説明

ピッチ繊維の不融化方法、炭素繊維の製造方法

【課題】極微細なピッチ繊維にホットスポットが形成されないようにでき、発火も避けられ、廃酸処理や廃アルカリ処理が不要な、ピッチ繊維の不融化方法を提供する。
【解決手段】不融化処理を、水と接触させた状態でピッチ繊維に酸化性ガスを通過させて行う。例えば、ピッチ繊維と水と界面活性剤を混合したスラリー10を容器1内に入れ、このスラリー10にガス導入管4から酸化性ガスを導入し、このガスの気泡をスラリー10中に発生させてピッチ繊維と接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ピッチ繊維の不融化方法と、この不融化方法からなる不融化工程を備えた炭素繊維(黒鉛繊維を含む)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピッチ系炭素繊維は、石油系または石炭系のピッチを原料とし、紡糸工程、不融化工程、および炭素化工程または黒鉛化工程をこの順に行うことで製造される。
紡糸工程では、原料のピッチを溶融紡糸することで繊維状にする。紡糸工程で得られたピッチ繊維(繊維状のピッチ)をそのまま高温で熱処理すると、ピッチ繊維が互いに融着するため、これを避ける目的で、炭素化工程または黒鉛化工程の前にピッチ繊維の不融化工程が行われる。
【0003】
特許文献1には、紡糸されたピッチ繊維を、酸素含有雰囲気中250〜400℃の温度で、全く不溶性とするに十分な時間だけ加熱する不融化工程として、前記酸素雰囲気を、塩素:約3〜25容積%、酸素:約15〜95容積%を含むものとする改良方法が記載されている。この方法によれば、繊維強度を維持しながら不融化工程にかかる時間を短縮できると記載されている。
【0004】
特許文献2には、不融化工程で発生する熱がピッチ繊維を軟化、変形させて、得られる炭素繊維の引張強度を低下させる可能性があるため、一般的な不融化工程(ピッチ繊維を酸素含有雰囲気中、例えば250〜400℃の温度で加熱する工程)を行わずに炭素繊維を製造する方法が記載されている。この方法では、一般的な不融化工程に代えて、ピッチ繊維を酸化液組成物で処理したものを嵩張った形態にする工程を行った後、非反応性の雰囲気で熱処理する炭素化工程を行っている。酸化液組成物として濃度15〜35容積%の水性硝酸(硝酸水溶液)を用いることが記載されている。
【0005】
特許文献3には、メソフェースピッチ系炭素繊維の強度を改善するためには、炭素繊維の中心部と表面層を異なる構造にすることが重要であり、その構造を得るための方法として、不融化工程をNO2 とH2 Oを含有する酸化性雰囲気で行うことで、ピッチ繊維の中心部と表面層とで酸化処理程度を異なるものにする方法が記載されている。また、実施例では、純NO2 ガスと、沸騰水中をバブリングさせて加湿した空気と、を混合したガスを発生させることで、不融化工程の酸化性雰囲気を形成することが記載されている。
【0006】
特許文献4には、優れた柔軟性を有するとともに成形体に曲がりなどの不良を発生させない炭素繊維を得るために、不融化工程を二段階で行うピッチ系炭素繊維の製造方法が記載されている。この方法における不融化工程の第1段目では、二酸化窒素濃度が1〜5体積%、酸素濃度が5〜50体積%、残りが不活性ガスもしくは水蒸気からなる混合ガス雰囲気下で、温度100〜200℃で行う。第2段目では、二酸化窒素濃度が0.1〜5体積%、酸素濃度が5〜40体積%、残りが不活性ガスもしくは不活性ガスと水蒸気からなる混合ガス雰囲気下で、温度200〜350℃で行う。
【0007】
炭素繊維の原料である石油系または石炭系のピッチを得る方法としては、次のような方法がある。一つは、石炭タールを常圧蒸留および減圧蒸留して重質留分と軽質留分に分離し、得られた重質留分をそのまま熱処理し、重縮合させて所定の軟化点に調製する方法である。この方法で得られたピッチは、光学的等方性を有し、「General Purpose ピッチ」と称される。
【0008】
もう一つは、得られた重質留分を水添分解することで熱安定性を高めた後に熱処理する方法である。この方法で得られたピッチは、光学的異方性を有し、「High Peformance ピッチ」、「液晶ピッチ」と称され、高強度、高弾性率の炭素繊維の原料とされる。
繊維径の細いピッチ繊維の紡糸方法としては、メルトブロー法(非特許文献1)、複合法(特許文献5)、エレクトロスピニング法などがある。
