説明

ピロプラスミドワクチン

本発明は、ピロプラスミド(Piroplasmid)タンパク質または該タンパク質の免疫原性断片、および該ピロプラスミドタンパク質または該免疫原性断片をコードする核酸に関する。さらに、本発明は、該核酸を含むcDNA断片、組換えDNA分子および生組換えキャリアーに関する。また、本発明は、該cDNA断片、組換えDNA分子および生組換えキャリアーを含む宿主細胞に関する。最後に、本発明は、ピロプラスミドタンパク質または該タンパク質の免疫原性断片を含むワクチン、そのようなワクチンの製造方法、ワクチン目的のそのようなタンパク質または断片の使用、および診断試験に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピロプラスミド(Piroplasmid)タンパク質または該タンパク質の免疫原性断片、ピロプラスミドタンパク質または該免疫原性断片をコードする核酸、該核酸を含むcDNA断片、組換えDNA分子および生組換えキャリアー、該cDNA断片、組換えDNA分子および生組換えキャリアーを含む宿主細胞、ピロプラスミドタンパク質または該タンパク質の免疫原性断片を含むワクチン、そのようなワクチンの製造方法、そのようなタンパク質または断片の使用、ならびに診断試験に関する。
【背景技術】
【0002】
バベシア症は、地理的に集中して生じる疾患である。この理由は、その病原体が、脊椎動物集団内に存在する寄生虫の或る保有体を吸血するマダニにより伝播されることにある。マダニが存在するところでのみ、バベシア症は生じうる。結局は、特に固有動物においては、該寄生虫は、有意な疾患を引き起こすことなく宿主と共存する。多くの場合、バベシア症が問題となるのは、遺伝的形質の同系交配および/またはバベシア症が流行している不慣れな環境への動物の輸送による人間の活動によるものである(Callow,L.L.およびDalgliesh,R.J.,1982,in:“Immunology of Parasitic Infections”,Cohen,S.およびWarren,K.S.編,p.475−526,Blackwell Scientific)。
【0003】
また、バベシア症は、免疫無防備状態のヒトに対してだけでなく通常のヒトに対しても、動物原性感染症因子としての脅威を有する(Grayら,2002,Int.J.Med.Microbiol.,vol.291,p.108−11)。
【0004】
天然において生じるバベシア症の疾患徴候は、通常、感染の7〜21日後に現れ始める。これらの症状には、発熱、食欲不振、うつ状態、貧血、ヘモグロビン尿症および急速に生じる虚弱が含まれる。過剰な流涙、唾液分泌および筋振戦が一般に生じる。末期的感染症においては神経徴候が生じることがあり、該疾患が治療されずに放置されると死に至りうる。凝固障害は赤血球粘性の増加を招く。その結果、微小血管系を通る血行が妨げられ、内臓の充血およびパック細胞容積(PCV)の減少が生じる。また、感染赤血球の破裂は多数の赤血球の喪失を引き起こす。これらの結果、いくつかの組織への酸素供給が妨げられ、ついで酸素欠乏による組織損傷が生じる。
【0005】
現在までに、バベシイダエ科の種は、以下のような獣医学的に重要なほとんどの哺乳類種に感染することが認められている(Kuttler,K.L.,in M.Ristic編:“Babesiosis of domestic animals and man”.CRC Press,Inc.,Boca Raton,FL,1988):ウシ(B.divergens,B.bovis,B.bigemina)、ブタ(B.trautmanni,B.perroncitoi)、ヒツジ(B.ovis,B.motasi)、ウマ(B.equi,B.caballi)、イヌ(B.canis,B.rossi,B.vogeli)およびネコ(B.felis,B.cati)。すべてのこれらの種においては、死または多少なりとも深刻な経済的損失(肉、乳、毛糸または子孫における質または量の低下)または健康状態の著しい低下が、バベシア感染の結果として直接的に、または二次感染の促進により引き起こされる。
【0006】
バベシアと関連深いのはタイレリア(Theileria)寄生虫である。これもピロプラスミダの分類群に属し、バベシアに対する多数の生物学的および疫学的関連性を示す。獣医学的に重要なよく知られているタイレリア種はT.parva、T.annulataおよびT.sergentiである。
【0007】
確立したバベシアまたはタイレリア感染を治療するための薬は存在し、例えば、イヌ、ウマおよびウシはジプロピオン酸イミドカルブで治療されうる。しかし、そのような感染は組織刺激による痛みを与える。さらに、それは、そのような抗寄生虫剤によく見られる欠点、すなわち、免疫記憶の形成の阻害、潜在的毒性および耐性の生成の可能性を有する。
【0008】
バベシア症およびタイレリア症は生ワクチンでのワクチン接種により抑制されうることが示されている(Jenkins,M.2001,Vet Parasitol.,vol.101,p.291−310における総説)。そのようなワクチンは、感染動物の赤血球を集めることにより製造される。すべてではないが幾つかのバベシア種に関しては、寄生虫の数を増加させるためのインビトロ赤血球培養が開発されている。ついで該動物または該培養からの感染赤血球(これは「スタビレート」としても公知である)を使用して動物にワクチン接種する。
【0009】
タイレリアのスタビレートも同様に得られる。実際には、有効なワクチンに対する需要が非常に大きいため、タイレリアスタビレートは感染マダニの唾液腺からも製造されている。
【0010】
そのような生寄生虫ワクチンの一般的欠点は、接種材料がほとんど制御されていないこと、その組成に大きなばらつきがあること、生物学的に安全でないこと、および全体的に、多数の実験動物の使用による方法が非倫理的であることである。また、ピロプラスミド寄生虫は非常に不安定であり、遊離酸素を避けなければならず、さもなければすぐに死んでしまう。
【0011】
あるいは、寄生虫に感染した赤血球自体をワクチン接種に使用するのではなく、感染宿主からの血清またはインビトロ培養の上清を使用する。感染赤血球のそのような包囲液体は、いわゆる可溶性寄生虫抗原(SPA)を含有する。これらの調製物の組成に関してはほとんど知られていない。防御活性は、赤血球への侵入の過程で残存した構造体である、血清または培地内のメロゾイト表面外皮の抗原の免疫能によるものであると示唆されている(Ristic,M.およびMontenegro−James,S.,1988,in:“Babesiosis of Domestic Animals and Man”,Ristic,M.編,p.163−190,CRC Press)。また、インビトロ培養中、多数の寄生虫が死亡し、それにより(内部)寄生虫抗原が培地内へ遊離する。
【0012】
そのようなSPA調製物は、必ずしも寄生虫に影響を及ぼさないものの感染の臨床的症状を十分に軽減する免疫応答を誘導しうる(SchettersおよびMontenegro−James,S.,1995,Parasitology Today,vol.11,p.456−462)。例えば、赤血球に感染したバベシア・カニス(Babesia canis)寄生虫のインビトロ培養の培養上清からのSPA(Pirodog(登録商標))は同種チャレンジ感染に対する免疫を誘導する(が、異種チャレンジ感染に対する免疫は誘導しない)。
【0013】
一般に、SPAに基づくワクチンは、生寄生虫ワクチンと同じ欠点を有する。すなわち、それはほとんど特徴づけられておらず、非常にばらつきがあり、生物学的安全性を確保するためには多くの注意点を要する。また、そのようなワクチンの製造は大規模化が非常に困難である。なぜなら、それは、寄生虫、赤血球および/または血清を得るために、感染、飼育および実験動物のサンプルからの回収を要するからである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ピロプラスミド(Piroplasmid)生物による感染の予防または改善のために、有効なワクチンにおいて働きうる、十分に特徴づけられており安全であり安定であるタンパク質およびその断片を、大規模化が容易な製造により提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
驚くべきことに、5つの新規ピロプラスミドタンパク質の1以上または該タンパク質の1以上の免疫原性断片を含むワクチンは全てのこれらの有利な特性を有することが、本発明において見出された。
【0016】
そのようなピロプラスミドタンパク質または該タンパク質の免疫原性断片をワクチン中で使用することにより、生寄生虫ワクチンおよびSPAワクチンの多数の欠点が本発明において克服されうる。そのようなタンパク質は十分に特徴づけられており、生物学的に安全であり、該産物は全生寄生虫より遥かに安定化されることが可能であり、その製造は容易に大規模化されうる。
【0017】
驚くべきことに、ピロプラスミドタンパク質または該タンパク質の免疫原性断片に対して産生した抗体は、宿主細胞内への寄生虫の侵入を有効に抑制して寄生虫の感染サイクルを妨げることが見出された。したがって、該タンパク質は侵入抑制抗原(IIA)と称される。
【0018】
ピロプラスミド寄生虫によるその宿主細胞への侵入の過程は寄生虫感染の確立において決定的に重要な段階の1つである。この段階を妨げる抗体の誘導によるこの段階での阻害により、宿主細胞内への寄生虫の初期侵入が抑制される。これは宿主における感染のレベルまたは疾患の臨床的症状、したがって疾患の重症化を予防または少なくとも軽減する。また、マダニがワクチン接種宿主を吸血した場合には、キャリアーとなるマダニが減少し、したがって環境における感染圧が低下するため、環境における疾患の更なる広がりが阻止または軽減される。
【0019】
ピロプラスミド寄生虫の侵入を抑制する抗体を与える防御免疫応答を誘導しうるピロプラスミドIIAは、ピロプラスミド寄生虫、増殖中の寄生虫の培養および感染細胞において、特異的抗血清により検出されうる。これらの特異的抗血清は、寄生虫またはその培養、感染細胞のライセートの1−Dおよび2−D(2次元)ウエスタンブロットにおいても、これらのIIAを認識する。
【0020】
ピロプラスミドIIAは発現系において発現されうる。このようにして発現されたタンパク質またはその断片は、特異的抗体または抗原特異的リンパ球の誘導によりピロプラスミド生物による感染後の疾患またはその臨床的徴候から哺乳動物を防御するワクチンを製剤化するために使用することが可能である。
【0021】
したがって、本発明は、配列番号2または4に示すアミノ酸配列に対して少なくとも70%、好ましくは75%、より好ましくは80、85、90、92、94、95、96、97、98、99または100%(その順で好ましくなる)の類似性を有するアミノ酸配列を含むことを特徴とするピロプラスミド(Piroplasmid)タンパク質、または該タンパク質の免疫原性断片を提供する。
【0022】
本発明はまた、配列番号6または8に示すアミノ酸配列に対して少なくとも70%、好ましくは75%、より好ましくは80、85、90、92、94、95、96、97、98、99または100%(その順で好ましくなる)の類似性を有するアミノ酸配列を含むことを特徴とするピロプラスミドタンパク質、または該タンパク質の免疫原性断片を提供する。
【0023】
本発明は更に、配列番号10に示すアミノ酸配列に対して少なくとも70%、好ましくは75%、より好ましくは80、85、90、92、94、95、96、97、98、99または100%(その順で好ましくなる)の類似性を有するアミノ酸配列を含むことを特徴とするピロプラスミドタンパク質、または該タンパク質の免疫原性断片を提供する。
【0024】
本発明のピロプラスミドタンパク質の典型例としては以下のものが挙げられる:
・配列番号2に示すアミノ酸配列を有する、バベシア・ボビス(Babesia bovis)からのピロプラスミドIIA番号1(BIIA1)、
・配列番号4に示すアミノ酸配列を有する、タイレリア・アヌラタ(Theileria annulata)からのピロプラスミドIIA番号1(TIIA1)、
・配列番号6に示すアミノ酸配列を有する、バベシア・ボビス(Babesia bovis)からのピロプラスミドIIA番号2(BIIA2)、
・配列番号8に示すアミノ酸配列を有する、タイレリア・アヌラタ(Theileria annulata)からのピロプラスミドIIA番号2(TIIA2)、
・配列番号10に示すアミノ酸配列を有する、バベシア・ボビス(Babesia bovis)からのピロプラスミドIIA番号3(BIIA3)。
【0025】
「タンパク質」なる語はアミノ酸の分子鎖を含むと意図される。タンパク質は、特定の長さ、構造または形状のものではなく、必要に応じて、例えばグリコシル化、アミド化、カルボキシル化、リン酸化または空間的フォールディングの変化によりインビボまたはインビトロで修飾されうる。とりわけ、ペプチド、オリゴペプチドおよびポリペプチドがタンパク質の定義に含まれる。タンパク質は生物および/または合成由来でありうる。
【0026】
本発明の「ピロプラスミドタンパク質」は、ピロプラスミド(Piroplasmid)の生物から入手可能なタンパク質である。
【0027】
好ましくは、ピロプラスミドタンパク質は、種バベシア・ジバージェンス(Babesia divergens)、バベシア・ボビス(B.bovis)、バベシア・モタシ(B.motasi)、バベシア・カバリ(B.caballi)、ボベシア・エクイ(B.equi)、バベシア・カニス(B.canis)、バベシア・ロッシ(B.rossi)、バベシア・ボゲリ(B.vogeli)、バベシア・フェリス(B.felis)、バベシア・カチ(B.cati)、バベシア・オビス(B.ovis)、バベシア・トラウトマンニ(B.trautmanni)、バベシア・ビゲミナ(B.bigemina)、バベシア・ミクロチ(B.microti)、バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)、タイレリア・アヌラタ(Theileria annulata)、タイレリア・パルバ(T.parva)、タイレリア・エクイ(T.equi)、タイレリア・フェリス(T.felis)、タイレリア・カニス(T.canis)およびタイレリア・セルゲンチ(T.sergenti)よりなる群から選ばれる生物から入手可能である。
【0028】
