説明

ピロロキノリンキノンのリチウム誘導体及びその製造方法

【課題】ピロロキノリンキノンのリチウム誘導体、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ピロロキノリンキノンを原料として、アルカリ性溶剤の中で中和反応をさせて、ピロロキノリンキノンのリチウム誘導体を完成させる。化学式中R1、R2、R3は、水素イオン、アンモニウムイオン(NH3)、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、亜鉛イオン、リチウムイオンのいずれかであり、少なくとも1つの基はリチウムイオンである。本発明の製造方法は、反応条件が温和で、製品の精製と純化が行いやすく、生産過程が簡単で、収率は80%以上である。本発明のピロロキノリンキノンのリチウム誘導体はGSK−3活性を抑制することができ、また遺伝子組換えマウスの脳内老年斑点形成及びtau蛋白質のリン酸化を減少させる働きを果たせる。この製品は薬品の原料として、老年性痴呆と老衰の予防と治療に使用できるし、パーキンソン病の治療薬として使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製薬領域に属し、ピロロキノリンキノンのリチウム誘導体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2003年に頒布された雑誌“Nature(Nature(2003),422,832、非特許文献1)”に記載された論文で、日本の研究者は、「ピロロキノリンキノン(以下、「PQQ」という)は新たなビタミンB族であり、生物体内のリシンの代謝に関与している」と報告した。現在、技術の発展により、PQQの分子量は330と公開されている。PQQは、最初、微生物の中から発見されており、また、高等真核生物体内にもPQQが存在する。PQQの結晶体構造は下記の化学式(II)の通りである。
【化1】

【0003】
PQQは重要な酵素の補助基であり、呼吸チェーンの機能と体内自由基のレベルに影響する。研究によると、PQQが足りないマウスは、成長が遅く、生殖能力も比較的に乏しく、関節炎が起こりやすいなどのことが発見された。従って、PQQは、体内に欠かせないビタミンであり栄養素であると認識されている。また、PQQには神経システムにも関わる機能が以下(1)〜(4)の四つある。
(1)酸素抵抗作用、自由基を削除する機能
(2)呼吸チェーン機能への影響、線粒体のエネルギー代謝を守る機能
(3)刺激神経成長因子の分泌、修復及び神経成長の促進
(4)α−シヌクレイン蛋白堆積の時間を延ばす機能と神経細胞繊維化の防止機能
従って、PQQは、パーキンソン病や老年痴呆などの多種神経変異性疾病に潜在的に治療価値を提示する。
【0004】
リチウム塩は、最初に発見されたグリコーゲン合成酵素リン酸化酵素3(グリコーゲンシンターゼキナーゼ−3、GSK−3)の活性を抑制できる抑制剤である。研究によると、多数の神経精神疾病に対して、潜在的な治療価値を有する。従って、研究者は、PQQのリチウム誘導体の潜在的な応用に注目しており、実験を通じて、PQQのリチウム誘導体の多様な作用及びその神経精神疾病を治療する可能性を探っている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nature (2003),422,832
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、PQQのリチウム誘導体を提供することである。
本発明のもう一つの目的は、上記PQQのリチウム誘導体を作る製造方法を提供することである。本発明の製造方法は、PQQを用いて誘導反応をさせ、分子中にリチウムイオンを取り入れ、PQQのリチウム誘導体を作る。具体的に言えば、本発明の製造方法は、PQQ分子のカルボキシル基の上に酸アルカリ中和反応を利用して、PQQのリチウム誘導体を作る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の製造方法は、下記の化学式(II)のPQQを原料として、水酸化リチウムアルカリ性溶剤の中で酸アルカリ中和反応をさせ、下記の化学式(I)のPQQのリチウム誘導体を作る。R1、R2、R3の中に少なくともリチウムイオンが存在する。
【化2】

