説明

ピストンのオイルリング溝構造

【課題】背面通路の通路面積確保と、ピストン組付け時におけるオイルリングの折損抑制との両立を図る。
【解決手段】オイルリング溝21内に、オイルリング本体41との接触によりオイルリング40の径方向内側への移動を規制する規制部28,29を設ける。自由径に拡張しているオイルリング本体41が規制部28,29に接触した状態で、オイルリング本体41の内周面44のうちオイルリング溝21の内底面24に最も接近した箇所を第2最接近箇所51とする。ピストン20の外周面のうちオイルリング溝21に対し燃焼室側に隣接するランド26において、ピストン20の中心軸線CLを挟んで第2最接近箇所51の反対側となる箇所を第2反対側箇所32とする。両箇所51,32の距離L2を、オイルリング本体41の内周面44の直径Dよりも大きく設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のシリンダのボア壁面にオイルを供給したり、同ボア壁面に付着した余剰のオイルを掻き落としたりするオイルリングを装着するためにピストンに形成されるオイルリング溝の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のシリンダのボアにはピストンが往復動可能に設けられており、このピストンに形成されたオイルリング溝にはオイルリングが装着されている(例えば、特許文献1参照)。このオイルリングは、潤滑油としてのエンジンオイル(以下単に「オイル」という)を必要最小限の量だけシリンダのボア壁面に供給するとともに、余剰のオイルを掻き落とす機能を有している。
【0003】
図9に示すように、従来のオイルリング90は、ピストン82のオイルリング溝83内で径方向外側に配置される環状のオイルリング本体91と、同オイルリング溝83内でオイルリング本体91の径方向内側に配置されて、同オイルリング本体91を径方向外側に付勢するコイルエキスパンダ96とを備えている。オイルリング本体91には径方向外側へ突出するレール部92,93が形成されており、これらレール部92,93がピストン82の往復動に伴ってシリンダのボア壁面上を摺接する。この摺接により、ボア壁面上にオイルが供給されたり、同ボア壁面上の余剰のオイルが掻き落とされたりする。
【0004】
また、オイルリング本体91には、その径方向に貫通するオイル戻し孔94が形成されており、前述のように掻き落とされたオイルの一部が、このオイル戻し孔94及びコイルエキスパンダ96を通り、オイルリング溝83の内底面84とオイルリング90との間の背面通路85へ流れる。背面通路85のオイルは、ピストン82に設けられて背面通路85に開口する図示しないオイルドレン孔等から同ピストン82の内側に導かれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平4−132260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記オイルドレン孔等を含むオイル通路でのオイルの流れをよくする観点からは、背面通路85の通路面積を大きく採ることが望ましい。そのためには、図10に示すように、オイルリング溝83を深く形成することが考えられる。
【0007】
ところが、オイルリング溝83が深くなるに伴い、ピストン82の中心軸線CLに直交する方向(図10の左右方向)へのオイルリング90の動き代が大きくなる。その結果、ピストン82がシリンダのボアに挿入される前に、オイルリング本体91が自由径に拡張しているオイルリング90の一部がオイルリング溝83の内底面84に接触させられると、次の現象が生ずるおそれがある。その現象とは、オイルリング本体91の内周面91Aのうち内底面84に最も接近した箇所を箇所95と表現すると、中心軸線CLを挟んで、上記箇所95の反対側となる箇所97が、図10に示すようにオイルリング溝83から飛び出すことである。
【0008】
そして、上記のように、オイルリング本体91の内周面91Aの一部がオイルリング溝83から飛び出していると、ピストン82の内燃機関への組付けに際し、同ピストン82をシリンダのボアに挿入するときにオイルリング90がオイルリング溝83から外れる。そして、オイルリング90が、ピストン82の外周面のうちオイルリング溝83に対し燃焼室側(図10の上側)に隣接するランド86に乗り上げて折損するおそれがある。
【0009】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、背面通路の通路面積確保と、ピストン組付け時におけるオイルリングの折損抑制との両立を図ることのできるピストンのオイルリング溝構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、ピストンの外周面において開口する円環状のオイルリング溝が前記ピストンに形成され、前記オイルリング溝に装着されるオイルリングが、同オイルリング溝の径方向外側に配置されるオイルリング本体と、前記オイルリング本体の径方向内側に配置されて同オイルリング本体を径方向外側へ付勢するエキスパンダとにより構成され、前記オイルリング溝の内底面と前記オイルリングとの間の空間がオイルの背面通路とされ、前記オイルリング本体が自由径に拡張している前記オイルリングの一部が前記オイルリング溝の前記内底面に接触させられた場合に、前記オイルリング本体の内周面のうち前記内底面に最も接近した第1最接近箇所と、前記ピストンの前記外周面のうち前記オイルリング溝に対し燃焼室側に隣接するランドにおいて、前記ピストンの中心軸線を挟んで前記第1最接近箇所の反対側となる第1反対側箇所との距離が、前記オイルリング本体の前記内周面の直径よりも小さく設定されたピストンのオイルリング溝構造であって、前記オイルリング溝内には、前記オイルリング本体及び前記エキスパンダの少なくとも一方を接触対象とし、同接触対象との接触により前記オイルリングの径方向内側への移動を規制する規制部が設けられ、前記オイルリング本体が自由径に拡張している前記オイルリングの前記接触対象が前記規制部に接触させられた状態で、前記オイルリング本体の内周面のうち前記オイルリング溝の前記内底面に最も接近した第2最接近箇所と、前記ランドにおいて、前記ピストンの前記中心軸線を挟んで前記第2最接近箇所の反対側となる第2反対側箇所との距離が、前記オイルリング本体の前記内周面の直径よりも大きく設定されていることを要旨とする。
