説明

ピックル液およびこれを用いた食肉加工品

【課題】硬くパサついた食感の食肉に、柔らかくジューシー感があり、且つ霜降り肉のごとき脂感を付与するピックル液およびこれを用いた食肉加工品を提供すること。
【解決手段】食用油脂およびジグリセリン不飽和脂肪酸エステルおよび/またはトリグリセリン不飽和脂肪酸エステルを含有する流動性油脂組成物と、粉末油脂とを必須成分として含むことを特徴とするピックル液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食肉をより柔らかくジューシーにし、かつ霜降り肉の如き脂感を付与するピックル液およびこれを用いた食肉加工品に関する。
【背景技術】
【0002】
細かい霜降りの入った柔らかく、ジューシーで、かつ脂のコク、風味に富んだ牛肉は、日本人の嗜好性が非常に高い食肉の一つであり、和牛のそれは大変重用され高価である。外国産例えばオーストラリア産の牛肉は、比較的安価ながら、霜降り状のサシ(肉の中にある細かい脂肪)が少なく、肉質が硬く、脂身が少ない。そのため、日本人の嗜好に合いづらく従来問題となっていた。
【0003】
この問題を解決するために、食味改善や色調改善等の目的でリン酸塩、たんぱく質、ゲル化剤、澱粉、油脂等を含有したピックル液を食肉にインジェクションしたり食肉をピックル液に浸漬したりして一定の軟化効果やジューシー感を持たせる試みが従来より行われている。
例えば1,3−ステアロイル2−オレイルグリセリドを含有した食用油脂と不飽和ジグリセリン脂肪酸エステルと有機酸モノグリセリド、さらに熱凝固性タンパクを配合したピックル液を食肉に含ませた後、油脂結晶を粗大化させて解乳化させる方法(特許文献1参照)、水不溶性澱粉および粉末油脂を含むピックル液をインジェクションする方法(特許文献2参照)、食用油脂およびHLB11以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有するO/W乳化物をピックル液に配合する方法(特許文献3参照)、凝乳酵素で分解したカゼインアルカリ塩を用いて乳化した乳化油脂とカルシウムイオンの混合液を生肉に注入する方法(特許文献4参照)等が提案されている。
しかし、前述の方法では満足のできる効果が未だ十分に得られていないのが実情である。
【特許文献1】特開2000−50794号公報
【特許文献2】特開2001−258511号公報
【特許文献3】特開平3−277250号公報
【特許文献4】特公平6−59166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、そのままでは硬く、脂身が少ないためパサパサしている食肉、例えばオーストラリア産牛肉等のような食肉に注入または当該食肉を含浸させることにより食肉を柔らかくジューシーにし、かつ当該食肉の動物脂様のコク味感を向上させることができるピックル液、および該ピックル液を用いて製造した食肉加工品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、ジグリセリン不飽和脂肪酸エステルおよび/またはトリグリセリン不飽和脂肪酸エステルと食用油脂を含有する流動性油脂組成物と、粉末油脂を配合したピックル液を食肉に、例えばインジェクションや浸漬等の手段で含有させることにより目的が達せられることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)食用油脂およびジグリセリン不飽和脂肪酸エステルおよび/またはトリグリセリン不飽和脂肪酸エステルを含有する流動性油脂組成物と、粉末油脂とを必須成分として含むことを特徴とするピックル液、
(2)ピックル液100質量%中、ジグリセリン不飽和脂肪酸エステルおよび/またはトリグリセリン不飽和脂肪酸エステルとしての配合量が、両成分の合計量として0.04〜4質量%である前記(1)に記載のピックル液、および
(3)前記(1)または(2)のいずれかに記載のピックル液を用いて製造した食肉加工品、
に関する。
【発明の効果】
【0007】
肉質が硬く、脂身が少ないためパサパサとした、日本人の嗜好に合わない食肉を、本発明のピックル液で処理することにより、柔らかくジューシーにし、かつ霜降り肉に見られるような脂感を呈する食肉加工品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のピックル液は、食用油脂およびジグリセリン不飽和脂肪酸エステルおよび/またはトリグリセリン不飽和脂肪酸エステルを含有する流動性油脂組成物(以下、単に油脂組成物という。)と、粉末油脂とを必須成分として含むことを特徴とする。
