説明

フィルタ装置

【課題】フィルタ回路の通過帯域特性を一定にするための回路の規模を低減できるフィルタ装置を得ること。
【解決手段】フィルタ装置は、半導体集積回路で形成されたフィルタ装置であって、フィルタ回路と、前記フィルタ回路の出力電圧と、目標の周波数通過帯域に対応した参照電圧との差に基づき、前記フィルタ回路の周波数通過帯域が前記目標の周波数通過帯域になるように調整する調整回路とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
GmCフィルタ回路において、通過帯域特性Fcは、OTA(Operational Transconductance Amplifier)回路のGm値とコンデンサの容量C値とによって決まる。しかし、GmCフィルタ回路を半導体集積回路で形成する場合、製造工程での製造ばらつきに起因してGm値および容量C値が設計値通りとならず、所望の通過帯域特性を得ることができない傾向にある。
【0003】
それに対して、特許文献1には、GmCフィルタ回路において、OTA回路の出力でコンデンサに電荷を充電し、充電されたコンデンサの電圧と基準信号とを比較回路が比較して、比較回路の出力が制御回路を介してOTA回路にフィードバックされることが記載されている。この制御回路は、比較回路の出力信号が正論理の場合にハイレベル(負論理の場合にローレベル)のときにOTA回路のGm値が設計値であると判断し、OTA回路に設計値のGm値に対応する制御信号VBを供給することとされている。これにより、特許文献1によれば、製造ばらつきによりGm値や容量C値にばらつきが生じていても、比較回路の出力信号に基づいてOTA回路のGm値を制御してGm/C値を一定に制御するので、LPF(ローパスフィルタ)特性を一定にすることが可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−033323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術では、比較回路の出力信号がハイレベル又はローレベルであるため、比較回路としてコンパレータ回路を用いていると考えられる。コンパレータ回路の出力電圧は”L”レベルと”H”レベルとの2値(デジタル信号)であるため、コンパレータ回路の出力電圧を直接OTA回路の制御信号(アナログ信号)に用いることができず、制御回路等を用いOTA回路に供給すべき制御信号に変換する必要がある。このため、制御回路としてAD変換処理用の回路を含む複雑な回路を付加する必要がある。これにより、フィルタ回路の通過帯域特性を一定にするための回路が全体として大規模なものとなり、回路の小型化に支障をきたす傾向にある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、フィルタ回路の通過帯域特性を一定にするための回路の規模を低減できるフィルタ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の1つの側面にかかるフィルタ装置は、半導体集積回路で形成されたフィルタ装置であって、フィルタ回路と、前記フィルタ回路の出力電圧と、目標の周波数通過帯域に対応した参照電圧との差に基づき、前記フィルタ回路の周波数通過帯域が前記目標の周波数通過帯域になるように調整する調整回路とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、調整回路は、差動増幅回路により実現可能である。これにより、調整回路が、複雑な制御回路を必要とせずに、フィルタ回路の周波数通過帯域が目標の周波数通過帯域になるように調整できるので、調整回路20の規模を容易に低減できる。すなわち、フィルタ回路の通過帯域特性を一定にするための回路の規模を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、実施の形態にかかるフィルタ装置の構成を示す図である。
【図2】図2は、実施の形態におけるフィルタ回路の周波数特性を示す図である。
【図3】図3は、実施の形態の変形例にかかるフィルタ装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明にかかるフィルタ装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0011】
実施の形態.
