説明

ビニル芳香族ポリマーの第三級アミンによるアミノ化

本発明は、一般的に、アミノ化反応及びアミノ化反応生成物に関し、そして特に第三級アミンを利用するビニル芳香族ポリマーのアミノ化方法に関する。一つの態様に於いて、本発明は、第三級アミンと塩化ベンジル基を含有するビニル芳香族ポリマーとを組合せて反応混合物を形成し、その反応混合物のpHを、指定された範囲内に維持することによって、アミノ化反応を実施することを含む。別の態様に於いて、本発明はアミノ化ビニル芳香族ポリマーを含む。更に別の態様に於いて、本発明は第四級アンモニウム官能基を含有するイオン交換樹脂を含む。本発明は、種々の用途、例えば水源から過塩素酸塩イオンの除去及び採鉱濾過溶液からのシアン化金の回収のために適しているイオン交換樹脂を製造するのに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、アミノ化反応及び反応生成物に関し、そして特に、第三級アミンを利用するビニル芳香族ポリマーのアミノ化方法に関する。このような方法及び反応生成物はイオン交換樹脂を製造するために有用である。
【背景技術】
【0002】
ビニル芳香族ポリマーは、一般的に、「アミノ化反応」によって、アミン基で官能化される(即ち、アミノ化反応に於いて、ポリマーは、アミンと反応して、アミノ化反応生成物を生成する)。一般的な例はイオン交換樹脂の製造であり、ここで、クロロメチル化ビニル芳香族ポリマーは、アミンと反応して、官能性アミン基を含むイオン交換樹脂を生成する。このようなアミノ化反応の例は特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4及び特許文献5に示されている。アミノ化は第一級、第二級若しくは第三級アミン又はその組合せを使用して実施することができる。例えば第一級又は第二級アミンによるクロロメチル化され架橋されたビニル芳香族ポリマーのアミノ化、続く第三級アミンによる次のアミノ化の逐次的アミノ化を開示している特許文献6、第三級アミンによる第一アミノ化、続く第二級アミンによるアミノ化を含む逐次的アミノ化を開示している特許文献7及び相対的に大きい(≧C5)アルキル基を有する第三級アミンによるアミノ化、続くより小さいアルキル基を有する第三級アミンによる第二アミノ化を開示している特許文献8を参照されたい。
【0003】
第三級アミンによりアミノ化されたビニル芳香族ポリマーの市販されている例には、DOWEX(登録商標)1ブランドイオン交換樹脂(第四級アンモニウム官能基(即ち、クロロメチル化スチレン−ジビニルベンゼンコポリマーマトリックスとトリメチルアミンとの間の反応によって製造された官能性基)を有する架橋されたスチレン−ジビニルベンゼンコポリマーマトリックスを含んでなる、強塩基、ゲル型樹脂);DOWEX(登録商標)SARブランドイオン交換樹脂(クロロメチル化スチレン−ジビニルベンゼンコポリマーマトリックスとジメチルエタノールアミンとの間の反応によって製造される);DOWEX(登録商標)PSR−2ブランド樹脂(クロロメチル化スチレン−ジビニルベンゼンコポリマーマトリックスとトリ−n−ブチルアミンとの間の反応によって製造された強塩基、ゲル型樹脂である)及びDOWEX(登録商標)PSR−3ブランド樹脂(クロロメチル化スチレン−ジビニルベンゼンコポリマーマトリックスとトリ−n−ブチルアミンとの間の反応によって製造された強塩基、マクロ多孔質樹脂である)が含まれる。
【0004】
第三級アミンによるアミノ化によって製造されたイオン交換樹脂は、しばしば、低い転化率(即ち、第一級又は第二級アミンによるアミノ化と比較したとき、所望のアミノ化反応生成物のより低い収率)及び「ビーズ」又はポリマー粒子破壊に悩まされる。これらの問題は、「嵩高の(bulky)」第三級アミンによりアミノ化したときに、なお一層顕著である。即ち、7個又はそれ以上の炭素原子、特に8個又はそれ以上の炭素原子を有する第三級アミン(例えばトリプロピルアミン、トリブチルアミン等)は、顕著な立体障害(及び劣った水溶性)を有し、これは、ビニル芳香族ポリマーの利用可能な塩化ベンジル基との反応を遅くする。アミンの比較的高い化学量論的比(例えば、塩化ベンジル基1モル当たり、1.5モルよりも大きいアミン)の使用によって転化率を改良することができるが、このような高い比のアミンの使用は高価であり、アミンの損失になり又はアミン回収技術の使用を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,134,169号明細書
【特許文献2】米国特許第6,756,462号明細書
【特許文献3】米国特許第6,924,317号明細書
【特許文献4】米国特許第7,282,153号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2004/0256597号明細書
【特許文献6】米国特許第5,141,965号明細書
【特許文献7】米国特許第3,317,313号明細書
【特許文献8】米国特許第6,059,975号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一般的に、アミノ化反応及びアミノ化反応生成物に関し、そして特に、第三級アミンを利用するビニル芳香族ポリマーのアミノ化方法に関する。一つの態様に於いて、本発明は、第三級アミンと塩化ベンジル基を含有するビニル芳香族ポリマーとを組合せて反応混合物を形成し、この反応混合物のpHを、反応時間の一部の間、指定された範囲内に維持することによって、アミノ化反応を実施することを含む。別の態様に於いて、本発明は、アミノ化ビニル芳香族ポリマーを含む。更に別の態様に於いて、本発明は、第四級アンモニウム官能基を含有するイオン交換樹脂を含む。多くの追加の態様が開示される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、反応時間の関数として、実施例1の、pH及び反応混合物に添加された合計苛性物質を示すグラフである。
【図2】図2は実施例2からの残留アミノ化液体の滴定曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、第三級アミンと塩化ベンジル基を含有するビニル芳香族ポリマーとを組合せることによって、アミノ化反応を実施する方法を含む。このアミノ化反応の態様を、反応1として下記に表す。
【0009】
反応1:クロロメチル化ビニル芳香族ポリマーの第三級アミンによるアミノ化
【0010】
【化1】

