説明

フィルタ装置

【課題】 小型で通過帯帯域幅の調整が容易で、かつ通過帯域の両側に急峻な減衰特性を有するフィルタ装置を提供する。
【解決手段】 誘電体層の積層体を挟んで対向するように配置された第1および第2の接地電極2a,2bと、複数の共振器電極3と、第2の接地電極2bと共振器電極3との間で第2の接地電極2bと対向し、複数の共振器電極3のそれぞれの開放端に貫通導体7で接続された短縮容量電極4と、誘電体層を挟んで第2の接地電極2bとは反対側に配置され、端部が隣り合う2つの短縮容量電極4と対向する結合容量電極5と、結合容量電極5に対して誘電体層を挟んで短縮容量電極4とは反対側で結合容量電極5の端部と対向するとともに貫通導体7に接続されている補助容量電極6と、補助容量電極6の初段と最終段に接続された外部端子とを備えるフィルタ装置。通過帯帯域幅の調整が容易で、通過帯域の両側に急峻な減衰特性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば携帯電話,無線LAN(Local Area Network)等の無線通信機器その他の各種通信機器等において使用されるフィルタ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機や無線LAN等の様々な用途で無線通信機器が用いられるようになっており、各無線通信機器において使用される周波数が互いに近くなっていることから、これらの無線通信機器には、所望周波数帯域の信号のみを選択的に通過させるとともに、通過帯域の低周波側および高周波側に近接した信号帯域における不所望信号の混入を防止して良質の通信を行ない得る必要がある。
【0003】
このような要求に対して、図7に分解斜視図で示す例のような、端部が2つの共振器電極13・13のそれぞれと対向する結合調整電極15を備えたフィルタ装置が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。このフィルタ装置においては、結合調整電極15を備えていることにより、共振器電極13・13間において、誘導性の結合だけでなく容量性の結合も生じさせることができるので、通過帯域幅を調整できるとともに、誘導性の結合と容量性の結合の並列共振回路により所定の通過帯域近傍の周波数帯域における信号を急峻に減衰させることができるというものである。
【0004】
また、近年の無線機器の小型化に伴い、その内部に使用されるフィルタ装置にも小型化が要求されている。これに対して、共振器電極の開放端側と対面する位置に短縮電極を備えたフィルタ装置が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。共振器電極の開放端側と対向する位置に波長短縮電極を配置することで、波長短縮電極による波長短縮効果によって共振器電極を短くすることができ、フィルタ装置の小型化ができるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−120703号公報
【特許文献2】特開2006−166136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のフィルタ装置においては、結合調整用電極は各共振器電極に対向するように配置するため、小型のフィルタ装置で共振器電極幅が細い場合には結合調整用電極による容量性の結合が不十分となって帯域幅の調整が難しくなり、また、通過帯域の片側にしか急峻な減衰特性が得られないため、通過帯域の他の片側の減衰特性が急峻でないものとなってしまった。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みて案出されたものであり、その目的は、小型で通過帯帯域幅の調整が容易であり、かつ通過帯域の両側に急峻な減衰特性を有するとともに、高周波側の減衰特性の跳ね上がりの小さいフィルタ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のフィルタ装置は、複数の誘電体層が積層されてなる積層体と、該積層体を挟んで対向するように配置された第1の接地電極および第2の接地電極と、前記積層体内において互いに電磁界結合するように平面視で横並びに整列され、それぞれ一方端が短絡端で他方端が開放端である複数の共振器電極と、前記第2の接地電極と前記共振器電極との間において前記誘電体層を挟んで前記第2の接地電極と対向するとともに、前記複数の共振器電極のそれぞれの開放端に前記誘電体層を貫通する貫通導体によって電気的に接続された複数の短縮容量電極と、複数の該短縮容量電極に対して前記誘電体層を挟んで前記第2の接地電極とは反対側に配置され、端部がそれぞれ隣り合う前記2つの短縮容量電極と対向する複数の結合容量電極と、該結合容量電極に対して前記誘電体層を挟んで前記複数の短縮容量電極とは反対側で、前記結合容量電極の端部とそれぞれ対向するとともに前記貫通導体にそれぞれ接続されている複数の補助容量電極と、該複数の補助容量電極の初段と最終段に電気的に接続された2つの外部端子とを備えることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明のフィルタ装置は、上記構成において、前記結合容量電極は、前記共振器電極の前記短絡端側で前記短縮容量電極に対向することを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明のフィルタ装置は、上記各構成において、前記補助容量電極は、前記結合容量電極と対向する対向部と、該対向部より幅が小さい、前記対向部と前記貫通導体とを接続する接続部とからなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のフィルタ装置によれば、誘電体層を挟んで第2の接地容量電極とは反対側に配置され、端部がそれぞれ隣り合う2つの短縮容量電極と対向する複数の結合容量電極と、結合容量電極に対して誘電体層を挟んで複数の短縮容量電極とは反対側で、結合容量電極の端部とそれぞれ対向するとともに貫通導体にそれぞれ接続されている複数の補助容量電極とを備えることから、短縮容量電極を有することで共振器電極を短くすることができるので共振器を小さくすることができ、また、隣り合う共振器電極間に発生する誘導結合と、結合容量電極による短縮容量電極間の容量結合、即ち短縮容量電極が接続された共振器電極間の容量結合とによって形成される並列共振回路により減衰極が発現して、通過帯域の低周波側における信号を急激に減衰させることができるとともに、共振器電極の幅が細い場合であっても、結合容量電極は短縮容量電極および補助容量電極との間で容量結合するので、短縮容量電極および補助容量電極が接続された共振器電極間の容量結合が十分なものとなり、通過帯域幅を容易に調整できる。
【0012】
また、隣り合う貫通導体の短縮容量電極と補助容量電極とを接続する部分同士の間に発生する誘導結合と、短縮容量電極と結合容量電極との間および補助容量電極と結合容量電極との間に発生する容量結合とによっても並列共振回路が形成され、これによって通過帯域の高周波側にも減衰極が発現するので、通過帯域の高周波側における信号を急激に減衰させることができる。よって、通過帯域の両側に急峻な減衰特性を有するフィルタ装置となる。
【0013】
また、本発明のフィルタ装置によれば、上記構成において、結合容量電極が共振器電極の短絡端側で短縮容量電極に対向するときには、隣り合う共振器電極との間に発生する誘導結合と、結合容量電極による短縮容量電極間の容量結合、即ち短縮容量電極が接続された共振器電極間の容量結合とによって形成される並列共振回路の中に短縮容量電極と補助容量電極との間で形成される不要な容量結合が減少するので、高次の共振が高周波側にシフトして減衰特性の跳ね上がりを小さくすることができ、通過帯域の高周波側での減衰特性が良好なものとなる。
【0014】
また、本発明のフィルタ装置によれば、上記各構成において、補助容量電極が、結合容量電極と対向する対向部と、対向部より幅が小さい、対向部と貫通導体とを接続する接続部とからなるときには、補助容量電極の対向部と結合容量電極との間だけで容量結合が発生するので、隣り合う共振器電極との間に発生する誘導結合と、結合容量電極による短縮容量電極間の容量結合、即ち短縮容量電極が接続された共振器電極間の容量結合とによって形成される並列共振回路の中に短縮容量電極と補助容量電極との間で形成される不要な容量結合が減少するので、高次の共振が高周波側にシフトして減衰特性の跳ね上がりを小さくすることができるとともに、接続部の幅が小さいことから、インダクタ成分が増加して、複数の貫通導体の短縮容量電極と補助容量電極とを接続する部分同士の間に発生する誘導結合と、短縮容量電極と結合容量電極との間および補助容量電極と結合容量電極との間に発生する容量結合とによる並列共振回路の誘導結合が増加するので、この並列共振回路による通過帯域の高周波側の減衰極が発現する周波数が低下し、通過帯域の高周波側における減衰がより急峻なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のフィルタ装置の実施の形態の一例を模式的に示す分解斜視図である。
