ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素の基質特異性を向上する方法
【課題】PQQGDHを反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法を提供する。
【解決手段】ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定方法において、測定反応時のpHを酸性にする工程を含む、ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
【解決手段】ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定方法において、測定反応時のpHを酸性にする工程を含む、ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(以下、ピロロキノリンキノンをPQQ、グルコースデヒドロゲナーゼをGDH、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼをPQQGDHともそれぞれ記載する。)を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法、該マルトースに対する作用性が低減したグルコース測定用組成物、グルコースセンサー、ならびに、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PQQGDHは、ピロロキノリンキノンを補酵素とするグルコース脱水素酵素である。グルコースを酸化してグルコノラクトンを生成する反応を触媒するから、血糖の測定に用いることができる。血中グルコース濃度は、糖尿病の重要なマーカーとして臨床診断上きわめて重要な指標である。現在、血中グルコース濃度の測定はバイオセンサーを用いる方法が主流となっているが、血中グルコース濃度の測定に使用される酵素としてPQQGDHが注目されている。このようなPQQGDHとして例えば、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii) NCIMB11517株が、PQQGDHを産生することを見出し,遺伝子のクローニングならびに高発現系を構築した事例(たとえば、特許文献1を参照。)などが開示されている。
【特許文献1】特開平11−243949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
PQQGDHは、D−グルコースを酸化してD−グルコノ−1,5−ラクトンを生成する反応を触媒する点、及び反応系の溶存酸素の影響を受けず、補酵素添加を必要としない酵素特性を有する点より、血糖の生化学診断薬はもちろん血糖センサー等幅広い用途が期待される反面、2糖類、特に、マルトースに作用するなどの問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記課題を解決するため、その原因について鋭意研究したところ、一般的に血糖センサーで電子のメディエーターとして使用されるフェリシアン化物イオンに対する反応性が低いことがわかった。
我々はこの点についてさらに検討を加え、フェリシアン化物イオンに対して反応性が低い原因は、バッファー条件が中性付近で基質特異性の影響を受けているためであることを明らかにした。
これまでPQQGDHの基質特異性を向上する方策に関する報告としては特許文献2があり、その中では遺伝子レベルでのPQQGDH改変手段を用いた検討が報告されているが、測定反応条件の観点から基質特異性を向上する手段については、その可能性すら触れられていなかった。
【特許文献2】WO03/106668
【0005】
本発明者らは、過去の方策とは異なる視点から、より簡便な基質特異性の改良策を探ることとし、さらなる鋭意研究を実施した結果、グルコース測定反応条件のpHを酸性にすることによりPQQGDHの基質特異性を向上できることを明らかにし、遂に本発明を完成するに到った。即ち本発明は、
[項1]
ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定方法において、測定反応時のpHを酸性にする工程を含む、ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
[項2]
さらに組成物としてメディエーターを含む項1に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
[項3]
メディエーターがフェリシアン化物塩である項2に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
[項4]
ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼが、対応する野生型酵素と比較してマルトース作用性の低下した改変型ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼである、項1に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
[項5]
測定反応時のpHが6.5以下の酸性である、項1に記載のグルコース測定方法。
[項6]
ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを反応させる工程が、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを含むグルコース測定用試薬組成物においてなされることを含む、項1に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
[項7]
グルコース測定用組成物がメディエーターとしてフェリシアン化物イオンを含む形態をとることを含む、項6に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
[項8]
グルコース測定用組成物がグルコースアッセイキットに含まれる形態をとることを含む、項6に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
[項9]
グルコースアッセイキットがピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を含み、かつ、測定反応時のpHが6.5以下の酸性である形態をとることを含む、項8に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
[項10]
ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを反応させる工程が、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを含み、かつ、少なくとも作用極と対極からなる電極を含むグルコースセンサーにおいてなされることを含む、項1に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
[項11]
グルコースセンサーにおける反応が、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを含む反応溶液に電圧を印加し、メディエーターの酸化電流を測定してなる、項10に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
[項12]
グルコースセンサーが、ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を含み、かつ、測定反応時のpHが6.5以下の酸性である形態をとることを含む、項10に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
[項13]
グルコースセンサーが、メディエーターとしてフェリシアン化物イオンを含む、項10に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
[項14]
アミノ酸配列の改変を施した改変型ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ、および、測定反応時のpHを酸性に保つことができる緩衝剤を含む、ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を用いたグルコース測定用組成物においてマルトースに対する作用性が低減したグルコース測定用組成物。
[項15]
アミノ酸配列の改変を施した改変型ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ、および、測定反応時のpHを酸性に保つことができる緩衝剤を含む、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを用いたグルコースセンサーにおいてマルトースに対する作用性が低減したグルコースセンサー。
[項16]
測定反応時のpHを酸性に保つことができる緩衝剤を含有させる工程を含む、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを用いたグルコース測定用組成物においてマルトースに対する作用性が低減したグルコース測定用組成物の製造方法。
[項17]
測定反応時のpHを酸性に保つことができる緩衝剤を含有させる工程を含む、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを用いたグルコースセンサーにおいてマルトースに対する作用性が低減したグルコースセンサーの製造方法。
である。
【発明の効果】
【0006】
本発明による基質特異性の向上は、グルコース測定試薬、グルコースアッセイキット及びグルコースセンサーでの測定精度の向上を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明において、マルトースに対する作用性とは、PQQGDHが当該糖基質を脱水素する作用を意味する。
さらに、マルトース以外にも、グルコース以外の少なくとも1つのマルトース以外の選択された糖基質に対する作用性が低下していてもよい。
グルコース以外の少なくとも1つのマルトース以外の選択された糖基質としては、ガラクトース、マンノース、キシロースなどの単糖類、シュクロース、ラクトース、セロビオースなどの二糖類、マルトトリオース、マルトテトラオースなどのオリゴ糖類、イコデキストリン(グルコースポリマー)などの多糖類(オリゴ糖類は2〜10分子の単糖が、多糖類は11分子以上の単糖がグリコシド結合などにより結合したものを意味し、それらの結合形態は問わない。)二糖類以上の場合はその構成はホモであってもヘテロであっても良い。)、さらには糖アルコール、2−デオキシ−D−グルコース、3−o−メチル−D−グルコースなどそれらの誘導体が該当しうる。
上記の中でも特に、本発明のPQQGDHを糖尿病患者の臨床診断や血糖値コントロール等の目的で行われる血中グルコース濃度測定のために用いる際に問題となりうる、各種糖類が選択されることが好ましい。このような糖としては、マンノース、アロース、キシロース、ガラクトースまたはマルトースなどが挙げられ、さらに好ましくはガラクトース、ラクトースまたはマルトースが例示される。最も好ましくはマルトースが例示される。
【0009】
ある糖類に対する作用性が低下しているかどうかの判断は、次のように行う。
