説明

フィチン酸又はその誘導体とのメチル供与体の塩又は錯塩、及びその合成法

【課題】SAMeメチル供与体の誘導体又は上記の他のメチル供与体の誘導体を提供することであって、SAMeの場合、生成物の化学的安定性を保証する必要のある塩形成を、生体異物であるカウンターイオンを用いずに、実施しやすい安価なプロセスによって得ること。
【解決手段】本発明はメチル供与体の塩又はキレート、特にS−アデノシル−L−メチオニン即ちSAMe及びベタイン即ちN,N,N−トリメチルグリシンと、金属カチオンと任意選択で部分的に塩を形成していてもよい、フィチン酸又はリン酸化イノシトールとの塩又はキレートであって、元のメチル供与体特有の生物活性に更にフィチン酸又はイノシトール特有の生物活性と合わされ、それにより増強されている、安定で、全体に天然化合物を形成する塩又はキレートの製造法に関する。本発明はまた、フィチン酸若しくはその誘導体との、メチル供与体の1つ或いは複数の塩又は錯塩を含む、栄養補助、医薬、食物、生薬又は獣医学組成物及びその合成法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィチン酸又はその誘導体とのメチル供与体の新規の塩又は錯塩、及びその合成法に関する。より詳細には、本発明はS−アデノシル−L−メチオニン即ちSAMe、及びベタイン即ちトリメチルグリシンなどのメチル供与体の、フィチン酸又はリン酸化イノシトールとの塩又はキレートであって、元のメチル供与体の典型的な生物活性がフィチン酸及びイノシトールの典型的な生物活性と合わされ、それにより増強されている、完全に天然の安定な化合物を形成する塩又はキレートの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のとおり、メチル供与体とはメチル基転移反応により容易に他の分子に移る生物学的に不安定なメチル基を有する天然有機メチル化化合物のことを言う。この反応によりメチル基がメチル供与体分子から他の分子に与えられると、その化学的物理的特性及び生物学的機能は完全に変化し、それによって体内プロセスで明確な生理学的機能を有する分子の生合成が可能となる。トランスフェラーゼ、トランスメチラーゼ又はメチルトランスフェラーゼ類に属する酵素によって触媒されるメチル化反応は、例えば遺伝子発現、細胞膜の機能並びに種々のホルモン及び神経伝達物質の働きに影響を及ぼす。実際、すべてのビタミン、ホルモン、神経伝達物質、核酸、酵素及び抗体は、体内でのその合成及び機能発現についてメチル基転移に依存している。
【0003】
特に、メチル基は、有毒アミノ酸であるホモシステイン[HS(CHCH(NH)COOH]を、有用アミノ酸である含硫アミノ酸メチオニン[CHS(CHCH(NH)COOH]に変換するということは、即ちメチル供与体はすべてのタンパク質に存在するということである。事実、生体は少量のホモシステインしか使用せず、その蓄積により心血管疾患が引き起こされる恐れがある。これを防ぐための生体中の1つの解毒機構が実際メチル化である。
【0004】
既述のアミノ酸であるメチオニンや、食品中に広く存在する他の必須栄養素であり、また容易に転移可能なメチル基を有する分子を持つコリン[(CH(CHOH]以外に、メチル供与活性を有する天然物のうち、著しいものはSAM即ちSAMe、S−アデノシル−L−メチオニン(アデメチオニンとしても知られる)である。これはすべての生物中、細菌、菌類、植物、人類も含めて動物中に見出される天然化合物であり、多くの生化学反応の重要な成分である。
【0005】
SAMeを含む生成物は、下記の構造式で示される(RS)−(+)−SAMe及び(SS)−(+)−SAMeの、2つのジアステレオ異性体の混合物から構成される。
【化1】

【0006】
これら2つのジアステレオ異性体の内1つだけ、(SS)−(+)−SAMe、がメチル基転移に関して生物学的に活性で、これは自然にラセミ化して、不活性なジアステレオ異性体(RS)−(+)−SAMeの形成となることが明らかにされている。生物中では、SAMeは酵素(S−アデノシルメチオニンシンテターゼ又はS−アデノシルトランスフェラーゼ)の働きにより、細胞質中で、食品から摂取されたメチオニンと生細胞中のエネルギー源であるATPから合成される。
【0007】