【0008】
本発明の製造方法は、ピロロキノリンキノン分子にリチウムイオンを理想的に取り入れることができる。反応条件が温和で、製品品質が均一で、精製と純化がされやすい。また、作り方が簡単で、収率は80%以上で、大量生産に適している。化学反応式は下記の通りである。
【化3】

【0009】
R1、R2、R3は同一又は異なっても良い基を示し、水素イオン、アンモニウムイオン(NH3)、カリウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、亜鉛イオン、リチウムイオンのいずれかである。また、R1、R2、R3のうち少なくとも1つの基はリチウムイオンである。
【0010】
本発明の製造方法は、反応の過程に酸及びアルカリを触媒として使わなくても可能で、水酸化リチウム自身が中和反応のPH値を調整できる。水酸化リチウムの濃度の変化は上記の化学式(I)の出来高に影響する。
【0011】
本発明の製造方法は、反応温度範囲が0℃〜100℃の間で実行でき、推奨反応温度は15℃〜20℃である。PQQのリチウム誘導体の調整条件が変化するので、反応時間の範囲は15分〜72時間である。
【0012】
本発明の製造方法の中で、上記の化学式(I)のPQQのリチウム誘導体は通常塩の製法でアルカリ溶剤の中でリチウム塩を作る。
【0013】
本発明のPQQは、老年痴呆、老衰及びパーキンソン病の予防及び治療を目的として使用される。
【0014】
本発明で作ったPQQのリチウム誘導体を使ってGSK−3活性及びアルツハイマー型認知症を抑制する実験によると、上記のPQQのリチウム誘導体がGSK−3活性を抑制し、マウス脳内の老年斑点及び蛋白リン酸化を減少させることがわかった。上記のPQQのリチウム誘導体は、薬物の原料として、老年痴呆、老衰及びパーキンソン病の治療薬に使用することができる。
【0015】
上記の薬物は、通常の方法により、それぞれピロロキノリンキノンリチウム塩錠剤、粉剤、粉針剤、直腸栓剤、皮膚貼り剤(皮を通って薬を与える)、水針剤あるいは噴霧剤として、内服、筋肉注射、腹腔注射、静脈注射、噴霧給薬、直腸給薬或は皮膚給薬などの治療方法で、毎日0.1mg−1000mgを投与し、アルツハイマー型認知症、老年痴呆及び老衰などの病気の予防と治療に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ピロロキノリンキノンリチウム塩は、APP/PS1遺伝子組換えマウスの認知機能が顕著に改善された。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明をより深く理解するために、具体的な実施例を説明する。この実施例はただ説明するための例であり、当該技術分野の技術者が本実施例の説明に基づき修正及び変更する例は本発明の技術的範囲に含まれる。
【0018】
下記の実施例の説明中、温度はセルシウス度(℃)とする。
【実施例1】
【0019】
4,5−ジカルボニル−1H−ピロール[2,3−f]キノリン−2,7,9−トリカルボン酸三リチウム塩(PQQ3Li)の合成について示す。
【化4】

【0020】
1Lの反応容器に15.0gの原料と450mlのテトラヒドロフランを入れる。撹拌して、5.9gの水酸化リチウムと150mlの水の混合液を滴下する。15−20℃の条件下で、24時間撹拌し続ける。この液は塩酸中和反応液であり、液の下部分に紅褐色の沈澱物が出てくる。この液を濾過して、14.3gの紅茶褐色の固体粉末産品PQQ3Li(90.5%)が産出される。
【実施例2】
【0021】
4,5−ジカルボニル−1H−ピロール[2,3−f]キノリン−2,7,9−トリカルボン酸二リチウム塩(PQQ2Li)の合成について示す。
【化5】

