説明

ピリチオンおよびピロール誘導体を含む殺生剤組成物

本発明は、1種またはそれより多くのピリチオン化合物、および、1種またはそれより多くの式Iで示されるピロール化合物のブレンドを含む殺生剤組成物を対象とし、ここで前記殺生剤組成物は銅を含まないか、または、銅含量が低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
発明の分野
本発明は、殺生剤組成物に関する。より具体的には、本発明は、微生物の増殖を予防または抑制する少なくとも1種の選択されたピリチオン化合物、および、少なくとも1種の選択されたピロール誘導体のブレンドを含む殺生剤組成物、および、このような殺生剤組成物の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
簡単な分野の説明
微生物の増殖または侵入の予防、抑制および処理に関する多くの組成物および配合物が当業界既知である。同様に、汚損生物の増殖または侵入の予防、抑制および処理のために特別に配合された多くの組成物およびコーティングがある。
【0003】
汚損生物は、水に晒される基板および物体にとって大きな問題を引き起こす。用語「汚損生物」は、硬質の汚損生物と軟質の汚損生物との両方を含む。硬質の汚損生物としては、フジツボ、軟体動物などが挙げられ、一方で軟質の汚損生物としては、藻類、菌類、および米国特許第5,712,275号(参照により本発明に含める)で列挙された生物が挙げられる。このような生物は、海水、淡水、汽水、下水、汚水、雨水などに晒される物体および基板にとって不断の問題を与えている。
【0004】
汚損生物は、あらゆるタイプの水分に晒される様々な種類の基板および物体上で成長するか、それらに侵入するか、または、それらに付着する。表面上で汚損生物が増殖または侵入すると、見た目が悪くなる。加えて、増殖によって、汚損生物が付着または侵入した基板および物体の使用においてある種の問題が生じる可能性がある。例えば、頻繁に起こる問題の一つは、船殻への硬質の汚損生物の付着である。このような生物は、船の表面がでこぼこになる原因となり、それにより船の速度が減少する。
【0005】
加えて、木材および木材製品も、汚損生物、シロアリ等のような微生物の増殖および侵入を受けることが多い。このような微生物の増殖および侵入により、木材および木材製品のそり、亀裂および劣化が起こる。その結果として、木材および木材製品の価値、見た目のよさ、および実用性が低下する。
【0006】
この問題に打ち勝つために、殺生剤を含むコーティングが開発された。有用であることが見出された殺生剤の例としては、トリブチリン化合物、ピリチオン化合物、オキサチアジン化合物、ピロール化合物、トリフェニルホウ素化合物、および、テルブチン(terbutyn)が挙げられる。
【0007】
ピリチオン化合物、および、選択されたピロール化合物は、それぞれ別個に知られており、殺生剤または防汚剤として用いられている。しかしながら、これら2種の化合物を組み合わせることは、当業界において知られていないし、明白でもない。ピリチオン化合物および選択されたピロール化合物の使用について教示している従来技術の参考文献の例としては、以下が挙げられる:
Ruggieroの米国特許第5,057,153号は、強化された殺菌効力を特徴とする改善された塗料または塗料ベース組成物に関する。この塗料は、ピリチオン塩および銅塩を含む殺生剤を含む。加えて、Farmer Jr.等の米国特許第5,246,489号において、塗料配合物中で銅ピリチオン殺生剤をその場で生成させる方法が開示されている。この特許の塗料および塗料ベースは、配合物中に存在する唯一の殺生剤としてピリチオン化合物を含む。
【0008】
Hani等の米国特許第5,098,473号は、塗料および塗料ベースに関し、より具体的には、塗料中に、亜鉛ピリチオンと亜酸化銅の殺生剤とを含む安定なゲル非含有の分散液を提供する方法に関する(米国特許第5,098,473号;5,112,397号;5,137,569号;5,185,033号;5,232,493号;5,298,061号;5,342,437号;PCT特許出願番号WO95/10568、および、EP0610251も参照)。
【0009】
French等の米国特許第4,957,658号は、塗料および塗料ベースに関し、より具体的には、ピリチオンおよび第二鉄イオンを含む塗料および塗料ベースの変色を少なくするための方法および組成物に関する。
【0010】
Davidson等の米国特許第4,399,130号は、ブタの滲出性表皮炎を治療または予防するための、有効量の少なくとも1種のピリジン−2−チオン−N−酸化物の金属塩の使用方法を説明している。
【0011】