神経伝達物質であるセロトニンからメラトニンへの変換、筋肉組織の基本的エネルギー源であるクレアチンの合成、重要な抗酸化剤であるグルタチオンの再統合、コリン及びコリンを前駆体とするホスファチジルコリンの生合成など、生体にとって極めて重要な生物学的機能に関連した多くのメチル基転移反応において、SAMeは基本的機能を果たしている。神経伝達物質合成におけるその機能により、SAMeはうつ病の治療成功裏に使用されており、また慢性肝障害、高脂血症、肥満及びアテローム性動脈硬化症などの他の医療分野にも応用されている。
【0008】
重要な生物学的機能を有する他のメチル供与体は、ベタイン即ちトリメチルグリシン(TMG)、より正確にはN,N,N−トリメチルグリシンであり、化学式[(CH(CH)COO]で示される。後者はコリンの酸化類似体であり、コリン代謝により生体中で合成される。この第4級アミノ酸は植物及び動物中に広く見出され、また糖蜜、綿実及び小麦胚芽中に大量に存在する。この主要な形態は無水、純度97%、結晶性生成物として生じる。摂取されると、メチル基転移反応により肝臓レベルで速やかに第3級アミノ酸ジメチルグリシン(DMG)に変化し、細胞代謝の改善、免疫系及び酸素利用に対するDMG特有の全ての利点をもたらすことにより、肉体的及び精神的過労に対する生体の適応力を改善する。
【0009】
さらに、トリメチルグリシンは他のメチル供与体と同様、生体のホモシステイン濃度を減少させ、また脂肪作用薬及び肝障害における肝保護薬として推奨されている。
【0010】
つまり、従って、ベタインのメチル基転移は、ジメチルグリシンが生成することによりすべての一連の効果を発揮し、心血管疾患及び肝臓疾患の治療、スポーツ医学、また糖尿病、神経変性、低血糖症、慢性疲労、自閉症の治療などにおいて、このメチル供与体は有用であることが見出された。
【0011】
次に、現在最も一般的なメチル供与体であるS−アデノシル−L−メチオニンに戻ると、この分子は、ATPとメチオニンからの酵素的合成を経て合成的に、又はトルロプシス・ユーティリス(Torulopsis utilis)、アスペルギルス・タマリ(Aspergillus tamarii)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等の酵母を用いた発酵により得ることができる。不活性成分は天然物中に約20%の割合で残っているが、合成成分には50%の生物学的不活性生成物が存在する。
【0012】
SAMeの主な欠点は溶液中でも結晶形でも不安定性であることである。室温でも生成物はラセミ化、開裂による分解又は加水分解を起こし、5’−メチルチオアデノシンとホモセリンラクトンに分解される。塩化物又は硫酸塩は短期間の活性成分としてのみ用いることができるが、市販の医薬品製品の製造には適していない。この欠点を克服するために古くからSAMeの多くの塩が提案されており、特許文献1に開示されているトリ−p−トルエンスルホン酸塩(トリトシル酸塩)、特許文献2に開示されている硫酸とp−トルエンスルホン酸との複塩(二硫酸二トシル酸塩及び二硫酸トシル酸塩)、特許文献3に開示されているスルホン酸塩又は硫酸とスルホン酸との複塩がある。さらに前述の塩は酸性度が高く、薬学的に安定な生成物とするには緩衝塩の濃度が高くなってしまい非経口用途には適さないため、SAMeと1,4−ブタンジスルホン酸の塩がまた提案されている。さらに、市販するには仕様書に必要とされる保存期間中に分解しないことを保証しなければならない生成物に、必要な安定性をもたらす目的で提案された他のSAMe塩は、アシルタウリンとから得られた塩である。
【0013】
検討されたSAMe塩に基づく生成物は今のところ、かなりの量の生体異物を含んでいることに注目すべきである。即ち、トシル酸二硫酸塩では活性成分重量のほぼ半分が合成生体異物である硫酸及びp−トルエンスルホン酸から構成され(384mgの生成物は200mgのSAMeイオンに相当)、1,4−ブタンジスルホン酸塩でも同様で(760mgは400mgのSAMeイオンに相当)、生体異物であるブタンジスルホン酸塩は主に石油化学原料由来の有機化合物である。
【0014】
前述の場合共に生成物を凍結乾燥又は噴霧乾燥してもよい。生成物の酸性度は開裂反応を防ぎ、一方凍結乾燥又は噴霧乾燥により得ることが可能な少量の水分量は生成物を化学的加水分解から守る。しかし、SAMeの生体内での安定性は、大きなアニオンとの結合及び高電荷によることが明らかとなっている。
【0015】
以上を考慮すると、先行技術による安定なSAMe塩の製造には、上記の乾燥プロセスに高費用がかかり、完全に非天然由来の生体異物カウンターイオンを用いる必要があることが明らかである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】イタリア特許第1043885号明細書
