説明

フィルター及びその製造方法

【課題】保水性を向上することができ、給水量を削減してランニングコストの削減を図るとともに加湿又は冷却効率の向上を図った気化加湿器又は冷風器のフィルター及びその製造方法を提供する。
【解決手段】通気性を有するフィルターに空気を通過させ、該フィルターに供給された水分を蒸発させて前記空気を加湿するようにした気化加湿器50のフィルター10であって、その母材15の少なくとも一部に、供給された水分27を保持するパイル17が植毛してある。これにより、供給された水分の蒸発効率が向上するので、加湿効率の向上を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気化加湿器又は冷風器のフィルター及びその製造方法に関し、特に当該フィルターを通過する空気を効率よく加湿又は冷却することが可能なフィルター及びその製造方法に関する
【背景技術】
【0002】
気化加湿器又は冷風器として、通気性を有するフィルターに空気を通過させ、該フィルターに供給された水分を蒸発させて前記空気を加湿又は冷却するようにしたものがある。
【0003】
特許文献1には、この種の気化加湿器の一例が開示されている。
【特許文献1】特開平7−318117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、気化加湿器又は冷風器のフィルターとしては、例えばポリビニルクロライド(PVC)から成る繊維を不織布状に堆積させてマット状に構成したものが用いられている。このようなマットは、保水性が乏しいため、散水手段により供給された水の流下速度が大きく、加湿又は冷却の効率が良好であるとはいえず、電気・水道料金等のコスト面でも不利であるため、改善が要望されていた。
【0005】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、保水性を向上することができ、給水量を削減してランニングコストの削減を図るとともに加湿又は冷却効率の向上を図った気化加湿器又は冷風器のフィルター及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、通気性を有するフィルターに空気を通過させ、該フィルターに供給された水分を蒸発させて前記空気を加湿するようにした気化加湿器のフィルターであって、その母材の少なくとも一部に、供給された水分を保持する多数の微細な突起が形成されていることを特徴としている。
また、本発明は、通気性を有するフィルターに空気を流通させ、該フィルターに供給された水分を蒸発させて前記空気を冷却するようにした冷風器のフィルターであって、その母材の少なくとも一部に、供給された水分を保持する多数の微細な突起が形成されていることを特徴としている。
【0007】
さらに本発明のフィルターは、前記微細な突起が植毛又は起毛により形成された繊毛状のものであることを特徴とする。さらに本発明のフィルターは、前記微細な突起が自己消火性の接着剤を介して前記母材に接着されていることを特徴としている。さらに本発明のフィルターは、前記微細な突起が静電植毛により形成された植毛繊維であることを特徴としている。さらに本発明のフィルターは、前記パイルがレーヨンパイルであることを特徴としている。さらに本発明のフィルターは、前記母材が繊維から成るマット状のもので、当該繊維の密な部分と疎な部分とを分散配置してなるものであることを特徴としている。
【0008】
また、本発明のフィルターの製造方法は、前記母材の表面に接着層を設ける工程と、多数の短い植毛繊維を静電吸引作用により前記接着層上に引き付けて植毛する工程と、を含むことを特徴とする
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、気化加湿器又は冷風器のフィルターの保水性を向上することができ、給水量を削減してランニングコストの削減を図るとともに気化加湿器又は冷風器の加湿又は冷却効率の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0011】
図1は、本発明によるのフィルターの表面の一部を拡大して示す模式図である。
【0012】
図1に示すフィルター10は、繊維を絡ませるなどして不織布の状態にてマット状に形成されているが、大局的に見て複数の縦列11からなっており、各列11においては密部分12と疎部分13とが上下に交互に並んで配置されている。密部分12及び疎部分13は、それぞれ縦寸法が10mm程度、横寸法が20mm程度の矩形状の広がりを有している。隣り合う各縦列11は繋がって並んでいるが、密部分12同士が隣り合うことがないよう上下に僅かに(5mm程度)ずらしてある。本フィルター10の比重は0.025g/cm程度である。黒表示される点や太い線は、水の流れや滴下状態を模式的に示している。
【0013】
図1に示すフィルター10は、疎な部分と密な部分とに区分して形成されているので、フィルター10を通過する空気全体の圧力損失がこのような構造でないものよりも低下する。この例では、圧力損失は風速1.5m/secにて4Pa程度まで低下している。その分、空気の吸い込み抵抗が低下し、吸い込み空気量の増加が期待できる。
【0014】