【0011】
上記の構成によれば、オイルリング溝に装着されたオイルリングは、ピストンがシリンダのボアに挿入される前には、自由径に拡張していて同ピストンの中心軸線に直交する方向へ移動可能である。
【0012】
通常は、オイルリングが上記中心軸線に直交する方向へ移動させられた場合、採り得る最大量移動させられても同オイルリングがオイルリング溝から完全に外れないように、オイルリング溝の深さが設定される。
【0013】
しかし、オイルリング溝の内底面とオイルリングとの間の背面通路の通路面積を大きく採るために、オイルリング溝が径方向内側へ拡張されて深くされた場合、ピストンの中心軸線に直交する方向についてのオイルリングの移動代が多くなる。その結果、オイルリング本体が自由径に拡張しているオイルリングがオイルリング溝の内底面に接触する位置まで移動させられたとき、ピストンの中心軸線を挟んで第1最接近箇所の反対側となる箇所がオイルリング溝から完全に飛び出すおそれがある。
【0014】
これに対し、オイルリング溝内に規制部が設けられた請求項1に記載の発明では、オイルリング本体及びエキスパンダの少なくとも一方が規制部との接触対象とされる。この接触対象が規制部に接触することで、オイルリングの径方向内側への移動が規制される。この規制により、ピストンの中心軸線に直交する方向についてのオイルリングの移動代が少なくなる。
【0015】
ここで、請求項1に記載の発明では、上記接触状態で、オイルリング本体の内周面のうち内底面に最も接近した第2最接近箇所と、ピストンの外周面のうちオイルリング溝に対し燃焼室側に隣接するランドにおいて、ピストンの中心軸線を挟んで第2最接近箇所の反対側となる第2反対側箇所との距離が、オイルリング本体の内周面の直径よりも大きく設定されている。このことから、オイルリング本体が自由径に拡張しているオイルリングがオイルリング溝の内底面に最も接近させられるときであっても、ピストンの中心軸線を挟んで第2最接近箇所の反対側となる箇所がオイルリング溝内に位置する。
【0016】
従って、ピストンの内燃機関への組付けに際し、同ピストンがシリンダのボアに挿入されるときにオイルリングがオイルリング溝から外れ、ランドに乗り上げて折損することが起こりにくい。
【0017】
上記ピストンが組付けられた内燃機関では、エキスパンダによって径方向外側へ付勢されたオイルリング本体がシリンダのボア壁面に押付けられる。そして、内燃機関の運転時には、ピストンがその中心軸線に沿う方向へ往復動する。この往復動に伴いオイルリングも同方向へ往復動し、オイルがシリンダのボア壁面に供給されたり、掻き落とされたりする。この際、上記背面通路がオイル通路の一部として機能する。
【0018】
請求項1に記載の発明では、上述したように、オイルリング溝が径方向内側へ拡張されて深くされ、背面通路の通路面積が大きくされているため、オイルがオイル通路を良好に流れる。
【0019】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記規制部は、前記オイルリング溝において前記ピストンの前記中心軸線に沿う方向に相対向する一対の壁面の少なくとも一方に一体形成されており、前記オイルリング本体を前記接触対象とし、同オイルリング本体との接触により、前記オイルリングの径方向内側への移動を規制するものであることを要旨とする。
【0020】
上記の構成によれば、規制部は、オイルリング溝においてピストンの中心軸線に沿う方向に相対向する一対の壁面の少なくとも一方に一体形成されるものであることから、同ピストンの製造時に規制部を一緒に形成することが可能である。
【0021】
また、オイルリング本体が上記規制部との接触対象とされる。この規制部にオイルリング本体が接触することにより、オイルリングの径方向内側への移動が規制され、ピストンの中心軸線に直交する方向についてのオイルリングの移動代が少なくなる。
【0022】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記規制部は、板材を折り曲げることにより形成され、前記オイルリング溝において前記ピストンの前記中心軸線に沿う方向に相対向する一対の壁面の少なくとも一方に沿って配置されており、前記オイルリング本体を前記接触対象とし、同オイルリング本体との接触により、前記オイルリングの径方向内側への移動を規制するものであることを要旨とする。
【0023】
上記の構成によれば、規制部は、板材を折り曲げることにより形成されるものであることから、これが背面通路に占める体積が少なく、通路面積の拡大に及ぼす影響が少ない。
また、オイルリング本体が上記規制部との接触対象とされる。この規制部にオイルリング本体が接触することにより、オイルリングの径方向内側への移動が規制され、ピストンの中心軸線に直交する方向についてのオイルリングの移動代が少なくなる。
【0024】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記規制部は、前記オイルリング溝の前記内底面の一部に一体形成されており、前記エキスパンダを前記接触対象とし、同エキスパンダとの接触により、前記オイルリングの径方向内側への移動を規制するものであることを要旨とする。
【0025】
上記の構成によれば、規制部は、オイルリング溝の内底面に一体形成されるものであることから、同ピストンの製造時に規制部を一緒に形成することが可能である。
また、エキスパンダが上記規制部との接触対象とされる。この規制部にエキスパンダが接触することにより、オイルリングの径方向内側への移動が規制され、ピストンの中心軸線に直交する方向についてのオイルリングの移動代が少なくなる。
【0026】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記規制部は、板材を折り曲げることにより形成され、かつ前記オイルリング溝の前記内底面から径方向外側へ離れた箇所に配置されており、前記エキスパンダを前記接触対象とし、同エキスパンダとの接触により、前記オイルリングの径方向内側への移動を規制するものであることを要旨とする。
【0027】