後述の試験例1に記載の活性測定法において、PQQGDHを用いて、D−グルコースを基質溶液とした場合のPQQGDH活性値(a)と、D−グルコースのかわりに当該糖類を基質溶液とした場合のPQQGDH活性値(b)を測定し、グルコースを基質とした場合の測定値を100とした場合に対する相対値((b)/(a)×100)を求める。次いで、条件を変えて同様の操作を行い、その値を比較して判断する。
活性測定は、後述の試験例1に記載の活性測定法により行われる。
【0010】
本発明の方法に適用することができるPQQGDHは、ピロロキノリンキノンを補酵素として配位し、D−グルコースを酸化してD−グルコノ−1,5−ラクトンを生成するという反応を触媒する酵素(EC1.1.5.2(旧EC1.1.99.17))であり、由来や構造に関しては特に限定するものではない。
【0011】
本発明に用いるPQQGDHとしては、由来は特に限定されない。例えば微生物では、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)(例えば、特許文献1を参照。)、アシネトバクター・カルコアセティカス(Acinetobacter calcoaceticus)(例えば、非特許文献1および2を参照。)、シュードモナス・エルギノサ(Pseudomonasaeruginosa)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans)(例えば、非特許文献3を参照。)等の酸化細菌やアグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacteriumradiobacter)、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)(例えば、非特許文献4を参照。)、クレブシーラ・エーロジーンズ(Klebsiella aerogenes)等の腸内細菌、ブルクホルデリア・セパシア(Burkhorderia cepacia)などを挙げることができる。
【非特許文献1】A.M.Cleton−Jansenら、J.Bacteriol.,170,2121(1988)
【非特許文献2】Mol.Gen.Genet.,217,430(1989)
【非特許文献3】Mol.Gen.Genet.,229,206(1991)
【非特許文献4】A.M.Cleton−Jansenら、J.Bacteriol.,172,6308(1990)
【0012】
上記のうち好ましいのは、アシネトバクター属由来のPQQGDHである。これらは可溶型酵素であり水系において易溶である。さらに好ましいのは、アシネトバクター・カルコアセティカスもしくはアシネトバクター・バウマンニのいずれかに由来するPQQGDHである。さらにより好ましいのは、アシネトバクター・バウマンニ NCIMB 11517株由来(例えば、特許文献1を参照。)、アシネトバクター・カルコアセティカス LMD79.41株由来(例えば、非特許文献1および2を参照。)、もしくは、アシネトバクター・カルコアセティカス IFO 12552株(例えば、特許文献3を参照。)のPQQGDHである。もっとも好ましいのは、アシネトバクター・バウマンニ NCIMB 11517株由来のPQQGDHである。なお、アシネトバクター・バウマンニNCIMB11517株は、分類当初はAcinetobacter calcoaceticusとされていた。
【特許文献3】特開2004−173538
【0013】
本発明の方法に適用することができるPQQGDHは、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有する限り、上記に例示されたものにさらに他のアミノ酸残基の一部が欠失または置換されていてもよく、また他のアミノ酸残基が付加されていてもよい。
【0014】
このような改変は当該技術分野における公知技術を用いて当業者であれば容易に実施することが出来る。例えば、蛋白質に部位特異的変異を導入するために当該蛋白質をコードする遺伝子の塩基配列を置換または挿入するための種々の方法が、Sambrookら著、Molecular Cloning; A Laboratory Manual 第2版(1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkに記載されている。
【0015】
これらのPQQGDHは、たとえば東洋紡績製GLD−321など市販のものを用いることが出来る。あるいは、当該技術分野における公知技術を用いて当業者であれば容易に製造することが出来る。
【0016】
例えば、上記のPQQGDHを生産する天然の微生物、あるいは、天然のPQQGDHをコードする遺伝子をそのまま、あるいは、変異させてから、発現用ベクター(多くのものが当該技術分野において知られている。例えばプラスミド。)に挿入し、適当な宿主(多くのものが当該技術分野において知られている。例えば大腸菌。)に形質転換させた形質転換体を培養し、培養液から遠心分離などで菌体を回収した後、菌体を機械的方法またはリゾチームなどの酵素的方法で破壊し、また、必要に応じてEDTAなどのキレート剤や界面活性剤等を添加して可溶化し、PQQGDHを含む水溶性画分を得ることができる。または適当な宿主ベクター系を用いることにより、発現したPQQGDHを直接培養液中に分泌させることが出来る。
【0017】
上記のようにして得られたPQQGDH含有溶液を、例えば減圧濃縮、膜濃縮、さらに硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウムなどの塩析処理、あるいは親水性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、アセトンなどによる分別沈殿法により沈殿せしめればよい。また、加熱処理や等電点処理も有効な精製手段である。また、吸着剤あるいはゲルろ過剤などによるゲルろ過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィーを行うことにより、精製されたPQQGDHを得ることができる。該精製酵素標品は、電気泳動(SDS−PAGE)的に単一のバンドを示す程度に純化されていることが好ましい。
【0018】
上記工程と前後して、全GDH酵素タンパク質に対するホロ型PQQGDHの割合を向上させるために、好ましくは25〜50℃、より好ましくは30〜45℃の加熱処理を行っても良い。
【0019】
本発明におけるPQQGDHの濃度は特に制約がない。
【0020】
PQQGDHの酵素活性は以下の方法により測定できる。
PQQGDH酵素活性の測定方法
(1)測定原理
D−グルコース+PMS+PQQGDH → D−グルコノ−1,5−ラクトン + PMS(red)
2PMS(red) + NTB → 2PMS + ジホルマザン
フェナジンメトサルフェート(PMS)(red)によるニトロテトラゾリウムブルー(NTB)の還元により形成されたジホルマザンの存在は、570nmで分光光度法により測定した。
(2)単位の定義
1単位は、以下に記載の条件下で1分当たりジホルマザンを0.5ミリモル形成させるPQQGDHの酵素量をいう。
(3)方法
試薬
A.D−グルコース溶液:0.5M(0.9g D−グルコース(分子量180.16)/10ml H2O)
B.PIPES−NaOH緩衝液, pH6.5:50mM(60mLの水中に懸濁した1.51gのPIPES(分子量302.36)を、5N NaOHに溶解し、2.2mlの10% Triton X−100を加える。5N NaOHを用いて25℃でpHを6.5±0.05に調整し、水を加えて100mlとした。)
C.PMS溶液:3.0mM(9.19mgのフェナジンメトサルフェート(分子量817.65)/10mlH2O)
D.NTB溶液:6.6mM(53.96mgのニトロテトラゾリウムブルー(分子量817.65)/10mlH2O)
E.酵素希釈液:1mM CaCl2, 0.1% Triton X−100, 0.1% BSAを含む50mM PIPES−NaOH緩衝液(pH6.5)
手順
遮光ビンに以下の反応混合物を調製し、氷上で貯蔵した(用時調製)
1.8ml D−グルコース溶液 (A)
24.6ml PIPES−NaOH緩衝液(pH6.5) (B)
2.0ml PMS溶液 (C)
1.0ml NTB溶液 (D)
上記アッセイ混合物中の濃度は次のとおり。
PIPES緩衝液 42mM
D−グルコース 30mM
PMS 0.20mM
NTB 0.22mM
3.0mlの反応混合液を試験管(プラスチック製)に入れ、37℃で5分間予備加温した。
0.1mlの酵素溶液を加え、穏やかに反転して混合した。
570nmでの水に対する吸光度の増加を37℃に維持しながら分光光度計で4〜5分間記録し、曲線の初期直線部分からの1分当たりのΔODを計算した(ODテスト)。
同時に、酵素溶液に代えて酵素希釈液(E)加えることを除いては同一の方法を繰り返し、ブランク(ΔODブランク)を測定した。
アッセイの直前に氷冷した酵素希釈液(E)で酵素粉末を溶解し、同一の緩衝液で0.1−0.8U/mlに希釈した(該酵素の接着性のためにプラスチックチューブの使用が好ましい)。
計算
活性を以下の式を用いて計算する:
U/ml={ΔOD/min(ΔODテスト− ΔODブランク)×Vt×df}/(20.1×1.0×Vs)
U/mg=(U/ml)×1/C
Vt:総体積(3.1ml)
Vs:サンプル体積(1.0ml)
20.1:ジホルマザンの1/2ミリモル分子吸光係数
1.0:光路長(cm)
df:希釈係数
C:溶液中の酵素濃度(c mg/ml)
【0021】
本発明の方法においては測定時のpHは酸性である。pHが酸性とは7.0未満を指し特に限定されないが、本発明において好ましい上限はpH6.5以下、さらに好ましくはpH3.5〜5.5である。
【0022】
本発明の方法において測定時のpHを酸性にするために、種々のバッファーを用いることが出来る。そのようなバッファーとしては、pHを酸性に保つことができる緩衝能を持つものであれば特に限定されない。一般に使用することができるバッファー種としては、トリス塩酸、ホウ酸、リン酸、酢酸、クエン酸、コハク酸、フタル酸、マレイン酸、グリシン及びそれらの塩などやMES、Bis−Tris、ADA、PIPES、ACES、MOPSO、BES、MOPS、TES、HEPES等のグット緩衝液などがあげられる。
カルシウムと不溶性の塩を形成しない緩衝液が好ましい。
これらのうち1種のみを適用してもよいし、2種以上を用いてもよい。さらには上記以外を含む1種以上の複合組成であってもよい。
また、これらの添加濃度としては、緩衝能を持つ範囲であれば特に限定されないが、好ましい上限は100mM以下、より好ましくは50mM以下である。好ましい下限は5mM以上である。
凍結乾燥物中においては緩衝剤の含有量は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.1%(重量比)以上、特に好ましくは0.1〜30%(重量比)の範囲で使用される。
これらは、種々の市販の試薬を用いることが出来る。
【0023】
これらのバッファーは測定時に添加してもよいし、後記するグルコース測定用試薬、グルコースアッセイキットあるいはグルコースセンサーを作製するときに予め含有させておくこともできる。なお、その際には、液体状態、乾燥状態などの形態は問われず、測定時に機能するようにしておけばよい。
【0024】
本発明でいう基質特異性の向上とは、PQQGDH酵素のグルコースに対する反応性がグルコース以外の糖類に対する反応性よりも向上することを意味する。グルコース以外の糖類としては、特に二糖類のマルトース、シュクロース、ラクトース、セロビオースなどが例示され、特にマルトースが例示される。本願発明では、二糖類に対する作用性が低下したことも、基質特異性の向上と表現する。
