説明

ピリジニウム骨格を有する配位高分子、及びその製造方法

【課題】気体吸着剤として用いられたときに、吸着させた炭化水素を容易に回収することが可能な配位高分子を提供すること。
【解決手段】一般式(1)の配位子と金属イオンとを含むピラードレイヤー構造を形成している、配位高分子。


[一般式(1)中、X、X、X、X、X及びXはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、又はメチル基を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配位高分子、気体吸着剤及びこれらの製造方法、並びに気体貯蔵装置に関する。さらには、本発明は炭化水素を貯蔵又は回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、気体を貯蔵する方法として、気体を加圧圧縮して高圧ボンベに充填する方法、気体を冷却して液化し液化ガスとして貯蔵する方法、溶剤に気体を吸着させてボンベ内に貯蔵する方法が広く採用されてきた。
【0003】
これら一般的な方法とは異なる新しい方法として、無機ガス、メタン及びアセチレンといった分子を配位高分子に吸着させて貯蔵する方法が知られている。しかしながら、エチレン、プロピレン、メチルアセチレン、プロパジエンといった分子については、配位高分子に吸着貯蔵する方法はほとんど検討されてこなかった。
【0004】
一方、プロピレンやメチルアセチレンに関しては、8員環チャネルを持つゼオライトがプロピレンを、ゼオライト4Aがメチルアセチレンを吸着することが報告されている(特許文献1及び非特許文献1参照)。しかしながら、これらのゼオライトに吸着貯蔵する方法は、必ずしも満足のいくものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2002/058820号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「J.Phys.Chem.」、1991年、95巻、710−720頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
吸着した炭化水素分子を容易に脱着することが可能な吸着剤となりうる配位高分子化合物および当該化合物を吸着剤として用いる工業的に有用なガスの貯蔵方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)の配位子と金属イオンとを含むピラードレイヤー構造を形成している配位高分子
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、X、X、X、X、X及びXはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、又はメチル基を示す。)、さらには、金属塩と一般式(1)の構造を部分構造として含む化合物とを溶媒中で混合するステップを備える、前記配位高分子の製造方法、前記配位高分子を含む気体吸着剤、前記気体吸着剤を用いた炭化水素の貯蔵方法に関するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、メチルアセチレン及びプロパジエンといった炭化水素を大量に吸着することが可能であり、かつ、吸着後に炭化水素を容易に脱着させて回収することが可能である。具体的には、例えば、絶対圧1kPa程度の減圧により、配位高分子に対し5質量%以上のメチルアセチレンやプロパジエンを脱着することができる。したがって、本発明に係る配位高分子は気体吸着剤として実用性に富んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施形態に係るピラードレイヤー構造を示す模式図である。
【図2】実施例1で合成した配位高分子の熱重量分析の結果を示すグラフである。
【図3】実施例1で合成した配位高分子のメチルアセチレン吸着測定の結果を示すグラフである。
【図4】ゼオライト4Aのメチルアセチレン吸着測定及びプロパジエン吸着測定の結果を示すグラフである。
【図5】実施例1で合成した配位高分子のN吸着測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
配位高分子は、配位子と金属イオンとが配位結合またはイオン結合を介して連続的に繋がることで繰り返し構造を形成している金属錯体である。特に、本実施形態に係る配位高分子は、上記一般式(1)の配位子と金属イオンとを含むピラードレイヤー構造を形成している。図1は配位高分子のピラードレイヤー構造を示す模式図である。図1に示すピラードレイヤー構造5は、互いに間隔を空けて積層された複数のレイヤー部1と、隣り合うレイヤー部1同士を架橋する配位子2とを有する多層構造である。レイヤー部1同士を架橋する配位子は、主として一般式(1)の配位子である。レイヤー部1同士を架橋する配位子は、レイヤー部1を構成する金属イオンに配位結合している。
