説明

ビール混濁乳酸菌検出のためのプライマーおよびそれを用いた検出法

【課題】ビールなどの酒類やその製造環境の検査などにおいて、特にビールのホップに耐性のビール混濁乳酸菌を迅速にかつ特異的に検出する方法を提供する。
【解決手段】ビール混濁乳酸菌検出用LAMPプライマーセットであって、ビール混濁乳酸菌の混濁遺伝子の特定領域にアニーリング可能な塩基配列FIP、BIP、F3およびB3からなる4種のLAMPプライマーセット、およびこれらのLAMPプライマーセットを用いてビール混濁乳酸菌を検出するための方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビール混濁乳酸菌を迅速かつ正確に検出するためのプライマーセットおよび方法に関する。
【0002】
より具体的には、本発明はLAMP(loop-mediated isothermal amplification)法によりビール混濁乳酸菌のビール混濁遺伝子の増幅を検出することを含む、ビール混濁乳酸菌の検出のための方法およびプライマーセットに関する。
【背景技術】
【0003】
ビールはホップに含まれるイソフムロン類が抗菌作用を持つため、微生物に汚染されにくい酒類である。しかしながらラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)やペディオコッカス・ダムノサス(Pediococcusdamnosus)などの一部の乳酸菌はホップ耐性能を獲得しており、ビール中で増殖し混濁させると同時に異味異臭を生じて品質を損なう危険性があることが知られていることから、品質管理の面で非常に重要な菌種であると考えられている(非特許文献1)。
【0004】
このためビール製造環境あるいは製品中よりこれらの菌体を迅速に検出することが重要であるが、これら乳酸菌に属する全ての菌種がビールに混濁を引き起こす性質を有しているわけではない。そこで、ラクトバチルス・ブレビスなどの菌株がビール混濁性を有する株であるか否かについても識別する必要がある。
【0005】
これまでに抗血清を用いた検出法として、ビール混濁性を有するラクトバチルス・ブレビスの検出法が提案されている(特許文献1)。培養法による判定法として、培養期間中の濁度を測定することにより判定する方法が提案されているが、試験には1週間程度の期間を要する(特許文献2)。ラクトバチルス・ブレビスのD-乳酸脱水素酵素のポリアクリルアミドゲル電気泳動での移動度からビール中での増殖性を識別する方法も提案されている(特許文献3)。しかしながらこの方法は時間がかかること、またゲルの作製時に発ガン性が強く疑われるアクリルアミドを使用することなど、その保管や取扱いには注意を要する。
【0006】
ホップ耐性のあるビール乳酸菌の判定法として、ホップ耐性プラスミドを特定し、そのプラスミドをプローブとしてハイブリダイゼーションを行う方法も提案されている(特許文献4)。また、ホップ耐性に関係するプラスミドの制限酵素断片やPCRクローニング産物を標識して、検出用プローブとする方法も提案されている(特許文献5、特許文献6)。しかしながら、これらの操作は極めて煩雑であり時間を要する。
【0007】
遺伝子増幅法では、ラクトバチルス・ブレビスのプラスミド上に存在するホップ耐性遺伝子の一部を増幅し検出する方法も提案されている(特許文献7)。また、ラクトバチルス・リンドネリ(Lactobacillus lindneri)のプラスミド上に存在するホップ耐性遺伝子の一部を増幅し検出する方法も提案されている(非特許文献2)。
【0008】
また、DNAジャイレースサブユニットB遺伝子に特異的なプライマーを用いて、その遺伝子の一部を増幅し検出する方法も提案されている(特許文献8)。この方法はPCR法にて増幅されたDNA断片を制限酵素で切断し、その得られたパターンに基づきビールの混濁性を判定する方法である。しかし、PCR法を用いた細菌の検出法には反応を行うために特別な機器を必要とし、判定方法のひとつであるアガロースゲル電気泳動法などに多大な時間と労力を要する。また、制限酵素による切断パターンによる判定は操作が煩雑な上、時間がかかることから日常の微生物検査でこれらの試験を行うことには問題があった。
【0009】
ビール混濁乳酸菌のビール混濁遺伝子はDNA上にコードされており、その塩基配列は例えばGenBankなどから入手可能で、AB182366の登録番号を有している。また、ビール混濁遺伝子の特定およびその遺伝子をPCR法で増幅する方法は既に報告されている(特許文献9、非特許文献1)。
【0010】
近年、新しい遺伝子増幅法の一つとしてLAMP反応が栄研化学社(栃木)によって開発された。LAMP法は等温核酸増幅法であり、高い特異性および増幅効率を有し、反応から検出まで1時間程度で行うことができる(特許文献10;非特許文献3)。
【0011】
【特許文献1】特開平10-104238号公報
【特許文献2】特開平7-75596号公報
