説明

ビニル芳香族化合物の酸化的開裂法

本発明は、式(1)のビニル芳香族化合物の酸化的開裂法に関するものであり、当該方法は、分子状酸素の存在下、ペルオキシダーゼ及びラッカーゼから選択される少なくとも1つの酵素を触媒として使用することにより、式(1)の化合物(単数又は複数)が、下記の一般的な反応スキーム
【化1】


に従い、それぞれ式(2)及び(3)のアルデヒド及びケトンに酸化されることを特徴とし:
式中、nは0から5までの整数であり;
は、1から10の炭素原子を持つ飽和又は不飽和の炭化水素基であって炭素原子が任意にヘテロ原子で置換されており且つ任意に更に置換されたもの、アミノ、C1−6アルキルアミノ及びC1−6ジアルキルアミノ基、ハロゲン、ヒドロキシ並びにシアノから選択され、
ここで2つの置換基Rは、環を形成するように結合していてよく;
及びRは、各々独立して、水素又はRの選択肢の1つであり、
ここでR及び/又はRは、Rと結合して環を形成していてよく、この場合においてR及びRは、各々、化学結合を表し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、酵素触媒を用いた芳香環と共役したエチレン二重結合の酸化的開裂法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の経済状況及び環境意識の増加により、穏やかで且つ選択的な酸化方法、並びに新規の環境に易しく経済的な化学的方法への需要が、かつてないほど高まっている。アルケンの、対応するアルデヒド及びケトンへの酸化的開裂は、(i)分子に酸素官能基を導入するため、(ii)複雑な分子をより小さい単位へと分裂するため、及び(iii)保護基を取り除くために、有機化学で広く使用される合成法である。アルケンの化学的な酸化的開裂のために現在利用可能な方法の中で、還元的なオゾン分解が、「最もきれい」であると考えられている。しかし、実際には、この方法は、特別な設備(オゾン発生器)や深部温度技術(通常−78℃)の使用が要求されること、また還元処理のために化学量論的な量の還元剤(例えば硫化ジメチル、亜鉛、水素、ホスフィンなど)が加えて必要となること等、いくつかの欠点を有する。加えて、例えば、爆発などの深刻な事故を防ぐために、特別な安全対策をとらなければならかなった。
【0003】
酸化剤として金属酸化物を用いる他の方法においては、(少なくとも)化学量論量の塩又は過酸化物が必要とされる。しかしこういったバリエーションは、中程度から低程度の化学選択性、位置選択性、及び立体選択性を示す。多くの場合において、中間体として得られるアルデヒドの、対応する酸への過剰酸化が、防ぎ難い副反応である。例えば、OsO及びNalOの使用[1]、OsO及びOxon(登録商標)(2KHSO+KHSO+KSO)の使用[2]、RuClのNalO又はOxon(登録商標)との併用[3]、並びにルテニウムナノ粒子のNalOとの併用[4]が、記載されてきた。
【0004】
従って、上記の欠点を防ぎ、且つ何よりも、酸素のような非毒性で容易に入手可能な酸化剤を使用するアルケンの酸化方法が望まれる。
【0005】
しかしながら、酸化剤として分子状酸素を用いる方法で唯一知られる化学的な触媒による方法は、触媒としてCo(II)化合物を必要とするものであり、中程度の選択性しかなく、更にはイソオイゲノール誘導体に限定されるものである[5]
【0006】
可能な代替手段は、生物学的な触媒反応であると思われる。しかしながら、酵素的なアルケンの開裂は、リポキシゲナーゼとヒドロペルオキシドリアーゼの混合物を用いる、少数の非常に特定の基質について記載があるのみである[6]
【0007】
加えてこの開裂は、ペルオキシダーゼによる触媒の工程における望ましくない副反応、即ち分析量(analytischen Mengen)の酸化生成物を産出するもの、として記載されたものである[7]‐[13]。分子状酸素は、当然のことながら、これらの反応のいずれにおいても、酸化剤として用いられてはいない。
【0008】
酵素触媒による、酸素を用いた酵素的なアルケンの開裂についても、試みられてきたが、酵素としてある種のモノオキシゲナーゼ及びジオキシゲナーゼを用いるもののみであり、また収率も分析量であった[14]‐[17]。加えてオキシゲナーゼが非常に高い基質特異性を有するため[18]‐[29]、非常に限定的に選択された基質にのみ使用可能なものであった。
【0009】
このような背景に対し、本発明者ら及びその共同研究者らは、その初期の研究において、酸化を触媒するある種の真菌、トラメテス・ヒルスタ(白色腐朽菌)の細胞又は細胞抽出物を加えることにより、酸化剤として分子状酸素を用いて、ある種のアリールアルケンを、対応するアルデヒド及びケトンに酸化し得ることを見出していた[30][31]。それ故、これは生体触媒による反応であり、おそらく酵素触媒によるものである。しかしながら、その原因となる酵素(単数又は複数)については、明らかにすることができなかった。
【0010】
この研究の続きとして、本発明者らは、驚くべきことに、特定の条件下において、ある種のペルオキシダーゼ及びラッカーゼが、また真菌由来のペルオキシダーゼ及びラッカーゼに限らずとも、特別なエチレン二重結合の、酸素によるアルデヒド及びケトンへの酸化的開裂を触媒し得る、ということを見出した。この結果は驚くべきことである。なぜなら酸素は、通常はこのような酵素の基質とはならず(或いはラッカーゼの場合は少なくとも好適な基質ではなく)、また得られた酸化生成物も、通常のオゾン分解反応で得られる生成物であったからである。例えば、ペルオキシダーゼは、その名前が示すように、一般には、処理できるのはペルオキシド結合のみであり、またハロゲンペルオキシダーゼは、もっぱら、ハロゲン化された、例えば、塩素化された又は臭素化された、酸化生成物をもたらすものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
参考文献
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【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の開示
本発明は、芳香環と共役したエチレン二重結合、即ち、下記式(1)の任意に置換されたビニル芳香族化合物、の酸化的開裂法を提供するものであり、当該方法は、分子状酸素の存在下、ペルオキシダーゼ及びラッカーゼから選択される少なくとも1つの酵素を触媒として使用することにより、式(1)の1以上の化合物(単数又は複数)が、下記の一般的な反応スキーム
【0013】
【化1】

