説明

ファンシュラウド構造

【課題】 軸流ファンの静圧効率の向上及びファン騒音の低減が可能なファンシュラウド構造の提供。
【解決手段】 軸流ファン2は、ラジエータ1の後方に配置される。シュラウド3は、ラジエータ1の後面1bの周縁と軸流ファン2の羽根6の外縁近傍とを連続し、ラジエータ1を通過した空気を軸流ファン2に導くための通気空間5を区画形成する。シュラウドリング4は、シュラウド3の内側に配置され、軸流ファン2の羽根6の外縁近傍でシュラウド3と接すると共に、軸流ファン2の羽根6の外縁近傍からラジエータ1に向かって延びる。シュラウドリング4には、連通孔9が形成されている。シュラウドリング4は、通気空間5を、シュラウドリング4の内面により区画される内側通気領域7と、シュラウドリング4の外面とシュラウド3の内面とにより区画される外側通気領域8とに分割する。連通孔9は、内側通気領域7と外側通気領域8とを連通する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファンシュラウド構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のラジエータを冷却する冷却ファン装置は、ラジエータの後方に配置された軸流ファンとシュラウドとを備えている。シュラウドは、軸流ファン側からラジエータ側へ漸次拡開する円弧面に形成され、ラジエータを通過した空気を軸流ファンに導く。シュラウドの周壁には、軸流ファンの前方に位置する吸込み孔と軸流ファンの羽根先部分の近傍に位置する吹出し孔とが形成されている。シュラウドの外面上には、吸込み孔と吹出し孔とを連通するバイパス通路が設けられている。
【0003】
軸流ファンが回転すると、ラジエータから後方へ向かってシュラウド内に気流が生じ、ラジエータが冷却される。また、シュラウドの内面近傍の空気は、吸込み孔から吸い込まれ、バイパス通路を流通して吹出し孔からシュラウド内へ吹き出される。このため、軸流ファンの回転に伴う騒音が緩和される。
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第2564135号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載のシュラウドの形状は、ラジエータの形状に依存する。このため、シュラウドにより区画される通気空間を、軸流ファンの風速分布に基づいた最適形状に近づけることは難しく、バイパス通路による騒音の緩和は図られてはいるものの、シュラウドの内面近傍で空気の流れの剥離が発生し易く、軸流ファンの静圧効率の低下やファン騒音の増大を招く。
【0006】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、軸流ファンの静圧効率の向上及びファン騒音の低減が可能なファンシュラウド構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係るファンシュラウド構造は、熱交換器と軸流ファンとシュラウドと環状のシュラウドリングと連通孔とを備える。熱交換器は、前面から後面へ空気の通過を許容する。軸流ファンは、熱交換器の後方に配置される。シュラウドは、熱交換器の後面の周縁と軸流ファンの羽根の外縁近傍とを連続し、熱交換器を通過した空気を軸流ファンに導くための通気空間を区画形成する。シュラウドリングは、シュラウドの内側に配置され、軸流ファンの羽根の外縁近傍でシュラウドと接すると共に、軸流ファンの羽根の外縁近傍から熱交換器に向かって延びる。連通孔は、シュラウドリングに形成されている。
【0008】
シュラウドリングは、通気空間を、シュラウドリングの内面により区画される内側通気領域と、シュラウドリングの外面とシュラウドの内面とにより区画される外側通気領域と、に分割する。連通孔は、内側通気領域と外側通気領域とを連通する。
【0009】
上記構成では、軸流ファンの回転により、通気空間の内側通気領域に気流が発生する。係る気流により内側通気領域が負圧となり、内側通気領域と外側通気領域との間に圧力差が生じる。これにより、外側通気領域の空気が連通孔から内側通気領域に吸い出される。従って、内側通気領域及び外側通気領域において、熱交換器から後方へ向かう気流が生じ、熱交換器が冷却される。
【0010】
ここで、シュラウドの形状は熱交換器の形状に依存するが、シュラウドリングの形状は熱交換器の形状に依存しない。このため、内側通気領域の形状を、軸流ファンの風速分布を重視した形状に設定することができ、軸流ファンの静圧効率が向上する。
【0011】
また、内側通気領域及び外側通気領域において、空気の流れの剥離や逆流による渦の発生に伴う圧力変動が抑制され、これに起因して発生するファン騒音が低減する。
【0012】