Henderson等の米国特許第4,496,559号は、殺真菌剤および殺菌剤として使用するための2−セレノピリジン−N−酸化物の選択された誘導体を説明している。
【0012】
Trotz等の米国特許第4,565,856号は、ピリチオンを含むポリマーに関する。この特許で説明されているポリマーは、塗料および木材用防腐剤製品中の殺生剤として用いられる。
【0013】
Wedy等の米国特許第4,610,993号は、ウシの乳腺炎を治療または予防するために、有効量の少なくとも1種の選択されたピリジン−N−酸化物のジスルフィド化合物を投与する方法を説明している。
【0014】
欧州特許番号EP0746979は、汚損生物を防汚に有効な量の2−アリールピロール化合物に接触させることによる、水中の表面への汚損生物の付着を制御する、または、それと闘う方法を説明している。
【0015】
Kramer等の米国特許第6,069,189号は、選択されたピロール誘導体を含む防汚塗料を説明している。防汚塗料に包含される特定のピロール化合物としては、2−トリハロゲノメチル−3−ハロゲノ−4−シアノピロール、および、それらの誘導体が挙げられる。Kramer等は、これらの化合物がフジツボの侵入に対して特に有効であることを見出した。加えて、このKramer等の参考文献から、これらの化合物を添加しても、明るい色または薄い色の防汚塗料を作製することができることが見出された。
【0016】
PCT特許出願番号WO03/039256は、組成物の乾燥質量の総重量に基づき少なくとも3.5重量%の量の4−ブロモ−2−(4−クロロフェニル)−5−(トリフルオロメチル)−1H−ピロール−3−カルボニトリル、または、それらの塩を、その他の殺生剤と共に含む防汚組成物を説明している。このその他の殺生剤は、ベトキサジン(bethoxazin)、トリルフルアニド(tolylfluanide)、ジクロフアニド(dichlofuanide)、または、DCOITから選択される。
【発明の開示】
【0017】
当業界において進歩してはいるが、それでもなお必要なものは、広範にわたる微生物に対して有効であると予想され、さらに高い耐久性、且つ低い毒性を示す殺生剤組成物を含むコーティングである。理想を言えば、このようなコーティングおよび組成物は、容易に、且つ安価に生産されると予想される。本発明は、上記で考察された問題に対する答えであると考えられる。
【0018】
発明の簡単な要約
従って本発明の一形態は、1種またはそれより多くのピリチオン化合物、および、1種またはそれより多くの式Iで示されるピロール化合物を含む殺生剤組成物を対象とする:
【0019】
【化1】

【0020】
式中Xは、ハロゲン、CN、NO、または、S(O)であり;Yは、水素、ハロゲン、または、S(O)であり;Zは、ハロゲン、C〜Cハロアルキル、または、S(O)であり;nは、0、1または2の整数であり;Rは、C〜Cハロアルキルであり;Lは、水素またはハロゲンであり;MおよびQは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、C〜Cアルキル、C〜Cハロアルキル、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルキルチオ、C〜Cアルキルスルフィニル、C〜Cアルキルスルホニル、CN、NO、RCO、または、NRであるか、または、MおよびQが隣接する位置にあり、それらが結合している炭素原子と一緒になっている場合、MQは、構造−OCHO−、−OCFO−、または、−CH=CH−CH=CH−を示し;Rは、水素、C〜Cアルコキシアルキル、C〜Cアルキルチオアルキル、または、RCOであり;Rは、C〜Cアルキル、C〜Cハロアルキル、C〜Cアルコキシ、または、NRであり;Rは、水素、または、C〜Cアルキルであり;Rは、水素、C〜Cアルキル、または、RCOであり;Rは、水素、または、C〜Cアルキルであり;および、Rは、C〜Cアルキル、C〜Cハロアルキル、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルケニルオキシ、C〜Cハロアルコキシ、任意に1〜3個のC〜Cアルキル基で置換されたフェニル、ベンジル、フェノキシ、ベンジルオキシ、C〜Cアルキルカルボニルオキシ、C〜Cシクロアルキル、ナフチル、ピリジル、チエニル、または、フラニルであり、ここで、前記殺生剤組成物は銅を含まないか、または、銅含量が低い。
【0021】
本明細書において定義されるように、ハロゲンという用語はCl、Br、IまたはFを示し、ハロアルキルという用語は、1個のハロゲン原子〜2n+1個のハロゲン原子を有するあらゆるアルキル基C2n+1を示し、ここでハロゲン原子は同一であるか、または異なる。