【0015】
一般式(1)において、X、X、X、X、X及びXはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、又はメチル基を表す。X、X、X、X、X及びXのハロゲン原子は、弗素原子、塩素原子、臭素原子又は沃素原子であり、好ましくは弗素原子又は塩素原子である。また、末端ピリジル基の配位力が強く、安定な多孔性構造を形成しやすいという理由で、一般式(1)の配位子のX及びXのいずれかが水素原子又はメチル基であることが好ましい。同じ理由で、X及びXのいずれかが水素原子又はメチル基であることが好ましい。X、X、X及びXは、より好ましくは水素原子である。その中でも特に、下記式(1−1)で示される配位子が好ましい。
【0016】
一般式(1)の配位子の具体例としては、下記式(1−1)〜(1−40)でそれぞれ示される配位子が例示される。
【0017】
【化2】

【0018】
【化3】

【0019】
レイヤー部1は、主として、金属イオンとこれに結合する配位子とから構成される。
【0020】
配位高分子に含まれる金属イオンは、各種典型金属及び各種遷移金属のイオンから選択され得る。金属の入手性や配位高分子の製造の容易さから、好ましいイオンを選択することができる。具体的には、Mg、Ti、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnからなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属の二価イオンが好ましく、Cu2+及びZn2+がさらに好ましい。
【0021】
レイヤー部1を形成する配位子は、レイヤー部1同士を架橋する配位子2と同一でも異なっていてもよく、金属イオンとともにレイヤー部1を形成可能なものから任意に選択される。ピラードレイヤー構造を形成している配位高分子としては、多様な二次元レイヤー構造のレイヤー部1を有する配位高分子が報告されている。それらいずれの二次元レイヤー構造であっても、一般式(1)の配位子との組合せによりピラードレイヤー構造が形成されることが期待される。
【0022】
レイヤー部1を構成する配位子の好適な具体例としては、下記化学式(2)で示される配位子(以下、場合により「pzdc」と略す。)が挙げられる。
【0023】
【化4】

【0024】
本実施形態に係る配位高分子は、金属塩と一般式(1)の構造を部分構造として含む化合物とを溶媒中で混合するステップを備える製造方法によって得ることができる。金属塩及び上記化合物が溶媒を含む反応液中で反応し、配位高分子が生成される。反応液は、必要に応じて他の有機物や無機物を含んでいてもよい。
【0025】
金属塩としては金属イオンを含む各種化合物が使用可能である。例えば、各金属の弗化物、塩化物、臭化物、硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、酢酸塩、テトラフルオロホウ酸塩、テトラフェニルホウ酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、ヘキサフルオロケイ酸塩、これら金属塩の水和物又はそれらの混合物が金属塩として用いられる。配位高分子の原料として特に好ましい金属塩としては、硝酸塩、硫酸塩及び過塩素酸塩及びこれらの水和物が例示される。具体的には、硝酸銅、硫酸銅、過塩素酸銅、硝酸亜鉛及びこれらの水和物が例示される。
【0026】
一般式(1)の構造を部分構造として含む化合物の合成に関する参考文献としては、下記の特許文献2、非特許文献2、及び非特許文献3が例示される。特に、式(1−1)の化合物の合成法に関しては、非特許文献2および非特許文献3に記載されている。
特許文献2:特開2003−128654号公報
非特許文献2:「Liebigs Ann.Chem.」、1979年、727−742頁。
非特許文献3:「Helv.Chim.Acta」、2005年、88巻、3200−3209頁。
【0027】
一般式(1)の構造を部分構造として含む化合物は、一般に、何らかのカウンターアニオンを有する有機塩である。一般式(1)の構造を部分構造として含む化合物の合成時にアニオン交換を実施する必要が無いという理由から、弗化物、塩化物、臭化物が好ましい。これらハロゲン化物の合成過程又は合成後にイオン交換を行うことで、硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、酢酸塩、テトラフルオロホウ酸塩、テトラフェニルホウ酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、ヘキサフルオロケイ酸塩を合成し、これらを配位高分子の製造に用いることができる。
【0028】