【特許文献2】米国特許第3,954,726号明細書
【特許文献3】イタリア特許第1054175号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は従ってSAMeメチル供与体の誘導体又は上記の他のメチル供与体の誘導体を提供することであって、SAMeの場合、生成物の化学的安定性を保証する必要のある塩形成を、生体異物であるカウンターイオンを用いずに、実施しやすい安価なプロセスによって得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このために、本発明によれば、メチル供与体分子、特に、しかし限定されるものではないが、即ちSAMeが、塩形成により導入された分子のアニオン部分でさえ天然由来で、それ自体が生成する化合物の治療又は栄養補助活性に有用ないくつかの生物学的機能を有するように選ばれたカウンターイオンと、塩を形成することが提案された。
【0019】
本発明によれば、高密度の負電荷を有することを特徴とする、完全な天然物質であるフィチン酸がSAMeと塩を形成し、適当な溶媒を用いて水中(氷浴中)で沈殿を形成し、複雑な手順を踏むことなく安定な塩を分離することができ、さらに沈殿、ろ過した塩から、塩化カルシウム又は無水リン酸などの通常の乾燥剤による簡単な乾燥プロセスにより室温で残留する水を除くことができることを見出した。
【0020】
フィチン酸即ちイノシトール六リン酸[イノシトールヘキサキス(リン酸二水素)]はイノシトールの六リン酸エステルであり、分子量660.04、実験式C1824で下記の構造式を有する。
【化2】


これは天然、特に植物中に広く見出される化合物で、中でも特に脂肪種子、穀物及び豆類に豊富である。またフィチン酸そのものとして若しくはナトリウム塩(フィチン酸ナトリウム)の形で溶液で、又はカルシウム、マグネシウム混合塩[CaMg(C24)]として市販されている。後者はフィチンと呼ばれ、リン酸化強壮剤及びカルシウム栄養補助食品として用いられる。
【0021】
フィチン酸は二価及び三価のカチオンと不溶性の複合体を形成し、さらに無機物とキレートを形成するので、過去においては非栄養因子とみなされていた。しかしこの天然抗酸化剤はまさにそのキレート形成能により、癌腫に対して防護効果を示すことに注目しなければならない(Shamsuddin,A.M.,Elsayed,A.M.及びUllah,A.(1998),「イノシトール六リン酸によるf344ラットの大腸癌の抑制(Suppression of large intestinal cancer in f344 rats by inositol hexaphosphate)」,Carcinogenesis,9:577−580)。さらにフィチン酸の摂取により胃が飽満し、食後の血糖値に働いてアミドの消化を減速させる。フィチン酸はフィターゼにより消化され、対応する六ヒドロキシ生成物であり、また天然に広く見出され、微生物や高等動物の成長因子であるイノシトールを生成物として与える。
【0022】
フィチン酸が、それゆえ治療用又は栄養補助用分子中の存在が非常に感知できる一連の生物学的有用効果を示すのは、生体内でのイノシトールへの変換の結果である。近年の研究ではその抗腫瘍活性だけでなく、抗酸化、コレステロール低下及び脂質低下活性にも注目が集まっている。
【0023】
その抗発癌活性に関しては、疫学的研究において、フィチン酸の優れた天然源である大豆製品を使用することにより、前立腺癌による死亡率が低下することが明らかとなっている。このことは特に、フィチン酸が、カルシウム、マグネシウム、銅、鉄の他に、亜鉛とキレートを形成できることに起因している(Hebert,J.R.,Hurley,T.G.,Olendzki,B.C.,Teas,J.,Ma,Y.&Hampl,J.S:(1998),「前立腺癌死亡率に関する栄養学的及び社会経済学的因子:国際比較研究(Nutritional and socioeconomic factors in relation to prostate cancer mortality:a cross−national study)」,J.Natl.Cancer Inst.,90:1637−1647;Kolonel,L.N.,Hankin,J.H.,Wittemore,A.S.,Wu,A.H.,Gallagher,R.P.,Wilkens,L.R.,等(2000)「野菜、果物、豆果及び前立腺癌:民族間ケースコントロール研究(Vegetables,fruit,legumes and prostate cancer:a multiethnic case−control study),Cancer Epidemial Biomarker Prev,9:975−804)。