【0022】
本発明のその他の形態は、有効な殺生作用を示す量の1種またはそれより多くのピリチオン化合物、および、1種またはそれより多くの式(I)で示されるピロール化合物を含む殺生剤組成物を含むコーティング組成物を対象とし、ここで、上述したように、前記殺生剤組成物は銅を含まないか、または、銅含量が低い。
【0023】
本発明のさらにその他の形態は、基板をコーティングする方法を対象とし、本方法は、基板に、上述のような1種またはそれより多くのピリチオン化合物、および、1種またはそれより多くの式(I)で示されるピロール化合物で構成される殺生剤組成物を含むコーティング組成物を塗布すること、および、基板上でコーティング組成物を乾燥させることを含む。
【0024】
本発明のさらにその他の形態は、本発明の殺生剤組成物を含むコーティング組成物、および、基板を含む、コーティングされた基板を対象とし、ここで前記基板は、木材、プラスチック、革、ビニル、および、金属からなる群より選択される。
【0025】
期待される本発明の利点の一つとしては、広範にわたる微生物に対する保護力が高まることが挙げられる。その他の本発明の期待される利点としては、木材および木材製品の防腐が挙げられる。加えて、本発明は、長期間持続し、低い毒性しか有さず、および、容易に、且つ安価に生産されることが期待される。
【0026】
発明の詳細な説明
用語「有効な殺生作用を示す量」は、本明細書および請求項で用いられる場合、基板への微生物の付着または増殖を減少させること、それらをなくすこと、または、それらを予防することに対して有効な作用を有する殺生剤組成物の量に関する。
【0027】
用語「微生物」は、本明細書および請求項で用いられる場合、藻類、菌類、バイオフィルム、昆虫、汚損生物(硬質の汚損生物および軟質の汚損生物の両方を含む)、または、木材、コンクリート、紙、プラスチック等のような材料に付着したり、その上で増殖したり、もしくはそれらにダメージを与える可能性があるあらゆる生物を含む。
【0028】
用語「銅を含まないか、または、銅含量が低い」は、本明細書および請求項で用いられる場合、その組成物が銅を含まないか、または、配合物の総重量に基づき、総重量パーセントで3重量%未満の銅しか含まれていないことを意味する。
【0029】
用語「木材製品」は、本明細書および請求項で用いられる場合、木材を含む材料、または、木材由来の材料を含み、このような材料としては、これらに限定されないが、パーティクルボード、チップボード、合板、ウェーハボード、合板材料、圧縮木材などが挙げられる。
【0030】
上記で示した通り、本発明の一形態は、上述のような1種またはそれより多くのピリチオン化合物、および、1種またはそれより多くの式(I)で示されるピロール化合物を含む殺生剤組成物である。以下で、これらそれぞれの成分をより詳細に考察する。
【0031】
ピリチオンは、一般的に広く知られており、塗料やパーソナルケア製品などの様々な用途で頻繁に用いられている。ピリチオンは優れた殺生剤であり、船舶用防汚塗料で確認することができる。加えて、ピリチオンのスズ、カドミウムおよびジルコニウムなどの金属塩は、シャンプーでの使用に適している。
【0032】
好ましくは、殺生剤組成物中のピリチオンは、以下の基本構造を有する化合物である:
【0033】
【化2】

【0034】
本発明での使用に適したピリチオン化合物としては、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオン、ナトリウムオマジン(Omadine(R))、ピリジン−N−酸化物ジスルフィド、オマジン(Omadine(R))ジスルフィド、2,2’−ジチオ−ピリジン−1,1−二酸化物、または、ピリジン−2−チオン−N−酸化物が挙げられる。このようなピリチオン化合物は、優れた殺生作用を有する。亜鉛および銅ピリチオンが最も好ましいが、なぜならこれらは、塩水への溶解性が低く、従ってその他のピリチオン塩よりも作用を長く持続させることができるためである。
【0035】
このような亜鉛および銅ピリチオン化合物は、Berstein等の米国特許第2,809,971号で説明されている方法によって製造することができる。類似の化合物およびそれらの製造方法を開示しているその他の特許としては、米国特許第2,786,847号;3,589,999号;および、3,773,770号が挙げられる。
【0036】