さらに、ファン効率の向上により通気流量が増大するため、軸流ファンの駆動力の低減による省力化を図ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、軸流ファンの静圧効率の向上及びファン騒音の低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は本発明の第1実施形態に係るファンシュラウド構造の全体側面図、図2は図1のファンシュラウド構造を後方から視た背面図、図3は、図2のIII−III断面図である。
【0015】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係るファンシュラウド構造は、熱交換器としてのラジエータ1と、軸流ファン2と、シュラウド3と、シュラウドリング4とを備える。
【0016】
ラジエータ1は、車両のエンジンルーム内に搭載され、ラジエータ1の放熱部分は、前面1aから後面1bへの空気の通過を許容する。軸流ファン2は、ハブ13と複数の羽根6と回転軸12とを有し、ラジエータ1の車両後方に配置される。回転軸12は、ラジエータ1の後面1bと略直交する方向に沿って延び、ラジエータ1に対して回転自在に支持されている。ハブ13は、回転軸12の前端に固定され、複数の羽根6は、ハブ13の外周から略放射状に延びる。回転軸12は、図示外のモータによって回転駆動される。ハブ13の外形は、回転する羽根6により生じる気流を回転軸12に沿った方向へ導く形状を有する。
【0017】
シュラウド3は、ラジエータ1の後面1bの周縁に接合される前端(上流端)3aと、軸流ファン2の羽根6の外縁近傍に配置される後端(下流端)3bとを有する。シュラウド3の内面は、軸流ファン2側からラジエータ1側へ徐々に拡がる所謂ロート形状を有し、ラジエータ1を通過した空気を軸流ファン2に導くための通気空間5を区画形成する。
【0018】
シュラウドリング4は、略円筒形状であり、その軸心がラジエータ1の後面1bと略直交するようにシュラウド3の内側に配置されている。シュラウドリング4の後部(下流側部)4bは、シュラウド3から後方へ突出し、軸流ファン2の羽根6の外縁先端の外側から羽根6を覆う。シュラウドリング4の前部(上流側部)4aはラジエータ1の後面1bに向かって延び、その前端(上流端)はラジエータ1の後面1bに近接している。シュラウド3の後端3bは、羽根6の前端(上流端)の外縁近傍でシュラウドリング4の外面に密接状態で接合されている。
【0019】
これにより、シュラウドリング4は、シュラウド3の内面により区画される通気空間5を、シュラウドリング4の内面により区画される略円柱状の内側通気領域7と、シュラウドリング4の外面とシュラウド3の内面とにより区画される外側通気領域8とに分割する。また、シュラウドリング4には、内側通気領域7と外側通気領域8とを連通する複数の連通孔9が形成されている。複数の連通孔9は、シュラウド3との接合部分の直ぐ前方で、周方向に沿って略等間隔に配置されている。なお、連通孔9の形状は、特に限定されるものではなく、スリット形状など様々な形状が適用可能である。
【0020】
本実施形態によれば、モータにより回転軸12が回転駆動されると、軸流ファン2の羽根の6の回転によって通気空間5の内側通気領域7内にラジエータ1の後面1bから後方へ向かう気流が発生する。この気流は、周速の低い回転中心側の上流よりも周速の高い羽根6の外縁側の上流の方が高流速となり、シュラウドリング4の内面に近接した部分で最も高流速となる風速分布を呈する。そして、係る気流により内側通気領域7が負圧となり、内側通気領域7と外側通気領域8との間に圧力差が生じ、外側通気領域8の空気が連通孔9から内側通気領域7に吸い出され、内側通気領域7の気流と合流する。すなわち、外側通気領域8内にもラジエータ1の後面1bから後方へ向かう気流が発生する。従って、内側通気領域7及び外側通気領域8において、ラジエータ1から後方へ向かう気流が生じ、ラジエータ1が冷却される。
【0021】
また、シュラウドリング4の内面に近接した部分では、連通孔9から吸い出される気流によりエネルギーが供給されるため、境界層の発達が抑制される。
【0022】
また、羽根6の外縁(先端)付近での空気の流れは、遠心力によって放射状に偏流し、その最先端では、羽根6の圧力面側から負圧面側に向かう渦が発生し易い。これに対し、本実施形態では、羽根6の外縁をシュラウドリング4の後部4bが覆っているため、このシュラウドリング4の後部4bによって渦の発生が抑制され、ファン流量(通気流量)の低下や騒音の発生が抑えられる。なお、ファン流量は、羽根6の外縁とシュラウドリング4との隙間(チップクリアランス)や、羽根6の後端の外縁(トレーリングエッジ)とシュラウドリング4の後端との位置関係により変動する。
【0023】
ここで、シュラウド3の形状は、ラジエータ1の形状に依存して設定されるが、シュラウドリング4の形状は、ラジエータ1の形状に依存しない。このため、内側通気領域4の形状を、軸流ファン2の風速分布を重視した形状(風速分布に基づく最適形状の近い形状)に自由に設定することができ、軸流ファン2の静圧効率が向上する。