【0024】
特にイノシトールは細胞膜中及び神経系における細胞機能調節を伝達する信号を送ることにおいて活性である。コリンと同様、イノシトールはまたレシチン中に存在し、生体中でレシチンそのものの生産を刺激するのに効果的であることが明らかになっている。脂質はレシチンの助けを借りて肝臓から細胞へ運ばれるので、イノシトールは脂質代謝に対して正に寄与し、血中コレステロール濃度の減少を助ける。さらにコリンと共にイノシトールを使用すると糖尿病性末梢神経障害に顕著な効果をもたらし、同じ組合せがまた女性の栄養や低血糖症の場合に推奨されている。
【0025】
リン脂質などの動物源又はフィチン酸の様な野菜源からの食品としてのイノシトールの1日摂取量は約1グラムであるが、治療量は1日あたり500〜1,000mgの範囲である。糖尿病による末梢神経障害患者への500mgの1日2回2週間投与によりかなりの効果が見られた。またミオイノシトールを3gで経口、1グラムで静脈内投与したが、副作用又は毒性作用は現れなかった。
【0026】
イノシトール及びその生体内での前駆体であるフィチン酸の他の有用な生物学的効果のうち、イノシトールは鎮静剤と類似の効果を有し、副作用のないトランキライザーとして作用するだけではなく、不眠に対して有効であるかも知れないという点に注目すべきである。イノシトールは徐々に血圧を下げることによって軽い高血圧症を治療し、統合失調症、低血糖症、高銅血症及び低亜鉛血症の患者の治療にも有用である。最後に、イノシトールは肝腫脹を予防することも見出されている。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】a及びbは、50%フィチンと50%SAMe二硫酸トシル酸塩の物理的混合物の製造直後のクロマトグラムである。
【図2】a及びbは、本発明によるSAMeフィチン酸錯塩の製造後のクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
したがって、本発明は特に、フィチン酸又はリン酸化イノシトールとの、メチル供与化合物の塩又は錯塩を提供する。なおここで、リン酸化イノシトールとは、フィチン酸の1つ又は複数のリン酸基が金属カチオンと塩を形成している分子を意味し、メチル供与化合物は、S−アデノシル−L−メチオニン及びN,N,N−トリメチルグリシンから成る群から選択することができる。
【0029】
関与するメチル供与体がSAMeである場合、本発明によるフィチン酸若しくはリン酸化イノシトールとの、SAMeの塩及び錯塩は、下記化学式を有する。
SAMe・n[(C(18−x)24)・My/a・N(x−y)/b
式中、SAMeはS−アデノシル−L−メチオニン分子であり、
nは1〜3の範囲の整数であり、
xは0〜12を含む数であり(0≦x≦12)、
yは0〜xを含む数であり(0≦y≦x)、
M及びNは一価又は多価の金属カチオンであり、
a及びbはそれぞれM及びNの酸化状態を示す。
【0030】
上記一般式には、SAMeがフィチン酸、フィチン(カルシウム、マグネシウム塩)又はフィチン酸ナトリウムやフィチン酸のカルシウム及び鉄塩などの、他のフィチン酸と金属カチオンとの単純塩又は混合塩と塩を形成している特定の場合を含んでいることが明らかである。
【0031】
メチル供与化合物がベタイン又はN,N,N−トリメチルグリシンである他の特定の場合、本発明による塩又は錯塩は下記化学式を有する。
mTMG・n[(C(18−x)24)・My/a・N(x−y)/b
式中、TMGはN,N,N−トリメチルグリシン分子であり、
m及びnは1〜10の範囲の整数であり、
xは0〜12を含む数であり(0≦x≦12)、
yは0〜xを含む数であり(0≦y≦x)、
M及びNは一価又は多価の金属カチオンであり、
a及びbはそれぞれM及びNの酸化状態を示す。
【0032】
前述の場合共に、M及びNカチオンは、存在する場合、アルカリ金属カチオン又はアルカリ土類金属カチオンであることが好ましく、カルシウム及びマグネシウムであることが特に好ましい。
【0033】