図2は図1に示すフィルターの一部の繊維を拡大して模式的に示す図であり、図2(a)は1本の繊維を示す図、図2(b)は同図に示す繊維を更に拡大して示すA−A’線断面図、図2(c)は図2(a)のB部を更に拡大して示す図である。
【0015】
各繊維15は、断面一様で細長く延び、基材としてPVC(ポリビニールクロライド)を用いている。繊維15は図2(b)に示すように断面円形であり、その表面には、浸漬、塗布、吹き付け等によって接着層16が形成される。接着層16が施された繊維15の表面には、パイル、即ち植毛繊維17が多数植毛されている。植毛繊維17としては、例えば、繰り返し親水性(繰り返し使用しても水を保持する能力を維持できる性質)のあるパイルであるレーヨンパイルを使用できる。
【0016】
植毛繊維17の繊維15表面への植え付けは、静電植毛法によって行うことができる。接着層16が設けられた繊維15を静電場中で通す際に、静電場中に放出された無数の植毛繊維17は、電場における静電吸引作用によって、針のように繊維15表面に垂直に交差し整然と並んだ状態で接着層16に突き刺さる。接着層16を乾燥させることで、植毛繊維17は繊維15の表面に強固に固定される。接着層16は、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系、酢酸ビニル系等の適宜の接着剤を用いることができる。したがって、繊維15の表面に均等に産毛が生えたような状態となり、フィルター10に散水等で水を給水したとき、水の微粒子が植毛繊維17間で或いは幾つかの植毛繊維17に跨がって保持される。
【0017】
フィルター10は、繊維15を、例えば幅約1.3m、長さ約10mの平たく且つ長い帯状の不織布状に形成した中間素材を用いて製造される。そのような中間素材は、例えば長さ方向にロール状に巻かれて取り扱われる。この中間素材に静電植毛を行う静電植毛装置は既存のものを利用することができる。したがって、生産設備に要する費用を安価にすることができる。本実施形態では、図3に示す高電圧発生装置18において直流高電圧が電極18aと18bとの間に印加され、植毛繊維散布装置19aから無数の植毛繊維17が電極18aと18bとの間の電界Eに散布される。植毛繊維17は、クーロン力による電界に沿った静電吸引力によって平行に揃い、予め接着剤塗布装置19bによって塗布された繊維15表面の接着層16に突き刺さる。このような製造方法では、無数の植毛繊維17を繊維15の表面上に極めて容易に整然と並んだ状態に植え付けることができるので、生産性が非常に高い。
【0018】
多数の植毛繊維17を繊維15表面に植毛することで、水の微粒子が繊維15の表面に極めて保持され易くなる。この微粒子状態の水分は蒸発し易く、フィルター10を通過する空気の加湿量又は空気から奪う潜熱の量が飛躍的に向上する。したがって通過空気を十分に加湿又は冷却することができる。また、前記中間素材にマスキングを行うことで、中間素材への接着層16の形成を部分的に行うことにより、中間素材が静電場中を通過したときに、植毛繊維17を接着層16が施された領域内の繊維15にのみ付着させることができる。このように、フィルター10の必要な部分にのみ静電植毛を行うようにすることで、植毛繊維17や接着剤の使用量を削減することができ、コストの削減を図ることができる。
【0019】
図4は、本発明によるフィルターの水の流れを模式的に示す説明図である。
【0020】
フィルター10の上端部に散水される水27は、密部分12を流れるときには蛇行して流れ、疎部分13に到達すると水滴となって自然落下する。疎部分13から滴下してその下の密部分12に到達した水27は、密部分12の繊維と衝突したり滞留することによって横に広がり、拡散した水分は他の拡散した水分と合体して密部分12を蛇行して流れる。途中で蒸発することなく下端部まで流れ落ちた水27は下端部から排出される。水27は、密部分12と疎部分13とを流下する毎に、密部分12における蛇行、疎部分13における自然落下、及び密部分12に到達したときの衝突・拡散という上記の過程を繰り返す。
【0021】
フィルター10の上端部から流下する水は、密部分12又は疎部分13を流下する間に、植毛が施された領域では、その植毛によって微粒子状に保持される。その結果、その領域では水27の蒸発が促進され、そこを通過する空気を効率的に加湿又は冷却することができる。
【0022】
図5は、本発明のフィルターを装備した気化加湿器の一実施形態を示す斜視図である。気化加湿器50は、フィルター10の上方に散水器51を有し、散水器51から水27を滴下する。そして、ファン52を回転させると、空気は図5の左から右に流動し、フィルター10を通過する際に加湿されるようになっている。フィルター10の下部には、余剰水回収器53が設置されている。
【0023】
ここで、フィルター10には上述のように繊維にパイルを植毛してあるため、水を効率良く保持してより高い気化加湿効果を得ることができる。なお、繊維にレーヨンパイルを植毛したマットに空気を通過させた場合と、繊維にレーヨンパイルを植毛していないマットに空気を通過させた場合とについてその効果の違いを確認するための実験を行ったところ、その結果は以下のようになった。
【0024】
マットの入口の温度が43℃、湿度が26%RHの時、流水時のマット出口の温度と湿度は以下のとおりであった。