加えて本発明の殺生剤組成物は、上記で示したような1種またはそれより多くの式(I)で示されるピロール化合物を含む。好ましくは、このようなピロール化合物は、5位(さらに任意に1位)で置換された2−トリハロゲノメチル−3−ハロゲノ−4−シアノピロール誘導体であり、ここで2位および3位のハロゲンは、独立して、フッ素、塩素および臭素からなる群より選択され、5位における置換基は、C1〜8アルキル、C1〜8モノハロゲノアルキル、C5〜6シクロアルキル、C5〜6モノハロゲノシクロアルキル、ベンジル、フェニル、モノおよびジハロゲノベンジル、モノおよびジハロゲノフェニル、モノおよびジ−C1〜4アルキルベンジル、モノおよびジ−C1〜4アルキルフェニル、モノハロゲノモノ−C1〜4−アルキルベンジル、ならびに、モノハロゲノモノ−C1〜4アルキルフェニルからなる群より選択され、5位における置換基上のあらゆるハロゲンは、塩素および臭素からなる群より選択され、1位における任意の置換基は、C1〜4アルキル、および、C1〜4アルコキシC1〜4アルキルから選択される。本発明の方法および組成物に使用するのに適した2−アリールピロール化合物のなかでも特に、以下が挙げられる:4,5−ジクロロ−2−(アルファ,アルファ,アルファ−トリフルオロ−p−トリル)ピロール−3−カルボニトリル;4−ブロモ−5−クロロ−2−(p−クロロフェニル)ピロール−3−カルボニトリル;4−ブロモ−2−(p−クロロフェニル)−5−(トリフルオロメチル)ピロール−3−カルボニトリル;3,4−ジクロロ−2−(3,4−ジクロロフェニル)ピロール−5−カルボニトリル;4−クロロ−2−(p−クロロフェニル)−5−(トリフルオロメチル)ピロール−3−カルボニトリル;4,5−ジブロモ−2−(p−クロロフェニル)−3−(トリフルオロメチルスルホニル)ピロール;4−ブロモ−2−(3,5−ジクロロフェニル)−5−(トリフルオロメチル)ピロール−3−カルボニトリル;2−(p−クロロフェニル)−5−(トリフルオロメチル)−4−(トリフルオロメチルチオ)ピロール−3−カルボニトリル;4−ブロモ−2−(2,3,4−トリクロロフェニル)−5−(トリフルオロメチル)ピロール−3−カルボニトリル;4−ブロモ−2−(2,3,5−トリクロロフェニル)−5−(トリフルオロメチル)−ピロール−3−カルボニトリル;4−ブロモ−2−(p−クロロフェニル)−5−(アルファ,アルファ,ベータ,ベータ−テトラフルオロエチルチオ)ピロール−3−カルボニトリル;4−ブロモ−2−(m−フルオロフェニル)−5−(トリフルオロメチル)ピロール−3−カルボニトリル;2−(3,5−ジクロロフェニル)−5−(トリフルオロメチル)−4−(トリフルオロメチルチオ)ピロール−3−カルボニトリル;および、4−ブロモ−2−(p−クロロフェニル)−5−[(ベータ−ブロモ−ベータ,アルファ,アルファ−トリフルオロ)−エチルチオ]ピロール−3−カルボニトリル。最も好ましくは、式(I)は、4−ブロモ−2−(4−クロロフェニル)−5−(トリフルオロメチル)−1H−ピロール−3−カルボニトリルである。
【0037】
上記で考察された式(I)で示される化合物は、米国特許第5,310,938号、および、5,328,928号で説明されている方法によって製造することができる。
殺生作用の有効性を確実にするためには、上記ピリチオン化合物および式(I)で示される化合物は、好ましくは9:1〜1:9の重量比で本殺生剤組成物中に存在する。より好ましくは、上記ピリチオン化合物および式(I)で示される化合物は、3:2〜2:3の重量比で本殺生剤組成物中に存在する。最も好ましくは、上記ピリチオン化合物および式(I)で示される化合物は、3:1〜1:3の重量比で本殺生剤組成物中に存在する。
【0038】
本発明のその他の形態は、上記の殺生剤組成物を含むコーティング組成物を含む。本殺生剤組成物は、有効な殺生作用を示す量で本コーティング組成物中に存在する。有効な殺生作用を示す量は、コーティング組成物の総重量に基づき1%〜15重量%である。好ましくは、本殺生剤組成物は、コーティング組成物の総重量に基づき1%〜15重量%の量で存在する。より好ましくは、本殺生剤組成物は、コーティング組成物の総重量に基づき1%〜10重量%の量で存在する。最も好ましくは、本殺生剤組成物は、コーティング組成物の総重量に基づき3%〜8重量%の量で存在する。
【0039】
本殺生剤組成物に加えて、本コーティング組成物はさらに添加剤を含んでいてもよい。このような添加剤としては、これらに限定されないが、有機性の結合剤;加工添加剤;固定剤、例えばポリビニルアルコール;可塑剤;UV安定剤;色素;着色顔料;沈降防止剤;消泡剤;追加の防虫剤、例えば塩素化炭化水素、有機リン酸化合物など;追加の殺真菌剤および殺菌剤、例えばアルコール、アルデヒド、ホルムアルデヒド放出化合物など;フェノール類;有機酸、例えばプロピオン酸、安息香酸など;無機酸、例えばホウ酸;アミド類;アゾール類;複素環式化合物;N−ハロアルキルチオ化合物などが挙げられる。また、例えば船舶用防汚コーティングに使用するための、自己研磨型のアクリル系ポリマーまたはアクリル系コポリマーのようなポリマーを用いてもよい。好ましくは、これらのポリマーはスズ非含有である。本発明の組成物において有効であり得るアクリル系ポリマーおよびコポリマーの例としては、銅アクリラートポリマーまたはコポリマー、亜鉛アクリラートポリマーまたはコポリマー、シリルアクリラートポリマーまたはコポリマーなどが挙げられる。また、塗料およびコーティング分野において既知の追加のポリマーを本発明の組成物に用いてもよい。本コーティング組成物中に存在する添加剤は、使用者または製造元の選択、加えて本コーティング組成物の最終用途に依存すると予想される。
