説明

ピペット管内の絞り点を有するピペット装置

【課題】計量行動がピペット開口部およびピペット管の断面積の変化の影響や付着物の影響を受けないようにする。
【解決手段】ピペット装置(10)は、第1のテーパ部としてのピペット開口部(36)を有し定量液体を分注する計量液体レセプタクル(38)と、該レセプタクル内の作用流体の圧力を変える圧力変更装置(40)とを備え、さらなるテーパ部としての絞り点(42)を、ピペット管(12)内で前記レセプタクルと前記圧力変更装置の間に備える。前記定量液体についてのピペット開口部(36)の流体抵抗の前記作用流体についての絞り点(42)の流体抵抗に対する比を0.5未満、好ましくは0.3未満、最も好ましくは0.225未満となるように寸法付ける。該流体抵抗を、媒体の粘度と前記テーパ部の特性長さ(lDst、lPof)との積を、前記テーパ部の断面の特性寸法(dDst、dPof)の4乗で除したものを考慮して計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも作用流体の圧力を上昇させることによって定量液体を分注するためのピペット装置であって、作用流体が少なくとも部分的に充填され、流通断面の第1のテーパ部としてのピペット開口部を有する計量液体レセプタクルを備え、このピペット開口部を通って定量液体を作用流体の圧力の関数として計量液体レセプタクルから分注することができ、かつ計量液体レセプタクル内の作用流体の圧力を変えるように設計された圧力変更装置を備えるピペット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のピペット装置は従来技術から周知である。定量液体を分注する場合、計量液体レセプタクル内に供給される定量液体は、周知の方法で、同様に計量液体レセプタクル内に位置付けられた作用流体の圧力を上昇させることによって、計量液体レセプタクル内のピペット開口部を通って排出される。
【0003】
定量液体を計量液体レセプタクルから放出する場合、ピペット開口部は全般的に最小の流通断面を構成するため、ピペット開口部は本明細書で論じるピペット装置の流通断面の第1のテーパ部を形成する。
【0004】
上記のタイプのピペット装置は、たとえば洗浄頭部として使用され、その場合、定量液体が計量液体レセプタクルに計量液体供給部によって完全または部分的に充填され、次いで、その液体が、上記の分注方法の結果として、液体レセプタクルの周囲圧力に基づく作動液体の過剰圧力によって、前記レセプタクルから放出される。
【0005】
こうした洗浄頭部では、定量液体は洗浄液体であり、ピペット開口部を通って供給されて、その下に与えられた対象物、たとえば容器を、洗浄液体を使用して洗浄する。その場合もやはり、この工程は洗浄液体の排出量の正確な割合に依存する。
【0006】
しかし原理上、洗浄頭部が、前述の供給への追加または別法として、周知の吸引により、すなわち計量液体レセプタクル内の作用流体の負圧により、定量液体、すなわち、たとえば洗浄液体を、ピペット開口部を通って計量液体レセプタクル内に受けることも除外すべきではない。
【0007】
上記のピペット装置の欠点は、具体的には洗浄頭部としての設計に関して、ピペット開口部またはピペット開口部に通じる管内でのピペット開口部を通る定量液体の放出の繰り返しによって、付着物が形成され、こうした付着物がそれぞれピペット開口部およびピペット開口部に通じる管の流通断面積を変えることである。それによって計量行動が変化して、幾らかの動作時間後に、構造に関して基本的に同一であり、同じ定量液体で、かつ、そうでなければ同一の動作パラメータで作動されるピペット装置が、望ましくない、異なる計量行動を示す恐れがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、ピペット装置の計量行動が計量液体レセプタクル内のピペット開口部およびピペット開口部に通じる管の流通断面積の変化の影響をあまり受けないように上記のタイプのピペット装置を開発して、ピペット開口部のおそらく、さらにはほぼ確実に生じ得る付着物がピペット装置の計量行動に影響を与えないようにし、または少なくとも以前より影響が小さくなるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、本発明により、包括的ピペット装置によって達成される。このピペット装置は、通常の動作中に流通断面のさらなるテーパ部として絞り点を作用流体が充填されるピペット管内に含み、前記絞り点は、計量液体レセプタクルと圧力変更装置の間に流体力学的に配置され、分注された定量液体についてのピペット開口部の流体抵抗(R1)の、定量液体が分注される時に絞り点を通って流れる作用流体についての絞り点の流体抵抗(R2)に対する比が0.5未満、好ましくは0.3未満、最も好ましくは0.225未満であるように寸法付けられ、それぞれ流通断面のテーパ部の流体抵抗が、それぞれ流通断面のテーパ部に関連する作用流体および定量液体である媒体の粘度と、関連する流通断面のテーパ部の特性長さとの積を、関連する流通断面のテーパ部の流通断面の特性寸法の4乗で除したものを考慮して計算される。