【図2】(a)は図1のA−A線における断面を示す断面図であり、(b)は図1に示すフィルタ装置の共振器電極、短縮容量電極、結合容量電極および補助容量電極の位置を示す平面図である。
【図3】本発明のフィルタ装置の実施の形態の他の一例を模式的に示す分解斜視図である。
【図4】(a)は図3のA−A線における断面を示す断面図であり、(b)は図3に示すフィルタ装置の共振器電極、短縮容量電極、結合容量電極および補助容量電極の位置を示す平面図である。
【図5】本発明のフィルタ装置の実施の形態の他の一例を模式的に示す分解斜視図である。
【図6】本発明のフィルタ装置の伝送特性のシミュレーション結果を示す図である。
【図7】従来のフィルタ装置の実施の形態の一例を模式的に示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のフィルタ装置について以下に詳細に説明する。図1〜図7において、1aは誘電体層、1は誘電体層1aが積層されてなる積層体、2aは第1の接地電極、2bは第2の接地電極、3は共振器電極、4は短縮容量電極、5は結合容量電極、6は補助容量電極、7は貫通導体、8は入力端子電極、8aは入力結合電極、9は出力端子電極、9aは出力結合電極を示している。なお、図2(b)および図4(b)は、共振器電極3、短縮容量電極4、結合容量電極5および補助容量電極6の平面視での位置関係を示すものであり、これら以外は省略して示している。
【0017】
図1〜図5に示す例では、積層体1は5つの誘電体層1aが積層されて構成されているが、誘電体層1aの層数は、各誘電体層1aの厚みや比誘電率、あるいは、第1の接地電極2a,第2の接地電極2b,共振器電極3,短縮容量電極4,結合容量電極5,補助容量電極6,入力結合電極8aおよび出力結合電極9aといった各電極の配置等によって適宜変えることができる。例えば、図1に示す例では、積層体1を挟んで対向するように第1の接地電極2aと第2の接地電極2bとが配置され、第1の接地電極2aが配置された誘電体層1a上に第1の接地電極2aとは電気的に絶縁されて入力端子電極8および出力端子電極9が配置されているが、第1の接地電極2aの上にさらに絶縁層1aを積層して、その上に入力端子電極8および出力端子電極9を配置してもよい。入力端子電極8および出力端子電極9は、並びの両端の補助容量電極6即ち初段および最終段の補助容量電極6にそれぞれ貫通導体7で接続されており、入力端子電極8および出力端子電極9が外部回路基板等に接続されることでフィルタ装置への信号の入出力点となる。また、図5に示す例のように、入力端子電極8および出力端子電極9は、それぞれ初段および最終段の補助容量電極6に対向する入力結合電極8aおよび出力結合電極9aを介して初段および最終段の補助容量電極6に電気的に接続してもよい。
【0018】
また、共振器電極3は、それぞれ一方端が短絡端で他方端が開放端であり、積層体1の1つの誘電体層1a・1a間に、互いに電磁界結合するように平面視で横並びに整列されて、所謂コムライン型に配置されて、相互に誘導結合(エッジ結合)している。共振器電極3の形状や間隔は、要求される特性(通過帯域周波数や通過帯域幅)に応じて適宜設定されるが、安定した誘導結合(エッジ結合)を得るにはエッジ部分の対向する長さの長い、細長い帯状の形状であるのが望ましい。
【0019】
図1〜図4では2つの共振器電極3を備える例を示し、図5では3つの共振器電極3を備える例を示しているが、共振器電極は4つ以上を設けてもよく、損失が大きくならない程度の個数であればよい。無線LAN等の用途では、損失と減衰特性のバランスから、共振器電極3の数は2つまたは3つが好ましい。
【0020】
また、短縮容量電極4は、第2の接地電極2bおよび共振器電極3との間において誘電体層1aを挟んで第2の接地電極2bと対向して配置され、複数の共振器電極3のそれぞれの開放端に貫通導体7によって電気的に接続されている。これによって、共振器電極3を短くすることができるので共振器を小さくすることができ、フィルタ装置も小型化することができる。
【0021】
