説明

ピペット

【課題】粒子径分布の測定の精度を向上できるピペット、液体採取方法および粒子径分布の測定方法を提供する。
【解決手段】ピペット10は、内部が中空で、かつ一方端が覆われている管11と、管11の側部に形成された吸上部12とを備えている。吸上部12は管11の側部から内部に貫通する孔であり、孔を通じて外部から内部へ液体を吸い上げる。液体採取方法は、ピペット10を準備する工程と、ピペット10の吸上部12から液体を吸い上げる工程とを備えている。粒子径分布の測定方法は、液体採取方法により液体を採取する工程と、液体の粒子径分布を測定する工程とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピペット、液体採取方法および粒子径分布の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より用いられてきた粒子径分布測定方法には、JIS Z 8820−2(非特許文献1)に記載の液相重力沈降法による粒子径分布測定方法のピペット法(第2部)が挙げられる。JIS Z 8820−2には、沈降容器内の一定深さ(採取位置)まで挿入したピペットから適当な時間間隔で一定量の懸濁液を吸引し、懸濁液に含まれる粒子の質量および沈降時間から積算粒子径分布を得る方法が開示されている。
【0003】
図7は、従来のピペット法に用いられるピペットを概略的に示す拡大断面図である。図8は、図7における線分VIII−VIIIでの断面図である。図7および図8に示すように、JIS Z 8820−2のピペット法に用いられる従来のピペット200は、管11を備えている。管11の先端11aには孔11bが形成されている。この管11の先端11aの孔11bから懸濁液を採取し、先端11aを採取位置としている。
【非特許文献1】JIS Z 8820−2:2004、日本工業規格
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のピペットを用いた液体の採取方法では、ピペット200の先端11aの孔11bが下向きに形成されている。このため、図7における矢印に示すように、採取位置である先端11aよりも下方からの懸濁液を吸上げてしまうので、採取位置よりも下方に沈降した粒子を吸上げてしまう。したがって、上記粒子の質量および沈降時間に影響を及ぼすので、粒子径分布測定の精度が悪いという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、粒子径分布の測定の精度を向上できるピペット、液体採取方法および粒子径分布の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のピペットは、内部が中空で、かつ一方端が覆われている管と、管の側部に形成された吸上部とを備えている。吸上部は管の側部から内部に貫通する孔であり、孔を通じて外部から内部へ液体を吸い上げる。
【0007】
本発明のピペットによれば、吸上部は管の側部に形成されているので、この側部を通じてピペットの外部から内部へ液体を吸上げることができる。このとき、管の一方端が覆われているので、吸上部より下方から吸上げる液体量を低減することができる。このため、吸上部を採取位置とすると、採取位置より下方に沈降した粒子を吸上げることを抑制することができるので、採取する液体中に対流を起こすことを抑制することができる。これにより、液体中の粒子の沈降速度への影響を抑制することができる。したがって、このピペットを用いて採取した液体中の粒子径分布の測定の精度を向上することができる。
【0008】
上記ピペットにおいて好ましくは、管は筒状であり、吸上部は断面視において四方に広がる孔である。これにより、液体の対流を抑制し、かつ設計の容易なピペットを実現することができる。
【0009】
本発明の液体採取方法は、上記いずれかのピペットを準備する工程と、ピペットの吸上部から液体を吸い上げる工程とを備えている。
【0010】
本発明の液体採取方法によれば、上記ピペットを用いて液体を採取しているので、液体中に対流を起こすことを抑制して、液体中の粒子の沈降速度への影響を抑制することができる。このため、本発明の液体採取方法により採取した液体を用いて粒子径分布の測定をすると、精度を向上することができる。
【0011】
本発明の粒子径分布の測定方法は、上記液体採取方法により液体を採取する工程と、液体の粒子径分布を測定する工程とを備えている。
【0012】
本発明の粒子径分布の測定方法によれば、上記液体採取方法により採取された液体を用いて粒子径分布を測定している。この液体は、対流を起こすことを抑制して、粒子の沈降速度への影響を抑制されて、採取されている。このため、精度を向上して液体の粒子径分布の測定をすることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明のピペットによれば、一方端が覆われている管と、管の側部に形成された吸上部とを備えているので、粒子径分布の測定の精度を向上することができる。
【0014】
また、本発明の液体採取方法によれば、上記ピペットを用いているので、粒子径分布の測定の精度を向上することができる。
【0015】
また、本発明の粒子径分布の測定方法によれば、上記液体採取方法により採取された液体を用いているので、粒子径分布の測定の精度を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には、同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0017】
(実施の形態1)
図1は、本発明の一実施の形態におけるピペットを概略的に示す断面図である。図2(A)は、図1における領域II(A)を概略的に示す拡大断面図である。図2(B)は、図1における線分II(B)および図2(A)における線分II(B)での断面図である。図1、図2(A)および(B)を参照して、本実施の形態におけるピペット10を説明する。
【0018】
図1(A)、図2(A)および(B)に示すように、ピペット10は、管11と、吸上部12とを備えている。吸上部12は、管11の側部に形成されている。
【0019】
管11は、内部が中空で、液体を保持する。また、管11において、一方端(図1および図2(A)において下端)は覆われており、他方端13(図1および図2(A)において上端)は開口している。図2(B)に示すように、本実施の形態における管11は筒状であるが、特にこれに限定されず、断面視において矩形などであってもよい。
【0020】
吸上部12は管11の側部から内部に貫通する孔であり、孔を通じて外部から内部へ液体を吸い上げる。吸上部12は、管11の一方端の近傍に形成されていることが好ましい。
【0021】
図2(B)に示すように、本実施の形態における吸上部12は、断面視において四方に広がる孔である。吸上部12が複数である場合には、一方端からのそれぞれの距離が略同じであることが好ましい。なお、吸上部12の位置および形状は特に限定されず、図3に示すように、吸上部12は1つであってもよい。また、図4に示すように、吸上部12は3つであってもよく、吸上部は5つ以上(図示せず)であってもよい。このように、吸上部12は、断面視において内部の中空から放射状に複数の開口部が広がる形状であることが好ましい。液体を吸上げる際に対流を起こすことを抑制するという観点からは、吸上部12の数は多い方が好ましく、また吸上部12の開口面積が大きいほど好ましい。なお、図3および図4は、本実施の形態における吸上部の変形例を概略的に示す断面図である。
【0022】
図5は、本実施の形態におけるピペットの別の変形例を概略的に示す斜視図である。図5に示すように、別の変形例のピペットの吸上部12は、側方から見たときに四角形の開口部を有している。この場合、吸上部12を通過する際の液体の流速を小さくすることにより、液体を吸上げる際に対流を起こすことを抑制することができるので好ましい。
【0023】
他方端13近傍には、たとえば液溜め部などをさらに有していてもよい。また図1に示すように他方端13が開口していてもよく、他方端13近傍の側部に開口部(図示せず)を有し、この開口部から採取した液体を取り出してもよい。
【0024】
続いて、本実施の形態におけるピペット10の動作について説明する。本実施の形態では、ピペット10を用いて、粒子と分散媒とを含む液体(懸濁液)を吸上げる。具体的には、ピペット10の外部から液体を吸上げる際、他方端13を負圧にする。これにより、図2(A)および(B)の矢印に示すように、吸上部12を通じてピペット10の外部から内部へ液体を吸上げる。
【0025】
本実施の形態におけるピペット10の吸上部12は管11の側部に形成され、かつ管11の一方端が覆われているので、吸上部12より下方から吸上げる液体量を低減することができる。このため、吸上部12を採取位置とすることができ、採取位置より下方に沈降した粒子を吸上げることを抑制することができる。したがって、採取する液体中に対流を起こすことを抑制することができるので、液体中の粒子の沈降速度への影響を抑制して液体を採取することができる。
【0026】
(実施の形態2)
図6は、本実施の形態における液体採取方法および粒子径分布の測定方法に用いる装置を概略的に示す模式図である。まず、図1〜図6を参照して、本実施の形態における液体採取方法および粒子径分布の測定方法に用いる装置について説明する。
【0027】
図6に示すように、この装置は、図1〜図5に示す実施の形態1におけるピペット10と、沈降管101と、栓103とを備えている。沈降管101は、一方端が開口しており、内部に液体を保持する。栓103は、沈降管101の開口部を塞ぐように配置されている。また栓103は、実施の形態1のピペット10の一方端が沈降管101の内部に配置され、かつ他方端13が沈降管101の外部に配置されるように保持している。
【0028】
この装置の具体的寸法および材料の一例を示すと、沈降管の直径は5cm程度であり、高さは35cm程度であり、ガラス製である。また栓103は通気孔を有するベル形ドームである。またピペット10の内径は1mm程度である。また沈降管101に投入する液体の量は500cm3程度である。
【0029】
続いて、図1〜図6を参照して、本実施の形態における液体採取方法および粒子径分布の測定方法について説明する。
【0030】
まず、実施の形態1におけるピペット10を準備する。その後、このピペット10を用いて図6に示す装置を準備する。次いで、粒子を分散液に分散した液体(懸濁液)を沈降管101に投入する。そして、装置を図6に示す状態にセットする。その後、十分攪拌した後、ピペット10を静置する。液体を採取するときの温度の変動を抑制するため、恒温室あるいは恒温槽などに装置を配置することが好ましい。
【0031】
次に、ピペット10の吸上部12から液体を吸い上げる。この工程は実施の形態1のピペット10の動作と同様である。本実施の形態では、攪拌した後あらかじめ定めた時間ごとに、沈降中の液体の表面からの深さH(図6参照)の位置において、ピペット10の一方端から懸濁液を吸い上げる。時間t経過後には、H/tの速度で沈降するストークス径よりも大きい粒径を有するすべての粒子は、採取位置より下方に沈降している。このため、吸い上げた試料は、それより小さいストークス径だけを含んでいる。そして、あらかじめ秤量してある蒸発皿に、ピペット10の他方端13から採取した液体を移す。液体を吸い上げる量は、たとえば10cm3である。
【0032】
以上の工程を実施することにより、液体を採取することができる。本実施の形態における液体採取方法によれば、採取する液体中に対流を起こすことを抑制することができるので、採取位置以外に位置する粒子を含むことを抑制することができ、液体中の粒子の沈降速度への影響を抑制することができる。
【0033】
次に、液体(懸濁液)の粒子径分布を測定する。本実施の形態における液体の粒子径分布の測定方法は、JIS Z 8820−2に記載の液相重力沈降法による粒子径分布測定方法のピペット法を適用することができる。すなわち、粒子の質量基準ふるい下積算分布は、ピペット10から吸い上げた各試料から分散液を除去した後、残留物をひょう量することによって得られる。
【0034】
具体的には、蒸発皿に流し出した液体をたとえば105℃〜110℃で恒量になるまで乾燥する。そして、吸上げた液体中に分散している粒子の質量を測定する。これにより、粒子の密度を求めることができる。その後、vは粒子の落下速度、gは重力加速度、σおよびρはそれぞれ粒子および液体の密度、ηは流体の粘性係数、dは球の直径とした場合に、v=(g/18)・[(σ−ρ)/η]・d2で表されるストークスの式からストークス径を求める。
【0035】
なお、本実施の形態では、液体を構成する分散媒として水を用いてもよく、水以外を用いてもよい。水よりも粘度の大きな分散媒を用いる場合には、大きい粒子の測定に有利である。また、粒子との反応を避ける目的でケロシン、エチルアルコールなど非水系の分散媒を用いてもよい。粒子が細かく軽い場合には、液体の採取の影響で粒子の沈降速度に変化が生じやすいが、本実施の形態では液体中に対流を起こすことを抑制できるため、本実施の形態における液体採取方法および粒子径分布の測定方法は、粒子が細かく軽い場合に好適に用いられる。
【0036】
以上の工程を実施することにより、採取した液体の粒子径分布の測定することができる。本実施の形態における粒子径分布の測定方法によれば、対流を抑制して液体を採取しているので、採取位置以外に位置する粒子を含むことを抑制した液体中の粒子を測定している。このため、精度を向上して粒子径分布を測定することができる。
【0037】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のピペット、液体採取方法および粒子径分布の測定方法は、精度を向上して粒子径分布を測定できるので、環境分析等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施の形態1におけるピペットを概略的に示す断面図である。
【図2】(A)は、図1における領域II(A)を概略的に示す拡大断面図であり、(B)は、図1における線分II(B)および図2(A)における線分II(B)での断面図である。
【図3】実施の形態1における吸上部の変形例を概略的に示す断面図である。
【図4】実施の形態1における吸上部の変形例を概略的に示す断面図である。
【図5】実施の形態1におけるピペットの別の変形例を概略的に示す斜視図である。
【図6】実施の形態2における液体採取方法および粒子径分布の測定方法に用いる装置を概略的に示す模式図である。
【図7】従来のピペット法に用いられるピペットを概略的に示す拡大断面図である。
【図8】図7における線分VIII−VIIIでの断面図である。
【符号の説明】
【0040】
10 ピペット、11 管、12 吸上部、13 他方端、101 沈降管、103 栓。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部が中空で、かつ一方端が覆われている管と、
前記管の側部に形成された吸上部とを備え、
前記吸上部は前記管の側部から内部に貫通する孔であり、前記孔を通じて外部から内部へ液体を吸い上げる、ピペット。
【請求項2】
前記管は、筒状であり、
前記吸上部は、断面視において四方に広がる孔である、請求項1に記載のピペット。
【請求項3】
請求項1または2に記載のピペットを準備する工程と、
前記ピペットの前記吸上部から液体を吸い上げる工程とを備えた、液体採取方法。
【請求項4】
請求項3に記載の液体採取方法により液体を採取する工程と、
前記液体の粒子径分布を測定する工程とを備えた、粒子径分布の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−133826(P2010−133826A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309999(P2008−309999)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】