説明

ビール仕込み粕からの液状物製造方法

【課題】ビール仕込み粕を原料として得られる液状物の着色度が低く、これにより液状物を食品製造原料等に好適に利用することができる、ビール仕込み粕からの液状物製造方法を提供する。
【解決手段】ビール仕込み粕からの液状物製造方法は、水存在下でビール仕込み粕100質量部(乾燥基準)に対して過酸化水素を1質量部〜40質量部配合し、120℃〜200℃の温度条件下で、マイクロ波を3分〜120分照射して固液混合物を得る第一の工程と、固液混合物を固液分離して液状物を得る第二の工程と、を有する。第二の工程において、ろ過により固液分離し、得られる液状物を凍結乾燥する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビール仕込み粕の処理方法に関し、より詳細には、ビール仕込み粕からの液状物製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールは、麦芽を糖化させたものをろ過して麦芽残さを除去することにより得られる麦汁に、酵母を添加して発酵させることによって製造される。
このビール製造工程において副生する麦芽残さは、ビール仕込み粕あるいはビール粕等と呼ばれ、水分を40%〜80%程度含有するとともに、水を除く残分はリグノセルロース、蛋白質、脂肪質およびシリカ等である。
【0003】
麦芽残さ(以下、これをビール仕込み粕という。)は、日本国全体で年間70万トン以上発生しており、これを排水として放流するためには、高濃度のCOD成分あるいはBOD成分を除去する必要があり、排水処理コストが多大となる。
このため、ビール仕込み粕を飼料化あるいは肥料化することが行われている。
【0004】
しかしながら、ビール仕込み粕を飼料化あるいは肥料化するには、減容化のために、ビール仕込み粕中に大量に含まれる水分を乾燥等の方法で除去することが必要であり、水分除去に多大なエネルギーが必要となる。また、水分除去に手間取るとビール仕込み残渣は腐敗し、悪臭を放つことも考えられる。したがって、早期に処理することが必要である。
【0005】
そこで、飼料化あるいは肥料化以外のビール仕込み粕の用途開拓が検討されている。
【0006】
例えば、軽度の水熱処理により、具体的には、50〜220℃の温度における飽和水蒸気にビール仕込み粕を10〜30分接触することにより水溶解画分を効率的に得る方法が検討されている(特許文献1参照。)。ここで、水溶解画分の収率、言い換えれば原料(ビール仕込み粕)の可溶化率は60%程度であり、この可溶化率は原料中の有機炭素量に対する水中に溶解した有機炭素量の比率として定義されている。この方法により、ビール仕込み粕を乾燥することなく減容化することができるとされている。
上記の方法によって得られる水溶解画分は、これをいわゆるソフトバイオマス(米国エネルギー庁の定義による用語)としてメタン発酵させてエネルギー源としてのメタンガスを得ることができるとされている。
【0007】
また、例えば、飲食品製造残さであるビール製造残さを粉砕し、粉砕された残さにマイクロ波を照射して温度80〜260℃および圧力2〜35kg/cm、好ましくは、10〜30kg/cmの条件に保つことを特徴とする飲食品製造残さの液化方法が検討されている(特許文献2参照。)。この場合、マイクロ波の照射時間は20秒〜10分間であり、また、マイクロ波を照射する際に、触媒として酸を適宜添加してよいとされ、1%酢酸水溶液が例示されている。
上記の方法によって得られる残さは茶色の液状であり、これは残さに含まれていた繊維質が分解されて低分子化した結果と考えられている。そして、この液化された残さは高温高圧で処理されているために完全に殺菌されているため、食品製造原料や食品添加物として有用であるとされている。
【特許文献1】特開2006−305561号公報
【特許文献2】特開2004−267115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記したビール仕込み粕の処理方法は、いずれも、比較的高温・高圧で処理するものであり、このため、特許文献1には明記されていないものの、得られる液状物が、ヘミセルロース由来の着色を生じるものと思われる。そして、液状物中に存在するヘミセルロースは、液状物を例えば食品製造原料や食品添加物として利用する際に糖化を阻害し、あるいはまた、エタノール原料として利用する際に反応を阻害するおそれがある。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、ビール仕込み粕を原料として得られる液状物の着色度が低く、これにより液状物を食品製造原料等に好適に利用することができる、ビール仕込み粕からの液状物製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るビール仕込み粕からの液状物製造方法は、