また、誘電体層1aを挟んで第2の接地容量電極2bとは反対側で、両端部がそれぞれ隣り合う短縮容量電極4と対向する結合容量電極5と、誘電体層1aを挟んで複数の短縮容量電極4とは反対側で、結合容量電極5の両端部とそれぞれ対向するとともに貫通導体7に接続されている複数の補助容量電極6とを備える。そして、補助容量電極6の初段および最終段が、それぞれ入力端子電極8および出力端子電極9と貫通導体7によって電気的に接続されている。
【0022】
このことにより、隣り合う共振器電極3・3間に発生する誘導結合と、結合容量電極5による短縮容量電極4・4間の容量結合、即ち短縮容量電極4・4が接続された共振器電極3・3間の容量結合とによって形成される並列共振回路により減衰極が発現して、通過帯域の低周波側における信号を急激に減衰させることができる。また、共振器電極3の幅が細い場合であっても、結合容量電極5は短縮容量電極4および補助容量電極6との間で容量結合するので、短縮容量電極4および補助容量電極6が接続された共振器電極3・3間の容量結合が十分なものとなり、通過帯域幅を容易に調整できる。
【0023】
また、隣り合う貫通導体7・7の短縮容量電極4と補助容量電極6とを接続する部分同士の間に発生する誘導結合と、短縮容量電極4と結合容量電極5との間および補助容量電極6と結合容量電極5との間に発生する容量結合とによっても並列共振回路が形成され、これによって通過帯域の高周波側にも減衰極が発現するので、通過帯域の高周波側における信号を急激に減衰させることができる。よって、通過帯域の両側に急峻な減衰特性を有するフィルタ装置となる。
【0024】
また、本発明のフィルタ装置は、図3および図4に示す例のように、上記構成において、結合容量電極5を、共振器電極3の短絡端側で短縮容量電極4に対向させたときには、隣り合う共振器電極3・3との間に発生する誘導結合と、結合容量電極5による短縮容量電極4・4間の容量結合、即ち短縮容量電極4・4が接続された共振器電極3・3間の容量結合とによって形成される並列共振回路の中に短縮容量電極4と補助容量電極6との間で形成される不要な容量結合が減少するので、高次の共振が高周波側にシフトして減衰特性の跳ね上がりを小さくすることができ、通過帯域の高周波側での減衰特性が良好なものとなる。
【0025】
また、本発明のフィルタ装置は、図3および図4に示す例のように、上記各構成において、補助容量電極6を結合容量電極5と対向する対向部と、対向部より幅が小さい対向部と貫通導体7とを接続する接続部とからなるものとしたときには、補助容量電極6の対向部と結合容量電極5との間だけで容量結合を発生するので、共振器電極3・3間に発生する誘導結合と、結合容量電極5による短縮容量電極4・4間の容量結合、即ち短縮容量電極4・4が接続された共振器電極3・3間の容量結合とによって形成される並列共振回路の中に短縮容量電極4と補助容量電極6との間で形成される不要な容量結合が減少するので、高次の共振が高周波側にシフトして減衰特性の跳ね上がりを小さくすることができるとともに、接続部の幅が小さいことから、インダクタ成分が増加して、複数の貫通導体7・7の短縮容量電極4と補助容量電極6とを接続する部分同士の間に発生する誘導結合と、短縮容量電極4と結合容量電極5との間および補助容量電極6と結合容量電極5との間に発生する容量結合とによる共振回路の誘導結合が増加するので、この並列共振回路による通過帯域の高周波側の減衰極が発現する周波数が低下し、通過帯域の高周波側における減衰がより急峻なものとなる。
【0026】
短縮容量電極4は、短縮容量電極4と共振器電極3とが平面視で重なると、その重なった面積分だけ共振器電極3と第1および第2の接地電極2a,2bとの結合が小さくなってしまい、また、例えば共振器電極3に接続された短縮容量電極4と他の共振器電極3とが平面視で重なると、共振器電極3と隣り合う共振器電極3との結合量が変わってしまうので、図1に示す例のように、短縮容量電極4を長方形や楕円形のような細長い形状とし、共振器電極3の開放端と短縮容量電極4の一方端とを接続し、短縮容量電極4の他方端を共振器電極3の開放端を延長する方向に向けるとよい。
【0027】
結合容量電極5は、平面視で短縮容量電極4からはみ出す部分が小さい方が好ましい。結合容量電極5の平面視で短縮容量電極4からはみ出す部分(結合容量電極5の平面視で短縮容量電極4とは重ならない部分)と第2の接地電極2bおよび第1の接地電極2aとの間で不要な容量結合が発現して共振器電極3によるフィルタ特性に影響するからである。このようなことから、結合容量電極5の形状は、図1から図7に示す例のように、短縮容量電極4と対向する両端部と細い導体で接続した形状とするのが好ましい。
