説明

ピロロキノリンキノン含有ソフトカプセル

【課題】ソフトカプセル皮膜中に充填する調整液に関して、ピロロキノリンキノンを食用油脂中へ安定に分散させる方法の提供。
【解決手段】ピロロキノリンキノンの粉末濃度と粒子径を制御することにより、PQQを食用油脂中へ安定に分散させたソフトカプセル充填用の調整液組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピロロキノリンキノン(以下PQQと記す)を含有するソフトカプセル剤の製造に関する。本発明で取り扱うPQQは、化学式(1)で表される構造の物質で、このフリー体、塩を取り扱う。
【化1】

【背景技術】
【0002】
PQQは新しいビタミンの可能性があることが提案されており(非特許文献1)、健康補助食品、化粧品などに有用な物質として注目を集めている。さらには細菌に限らず、真核生物のカビ、酵母に存在し、補酵素として重要な働きを行っている。また、PQQについて近年までに細胞の増殖促進作用、抗白内障作用、肝臓疾患要望治療作用、損傷治癒作用、抗アレルギー作用、逆転写酵素阻害作用およびグリオキサラーゼI阻害―制癌作用など多くの生理活性が明らかにされている。
【0003】
PQQは、有機化学合成法(非特許文献2、3)または発酵法(特許文献1)などの方法により得たPQQをクロマトグラフィーに供し、流出液中のPQQ区分を濃縮して、晶析により結晶化し、乾燥して得ることができる。(特許文献2)。
【0004】
このPQQを経口投与として提供するには錠剤化やカプセル化することが簡単である。カプセルは、ハードとソフトにタイプが大別されるが、そのうち、ソフトカプセルは内容成分を吸湿や酸化から保護し、成分の安定性を向上させる効果のほか、さまざまな成分との混合性並びに高級感に優れている。
【0005】
PQQは水溶性が高く、食用油には溶解しにくい。一般に、難油溶性の成分を含有するソフトカプセル剤の内容液は、有効成分を食用油脂に分散して調整した液(以下調整液と記す)をカプセル皮膜中に充填し、閉じ込める。通例、粒子が細かすぎる場合、粉体流動特性が悪化し、大きすぎる場合には均一性の欠如がおこる欠点がある。
【0006】
これまで、PQQに関する食用油脂への安定な分散方法等については知られておらず、安定にソフトカプセルを製造する方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−218597号公報
【特許文献2】特許第2072284号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】nature,vol.422,24April,3003,P832
【非特許文献2】JACS,第103巻,第5599〜5600頁(1981)
【非特許文献3】JACS,第111巻,第6822〜6828頁(1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、ソフトカプセル皮膜中に充填する調整液に関して、PQQを食用油脂中へ安定に分散させる方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、以下に示す項目によって、
PQQを食用油脂中へ安定に分散させることを可能とし、本発明を完成するに至った。
(1)ピロロキノリンキノンと食用油脂を含み、ピロロキノリンキノンが食用油脂中に1から50質量%の範囲で分散していることを特徴とするソフトカプセル充填用の調整液組成物。
(2)レーザー回折散乱式粒度分布測定法による個数基準に基づく累積90%径が25μm以上200μm以下であるピロロキノリンキノンの粉末を分散させたものである(1)に記載の調整液組成物。
(3)(1)又は(2)記載の調整液組成物を充填してなるソフトカプセル剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明のソフトカプセル充填用の調整液組成物は、PQQの分散安定性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ソフトカプセル剤製造装置の一例
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明においてPQQ粉末はフリー体、塩どちらでもかまわない。塩としてはナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウムの塩等が挙げられる。カルボン酸の塩としてはモノ、ジ、トリの交換どれでも良いが、好ましくはジナトリウム塩である。本発明では、いずれも使用することができ、単独、混合どちらでも良い。
【0014】
本発明のPQQの粉末は、レーザー回折法(フラウンホーファー回折)により粒度分布の測定を以下の測定条件で行うことにより、個数基準に基づく累積90%径を算出することができる。
【0015】
(測定条件)
測定装置:HELOSレーザー回折分光器(SympaTEc)