より好ましくは、ピロプラスミドタンパク質は、種バベシア・ボビス(B.bovis)、バベシア・カバリ(B.caballi)、ボベシア・エクイ(B.equi)、バベシア・カニス(B.canis)、バベシア・ロッシ(B.rossi)、バベシア・ビゲミナ(B.bigemina)、タイレリア・アヌラタ(Theileria annulata)、タイレリア・パルバ(T.parva)およびタイレリア・エクイ(T.equi)よりなる群から選ばれる生物から入手可能である。
【0029】
より一層好ましくは、ピロプラスミドタンパク質は、種バベシア・ボビス(B.bovis)およびタイレリア・アヌラタ(Theileria annulata)よりなる群から選ばれる生物から入手可能である。
【0030】
最も好ましくは、ピロプラスミドタンパク質はバベシア・ボビス(B.bovis)から入手可能である。
【0031】
現在の系統分類に関しては、これは、新たな洞察が新たな又は他の分類群への再分類をもたらすにつれて時代と共に変化しうると当業者は認識するであろう。しかし、これは関与生物のタンパク質レパートリーを変化させるものではなく、その分類のみを変化させるものであるため、そのような再分類された生物は本発明の範囲内であるとみなされる。これは、バベシイダエ科(Babesiidae)およびタイレリイダエ科(Theileriidae)のような密接に関連した科の場合に特に重要である。例えば、バベシア・エクイ(Babesia equi)は最近、タイレリア・エクイ(Theileria equi)として再分類された。
【0032】
抗原性となるためには、タンパク質の断片は或る長さのものである必要がある。すなわち、小さすぎる断片は、抗原提示細胞により、そのようなものとしてMHC分子と会合しうる抗原へとプロセシングされないであろう(その会合はリンパ球に対する適切な抗原提示に要求される)。エピトープを含む抗原断片は、MHC I受容体結合の場合には少なくとも8〜11アミノ酸、MHC II受容体結合の場合には少なくとも11〜15アミノ酸よりなる(例えば、R.N.Germain & D.H.Margulies,1993,Annu.Rev.Immunol.,vol.11,p.403−450,in:“The biochemistry and cell biology of antigen processing and presentation”に概説されている)。これより短いタンパク質断片はそれ自体では抗原性とならないであろう。したがって、当技術分野で公知の技術を用いて、それを担体、例えばKLH、BSAなどに結合させる必要がある。そのような短い断片は、結合している場合には、本発明の範囲内の免疫応答を十分に誘導しうる。
【0033】
本発明においては、「エピトープ」は、Tおよび/またはBリンパ球の抗原受容体と反応する、抗原性分子の部分である。したがって、本発明のエピトープは特異的Tおよび/またはB細胞を誘導および/または活性化して、これらの細胞が、感染または疾患の過程を妨げる免疫応答を引き起こす。このように、そのようなエピトープを介して、タンパク質は抗体を誘導し、および/または、免疫応答を引き起こしうる。
【0034】
「免疫原性断片」は、ピロプラスミドタンパク質に対する免疫応答を誘導する能力を有する該ピロプラスミドタンパク質のエピトープ含有抗原性断片であると理解される。ただし、そのような抗体は侵入の過程を妨げうる。そのような免疫原性断片をどのようにして見出しうるかを以下に説明する。
【0035】
本発明のピロプラスミドタンパク質の免疫原性断片は、本発明のピロプラスミドタンパク質のアミノ酸配列から選ばれる少なくとも10アミノ酸を含む。
【0036】
好ましくは、そのような断片は、本発明のピロプラスミドタンパク質のアミノ酸配列から選ばれる12、15、20、30、40、50、75、100、150、200または300アミノ酸(その順で好ましくなる)を含む。
【0037】
例えば、本発明のピロプラスミドタンパク質の免疫原性断片は、N末端シグナル配列および/またはC末端配列を欠くタンパク質の部分により形成される。他の断片は、例えば、ピロプラスミドIIAタンパク質からの特異的エピトープを含むものである。そのようなエピトープは、後記で大まかに説明する方法により決定することが可能である。すべてのそのような免疫原性断片は本発明の範囲内である。
【0038】
本発明のピロプラスミドタンパク質の免疫原性断片およびエピトープの同定は、種々の直接的な技術、例えば、いわゆるPEPSCAN法、あるいは公知断片および/またはエピトープとの比較を行うコンピューターアルゴリズムにより容易に行うことが可能である。
【0039】
PEPSCAN法(WO 84/03564およびWO 86/06487およびH.Geysenら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1984,vol.81,p.3998−4002およびJ.of Immunol.meth.1987,vol.102,p.259−274)は、タンパク質の免疫決定基の検出のための、実施が容易で迅速で十分に確立された方法である。それは、研究中のタンパク質と進行的(progresively)に重複する一連のペプチド断片の合成、およびそれに続く、該タンパク質に対する特異的抗体でのこれらのポリペプチドの試験により、これらのうちのどれがTおよび/またはBリンパ球の抗原受容体に結合しうるかを同定することを含む。本発明のタンパク質に対するそのような抗体は、当技術分野でよく知られた技術を用いてポリクローナルまたはモノクローナル抗体を製造することにより得ることが可能である。
【0040】
特定のタンパク質断片を、公知エピトープとのその配列的および/または構造的合致に基づいて、免疫学的に重要なエピトープであると特定するためのコンピューターアルゴリズムの使用も、よく知られた技術である。これらの領域の決定は、HoppおよびWoods(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1981,vol.78,p.3824−3828)による親水性基準とChouおよびFasman(Advances in Enzymology 1987,vol.47,p.45−148および米国特許第4,554,101号)による二次構造態様との組合せに基づいて行うことが可能である。同様に、ベルゾフスキー(Berzofsky)の両親媒性基準(Science 1987,vol.235,p.1059−1062および米国特許出願NTIS US07/005,885)を用いて、コンピューターにより、タンパク質のアミノ酸配列から免疫原性エピトープを予測することが可能である。これらの方法の使用の概要はShan Lu(一般的原理:Tibtech 1991,vol.9,p.238−242)、Lu(総説:Vaccine 1992,vol.10,p.3−7)およびBerzofsky(HIVエピトープ;1991,The FASEB Journal,vol.5,p.2412−2418)に見出される。
【0041】
これらの方法の使用の有効性の例示はH.Margalitら(J.of Immunol.1987,vol.138,p.2213−2229)により公開されており、該著者は、そのような方法を用いたT細胞エピトープの予測における75%の成功率を記載している。さらにもう1つの実証は、実施例1第1.1.5節に示すとおり、BIIA1およびBIIA2からの6つの抗原ペプチドの予測の成功である。
【0042】
ついで、前記方法を用いて見出されたエピトープが侵入過程を実際に妨げうるかどうかを判定しなければならない。しかし、これは、簡便なインビトロ侵入抑制実験において非常に迅速かつ容易に行うことが可能である。そのような実験は実施例1.1.11に記載されている。
【0043】
本発明のタンパク質に対するアミノ酸配列の類似性(%)は、配列番号2、4,6、8または10の完全長アミノ酸配列に対するアミノ酸アライメントにより決定しなければならない。
【0044】
本発明のタンパク質に対する類似性(%)は、www.ncbi.nim.nih.gov/blast/bl2seq/bl2.htmlにおいて見出されうるサブプログラム「BlastP」(T.Tatusova & T.Madden,1999,FEMS Microbiol.Letters,vol.174,p.247−250)を選択することにより、コンピューターアルゴリズム「BLAST 2 SEQUENCES」を使用して決定しなければならない。使用する比較マトリックスは「Blosum62」であり、デフォルトパラメーター:オープンギャップペナルティ:11、伸長ギャップペナルティ:1およびギャップx ドロップオフ:50を使用する。
【0045】
このプログラムは、「同一性」と同じであるアミノ酸の割合(%)、および「陽性」と類似しているアミノ酸の割合(%)を列挙している。「類似」アミノ酸は、同一であるアミノ酸および等価であるアミノ酸であり、「等価」アミノ酸については後記で説明する。
【0046】
特定のピロプラスミドタンパク質に関しては、ピロプラスミドの個々の株または種に関連した該タンパク質間の自然変異が存在すると理解されるであろう。これらの変異は全配列におけるアミノ酸の相違により、あるいは該配列におけるアミノ酸の欠失、置換、挿入、逆位または付加により示されうる。生物学的および免疫学的活性を実質的に変化させないアミノ酸置換は、例えばNeurathら(1979,in:“The Proteins”,Academic Press New York)により記載されている。関連アミノ酸間のアミノ酸置換または進化において頻繁に生じている置換としては、とりわけ、Ser/Ala、Ser/Gly、Asp/Gly、Asp/Asn、Ile/Valが挙げられる(Dayhof,M.D.,1978,“Atlas of protein sequence and structure”,Nat.Biomed.Res.Found.,Washington D.C.vol.5,suppl.3を参照されたい)。他の一般的なアミノ酸置換には、Asp/Glu、Thr/Ser、Ala/Gly、Ala/Thr、Ser/Asn、Ala/Val、Thr/Phe、Ala/Pro、Lys/Arg、Leu/lle、Leu/ValおよびAla/Gluが含まれる。そのような関連および一般的置換アミノ酸は「等価」と称される。この情報に基づき、LipmanおよびPearsonは、迅速かつ高感度なタンパク質比較(Science 1985,vol.227,p.1435−1441)およびタンパク質間の機能的類似性の決定のための方法を開発した。本発明の典型的な実施形態のそのようなアミノ酸置換ならびに欠失および/または挿入を有する変異は、生じるタンパク質が、ピロプラスミド寄生虫の増殖を抑制する免疫応答、例えば、ピロプラスミド寄生虫の侵入を抑制する抗体を誘導する能力を保有している限り、本発明の範囲内である。本発明の或るピロプラスミドタンパク質のアミノ酸配列内のそのような変異は「生物学的または等価ホモログ」とみなされ、すべて本発明の範囲内である。
【0047】
これは、本発明のピロプラスミドタンパク質が、異なる種のピロプラスミド種から単離された場合に、例えば配列番号2、4、6、8または10に示すアミノ酸配列に対して70%まで低下する類似性を有しうる一方、示されている実施例における同じ特性(ピロプラスミド寄生虫の侵入を抑制する抗体を誘導しうる特性)を有する同じタンパク質に尚も相当することを説明するものである。
【0048】
本発明のピロプラスミドタンパク質をそれらの間で比較すると、異なるピロプラスミド生物から得た本発明のピロプラスミドタンパク質は、典型的には、50%を超えるアミノ酸類似性を有する。そのようなタンパク質は、異なるバベシア種から得られた場合には、典型的には85%を超えるアミノ酸類似性を有し、そのようなタンパク質は、バベシア・ボビス(B.bovis)からの異なる分離体から得られた場合には、典型的には、95%を超えるアミノ酸類似性を有する。
【0049】
本発明のピロプラスミドタンパク質の好ましい製造方法は、遺伝子操作技術および組換え発現系を用いることによるものである。これらは、核酸、cDNA断片、組換えDNA分子、生組換えキャリアーおよび/または宿主細胞の使用を含みうる。
【0050】
したがって、本発明のもう1つの態様は、本発明のピロプラスミドタンパク質または該タンパク質の免疫原性断片をコードすることを特徴とする核酸に関する。
【0051】
1つの実施形態においては、本発明の核酸は、配列番号1、3、5、7または9に示す核酸配列を含む。
【0052】
「核酸」なる語はデオキシまたはリボ核酸の分子鎖を含むと意図される。核酸は特定の長さのものではなく、したがって、DNAおよび/またはRNAよりなるポリヌクレオチド、遺伝子、オープンリーディングフレーム(ORF)、プローブ、プライマー、リンカー、スペーサーおよびアダプターは核酸の定義に含まれる。核酸は生物由来および/または合成由来でありうる。核酸は一本鎖または二本鎖形態でありうる。一本鎖はセンスまたはアンチセンス配向でありうる。また、修飾されたRNAまたはDNAも該定義に含まれる。核酸の塩基の修飾を行うことが可能であり、イノシンのような塩基を含有させることが可能である。他の修飾は、例えばバックボーンの修飾を含みうる。
【0053】
「コード(する)」なる語は、とりわけ、正しい環境に置かれた場合の転写および/または翻訳による、タンパク質の発現の可能性の提供を含むと意図される。
【0054】
本発明の核酸は、本発明のピロプラスミドタンパク質をコードするか、または該タンパク質の免疫原性断片をコードする。
【0055】
本発明の核酸は30ヌクレオチドの最小長を有する。好ましくは、本発明の核酸は40、50、100、250、500、1000または1500ヌクレオチド(その順で好ましくなる)を含む。
【0056】
本発明の核酸は、例えば、N末端シグナル配列および/またはC末端配列を欠く本発明のピロプラスミドタンパク質をコードする核酸である。他の核酸は、ピロプラスミドタンパク質の特異的エピトープをコードする配列を含みうる。そのような核酸はすべて、本発明の範囲内である。
【0057】
以下の配列は本発明の核酸から除かれる:
・BIIA1(配列番号1)に関して、EST配列:
bovis−11e05.plc、
bovis−344e09.qlc、
bovis−384f06.qlc、
bovis−261d05.qlc、
bovis−5e5.plc、
bovis−373g01.qlc、
bovis−418b06.qlc、
bovis−375d02.qlc、
bovis−407d03.qlc、
bovis−284−f07.qlc、
・BIIA1(配列番号1)に関して、合体コンティグ:
Bbovis.CONTIG.1029、
Bbovis.CONTIG.227、
・BIIA2(配列番号5)に関して、EST配列:
bovis−417g12.qlc、
bovis−376a10.qlc、
・TIIA2(配列番号7)に関して、合体コンティグ:
gnl|Sanger 5874|Contig1548、
・TIIA1(配列番号3)に関して、合体コンティグ:
gnl|Sanger 5874|Contig1。
【0058】
BIIA1およびBIIA2に関するESTおよびコンティグ配列はインターネットウェブページ:www.sanger.ac.uk/projects/b bovis/から入手可能である。
【0059】
TIIA1およびTIIA2に関するコンティグは、インターネットページhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/sutils/genom tree.cgi?organism=eukからApicomplexaを選択することによりNCBI BLASTサーバーから入手可能である。
【0060】
本発明の核酸間の同一性(%)は、www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/bl2seq/bl2.html.において見出されうるサブプログラム「BlastN」(T.Tatusova & T.Madden,1999,FEMS Microbiol.Letters,vol.174,p.247−250)を選択することにより、コンピュータープログラム「BLAST 2 SEQUENCES」を使用して決定される。使用するパラメーターはデフォルトパラメーター:マッチに関するリウォード:+1;ミスマッチに関するペナルティ:−2;オープンギャップペナルティ:5;伸長ギャップペナルティ:2;およびギャップx ドロップオフ:50である。前記のBlastPプログラムの出力とは異なり、BlaxtNプログラムは類似性を一覧せず、同一性のみを一覧し、同一であるヌクレオチドの%が「同一性」として示される。
【0061】
多数の異なる核酸が1つの同じタンパク質をコードしうることは当技術分野においてよく知られている。これは、分子生物学において「ゆらぎ」または「遺伝暗号の縮重」として公知のものにより生じ、この場合、mRNAのいくつかのコドンまたはトリプレットが、翻訳中にリボソーム内で伸長しつつあるアミノ酸の鎖に同一アミノ酸を結合させる。それは、アミノ酸をコードする各トリプレットの第2塩基および特に第3塩基において最もよく見られる。この現象は、同じタンパク質を尚もコードする2つの異なる核酸に関して、約30%の非相同性を与えうる。したがって、約70%のヌクレオチド配列同一性を有する2つの核酸は1つの同じタンパク質を尚もコードしうる。
【0062】
或る核酸配列が本発明の核酸配列であるか否かを判定するためのもう1つのアプローチは、その或る核酸配列が、配列番号1、3、5、7および9に記載されているヌクレオチド配列のいずれかにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするかどうかの問題に関連している。核酸配列が、配列番号1、3、5、7および9にに記載のヌクレオチド配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする場合には、それは本発明の核酸であるとみなされる。
【0063】
ストリンジェントな条件の定義はMeinkothおよびWahl(1984,Anal.Biochem.,vol.138,p.267−284)の融解温度Tmに関する式:
Tm=[81.5℃+16.6(logM)+0.41(%GC)−0.61(%ホルムアミド)−500/L]−1℃/1%ミスマッチ
から導かれる。
【0064】
この式において、Mは一価カチオンのモル濃度であり、%GCはDNA中のグアノシンおよびシトシンヌクレオチドの割合(%)であり、Lは塩基対におけるハイブリッドの長さであり、ミスマッチは同一マッチの欠如である。
【0065】
ストリンジェントな条件は、核酸配列またはその断片が、配列番号1、3、5、7および9のいずれかに記載されている核酸配列に対して30%のミスマッチを有する(すなわち、それらが70%同一であるに過ぎない)場合に、それらが尚もハイブリダイズする条件である。
【0066】
本発明のピロプラスミドタンパク質をコードする核酸はピロプラスミドのメンバー種から得ることが可能である。
【0067】
しかし、より好ましい実施形態においては、本発明のピロプラスミドタンパク質または該タンパク質の免疫原性断片をコードする核酸は、それらが、種バベシア・ジバージェンス(Babesia divergens)、バベシア・ボビス(B.bovis)、バベシア・モタシ(B.motasi)、バベシア・カバリ(B.caballi)、ボベシア・エクイ(B.equi)、バベシア・カニス(B.canis)、バベシア・ロッシ(B.rossi)、バベシア・ボゲリ(B.vogeli)、バベシア・フェリス(B.felis)、バベシア・カチ(B.cati)、バベシア・オビス(B.ovis)、バベシア・トラウトマンニ(B.trautmanni)、バベシア・ビゲミナ(B.bigemina)、バベシア・ミクロチ(B.microti)、バベシア・ギブソニ(B.gibsoni)、タイレリア・アヌラタ(Theileria annulata)、タイレリア・パルバ(T.parva)、タイレリア・エクイ(T.equi)、タイレリア・フェリス(T.felis)、タイレリア・カニス(T.canis)およびタイレリア・セルゲンチ(T.sergenti)よりなる群から選ばれる生物から入手可能であることにより特徴づけられる。
【0068】
より好ましくは、該核酸は、種バベシア・ボビス(B.bovis)、バベシア・カバリ(B.caballi)、ボベシア・エクイ(B.equi)、バベシア・カニス(B.canis)、バベシア・ロッシ(B.rossi)、バベシア・ビゲミナ(B.bigemina)、タイレリア・アヌラタ(Theileria annulata)、タイレリア・パルバ(T.parva)およびタイレリア・エクイ(T.equi)よりなる群から選ばれる生物から入手可能である。
【0069】
種が新たな種として分類学的に再分類または記載される可能性は前記のとおりである。これは生物のゲノムを変化させるものではないため、そのような再分類された生物も本発明の範囲内である。
【0070】
非哺乳類ピロプラスミドからのピロプラスミドタンパク質、該タンパク質の免疫原性断片およびそのようなピロプラスミドタンパク質またはその断片をコードする核酸も、本発明のピロプラスミドタンパク質の遺伝子およびタンパク質の高い保存性のため、本発明の範囲内に含まれる。そのような関連タンパク質またはそれらの遺伝子はパラログまたはオルソログと称されうる。
【0071】
本発明のピロプラスミドタンパク質をコードする核酸は、Sambrook & Russell:“Molecular cloning:a laboratory manual”(2001,Cold Spring Harbour Laboratory Press;ISBN:0879695773)のような標準的な参考書に詳細に記載されており当業者によく知られた標準的な分子生物学技術により入手、操作および発現されうる。1つのそのようなタイプの操作は、当技術分野で公知の技術により寄生虫または寄生虫感染細胞もしくは生物から単離されうるRNA、好ましくはmRNAからcDNA断片を合成することである。
【0072】
したがって、もう1つの態様においては、本発明は本発明のcDNA断片に関する。
【0073】
逆転写によりcDNA断片を得るための好ましい方法はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術によるものである。PCRを行うための標準的な技術およびプロトコールは、例えば、C.Dieffenbach & G.Dveksler:“PCR primers:a laboratory manual”(1995,CSHL Press,ISBN 879694473)に詳細に記載されている。
【0074】
好ましい実施形態においては、本発明は、機能的に連結されたプロモーターの制御下にある本発明の核酸または本発明のcDNA断片を含む組換えDNA分子に関する。
【0075】
本発明の組換えDNA分子を構築するためには、好ましくはDNAプラスミドを使用する。そのようなプラスミドは、例えば、DNAインサートの量を増加させるために、およびプローブとして、および更なる操作用の手段として有用である。クローニング用のそのようなプラスミドの具体例としては、pBR、pUCおよびpGEM系列のプラスミドが挙げられ、これらはすべて、いくつかの商業的供給業者から入手可能である。
【0076】
当技術分野でよく知られた技術を用いて、本発明のピロプラスミドタンパク質または該タンパク質の免疫原性断片をコードする核酸を別々のプラスミド内にクローニングし、修飾して、所望のコンホメーションを得ることが可能である。しかし、改善されたクローニングまたは発現のために、それらを1つの構築物に合体させることも可能である。
【0077】
本発明のピロプラスミドタンパク質またはその免疫原性断片をコードするコード配列に対する修飾は、例えば、制限酵素消化、部位特異的突然変異またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術により行うことが可能である。
【0078】
タンパク質の精製もしくは検出または発現レベルの改善のために、追加的な核酸を付加することが可能である。これは、ピロプラスミドタンパク質をコードするのに要する配列より大きいcDNA断片または組換えDNA分子内に含まれる最終的な核酸を与えうる。そのような追加的要素がインフレームで挿入された場合には、これらは、発現されるピロプラスミドタンパク質の構成部分となる。そのような融合タンパク質も本発明の範囲内である。
【0079】
核酸、cDNA断片または組換えDNA分子の発現のための必須要件は、これらが転写調節配列に機能しうる形で連結されていて、これが該核酸、cDNAまたは組換えDNAの転写を制御しうることである。転写調節配列は当技術分野でよく知られており、とりわけ、プロモーターおよびエンハンサーを含む。プロモーターの選択は、使用する発現系において該プロモーターが機能的である限り、遺伝子転写を指令しうる任意の真核性、原核性またはウイルス性プロモーターに拡張されることが当業者に明らかである。
【0080】
より好ましい実施形態においては、本発明は、本発明の核酸または本発明のcDNA断片(該核酸または該cDNA断片は、機能的に連結されたプロモーターの制御下にある)または本発明の組換えDNA分子を含む生組換えキャリアーに関する。
【0081】
そのような生組換えキャリアー(live recombinant carrier)(LRC)は、例えば、追加的な遺伝情報(この場合には、本発明のピロプラスミドタンパク質またはその免疫原性断片をコードする核酸、cDNAまたは組換えDNA分子)がクローニングされている微生物、例えば細菌、寄生虫およびウイルスである。そのようなLRCを接種した標的哺乳類は、該キャリアーの免疫原に対してだけでなく異種タンパク質または免疫原性断片(それに関する遺伝暗号が該LRC内に追加的にクローニングされているもの、例えば、本発明のピロプラスミドタンパク質またはその免疫原性断片)に対しても免疫応答を産生するであろう。
【0082】
細菌LRCの一例として、当技術分野で公知の弱毒化サルモネラ(Salmonella)株が魅力的に使用されうる。
【0083】
あるいは、生組換えキャリアー寄生虫は、とりわけ、Vermeulen,A.N.(Int.Journ.Parasitol.1998,vol.28,p.1121−1130)により記載されている。
【0084】
核酸を標的細胞内に輸送する手段として、LRCウイルスを使用することが可能である。また、生組換えキャリアーウイルスはベクターウイルスとも称される。ベクターとしてしばしば使用されるウイルスとしては、ワクシニアウイルス(Panicaliら 1982,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,vol.79,p.4927)、ヘルペスウイルス(EP 0473210−A2)およびレトロウイルス(Valerio,D.ら 1989,in:Baum,S.J.,Dicke,K.A.,Lotzova,E.およびPluznik,D.H.(編),“Experimental Haematology today”,Springer Verlag,New York:pp.92−99)が挙げられる。
【0085】
本発明の挿入された核酸、cDNAまたは組換えDNAの発現を宿主動物において誘導しうる選択されたLRC細菌、寄生虫またはウイルスのゲノム内に本発明の組換え核酸分子を導入するためには、当技術分野でよく知られたインビボ相同組換えの技術を用いることが可能である。
【0086】
発現用の宿主細胞としては、細菌、酵母、真菌、昆虫および脊椎動物細胞発現系が非常に頻繁に使用される。そのような発現系は当技術分野でよく知られており、一般に入手可能であり、例えばInvitrogen(the Netherlands)から商業的に入手可能である。
【0087】
したがって、より一層好ましい実施形態においては、本発明は、本発明の核酸、本発明のcDNA断片(該核酸または該cDNA断片は、機能的に連結されたプロモーターの制御下にある)、本発明の組換えDNA分子または本発明の生組換えキャリアーを含む宿主細胞に関する。
【0088】
本発明のピロプラスミドタンパク質の発現に使用する宿主細胞は、ピロプラスミドタンパク質をコードする配列を発現させるための細菌由来プラスミドまたはバクテリオファージと組合された、例えば大腸菌(Escherichia coli)、バシラス・サチリス(Bacillus subtilus)およびラクトバシラス種(Lactobacillus sp)またはカウロバクター・クレセンツス(Caulobacter crescentus)などの細菌に由来する細胞でありうる。また、宿主細胞は、真核生物由来であることが可能であり、例えば、酵母特異的ベクター分子と組合された酵母細胞、あるいはベクターまたは組換えバキュロウイルスと組合された昆虫細胞(Luckowら,1988,Bio−technology,vol.6,47−55)、例えばTi−プラスミドに基づくベクターまたは植物ウイルスベクター(Barton,K.A.ら,1983,Cell,vol.32,p.1033)と組合された植物細胞、あるいは同様に適当なベクターまたは組換えウイルスと組合されたHela細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、クランデル・フェリン腎細胞(Crandell Feline Kidney−cells)などの哺乳類細胞などの高等真核細胞でありうる。
【0089】
これらの発現系についで、植物細胞または寄生虫(寄生生物)に基づく発現系が、魅力的な発現系である。寄生虫発現系は、例えばフランス国特許出願公開番号2 714 074およびUS NTIS公開番号US08/043109(Hoffman,S. & Rogers,W.,1993)に記載されている。生物学的用途のためのポリペプチドの植物細胞発現系は、例えばR.Fischerら(Eur.J.of Biochem.1999,vol.262,p.810−816)およびJ.Larrickら(Biomol.Engin.2001,vol.18,p.87−94)に記載されている。
【0090】
発現は、いわゆる無細胞発現系において行うことも可能である。そのような系は、その個々の系において機能するプロモーターに機能しうる形で連結された適当な組換え核酸の発現のためのすべての必須因子を含む。具体例としては、大腸菌(E.coli)ライセート系(Roche,Basel,Switzerland)またはウサギ網状赤血球ライセート系(Promega corp.,Madison,USA)が挙げられる。
【0091】
本発明のピロプラスミドタンパク質または該タンパク質の免疫原性断片はワクチンの製造に非常によく適している。そのようなタンパク質または断片は、寄生虫から、あるいはピロプラスミド寄生虫に感染した動物または細胞から得ることが可能である。しかし、それより遥かに簡便なのは、本発明のピロプラスミドタンパク質または該タンパク質の免疫原性断片をコードする核酸を発現系において使用することである。この後、産生したタンパク質または断片を集め、本発明のピロプラスミドタンパク質または該タンパク質の免疫原性断片を製薬上許容される担体と混合することにより、これらをタンパク質サブユニットワクチンに製剤化する。
【0092】
したがって、本発明の更にもう1つの態様は、本発明のタンパク質もしくは該タンパク質の免疫原性断片、本発明の核酸、cDNA断片、組換えDNA分子、生組換えキャリアーもしくは宿主細胞またはそれらの組合せと製薬上許容される担体とを含むワクチンに関する。
【0093】
前記のとおり、ピロプラスミドタンパク質または該タンパク質の免疫原性断片はワクチン接種に有利に使用されうる。それはピロプラスミド寄生虫の増殖を妨げる(例えば、宿主への侵入を抑制する)ように働き、または寄生虫の増殖もしくはそれが引き起こす臨床的徴候を妨げる防御免疫応答(例えば、特異的抗体または活性化リンパ球)を誘導するであろう。
【0094】
そのようなタンパク質または断片がそれら自身に対する所望の応答をもたらさない場合には、当技術分野で公知の技術を用いて、それらをKLH、BSAなどのような担体に結合させることが可能である。
【0095】
タンパク質またはその断片の結合は、誘導される免疫応答を増強または修飾するためにも行うことが可能である。例えば、T細胞の応答を増強するためにタンパク質(またはその断片)を破傷風トキソイドに結合させることが一般に行われている。また、標的細胞の細胞死を促進するために、特異的エフェクター分子、例えば毒素を付加することも可能である。
【0096】
そのような結合は、
・直接的な又は中間的構造体を介したアミノ酸配列の脱水、エステル化などによるカップリング、コンジュゲート化または架橋により化学的に、
・巨大分子構造体内または巨大分子構造体上での捕捉によるカップリングにより物理的に、あるいは好ましくは、
・単一の連続的発現産物が最終的に産生されるようそれらの2つのそれぞれをコードしうる核酸の断片を含む組換え核酸分子の組合せによる分子生物学的融合により行うことが可能である。そのような分子操作技術が好ましい。
【0097】
もう1つの効率的なワクチン接種方法は、関連抗原またはエピトープをコードするDNAでの直接ワクチン接種である。タンパク質をコードするDNAでの直接ワクチン接種は、多種多様なタンパク質に関して成功している(例えば、Donnellyら,The Immunologist 1993,vol.2,p.20−26において概説されているとおりである)。抗寄生虫ワクチンの分野においては、例えばプラスモジウム・ヨエリイ(Plasmodium yoelii)に対する防御がプラスモジウム・ヨエリイ(P.yoelii)のスポロゾイト周囲(circumsporozoite)遺伝子でのDNAワクチン接種で得られており(Hoffman,S.ら 1994,Vaccine,vol.12,p.1529−1533)、大リーシュマニア(Leishmania major)に対する防御が大リーシュマニア(L.major)表面糖タンパク質gp63遺伝子でのDNAワクチン接種で得られている(Xu & Liew 1994,Vaccine,vol.12,p.1534−1536)。
【0098】
そのようなDNAワクチン接種は、本発明の核酸、cDNA断片、または好ましくは組換えDNA分子で行うことが可能である。
【0099】
したがって、1つの好ましい実施形態は、本発明の核酸、cDNA断片または組換えDNA分子を含むことを特徴とする、本発明のワクチンに関する。
【0100】
あるいは、本発明のワクチンは、本発明のピロプラスミドタンパク質または該タンパク質の免疫原性断片を発現しうる前記の生組換えキャリアーを含みうる。そのようなワクチン、例えば、細菌、寄生虫またはウイルスキャリアーもしくはベクターに基づくワクチンは、それがピロプラスミダによる感染の自然様態をよりよく模擬する点で、サブユニットワクチンに対する利点を有する。また、該キャリアーに感染した細胞による抗原の提示が、本発明のピロプラスミドタンパク質または該タンパク質の免疫原性断片が自然感染において免疫系に対して提示される経路に類似している。さらに、それらの自己増殖も利点の1つである。なぜなら、免疫化には少量の組換えキャリアーが必要であるに過ぎないからである。
【0101】
したがって、もう1つの好ましい実施形態は、生組換えキャリアーと製薬上許容される担体とを含む本発明のワクチンに関する。
【0102】
本発明のピロプラスミドタンパク質または該タンパク質の免疫原性断片を発現系として発現させるためには、前記の宿主細胞を使用することが可能である。発現後、タンパク質産物を回収することが可能であるが、その代わりに、培地または完全な宿主細胞自体をワクチン中で使用することも可能である。これは、精製工程を省略できる点で有利であるが、もちろん、培地成分および/または宿主細胞成分に対する標的哺乳動物による或る程度の許容性を要する。
【0103】
本発明のピロプラスミドタンパク質もしくは該タンパク質の免疫原性断片または本発明の核酸、cDNA、組換え分子、生組換えキャリアーもしくは宿主細胞からの2以上のタイプの分子の組合せを含む本発明のワクチンも本発明の範囲内である。本発明のそのようなワクチンにおいては、該成分を1回量または分割量として一緒にすることが可能であり、これらを同時または連続的に投与することが可能である。
【0104】
例えば、ピロプラスミドタンパク質のコード配列を含有する組換えDNAプラスミドでの初回抗原刺激と、その後或る程度の間隔を置いて行う、ピロプラスミドタンパク質での追加ワクチン接種との組合せワクチン接種が、有利に用いられうる。
【0105】
本発明のワクチンは、哺乳動物標的当たりに0.1〜1000μgの本発明のピロプラスミドタンパク質または該タンパク質の免疫原性断片を含有する量で投与することが可能である。原理上はそれより少量または大量の用量を使用することが可能であり、好ましくは、ピロプラスミドタンパク質またはその免疫原性断片50〜200μgの用量を使用する。
【0106】
生ウイルスベクターワクチンの場合には、動物当たりの用量比率は1〜1010 pfuであることが可能であり、好ましくは、10〜10 pfuを使用する。
【0107】
製薬上許容される担体は、ワクチン接種する動物の健康に悪影響を及ぼさない化合物であると理解され、この場合、該悪影響は、少なくとも、該動物がワクチン接種されていない場合に見られる影響より悪くない程度のものである。製薬上許容される担体は、例えば無菌水または無菌生理塩溶液でありうる。より複雑な形態においては、該担体は例えばバッファーでありうる。
【0108】
しばしば、例えば、易分解性成分の分解を防ぐために、またはワクチンの貯蔵寿命を延長させるために、または凍結乾燥効率を改善するために、ワクチンを安定剤と混合する。有用な安定剤としては、とりわけ、SPGA(Bovarnikら 1950,J.Bacteriology,vol.59,p.509)、脱脂乳、ゼラチン、ウシ血清アルブミン、炭水化物、例えばソルビトール、マンニトール、トレハロース、デンプン、スクロース、デキストランまたはグルコース、タンパク質、例えばアルブミンまたはカゼインまたはそれらの分解産物、およびバッファー、例えばリン酸アルカリ金属が挙げられる。
【0109】
本発明のワクチンは更に、いわゆる「ビヒクル」を含みうる。ビヒクルは、本発明のタンパク質、タンパク質断片、核酸もしくはその一部、cDNA、組換え分子、生組換えキャリアーおよび/または宿主細胞が、共有結合することなく付着する化合物である。そのようなビヒクルとしては、とりわけ、バイオマイクロカプセル、微小アルギン酸、リポソーム、マクロゾル、水酸化−、リン酸−、硫酸−または酸化−アルミニウム、Kaolin(登録商標)およびBentonite(登録商標)が挙げられ、これらはすべて、当技術分野において公知である。
【0110】
一例として、免疫刺激性複合体(いわゆるISCOM(登録商標))内に抗原を部分的に包埋するビヒクルが挙げられる(EP 109.942、EP 180.564、EP 242.380)。
【0111】
また、本発明のワクチンは、1以上の適当な界面活性化合物または乳化剤、例えばSpan(登録商標)またはTween(登録商標)を含みうる。
【0112】
本発明のワクチンの標的対象は、好ましくは哺乳動物、例えばヒトまたは獣医学的に重要な哺乳動物である。該標的は健康であっても罹病していてもよく、ピロプラスミド寄生虫に関して又はピロプラスミド寄生虫に対する抗体に関して血清陽性または陰性でありうる。該標的対象は、該ワクチン接種に感受性である任意の年齢のものでありうる。
【0113】
本発明のワクチンの、より好ましい標的哺乳動物は、ウシ、ウマ、イヌおよびネコである。
【0114】
本発明のワクチンは、予防および治療に同等に使用することが可能であり、感染または疾患の臨床的症状の確立および/または進行を妨げる。
【0115】
したがって、本発明の1つの態様は、ピロプラスミド生物により引き起こされる感染またはその臨床的徴候の予防または治療のためのワクチンの製造のための、本発明の核酸配列、本発明のcDNA断片、本発明の組換えDNA分子、本発明の生組換えキャリアーまたは本発明の宿主細胞の使用に関する。
【0116】
本発明のワクチンは、集団内の又は環境へのピロプラスミド感染の広がりを予防または軽減する。
【0117】
本発明のワクチンは、標的への所望の適用方法に応じて、いくつかの形態、例えば液体、ゲル剤、軟膏剤、散剤、錠剤またはカプセル剤でありうる。
【0118】
好ましくは、該ワクチンは、注射可能な液体の形態である。
【0119】
本発明のワクチンは、当技術分野で公知の方法(例えば、非経口適用、例えば皮膚内への又は皮膚を介した全ての注射経路、例えば筋肉内、静脈内、腹腔内、皮内、粘膜下または皮下経路)により哺乳動物標的に投与することが可能である。実施可能なその他の適用経路としては、眼、鼻、口、肛門または膣の粘膜上皮への或いは任意の身体部分の外皮の表皮上への滴剤、噴霧剤、ゲル剤または軟膏剤としての局所適用;エアゾールまたは散剤としての噴霧によるものが挙げられる。あるいは、適用は、例えば散剤、液体または錠剤として食物、食餌または飲み水と一緒にすることによる、消化経路を介したもの、あるいは液体、ゲル剤、錠剤またはカプセル剤としての口内への又は坐剤としての肛門への直接的な投与によるものでありうる。
【0120】
好ましい適用経路は、筋肉内または皮下注射によるものである。
【0121】
言うまでもなく、最適な適用経路は、予防または改善しようとする寄生虫感染または臨床的疾患の具体的な個別性、使用するワクチン製剤の特性および標的種の個々の特性に左右されるであろう。
【0122】
標的哺乳動物への本発明のワクチンの適用の方式は1回量または複数回量によるものであることが可能であり、これらは、該投与量および製剤に適した方法および免疫学的に有効な量で、同時または連続的に投与することが可能である。
【0123】
本発明のワクチンは年1回の量で有利に適用される。
【0124】
好ましい実施形態においては、本発明のワクチンは、アジュバントを含むことを特徴とする。
【0125】
アジュバントは、一般には、標的の免疫応答を非特異的に増強する物質である。多種多様なアジュバントが当技術分野で公知である。アジュバントの具体例としては、フロイント完全および不完全アジュバント、ビタミンE、非イオンブロック重合体およびポリアミン、例えばデキストラン硫酸、カルボポール(carbopol)およびピランが挙げられる。サポニンも非常に適しており、好ましいアジュバントである。サポニンは、好ましくは、10〜10,000μg/mlのレベルでワクチンに加える。サポニンのなかでは、サポニンQuil A(登録商標)がより好ましいアジュバントである。サポニンおよびワクチン成分はISCOMS(EP 109,942、EP 180,564、EP 242,380)において一緒にされうる。
【0126】
さらに、ペプチド、例えばムラミルジペプチド、ジメチルグリシン、タフトシンがアジュバントとしてしばしば使用され、鉱油、例えばBayol(登録商標)またはMarkol(登録商標)、植物油またはそのエマルションおよびDiluvacForte(登録商標)が有利に使用されうる。
【0127】
言うまでもなく、アジュバント化、ビヒクル化合物もしくは希釈剤の添加またはワクチンの乳化もしくは安定化のための他の方法も本発明の範囲内である。そのような添加は、例えば、よく知られたハンドブック、例えば“Remington:the science and practice of pharmacy”(2000,Lippincot,USA,ISBN:683306472)および“Veterinary vaccinology”(P.Pastoretら編,1997,Elsevier,Amsterdam,ISBN 0444819681)に記載されている。