【0011】
前述のように、第三級アミンによるクロロメチル化ビニル芳香族ポリマー(即ち、塩化ベンジル基を含有するビニル芳香族ポリマー)のアミノ化反応は、しばしば、第一級又は第二級アミンを使用するアミノ化と比較したとき、比較的低い転化率になる。そして、イオン交換樹脂として使用するとき、得られるポリマー粒子又は「ビーズ」は、一層破壊しやすい。これらの問題点は、7個又はそれ以上の炭素原子を含む第三級アミン、特に8個又はそれ以上の炭素原子を含有するもの、即ち、R1、R2及びR3が、集合的に8個又はそれ以上の炭素原子を含有するもの(例えばトリプロピルアミン、トリブチルアミン等)で、なお一層顕著である。このような「嵩高の」第三級アミンは、一般的に、立体障害(及び劣った水溶性)のために、塩化ベンジル基とのより遅い反応速度を有すると理解されたが、より長い反応時間及びより高い化学量論的量のアミンの使用は、これらの問題点を適切に克服しなかった。理論によって結びつけられることを望まないが、低い転化率及びビーズ破壊問題は、アミノ化反応の間に起こる望ましくない副反応に起因すると思われる。このようなアミノ化は、典型的には、(水及び任意にメチラール又は溶媒若しくは膨潤剤の他の組合せと共に)アルコール系溶媒、例えばメタノールを含む反応混合物内で行われる。このアミノ化反応の間に、主な副反応が同定され、反応2、3及び4により下記に表される。
【0012】
反応2:アルコール(メタノール)による副反応
【0013】
【化2】

【0014】
反応3:水による副反応
【0015】
【化3】

【0016】
反応4:「酸塩」を生成するための第三級アミンとHClとの間の反応
【0017】
【化4】

【0018】
反応2及び3によって示されるように、クロロメチル化ビニル芳香族ポリマーとアルコール系溶媒の構成成分との間の望ましくない反応は、塩酸の生成になり、これは、次いで、(反応4に示されるように)アミンと酸塩を形成する。このアミンの酸塩は、ビニル芳香族ポリマーの塩化ベンジル基と効果的に非反応性であり、これは反応1に於いて表される望ましいアミノ化ビニル芳香族ポリマーの低い収率を部分的に説明する。おそらく更に重要なことに、反応2及び3からのHClの発生は、第三級アミンがビニル芳香族ポリマーの塩化ベンジル基とあまり反応性でなくなるように、反応混合物のpHを著しく低下させる。更に、反応2によって表される副反応は、より低いpH値(例えばpH7未満)で、ますます一層有利になる。粒子又は「ビーズ」の形で提供されるイオン交換樹脂に関連して、反応2の反応生成物は、ビーズの外側部分上に、不均衡的に(disproportionally)、存在することができ、一方、反応1の反応生成物は、内側部分上に不均衡で存在することができる。製造又は使用の間に、ポリマーのアミノ化部分は、アルコキシ部分よりも一層多く膨潤し、ビーズ破壊になる傾向がある。反応混合物を、反応時間のかなりの部分の間、特定のpH範囲内に維持することによって、望ましくない副反応を減少させ、そうして改良されたアミノ化収率にすることができる。結果として、本発明の多くの態様に於いて、より低い化学量論的比(例えばビニル芳香族ポリマーの塩化ベンジル基1モル当たり、1.5モルよりも少ない第三級アミン、一部の態様に於いて、塩化ベンジル1モル当たり、1.2モルよりも少ない、1モル又はそれ以下、更に0.9モル又はそれ以下のアミン)が、商業的に許容される転化率を達成する(例えば塩化ベンジルの少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、幾つかの態様に於いて、少なくとも60%が、反応1に示されるアミノ化反応生成物に転化される)。
【0019】
前記アミノ化は、第三級アミンと、塩化ベンジル基を含有するビニル芳香族ポリマーとを、アルコール系溶媒中で組合せて、反応混合物を形成することによって実施される。好ましい第三級アミンは、式1:
式1:
【0020】
【化5】

【0021】
(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に、アルキル及びアルコキシ基から選択されるが、R1、R2及びR3の炭素原子の合計数は、少なくとも7であるが、好ましくは少なくとも8、9、10、11であり、幾つかの態様に於いて、少なくとも12である)
によって表される。幾つかの態様に於いて、R1、R2及びR3は1〜8個(好ましくは2〜8個)の炭素原子からなるアルキル又はアルコキシ基(但し、炭素原子の合計数は少なくとも8である)から独立に選択される。それぞれのアルキル又はアルコキシ基(R1、R2及びR3)は、独立に、直鎖(例えばエチル、プロピル、ブチル、ペンチル等)又は分枝鎖(例えばイソプロピル、イソブチル等)であってよく、非置換であるか又は置換されて(例えばヒドロキシルのような基によって置換されて)いてよい。一連の態様に於いて、3個のアルキル基(R1、R2及びR3)は、独立に、直鎖又は分枝鎖であってよい、非置換のアルキル基から選択される。他の態様に於いて、主題第三級アミンの「混合種(mixed species)」を使用することができ又は主題第三級アミンを、上記の定義の範囲外であるアミン、例えば第一級及び第二級アミン又は式1の範囲外の第三級アミンとの組合せで使用することができる。適用可能なアミンの特定の例には、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン及びトリヘキシルアミンが含まれる。好ましいアミンはトリ−n−ブチルアミンである。
【0022】
適切なビニル芳香族ポリマーを以下に詳細に説明する。しかしながら、好ましい態様に於いて、ビニル芳香族ポリマーはジビニルベンゼン、エチルビニルベンゼン及びスチレンの懸濁重合によって製造されたゲル型ポリマー(75モル%よりも大きいスチレン含有量を有する)であり、これは、クロロメチル化剤、例えばクロロメチルメチルエーテルと反応される。塩化ベンジル基を含有するビニル芳香族ポリマーの繰り返し単位の例は式2によって表される。
【0023】
式2:塩化ベンジル基を有するビニル芳香族ポリマーの繰り返し単位
【0024】
【化6】