分散ユニット:RODOS乾燥分散機(SympaTEc)
生成物供給:Vibri振動チャンネル、Messrs、SympaTEc
サンプル供給量:50〜100mg
サンプル供給時間:1.5秒
焦点距離:100mm(測定範囲:0.9−175μm)
サイクル時間:100ms
スタート/ストップ:チャンネル00で0.5%
分散ガス圧縮空気
圧力:2.0バール
真空度:最大
評価法:HRLD
測定時間:0.8秒
【0016】
このような条件での累積90%粒子径が25μm以上、200μm未満であることが好ましい。この範囲の粒子径とすることにより、ソフトカプセル充填のための食用油脂懸濁物(調整液組成物)の流動性が良好となり、ソフトカプセル中の均一性を維持できる。
【0017】
PQQを食用油脂に分散するのは濃度が高いほうが効率が高いが、高すぎる場合は流動性が確保できす、小さい場合は効率が低くなる。本発明では1〜50質量%の範囲で分散させる。好ましくは1〜30質量%分散するのがよく、より好ましくは5〜30質量%である。
【0018】
本発明で用いられる食用油脂としては、食用可能な油脂であれば特に制限はないが、例えば、オリーブ油、ごま油、こめ油、サフラワー油、大豆油、トウモロコシ油、なたね油、パーム油、パームオレイン、パーム核油、ひまわり油、ブドウ油、綿実油、ヤシ油、落花生油などの植物油脂や、中和脂肪酸トリグリセライド、スクワレン、魚油等が挙げられるが、好ましくは植物性油脂が好ましい。
【0019】
本発明においては、これらの油脂を一種類で用いても良いし、二種類以上を任意に組み合わせて用いても良い、これ以外の成分としてミツロウ、グリセリン脂肪酸エステル等の添加剤も使用できる。
【0020】
当然、その他のサプリメント成分である、コエンザイムQ10、アスタキサンチン、DHA、イチョウ葉エキス等を添加することも可能である。
【0021】
本発明のソフトカプセル充填用の調整液は、上記食用油脂にPQQを混合・撹拌しながら、均一に分散させることにより製造される。具体的には、例えば、食用油脂を約40〜60℃に加温し、さらにPQQを加えて均一に混合・撹拌して製造される。混合・撹拌するための装置に特に制限はないが、例えば、バイオミキサー、ホモジェッター等の高速撹拌機または高速粉砕機を用いることができる。
【0022】
本発明のソフトカプセル充填用の調整液100質量%中の食用油脂の含有量は、特に制限されないが、例えば、約20〜99質量%である。このようにして得られるソフトカプセル充填用の調整液を、常法に従い、ゼラチンを主成分とする皮膜で包み込むことによりソフトカプセル剤を製造することができる。ソフトカプセル剤製造には、図1に示す装置が好適に使用できる。
【実施例】
【0023】
実施例1
70℃のサフラワーサラダ油(日清オリオグループ社製)2700g、グリセリン脂肪酸エステル(理研ビタミン社製)300g、ミツロウ(横関油脂工業社製)300gを加えて、加熱溶解を行った。その後、室温まで冷却し、PQQ(三菱ガス化学社製)300gを加えてミキサー(型式:T.K.ホモミキサー;プライミックス社製)でさらに3000rpmで15分間混合・撹拌した。
今回使用したPQQは水溶液にエタノールを加えて再結晶した製品で、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による個数基準に基づく累積90%径が120μmである。得られた分散液は真空脱泡処理をした後、室温まで冷却した。ソフトカプセル充填用の調整液は十分に流動性を有しており、約8.3質量%のPQQ粉末含有組成物を得た。
【0024】
実施例2
実施例1に記載のソフトカプセル充填用の調整液を使用してソフトカプセル剤を製造した。内容量120mgでOVAL 形状に加えた。ソフトカプセル剤製造は図1に示す装置を使用した。ゼラチンを主とする皮膜組成物を加熱/水和/混合/可溶化/脱気して皮膜液を製する。皮膜液は成型機の左右に設置されるスピレーダボックスに一時的にストックされ、スピレーダボックスの底部にあるスリット状の吐出孔から溶融状態で押し出した後、その下方に位置する冷却用ドラムによって適度に冷却されてシート状に成型される。こうして成型された2枚の皮膜シートが一対のダイロールに拝み合わせ状態に送り込まれる直前に、その上方に位置するセグメントによって接着に必要な熱が皮膜シートに与えられ、同時にプランジャーポンプにより所定のタイミングで調整液が供給される。ダイロールに供給された2枚のシートは、ダイロールの周面に設けられた多数の成型突起の突き合わせ作用によって、一つずつ個別にカプセル周囲が縫合されていく。この時、皮膜シートは成型突起によって押圧力を受けるため、縫合部分が効果的に糊化し縫合がなされる。次に、回転ドラム式乾燥機で乾燥する。すべてのカプセルで均一に10mgのPQQが充填されていた。
【0025】
実施例3
PQQ(三菱ガス化学社製)のレーザー回折散乱式粒度分布測定法による個数基準に基づく累積90%径が120μmである粉末を使用して、最終的PQQを15質量%濃度になるように実施例1と同様のソフトカプセル充填用の調整液を作成した。流動性を十分に有していた。