【0128】
本発明のワクチンは、もう1つの抗原または免疫活性成分と有利に混合されうる。これは、そのコード化核酸の形態としても加えることが可能である。
【0129】
したがって、より好ましい実施形態においては、本発明のワクチンは追加的免疫活性成分、または該追加的免疫活性成分をコードする核酸を含むことを特徴とする。
【0130】
追加的免疫活性成分は抗原、免疫増強物質および/またはワクチンであり、これらはいずれも、アジュバントを含みうる。
【0131】
追加的免疫活性成分は、抗原の形態である場合には、ヒトの又は獣医学的に重要な任意の抗原性成分よりなりうる。それは、例えば、生物学的分子または合成分子、例えばタンパク質、炭水化物、リポ多糖、タンパク質性抗原をコードする核酸、または転写調節配列に機能しうる形で連結されたそのような核酸を含有する組換え核酸分子を含みうる。また、そのような核酸、組換え核酸分子またはそのような核酸を含有するLRCを含む宿主細胞は、該核酸または追加的免疫活性成分を運搬するための手段となりうる。あるいは、それは、分画化または不活化微生物、例えば寄生虫、細菌またはウイルスを含みうる。
【0132】
追加的免疫活性成分は、免疫増強物質、例えばケモカイン、または免疫刺激性核酸、例えばCpGモチーフの形態でありうる。あるいは、本発明のワクチン自体をワクチンに添加することが可能である。
【0133】
例えば、本発明のワクチンを、本発明のピロプラスミドタンパク質でも該タンパク質の免疫原性断片でもないバベシアサブユニットワクチンタンパク質の調製物と一緒にして、ピロプラスミド感染または関連臨床疾患徴候に対する混合サブユニットワクチンを得ることが可能である。
【0134】
あるいは、本発明のワクチンは、抗生物質、ホルモンまたは抗炎症薬のような医薬成分と有利に一緒にされうる。
【0135】
より一層好ましい実施形態においては、本発明のワクチンは、該追加的免疫活性成分または該追加的免疫活性成分をコードする核酸が、以下のものに感染性である生物から得られることを特徴とする:
イヌ:エールリキア・カニス(Ehrlichia canis)、バベシア・ギブソニ(Babesia gibsoni)、バベシア・ボゲリ(B.vogeli)、バベシア・ロッシ(B.rossi)、リーシュマニア・ドノバニ(Leishmania donovani)複合体、イヌパルボウイルス、イヌジステンパーウイルス、レプトスピラ・インテルロガンス・セロバルス・キャニコラ(Leptospira interrogans serovars canicola)、イクテロヘモラジエ(icterohaemorrhagiae)、ポモナ(pomona)、グリッポチホサ(grippotyphosa)、ブラチスラバ(bratislava)、イヌ肝炎ウイルス、イヌパラインフルエンザウイルス、狂犬病ウイルス、ヘパトゾーン・カニス(Hepatozoon canis)およびボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)、
ウシ:ウシヘルペスウイルス、ウシウイルス性下痢ウイルス、パラインフルエンザ3型ウイルス、ウシパラミクソウイルス、口蹄疫ウイルス、パスツレラ・ヘモリチカ(Pasteurella haemolytica)、ウシRSウイルス、タイレリア種(Theileria sp.)、バベシア種(Babesia sp.)、トリパノゾーマ種(Trypanosoma sp.)、アナプラスマ種(Anaplasma sp.)、ネオスポラ・カニヌム(Neospora caninum)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、ストレプトコッカス・アガラクチエ(Streptococcus agalactiae)、マイコプラズマ(Mycoplasma)、大腸菌(E.coli)、エンテロバクター(Enterobacter)、クレブシエラ(Klebsiella)、シトロバクター(Citrobacter)、クリプトスポリジウム(Cryptosporidium)、サルモネラ(Salmonella)およびストレプトコッカス・ジスガラクチエ(Streptococcus dysgalactiae)、ならびに
ウマ:ストレプトコッカス・エクイ(Streptococcus equi)、ストレプトコッカス・ズーエピデミクス(Streptococcus zooepidemicus)、ロドコッカス・エクイ(Rhodococcus equi)、コリネバクテリウム・シュードツベルクローシス(Corynebacterium pseudotuberculosis)、シュードモナス・マレイ(Pseudomonas mallei)、アクチノバシラス・エクイリ(Actinobacillus equili)およびパスツレラ・マルトシダ(Pasteurella multocida)、ポトマック熱因子(Potomac fever agent)、クロストリジウム・テタニイ(Clostridium tetanii)、マイコバクテリウム・シュードマルレイ(Mycobacterium pseudomallei)、水疱性口炎ウイルス、ボルナ病ウイルス、ウマインフルエンザウイルス、アフリカ馬疫ウイルス、ウマ動脈炎ウイルス、ウマヘルペスウイルス1〜4、伝染性貧血ウイルス、ウマ脳脊髄炎ウイルスおよびB型日本脳炎ウイルス。
【0136】
本発明のピロプラスミドタンパク質または該タンパク質の免疫原性断片、本発明の核酸、cDNA、組換え分子、生組換えキャリアーおよび/または宿主細胞は、ピロプラスミドタンパク質または該タンパク質の免疫原性断片に対する特異的抗体の効率的製造を初めて可能にするものである。これは、本発明のワクチンを、マーカーワクチンとして適したものにする。なぜなら、それは、当技術分野で公知の方法により寄生虫感染哺乳動物標的と寄生虫ワクチン接種哺乳動物との間の識別を可能にするからである。
【0137】
あるいは、これらの特異的抗体を、いわゆる「受身ワクチン接種」のためのワクチン自体として使用することが可能である。
【0138】
したがって、本発明のもう1つの態様は、本発明のタンパク質に対する抗体もしくは該タンパク質の免疫原性断片に対する抗体またはそれらの組合せと製薬上許容される担体とを含むことを特徴とするワクチンに関する。
【0139】
該抗体は天然由来または合成由来でありうる。該抗体は抗血清または精製抗体の形態でありうる。そのような精製抗体は発現系から有利に得られうる。
【0140】
本発明の抗体の大規模製造のための方法も当技術分野で公知である。そのような方法は、ファージディスプレイのための線維状ファージにおける本発明のタンパク質をコードする遺伝情報の(断片の)クローニングに基づく。そのような技術は、とりわけ、http://aximt1.imt.uni−marburg.de/〜rek/aepphage.html.における“filamentous phage display”の“Antibody Engineering Page”、およびCortese,R.ら,(1994),Trends Biotechn.,vol.12,p.262−267、Clackson,T.& Wells,J.A.(1994),Trends Biotechn.,vol.12,p.173−183、Marks,J.D.ら,(1992),J.Biol.Chem.,vol.267,p.16007−16010、Winter,G.ら,(1994),Annu.Rev.Immunol.,vol.12,p.433−455、およびLittle,M.ら,(1994),Biotechn.Adv.,vol.12,p.539−555の総説に記載されている。
【0141】
ついで該ファージを使用して、ラクダ科動物重鎖抗体を発現するラクダ科動物発現ライブラリーをスクリーニングする(Muyldermans,S.およびLauwereys,M.,Journ.Molec.Recogn.,vol.12,131−140(1999)ならびにGhahroudi,M.A.ら,FEBS Letters,vol.414,p.512−526(1997))。所望の抗体を発現するライブラリーからの細胞を増殖させ、ついで抗体の大規模発現に使用することが可能である。
【0142】
抗原に対する抗体で「負荷(loaded)」された該抗原のワクチンにおける組合せは当技術分野においては「複合」ワクチンとして公知である。本発明のそのようなワクチンは有利に使用されうる。
【0143】
例えば安定性または経済性の理由により、本発明のピロプラスミドタンパク質もしくは該タンパク質の免疫原性断片、または本発明の核酸、cDNA、組換え分子、生組換えキャリアー、宿主細胞もしくはワクチンを凍結乾燥することが可能である。一般に、これは、0℃を超える温度(例えば、4℃)での貯蔵期間の延長を可能にする。
【0144】
凍結乾燥のための方法は当業者に公知である。種々の規模での凍結乾燥のための装置が商業的に入手可能である。
【0145】
したがって、最も好ましい実施形態においては、本発明のワクチンは、該ワクチンが凍結乾燥形態であることを特徴とする。
【0146】
凍結乾燥ワクチンを還元(再構成)するためには、それを、生理的に許容される希釈剤に懸濁させることが可能である。そのような希釈剤は、例えば、無菌水または生理塩溶液のような単純なものでありうる。より複雑な形態においては、PCT/EP99/10178に記載されているとおり、それをエマルションとして懸濁させることが可能である。
【0147】
本発明の更にもう1つの態様は、本発明のタンパク質もしくは該タンパク質の免疫原性断片、本発明の核酸、cDNA断片、組換えDNA分子、生組換えキャリアーもしくは宿主細胞またはそれらの組合せと製薬上許容される担体とを混合することを含む、本発明のワクチンの製造方法に関する。
【0148】
本発明の更にもう1つの態様は、本発明のタンパク質に対する抗体もしくは該タンパク質の免疫原性断片に対する抗体またはそれらの組合せと製薬上許容される担体とを混合することを含む、本発明のワクチンの製造方法に関する。
【0149】
前記のとおり、本発明の方法により入手可能なワクチンは、予防または治療に同等に使用することが可能であり、感染またはその臨床的疾患徴候の確立および/または進行を妨げる。
【0150】
したがって、本発明のもう1つの態様は、ピロプラスミド生物により引き起こされる感染またはその臨床的徴候の予防または治療のためのワクチンの製造のための、本発明のタンパク質または該タンパク質の免疫原性断片の使用に関する。
【0151】
また、本発明のもう1つの態様は、配列番号1、3、5、7または9に対して少なくとも70%、好ましくは75%、より好ましくは80、85、90、92、94、95、96、97、98、99または100%(その順で好ましくなる)類似している核酸または該核酸に相補的な核酸を含み、該核酸のいずれもが、少なくとも15ヌクレオチド、好ましくは17、より好ましくは18、19、20、24、28、32、35または40ヌクレオチド(その順で好ましくなる)の長さである、ピロプラスミド生物に関連した核酸の検出のための診断試験に関する。
【0152】
本発明の更にもう1つの態様は、本発明のタンパク質もしくは該タンパク質の免疫原性断片またはそれらの組合せを含む、ピロプラスミド生物に対する抗体の検出のための診断試験に関する。
【0153】
例えば、BIIA1もしくはBIIA2またはそれらのいずれかの免疫原性断片を固相担体に結合させ、これを被検サンプルと共にインキュベートし、洗浄し、結合抗体の存在を検出する。好ましい診断方法はELISAによるものである。
【0154】
本発明の更にもう1つの態様は、本発明のタンパク質に対する抗体もしくは該タンパク質の免疫原性断片に対する抗体またはそれらの組合せを含むことを特徴とする、ピロプラスミド生物からの抗原性物質の検出のための診断試験に関する。
【0155】
例えば、BIIA1もしくはBIIA2またはそれらのいずれかの免疫原性断片に対する抗体を固相担体に結合させ、これを被検サンプルと共にインキュベートし、洗浄し、結合タンパク質の存在を検出する。好ましい診断方法はELISAによるものである。
【0156】
以下の非限定的な実施例により、本発明を更に詳しく説明することとする。
【0157】
(実施例)
【実施例1】
【0158】
1.1 用いた技術
1.1.1.B.bovisインビトロ培養
バベシア・ボビス(B.bovis)イスラエル分離体(クローン系C61411)を、既に記載されているとおりに(Levy & Ristic 1980,Science,vol.207,p.1218−1220)インビトロで培養した。簡潔に説明すると、40% ウシ血清(成体ドナーウシ由来)、50μgml−1 ゲンタマイシン(Gibco BRL)、25mM 炭酸水素ナトリウムおよびウシ赤血球(5% パック細胞容積(PCV))と共に培地M199(Cambrex Bioscience,Belgium)を含有する24ウェルプレート(全容量1.2ml)または25cm ボトル(全容量15ml)内にバベシア・ボビス培養物を維持した。培養物を37℃、空気中の5% CO中でインキュベートし、寄生虫血症を毎日の希釈により1%〜12%に維持した。
【0159】
空気中の5% COではなく90% N、5% Oで培養物を維持すること以外はクローン系C61411(イスラエル分離体)に用いたのと同じプロトコールで、バベシア・ボビス(B.bovis)メキシコ分離体(クローン系C9.1)を培養した。
【0160】
1.1.2.B.bovisゲノムライブラリーおよびcDNAライブラリーの構築
λZAP−cDNA(登録商標)Synthesis Kit(Stratagene)を該製造業者の指示に従い使用して、5μgのバベシア・ボビス(B.bovis)mRNAからcDNAライブラリーを構築した。0.5〜4kbのcDNA断片をセファロースCL4Bカラム上のゲル濾過により集め、λuniZAP−XR ExpressベクターのEcoRI/XhoI部位内に連結した。Giga pack III Goldを使用してファージ粒子のパッケージングを行い、ついで大腸菌(Escherichia coli)XL−1 BlueMRF’細胞の形質転換を行った。1.2×10個のプラークを得、その増幅ライブラリーを作製した。
【0161】
ESTデータセットを確立するために、該プレート化cDNAライブラリーから自動的にランダムに選択した15000個のcDNAクローンに関して、1回の配列決定を行った。このESTデータセットから、12892個の高品質配列(476bpの平均長)よりなるデータベースを構築した。
【0162】
