説明

ピストンダミーを有する圧縮機

【課題】ピストン室内を移動することができ、ピストンとして機能する液体を有する圧縮機について記述されている。
【解決手段】本発明に従って、前記液体(3)中に1個の、該液体と共に移動し得るピストンダミー(5)が配置されている。このピストンダミー(5)は、上死点に到達する際、該ピストンダミーとピストン室の内壁によって定義される環状の隙間内の液体(3)に、ある加速度を生ぜしめるように設計されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストン室内を移動することができ、ピストンとして機能する液体、つまり液柱 (liquid column) を有する圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
この種類の圧縮機は、例えば水素や天然ガスなどのガス状媒質を最高 1,000 bar の圧力に圧縮する目的に使用されるものであり、ピストン室の内部には在来のピストンではなく、液体、つまり液柱が配置されている故に、ピストンレス圧縮機とも呼ばれる。このような圧縮機は、例えば特許文献1によって知られている。
【0003】
このような圧縮機に使用される液体は、一方では圧縮されるべき媒質に不溶性であり、他方では圧縮されるべき媒質から残渣を残すことなく分離され得るイオン性の液体であることが好ましい。但し原理上は、例えば高沸点の油圧作動油、真空油、あるいは他の高沸点で媒質溶解性が低い液体も使用することができる。
【0004】
今日まで、この種の圧縮機は作動液それ自体によって冷却されている。該作動液によって十分な冷却効果が得られない場合には、例えば冷却ジャケットの形で補助的な外部冷却が行われるのが普通である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−514844号公報(ドイツ特許公開第102004046316号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
圧縮された媒質に同伴して、液体が意図なく吐出弁を通じて流出すること、及び/またはデッドスペースの好ましい最適化が保証され得るために、今日まで、液体表面を可能な限り平滑に保つ努力がなされてきた。しかし、液体表面が平滑に保たれることにより、表面の接触による伝熱、ひいては冷却効果が低下する。これは、圧縮機の最も高熱になる部分―すなわちピストン室内の、上死点が位置する領域―が最も冷却されないという結果をもたらす。ところが、このため特に圧縮機の上死点における熱の発生によって圧縮プロセスの熱効率が低下するという不利益がある。
【0007】
本発明の課題は、この種類の圧縮機であって、特に上死点の領域内における冷却力、つまり冷却効果が改善され得、それにより圧縮機の効率が高められるような圧縮機を提供することである。この課題を解決するために、ピストン室内を移動することができ、ピストンとして働く液体を含んで成るこの種類の圧縮機において、該液体中に1個の、該液体と共に移動し得るピストンダミーが配置されていることを特徴とする圧縮機が提案される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従属請求項の主題を構成する、本発明の圧縮機のさらなる有利な発展形態(4種)は:
− 前記ピストンダミーが、上死点に到達する際、該ピストンダミー、及びピストン室の内壁によって定義される環状の隙間内の液体に、ある加速度を生ぜしめるように設計されていること;
− ピストンダミーの底部が、液体が該ピストンダミー底部の領域内で保持されるか、加速されるように設計されていること;
− ピストンダミーが、一体設計または複数部品から成る設計であること;及び
− 液体は、少なくとも一部がイオン性液体であること
を特徴としている。
【0009】
本発明の圧縮機、及びそのさらなる発展形態を、以下、図1〜3に示す実施例をもとにして、さらに詳しく説明する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の圧縮機コンセプトによれば、ピストン室頂部、つまりシリンダヘッドの、特に上死点領域における冷却改善が達成される。この結果、圧縮温度の低下、従って必要な圧縮エネルギーの低下がもたらされる。従って、本発明の圧縮機の効率は、その他の点では同一であるが、本発明で備えられているピストンダミーが省略されている圧縮機に比べて改善されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の圧縮機における可能な一実施形態を、側面から見た断面図(但し、正確な縮尺率ではない)で示したもので、圧縮行程の開始時の状態を示す。
【図2】本発明の圧縮機における可能な一実施形態を、側面から見た断面図(但し、正確な縮尺率ではない)で示したもので、圧縮行程の終了時の状態を示す。
【図3】本発明の圧縮機における可能な一実施形態を、側面から見た断面図(但し、正確な縮尺率ではない)で示したもので、吸入行程中の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の圧縮機は、ピストン室(2)を定義するシリンダ(1)を有する。ピストン室(2)の内部に液体(3)が配置されており、該液体は液柱を形成し、好ましくはイオン性液体である。適切な手段 ― 図1〜3中では液圧ピストン(4)― を用いて、液柱(3)はピストン室(2)内部を上下に動かされる。シリンダヘッドには、少なくとも1個の吸入弁(6)と、少なくとも1個の吐出弁(7)とが設置されている。
【0013】