【0040】
本コーティング組成物は、本殺生剤組成物と添加剤とを船舶用塗料ベースのような塗料ベース材料に混ぜ合わせることによって形成される。このようなコーティング組成物を形成する方法は当業界公知である。このような方法の例としては、これらに限定されないが、ブレンド装置で本殺生剤組成物と添加剤とを混ぜ合わせることが挙げられる。ブレンド装置は、添加剤全体に本殺生剤組成物を均一に分散させると予想される。本コーティング組成物を形成する追加の方法は、当業者既知の通りに用いることができる。加えて、例えば水または溶媒ベースの配合物などの船舶用途に適するあらゆるベース塗料材料が、本発明のコーティング組成物で使用できる。このような船舶用塗料は当業界既知であり、例えば、米国特許第6,710,117号;4,981,946号;4,426,464号;4,407,997号;および、4,021,392号で示されるものがある。
【0041】
本コーティング組成物は、様々な形態をとることができる。そのような形態としては、これらに限定されないが、塗料(特に防汚塗料)、ワニス、ラッカー、洗剤、木材用シーラント、または、材料をコーティングするするために使用できるあらゆる形態が挙げられる。
【0042】
本発明のその他の形態は、保護しようとする材料に、上述のコーティング組成物を塗布することを含む方法を含む。本コーティング組成物は様々な方式で塗布が可能であり、このような方式としては、これらに限定されないが、材料にはけ塗りすること、材料に噴霧すること、材料の上をスポンジで拭うこと、材料に霧吹きすること、または、材料をくぐらせること、材料を浸漬すること、または、材料に染み込ませることが挙げられる。好ましくは、本コーティング組成物は、平坦になるように材料に塗布される。本コーティング組成物が材料に塗布されたら、乾燥させて、適切な材料へしっかり付着させると予想される。乾燥は、空気へ晒すことよって達成してもよいし、または、より速い乾燥を可能にする装置、例えば加熱ランプまたは熱風発生装置を用いることによって達成してもよい。
【0043】
本コーティング組成物で保護が可能な材料としては、木材、革、ビニル、プラスチック、コンクリート、しっくい、紙、および、微生物またはこのような微生物を含む水に晒される可能性があるその他のあらゆる材料が挙げられる。理想を言えば、このような材料は、本コーティング組成物を透過させて材料に付着させるのに十分な程度の多孔質であると予想される。
【0044】
本発明のその他の形態は、コーティングされた基板を含む。コーティングされた基板は、上述のような本コーティング組成物でコーティングされた材料を含む。本コーティング組成物を塗布することによって最も利益が得られると予想される基板としては、従来の船舶関連の基板、例えば船殻、船渠、埠頭、浮標、漁具、魚網、甲殻類用の罠かご、架橋、および、パイルが挙げられる。しかしながら、本コーティング組成物でコーティングされた基板としてはさらに、コンクリート、壁板、甲板、羽目板、または、水または微生物と常に、または頻繁に接触するその他のあらゆる基板も挙げられる。
【0045】
このような基板が本コーティング組成物でコーティングされると、殺生性の特性を示すことが期待される。殺生性の特性は、基板上または基板中への微生物の付着または増殖を予防、抑制または処理すると予想される。このような増殖の予防または処理によって、基板に微生物が含まれないような状態になると予想される。基板の見た目がいいことに加えて、微生物が含まれないことによって、その基板の使用が予定されている方式でそれらを使用することが可能になると予想される。
【0046】
加えて、本コーティング組成物でコーティングされた木材または木材製品は、微生物に対して耐性を示すことが期待される。本コーティング組成物を木材および木材製品に塗布することによって、例えば菌類、藻類、シロアリ等の微生物が、木材および木材製品の見た目のよさ、および、それらの使用を損ねることを防ぐことが期待される。このような塗布によって利益を得ると予想される商業的な、および住宅向けの製品ならびに構造としては、階段、床、キャビネット、甲板、埠頭、こけら板、パイル、フェンス、家具、郵便箱などが挙げられる。