【0009】
本発明で用いられる油脂組成物の食用油脂としては、食用に適する油脂であれば特に限定されず、例えばオリーブ油、キャノーラ油、米油、米ぬか油、ゴマ油、サフラワー油、大豆油、大豆白紋油、コーン油、パーム油、パーム核油、菜種油、菜種白絞油、ひまわり油、綿実油、やし油、落花生油、グレープシード油またはしそ油等の植物性油脂、牛脂、豚脂、魚油、乳脂またはラード等の動物性油脂、あるいはそれらを分別処理したもの、水素添加処理したもの、さらにこれら動植物性油脂単独または二種類以上を任意に組み合わせてエステル交換処理したもの等が挙げられる。これらの油脂を一種類で用いてもよいし、二種類以上を任意に組み合わせて用いてもよい。油脂組成物の融点は特に制限されないが、ピックル液中への分散の容易性を考慮した場合、上昇融点は約20℃以下が好ましく、低温でも流動性を保っていることが望ましい。前記流動性は、一定の形状を有さず自由に形を変えることができる性質をいい、液体や粘性液体(以下、両者を合わせて液状という。)が含まれる。前記低温とは約1〜20℃である。低温でも流動性を保つために低温で固体状を示す例えば牛脂、豚脂、魚油、乳脂、ラードまたは大豆硬化油等は、低温で液状の油脂、例えば上記植物油等と組み合わせて用いることができる。具体的には、例えば低温でも液状の油脂に固体状を示す油脂を加温溶融させることにより、低温でも流動性を持たせることができる。
【0010】
本発明に使用される油脂組成物に用いられるジグリセリン不飽和脂肪酸エステルは、ジグリセリンと不飽和脂肪酸とのエステル化生成物であり、エステル化反応等公知の方法で製造され得る。
ジグリセリン不飽和脂肪酸エステルの原料として用いられるジグリセリンとしては、通常グリセリンに少量の酸またはアルカリを触媒として添加し、窒素または二酸化炭素等の適宜の不活性ガス雰囲気下で、例えば約180℃以上の温度で加熱し、重縮合反応させて得られるグリセリンの平均重合度が約1.5〜2.4、好ましくは平均重合度が約2.0のジグリセリン混合物が挙げられる。また、ジグリセリンはグリシドールまたはエピクロルヒドリン等を原料として得られるものであってもよい。反応終了後、所望により中和、脱塩、脱色等の処理を行ってよい。
【0011】
上記ジグリセリン混合物を、例えば蒸留またはカラムクロマトグラフィー等公知の方法を用いて精製し、グリセリン2分子からなるジグリセリンを約50質量%以上、好ましくは約85質量%以上に高濃度化した高純度ジグリセリンが、好ましく用いられる。
ジグリセリン不飽和脂肪酸エステルの原料として用いられる不飽和脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする不飽和脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば炭素数6〜24の不飽和脂肪酸(例えば、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、γ−リノレン酸、α−リノレン酸、アラキドン酸、リシノール酸、縮合リシノール酸等)等が挙げられる。
【0012】
ジグリセリン不飽和脂肪酸エステルの好ましい例として、モノエステル体の含有量が約30質量%以上であるジグリセリン不飽和脂肪酸エステル等が挙げられる。このような組成のジグリセリン不飽和脂肪酸エステルの製法としては、例えば次の方法が好ましく挙げられる。
例えば、攪拌機、加熱用のジャケット、邪魔板等を備えた通常の反応容器に、ジグリセリンと不飽和脂肪酸(例えば、オレイン酸等)を約1:1のモル比で仕込み、通常触媒として水酸化ナトリウム等を加えて攪拌混合し、窒素ガス雰囲気下で、エステル化反応により生成する水を系外に除去しながら、所定温度で加熱する。反応温度は通常、約180〜260℃の範囲、好ましくは約200〜250℃の範囲である。また、反応圧力条件は減圧下または常圧下で、反応時間は約0.5〜15時間、好ましくは約1〜3時間である。反応の終点は、通常反応混合物の酸価を測定し、酸価約12以下を目安に決められる。得られた反応液は、未反応の不飽和脂肪酸、未反応のジグリセリン、ジグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステル、ジグリセリンジ不飽和脂肪酸エステル、ジグリセリントリ不飽和脂肪酸エステルおよびジグリセリンテトラ不飽和脂肪酸エステル等を含む混合物である。上記エステル化反応終了後、反応混合物中に残存する触媒を中和する。その際、エステル化反応の温度が約200℃以上の場合は液温を約180〜200℃に冷却してから中和処理を行うのが好ましい。また反応温度が約200℃以下の場合は、そのままの温度で中和処理を行ってよい。中和後、上記反応混合物を、必要なら冷却して、約100〜180℃、好ましくは約130〜150℃に保ち、好ましくは約0.5時間以上、更に好ましくは約1〜10時間放置する。未反応のジグリセリンが下層に分離した場合はそれを除去するのが好ましい。次いで、ジグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルは分子蒸留やカラムクロマトグラフィー等の公知の方法を用いて精製濃縮されることが好ましい。
【0013】
本発明に使用される油脂組成物に用いられるトリグリセリン不飽和脂肪酸エステルは、トリグリセリンと不飽和脂肪酸とのエステル化生成物であり、エステル化反応等公知の方法で製造され得る。
トリグリセリン不飽和脂肪酸エステルの原料として用いられるトリグリセリンとしては、通常グリセリンに少量の酸またはアルカリを触媒として添加し、窒素または二酸化炭素等の適宜の不活性ガス雰囲気下で、例えば約180℃以上の温度で加熱し、重縮合反応させて得られるグリセリンの平均重合度が約2.5〜3.4、好ましくは平均重合度が約3.0のトリグリセリン混合物が挙げられる。また、トリグリセリンはグリシドールまたはエピクロルヒドリン等を原料として得られるものであってもよい。反応終了後、所望により中和、脱塩、脱色等の処理を行ってよい。
【0014】
上記トリグリセリン混合物を、例えば蒸留またはカラムクロマトグラフィー等公知の方法を用いて精製し、グリセリン3分子からなるトリグリセリンを約50質量%以上、好ましくは約85質量%以上に高濃度化した高純度トリグリセリンが、好ましく用いられる。
【0015】
トリグリセリン不飽和脂肪酸エステルの原料として用いられる不飽和脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする不飽和脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば炭素数6〜24の直鎖の不飽和脂肪酸(例えば、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、γ−リノレン酸、α−リノレン酸、アラキドン酸、リシノール酸、縮合リシノール酸等)等が挙げられる。
【0016】
トリグリセリン不飽和脂肪酸エステルの好ましい例として、モノエステル体の含有量が約30質量%以上であるトリグリセリン不飽和脂肪酸エステルが挙げられる。このような組成のトリグリセリン不飽和脂肪酸エステルの製法としては、例えば次の方法が好ましく挙げられる。
例えば、攪拌機、加熱用のジャケット、邪魔板等を備えた通常の反応容器に、トリグリセリンと不飽和脂肪酸(例えば、オレイン酸等)を約1:1のモル比で仕込み、通常触媒として水酸化ナトリウム等を加えて攪拌混合し、窒素ガス雰囲気下で、エステル化反応により生成する水を系外に除去しながら、所定温度で加熱する。反応温度は通常、約180〜260℃の範囲、好ましくは約200〜250℃の範囲である。また、反応圧力条件は減圧下または常圧下で、反応時間は約0.5〜15時間、好ましくは約1〜3時間である。反応の終点は、通常反応混合物の酸価を測定し、酸価約12以下を目安に決められる。得られた反応液は、未反応の不飽和脂肪酸、未反応のトリグリセリン、トリグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステル、トリグリセリンジ不飽和脂肪酸エステル、トリグリセリントリ不飽和脂肪酸エステル、トリグリセリンテトラ不飽和脂肪酸エステルおよびトリグリセリンペンタ不飽和脂肪酸等を含む混合物である。
エステル化反応終了後、反応混合物中に残存する触媒を中和する。その際、エステル化反応の温度が約200℃以上の場合は液温を約180〜200℃に冷却してから中和処理を行うのが好ましい。また反応温度が約200℃以下の場合は、そのままの温度で中和処理を行ってよい。中和後、上記反応混合物を、必要なら冷却して、約100〜180℃、好ましくは約130〜150℃に保ち、好ましくは約0.5時間以上、更に好ましくは約1〜10時間放置する。未反応のトリグリセリンが下層に分離した場合はそれを除去するのが好ましい。次いで、トリグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルは分子蒸留やカラムクロマトグラフィー等の公知の方法を用いて精製濃縮されることが好ましい。
【0017】
本発明で使用される油脂組成物の調製方法としては、油脂組成物中に粗大結晶等の異物を生じさせ食肉への添加に支障が出ることがない方法であれば特に限定されず、公知の方法で調製可能である。食用油脂として、例えば菜種白絞油や大豆白絞油、コーンサラダ油等、低温下でも液状を示す食用油脂のみを用いる場合には、加熱攪拌装置にて食用油脂にジグリセリン不飽和脂肪酸エステルおよび/またはトリグリセリン不飽和脂肪酸エステルを攪拌しながら加熱溶融し、溶融後約5℃〜室温まで冷却する方法等が、本発明に使用される油脂組成物の製造方法として挙げられる。冷却方法としては、例えばジャケット冷却等が挙げられる。また、例えば牛脂、豚脂または大豆硬化油等、低温下においては固体状を示す食用油脂と低温下でも液状を示す食用油脂とを組み合わせて用いる場合には、加熱攪拌装置にて低温下で固体状を示す食用油脂とジグリセリン不飽和脂肪酸エステルおよび/またはトリグリセリン不飽和脂肪酸エステルとを低温下でも液状の食用油脂に攪拌しながら加熱溶融したのちに、約5℃〜室温まで冷却する方法等が挙げられる。冷却方法としては、例えばボテーター、オンレータまたはコンサームといった急冷混捏装置等を用いる方法が好ましく挙げられる。加熱溶融の方法としては、食用油脂とジグリセリン不飽和脂肪酸エステルおよび/またはトリグリセリン不飽和脂肪酸エステルが溶融混合されれば、その方法に制限はなく、例えばまず食用油脂を加熱しそこにジグリセリン不飽和脂肪酸エステルおよび/またはトリグリセリン不飽和脂肪酸エステルを添加し、ジグリセリン不飽和脂肪酸エステルおよび/またはトリグリセリン不飽和脂肪酸エステルを溶融させ均一に混合する方法;ジグリセリン不飽和脂肪酸エステルおよび/またはトリグリセリン不飽和脂肪酸エステルを加熱して溶融し、そこに食用油脂を加えて均一になるよう混合する方法;または食用油脂とジグリセリン不飽和脂肪酸エステルおよび/またはトリグリセリン不飽和脂肪酸エステルとを混合してから加熱溶融する方法等が挙げられる。本発明に使用される油脂組成物は常温(約5〜40℃)で液状または流動性を示す。
【0018】
ジグリセリン不飽和脂肪酸エステルおよび/またはトリグリセリン不飽和脂肪酸エステルの油脂組成物への配合量は、両成分の合計量として約0.5〜20質量%が好ましく挙げられる。油脂組成物へのジグリセリン不飽和脂肪酸エステルおよび/またはトリグリセリン不飽和脂肪酸エステルの配合量を上記範囲内とすることでピックル液中への食用油脂の自己乳化力を高めることができ、また、ピックル液へジグリセリン不飽和脂肪酸エステルおよび/またはトリグリセリン不飽和脂肪酸エステルの風味が付与されることがないので好ましい。
【0019】
食用油脂およびジグリセリン不飽和脂肪酸エステルおよび/またはトリグリセリン不飽和脂肪酸エステルを溶融させるための加熱温度は、食用油脂およびジグリセリン不飽和脂肪酸エステルおよび/またはトリグリセリン不飽和脂肪酸エステルが溶融する温度であればよく、例えば約50〜90℃が好ましく、約60〜80℃がより好ましい。
【0020】
本発明に係るピックル液は、水に上記油脂組成物と粉末油脂を均一に攪拌することにより製造できる。油脂組成物はピックル液100質量%中にジグリセリン不飽和脂肪酸エステルおよび/またはトリグリセリン不飽和脂肪酸エステルを両成分の合計量として約0.04〜4質量%となるように配合されることが好ましい。ピックル液におけるジグリセリン不飽和脂肪酸エステルおよび/またはトリグリセリン不飽和脂肪酸エステルの効果としては、ピックル液中で食用油脂を均一に乳化、分散させることが挙げられる。例えば食用油脂、特に20℃以下で油脂結晶の析出の見られる食用油脂を、これらジグリセリン不飽和脂肪酸エステルおよび/またはトリグリセリン不飽和脂肪酸エステル無しでピックル液に配合した場合では、通常低温下で製造されるピックル液は、均一な食用油脂の乳化、分散性が著しく劣り、食肉加工品の品質が不安定となったり、食肉へのインジェクション時に固形脂が目詰まりを起こしたりする可能性が高い。ジグリセリン不飽和脂肪酸エステルおよび/またはトリグリセリン不飽和脂肪酸エステルを食用油脂に配合した油脂組成物を用いることにより、食用油脂に自己乳化性を付与できるので、ピックル液中に食用油脂を均一に乳化、分散できる。また該油脂組成物の効果として、ピックル液に配合される粉末油脂や下記添加物等をピックル液に均一に分散し得る。さらに該油脂組成物の効果には、加熱調理後の食肉加工品の脂感向上、肉汁の不自然な濁りの防止またはコク味を向上させることも含まれる。ピックル液組成へのジグリセリン不飽和脂肪酸エステルおよび/またはトリグリセリン不飽和脂肪酸エステルの配合量は、両成分の合計量として約0.04〜4質量%の範囲であれば、ピックル液を用いて製造された食肉の加熱調理時の解乳化が十分に行われ得る。また該範囲内であれば、加熱調理後の食肉においてジグリセリン不飽和脂肪酸エステルまたはトリグリセリン不飽和脂肪酸エステル特有の苦味、収斂味を強く感じることもなく好ましい。
【0021】
本発明のピックル液に用いられる粉末油脂は、例えば食用油脂と乳化剤や、例えばカゼイン、アラビアガム、乳糖、デキストリン、ゼラチン等の粉末化剤を水に加え、混合物を乳化して水中油滴型乳化液を作成し、これをスプレードライヤー装置やドラムドライヤー装置等の乾燥粉末化装置にて粉末化することにより製造できる。粉末油脂の製造に用いられる食用油脂としては、食用に適する油脂であれば特に限定されず、例えばオリーブ油、キャノーラ油、米油、米ぬか油、ゴマ油、サフラワー油、大豆油、大豆白紋油、コーン油、パーム油、パーム核油、菜種油、菜種白絞油、ひまわり油、綿実油、やし油、落花生油、グレープシード油またはしそ油等の植物性油脂、牛脂、豚脂、魚油、乳脂またはラード等の動物性油脂、あるいはそれらを分別処理したもの、水素添加処理したもの、さらにこれら動植物性油脂単独または二種類以上を任意に組み合わせてエステル交換処理したもの等が挙げられる。これらの油脂を一種類で用いてもよいし、二種類以上を任意に組み合わせて用いてもよい。また粉末油脂に用いられる乳化剤として、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン等公知のものが使用できる。また粉末油脂としては、市販品(例えば、マジックファット(ミヨシ油脂社製)、エマファット(理研ビタミン社製)等)を用いてもよい。本発明で粉末油脂を用いることの利点は、例えば液体状の乳化油脂と異なり、衛生面や自体の保存安定性に優れる。また有効成分である食用油脂の含有量を高くでき、水や還元水あめ、ソルビトール等余分な成分や風味に影響を与えやすい成分が少ないためピックル液への使用量が比較的少量でも効果を発揮しやすく風味も良好である等が挙げられる。
【0022】
本発明のピックル液は、例えば水約30〜90質量%、粉末油脂約2〜60質量%、油脂組成物約0.2〜20質量%等を含む。本発明のピックル液には、目的に応じその他の添加剤を本発明の目的を阻害しない範囲で配合できる。その他の添加剤としては、一般にピックル液に配合される成分、例えば塩漬剤(例えば、食塩等)、調味料(例えば、グルタミン酸ナトリウム、5’−イノシン酸二ナトリウム等)、発色剤(例えば、亜硝酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等)、着色料(例えば、食用赤色102号、二酸化チタン、紅花赤色素等)、酸化防止剤(例えば、L−アスコルビン酸ナトリウム、ジブチルヒドロシキトルエン(BHT)、ジブチルヒドロキシアニソール(BHA)等)、保存料(例えば、ポリリジン、プロピオン酸またはその塩、ソルビン酸またはその塩等)、粘着剤(例えば、トリポリリン酸、ピロリン酸またはその塩等)、またはカゼインナトリウムもしくは卵白等のタンパク素材等が挙げられる。水としては、例えば精製水、水道水等が挙げられる。
【0023】
水、油脂組成物および粉末油脂等の構成成分を均一に攪拌する方法としては、公知の方法が挙げられ、例えば攪拌機(例えばホモミキサー等)による攪拌等が挙げられる。
【0024】
本発明の食肉としては、食用に供されるものであれば特に限定されないが、例えば牛肉、豚肉、羊肉、やぎ肉等の畜肉、鶏肉、七面鳥肉、ガチョウ肉等の家禽肉、鯨肉等が挙げられる。
【0025】
本発明の食肉加工品は特に限定するものではないが、焼肉、ステーキ、とんかつ、ビーフカツ、カレー、シチュー、フライドチキン、唐揚、酢豚、ローストビーフ、焼豚、ハム、ベーコン等の肉塊をそのまま或いは比較的大きくスライス、カットして用いる製品や、ハンバーグ、ソーセージ、餃子、シュウマイ、豚饅等の、肉塊をミンチ状として用いる製品等が挙げられる。
【0026】
本発明のピックル液を食肉中に含有させる方法としては、特に限定されず常法を使用できる。例えば、食肉に対して強制注入(インジェクション)を行う方法、タンブリングを施しピックル液を食肉全体になじませる方法、ピックル液に食肉全体を浸漬する方法、または食肉にピックル液を加え、ミキサーで揉みほぐす方法等が挙げられる。これら方法は、単独で用いてもよく、2以上を組み合わせてもよい。
本発明のピックル液で食肉を上記のように処理することにより得られる食肉加工品を常法により調理することにより、ジューシー感と脂感が付与された調理食品を得る。
【実施例】
【0027】
以下に本発明を製造例および実施例に基づいて、より具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
[試作例]
トリグリセリンオレイン酸エステルの製造
攪拌機、温度計、ガス吹込管および水分離器を取り付けた反応釜にグリセリン20kgを仕込み、触媒として水酸化ナトリウム20w/v%水溶液100mLを加え、窒素ガス気流中250℃で4時間グリセリン縮合反応を行った。
【0029】
得られた反応生成物を90℃まで冷却し、リン酸(85質量%)約20gを添加して中和した後ろ過し、ろ液を160℃、400Paの条件下で減圧蒸留してグリセリンを除き、続いて200℃、20Paの高真空条件下で分子蒸留し、ジグリセリンを主成分とする留分約3.7kgを除き、更に、240℃、20Paの高真空条件下で分子蒸留し、グリセリン1質量%、ジグリセリン4質量%、トリグリセリン88質量%、テトラグリセリン3質量%、環状ポリグリセリン4質量%を含む留分約1.5kgを得た。次に、該留分に活性炭を1質量%加え、減圧下にて脱色処理した後ろ過して、トリグリセリン混合物を得た。得られたトリグリセリン混合物の水酸基価は約1164で、その平均重合度は約3.0であった。
【0030】
撹拌機、温度計、ガス吹込管および水分離器を取り付けた1Lの四つ口フラスコに、上記トリグリセリン混合物240g(約1.0モル)、およびオレイン酸(商品名:PM 810−RB;ミヨシ油脂社)270g(約0.96モル)を仕込み、触媒として水酸化ナトリウム10w/v%溶液10mLを加え、窒素ガス気流中240℃で、酸価12以下となるまで、約2時間エステル化反応を行わせた。得られた反応混合物を約150℃まで冷却し、リン酸(85質量%)2gを添加して触媒を中和し、その温度で約1時間放置し、分離した未反応のトリグリセリン約40gを除去し、トリグリセリンオレイン酸エステル(試作品A;モノエステル体含有量約42質量%)約440gを得た。
尚、モノエステル体の測定はHPLC(高速液体クロマトグラフィー)で行った。分析条件を以下に示す。
【0031】
〈HPLC分析条件〉
装置 高速液体クロマトグラフ(型式:LC−10AS;島津製作所社製)
検出器 RI検出器(型式:RID−6A;島津製作所社製)
カラム GPCカラム(型式:SHODEX KF−802;昭和電工社製)
2本連結
温度 40℃
移動相 THF
流量 1.0mL/min
検液注入量 15μL
【0032】
以上の工程を3回繰り返しトリグリセリンオレイン酸エステル(試作品A;モノエステル体含有量約42質量%)約1300gを得た。次に、該トリグリセリンオレイン酸エステルを、遠心式分子蒸留装置(実験機;CEH−300II特;ULVAC社製)を用いて蒸留し、温度約240℃、20Paの真空条件下で未反応のトリグリセリン等の低沸点化合物を留去し、続いて温度約250℃、1Paの高真空条件下で分子蒸留し、留分として、トリグリセリンモノオレイン酸エステル(試作品B;モノエステル体含有量約80質量%)約300gを得た。
【0033】
油脂組成物の製造
[製造例1]
20リットル容のステンレスビーカーに精製牛脂(横関油脂工業社製)3kg、大豆白絞油(J−オイルミルズ社製)10.5kg、リケマールO−71DE(ジグリセリンオレイン酸エステル;モノエステル純度35%;理研ビタミン社製)を1.5kg仕込み、約70℃で溶融混合した。
この溶融液をマーガリン試作製造機(パワーポイントインターナショナル社製)で出口温度約10℃となるまで急冷混捏を行い、ついで約5℃の冷蔵庫に一晩保存し、油脂組成物(試作品1)を約12.5kg得た。
【0034】
[製造例2]
20リットル容のステンレスビーカーに菜種白絞油(J−オイルミルズ社製)8kg、精製牛脂(横関油脂工業社製)1kg、ポエムDO−100V(ジグリセリンオレイン酸エステル;モノエステル純度82%;理研ビタミン社製)を1kg仕込み、約70℃で溶融混合した。
ついでこのステンレスビーカーを約5℃の水に浸漬して、φ10cmの2段プロペラ式攪拌機(スリーワンモーター BL−600型;HEIDON社製)で200rpmで攪拌しながら約10℃まで冷却し、油脂組成物(試作品2)を約9.9kg得た。
【0035】
[製造例3]
製造例1に記載されているリケマールO−71DE(ジグリセリンオレイン酸エステル;モノエステル純度35%;理研ビタミン社製)1.5kgに替えて試作品A(トリグリセリンオレイン酸エステル;モノエステル体含有量約42質量%)を1.5kg使用する以外は製造例1と同様に実施し、油脂組成物(試作品3)を得た。
【0036】
[製造例4]
製造例1に記載されているリケマールO−71DE(ジグリセリンオレイン酸エステル;モノエステル純度35%;理研ビタミン社製)1.5kgに替えて試作品B(トリグリセリンオレイン酸エステル;モノエステル体含有量約80質量%)を1.5kg使用する以外は製造例1と同様に実施し、油脂組成物(試作品4)を得た。
【0037】
[製造例5]
20リットル容のステンレスビーカーに菜種白絞油(J−オイルミルズ社製)8kg、ポエムDO−100V(ジグリセリンオレイン酸エステル;モノエステル純度82%;理研ビタミン社製)を1kg、トリグリセリン不飽和脂肪酸エステル(試作品B)を1kg仕込み、約70℃で溶融混合した。
ついでこのステンレスビーカーを約10℃の水に浸漬して、φ10cmの2段プロペラ式攪拌機(スリーワンモーター BL−600型;HEIDON社製)で200rpmで攪拌しながら20℃まで冷却し、油脂組成物(試作品5)を約9.95kg得た。
【0038】
表1に製造例1〜5の油脂組成物(試作品1〜5)の組成をまとめて示す。
【表1】

(表中の%は質量%を示す。)
【0039】
粉末油脂の製造
[製造例6]
20リットル容のステンレスビーカーに水道水8000gを入れ、約70℃まで昇温後に精製牛脂(横関油脂工業社製)2.8kg、カゼインナトリウム(ALANATE
180;フォンテラ社製)400g、エマルジーMS(グリセリンモノステアリン酸エステル;理研ビタミン社製)40g、ポエムS−60V(ソルビタンモノステアリン酸エステル;理研ビタミン社製)40g、ポリリン酸ナトリウム(ポリリンサン2−B;武田キリン社製)40g、デキストリン(パインデックス#2;松谷化学社製)680gを仕込み、約70℃でTKホモミキサー(MARKII Fmodel;特殊機化社製)1000rpm、10分間ホモジナイズしスプレードライ原液を得た。
この原液を研究開発用噴霧乾燥装置(型式:L−8i;大川原化工機社製)を用いて、塔内温度約90℃に調整した塔内に加圧ノズルにより噴霧し、乾燥粉末を塔下部で回収した。上記の作業を5バッチ分繰り返し、粉末油脂(試作品6)約18kgを得た。
【0040】
ピックル液およびそれを用いた食肉加工品の製造
[実施例1]
5℃の冷水61.6質量部を、TKホモミキサー(MARKII Fmodel;特殊機化社製)5000rpmで攪拌しながら粉末油脂(試作品6)を30質量部加え、次に油脂組成物(試作品1)を7質量部加えて5分間攪拌した。さらに食塩0.6質量部、トリポリリン酸ナトリウム(大平化学産業社製)0.6質量部、グルタミン酸ナトリウム(味の素社製)0.2質量部を加えて3分間攪拌してピックル液を作成した。
次にオーストラリア産グラスビーフのチャックロール部位肉2.5kgに、インジェクション装置(FBM−N46;双葉電機工業製)を用いて上記ピックル液を約750gインジェクションし、タンブリング装置(タンブラー100;双葉電機工業製)で5℃、10rpm、1時間タンブリングを行った。タンブリング後のチャックロールを−30℃で急速冷凍後に4mm厚にスライスし、実施品1を得た。
【0041】
[実施例2]
実施例1に記載されている粉末油脂(試作品6)30質量部に替えて、エマファットLA−5(ラード粉末油脂;理研ビタミン製)30質量部を使用し、油脂組成物(試作品1)7質量部に替えて油脂組成物(試作品2)を3質量部使用し、水を65.6質量部とする以外は実施例1と同様に実施し、実施品2を得た。
【0042】
[実施例3]
実施例1に記載されている油脂組成物(試作品1)7質量部に替えて油脂組成物(試作品3)を1.5質量部使用し、水を67.1質量部とする以外は実施例1と同様に実施し、実施品3を得た。
【0043】
[実施例4]
実施例1に記載されている粉末油脂(試作品6)30質量部を5質量部に変え、油脂組成物(試作品1)7質量部に替えて油脂組成物(試作品4)を20質量部使用し、水を73.6質量部とする以外は実施例1と同様に実施し、実施品4を得た。
【0044】
[実施例5]
実施例1に記載されている粉末油脂(試作品6)30質量部を3.5質量部に変え、油脂組成物(試作品5)7質量部を3.5質量部に変え、水を91.6質量部とする以外は実施例1と同様に実施し、実施品5を得た。
【0045】
[比較例1]
実施例1に記載されている粉末油脂(試作品6)30質量部を50質量部に変え、油脂組成物(試作品1)は使用せず、水を48.6質量部とする以外は実施例1と同様に実施し、比較品1を得た。
【0046】
[比較例2]
実施例1に記載されている粉末油脂(試作品6)は使用せず、油脂組成物(試作品1)7質量部に替えて油脂組成物(試作品2)を1.5質量部使用し、水を97.1質量部とする以外は実施例1と同様に実施し、比較品2を得た。
【0047】
[比較例3]
実施例1に記載されている油脂組成物(試作品1)7質量部に替えて大豆白絞油(J−オイルミルズ社製)6.3質量部、およびリケマールO−71DE(ジグリセリンオレイン酸エステル;モノエステル純度35%;理研ビタミン社製)0.7質量部をピックル液に対し別々に添加使用する以外は実施例1と同様に実施し、比較品3を得た。
【0048】
表2に、実施例1〜5および比較例1〜3におけるピックル液の組成をまとめて示す。
【表2】

(表中の単位は、質量部を示す。)
【0049】
[肉質の評価]
(1)実施例1〜5、比較例1〜3で得たチャックロールスライス肉(実施品1〜5、比較品1〜3)を、約180℃のフライパンでスライス肉を焼成した後、下記表3に示す評価基準に従い、焼成時の肉汁の状態、焼成肉の食感を評価した。官能試験は7名のパネラーで行い、結果は7名の評点の平均値として求め、以下の基準に従って記号化した。結果を表4に示す。
○:評価の平均値が2.5以上
△:評価の平均値が1.5以上、2.5未満
×:評価の平均値が1.5未満
【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【0052】
食用油脂およびジグリセリン不飽和脂肪酸エステルおよび/またはトリグリセリン不飽和脂肪酸エステルとからなる油脂組成物と、粉末油脂とを必須成分として含むことを特徴とするピックル液を食肉に用いることにより、焼成された食肉は清澄な肉汁状態であり、柔らかく潤沢な脂感でジューシーであり、また食後の後味も異味を感じなかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によると、そのままでは硬くパサパサしている、食肉、例えばオーストラリア産牛肉等のような食肉を処理することにより、処理した食肉の加熱加工時に解乳化を起こさせることにより食肉を柔らかくジューシーに、かつ食肉の動物脂様のコク味感を向上させることができるようなピックル液組成物および該組成物を用いて製造した食肉加工品を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用油脂およびジグリセリン不飽和脂肪酸エステルおよび/またはトリグリセリン不飽和脂肪酸エステルを含有する流動性油脂組成物と、粉末油脂とを必須成分として含むことを特徴とするピックル液。
【請求項2】
ピックル液100質量%中、ジグリセリン不飽和脂肪酸エステルおよび/またはトリグリセリン不飽和脂肪酸エステルの配合量が、両成分の合計量として0.04〜4質量%である請求項1記載のピックル液。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載のピックル液を用いて製造した食肉加工品。