上記の構成によれば、規制部は、板材を折り曲げることにより形成されるものであることから、これが背面通路に占める体積が少なく、通路面積拡大に及ぼす影響が少ない。
また、エキスパンダが上記規制部との接触対象とされる。この規制部にエキスパンダが接触することにより、オイルリングの径方向内側への移動が規制され、ピストンの中心軸線に直交する方向についてのオイルリングの移動代が少なくなる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明を具体化した第1実施形態を示す図であり、ピストンとオイルリングとの位置関係を示す平面図。
【図2】第1実施形態を示す図であり、シリンダのボアにピストンが挿入された状態の内燃機関において、ピストンのオイルリング溝構造を示す部分断面図。
【図3】第1実施形態を示す図であり、シリンダのボアに挿入される前のピストンのオイルリング溝構造を示す部分断面図。
【図4】本発明を具体化した第2実施形態を示す図であり、シリンダのボアに挿入される前のピストンのオイルリング溝構造を示す部分断面図。
【図5】第1実施形態の変形例を示す図であり、シリンダのボアに挿入される前のピストンのオイルリング溝構造を示す部分断面図。
【図6】図5中の規制部の形成に用いられる部材を展開した状態で示す部分正面図。
【図7】第2実施形態の変形例を示す図であり、シリンダのボアに挿入される前のピストンのオイルリング溝構造を示す部分断面図。
【図8】図7中の規制部の形成に用いられる部材を展開した状態で示す部分正面図。
【図9】従来技術を説明する図であり、シリンダのボアに挿入される前のピストンのオイルリング溝構造を示す部分断面図。
【図10】図9中のオイルリング溝を深く形成した場合のピストンのオイルリング溝構造を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した第1実施形態について、図1〜図3を参照して説明する。
図2に示すように、内燃機関のシリンダ11の内部空間であるボア12には、ピストン20が、自身の中心軸線CLをボア12の中心軸線に合致させた状態で、同中心軸線CLに沿う方向(図2の上下方向)への往復動可能に収容されている。
【0030】
なお、第1実施形態では、上記中心軸線CLに直交する方向を特定するために、同中心軸線CLに近付く側を「径方向内側」といい、中心軸線CLから遠ざかる側を「径方向外側」というものとする。
【0031】
図2において、ピストン20の上方には燃焼室(図示略)が形成されている。この点は、後述する図3〜図5及び図7についても同様である。
ピストン20には、その外周面において開口する円環状のオイルリング溝21が形成されている。このオイルリング溝21は、ピストン20の中心軸線CLに沿う方向に相対向する一対の平らな壁面22,23と、円筒状の内底面24とを備えている。両壁面22,23も内底面24も中心軸線CLを中心として、その周りに形成されている。両壁面22,23は中心軸線CLに直交する面上に形成されており、互いに平行の関係をなしている。中心軸線CLに沿う方向について、壁面22は燃焼室に近い側に位置し、壁面23は燃焼室から遠い側に位置している。
【0032】
図1及び図2に示すように、上記オイルリング溝21には、2ピースオイルリングと呼ばれるタイプのオイルリング40が装着されている。このタイプのオイルリング40は、オイルリング溝21内で径方向外側に配置されるオイルリング本体41と、オイルリング溝21内でオイルリング本体41の径方向内側に配置されるコイルエキスパンダ55とにより構成されている。このコイルエキスパンダ55は、特許請求の範囲におけるエキスパンダに該当する部材である。なお、図1では、オイルリング本体41及びコイルエキスパンダ55が、区別されることなく1つの部材(オイルリング40)として図示されている。
【0033】
オイルリング本体41は平面Cリング状に形成されており、その両端は互いに近接するように対向配置されている。オイルリング本体41の上記中心軸線CLに沿う方向の寸法は、上記オイルリング溝21の溝幅(両壁面22,23の間隔)よりも僅かに小さく設定されている。
【0034】
コイルエキスパンダ55は引張りコイルスプリングを環状に連続させたスプリングであって、ピストン20の周方向及び径方向に弾性を有しており、同オイルリング本体41を径方向外側へ付勢する。コイルエキスパンダ55の上記中心軸線CLに沿う方向の寸法は、同方向についての上記オイルリング本体41の寸法よりも小さく設定されている。
【0035】
オイルリング本体41の外周面であって上記中心軸線CLに沿う方向の両側部には、径方向外側へ突出する一対のレール部42,43が形成されている。両レール部42,43は、ピストン20の往復動に伴いボア12の壁面(以下「ボア壁面12A」という)上を摺接する。両レール部42,43がボア壁面12A上を、内燃機関の燃焼室側(図2の上側)へ摺接することにより、オイルがボア壁面12Aに供給される。また、両レール部42,43がボア壁面12A上を燃焼室から遠ざかる側(図2の下側)へ摺接することにより、同ボア壁面12A上の余剰のオイルが掻き落とされる。
【0036】
オイルリング本体41の内周面44であって、中心軸線CLに沿う方向の中間部には、断面半円形の収容凹部45が形成されており、この収容凹部45にコイルエキスパンダ55の一部(径方向外側部分)が収容されている。コイルエキスパンダ55の他部(径方向内側部分)は収容凹部45から径方向内側へ露出している。
【0037】
オイルリング本体41には、そのオイルリング本体41を径方向に貫通する複数のオイル戻し孔46が、周方向に間隔をおいて(例えば所定角度毎に)形成されている。各オイル戻し孔46の径方向についての外端部は、上記オイルリング本体41の外周面の両レール部42,43間で開口している。各オイル戻し孔46の径方向についての内端部は、収容凹部45において開口している。
【0038】
オイルリング溝21の内底面24とオイルリング40との間の空間は、オイル通路の一部を構成している。以下、この部分を、オイル通路の他の部分と区別するために、背面通路25というものとする。
【0039】
そして、燃焼室側(図2の上側)のレール部42によって掻き落とされたオイルが、オイル戻し孔46及びコイルエキスパンダ55を通じて背面通路25へ流れ、その後、ピストン20に設けられたオイルドレン孔(図示略)等からピストン20の内側に導かれるようになっている。
