説明

ビニルエステル系樹脂エマルジョンの製法

【課題】 作業性に優れ、機械的安定性の高いビニルエステル系樹脂エマルジョンを提供すること。
【解決手段】 ビニルアルコール系重合体を分散剤とし、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの存在下にビニルエステル系単量体を乳化重合するにあたり、該ビニルエステル系単量体を重合系に添加するのと同時に3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを添加することを特徴とするビニルエステル系樹脂エマルジョンの製法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業性に優れ、さらに機械的安定性の高いビニルエステル系エマルジョンの製法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール等の水溶性高分子を保護コロイドとして用いて、ビニルエステル系単量体を乳化重合して得られるビニルエステル系樹脂エマルジョンは、紙用、木工用、およびプラスチック用等の各種接着剤、含浸紙用および不織製品用等の各種バインダー、混和剤、打継ぎ剤、塗料、紙加工および繊維加工等の分野で広く用いられている。このように広く用いられているビニルエステル系樹脂エマルジョンも、(1)粘度の温度依存性が大きく、冬季等の低温時に粘度上昇が著しく、作業性が悪い、(2)低温造膜性が悪く、可塑剤の添加が必要である、(3)水性エマルジョンであるが故に、冬季等の低温時に凍結することがある、(4)高濃度にすると粘度上昇が著しく、作業性が悪くて取扱いが不便である、(5)界面活性の比較的低い高ケン化ポリビニルアルコールを使用した場合に得られるエマルジョンの粒子が大きくなり、塗工性や皮膜にした際の透明性が劣る、等の欠点がある。これらの欠点を克服するため、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを含有させることが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−046252号公報
【特許文献2】特開2002−003515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを含有させると、作業性に優れ、粒子径が小さく塗工性、皮膜の透明性に優れたエマルジョンが得られるが、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを添加する方法によっては、得られたエマルジョンの機械的安定性が低く、ポンプで送液した場合や接着剤としてローラーで紙や木材に塗布した場合にエマルジョン粒子が凝集し、ラインの詰まりや接着性の低下等が生じることがある。したがって、本発明は作業性に優れ、なおかつ機械的安定性の高いエマルジョンを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題は、ビニルアルコール系重合体を分散剤とし、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの存在下にビニルエステル系単量体を乳化重合するにあたり、該ビニルエステル系単量体を重合系に添加するのと同時に3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを添加することを特徴とするビニルエステル系樹脂エマルジョンの製法を提供することによって解決される。
【0006】
上記の場合において、前記ビニルエステル系単量体は酢酸ビニルを含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法により得たエマルジョンは、従来の技術で得られるエマルジョンと同等の作業性や塗工性、皮膜にした際の透明性を有し、機械的安定性に関しては従来の方法で得られるエマルジョンよりも格段に優れるので、紙用、木工用、およびプラスチック用等の各種接着剤、含浸紙用および不織製品用等の各種バインダー、混和剤、打継ぎ剤、塗料、紙加工および繊維加工等の分野で好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、ビニルアルコール系重合体を分散剤とし、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの存在下にビニルエステル系単量体を乳化重合する、ビニルエステル系樹脂エマルジョンの製法であり、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを、ビニルエステル系単量体を重合系に添加するのと同時に添加することを特徴とする。
【0009】
本発明で使用されるビニルエステル系単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等が挙げられるが、一般に酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0010】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、上記ビニルエステル系単量体と共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体、ジエン系単量体または多官能性単量体を、重合系に共存させて共重合しても構わない。かかるエチレン性不飽和単量体としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン;塩化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化オレフィン;アクリル酸、メタクリル酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル等のメタクリル酸エステル;アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチルおよびこれらの四級化物;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N’−ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびそのナトリウム塩等のアクリルアミド系単量体;スチレン、α−メチルスチレン、p−スチレンスルホン酸およびそのナトリウム塩、カリウム塩等のスチレン系単量体;が挙げられる。