【特許文献3】特開平11-56391号公報
【特許文献4】特開平9-260号公報
【特許文献5】特開平10-14584号公報
【特許文献6】特開2001-86995号公報
【特許文献7】特開平11-18780号公報
【特許文献8】特開2003-250557号公報
【特許文献9】特開2003-251号公報
【特許文献10】特開2002-330796号公報
【非特許文献1】T. Fujiiら, J. Appl. Microbiol, 2005, 98(5), 1209-20
【非特許文献2】K. Suzukiら, Appl. Environ. Microbiol, 2005, 71(9), 5089-97
【非特許文献3】T. Notomiら, Nucleic Acids research, 2000, 28(12), e63
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、LAMP法によってビール混濁乳酸菌を特異的に検出可能であるプライマーセットを提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、上記プライマーセットを用いてビール混濁乳酸菌を特異的に検出する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決するため検討を行った結果、ビール混濁乳酸菌のビール混濁遺伝子に選択的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマーを作製し、このオリゴヌクレオチドをプライマーとしてLAMP法により増幅することにより、ビール混濁乳酸菌を検体中から特異的、簡便、迅速かつ高感度に検出することを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明は、要約すると、以下の特徴を有する。
(1)以下のビール混濁乳酸菌検出用LAMPプライマーセット。
(i)ビール混濁乳酸菌のビール混濁遺伝子の特定領域にアニーリング可能な配列番号1〜4に示される塩基配列FIP、BIP、F3およびB3からなる4種のプライマーのセット。
(ii) 前記(i)の4種のプライマーに加えて、配列番号5に示される塩基配列Loop-Bのプライマーをさらに含むLAMPプライマーセット。
【0016】
(2)以下のビール混濁乳酸菌の検出方法。
(iii) ビール混濁乳酸菌のビール混濁遺伝子の増幅をLAMP法によって検出することを含む方法。
(iv)前記(iii)の方法において、LAMP法が、前記(i)または(ii)に記載のLAMPプライマーセットを用いて行われる方法。
【0017】
ビール混濁乳酸菌とは、ホップに含まれるイソフムロン類が持つ抗菌作用に対する耐性能を獲得した乳酸菌で、ビール中で増殖し混濁させると同時に異味異臭を発生させる菌種である。より具体的には、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・リンドネリ(Lactobacillus lindneri)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ペディオコッカス・ダムノサス(Pediococcus damnosus)、ラクトバチルス・パラコリノイデス(Lactobacillus paracollinoides)などが知られている。
【発明の効果】
【0018】
本発明のビール混濁遺伝子増幅用プライマーセットはいずれも、LAMP法によりビール混濁乳酸菌を特異的に検出可能である(後述の表1)。この細菌株について試験した結果、本発明のプライマーセットによってそのすべてのビール混濁遺伝子を保有する菌株が陽性に検出された。一方、評価を行ったビール混濁遺伝子を有しない菌株に対してはいずれも陰性の結果が得られた。
【0019】
本発明によれば、ビール混濁乳酸菌を特異的、簡便、迅速かつ高感度に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
ビール混濁乳酸菌のビール混濁遺伝子の塩基配列を他の細菌と比較し、ビール混濁乳酸菌に特異的な配列を特定し、本発明のLAMPプライマーを設計した。この細菌のビール混濁遺伝子の塩基配列は、例えばGenBankなどから入手可能であり、AB182366の登録番号を有している。また、ビール混濁遺伝子は藤井らによって詳細な解析が行われている(特開2003-251号公報、T. Fujiiら, J. Appl. Microbiol, 2005, 98(5), 1209-20)。
【0021】
ビール混濁乳酸菌の混濁遺伝子の特定領域にアニーリング可能な領域として決定された塩基配列はそれぞれ、配列番号1〜4及び5に示される塩基配列である。
【0022】
これらの配列のプライマーセットを用いてLAMP法を実施するときには、ビール混濁乳酸菌を他のビール混濁性を有しない菌株と区別して(すなわち特異的に)検出することができる。