【実施例】
【0047】
実施例
以下の実施例で本発明をさらに説明する。全ての部およびパーセンテージは、特に他の既定がない限り重量に基づく。全ての温度は、特に他の既定がない限りセルシウス度である。
【0048】
塗料の有効性の試験
4−ブロモ−2−(4−クロロフェニル)−5−(トリフルオロメチル)−1H−ピロール−3−カルボニトリル(以下の表ではピロールと称する)、および、亜鉛ピリチオン(ZPT)を含む一連の9種の塗料配合物は、2004年に、ノースカロライナコースト、ビューフォートのデューク大学(Duke University)によって、フジツボおよびその他の汚損生物に対するそれらの防汚有効性に関して試験された。実験室内で、樹脂ベースの配合物(酸化亜鉛充填剤を含むビニル樹脂/ウッドロジン)に様々な量の殺生剤を添加することによって配合物を作製した。配合物は、ZPTと組み合わせて、4−ブロモ−2−(4−クロロフェニル)−5−(トリフルオロメチル)−1H−ピロール−3−カルボニトリルを単独で含む。コントロールとして、溶媒ベースの酸化亜鉛コーティングを用いた。未処理のガラス繊維製ロッド(直径8mm×長さ11cm)に各配合物をディップコーティングし(配合物1種類あたりロッド5本)、海中で試験架台から吊り下げた(海面から1メートル下)。1ヶ月ごとにフジツボおよび苔虫類の数に関してロッドを評価した。4−ブロモ−2−(4−クロロフェニル)−5−(トリフルオロメチル)−1H−ピロール−3−カルボニトリルがZPTとブレンドされた配合物から、最も有望な結果が得られた(以下の表1を参照)。
【0049】
苔虫類は、極めて複雑な群体動物であり、これらは個々の「個虫」を構成して、全てが生きた組織によって連結されている。個虫は、石灰化したキチン質の組織からなるカップまたはボックス型の外骨格の中で保護される。石灰化の程度によって、構造全体がどれだけ硬質か、または軟質であるかが決まる。苔虫類は、ウニのような様々な草食動物、および、様々な軟体動物によって食べられる。
【0050】
この研究により、4−ブロモ−2−(4−クロロフェニル)−5−(トリフルオロメチル)−1H−ピロール−3−カルボニトリルが、フジツボのような硬質の汚損生物に有効な防汚剤であること、ZPTと適合すること、および、共に用いる殺生剤としてZPTを併用することによって、それが単独で示す性能よりも優れた性能を示すことが確認された。
【0051】
【表1】

【0052】
上記で本発明の特定の実施態様を参照しながら本発明を説明したが、当然ながら、本明細書において開示された発明概念から逸脱することなく多くの変更、改変および変動を施すことができる。従って、このような添付の請求項の本質および範囲に当てはまる全ての変更、改変および変動も包含することとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
殺生剤組成物であって:
A)1種またはそれより多くのピリチオン化合物、および、
B)1種またはそれより多くの式(I):
【化1】

[式中Xは、ハロゲン、CN、NO、または、S(O)であり;Yは、水素、ハロゲン、または、S(O)であり;Zは、ハロゲン、C〜Cハロアルキル、または、S(O)であり;nは、0、1または2の整数であり;Rは、C〜Cハロアルキルであり;Lは、水素またはハロゲンであり;MおよびQは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、C〜Cアルキル、C〜Cハロアルキル、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルキルチオ、C〜Cアルキルスルフィニル、C〜Cアルキルスルホニル、CN、NO、RCO、または、NRであるか、または、MおよびQが隣接する位置にあり、それらが結合している炭素原子と一緒になっている場合、MQは、構造−OCHO−、−OCFO−、または、−CH=CH−CH=CH−を示し;Rは、水素、C〜Cアルコキシアルキル、C〜Cアルキルチオアルキル、または、RCOであり;Rは、C〜Cアルキル、C〜Cハロアルキル、C〜Cアルコキシ、または、NRであり;Rは、水素、または、C〜Cアルキルであり;Rは、水素、C〜Cアルキル、または、RCOであり;Rは、水素、または、C〜Cアルキルであり;および、Rは、C〜Cアルキル、C〜Cハロアルキル、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルケニルオキシ、C〜Cハロアルコキシ、任意に1〜3個のC〜Cアルキル基で置換されたフェニル、ベンジル、フェノキシ、ベンジルオキシ、C〜Cアルキルカルボニルオキシ、C〜Cシクロアルキル、ナフチル、ピリジル、チエニル、または、フラニルである]