【0014】
に従い、それぞれ式(2)及び(3)のアルデヒド及びケトンに酸化されることを特徴とする方法であり:
【0015】
式中、nは0から5までの整数であり、よって当該芳香環は、ビニル基に対してオルト、メタ及び/又はパラの位置(単数又は複数)において、
a)1から10の炭素原子を持つ飽和又は不飽和の炭化水素基であって、1以上の炭素原子が任意に酸素、窒素及び硫黄から選択されるヘテロ原子によって置換されており、且つ任意に、C1−6アルキル基、C1−6アルキレン基、C1−6アルコキシ基、アミノ、C1−6アルキルアミノ及びC1−6ジアルキルアミノ基、ハロゲン、ヒドロキシ、オキソ並びにシアノから選択される1以上の置換基によって更に置換されているもの、
b)アミノ、C1−6アルキルアミノ及びC1−6ジアルキルアミノ基、並びに
c)ハロゲン、ヒドロキシ及びシアノ、
から選択される、同一であっても異なっていてもよい0から5の置換基Rによって置換されていてよく:
ここで任意の2つの置換基Rは、脂環式環又は芳香環を形成するように結合していてよく、且つ、
ここで置換基R及びRは、各々独立して水素、又はa)、b)及びc)に記載された選択肢の1つであり、
ここでR及び/又はRは、置換基Rと結合して脂環式環を形成していてよく、この場合においてR及びRは、各々、それらが結合しているビニル基の炭素原子と置換基Rとの間の化学結合を表し得る。
【発明の効果】
【0016】
このように、上記化合物のための酸化方法が提供され、この方法により、上記に明示した目的を達成することができる。これは、どこにでも存在し、害のない酸化剤である酸素と、生物学的若しくは生物工学的手法により容易に且つ経済的に入手可能な特定の天然酵素を使用することにより、アリールアルケンを、バニリンなど所望のアルデヒド及びケトンに酸化し得ることを意味する。そのため、高価な触媒若しくは毒性(重金属)の触媒を必要とすることなく、また、複雑且つ高価な装置(オゾン発生器、深部温度冷却システム)も必要なく、そして、複雑な処理を要する廃棄物が生じることもない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図面の簡単な説明
【図1】種々の有機溶剤の添加に伴う本発明の方法における、転換の変化を示している。
【図2】種々の有機溶剤の添加に伴う本発明の方法における、転換の変化を示している。
【図3】種々の有機溶剤の添加に伴う本発明の方法における、転換の変化を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
好ましい実施形態においては、当該少なくとも1つの酵素は、真菌のペルオキシダーゼ及びラッカーゼ、ハロゲンペルオキシダーゼ、リグニンペルオキシダーゼ、西洋わさびペルオキシダーゼ並びに牛乳のペルオキシダーゼから選択され、より好ましくは、コプリヌス・シネレウス(インクキノコ)由来の真菌のペルオキシダーゼ、コリオラス・ベルシコラ(ターキーテール)、アガリクス・ビスポラス(培養マッシュルーム)及びカンジダ・ルゴサ(酵母種)由来のラッカーゼ、ラス・ベルニシフェラ(日本の漆の木)由来のラッカーゼ、カルダリオミセス・フマゴ(糸状菌)由来のクロロペルオキシダーゼ、並びに、例えばストレプトミセス・オーレオファシエンス(細菌)若しくはコラリナ・オフィシナリス(サンゴの海草)由来のブロモペルオキシダーゼから選択され、最も好ましくは、西洋わさびペルオキシダーゼ、コプリヌス・シネレウス由来のペルオキシダーゼ、並びに、コリオラス・ベルシコラ及びアガリクス・ビスポラス由来のラッカーゼ、から選択される。通常、好ましいペルオキシダーゼは、ECクラス1.11.1.xのものである。上記の酵素は−下記に説明するような各々の最適条件下において−非常によい結果をもたらす。
【0019】
好ましくは、本発明の方法は、定常な反応条件、特に酸化中の定常pHを維持できるように、バッファー中において実施する。好ましくは、当該反応は、Bis−Trisバッファー、酢酸バッファー、ギ酸バッファー、又はリン酸バッファー中において行う。反応混合物のpH値は、好ましくは2から7、より好ましくは2から4に調整する。当該酵素がこれらの範囲において、それぞれの最大活性を示すからである。
【0020】
更に好ましい実施形態においては、本発明の方法は、収率を増加させるため、O過圧下にて行う。しかしながら、最大活性に達した酵素のいくつかが、より高圧下で再びより低収率となったという事実からもわかるように、この収率の増加は、単に反応平衡のシフトの結果ではない。好ましくは、酸化は、1から6bar、好ましくは2から3barの、O過圧下にて行う。より高い値にしても、更なる改善とはならず、若しくはほとんどならず、より低い転換となることさえ多く、また設備の要件が格段と増加しうる。上記の圧範囲であれば、例えば、従来のParr装置を難なく使用することができる。
【0021】
更に好ましい実施形態においては、本願方法は、光の作用下、即ち照射をして行う。特に酵素としてラッカーゼを用いた場合に、収率が倍増するためである。
【0022】
更なる好ましい実施形態においては、本願方法は、有機溶剤又は溶剤混合物の存在下にて実施し、当該有機溶剤又は溶剤混合物は、好ましくはC1−4アルカノール、ジメチルスルホキシド、トルエン、アセトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド及びそれらの混合物から選択され、その含有量は、好ましくは、反応混合物の1から20容量%、より好ましくは5から15容量%である。
【0023】
更なる局面においては、本願発明は、真菌のペルオキシダーゼ及びラッカーゼ、真菌のハロゲンペルオキシダーゼ、細菌のハロゲンペルオキシダーゼ、リグニンペルオキシダーゼ、西洋わさびペルオキシダーゼ又は牛乳のペルオキシダーゼを、任意に置換されたビニル芳香族化合物の芳香環と共役したエチレン二重結合の、分子状酸素による酸化的開裂の触媒として使用することにも関わり、ここで、本願発明の第一の局面による方法のために記載したものと同一の酵素が好ましい。
【0024】
以下、特定の実施例により、本発明をより詳細に記載するが、これらは、説明の目的にのみ提供されるものであり、発明の限定のために提供されるものではない。
【実施例】
【0025】
まずは、アリールアルケンの分子状酸素による酸化の触媒として、種々の酵素の反応性を、予備実験において決定した。こういった反応における各々の酵素の最適pHを、式(1)のビニル芳香族化合物としてトランス−アネトールを用いたモデル反応において確立した。pHを2から7の値に調整するために、公知のバッファー系を用いた。
【0026】
実施例1から16
種々のpH値におけるトランス−アネトールの酸化
【0027】
【化2】