水存在下でビール仕込み粕に過酸化水素を配合し、マイクロ波を照射して固液混合物を得る第一の工程と、
該固液混合物を固液分離して液状物を得る第二の工程と、
を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るビール仕込み粕からの液状物製造方法は、好ましくは、前記第一の工程において、ビール仕込み粕100質量部(乾燥基準)に対して過酸化水素を1質量部〜40質量部配合し、120℃〜200℃の温度条件下で、マイクロ波を3分〜120分照射することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るビール仕込み粕からの液状物製造方法は、好ましくは、前記第二の工程において、ろ過により固液分離することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るビール仕込み粕からの液状物製造方法は、好ましくは、前記第二の工程において得られる液状物を凍結乾燥する第三の工程をさらに有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るビール仕込み粕からの液状物製造方法は、水存在下でビール仕込み粕に過酸化水素を配合し、マイクロ波を照射して固液混合物を得る第一の工程と、固液混合物を固液分離して液状物を得る第二の工程と、を有するため、ビール仕込み粕を原料として得られる液状物の着色度が低く、これにより液状物を食品製造原料等に好適に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。
【0016】
本実施の形態に係るビール仕込み粕からの液状物製造方法は、水存在下でビール仕込み粕に過酸化水素を配合し、マイクロ波を照射して固液混合物を得る第一の工程と、該固液混合物を固液分離して液状物を得る第二の工程と、を有する。
【0017】
ビール仕込み粕は、既に説明したように、麦芽を主原料としてビールを製造する工程の副生物として入手することができる。ビール仕込み粕は、水分を40%〜80%程度含有する副生物をそのまま用いてもよく、また、適宜の手段で脱水したものを用いてもよい。また、ビール仕込み粕は、麦芽を原料に含むものである限り、他の原料を併用する、いわゆる発泡酒等を製造する際の残さであってもよい。
【0018】
本実施の形態に係るビール仕込み粕からの液状物製造方法は、マイクロ波を照射することで効率的に加熱処理するとともに、その際に、過酸化水素の分解によって生じる酸素の作用を利用することで、ビール仕込み粕を効率的に液状化することができる。
このため、従来技術に比べて、低温・低圧で処理することができ、着色度が低い液状物を得ることができる。これにより、高温反応に伴いヘミセルロース由来の褐色成分が生成し、これが得られる液状物の主成分である糖類の利用過程で阻害要因となっていたと考えられる従来の課題が軽減される。
得られる液状物は、糖類を主成分とするものであり、食品製造原料等として利用できる水溶性糖類原料である。
【0019】
過酸化水素は、過酸化水素水の形で用いることが取り扱い上好適であるが、これに限定するものではない。過酸化水素水を用いる場合は、過酸化水素濃度が35%の市販品を用いてもよく、また、過酸化水素濃度が60%程度の高濃度品を用いてもよいが、水存在下で反応させることを考慮すると、10%程度の濃度のものを用いてもよい。
なお、過酸化水素に変えて、処理の際に酸素を発生する他の化学品を用いることも可能である。
【0020】
マイクロ波は、周波数を限定するものではなく、例えば、912MHz、2.45GHzあるいは5.8GHz等の商用の周波数を使用することができる。
【0021】
本実施の形態に係るビール仕込み粕からの液状物製造方法は、上記第一の工程において、好ましくは、ビール仕込み粕100質量部(乾燥基準)に対して過酸化水素を1質量部〜40質量部、より好ましくは、3質量部〜10質量部配合し、120℃〜200℃、より好ましくは、120℃〜150℃の温度条件下で、マイクロ波を3分〜120分照射する。ここで、設定する温度条件に応じて圧力条件が定まり、圧力条件は0.1MPa〜0.4MPaの範囲にある。
【0022】
ビール仕込み粕の質量部数は、乾燥基準、すなわち、70℃で恒量に達するまで乾燥器内で乾燥して得られる乾燥物の量をいう。
【0023】
マイクロ波の照射時間は、ビール仕込み粕にマイクロ波を十分に吸収させてセルロースおよびヘミセルロースを多糖類、オリゴ糖および単糖類に好適に変化させるために、3分〜120分であり、より好ましくは、4分〜60分であり、さらに好ましくは、5分〜30分である。
【0024】
本実施の形態に係るビール仕込み粕からの液状物製造方法の上記第二の工程における固液分離の方法は、特に限定するものではなく、例えば遠心法等の適宜の方法を用いることができるが、好ましくは、ろ過法を用い、さらに好ましくは、水可溶性部と水不溶性部を分けるためのデンカテーション法と固形分であるシリカ分を除くためのろ過法を併用する。