【0025】
(式中、塩化ベンジル基はメタ、オルト又はパラ位に配置されている)
【0026】
この反応混合物は、好ましくは、ビニル芳香族ポリマーの塩化ベンジル基1モル当たり、第三級アミン1.5モル又はそれ以下の比で、第三級アミン及びビニル芳香族ポリマーを含む。しかしながら、他の態様に於いて、アミンの比は、塩化ベンジル基1モル当たり、1.3、1.2、1又は0.9モル又はそれ以下である。他の態様に於いて、第三級アミン及びビニル芳香族ポリマーは、塩化ベンジル基1モル当たり、第三級アミン0.5〜1.5モルの比で組合せられ、一部の態様に於いて、ビニル芳香族ポリマーの塩化ベンジル基1モル当たり、第三級アミン0.5〜1.2モル、0.5〜1モル又は0.5〜0.9モルの比で組合せられる。
【0027】
アルコール系溶媒は、1種又はそれ以上のアルコール溶媒、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール等を含んでいてよいが、メタノールが好ましい。アルコール系溶媒は、更に、追加の溶媒及び/又は膨潤剤、例えば水、メチラール、二塩化エチレン、ジエチルエーテル及び任意的に無機塩、例えば塩化ナトリウムを含有していてよい。好ましい態様に於いて、アルコール系溶媒は、メタノール、メチラール及び水を含み、好ましくは、少なくとも5、20、そして好ましくは30重量%のメタノール、少なくとも5、10、そして好ましくは20重量%のメチラール及び少なくとも5、そして好ましくは10重量%の水を含む。幾つかの態様に於いて、アルコール系溶媒は35〜60重量%のメタノール、5〜50重量%のメチラール及び1〜20重量%の水を含む。
【0028】
第三級アミン、塩化ベンジル基を含有するビニル芳香族ポリマー及びアルコール系溶媒を含む反応混合物を、反応容器内で(好ましくは攪拌下で)少なくとも2時間、好ましくは少なくとも4時間、更に好ましくは少なくとも6時間、一部の態様に於いては少なくとも7時間の反応時間の間、一緒にすることができる。この反応時間は、第三級アミン及びビニル芳香族ポリマーが、反応1が起こり得るような条件下で、互いに接触状態にあるような期間を定義する。一部の態様に於いて、反応時間は2〜12時間、好ましくは5〜10時間である。
【0029】
この反応混合物を、25〜150℃、好ましくは少なくとも50℃、更に好ましくは少なくとも60℃で、反応時間の少なくとも半分、好ましくは90%の間維持する。別の態様に於いて、この反応混合物を、65〜85℃、好ましくは70〜80℃の温度で、反応時間の少なくとも半分の間維持する。別の態様に於いて、この反応混合物を、65〜85℃の温度で、少なくとも4時間の間維持する。この反応混合物の1種又はそれ以上の成分を、組合せる前に予熱することができるが、この反応混合物は、典型的には、室温で組合せ、続いて加熱する。
【0030】
副反応を最小にするために、反応混合物のpHを、少なくとも7、好ましくは少なくとも8、更に好ましくは少なくとも8.5のpHで、反応時間の少なくとも半分、好ましくは90%の間維持する。幾つかの態様に於いて、反応混合物のpHは、7〜12.5、好ましくは8〜12.2、更に好ましくは8.5〜11.5の値で、反応時間の少なくとも半分、好ましくは反応時間の90%の間維持する。反応混合物のpHは、反応混合物に塩基を添加することによって、指定の範囲内に維持することができる。副反応2は、高いpH値で、即ち約12.5、更に11.5のpHよりも上で、ますます一層有利になる。従って、幾つかの態様に於いて、1回の用量(これはpHを所望の範囲よりも上に上昇させ得る)ではなくて、反応時間を通して塩基の複数回用量を添加することによって、反応混合物のpHを維持することが好ましい。その代わりに、弱塩基(例えば炭酸ナトリウム)又は僅かに可溶性の塩基(例えば水酸化カルシウム)を、アミノ化の開始時に、望ましくないpH急上昇(これは強塩基、例えば水酸化ナトリウム(苛性物質)の1回の大量添加によって起こり得る)無しに、反応を通して所望のpHを維持するために十分な量で添加することができる。反応混合物のpHは、好ましくは、塩基強度、塩基溶解度及び添加のタイミングのような変数を最適化することによって好ましく維持される。反応混合物のpHを周期的又は連続的にモニターする任意の工程は塩基選択及び用量に於ける一層の柔軟性を可能にする。塩基の選択は特に限定されない。適切な塩基の例には水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム及び水酸化カリウムが含まれる。
【0031】
アミノ化反応の後、得られる混合物を冷却し、アミノ化ビニル芳香族ポリマーをデカンテーションし、洗浄し、任意的に、上昇した温度(例えば50〜90℃)で希塩酸中で処理する。
【0032】
前述のように、ビニル芳香族ポリマーの種類は特に限定されない。用語「ポリマー」はホモポリマー及びコポリマー(即ち2種又はそれ以上の異なったモノマー種から誘導されたポリマー)の両方を含むように意図されるが、コポリマーが好ましい。ポリマーの好ましい種類には、ときには、当該技術分野に於いて「ポリ(ビニル芳香族)ポリマー」としても参照される、ビニル芳香族ポリマーが含まれる。本説明の目的のために、用語「ビニル芳香族ポリマー」は、モノビニリデンモノマー及び架橋モノマーから誘導されるポリマーを指す。このようなビニル芳香族ポリマーは、公知の重合技術、例えばF.Helfferich著、Ion Exchange(McGraw-Hill、1962年)、第35〜36頁に記載されているような、一段重合プロセス(ここで、単一のモノマー混合物を懸濁重合してコポリマービーズを製造する)又は米国特許第4,419,245号明細書及び米国特許第4,564,644号明細書に記載されているような「播種(seeded)」若しくは多段重合プロセスを使用して製造することができる。
【0033】
適切なモノビニリデンモノマーは公知であり、Interscience Publishers,Inc.、ニューヨークによって1956年に刊行された、Calvin E.Schildknecht編、Polymer Processes、69〜109頁、Chapter III、“Polymerization in Suspension”が参照される。Schildknechtの表II(第78〜81頁)には、本発明を実施する際に適している多くの種類のモノビニリデンモノマーが記載されている。列挙されたモノマーの中で、モノビニリデン芳香族を含む水不溶性モノビニリデンモノマー、例えばスチレン及び置換スチレンが好ましい。用語「置換スチレン」は、スチレンのビニリデン基及びフェニル基の一方又は両方の置換基を含み、ビニルナフタレン、α−アルキル置換スチレン(例えばα−メチルスチレン)、アルキレン置換スチレン(特に、モノアルキル置換スチレン、例えばビニルトルエン及びエチルビニルベンゼン)並びにハロ置換スチレン、例えばブロモ又はクロロスチレン及びビニルベンジルクロリドを含む。他の適用可能なモノマーには、モノビニリデン非スチレン系物質、例えばα,β−エチレン性不飽和カルボン酸、特にアクリル酸又はメタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソボルニル、アクリル酸エチル並びにブタジエン、エチレン、プロピレン、アクリロニトリル及び塩化ビニル並びに該モノマーの1種又はそれ以上の混合物が含まれる。好ましいモノビニリデンモノマーには、スチレン及び置換スチレン、例えばエチルビニルベンゼンが含まれる。用語「モノビニリデンモノマー」は均一なモノマー混合物及び異なった種類のモノマー、例えばスチレン及びメタクリル酸イソボルニルの混合物を含むように意図される。適切な架橋モノマー(即ちポリビニリデン化合物)の例には、ポリビニリデン芳香族物質、例えばジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、ジビニルナフタレン,トリビニルベンゼン、ジ(ビニル)(ジフェニル)エーテル、ジ(ビニル)(ジフェニル)スルホン並びに異種アルキレンジアクリレート及びアルキレンジメタクリレートが含まれる。好ましい架橋モノマーはジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン及びエチレングリコールジメタクリレートである。用語「架橋試薬」,「架橋剤」及び「架橋モノマー」は、本明細書に於いて、同義語として使用され、異なった種類の架橋剤の組合せと共に、架橋剤の単独種を含むように意図される。
【0034】
主題ビニル芳香族ポリマーは、典型的には、50モル%よりも多い、好ましくは75モル%よりも多い、スチレン、置換スチレン又はこれらの組合せ(スチレン及びエチルビニルベンゼンが好ましい)を含むモノマー混合物から製造される。換言すると、得られるビニル芳香族ポリマーは、(全モル含有量基準で)50モル%よりも大きい、更に好ましくは75モル%よりも大きい、スチレン含有量を有する。用語「スチレン含有量」は、ポリマーを形成するために使用されたスチレン及び/又は置換スチレンのモノビニリデンモノマー単位の量を指す。このモノマー混合物は、更に、典型的には、全モノマー混合物の0.01〜20モル%、好ましくは、1〜15モル%である、適切な量の架橋剤モノマーを含有する。
【0035】