【0023】
したがって、本発明のビール混濁乳酸菌検出用LAMPプライマーセットは、ビール混濁乳酸菌のビール混濁遺伝子上の他の細菌とは異なる塩基配列が存在している領域を利用し、これを標的としたプライマー4種類(FIP、BIP、F3およびB3)を用いるプライマーセットである。また、核酸の増幅反応を加速するために1種類(Loop-B)のプライマーを追加した、合計5種類のプライマーで1セットとしてもよい。
【0024】
LAMP法は、標的遺伝子の6つの領域に対して4つのプライマー(一般にFIP、BIP、F3およびB3と称する)を設定し、鎖置換反応を利用して等温で核酸を増幅させることが可能な手法である(特開2002-330796号公報;T. Notomiら, Nucleic Acids research, 2000, 28(12), e63)。
【0025】
まず、標的遺伝子について、3'末端側からF3c、F2c、F1cという3つの領域を、また標的遺伝子の5'末端側に向かってB1、B2、B3という領域をそれぞれ規定し、この6領域に対し、4種類のプライマー、すなわちFIP、F3、BIPおよびB3を設計する。ここで、F3c、F2c、F1cの各領域に相補的な領域はそれぞれF3、F2、F1であり、またB1、B2、B3の各領域に相補的な領域はそれぞれB1c、B2c、B3cである。
【0026】
FIPは、標的遺伝子のF2c領域と相補的なF2領域を3'末端側にもち、5'末端側に標的遺伝子のF1c領域と同じ配列をもつように設計されたプライマーである。必要ならば、FIPプライマーのF1cとF2の間に制限酵素部位を導入することもできる。
【0027】
F3は、標的遺伝子のF3c領域と相補的なF3領域をもつように設計されたプライマーである。
【0028】
BIPは、標的遺伝子のB2c領域と相補的なB2領域を3'末端側にもち、5'末端側に標的遺伝子のB1c領域と同じ配列をもつように設計されたプライマーである。必要ならば、BIPプライマーのB1cとB2の間に制限酵素部位を導入することもできる。
【0029】
B3は、標的遺伝子のB3c領域と相補的なB3領域をもつように設計されたプライマーである。
【0030】
FIPおよびBIPプライマーに制限酵素部位が含まれる場合、反応後に増幅産物を制限酵素で処理することによって、電気泳動後に1つのバンドとして観察することができる。この場合、もし標的DNAに制限酵素部位があれば、プライマーに人為的に制限酵素部位を導入しなくてもよい。
【0031】
また、Loop-Bプライマーを使用するときには、これらのプライマーが核酸増幅過程で利用されていないループ部分に結合することにより全てのループ部分を起点として核酸反応が進み、核酸の増幅反応が加速される(特開2002-345499号公報)。
【0032】
LAMP反応は、サンプル遺伝子、プライマー、鎖置換型DNA合成酵素、基質等を一緒に一定温度(約60〜65℃)で保温することにより、検出まで1ステップの工程で行うことができる。
【0033】
この反応では鎖置換型DNA合成酵素が使用されるが、この酵素は、PCR法における耐熱性DNAポリメラーゼと異なり安価であるうえに、鋳型DNAの二本鎖をほどきながらDNA合成を行うことができる。酵素の例は、Bst DNAポリメラーゼ、Bca(exo-)DNAポリメラーゼ、Vent(Exo-)DNAポリメラーゼなどである。このため、LAMP法では、PCR法のようにあらかじめ二本鎖DNAを一本鎖に熱変性する必要がない。
【0034】
LAMP反応試薬は、栄研化学社から市販のLoopamp DNA増幅試薬キット(但し、プライマーセットを除く)を利用すると便利である。具体的には、反応液の例は次のとおりである。2倍濃度反応用緩衝液:40mM Tris-HCl(pH8.8)、20mM KCl、20mM(NH4)2SO4、16mM MgSO4、0.2% Tween20、1.6M Betain、各終濃度2.8mMのdATP、dCTP、dGTP、dTTP;DNAポリメラーゼ:Bst DNA Polymerase 8units/μl;本発明の各プライマーの終濃度、FIP、BIP:40μM、F3、B3:5μM、Loop-B:20μM。
【0035】
LAMP反応液としては、例えば、滅菌蒸留水を4.5μl、2倍濃度反応用緩衝液を12.5μl、FIP、BIP、F3、B3、Loop-Bの各プライマーを1μl加え、DNAポリメラーゼ1μl、検体液(鋳型DNA)2μlを加え、全量25μlの反応液を調製する。
【0036】
反応は、次のような工程を経て行われる。
【0037】
(i) 鎖置換型DNAポリメラーゼの働きにより、FIPのF2領域の3'末端を起点として鋳型DNAと相補的なDNA鎖が合成される。
【0038】
(ii) FIPの外側に、F3プライマーがアニールし、その3'末端を起点として鎖置換型DNAポリメラーゼの働きによって、先に合成されているFIPからのDNA鎖を剥がしながらDNA合成が伸長する。
