説明

ピモベンダン経口投与製剤

【課題】 溶出性に優れ、高い血中濃度の得られるピモベンダン経口投与製剤の提供。
【解決手段】 ピモベンダン及びポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコールを含有することを特徴とするピモベンダン経口投与製剤

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶出性に優れたピモベンダン経口投与製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ピモベンダン[(±)−4,5−ジヒドロ−6−[2−(p−メトキシフェニル)−5−ベンズイミダゾリル]−5−メチル−3(2H)−ピリダジノン]は、心筋Ca2+感受性増強作用、PDE−III活性抑制作用を併せ持つことから、陽性変力作用と血管拡張作用を有し、急性心不全又は慢性心不全の予防及び治療薬として広く使用されている。しかし、製剤開発にあたり、この化合物は極めて水に溶け難く、特に中性付近のpH領域で難溶性であるため、製剤からの溶出性が悪く、十分な血中濃度が得られないと云う問題があった。
【0003】
一般に、難水溶性薬物の溶出性を改善する方法として、(a)粉砕法やスプレードライ法等により微小な薬物粒子を得る方法(特許文献1参照)、(b)薬物と高分子化合物を加熱溶解して固溶体を得る方法(特許文献2参照)、(c)薬物と高分子化合物を有機溶媒に溶解した後、溶媒留去して固体分散体を得る方法(特許文献3参照)、(d)溶解性がpH依存的な薬物に対して酸性物質あるいはアルカリ性物質を配合する方法(特許文献4参照)、(e)界面活性剤を配合することで薬物の溶解度を高める方法(特許文献5、6参照)等が知られている。
【0004】
しかし、(a)法は製造において、特別な装置や煩雑な工程が必要であり、(b)法は簡便ではあるものの、適用可能な薬物は、高分子と加熱溶融しても安定な薬物に限られ、薬物一般に適応出来なく、(c)法は有機溶媒を使用することにより、環境保護、作業者の安全性の面、残留溶媒が問題となることや、薬物が有機溶媒と容易に水和物を形成する場合は適用できない。また、(e)法について用いられている可溶化特性を有する界面活性剤の多くは、液体または半固体である。これらのタイプの可溶化剤は一般に、硬質や軟質ゼラチンカプセルに充填するため、また、静脈内投与や経口投与製剤の溶液に用いるために利用されている。
【0005】
ピモベンダンの溶出性を改善する方法としては、(d)法の特許文献4において、ピモベンダンにクエン酸を添加する方法が開示されている。しかしながら、この方法では、多量のクエン酸を必要とするため、得られた製剤の吸湿性が高く、保存安定性に欠ける。また、クエン酸は圧縮成型性、流動性が悪いため、ピモベンダンの溶出性を引き出すのに十分な量のクエン酸を含む錠剤とすることができず、市販製剤の剤型はカプセル剤に限られている。従って、十分な溶出性を示し、また錠剤化が可能で特定の剤型に制限されない、ピモベンダンの経口投与製剤が望まれていた。
【特許文献1】特開平7−076516号公報
【特許文献2】特開平9−208459号公報
【特許文献3】特公平3−028404号公報
【特許文献4】特許第2608183号公報
【特許文献5】国際公開第95/01785号パンフレット
【特許文献6】特開2000−7584号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、溶出性に優れ、高い血中濃度の得られるピモベンダン経口投与製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ピモベンダンの難溶性を改善し、特に中性付近のpH領域において優れた溶出性を示すピモベンダン経口投与製剤について種々検討した結果、ピモベンダンとポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコールを含有させることによって、溶出性に優れたピモベンダン経口投与製剤を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、ピモベンダン及びポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコールを含有することを特徴とするピモベンダン経口投与製剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ピモベンダンを含有する、溶出性に優れた製剤を得ることができる。また、本発明の製剤は、カプセル剤に限定されず、錠剤等の種々の剤型の製剤化が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において用いられるピモベンダンは、例えば、特公昭63−24996号公報に記載された方法に従って製造することができる。得られた粉末形状のピモベンダンはそのまま本発明の医薬製造に使用することができる。
ピモベンダンの配合量としては、所望の薬効を奏する量であって、通常、製剤全質量に対し、0.1〜20質量%、好ましくは0.5〜10質量%、さらに1〜3質量%の範囲である。
【0011】
本発明において用いられるポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコールは、主に可塑剤等の用途で用いられており、市販品としては、PEP-101(フロイント産業(株)製)等が挙げられる。
ポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコールの含有量は、ピモベンダンに対して、質量比で1〜10倍であることが好ましく、特に好ましくは2〜6倍の範囲である。
【0012】
本発明の製剤には、上記化合物に加えて、さらに有機酸を加えることができる。このような有機酸として、例えばフマル酸、コハク酸、アルギン酸、酒石酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸等が挙げられ、特にアルギン酸、フマル酸又はコハク酸が好ましい。これら有機酸は単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
有機酸の含有量は、ピモベンダンに対して、質量比で1〜20倍が好ましく、特に好ましくは3〜12倍の範囲である。
【0013】
本発明の製剤は、後記実施例に示すように、中性付近のpH領域において、ピモベンダンを速やかに溶出する。
【0014】
本発明の経口投与製剤としては、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤等が挙げられる。これらの製剤は、公知の方法で製造することができる。
錠剤を製造する場合、直接打錠法によって製造しても、乾式造粒法等を用いて顆粒化してから錠剤としても良い。また、糖衣、フィルムコーティング等により被覆されていても良い。ポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコールは、フィルムコート錠の場合、コーティング成分中に含めても良い。
直接打錠法によって錠剤を製造する場合、打錠成形機としてはロータリー式打錠機や単発式打錠機など通常使用されるものを用いることができる。また、滑沢剤を使用する場合は外部滑沢式打錠機を使用しても良い。本発明で得られる錠剤の形状としては、円形錠もしくは楕円形、長円形、四角形等の面形を有する各種異形錠であってもよい。また、錠剤は割線を入れた分割錠とすることもできる。
【0015】
また、このような種々の剤型の経口投与製剤を調製するには、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、香料、着色剤、甘味剤、コーティング剤等の他の薬学的に許容される担体を所望に応じて添加することができる。例えば、乳糖、白糖、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、マルチトール、クエン酸カルシウム、リン酸カルシウム、結晶セルロース、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等の賦形剤;トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、部分アルファー化デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、架橋カルメロースナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン等の崩壊剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、デキストリン、アルファー化デンプン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素等の滑沢剤;オレンジ油、ウイキョウ油、ケイヒ油、チョウジ油、テレピン油、ハッカ油、ユーカリ油等の香料;食用赤色2号、3号、食用黄色4号、5号、食用緑色3号、食用青色1号、2号、これらのアルミニウムレーキ、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄等の着色剤;サッカリン、アスパルテーム等の甘味剤;シクロデキストリン、アルギニン、リジン、トリスアミノメタン等の溶解補助剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE等のコーティング剤等が挙げられる。
【0016】
本発明の経口投与製剤の投与量は、患者の体重、年齢、性別、症状等によって異なるが、ピモベンダンとして、通常成人の場合、一日0.5〜10mg、好ましくは1.25〜5mgを1、2回に分けて投与するのが好ましい。
【実施例】
【0017】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
(原料)
ピモベンダンは特公昭63−24996号記載の方法に従い製造したものを用いた。
界面活性剤及び有機酸は下記のものを使用した。
ポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコール:PEP−101、フロイント産業(株)
ラウリル硫酸ナトリウム:NIKKOL、日本ケミカルズ(株)
ショ糖脂肪酸エステル:リョートーシュガーエステルS―1170F:三菱化学(株)
モノステアリン酸グリセリン:理研ビタミン(株)
アルギン酸、フマル酸:和光純薬工業(株)
【0018】
実施例1〜4及び比較例1〜3
表1記載の各成分を乳鉢で混合、滑混して打錠末を得、単発式打錠機(菊水製作所(株)製)を用いて、錠剤硬度が約7kgf以上となるように圧縮力を調整し、径8.5mm、質量250mgの錠剤を得た。なお、有機酸及び界面活性剤は200メッシュの篩で篩過したものを用いた。
【0019】
【表1】