実施の形態にかかるフィルタ装置100について図1を用いて説明する。図1は、フィルタ装置100の構成を示す図である。
【0012】
フィルタ装置100は、半導体集積回路で形成されている。フィルタ装置100は、入力端子Tin及び出力端子Toutの間に、フィルタ回路10及び調整回路20を有する。
【0013】
フィルタ回路10は、例えば、通過帯域特性を調整可能なGmCフィルタ回路である。具体的には、フィルタ回路10は、OTA回路(トランスコンダクタンス増幅器)12及びコンデンサ(第1の容量素子)11を有する。
【0014】
OTA(Operational Transconductance Amplifier)回路12は、入力端子12a、出力端子12b、及び制御端子12cを有する。入力端子12aは、フィルタ装置100の入力端子Tinに接続されている。出力端子12bは、コンデンサ11の一端、フィルタ装置100の出力端子Tout、及び調整回路20の入力側に接続されている。制御端子12cは、調整回路20の出力側に接続されている。OTA回路12は、制御端子12cに供給されるコントロール電圧に応じて、gm値が制御可能になっている。
【0015】
コンデンサ11は、一端がOTA回路12の出力端子12bとフィルタ装置100の出力端子Toutとの間のノードN1に接続され、他端がグランド電圧に接続されている。コンデンサ11は、OTA回路12の出力電圧Voutを保持する。
【0016】
調整回路20は、フィルタ回路10の出力電圧Voutと、目標の周波数通過帯域(図2に実線で示す特性参照)に対応したリファレンス電圧(参照電圧)Vrefとの差に基づき、フィルタ回路10の周波数通過帯域が目標の周波数通過帯域になるように調整する。
【0017】
具体的には、調整回路20は、差動増幅器21を有する。差動増幅器21は、反転入力端子(第1の入力端子)21a、非反転入力端子(第2の入力端子)21b、及び出力端子21cを有する。反転入力端子21aは、ノードN1とフィルタ装置100の出力端子Toutとの間のノードN2に接続されている。非反転入力端子21bは、リファレンス電圧Vrefに接続されている。出力端子21cは、OTA回路12の制御端子12cに接続されている。差動増幅器21は、フィルタ回路10の出力電圧Voutとリファレンス電圧Vrefとの差分をとることにより、フィルタ回路の周波数通過帯域を調整するためのコントロール電圧(制御信号)VB1を生成してOTA回路12の制御端子12cへ供給する。言い換えると、調整回路20は、差動増幅器21の出力信号をそのままコントロール電圧(制御信号)VB1として、フィルタ回路10の周波数通過帯域を調整する。
【0018】
次に、フィルタ装置100の動作について説明する。
【0019】
まず、基準周波数Fin及び基準振幅Hinを有する基準信号Vfが入力端子Tinを介してOTA回路12に入力される。この時OTA回路12では、コントロール電圧VB1に応じたGm1値を示しており、カットオフ周波数Fc1=Gm1・Vf/Cにてフィルタリングされた信号Vout1がOTA回路12から出力される。
【0020】
得られた信号Vout1の振幅に相当する信号レベルをリファレンス電圧Vrefとして差動増幅器21の非反転入力端子21bに与える。例えば、リファレンス電圧Vrefを発生する回路を差動増幅器21の非反転入力端子21bに接続する。このとき、差動増幅器21の反転入力端子21aはノードN2に接続されており、差動増幅器21の出力端子21cはOTA回路12の制御端子12cに接続されている。
【0021】
次に、実際の入力信号Vinが入力端子Tinを介してOTA回路12に入力される。OTA回路12では、例えば、コントロール電圧VBに応じたGm値を示しており、カットオフ周波数Fc=Gm・Vin/C(図2参照)にてフィルタリングされた信号VoutがOTA回路12から出力される。
【0022】
差動増幅器21は、OTA回路12からの実際の出力電圧Voutとリファレンス電圧Vrefとの差分をとることによりコントロール電圧VBを生成し、直接OTA回路12の電流を変化させることでGm値を変化させ、GmC値として一定に保ち周波数特性を調整する。GmCフィルタの通過帯域特性FcはOTA回路のGm値とコンデンサの容量C値によって決まるため、Gm値を調整することによりGmC値として一定に保つことにより通過帯域特性が一定に保たれる。
【0023】
さらに具体的なフィルタ装置100の動作について図2を用いて説明する。図2は、フィルタ装置100の通過帯域特性(周波数特性)を示す。
【0024】
例えば、所望の通過帯域特性(目標の周波数通過帯域)を実線で示される特性とする。そして、フィルタ回路10の現在の通過帯域特性が二点差線で示される特性である場合、フィルタ回路10の現在のカットオフ周波数Fc3は、目標のカットオフ周波数Fc1より高い。これにより、フィルタ回路10の出力電圧Vout3がリファレンス電圧Vrefに比べ出力振幅が大きくなっているので、差動増幅器21の出力するコントロール電圧VBの値は低下しOTA回路12の電流を減少させる。このため、OTA回路12のGm値が低下し、フィルタ回路10のカットオフ周波数は、現在のカットオフ周波数Fc3から低下するため所望の通過帯域特性に近づくよう調整される。
【0025】
あるいは、例えば、フィルタ回路10の現在の通過帯域特性が一点差線で示される特性である場合、フィルタ回路10の現在のカットオフ周波数Fc2は、目標のカットオフ周波数Fc1より低い。これにより、フィルタ回路10の出力電圧Vout2がリファレンス電圧Vrefに比べ出力振幅が小さくなっているので、差動増幅器21の出力するコントロール電圧VBの値は上昇しOTA回路12の電流を増加させる。このため、OTA回路12のGm値が増加し、フィルタ回路10のカットオフ周波数は、現在のカットオフ周波数Fc2から増加するため所望の通過帯域特性に近づくよう調整される。
【0026】
このように、差動増幅器21の出力するコントロール電圧VBに基づいてOTA回路12の電流を制御することでGm/C値に比例したカットオフ周波数Fcを目標のカットオフ周波数Fc1に近づけるように調整でき、フィルタ回路10の通過帯域特性を所望の通過帯域特性(目標の周波数通過帯域)に近づけるように調整できる。
【0027】
以上のように、実施の形態では、調整回路20が、フィルタ回路10の出力電圧と、目標の周波数通過帯域に対応したリファレンス電圧Vrefとの差に基づき、フィルタ回路10の周波数通過帯域が目標の周波数通過帯域になるように調整する。すなわち、調整回路20は、差動増幅器21により実現可能である。これにより、調整回路20が、複雑な制御回路を必要とせずに、フィルタ回路10の周波数通過帯域が目標の周波数通過帯域になるように調整できるので、調整回路20の規模を容易に低減できる。すなわち、フィルタ回路の通過帯域特性を一定にするための回路の規模を低減できる。
【0028】
また、実施の形態では、フィルタ回路10がGm値の制御可能なOTA回路12を有し、調整回路20が差動増幅器21を有する。調整回路20は、差動増幅器21の出力信号に基づいて、OTA回路12のGm値を変化させる。これにより、複雑な制御回路を必要とせずに、OTA回路12のGm値を調整でき、フィルタ回路10のGmC値を一定に保つように調整できる。
【0029】
また、実施の形態では、差動増幅器21が、フィルタ回路10の出力電圧とリファレンス電圧との差分をとることにより、OTA回路12のGmを調整するためのコントロール電圧VBを生成する。これにより、差動増幅器21の出力をそのままコントロール電圧VBとしてOTA回路12の制御端子12cへ供給することができる。
【0030】
なお、図3に示すように、フィルタ装置100iのフィルタ回路10iは、リファレンス電圧Vrefを決定するとき(図3(a))とその決定されたリファレンス電圧Vrefを用いてフィルタ回路の周波数通過帯域を調整するとき(図3(b))とで異なる接続形態に切り替えられても良い。
【0031】
具体的には、フィルタ装置100iは、基準周波数Fin及び基準振幅Hinを有する基準信号Vfが供給されるための基準信号用端子Tfをさらに有する。また、フィルタ回路10iは、スイッチSW1i、ステッチSW2i、及びコンデンサ13iをさらに有する。
【0032】
ステッチSW2iは、第1の状態と第2の状態とを切り替える。第1の状態は、OTA回路12の出力端子12bをコンデンサ11へ接続した状態である。第2の状態は、OTA回路12の出力端子12bをコンデンサ13iへ接続した状態である。
【0033】
スイッチSW1iは、第3の状態と第4の状態とを切り替える。第3の状態は、OTA回路12の入力端子12aをフィルタ装置100iの入力端子Tinへ接続した状態である。第4の状態は、OTA回路12の入力端子12aをフィルタ装置100iの基準信号用端子Tfへ接続した状態である。
【0034】
図3(a)に示すように、リファレンス電圧Vrefを決定するとき、ステッチSW2iが第2の状態に切り替えるとともに、スイッチSW1iが第4の状態に切り替える。これにより、基準信号Vfが基準信号用端子Tfを介してOTA回路12に入力される。この時OTA回路12では、コントロール電圧VB1に応じたGm1値を示しており、カットオフ周波数Fc1=Gm1・Vf/Cにてフィルタリングされた信号Vout1がOTA回路12から出力され、OTA回路12からの出力信号Vout1によりコンデンサ13iがリファレンス電圧Vrefまで充電されていく。すなわち、リファレンス電圧Vrefが決定されるとともにコンデンサ13iに蓄積される。