【0010】
上記の絞り点により、流通断面の狭い点が圧力変更装置と計量液体レセプタクルの間に形成され、圧力変更装置によって生じる作用流体の圧力変化が確実に計量液体レセプタクル内で急激ではなく単に徐々に起きるようになされ、それによって、ピペット装置の分注行動が、ピペット開口部の流通断面積の変化、特に蓄積によって生じる変化の影響を驚くほど受けなくなる。構造に関して基本的に同一であり、同一の設定で実質的に作動されるピペット装置は、したがって、ピペット装置のピペット開口部に様々な量の付着物が存在しても、実質的に同一の分注行動を示すことができる。
【0011】
上記の流体抵抗の比は、本明細書で示す解決策の機能に決定的であり、作用流体、一般には気体が通って流れる、ピペット開口部よりもかなり小さい断面積の開口部を有する絞り点をもたらす。しかし、液体も作用流体として使用されることを除外すべきではない。
【0012】
それぞれ動粘度が粘度として使用され、一般に記号「η」による文字で示される。
【0013】
関連する断面のテーパ部の参照した特性長さは、流通断面の円筒形のテーパ部の場合は円筒形の管の長さでもよく、または流通断面のテーパ部に向かって円錐状にテーパ勾配する管の場合は、管の流通断面積が絞り点またはピペット開口部の最小流通断面積の領域から開始して2倍になる管部分の長さでもよい。管の最長の決定可能な長さにわたり流通断面積が2倍になるところが存在しない場合、管の全長を特性長さとして使用することができる。
【0014】
円形の流通断面の場合は径を、正方形の流通断面の場合は縁部の長さを、長方形の流通断面の場合は長縁部と短縁部の長さの算術平均値を、かつ楕円形の流通断面の場合は長軸と短軸の算術平均値を、流通断面の特性寸法として使用することができる。流通断面のテーパ部の長さにわたり流通断面積が変わる場合、流通断面のテーパ部で生じる最小流通断面を使用すべきである。
【0015】
特性寸法の使用は流体力学の分野で周知である。
【0016】
ピペット開口部の流体抵抗(R1)と絞り点の流体抵抗(R2)の比は、好ましくは以下のように計算される:
【0017】
【数1】

【0018】
式中、ηPofはピペット開口部を通って流れる定量液体の動粘度、ηDstは絞り点を通って流れる作用流体の動粘度、lPofはピペット開口部の特性長さ、lDstは絞り点の特性長さ、dPofはピペット開口部の流通断面の特性寸法、かつdDstは絞り点の流通断面の特性寸法である。
【0019】
本発明は、好ましくは、最初に述べたように、洗浄液体を定量液体として正確な量で分注するように設計された洗浄頭部ピペット装置に関する。こうした洗浄頭部ピペット装置は、一般に、正確に計量された量の洗浄液体の分注による、試料容器、たとえばいわゆる「ウェル」内に受けられた対象物の洗浄に使用される。その場合、洗浄液体の正確な計量は所定の洗浄状態を得るために最も重要である。洗浄液体の体積流量は、洗浄力が最大であり、なお洗浄工程ができるだけ迅速に行われるように、全般的に設定される。洗浄液体がピペットから不正確に分注されると、「過剰洗浄」になる危険性があり、洗浄すべき対象物上に、かつ/または試料容器内に成分が溶解される恐れがあり、望ましくない。
【0020】
こうした洗浄頭部ピペット装置が定量液体として洗浄液体を計量液体レセプタクル内にピペット開口部を介して吸引することを除外すべきではないが、取り扱いをより簡単にするため、洗浄液体を定量液体として計量液体入口を通って好ましい洗浄頭部ピペット装置の計量液体レセプタクルに充填する。
【0021】
本明細書で論じる洗浄頭部ピペット装置は、したがって、計量液体入口を含むことができる。この入口を通して、定量液体を、すなわち本出願では洗浄液体を、計量液体レセプタクルに少なくとも部分的に充填することができる。そのため、計量液体入口は計量液体レセプタクル内に排出することができる。(前述の計量液体入口の有利な排出とは別に)計量液体入口は、全般的に計量液体レセプタクルとは別に形成された管として設けられる。
【0022】