植毛無 ⇒ 温度38℃、湿度39%RH、風速1.4m/sec
植毛有 ⇒ 温度33℃、湿度60%RH、風速1.2m/sec
このように、植毛有の場合は植毛無の場合にくらべ、温度で−5℃の冷却効果の違いがあり、湿度で21%の差があることが分かる。
【0025】
一方、給水量22.5L/hに対する水蒸発量は以下のようになった。
植毛無 ⇒ 蒸発量 8.2L/h(蒸発効率37%)
植毛有 ⇒ 蒸発量 14.4L/h(蒸発効率64%)
このように、植毛有の場合は植毛無の場合にくらべ、蒸発効率が高いことが分かる。
【0026】
上記のフィルター10は、繊維にレーヨンパイルを植毛したマットの例を示したが、これ以外に、何らかの母材に繰り返し親水性がよいパイルを植毛して、水を保持させることにより、パイルを植毛しない場合より高い蒸発効率を得ることがきる。例えば、金網を何層か積層して、その金網にパイルを植毛する場合や、ハニカムエレメントにパイルを植毛する場合があげられる。この場合、フィルター全体の構成としては通風性があることが必要であり、植毛するパイルは繰り返し親水性があることが重要である。この場合のパイルとしては、例えばレーヨンパイルを用いることができる。植毛の方法としては、例えば上述した静電植毛法を適用することができる。
【0027】
また、図5では、フィルター10への散水は上端部からの散水を示したが、これ以外にスプレー式の散水によりフィルター10の通風面全体に散水する方法も用いることができる。この場合は、フィルター10全体がはやく濡れるために、加湿又は冷却の効果を迅速に得ることができる
なお、上記実施形態では、母材として、疎な部分と密な部分とを分散配置してなる構造のマットを用いた場合について説明したが、本発明は、そのような構造に限定されるものではなく、一様な密度のマットを用いてもよい。また、フィルターに形成される微細な突起は、植毛以外の方法、例えば起毛により形成してもよい。また、微細な突起は、必ずしもフィルター全体に形成しなくてもよく、一部にのみ形成するようにしてもよい。また、植毛繊維を自己消火性(難燃性)の接着剤を介してフィルターの母材に接着することで、安全性を向上することができる。さらに、上記実施形態では、本発明を気化加湿器のフィルターに適用した場合について説明したが、本発明は冷風器のフィルターに適用することもできる。その他にも、本発明の要旨を逸脱しない範囲で上記の実施形態に種々の改変を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明によるフィルターの表面の一部を拡大して示す正面図である。
【図2】図1に示すフィルターを構成する繊維の一部を拡大して示す模式図である。
【図3】静電植毛装置の一例を示す概略図である。
【図4】本発明によるフィルターの冷却水の流れの一例を示す模式図である。
【図5】本発明のフィルターを装備した加湿器の一実施形態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0029】
10 フィルター 11 縦列
12 密部分 13 疎部分
15 繊維 16 接着層
17 植毛繊維(線状突起)
18 高電圧発生装置 18a,18b 電極
19a 植毛繊維散布装置 19b 接着剤塗布装置
27 冷却水
51 散水器 52 ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性を有するフィルターに空気を通過させ、該フィルターに供給された水分を蒸発させて前記空気を加湿するようにした気化加湿器のフィルターであって、
その母材の少なくとも一部に、供給された水分を保持する多数の微細な突起が形成されていることを特徴とするフィルター。
【請求項2】
通気性を有するフィルターに空気を流通させ、該フィルターに供給された水分を蒸発させて前記空気を冷却するようにした冷風器のフィルターであって、
その母材の少なくとも一部に、供給された水分を保持する多数の微細な突起が形成されていることを特徴とするフィルター。
【請求項3】
前記微細な突起は植毛又は起毛により形成された繊毛状のものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のフィルター。
【請求項4】
前記微細な突起は自己消火性の接着剤を介して前記母材に接着されていることを特徴とする請求項3に記載のフィルター。
【請求項5】
前記微細な突起は静電植毛により形成された植毛繊維からなることを特徴とする請求項3又は4記載のフィルター。
【請求項6】
前記植毛繊維はレーヨンパイルであることを特徴とする請求項5記載のフィルター。
【請求項7】
前記母材は繊維から成るマット状のもので、当該繊維の密な部分と疎な部分とを分散配置してなるものであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のフィルター。
【請求項8】
請求項5記載のフィルターの製造方法であって、前記母材の表面に接着層を設ける工程と、多数の短い植毛繊維を静電吸引作用により前記接着層上に引き付けて植毛する工程と、を含むことを特徴とするフィルターの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate