説明

フィブリノーゲンおよびフィブロネクチンをベースとする製剤を生成するための方法ならびにこの方法により入手可能なタンパク質組成物

【課題】フィブリノーゲンおよびフィブロネクチンを含むタンパク質組成物の製造方法の提供。
【解決手段】本発明の方法において、フィブリノーゲンおよびフィブロネクチンを含有する出発溶液を、フィブリノーゲンおよび/またはフィブロネクチンの溶解度を改変する2つの異なる成分を含む沈殿組成物で処理し、それにより単一工程の沈殿においてフィブリノーゲンおよびフィブロネクチンを含む沈殿物が形成され、そして形成された沈殿物は、必要に応じて、それ自体が公知の方法によってさらに処理される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィブロネクチンおよびフィブリノーゲンならびに必要に応じてさらなる成分を含むタンパク質組成物の製造方法、ならびにこの方法によって得られ得るタンパク質組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フィブリノーゲンをベースとする組織接着剤(「フィブリン接着剤」)は以前から知られている。これらは、ヒトまたは動物の組織または器官の一部を、創傷の封止、止血および創傷治癒の補助のために、縫い目なしあるいは縫合で支持して接合するために役立つ。
【0003】
その作用様式は血液凝固の最終相の模倣に基づく。
【0004】
トロンビンの作用によって、最初は(可溶性の)フィブリノーゲンがフィブリンモノマーに転換され、これが自発的に凝集して粘着性の塊、いわゆるフィブリン凝塊を形成する。同時に、存在する第XIII因子(F XIII)がカルシウムイオンの存在下でトロンビンによって活性化されて、XIIIa因子となる。後者によって、凝集したフィブリンモノマーと、また、おそらく存在するであろうフィブロネクチンが新しいペプチド結合の形成によって架橋して、高分子となる。この架橋反応によって、形成された凝塊の強度が実質的に増大する。一般に、凝塊は創傷および組織表面に対して良く接着し、これにより、とりわけ、接着および止血効果をもたらす。
【0005】
従って、フィブリン接着剤はしばしば2成分接着剤として用いられ、これはフィブリノーゲン成分をトロンビン溶液(これは追加的にカルシウムイオンを含む)と共に含む。
【0006】
フィブリン接着剤の特に有利な点は、後で施用部位に外来異物として残らないが、自然な創傷治癒と全く同じように完全に再吸収され、そして新たに形成された組織で置換されることである。種々の細胞、例えばマクロファージ、そして引き続き線維芽細胞が凝塊中に移動して凝塊物質を溶解および再吸収し、そして新しい組織を形成する。
【0007】
創傷治癒の複雑な過程はこれまでに完全に解明されたわけではないが、凝塊中のフィブロネクチンの存在が、細胞の増殖と、それゆえ創傷の治癒に対して決定的に重要であることは確かであると考えられている。
【0008】
従って、フィブリン凝塊の至適な組成もまた、ある量のフィブロネクチンをその主成分であるフィブリノーゲンと共に含むべきである。
【0009】
フィブリン接着剤の作用様式は天然の血液凝固のプロセスに実質的に対応するが、十分な効力(接着強度、止血効果)のためには、血液中に存在するよりも実質的に高濃度の活性成分(特にフィブリノーゲン)が必要とされる。ヒトの血中のフィブリノーゲン濃度はおよそ2.5〜3mg/mlに達する。
【0010】
PEG沈殿の手段によって、人工的な試験系において30mg/ml未満のフィブリノーゲン濃度ですでに十分な接着強度を達成できるフィブリノーゲン溶液が得られ得たことが報告されているが(WO 92/13495)、これによっても、多くの組織接着の目的のために、高密度のフィブリンネットワーク(そして後者は組織接着剤における高フィブリノーゲン濃度によってのみ実質的に達成され得る)は確実にはできない。
【0011】
従って、至適な効力を確実にするためには、フィブリン接着剤中のフィブリノーゲン含量は少なくとも70mg/mlであるべきである。しかしながら、このような濃縮したすぐ使用できる(ready−to−use)のフィブリノーゲンまたはフィブリン接着剤溶液の製造は、各々、いくつかの困難を伴う:
このすぐ使用できる溶液は長期間にわたる貯蔵安定性がないので、必要時に、凍結乾燥製剤からの再構成か、あるいは液体を急速凍結(deep−frozen)した溶液を融解することによって、調製しなければならない。
【0012】
フィブリノーゲンは比較的溶解度に乏しく、そして同時に、効果的なフィブリン接着剤においては高いフィブリノーゲン濃度が要求されるので、その改良のための多様な提案がなされているにもかかわらず、一般に、フィブリン接着剤はユーザーが求めているものよりも未だなお扱いにくく、時間がかかるものである。特に緊急手術の分野においては、特に迅速かつ簡単に利用可能なフィブリン接着剤が必要とされることは理解できる。
【0013】
さらに、濃縮したフィブリン接着剤溶液は一般に、高いフィブリノーゲン濃度のせいで高粘度である。しかし、単に取り扱いの容易さのためばかりでなく、フィブリン接着剤が特定の施用様式、例えば、スプレー装置(例えば、添付のスプレーセット付きのDuploject(登録商標))、またはカテーテルによって施用される場合のためにも、比較的低濃度が望ましい。
【0014】
このすぐ使用できるフィブリン接着剤溶液の両方の必要条件(すなわち、迅速な利用可能性および低粘度)を満たすことは、その調製(溶解または解凍の各々)がさらなる補助的手段(例えば、加熱および/または攪拌器具)なしで室温で行われなければならないならば、そしてフィブリン接着剤製剤がさらに高分子量物質(特にフィブロネクチン)を含むならば、さらにより困難である。フィブロネクチンもまた(特にフィブリノーゲンと組み合わせると)溶解が比較的困難であり、そして一般に、さらになお溶解度に乏しいさらに粘度の高いフィブリン接着剤をもたらす。
【0015】
組織接着剤として用いられ得るフィブリノーゲン含有製剤の製造方法は、とりわけ、寒冷沈降物からの製造(任意に、エタノール、硫酸アンモニウム、ポリエチレングリコール、グリシンまたはβ−アラニンを用いるさらなる洗浄および沈殿工程を含む)、および公知の血漿分画法の範囲内での血漿からの製造を各々、包含する(例えば、「Methods of plasma protein fractionation」、1980、Curling編、Academic Press、3−15頁、33−36および57−74、またはBlombaeck B.およびM.「Purification of human and bovine fibrinogen」、Arkiv Kemi 10,1959、415f頁.参照)。
【0016】