【0040】
上記オイルリング本体41は、ピストン20とともにシリンダ11のボア12に挿入された状態で、挿入される前よりも縮径させられる。図3に示すように、オイルリング本体41は、ピストン20とともにボア12に挿入される前には、外力が加えられず、自由状態になっている。この状態では、オイルリング本体41は自由径に拡張している。この状態でのオイルリング本体41の内周面44の直径を「D」というものとする。
【0041】
なお、第1実施形態との比較のために、この直径Dは、従来技術を示す図9及び図10において該当する箇所にも記載されている。この場合、直径Dは、オイルリング本体91の内周面91Aの直径を表している。
【0042】
なお、図示を割愛するが、ピストン20においてオイルリング溝21よりも燃焼室側(図2及び図3の各上側)には、同ピストン20の外周面において開口する2つのリング溝が形成されており、コンプレッションリングとして機能するトップリング及びセカンドリングが、上記2つのリング溝に装着されている。トップリング及びセカンドリングは、燃焼室で生じた燃焼ガスがピストン20とボア壁面12Aとの間から漏れ出ないようにこれらの間をシールする機能を有している。
【0043】
ピストン20の外周面において、上記オイルリング溝21と、その燃焼室側に隣接するリング溝とによって挟まれた箇所は、ランド26となっている。表現を変えると、このランド26は、ピストン20の外周面のうち、オイルリング溝21に対し燃焼室側に隣接する箇所によって構成される。
【0044】
ここで、図3において二点鎖線で示すように、オイルリング本体41が自由径に拡張しているオイルリング40の一部がオイルリング溝21の内底面24に接触させられた場合を想定する。この場合に、オイルリング本体41の内周面44のうち内底面24に最も接近した箇所を第1最接近箇所47といい、ピストン20の中心軸線CLを挟んで第1最接近箇所47から最も遠ざかった箇所を第1最離隔箇所48という。また、上記ランド26において、中心軸線CLを挟んで上記第1最接近箇所47の反対側となる箇所を第1反対側箇所27という。そして、第1最接近箇所47と第1反対側箇所27との距離を「L1」というものとする。
【0045】
なお、第1実施形態との比較のために、この距離L1は、従来技術を示す図9及び図10において該当する箇所にも記載されている。この場合、距離L1は、オイルリング本体91の内周面91Aのうち、オイルリング溝83の内底面84に最も接近した箇所95と、ランド86において、中心軸線CLを挟んで上記箇所95の反対側となる箇所87との距離を表している。
【0046】
第1実施形態では、オイルリング溝21が、背面通路25の通路面積拡大のために従来の一般的なオイルリング溝よりも深く形成されていて、オイルリング溝21の内底面24が、中心軸線CLにより近い箇所に位置している。
【0047】
従来の一般的なオイルリング溝とは、上述した図9においてオイルリング溝83として描かれているものと同様のオイルリング溝である。このオイルリング溝83は、次式(i)を満たしている。
【0048】
L1≧D ・・・(i)
これは、オイルリング本体91が自由径に拡張しているオイルリング90の一部が、オイルリング溝83の内底面84に接触させられても、オイルリング本体91の内周面91Aがオイルリング溝83から飛び出すことがない、すなわち、同内周面91Aの全部がランド86よりも径方向内側に位置することを意味する。
【0049】
図3に示すように、第1実施形態のオイルリング溝21は、上記一般的なオイルリング溝83よりも深く形成されることで、上記式(i)が満たされなくなっている(L1<D)。
【0050】
これは、オイルリング本体41が自由径に拡張しているオイルリング40の一部が、図3において二点鎖線で示すように、オイルリング溝21の内底面24に接触させられると、同オイルリング本体41の第1最離隔箇所48がランド26の第1反対側箇所27から飛び出すことを意味する。すなわち、オイルリング本体41の内周面44の一部がランド26よりも径方向外側に位置する(図10参照)。
【0051】
そこで、上記のように、オイルリング溝21を深く形成することによる背面通路25の通路面積の拡大効果を確保しつつ、オイルリング本体41の内周面44がオイルリング溝21から飛び出すことのないようにするために、第1実施形態では、次のような工夫がなされている。
【0052】
オイルリング溝21内には、オイルリング本体41及びコイルエキスパンダ55の少なくとも一方を接触対象とし、同接触対象との接触によりオイルリング40の径方向内側、すなわち内底面24に近付く側への移動を規制する規制部28,29が設けられている。規制部28は壁面22に一体に形成され、規制部29は壁面23に一体に形成されている。規制部28,29の形成位置は、コイルエキスパンダ55の径方向についての移動経路から中心軸線CLに沿う方向へ外れている。各規制部28,29は、上記内底面24を起点とし、径方向外側へ向けて延びている。各規制部28,29の径方向についての外側の面(外面28A,29A)は、オイルリング溝21の深さ方向についての中間部分に位置している。各規制部28,29は、オイルリング本体41のみを接触対象とし、コイルエキスパンダ55を接触対象としない。各規制部28,29は、その外面28A,29Aにおいて、オイルリング40のうちオイルリング本体41の内周面44にのみ接触することにより、オイルリング40の径方向内側への移動を規制する。
【0053】
ここで、自由径に拡張しているオイルリング本体41の内周面44の一部が規制部28,29の外面28A,29Aに接触した状態で、同内周面44のうち内底面24に最も接近した箇所を第2最接近箇所51といい、ピストン20の中心軸線CLを挟んで同第2最接近箇所51から最も遠ざかった箇所を第2最離隔箇所52という。また、上記ランド26において、中心軸線CLを挟んで第2最接近箇所51の反対側となる箇所を第2反対側箇所32という。第2最接近箇所51と第2反対側箇所32との距離を「L2」というものとする。
【0054】
第1実施形態では、次式(ii)が成立する箇所に外面28A,29Aが位置するように規制部28,29が設けられている。
