009−221461A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33417(P2009−33417)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】