ジエン系単量体としては、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等が挙げられる。多官能性単量体としては、ジビニルベンゼン、テトラアリロキシエタン、N,N’−メチレンビス−アクリルアミド、2,2’−ビス(4−アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,5−ペンタンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、アリルメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、メタクリル酸アルミニウム、メタクリル酸マグネシウム、メタクリル酸亜鉛、メタクリル酸カルシウム、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルトリメリテート、ジアリルクロレンデート、エチレングリコールジグリシジルエーテルアクリレート等が挙げられる。これらは単独で、あるいは二種以上を混合して用いられる。
【0011】
本発明において、分散剤として使用されるビニルアルコール系重合体は、特に制限はないが、公知の方法により製造したビニルエステル系重合体をケン化することにより得ることができる。ビニルアルコール系重合体のケン化度は特に制限されないが、通常70モル%以上のものが用いられ、特に好ましくは80モル%以上のものが用いられる。ケン化度が70モル%未満の場合には、ビニルアルコール系重合体本来の性質である水溶性が低下する懸念が生じる。また、ビニルアルコール系重合体の重合度(粘度平均重合度)は特に制限されないが、通常100〜8000の範囲のものが用いられ、300〜3000が好ましく用いられる。重合度が100未満の場合には、ポリビニルアルコール系重合体の保護コロイドとしての特徴が発揮されないおそれがあり、また、8000を超える場合には、該ポリビニルアルコール系重合体の工業的な製造に問題が生じるおそれがある。
【0012】
また、該ビニルアルコール系重合体は本発明の効果を損なわない範囲で共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合したものでもよい。このようなエチレン性不飽和単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、(無水)マレイン酸、イタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびそのナトリウム塩、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。また、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸等のチオール化合物の存在下で、酢酸ビニル等のビニルエステル系単量体を重合するか、またはビニルエステル系単量体と他のエチレン性不飽和単量体とを共重合し、それをケン化することによって得られる末端変性物も用いることができる。
【0013】
分散剤としてのビニルアルコール系重合体の使用量は特に制限されないが、重合系中のビニルエステル系単量体および他の単量体の合計量100重量部に対して、好ましくは0.1〜20重量部、より好ましくは0.5〜15重量部である。ビニルアルコール系重合体の量が0.1重量部未満であると、重合安定性が低下するおそれがあり、20重量部を超えた場合には重合反応中に増粘が起こって撹拌を阻害し、また異常発熱する等安定した重合が困難になるおそれがある。
【0014】
本発明で用いられる3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールは単独で使用しても良いが、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール以外の、分子内に水酸基とアルコキシ基、または水酸基とエステル基を有する化合物と併用しても良い。かかる化合物としては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシ−1−ブタノール、2−フェノキシ−1−エタノール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、プロピレングリコール モノ−2−エチルヘキサノエート等が挙げられる。これらは1種類のみを併用してもよく、2種類以上を使用してもよい。
【0015】
本発明は、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを、ビニルエステル系単量体を重合系に添加するのと同時に添加することを最大の特徴とする。ビニルエステル系単量体と3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールは、予め混合して重合系に添加してもよいし、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールとビニルエステル系単量体をそれぞれ別々に添加してもよい。
例えば、重合開始時に3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを一括して添加した後、ビニルエステル系単量体を連続的に添加しながら重合した場合、重合初期にはグリコールエーテルが単量体に対して過剰量存在することになり、得られるエマルジョンの機械的安定性が著しく低下する。また、ビニルエステル系重合体の全量を添加し、重合が終了した後に3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを添加すると、粒子の微細化や可塑効果において充分な効果が得られない。
【0016】