【0025】
また、本実施の形態に係るビール仕込み粕からの液状物製造方法は、上記第二の工程において得られる液状物を凍結乾燥する第三の工程をさらに有すると、熱風乾燥する場合に生じうる、液状物の主成分である水溶性糖類原料の変質を確実に回避することができて、より好ましい。
【0026】
以上説明した本実施の形態に係るビール仕込み粕からの液状物製造方法によれば、ビール仕込み粕を原料として得られる液状物の着色度が低く、これにより液状物を食品製造原料等に好適に利用することができる。着色度が低いことはフルフラール等の酵素阻害物質や発酵阻害物質ができていないことを意味する。
【0027】
本実施の形態に係るビール仕込み粕からの液状物製造方法により得られる液状物は、食品製造原料、食品添加物、家畜の飼料あるいはエタノール原料等の用途に好適に用いることができる。
【0028】
以上説明した本実施の形態に係る水溶性糖類原料の製造方法に関わらず、本発明は、ビール仕込み粕以外のソフトバイオマス、例えば柑橘類の絞りかす、稲わら、麦わら、そばがら、ライ麦、ひえ、あわ、きび等の穀類の実収穫後の残宰、栗、くるみ、銀杏等の残宰、さらに梅、プラム、杏、桃などの種などに応用可能である。
【実施例】
【0029】
実施例を挙げて、本発明をさらに説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0030】
(ビール仕込み粕の組成)
以下の組成の脱水したビール仕込み粕を原料に用いた。
ビール仕込み粕は、水分含量4.44±0.1質量%、酸不溶性リグニン含量24.8±1.0質量%、灰分含量(シリカ)3.6±0.1質量%、窒素含量4.31質量%、蛋白質25.8質量%および糖脂質を含む油分12.8質量%である。また、ビール仕込み粕に含まれる中性糖の組成(単位:%)は、表1に示すとおりである。
【0031】
【表1】

【0032】
(液状物の製造実施例1)
上記のビール仕込み粕3.0gと、10%過酸化水素水30mLをマイクロ波照射装置(Microsynth、周波数2.45GHz、最大出力1kW、マイルストーンゼネラル社製)に配置した高圧反応管(フッ素樹脂製、容量50mL、マイルストーンゼネラル社製)に入れ、0.27MPaの圧力下、2分間かけて130℃に昇温した後、5分間マイクロ波を照射した。高圧反応管を冷却した後、N0.3のろ紙を用いてろ過し、液状物と残渣を分離した。
得られた液状物(水可溶化画分料)はそのまま凍結乾燥し、質量を測定した。液状物は、総質量が1.50gであり、ビール仕込み粕3.0gに対する可溶化率は仕込み基準で50.1%であった。また、得られた液状物は無色透明であった。
【0033】
(液状物の製造実施例2)
反応温度(マイクロ波照射時の温度)を140℃としたほかは、実施例1と同様の方法で液状物を得た。実施例1と同様の方法で測定した可溶化率は61.6%であった。また、得られた液状物は得られた液状物は無色透明であった。
【0034】
(液状物の製造比較例)
100〜220℃の範囲で、10℃刻みで温度を変えて、それぞれ5分間保持して加熱反応させたほかは、実施例1と同様の方法で温度条件ごとの液状物を得た。実施例1と同様の方法で測定した可溶化率の最大値は、温度200℃で反応させたときの47.5%であった。150℃での反応物は、薄い茶色を帯び、反応温度の上昇と共に茶色が濃くなってゆき、200℃を過ぎると液は褐色を帯びていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水存在下でビール仕込み粕に過酸化水素を配合し、マイクロ波を照射して固液混合物を得る第一の工程と、
該固液混合物を固液分離して液状物を得る第二の工程と、
を有することを特徴とするビール仕込み粕からの液状物製造方法。
【請求項2】
前記第一の工程において、ビール仕込み粕100質量部(乾燥基準)に対して過酸化水素を1質量部〜40質量部配合し、120℃〜200℃の温度条件下で、マイクロ波を3分〜120分照射することを特徴とする請求項1記載のビール仕込み粕からの液状物製造方法。
【請求項3】
前記第二の工程において、ろ過により固液分離することを特徴とする請求項1記載のビール仕込み粕からの液状物製造方法。
【請求項4】
前記第二の工程において得られる液状物を凍結乾燥する第三の工程をさらに有することを特徴とする請求項1記載のビール仕込み粕からの液状物製造方法。

【公開番号】特開2009−124983(P2009−124983A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−302610(P2007−302610)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】