【0028】
それぞれの酵素(各々調製物3mg、全て固体)を、“Riplate LV”の5mlディープウェルプレート(HJ-Bioanalytik GmbH)のウェル中へ置いた。続いて、それぞれのバッファー900μl、及びトランス−アネトール6μl(0.04mml)を加えた。このプレートを、O加圧リアクター中に、直立状態で置いた。リアクターを純粋な分子状酸素でパージし、圧力を酸素2barに調整した。170rpm、25℃にて24時間経過後、反応混合液を2mlの試験管に移し、ウェルをEtOAc(600μl)にて洗浄した。それぞれの試験管には、水性反応混合液の一次抽出も一緒に行うために、この600μlを加えた。純EtOAc(600μl)にて二次抽出後、有機層を合わせてNaSOで乾燥し、p−アニスアルデヒド(4−メトキシベンズアルデヒド)への転換について、GCで解析した。
【0029】
pH値の調整のためのバッファーは以下のとおりである:
pH2−トリメチルアンモニウム・ギ酸塩/ギ酸、20mM
pH3−トリメチルアンモニウム・ギ酸塩/ギ酸、20mM
pH4−酢酸ナトリウム/酢酸、50mM
pH5−酢酸ナトリウム/酢酸、50mM
pH6−Bis-Trisバッファー、50mM
pH7−Bis-Trisバッファー、50mM
【0030】
それぞれの実施例において使用した酵素、並びに、種々のpHにおいて得られた、トランス−アネトールのp−アニスアルデヒドへの転換を、下記の表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
この表は、上記の酸化反応において試験したペルオキシダーゼ、ハロゲンペルオキシダーゼ及びラッカーゼの、驚くべき触媒効果を明確に示している。ハロゲンペルオキシダーゼ及びラッカーゼと比べ、ペルオキシダーゼは、より反応活性であるが、他のいくつかの酵素、とりわけアガリクス・ビスポラスのラッカーゼの転換は、以下に更に記載する最適化の1つを行う必要なく、本発明の方法の予備的実施として、絶対的に十分なものであった。
【0033】
次に、生体触媒としての酵素の性能における、酸素圧の効果を試験した。
【0034】
実施例17−31
種々の酸素圧におけるトランス−アネトールの酸化
基本的に、反応及びGC測定は、試験した各酵素につき、圧力を、2から6barの間で変化させた以外は、実施例1から16において実行したように行った。大規模な装置が必要とされることから、より高い圧力については実験を行わなかった。試験結果を、下記の図2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
注目すべきは、より高圧又はより低圧における一般的な優先度を確認し得なかったことである。酸素圧が高いと反応の平衡が生成物側にシフトするのではという期待は実現されなかった。むしろ、各々の酵素は、最適pH範囲のみならず、最適圧範囲をも有しているようである。
【0037】
更なる実験において、例えば式(1)のアリールアルケンなどの異なる基質を用いて、基質特異性を減らすことができるよう、それ以外は実質的に同一の条件下にて、種々の酵素を試験した。唯一の例外は、事前に決定したそれぞれの最適pHにて反応を行ったことである。
【0038】
実施例32から36
トランス−アネトールの酸化による酵素の比較
【0039】
【化3】