L2>D ・・・(ii)
上記のようにして第1実施形態が構成されている。次に、この第1実施形態の作用について説明する。
【0055】
オイルリング溝21に装着されたオイルリング40は、ピストン20がボア12に挿入される前には、自由径に拡張していて同ピストン20の中心軸線CLに直交する方向へ移動可能である。オイルリング本体41は、壁面22,23上を摺接しながら、同方向へ移動可能である。コイルエキスパンダ55は、中心軸線CLに沿う方向について、壁面22,23及び規制部28,29から離れた箇所で、中心軸線CLに直交する方向へ移動可能である。
【0056】
通常は、オイルリング40が上記中心軸線CLに直交する方向へ移動させられた場合、採り得る最大量移動させられてもオイルリング本体41の周方向についての一部がオイルリング溝21から完全に外れないように、すなわち上記式(i)が成立するように、オイルリング溝21の深さが設定される(図9参照)。
【0057】
しかし、背面通路25の通路面積を大きく採るために、オイルリング溝21が径方向内側へ拡張されて深くされた場合、中心軸線CLに直交する方向についてのオイルリング40の移動代が多くなる。その結果、オイルリング本体41が自由径に拡張しているオイルリング40が内底面24に最も接近する位置まで移動させられると、第2最離隔箇所52がオイルリング溝21から完全に飛び出すおそれがある(図10参照)。
【0058】
これに対し、オイルリング溝21内に規制部28,29が設けられた第1実施形態では、オイルリング本体41が規制部28,29との接触対象とされる。このオイルリング本体41の内周面44の一部が規制部28,29の外面28A,29Aに接触する(図3参照)ことで、オイルリング40の径方向内側への移動が規制される。この規制により、中心軸線CLに直交する方向についてのオイルリング40の移動代が少なくなる。
【0059】
なお、コイルエキスパンダ55は、オイルリング本体41よりも径方向内側に位置する。しかし、規制部28,29がコイルエキスパンダ55の径方向についての移動経路から中心軸線CLに沿う方向に外れている。このことから、規制部28,29がコイルエキスパンダ55に接触してその移動の妨げとなることは起こりにくい。
【0060】
ここで、第1実施形態では、上記接触状態で上記式(ii)が満たされている(L2>D)。このことから、オイルリング本体41が自由径に拡張しているオイルリング40がオイルリング溝21の内底面24に最も接近させられるときであっても、第2最離隔箇所52はオイルリング溝21内に位置する。このことは、オイルリング本体41の内周面44の全体がランド26よりも径方向内側に位置すること、すなわち、オイルリング溝21内に位置することを意味する。
【0061】
従って、ピストン20の内燃機関への組付けに際し、同ピストン20がボア12に挿入されるときにオイルリング40がオイルリング溝21から外れることが起こりにくくなる。
【0062】
なお、オイルリング本体41は、規制部28,29の外面28A,29Aとの接触により径方向内側への移動を規制されることから、外面28A,29Aよりも径方向内側の内底面24に接触しない。また、オイルリング本体41を径方向外側へ付勢するコイルエキスパンダ55は、規制部28,29にもオイルリング溝21の内底面24にも接触しない。
【0063】
上記ピストン20が組付けられた内燃機関では、図2に示すようにコイルエキスパンダ55によって径方向外側へ付勢されたオイルリング本体41がシリンダ11のボア壁面12Aに押圧される。そして、内燃機関の運転時には、ピストン20がその中心軸線CLに沿う方向へ往復動する。この往復動に伴いオイルリング40も同方向へ往復動し、レール部42,43がボア壁面12A上を摺接する。この摺接により、オイルがボア壁面12Aに供給されたり、掻き落とされたりする。この際、オイルリング40よりも径方向内側の背面通路25がオイル通路の一部として機能する。
【0064】
第1実施形態では、上述したように、オイルリング溝21が径方向内側へ拡張されて深くされていることから、背面通路25の通路面積が大きく、オイルがオイル通路を良好に流れる。
【0065】
以上詳述した第1実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)オイルリング溝21内に、オイルリング本体41及びコイルエキスパンダ55の少なくとも一方を接触対象とし、同接触対象との接触によりオイルリング40の径方向内側への移動を規制する規制部28,29を設ける。
【0066】
オイルリング本体41が自由径に拡張している状態のオイルリング40の接触対象が規制部28,29に接触した状態で、オイルリング本体41の内周面44の第2最接近箇所51と、ランド26の第2反対側箇所32との距離L2を、オイルリング本体41の内周面44の直径Dよりも大きく(L2>D)設定している(図3)。
【0067】
そのため、内燃機関への組付けに際し、ピストン20がシリンダ11に挿入されるときに、オイルリング40がオイルリング溝21から外れてランド26に乗り上げて折損するのを抑制することができる。
【0068】
また、オイルリング溝21を深くすることで、背面通路25の通路面積を拡大して、オイル通路でのオイルの流通性を良好なものとすることができる。
なお、壁面22,23に形成される規制部28,29が、背面通路25に占める体積は少なく、通路面積の拡大に及ぼす影響は少ない。
【0069】
(2)規制部28,29を、オイルリング溝21においてピストン20の中心軸線CLに沿う方向に相対向する一対の壁面22,23の各々に一体に形成している。
そのため、規制部28,29をピストン20の製造(鋳造)時に一緒に形成することができる。
【0070】
(3)オイルリング本体41を接触対象とし、同オイルリング本体41の規制部28,29との接触により、オイルリング40の径方向内側への移動を規制するようにしている。
【0071】
そのため、この移動規制により、ピストン20の中心軸線CLに直交する方向についてのオイルリング40の移動代を少なくし、ピストン20の内燃機関への組付けに際し、同ピストン20がシリンダ11に挿入されるときにオイルリング40がオイルリング溝21から外れるのを抑制し、もって上記(1)の効果を得ることができる。