下記の非特許文献1には、2重円筒型ノズルによるメルトブロー法で、ピッチの吐出量と外側ガス流量の比を所定範囲にして、ピッチを霧状に吹き出す紡糸方法により、繊維径約0.5〜6μm、長さ約5〜20μmの極細ピッチ繊維が得られることが記載されている。
【0009】
下記の特許文献5には、高強度且つ高弾性率を有し、繊維同士の融着のない極細(繊維径1μm未満)炭素繊維の製造方法として、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体(ピッチなど)と熱不融成分とからなる混合物から前駆体繊維を形成する工程と、前駆体繊維に対して沃素と酸素の混合ガス雰囲気下で安定化処理を行う工程と、安定化処理された前駆体繊維から熱可塑性樹脂を除去して繊維状炭素前駆体を形成する工程と、繊維状炭素前駆体を炭素化もしくは黒鉛化する工程と、からなる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭49−75828号公報
【特許文献2】特開昭60−231825号公報
【特許文献3】特開平2−6618号公報
【特許文献4】特開2000−45134号公報
【特許文献5】特開2006−63476号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】西久保桂子、山田泰弘、北島栄二、清水進、「極細ピッチ系炭素繊維の調製と構造」、九州工業研究所報告、No. 55、25−31頁(1995年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
極細炭素繊維を製造するためには極微細なピッチ繊維を不融化処理する必要があるが、一般的な不融化方法では、極微細なピッチ繊維が密集して通気性が悪くなるため、酸化によって生じる熱がピッチ繊維に留まり、ホットスポット(熱の集中により局部的に過熱状態となっている部分)が形成されて不融化処理が均一に進まないという問題点がある。
また、極微細なピッチ繊維にホットスポットが形成されることで、ピッチ繊維が溶融して変形や融着が生じる問題点もある。さらに、極微細なピッチ繊維は表面積が広くて反応性が高いことから、不融化処理の酸化反応によって発火する可能性もあるため、これを避ける必要がある。
【0013】
特許文献2に記載された方法は、一般的な不融化工程(高温での酸化処理工程)を行わないため、極微細なピッチ繊維にホットスポットが形成されないようにでき、発火も避けられる。しかし、不融化工程後のピッチ繊維に硝酸が付着しているため、炭素化工程を行う前に水洗して硝酸を除去しないと、炭素化工程で焼成炉に損傷を与える恐れがある。また、硝酸による水洗工程を行うことに伴って多量の廃酸処理を行う必要があり、処理設備のコストが高くなるという問題点もある。
この発明の課題は、極微細なピッチ繊維を不融化処理する場合であっても、ピッチ繊維にホットスポットが形成されないようにでき、発火も避けられるピッチ繊維の不融化方法として、廃酸処理や廃アルカリ処理が不要な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、この発明のピッチ繊維の不融化方法は、ピッチを紡糸して得られるピッチ繊維を酸化することにより、炭素化工程の熱で溶融しない繊維にする不融化方法であって、水と接触させた状態のピッチ繊維に酸化性ガスを通過させることを特徴とする。
この方法によれば、ピッチ繊維が水と接触した状態で酸化されるため、酸化によって生じる熱が水に吸収されて、ピッチ繊維に留まりにくくなる。よって、例えば直径が3μm以下の極微細なピッチ繊維を不融化処理する場合であっても、ピッチ繊維にホットスポットが形成されないようにでき、発火も生じない。
【0015】
なお、特許文献3および4には、不融化工程の酸化性ガス雰囲気中に加湿空気や水蒸気を存在させることが記載されているが、これらの方法は、この発明の方法のようにピッチ繊維を水(液体のH2 O)に接触させた状態で酸化しているのではなく、酸化雰囲気にH2 Oを気体で存在させている。そして、この気体のH2 Oでは、ピッチ繊維に生じる酸化熱が吸収される効果は得られない。また、ピッチ繊維に水を付着させた後に、酸化性ガスを通過させて不融化処理を行った場合も、疎水性のピッチ繊維に付着した水のほとんどが酸化性ガスで吹き飛ばされるため、この発明の方法と同じ効果は得られない。
【0016】
この発明の方法において、水と接触させた状態のピッチ繊維に酸化性ガスを通過させる方法の具体例としては、ピッチ繊維を水の入った容器に入れ、この水に酸化性ガスの気泡を発生させて、この気泡をピッチ繊維と接触させる方法と、ピッチ繊維に水を噴霧しながら、このピッチ繊維に酸化性ガスを通す方法が挙げられる。