該ゲノムライブラリーを構築するために、600μgのバベシア・ボビスDNAをEcoRI(150単位または250単位)で37℃で1時間部分消化した。消化されたDNAをセファロースCL−4Bカラム上でサイズ分画した。0.5kb〜8kbの断片をλ−ZAPII−ExpressのEcoRI部位内に連結し、Gigapack III Gold Packagingエクストラクトを使用してパッケージングし、大腸菌(E.coli)XL1−Blue MRF’コンピテント細胞内に形質転換した。2.5×10個のプラークを得、その増幅ライブラリーを作製した。
【0163】
BIIA1またはBIIA2に特異的なプライマーを使用するPCRにより得たプローブで、該cDNAライブラリーをスクリーニングした。
【0164】
1.1.3.BIIA1およびBIIA2の遺伝子に関するB.bovisゲノムライブラリーおよびcDNAライブラリーのスクリーニング
PCRにより作製した特異的プローブで、BIIA1およびBIIA2の遺伝子のクローンを単離するために、該バベシア・ボビス(B.bovis)ゲノムライブラリーおよびcDNAライブラリーをスクリーニングした。使用した特異的プライマーは以下のとおりであった:
BIIA1遺伝子の場合:
【0165】
【化1】

【0166】
BIIA2遺伝子の場合:
【0167】
【化2】

【0168】
標準的なバッファー(Promega)中に0.2mM dNTP、20pmol/μlの各プライマー、100ngのバベシア・ボビス全ゲノムDNAおよび0.5U Taq DNAポリメラーゼを含有する50μl容量中でのPCRにより、バベシア・ボビスのESTデータベースからのクローンからの断片を増幅するために、両方のプライマーペアを使用した。BIIA1プローブに関しては92℃で30秒間、58℃で30秒間および72℃で30秒間の条件、BIIA2プローブに関しては95℃で1分間、58℃で1分間および72℃で10分間の条件で、30サイクルの増幅を行った。これらのサイクルの前に、95℃で3分間の初期変性を行い、最終伸長は72℃で10分間行った。
【0169】
両方のプローブをアガロースゲルから精製し、Random Primer標識キット(Roche)を使用して50μCi 32P−dATP(3000Ci/mmol)で標識した。BIIA1 cDNAのクローニングの場合には、合計4.10個のcDNAおよび4.10個のゲノムDNAライブラリープラークを標準的な方法(Sambrook & Russell,前掲)によりスクリーニングし、一方、BIIA2 cDNAのクローニングの場合には、5.10個のcDNAおよび同数のゲノムDNAライブラリープラークをスクリーニングした。2サイクルのプラーク精製の後、製造業者の説明書(Stratagene)に記載されているとおりに、ファジミドインサートの単離のために、すべてのクローンをインビボで切り出し、ダイターミネーター法(ABI PRISM(登録商標)ダイターミネーターキット,Pharmacia)と共に自動サイクルシークエンシングを用いて、両鎖上で配列決定した。
【0170】
完全長BIIA1およびBIIA2 cDNAを得るために、5’−RACE(GeneRacer(商標)キット,Invitrogen;L1502−01)を該製造業者の指示に従い使用して非コード化5’末端を同定した。得られた完全長クローンをpCR2.1クローニングプラスミド内に挿入し、前記のとおりに両鎖上で配列決定した。得られた配列を配列番号1(BIIA1)および配列番号5(BIIA2)に示す。
【0171】
1.1.4.大腸菌内での組換えBIIA1の発現
BIIA1およびBIIA2のクローンをpCR2.1クローニングプラスミドからPCRによりサブクローニングした。
【0172】
BIIA1のサブクローニングに使用したプライマーは以下のとおりであった。
【0173】
【化3】

【0174】
BIIA1に関するこれらのプライマーは塩基1(開始コドンの第1塩基からの番号づけ)の前にBamHI制限酵素部位を導入し、塩基1504の後にHindIII部位を導入した。
【0175】
BIIA2のサブクローニングに使用したプライマーは以下のとおりであった。
【0176】
【化4】

【0177】
BIIA2に関するこれらのプライマーはEcoRI部位およびSalI部位を導入した。
【0178】
PCR(94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で1分間の30サイクル)の後、該断片をゲル精製し、pET−32aベクターにアニールさせ、大腸菌(E.coli)NovaBlue(登録商標)株内への形質転換に使用した。適当なインサートを含有するプラスミドを使用して、発現宿主株BL21(DE3)内に形質転換した。誘導の0時間後および4時間後の全細胞サンプルの分析により示されるとおり、1mMのイソプロピル−β−D チオガラクトシダーゼ(IPTG)での37℃で4時間の誘導の後、チオレドキシンとの融合タンパク質が最高収率で得られた。細菌ペレットを、2%(v/v)β−メルカプトエタノールを含有するSDS−ポリアクリルアミド(SDS−PAGE)サンプルバッファー中、95℃で煮沸し、10% SDS−PAGEミニゲル上で泳動させ、クーマシーブリリアントブルーで染色して発現を確認した(図1および2)。
【0179】
1.1.5.ペプチド選択および単一特異性抗血清の作製
BIIA1およびBIIA2遺伝子を完全に配列決定した後、試験動物の免疫化による特異的ポリクローナル抗体の誘導のために、コンピューター翻訳配列からペプチドを選択した。
【0180】
良好な表面確率(surface probability)を有し荷電α両親媒性領域を含有するペプチド領域を選択するために、DNA Star(登録商標)の配列解析プログラムProteanを使用した。
【0181】
BIIA1から選択されたペプチド(配列番号2)は以下のとおりであった。
【0182】
【表1】

【0183】
BIIA2から選択されたペプチド(配列番号6)は以下のとおりであった。
【0184】
【表2】

【0185】
該ペプチドの合成後、それらを担体タンパク質、すなわち、マレイミド活性化キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)(Pierce;77605)に該製造業者の指示に従い結合させた。ウサギポリクローナル抗血清を作製するために、該ペプチド−担体結合体を使用した。
【0186】
その目的には、3群のNZWウサギ(各群は2羽のウサギを含有)の皮下に、連続的な免疫化の間に3週の間隔をあけて5回免疫化した。免疫化の前に、各ウサギの血清を集め、それを陰性対照として使用した。等容量のアジュバントStimune(登録商標)(ID−DLO,Lelystad,the Netherlands)中に取り込まれたKLHに結合した250μgのペプチドを各ウサギに注射した。各ウサギに注射した全容量は1000μlであった。血清を反応性に関してELISAにより定期的に試験した。最終免疫化の1週間後に血漿瀉血を行い、血清を集めた。
【0187】
1.1.6.ELISA
抗体応答をELISAにより評価した。96ウェルマイクロタイタープレートを1ウェル当たり150ngのペプチド1またはペプチド2でコートし、37℃で30分間インキュベートし、PBS/BSAで1時間ブロッキングした。個々のウサギ血清の連続希釈物(1:50〜1:50,000)を37℃で1時間インキュベートした。該プレートを洗浄し、1:2000希釈ブタ抗ウサギHRP結合二次抗体を1時間インキュベートした。該プレートを洗浄し、ABTS[2,2’−アジノビス(3−エチルベンズチアゾリンスルホン酸)]−ペルオキシダーゼ基質(Roche biochemicals)で45分間現像した。OD405を記録し、比較ELISA力価を計算した。
【0188】
1.1.7.免疫蛍光アッセイ
BIIA1およびBIIA2からのペプチドに対する抗血清によるバベシア・ボビス(B.bovis)メロゾイトの認識を間接免疫蛍光アッセイ(IFA)により試験した。薄い血液塗抹標本を冷却メタノールで固定した。ポリクローナルウサギ抗BIIA1(1:40)またはポリクローナルマウス抗BIIA1(1:5〜1:160)の存在下の30分間の一次インキュベーションの後、5分間の3回の洗浄工程を行った。スライドを1:80ヤギ抗ウサギ免疫グロブリンG(IgG)フルオレセインイソチオシアナート標識抗体(Nordic)と共に30分間インキュベートした。該スライドを再び洗浄し、Vectashield(登録商標)溶液(Vector laboratories)を適用し、対象をカバーグラスで覆い、FITCフィルター(450〜480/515〜565nm)を伴うUV蛍光顕微鏡上で可視化した。1:5に希釈された陰性免疫前血清と比較して、該寄生虫の陽性認識を伴う最終血清希釈度として、IFA力価を測定した。
【0189】
1.1.8.全メロゾイトタンパク質抽出物および侵入に際して可溶化されるタンパク質の調製
インビトロ侵入のために前記のとおりに調製したメロゾイトのサンプル800μlを1.2μM ポリプロピレンプレフィルター(Millipore,AN1202500)上の濾過により赤血球ゴーストから部分的に分離した。濾過されたメロゾイトをプールし、25mM 炭酸水素ナトリウムを含有する20容量のPBS(pH8.0)中で2回洗浄し、ついで2000g、4℃で20分間遠心分離した。2回目の洗浄の後、ペレットを等容量のPBS(pH8.0)に再懸濁させ、200μlのアリコートに分割し、これらを遠心分離(10,000×g、4℃で5分間)し、上清除去後、100μlの細胞ペレット(2×10 メロゾイト)として−20℃で保存した。凍結したメロゾイトペレットを使用直前に解凍し、細胞溶解し、還元し、アルキル化し(Proteoprep(登録商標)膜抽出キット(Sigma)を該製造業者の指示に従い使用することにより行った)、最終的に、SDS−ポリアクリルアミドゲルまたは等電点電気泳動(IEF)ストリップへの直接適用に適した1.7mlのバッファー中に得た。不溶性物質を16,000×g、4℃で3分間の遠心分離により除去した。タンパク質濃度をブラッドフォード法(Anal.Biochem.1976,vol.72,p.248−254)により測定した。該抽出物は相当な量の赤血球タンパク質を含有していたため、未感染赤血球の培養から開始すること以外は同じ方法で対照抽出物を調製した。
【0190】
前記のとおりに1時間のインビトロ侵入の後に上層バッファーを穏やかに除去することにより、侵入に際して可溶化されるタンパク質を得た。該サンプルを遠心分離(2000×g、10分間、4℃)し、ついでペレット(これは視認できない)を廃棄し、膜断片の除去のために上清を高速で再び遠心分離した(20分間、12,000×g、4℃)。最終上清を10mM KHPO(pH7.5)に対して一晩透析(Pierce;Snakeskin(登録商標)襞付き透析管,68035)した。透析バッファー中で平衡化された6.5mlのDEAEセファロース高速流(fast flow)(Amersham Biosciences)と共に50mlの透析上清を回転プラットフォーム上で4℃で90分間インキュベートすることにより、残留ヘモグロビンをバッチ式で除去した。該懸濁液を3000×g、4℃で5分間遠心分離し、ついで50mlの透析バッファーの添加により該DEAEセファロースを4回洗浄し、ついで3000×g、4℃で5分間の遠心分離を行った。結合タンパク質を6mlの溶出バッファー(350mM KCl,10mM KHPO,pH7.5)の添加および5分間のインキュベーションにより溶出し、ついで3000×g、4℃で5分間の遠心分離に付した。上清を濃縮し、10kDaフィルター(YM−10,Millipore)で脱塩した。
【0191】
1.1.9.SDS−ポリアクリルアミド電気泳動およびウエスタンブロット法
タンパク質をβ−メルカプトエタノールの存在下または非存在下で分解(resolve)し、10% SDS−PAGE上で分離し、Immobilon(商標)−Pメンブレン(Millipore)に電気泳動的にトランスファーした。該ブロットを、0.5% Tween(登録商標)20を含有するリン酸緩衝食塩水(PBST)中で希釈された5% 脱脂乳で37℃で1時間ブロッキングした。PBST中の2% 脱脂乳中の一次抗体の適当な希釈物(1:500)を1時間一晩インキュベートした。該ブロットをPBSTで洗浄し、ついで抗ウサギホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)結合二次抗体(DAKO)の1:10,000希釈物と共に37℃で1時間インキュベートした。該ブロットを、PBSTで洗浄した後、TMB MB基質キット(Lucron Bioproducts BV;KPL 50−77−00)または増強化学発光(ECL)+(Amersham;RPN2132)で現像した。
【0192】
1.1.10.等電点電気泳動(等電点フォーカシング)
全メロゾイト抽出物、侵入上清およびBIIA1タンパク質サンプルを再水和溶液(7M 尿素,2M チオ尿素,4% CHAPS,2% 担体両性電解質混合物 pH4−7NL(IPGバッファーおよび20mM DTT))に再懸濁させた。担体両性電解質混合物pH3−10NLを使用して、BIIA2タンパク質サンプルを一次元で分離した。特に示さない限り、使用したIEF装置、IPGゲルおよび試薬はAmersham Biosciencesからのものであった。35μgの全メロゾイトタンパク質または35μgの侵入上清およびプロテアーゼインヒビター(Complete,Roche)を7cmのストリップ(pH4−7NL)上にローディングした。13cmのストリップには、150μgの全メロゾイトタンパク質または150μgの侵入上清をローディングした。ストリップを再水和(10〜14時間)させ、自動運転[300Vで1分間、90分間(この間に3500Vまで電圧を上昇させる)、ついで3500Vで連続的フォーカシング、合計35〜40kVh、IPGPhor(商標)上]で一晩(14〜17時間)フォーカシングを行った。
【0193】
等電点電気泳動後、30mM DTT(使用前に新たに添加する)を含有する10mlのSDS平衡化バッファー(50mM Tris,6M 尿素,2% SDS,30% グリセロール,pH8.8)中で各ストリップを15分間平衡化することにより、該タンパク質を還元しSDSに結合させた。タンパク質の再酸化を防ぎシステイン残基の反応を最小にするために、ジチオトレイトールの代わりに2.5% ヨードアセトアミド(同様に新たに添加する)を含有するSDS平衡化バッファー中での第2の平衡化工程を行った。