先行技術においても、高度に濃縮されたフィブリノーゲン溶液の粘度を低減するために種々の示唆がなされている。従って、例えば、尿素またはグアニジン残基を含む物質のような溶解剤の添加、例えばアルギニン(DE 3203775−A1参照)、または非生理学的に高い塩濃度の添加が知られている。しかし、このような組織接着剤は、細胞傷害性および増殖阻害特性を各々、有することが示されている(Redlら、Med.Welt 36、1985,769−776頁)。
【0017】
EP 0 804 933によれば、フィブリノーゲンの溶解度を向上させる物質の添加が示唆されている。このような物質は、例えば、ビタミン、芳香族化合物(例えばベンゼンまたはフェノールから誘導される化合物か、あるいは複素環式化合物(例えばピペリジン、ピリジンまたはピリミジン)から誘導される化合物)である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
従って、本発明の目的は、公知の製剤の欠点を克服することにあり、さらに公知の製剤を改良することの各々にあり、そして高含量のフィブリノーゲンを含み、かつフィブリノーゲンとフィブロネクチンとの割合を容易に調整でき、そして任意にさらなる成分を含むタンパク質組成物を提供することにあり、これは、例えば、すぐ使用できる組織接着剤の改良された製剤に適すると同時に、良好な細胞適合性、またはトロンビン溶液と共に混合した後に生理学的なフィブリン構造が形成されるなどの特性が特に維持される。同時に、またこのようなタンパク質組成物または薬学的製剤の粘度特性は改良されるべきである。
【0019】
本発明のさらなる目的は、このようなタンパク質組成物の単純で、より迅速な製造方法を提供することにある。特に、この方法を産業的規模で容易に行うこともまた可能である。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を解決するために、本発明は、以下の手段を提供する。
(項目1) フィブリノーゲンおよびフィブロネクチンを含むタンパク質組成物の製造方法であって、フィブリノーゲンおよびフィブロネクチンを含有する出発溶液をフィブリノーゲンおよび/またはフィブロネクチンの溶解度を改変する2つの異なる成分を含む沈殿組成物で処理し、その結果、単一工程の沈殿においてフィブリノーゲンおよびフィブロネクチンを含む沈殿物が形成され、そして形成されたその沈殿物は、必要に応じて、それ自体が公知の方法によってさらに処理される、方法。
(項目2) 得られた上記タンパク質組成物が、それ自体が公知の方法によって、薬学的製剤へと、特に組織接着剤へと処方される、項目1に記載の方法。
(項目3) 血漿、特にヒト血漿、またはフィブリノーゲンおよびフィブロネクチンを含有する血漿画分、好ましくは寒冷沈降物由来の溶液が、上記出発溶液を調製するための出発材料として用いられる、項目1または2に記載の方法。
(項目4) 上記溶解度を改変する成分が、4個までの炭素原子を有するアルコール、無機塩、有機塩、有機ポリマー、ポリオール、特にポリアルキレングリコール、ポリエーテルおよびアミノ酸からなる群から選択される、項目1〜3のうちのいずれか1項に記載の方法。
(項目5) 上記溶解度を改変する成分が、エタノール、ポリエチレングリコール、硫酸アンモニウム、硫酸アルカリまたはアミノ酸、特にグリシンまたはアラニンである、項目1〜4のうちのいずれか1項に記載の方法。
(項目6) 上記沈殿組成物がポリアルキレングリコールを含み、そしてポリアルキレングリコールが上記出発溶液と、最終濃度1〜12%(重量/体積)に、好ましくは4〜8%(重量/体積)に混合される、項目1〜5のうちのいずれか1項に記載の方法。
(項目7) 上記沈殿組成物が1種以上のアミノ酸を含み、そして上記出発溶液と、最終濃度0.5〜3Mに、好ましくは0.75〜2Mに、特に0.75〜1.5Mに混合される、項目1〜6のうちのいずれか1項に記載の方法。
(項目8) 上記沈殿組成物が液体形態で混合される、項目1〜7のうちのいずれか1項に記載の方法。
(項目9) プラスミノゲンが大部分上清に残る沈殿組成物が用いられる、項目1〜8のうちのいずれか1項に記載の方法。
(項目10) 上記出発材料のさらなる成分、特に第XIII因子もまた、上記沈殿組成物によって沈殿する、項目1〜9のうちのいずれか1項に記載の方法。
(項目11) 上記出発材料および/または上記出発溶液が病原体、特にウイルスおよび/またはプリオンの非存在に関してチェックされる、項目1〜10のうちのいずれか1項に記載の方法。
(項目12) 存在する可能性のある病原体の不活化または枯渇のための少なくとも1工程が、上記沈殿の前または後に行われる、項目1〜11のうちのいずれか1項に記載の方法。
(項目13) 熱処理、溶媒による処理、界面活性剤による処理またはこれらの処理の組合せが不活化のために行われる、項目1〜12のうちのいずれか1項に記載の方法。
(項目14) 上記枯渇が、濾過、特に限外濾過によって、好ましくはウイルス結合剤の存在下で行われる、項目12または13に記載の方法。
(項目15) さらなる成分、特に線維素溶解阻害剤、第XIII因子、抗生物質、増殖因子、疼痛軽減物質、抗炎症剤またはそれらの混合物が、上記単一工程沈殿の後に上記タンパク質組成物に混合される、項目1〜14のうちのいずれか1項に記載の方法。
(項目16) 上記タンパク質組成物または薬学的製剤がさらなる処理の過程で急速凍結または凍結乾燥される、項目1〜15のうちのいずれか1項に記載の方法。
(項目17) 項目1〜16のうちのいずれか1項に記載の方法に従って得られる、フィブリノーゲンおよびフィブロネクチンを含むタンパク質組成物。
(項目18) 凍結乾燥形態、液体形態、または液体急速凍結形態で存在する、項目17に記載のタンパク質組成物。
(項目19) 少なくとも1つの線維素溶解阻害剤がその中に含まれる、項目17または18に記載のタンパク質組成物。
(項目20) 第XIII因子がその中に含まれる、項目17〜19のうちのいずれか1項に記載のタンパク質組成物。
(項目21) 0.02〜0.5の範囲、好ましくは0.02〜0.25の範囲、また好ましくは0.02〜0.2の範囲、より好ましくは0.04〜0.16の範囲、特に0.1であるフィブリノーゲンに対するフィブロネクチンの比を有する、項目17〜20のうちのいずれか1項に記載のタンパク質組成物。
(項目22) そのプラスミノゲン含量が、多くても1.6mg/gフィブリノーゲン、好ましくは0.8mg/gフィブリノーゲン未満、最も好ましくは0.3mg/gフィブリノーゲン未満である、項目17〜21のうちのいずれか1項に記載のタンパク質組成物。
(項目23) 活性物質、例えば抗生物質、増殖因子または疼痛軽減物質あるいはそれらの組合せがその中に含まれる、項目17〜22のうちのいずれか1項に記載のタンパク質組成物。
(項目24) 項目17〜23のうちのいずれか1項に記載のタンパク質組成物であって、
a)溶液として、少なくとも70mgフィブリノーゲン/mlを含むか、あるいは再構成または液化されて、各々、このような溶液となり得、