適用可能なビニル芳香族ポリマーの別の種類は相互侵入高分子網目(IPN)を含むものである。用語「相互侵入高分子網目(interpenetrating polymer network)」は、それぞれが網目(ネットワーク)形状にある少なくとも2種のポリマーを含む材料(ここで、これらのポリマーの少なくとも1種は、他のポリマーの存在下で、合成及び/又は架橋される)を記載するように意図される。この高分子網目は、互いに物理的に絡み合っており、幾つかの態様に於いて、また、共有結合している。特徴的に、IPNは、溶媒中で膨潤するが溶解せず、加熱したときに流動もしない。IPNを含有するイオン交換樹脂は、長年に亘って市販されており、複数ポリマー成分の製造を含む公知の技術によって製造することができる。このような樹脂の例は、それらの製造技術と共に、米国特許第4,419,245号明細書、米国特許第4,564,644号明細書、米国特許第4,582,859号明細書、米国特許第5,834,524号明細書、米国特許第6,251,996号明細書、特許文献3及び米国特許出願公開第2002/0042450号明細書に記載されている。本明細書中において使用する用語「ポリマー成分」は、別個の重合工程から得られるポリマー材料を指す。例えば、本発明の好ましい態様に於いて、主題IPNイオン交換樹脂は「播種」樹脂である。即ち、この樹脂は播種プロセス(ここで、ポリマー(好ましくは架橋された)種が最初に形成され、続いてモノマーを吸収し、続いて重合される。続いて、追加のモノマーを、重合プロセスの間に添加(即ち、「連続添加」又は「連添」)することができる。種(seed)粒子の形成は、別個のポリマー成分を構成する。同様に、種の中にモノマー混合物を吸収し、重合させるプロセス段階は、更に別のポリマー成分を構成する。使用する場合、種を「成長させる」ために一般的に使用されるモノマー混合物の、続く連続添加は、また別個のポリマー成分を構成する。本明細書に於いて特に記載されている以外は、それぞれのポリマー成分の構成は同じであっても異なっていてもよい。更に、重合工程の間に使用されるモノマー混合物は均質であることを必要としない。即ち、モノマーの比及び種類は変化してよい。用語「ポリマー成分」は、得られる樹脂が、相互侵入高分子網目以外の任意の特定の形態を有することを意味するように意図されない。しかしながら、この樹脂は、米国再発行特許第Re34,112号明細書に記載されているような「コア−シェル」型構造を有することができる。本発明のそれぞれのポリマー成分は、好ましくは、最終IPNポリマー粒子の、約5重量%超、更に好ましくは少なくとも10重量%寄与する。典型的には、この樹脂は、2種又はそれ以上のポリマー成分、例えば種成分、吸収成分及び/又は連続添加成分を含む。当業者は、異なった又は追加の組合せのポリマー成分を使用できること、例えば複数の連続添加成分を利用できることを認めるであろう。第一、第二、第三などのポリマー成分は添加の順序に必ずしも対応していない。即ち、「第一のポリマー成分」は、最初に重合されたポリマー成分、例えば種粒子に必ずしも対応していない。用語「第一」、「第二」などは、1種の成分を他の成分から区別するためにのみ使用され、添加の順序を指定しない。
【0036】
前述のように、本発明のポリマーは、播種重合の方法によって製造することができる。連続又は半連続段階式重合としても知られている播種重合は、一般的に、米国特許第4,419,245号明細書、米国特許第4,564,644号明細書及び米国特許第5,244,926号明細書に記載されている。播種重合プロセスは、典型的には、モノマーを、2個又はそれ以上の増分(インクレメント)で添加する。それぞれの増分は、次の増分の添加の前に、その中にあるモノマーの完全な又は実質的な重合によって続けられる。播種重合は、懸濁重合として有利に実施され、懸濁重合に於いて、モノマー又はモノマーの混合物及び種粒子が、連続懸濁媒体中に分散され、重合される。このようなプロセスに於いて、段階式重合(staged polymerization)は、モノマーの最初の懸濁液を形成し、このモノマーを全部又は部分的に重合して、種粒子を形成し、続いて、残りのモノマーを1個又はそれ以上の増分で添加することによって、容易に達成される。それぞれの増分は、一度に又は連続的に添加することができる。懸濁媒体中のモノマーの不溶解性及び種粒子中のそれらの溶解度のために、モノマーは種粒子によって吸収され、その中で重合される。多段階式重合技術は、各段のために使用されるモノマーの量及び種類並びに使用される重合条件で変化し得る。
【0037】
使用される種粒子は、前記のような公知の懸濁重合技術によって製造することができる。第一のモノマー混合物は、1)第一のモノビニリデンモノマー、2)第一の架橋モノマー及び3)有効量の第一のフリーラジカル開始剤を含む。懸濁媒体は、1種又はそれ以上の、当該技術分野で一般的に使用されている懸濁剤を含有することができる。重合は、懸濁液を、一般的に約50〜90℃の温度に加熱することによって開始される。この懸濁液を、このような温度又は約90〜150℃の任意的に上昇させた温度で、ポリマーへのモノマーの所望の転化度に到達するまで維持する。他の適切な重合方法は、米国特許第4,444,961号明細書、米国特許第4,623,706号明細書、米国特許第4,666,673号明細書及び米国特許第5,244,926号明細書に記載されている。
【0038】
適用可能なモノビニリデンモノマー及び架橋モノマーには、前記のものが含まれる。種ポリマー成分は、好ましくは(合計モル含有量基準で)50モル%よりも大きい、更に好ましくは75モル%よりも大きいスチレン含有量からなる。用語「スチレン含有量」は、ポリマーを形成するために使用されたスチレン及び/又は置換スチレンのモノビニリデンモノマー単位の量を指す。「置換スチレン」は、前記のように、スチレンのビニリデン基及びフェニル基の一方又は両方の置換基を含む。一つの態様に於いて、第一のポリマー成分(例えば種)を形成するために使用される第一のモノマー混合物は、少なくとも75モル%のスチレン、幾つかの態様に於いて、少なくとも85モル%のスチレンを含む。
【0039】
ポリマー種粒子中の架橋モノマーの割合は、好ましくは次の重合工程に於いて(そしてイオン交換樹脂への転化に於いても)粒子を不溶性にするために、なお更に、任意的な相分離希釈剤及び第二のモノマー混合物のモノマーの適切な吸収を可能にするために充分である。一部の態様に於いて、架橋モノマーは使用されないであろう。一般的に、種粒子中の架橋モノマーの適切な量は少量であり、即ち、望ましくは種粒子を製造するために使用される第一のモノマー混合物中のモノマーの全モル数基準で、約0.01〜約5モル%、好ましくは、約0.1〜約2.5モル%である。好ましい態様に於いて、第一のポリマー成分(例えば種)は、少なくとも85モル%のスチレン(又はエチルビニルベンゼンのような置換スチレン)及び0.01〜約5モル%のジビニルベンゼンを含む第一のモノマー混合物の重合から誘導される。
【0040】
第一のモノマー混合物の重合は、モノマーのポリマーへの実質的に完全な転化に達しない点まで、又はその代わりに実質的に完全な転化まで、実施することができる。不完全な転化を望む場合、得られる部分的に重合された種粒子は、有利に、次の重合段階に於いて更なる重合を開始することができるフリーラジカル源泉をその中に含有する。用語「フリーラジカル源泉」は、フリーラジカル、フリーラジカル開始剤の残留量又は両方を指し、これは、エチレン性不飽和モノマーの更なる重合を誘導することができる。本発明のこのような態様に於いて、その中のモノマーの重量基準で、約20〜約95重量%、更に好ましくは約50〜約90重量%の第一のモノマー混合物が、ポリマーに転化されることが好ましい。フリーラジカル源泉の存在のために、次の重合段階に於けるフリーラジカル開始剤の使用は任意である。第一のモノマー混合物の転化が実質的に完全である態様について、次の重合段階に於いてフリーラジカル開始剤を使用することが必要であろう。
【0041】
このフリーラジカル開始剤は、エチレン性不飽和モノマーの重合に於いてフリーラジカルを発生するための一般的な開始剤のいずれか1種又は組合せであってよい。代表的な開始剤は、UV放射線及び化学開始剤、例えばアゾビスイソブチロニトリルを含むアゾ化合物並びに過酸素化合物、例えば過酸化ベンゾイル、t−ブチルペルオクトエート、t−ブチルペルベンゾエート及びイソプロピルペルカーボネートである。他の適切な開始剤は米国特許第4,192,921号明細書、米国特許第4,246,386号明細書及び米国特許第4,283,499号明細書に記載されている。フリーラジカル開始剤は、特定のモノマー混合物中のモノマーの重合を誘導するために充分な量で使用される。この量は、当業者が認識できるように変化するであろうし、使用される開始剤の種類並びに重合されるモノマーの種類及び比率に依存するであろう。一般的に、モノマー混合物の全重量基準で、約0.02〜約2重量%の量が適切である。
【0042】
種粒子を製造するために使用される第一のモノマー混合物は、有利には、モノマーと実質的に非混和性である液体(例えば好ましくは水)を含む攪拌された懸濁媒体中に懸濁される。一般的に、この懸濁媒体は、モノマー混合物及び懸濁媒体の合計重量基準で、約35〜約70重量%、好ましくは、約40〜約55重量%の量で使用される。懸濁媒体中のモノマー小滴の比較的均一な懸濁及びビーズ凝集の防止を維持することを助けるために、種々の懸濁剤が一般的に使用される。例示的懸濁剤は、ゼラチン、ポリビニルアルコール、水酸化マグネシウム、ヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース及びカルボキシメチルメチルセルロースである。他の適切な懸濁剤は、米国特許第4,419,245号明細書に開示されている。使用される懸濁剤の量は、使用されるモノマー及び懸濁剤に依存して、広範囲に変化することができる。ラテックス形成を最小にするために、ラテックス抑制剤、例えば二クロム酸ナトリウムを使用することができる。
【0043】