【0194】
二次元SDSゲル電気泳動をHoefer SE600系において行った。二次元電気泳動後、銀染色を用いてタンパク質を可視化した。Umaxフラットベッドスキャナー上でLabScan(登録商標)v3.0ソフトウェアを使用して、該ゲルのイメージを得、ImageMaster(登録商標)2D v3.01ソフトウェア(Amersham Biotech)を使用して、それを解析した。免疫ブロット法のために、7cmストリップ上のタンパク質を10% SDS−PAGEゲル上で分離し、または13cmストリップを二次元タンパク質ゲル上で分離し、Immobilon(商標)−Pメンブレン(Millipore;IPVH00010)にトランスファーした。二次元ブロットのための後続の操作は一次元ブロットの場合と同じであった。
【0195】
1.1.11.B.bovisインビトロ侵入アッセイ
既に記載されている方法(Fransenら 2003,Microbes Infect.vol.5,p.365−372)に若干の変更を加えた方法により、侵襲(侵入)を行った。6〜8% 寄生虫血症のバベシア・ボビス(B.bovis)感染赤血球を2000×g、15℃で10分間遠心分離し、等容量のVyMsバッファー(Vega & Martinez,Fransen,前掲を参照されたい)に再懸濁させた。パルスコントローラーと共にBioRad Gene Pulser(登録商標)を使用して、800μlのサンプルを、4mm BioRadキュベット(165−2088)中、5個の間欠(パルス間に10秒、0℃)高電圧パルス(2.5kV、200Ω、25μF)に付した。
【0196】
25mM 炭酸水素ナトリウムを含有する8mlのPBS(pH8.0、20℃)をそれぞれの800μlのサンプルに加え、ついで15℃で10分間遠心分離(1800×g)を行った。遠心分離を1300×gで行うこと以外は同じである第2の洗浄を行い、ついでメロゾイトペレットを、25mM 炭酸水素ナトリウムを含有する800μlのPBS(pH8.0、20℃)に再懸濁させた。1容量の再懸濁メロゾイトを9容量の懸濁ウシ赤血球(空気中のCO中、37℃で30分間プレインキュベートした、25mM 炭酸水素ナトリウムを含有するPBS(pH8.0)中の5.5% PCV)に加えることにより、侵入を開始させ、それを24ウェルプレート(最終容量1.2ml)、25cmフラスコ(15ml)または80cmフラスコ(50ml)内で空気中の5% CO中、37℃で行った。1時間後にギームザ染色スライドを調製し、合計5000個の赤血球からの寄生虫感染赤血球を計数した。
【0197】
1.1.12.ポリクローナルウサギ抗血清による、侵入のインビトロ抑制
前記のとおりに高電圧パルスにより放出され25mM 炭酸水素ナトリウム含有PBS(pH8.0)に再懸濁された200μlのバベシア・ボビス(B.bovis)メロゾイトを40μlのウサギ抗血清と共に20℃で1時間インキュベートした。1時間後、960μlの懸濁ウシ赤血球(空気中のCO中、37℃で30分間プレインキュベートした、25mM 炭酸水素ナトリウムを含有するPBS(pH8.0)中の6.25% PCV)を加え、1時間のインキュベーションを行い、ついでギームザ染色スライドを調製し、計数して侵入レベルを測定した。使用したウサギ抗血清は、BIIA2およびBIA2アミノ酸配列に由来する合成ペプチドに対して産生させたものであり、対照血清は、無関係な対照ペプチド(YAGRLFSKRTAATAYKLQ)に対して産生させたものであった。ペプチドは、免疫化の前にキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)に連結されていた。免疫前血清も該試験に含めた。
【0198】
1.2.実施例1の結果
1.2.1.BIIA1およびBIIA2をコードする完全長cDNAの同定およびクローニング
PCRプローブ(BIIA1に関しては350bpおよびBIIA2に関しては450bp)でのバベシア・ボビス(B.bovis)cDNAライブラリーのプロービングは、BIIA1に関しては2181bpおよびBIIA2に関しては2385bpのcDNAのクローニングおよび配列決定をもたらした。どちらもオープンリーディングフレームと、ポリA尾部で終結する3’非コード領域とを含有していた。完全長mRNAの5’キャップ化末端を決定するために、全mRNAを脱リン酸化し、ついで5’キャップ(これは無傷のまま残っている)をタバコ酸ピロホスファターゼにより除去し、ついで特異的RNAオリゴヌクレオチドの連結を行った。ついで第1鎖cDNA上のネスティッドPCRは、BIIA1およびBIIA2に関するバベシア・ボビスmRNAの5’末端に相当する断片のクローニングおよび配列決定を可能にした。
【0199】
BIIA1の1815bpのORFのコンピューターによる翻訳は67.2kDaのタンパク質を予測し、BIIA2に関する1965bpのORFの翻訳は65.6kDaのタンパク質を予測した。
【0200】
1.2.2.導かれたペプチドに対する抗血清による組換えBIIA1およびBIIA2の認識
BIIAタンパク質に関する更なる研究を可能にするために、ウサギをKLH結合合成ペプチド1−6(前掲)で免疫した。すべての抗血清は、チオレドキシンと、大腸菌(E.coli)BL21細胞内で発現されたBIIAタンパク質の部分との組換え融合産物を特異的に認識した(図1および2)。IPTGでの誘導の前(レーン1)および後(レーン2)の全細胞ライセートのポリアクリルアミドゲル電気泳動は、BIIA1およびBIIA2に関する組換え融合産物を同定した。Rec BIIA1およびBIIA2は共に、免疫ブロット上で全3個の免疫血清によっては認識されるが(レーン、5、8、11)、免疫前血清(レーン6,9,12)によっては認識されない。免疫認識は対照タンパク質としての該融合産物のBIIA部分には特異的であった。PET32aにおいて発現されたバベシア・ボビスrab5(レーン3、Asp−5〜Lys−208,GenBankアクセッション番号324137.1)の組換え融合産物はこれらの血清によっては認識されなかった(レーン7、10、13)。また、免疫認識はペプチド特異的であり、BIIA1にもBIIA2にも無関係なKLH結合合成ペプチドに対して産生した抗血清としての免疫化に使用したKLH担体タンパク質により誘導された抗体はBIIA1組換え融合産物を認識しなかった(レーン13)。
【0201】
1.2.3.免疫蛍光顕微鏡検査
寄生虫内のBIIAタンパク質を局在化するために、BIIA1およびBIIA2の6個のKLH結合ペプチドに対するウサギ抗血清を使用する免疫蛍光研究を、メタノール固定によりガラススライドに付着したバベシア・ボビス(B.bovis)インビトロ培養上で行った(図3および4)。免疫前血清(パネルA、C、E)の存在下のインキュベーションは、感染赤血球および未感染赤血球に由来するかすかな蛍光のバックグラウンドシグナルを超えるいずれの特異的寄生虫染色をも与えなかった。これとは対照的に、免疫血清は、検査したいずれの顕微鏡視野においても、寄生虫の特異的染色を与えた(パネルB、D、F)。蛍光寄生虫は1:5の希釈度の全3個のペプチドに対する抗血清で検出可能であった。赤血球内バベシア・ボビス寄生虫および遊離メロゾイトは小さい(±1×2μm)が、最大倍率は染色パターンの明瞭な可視化を可能にした。
【0202】
1.2.4.ペプチド特異的抗血清によるインビトロ侵入の抑制
1時間の時間範囲内の無タンパク質バッファー中の遊離メロゾイトによる赤血球への侵入の研究を可能にするバベシア・ボビス(B.bovis)インビトロ侵入アッセイを用いて、BIIA1およびBIIA2の異なるドメインに由来する6個のペプチドに対する抗血清の効果を評価した。抗ペプチド抗血清と共に、および無関係なペプチドに対する対照血清と共に、遊離メロゾイトを20℃で1時間プレインキュベートし、ついで赤血球の添加により侵入を開始させた。BIIAペプチドに対するすべての抗血清は侵入の有意な抑制を引き起こしたが、免疫前血清および対照抗血清は侵入効率に対する有意な効果を示さなかった(図5および6)。BIIA1に関しては、ペプチド1に対する抗血清により、最強の効果(65±10%の侵入抑制)が観察された。BIIA2に関しては、ペプチド4に対する抗血清により、最強の効果(70±10%の侵入抑制)が観察された。
【0203】
1.2.5.二次元ゲル上でのBIIAタンパク質のマッピング
BIIA1およびBIIA2が赤血球への侵入中に可溶性タンパク質として媒体内に露出されるようになり、したがって、前記のSPAの一部を構成するのかどうかを判定するために、侵入上清の免疫ブロット法を行った。BIIA1およびBIIA2を二次元免疫ブロット上で局在化した。50μgの濃縮侵入上清を等電点電気泳動およびそれに続くSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離した。タンパク質をPVDFメンブレン上にブロットした。切り出したメンブレン部分(45〜90kDa)をペプチド1または3に対する抗BIIA1ペプチド抗血清と共に(図7、それぞれパネルAおよびC)、およびペプチド4および6に対する抗BIIAペプチド抗血清と共に(図8、それぞれパネルAおよびC)インキュベートした。どちらのタンパク質に関しても、ペプチド1および4に対する抗体は同一特異的スポットに結合し(矢印)、それに加えて、対照ブロット上にも存在するタンパク質の特異的染色に結合した。これらは、同一条件下であるがメロゾイトの非存在下で調製した未感染赤血球(RBC)の上清から調製されたものであった(図7および8、パネルBおよびD)。ついで、免疫ブロット法により局在化されたスポットを、侵入前に35S−Metで代謝標識した寄生虫を使用する平行実験から得た類似サンプルの銀染色二次元タンパク質ゲルと符合させた。図9は、赤血球タンパク質としてバベシア・ボビスのタンパク質のみを示すフィルムへの露出後に得たパターンが標識を含んでいないことを示す。イメージングソフトウェアを使用することにより、抗BIIA1ペプチド抗血清での免疫ブロット法により検出されたスポットを、オートラジオグラフ上および銀染色ゲル上の±70kDaのスポットの列に符合させることが可能であった(図9の矢印を参照されたい)。BIIA2は、弱い強度のスポットにより表され、このことは、該天然タンパク質の存在量がより少ないことを示している。
【実施例2】
【0204】
BIIA3のクローニング、発現および特徴づけ
第1.1.2節に記載されているバベシア・ボビス(B.bovis)からの全増幅DNAをBIIA3遺伝子に関して以下のプライマーでスクリーニングした。
【0205】
【化5】

【0206】
PCRは、第1.1.3節に記載されているとおりに行った。
【0207】
該PCR断片を直接的に配列決定し、得られた配列を配列番号9(BIIA3)に示す。
【0208】
第1.1.4節に記載されているとおりにBIIA3 cDNAのPCR断片を発現ベクターpET−32a内にクローニングした。プライマー9および10はEcoRIおよびSalI制限部位を与えた。
【0209】
BIIA3タンパク質のコンピューター翻訳配列を配列番号10に示す。BIIA3 cDNA中の1635ヌクレオチドのORFは61.0kDaのタンパク質をコードする。
【0210】
第1.1.5節に記載されているとおり、試験動物における特異的抗体の誘導のために、このタンパク質からペプチドを予測した。
【0211】
BIIA3タンパク質から選択したペプチドは以下のとおりである。
【0212】
【表3】

【0213】
第1.1.5節に記載されているとおり、該ペプチドをKLHに結合させ、それを使用してウサギポリクローナル抗体を産生させた。第1.1.6節に記載されているとおり、ウサギ血清をELISAにより評価した。
【0214】
該ウサギポリクローナル抗ペプチド抗血清は、一次元(1−D)ウエスタンブロットにおいてrecBIIA3(大腸菌(E.coli)により発現されたチオレドキシン融合BIIA3タンパク質)を検出するためのものであった。結果を図10、パネルAに示す。Rec BIIA3はペプチド7および8の両方に対する抗血清により認識され、一方、免疫前血清はRec BIIA3を認識しなかった。
【0215】
実施例3に記載されているとおり、BIIA3に対する(ならびにBIIA1およびBIIA2に対する)ポリクローナル抗血清をウシにおいて産生させた。
【0216】
このウシ抗血清もrecBIIA3に関する一次元ウエスタンブロットにおいて使用した。結果を図10、パネルBに示す。2頭の動物からの血清はrecBIIA3を認識したが、免疫前ウシ血清はそれを認識しなかった。
【0217】
また、第1.1.8節および第1.1.9節に記載されているとおり、recBIIA3に対するウシ抗血清を天然バベシア・ボビス(B.bovis)タンパク質の二次元(2−D)ゲル上で使用した。結果を図11に示す。
【0218】
免疫前ウシ血清は赤血球由来のいくつかのスポットと反応した(パネルA)。パネルBにおいては、セファロースカラムにより精製されたrecBIIA3−免疫IgGを使用した。これは〜95kDa、〜75kDaおよび〜30kDaのスポット(の群)を特異的に認識した(矢印を参照されたい)。見掛け上は、天然BIIA3のプロセシング形態および多量体形態も認識されている。
【0219】
ペプチド7に対するウサギポリクローナル抗血清は侵入抑制特性を有することが示された。図12を参照されたい。セファロースGにより精製されたIgGを3つの異なる濃度で使用して、65%の最大抑制を得た。非免疫IgGおよびPBSは抑制をもたらさなかった(対照カラム)。
【0220】
また、間接免疫蛍光により感染赤血球内のバベシア・ボビス(B.bovis)メロゾイトのBIIA3の細胞下局在を決定するために、ペプチド7に対するウサギポリクローナル抗血清を使用した。検出は多光子顕微鏡検査により行った。
【0221】
薄い血液塗抹標本をアセトン中で10分間固定し、風乾させた。抗ペプチド7ウサギ血清(1:20)の存在下の30分間の一次インキュベーションの後、PBSでの5分間の3回の洗浄工程を行った。ついでスライドを、Alexa 488(20μg/ml,Molecular Probes Inc.,Eugene,USA)に結合したヤギ抗ウサギIgGと共に30分間インキュベートし、PBSで洗浄した。ついで、二重標識のために、該スライドをDAPI(0.5μM,Molecular Probes Inc.)と共に20分間インキュベートし、洗浄した。FluorSave(登録商標)溶液を適用し、該スライドを、覆われた状態で水平位置で室温で一晩放置した。
【0222】