本発明のさらなる有利な実施形態では、計量液体入口を作動させるため、洗浄頭部ピペット装置は計量液体ポンプを備えることができ、そのポンプで定量液体、具体的には定量液体として洗浄液体を計量液体入口に沿って計量液体レセプタクル内に運搬することができる。さらに、計量液体入口から計量液体レセプタクル内への残留定量液体の望ましくない供給を防止するため、弁を計量液体入口に、具体的には計量液体入口の排出部に近接した領域に設けることができ、弁を制御手段によって開閉することができる。また、計量液体ポンプを上記その他の制御手段によって作動させることもできる。
【0023】
しかし、計量液体入口の排出部の上部に測地学的に位置付けたレザバーからの重力によって、具体的には洗浄液体としての計量液体を計量液体レセプタクル内に運搬することができるため、上記の計量液体ポンプは設けなくてもよい。しかし、その場合は上記の弁が必ず必要である。
【0024】
洗浄頭部ピペット装置の洗浄効率を上げるため、洗浄頭部ピペット装置が実質的に互いに平行に設けられた複数のピペット管を備えて、複数のピペット管に対応する複数の対象物が洗浄頭部ピペット装置によって同時に洗浄されるようにすることができる。
【0025】
複数管ピペット装置の場合でも、本発明は非常に有利である。なぜなら、本発明では、本発明を適用しない場合に、複数管ピペット頭部の個々のピペット管がピペット装置の同一の動作パラメータで様々なピペット操作の結果をもたらすように、個々のピペット管が、結合されたピペット先端部の製造公差の結果として、ピペット開口部の様々な量の付着物の結果として、または上記その他の原因の組み合わせの結果として、様々な幾何学的形状であっても、各ピペット管が確実に高レベルの正確さで実質的に同じ量の定量液体を分注することができるからである。
【0026】
計量液体レセプタクルと圧力変更装置の間の作用流体流の絞りの原理を、定量液体の分注の他に、定量液体の吸引にもうまく適用することができる。その場合、やはり計量行動が、ピペット開口部の流通断面積への付着物および他の変化の影響を受けないようにすることができる。
【0027】
したがって、本発明は、また、具体的には、上記の分注の他に、この場合は計量液体レセプタクル内の作用流体の圧力の低下によって定量液体を吸引するようにも設計されたピペット装置に関する。その場合、定量液体の吸引では、定量液体を作用流体の圧力の関数としてピペット開口部を通って計量液体レセプタクル内に吸引することができる。
【0028】
計量工程、すなわち定量液体の吸引および分注の場合、構造に関して同一であり、実質的に同一の動作パラメータを使用して作動される従来技術のこうしたピペット装置の場合、様々な定量液体、具体的には様々な粘度の定量液体に関する計量行動の差を決定することができる。
【0029】
判明しているように、ピペット管の絞り点は、この場合に推奨され、圧力変更装置と計量液体レセプタクルの間に流体力学的に配置されるが、特定の制限内で、様々な粘度の定量液体に関して計量行動を均質化するようにも適合される。換言すれば、構造に関して基本的に同一であり、実質的に同一の動作パラメータを有するピペット装置の場合、こうしたピペット装置の計量行動は、特定の制限内で定量液体の粘度に無関係である。
【0030】
しかし、ピペット開口部の流通断面積の変化に実質的に無関係の前の場合の計量行動と比較して、絞り点の流通断面積をかなり縮小させる必要がある。
【0031】
試験で判明したように、実質的に同一の動作パラメータでの実質的に同一のピペット装置の計量行動は、定量流体の分注中に作用流体がピペット開口部および絞り点を通って流れる場合、分注した定量液体についてのピペット開口部の、流体抵抗(R1)の絞り点の流体抵抗(R2)に対する比が0.001未満、好ましくは0.00075未満、最も好ましくは0.0005未満の場合に、定量液体の粘度に実質的に無関係である。
【0032】
粘度に関係ない計量行動は、分注と吸引行動の両方に適用される。参照の工程として単に分注を使用する。
【0033】
試験で判明したように、定量液体の動粘度の値が0.004Nsm-2、好ましくは0.0035Nsm-2、最も好ましくは0.0031Nsm-2を超えない場合、流体抵抗の比の上記の上限は、定量液体の粘度に実質的に無関係の計量行動になる。
【0034】
したがって、動粘度が0.00003Nsm-2、好ましくは0.00002Nsm-2、最も好ましくは0.0000175Nsm-2を超えない作用流体を、うまく使用することができる。動粘度がこの場合にも意図される。
【0035】