ピッチ繊維に接触させる水としては、界面活性剤を含有する水を使用することが好ましい。
【0017】
酸化性ガスとしては、空気に、オゾン、NO2 またはSO2 が添加された混合ガスを使用することが好ましい。
この不融化方法(水と接触させた状態のピッチ繊維に酸化性ガスを通過させて行う酸化)を、前段の不融化工程として行った後に、後段の不融化工程として、酸化性ガス雰囲気中での加熱による酸化を行うこともできる。
この発明の炭素繊維の製造方法は、ピッチ繊維の不融化工程と、不融化されたピッチ繊維を不活性ガス雰囲気で熱処理する炭素化工程または黒鉛化工程と、を有する炭素繊維の製造方法であって、前記不融化工程として、この発明の不融化方法を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
この発明のピッチ繊維の不融化方法によれば、極微細なピッチ繊維を不融化処理する場合であっても、ピッチ繊維にホットスポットが形成されないようにできるため、ピッチ繊維の不融化が均一になされ、ピッチ繊維に変形や融着が生じない。また、ピッチ繊維を水に接触させた状態で酸化するため、ピッチ繊維が発火することもない。また、廃酸処理や廃アルカリ処理が不要であるため、コストを抑えることができる。
この発明の炭素繊維の製造方法によれば、極微細なピッチ繊維を安定的に不融化できるため、極細炭素繊維を効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の実施例1を説明する図である。
【図2】この発明の実施例2を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明を実施するための形態について説明する。
この発明の不融化方法では、ピッチを紡糸して得られるピッチ繊維に対する酸化処理を、水と接触させた状態のピッチ繊維に酸化性ガスを通過させることで行っている。
[第1実施形態]
第1実施形態の不融化方法では、極微細な(直径が0.10μm以上で3μm以下の)ピッチ繊維を水の入った容器に入れ、この水を加熱しながら、この水に酸化性ガスの気泡を発生させて、この気泡をピッチ繊維と接触させることで、ピッチ繊維を酸化する。このように、ピッチ繊維が水と接触した状態で酸化されることで、酸化によって生じる熱が水に吸収されてピッチ繊維に留まりにくくなるため、ピッチ繊維にホットスポットが形成されにくく、発火も生じない。
水中に酸化性ガスの気泡を発生させる方法としては、酸化性ガスを高圧状態で水中に導入する方法と、水中で酸化性ガスを多孔質体に通す方法があり、これらを併用してもよい。
【0021】
不融化処理前のピッチ繊維の表面は疎水性であるため、界面活性剤を含む水中で不融化処理を行うことが好ましい。これにより、ピッチ繊維が水となじみ易くなるため、酸化によりピッチ繊維に生じる熱を水が吸収しやすくなる。この水中に含有させる界面活性剤としてノニオン系界面活性剤を使用すると、炭素化工程を経て得られる炭素繊維に金属類が残存しない。よって、製品である炭素繊維の用途が金属類の残存を避けたいものである場合には、この不融化方法で水中に含有させる界面活性剤として、ノニオン系界面活性剤を使用することが好ましい。
【0022】
この不融化方法において、極微細なピッチ繊維を水と共に容器に入れて、この水を撹拌しながら、この水に酸化性ガスの気泡を発生させると、極微細なピッチ繊維の分散状態が良好になって、酸化性ガスの気泡との接触効率が向上するため好ましい。
酸化性ガスとしては、酸素を含有するものであればよく、空気、酸素富化空気、純酸素などを用いることができるが、空気を用いる場合は、酸化速度を速めるために、オゾン、NO2 またはSO2 を添加した混合ガスを用いることが好ましい。その場合の空気に対する他のガスの含有率は、例えば、0.1〜10体積%とする。
【0023】
この不融化方法は、水の温度を30〜250℃にして行うことができるが、50〜80℃にして行うことが好ましい。水の温度が低すぎると反応速度が遅くなり、90℃を超えると水分の蒸発が激しくなるため、大型の還流器、回収器(凝縮器)を設置したり、高圧反応器が必要になったりして、機器構成が複雑になる。不融化温度(容器内の水の温度)が50〜80℃であれば、これらのことを避けることができる。
【0024】