3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールおよびビニルエステル系単量体の重合系への添加方法については、該ビニルエステル系単量体を重合系に添加するのと同時に3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを添加すること以外特に制限はないが、重合開始時に一括添加する方法、一定時間をかけて連続的または断続的に添加する方法、初期に全添加量の一部を一括添加した後、残りを連続的または断続的に添加する方法等が挙げられる。ただし、重合開始時に一括添加を行うと、重合による発熱が著しく、重合温度を制御できなくなるおそれがあるため、連続的または断続的に添加する方法、初期に全添加量の一部を一括添加した後、残りを連続的に添加する方法が好ましい。
【0017】
3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの使用量に特に制限はないが、ビニルエステル系単量体100重量部に対して、0.5〜30重量部、好ましくは1〜20重量部である。添加量が0.5重量部未満では充分な効果が得られず、作業性、塗工性等が悪くなるおそれがあり、一方、30重量部以上添加した場合にはエマルジョンの安定性が低下するおそれがある。
【0018】
本発明において、ビニルエステル系樹脂エマルジョンの製法に関する上記以外の条件は特に制限されず、公知の条件が適宜採用される。例えば、反応容器内でビニルアルコール系重合体の水溶液中にビニルエステル系単量体と3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを連続的に添加し、アゾ系重合開始剤、過酸化水素、過硫酸アンモニウムおよび過硫酸カリウム等の過酸化物系重合開始剤を添加し、乳化重合する方法が挙げられる。重合温度、重合時間についても、公知の条件の範囲から選択される。また、前記重合開始剤は還元剤と併用し、レドックス系で用いられる場合もある。その場合、通常、過酸化水素は酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリット等とともに用いられ、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムは亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等とともに用いられる。
【0019】
こうして得られるビニルエステル系樹脂エマルジョンの固形分濃度は特に制限されないが、通常、30〜70重量%、好ましくは40〜60重量%である。固形分濃度が30重量%未満の場合、エマルジョンの放置安定性が低下し、二相に分離するおそれがある。また、固形分濃度が70重量%を超えるものは、エマルジョン製造中の増粘が著しく、製造が困難になるおそれがある。
【0020】
得られるビニルエステル系樹脂エマルジョンの粘度は特に制限されないが、通常、30℃で100〜100,000mPa・S、好ましくは1,000〜70,000mPa・Sである。粘度が100mPa・S未満の場合、接着剤、塗料等の用途において充分な性能を発揮できないおそれがあり、70,000mPa・Sを超えるものは、流動性が劣り、製造や送液が困難になるおそれがある。粘度の測定方法は特に制限されず、公知の測定装置、条件が適宜採用される。例えば、ブルックフィールド粘度計により行うことができる。
【0021】
得られるビニルエステル系樹脂エマルジョンの最低造膜温度は特に制限されないが、通常、30℃以下、好ましくは20℃以下である。30℃を超える場合、皮膜にする際に充分な強度を有する皮膜が得られなくなるおそれがある。最低造膜温度の測定方法は、特に制限されず、公知の測定方法、条件が適宜採用される。例えば、熱勾配型Minimum film−forming temperature(以下、MFTと記載する。)測定器を用い、アプリケーターバーでエマルジョンを流延し、目視観察にて不連続点を見極め、その位置の温度を読み取ることで測定することができる。
【0022】
上記のビニルエステル系樹脂エマルジョンの使用に際しては、該エマルジョンをそのまま用いることができるが、必要であれば、従来公知の各種エマルジョンや、通常添加される添加剤を添加することができる。添加剤の例としては、有機溶剤類、可塑剤、沈澱防止剤、増粘剤、流動性改良剤、防腐剤、防錆剤、消泡剤、充填剤、湿潤剤、着色剤等が挙げられる。
【0023】
上記のビニルエステル系樹脂エマルジョンは、作業性や塗工性、皮膜にした際の透明性、機械的安定性に優れているため、紙用、木工用、およびプラスチック用等の各種接着剤、含浸紙用および不織製品用等の各種バインダー、混和剤、打継ぎ剤、塗料、紙加工および繊維加工等の分野で好適に用いられる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例および比較例において「部」および「%」は、特に断らない限り重量基準を意味する。
【0025】
実施例1
還流冷却器、温度計、窒素吹き込み口を備えた1リットルガラス製重合容器に、イオン交換水292g、酢酸ナトリウム0.20g、および重合度1700、ケン化度88モル%のPVA(株式会社クラレ製「ポバール」PVA−217(商品名))19.5gを仕込み、窒素置換して95℃で完全に溶解させた。このPVA水溶液を60℃に冷却後、200rpmで撹拌しながら、20%酒石酸水溶液2.20gを添加し、その4分後に5%過酸化水素水溶液2.99gを添加し、その1分後に酢酸ビニル26.0gと3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール(株式会社クラレ製「ソルフィット」(商品名))2.80gとを予め混合しておいた溶液を仕込み、重合を開始した。重合開始30分後から15分かけて85℃まで昇温した後に、20%酒石酸水溶液を0.44g添加後、酢酸ビニル234gと3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール25.2gとを予め混合した溶液と、1%過酸化水素水溶液15.0gをそれぞれフィードポンプで2時間30分かけて連続的に添加し、その後20%酒石酸水溶液0.42gと5%過酸化水素水溶液0.57gを添加して重合を完結させた。重合液を冷却した後、25%アンモニア水溶液で重合液のpHを5〜6に調整し、60メッシュの網でろ過してポリ酢酸ビニルエマルジョンを得た。このエマルジョンの評価を以下の方法で行った。
【0026】
(1) 固形分濃度
エマルジョンを約1g量り取り、105℃の乾燥機内に16時間放置した後の残分の重量から固形分濃度を算出した。