たとえば、環状間隙の間隙幅の変更によって、または機械的カメラのシャッターの調整に使用されるのと同様の機構を使用することによって、選択的に変更することができる流通断面積を有する絞り点を備えることがさらに考えられる。したがって、絞り点の流通断面積を、それぞれ使用される作用流体および/またはそれぞれ計量すべき定量液体に適応させることができる。
【0036】
制御を向上させるため、具体的には吸引かつ/または分注工程の微調整のため、ピペット管が、ピペット管内の作用流体の流れが阻止される閉位置と、ピペット管内の作用流体の流れが可能になる開位置の間で調整可能である弁を備えることも考えることができる。作用流体が少なくとも圧力変更装置付近に位置付けられた領域内の所望の圧力になるまで、最初は弁を閉じたままにすることができる。具体的には可変の流通断面積を含む上記の絞り点によって、有利に少数の構成要素を使用して、本明細書に記載した弁を形成することができるように、絞り点を断面積がゼロになるまで変更可能にすることができる。
【0037】
さらに、弁を断続的に開閉することによって、周知の方法で液体量を非常に正確に計量することができる。
【0038】
最初に示したように、本明細書で論じる本発明の効果は、圧力変更装置によって開始される圧力変化が計量液体レセプタクル内に急激に広がることがないため、弁が、絞り点に、または圧力変更装置と絞り点の間に流体力学的に設けられると有利である。
【0039】
本発明の構成的に可能な実施形態によれば、システム圧力を受ける少なくとも1つの作用流体のレザバーを、圧力変更装置として設けることができる。より具体的には、同じピペット管で吸引と分注工程の両方を実行するため、第1のシステム圧力を受ける分注レザバーおよび第2のシステム圧力を受ける吸引レザバーを設け、それらが圧力伝達式にピペット管に選択的に連結可能であり、かつそれらから分離可能であり、第1のシステム圧力がピペット装置の周囲圧力よりも高く、第2のシステム圧力が周囲圧力よりも低いようにすることができる。
【0040】
絞り点を通る作用流体の流通工程に関して、吸引および分注工程の場合、少なくとも分注工程中に、システム圧力が、計量液体レセプタクルの周囲圧力と比較して、過剰圧力1.5バール、好ましくは1.2バール、最も好ましくは1.0バールを超えない場合に有利である。システム圧力と周囲圧力の間に比較的大きい圧力差がある場合、絞り点を通る作用流体の過剰な乱流になる可能性があり、ある状況下では本発明の効果が損なわれる恐れがある。
【0041】
しかし、原理上、圧力変更装置が、ポンプの運搬経路に配置することができ、選択的に開閉することができる弁構成と任意選択で協働し、断続的または連続的に作動するポンプを備えることも考えられる。常に望ましい計量工程の自動化に関して、ポンプがモータによって駆動されると有利である。
【0042】
ピペット装置のさらに有利な実施形態によれば、圧力変更装置が、シリンダ軸に沿って延びるシリンダを有し、かつシリンダ内でシリンダ軸に沿って可動に受けられるピストンを有するピストンシリンダ装置を備え、シリンダおよびピストンが少なくとも1つの作動体積を画定し、その作動体積をピストンのシリンダに対する相対運動によって変えることができ、作動体積がピペット管と流体連通し、またはピペット管と流体連通状態にすることができることも考えられる。ピストンシリンダ構成は、ピペット装置内の圧力変更装置の最も一般的な設計である。ピストンシリンダ構成では、小さいピストン領域および比較的長いピストンストロークの使用によって、非常に正確な圧力制御を行う選択枝も与えられる。
【0043】
圧力変更装置としての上記のピストンシリンダ装置では、ピペット装置は、手動で動作可能であることが意図され、具体的には手動作動によってピストンがシリンダに対して可変のピペット装置でもよい。この操作は、手でピストンを引き出し、または押込むことによって直接に、あるいは、たとえば、一旦解放されるとピストンとシリンダの相対運動を駆動するばねを引張することによって間接的に行うことができる。手動で操作可能なピペット装置は、好ましくは、できるだけ正確な計量を行う単に正確に1つのピペット管を備える。
【0044】
「手動で操作可能であることが意図される」とは、原理上、モータまたは他の方法で自動的に作動される場合ではなく、さらに電源の故障の場合に単に手動の緊急操作によって作動させることができる場合を指すものでもないと理解されるべきである。
【0045】