【0028】
また、図5に示す例のように共振器電極3が3つ以上ある場合は、隣り合う2つの短縮容量電極4と対向する結合容量電極5を2つ以上配置する。このとき、例えば、図5に示す例のように、共振器電極3が3つあり、それに接続された短縮容量電極4も3つある場合には、初段(1段目)の短縮容量電極4と2段目の短縮容量電極4とに対向する結合容量電極5と、最終段(3段目)の短縮容量電極4と2段目の短縮容量電極4とに対向する結合容量電極5の2つの結合容量電極5・5が並べて配置される。2段目の短縮容量電極4には、隣り合う2つ結合容量電極5のそれぞれの端部が対向することとなる。図5に示す例では、1つの結合容量電極5の2つの端部の大きさが異なっているが、特性上は大きな問題とはならない。
【0029】
補助容量電極6は、図1および図2に示す例のように、短縮容量電極4と同じ形状のものを平面視で同じ位置に配置してもよいが、上述したような理由から、短縮容量電極4との間に形成される不要な容量結合を小さくするように、補助容量電極6の結合容量電極5との対向部を、結合容量電極5の端部と同様の大きさおよび形状として、対向部より幅が小さい接続部を設けるのが好ましい。
【0030】
誘電体層1aとしては、例えば、アルミナ,ムライト,窒化アルミニウム,BaO−TiO系,CaO−TiO系,MgO−TiO系およびガラスセラミックス等のセラミック材料、あるいは四ふっ化エチレン樹脂(ポリテトラフルオロエチレン:PTFE),四ふっ化エチレン−エチレン共重合樹脂(テトラフルオロエチレン−エチレン共重合樹脂:ETFE),四ふっ化エチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂(テトラフルオロエチレン−パーフルテロアルキルビニルエーテル共重合樹脂:PFA)等のフッ素樹脂やガラスエポキシ樹脂,ポリイミド等の有機樹脂材料が用いられる。これらの材料による誘電体層1aの形状や寸法(厚みや幅,長さ)は、使用される周波数や用途等に応じて設定される。セラミック材料の場合は、より高周波の信号を伝送することが可能な、Au,Ag,Cu等の低抵抗金属からなる導体材料と同時焼成が可能な低温焼成セラミックスが好ましい。
【0031】
第1の接地電極2a,第2の接地電極2b,共振器電極3,短縮容量電極4,結合容量電極5,補助容量電極6,貫通導体7,入力端子電極8,出力端子電極9,入力結合電極8aおよび出力結合電極9aは、誘電体層1aがセラミック材料からなる場合は、W,Mo,Mo−Mn,Au,Ag,Cu等の金属を主成分とするメタライズ層により形成される。また、誘電体層1aが樹脂系材料からなる場合は、厚膜印刷法,各種の薄膜形成方法,めっき法あるいは箔転写法等により形成した金属層や、このような金属層上にめっき層を形成したもの、例えばCu層,Cr−Cu合金層またはCr−Cu合金層上にNiめっき層およびAuめっき層を被着させたもの,TaN層上にNi−Cr合金層およびAuめっき層を被着させたもの,Ti層上にPt層およびAuめっき層を被着させたもの,Ni−Cr合金層上にPt層およびAuめっき層を被着させたもの等が挙げられる。その厚みや幅は、伝送される高周波信号の周波数や用途等に応じて設定される。
【0032】
第1の接地電極2a,第2の接地電極2b,共振器電極3,短縮容量電極4,結合容量電極5,補助容量電極6,入力端子電極8,出力端子電極9,入力結合電極8aおよび出力結合電極9aの形成は、周知の方法を用いればよい。例えば誘電体層1aがガラスセラミックスから成る場合であれば、まずそれら誘電体層1aとなるガラスセラミックスのグリーンシートを準備し、グリーンシート上にスクリーン印刷法によりAg等の導体ペーストを所定形状で印刷塗布して第1の接地電極2a,第2の接地電極2b,共振器電極3,短縮容量電極4,結合容量電極5,補助容量電極6,入力端子電極8,出力端子電極9,入力結合電極8aおよび出力結合電極9aの各電極パターンを形成する。次に、これらの電極パターンが形成されたグリーンシートを重ねて圧着するなどして積層体を作製し、この積層体を850〜1000℃で焼成することにより形成する。その後、外表面に露出している電極上には、NiめっきおよびAuめっき等のめっき皮膜を形成する。誘電体層1aが有機樹脂材料から成る場合であれば、例えば有機樹脂シート上に第1の接地電極2a,第2の接地電極2b,共振器電極3,短縮容量電極4,結合容量電極5,補助容量電極6,入力端子電極8,出力端子電極9,入力結合電極8aおよび出力結合電極9aの各電極パターン形状に加工したCu箔を転写し、Cu箔が転写された有機樹脂シートを積層して接着剤で接着することによって形成する。