【0025】
二糖類に対する作用性が低下しているかどうかの判断は、次のように行う。
後述の試験例1に記載の活性測定法において、PQQGDH酵素を用いて、D−グルコースを基質溶液とした場合のPQQGDH活性値(a)と、D−グルコースのかわりに当該二糖類を基質溶液とした場合のPQQGDH活性値(b)を測定し、グルコースを基質とした場合の測定値を100とした場合に対する相対値((b)/(a)×100)を求める。
【0026】
本発明の効果は、メディエーターを含む系においてより顕著なものとなる。本発明の方法に適用できるメディエーターは特に限定されないが、フェナジンメトサルフェート(PMS)と2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(DCPIP)との組み合わせ、PMSとニトロブルーテトラゾリウム(NBT)との組み合わせ、DCPIP単独、フェリシアン化物イオン(化合物としてはフェリシアン化カリウムなど)単独、フェロセン単独などが挙げられる。中でもフェリシアン化物イオン(化合物としてはフェリシアン化カリウムなど)が好ましい。
これらの各メディエーターは感度に様々な違いが存在するするために、添加濃度を一律に規定する必要性はないが、一般的には1mM以上の添加が望ましい。
【0027】
これらのメディエーターは測定時に添加してもよいし、後記するグルコース測定用試薬、グルコースアッセイキットあるいはグルコースセンサーを作製するときに予め含有させておくこともできる。なお、その際には、液体状態、乾燥状態などの形態は問われず、測定時に反応時に解離してイオンの状態になるようにしておけばよい。
【0028】
本発明においてはさらに必要に応じて種々の成分を共存させることが出来る。例えば、界面活性剤、安定化剤、賦形剤などを添加しても良い。
【0029】
例えば、カルシウムイオンまたはその塩、およびグルタミン酸、グルタミン、リジン等のアミノ酸類、さらに血清アルブミン等を添加することによりPQQGDHをより安定化することができる。
【0030】
例えば、カルシウムイオンまたはカルシウム塩を含有させることにより、PQQGDHを安定化させることができる。カルシウム塩としては、塩化カルシウムまたは酢酸カルシウムもしくはクエン酸カルシウム等の無機酸または有機酸のカルシウム塩などが例示される。また、水性組成物において、カルシウムイオンの含有量は、1×10-4〜1×10-2Mであることが好ましい。
【0031】
カルシウムイオンまたはカルシウム塩を含有させることによる安定化効果は、グルタミン酸、グルタミンおよびリジンからなる群から選択されたアミノ酸を含有させることにより、さらに向上する。グルタミン酸、グルタミンおよびリジンからなる群から選択されるアミノ酸は、1種または2種以上であってもよい。ここにさらに牛血清アルブミン(BSA)、卵白アルブミン(OVA)を含有させてもよい。
【0032】
あるいは、(1)アスパラギン酸、グルタミン酸、α−ケトグルタル酸、リンゴ酸、α−ケトグルコン酸、α−サイクロデキストリンおよびそれらの塩からなる群から選ばれた1種または2種以上の化合物および(2)アルブミンを共存せしめることにより、PQQGDHを安定化することができる。
【0033】
本発明においては以下の種々の方法によりグルコースを測定することができる。
本発明のグルコース測定用試薬、グルコースアッセイキット、グルコースセンサーは、液状(水溶液、懸濁液等)、真空乾燥やスプレードライなどにより粉末化したもの、凍結乾燥など種々の形態をとることができる。凍結乾燥法としては、特に制限されるものではなく常法に従って行えばよい。本発明の酵素を含む組成物は凍結乾燥物に限られず、凍結乾燥物を再溶解した溶液状態であってもよい。
【0034】
グルコース測定用試薬
本発明のグルコース測定用試薬は、典型的には、PQQGDH、緩衝液、メディエーターなど測定に必要な試薬、キャリブレーションカーブ作製のためのグルコース標準溶液、ならびに使用の指針を含む。本発明のキットは、例えば、凍結乾燥された試薬として、または適切な保存溶液中の溶液として提供することができる。好ましくは本発明のPQQGDHはホロ化した形態で提供されるが、アポ酵素の形態で提供し、使用時にホロ化することもできる。
【0035】
グルコースアッセイキット
本発明のグルコースアッセイキットは、典型的には、PQQGDH、緩衝液、メディエーターなど測定に必要な試薬、キャリブレーションカーブ作製のためのグルコース標準溶液、ならびに使用の指針を含む。本発明のキットは、例えば、凍結乾燥された試薬として、または適切な保存溶液中の溶液として提供することができる。好ましくは本発明のPQQGDHはホロ化した形態で提供されるが、アポ酵素の形態で提供し、使用時にホロ化することもできる。
【0036】
グルコースセンサー
本発明のグルコースセンサーは、電極としては、カーボン電極、金電極、白金電極などを用い、この電極上にPQQGLDを固定化する。固定化方法としては、架橋試薬を用いる方法、高分子マトリックス中に封入する方法、透析膜で被覆する方法、光架橋性ポリマー、導電性ポリマー、酸化還元ポリマーなどを用いる方法があり、あるいはフェロセンあるいはその誘導体に代表される電子メディエーターとともにポリマー中に固定あるいは電極上に吸着固定してもよく、またこれらを組み合わせて用いてもよい。好ましくは本発明のPQQGDHはホロ化した形態で電極上に固定化するが、アポ酵素の形態で固定化し、PQQを別の層としてまたは溶液中で供給することも可能である。典型的には、グルタルアルデヒドを用いて本発明のPQQGDHをカーボン電極上に固定化した後、アミン基を有する試薬で処理してグルタルアルデヒドをブロッキングする。
【0037】
グルコース濃度の測定は、以下のようにして行うことができる。恒温セルに緩衝液を入れ、CaCl2、およびメディエーターを加えて一定温度に維持する。メディエーターとしては、フェリシアン化カリウム、フェナジンメトサルフェートなどを用いることができる。作用電極として本発明のPQQGDHを固定化した電極を用い、対極(例えば白金電極)および参照電極(例えばAg/AgCl電極)を用いる。カーボン電極に一定の電圧を印加して、電流が定常になった後、グルコースを含む試料を加えて電流の増加を測定する。標準濃度のグルコース溶液により作製したキャリブレーションカーブに従い、試料中のグルコース濃度を計算することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明は実施例によって限定されることはない。
【0039】
実施例1
グルコース測定系を用いた基質特異性の確認
測定原理
PQQGDH
D−グルコース+フェリシアン化物イオン→
D−グルコノ−1,5−ラクトン + フェロシアン化物イオン
D−グルコースの部分を他の糖類に変更して、それぞれの基質に対する特異性を測定する。フェリシアン化物イオンの還元により生じたフェロシアン化物イオンの存在は、分光光度法により波長420nmでの吸光度の減少を測定することで確認した。
(2)方法
試薬
A.各種緩衝液, PIPES−NaOH緩衝液pH6.5:50mM(60mLの水中に懸濁した1.51gのPIPES(分子量302.36)を、5N NaOHを添加して溶解し、2.2mlの10% Triton X−100を加える。更に、5N NaOHを用いて25℃でpHを6.5±0.05に調整し、水を加えて100mlとした。MES−NaOH緩衝液pH6.5、フタル酸−NaOH緩衝液pH6.5、シトラコン酸−NaOH緩衝液pH6.5、グルタル酸−NaOH緩衝液pH6.5の各種緩衝液もPIPESの時と同様の方法で作製した。)
B.フェリシアン化カリウム溶液:50mM(0.165g フェリシアン化カリウム(分子量329.25)を 10ml 蒸留水にて溶解した)
C.PQQGDH溶液:8000U/ml(約100mg PQQGDH(東洋紡績社製:GLD−321)を蒸留水10mlに溶解した)
サンプル
D−グルコース溶液:各々150,300,450,600,750,900,1050,1200,1350及び1500mMの各濃度(270g D−グルコース(分子量180.16)/1000mlH2Oにて調製した1500mMグルコース溶液を基準にして、1/10,2/10,3/10,4/10,5/10,6/10,7/10,8/10,9/10水希釈して作成した)
マルトース溶液:各々150,300,450,600,750,900,1050,1200,1350及び1500mMの各濃度(270g D−グルコース(分子量180.16)/1000mlH2Oにて調製した1500mMグルコース溶液を基準にして、1/10,2/10,3/10,4/10,5/10,6/10,7/10,8/10,9/10水希釈して作成した)
手順
1.遮光ビンに以下の反応混合物を調製し、氷上で貯蔵した(用時調製)
49.6ml 各種緩衝液(pH6.5) (A)
4.0ml フェリシアン化カリウム溶液 (B)
5.6ml (C)
2. 3.0mlの反応混合液を試験管(プラスチック製)に入れ、37℃で5分間予備加温した。
3. 0.1mlのグルコース溶液を加え、穏やかに混合した。
4. 420nmでの水に対する吸光度の減少を37℃に維持しながら分光光度計で1〜3分間記録し、曲線の初期直線部分からの1分間当たりのΔODを計算した(ΔODテスト)。同時に、グルコース溶液に代えて蒸留水を加えることを除いては同一の方法を実施し、ブランク(ΔODブランク)を測定した。
上記操作を、各150mM〜1500mMの各濃度のグルコース溶液またはマルトース溶液を用いて実施した。
【0040】
計算
ΔOD/min(ΔODテスト− ΔODブランク)を算出することにより、単位時間当たりの吸光度変化を求めた。
グラフの横軸に反応液中のグルコース濃度、縦軸に各グルコース濃度に対応するΔOD/minをプロットする。
グルコース以外の糖類に対する作用性が低下しているかどうかの判断は、D−グルコースを基質溶液とした場合のΔOD/min(a)と、D−グルコースのかわりにその他の糖類を基質溶液とした場合のΔOD/min(b)を測定し、グルコースを基質とした場合の測定値を100とした場合に対する相対値((b)/(a)×100)を求め、行った。
【0041】
実施例2
グルコース測定系のpH条件を変更することによる基質特異性改良の検討
実施例1の手法に基づき、バッファーのpHを6.5から5.5に変更して実施した。 各種緩衝液(A)は、緩衝液の組成による影響よりもpHに対する影響が大きいことを確かめるため、グッドバッファー(PIPES、MES)、酸バッファー(フタル酸、シトラコン酸、グルタル酸)などの複数の緩衝液で検討した。その他の条件は全て実施例1に従った。図1〜30の内、奇数番号は緩衝液pH5.5での結果、偶数番号は緩衝液pH6.5の結果を示す。図1〜10は野生型PQQGLDの結果、図11〜20は基質特異性が向上した改変体Aの結果、図21〜30は同じく基質特異性が向上した改変体Bの結果を示す。図1,2,11,12,21,22はPIPES緩衝液の結果、図3,4,13,14,23,24はMES緩衝液の結果、図5,6,15,16,25,26はフタル酸緩衝液の結果、図7,8,17,18,27,28はシトラコン酸緩衝液の結果、図9,10,19,20,29,30はグルタル酸緩衝液の結果を示す。
図1〜10の野生型PQQGLDの結果を比べた場合、緩衝液の組成に関わらず、緩衝液のpHを下げることにより、マルトースに対する作用性が向上してPQQGLDのグルコースに対する特異性は低下する傾向が見られた。一方、グルコースに対する基質特異性が向上した改変体A,Bでは、野生型PQQGLDとは異なり、緩衝液の組成に関わらず、緩衝液のpHを下げることにより、グルコースに対する作用性が向上してPQQGLDのグルコースに対する特異性が向上する傾向が見られた。各基質濃度でのマルトースに対する作用性(%)を表1〜3に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