【0072】
(第2実施形態)
次に、本発明を具体化した第2実施形態について図4を参照して説明する。
第2実施形態では、第1実施形態と同様、オイルリング溝21が、背面通路25の通路面積拡大のために従来の一般的なオイルリング溝83(図9参照)よりも深く形成されていることを前提とし、規制部33が、オイルリング溝21の壁面22,23に代えて内底面24に一体形成されている。規制部33は、内底面24から径方向外側へ突出している。この規制部33は、内底面24において、ピストン20の中心軸線CLに沿う方向の一部にのみ形成されている。第2実施形態では、規制部33は中心軸線CLに沿う方向の中央部に形成されている。この形成箇所は、コイルエキスパンダ55の径方向についての移動経路上に位置する。
【0073】
また、第2実施形態では、オイルリング本体41に代えてコイルエキスパンダ55が規制部33との接触対象とされる。規制部33は、径方向についての外側の面(外面33A)においてコイルエキスパンダ55と接触することにより、オイルリング40の径方向内側への移動を規制する。
【0074】
そして、オイルリング本体41が自由径に拡張しているオイルリング40のコイルエキスパンダ55が規制部33に接触させられた状態で、上記式(ii)の関係(L2>D)が成立する箇所に外面33Aが位置するように規制部33が形成されている。
【0075】
上記以外の構成は第1実施形態と同様である。そのため、第1実施形態と同様の箇所、部材等については同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
上記の構成を有する第2実施形態では、オイルリング溝21に装着されたオイルリング40は、ピストン20がボア12に挿入される前には、自由径に拡張していて同ピストン20の中心軸線CLに直交する方向へ移動可能である。
【0076】
ただし、オイルリング溝21の内底面24においてコイルエキスパンダ55の移動経路上に規制部33が設けられていることから、コイルエキスパンダ55が規制部33との接触対象とされる。コイルエキスパンダ55が規制部33の外面33Aに接触することで、コイルエキスパンダ55及びオイルリング本体41の径方向内側への移動が規制される。この規制により、ピストン20の中心軸線CLに直交する方向についてのオイルリング40の移動代が、規制部33の設けられていない場合(図10参照)よりも少なくなる。
【0077】
ここで、第2実施形態では、上記接触状態で上記式(ii)が満たされている(L2>D)。このことから、オイルリング本体41が自由径に拡張しているオイルリング40がオイルリング溝21の内底面24に最も接近させられるときであっても、第2最離隔箇所52がオイルリング溝21内に位置する。このことは、オイルリング本体41の内周面44の全体がランド26よりも径方向内側に位置すること、すなわち、オイルリング溝21内に位置することを意味する。
【0078】
従って、ピストン20の内燃機関への組付けに際し、同ピストン20がボア12に挿入されるときにオイルリング40がオイルリング溝21から外れることが起こりにくくなる。
【0079】
なお、コイルエキスパンダ55は、規制部33との接触により径方向内側への移動を規制されることから、同規制部33よりも径方向内側に位置する内底面24に接触しない。また、コイルエキスパンダ55よりも径方向外側に配置されているオイルリング本体41は、規制部33にも内底面24にも接触しない。
【0080】
従って、第2実施形態によれば、上記(1)に加え、次の効果が得られる。
(4)規制部33を、オイルリング溝21の内底面24の一部に一体に形成している。
そのため、上記(2)と同様、規制部33をピストン20の製造(鋳造)時に一緒に形成することができる。
【0081】
(5)コイルエキスパンダ55を接触対象とし、同コイルエキスパンダ55の規制部33との接触により、オイルリング40の径方向内側への移動を規制するようにしている。
そのため、この移動規制により、ピストン20の中心軸線CLに直交する方向についてのオイルリング40の移動代を少なくし、ピストン20の内燃機関への組付けに際し、同ピストン20がボア12に挿入されるときにオイルリング40がオイルリング溝21から外れるのを抑制し、上記(1)の効果を得ることができる。
【0082】
なお、規制部33は、内底面24の一部に形成されるため、背面通路25に占める体積が少なく、通路面積の拡大に及ぼす影響は少ない。
本発明は、次に示す別の実施形態に具体化することができる。
【0083】
<第1実施形態に関する事項>
・各規制部28,29は、オイルリング溝21の壁面22,23の全周にわたって形成されてもよいし、ピストン20の中心軸線CLを中心として放射状に延びるように形成されてもよい。規制部28,29の数は、前者の場合にはそれぞれ1つであり、後者の場合には複数である。後者の複数の規制部28,29は所定角度毎に形成されてもよい。
【0084】
・規制部28,29は、オイルリング溝21の内底面24から離れた状態で形成されてもよい。
・オイルリング40の径方向内側への移動を規制できることを条件に、規制部28,29の一方が省略されてもよい。
【0085】
・規制部がピストン20とは別部材によって形成されてもよい。図5及び図6はその一例を示している。なお、図6は、図5中の規制部の形成に用いられる、板材からなる部材60が展開された状態(折り曲げられる前の状態)を示している。
【0086】
この部材60は、長方形の板状をなし、かつその短辺に沿う方向(図6の左右方向)に互いに離間した状態で並べられた複数の規制部61を備えている。これらの規制部61は、後述する規制部63側(図6の下側)の端部寄りの箇所において、上記短辺に沿う方向に延びる帯状の第1連結部62によって連結されている。
【0087】
また、上記部材60は、長方形の板状をなし、かつ上記規制部61から、それらの長辺に沿う方向(図6の下方)へ一定距離離れた箇所において、短辺に沿う方向(図6の左右方向)に互いに離間した状態で並べられた複数の規制部63を備えている。これらの規制部63は、前述した規制部61側(図6の上側)の端部寄りの箇所において、上記短辺に沿う方向に延びる帯状の第1連結部64によって連結されている。
【0088】