【0022】
1Lの反応容器に15.0gの原料と450mlのテトラヒドロフランを入れる。撹拌して、3.93gの水酸化リチウムと150mlの水の混合液を滴下する。15−20℃の条件下で、24時間撹拌し続ける。この液は塩酸中和反応液であり、液の下部分に紅褐色の沈澱物が出てくる。この液を濾過して、13.0gの紅茶褐色の個体粉末産品PQQ2Li(83.9%)が産出される。
【実施例3】
【0023】
4,5−ジカルボニル−1H−ピロール[2,3−f]キノリン−2,7,9−トリカルボン酸一リチウム塩(PQQLi)の合成について示す。
【化6】

【0024】
1Lの反応容器に15.0g原料と450mlのテトラヒドロフランを入れる。撹拌して、1.96gの水酸化リチウムと150mlの水の混合液を滴下する。15−20℃の条件下で、24時間撹拌し続ける。この液は塩酸中和反応液であり、液の下部分に紅褐色の沈澱物が出てくる。この液を濾過して、8.1gの紅茶褐色の個体粉末産品PQQLi(80.1%)が産出される。
【実施例4】
【0025】
<老年痴呆の予防と治療の実験>
1、ピロロキノリンキノンリチウム塩の作り方:
従来の製法は、ピロロキノリンキノンリチウム塩の錠剤、粉末、注射剤、直腸座薬、皮膚パッチ(経皮投与)、液体注射薬、噴霧剤等である。
2、ピロロキノリンキノンリチウム塩の関連剤形を使った臨床応用実験:
ピロロキノリンキノンリチウム塩の関連剤形を使って、経口投与、筋肉内注射、腹腔内注射、静脈内注射、噴霧投与、直腸投与、経皮投与などで、毎日0.1mg−1000mgを投与すると、アルツハイマー型認知症と老衰の予防および治療が果たせる。
3、動物実験での治療効果の観測:
経口投与および腹腔内注射の投与方法で、自然老衰な昆明マウスと遺伝子組換えアルツハイマー型認知症のマウスに、ピロロキノリンキノンリチウム塩を2ヶ月間連続で、体重1000gに対して1mg投薬した。投薬されていないグループは対照グループである。
その結果、ピロロキノリンキノンリチウム塩治療グループでは動物の認知機能に効き、延命効果が出た。この結果より、ピロロキノリンキノンリチウム塩は、アルツハイマー型認知症及び老衰に予防及び治療効果があることが証明できた。
【0026】
ピロロキノリンキノンリチウム塩とベンフォチアミン、或いは、ピロロキノリンキノンリチウム塩とベンフォチアミン及びコエンザイムQ10とを、毎日0.1mg〜1000mgの量、連続して又は時間帯を分けて投薬した。その中で、ピロロキノリンキノンリチウム塩の量は全て0.1mg〜1000mgであり、ベンフォチアミン及びコエンザイムQ10の毎日の量は1mg〜1000mgである。
【0027】
その結果によると、ピロロキノリンキノンリチウム塩とベンフォチアミン、或いは、ピロロキノリンキノンリチウム塩とベンフォチアミン及びコエンザイムQ10とを同時に投薬するとアルツハイマー型認知症と老衰に対し同様の予防及び治療効果があることがわかった。
【実施例5】
【0028】
<パーキンソン病予防及び治療の実験研究>
1、ピロロキノリンキノンリチウム塩の作り方:
従来の製法は、ピロロキノリンキノンリチウム塩の錠剤、粉末、注射剤、直腸座薬、皮膚パッチ(経皮投与)、液体注射薬、噴霧剤等である。
2、ピロロキノリンキノンリチウム塩の関連剤形を使った臨床応用実験:
ピロロキノリンキノンリチウム塩の関連剤形を使って、経口投与、筋肉内注射、腹腔内注射、静脈内注射、噴霧投与、直腸投与、経皮投与などで、毎日0.1mg−1000mgを投与すると、パーキンソン病予防及び治療が果たせる。
3、動物実験での治療効果の観測:
経口投与および腹腔内注射の投与方法で、2ヶ月間連続で6-ヒドロキシドーパミンでパーキンソン病がかかっているマウスにピロロキノリンキノンリチウム塩を体重1000gに対して1mg投薬した。投薬されていないグループは対照グループである。
その結果、マウスの運動機能が顕著的に改善された。この結果より、ピロロキノリンキノンリチウム塩がパーキンソン病に効き目があることが証明できた。
【0029】
ピロロキノリンキノンリチウム塩とベンフォチアミン、或いは、ピロロキノリンキノンリチウム塩とベンフォチアミン及びコエンザイムQ10とを、毎日0.1mg〜1000mgの量、連続して又は時間帯を分けて投薬した。その中で、ピロロキノリンキノンリチウム塩の量は全て0.1mg〜1000mgであり、ベンフォチアミン及びコエンザイムQ10の毎日の量は1mg〜1000mgである。
【0030】
その結果によると、ピロロキノリンキノンリチウム塩とベンフォチアミン、或いは、ピロロキノリンキノンリチウム塩とベンフォチアミン及びコエンザイムQ10とを同時に投薬するとパーキンソン病に対し同様の予防及び治療効果があることがわかった。
【0031】
図1に示すように、ピロロキノリンキノンリチウム塩を投与したAPP/PS1遺伝子組換えマウスは、認知機能が顕著に改善された。その中、マウスは20週齢から8週間連続で投薬する。
Wildtype:野生対照群
CtR1:トランスジェニック対照群
DNP:ジニトロフェノール群
PQQLi1.5:ピロロキノリンキノンリチウム塩1.5mg/kg体重群
PQQLi3 :ピロロキノリンキノンリチウム塩3mg/kg体重群
PQQLi6 :ピロロキノリンキノンリチウム塩6mg/kg体重群
* :p<0.05
** :p<0.01
NS :p>0.05