【0040】
反応、後処理、及びGC測定は、実施例1から16(酸素2bar)において記載したように、且つそれぞれの最適pHに対応したバッファーを使用して行った。使用した酵素、バッファー、pH値、及びトランス−アネトールのp−アニスアルデヒドへの転換を、下記の表3に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
酵素触媒により、時には非常によい収率で、トランス−アネトールがp−アニスアルデヒドへと酸化され得ること、並びに、調製目的において、ラッカーゼも使用できるとはいえ、ペルオキシダーゼがラッカーゼより明らかに優れていることが、またもや明確に示された。
【0043】
実施例37−40
4−アミノスチレンの酸化による酵素の比較
【0044】
【化4】

【0045】
実施例32から36との類推により、異なる酵素及び異なるバッファーを用いて、トランス−アネトールの代わりに、4−アミノスチレンを、4−アミノベンズアルデヒドへと酸化した。加えて、後処理中は、アミノ基の塩化を防ぐため、水性層のpHを10に調整した。実験及びGC測定の結果を表4に示す。
【0046】
【表4】

【0047】
実験条件下において、試験された4つの酵素のうち、コリオラス・ベルシコラ由来のラッカーゼのみが、4−アミノスチレンの酸化を、良い転換結果で触媒し得ることが示された。当該事実、及び当該酵素がトランス−アニトールの場合と比較して2倍を超える効果を発揮したという事実は、酵素が基質特異性を示すことを、明確に立証している。
【0048】
実施例41
4−メトキシスチレンの酸化
【0049】
【化5】

【0050】
実施例32との類推により、トランス−アネトールの代わりに、4−メトキシスチレンを、コプリヌス・シネレウス由来のペルオキシダーゼ、バッチ1を用いて、p−アニスアルデヒドへと酸化した。2つの実験の結果を表5に示す。
【0051】
【表5】

【0052】
この実験は、またもや酵素の基質特異性の証拠を与えるものである。明らかに、試験したペルオキシダーゼは、両側が置換されているトランス−アニトールの二重結合は、非常に良好に酸化できるが、片側が非置換のメトキシスチレンの二重結合は、ほとんど酸化できない。つまり、ビニル基の置換基は、触媒反応に相当な影響をおよぼす。
【0053】
実施例42及び43
2−ブロモスチレンの酸化
【0054】
【化6】

【0055】
実施例32及び33との類推により、トランス−アネトールの代わりに、2−ブロモスチレンを、コプリヌス・シネレウス由来のペルオキシダーゼ、バッチ1、及び西洋わさびペルオキシダーゼ,バッチ1を用いて、本例においては2−ブロモベンズアルデヒドへと酸化した。4つの実験の結果を表6に示す。
【0056】
【表6】

【0057】
この結果は、芳香環の置換基も、触媒反応に実質的な影響を及ぼすことを、またもや立証するものである。
【0058】
実施例44
ω,ω−ジメチルスチレン(2−メチル−1−フェニル−1−プロペン)の酸化
【0059】
【化7】

【0060】
実施例33との類推により、トランス−アネトールの代わりに、ω,ω−ジメチルスチレンを、西洋わさびペルオキシダーゼ,バッチ1を用いて、本例においてはベンズアルデヒドへと酸化した。2つの実験の結果、及び比較の目的のため実施例43の実験の結果を、表7に示す。
【0061】
【表7】

【0062】
基質特異性の証拠が、またもや提供された。スチレンのω−炭素にメチル基が1つではなく2つ存在すること、及び芳香環上の置換基の欠如が、触媒作用に実質的な影響を及ぼしている。
【0063】
実施例45から47
インデンの酸化
【0064】
【化8】

【0065】
実施例32、33及び36との類推により、トランス−アネトールの代わりに、インデンを、コプリヌス・シネレウス由来のペルオキシダーゼ、バッチ1、西洋わさびペルオキシダーゼ,バッチ1、及びコリオラス・ベルシコラ由来のラッカーゼを用いて、本例においては2−(ホルミルメチル)ベンズアルデヒドへと酸化した。6つの実験の結果を表8に示す。
【0066】
【表8】

【0067】
2つのペルオキシダーゼは、インデンを基質として用いた場合には明らかにより低い触媒活性を示したのに対し、(より低活性の)ラッカーゼは、トランス−アネトールの場合と比較して、ほとんど全く差を示さなかった。とはいえ、環状構造中に含まれるエチレン二重結合も、本発明の方法により酸化され得ることが立証された。
【0068】
比較例1及び2
5−o−トリル−2−ペンテンの非共役の二重結合の酸化
【0069】
【化9】

【0070】
実施例32及び33との類推により、トランス−アネトールの代わりに、5−o−トリル−2−ペンテンを、コプリヌス・シネレウス由来のペルオキシダーゼ、バッチ1、及び西洋わさびペルオキシダーゼ,バッチ1を用いて、本例においては3−o−トリプロピオンアルデヒドへと酸化した。2つの実験の結果を表9に示す。
【0071】
【表9】

【0072】
これらの結果から、非共役の二重結合を持つアリールアルケンは、本発明の方法によって酸化することはできないことが示された。酸化生成物は、分析量(≦1%)が検出されたのみであった。
【0073】
実施例48から51
種々の光条件下におけるトランス−アネトールの酸化
反応とGC測定は、基本的には実施例32から36に記載のように、各々の酵素について当該実施例に記載のバッファー中において、試験した各酵素につき2回行った。ここで、1番目の実験系においては、酸化中に反応混合物を照射するために、ランプ(PAR 38 EC Spot, Osram Concentra,120W, 230V, 448)をリアクターの上50cmの距離で置き、2番目の実験系においては、暗くするためリアクターをアルミニウムホイルで覆い、このホイルは穴を開け周囲と酸素の交換を可能にした。試験した全ての酵素の中で最も優れた4つの結果について、下記の表10に示す。
【0074】
【表10】

【0075】
結果は、4つの酵素全ての触媒活性が、光の作用下において、明らかに増加することを示している。とりわけ2つのラッカーゼにおいては、その有効性が8倍又は9倍のレベルに増加していることから、この効果をはっきりと断言できる。つまり、一般に低反応性のラッカーゼも、調製目的のために非常に良好な転換をもたらし得る。
【0076】
実施例52から85
種々の有機溶剤の存在下におけるトランス−アネトールの酸化
実施例1から16に記載の方法との類推により、トランス−アネトールを、コプリヌス・シネレウス由来のペルオキシダーゼ、バッチ1、又は西洋わさびペルオキシダーゼ,バッチ1を触媒として用いて、酸化した。このようにして得られたp−アニスアルデヒドへの44%及び58%の転換を、それぞれ、当該方法の続く繰り返しのブランクとして使用したが、各々の場合において、17μlの有機溶剤を、900μlの水性トリメチルアンモニウム・ギ酸塩/ギ酸バッファー(20mM)に加えた。
【0077】
得られた結果を、下記の表11及び12に、並びにグラフとして図1及び2に示しており、ここで水平の線は、溶剤なしでの実験値(「ブランク」)を示す。
【0078】
【表11】

【0079】
【表12】

【0080】
全ての結果から、溶剤は、酸化反応を完全に阻害することなく、基本的に存在してよいものであることが立証される。表11及び図1から見られるように、コプリヌス・シネレウス由来のペルオキシダーゼは、例外のDMSOを除けば、全て溶剤のせいで、より低い転換となったことから、溶剤の添加に対して、より感受性である。
【0081】
それに対し、西洋わさびペルオキシダーゼを触媒として使用した場合は、ほとんどの場合において、溶剤の添加により、転換の増加となった。シクロヘキサノール及びTween80の場合においてのみ減少となり、2−プロパノールは、ブランクと同じ結果を与えた。
【0082】
特別な理論にとらわれようと望まずにも推測されるのは、水性バッファーに、ほんの1.8容量%の溶剤が添加されたのみであるにも関わらず、当該溶剤が、酸化されるべき式(1)の化合物の可溶化剤として作用しているということである。溶剤がより多量であっても、西洋わさびペルオキシダーゼを用いた転換に正の効果をもたらしうるのかについて調べるため、コプリヌス・シネレウス由来のペルオキシダーゼに対し正の効果を示した唯一の溶剤であるDMSOについて、その量を次第に増加させて、更なる試験系を行った。
【0083】
実施例86から96
増加するDMSO量の存在下におけるトランス−アネトールの酸化
上記実施例69から85との類推により、トランス−アネトールを、西洋わさびペルオキシダーゼを触媒として酸化したが、その際に、水性バッファー900μlを、DMSOの割合が増加するように置き換えた。表13に、それぞれのDMSO含有量において得られた転換を示す。また図3において、当該データをグラフ化して示す。
【0084】
【表13】

【0085】
西洋わさびペルオキシダーゼは、溶媒中のDMSOの含有量40%において、溶剤なしの場合とほとんど同じ活性を示すことがわかる。より高濃度においては、当該活性は急速に減少し、DMSO60%以降では、実質的に酵素の効果をほとんど検出することができない。溶媒中のDMSO含有量20から30%では、転換はおよそ20%増加した。最良の結果、即ちおよそ40%の転換の増加は、溶剤5から15%において達成された。
【0086】
他の反応においてもこの効果が見出され得るかどうかを検証するため、本願発明の方法の考え得る有益な反応生成物の1つであるバニリン(4−ヒドロキシ−3−メトキシベンズアルデヒド)を生成するための、以下の試験系を行った。
【0087】
実施例97から104
DMSO存在下におけるイソオイゲノールの酸化
【0088】
【化10】

【0089】
実施例52から85との類推により、トランス−アネトールの代わりに、イソオイゲノール(2−メトキシ−4−プロペン−1−イルフェノール)を、コプリヌス・シネレウス由来のペルオキシダーゼ、又は西洋わさびペルオキシダーゼを触媒として用いて酸化した。水性バッファーは、10から20容量%のDMSOで置き換えた。結果を下記の表14に示す。
【0090】
【表14】

【0091】
コプリヌス・シネレウスのペルオキシダーゼでは、試験した全ての濃度において、DMSOにより、転換がおよそ15−20%の増加となったが、一方で西洋わさびペルオキシダーゼでは、この反応においてDMSOが存在したことが、ほとんど利益とならなかった(即ち最大で5%)ことが示された。
【0092】
実施例105から114
DMSO存在下におけるコニフェリルアルコールの酸化
【0093】
【化11】

【0094】
実施例97から104との類推により、イソオイゲノールの代わりに、コニフェリルアルコール(4−ヒドロキシ−3−メトキシシンナミルアルコール)を、当該2つの酵素を使用して酸化した。これは、本発明の方法の使用による、バニリンを得るための代替的な合成経路を提供するものであり、更には副生成物として、タンパク質化学において有用な試薬であるグリコールアルデヒド(ヒドロキシアセトアルデヒド)を提供するものである。水性バッファーは、本例においては5から20%のDMSOで、再び置き換えた。表15は得られた結果を示している。
【0095】
【表15】