吸引および分注によって計量する場合でも、衛生に関する最高の要求を満たすには、計量液体レセプタクルおよびピペット開口部が、絞り点を含むピペット管とは別に形成されたピペット先端部上に形成され、前記ピペット管に選択的に連結可能であり、かつ/またはそれから分離可能である場合に有利である。対照的に、出口(いわゆる「洗浄チューブ」)は、上記の洗浄頭部ピペット装置のためのピペット装置に剛直に固定して設けられることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】非常に概略的に示された本発明のピペット装置による一実施形態が、全般的に参照番号10で示されている図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
添付の図面を参照して、本発明を以下にかなり詳細に記載する。図面は、本発明のピペット装置による一実施形態を通って切り取られた非常に概略的な縦断面図を示すものである。
【0048】
図1では、非常に概略的に示された本発明のピペット装置による一実施形態が、全般的に参照番号10で示されている。ピペット装置10はピペット管12を備え、ピペット管12にピペット先端部14が周知の方法で解放可能に結合される。
【0049】
ピペット管12はシリンダ部分16を含み、シリンダ部分16内で、ピストン18は、ピストンロッド20を介してモータ22によって、シリンダ軸Zに付随するピペット装置10の長手方向軸Lに沿ってシリンダ部分16に対して調整可能である。
【0050】
モータ22は、たとえば、その体積をピストン18の動きによって変えることができる作動室28内の作用流体、たとえば空気の圧力を検出する圧力センサ26の検出信号の関数として制御ユニット24によって制御される。
【0051】
ピペット先端部14は、シリンダ部分16に対してピペット装置10の長手方向軸Lに沿って可動の廃棄装置30によって、ピペット管12から周知の方法で解放可能であり、ピペット管12に結合するように設計された結合領域32、図1で示した例では円錐状に延びる壁領域34、およびピペット開口部36を含む。ピペット開口部36を通って、定量液体を作用流体の圧力の関数として計量液体レセプタクル内に吸引し、それから分注することができ、その作用流体が、壁領域34によって取り囲まれ、任意選択で結合領域32によっても取り囲まれた計量液体レセプタクル38に少なくとも部分的に充填される。
【0052】
シリンダ16およびピストン18で形成されるモジュールは、計量液体レセプタクル38内の作用流体の圧力を変えるための圧力変更装置40を形成する。
【0053】
本発明によれば、絞り点42が圧力変更装置40と計量液体レセプタクル38の間に設けられ、好ましくは以下のように計算される作用流体に関する流体抵抗R2を含む:
【0054】
【数2】

【0055】
式中、ηDstは作用流体の動粘度であり、lDstは定量液体の分注中に作用流体が流れる方向の絞り点42の特性長さであり、かつdDstは絞り点42の流通断面の特性寸法であり、図1で示した例では絞り点42の径である。図1で示した例では、絞り点42は、基本的に円筒形の管で形成されて、管の長さが絞り点42の特性長さlDstであるようになされる。
【0056】
絞り点42は、さらに弁44を備えることができ、弁44で絞り点42を完全に閉鎖して、作用流体の圧力が作動室28から計量液体レセプタクル38内に広がるのを阻止することができるようになされる。
【0057】
弁44は、制御手段24によって同様に操作可能であることが好ましい。
【0058】
対照的に、ピペット開口部36は、好ましくは以下の式で与えられる分注中の流体抵抗R1を含む。
【0059】
【数3】

【0060】
式中、ηPofはピペット開口部36を通って流れる媒体、すなわち定量液体の動粘度であり、lPofはピペット開口部36に通じるピペット先端部14の出口端の特性長さであり、かつdPofはピペット開口部36の流通断面の特性寸法、円形のピペット開口部であるこの通常の場合では、ピペット開口部36の径である。
【0061】
円錐状にテーパが付けられた、または他の方法でピペット開口部36に向かうピペット先端部14の図1で示した例では、特性長さを決定するための以下の手法を採用してもよい。
【0062】
特性長さlは、ピペット開口部36から開始して、ピペット先端部14の流通断面積がピペット開口部36の面積の2倍になるところまでのピペット先端部14の排出端の特性長さである。円形状の場合、流通断面積は半径または直径の二乗に比例するため、それぞれ流通断面のテーパ部と径が流通断面のテーパ部の径の√2倍である流通断面との間にある長さを、それぞれ最小流通断面積を有する流通断面のテーパ部に向かって円錐状または他の方法でテーパを付けた排出領域の特性長さであると仮定することができる。
【0063】