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化学式(I)
【化1】

(式中R1、R2、R3は同一又は異なっても良い基を示し、水素イオン、リチウムイオン、アンモニウムイオン(NH3)、カリウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、亜鉛イオンのいずれかであり、また、R1、R2、R3のうち少なくとも1つの基はリチウムイオンである。)
で表されることを特徴とするピロロキノリンキノンのリチウム誘導体。
【請求項2】
請求項1に記載のピロロキノリンキノンのリチウム誘導体の製造方法であって、
下記の化学式(II)で表される化合物を原料とし、アルカリ性溶剤の中で酸とアルカリを中和させ、下記の化学式(I)で表されるピロロキノリンキノンのリチウム誘導体を生成する化学反応の段階を含むことを特徴とするピロロキノリンキノンのリチウム誘導体の製造方法。
【化2】

【請求項3】
前記アルカリ性溶剤は水酸化リチウム溶剤であることを特徴とする請求項2に記載のピロロキノリンキノンのリチウム誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記化学反応は、触媒としての酸或いはアルカリを不使用で進行することを特徴とする請求項2に記載のピロロキノリンキノンのリチウム誘導体の製造方法。
【請求項5】
前記化学反応の反応温度は0℃〜100℃であることを特徴とする請求項2に記載のピロロキノリンキノンのリチウム誘導体の製造方法。
【請求項6】
前記化学反応の反応温度は15℃〜20℃であることを特徴とする請求項2に記載のピロロキノリンキノンのリチウム誘導体の製造方法。
【請求項7】
前記化学反応の反応時間は15分〜72時間であることを特徴とする請求項2に記載のピロロキノリンキノンのリチウム誘導体の製造方法。
【請求項8】
老年痴呆、老衰、パーキンソン病のいずれかの薬を作るために使用されることを特徴とする請求項1に記載のピロロキノリンキノンのリチウム誘導体。

【図1】
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【公表番号】特表2012−522731(P2012−522731A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502436(P2012−502436)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【国際出願番号】PCT/CN2010/071382
【国際公開番号】WO2010/111934
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(511234769)上海日馨生物科技有限公司 (1)
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI RIXIN BIO−TECHONOLOGY CO., LTD.
【Fターム(参考)】