【0096】
これはいくつかの事実を明白に示している。一つには、当該2つの酵素のうちのどちらを触媒として使用しても、有機溶媒が含まれない場合においては、コニフェリルアルコールは、定量的にバニリンへと酸化された。その一方で、西洋わさびペルオキシダーゼは、5%DMSOにも尚よく耐え(6%の減少)、後の方(40から70%)で明らかな活性の減少を示すのみであるが、コプリヌス・シネレウスのペルオキシダーゼは、5%DMSOであっても、その活性が50%も減少した。15%DMSOでは、その活性のおよそ90%もが失われた。これらの結果は、またもや、本発明の方法における酵素触媒の、高い基質特異性の証拠を与えるものである。
【0097】
このように、本発明の方法における当該酵素の有効性が明確に実証された。通常の当業者であれば、上記の教示に基づき、特定の酸化反応における個々の特異的な酵素についてのpH、圧力、光の作用、及び有機溶剤に関する最適条件を、最適化系の手法により、容易に決定することができる。本願発明は、このように、有機化合物の製造のための生体触媒の分野に重要な貢献をするものである。
【0098】
材料及び供給源
トランス−アネトール:Sigma-Aldrich, Cat. 11,787-0, Lot.: S16146-283
4−アミノスチレン: Lancaster, 11845, 216-185-8, バッチFA008716
2−ブロモスチレン: Sigma-Aldrich, 132683
2−メチル−1−フェニル−1−プロペン: Sigma-Aldrich, 282510, 13028 BE
インデン: Merck-Schuchard, S17014 843, 8.20701.0005
イソオイゲノール: Sigma-Aldrich, I17206
コニフェリルアルコール: Sigma-Aldrich, 223735
【0099】
コプリヌス・シネレウス由来のペルオキシダーゼ,バッチ1: NovoNordisk A/S, ペルオキシダーゼ SP 502, batch PPX 3829
コプリヌス・シネレウス由来のペルオキシダーゼ,バッチ2: Novozymes, 51004, OON00008, (Asp.オリザエにて作製)
コプリヌス・シネレウス由来のペルオキシダーゼ,バッチ3: Biesterfeld Chemiehandel GmbH & Co. KG, "バイラーゼ(Baylase)"
西洋わさびペルオキシダーゼ,バッチ1: Sigma-Aldrich, P2088
西洋わさびペルオキシダーゼ,バッチ2: Sigma-Aldrich, P8250, 031K74711
西洋わさびペルオキシダーゼ,バッチ3: Sigma-Aldrich, P6140, 051K7490
西洋わさびペルオキシダーゼ,バッチ4: Roche, POD10108090001, Lot.: 93350720
西洋わさびペルオキシダーゼ,バッチ5: Sigma-Aldrich, P8125, 031K7465
西洋わさびペルオキシダーゼ,バッチ6: Roche, POD10814407001, Lot.: 93396221
リグニンペルオキシダーゼ: Fluka, Lot. & Fillingcode 1239384, 32506 171, 42603
牛乳のペルオキシダーゼ: Sigma-Aldrich, 牛乳由来のラクトペルオキシダーゼ, L-2005, Lot. 16H38311
カルダリオミセス・フマゴ由来のクロロペルオキシダーゼ: Biochemika, 25810
コラリナ・オフィシナリス由来のブロモペルオキシダーゼ: Sigma-Aldrich, B2170, 123K3783
ラス・ベルニシフェラ由来のラッカーゼ: Sigma-Aldrich, L-2157, Lot.: 67H0281
コリオラス・ベルシコラ由来のラッカーゼ: Fluka, 38429, Lot. & Filling code 414571/1, 43001
カンジダ・ルゴサ由来のラッカーゼ: Julich Fine Chemicals Life Science Technology, ラッカーゼ CV, Ord.No. 14.10
アガリクス・ビスポラス由来のラッカーゼ: Fluka, 40452, Lot. & Filling code 443928/1 42703431
デニライト II Base ラッカーゼ: Novozymes, OM30402613, Chemical Abstracts Service (CAS) 登録No.: 80498-15-3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)の任意に置換されたビニル芳香族化合物の酸化的開裂法であって、
当該方法は、分子状酸素の存在下、ペルオキシダーゼ及びラッカーゼから選択される少なくとも1つの酵素を触媒として使用することにより、式(1)の1以上の化合物(単数又は複数)が、下記の一般的な反応スキーム
【化1】