b)20℃で、好ましくは500mOsm未満、最も好ましくは400mOsm未満の浸透圧モル濃度にて、多くて350cStの粘度を有し、
c)トロンビン−CaCl2溶液と混合した後、生理学的フィブリン構造の不透明な凝塊
を形成し、そして
d)ベンゼン含有基、ピリジン含有基、ピペリジン含有基、ピリミジン含有基、モルホリン含有基、ピロール含有基、イミダゾール含有基、ピラゾール含有基、フラン含有基、チアゾール含有基またはプリン含有基を有する溶解度を向上させる物質の添加を含まない、タンパク質組成物。
(項目25) 項目17〜23のうちのいずれか1項に記載のタンパク質組成物であって、
a)溶液として、少なくとも70mgフィブリノーゲン/mlを含むか、あるいは再構成または液化されて、各々、このような溶液となり得、
b)20℃で、好ましくは500mOsm未満、最も好ましくは400mOsm未満の浸透圧モル濃度にて、多くて150cStの粘度を有し、
c)トロンビン−CaCl2溶液と混合した後、生理学的フィブリン構造の不透明な凝塊
を形成し、そして
d)ベンゼン含有基、ピリジン含有基、ピペリジン含有基、ピリミジン含有基、モルホリン含有基、ピロール含有基、イミダゾール含有基、ピラゾール含有基、フラン含有基、チアゾール含有基またはプリン含有基を有する1つまたはいくつかの可溶化物質を全体で多くて150mMの濃度で含む、
タンパク質組成物。
(項目26) 組織接着、止血および/または創傷治癒のための、項目17〜25のうちのいずれか1項に記載のタンパク質組成物の使用。
(項目27) フィブリンをベースとするバイオマトリックスを製造するための、項目17〜26のうちのいずれか1項に記載のタンパク質組成物の使用。
(項目28) 上記バイオマトリックスが、フィルム、不織布および/またはスポンジとして形成される、項目27に記載の使用。
(項目29) 上記バイオマトリックスが細胞、特にヒト細胞の増殖に適している、項目27または28に記載の使用。
(項目30) 創傷の被覆のため、および/または組織代用物、特に皮膚代用物としての、項目27〜29のうちのいずれか1項に記載のバイオマトリックスの使用。
(項目31) 項目17〜25のうちのいずれか1項に記載のタンパク質組成物から得られる、バイオマトリックス。
【0021】
本発明によれば、これらの目的は、フィブリノーゲンおよびフィブロネクチンを含有するタンパク質組成物を製造するための方法によって達成され、この方法は、フィブリノーゲンおよびフィブロネクチンを含有する出発溶液をフィブリノーゲンおよび/またはフィブロネクチンの溶解度を改変する2つの異なる成分を含む沈殿組成物で処理することを特徴とし、これにより、単一工程の沈殿においてフィブリノーゲンおよびフィブロネクチンを含む沈殿物が形成され、そして形成された沈殿物は、任意に、それ自体公知の方法によってさらに処理される。この方法は、高収率を与える効率的かつタンパク質保存性の製剤が沈殿組成物を用いて単一工程の沈殿で製造され得ることを特徴とする。
【0022】
単一工程の沈殿の後、得られた沈殿物はそれ自体公知の方法によってさらに処理されて、好ましくは薬学的製剤、特に組織接着剤(フィブリン接着剤)とされ得る。
【0023】
溶解度を改変する成分とは、少なくとも1つのタンパク質、フィブリノーゲンまたはフィブロネクチンに対して、所定の他の条件(例えば、温度、pH、イオン強度など)の下で、沈殿効果または溶解度を向上させる効果を有する物質であると理解される。
【0024】
非常に驚くべきことに、本発明によれば、(互いに)異なる2つの溶解度を改変する成分を協同して用いることで、沈殿物中のフィブリノーゲンおよびフィブロネクチンの回収率が高収率となり、ここで本発明の単一工程沈殿は、非常に驚くべきことに、各々の物質を独立して沈殿させる場合よりもタンパク質のダメージが実質的に少ないことが見いだされた。
【0025】
さらに、本発明に従って沈殿され、フィブリノーゲンおよびフィブロネクチンを含む組成物は、その実際上の適用の観点から、特にその粘度および再構成に関してもまた非常に改良された特性を有し、そのためこれらの製剤のより容易な施用が可能となることもまた示された。
【0026】
出発溶液を調製するための出発材料として、先行技術でこのようなタンパク質組成物を調製するために今まで用いられてきた、あるいは使用可能であったものは各々、原則的に全て用いることができる。
【0027】
出発材料として、好ましくは、血漿、特にヒト血漿、またはフィブリノーゲンおよびフィブロネクチン含有血漿画分、好ましくは寒冷沈降物由来の画分が、出発溶液の調製のために用いられ、あるいは直接、出発溶液として、各々、用いられ得る。
【0028】
しかし、他のフィブリノーゲンおよびフィブロネクチンを含有する出発材料または出発溶液、例えば、細胞培養上清もまた、各々、本発明に従って使用され得る。
【0029】
溶解度を改変する成分は、単一工程沈殿において、フィブリノーゲンおよびフィブロネクチンを所望の所定の割合の量で含む沈殿物が形成されるように選択される。
【0030】
本発明によれば、沈殿組成物中に含まれる成分は、所定の条件下でフィブリノーゲンおよびフィブロネクチンの各々に対するその溶解度を改変する(すなわち、溶解度を向上させるまたは沈殿させる)作用について互いに異なるように、選択される。1つの成分は、例えば、2つのタンパク質のうちの1つ(すなわち、フィブリノーゲンまたはフィブロネクチン)に対してのみ実質的に沈澱効果を有し得る。
【0031】
しかし、この成分のうちの一方が両方のタンパク質に対して沈殿作用を有し、他方、もう一方の成分が2つのタンパク質のうちの一方のみに対して沈殿作用を有するか、あるいは他のタンパク質の溶解度を増大すらさせる(すなわち、沈殿剤としてではなく溶解剤として作用する)こともまた、各々、可能である。
【0032】
特に、溶解度を改変する成分はアルコール、特に4個までの炭素原子を有するアルコール、無機塩、有機塩、ポリオール、特にポリアルキレングリコール、ポリエーテルおよびアミノ酸からなる群から選択される物質である。また、エーテル、ケトンおよび環式、複素環式または多環式有機化合物も用いられ得る。溶解度を改変する成分として、特に、エタノール、ポリエチレングリコール、アンモニアまたはアルカリ塩、各々、例えば、硫酸アンモニウムまたは硫酸アルカリ、あるいはアミノ酸、グリシンおよび(β−)アラニンが好適に用いられる。
【0033】
有機ポリマーのなかでもとりわけ、特に線状ポリマー、特に平均分子量が約200と20,000との間のもの、例えばポリアルキレングリコールがある。ポリエチレングリコールは特に適切であることが立証されている。これらの非毒性の水溶性合成ポリマー、特に分子量400〜10,000、好ましくは約4,000のものが、そのフィブリノーゲンおよびフィブロネクチンに対する保存効果のために好適に沈殿に用いられる。沈殿組成物に用いられるべき成分は特に穏和であること、およびその保存効果に加えて、ヒトに対して用いることに関してその安全性もまた選択の際に考慮される。
【0034】
本発明に従って使用可能な一対の成分として、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、特にPEG4000(これはフィブリノーゲンおよびフィブロネクチンの両方に対して沈殿作用を有する)と、第二成分としてグリシンが使用可能であり、グリシンはさらなる成分(例えば、ポリエチレングリコール)の存在下で、驚くべきことに、単にフィブリノーゲンをフィブロネクチンに比べて優先的に沈殿させるのみならず、フィブロネクチンの溶解剤としてさえ作用する。0.6Mより高い濃度範囲のグリシンは、この濃度で今までグリシンはタンパク質の沈殿剤としてのみ知られていたが、特に良好なフィブロネクチンの溶解度を増大させる効果を有する。
【0035】
もちろん、本発明はPEGとグリシンとの組合せに限定されるものではない。なぜなら、当業者は本発明に適した他の成分または成分の対を、各々、単純な系統的な試験によって容易に見いだすことができるからである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、沈殿混合物中のPEG濃度に対する沈殿物中のフィブロネクチンのフィブリノーゲンに対する比(Fn/Fbg)の依存関係を示す(グリシン濃度:1M)。
【図2】図2は、沈殿混合物中のグリシン濃度に対する沈殿物中のフィブロネクチンのフィブリノーゲンに対する比(Fn/Fbg)の依存関係を示す(PEG濃度:6.5%(重量/体積))。
【図3】図3は、沈殿混合物中のβ−アラニン濃度に対する沈殿物中のフィブロネクチンのフィブリノーゲンに対する比(Fn/Fbg)の依存関係を示す(エタノール濃度:2%(重量/体積))。
【図4】図4は、沈殿混合物中の硫酸アンモニウム濃度に対する沈殿物中のフィブロネクチンのフィブリノーゲンに対する比(Fn/Fbg)の依存関係を示す(β−アラニン濃度:1M)。
【図5】図5は、沈殿混合物中のβ−アラニン濃度に対する沈殿物中のフィブロネクチンのフィブリノーゲンに対する比(Fn/Fbg)の依存関係を示す(硫酸アンモニウム濃度:5%(重量/体積))。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の方法を実行するために、当業者は、例えば、適切な成分または成分の対を、各々、以下の試験スキームに従って見いだし得る。規定された条件(例えば、温度、pH、イオン強度など)の下、かつ攪拌下で、一般的な方法によって調製された出発溶液のアリコートを、第1の溶解度を改変する成分(例えばアミノ酸)とそれとは異なる第2の成分(例えば、PEG4000、エタノールまたは硫酸アンモニウム)とを含む沈殿組成物と混合する。この成分のうちの1つの濃度を常に一定に保ち、他方を変化させながら、一連の沈殿を行う。形成された沈殿物を遠心分離で取り出し、そして総タンパク質含量ならびにフィブリノーゲン(Fbg)、フィブロネクチン(Fn)およびアルブミン(Alb)の相対含量を、例えば非還元および還元試料のSDS PAGEで、クーマシーブルーで染色し、デンシトメーターで評価することによって決定する。
【0038】
それで、所望のフィブリノーゲンおよびフィブロネクチンを含有するタンパク質組成物をもたらす成分を本発明による沈殿組成物として選択する。各々の成分系の至適化は簡単にチェックできるパラメータ、例えば、所定のフィブリノーゲン含量(例えば、1ml当たり70または100mgのフィブリノーゲン)における、得られた製剤の、収率、フィブリノーゲンおよびフィブロネクチンの相対含量、および粘度の各々によって行う。
【0039】
好適な実施形態において、沈殿組成物はポリアルキレングリコールを含み、これは出発溶液と、特に最終濃度で1〜12%(重量/体積)(w/v)、好ましくは4〜8%(重量/体積)まで混合される。
【0040】
さらに好適な実施形態において、沈殿組成物は1種以上のアミノ酸を含み、出発溶液と、特に最終濃度で0.5〜3M、好ましくは0.75〜2M、特に0.75〜1.5Mまで混合される。
【0041】
他の好適な実施形態において、有機または無機塩、例えば、硫酸アンモニウムが、20%(重量/体積)まで、好ましくは2〜20%(重量/体積)の間、最も好ましくは5〜15%(重量/体積)の間の濃度で含まれる。
【0042】
沈殿組成物は好ましくは液体形態で混合される。
【0043】
出発材料の他の成分(例えば、特に第XIII因子)もまた沈殿組成物によって沈殿され得る。このようなさらなる物質を共沈殿させる溶解度を改変する組成物の能力もまた、沈殿組成物の個別の成分の最終的選択に影響を与え得る。
【0044】
好適な実施形態によれば、沈殿タンパク質組成物中または薬学的製剤中の各々におけるプラスミノゲンはかなり低く維持されるべく試みられる。従って、好ましくは、プラスミノゲンが大部分上清に残る沈殿組成物が用いられる。これは、得られた沈殿物中で、プラスミノゲンが出発材料と比較した場合に、フィブリノーゲンおよび/またはフィブロネクチンと比べて枯渇していることを意味する。
【0045】
さらに好適な実施形態によれば、さらなる成分、特に線維素溶解阻害剤、第XIII因子、抗生物質、増殖因子、疼痛軽減物質、抗炎症剤またはそれらの混合物がタンパク質組成物に添加され得る。このような添加は、沈殿工程の前、最中およびまたその後に可能であり、そして好ましくは、沈殿工程の後に行われる。
【0046】
さらなる処理の過程において、特に最終処方において、本発明によるタンパク質組成物または本発明による薬学的製剤は、特に改良された貯蔵安定性を達成すべき場合、好ましくは急速凍結または凍結乾燥される。本発明によるすぐ使用できる薬学的製剤は好ましくは液体形態で提供される。
【0047】
特に、本発明による方法は、明確に規定されたタンパク質組成物を単純な様式で直接的に得ることができるという利点があり、他方、従来用いられてきたタンパク質分画の方法、特に血漿分画では、つねにできる限り純粋な個別のタンパク質を得ることを目的としており、そして必要に応じて、これらをその後で再び混合して所望の混合物を得る。
【0048】
本発明による方法の単純さおよび簡潔さのため、製造の際の微生物による汚染の危険および発熱物質の形成もまた最小限となる。さらに、感受性の高い血漿タンパク質、例えば、フィブリノーゲンまたはフィブロネクチンが保存され、そして大部分が変性から保護され、これがおそらく本発明による製剤が改良された特性を有する理由である。
【0049】
驚くべきことに、各々が本発明の単一工程の組合せ沈殿によって得ることができる、タンパク質組成物または薬学的製剤は、同様に高いフィブリノーゲン濃度で、同等の製剤、例えば、古典的製造方法で得られるフィブリン接着剤(特に1つの薬剤のみで沈殿させたもの)よりも約25%、好ましくは30%、最も好ましくは40%低粘度であることが示された。
【0050】
同等の製剤とは、同様の含量のフィブリノーゲン、フィブロネクチンおよび必要に応じてさらなる成分を有し、そして同等の程度の純度を有し、同様の良好な細胞適合性を示し、そしてトロンビン溶液と混合した後に生理学的フィブリン構造の凝塊を形成する製剤であることが理解される。
【0051】
特に好適な実施形態において、タンパク質組成物およびすぐ使用できる薬学的製剤の各々は、それぞれ、フィブリノーゲンの溶解度を向上させる物質を実質的に含まず、そしてこのような物質と混合されない。
【0052】
驚くべきことに、本発明による液体組成物は同等の既知の製剤と比べて顕著に低い粘度を有することが示され、これにより特にフィブリン接着剤の取り扱いおよび使用が促進される。特に室温において、本発明による凍結乾燥組成物は同等の製剤よりも容易に、かつより迅速に再構成され得る。
【0053】
特に本発明の方法を大規模な技術的スケールで行う場合(これが本発明のさらなる利点である)、これは非常に効率的に、かつコスト節約的な様式で大規模スケールに適用でき、沈殿組成物を液体形態で混合することが好ましい。これは溶液または懸濁液であり得る。
【0054】
単一工程沈殿の後に得られる沈殿物は少なくとも1回、洗浄緩衝液で洗浄することが適切であることもまた立証された。適切な緩衝液系に加えて、洗浄緩衝液は好ましくは、トラネキサム酸、リジン、ε−アミノカプロン酸、界面活性剤、またはこれらの物質の混合物を含む。また、血漿、動物または植物起源の線維素溶解阻害剤またはプロテアーゼ阻害剤の各々、あるいは遺伝子操作または合成によって産生された阻害剤の各々を含み得る。このような物質は別に混合してもよく、あるいは出発材料にすでに含まれていてもよい。
【0055】
好適なプロテアーゼ阻害剤は、例えば、アプロチニン、特に遺伝子操作にyって調製されたアプロチニンである。さらなる好適な線維素溶解阻害剤は、トラネキサム酸(トランス−4−(アミノメチル)−シクロヘキサンカルボン酸、t−AMCHA)である。
【0056】
得られたタンパク質沈殿物はそのままで用いられてもよく、あるいはこれをそれ自体公知の方法によってさらに処理して、さらなるタンパク質組成物または薬学的製剤に各々してもよい。このような処理の方法は、例えば、多様な精製工程、例えば、冷たい緩衝溶液を用いた処理(洗浄)、または薬学的製剤としての処方を各々、包含する。
【0057】
特に、このような本発明の最終組成物または製剤は、各々、組織接着、止血、および創傷治癒の補助または促進に適している。
【0058】
本発明のための出発材料として好適に用いられる血漿は、(例えば、WO 96/35437に従って)好ましくは十分に予備選択され、その結果、ウイルス汚染はほぼ排除され得る。好ましくは、病原体、特にウイルスおよび/またはプリオンの非存在についてチェックされた出発材料のみが用いられる。
【0059】
さらに好ましい実施形態において、存在する可能性のある病原体を不活化または枯渇させるための少なくとも1工程が提供される。
【0060】
病原体を不活化させるために、好ましくはテンシド(tenside)および/または熱処理(乾燥または蒸気処理)が行われる。例えば、固体状態での熱処理、特にEP−0 159 311、またはEP−0 519 901、またはEP−0 674 531に従う蒸気処理が行われる。
【0061】
病原体不活化のためのさらなる処理はまた、化学的または化学的/物理的方法、例えばWO94/13329、DE 4434538またはEP−0131740(溶媒)に従う攪乱物質、あるいは光不活化を用いて処理を含む。
【0062】
また、濾過、特に限外濾過、好ましくはウイルス結合剤、例えば、Aerosilの存在下での濾過による枯渇が、本発明の範囲内のウイルスの枯渇のための好ましい方法である。
【0063】
本発明によれば、熱処理、溶媒処理、界面活性剤処理、あるいはこれらの処理の組合せ(同時または逐次)、ならびに、任意に濾過による不活化が特に好ましい。
【0064】
不活化は沈殿の前または後に行われ得る。好ましくは、2つの独立した不活化が行われる。例えば、1つの処理は単一工程沈殿の前、そして第2の処理はその後である。
【0065】
さらなる好適な実施形態において、タンパク質組成物は第XIII因子が含まれることによって特徴づけられる。好ましくは第XIII因子は混合され、そして第XIII因子の含量は、例えば、1gのフィブリノーゲン当たり少なくとも80単位、好ましくは少なくとも100U/gフィブリノーゲンである。フィブリン架橋反応阻害物質、例えば抗生物質が製剤中に存在する場合、第XIII因子含量は、好ましくは、少なくとも500U/gフィブリノーゲンまで増える。好ましくは、第XIII因子は、精製された独立したウイルス不活化産物(特に好ましくは、EP 0 637 451に従って製造された第XIII因子製剤)として混合される。
【0066】
さらなる好適な実施形態において、タンパク質組成物は低いプラスミノゲン含量によって特徴づけられる。プラスミノゲンの含量は好ましくは、多くて1.6mg/gフィブリノーゲン、より好ましくは0.8mg/gフィブリノーゲン未満、最も好ましくは0.3mg/gフィブリノーゲン未満である。
【0067】
本発明によるタンパク質組成物は、有利には、フィブロネクチンおよびフィブリノーゲンを0.02〜0.5、好ましくは0.02〜0.25、また好ましくは0.02〜0.2、より好ましくは0.04〜0.16、最も好ましくは約0.1(0.05〜0.15)の比率で含み、すなわち、高度に純粋なフィブリノーゲン製剤(WO 94/20524)とは対照的であり、これはなおかなりの部分のフィブロネクチンを含む。
【0068】
タンパク質組成物はさらに、活性成分、例えば、抗生物質、増殖因子、疼痛軽減物質またはこれらの組合せを含み得る。
【0069】
好適な実施形態において、本発明によるタンパク質組成物は、
a)溶液として、少なくとも70mgのフィブリノーゲン/mlを含むか、あるいは再構成または液化されて、各々、このような溶液となり得、
b)20℃で、好ましくは500mOsm未満、最も好ましくは400mOsm未満の浸透圧モル濃度にて、多くて350cStの粘度を有し、
c)トロンビン−CaCl2溶液と混合した後、生理学的フィブリン構造の不透明な凝塊を形成し、そして
d)ベンゼン含有基、ピリジン含有基、ピペリジン含有基、ピリミジン含有基、モルホリン含有基、ピロール含有基、イミダゾール含有基、ピラゾール含有基、フラン含有基、チアゾール含有基またはプリン含有基を有する溶解度を向上させる物質の添加を含まないことによって特徴づけられる。
【0070】
さらなる好適な実施形態において、本発明によるタンパク質組成物は、