【0020】
試験例1 溶出試験
実施例1〜4及び比較例1〜3で得られた錠剤について、溶出試験を行った。溶出試験は、第14改正日本薬局方一般試験法、溶出試験法第2法(パドル法)に従って行った。各錠剤を、試験液(日局崩壊試験第2液)900mLに投入し、37±0.5℃、パドル回転数50rpmの条件で溶出試験を行った。各試験サンプルについて15分、60分経過後の試験液に溶出したピモベンダンを高速液体クロマトグラフ(HPLC)法で測定し(測定波長250nm)、各粉末中のピモベンダン含有量に対する溶出率(%)を算出した。その結果を表1に示す。
その結果、ラウリル硫酸ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸グリセリン等の他の界面活性剤に比べ、ポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコールがピモベンダンの溶出率の向上効果が顕著であることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピモベンダン及びポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコールを含有することを特徴とするピモベンダン経口投与製剤。
【請求項2】
さらに1種以上の有機酸(ただし、アルギン酸とフマル酸、アルギン酸とコハク酸、又はアルギン酸、フマル酸及びコハク酸の組み合せを除く)を含有する請求項1記載のピモベンダン経口投与製剤。
【請求項3】
ポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコールの含有量がピモベンダン1質量部に対して、1〜10質量部である請求項1又は2記載のピモベンダン経口投与製剤。
【請求項4】
錠剤である請求項1〜3のいずれか1項記載のピモベンダン経口投与製剤。

【公開番号】特開2006−28131(P2006−28131A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212492(P2004−212492)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(000109831)トーアエイヨー株式会社 (25)
【Fターム(参考)】