各規制部61,63の長辺に沿う方向(図6の上下方向)へ互いに離れて配置された上記両第1連結部62,64は、同方向に延び、かつ各規制部61,63の短辺に沿う方向に所定間隔おきに配置された複数の長尺状の第2連結部65によって相互に連結されている。図6では、各第2連結部65は、隣合う規制部61間(隣合う規制部63間)の中央に配置されている。
【0089】
上記部材60は、図5に示すようにオイルリング溝21に組込まれる。この組込みに際し、各第2連結部65の第1連結部62との境界部分で、各規制部61及び第1連結部62が略直角に折り曲げられる。各第2連結部65の第1連結部64との境界部分で、各規制部63及び第1連結部64が略直角に折り曲げられる。さらに、部材60がオイルリング溝21の内底面24に沿って円環状に湾曲させられることにより、各第2連結部65が同内底面24の近くで、ピストン20の中心軸線CLに沿うように配置される。
【0090】
こうした配置により、各規制部61が中心軸線CLを中心として、オイルリング溝21の内底面24から、壁面22に接触した状態で、同壁面22に沿って放射状に延びる。また、第1連結部62が中心軸線CLの周りで、壁面22に接触した状態で同壁面22に沿って円環状となる。これらの規制部61及び第1連結部62は厚みが薄く、コイルエキスパンダ55の径方向ついての移動経路から中心軸線CLに沿う方向に外れる。
【0091】
同様に、各規制部63が中心軸線CLを中心として、オイルリング溝21の内底面24から、壁面23に接触した状態で同壁面23に沿って放射状に延びる。また、第1連結部64が中心軸線CLの周りで、壁面23に接触した状態で同壁面23に沿って円環状となる。これらの規制部63及び第1連結部64は厚みが薄く、コイルエキスパンダ55の径方向ついての移動経路から中心軸線CLに沿う方向に外れる。
【0092】
さらに、各第2連結部65は、上記内底面24から僅かに離間した箇所で、中心軸線CLに沿って延びる。
上記部材60の各規制部61,63は、オイルリング本体41を接触対象とし、同オイルリング本体41との接触により、オイルリング40の径方向内側への移動を規制するものである。
【0093】
上記以外は、第1実施形態と同様である。従って、図5において第1実施形態と同様の箇所、部材等については同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
上記構成を有する変形例では、オイルリング本体41が、オイルリング溝21の壁面22,23に沿って配置された規制部61,63との接触対象とされる。これらの規制部61,63にオイルリング本体41が接触することにより、オイルリング40の径方向内側への移動が規制され、中心軸線CLに直交する方向についてのオイルリング40の移動代が少なくなる。そのため、上述した(1),(3)と同様の効果が得られる。
【0094】
なお、オイルリング本体41は、規制部61,63との接触により径方向内側への移動を規制されることから、同規制部61,63よりも径方向内側に位置する内底面24には接触しない。
【0095】
コイルエキスパンダ55はオイルリング本体41よりも径方向内側に位置する。しかし、規制部61,63及び第1連結部62,64は、コイルエキスパンダ55の径方向についての移動経路から中心軸線CLに沿う方向に外れている。このことから、規制部61,63及び第1連結部62,64は、コイルエキスパンダ55に接触してその移動の妨げとなることはない。
【0096】
また、第2連結部65は内底面24の近くに位置しているため、この第2連結部65がコイルエキスパンダ55に接触して、その移動の妨げとなることもない。
部材60は板材からなるため、規制部61,63、第1連結部62,64及び第2連結部65が背面通路25に占める体積が少なく、通路面積の拡大に及ぼす影響が少ない。
【0097】
なお、上記部材60は複数の部品からなるものであってもよい。すなわち、上記部材60を構成する規制部61,63、第1連結部62,64及び第2連結部65について、その一部が他部とは別の部品によって形成されてもよい。ただし、この場合には、部品を相互に固定する構造が必要となる。
【0098】
<第2実施形態に関する事項>
・規制部33は、オイルリング溝21の内底面24の全周にわたって形成されてもよいし、ピストン20の中心軸線CLの周りに断続的に形成されてもよい。規制部33の数は、前者の場合には1つであり、後者の場合には複数である。後者の複数の規制部33は所定角度毎に形成されてもよい。
【0099】
・規制部33は、オイルリング40の径方向内側への移動を規制できることを条件に、中心軸線CLに沿う方向の複数箇所に形成されてもよい。
・規制部がピストン20とは別部材によって形成されてもよい。図7及び図8はその一例を示している。なお、図8は、図7中の規制部の形成に用いられる、板材からなる部材70が展開された状態(折り曲げられる前の状態)を示している。
【0100】
この部材70は、長尺の板状をなす規制部71と、その規制部71から同規制部71の幅方向についての一側(図8の上側)へ延びる複数の脚部72と、同幅方向についての他側(図8の下側)へ延びる複数の脚部73とからなる。規制部71の幅は、オイルリング溝21の溝幅(壁面22,23の間隔)よりも小さく設定されている。前者の脚部72も後者の脚部73も、規制部71の長さ方向(図8の左右方向)に所定間隔おきに配置されている。図8では、前者の脚部72も後者の脚部73も、規制部71の長さ方向についての同じ箇所から互いに反対方向に延びている。
【0101】
上記部材70は、図7に示すようにオイルリング溝21へ組込まれる。この組込みに際し、各脚部72,73が規制部71との境界部付近に設定された折り曲げ線74に沿って折り曲げられる。また、各脚部72,73が、その長さ方向(図8の上下方向)についての中間部分に設定された折り曲げ線75に沿って、上記とは逆方向に折り曲げられる。そして、部材70がオイルリング溝21の内底面24に沿って円環状に湾曲させられることにより、各脚部72,73が同内底面24に接触させられた状態で、ピストン20の中心軸線CLの周りに円環状に配置される。規制部71は、内底面24から径方向外側へ離間した位置で円環状に配置される。規制部71は、中心軸線CLに沿う方向についての中央に位置する。この位置は、コイルエキスパンダ55の移動経路上にある。