より具体的には、判明しているように、ピペット先端部14、あるいは絞り点42の流通断面積を増加させた場合、最小流通断面積よりもかなり大きいこれら流通断面積の領域は、それぞれ排出開口部の流体抵抗にほとんど影響を与えない。換言すれば、最小断面積である流通断面積の大きさの2倍を超える流通断面積を有するピペット先端部14または絞り点42の領域は、それぞれ問題の流通断面のテーパ部の流体抵抗にあまり影響を与えない。したがって、それらを無視することができる。
【0064】
絞り点42とピペット開口部36の2つの流体抵抗の比が、それらの動粘度に関してそれぞれ流通断面のテーパ部を通って流れる媒体を考えた場合に、0.5、好ましくは0.3、最も好ましくは0.225を超えない場合、ピペット管12に剛直に連結することもできるピペット先端部14の分注行動は、たとえば、乾燥した、かつ/または結晶化した定量液体の付着物によって生じる流通断面積の変化にほとんど関係しない。
【0065】
テーパ勾配の程度が一旦限界値未満に低下すると、ピペット管12内の圧力変更装置40と計量液体レセプタクル38の間に流体力学的に配置される絞り点42の設置に関わらず、計量行動がピペット開口部36のテーパ勾配の増加と共に明らかに変化する。しかし、ピペット開口部36またはピペット開口部36付近の領域内のこうした付着物の影響が分注中に明らかになる限界の時点は、ピペット開口部36の断面のテーパ部の方向にさらに遅延される。
【0066】
同じことが定量液体の吸引にも当てはまる。
【0067】
流通断面のR2のR1に対する比が0.001未満、好ましくは0.00075未満、かつ最も好ましくは0.0005未満の場合、ピペット装置の吸引および分注行動は、特定の制限内で、使用される定量液体の粘度にも無関係であり、様々な粘度の定量液体を同じピペット装置10および同じ動作パラメータを使用して同一に計量することができる。それによって、ピペット装置の操作がかなり簡単になる。
【0068】
試験で判明しているように、動粘度0.004Nsm-2、好ましくは0.0035Nsm-2、かつ最も好ましくは0.0031Nsm-2までを有する定量液体を、動作パラメータを変えることなく本発明によるピペット装置で計量することができる。
【0069】
したがって、本発明によって、ピペット装置の計量作業をかなり簡単にすることができる。
【0070】
本発明は、具体的には、洗浄液体を定量液体として正確な量で分注すべき場合に、「洗浄頭部ピペット装置」の形態のピペット装置10によって実行すべき計量作業に適用可能である。
【0071】
こうした洗浄頭部ピペット装置を使用して、定量液体として計量した量の洗浄液体を分注することによって、規定の方法で、全般的にピペット開口部36の下に配置された試料容器39内の対象物37、または試料容器39自体を洗浄することができる。
【0072】
したがって、こうした洗浄頭部ピペット装置10は、計量液体レザバー52から開始し、排出開口部54で計量液体レセプタクル38内に排出することができる計量液体入口50を含むことができる。
【0073】
その場合、計量液体レセプタクルに(洗浄液体の形態の)定量液体を、計量液体入口50を通して有利に充填することができ、この場合、ピペット開口部36を通って定量液体を吸引する必要がない。
【0074】
計量液体レザバー52内の定量液体を計量液体レセプタクル38内に計量液体入口50を通して、制御装置24によって同様に制御することができるポンプ56によって運搬することができる。計量液体入口50を通って運搬される流量をさらに正確に調整するため、弁58を計量液体入口50に設けることもでき、その弁を制御装置24によって開閉することができる。
【0075】
たとえば、制御手段の適したプログラムを使用して、最初にポンプ56の作動により弁58を閉鎖した状態にし、すぐに所定の時間にわたり弁58を開放し、次いで再び閉鎖して、計量液体入口50内の所定の圧力を確保することができる。
【0076】
計量液体入口50から計量液体レセプタクル38内への残留定量液体の望ましくない供給を阻止し、またはこれを最小限に抑えるため、弁58を排出部54に、または計量液体入口の全長に対して排出部54の付近に配置することが好ましい。弁58の排出部54からの距離は、計量液体入口50の全長の5%を超えないことが好ましい。
【0077】
具体的には洗浄頭部ピペット装置10の形態のピペット装置10は、図で示したピペット管12の他に、図で示したピペット管12と基本的に同一のピペット管をさらに備えることができ、図1で示したピペット管12は、複数管ピペット装置の全てのピペット管についての一例として記載されている。たとえば、洗浄頭部ピペット装置は8×12=96のピペット管のマトリックス構成でピペット管12を備えることができる。
【0078】