a)溶液として、少なくとも70mgのフィブリノーゲン/mlを含むか、あるいは再構成または液化されて、各々、このような溶液となり得、
b)20℃で、好ましくは500mOsm未満、最も好ましくは400mOsm未満の浸透圧モル濃度にて、多くて150cStの粘度を有し、
c)トロンビン−CaCl2溶液と混合した後、生理学的フィブリン構造の不透明な凝塊を形成し、そして
d)ベンゼン含有基、ピリジン含有基、ピペリジン含有基、ピリミジン含有基、モルホリン含有基、ピロール含有基、イミダゾール含有基、ピラゾール含有基、フラン含有基、チアゾール含有基またはプリン含有基を有する1つまたはいくつかの可溶化物質を全体で多くて150mMの濃度で含むことによって特徴付けられる。
【0071】
本発明のタンパク質組成物または薬学的製剤は、各々、用途が広い。特に、本発明による製剤は組織接着、止血および/または創傷治癒のために用いられる。
【0072】
さらなる好適な実施形態において、本発明のタンパク質組成物または製剤は、各々、フィブリンをベースとするバイオマトリックス(biomatrix)を製造するために用いられ得る。この目的のために、本発明のタンパク質組成物または薬学的製剤の溶液は、各々、フィブリノーゲンをフィブリンに転換するのに適した酵素、好ましくはトロンビンと混合され、そして形成されたフィブリンはその新鮮な状態で、あるいは凍結乾燥し、再び湿らせた後のいずれかで、細胞の増殖のための担体材料、あるいはいわゆるバイオマトリックス(例えば、WO99/15209参照)として用いられる。
【0073】
本発明のバイオマトリックスは、種々の形態で、例えば、スポンジ、フィルム、マイクロビーズまたはフレークとして存在し得る。
【0074】
フィブリンをベースとするバイオマトリックスは、細胞、特にヒト細胞の増殖に特に適している。ケラチノサイト、線維芽細胞、軟骨細胞がこのフィブリンマトリックスによって培養または増殖されることができる細胞の例として挙げられる。このようなバイオマトリックスはまた、創傷の被覆または組織代用物の各々、特に皮膚代用物のために適している。
【0075】
本発明をここで以下の実施例および図面によってより詳細に説明するが、これによって限定されない。
【実施例】
【0076】
(実施例1)
それ自体が公知の方法によって調製したヒト血漿寒冷沈降物を、20mMクエン酸ナトリウム、120mM塩化ナトリウム、5mMトラネキサム酸並びに1200IUヘパリン/lを含む4倍量の緩衝溶液で溶解し、pHを7.3に調節し、濾過して澄明にした。この溶液のアリコートと、グリシン及びポリエチレングリコール4000(PEG4000)を含む溶液とを、室温で撹拌下で混合した。その際各場合にグリシンの最終濃度が1Mで、PEG4000の最終濃度が1〜10%(w/v)までの範囲の種々の濃度になるようにした。
【0077】
こうして生成した沈殿物を遠心分離して取り、フィブリノーゲン(Fbg)、フィブロネクチン(Fn)及びアルブミン(Alb)の相対含有量を非還元及び還元試料のSDS−PAGEによって測定した。その際クーマシーブルーで染色し、濃度評価を行った(EP0345246、実施例1−37も参照されたい)。
【0078】
結果を表1にまとめる。PEG濃度に依存した関係にあるフィブロネクチン:フィブリノーゲンの比は、図1にもグラフで示される。
【0079】
(表1)
沈殿混合物中のPEG含量に対する沈殿物のタンパク質組成の依存関係(グリシン濃度:1M)
【0080】
【表1】

本実施例は、本発明によって血漿タンパク質混合物から、2成分(ここではグリシンとPEG)の混合物で一回沈殿させることにより、主成分であるフィブリノーゲンの他に種々の量のフィブロネクチンを含むタンパク質沈殿物を入手し得る方法を示す。その際作用物質類の濃度及びそれらの相互の比率をそれぞれ適切に選択することによって、フィブロネクチン:フィブリノーゲンの比を或る範囲内に所望通りに調節できる(例えば実施例1による作用物質の選択によって0.02−0.2の範囲内に調節できる)。このようなタンパク質沈殿物は、例えばフィブリノーゲンをベースとする組織接着剤(フィブリン接着剤)の製造に適している。
【0081】
(実施例2)
ヒト血漿寒冷沈降物を、実施例1と同様に溶解し、pHを7.3に調節し、濾過して澄明にした。この溶液のアリコートを実施例1と同様に、グリシンとPEG4000とを含む溶液と混合し、その結果、各場合に最終的PEG濃度が6.5%(w/v)で、0.2Mから1Mまでの範囲の種々のグリシン濃度を得た。生成した沈殿物を実施例1と同様に遠心分離して取り、分析した。
【0082】
全ての変法においてタンパク質の収率は約95%であった。グリシン濃度に依存した関係にあるフィブロネクチン:フィブリノーゲンの比を表2にまとめ、さらに図2にグラフであらわす。
【0083】
(表2)
沈殿混合物中のグリシン濃度に対する沈殿物のタンパク質組成の依存関係(PEG濃度:6.5%(重量/体積))
【0084】
【表2】

実施例1に追加して、この実施例はグリシン等のそれ自体が公知のタンパク質沈殿剤がPEGと組み合わせて用いた際に単に沈殿剤として作用するだけでなく、或る条件下では例えばグリシンは、これまでグリシンが単にタンパク質沈殿剤として知られていた濃度範囲において、フィブロネクチンの溶解剤としても作用し得ることを示している。
【0085】
下記の実施例3−5は先行技術によって得られる製剤の比較組成を示す。
【0086】
(実施例3)
血漿寒冷沈降物を実施例1のように溶解した。室温で撹拌しながらグリシンを最終濃度2mol/lまで加えた。生成したタンパク質沈殿物を実施例1のように遠心分離して取り、分析した。フィブリノーゲンはほとんど完全に沈殿した。フィブリノーゲンの相対含有量は総タンパク質の85%に達し、フィブロネクチンの相対含有量は1.5%であった。したがってフィブロネクチン:フィブリノーゲンの比は0.017であった。
【0087】
(実施例4)
血漿寒冷沈降物を実施例1のように溶解した。室温で撹拌しながらPEG4000を最終濃度10%(w/v)になるまで加えた。生成したタンパク質沈殿物を遠心分離して取り、実施例1と同様に分析した。フィブリノーゲンはほとんど完全に沈殿した。フィブリノーゲンの相対含有量は総タンパク質の72%に達した。フィブロネクチンの相対含有量は16%であった。したがってフィブロネクチン:フィブリノーゲンの比は0.22であった。
【0088】
(実施例5)
血漿寒冷沈降物を実施例1のように溶解した。室温で撹拌しながらPEG4000を最終濃度10%(w/v)になるまで加えた。生成したタンパク質沈殿物を遠心分離して取り、再び溶解し、グリシンをその溶液に最終濃度2Mになるまで撹拌下で室温で加えた。生成したタンパク質沈殿物を再び遠心分離して取り、実施例1と同様に分析した。フィブリノーゲンの相対含有量は総タンパク質の93%に達し、フィブロネクチンの相対含有量は1.5%であった。したがってフィブロネクチン:フィブリノーゲンの比は0.016であった。