この不融化方法で、容器内でピッチ繊維を水と接触した状態で酸化させた後に、容器の内容物を固液分離(濾過または遠心分離)してピッチ繊維を回収し、回収したピッチ繊維を空気中で加熱して350℃程度までに昇温することが好ましい。すなわち、ピッチ繊維に対して、水と接触させた状態での酸化を行った後に、空気中での加熱による酸化を行うことが好ましい。
【0025】
前段の「水と接触させた状態での酸化」により、ピッチ繊維の表層は、活性な酸素に誘発されて三次元架橋状態となっているが、後段の「空気中での加熱による酸化」を行うことで、この架橋密度が高くなって、ピッチ繊維の内部の架橋されていない溶融性の部分が漏れださないようになると推定される。この二段階の酸化による不融化方法でも、ピッチ繊維にホットスポットが形成されず、発火も生じない。その理由は、前段の酸化でピッチ繊維の表層の大部分が酸化され、後段の酸化では残存している僅かな部分が酸化されるため、後段の酸化で生じる熱が少ないためであると推定される。
【0026】
第1実施形態の不融化方法で不融化工程を行った後に、不融化された極微細なピッチ繊維を不活性ガス雰囲気で熱処理する、従来より公知の炭素化工程または黒鉛化工程を行うことで、極微細な(直径が0.08μm以上で3μm以下の)炭素繊維を製造することができる。
炭素化工程および黒鉛化工程で使用する不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウムなどが挙げられる。炭素化工程および黒鉛化工程の不活性ガス雰囲気中の酸素濃度は、20ppm以下とし、10ppm以下とすることが好ましい。また、炭素化工程の場合の熱処理温度は500〜1200℃とし、好ましくは800〜1000℃とする。黒鉛化工程の場合の熱処理温度は2000〜3500℃とし、好ましくは2500〜3000℃とする。
【0027】
この不融化方法は、ピッチ繊維を不織布の形態にしたものに対して行うこともできる。不織布状のピッチ繊維としては、直径が数nm〜3μmの繊維が複雑に絡み合って、厚さ10nm〜100mmの板状に形成されたものが挙げられる。この不織布状のピッチ繊維に対して、不融化工程後に炭素化工程または黒鉛化工程を行うことで、炭素繊維からなる不織布を得ることができる。
【0028】
[第2実施形態]
第2実施形態の不融化方法では、極微細な(直径が0.10μm以上で3μm以下の)ピッチ繊維に水を噴霧しながら、このピッチ繊維に加熱した酸化性ガスを通すことで、ピッチ繊維を酸化する。このように、ピッチ繊維が水と接触した状態で酸化されることで、酸化によって生じる熱が水に吸収されてピッチ繊維に留まりにくくなるため、ピッチ繊維にホットスポットが形成されにくく、発火が生じない。
【0029】
不融化処理前のピッチ繊維の表面は疎水性であるため、ピッチ繊維に噴霧する水に界面活性剤を含有させることが好ましい。これにより、ピッチ繊維の表面に形成される水の膜が極めて薄く、均一になるため、酸化によりピッチ繊維に生じる熱を水が吸収しやすくなる。この界面活性剤としてノニオン系界面活性剤を使用すると、炭素化工程を経て得られる炭素繊維に金属類が残存しない。よって、製品である炭素繊維の用途が金属類の残存を避けたいものである場合には、この不融化方法で水中に含有させる界面活性剤として、ノニオン系界面活性剤を使用することが好ましい。
【0030】
ピッチ繊維に通す酸化性ガスの温度は、50〜80℃であることが好ましい。
この不融化方法で使用する酸化性ガスについては、第1実施形態と同様である。
この不融化方法の場合も、第1実施形態と同様に、二段階の酸化による不融化方法を行うことが好ましい。また、炭素化工程および黒鉛化工程についても、第1実施形態と同様である。
【実施例】
【0031】
[実施例1]
ピッチ繊維の原料であるピッチとして、水添したコールタールを原料として調製されたピッチ(軟化点280℃)を用意した。容器として、容量が30mLであるステンレス製のバレル(樽形容器)の下端に、ステンレス製の24G(内径0.30mm)のノズルを取り付けたものを用意した。このバレルの上部に気体導入管が設けてある。
【0032】
このバレルにピッチを入れて、バレルとノズルにそれぞれ電熱ヒーターを巻き、各電熱ヒーターを別系統で、絶縁トランスと温度調節器を介して電源(100Vのコンセント)に接続した。絶縁トランスの接続は、一次側を温度調節器側に配置し、二次側を電熱ヒーター側に配置して行った。各温度調節器により、バレル内のピッチ温度が330℃となり、ノズルの温度が330℃になるように制御した。この状態で、高電圧発生器により発生させた30kVの電圧をバレルに印加し、ノズルの真下で、ノズル先端との距離が60mmとなる位置にアース電極を置き、密閉したバレル内に気体導入管から0.3MPaの加圧窒素を導入して紡糸を行った。これにより、紡糸が良好に進み、直径1μm以下のピッチ繊維が得られた。