【0102】
上記規制部71は、コイルエキスパンダ55を接触対象とし、同コイルエキスパンダ55との接触により、オイルリング40の径方向内側への移動を規制するものである。
上記以外は、第2実施形態と同様である。従って、図7において第2実施形態と同様の箇所、部材等については同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0103】
上記構成を有する変形例では、コイルエキスパンダ55が、オイルリング溝21の内底面24から径方向外側へ離れた箇所に設けられた規制部71との接触対象とされる。この規制部71にコイルエキスパンダ55が接触することにより、オイルリング40の径方向内側への移動が規制され、中心軸線CLに直交する方向についてのオイルリング40の移動代が少なくなる。そのため、上述した(1),(5)と同様の効果が得られる。
【0104】
なお、コイルエキスパンダ55は、規制部71との接触により径方向内側への移動を規制されることから、規制部71よりも径方向内側の内底面24に接触しない。また、コイルエキスパンダ55よりも径方向外側に配置されたオイルリング本体41は、規制部71にも内底面24にも接触しない。
【0105】
部材70は板材からなるため、規制部71及び脚部72,73が背面通路25に占める体積が少なく、通路面積の拡大に及ぼす影響が少ない。
上記部材70は複数の部品からなるものであってもよい。すなわち、上記部材70を構成する規制部71と脚部72,73とが別部品によって形成されてもよい。ただし、この場合には、脚部72,73を規制部71に固定する構造が必要となる。
【0106】
<その他>
・第1実施形態と第2実施形態とが組合わされて実施されてもよい。この場合、オイルリング溝21の壁面22,23には、オイルリング本体41に接触する規制部28,29が形成され、内底面24には、コイルエキスパンダ55に接触する規制部33が形成される。オイルリング本体41及びコイルエキスパンダ55の双方が、規制部28,29,33との接触対象となる。
【符号の説明】
【0107】
20…ピストン、21…オイルリング溝、22,23…壁面、24…内底面、25…背面通路、26…ランド、27…第1反対側箇所、28,29,33,61,63,71…規制部、32…第2反対側箇所、40…オイルリング、41…オイルリング本体、44…内周面、47…第1最接近箇所、51…第2最接近箇所、55…コイルエキスパンダ(エキスパンダ)、CL…中心軸線、D…直径、L1,L2…距離。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンの外周面において開口する円環状のオイルリング溝が前記ピストンに形成され、
前記オイルリング溝に装着されるオイルリングが、同オイルリング溝の径方向外側に配置されるオイルリング本体と、前記オイルリング本体の径方向内側に配置されて同オイルリング本体を径方向外側へ付勢するエキスパンダとにより構成され、
前記オイルリング溝の内底面と前記オイルリングとの間の空間がオイルの背面通路とされ、
前記オイルリング本体が自由径に拡張している前記オイルリングの一部が前記オイルリング溝の前記内底面に接触させられた場合に、前記オイルリング本体の内周面のうち前記内底面に最も接近した第1最接近箇所と、前記ピストンの前記外周面のうち前記オイルリング溝に対し燃焼室側に隣接するランドにおいて、前記ピストンの中心軸線を挟んで前記第1最接近箇所の反対側となる第1反対側箇所との距離が、前記オイルリング本体の前記内周面の直径よりも小さく設定されたピストンのオイルリング溝構造であって、
前記オイルリング溝内には、前記オイルリング本体及び前記エキスパンダの少なくとも一方を接触対象とし、同接触対象との接触により前記オイルリングの径方向内側への移動を規制する規制部が設けられ、
前記オイルリング本体が自由径に拡張している前記オイルリングの前記接触対象が前記規制部に接触させられた状態で、前記オイルリング本体の内周面のうち前記オイルリング溝の前記内底面に最も接近した第2最接近箇所と、前記ランドにおいて、前記ピストンの前記中心軸線を挟んで前記第2最接近箇所の反対側となる第2反対側箇所との距離が、前記オイルリング本体の前記内周面の直径よりも大きく設定されていることを特徴とするピストンのオイルリング溝構造。
【請求項2】
前記規制部は、前記オイルリング溝において前記ピストンの前記中心軸線に沿う方向に相対向する一対の壁面の少なくとも一方に一体形成されており、前記オイルリング本体を前記接触対象とし、同オイルリング本体との接触により、前記オイルリングの径方向内側への移動を規制するものである請求項1に記載のピストンのオイルリング溝構造。
【請求項3】
前記規制部は、板材を折り曲げることにより形成され、前記オイルリング溝において前記ピストンの前記中心軸線に沿う方向に相対向する一対の壁面の少なくとも一方に沿って配置されており、前記オイルリング本体を前記接触対象とし、同オイルリング本体との接触により、前記オイルリングの径方向内側への移動を規制するものである請求項1に記載のピストンのオイルリング溝構造。
【請求項4】
前記規制部は、前記オイルリング溝の前記内底面の一部に一体形成されており、前記エキスパンダを前記接触対象とし、同エキスパンダとの接触により、前記オイルリングの径方向内側への移動を規制するものである請求項1に記載のピストンのオイルリング溝構造。
【請求項5】
前記規制部は、板材を折り曲げることにより形成され、かつ前記オイルリング溝の前記内底面から径方向外側へ離れた箇所に配置されており、前記エキスパンダを前記接触対象とし、同エキスパンダとの接触により、前記オイルリングの径方向内側への移動を規制するものである請求項1に記載のピストンのオイルリング溝構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−241737(P2012−241737A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109704(P2011−109704)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】