で示されるピロール化合物を含み、ここで前記殺生剤組成物は銅を含まないか、または、銅含量が低い、上記組成物。
【請求項2】
前記ピリチオン化合物が、銅以外のピリチオンの金属塩である、請求項1に記載の殺生剤組成物。
【請求項3】
前記銅以外のピリチオンの金属塩が、亜鉛ピリチオンおよび鉄ピリチオンからなる群より選択される、請求項2に記載の殺生剤組成物。
【請求項4】
前記重金属以外のピリチオンの金属塩が、亜鉛ピリチオンである、請求項3に記載の殺生剤組成物。
【請求項5】
前記式(I)で示されるピロール化合物が、5位(さらに任意に1位)で置換された2−トリハロゲノメチル−3−ハロゲノ−4−シアノピロール誘導体からなる群より選択され、ここで2位および3位のハロゲンは、独立して、フッ素、塩素および臭素からなる群より選択され、5位における置換基は、C1〜8アルキル、C1〜8モノハロゲノアルキル、C5〜6シクロアルキル、C5〜6モノハロゲノシクロアルキル、ベンジル、フェニル、モノおよびジハロゲノベンジル、モノおよびジハロゲノフェニル、モノおよびジ−C1〜4アルキルベンジル、モノおよびジ−C1〜4アルキルフェニル、モノハロゲノモノ−C1〜4−アルキルベンジル、ならびに、モノハロゲノモノ−C1〜4アルキルフェニルからなる群より選択され、5位における置換基上のあらゆるハロゲンは、塩素および臭素からなる群より選択され、1位における任意の置換基は、C1〜4アルキル、および、C1〜4アルコキシC1〜4アルキルから選択される、請求項1に記載の殺生剤組成物。
【請求項6】
前記ピロール化合物が、2−トリハロゲノメチル−3−ハロゲノ−4−シアノピロールである、請求項5に記載の殺生剤組成物。
【請求項7】
前記ピリチオン化合物および前記式Iで示される化合物が、9:1〜1:9の重量比で存在する、請求項1に記載の殺生剤組成物。
【請求項8】
前記ピリチオン化合物および前記式Iで示されるピロール化合物が、3:2〜2:3の重量比で存在する、請求項1に記載の殺生剤組成物。
【請求項9】
前記ピリチオン化合物および前記式Iで示されるピロール化合物が、3:1〜1:3の重量比で存在する、請求項1に記載の殺生剤組成物。
【請求項10】
銅アクリラートポリマーまたはコポリマー、亜鉛アクリラートポリマーまたはコポリマー、シリルアクリラートポリマーまたはコポリマー、および、それらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種のアクリル系ポリマーまたはコポリマーをさらに含む、請求項1に記載の殺生剤組成物。
【請求項11】
有効な殺生作用を示す量の殺生剤組成物を含むコーティング組成物であって:
A)1種またはそれより多くのピリチオン化合物;および、
B)1種またはそれより多くの式(I):
【化2】

[式中Xは、ハロゲン、CN、NO、または、S(O)であり;Yは、水素、ハロゲン、または、S(O)であり;Zは、ハロゲン、C〜Cハロアルキル、または、S(O)であり;nは、0、1または2の整数であり;Rは、C〜Cハロアルキルであり;Lは、水素またはハロゲンであり;MおよびQは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、C〜Cアルキル、C〜Cハロアルキル、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルキルチオ、C〜Cアルキルスルフィニル、C〜Cアルキルスルホニル、CN、NO、RCO、または、NRであるか、または、MおよびQが隣接する位置にあり、それらが結合している炭素原子と一緒になっている場合、MQは、構造−OCHO−、−OCFO−、または、−CH=CH−CH=CH−を示し;Rは、水素、C〜Cアルコキシアルキル、C〜Cアルキルチオアルキル、または、RCOであり;Rは、C〜Cアルキル、C〜Cハロアルキル、C〜Cアルコキシ、または、NRであり;Rは、水素、または、C〜Cアルキルであり;Rは、水素、C〜Cアルキル、または、RCOであり;Rは、水素、または、C〜Cアルキルであり;および、Rは、C〜Cアルキル、C〜Cハロアルキル、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルケニルオキシ、C〜Cハロアルコキシ、任意に1〜3個のC〜Cアルキル基で置換されたフェニル、ベンジル、フェノキシ、ベンジルオキシ、C〜Cアルキルカルボニルオキシ、C〜Cシクロアルキル、ナフチル、ピリジル、チエニル、または、フラニルである]
で示されるピロール化合物を含み、ここで前記殺生剤組成物は銅を含まないか、または、銅含量が低い、上記コーティング組成物。