【0035】
そして、図3(b)に示すように、その決定されたリファレンス電圧Vrefを用いてフィルタ回路10iの周波数通過帯域を調整するとき、ステッチSW2iが第1の状態に切り替えるとともに、スイッチSW1iが第3の状態に切り替える。これにより、コンデンサ13iは、充電されたリファレンス電圧Vrefを保持するようになる。
【0036】
次に、実際の入力信号Vinが入力端子Tinを介してOTA回路12に入力される。OTA回路12では、例えば、コントロール電圧VBに応じたGm値を示しており、カットオフ周波数Fc=Gm・Vin/C(図2参照)にてフィルタリングされた信号VoutがOTA回路12から出力されコンデンサ11により保持される。
【0037】
すなわち、差動増幅器21は、コンデンサ11を介してOTA回路12からの出力電圧Voutを反転入力端子21aで受け、コンデンサ13iを介してリファレンス電圧Vrefを非反転入力端子21bで受け、OTA回路12のコントロール電圧VBを出力端子21cからOTA回路12へ出力する。これにより、直接OTA回路12の電流を変化させることでOTA回路12のGm値を変化させ、フィルタ回路10iのGmC値として一定に保ち周波数特性を調整する。GmCフィルタの通過帯域特性FcはOTA回路のGm値とコンデンサの容量C値とによって決まるため、Gm値を調整しGmC値として一定に保つことにより通過帯域特性を一定に保つことができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上のように、本発明にかかるフィルタ装置は、半導体集積回路で形成されたフィルタ装置に有用である。
【符号の説明】
【0039】
10,10i フィルタ回路
11 コンデンサ
12 OTA回路
13i コンデンサ
20 調整回路
21 差動増幅器
100,100i フィルタ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体集積回路で形成されたフィルタ装置であって、
フィルタ回路と、
前記フィルタ回路の出力電圧と、目標の周波数通過帯域に対応した参照電圧との差に基づき、前記フィルタ回路の周波数通過帯域が前記目標の周波数通過帯域になるように調整する調整回路と、
を備えたことを特徴とするフィルタ装置。
【請求項2】
前記フィルタ回路は、トランスコンダクタンス増幅器を有し、
前記調整回路は、差動増幅回路を有し、前記差動増幅回路の出力信号に基づいて、前記トランスコンダクタンス増幅器のトランスコンダクタンスを変化させる
ことを特徴とする請求項1に記載のフィルタ装置。
【請求項3】
前記差動増幅回路は、前記フィルタ回路の出力電圧と前記参照電圧との差分をとることにより、前記トランスコンダクタンス増幅器のトランスコンダクタンスを調整するための制御信号を生成する
ことを特徴とする請求項2に記載のフィルタ装置。
【請求項4】
前記フィルタ回路は、
前記トランスコンダクタンス増幅器の出力電圧を保持する第1の容量素子と、
前記参照電圧を保持する第2の容量素子と、
をさらに有し、
前記差動増幅回路は、
前記第1の容量素子を介して前記フィルタ回路の出力電圧を受ける第1の入力端子と、
前記第2の容量素子を介して前記参照電圧を受ける第2の入力端子と、
前記トランスコンダクタンス増幅器の制御端子へ前記制御信号を出力する出力端子と、
を有する
ことを特徴とする請求項3に記載のフィルタ装置。
【請求項5】
前記フィルタ回路は、前記トランスコンダクタンス増幅器の出力端子を前記第1の容量素子へ接続した第1の状態と前記トランスコンダクタンス増幅器の出力端子を前記第2の容量素子へ接続した第2の状態とを選択的に切り替えるスイッチをさらに有する
ことを特徴とする請求項4に記載のフィルタ装置。
【請求項6】
前記フィルタ回路は、前記スイッチが前記第2の状態に切り替えている際に、基準周波数信号を前記トランスコンダクタンス増幅器に入力して前記トランスコンダクタンス増幅器から出力される電圧を前記参照電圧として前記第2の容量素子に保持させ、前記スイッチが前記第1の状態に切り替えている際に、入力信号を前記トランスコンダクタンス増幅器に入力して前記トランスコンダクタンス増幅器から出力される電圧を前記フィルタ回路の出力電圧として前記第1の容量素子に保持させる
ことを特徴とする請求項5に記載のフィルタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−222735(P2012−222735A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89151(P2011−89151)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】