Nikon TE300倒立顕微鏡を備えたBio−Rad Radiance 2100MP共焦点多光子系を使用して、蛍光シグナルを可視化した。DAPIプローブの励起は、10W固体レーザー(Milennia Xs,Spectra−Physics)によりポンピングされるモード固定(mode−locked)Titanium−Sapphireレーザー(Tsunami,Spectra−Physics)を使用して780nmでの多光子励起により達成され、一方、Alexa 488プローブは488nmでアルゴンレーザーにより励起された。
【0223】
多光子IFTの結果は、バベシア寄生虫の先端領域にBIIA3特異的染色が存在することを示した。
【実施例3】
【0224】
組換えBIIA1、BIIA2およびBIIA3に対するウシ抗血清の作製および使用
第1.1.4節に記載されているとおりに、BIIA1、BIIA2およびBIIA3の組換え発現産物を大腸菌(E.coli)内で作製した。細菌をペレット化し、6M グアニジニウムHCl中で可溶化した。全細胞ライセートを9000rpmで10分間遠心分離し、可溶性ライセートをGuHCL中のNi−NTAアガロースの懸濁物に結合させた。ビーズを8M 尿素で3回洗浄し、ついで特異的抗原を3M 尿素中の250mM イミダゾールで溶出した。
【0225】
各ワクチン用量は100μgの精製recBIIA抗原を含有し、サポニンアジュバントと共に2mlの最終用量で製剤化された。各群5頭の免疫学的に適格なウシの頚部の筋肉内にワクチンを投与した。該初回投与の5週間後、同じ製剤で追加ワクチン接種を行った。該追加接種の3週間後に採血し、分析のために血清を調製した。
【0226】
結合バッファー(0.01M リン酸ナトリウム pH7.4,0.15M NaCl,0.01M EDTA)中、5mlの抗血清を2mlのGammaBind Plus(登録商標)Sepharose(Amersham−biosciences)と共に20℃で1時間インキュベートすることにより、ウシ特異的IgGの精製を行った。カラムを結合バッファーで洗浄し、IgGを5mlの0.5M NaAc(pH3.0)で溶出し、直ちにTrisHCl(pH9.0)で中和した。IgGを濃縮し、PBS(pH7.4)に対して透析した。
【0227】
組換えBIIA、BIIAおよびBIIA3(イスラエル株からクローニングされたもの)に対するウシ抗血清から精製された全IgGによるインビトロ侵入抑制を、プレインキュベーション中に最終濃度0.15μg/μlまたは0.75μg/μlのウシIgGを使用して、ポリクローナルウサギ抗血清に関して記載されているとおりに(第1.1.11節および第1.2.4節)行った。すべての試験は、各抗原について2つの異なる動物の抗体を使用して2回行った。図13に示す結果は、抗原ごとの個々の抗血清の、合わせたデータを示す。標準偏差が示されている。該抑制が異種バベシア株の侵入に対しても効果的であることを示すために、バベシア・ボビスのメキシコ分離体(MO7)に由来するクローン系(C9.1)を試験した。
【0228】
両方のバベシア株による赤血球への侵入の抑制の有効性は比較しうるものである。BIIA1およびBIIA2の有効性(3〜12%)は、BIIA3の有効性(23〜25%)より更に高いようであった。
【図面の簡単な説明】
【0229】
【図1】レーン1:IPTGでの誘導の前のpET−BIIA1。レーン2:IPTGでの誘導の4時間後のpET−BIIA1。レーン3:誘導の4時間後のpET−Rab5。レーン4、5、6:抗ペプチド1と共にインキュベート。レーン7、8、9:抗ペプチド2と共にインキュベート。レーン10、11、12:抗ペプチド3と共にインキュベート。レーン4、7、10は、免疫前血清と共にインキュベートされた、誘導の4時間後のpET−BIIA1を含有する。レーン5、8、11:免疫血清と共にインキュベートされたこと以外はレーン4、7および10と同じ。レーン6、9、12は、免疫血清と共にインキュベートされた、誘導の4時間後のpET−Rab5を含有する。レーン13:バベシア・ボビスに無関係なKLH結合ペプチドに対する抗血清と共にインキュベートされた、誘導の4時間後のpET−BIIA1。
【図2】レーン2:IPTGでの誘導の前のpET−BIIA2。レーン2:IPTGでの誘導の4時間後のpET−BIIA2。レーン3:誘導の4時間後のpET−Rab5。レーン4、5、6:抗ペプチド4と共にインキュベート。レーン7、8、9:抗ペプチド5と共にインキュベート。レーン10、11、12:抗ペプチド6と共にインキュベート。レーン4、7、10は、ウサギの免疫前血清と共にインキュベートされた、誘導の4時間後のpET−BIIA2を含有する。レーン5、8、11:免疫血清と共にインキュベートされたこと以外はレーン4、7および10と同じ。レーン6、9、12は、免疫血清と共にインキュベートされた、誘導の4時間後のpET−Rab5を含有する。レーン13は、バベシア・ボビスに無関係なKLH結合ペプチドに対する抗血清と共にインキュベートされた、誘導の4時間後のpET−BIIA2を含有する。
【図3】パネルA、CおよびEは、それぞれBIIA1のペプチド1、2および3に対する免疫前ウサギ抗血清と共にインキュベートされたバベシア・ボビスのメタノール固定インビトロ培養を示す。パネルB、D、Fは、対応する免疫血清と共にインキュベートされたこと以外はA、CおよびEと同様である。再現目的のために、色が逆転している。
【図4】パネルA、CおよびEは、それぞれBIIA2のペプチド4、5および6に対する免疫前ウサギ抗血清と共にインキュベートされたバベシア・ボビスのメタノール固定インビトロ培養を示す。パネルB、D、Fは、対応する免疫血清と共にインキュベートされたこと以外はA、CおよびEと同様である。再現目的のために、色が逆転している。
【図5】対照カラムは、抑制を示さない無関係なペプチドに対する抗血清の存在下のプレインキュベーションを表す。BIIA1のペプチド1、2および3に対する抗血清(中空棒線)および免疫前ウサギ血清(黒棒線)を3重に2回試験した。
【図6】対照カラムは、抑制を示さない無関係なペプチドに対する抗血清の存在下のプレインキュベーションを表す。BIIA2のペプチド4、5および6に対する抗血清(中空棒線)および免疫前ウサギ血清(黒棒線)を3重に2回試験した。
【図7】パネルAおよびC:それぞれBIIA1ペプチド1および3に対する免疫血清での二次元(2−D)免疫ブロット。パネルBおよびD:それぞれBIIA1のペプチド1および3で免疫されたウサギの免疫前血清での二次元(2−D)免疫ブロット。矢印は、ペプチド1およびペプチド3に対する抗血清に特異的なスポットを示す。
【図8】パネルAおよびC:それぞれBIIA2ペプチド4および6に対する免疫血清での二次元(2−D)免疫ブロット。パネルBおよびD:それぞれBIIA2のペプチド4および6で免疫されたウサギの免疫前血清での二次元(2−D)免疫ブロット。矢印は、ペプチド4およびペプチド6に対する抗血清に特異的なスポットを示す。
【図9】図7および8に示す免疫ブロットに使用した二次元(2−D)ゲルのオートラジオグラフであり、侵入前に代謝標識により35S−Metで標識されたバベシア・ボビス由来タンパク質のみを示している。矢印は、イメージングソフトウェアを使用して図7に示す免疫ブロットと符合させることによりBIIA1として同定されたスポットを示す。
【図10】ペプチド7および8に対して産生されたポリクローナルウサギ抗血清により認識される、大腸菌(E.coli)発現recBIIA3の一次元(1−D)ウエスタンブロット。パネルA:ウサギ抗ペプチド抗血清:レーン1:抗ペプチド7;レーン3:抗ペプチド8;共に血清希釈1:2000。レーン2および4:両方のペプチド−抗血清ウサギドナーの免疫前血清。パネルB:ウサギ抗recBIIA3抗血清:レーン1および2:2羽の動物からの1:200,000での精製免疫IgG;レーン3;免疫前ウシ血清。
【図11】recBIIA3に対するウシポリクローナル抗血清により認識される天然バベシア・ボビスタンパク質の二次元(2−D)ウエスタンブロット。パネルA:免疫前ウシ血清。パネルB:セファロースG精製免疫IgG(0.8μg/ml)。矢印はBIIA3特異的抗体認識を示す。
【図12】ウシ赤血球内へのバベシア・ボビス イスラエル分離体の侵入を抑制する、ウサギポリクローナル抗ペプチド7免疫IgGの侵入抑制アッセイ。対照(免疫前血清)による抑制を100%に設定した。横軸:精製免疫IgGの濃度;縦軸:侵入抑制効力の相対%および標準偏差(n=3)。
【図13】ウシ赤血球内へのバベシア・ボビス イスラエルおよびメキシコ分離体の侵入を抑制する、大腸菌(E.coli)発現recBIIA1、recBIIA2およびrecBIIA3に対するウシポリクローナル免疫IgGの侵入抑制アッセイ。対照(免疫前血清)による抑制を100%に設定した。横軸:最終IgGの濃度(μg/μl);縦軸:侵入抑制効力の相対%および標準偏差(n=2×2)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2または4に示すアミノ酸配列に対して少なくとも70%の類似性を有するアミノ酸配列を含むことを特徴とするピロプラスミド(Piroplasmid)タンパク質または該タンパク質の免疫原性断片。
【請求項2】
配列番号6または8に示すアミノ酸配列に対して少なくとも70%の類似性を有するアミノ酸配列を含むことを特徴とするピロプラスミド(Piroplasmid)タンパク質または該タンパク質の免疫原性断片。
【請求項3】
配列番号10に示すアミノ酸配列に対して少なくとも70%の類似性を有するアミノ酸配列を含むことを特徴とするピロプラスミド(Piroplasmid)タンパク質または該タンパク質の免疫原性断片。
【請求項4】
請求項1に記載のタンパク質または該タンパク質の免疫原性断片をコードすることを特徴とする核酸。
【請求項5】
請求項2に記載のタンパク質または該タンパク質の免疫原性断片をコードすることを特徴とする核酸。
【請求項6】
請求項3に記載のタンパク質または該タンパク質の免疫原性断片をコードすることを特徴とする核酸。
【請求項7】
請求項4〜6のうち1つ以上の項に記載の核酸を含んでなるcDNA断片。
【請求項8】
請求項4〜6のうち1つ以上の項に記載の核酸または請求項7に記載のcDNA断片(該核酸または該cDNA断片は、機能的に連結されたプロモーターの制御下にある)を含んでなる組換えDNA分子。
【請求項9】
請求項4〜6のうち1つ以上の項に記載の核酸、請求項7に記載のcDNA断片(該核酸または該cDNA断片は、機能的に連結されたプロモーターの制御下にある)または請求項8に記載の組換えDNA分子を含んでなる生組換えキャリアー。
【請求項10】
請求項4〜6のうち1つ以上の項に記載の核酸、請求項7に記載のcDNA断片(該核酸または該cDNA断片は、機能的に連結されたプロモーターの制御下にある)、請求項8に記載の組換えDNA分子または請求項9に記載の生組換えキャリアーを含んでなる宿主細胞。
【請求項11】
請求項1〜3のうち1つ以上の項に記載のタンパク質もしくは該タンパク質の免疫原性断片、請求項4〜6のうち1つ以上の項に記載の核酸、請求項7に記載のcDNA断片、請求項8に記載の組換えDNA分子、請求項9に記載の生組換えキャリアーまたは請求項10に記載の宿主細胞またはそれらの組合せと製薬上許容される担体とを含んでなるワクチン。
【請求項12】
アジュバントを含む、請求項11に記載のワクチン。
【請求項13】
追加的免疫活性成分または該追加的免疫活性成分をコードする核酸を含む、請求項11〜12のうち1つ以上の項に記載のワクチン。
【請求項14】
請求項1〜3のうち1つ以上の項に記載のタンパク質に対する抗体もしくは該タンパク質の免疫原性断片に対する抗体またはそれらの組合せと製薬上許容される担体とを含むことを特徴とするワクチン。
【請求項15】
請求項1〜3のうち1つ以上の項に記載のタンパク質もしくは該タンパク質の免疫原性断片、請求項4〜6のうち1つ以上の項に記載の核酸、請求項7に記載のcDNA断片、請求項8に記載の組換えDNA分子、請求項9に記載の生組換えキャリアーまたは請求項10に記載の宿主細胞またはそれらの組合せと製薬上許容される担体とを混合することを含んでなる請求項11に記載のワクチンの製造方法。
【請求項16】
ピロプラスミド(Piroplasmid)生物により引き起こされる感染またはその臨床的徴候の予防または治療のためのワクチンの製造のための、請求項1〜3のうち1つ以上の項に記載のタンパク質または該タンパク質の免疫原性断片の使用。
【請求項17】
ピロプラスミド(Piroplasmid)生物により引き起こされる感染またはその臨床的徴候の予防または治療のためのワクチンの製造のための、請求項4〜6のうち1つ以上の項に記載の核酸、請求項7に記載のcDNA断片、請求項8に記載の組換えDNA分子、請求項9に記載の生組換えキャリアーまたは請求項10に記載の宿主細胞の使用。
【請求項18】
配列番号1、3、5、7または9に示す核酸配列に対して少なくとも70%類似している核酸または該核酸に相補的な核酸を含んでなり、該核酸のいずれかが少なくとも15ヌクレオチドの長さを有することを特徴とする、ピロプラスミド(Piroplasmid)生物に関連した核酸の検出のための診断試験。
【請求項19】
請求項1〜3のうち1つ以上の項に記載のタンパク質もしくは該タンパク質の免疫原性断片またはそれらの組合せを含むことを特徴とする、ピロプラスミド(Piroplasmid)生物に対する抗体の検出のための診断試験。
【請求項20】
請求項1〜3のうち1つ以上の項に記載のタンパク質に対する抗体もしくは該タンパク質の免疫原性断片に対する抗体またはそれらの組合せを含むことを特徴とする、ピロプラスミド(Piroplasmid)生物からの抗原性物質の検出のための診断試験。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2007−527707(P2007−527707A)
【公表日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525840(P2006−525840)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【国際出願番号】PCT/EP2004/052169
【国際公開番号】WO2005/026199
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(506085309)ユニバーシテイ・ユトレヒト・ホールデイング・ベー・ベー (1)
【Fターム(参考)】