説明

ピーニング仕上げ

【課題】歯車の歯元円半径及び歯面をピーニングにより強化し、かつ耐摩耗性を高め、その後で振動仕上げ処理によりピーニングによる圧痕を減少させる。
【解決手段】第1ピーニング媒体を金属歯車の複数表面に衝突させ、歯車の歯元の強度と耐摩耗性を高め、次いで、第2ピーニング媒体に複数表面を曝すことにより歯車表面の圧縮応力(KSI)を高め、容器内で精密仕上げ媒体を歯車と共に振動させた後、歯車を洗浄し、さび止め処理をする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広くは歯車その他の工作物又は部品に媒体をブラスト処理し、かつピーニング仕上げする方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明のピーニング段階には、特許文献1の動力式部品抑え付け装置を使用でき、特許文献1の開示全体は、ここに引用することで本明細書に組み入れられるものである。
媒体によるブラスト処理又はピーニング処理は、歯車、工作物、部品の疲れ強さを高めるために利用される。歯車、例えば自動車の変速機に使用される歯車は、媒体をブラストすることにより耐久性が増し、歯車の所期の機能を適正に果たすことができる。本発明の媒体ブラスト段階は、特許文献2に開示された複数段階を含み、該第2特許文献を、ここに引用することで、その開示内容が本明細書にとり入れられるものである。
歯車等の工作物は密閉チャンバ内に入れられ、ブラスト・システムが起動されることで、媒体が空気と混合され、混合後、空気/媒体混合物が工作物に向けられる。この処理はピーニングと呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5,272,897号公報
【特許文献2】米国特許第6,612,909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、歯車のピーニングにより歯車の歯元円半径及び歯面を強化した後、振動仕上げすることである。ピーニング段階で歯車が強化され、かつ歯面に粗さが与えられる。ピーニング後の仕上げで、歯面は平滑にされ、小さなくぼみ又は圧痕が残される。これらの小さなくぼみ又は圧痕は、歯面にオイルが保留されるのを助ける。ピーニング後の振動処理により、表面Raが、より低いRa(5〜25Ra)に落とされるが、このRa値は中等度以上の体積の部品にとって経済的である。超仕上げ又は類似の加工により表面Raを1Ra以下に引き下げることは、費用面で無理である。“Ra”とは、国際的な粗さの標準である。例えばISO(国際標準化機構International Organization for Standardization)の標準4287参照のこと。
【0005】
本発明の目的は、金属工作物加工方法を提供することである。この加工方法は、工作物(例えば歯車)の露出面に対して第1媒体(例えばカット・ワイヤ)をブラストして歯車の歯元強度を高める段階と、第1媒体ブラストを終え、第2媒体(例えばガラス粒、セラミック粒、微細鋼TM粒のいずれか)を工作物の露出面に向けてブラストして、歯面と歯元とに高い表面圧縮応力(kg/cm)(KSI)を加える段階と、容器(例えばボウル)を用意する段階と、微細仕上げ媒体(湿式又は乾式)を工作物と一緒に容器に装入する段階と、容器に振動を伝え、仕上げ媒体及び工作物を振動させる段階と、容器から工作物を取り出す段階と、工作物を洗浄する段階と、工作物をさび止め剤ですすぐことで工作物の耐摩耗性を高める段階とを含んでいる。本発明による歯車の媒体ブラスト処理により、歯車の歯元円半径及び歯面を強化する重要な目的が達せられる。本発明では、靱性を“KSI”(キロポンド毎平方インチ)(約70kg/cm)又は1000psiの観点から説明する。KSIは、応力やヤング率を特定するのに材料科学、土木・機械工学でしばしば用いられる。
【0006】