固形分濃度(%)=(乾燥後のエマルジョン重量)/(乾燥前のエマルジョン重量)×100

(2) 粘度
エマルジョン200gを30℃で5時間放置した後、ブルックフィールド粘度計により回転数20rpmでの粘度を測定した。また、放置する温度および時間を、0℃、24時間とした以外は同様にして、粘度を測定した。粘度上昇倍率は、0℃での粘度と30℃での粘度の比により算出した。

粘度上昇倍率(倍)=(0℃での粘度)/(30℃での粘度)

(3) 最低造膜温度(MFT)
熱勾配型MFT測定器(日本理学工業製)に、0.3mmアプリケーターバーでエマルジョンを流延し、目視観察にて不連続点を見極め、その位置の温度を読み取り、最低造膜温度とした。
(4) 平均粒子径
エマルジョン0.1gを水20gで希釈し、動的光散乱粒度分布測定装置(大塚電子株式会社製ELS−8000)を用いて測定した。
(5) 凝固率(機械的安定性)
マロンテスター(新星産業製)を用いて、エマルジョン50gに荷重5kg、回転数1000rpmで20分間負荷をかけた後、80メッシュの金網でろ過して残留した固形分の重量から、次式により凝固率を求めた。

凝固率(重量%)=(凝固物の固形分重量)/(エマルジョンの固形分濃度×エマルジョンの重量)×100

(6) 融点
示差走査熱量計(セイコーインスツル製DSC「EXSTAR DSC6200」))により、−100℃から毎分10℃昇温した際の吸熱ピークを読み取ることによって、エマルジョンの融点を測定した。
【0027】
以上の評価の結果を表1に示す。
【0028】
比較例1
還流冷却器、温度計、窒素吹き込み口を備えた1リットルガラス製重合容器に、イオン交換水292g、酢酸ナトリウム0.20g、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール(株式会社クラレ製「ソルフィット」(商品名))28.0g、および重合度1700、ケン化度88モル%のPVA(株式会社クラレ製「ポバール」PVA−217(商品名))19.5gを仕込み、窒素置換して95℃で完全に溶解させた。このPVA水溶液を60℃に冷却後、200rpmで撹拌しながら、20%酒石酸水溶液2.20gを添加し、その4分後に5%過酸化水素水溶液2.99gを添加し、その1分後に酢酸ビニル26.0gを仕込み、重合を開始した。重合開始30分後から15分かけて85℃まで昇温した後に、20%酒石酸水溶液を0.44g添加後、酢酸ビニル234gと、1%過酸化水素水溶液15.0gをそれぞれフィードポンプで2時間30分かけて連続的に添加し、その後20%酒石酸水溶液0.42gと5%過酸化水素水溶液0.57gを添加して重合を完結させた。重合液を冷却した後、25%アンモニア水溶液で重合液のpHを5〜6に調整し、60メッシュの網でろ過してポリ酢酸ビニルエマルジョンを得た。このエマルジョンの評価を実施例1と同様の方法で行った。結果を表1に示す。
【0029】
比較例2
還流冷却器、温度計、窒素吹き込み口を備えた1リットルガラス製重合容器に、イオン交換水292g、酢酸ナトリウム0.20g、および重合度1700、ケン化度88モル%のPVA(株式会社クラレ製「ポバール」PVA−217(商品名))19.5gを仕込み、窒素置換して95℃で完全に溶解させた。このPVA水溶液を60℃に冷却後、200rpmで撹拌しながら、20%酒石酸水溶液2.20gを添加し、その4分後に5%過酸化水素水溶液2.99gを添加し、その1分後に酢酸ビニル26.0gを仕込み、重合を開始した。重合開始30分後から15分かけて85℃まで昇温した後に、20%酒石酸水溶液を0.44g添加後、酢酸ビニル234gと、1%過酸化水素水溶液15.0gをそれぞれフィードポンプで2時間30分かけて連続的に添加し、その後20%酒石酸水溶液0.42gと5%過酸化水素水溶液0.57gを添加して重合を完結させた。重合液を冷却した後、25%アンモニア水溶液で重合液のpHを5〜6に調整し、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール(株式会社クラレ製「ソルフィット」(商品名))28.0gを添加し、混合後、60メッシュの網でろ過してポリ酢酸ビニルエマルジョンを得た。このエマルジョンの評価を実施例1と同様の方法で行った。結果を表1に示す。