pzdcを含む配位高分子は、金属塩、pzdcの塩(以下、場合によりpzdcAと略す。)、及び一般式(1)の構造を部分構造として含む化合物を溶媒中で混合する方法によって製造することができる。
【0029】
pzdcAを構成するカウンターカチオンは、例えば、アルカリ金属イオン、NH、NHの水素原子が炭化水素基で置換されたアンモニウムイオン及びPHの水素原子が炭化水素基で置換されたホスホニウムイオンから選ぶことが可能である。具体例としては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラブチルホスホニウムイオン、テトラフェニルホスホニウムイオン又はそれらの組合せが挙げられる。好ましくは、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン及びテトラブチルアンモニウムイオンである。
【0030】
pzdcAは、ピラジン−2,3−ジカルボン酸(以下、場合によりpzdcHと略す。)と対応するカウンターカチオンの水酸化物との反応によって生じさせることができる。あるいは、異なるカウンターカチオンを有するピラジン−2,3−ジカルボン酸の塩を原料として用い、イオン交換によってpzdcAを得ることもできる。通常、pzdcAを生じさせる反応は、上記のどちらの方法を採用した場合でも溶媒中で実施される。このため、配位高分子の製造に用いる溶媒中でpzdcAを生じさせることで、pzdcAを単離することなく配位高分子の製造に用いることが可能である。
【0031】
配位高分子の製造において、多様な液体を溶媒として用いることが可能であるが、極性が高い溶媒及び金属イオンへの配位能力が高い溶媒が好ましい。具体的には、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオキシドからなる群より選ばれる1種又は2種以上の溶媒を用いることが好ましい。
【0032】
通常、生成した配位高分子は沈殿物として反応液中に析出する。生じた配位高分子の沈澱を濾過で捕集した後、製造時と同じ組成の溶媒、または製造時の溶媒よりも揮発性が高くかつ配位高分子が分解しない溶媒のいずれかを少量用いて洗浄し、その後乾燥させる。乾燥の過程で、生成物中に含まれるゲスト分子を脱着させることができる。乾燥は室温又は加熱条件下で減圧することで行われることが好ましい。熱分析などの手法によってゲスト分子が脱着する温度や配位高分子の安定性を調査し、減圧乾燥を行う場合の温度を個別に決定することが好ましい。上記の手法によってゲスト分子のうち少なくとも一部を除くことにより、配位高分子の吸着剤としての機能を活性化することができる。
【0033】
好ましい吸着方法や吸着条件は気体吸着剤と吸着させる気体との組合せによって異なるが、一般的には、気体吸着剤と吸着させようとする気体とを接触させることにより、気体を配位高分子に吸着させることができる。
【0034】
本実施形態に係る配位高分子は、例えば、絶対圧100kPaにおいて沸点が20℃以下となる炭化水素を吸着可能であり、係る炭化水素として具体的には、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、プロピレン、メチルアセチレン、プロパジエン、ブタン、イソブタン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン及びブタジエンが挙げられる。炭素数3の炭化水素であるプロパン、プロピレン、メチルアセチレン及びプロパジエンからなる群より選ばれる少なくともいずれか1種の気体の吸着に好適に用いられる。メチルアセチレン及びプロパジエンからなる群より選ばれる少なくともいずれか1種の気体の吸着に特に適している。
【0035】
また、上記炭化水素を含む気体を当該配位高分子に接触させて炭化水素を当該配位高分子に吸着させた後、当該配位高分子に対して5質量%以上の炭化水素を当該配位高分子から脱着させることも可能である。脱着は、気体の圧力を減少させること及び当該配位高分子を加熱することからなる群より選ばれる少なくともいずれか1種の方法によって通常、実施される。
【0036】
本発明の配位高分子は、気体の貯蔵又は回収のための気体吸着剤を構成する成分として利用することができる。係る気体吸着剤は、上述の配位高分子を1種又は2種以上含んでいればよい。吸着剤の重量、或いは体積あたりの最大吸着量に注目するのであれば、吸着に直接的に寄与する配位高分子の割合がより高いことが好ましいが、吸着剤に物理的な強度を求める場合などは、必要に応じて成型剤を混入させても構わない。
【0037】
本実施形態に係る気体吸着剤は、粉末状であってもよいし、配位高分子又はこれを含む混合物を何らかの手法により成型して得られる、配位高分子を含む成型品であってもよい。成型の手法としてはプレス成型が例示される。気体吸着剤としての成型品の形状は、吸着剤に要求される強度を維持できるような形状であることが望ましい。また、吸着速度を向上させるためには、成型品の表面積が大きいことが好ましい。