さて、本発明に従って一体設計または複数部品から成る設計のピストンダミー(5)が液体(3)中に配置されている。このピストンダミー(5)の周囲を液体(3)が循環しているので、場合により流体圧ピストン(4)に備えられるパッキングは、常時液体(3)と接触している。ピストンダミー(5)がシリンダ、つまりピストン室(2)に少なくとも近似した形状を有することが有利である。ピストン室(2)は、流体工学的及び/または冷却技術的に見て最適化された内部形状を有することが望ましい。前記吸入弁(6)及び吐出弁(7)は、それらが冷却プロセスを支えるような態様で配置されていると有利である。それに加えて、ピストンダミー(5)の底部は、液体(3)が該ピストンダミー底部の領域で保持されるか、加速されるように設計されていることが好ましい。
【0014】
圧縮行程の間、図1及び図2に示すように、液体(3)はピストンダミー(5)と共に上に向かって動かされる。ピストンダミー(5)の輪郭がシリンダ内部空間の頂部領域と合致しているため、ピストンダミー(5)が上死点に接近する時に、ピストンダミー(5)及びピストン室の壁によって定義される環状の隙間(8)内における液体(3)の加速が実現される。この液体(3)の加速によって、液体(3)が、従来技術に数えられる圧縮機構造におけるよりも長時間、冷却されるべきシリンダヘッドと接触するという結果がもたらされる。それに加えて、環状の隙間(8)内で液体(3)が加速されるため、液体(3)内に乱流が形成され、その結果、該乱流による付加的な冷却効果がもたらされる。
【0015】
通常の場合、上死点に到達した際に、液体(3)の一部は圧縮された媒質に同伴して、ピストン室(2)から吐出弁(7)を通じて排出される。この場合、液柱の最上層が、従って最も高温の層が関係する。
【0016】
吐出弁(7)が閉じた後、液柱(3)及びピストンダミー(5)の下方への運動が始まると、ピストン室(2)の上部領域に残存する加速された液体の残りが、新たにシリンダヘッドの上部を瞬時に流れ過ぎ、その結果、所望の冷却効果がさらに増強される。
【0017】
本発明に従って備えられるピストンダミー(5)の有利な発展形態の場合、液体(3)の最上層は該ピストンダミー(5)上に残留する。この効果は、特にイオン性液体の場合に生ずる。何故なら、加速された液体は、もはや液体表面内に沈むことができないからである。しかしながら、それに後続する圧縮行程中に、まさにこの(高温の)液体残留量が、シリンダ(1)、つまりピストン室(2)から吐出弁(7)を通じて排出されるので、この挙動は望ましい。
【0018】
ピストンダミー(5)の形状が、実質的にシリンダ内部空間(2)の上部領域の形状によって定義されることは明白である。但し原理的には、異なった多種多様なピストンダミー形状が、実地において実現可能である。
【0019】
本発明の圧縮機コンセプトによれば、ピストン室頂部、つまりシリンダヘッドの、特に上死点領域における冷却改善が達成される。この結果、圧縮温度の低下、従って必要な圧縮エネルギーの低下がもたらされる。従って、本発明の圧縮機の効率は、その他の点では同一であるが、本発明で備えられているピストンダミーが省略されている圧縮機に比べて改善されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストン室内を移動することができ、ピストンとして機能する液体(3)を有する圧縮機であって、該液体(3)中に1個の、該液体と共に移動し得るピストンダミー(5)が配置されていることを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
前記ピストンダミー(5)が、上死点に到達する際、該ピストンダミーとピストン室の内壁によって定義される環状の隙間内の液体(3)に、ある加速度を生ぜしめるように設計されていることを特徴とする請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
ピストンダミー(5)の底部が、液体(3)が該ピストンダミー底部の領域で保持されるか、加速されるように設計されていることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の圧縮機。
【請求項4】
ピストンダミー(5)が、一体設計または複数部品から成る設計であることを特徴とする前記請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記液体(3)は、少なくとも一部がイオン性液体であることを特徴とする前記請求項1〜4のいずれか1項に記載の圧縮機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2012−526940(P2012−526940A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−510140(P2012−510140)
【出願日】平成22年5月4日(2010.5.4)
【国際出願番号】PCT/EP2010/002735
【国際公開番号】WO2010/130356
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(391009659)リンデ アクチエンゲゼルシャフト (106)
【氏名又は名称原語表記】Linde Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Klosterhofstrasse 1, D−80331 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】