種粒子は任意の好都合なサイズであってよい。一般的に、種粒子は、望ましくは約75〜約1000ミクロン、好ましくは約150〜約800ミクロン、そして更に好ましくは約200〜約600ミクロンの体積平均粒子直径を有する。粒子直径の分布は、ガウス分布又は均一(例えば粒子の少なくとも90体積%が体積平均粒子直径の約0.9〜約1.1倍の粒子直径を有する)であってよい。
【0044】
前述のように、ポリマー粒子は、複数の種粒子を用意し、その後、第二のモノマー混合物を、この混合物が種粒子によって吸収され、その中で重合が実施されるように添加することによって製造することができる。この工程は、下記のように、好ましくは回分−播種プロセスとして又はその場での(in situ)回分−播種プロセスとして実施される。第二のモノマー混合物は、米国特許第4,564,644号明細書に記載されているように、重合条件下で、間欠的に又は連続的に添加することもできる。
【0045】
所謂「回分−播種」プロセスに於いて、ポリマーの約10〜約50重量%を含む種粒子を連続懸濁媒体中に好ましく懸濁させる。次いで、フリーラジカル開始剤を含む第二のモノマー混合物を、懸濁された種粒子に添加し、それによって吸収され、次いで重合される。あまり好ましくはないが、種粒子に第二のモノマー混合物を吸収させ、その後連続懸濁媒体中に懸濁させることができる。第二のモノマー混合物は、一回の量で又は段階的に、添加することができる。第二のモノマー混合物は、好ましくはこの混合物が種粒子によって実質的に完全に吸収されるまで、重合が実質的に起こらないような条件下で、種粒子によって吸収される。モノマーを実質的に吸収するために必要な時間は、ポリマー種組成及びその中に吸収されるモノマーに依存して変化するであろう。しかしながら、吸収の程度は、一般的に、種粒子又は懸濁媒体、種粒子及びモノマー小滴の顕微鏡検査によって決定することができる。第二のモノマー混合物は、望ましくは第二のモノマー混合物中のモノマーの全重量基準で、約0.5〜約25モル%、好ましくは約2〜約17モル%、更に好ましくは2.5〜約8.5モル%の架橋モノマーを含有し、残りはモノビニリデンモノマーを含み、ここで、架橋モノマー及びモノビニリデンモノマーの選択は、第一のモノマー混合物の製造(即ち種製造)を参照して前記したものと同じである。種製造でのように、好ましいモノビニリデンモノマーには、スチレン及び/又は置換スチレンが含まれる。好ましい態様に於いて、第二のポリマー成分(即ち第二のモノマー混合物又は「吸収された」ポリマー成分)は、(第二のモノマー混合物の合計モル含有量基準で)50モル%よりも大きい、更に好ましくは少なくとも75モル%のスチレン含有量を有する。好ましい態様に於いて、第二のポリマー成分は、少なくとも75モル%のスチレン(及び/又は置換スチレン、例えばエチルビニルベンゼン)並びに約1〜20モル%のジビニルベンゼンを含む第二のモノマー混合物の重合から誘導される。
【0046】
その場での回分−播種プロセスに於いて、約5〜約80重量%のIPNポリマー生成物を含む種粒子が、最初に、第一のモノマー混合物の懸濁重合によって形成される。この種粒子は、前記のように、その中にフリーラジカル源泉(これは更なる重合を開始することができる)を有することができる。任意的に、種粒子が適切なフリーラジカル源泉を含有しない場合又は追加の開始剤が望まれる場合、重合開始剤を、第二のモノマー混合物と共に添加することができる。この態様に於いて、種製造及び次の重合段階は、単一反応器内でその場で実施される。次いで、第二のモノマー混合物を懸濁した種粒子に添加し、それによって吸収され、重合される。第二のモノマー混合物は、重合条件下で添加することができるが、その代わりに、この混合物が、種粒子によって実質的に完全に吸収されるまで、重合が実質的に起こらないような条件下で、懸濁媒体に添加することができる。第二のモノマー混合物の組成は、好ましくは回分−播種態様について前記した記載に対応する。
【0047】
エチレン性不飽和モノマーを重合させるために使用する条件は、当該技術分野で公知である。一般的に、モノマーは、約50〜150℃の温度で、所望の転化率を得るのに充分である時間維持される。典型的には、約60〜85℃の中間の温度が、モノマーのポリマーへの転化が実質的に完結するまで維持され、その後、温度を上昇させて、反応を完結させる。得られる多孔質ポリマー粒子は一般的な方法によって懸濁媒体から回収することができる。
【0048】
前述のように、ビニル芳香族ポリマーは、好ましくはモノビニリデンモノマー、例えばスチレン、架橋モノマー、例えばジビニルベンゼン、フリーラジカル開始剤及び任意的に相分離希釈剤を含む微細に分割された有機相の懸濁重合によって製造される。架橋したポリマーは、マクロ多孔質又はゲル型であってよいが、ゲル型ポリマーが好ましい。用語「ゲル型」及び「マクロ多孔質」は、当該技術分野で公知であり、一般的に、ポリマー粒子多孔度の性質を記載する。当該技術分野で普通に使用される用語「マクロ多孔質」は、ポリマーが、マクロポア(macropore)及びメソポア(mesopore)の両方を有することを意味する。用語「ミクロ多孔質」、「ゲル状(gellular)」、「ゲル」及び「ゲル型」は、約20オングストローム(Å)よりも小さい細孔サイズを有するポリマー粒子を記載する同義語であり、一方、マクロ多孔質ポリマー粒子は約20Å〜約500Åのメソポア及び約500Åよりも大きいマクロポアの両方を有する。ゲル型及びマクロ多孔質ポリマー粒子並びにこれらの製造は米国特許第4,256,840号明細書及び米国特許第5,244,926号明細書に更に記載されている。
【0049】
慣習的には、ビニル芳香族ポリマーのポリマー成分は、それらが誘導されるモノマー含有量の項目で記載されてきた。記載されたポリマーに関して、モノマー含有量は、含有量及び比を含む、得られるポリマーのための正確な代用として機能する。即ち、実質的に全てのモノマー構成成分は、比に於ける実質的な変化無しに重合する。従って、ポリマー成分のスチレン含有量に対する参照は、それからポリマー成分が誘導されるモノマー混合物中のスチレン及び/又は置換スチレンのモル比を記載すると理解されるであろう。
【0050】
完成したポリマー粒子は、好ましくは300〜800ミクロンの平均粒子直径を有するビード構造を有する。この架橋ポリマー粒子は、ガウス粒子サイズ分布又は比較的均一な粒子サイズ分布、即ち「単分散」(即ちビーズの少なくとも90体積%が、体積平均粒子直径の約0.9〜約1.1倍の粒子直径を有する)を有することができる。
【0051】
ビニル芳香族ポリマーをクロロメチル化するための特定の手段及び条件は、特に限定されず、多数の適用可能な技術が、米国特許出願公開第2008/0289949号明細書及び米国特許第6,756,462号明細書と共に、G.Jones、“Chloromethylation of Polystyrene”、Industrial and Engineering Chemistry、第44巻、第1号、第2686−2692頁、(1952年11月)によって示されているように、文献に記載されている。クロロメチル化は、典型的には、このポリマーを、クロロメチル化試薬と、触媒の存在下で、約15〜100℃、好ましくは35〜70℃の温度で、約1〜8時間組合せることによって実施される。好ましいクロロメチル化試薬は、クロロメチルメチルエーテル(CMME)であるが、CMME形成試薬、例えばホルムアルデヒド、メタノール及び塩化水素若しくはクロロスルホン酸の組合せ(特許文献5に記載されている)又は塩化水素とメチル化ホルマリンとの組合せを含む他の試薬を使用することができる。クロロメチル化試薬は、典型的には、ポリマーと、ポリマー1モル当たり約0.5〜20モル、好ましくは約1.5〜8モルのCMMEの量で組合せられる。あまり好ましくはないが、これらに限定するものではないが、ビス−クロロメチルエーテル(BCME)、BCME形成反応剤、例えば米国特許第4,568,700号明細書に記載されているような、ホルムアルデヒド及び塩化水素並びに長鎖アルキルクロロメチルエーテルを含む、他のクロロメチル化試薬を使用することができる。
【0052】
クロロメチル化反応を実施するために有用な触媒は、公知であり、しばしば当該技術分野に於いて、「ルイス酸」又は「フリーデル−クラフト」触媒として参照される。非限定例には、塩化亜鉛、酸化亜鉛、塩化第二鉄、酸化第二鉄、塩化スズ、塩化チタン、塩化ジルコニウム、塩化アルミニウム及びこれらの組合せと一緒の硫酸が含まれる。塩化物以外のハロゲンも、上記の例に於いて使用することができる。好ましい触媒は塩化第二鉄である。この触媒は、典型的には、ポリマー繰り返し単位の1モル当たり、約0.01〜0.2モル、好ましくは約0.02〜0.1モルの触媒の量で使用される。触媒は、任意的な触媒添加物、例えば塩化カルシウム及び活性化試薬、例えば四塩化ケイ素と組合せて使用することができる。1種より多い触媒を使用して、所望のクロロメチル化反応プロフィールを達成することができる。
【0053】
このクロロメチル化反応に於いて、溶媒及び/又は膨潤剤も使用することができる。適切な溶媒の例には、これらに限定するものではないが、脂肪族炭化水素ハロゲン化物、例えば二塩化エチレン、ジクロロプロパン、ジクロロメタン、クロロホルム、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル及びジイソアミルエーテルの1種又はそれ以上が含まれる。クロロメチル化剤としてCMMEを使用するとき、このような溶媒及び/又は膨潤剤は、しばしば必要ではない。
【0054】
クロロメチル化ビニル芳香族ポリマー(即ちメタ、オルト又はパラ位に配置された塩化ベンジル基)を製造するための、クロロメチルメチルエーテル(CMME)による芳香族ビニルポリマーのクロロメチル化は、下記の反応5で表される。
【0055】
反応5:CMMEによるクロロメチル化反応
【0056】
【化7】