【0089】
実施例3−5は、先行技術における公知の方法では、一工程においても連続する数工程においても、フィブロネクチン:フィブリノーゲンの定められた比を有するタンパク質混合物を得ること(例えば、実施例1または2において使用した濃度のグリシンとPEGとの組み合わせを用いて、0.02〜0.2の範囲の比を得ること)は不可能であることを示す。
【0090】
(実施例6)
(二つの独立したウイルス不活化工程を有する、本発明による凍結乾燥製剤の製造)
それ自体が公知の方法により調製されたヒト血漿寒冷沈降物を4倍量の、20mMクエン酸ナトリウム、120mM塩化ナトリウム、5mMトラネキサム酸(t−AMCHA)並びに1200IU ヘパリン/lを含む緩衝溶液(LP1)で溶解し、濾過して澄明にした。その後いわゆる溶剤−界面活性剤(solvent−detergent)(SD)処理を行い、存在する可能性のあるエンベロープに包まれたウイルス類を不活化した。このために、Triton X−100、Tween 80(Polysorbat−80K)及びトリ−n−ブチルホスフェート(TNBP)の混合物をそれぞれ最終濃度1%、0.3%及び0.3%(v/v)になるように混合した。室温で1時間撹拌後、それを再び濾過して澄明にした。この溶液と、2Mグリシン及び13%(w/v)PEG4000(沈殿組成物)を含む等量の溶液とを室温で撹拌しながら混ぜ合わせた。これを30分間撹拌し、遠心分離した。沈殿物を細かく砕き、1% Tween 80を含むLP1に再び溶解し、同じ方法で沈殿を繰り返した。次いで、SDと沈殿試薬を除去するために、沈殿物を細かく砕き、冷却下(0−2℃)、少量のTween 80の存在下で、10倍量の、10mMクエン酸ナトリウム及び5mMt−AMCHAを含む緩衝溶液で2回処理した。洗浄された沈殿物をその後10mMクエン酸ナトリウム及び5mM t−AMCHAを含む緩衝溶液に溶解した。タンパク質濃度を40g/lに調節した後、その溶液を全体として凍結乾燥した。さらにウイルスを不活化するために、上記凍結乾燥物質を残留水分7−8%に調節し、酸素を排除して60℃で10時間、さらに80℃で1時間加熱した。このように処理した凍結乾燥物をタンパク質濃度38g/lになるように20mMナイアシンアミド溶液に溶解し、低温殺菌したヒトアルブミン6g/lと混ぜ合わせ、pHを7.3に調節した。
【0091】
上記溶液を滅菌濾過し、無菌条件下で最終容器(小さいガラスびん)に5.0mlづつ充填し、凍結乾燥した。
【0092】
こうして得られた最終製品は、注射用水(WFI)2.0ml、または50mM t−AMCHA溶液2.0mlで溶解すると、70mg/mlより高いフィブリノーゲン含有量を有するすぐに使用できる溶液を生じた。この溶液は例えば組織接着剤として用いられ得る。
【0093】
原則として、純粋な水を使用する代わりに、例えばフィブリン溶解阻害剤、凝固第XIII因子、抗生物質、増殖因子、疼痛軽減物質等の付加的活性物質を含む水溶液で上記の凍結乾燥した最終製品を溶解してもよい。
【0094】
上記の方法によって調製された生成物は、そのタンパク質含有量及び組成がEP804933A2に記載された組織接着剤と実質的に一致した(実施例2)。そのフィブロネクチン:フィブリノーゲンの比は約0.09で、プラスミノーゲン含有量は約0.15mg/gフィブリノーゲンに過ぎなかった。すぐに使用できる組織接着剤溶液を等量のトロンビン−CaCl2溶液と混合後、生理的な不透明の粘弾性凝塊が形成された。
【0095】
このようにEP804933に記載の生成物と広く一致するにもかかわらず、本発明による組織接着剤は、フィブリノーゲンの溶解度を改善する物質の含有量(50mMナイアシンアミド)が同一ながら、顕著に減少した粘度により特徴付けられる。
【0096】
さらに驚くべきことは、本発明による製剤が一つだけでなく二つもの独立したウイルス不活化工程にさらされ、その上、悪条件(60℃ 10時間、+ 80℃ 1時間)のもとで蒸気処理を受けていることである。経験によると、このような熱処理は溶解度の低下並びに粘度増加に導く。
【0097】
さらに驚くべきことに、t−AMCHAがその公知の抗フィブリン溶解効果に加えて、フィブリノーゲン含有溶液の粘度を下げることが見いだされた。特に本発明によって得られる組織接着剤溶液の粘度はt−AMCHAによってさらに低下する(表3参照)。
【0098】
(表3)
50mMナイアシンアミドの存在下での粘度[cSt]
【0099】
【表3】

(実施例7)
(二つの独立したウイルス不活化工程を有する、本発明による液体急速凍結−組織接着剤の製造)
この製造は滅菌濾過までは実施例6と同様に行われた。その後滅菌濾過溶液を無菌条件下でもう一度凍結乾燥し、溶解して濃縮組織接着剤溶液にし、最終容器(使い捨て注射器)に充填し、急速凍結状態で保存した。このような製剤を使用前に融解しさえすればよい。
【0100】
上記のすぐに使用できる組織接着剤溶液は、実施例6の溶解した製剤と同じ特性をもっていた。
【0101】
滅菌濾過し希釈した組織接着剤溶液を再び凍結乾燥して濃縮状態に溶解する代わりに、それをおだやかな真空下で直接蒸発させ、濃縮した組織接着剤溶液にしてもよい。
【0102】
(粘度測定法)
測定法を標準化するために、組織接着剤溶液の試料を最初に≦−20℃で凍結する。その粘度を測定するために、その試料を所望測定温度の水浴中で融解し、約30分間この温度でインキュベートし、それからその粘度を温度制御した毛細管粘度計で測定する。その後上記試料を上記粘度計においてより高温度でインキュベートし得、その温度で測定を繰り返し得る。個々の測定は温度を上げながら連続的に行われる。これとは逆の順序で測定した場合、偽りの数値(低すぎる)が得られ得る。なぜならば温度を下げていく場合には、遅くにしか平衡に達しないからである。
【0103】
(実施例8)
血漿寒冷沈降物を実施例1と同様に溶解し、pHを7.3に調節し、それを濾過して澄明にした。実施例1と同様に、この溶液のアリコートを、β−アラニン及びエタノールを含む溶液と混合し(ただし室温でなく0℃で)、その際各場合にエタノール濃度は2%(v/v)で、β−アラニン濃度は0−1M範囲の種々異なる濃度になるようにした。生成した沈殿物を実施例1と同様に遠心分離して取り、分析した。図3において、β−アラニン濃度に依存した関係にある比Fn/Fbgが、グラフに示される。
【0104】
(表4)
沈殿混合物中のβ−アラニン含量に対する沈殿物のタンパク質組成の依存関係
【0105】
【表4】

実施例2と同様に、この実施例も、β−アラニン等のそれ自体が公知のタンパク質沈殿剤が、エタノールと組み合わせて用いた場合、沈殿剤として作用するだけでなく、或る条件下では、例えばβ−アラニンはフィブロネクチンの溶解剤としても作用し得ることを示している。
【0106】