【0033】
得られたピッチ繊維を、アスペクト比が5〜10となるように切断して、水が入ったビーカー内に、ピッチ繊維の含有率が10質量%となるように入れた。このビーカー内に、ノニオン系界面活性剤を含有率が0.3質量%となるように入れて混合した。このようにして得られたスラリーを三口セパラブルフラスコ内に入れて、前段の不融化処理を以下の方法で行った。
【0034】
図1は、この方法で使用した装置の概略構成を示す断面図である。
三口セパラブルフラスコは、図1に示すように、容器1と蓋2で構成され、蓋に三つの口21〜23が形成されている。先ず、容器1に、スラリー10を500mL入れた後、撹拌棒3の羽根が付いた先端部31を入れて、蓋2をして、撹拌棒3の上側を蓋2の中央の口21から突出させた。次に、蓋2の右側の口22からガス導入管4を入れ、その先端が容器1の底部付近まで至るようにした。ガス導入管4の先端にはグラスウール5が充填されている。
【0035】
この状態の三口セパラブルフラスコをマントルヒーター6に入れて70℃に加熱し、撹拌棒3を撹拌モーターに接続して回転させ、ガス導入管4からオゾンと空気の混合ガスを導入することを3時間行った。混合ガスは、オゾン発生器から発生させたO3 (オゾン)をAir(空気)1Lに対して10.4mgとなる割合で混合させたものである。この混合ガスを1時間当たり1.5Lの速度で、容器1内のスラリー10に対して導入した。この混合ガスは、ガス導入管4の先端に充填されたグラスウール5を通過することで細かな気泡となって、スラリー内のピッチ繊維と接触する。なお、混合ガスはスラリー10に導入された後、蓋2の左側の口23から排出される。
【0036】
3時間経過後に、容器1の内容物を濾過して、スラリーから不融化されたピッチ繊維を回収した。このピッチ繊維を炉内に入れて空気雰囲気で加熱し、1℃/minの速度で320℃まで昇温した。これにより、後段の不融化処理を行った。次に、炉内に窒素ガスを導入して窒素ガス雰囲気とし、3℃/minの速度で1000℃まで昇温した後、1000℃に0.5時間保持する熱処理(炭素化工程)を行った。
その結果、融着部分のない直径1μm以下の炭素繊維を得ることができた。
【0037】
[実施例2]
ピッチ繊維の原料であるピッチとして、コールタールを原料として調製されたピッチ(軟化点200℃)を用意した。容器として、容量が10mLであるステンレス製のバレル(樽形容器)の下端に、ステンレス製の二流体ノズルを取り付けたものを用意した。このバレルの上部に気体導入管が設けてある。二流体ノズルの内部ノズルは、27G(内径0.16mm、外径0.36mm)のノズルであり、内部ノズルを入れた外管(開孔部)の内径は0.50mmである。内部ノズルの外壁と外管の間が剪断ガス導出管となっている。
【0038】
このバレルにピッチを入れて、バレルに電熱ヒーターを巻き、絶縁トランスと温度調節器を介して電源(100Vのコンセント)に接続した。絶縁トランスの接続は、一次側を温度調節器側に配置し、二次側を電熱ヒーター側に配置して行った。温度調節器により、バレル内のピッチ温度が280℃になるように制御した。温度調節器には、非接触の赤外線放射タイプの温度計を取り付けた。
【0039】
この状態で、高電圧発生器により発生させた30kVの電圧をバレルに印加し、二流体ノズルの真下で、ノズル先端との距離が60mmとなる位置にアース電極を置き、密閉したバレル内に気体導入管から0.1MPaの加圧窒素を導入するとともに、剪断ガス導出管から300℃の窒素ガスを導入して紡糸を行った。これにより、紡糸が良好に進み、直径300〜800nmで色調が茶色のピッチ繊維からなる、100mm×100mm×厚さ3mmの不織布が得られた。
【0040】
このようにして得られた不織布に対して、前段の不融化処理を以下の方法で行った。
図2は、この方法で使用した装置の概略構成を示す断面図である。
図2に示すように、先ず、排気管100を有するガラス容器101にガス導入管102とスプレーノズル103を取り付けた。一方、板状の断熱材104の上に水切りの付いたガラス板105を置き、ガラス板105の上に、得られた不織布106を載せた。この断熱材104の上に、排気管100を上側に向けてガラス容器101を置いて不織布106とガラス板105を覆い、ガス導入管102の先端がガラス板105の近くに配置されるようにした。また、このガラス容器101の外側にリボンヒーター107を巻いて、容器内の温度が70℃に保持されるようにした。