本発明のその他の目的は、工作物(例えば歯車、軸、その他の金属部品)を媒体ブラストした後、処理(精密仕上げ)することで約5〜25Raに仕上げ、振動又は超仕上げ段階を施す他の種類の処理によるより遥かに高いKSIを表面に有する工作物を提供することである。
以下で、添付図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明による工作物処理用媒体ブラスト装置の前面図。
【図2】本発明による工作物処理用媒体ブラスト装置の右側面図。
【図3】本発明による工作物処理用媒体ブラスト装置の平面図。
【図4】本発明による工作物処理用媒体ブラスト装置のブラスト・ステーションの部分拡大側面図。
【図5】本発明による工作物処理用超仕上げ媒体内に工作物(例えば歯車)を浸漬するための容器又はボウルの断面図。
【図6】振動段階時にボウルを閉じる前の、セラミック媒体と歯車とを入れたボウル200の部分平面図。
【図7】本発明による工作物処理用超仕上げ媒体で工作物(例えば歯車)が湿潤化される間に、工作物に振動を伝えるための容器又はボウルの平面図。
【図8】本発明によるボウル又は容器の側面図。
【図9】本発明による生産設備内の3個のボウルの平面図。
【図10】本発明による生産設備内の3個のボウルの側面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図面を参照すると、図1には、本発明による媒体ブラスト装置が前面図で示され、全体が符号10で示されている。図示のように、媒体ブラスト装置10は、ブラスト用のキャビネット又はチャンバ15を含み、該チャンバ内で媒体流が工作物に向けられる。この媒体は、例えばカット・ワイヤ、ガラス粒、セラミック粒、微細鋼粒のいずれかを含むことができる。キャビネット15は、工作物20と衝突した後に落下する媒体を捕集する媒体ホッパ25に結合されている。落下する媒体は、再循環された媒体の破片を含むが、同じように未使用媒体、つまり破損していない媒体も含んでいる。導管30は、キャビネットの媒体ホッパ25を、全体が符号35で示された媒体回収システムに接続している。図2から最も良く分かるように、キャビネットの媒体ホッパ25は、また空気供給装置40に接続されている。空気供給装置40は、媒体ホッパ25へ空気流を供給し、捕集されて落下してくる媒体が導管30を通って媒体回収システム35へ上昇するように強制する。
【0009】
図1及び図2に示すように、媒体回収システム35は、捕集された媒体を選別装置50へ送るための導管45を含んでいる。選別装置50は、頂部スクリーン55と底部スクリーン60とを含む2デッキ・システムである。本発明の好適実施例では、頂部スクリーンは約7.4〜14.8μm(20〜40メッシュ)・ゲージであり、底部スクリーンは約62.9〜74.0μm(170〜200メッシュ)・ゲージである。選別装置50は、通常、落下する媒体を、非破損媒体と、ブラスト作業に再使用するのに十分な大きさの破損媒体と、再使用不能な微細な破片又は塵埃とを選別する。選別スクリーン55,60は、選別効率を高めるために、常時、振動させておく。
【0010】
媒体回収システム35は、また導管65を含んでいる。導管65は、フィルタ・システム70と送風機モータ・システム75とに接続されている。一好適実施例では、送風機モータ・システム75は、騒音低減のための送風機マフラー77を含んでいる。送風機モータ・システム75は、導管65から空気を吸い込み、導管45内に上昇空気流を生み出し、この上昇空気流によって、微細媒体及び再使用不能媒体が、選別装置50から導管45を経て導管65及びフィルタ・システム70へ搬送される。フィルタ・システム70は、微細媒体や破損媒体を捕集する集塵装置80に接続されている。微細/破損媒体はドラム85内へ集められ、ドラムは、定期的に取り外され空にされる。一好適実施例では、ドラム85は、転動手段を有するようにされ、例えば、キャスター付きにすることができる。
【0011】