【0057】
クロロメチル化生成物への転化率は、好ましくは少なくとも40%、更に好ましくは少なくとも70%、なお更に好ましくは少なくとも80%である。
【0058】
本発明は、主題アミノ化の反応生成物、即ちポリマーのベンジル炭素に結合された窒素原子及び3個のアルキル基又はアルコキシ基を含む第四級アンモニウム官能基を含有するビニル芳香族ポリマーを含む。例示のために、式3は、第四級アンモニウム官能基を含むビニル芳香族ポリマーの繰り返し単位の構造式を示す。
【0059】
式3:
【0060】
【化8】

【0061】
(式中、ベンジル炭素は、芳香族環のメタ、オルト又はパラ位(典型的には、種の組合せを含むが、優先的にパラ置換)に配置されており、R1、R2及びR3は、式1に関して前記したものと同じである)
このようなポリマーは、イオン交換樹脂として適している。
【実施例】
【0062】
実施例1
前記の方法で、スチレン−ジビニルベンゼン(ジビニルベンゼン3.7%)、ゲル型コポリマー70部を、懸濁重合によって製造し、続いて、CMMEとの反応によってクロロメチル化した。クロロメチル化転化率(即ち反応5によって示される)は約78モル%であった。次いで、このクロロメチル化コポリマーを洗浄して、CMMEを含有する残留物を除去し、攪拌機を取り付けた別の反応器に移した。遊離液体を除去し、メタノール、メチラール及び水を含むアルコール系溶媒320部を、反応器に添加した。次いで、NaOH0.9部(20重量%溶液として)を反応器に添加して、クロロメチル化反応から残留する任意の残留副生物HClを破壊した。攪拌し、平衡化させた後、溶媒は、ほぼ、メタノール63重量%、メチラール29重量%及び水8重量%を含んでいた。次いで、トリ−n−ブチルアミン77部を、反応器に添加した。反応器混合物を約80℃まで加熱し、約7時間維持した。アミノ化の間に、反応混合物のpHを、表1−Aに記載したプロトコール(protocol)に従って、苛性物質(20重量%溶液としてのNaOH)の用量を添加することによって調節した。pH値は、反応混合物から採取したサンプルに基づいて決定した。サンプルは、苛性のそれぞれの添加後、約10〜40分で採取した。図1は、反応時間の関数として、pH及び反応混合物に添加された合計苛性物質を示すグラフである。
【0063】
アミノ化の後、コポリマーを、水と酸との組合せで洗浄して、アンモニウム(トリ−n−ブチルアミン基)官能化アニオン交換樹脂を製造した。アニオン交換樹脂の特性を測定し、乾燥重量容量及び転化率を算出した。アニオン交換樹脂の小部分を、トリメチルアミン(TMA)の25重量%溶液中に一夜入れた。これによって、任意の残留塩化ベンジル基がTMA基に転化された。再アミノ化樹脂をトリメチルアミンから分離し、洗浄液の組合せ(水/塩酸/水)によって処理した。樹脂の特性を測定し、残留塩化ベンジル基のモル%を算出した。残留基はメトキシ基に転化されると推定された。計算の結果を表1−Bに示す。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
実施例2
アミノ化反応を、実施例1に記載したものと同様の方法で、実施した。しかしながら、反応混合物のpHは、反応時間を通した苛性物質の複数添加により維持せず、その結果、反応混合物は酸性になった。得られた反応混合物2mLのサンプルを取り出し、それぞれのサンプルを水200mLに添加することによって滴定した。得られた溶液のpHは、約3.2であった。次いで、N/1苛性物質(NaOH)2mLを、それぞれの溶液に添加した。得られた溶液のpHは約11.6であった。この溶液を、N/10 HClによってそれぞれ滴定した。それぞれのサンプルについての滴定データを、表II中に下記に示し、図2に於いてプロットする。滴定データによって示されるように、トリ−n−ブチルアミンの大部分は、約8.5〜11.5のpH範囲内で、その遊離塩基形である。
【0067】
【表3】