【0038】
本実施形態に係る気体貯蔵装置は、気体入り口及び出口を有する閉塞容器と、該容器内に充填された気体吸着剤とを備える。
【0039】
気体貯蔵装置に用いられる容器は、貯蔵する気体の種類によっては、耐圧容器であることが好ましく、それが必須の場合もある。
【0040】
冷却条件下で気体を貯蔵する場合、気体貯蔵装置は冷却装置を更に備える。適切な吸着剤を選べば気体の吸着及び脱着は一定温度で行うことも可能であるが、冷却により吸着を、加熱により脱着を促進することができる。そのため、気体吸着剤と気体の組合せ次第では、温調装置を設けることが好ましいこともある。装置の故障等による急激な温度上昇で装置の内圧が上昇し容器が破損するのを防ぐためには、安全弁を設けることが好ましい。また、装置内部の状況を把握するためには圧力計や温度計を設けることが好ましい。
【0041】
本実施形態に係る気体吸着剤を用いた気体の貯蔵は、上述のような乾燥によって配位高分子の吸着能を活性化させるステップと、活性化された配位高分子を含む気体吸着剤に気体を接触させて、気体(特には炭化水素)を気体吸着剤に吸着させるステップとを備える方法によって行うことができる。
【0042】
好ましい吸着条件は気体吸着剤と吸着させる気体との組合せに依存するため画一的に定めることはできないが、分解爆発危険性を示す気体を吸着させる場合、その圧力は吸着過程の温度における分解爆発の下限圧力よりも低いことが好ましい。気体貯蔵装置に温調の設備が設けられている場合、気体吸着剤を適当な温度に冷却することにより、吸着を促進させることができる。
【0043】
配位高分子若しくは気体吸着剤に吸着された、又は気体貯蔵装置内に貯蔵した気体(特には炭化水素)は、取り出し側の圧力を貯蔵装置内部の圧力に対し相対的に低圧にすることによって、取り出すことができる。気体を連続的に取り出すには、ポンプや冷却装置を使用したり、脱着した気体を何らかの化合物に再吸収させたりすることによって取り出し側を低圧にする手法、貯蔵装置の加熱により気体吸着剤と気体との吸着平衡を脱着側にずらす手法、もしくは両手法の併用で行われる。貯蔵した気体を取り出す方法及び条件の詳細は、取り出す気体に応じて安全性及び経済性に基づいて設定される。
【0044】
気体の取り出しが、ポンプを用いることによる取り出し側の減圧操作によって行われる場合、脱着に要求される減圧度が高いと、取り出しのための減圧操作や取り出した気体の再圧縮にかかるコストが増すため、絶対圧1kPa以上の圧力で気体を取り出すことが好ましい。
【0045】
本実施形態に係る気体吸着剤は、多様な気体に対しての貯蔵材料としての利用が考えられるが、特に、炭化水素の貯蔵材料として有用である。絶対圧1kPaまで減圧することで吸着した炭化水素を脱着することが望まれる。炭化水素が炭素数3の炭化水素であることが好ましく、炭素数3の炭化水素がメチルアセチレンまたはプロパジエンであることがさらに好ましい。
【0046】
気体吸着剤として有用と考えられる吸着量の水準は、気体吸着剤の使用目的や貯蔵する気体によって異なる。例えば輸送や貯蔵を目的とし、かつ気体がメチルアセチレンまたはプロパジエンである場合には、所定の温度及び圧力でメチルアセチレン又はプロパジエンを吸着させた後、同温度のまま充填圧力を絶対圧1kPaまで減ずることによって、配位高分子の質量に対して5質量%以上のメチルアセチレン又はプロパジエンを脱着できることが好ましい。
【0047】
−196℃、絶対圧90kPaの条件下における、炭化水素を吸着する吸着剤の窒素(以下、場合によりNと略す。)吸着量が、配位高分子の質量に対して1質量%未満である場合は、窒素及び炭化水素を含む気体中の炭化水素を、無圧縮又は圧縮した窒素及び炭化水素を含む気体から選択的に吸着することができる。したがって、大気中、乾燥空気中又は窒素中に混在する炭化水素を回収する技術に利用可能である。本実施形態に係る気体吸着剤を用いて炭化水素を回収する方法は、例えば、窒素及び炭化水素を含む気体を気体吸着剤に接触させて、気体吸着剤に炭化水素を選択的に吸着させるステップと、吸着された炭化水素を脱着させてこれを回収するステップとを備える。気体吸着剤に炭化水素を選択的に吸着させるステップの前に、窒素及び炭化水素を含む気体を圧縮するステップを備えていてもよい。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
336mgのpzdcHと160mgのNaOHとを水75mLに溶かした。そこに、540mgの式(1−1)の塩化物を150mLのエタノールに溶かした溶液を加えた。次いで、水75mLとエタノール150mLの混合溶液に483mgの硝酸銅・三水和物を溶かした溶液を滴下した。生じた沈澱物を濾過で捕集し、エタノールで洗浄した。捕集した沈殿物を120℃で加熱しながら真空乾燥して、721mgの配位高分子(以下、化合物Aと略す。)を得た。化合物Aの構造及び組成の評価を、試料を大気下に暴露した後に評価を行った。