図1に示すように、選別装置50は、導管95を介して2重圧力チャンバ90に接続されている。キャビネットの媒体ホッパ25と圧力チャンバ90との間には、媒体通路が形成されている。一好適実施例では、2重圧力チャンバは約4.9〜5.6kg/cm(70〜80psi)に保たれる。回収した再利用可能な媒体は、導管95を介して2重圧力チャンバ90へ送られ、未使用媒体と混合される。一好適実施例では、回収媒体の寸法は、37.0μm(100メッシュ)を超えるものであり、未使用媒体は、約22.2〜37.0μm(60〜100メッシュ)、好ましくは約22.2〜29.6μm(60〜80メッシュ)である。既述のように、本発明では、媒体は、ガラス粒、セラミック粒、微細鋼粒いずれかでよい。未使用媒体は、複数の媒体供給弁97を介して2重圧力チャンバ90へ供給される。2重圧力チャンバ90は、また未使用媒体の供給を自動制御する媒体センサ・モニタ100に接続されている。未使用媒体の供給制御により工作物の適切なピーニングが保証される。特に、未使用媒体の供給制御により、工作物20に適切な圧縮応力が加えられ、十分に高い疲れ強さが得られる。
【0012】
2重圧力チャンバ90は、また自動媒体計量開閉弁105を含むのが好ましい。開閉弁105は、媒体が空気中に浮遊する空気/媒体混合個所への未使用媒体/再循環媒体混合物の供給を調整する。2重圧力チャンバ90には自動空気弁110が接続され、それにより媒体が空気/媒体混合個所で空気中に浮遊し、浮遊媒体はブラスト・ホース115を介してブラスト・キャビネット15へ送られる。
本発明の自動媒体計量開閉弁105では、媒体流量の制御が改善され、媒体と空気の供給を別個に制御できる。本発明の自動媒体計量開閉弁105では、媒体の供給が、吸込み式システムではなく、むしろ加圧ブラスト・システムの使用により可能になった。吸込み式システムの場合、吸込み力は、媒体供給部から媒体供給ホースを介して吸込みガンへ媒体を吸込むことに依存する。しかし、吸込みシステム内に計量開閉弁105を配置すれば、媒体供給ホース内の圧力降下が減少し、吸込み力が低下するだろう。吸込み力が低下すれば、また媒体の供給が妨害される。他方、本発明のシステムは、圧力駆動システムのため、正圧に依存して媒体計量開閉弁105を介し媒体混合個所へ媒体を強制供給できる。
【0013】
加圧システムの別の利点は、確実に適切な媒体速度を得る助けになる点である。既述のように、媒体速度は、工作物20に確実に十分な圧縮応力を加えるさいの重要な制御パラメータである。加圧システムは、媒体流量の制御と空気/媒体混合個所の位置決めとにより、適切な媒体速度を確実にする助けとなる。媒体流量は媒体計量開閉弁105によって制御される。空気/媒体混合個所は、ブラスト・ホースから十分に離れて配置されるので、媒体が目標速度又は適切な速度に達するための時間が与えられる。
【0014】
次に、ブラスト・キャビネット15内のブラスト・ステーション120を説明する。図4に示すように、被加工工作物、つまり媒体をブラストされる工作物20が、部品ホールダ125に取り付けられる。部品ホールダ125は硬化処理されるのが好ましい。工作物20は、予め定めた位置に動力式抑え付け装置130により保持される。本発明では、動力式抑え付け装置130は、特許文献1に記載されたものが好ましく、再度、該文献の参照を求めたい。該文献の内容は、ここに引用することで本明細書に取り入れられる。特許動力式抑え付け装置130により、媒体ブラスト中、工作物を所定位置に保持するクッション付き可変・補償クランプが提供される。特許文献1に記載の装置は、体積量の大きい部品の加工を容易にする上で極めて重要である。このことは、特に、ピーニング時に回転する傾向のある歯車等の部品の場合、特に重要である。なぜなら、抑え付け装置により部品の自由回転が防止されるからである。抑え付け装置は、また目標回転速度で部品を回転させるよう制御可能である。動力式抑え付け装置130の回転は回転可能な軸135を介して行われる。
【0015】