他の側面によれば、本発明は特に、金属カチオンと任意選択で部分的に塩を形成した、フィチン酸又はリン酸化イノシトールとの、S−アデノシル−L−メチオニン及びN,N,N−トリメチルグリシンから成る群から選択されるメチル供与化合物の1つ或いは複数の塩又は錯塩を含む、栄養補助的、薬用、食事用、生薬用又は獣医学用組成物を提供する。またこの場合、本発明の特定の実施形態は、メチル供与体がSAMeであって、前記塩又は錯塩が前述の一般式で表される場合、及びメチル供与体がベタインであって、本発明により得られた塩又は錯塩が対応する上記一般式により表される場合からなる。これらの2つの活性成分をまた互いに組み合わせて配合することもできる。
【0034】
本発明により提案された組成物は、SAMeに関する現在の期待値をこえる保存性を示すだけでなく、単一分子中に2つの異なった活性成分の生物活性を併せ持ち、生物学的に有用でない生体異物成分を含まないという疑う余地のない有利性を有している。主な望ましい活性が抗うつ作用であるSAMeの場合、それ自体が気分を安定させる効果を有するイノシトールの様な代謝成分が同一分子中に更に存在することは、得られる製剤に相乗効果を与えることができる。
【0035】
さらに既述のとおり、フィチン酸との錯塩又は塩としてのメチル供与体はある種の癌において抗酸化活性及び保護活性を増大させる。
【0036】
本発明による製剤を、薬学分野における周知の技術に基づいて製剤することができ、例えば酸性化剤、乾燥剤、安定化剤又は抗酸化剤と合わせることができる。特定の利用分野において一般的で、予定する投与形態に適当な着香剤、甘味料及び他の成分を加えることができる。この製剤はまた、特に、マイクロカプセル化することもできる。
【0037】
本発明はまた特に、金属カチオンと任意選択で部分的に塩を形成した、フィチン酸又はリン酸化イノシトールとのメチル供与化合物の1つ或いは複数の塩又は錯塩の、栄養補助、医薬、食物、生薬、化粧品又は獣医学製剤の製造のための使用を提供する。既述のとおり、メチル供与体は、S−アデノシル−L−メチオニン、N,N,N−トリメチルグリシン、N,N−ジメチルグリシン、コリン及びメチオニンから成る群から選択され、メチル供与体がSAMeである生成物、及びメチル供与体がトリメチルグリシンである生成物が最も好ましい。
【0038】
特に本発明による塩を含む製剤を、ヒトだけでなくすべての他の恒温脊椎動物における、抗うつ活性を有する又はどのような場合でも中枢神経系に作用する製剤、肥満治療用製剤、リン栄養補助食品、カルシウム栄養補助食品及びマグネシウム栄養補助食品、肝保護製剤、皮膚科用活性を有する製剤及び抗腫瘍活性を有する製剤として用いることができる。
【0039】
最後に他の側面によれば、本発明は、提案されたメチル供与体の塩又は錯塩を得ることができる、きわめて簡単で安価な合成プロセスに関する。一般的に本プロセスは下記の基本操作を含む
a)メチル供与化合物又はその塩を適当な溶媒に溶解する操作、
b)既定量のフィチン酸又はリン酸化イノシトールを添加する操作、
c)所望の塩又は錯塩が不溶である溶媒を反応混合物に添加する操作、
d)生成する沈殿物を集め、ろ過する操作、
e)前記沈殿物を乾燥又は放置により乾燥する操作。
【0040】
フィチン酸とトリメチルグリシンとの塩又は錯塩の製造の場合、前記操作a)を、N,N,N−トリメチルグリシン塩基を蒸留水に溶解することにより行い、操作b)の後、塩化カルシウム又は塩化マグネシウムを反応混合物に加え、さらに前記操作c)においてエタノール又は他の適当な溶媒を加え、全混合物を完全に沈殿が得られるまで4℃で放置する。最後に、ろ過d)後、前記操作e)を乾燥剤の存在下室温で行う。
【0041】
SAMeが、先行技術のアニオンの1つと、直接フィチン酸と、或いはリン酸化イノシトール(フィチン)と既に塩を形成した形で反応するかどうかによって、また後者の場合フィチンを加える前にSAMeから脱離したアニオンを予め抽出しているかどうかによって、前述の手順によるSAMeの塩又は錯塩の製造を別の手順で行うことができる。前述の基本手順の特定の実施形態によれば、操作a)を、SAMe塩を蒸留水に溶解することにより行い、操作b)をフィチン酸を用いて行い、前記操作b)の後、反応混合物を氷浴中で攪拌しながら放置し、操作c)においてエタノール又は他の適当な溶媒を加え、全混合物を完全に沈殿が得られるまで氷浴中で放置する。最後に、ろ過d)後、操作e)を乾燥剤の存在下で行う。
【0042】