に従い、それぞれ式(2)及び(3)のアルデヒド及びケトンに酸化されることを特徴とし:
式中、nは0から5までの整数であり、よって当該芳香環はビニル基のオルト、メタ及び/又はパラ位置(単数又は複数)において、
a)1から10の炭素原子を持つ飽和又は不飽和の炭化水素基であって、1以上の炭素原子が任意に酸素、窒素及び硫黄から選択されるヘテロ原子によって置換されており、且つ任意に、C1−6アルキル基、C1−6アルキレン基、C1−6アルコキシ基、アミノ、C1−6アルキルアミノ及びC1−6ジアルキルアミノ基、ハロゲン、ヒドロキシ、オキソ並びにシアノから選択される1以上の置換基によって更に置換されているもの、
b)アミノ、C1−6アルキルアミノ及びC1−6ジアルキルアミノ基、並びに
c)ハロゲン、ヒドロキシ及びシアノ、
から選択される、同一であっても異なっていてもよい0から5の置換基Rによって置換されていてよく:
ここで任意の2つの置換基Rは、脂環式環又は芳香環を形成するように結合していてよく、且つ、
ここで置換基R及びRは、各々独立して水素、又はa)、b)及びc)に記載された選択肢の1つであり、
ここでR及び/又はRは、置換基Rと結合して脂環式環を形成していてよく、この場合においてR及びRは、各々、それらが結合しているビニル基の炭素原子と置換基Rとの間の化学結合を表し得る。
【請求項2】
前記少なくとも1つの酵素が、真菌のペルオキシダーゼ及びラッカーゼ、ハロゲンペルオキシダーゼ、リグニンペルオキシダーゼ、西洋わさびペルオキシダーゼ、並びに牛乳のペルオキシダーゼから選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの酵素が、コプリヌス・シネレウス由来の真菌のペルオキシダーゼ、コリオラス・ベルシコラ、アガリクス・ビスポラス及びカンジダ・ルゴサ由来のラッカーゼ、ラス・ベルニシフェラ由来のラッカーゼ、カルダリオミセス・フマゴ由来のクロロペルオキシダーゼ、並びに、例えばストレプトミセス・オーレオファシエンス若しくはコラリナ・オフィシナリス由来のブロモペルオキシダーゼ、から選択されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの酵素が、西洋わさびペルオキシダーゼ、コプリヌス・シネレウス由来のペルオキシダーゼ、並びに、コリオラス・ベルシコラ及びアガリクス・ビスポラス由来のラッカーゼ、から選択されることを特徴とする、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
酸化がバッファー中において行われることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記バッファーが、Bis−Trisバッファー、酢酸バッファー、ギ酸バッファー、及びリン酸バッファーから選択されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
反応のpHが2から7、好ましくは2から4に調整されることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
酸化がO過圧下において行われることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
酸化が、1から6bar、好ましくは2から3barのO過圧下にて行われることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
酸化が光の作用下において行われることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
酸化が、有機溶剤又は溶剤混合物の存在下において行われることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記溶剤又は溶剤の混合物が、反応混合物の1から20容量%、好ましくは5から15容量%の含有量で使用されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記有機溶剤が、C1−4アルカノール、ジメチルスルホキシド、トルエン、アセトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド及びそれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記式(2)のアルデヒドとしてバニリンが生成されることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
任意に置換されたビニル芳香族化合物の芳香環と共役したエチレン二重結合の、分子状酸素による酸化的開裂を触媒するための、真菌のペルオキシダーゼ及びラッカーゼ、真菌のハロゲンペルオキシダーゼ、細菌のハロゲンペルオキシダーゼ、リグニンペルオキシダーゼ、西洋わさびペルオキシダーゼ、又は牛乳のペルオキシダーゼの使用。
【請求項16】
コプリヌス・シネレウス由来の真菌のペルオキシダーゼ、コリオラス・ベルシコラ、アガリクス・ビスポラス若しくはカンジダ・ルゴサ由来のラッカーゼ、ラス・ベルニシフェラ由来のラッカーゼ、カルダリオミセス・フマゴ由来のクロロペルオキシダーゼ、並びに、例えばストレプトミセス・オーレオファシエンス若しくはコラリナ・オフィシナリス由来のブロモペルオキシダーゼ、から選択される少なくとも1つの酵素を、触媒として使用することを特徴とする、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
西洋わさびペルオキシダーゼ、コプリヌス・シネレウス由来のペルオキシダーゼ、又は、コリオラス・ベルシコラ若しくはアガリクス・ビスポラス由来のラッカーゼのうち、少なくとも1つを触媒として使用することを特徴とする、請求項15又は16に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−532664(P2010−532664A)
【公表日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−515315(P2010−515315)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【国際出願番号】PCT/AT2008/000250
【国際公開番号】WO2009/006662
【国際公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(510009418)ウニヴェルジテート グラーツ (1)
【Fターム(参考)】