好ましくは鋼製の硬化処理ロッド140によりガン−ラック組み立て体145用の支持システムが得られる。ガン−ラック組み立て体145はノズル・ホールダ150を保持している。ブラスト・ホース115が接続されているブラスト・ノズル155は、ノズル・ホールダ150に取り付けられている。ブラスト・ノズル155は、空気中に浮遊する媒体の流れを工作物表面へ向かうように方向付ける。好ましくは、ブラスト・ノズルは、工作物20から約10〜25cm(約4〜8インチ)の位置に配置される。図4にはブラスト・ノズル155が1つだけ示されているが、当業者には、複数ブラスト・ノズルが使用できることが理解されよう。本発明の一好適実施例では、図3に見られるように、ブラスト・キャビネット15内に4個のブラスト・ノズル155が配置されている。部品抑え付け装置130とブラスト装置とを内包するブラスト・キャビネット15には、また新しい工作物20を装入するためのドア160が設けられている。
【0016】
次に媒体ブラスト装置の作業を説明する。工作物20を部品抑え付け装置130内に装入した後、ドア160を閉じる。次いで、空気中に浮遊する媒体の流れが、ブラスト・ノズル155によって工作物20へ向けられる。媒体がブラストされる間、工作物は特許の動力式部品抑え付け装置130によって制御可能に回転させられる。この制御可能な回転によって、工作物20の表面の均等なピーニングが保証され、高い指向性を有する媒体流の使用が不要になり、ひいては水で支持される媒体の使用も不要となる。
【0017】
動力式部品抑え付け装置130は、好ましくは8〜12rpmで回転する。しかし、歯車の処理に特に効果的と分かったのは10〜12rpmの回転速度だった。この回転速度は、所要ピーニング度と、結果として得られる表面のくぼみの平坦性とに関連づけることができる。制御された低速回転により、一様な小さなくぼみを伴う均等なピーニングが可能になり、表面への媒体流の不均一な衝突の結果生じる圧痕の発生が防止される。これらの圧痕は、ひび割れの前駆形態として作用する恐れがある。工作物が歯車の場合、制御された回転によって、媒体、例えばカット・ワイヤ、セラミック粒、微細鋼粒、ガラス粒のいずれかが、回転の進行中、確実に歯車のルートと歯面に向けられる。均一なピーニングが保証されることで、工作物20の作業特性が改善される。
【0018】
一実施例では、比較的少量の媒体流が、先行技術による方法の場合より高速かつ長時間、ブラストされる。好適流量は使用媒体の種類及び寸法に依存し、同様に、関連する特定用途に依存する。歯車の処理の場合、約0.68〜1.35kg/min(約1.5〜3lb/min)の媒体流量が効率的と判明した。もちろん、所望の成績に応じて別の流量も使用できよう。この流量は、約18.5〜37.0μm(50〜100メッシュ)の寸法範囲のガラス媒体、セラミック媒体、微細鋼媒体の場合に効率的と分かった。しかし、本発明の一好適実施例では、約22.2〜37.0μm(60〜100メッシュ)のガラス媒体が使用される。約22.2〜37.0μm(60〜100メッシュ)のガラス媒体が、8620鋼を用いて作られた歯車を含む一定歯車の処理に使用された場合、該歯車の作業特性に著しい改善が見られた。使用すべき媒体の選択は用途と相対的な経済性に依存する。セラミック媒体と鋼媒体は、ガラスより長持ちするが、より高価である。
【0019】
媒体は、工作物20に衝突した後、キャビネット媒体ホッパ25内に落下し、回収システム35へ運ばれる。再使用可能な媒体は、微細媒体及び塵埃から分離され、未使用媒体と混合された後、ブラスト・ステーション120へ戻される。この混合によって媒体の廃棄物が低減される。部分破損した媒体の再使用により、また工作物20に対する媒体の研磨効果も改善される。
8620鋼等の一定材料製の歯車を含む一定の歯車のブラスト処理には、ガラス媒体を使用することにより、満足な成績が得られるが、5130m鋼等の別の材料製の歯車の場合は、ガラス媒体の使用は全く望ましくないことが判明した。概して、本発明の、セラミック媒体でのブラスト処理は、種々の金属で作られた広範囲の種類の歯車について効果的であることが判明した。幾つかの酸化物セラミック、例えばZrO,AL,SiO,MgO等をブラスト処理に使用できる。好ましい媒体には、石英ガラス相で一様に包まれた結晶性ジルコニアが包含される。該媒体は、ZIRBLASTTM及びZIRSHOTTMの商品名でパリのル・デファンス所在のSEPR社で販売されている。
【0020】
驚くことに、セラミック媒体を使用したブラスト処理は、一定金属歯車に対し、ガラスによるブラスト処理の場合より有意により良好な成績が得られることが判明した。例えば、従来の方法に比して、歯車の表面の抗点食性が改善され、歯元円半径の強度が改善される。該歯車の場合、未使用時に約14.8〜37.0μm(40〜100メッシュ)からのセラミック媒体、約0.454〜11.35kg/min(1〜25ポンド毎分)の流量、15〜180秒のサイクル時間、2.45〜6.3kg/cm(35〜90psi)の圧力、約5〜25rpmの歯車回転速度、15〜28Nのアルメン(Almen)強度が、歯車処理には効果的であることが判明した。また、該歯車の場合、次の加工条件下で優れた成績が観察された。すなわち、約0.454〜1.36kg/min(1〜3ポンド毎分)の少量の流量、約4.9〜5.6kg/cm(70〜80psi)の圧力、15〜120秒のサイクル時間、約8〜12rpmの回転速度、約0.210〜0.150mmの媒体直径である。
【0021】
セラミック媒体は比較的高価なので、歯車のブラスト後に集めて、それを未使用媒体に加えて再循環させ、システムの最初の起動後、未使用媒体と再使用媒体との混合物を再使用するのが好ましい。この好適処理では、約62.9〜74.0μm(170〜200メッシュ)のスクリーンが媒体回収システムの選別装置の底部スクリーンとして使用され、再循環媒体混合物から媒体の小破片が除去される。
【0022】
本発明の更に別の実施例では、金属歯車を微細金属媒体ブラスト流で処理する方法が既述の装置を利用して説明される。この好ましい方法は、約0.454〜1.8kg/min(約1〜4ポンド毎分)の媒体流量、約150〜200マイクロメートルの媒体直径、約4.9〜5.6kg/cm(約70〜80psi)の圧力、約18〜26Nのアルメン範囲で実施される。微細鋼媒体は、歯車のブラスト後に集めて、再循環させるのが好ましい。
【0023】
鋼粒ショット媒体は、セラミック又はガラスより有意に長持ちするので、媒体ブラスト装置に追加を要する未使用媒体は極めて少ない。その結果、モニタや保守の必要が有意に低減し、同じく歯車の良好な大量処理に使用される媒体量も低減される。このように処理された金属歯車には、通常、本明細書に開示した、ガラス又はセラミック媒体による媒体ブラスト処理の場合より、表面組織に残る明瞭なくぼみが少なく、かつ小さい。加えて、このように処理した歯車は、本明細書に開示したガラス媒体やセラミック媒体による処理の場合より疲れ強さが低い。しかし、動力計による試験では、微細鋼粒媒体は、破損までの連続使用が70時間を上回り、この時間は、コーティングされた歯車処理に期待される破損成績を有意に40時間上回っている。保守、モニタ、媒体費のゆえに、ここに開示した微細鋼粒媒体による加工は、従来式のショット・ピーニングより優れた成績を示す低コストの方法である。微細鋼球媒体によるピーニングは、表面の高い抗点食性を有する多くの歯車に十分に役立つ方法である。動力計による歯車の試験中に高い点食度を示す場合には、セラミック媒体によるブラスト処理が好ましい。
【0024】
ここに説明するセラミックによるブラスト処理装置を用いた場合、歯車は、次のように2重のピーニング段階で処理される。歯車は、その露出面が第1媒体(例えばカット・ワイヤ)でブラストされる。第1媒体でのブラスト段階(ピーニング)により、歯車の歯元がより強化される。第1媒体による媒体ブラスト後、歯車は、その露出面を第2媒体(ガラス粒、セラミック粒、鋼粒)でブラストされる。第2媒体による媒体ブラスト段階(ピーニング)で、歯車表面は、より強化され、表面には幾分粗さが残される。この粗さを有する表面のくぼみ又は圧痕は、例えば約150〜200マイクロメートルの媒体によるブラストの結果である。ブラストの結果生じるくぼみ又は圧痕は、150マイクロメートル未満であり、通常は75マイクロメートル未満である。これらの小圧痕は、高い圧縮応力を与え、かつ歯車使用中に歯車表面でのオイルの保留を容易にずる。続く仕上げ作業によりくぼみ又は圧痕の寸法は低減されるが、歯車表面の圧縮応力とオイル保留の利点は残される。