【0030】
比較例3
還流冷却器、温度計、窒素吹き込み口を備えた1リットルガラス製重合容器に、イオン交換水320g、酢酸ナトリウム0.20g、および重合度1700、ケン化度88モル%のPVA(株式会社クラレ製「ポバール」PVA−217(商品名))19.5gを仕込み、窒素置換して95℃で完全に溶解させた。このPVA水溶液を60℃に冷却後、200rpmで撹拌しながら、20%酒石酸水溶液2.20gを添加し、その4分後に5%過酸化水素水溶液2.99gを添加し、その1分後に酢酸ビニル26.0gを仕込み、重合を開始した。重合開始30分後から15分かけて85℃まで昇温した後に、20%酒石酸水溶液を0.44g添加後、酢酸ビニル234gと、1%過酸化水素水溶液15.0gをそれぞれフィードポンプで2時間30分かけて連続的に添加し、その後20%酒石酸水溶液0.42gと5%過酸化水素水溶液0.57gを添加して重合を完結させた。重合液を冷却した後、25%アンモニア水溶液で重合液のpHを5〜6に調整し、60メッシュの網でろ過してポリ酢酸ビニルエマルジョンを得た。このエマルジョンの評価を実施例1と同様の方法で行った。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
比較例1は、酢酸ビニルを添加する前に3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを添加して重合した例であり、粘度の温度依存性が小さく(粘度上昇倍率が2.4倍)、最低造膜温度の低いエマルジョンが得られてはいるが、機械的安定性が劣っている(凝固率15.9%)。また、比較例2は重合終了後に3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを添加しているが、粒子径が比較例3に示す3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを添加せずに重合したエマルジョンと同等で、効果がみられていない。加えて、最低造膜温度も実施例1や比較例1に比べるとやや劣っている。これらのことから、酢酸ビニルと3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを別々に添加すると、作業性と機械的安定性が共に優れたエマルジョンが得られないことが分かる。一方、酢酸ビニルと3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを同時に添加した実施例1は、粘度の温度依存性が小さく(粘度上昇倍率が2.5倍)、最低造膜温度も低い作業性に優れたエマルジョンが得られ、その機械的安定性も高い(凝固率0.19%)。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明により得られるエマルジョンは、紙用、木工用、およびプラスチック用等の各種接着剤、含浸紙用および不織製品用等の各種バインダー、混和剤、打継ぎ剤、塗料、紙加工および繊維加工等の分野で好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルアルコール系重合体を分散剤とし、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの存在下にビニルエステル系単量体を乳化重合するにあたり、該ビニルエステル系単量体を重合系に添加するのと同時に3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを添加することを特徴とするビニルエステル系樹脂エマルジョンの製法。
【請求項2】
前記ビニルエステル系単量体が酢酸ビニルを含有する、請求項1に記載のビニルエステル系樹脂エマルジョンの製法。

【公開番号】特開2011−132270(P2011−132270A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290009(P2009−290009)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】