異なった特定の実施形態によれば、操作a)を、SAMe塩を蒸留水に溶解することにより行い、この操作の後、SAMe塩に元来存在するアニオン、特に硫酸アニオン、を適当な試薬、特に塩化バリウムを加えて塩として沈殿とさせ、さらに操作b)を、フィチンを加えることにより行い、さらに数滴の濃硫酸を加え、反応混合物を氷浴中で攪拌しながら放置する。操作c)においてエタノールを加え、全混合物を完全に沈殿が得られるまで氷浴中で放置する。最後に、ろ過d)後、操作e)を乾燥剤の存在下で行う。
【0043】
いくつかの特定の溶液によれば、前記乾燥剤は塩化カルシウム又は無水リン酸である。
【0044】
本発明によるプロセスの最も有利な特徴の1つは、凍結乾燥及び噴霧乾燥プロセスを必要とせずに、所望の生成物を結晶及び乾燥形として得ることであるが、前記操作e)を噴霧乾燥又は凍結乾燥操作に置換し、本発明のプロセスの第一段階により得られた塩又は錯塩溶液に直接行うことも可能である。
【0045】
本発明の特定の特徴は、その有利性及び比較操作手順と同様、本発明において実施した実験結果と共に、以下の実施例により単に示された詳細な説明を用いて、より明らかとなろう。いくつかの実験結果はまた添付図面中に示される。
【実施例】
【0046】
本発明による合成のいくつかの特定の実施形態を下記の実施例に示す。
【0047】
(実施例1)
SAMeフィチン酸塩の合成
下記の実施例において、イオン型のSAMeは発酵酵母から直接得られた。本発明による調製を、下記の手順により行った。
・SAMeイオン 1モル、
・フィチン 1モル、
・2/3滴の濃硫酸を添加する、
・3種の生成物を氷浴中で冷却、混合する、
・SAMeフィチン酸塩の沈殿が完全に得られるまでエタノールを添加する、
・ろ紙を用いて沈殿物をろ過後、塩化カルシウム又は無水リン酸を用いた乾燥器中に放置して乾燥する。
回収率>90%。
【0048】
完全に乾燥後、結晶性塩様生成物は軟白色粉末の外観を有する。化学分析により、約1モルのフィチン酸が1モルのSAMeイオンと実際に塩を形成していることが明らかとなる。
【0049】
生成物は53℃で5日間非常に安定であることが明らかになった。
【0050】
上記の反応はまた、フィチンの代わりにフィチン酸を用いても実施でき、カルシウム及び/又はマグネシウムを加えて沈殿物を得る。
【0051】
最後に、SAMeのフィチン酸とのキレート化は、また培養液からSAMeの粗精製にも有用である事にも注目すべきである。
【0052】
(比較例)
SAMe二硫酸トシル酸塩とフィチンの物理的混合物
先の実施例と同じ成分の、単純で、塩や錯塩を形成していない混合物の安定性を評価するために、フィチンとSAMe二硫酸トシル酸塩を同じ割合で単純に乾燥混合した(50%フィチン、50%SAMe二硫酸トシル酸塩)。
【0053】
分解の評価は、溶離液として0.5M(pH4)ギ酸アンモニウム、流速1.2ml/min、スペルコシル(Supelcosil)LC−SCXカラム(25cm、4.6mm、5ミクロン)を用いたHPCEC−UV分析により行った。
【0054】
調製直後及び53℃5日後の混合物から得られたクロマトグラムを、測定値の数表も合わせてそれぞれ図1a及び図1bに示す。ここからわかるように、53℃5日後において、活性成分の消失は24%を超えている。
【0055】
(実施例2)
SAMeフィチン酸塩の合成
市販のSAMe塩であるSAMe二硫酸トシル酸塩を出発原料として、本発明による生成物の合成を下記の手順により行った。
1.400mgのSAMe二硫酸トシル酸塩を2.5mlの蒸留水に溶解する、
2.エーテル(5ml)中、p−トルエンスルホン酸(PTSA)を、分液ロートを用いて抽出する、
3.水層(PTSAを抽出後)に含まれている硫酸イオンを0.254mgの塩化バリウムで沈殿化後、4000rpmで5分間遠心分離(T=4℃)する、
4.上清にフィチン410mgの水懸濁液2.5mlをゆっくり添加(マグネチックスターラーで攪拌しながら)する、
5.2/3滴の硫酸を添加する、
6.氷浴中で10分間放置(溶液のpHは1.3)する、
7.20mlの95%エタノールを添加後、完全に沈殿が得られるまで氷浴中で放置する、極白色沈殿物が生成する、
8.沈殿物をろ紙上でろ過して分離(ポンプを使用した吸引ビン)する、
9.沈殿物を塩化カルシウム又は無水リン酸の存在下室温で乾燥し、24時間後、生成物は白色結晶性粉末となる。
【0056】
前述のステップ2を省略することもできる事が見出された。
【0057】
SAMeイオン溶液を出発原料として、SAMeイオン及びその硫酸イオンを定量、硫酸イオンとバリウムのモル比は1:1である。次のステップにおけるフィチンのSAMeイオンとフィチン酸のモル比もまた同じである。
【0058】
この反応により約600〜700mgのSAMeフィチン酸塩が得られる。原料SAMeの0〜10%が母液中に残る。
【0059】
前述の合成による3実験室ロットの平均分析値が下記の表にまとめられている。
(表1が続く)
【表1】

【0060】
(実施例3)
フィチン酸とのSAMe塩の合成及び安定性評価
他の市販のSAMe塩であるSAMe1,4−ブタンジスルホン酸塩を出発原料として、本発明による生成物の合成を下記の手順により行った。
1.760mgのSAMe1,4−ブタンジスルホン酸塩を2ccの水に溶解する、
2.ステップ1の溶液に、直接4.95gの40%フィチン酸溶液を添加する、
3.氷浴中で1時間攪拌しながら放置する、
4.完全に沈殿が得られるまで95%エタノールを添加(氷浴中)する、
5.減圧ろ過する、
6.塩化カルシウム又は無水リン酸を用いた乾燥器中で24〜48時間乾燥する。
【0061】
このようにして得られた生成物を、上記比較例に用いた手順と同様の手順により安定性試験に付した。本発明によるSAMeフィチン酸錯塩及び、同時に、フィチンとSAMe二硫酸トシル酸塩を同じ割合で乾燥混合して得られた物理的混合物(50%フィチン、50%SAMe二硫酸トシル酸塩)を安定性試験に付し、その結果を下表に示した。
【0062】
またこの場合、分解の評価は0.5Mギ酸アンモニウム(pH4)を溶離液とし、流速1.2ml/mで、スペルコシル(Supelcosil)LC−SCXカラム(25cm、4.6mm、5μm)を用いたHPCEC−UV分析により行った。
【表2】


【表3】


ステューデントt検定法により行った2群の平均%変動差には、高い有意差があったp<0.01。
【0063】
本実施例の手順によるSAMeフィチン酸錯塩から得られたクロマトグラムを、調製直後及び53℃で5日後共に、図2a及び図2bにそれぞれ測定値の数表も合わせて示した。
【0064】
(実施例4)
フィチン酸とのベタイン塩の合成
N,N,N−トリメチルグリシン塩基(ベタイン)を出発原料として、本発明によるフィチン酸との錯塩を下記の手順で得た。
1.1.19gのベタイン塩基を2.5mlの蒸留水に溶解する、
2.1.65gの40%フィチン酸溶液を添加する、
3.溶液を室温で放置し、0.550gの塩化カルシウムを添加する、
4.25mlの95%エタノールを溶液に加え、全混合物を完全に沈殿が得られるまで4℃で放置する、
5.白色沈殿物をろ紙上でろ過することにより分離(吸引ビン)する、
6.沈殿物を適当な乾燥剤の存在下室温で乾燥し、24時間後、生成物は結晶性白色粉末様である。
【0065】
別法としてステップ3において、塩化カルシウムの代わりに0.470gの塩化マグネシウムを加えることができる。
【0066】
本発明をそのいくつかの特定の実施形態を特に参考にして開示したが、添付の請求項に記載した本発明の範囲から逸脱しない限り、当業者によって変形及び変更を加えてもよいと理解されるべきである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
S−アデノシル−L−メチオニン及びN,N,N−トリメチルグリシンからなる群から選択される、フィチン酸又はリン酸化イノシトールとのメチル供与化合物の塩又は錯塩であって、フィチン酸は、金属カチオンと塩を形成する1つ又は複数のリン酸基を有する、1つ又は複数の塩又は錯塩を含む、栄養補助、医薬、食物、生薬又は獣医学組成物。
【請求項2】
前記メチル供与化合物がS−アデノシル−L−メチオニンであり、前記塩又は錯塩が請求項2に記載の通りである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記メチル供与化合物がN,N,N−トリメチルグリシンであり、前記塩又は錯塩が請求項3に記載の通りである、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
S−アデノシル−L−メチオニンの塩又は錯塩とN,N,N−トリメチルグリシンの塩又は錯塩との組合せを含む、請求項2又は3に記載の組成物。
【請求項5】
マイクロカプセル化された、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
S−アデノシル−L−メチオニン及びN,N,N−トリメチルグリシンからなる群から選択される、フィチン酸又はリン酸化イノシトールとのメチル供与化合物の塩又は錯塩であって、フィチン酸は、金属カチオンと塩を形成する1つ又は複数のリン酸基を有する、1つ又は複数の塩又は錯塩の、栄養補助、医薬、食物、生薬、化粧品又は獣医学製剤の製造への使用。
【請求項7】
前記メチル供与化合物がS−アデノシル−L−メチオニンであり、前記塩又は錯塩が請求項2に記載の通りである、請求項6記載の使用。
【請求項8】
前記メチル供与化合物がN,N,N−トリメチルグリシンであり、前記塩又は錯塩が請求項3に記載の通りである、請求項6記載の使用。
【請求項9】
前記製剤が、抗うつ活性又はどのような場合でも中枢神経系に作用する製剤、肥満治療用製剤、リン栄養補助食品、カルシウム栄養補助食品及びマグネシウム栄養補助食品、肝保護製剤、皮膚科用活性を有する製剤並びに腫瘍活性を有する製剤からなる群から選択される、請求項6〜8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
S−アデノシル−L−メチオニン及びN,N,N−トリメチルグリシンからなる群から選択される、フィチン酸又はリン酸化イノシトールとのメチル供与化合物の塩又は錯塩であって、フィチン酸は、金属カチオンと塩を形成する1つ又は複数のリン酸基を有する、塩又は錯塩の製造方法であって、
a)メチル供与化合物又はその塩を適当な溶媒に溶解する操作と、
b)既定量のフィチン酸又はリン酸化イノシトールを添加する操作と、
c)所望の塩又は錯塩が不溶である溶媒を反応混合物に添加する操作と、
d)生成する沈殿物を集め、ろ過する操作と、
e)前記沈殿物を乾燥又は放置により乾燥する操作と、
を含む、方法。
【請求項11】
前記メチル供与化合物がN,N,N−トリメチルグリシンであり、前記操作a)をN,N,N−トリメチルグリシン塩基を蒸留水に溶解することにより行い、前記操作b)の後、塩化カルシウム又は塩化マグネシウムを反応混合物に加え、前記操作c)において溶媒としてエタノールを加え、全混合物を完全に沈殿が得られるまで4℃で放置し、最後に前記操作e)を乾燥剤の存在下、室温で行う、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記メチル供与化合物がS−アデノシル−L−メチオニン(SAMe)であり、前記操作a)をSAMe塩を蒸留水に溶解することにより行い、前記操作b)をフィチン酸を用いて行い、前記操作b)の後、反応混合物を氷浴中で攪拌しながら放置し、前記操作c)において溶媒としてエタノールを加え、全混合物を完全に沈殿が得られるまで氷浴中で放置し、最後に前記操作e)を乾燥剤の存在下で行う、請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記メチル供与化合物がS−アデノシル−L−メチオニン(SAMe)であり、前記操作a)をSAMe塩を蒸留水に溶解することにより行い、前記操作a)の後、SAMe塩に元来存在するアニオンを、適当な試薬を加えることにより塩として沈殿させ、前記操作b)をフィチンを加えることによって行い、前記操作b)の後、濃硫酸を加え、反応混合物を氷浴中で攪拌しながら放置、前記操作c)においてエタノールを加え、全混合物を完全に沈殿が得られるまで氷浴中で放置し、最後に前記操作e)を乾燥剤の存在下で行う、請求項10記載の方法。
【請求項14】
前記乾燥剤が塩化カルシウム又は無水リン酸である請求項10〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記乾燥操作e)の代わりに、前記沈殿物を噴霧乾燥又は凍結乾燥により乾燥する請求項10〜13のいずれか一項に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−235616(P2010−235616A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115119(P2010−115119)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【分割の表示】特願2008−519145(P2008−519145)の分割
【原出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(508000630)
【Fターム(参考)】