【0050】
粉末X線回折装置(リガク社製、商品名:RINT−2500V)を用いて室温で粉末X線回折測定を実施し、化合物Aの構造を解析した。その結果、下記非特許文献4に記載されている化合物とよく似た構造、即ちCu2+とpzdcとから構成されるレイヤー部が式(1−1)の配位子(以下、場合によりL1と略す。)によって架橋された、図1に示したような多層構造が形成されていることが示唆された。原料由来のカウンターアニオンは、層間の空隙内に存在しているものと考えられる。
非特許文献4:「Angew.Chem.Int.Ed.」、2002年、41巻、133−135頁。
【0051】
図2は、化合物Aの熱重量分析の結果を示すグラフである。図2に示されるように、大気への暴露によって細孔中に取込まれた水分子の脱離に伴う、なだらかな重量減少(減少率:14.7質量%)が室温から120℃の間に確認された。さらに、200〜220℃の温度領域で配位高分子の構造崩壊を示す重量減少が確認された。
【0052】
化合物Aの元素分析の結果(C:36.4%、H:3.44%、N:12.25%、Cl:<0.2%)は、化合物Aを大気へ暴露した試料の組成が{[Cu(pzdc)(L1)](NO)・7.5(HO)}で表されることを示唆した。これは熱重量分析の結果と矛盾しない結果である。
【0053】
化合物Aを120℃で15時間、加熱しながら真空乾燥した。その後、自動気体吸着測定装置(Quantachrome社製、商品名:AUTOSORB−1)を用い、下記条件でメチルアセチレン吸着測定を実施した。
メチルアセチレン吸着測定の条件
使用ガス:メチルアセチレン(Aldrich、製品番号:295493)
測定温度:−5℃
平衡条件のパラメータ:Tolerance=2
Equibration Time=3分
【0054】
図3は、化合物Aのメチルアセチレン吸着測定における、メチルアセチレンの圧力と吸着量との関係を示すグラフである。圧力を徐々に増加させる吸着過程と、圧力を徐々に減少させる脱着過程において、図中の矢印の順でメチルアセチレンの吸着量が変化した。以下、気体の吸着量及び脱着量を示す単位として「mL(STP)/g」を用いる。この単位は、各圧力における、吸着剤1gあたり吸着している気体の量を、0℃、1atmにおける気体の体積に換算して表現していることを意味する。吸着過程において、化合物Aのメチルアセチレン吸着量は、絶対圧80kPaのとき94mL(STP)/gであった。その後の脱着過程において、メチルアセチレンの吸着量は、絶対圧9.9kPaのとき53mL(STP)/gまで、絶対圧1.1kPaのとき32mL(STP)/gまで減少した。つまり、絶対圧80kPaから絶対圧9.9kPaまで減圧することで41mL(STP)/g(7.3質量%)、絶対圧80kPaから絶対圧1.1kPaまで減圧することで62mL(STP)/g(11質量%)のメチルアセチレンが化合物Aから脱着した。
【0055】
[比較例1]
和光純薬工業株式会社から購入したゼオライト4A(製品コード番号:267−00595)を用いた。このゼオライト4Aを350℃で15時間、加熱しながら真空乾燥した。その後、自動気体吸着測定装置(Quantachrome社製、商品名:AUTOSORB−1)を用いて、メチルアセチレン吸着測定を実施した。
メチルアセチレン吸着測定の条件
使用ガス:メチルアセチレン(Aldrich、製品番号:295493)
測定温度:25℃
平衡条件のパラメータ:Tolerance=0
Equibration Time=3分
【0056】
図4の11は、化合物Aのメチルアセチレン吸着測定における、メチルアセチレンの圧力と吸着量との関係を示すグラフである。圧力を徐々に増加させる吸着過程と、圧力を徐々に減少させる脱着過程において、図中の矢印の順でメチルアセチレンの吸着量が変化した。吸着過程において、ゼオライト4Aのメチルアセチレン吸着量は、絶対圧80kPaのとき77mL(STP)/gであった。その後絶対圧0.56kPaまで減圧したが、メチルアセチレン吸着量が著しく減少することは無かった。
【0057】
上記のゼオライト4Aを350℃で15時間、加熱しながら真空乾燥した。その後、自動気体吸着測定装置(Quantachrome社製、商品名:AUTOSORB−1)を用いて、プロパジエン吸着測定を実施した。
プロパジエン吸着測定の条件
使用ガス:プロパジエン(Synquest、製品番号:1300−1−03)
測定温度:25℃
平衡条件のパラメータ:Tolerance=0
Equibration Time=3分
【0058】
図4の12は、化合物Aのプロパジエン吸着測定における、プロパジエンの圧力と吸着量との関係を示すグラフである。圧力を徐々に増加させる吸着過程と、圧力を徐々に減少させる脱着過程において、図中の矢印の順でプロパジエンの吸着量が変化した。吸着過程において、ゼオライト4Aのプロパジエン吸着量は、絶対圧80kPaのとき95mL(STP)/gであった。その後、絶対圧0.73kPaまで減圧したが、プロパジエン吸着量が著しく減少することは無かった。