【0025】
2重ピーニング後、歯車201は、湿式又は乾式の精密仕上げ媒体212を入れたボウル200へ送られる。精密仕上げ媒体212は、好ましくは湿式酸性媒体である。ボウル200は図5に示されている(歯車201は精密仕上げ媒体212内に入れられるが、図5には示されていない)。ボウル200は、出口202、入口204、側壁206、頂部208、底部210を有している。湿式酸性精密仕上げ媒体212は、歯車及びセラミック媒体を湿潤化するのに十分な量で用意される。図6は、振動段階のためボウルを閉じる前の、セラミック媒体212及び歯車201の入ったボウル200の部分図である。図示の歯車201とセラミック媒体212との相対寸法は、歯車201とセラミック媒体212との相対寸法の一例に過ぎない。通常、セラミック媒体は、図6に示すより小寸法である。すなわち、セラミック媒体212と歯車201との相対寸法は、媒体212が歯車の歯間に入り込めるように十分小さくされているので、精密仕上げ作業(振動)中、歯間の歯車表面は精密に仕上げられる。ボウル200の振動は、振動カップラ214を介してボウル200に伝えられる。
【0026】
精密仕上げ媒体212の一例は、セラミック媒体と弱酸性溶液との混合物である。図7には3個の蓋付きボウルを有する製造設備の一部が示されている。図8〜図10には、製造設備内のボウルが示されている。各ボウルは、3個のバネ(より多くても少なくてもよい)を介してフロア上に支持されている。図7に見られるように、3個のボウル200は防音等のため蓋で覆われている。ボウル200は、通常、鋼製であり、振動を媒体に伝えるためのポリウレタン製ライナーを有している。例えば図6に見られるように、ボウル200の内側には、ボウル200の全内周にわたりチャネル250が延びている。ボウル中心部分は、外側周壁400を有する円筒形状(図6に符号300で示す円筒体外壁参照)であり、外側周壁400は円筒体壁300からチヤネル250によって隔てられている。
【0027】
ボウル200の側部には、取り外し可能な蓋付き開口が設けられ、内容物を取り出すことができる。チャネル250の内側は傾斜がつけられているので、ボウルに振動が伝えられると、内容物はチャネルに沿って円形に流れる。内容物を円形に移動させるためには、チャネル壁又はフロアに別の形状を与えることもできる。この運動によって、内容物の混合が進み、それによって、歯車のあらゆる表面がチャネル250内で媒体212の平滑化作用に曝される。
【0028】
一好適実施例では、歯車がボウル内で精密仕上げ媒体によって湿潤化され、振動がボウルに伝えられ、内部の歯車と一緒に超仕上げ媒体が振動する。振動は、歯車が約5〜25Raに仕上げられるのに十分な時間にわたって継続される。振動(精密仕上げ)中、付加的な水及び/又は精密仕上げ媒体が、1つ以上の入口204を介して加えられる。過剰な精密仕上げ媒体や水等は出口202を介して除去される。精密仕上げは、歯車表面(工作物)が平滑化するまで続けられるが、歯車表面のオイル保留率を高めるのに十分なくぼみや圧痕等は残される。Raがゼロの仕上りは望ましくない。なぜなら、そのような完全な平滑化仕上げでは、オイル保留を高める表面くぼみ及び圧痕等が残らないからである。
【0029】
オイルを集めて歯車の作動中オイルを保留する箇所が、くぼみによって得られることで、或る量の潤滑オイルが歯車の平滑度と組み合わされ、歯車の使用寿命が増すと考えられる。既述の2重ピーニング後、約5〜25Raの目標範囲に精密仕上げすることにより、歯車の寿命が有意に長くなることが分かった。精密仕上げ後、歯車は、ボウルから取り出され、洗浄され、すすがれる。歯車は、最終段階でさび止め処理され、それにより耐摩耗特性が高められる。
【0030】
別の実施例の場合、液状媒体を添加することなく(すなわち乾式精密仕上げ媒体)ボウル内で歯車が精密仕上げされる。この実施例では、歯車は、歯車表面を平滑化する摩耗材料で乾式に事実上精密仕上げされるが、摩耗材料は液状ではない。容器に振動を伝え歯車と共に精密仕上げ媒体を振動させることにより、歯車表面のくぼみの寸法が低減されるが、圧縮応力とオイル保留の利点は残される。仕上げ後の表面は、既述のように平滑であり、ピーニングによる圧痕は、仕上げ後に残りはするが低減される。
【0031】
媒体ピーニング段階の結果、歯車の歯元円半径には少なくとも約5,631kg/cm(80KSI)、歯車表面には少なくとも約5,631kg/cm(80KSI)の残留圧縮応力が得られる。また深さ0.0127mm(0.0005in)、0.0245mm(0.001in)、0.49mm(0.002in)での残留圧縮応力は、通常、少なくとも約7,038kg/cm(100KSI)である。前記処理パラメータを用いれば、歯車は、残留圧縮応力が、歯元円半径では少なくとも7,038kg/cm(100KSI)、深さの通常値が0.000mm(0.000in)(表面)では少なくとも約9,150kg/cm(130KSI)、0.0127mm(0.0005in)では約12,250kg/cm(175KSI)、0.0245mm(0.001in)では約14,000kg/cm(200KSI)、0.49mm(0.020in)では約15,750kg/cm(225KSI)となるように製造された。
【0032】
既述の2段階媒体ブラスト方法によって処理した歯車の場合、続く精密仕上げ試験によって、歯車が、この3段階加工によって処理されなかった歯車に比較して優れた性能を有することが確認された。この好適加工法により処理された歯車は、優れた疲れ強さを有し、数百時間にわたり試験時にもほとんど摩耗の形跡なしに満足に動作したことが判明した。これに対し、従来の方法で処理した歯車は、動力計試験時に20時間ほどで破損すると予想できる。
ここでは、歯車用の媒体ブラスト処理の方法を抑え付け装置に関連して開示したが、他の従来式部品ホールダとブラスト装置を、ここで説明した複数段階と共に使用することもできる。既述の処理では、きわめてしばしば歯車が歯元円半径での疲れ曲げを防止するために、歯元に鋼粒ピーニングを必要とすることが認められる。本開示では、時として、第1ピーニング段階は必要ではなく、セラミック粒又はガラス粒でのピーニングのみが必要とされることが認識された。後者の場合、歯車に加わる応力はより小さく、おそらく寿命も短縮されると予想される。
【0033】
出願人は、ここで本発明の特定実施例を説明しかつ図面を示したが、これらの実施例は、本発明を制限するものではない。出願人は、本発明の種々の態様を特定実施例で説明したが、特許請求の範囲に記載された本発明の精神及び範囲を逸脱することなく、種々の代替形式及び変更態様が、本開示から可能であることが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属歯車を加工する方法において、
歯車を得る段階と、
第1ピーニング媒体を金属歯車に向け、該歯車の複数表面を第1ピーニング媒体に曝すことで歯車の歯元の強度及び摩耗特性を高める段階と、
第2ピーニング媒体を金属歯車に向け、該歯車の複数表面を第2ピーニング媒体に曝すことで歯車表面の圧縮応力(KSI)を高める段階と、
容器を得る段階と、
容器内に精密仕上げ媒体を入れる段階と、
歯車を精密仕上げ媒体と一緒に容器に装入する段階と
精密仕上げ媒体が歯車と共に振動するように振動を容器に伝える段階と、
歯車を容器から取り出す段階と、
歯車を洗浄する段階と、
歯車をさび止め剤ですすぐ段階とを含む、金属歯車を加工する方法。
【請求項2】