【0068】
本発明の原理は、種々の修正及び代替形に従順であるが、特定の種類を、実施例及び詳細な説明の手段によって記載した。この説明の意図は、本発明を、説明した特定の態様に限定するものではなく、この開示の精神及び範囲内に入る全ての修正、均等及び代替をカバーすることであることが理解されるべきである。本発明の多くの態様を説明し、幾つかの例に於いて、一定の態様、選択、範囲、構成又は他の特徴を、「好ましい」として特徴付けた。「好ましい」特徴のキャラクタリゼーションは、決して、このような特徴を、本発明のために必要である、必須である又は重要であるとして見なすと解釈されるべきではない。一定の特徴及び下位組合せは、有用性のあるものであり、他の特徴及び下位組合せを参照することなく使用できることが理解されるであろう。数値の範囲に対する参照は、明示的に、このような範囲の端点を含む。本明細書中に記載したビニル芳香族ポリマーは、本明細書中に記載したアミノ化反応を超えて更に官能化することができ、例えば式1に関連して記載したもの以外のアミン種によってアミノ化することもできることが認められるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第三級アミンと、塩化ベンジル基を含むビニル芳香族ポリマーとを、アルコール系溶媒中で組合せて、反応混合物を形成し;
少なくとも2時間の反応時間の間、アミノ化反応を実施し;そして
前記反応混合物を、少なくとも50℃の温度及び少なくとも7のpHに、反応時間の少なくとも半分の間維持する;
ことによってアミノ化反応を実施する方法。
【請求項2】
前記反応混合物を、反応混合物への塩基の添加によって、8.5〜11.5のpH範囲内に、反応時間の少なくとも半分の間維持する前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項3】
前記反応混合物に、反応時間の間、塩基を繰り返して添加する前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
第三級アミンとビニル芳香族ポリマーとを組合せる工程が、反応剤を、前記ビニル芳香族ポリマーの塩化ベンジル基1モル当たり、第三級アミン1.5モルよりも少ない比で組合せることを更に含んでなる前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記アルコール系溶媒がメタノールを含む前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記第三級アミンが式:
【化1】