【0033】
第1の接地電極2aおよび第2の接地電極2bと共振器電極3の短絡端とを接続する接続導体は、それらの間に位置する誘電体層1a内に形成された貫通導体または誘電体層1aの端面に形成された端面導体の形態で形成することによって、積層されたそれら誘電体層1aの内部に形成するフィルタ装置の設計自由度が向上するとともに、より小型で高性能なフィルタ装置とすることができる。
【0034】
このような接続導体となる貫通導体や側面導体は、誘電体層1aがガラスセラミックス等のセラミックスから成る場合には、貫通導体は、例えば前述の製造方法において、第1の接地電極2a,第2の接地電極2b,共振器電極3,短縮容量電極4,結合容量電極5,補助容量電極6,入力端子電極8,出力端子電極9,入力結合電極8aおよび出力結合電極9aの各電極パターンを形成する前に、グリーンシートに金型加工やレーザー加工によりあらかじめ形成しておいた貫通孔内に同様の導体ペーストを印刷法等によって充填することで形成することができ、端面導体は、例えば内部の電極を端面に露出させたグリーンシート積層体を形成した後、同様の導体ペーストをグリーンシート積層体の側面に印刷することによって形成することができる。また、端面導体は、グリーンシートに貫通孔を形成しておき、第1の接地電極2aおよび第2の接地電極2bをこの貫通孔に接するように形成した後、グリーンシートの積層前または積層後に導体ペーストを貫通孔の内面に印刷し、または貫通穴に充填して、貫通孔の部分で切断することによっても形成することができる。誘電体層1aが樹脂系材料から成る場合も同様に、グリーンシートに代えて有機樹脂シートを用い、導体ペーストの印刷やめっきによって貫通孔内に貫通導体を形成したり、薄膜法等によって側面導体を形成したりすればよい。
【0035】
具体的には、無線LANの規格に用いられるような、通過帯域の周波数が5.15〜5.85GHzのバンドパスフィルタとしてのフィルタ装置は、図1に示すような形態であれば、例えば誘電体層1aとして比誘電率が7.7のガラスセラミックスを用い、第1の接地電極2a,第2の接地電極2b,共振器電極3,短縮容量電極4,結合容量電極5,補助容量電極6,入力端子電極8,出力端子電極9,入力結合電極8a,出力結合電極9a,および貫通導体7にCuメタライズを用いることにより得られる。比誘電率が7.4のガラスセラミックスは、例えば、ガラス成分としてPbO,B,SiO,Al,ZnOおよびアルカリ土類金属酸化物を主成分とする結晶化ガラスが50質量%と、フィラー成分としてアルミナが50質量%とからなるものを用いればよい。
【0036】
このとき、誘電体層1aは、厚みを上から順に、260μm,110μm,25μm,25μm,35μmとする。第1の接地電極2aおよび第2の接地電極2bは、寸法を1.65mm×1.5mmとする。第1の接地電極2aには入力端子電極8および出力端子電極9を配置するための0.5mm×0.5mmの開口部を2つ設ける。2つの共振器電極3は寸法が0.13mm×0.7mmで0.125mmの間隔で横並びに整列し、各短絡端を積層体1の短絡端側の側面全面に形成した端面導体で接地電極2a,2bに接続する。短縮容量電極4は、寸法が0.96mm×0.825mmで、平面視で共振器電極3よりそれぞれ内側に0.0125mmの位置に配置して、共振器電極3の各開放端側の端部と0.13mm×0.15mmの範囲で重なるように配置し、重なる部分の中心で直径0.15mmの貫通導体7によって共振器電極3に接続する。結合容量電極5は、寸法が0.275mm×0.675mmである端部を寸法が0.6mm×0.15mmの導体で接続する形状であり、端部がそれぞれ各短縮容量電極4の短絡端側から0.075mmの位置で各短縮容量電極4と重なるように配置する。補助容量電極6は、それぞれの寸法が9.6mm×0.825mmで、平面視で各短縮容量電極4と同じ位置に配置して貫通導体7に接続する。入力端子電極8および出力端子電極9は、寸法が0.2mm×0.2mmで、上記開口部の中心に配置して、かつ2つの補助容量電極6のそれぞれに平面視で中央部と重なるように配置するとともに、直径0.15mmの貫通導体7で接続する。