【0059】
[参考例1]
実施例1にて製造した化合物Aを120℃で15時間、加熱しながら真空乾燥した。その後、自動気体吸着測定装置(Quantachrome社製、商品名:AUTOSORB−1)を用い、N吸着測定を実施した。
吸着測定の条件
使用ガス:N(住友精化、グレード:ZERO−U)
測定温度:-196℃
平衡条件のパラメータ:Tolerance=2
Equibration Time=3分
【0060】
図5は、化合物AのN吸着測定における、Nの圧力と吸着量との関係を示すグラフである。化合物AのN吸着量は、絶対圧91kPaで4.5mL(STP)/g(0.56質量%)であった。これは、化合物Aは窒素を吸着する能力が著しく低いことを示している。
【0061】
以上の結果から、化合物Aは炭化水素を大量に吸着することが可能であるにも関わらず、窒素を吸着する能力が著しく低いことが証明された。つまり、本発明に係る配位高分子及び気体吸着剤は、窒素及び炭化水素を含む気体から炭化水素を選択的に回収するために有用なものであることが確認された。
【符号の説明】
【0062】
1:レイヤー部、2:レイヤー部1同士を架橋する配位子、5:ピラードレイヤー構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)の配位子と金属イオンとを含むピラードレイヤー構造を形成している、配位高分子。
【化1】


[一般式(1)中、X、X、X、X、X及びXはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、又はメチル基を示す。]
【請求項2】
、X、X、X、X及びXが水素原子である、請求項1に記載の配位高分子。
【請求項3】
前記金属イオンが、Mg、Ti、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnからなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属の二価イオンである、請求項1又は2に記載の配位高分子。
【請求項4】
前記金属イオンがCu2+又はZn2+である、請求項1又は2に記載の配位高分子。
【請求項5】
前記ピラードレイヤー構造が、下記化学式(2)の配位子と前記金属イオンとを含むレイヤー部を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の配位高分子。
【化2】

【請求項6】
炭化水素を含む気体を当該配位高分子に接触させて前記炭化水素を当該配位高分子に吸着させた後、当該配位高分子に対して5質量%以上の前記炭化水素を当該配位高分子から吸脱着させることが可能な、請求項1〜5のいずれか一項に記載の配位高分子。
【請求項7】
−196℃、絶対圧90kPaの条件下における窒素の吸着量が、当該配位高分子に対して1質量%以下である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の配位高分子。
【請求項8】
金属塩と一般式(1)の構造を部分構造として含む化合物とを溶媒中で混合するステップを備える、請求項1〜7のいずれか一項に記載の配位高分子の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の配位高分子を含む気体吸着剤。
【請求項10】
プレス成型によって、当該配位高分子を含む成型品を気体吸着剤として得るステップを備える、請求項9に記載の気体吸着剤の製造方法。
【請求項11】
請求項9に記載の気体吸着剤を備える気体貯蔵装置。
【請求項12】
請求項9に記載の気体吸着剤に炭化水素を接触させて、前記炭化水素を当該気体吸着剤に吸着させる、炭化水素を貯蔵する方法。
【請求項13】
前記炭化水素が炭素数3の炭化水素である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記炭化水素がメチルアセチレンまたはプロパジエンである、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
窒素及び炭化水素を含む気体を請求項9に記載の気体吸着剤に接触させて、当該気体吸着剤に前記炭化水素を吸着させるステップを備える、炭化水素を回収する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−189509(P2010−189509A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34055(P2009−34055)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】