複数管ピペット装置では、各ピペット管12への計量液体入口50を、共通のポンプ56を介して共通の計量液体レザバー52に連結することができる。
【0079】
個々のピペット管12の全てのピストンロッド20を、共通のモータ22によって調整することもできる。
【0080】
それにも関わらず、各ピペット管がそれ自体のモータ22、それ自体のポンプ56、および/またはそれ自体の計量液体レザバー52を備えることも除外すべきではない。
【0081】
固定手段60は、洗浄チューブの形態のピペット先端部14を、ピペット管12に永久的に解放不可能に結合することができることを示すものである。洗浄チューブをピペット管のチューブ、たとえば、シリンダ部分16と一体に形成することもできる。
【符号の説明】
【0082】
10 ピペット装置
12 ピペット管
14 ピペット先端部
16 シリンダ部分
18 ピストン
20 ピストンロッド
22 モータ
24 制御手段
26 圧力センサ
28 作動室
30 廃棄装置
32 結合領域
34 壁領域
36 ピペット開口部
37 対象物
38 計量液体レセプタクル
39 試料容器
40 圧力変更装置
42 絞り点
44、58 弁
50 計量液体入口
52 計量液体レザバー
54 排出開口部
56 ポンプ
60 固定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも作用流体の圧力を上昇させることによって定量液体を分注するためのピペット装置(10)であって、
作用流体が少なくとも部分的に充填され、流通断面の第1のテーパ部としてのピペット開口部(36)を有し、前記ピペット開口部(36)を通って定量液体を前記作用流体の圧力の関数として計量液体レセプタクル(38)から分注することができる計量液体レセプタクル(38)と、
前記計量液体レセプタクル(38)内の前記作用流体の圧力を変えるように設計された圧力変更装置(40)とを備え、
前記ピペット装置(10)が、通常の動作中に流通断面のさらなるテーパ部として絞り点(42)を作用流体が充填されるピペット管(12)内に含み、前記絞り点が、前記計量液体レセプタクル(38)と前記圧力変更装置(40)の間に流体力学的に配置され、分注された定量液体についての前記ピペット開口部(36)の流体抵抗(R1)の、前記定量液体が分注される時に前記絞り点(42)を通って流れる作用流体についての前記絞り点(42)の流体抵抗(R2)に対する比が0.5未満、好ましくは0.3未満、最も好ましくは0.225未満であるように寸法付けられ、前記それぞれ流通断面のテーパ部(36または42)の流体抵抗が、前記それぞれ流通断面のテーパ部(36または42)に関連する作用流体および定量液体である媒体の粘度と、前記関連する流通断面のテーパ部(36または42)の特性長さ(lDst、lPof)との積を、前記関連する流通断面のテーパ部(36または42)の流通断面の特性寸法(dDst、dPof)の4乗で除したものを考慮して計算されることを特徴とするピペット装置(10)。
【請求項2】
前記ピペット装置(10)が、洗浄液体を定量液体として分注するように設計され、計量液体入口(50)を含む洗浄頭部ピペット装置(10)であり、前記計量液体レセプタクル(38)に前記計量液体入口(50)を通して定量液体を少なくとも部分的に充填することができるように、好ましくは前記計量液体入口(50)が前記計量液体レセプタクル(38)内に排出することを特徴とする、請求項1に記載のピペット装置(10)。
【請求項3】
前記ピペット装置(10)が実質的に平行に設けられた複数のピペット管(12)を備え、前記ピペット装置(10)の各ピペット管(12)に流通断面のさらなるテーパ部として絞り点(42)が設けられることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のピペット装置(10)。
【請求項4】
前記ピペット装置(10)が前記作用流体の圧力を低下させることによって定量液体を吸引するようにも設計され、吸引工程中に前記ピペット開口部(36)を通って定量液体を前記作用流体の圧力の関数として前記計量液体レセプタクル(38)内に吸引することができ、前記定量液体の分注中に作用流体が前記ピペット開口部(36)および前記絞り点(42)を通って流れる場合、分注した定量液体のついての前記ピペット開口部(36)の前記流体抵抗(R1)の、前記絞り点(42)の前記流体抵抗(R2)に対する比が0.001未満、好ましくは0.00075未満、最も好ましくは0.0005未満であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のピペット装置(10)。