(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に、アルキル及びアルコキシ基から選択されるが、R1、R2及びR3の炭素原子の合計数は少なくとも7である)
によって表される前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記第三級アミンがトリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン及びトリヘキシルアミンの少なくとも1種から選択される前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記塩化ベンジル基を含むビニル芳香族ポリマーが式:
【化2】

(式中、塩化ベンジル基はメタ、オルト又はパラ位に配置されている)
によって表される繰り返し単位を含む前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記アミノ化反応の反応生成物が式:
【化3】

(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に、アルキル及びアルコキシ基から選択されるが、R1、R2及びR3の炭素原子の合計数は少なくとも7である)
によって表される繰り返し単位を含有するビニル芳香族ポリマーを含む前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記アミノ化反応の反応生成物が式:
【化4】

(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に、炭素数1〜8のアルキル基から選択されるが、R1、R2及びR3の炭素原子の合計数は少なくとも8である)
によって表される繰り返し単位を含有するビニル芳香族ポリマーを含む前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記反応時間が少なくとも6時間である前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記アルコール系溶媒が少なくとも30重量%のメタノール、少なくとも20重量%のメチラール及び少なくとも10重量%の水を含む前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記塩基が水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム及び水酸化カリウムの少なくとも1種から選択される前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
第三級アミンとビニル芳香族ポリマーとを組合せる工程が、前記ビニル芳香族ポリマーの塩化ベンジル基1モル当たり、第三級アミン1モル又はそれ以下の比で反応剤を組合せることを更に含む前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
i)式:
【化5】

(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に、炭素数1〜8のアルキル基及び炭素数2〜8のアルコキシ基から選択されるが、R1、R2及びR3の炭素原子の合計数は少なくとも8である)
によって表される第三級アミンと、
式:
【化6】

(式中、塩化ベンジル基はメタ、オルト又はパラ位に配置されている)
によって表される繰り返し単位を含むビニル芳香族、ゲル型ポリマー
とを、前記ポリマーの塩化ベンジル基1モル当たり、第三級アミン0.5〜1.2モルの比で、少なくとも30重量%のメタノール、少なくとも20重量%のメチラール及び少なくとも10重量%の水を含むアルコール系溶媒中で組合せて反応混合物を形成し;
ii)5〜10時間の反応時間の間、アミノ化反応を実施し;そして
iii)その反応混合物を、65〜85℃の温度及び8.5〜11.5のpHに、反応時間の少なくとも半分の間維持する
ことを含んでなる前記請求項のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−518053(P2012−518053A)
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−550113(P2011−550113)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際出願番号】PCT/US2009/067411
【国際公開番号】WO2010/093398
【国際公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【Fターム(参考)】