このように、グルコースに対する基質特異性が向上した改変体では、バッファーのpHを中性付近から酸性側へ移行することにより、1.5〜6.5倍基質特異性を更に向上できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明による基質特異性の改良は、グルコース測定試薬、グルコースアッセイキット及びグルコースセンサでの測定精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】野生型PQQGDHのPIPES(pH5.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図2】野生型PQQGDHのPIPES(pH6.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図3】野生型PQQGDHのMES(pH5.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図4】野生型PQQGDHのMES(pH6.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図5】野生型PQQGDHのフタル酸(pH5.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図6】野生型PQQGDHのフタル酸(pH6.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図7】野生型PQQGDHのシトラコン酸(pH5.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図8】野生型PQQGDHのシトラコン酸(pH6.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図9】野生型PQQGDHのグルタル酸(pH5.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図10】野生型PQQGDHのグルタル酸(pH6.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図11】PQQGDH改変体AのPIPES(pH5.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図12】PQQGDH改変体AのPIPES(pH6.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図13】PQQGDH改変体AのMES(pH5.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図14】PQQGDH改変体AのMES(pH6.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図15】PQQGDH改変体Aのフタル酸(pH5.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図16】PQQGDH改変体Aのフタル酸(pH6.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図17】PQQGDH改変体Aのシトラコン酸(pH5.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図18】PQQGDH改変体Aのシトラコン酸(pH6.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図19】PQQGDH改変体Aのグルタル酸(pH5.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図20】PQQGDH改変体Bのグルタル酸(pH6.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図21】PQQGDH改変体BのPIPES(pH5.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図22】PQQGDH改変体BのPIPES(pH6.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図23】PQQGDH改変体BのMES(pH5.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図24】PQQGDH改変体BのMES(pH6.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図25】PQQGDH改変体Bのフタル酸(pH5.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図26】PQQGDH改変体Bのフタル酸(pH6.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図27】PQQGDH改変体Bのシトラコン酸(pH5.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図28】PQQGDH改変体Bのシトラコン酸(pH6.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図29】PQQGDH改変体Bのグルタル酸(pH5.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図30】PQQGDH改変体Bのグルタル酸(pH6.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(以下、ピロロキノリンキノンをPQQ、グルコースデヒドロゲナーゼをGDH、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼをPQQGDHともそれぞれ記載する。)を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法、該マルトースに対する作用性が低減したグルコース測定用組成物、グルコースセンサー、ならびに、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PQQGDHは、ピロロキノリンキノンを補酵素とするグルコース脱水素酵素である。グルコースを酸化してグルコノラクトンを生成する反応を触媒するから、血糖の測定に用いることができる。血中グルコース濃度は、糖尿病の重要なマーカーとして臨床診断上きわめて重要な指標である。現在、血中グルコース濃度の測定はバイオセンサーを用いる方法が主流となっているが、血中グルコース濃度の測定に使用される酵素としてPQQGDHが注目されている。このようなPQQGDHとして例えば、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii) NCIMB11517株が、PQQGDHを産生することを見出し,遺伝子のクローニングならびに高発現系を構築した事例(たとえば、特許文献1を参照。)などが開示されている。
【特許文献1】特開平11−243949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
PQQGDHは、D−グルコースを酸化してD−グルコノ−1,5−ラクトンを生成する反応を触媒する点、及び反応系の溶存酸素の影響を受けず、補酵素添加を必要としない酵素特性を有する点より、血糖の生化学診断薬はもちろん血糖センサー等幅広い用途が期待される反面、2糖類、特に、マルトースに作用するなどの問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記課題を解決するため、その原因について鋭意研究したところ、一般的に血糖センサーで電子のメディエーターとして使用されるフェリシアン化物イオンに対する反応性が低いことがわかった。
我々はこの点についてさらに検討を加え、フェリシアン化物イオンに対して反応性が低い原因は、バッファー条件が中性付近で基質特異性の影響を受けているためであることを明らかにした。
これまでPQQGDHの基質特異性を向上する方策に関する報告としては特許文献2があり、その中では遺伝子レベルでのPQQGDH改変手段を用いた検討が報告されているが、測定反応条件の観点から基質特異性を向上する手段については、その可能性すら触れられていなかった。
【特許文献2】WO03/106668
【0005】
本発明者らは、過去の方策とは異なる視点から、より簡便な基質特異性の改良策を探ることとし、さらなる鋭意研究を実施した結果、グルコース測定反応条件のpHを酸性にすることによりPQQGDHの基質特異性を向上できることを明らかにし、遂に本発明を完成するに到った。即ち本発明は、
[項1]
ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定方法において、測定反応時のpHを酸性にする工程を含む、ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
[項2]
さらに組成物としてメディエーターを含む項1に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
[項3]
メディエーターがフェリシアン化物塩である項2に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
[項4]
ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼが、対応する野生型酵素と比較してマルトース作用性の低下した改変型ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼである、項1に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
[項5]
測定反応時のpHが6.5以下の酸性である、項1に記載のグルコース測定方法。
[項6]
ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを反応させる工程が、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを含むグルコース測定用試薬組成物においてなされることを含む、項1に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
[項7]
グルコース測定用組成物がメディエーターとしてフェリシアン化物イオンを含む形態をとることを含む、項6に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
[項8]
グルコース測定用組成物がグルコースアッセイキットに含まれる形態をとることを含む、項6に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
[項9]
グルコースアッセイキットがピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を含み、かつ、測定反応時のpHが6.5以下の酸性である形態をとることを含む、項8に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