【0026】
実施例4
PQQ(三菱ガス化学社製)のレーザー回折散乱式粒度分布測定法による個数基準に基づく累積90%径が120μmである粉末を使用して、最終的PQQを50質量%濃度になるように実施例1と同様のソフトカプセル充填用の調整液を作成した。流動性を十分に有し、実施例2と同様にカプセルを形成した。分散良好で含量均一性も良好であった。
【0027】
実施例5
PQQ(三菱ガス化学社製)のレーザー回折散乱式粒度分布測定法による個数基準に基づく累積90%径が120μmである粉末を使用して、最終的PQQを1質量%濃度になるように実施例1と同様のソフトカプセル充填用の調整液を作成した。流動性を十分に有し、分散良好であったが、充填後の理論値に対する含量%の偏差は15%を超えることがなかったが、比較的高かった。
【0028】
比較例1
粒子径が25μm未満のPQQ(三菱ガス化学社製)粉末に変更して最終的なPQQナトリウム濃度を80質量%濃度になるように実施例1と同様のソフトカプセル充填用の調整液を作成した。流動性がなく、ソフトカプセルに充填できなかった。
【0029】
比較例2
実施例1と同様にしてPQQ(三菱ガス化学社製)のレーザー回折散乱式粒度分布測定法による個数基準に基づく累積90%径が120μmである粉末を使用して、最終的PQQを0.5質量%濃度になるように実施例1と同様のソフトカプセル充填用の調整液を作成した。実施例2と同様に内容量120mgでOVAL 形状に加えた。すべてのカプセルで均一に0.6mgのPQQが充填されていたが、充填量は少なく、10mgを摂取するには16個以上にしなくてはならず、機能性食品として使用に適していなかった。
【0030】
比較例3
実施例1と同様にしてPQQ(三菱ガス化学社製)のレーザー回折散乱式粒度分布測定法による個数基準に基づく累積90%径が120μmである粉末を使用して、最終的PQQを60質量%濃度になるように実施例1と同様のソフトカプセル充填用の調整液を作成した。流動性がなく、装置に付着してしまい、ソフトカプセルに充填するには不適であった。
【0031】
比較例4
粒子径が25μm未満のPQQ(三菱ガス化学社製)粉末に変更して最終的なPQQナトリウム濃度を10質量%濃度になるように実施例1と同様のソフトカプセル充填用の調整液を作成した。ミキサーを使用して3000rpmで15分間混合・撹拌したが粉末が油脂上部に凝集する傾向が見られ、粒子径の微細化に伴い増大した。均一性の点で問題であった。
【0032】
比較例5
PQQ(三菱ガス化学社製)のレーザー回折散乱式粒度分布測定法による個数基準に基づく累積90%径が225μmである粉末に変更して最終的なPQQナトリウム濃度を10質量%濃度になるように実施例1と同様のソフトカプセル充填用の調整液を作成した。装置に付着してしまい、ソフトカプセルに充填するには不適であった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の調整液組成物を使用したソフトカプセル剤は、ヒト用又は動物用として、食品、機能性食品、医薬品、医薬部外品として幅広く使用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1…ホッパータンク (メディシナルタンク)
2…プランジャーポンプ (充填規定量の調整用ポンプ)
3…チューブ
4…セグメント
5…スピレーダボックス
6…キャスティングドラム
7…ダイロール
8 …ソフトカプセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピロロキノリンキノンと食用油脂を含み、ピロロキノリンキノンが食用油脂中に1から50質量%の範囲で分散していることを特徴とするソフトカプセル充填用の調整液組成物。
【請求項2】
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による個数基準に基づく累積90%径が25μm以上200μm以下であるピロロキノリンキノンの粉末を分散させたものである請求項1に記載の調整液組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の調整液組成物を充填してなるソフトカプセル剤。

【図1】
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【公開番号】特開2012−36094(P2012−36094A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174463(P2010−174463)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【出願人】(000101651)アリメント工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】