【0039】
(iii)F3プライマーから合成されたDNA鎖と鋳型DNAが二本鎖となる。
【0040】
(iv) FIPから先に合成されたDNA鎖は、F3プライマーからのDNA鎖によって剥がされて一本鎖DNAとなるが、このDNA鎖は、5'末端側に相補的な領域F1c、F1をもち、自己アニールを起こし、ループを形成する。
【0041】
(v) 上記(iv)の過程でループを形成したDNA鎖に対し、BIPがアニールし、このBIPの3'末端を起点として相補的なDNA合成が行われる。さらに、BIPの外側にB3プライマーがアニールし、その3'末端を起点として鎖置換型DNAポリメラーゼの働きによって、先に合成されたBIPからのDNA鎖を剥がしながらDNA合成が伸長する。
【0042】
(vi) 上記(v)の過程で二本鎖DNAが形成される。
【0043】
(vii)上記(v)の過程で剥がされたBIPから合成されたDNA鎖は両端に相補的な配列を持つため、自己アニールし、ループを形成してダンベル様の構造となる。
【0044】
(viii)上記ダンベル構造のDNA鎖を起点として、FIP次いでBIPのアニーリングを介して所望DNAの増幅サイクルが行われる。
【0045】
本発明の各プライマーセットは、約60〜65℃(例えば65℃)においてアニーリングと同時にDNA鎖の合成も起こす。アニーリング反応およびDNA鎖合成により約1時間反応を行うことにより109〜1010倍に核酸を増幅させることが可能である。
【0046】
ビール混濁乳酸菌の特定のDNA領域が増幅されると、副産物として形成されるピロリン酸マグネシウムの影響で反応液が白濁するため、この濁度に基づき増幅の有無が目視により判定できる、あるいは濁度測定装置を用いて濁度を光学的に測定することもできる。また、アガロースゲル電気泳動法などを利用してDNA断片の有無を確認し検出することもできる。
【0047】
核酸増幅によるビール混濁乳酸菌の同定のための検体としては、例えばビールや発泡酒などの酒類、また環境検体としては、例えば水やビール製造環境中の拭取り検体などでもよい。
【0048】
これら検体をLAMP法の試料として用いる場合には、検体中に存在する菌の濃縮、分離、菌体からの核酸分離や、核酸の濃縮などの操作を前処理として行うこともできる。菌の濃縮、分離の方法としては、ろ過、遠心分離などが知られており、適宜選択できる。酒類などの食品検体や環境検体などに存在する菌体からの核酸の遊離には、例えばLysozymeやProteinase Kなどによって菌体を処理し、100℃での加熱により菌体から核酸を遊離させる方法もある。また、特に食品検体によってはさらなる精製の必要があれば、例えばフェノール/クロロホルム又はクロロホルム/イソアミルアルコール処理、エタノール又はイソプロパノール沈殿、遠心等により核酸の精製を行い、最終的にTE緩衝液などに再溶解させ鋳型DNAとして試験に供してもよい(BREWING MICROBIOLOGY, 1987, 127-140、 European Brewery Convention:ANALYTICA-MICROBIOLOGICA-EBC, 2nd ed. 2005 Fachverlag Hans Carl, Nuernberg、 Rolfsら:PCR-Clinical diagnostics and research, Springer-Verlag, Berlin, 1992、大嶋ら:蛋白 核酸 酵素, 1990, 35, 2523-41)。
【0049】
例えばビールに存在すると考えられるビール混濁乳酸菌を適切な培地で増菌培養し、寒天培地上に形成されたコロニーからDNAを分離し、このDNAに対して上記プライマーを用いたLAMP反応を行い、ビール混濁乳酸菌の特定遺伝子領域を増幅する。
【0050】
増幅反応により副産物として形成されるピロリン酸マグネシウムの影響により、反応液は上述のとおり白濁するので、反応液の濁度を目視または濁度測定装置などを用いた光学的手法により核酸増幅の有無を簡単に確認できる。核酸増幅が観察されるならば、標的遺伝子が存在することを意味し、結果としてビール混濁乳酸菌陽性(+)を表す。逆に、核酸増幅が観察されない場合には、標的遺伝子が不存在であることを意味し、結果としてビール混濁乳酸菌陰性(−)を表す。
【0051】
上で説明したように、本発明により、ビール混濁遺伝子に由来する特定遺伝子領域を増幅する配列番号1〜4、および適宜追加して実施可能な配列番号5に示される塩基配列からなるプライマーセットをLAMPプライマーセットとして用いることによって、ビール混濁乳酸菌を特異的に検出することができる。ここで、「特異的に」とは、検出反応が評価を行った他のビール混濁性を有しない菌株に対して陰性であることを意味する。
【0052】
本発明のLAMP法によるビール混濁乳酸菌の検出法は、ビールなどの酒類や環境試料などの検査対象物に存在するビール混濁乳酸菌の有無を迅速に判別することができる検出法として用いることができ、ビールなどで混濁を引起こす乳酸菌の汚染などの検出のために使用することができる。