[項10]
ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを反応させる工程が、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを含み、かつ、少なくとも作用極と対極からなる電極を含むグルコースセンサーにおいてなされることを含む、項1に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
[項11]
グルコースセンサーにおける反応が、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを含む反応溶液に電圧を印加し、メディエーターの酸化電流を測定してなる、項10に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
[項12]
グルコースセンサーが、ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を含み、かつ、測定反応時のpHが6.5以下の酸性である形態をとることを含む、項10に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
[項13]
グルコースセンサーが、メディエーターとしてフェリシアン化物イオンを含む、項10に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
[項14]
アミノ酸配列の改変を施した改変型ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ、および、測定反応時のpHを酸性に保つことができる緩衝剤を含む、ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を用いたグルコース測定用組成物においてマルトースに対する作用性が低減したグルコース測定用組成物。
[項15]
アミノ酸配列の改変を施した改変型ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ、および、測定反応時のpHを酸性に保つことができる緩衝剤を含む、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを用いたグルコースセンサーにおいてマルトースに対する作用性が低減したグルコースセンサー。
[項16]
測定反応時のpHを酸性に保つことができる緩衝剤を含有させる工程を含む、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを用いたグルコース測定用組成物においてマルトースに対する作用性が低減したグルコース測定用組成物の製造方法。
[項17]
測定反応時のpHを酸性に保つことができる緩衝剤を含有させる工程を含む、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを用いたグルコースセンサーにおいてマルトースに対する作用性が低減したグルコースセンサーの製造方法。
である。
【発明の効果】
【0006】
本発明による基質特異性の向上は、グルコース測定試薬、グルコースアッセイキット及びグルコースセンサーでの測定精度の向上を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明において、マルトースに対する作用性とは、PQQGDHが当該糖基質を脱水素する作用を意味する。
さらに、マルトース以外にも、グルコース以外の少なくとも1つのマルトース以外の選択された糖基質に対する作用性が低下していてもよい。
グルコース以外の少なくとも1つのマルトース以外の選択された糖基質としては、ガラクトース、マンノース、キシロースなどの単糖類、シュクロース、ラクトース、セロビオースなどの二糖類、マルトトリオース、マルトテトラオースなどのオリゴ糖類、イコデキストリン(グルコースポリマー)などの多糖類(オリゴ糖類は2〜10分子の単糖が、多糖類は11分子以上の単糖がグリコシド結合などにより結合したものを意味し、それらの結合形態は問わない。)二糖類以上の場合はその構成はホモであってもヘテロであっても良い。)、さらには糖アルコール、2−デオキシ−D−グルコース、3−o−メチル−D−グルコースなどそれらの誘導体が該当しうる。
上記の中でも特に、本発明のPQQGDHを糖尿病患者の臨床診断や血糖値コントロール等の目的で行われる血中グルコース濃度測定のために用いる際に問題となりうる、各種糖類が選択されることが好ましい。このような糖としては、マンノース、アロース、キシロース、ガラクトースまたはマルトースなどが挙げられ、さらに好ましくはガラクトース、ラクトースまたはマルトースが例示される。最も好ましくはマルトースが例示される。
【0009】
ある糖類に対する作用性が低下しているかどうかの判断は、次のように行う。
後述の試験例1に記載の活性測定法において、PQQGDHを用いて、D−グルコースを基質溶液とした場合のPQQGDH活性値(a)と、D−グルコースのかわりに当該糖類を基質溶液とした場合のPQQGDH活性値(b)を測定し、グルコースを基質とした場合の測定値を100とした場合に対する相対値((b)/(a)×100)を求める。次いで、条件を変えて同様の操作を行い、その値を比較して判断する。
活性測定は、後述の試験例1に記載の活性測定法により行われる。
【0010】
本発明の方法に適用することができるPQQGDHは、ピロロキノリンキノンを補酵素として配位し、D−グルコースを酸化してD−グルコノ−1,5−ラクトンを生成するという反応を触媒する酵素(EC1.1.5.2(旧EC1.1.99.17))であり、由来や構造に関しては特に限定するものではない。
【0011】
本発明に用いるPQQGDHとしては、由来は特に限定されない。例えば微生物では、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)(例えば、特許文献1を参照。)、アシネトバクター・カルコアセティカス(Acinetobacter calcoaceticus)(例えば、非特許文献1および2を参照。)、シュードモナス・エルギノサ(Pseudomonasaeruginosa)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans)(例えば、非特許文献3を参照。)等の酸化細菌やアグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacteriumradiobacter)、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)(例えば、非特許文献4を参照。)、クレブシーラ・エーロジーンズ(Klebsiella aerogenes)等の腸内細菌、ブルクホルデリア・セパシア(Burkhorderia cepacia)などを挙げることができる。
【非特許文献1】A.M.Cleton−Jansenら、J.Bacteriol.,170,2121(1988)
【非特許文献2】Mol.Gen.Genet.,217,430(1989)
【非特許文献3】Mol.Gen.Genet.,229,206(1991)
【非特許文献4】A.M.Cleton−Jansenら、J.Bacteriol.,172,6308(1990)
【0012】
上記のうち好ましいのは、アシネトバクター属由来のPQQGDHである。これらは可溶型酵素であり水系において易溶である。さらに好ましいのは、アシネトバクター・カルコアセティカスもしくはアシネトバクター・バウマンニのいずれかに由来するPQQGDHである。さらにより好ましいのは、アシネトバクター・バウマンニ NCIMB 11517株由来(例えば、特許文献1を参照。)、アシネトバクター・カルコアセティカス LMD79.41株由来(例えば、非特許文献1および2を参照。)、もしくは、アシネトバクター・カルコアセティカス IFO 12552株(例えば、特許文献3を参照。)のPQQGDHである。もっとも好ましいのは、アシネトバクター・バウマンニ NCIMB 11517株由来のPQQGDHである。なお、アシネトバクター・バウマンニNCIMB11517株は、分類当初はAcinetobacter calcoaceticusとされていた。
【特許文献3】特開2004−173538
【0013】
本発明の方法に適用することができるPQQGDHは、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有する限り、上記に例示されたものにさらに他のアミノ酸残基の一部が欠失または置換されていてもよく、また他のアミノ酸残基が付加されていてもよい。
【0014】
このような改変は当該技術分野における公知技術を用いて当業者であれば容易に実施することが出来る。例えば、蛋白質に部位特異的変異を導入するために当該蛋白質をコードする遺伝子の塩基配列を置換または挿入するための種々の方法が、Sambrookら著、Molecular Cloning; A Laboratory Manual 第2版(1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkに記載されている。
【0015】
これらのPQQGDHは、たとえば東洋紡績製GLD−321など市販のものを用いることが出来る。あるいは、当該技術分野における公知技術を用いて当業者であれば容易に製造することが出来る。
【0016】
例えば、上記のPQQGDHを生産する天然の微生物、あるいは、天然のPQQGDHをコードする遺伝子をそのまま、あるいは、変異させてから、発現用ベクター(多くのものが当該技術分野において知られている。例えばプラスミド。)に挿入し、適当な宿主(多くのものが当該技術分野において知られている。例えば大腸菌。)に形質転換させた形質転換体を培養し、培養液から遠心分離などで菌体を回収した後、菌体を機械的方法またはリゾチームなどの酵素的方法で破壊し、また、必要に応じてEDTAなどのキレート剤や界面活性剤等を添加して可溶化し、PQQGDHを含む水溶性画分を得ることができる。または適当な宿主ベクター系を用いることにより、発現したPQQGDHを直接培養液中に分泌させることが出来る。
【0017】
上記のようにして得られたPQQGDH含有溶液を、例えば減圧濃縮、膜濃縮、さらに硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウムなどの塩析処理、あるいは親水性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、アセトンなどによる分別沈殿法により沈殿せしめればよい。また、加熱処理や等電点処理も有効な精製手段である。また、吸着剤あるいはゲルろ過剤などによるゲルろ過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィーを行うことにより、精製されたPQQGDHを得ることができる。該精製酵素標品は、電気泳動(SDS−PAGE)的に単一のバンドを示す程度に純化されていることが好ましい。
【0018】
上記工程と前後して、全GDH酵素タンパク質に対するホロ型PQQGDHの割合を向上させるために、好ましくは25〜50℃、より好ましくは30〜45℃の加熱処理を行っても良い。
【0019】
本発明におけるPQQGDHの濃度は特に制約がない。
【0020】
PQQGDHの酵素活性は以下の方法により測定できる。
PQQGDH酵素活性の測定方法
(1)測定原理
D−グルコース+PMS+PQQGDH → D−グルコノ−1,5−ラクトン + PMS(red)
2PMS(red) + NTB → 2PMS + ジホルマザン
フェナジンメトサルフェート(PMS)(red)によるニトロテトラゾリウムブルー(NTB)の還元により形成されたジホルマザンの存在は、570nmで分光光度法により測定した。
(2)単位の定義
1単位は、以下に記載の条件下で1分当たりジホルマザンを0.5ミリモル形成させるPQQGDHの酵素量をいう。
(3)方法
試薬
A.D−グルコース溶液:0.5M(0.9g D−グルコース(分子量180.16)/10ml H2O)
B.PIPES−NaOH緩衝液, pH6.5:50mM(60mLの水中に懸濁した1.51gのPIPES(分子量302.36)を、5N NaOHに溶解し、2.2mlの10% Triton X−100を加える。5N NaOHを用いて25℃でpHを6.5±0.05に調整し、水を加えて100mlとした。)
C.PMS溶液:3.0mM(9.19mgのフェナジンメトサルフェート(分子量817.65)/10mlH2O)
D.NTB溶液:6.6mM(53.96mgのニトロテトラゾリウムブルー(分子量817.65)/10mlH2O)
E.酵素希釈液:1mM CaCl2, 0.1% Triton X−100, 0.1% BSAを含む50mM PIPES−NaOH緩衝液(pH6.5)
手順
遮光ビンに以下の反応混合物を調製し、氷上で貯蔵した(用時調製)
1.8ml D−グルコース溶液 (A)
24.6ml PIPES−NaOH緩衝液(pH6.5) (B)
2.0ml PMS溶液 (C)
1.0ml NTB溶液 (D)
上記アッセイ混合物中の濃度は次のとおり。
PIPES緩衝液 42mM
D−グルコース 30mM
PMS 0.20mM
NTB 0.22mM
3.0mlの反応混合液を試験管(プラスチック製)に入れ、37℃で5分間予備加温した。
0.1mlの酵素溶液を加え、穏やかに反転して混合した。
570nmでの水に対する吸光度の増加を37℃に維持しながら分光光度計で4〜5分間記録し、曲線の初期直線部分からの1分当たりのΔODを計算した(ODテスト)。
同時に、酵素溶液に代えて酵素希釈液(E)加えることを除いては同一の方法を繰り返し、ブランク(ΔODブランク)を測定した。
アッセイの直前に氷冷した酵素希釈液(E)で酵素粉末を溶解し、同一の緩衝液で0.1−0.8U/mlに希釈した(該酵素の接着性のためにプラスチックチューブの使用が好ましい)。
計算
活性を以下の式を用いて計算する:
U/ml={ΔOD/min(ΔODテスト− ΔODブランク)×Vt×df}/(20.1×1.0×Vs)
U/mg=(U/ml)×1/C
Vt:総体積(3.1ml)
Vs:サンプル体積(1.0ml)
20.1:ジホルマザンの1/2ミリモル分子吸光係数
1.0:光路長(cm)
df:希釈係数
C:溶液中の酵素濃度(c mg/ml)
【0021】
本発明の方法においては測定時のpHは酸性である。pHが酸性とは7.0未満を指し特に限定されないが、本発明において好ましい上限はpH6.5以下、さらに好ましくはpH3.5〜5.5である。
【0022】
本発明の方法において測定時のpHを酸性にするために、種々のバッファーを用いることが出来る。そのようなバッファーとしては、pHを酸性に保つことができる緩衝能を持つものであれば特に限定されない。一般に使用することができるバッファー種としては、トリス塩酸、ホウ酸、リン酸、酢酸、クエン酸、コハク酸、フタル酸、マレイン酸、グリシン及びそれらの塩などやMES、Bis−Tris、ADA、PIPES、ACES、MOPSO、BES、MOPS、TES、HEPES等のグット緩衝液などがあげられる。
カルシウムと不溶性の塩を形成しない緩衝液が好ましい。
これらのうち1種のみを適用してもよいし、2種以上を用いてもよい。さらには上記以外を含む1種以上の複合組成であってもよい。
また、これらの添加濃度としては、緩衝能を持つ範囲であれば特に限定されないが、好ましい上限は100mM以下、より好ましくは50mM以下である。好ましい下限は5mM以上である。
凍結乾燥物中においては緩衝剤の含有量は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.1%(重量比)以上、特に好ましくは0.1〜30%(重量比)の範囲で使用される。
これらは、種々の市販の試薬を用いることが出来る。
【0023】
これらのバッファーは測定時に添加してもよいし、後記するグルコース測定用試薬、グルコースアッセイキットあるいはグルコースセンサーを作製するときに予め含有させておくこともできる。なお、その際には、液体状態、乾燥状態などの形態は問われず、測定時に機能するようにしておけばよい。
【0024】
本発明でいう基質特異性の向上とは、PQQGDH酵素のグルコースに対する反応性がグルコース以外の糖類に対する反応性よりも向上することを意味する。グルコース以外の糖類としては、特に二糖類のマルトース、シュクロース、ラクトース、セロビオースなどが例示され、特にマルトースが例示される。本願発明では、二糖類に対する作用性が低下したことも、基質特異性の向上と表現する。
【0025】
二糖類に対する作用性が低下しているかどうかの判断は、次のように行う。
後述の試験例1に記載の活性測定法において、PQQGDH酵素を用いて、D−グルコースを基質溶液とした場合のPQQGDH活性値(a)と、D−グルコースのかわりに当該二糖類を基質溶液とした場合のPQQGDH活性値(b)を測定し、グルコースを基質とした場合の測定値を100とした場合に対する相対値((b)/(a)×100)を求める。
【0026】
本発明の効果は、メディエーターを含む系においてより顕著なものとなる。本発明の方法に適用できるメディエーターは特に限定されないが、フェナジンメトサルフェート(PMS)と2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(DCPIP)との組み合わせ、PMSとニトロブルーテトラゾリウム(NBT)との組み合わせ、DCPIP単独、フェリシアン化物イオン(化合物としてはフェリシアン化カリウムなど)単独、フェロセン単独などが挙げられる。中でもフェリシアン化物イオン(化合物としてはフェリシアン化カリウムなど)が好ましい。
これらの各メディエーターは感度に様々な違いが存在するするために、添加濃度を一律に規定する必要性はないが、一般的には1mM以上の添加が望ましい。
【0027】
これらのメディエーターは測定時に添加してもよいし、後記するグルコース測定用試薬、グルコースアッセイキットあるいはグルコースセンサーを作製するときに予め含有させておくこともできる。なお、その際には、液体状態、乾燥状態などの形態は問われず、測定時に反応時に解離してイオンの状態になるようにしておけばよい。
【0028】
本発明においてはさらに必要に応じて種々の成分を共存させることが出来る。例えば、界面活性剤、安定化剤、賦形剤などを添加しても良い。
【0029】
例えば、カルシウムイオンまたはその塩、およびグルタミン酸、グルタミン、リジン等のアミノ酸類、さらに血清アルブミン等を添加することによりPQQGDHをより安定化することができる。
【0030】
例えば、カルシウムイオンまたはカルシウム塩を含有させることにより、PQQGDHを安定化させることができる。カルシウム塩としては、塩化カルシウムまたは酢酸カルシウムもしくはクエン酸カルシウム等の無機酸または有機酸のカルシウム塩などが例示される。また、水性組成物において、カルシウムイオンの含有量は、1×10-4〜1×10-2Mであることが好ましい。
【0031】
カルシウムイオンまたはカルシウム塩を含有させることによる安定化効果は、グルタミン酸、グルタミンおよびリジンからなる群から選択されたアミノ酸を含有させることにより、さらに向上する。グルタミン酸、グルタミンおよびリジンからなる群から選択されるアミノ酸は、1種または2種以上であってもよい。ここにさらに牛血清アルブミン(BSA)、卵白アルブミン(OVA)を含有させてもよい。
【0032】
あるいは、(1)アスパラギン酸、グルタミン酸、α−ケトグルタル酸、リンゴ酸、α−ケトグルコン酸、α−サイクロデキストリンおよびそれらの塩からなる群から選ばれた1種または2種以上の化合物および(2)アルブミンを共存せしめることにより、PQQGDHを安定化することができる。
【0033】
本発明においては以下の種々の方法によりグルコースを測定することができる。
本発明のグルコース測定用試薬、グルコースアッセイキット、グルコースセンサーは、液状(水溶液、懸濁液等)、真空乾燥やスプレードライなどにより粉末化したもの、凍結乾燥など種々の形態をとることができる。凍結乾燥法としては、特に制限されるものではなく常法に従って行えばよい。本発明の酵素を含む組成物は凍結乾燥物に限られず、凍結乾燥物を再溶解した溶液状態であってもよい。
【0034】
グルコース測定用試薬
本発明のグルコース測定用試薬は、典型的には、PQQGDH、緩衝液、メディエーターなど測定に必要な試薬、キャリブレーションカーブ作製のためのグルコース標準溶液、ならびに使用の指針を含む。本発明のキットは、例えば、凍結乾燥された試薬として、または適切な保存溶液中の溶液として提供することができる。好ましくは本発明のPQQGDHはホロ化した形態で提供されるが、アポ酵素の形態で提供し、使用時にホロ化することもできる。
【0035】
グルコースアッセイキット
本発明のグルコースアッセイキットは、典型的には、PQQGDH、緩衝液、メディエーターなど測定に必要な試薬、キャリブレーションカーブ作製のためのグルコース標準溶液、ならびに使用の指針を含む。本発明のキットは、例えば、凍結乾燥された試薬として、または適切な保存溶液中の溶液として提供することができる。好ましくは本発明のPQQGDHはホロ化した形態で提供されるが、アポ酵素の形態で提供し、使用時にホロ化することもできる。
【0036】
グルコースセンサー
本発明のグルコースセンサーは、電極としては、カーボン電極、金電極、白金電極などを用い、この電極上にPQQGLDを固定化する。固定化方法としては、架橋試薬を用いる方法、高分子マトリックス中に封入する方法、透析膜で被覆する方法、光架橋性ポリマー、導電性ポリマー、酸化還元ポリマーなどを用いる方法があり、あるいはフェロセンあるいはその誘導体に代表される電子メディエーターとともにポリマー中に固定あるいは電極上に吸着固定してもよく、またこれらを組み合わせて用いてもよい。好ましくは本発明のPQQGDHはホロ化した形態で電極上に固定化するが、アポ酵素の形態で固定化し、PQQを別の層としてまたは溶液中で供給することも可能である。典型的には、グルタルアルデヒドを用いて本発明のPQQGDHをカーボン電極上に固定化した後、アミン基を有する試薬で処理してグルタルアルデヒドをブロッキングする。
【0037】
グルコース濃度の測定は、以下のようにして行うことができる。恒温セルに緩衝液を入れ、CaCl2、およびメディエーターを加えて一定温度に維持する。メディエーターとしては、フェリシアン化カリウム、フェナジンメトサルフェートなどを用いることができる。作用電極として本発明のPQQGDHを固定化した電極を用い、対極(例えば白金電極)および参照電極(例えばAg/AgCl電極)を用いる。カーボン電極に一定の電圧を印加して、電流が定常になった後、グルコースを含む試料を加えて電流の増加を測定する。標準濃度のグルコース溶液により作製したキャリブレーションカーブに従い、試料中のグルコース濃度を計算することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明は実施例によって限定されることはない。
【0039】
実施例1
グルコース測定系を用いた基質特異性の確認