前記精密仕上げ媒体が、亜鉛チップ、水、酸化アルミニウム粉体を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記容器がポリウレタンを内張りした鋼製ボウルである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記振動が、約5−25Raに歯車を仕上げるのに十分な時間続けられる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記第1ピーニング媒体がカット・ワイヤを含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記第2ピーニング媒体が、ガラス粒、セラミック粒、微細鋼粒のうちの1つを含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記ピーニング媒体が約250マイクロメートル未満の直径を有する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記第1ピーニング媒体がセラミック媒体を含み、該セラミック媒体が、約1.75−約6.3kg/cm(約25−約90ポンド毎平方インチ)の圧力で金属歯車に向けられ、かつセラミック媒体が、未使用媒体として添加される場合、約0.210mm−約0.150mmの直径を有する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
製品において、
請求項1記載の方法により製造された、製品。
【請求項10】
前記精密仕上げ媒体が酸性媒体を含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記精密仕上げ媒体が乾式媒体を含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
金属歯車に第1ピーニング媒体を向けることにより、歯車表面に圧痕を設け、歯車表面の圧縮応力を高め、圧痕によりオイルの保留を容易にする、請求項1記載の方法。
【請求項13】
振動を容器に伝えて精密仕上げ媒体を歯車と共に振動させることにより、歯車表面の圧痕寸法を減少させ、しかも歯車表面には圧縮応力とオイル保留の利点とを残す、請求項12記載の方法。
【請求項14】
金属歯車加工装置において、
歯車の歯元の強度及び耐摩耗特性を高めるため、金属歯車の複数表面が第1ピーニング媒体に曝されるように、第1ピーニング媒体を金属歯車に向ける装置と、
歯車表面の圧縮応力(KSI)を高めるため、歯車の複数表面が第2ピーニング媒体に曝されるように、第2ピーニング媒体を金属歯車に向ける装置と、
容器と、
容器内の精密仕上げ媒体と、
第1ピーニング媒体と第2ピーニング媒体とに曝される歯車を容器内へ配置する装置と、
精密仕上げ媒体を歯車と共に振動させるために容器に振動を伝える装置と、
容器から歯車を取り出す装置と、
歯車を洗浄する装置と、
歯車をさび止め剤ですすぐ装置とを含む、金属歯車加工装置。
【請求項15】
金属歯車において、
請求項14記載の金属歯車加工装置により製造される、金属歯車。
【請求項16】
金属歯車において、
該金属歯車の表面が、歯車の歯元の強度及び耐摩耗特性が高めるために第1ピーン媒体により処理され、また歯車表面の圧縮応力(KSI)を高めるために第2ピーニング媒体により処理され、更に、精密仕上げ媒体と共に振動させることにより精密仕上げされ、その結果、ピーニングにより形成され圧痕が低減された精密仕上げ表面が得られる、金属歯車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−81569(P2012−81569A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−231667(P2010−231667)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(510273802)エンジニアード アブラシブズ、インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】