【0024】
また、内側通気領域7及び外側通気領域8において、空気の流れの剥離や逆流による渦の発生に伴う圧力変動が抑制され、これに起因して発生するファン騒音が低減する。
【0025】
さらに、ファン効率の向上により通気流量が増大するため、軸流ファン2の駆動力の低減による省力化を図ることができる。
【0026】
図4は、第1実施形態の変形例を示す要部断面図である。この変形例は、シュラウドリング4の前部4aを、軸流ファン2側からラジエータ1側へ徐々に拡がる形状とし、シュラウドリング4を所謂ノズル形状としたものである。なお、他の構成については、第1実施形態と同様であるため、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0027】
図5は、本発明の第2実施形態を示す要部断面図である。この実施形態の軸流ファン2は、羽根6の外縁部分をリング部10により連結した所謂リング付きタイプである。シュラウドリング11は円筒形状であり、その後端は羽根6の外縁近傍で羽根6の前縁に近接する。シュラウドリング11の後端外周部分には、リング部10の前端を非接触状態でシールするラビリンスシール14がシュラウドリング11と一体的に設けられている。なお、他の構成については、第1実施形態と同様であるため、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0028】
図6は、第2実施形態の変形例を示す要部断面図である。この変形例は、シュラウドリング11の前部を、軸流ファン2側からラジエータ1側へ徐々に拡がる形状とし、シュラウドリング11を所謂ノズル形状としたものである。なお、他の構成については、第2実施形態と同様であるため、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0029】
図4〜図6に示すように、本発明に係るファンシュラウド構造では、シュラウドリング11(内側通気領域7)の形状を、軸流ファン2の風速分布を重視した様々な形状に自由に設定することができる。
【0030】
なお、上記説明では、本発明を車両用のラジエータ1に適用した例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、熱交換器及び軸流ファンを備えた様々なファンシュラウド構造に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1実施形態に係るファンシュラウド構造の全体側面図である。
【図2】図1のファンシュラウド構造を後方から視た背面図である。
【図3】図2のIII−III断面図である。
【図4】第1実施形態の変形例を示す要部断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るファンシュラウド構造の要部断面図である。
【図6】第2実施形態の変形例を示す要部断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1:ラジエータ(熱交換器)
2:軸流ファン
3:シュラウド
4:シュラウドリング
5:通気空間
6:羽根
7:内側通気領域
8:外側通気領域
9:連通孔
10:リング部
11:シュラウドリング
12:回転軸
13:ハブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面から後面へ空気の通過を許容する熱交換器と、
前記熱交換器の後方に配置される軸流ファンと、
前記熱交換器の後面の周縁と前記軸流ファンの羽根の外縁近傍とを連続し、前記熱交換器を通過した空気を前記軸流ファンに導くための通気空間を区画形成するシュラウドと、
前記シュラウドの内側に配置され、前記軸流ファンの羽根の外縁近傍で前記シュラウドと接すると共に、前記軸流ファンの羽根の外縁近傍から前記熱交換器に向かって延びる環状のシュラウドリングと、
前記シュラウドリングに形成された連通孔と、を備え、
前記シュラウドリングは、前記通気空間を、該シュラウドリングの内面により区画される内側通気領域と、前記シュラウドリングの外面と前記シュラウドの内面とにより区画される外側通気領域と、に分割し、
前記連通孔は、前記内側通気領域と前記外側通気領域とを連通する
ことを特徴とするファンシュラウド構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−37733(P2006−37733A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−214294(P2004−214294)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】