【0041】
この状態で、0.3質量%の濃度でノニオン系界面活性剤を含有する水を、スプレーノズル103から不織布106に向けて噴霧しながら、ガス導入管102からオゾンと空気の混合ガスを、1時間当たり1.5Lの速度で導入することを3時間行った。混合ガスは、オゾン発生器から発生させたO3 (オゾン)をAir(空気)1Lに対して10.4mgとなる割合で混合させたものである。噴霧する水の温度は70℃とし、噴霧量は30mL/時間とした。
3時間経過後に、ガラス容器から不融化された不織布を取り出して、炉内に入れて空気雰囲気で加熱し、1℃/minの速度で320℃まで昇温した。これにより、後段の不融化処理を行った。
【0042】
次に、炉内に窒素ガスを導入して窒素ガス雰囲気とし、3℃/minの速度で1000℃まで昇温した後、1000℃に0.5時間保持する熱処理を行った。次に、この熱処理がなされた不織布を黒鉛化炉に入れて、炉内にアルゴンガスを導入してアルゴンガス雰囲気とし、3℃/minの速度で3000℃まで昇温した後、3000℃に10時間保持する熱処理を行った。この二段階の不活性ガス雰囲気での熱処理(黒鉛化工程)により、不融化されたピッチ繊維が黒鉛繊維となる。
その結果、融着部分のない直径300〜800nmの黒鉛繊維(炭素繊維)からなる不織布を得ることができた。
【符号の説明】
【0043】
1 セパラブルフラスコの容器
2 セパラブルフラスコの蓋
21〜23 蓋の口
3 撹拌棒
31 撹拌棒の先端部
4 ガス導入管
5 グラスウール
6 マントルヒーター
10 スラリー
100 排気管
101 ガラス容器
102 ガス導入管
103 スプレーノズル
104 断熱材
105 水切りの付いたガラス板
106 不織布
107 リボンヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピッチを紡糸して得られるピッチ繊維を酸化することにより、炭素化工程の熱で溶融しない繊維にする不融化方法であって、
水と接触させた状態のピッチ繊維に酸化性ガスを通過させることを特徴とするピッチ繊維の不融化方法。
【請求項2】
ピッチを紡糸して得られるピッチ繊維を酸化することにより、炭素化工程の熱で溶融しない繊維にする不融化方法であって、
ピッチ繊維を水の入った容器に入れ、この水に酸化性ガスの気泡を発生させて、この気泡をピッチ繊維と接触させることを特徴とするピッチ繊維の不融化方法。
【請求項3】
ピッチを紡糸して得られるピッチ繊維を酸化することにより、炭素化工程の熱で溶融しない繊維にする不融化方法であって、
ピッチ繊維に水を噴霧しながら、このピッチ繊維に酸化性ガスを通すことを特徴とするピッチ繊維の不融化方法。
【請求項4】
前記水として界面活性剤を含有する水を使用する請求項1〜3のいずれか1項に記載のピッチ繊維の不融化方法。
【請求項5】
酸化性ガスとして、空気に、オゾン、NO2 またはSO2 が添加された混合ガスを使用する請求項1〜4のいずれか1項に記載のピッチ繊維の不融化方法。
【請求項6】
不融化するピッチ繊維は、直径が3μm以下のピッチ繊維である請求項1〜5のいずれか1項に記載のピッチ繊維の不融化方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のピッチ繊維の不融化方法を、前段の不融化工程として行った後に、後段の不融化工程として、酸化性ガス雰囲気中での加熱による酸化を行うことを特徴とするピッチ繊維の不融化方法。
【請求項8】
ピッチ繊維の不融化工程と、不融化されたピッチ繊維を不活性ガス雰囲気で熱処理する炭素化工程または黒鉛化工程と、を有する炭素繊維の製造方法であって、
前記不融化工程として、請求項1〜7のいずれか1項に記載の不融化方法を行うことを特徴とする炭素繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−80169(P2011−80169A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234734(P2009−234734)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(591067794)JFEケミカル株式会社 (220)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【Fターム(参考)】