【請求項12】
前記ピリチオン化合物が、銅以外のピリチオンの金属塩である、請求項11に記載のコーティング組成物。
【請求項13】
前記銅以外のピリチオンの金属塩が、銅ピリチオンおよび亜鉛ピリチオンからなる群より選択される、請求項12に記載のコーティング組成物。
【請求項14】
前記ピリチオンの金属塩が、亜鉛ピリチオンである、請求項13に記載のコーティング組成物。
【請求項15】
前記式(I)で示されるピロール化合物が、2−トリハロゲノメチル−3−ハロゲノ−4−シアノピロールである、請求項11に記載のコーティング組成物。
【請求項16】
前記有効な殺生作用を示す量が、前記コーティング組成物の総重量に基づき1%〜15重量%である、請求項11に記載のコーティング組成物。
【請求項17】
前記有効な殺生作用を示す量が、前記コーティング組成物の総重量に基づき2%〜10重量%である、請求項16に記載のコーティング組成物。
【請求項18】
前記有効な殺生作用を示す量が、前記コーティング組成物の総重量に基づき3%〜8重量%である、請求項17に記載のコーティング組成物。
【請求項19】
前記ピリチオン化合物および前記式Iで示される化合物が、9:1〜1:9の重量比で存在する、請求項11に記載のコーティング組成物。
【請求項20】
前記ピリチオン化合物および前記式Iで示されるピロール化合物が、3:2〜2:3の重量比で存在する、請求項11に記載のコーティング組成物。
【請求項21】
前記ピリチオン化合物および前記式Iで示されるピロール化合物が、3:1〜1:3の重量比で存在する、請求項11に記載のコーティング組成物。
【請求項22】
前記コーティング組成物が、塗料である、請求項11に記載のコーティング組成物。
【請求項23】
前記コーティング組成物が、ワニスである、請求項11に記載のコーティング組成物。
【請求項24】
前記コーティング組成物が、ラッカーである、請求項11に記載のコーティング組成物。
【請求項25】
前記コーティング組成物が、木材用シーラントである、請求項11に記載のコーティング組成物。
【請求項26】
銅アクリラートポリマーまたはコポリマー、亜鉛アクリラートポリマーまたはコポリマー、シリルアクリラートポリマーまたはコポリマー、および、それらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種のアクリル系ポリマーまたはコポリマーをさらに含む、請求項11に記載のコーティング組成物。
【請求項27】
基板をコーティングする方法であって:
基板に、請求項11に記載の前記コーティング組成物を塗布すること;および、
基板上で前記コーティング組成物を乾燥させること、
を含む、上記方法。
【請求項28】
前記基板が、木材、プラスチック、革、ビニル、および、金属からなる群より選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記基板が水に晒される、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
請求項11に記載のコーティング組成物;および、
基板、
を含み、ここで前記基板は、木材、プラスチック、革、ビニル、および、金属からなる群より選択される、コーティングされた基板。
【請求項31】
コーティング組成物であって:
前記コーティング組成物の総重量に基づき約2〜約4重量%の亜鉛ピリチオン化合物、および、前記コーティング組成物の総重量に基づき約2〜約5重量%の4−ブロモ−2−(4−クロロフェニル)−5−(トリフルオロメチル)−1H−ピロール−3−カルボニトリルを含む殺生剤組成物[ここで前記殺生剤組成物は、実質的に銅を含まないか、または、銅含量が低い];および、
船舶用塗料ベース[ここで前記亜鉛ピリチオン、および、前記4−ブロモ−2−(4−クロロフェニル)−5−(トリフルオロメチル)−1H−ピロール−3−カルボニトリルは、前記コーティング組成物中に約2.5:1〜約1:2の重量比で存在する]、
を含む、上記コーティング組成物。

【公表番号】特表2009−528356(P2009−528356A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−557319(P2008−557319)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際出願番号】PCT/US2007/004862
【国際公開番号】WO2007/103013
【国際公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(508154379)アーチ・ケミカルズ・インコーポレーテッド (4)
【Fターム(参考)】