測定原理
PQQGDH
D−グルコース+フェリシアン化物イオン→
D−グルコノ−1,5−ラクトン + フェロシアン化物イオン
D−グルコースの部分を他の糖類に変更して、それぞれの基質に対する特異性を測定する。フェリシアン化物イオンの還元により生じたフェロシアン化物イオンの存在は、分光光度法により波長420nmでの吸光度の減少を測定することで確認した。
(2)方法
試薬
A.各種緩衝液, PIPES−NaOH緩衝液pH6.5:50mM(60mLの水中に懸濁した1.51gのPIPES(分子量302.36)を、5N NaOHを添加して溶解し、2.2mlの10% Triton X−100を加える。更に、5N NaOHを用いて25℃でpHを6.5±0.05に調整し、水を加えて100mlとした。MES−NaOH緩衝液pH6.5、フタル酸−NaOH緩衝液pH6.5、シトラコン酸−NaOH緩衝液pH6.5、グルタル酸−NaOH緩衝液pH6.5の各種緩衝液もPIPESの時と同様の方法で作製した。)
B.フェリシアン化カリウム溶液:50mM(0.165g フェリシアン化カリウム(分子量329.25)を 10ml 蒸留水にて溶解した)
C.PQQGDH溶液:8000U/ml(約100mg PQQGDH(東洋紡績社製:GLD−321)を蒸留水10mlに溶解した)
サンプル
D−グルコース溶液:各々150,300,450,600,750,900,1050,1200,1350及び1500mMの各濃度(270g D−グルコース(分子量180.16)/1000mlH2Oにて調製した1500mMグルコース溶液を基準にして、1/10,2/10,3/10,4/10,5/10,6/10,7/10,8/10,9/10水希釈して作成した)
マルトース溶液:各々150,300,450,600,750,900,1050,1200,1350及び1500mMの各濃度(270g D−グルコース(分子量180.16)/1000mlH2Oにて調製した1500mMグルコース溶液を基準にして、1/10,2/10,3/10,4/10,5/10,6/10,7/10,8/10,9/10水希釈して作成した)
手順
1.遮光ビンに以下の反応混合物を調製し、氷上で貯蔵した(用時調製)
49.6ml 各種緩衝液(pH6.5) (A)
4.0ml フェリシアン化カリウム溶液 (B)
5.6ml (C)
2. 3.0mlの反応混合液を試験管(プラスチック製)に入れ、37℃で5分間予備加温した。
3. 0.1mlのグルコース溶液を加え、穏やかに混合した。
4. 420nmでの水に対する吸光度の減少を37℃に維持しながら分光光度計で1〜3分間記録し、曲線の初期直線部分からの1分間当たりのΔODを計算した(ΔODテスト)。同時に、グルコース溶液に代えて蒸留水を加えることを除いては同一の方法を実施し、ブランク(ΔODブランク)を測定した。
上記操作を、各150mM〜1500mMの各濃度のグルコース溶液またはマルトース溶液を用いて実施した。
【0040】
計算
ΔOD/min(ΔODテスト− ΔODブランク)を算出することにより、単位時間当たりの吸光度変化を求めた。
グラフの横軸に反応液中のグルコース濃度、縦軸に各グルコース濃度に対応するΔOD/minをプロットする。
グルコース以外の糖類に対する作用性が低下しているかどうかの判断は、D−グルコースを基質溶液とした場合のΔOD/min(a)と、D−グルコースのかわりにその他の糖類を基質溶液とした場合のΔOD/min(b)を測定し、グルコースを基質とした場合の測定値を100とした場合に対する相対値((b)/(a)×100)を求め、行った。
【0041】
実施例2
グルコース測定系のpH条件を変更することによる基質特異性改良の検討
実施例1の手法に基づき、バッファーのpHを6.5から5.5に変更して実施した。 各種緩衝液(A)は、緩衝液の組成による影響よりもpHに対する影響が大きいことを確かめるため、グッドバッファー(PIPES、MES)、酸バッファー(フタル酸、シトラコン酸、グルタル酸)などの複数の緩衝液で検討した。その他の条件は全て実施例1に従った。図1〜30の内、奇数番号は緩衝液pH5.5での結果、偶数番号は緩衝液pH6.5の結果を示す。図1〜10は野生型PQQGLDの結果、図11〜20は基質特異性が向上した改変体Aの結果、図21〜30は同じく基質特異性が向上した改変体Bの結果を示す。図1,2,11,12,21,22はPIPES緩衝液の結果、図3,4,13,14,23,24はMES緩衝液の結果、図5,6,15,16,25,26はフタル酸緩衝液の結果、図7,8,17,18,27,28はシトラコン酸緩衝液の結果、図9,10,19,20,29,30はグルタル酸緩衝液の結果を示す。
図1〜10の野生型PQQGLDの結果を比べた場合、緩衝液の組成に関わらず、緩衝液のpHを下げることにより、マルトースに対する作用性が向上してPQQGLDのグルコースに対する特異性は低下する傾向が見られた。一方、グルコースに対する基質特異性が向上した改変体A,Bでは、野生型PQQGLDとは異なり、緩衝液の組成に関わらず、緩衝液のpHを下げることにより、グルコースに対する作用性が向上してPQQGLDのグルコースに対する特異性が向上する傾向が見られた。各基質濃度でのマルトースに対する作用性(%)を表1〜3に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
このように、グルコースに対する基質特異性が向上した改変体では、バッファーのpHを中性付近から酸性側へ移行することにより、1.5〜6.5倍基質特異性を更に向上できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明による基質特異性の改良は、グルコース測定試薬、グルコースアッセイキット及びグルコースセンサでの測定精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】野生型PQQGDHのPIPES(pH5.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図2】野生型PQQGDHのPIPES(pH6.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図3】野生型PQQGDHのMES(pH5.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図4】野生型PQQGDHのMES(pH6.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図5】野生型PQQGDHのフタル酸(pH5.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図6】野生型PQQGDHのフタル酸(pH6.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図7】野生型PQQGDHのシトラコン酸(pH5.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図8】野生型PQQGDHのシトラコン酸(pH6.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図9】野生型PQQGDHのグルタル酸(pH5.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図10】野生型PQQGDHのグルタル酸(pH6.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図11】PQQGDH改変体AのPIPES(pH5.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図12】PQQGDH改変体AのPIPES(pH6.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図13】PQQGDH改変体AのMES(pH5.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図14】PQQGDH改変体AのMES(pH6.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図15】PQQGDH改変体Aのフタル酸(pH5.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図16】PQQGDH改変体Aのフタル酸(pH6.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図17】PQQGDH改変体Aのシトラコン酸(pH5.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図18】PQQGDH改変体Aのシトラコン酸(pH6.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図19】PQQGDH改変体Aのグルタル酸(pH5.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図20】PQQGDH改変体Bのグルタル酸(pH6.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図21】PQQGDH改変体BのPIPES(pH5.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図22】PQQGDH改変体BのPIPES(pH6.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図23】PQQGDH改変体BのMES(pH5.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図24】PQQGDH改変体BのMES(pH6.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図25】PQQGDH改変体Bのフタル酸(pH5.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図26】PQQGDH改変体Bのフタル酸(pH6.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図27】PQQGDH改変体Bのシトラコン酸(pH5.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図28】PQQGDH改変体Bのシトラコン酸(pH6.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図29】PQQGDH改変体Bのグルタル酸(pH5.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【図30】PQQGDH改変体Bのグルタル酸(pH6.5)における基質濃度とPQQGDH反応速度の関係
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定方法において、測定反応時のpHを酸性にする工程を含む、ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
【請求項2】
さらに組成物としてメディエーターを含む請求項1に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
【請求項3】
メディエーターがフェリシアン化物塩である請求項2に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
【請求項4】
ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼが、対応する野生型酵素と比較してマルトース作用性の低下した改変型ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼである、請求項1に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
【請求項5】
測定反応時のpHが6.5以下の酸性である、請求項1に記載のグルコース測定方法。
【請求項6】
ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを反応させる工程が、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを含むグルコース測定用試薬組成物においてなされることを含む、請求項1に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
【請求項7】
グルコース測定用組成物がメディエーターとしてフェリシアン化物イオンを含む形態をとることを含む、請求項6に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
【請求項8】
グルコース測定用組成物がグルコースアッセイキットに含まれる形態をとることを含む、請求項6に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
【請求項9】
グルコースアッセイキットがピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を含み、かつ、測定反応時のpHが6.5以下の酸性である形態をとることを含む、請求項8に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
【請求項10】
ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを反応させる工程が、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを含み、かつ、少なくとも作用極と対極からなる電極を含むグルコースセンサーにおいてなされることを含む、請求項1に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
【請求項11】
グルコースセンサーにおける反応が、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを含む反応溶液に電圧を印加し、メディエーターの酸化電流を測定してなる、請求項10に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
【請求項12】
グルコースセンサーが、ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を含み、かつ、測定反応時のpHが6.5以下の酸性である形態をとることを含む、請求項10に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
【請求項13】
グルコースセンサーが、メディエーターとしてフェリシアン化物イオンを含む、請求項10に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
【請求項14】
アミノ酸配列の改変を施した改変型ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ、および、測定反応時のpHを酸性に保つことができる緩衝剤を含む、ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を用いたグルコース測定用組成物においてマルトースに対する作用性が低減したグルコース測定用組成物。
【請求項15】
アミノ酸配列の改変を施した改変型ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ、および、測定反応時のpHを酸性に保つことができる緩衝剤を含む、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを用いたグルコースセンサーにおいてマルトースに対する作用性が低減したグルコースセンサー。
【請求項16】
測定反応時のpHを酸性に保つことができる緩衝剤を含有させる工程を含む、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを用いたグルコース測定用組成物においてマルトースに対する作用性が低減したグルコース測定用組成物の製造方法。
【請求項17】
測定反応時のpHを酸性に保つことができる緩衝剤を含有させる工程を含む、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを用いたグルコースセンサーにおいてマルトースに対する作用性が低減したグルコースセンサーの製造方法。
【請求項1】
ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定方法において、測定反応時のpHを酸性にする工程を含む、ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
【請求項2】
さらに組成物としてメディエーターを含む請求項1に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
【請求項3】
メディエーターがフェリシアン化物塩である請求項2に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
【請求項4】
ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼが、対応する野生型酵素と比較してマルトース作用性の低下した改変型ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼである、請求項1に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
【請求項5】
測定反応時のpHが6.5以下の酸性である、請求項1に記載のグルコース測定方法。
【請求項6】
ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを反応させる工程が、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを含むグルコース測定用試薬組成物においてなされることを含む、請求項1に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
【請求項7】
グルコース測定用組成物がメディエーターとしてフェリシアン化物イオンを含む形態をとることを含む、請求項6に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
【請求項8】
グルコース測定用組成物がグルコースアッセイキットに含まれる形態をとることを含む、請求項6に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
【請求項9】
グルコースアッセイキットがピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を含み、かつ、測定反応時のpHが6.5以下の酸性である形態をとることを含む、請求項8に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
【請求項10】
ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを反応させる工程が、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを含み、かつ、少なくとも作用極と対極からなる電極を含むグルコースセンサーにおいてなされることを含む、請求項1に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
【請求項11】
グルコースセンサーにおける反応が、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを含む反応溶液に電圧を印加し、メディエーターの酸化電流を測定してなる、請求項10に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
【請求項12】
グルコースセンサーが、ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を含み、かつ、測定反応時のpHが6.5以下の酸性である形態をとることを含む、請求項10に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
【請求項13】
グルコースセンサーが、メディエーターとしてフェリシアン化物イオンを含む、請求項10に記載のピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を反応させる工程を含むグルコース測定においてマルトースに対する作用性を低減させる方法。
【請求項14】
アミノ酸配列の改変を施した改変型ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ、および、測定反応時のpHを酸性に保つことができる緩衝剤を含む、ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素を用いたグルコース測定用組成物においてマルトースに対する作用性が低減したグルコース測定用組成物。
【請求項15】
アミノ酸配列の改変を施した改変型ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼ、および、測定反応時のpHを酸性に保つことができる緩衝剤を含む、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを用いたグルコースセンサーにおいてマルトースに対する作用性が低減したグルコースセンサー。
【請求項16】
測定反応時のpHを酸性に保つことができる緩衝剤を含有させる工程を含む、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを用いたグルコース測定用組成物においてマルトースに対する作用性が低減したグルコース測定用組成物の製造方法。
【請求項17】
測定反応時のpHを酸性に保つことができる緩衝剤を含有させる工程を含む、ピロロキノリンキノン依存性グルコースデヒドロゲナーゼを用いたグルコースセンサーにおいてマルトースに対する作用性が低減したグルコースセンサーの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【公開番号】特開2007−43984(P2007−43984A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−233049(P2005−233049)
【出願日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】
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