【0037】
このような例の本発明のフィルタ装置のフィルタ特性は、図6の線図に破線の特性曲線で示すようなものとなる。図6に示す線図において、縦軸は挿入損失(単位:dB)を、横軸は周波数(単位:GHz)を示す。従来のフィルタ装置では、例えば、図6の線図に一点鎖線の特性曲線で示すような、通過帯域の片側にしか減衰極のないフィルタ特性であるのに対して、本発明のフィルタ装置の特性は、通過帯域の両側(低周波側では3GHz付近、高周波側では17〜18GHz付近)においても急峻な減衰特性を得ることが分かる。
【0038】
また、図3に示す例のような本発明のフィルタ装置のフィルタ特性は、図6の線図に実線の特性曲線で示すようなものとなる。この例のフィルタ装置は、図1の例の本発明のフィルタ装置に対して、結合容量電極5は、寸法が0.325mm×0.575mmである端部を寸法が0.525mm×0.15mmの導体で接続する形状であり、端部がそれぞれ各短縮容量電極4の短絡端側から0.05mmの位置で各短縮容量電極4と重なるように配置する。また、補助容量電極6は、寸法が0.425mm×0.675mmの対向部と寸法が0.175mm×0.15mmの接続部とを短絡端側の辺を揃えて接続した形状であり、短絡端側の辺および外側の辺を短縮容量電極4のそれぞれに揃えて配置して貫通導体7に接続する。これ以外の各電極や誘電体層は、上記と同様の寸法、形状および配置とするものである。
【0039】
この例の結果から、結合容量電極5を、共振器電極3の短絡端側で短縮容量電極4に対向させ補助容量電極6を結合容量電極5と対向する対向部と、対向部より幅が小さい対向部と貫通導体7とを接続する接続部とからなるものとした場合には、通過帯域の高周波側の減衰極が発現する周波数が低下して、通過帯域の高周波側における減衰がより急峻なものとなるとともに、高次の共振が高周波側にシフトして減衰特性の跳ね上がりが小さくなることで、通過帯域の高周波側での減衰特性がより良好なフィルタ特性が得られるといえる。
【符号の説明】
【0040】
1・・・・積層体
1a・・・誘電体層
2a・・・第1の接地電極
2b・・・第2の接地電極
3・・・・共振器電極
4・・・・短縮容量電極
5・・・・結合容量電極
6・・・・補助容量電極
7・・・・貫通導体
8・・・・入力端子電極
8a・・・入力結合電極
9・・・・出力端子電極
9a・・・出力結合電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘電体層が積層されてなる積層体と、
該積層体を挟んで対向するように配置された第1の接地電極および第2の接地電極と、
前記積層体内において互いに電磁界結合するように平面視で横並びに整列され、それぞれ一方端が短絡端で他方端が開放端である複数の共振器電極と、
前記第2の接地電極と前記共振器電極との間において前記誘電体層を挟んで前記第2の接地電極と対向するとともに、前記複数の共振器電極のそれぞれの開放端に前記誘電体層を貫通する貫通導体によって電気的に接続された複数の短縮容量電極と、
複数の該短縮容量電極に対して前記誘電体層を挟んで前記第2の接地電極とは反対側に配置され、端部がそれぞれ隣り合う前記2つの短縮容量電極と対向する複数の結合容量電極と、
該結合容量電極に対して前記誘電体層を挟んで前記複数の短縮容量電極とは反対側で、前記結合容量電極の端部とそれぞれ対向するとともに前記貫通導体にそれぞれ接続されている複数の補助容量電極と、
該複数の補助容量電極の初段と最終段に電気的に接続された2つの外部端子
とを備えることを特徴とするフィルタ装置。
【請求項2】
前記結合容量電極は、前記共振器電極の前記短絡端側で前記短縮容量電極に対向することを特徴とする請求項1記載のフィルタ装置。
【請求項3】
前記補助容量電極は、前記結合容量電極と対向する対向部と、該対向部より幅が小さい、前記対向部と前記貫通導体とを接続する接続部とからなることを特徴とする請求項1記載または請求項2に記載のフィルタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−97208(P2011−97208A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247264(P2009−247264)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】