下記の実施例9−11は、先行技術によって得られる製剤の比較組成を示す。
【0107】
(実施例9)
血漿寒冷沈降物を実施例1のように溶解した。0℃で攪拌しながら、β−アラニンを最終濃度2Mまで添加した。形成したタンパク質沈殿物を遠心分離で取り出し、そして実施例1と同様に分析した。フィブリノーゲンの相対含量は総タンパク質の74%の量に達し、フィブロネクチンの相対含量は16%に達した。従って、比Fn/Fbgは0.22であった。
【0108】
(実施例10)
血漿寒冷沈降物を実施例1のように溶解した。0℃で攪拌しながら、エタノールを最終濃度2%(w/v)まで添加した。形成したタンパク質沈殿物を遠心分離で取り出し、そして実施例1と同様に分析した。フィブリノーゲンの相対含量は総タンパク質の67%の量に達し、フィブロネクチンの相対含量は29%に達した。従って、比Fn/Fbgは0.43であった。
【0109】
(実施例11)
血漿寒冷沈降物を実施例1のように溶解した。0℃で攪拌したしながら、エタノールを最終濃度2%(w/v)まで添加した。形成したタンパク質沈殿物を遠心分離で取り出し、再び溶解し、そして0℃で攪拌しながらβ−アラニンをこの溶液に最終濃度2Mまで添加した。形成したタンパク質沈殿物を再び遠心分離で取り出し、そして実施例1と同様に分析した。フィブリノーゲンの相対含量は総タンパク質の77%の量に達し、フィブロネクチンの相対含量は16%に達した。従って、比Fn/Fbgは0.21であった。
【0110】
実施例9−11は、先行技術で公知の方法では、1回の工程でも、あるいはまた複数の連続的な工程でも、所定のFn/Fbg比のタンパク質混合物に到達すること(例えば、β−アラニンとエタノールとの組合せを実施例8で用いた濃度で用いた場合、0.23−0.34の範囲の比率に到達すること)は不可能であることを示す。。
【0111】
(実施例12)
血漿寒冷沈降物を実施例1のように溶解し、pHを7.3に調節し、そしてこれを濾過して浄化した。実施例1と同様に、この溶液のアリコートをβ−アラニンおよび硫酸アンモニウムを含む溶液と混合し、各場合においてβ−アラニン濃度が1Mとなり、しかも異なる硫酸アンモニウム濃度が5−15%(w/v)の範囲となるようにした。形成された沈殿物を実施例1と同様に遠心分離で取り出し、そして分析した。結果を表5にまとめる。図4において、硫酸アンモニウム濃度に依存するFn/Fbgの比がグラフで示される。
【0112】
(表5)
沈殿混合物中の硫酸アンモニウム含量に対する沈殿物のタンパク質組成の依存関係(β−アラニン濃度:1M)
【0113】
【表5】

実施例1と同様に、この実施例は、タンパク質沈殿物を血漿タンパク質混合物から、2つの成分(ここではβ−アラニンと硫酸アンモニウム)を含む沈殿組成物を用いて単一の沈殿によって得ることができるやり方を示し、このタンパク質沈殿物は可変量のフィブロネクチンを含み、ここでFn/Fbgの比は、成分の濃度および互いの比を各々適切に選択することによって、所望に応じて特定の範囲内で(例えば、実施例12に従って成分を選択すると0.07と0.21との間の範囲で)調節できる。
【0114】
(実施例13)
血漿寒冷沈降物を実施例1のように溶解し、pHを7.3に調節し、そしてこれを濾過して浄化した。実施例1と同様に、この溶液のアリコートをβ−アラニンおよび硫酸アンモニウムを含む溶液と混合し、各場合において硫酸アンモニウム濃度が5%(w/v)となり、しかも異なるβ−アラニン濃度が0.6−1.4Mの範囲となるようにした。形成された沈殿物を実施例1と同様に遠心分離で取り出し、そして分析した。図5において、β−アラニン濃度に依存するFn/Fbgの比がグラフで示される。
【0115】
(表6)
沈殿混合物中のβ−Ala含量への沈殿物のタンパク質組成の依存関係(硫酸アンモニウム濃度:1M)
【0116】
【表6】

実施例2と同様に、この実施例は、それ自体公知のタンパク質沈殿剤(例えばβ−アラニン)を、硫酸アンモニウムと組み合わせて用いた場合、沈殿剤として作用するだけではなく、特定の条件下では、β−アラニンは、例えば、フィブロネクチンの溶解剤としても作用し得ることを示す。
【0117】
以下の実施例14−16は先行技術に従って得られる製剤の比較のための組成を示す。
【0118】
(実施例14)
血漿寒冷沈降物を実施例1のように溶解した。室温で攪拌しながら、β−アラニンを最終濃度2Mまで添加した。形成したタンパク質沈殿物を遠心分離で取り出し、そして実施例1と同様に分析した。フィブリノーゲンの相対含量は総タンパク質の82%の量に達し、フィブロネクチンの相対含量は1%に達した。従って、比Fn/Fbgは0.01であった。
【0119】
(実施例15)
血漿寒冷沈降物を実施例1のように溶解した。室温で攪拌しながら、硫酸アンモニウムを最終濃度15%(w/v)まで添加した。形成したタンパク質沈殿物を遠心分離で取り出し、そして実施例1と同様に分析した。フィブリノーゲンの相対含量は総タンパク質の76%の量に達し、フィブロネクチンの相対含量は16%に達した。従って、比Fn/Fbgは0.21であった。
【0120】
(実施例16)
血漿寒冷沈降物を実施例1のように溶解した。室温で攪拌しながら、硫酸アンモニウムを、硫酸アンモニウム濃度5%(w/v)まで添加した。形成したタンパク質沈殿物を遠心分離で取り出し、再び溶解し、そして室温で攪拌しながらβ−アラニンをこの溶液に最終濃度2Mまで添加した。形成したタンパク質沈殿物を再び遠心分離で取り出し、そして実施例1と同様に分析した。フィブリノーゲンの相対含量は総タンパク質の84%の量に達し、フィブロネクチンの相対含量は1%に達した。従って、比Fn/Fbgは0.01であった。
【0121】
実施例14−16は、先行技術で公知の方法では、1回の工程でも、あるいはまた複数の連続的な工程でも、所定のFn/Fbg比のタンパク質混合物に到達すること(例えば、β−アラニンと硫酸アンモニウムとの組合せを実施例13で用いた濃度で用いた場合、0.04−0.19の範囲の比率に到達すること)は不可能であることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載された発明。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−279739(P2010−279739A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197163(P2010−197163)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【分割の表示】特願2000−598536(P2000−598536)の分割
【原出願日】平成12年2月10日(2000.2.10)
【出願人】(501056094)バクスター アクチェンゲゼルシャフト (9)
【Fターム(参考)】