【0053】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
1.LAMP反応
LAMP反応に用いる各試薬の濃度の内容は次のとおりであるが、LAMP反応試薬は栄研化学社製のLoopamp DNA増幅試薬キットを用いた。2倍濃度反応用緩衝液:40mM Tris-HCl(pH8.8)、20mM KCl、20mM(NH4)2SO4、16mM MgSO4、0.2% Tween20、1.6M Betain、各終濃度2.8mMのdATP、dCTP、dGTP、dTTP。DNAポリメラーゼ:Bst DNA Polymerase 8units/μl。本発明の各プライマーの終濃度、FIP、BIP:40μM、F3、B3:5μM、Loop-B:20μM。(栄研化学社、DNA増幅試薬キットLMP201添付説明書)
【0055】
LAMP反応液は、滅菌蒸留水を4.5μl、2倍濃度反応用緩衝液を12.5μl、FIP、BIP、F3、B3、Loop-Bの各プライマーを1μl加え、DNAポリメラーゼ1μl、上記より得られた検体液(鋳型DNA)2μlを加え、全量25μlの反応液を調製した。
【0056】
LAMP反応は、テラメックス社製の濁度測定装置LA-200Fを用い、65℃の等温反応を60分間行い、その後80℃、2分間の酵素失活処理行った。濁度測定装置は、LAMP反応の副産物であるピロリン酸マグネシウムによる白濁を経時的に観察することが可能で、濁度が上昇するものをビール混濁乳酸菌陽性、濁度の上昇が認められないものを陰性とした。
【0057】
2.プライマーの設計
ビール混濁乳酸菌(Lactobacillus brevis)の混濁遺伝子(GenBankのアクセッションナンバーAB182366、配列番号6)と他のビール混濁性を有しない乳酸菌の塩基配列とを比較し、ビール混濁乳酸菌に特異的なLAMPプライマーを設計した。
【0058】
3.結果
配列番号1〜4(それぞれFIP、BIP、F3およびB3)および追加可能な配列番号5 (Loop-B)によるプライマーセットは、ビール混濁遺伝子の特定領域を増幅するように設計してある。実際に表1に示したビール混濁乳酸菌を20株、およびその他の菌株を用いてLAMP反応を行った結果、ビール混濁遺伝子を保有している菌株のみに、増幅反応の副産物であるピロリン酸マグネシウムの白濁が観察された。また、その他菌株との交差性は見られなかった。結果を表1に示した。
【0059】
【表1】

【0060】
ビール混濁遺伝子増幅用プライマーセットはビール混濁乳酸菌を特異的に検出することが可能であり、また1時間以内に増幅反応を確認することができた。
【0061】
比較例としてビール混濁遺伝子検出法であるPCR法(特開2003-251号公報)による検出を行った結果、LAMP法と同様の結果を得ることができた。このことは本発明による検査が正しい結果を与えることを示している。
【0062】
このことから、ビール混濁遺伝子増幅用プライマーセットは、ビール混濁乳酸菌を特異的に検出するためのプライマーとして有効であると判断された。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のLAMP法によるビール混濁乳酸菌の検出法は、ビールなどの酒類やその製造環境などの検査対象物に存在するビール混濁乳酸菌の有無を迅速にかつ特異的に判別することができる検出法として用いることができるため、ビールなどの酒類やその製造環境でのビール混濁乳酸菌の汚染の検出に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビール混濁乳酸菌検出用LAMPプライマーセットであって、ビール混濁乳酸菌の混濁遺伝子の特定領域にアニーリング可能な配列番号1〜4に示される塩基配列FIP、BIP、F3およびB3からなる4種のプライマーのセット。
【請求項2】
配列番号5に示される塩基配列Loop-Bのプライマーをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載のLAMPプライマーセット。
【請求項3】
ビール混濁乳酸菌のビール混濁遺伝子の増幅をLAMP法によって検出することを含むビール混濁乳酸菌の検出方法。
【請求項4】
LAMP法が、請求項1または2に記載のLAMPプライマーセットを用いて行われることを特徴とする、請求項3に記載の方法。

【公開番号】特開2008−54632(P2008−54632A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−237999(P2006−237999)
【出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【出願人】(000253503)キリンホールディングス株式会社 (247)
【Fターム(参考)】