【請求項5】
前記定量液体の前記粘度の値が0.004Nsm-2、好ましくは0.0035Nsm-2、最も好ましくは0.0031Nsm-2を超えないことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のピペット装置(10)。
【請求項6】
前記作用流体の前記粘度の値が0.00003Nsm-2、好ましくは0.00002Nsm-2、最も好ましくは0.0000175Nsm-2を超えないことを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載のピペット装置(10)。
【請求項7】
前記絞り点(42)が、選択的に変更することができる流通断面積を有することを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載のピペット装置(10)。
【請求項8】
前記ピペット管(12)が、前記ピペット管(12)内の作用流体の流れが阻止される閉位置と、前記ピペット管(12)内の作用流体の流れが可能になる開位置の間で調整可能である弁(44)を備えることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載のピペット装置(10)。
【請求項9】
前記弁(44)が前記絞り点(42)に、または前記圧力変更装置(40)と前記絞り点(42)の間に流体力学的に設けられることを特徴とする、請求項8に記載のピペット装置(10)。
【請求項10】
前記ピペット装置(10)が、システム圧力を受ける少なくとも1つの作用流体のレザバーを、前記圧力変更装置(40)として備えることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載のピペット装置(10)。
【請求項11】
第1のシステム圧力を受ける分注レザバーおよび第2のシステム圧力を受ける吸引レザバーが設けられ、圧力伝達式に前記ピペット管(12)に選択的に連結可能であり、かつ前記ピペット管(12)から分離可能であり、前記第1のシステム圧力が前記ピペット装置(10)の周囲圧力よりも高く、前記第2のシステム圧力が前記周囲圧力よりも低いことを特徴とする、請求項10に記載のピペット装置(10)。
【請求項12】
分注工程のための前記システム圧力が、前記計量液体レセプタクル(38)の周囲圧力と比較して、過剰圧力1.5バール、好ましくは1.2バール、最も好ましくは1.0バールを超えないことを特徴とする、請求項10または請求項11に記載のピペット装置(10)。
【請求項13】
前記圧力変更装置(40)が、具体的にはモータによって駆動されるポンプを備えることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載のピペット装置(10)。
【請求項14】
前記圧力変更装置(40)が、シリンダ軸(Z)に沿って延びるシリンダ(16)を有し、かつ前記シリンダ(16)内で前記シリンダ軸(Z)に沿って可動に受けられるピストン(18)を有するピストンシリンダ装置(16、18、20)を備え、前記シリンダ(16)およびピストン(18)が少なくとも1つの作動体積(28)を画定し、前記作動体積(28)を前記ピストン(18)の前記シリンダ(16)に対する相対運動によって変えることができ、前記作動体積(28)が前記ピペット管(12)と流体連通し、または前記ピペット管(12)と流体連通状態にすることができることを特徴とする、請求項1から13のいずれか一項に記載のピペット装置(10)。
【請求項15】
前記計量液体レセプタクル(38)および前記ピペット開口部(36)がピペット先端部(14)に設けられ、前記ピペット先端部(14)が前記絞り点(42)を含む前記ピペット管(12)とは別に形成され、前記ピペット先端部(14)が前記ピペット管に選択的に連結可能であり、かつ/または前記ピペット管から分離可能であることを特徴とする、請求項1から14のいずれか一項に記載のピペット装置(10)。

【図1】
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【公開番号】特開2012−68231(P2012−68231A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−161908(P2011−161908)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(501401397)ハミルトン・ボナドゥーツ・アーゲー (8)
【Fターム(参考)】