説明

フィルムの端面加工用カッターおよびこれを備える加工機、並びに、フィルムの端面加工方法

【課題】フィルムの端面に欠けや損傷を発生させることがなく切削可能であり、多量のフィルムの端面加工が可能な端面加工用カッターおよび端面加工方法を提供する。
【解決手段】本発明のカッター100は、回転体10と、回転体10の回転軸Aに対して垂直な垂直面に設けられた複数の切削部1a〜1fとを備え、切削部1a〜1fは上記垂直面内に切削刃を有し、上記垂直面内において、上記切削刃の回転軸A側の端部と回転軸Aとを通る直線を基準線とするとき、上記切削刃が回転軸Aの回転方向に20度以上、35度以下の範囲で傾斜して設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムの端面を切削する端面加工用カッターおよびこれを備える加工機、並びに、フィルムの端面加工方法に関し、特に、導光板、拡散板、光学フィルムなどを多数枚重ね合わせて構成した偏光板の端面を鏡面加工するための端面加工用カッターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々なLCD(Liquid Crystal Display)、赤外線センサ、その他の種々の用途に偏光板が広く用いられている。偏光板は、ポリビニルアルコールフィルムおよびTAC(Tri Acetyl Cellulose)フィルムなどの樹脂フィルムが積層されることによって、構成される。
【0003】
上記偏光板などのシート状部材(フィルム)を各種用途に用いる場合、例えば、LCDに実装するにあたり、所定の形状および寸法に加工する必要があり、特に、シート状部材の端面を加工する必要がある。上記加工のため、円盤状の回転板の円周部分に切削刃が設けられた端面切削装置が通常用いられる。上記切削装置では、加工効率が考慮されており、複数枚重ねられたシート状部材を同時に端面加工することが可能である。
【0004】
また、偏光板などのシート状部材に関して、その端面に切削跡が形成された場合、シート状部材の外観が損なわれ、寸法精度が低下することとなる。したがって、シート状部材の端面を精度良く切削することは非常に重要である。
【0005】
上記の点を考慮した切削加工方法が特許文献1に開示されている。特許文献1の切削加工方法にて用いられる端面切削装置(特許文献1の図3を参照)には、円板状本体6に6つの切削刃7が配置されている。一般的な端面切削装置と同様に、切削刃7は、円板状本体6の法線に対して垂直に設置されており、切削刃7の刃先は、円板状本体6の回転中心軸の方向へ設置されている。
【0006】
特許文献1の切削加工方法では、切削刃によって形成される切削領域の部分が、切削対象であるシート状部材の端面に接触する際、上記切削刃が端面に侵入する角度が、その端面の長手方向に対して75度以下である(特許文献1の請求項2および図1を参照)。すなわち、具体的には、円板状本体6の下部を通る水平領域に移動させて切削が行われる。
【0007】
これにより、シート状部材の長手方向に対して75度以下にて切削刃を端面に侵入させることができる。その結果、シート状部材に対して、切削刃による押し上げ(または押し下げ)作用が緩和され、端面割れや、偏光板を構成する積層フィルムの剥離によって生じる隙間の発生を防止することができ、シート状部材の端面を精度良く切削することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007‐223021号公報(2007年9月6日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の切削加工方法では、端面を精度良く加工することができるものの、加工効率を向上させることができないという問題がある。
【0010】
詳細には、特許文献1の切削加工方法では、円板状本体6の下部を通る水平領域にシート状部材を移動させて切削する必要がある。このため、シート状部材を設置できる領域は限定されてしまい、加工効率を向上させるために、より多くのシート状部材を積層して加工することができない。
【0011】
特に、偏光板のように多層から構成されているシート状部材の場合、一枚の厚さが大きいため、多くの枚数を加工するためには、必然的にシート部材を加工できる領域が広いことを要するため、上記問題点は顕著となる。
【0012】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、フィルムの端面に欠けや損傷を発生させることがなく切削可能であり、多量のフィルムの端面加工が可能なフィルムの端面加工用カッターおよびこれを備える加工機、並びに、フィルムの端面加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のフィルムの端面加工用カッターは、上記課題を解決するために、回転体と、回転体の回転軸に対して垂直な設置面に設けられた複数の切削部とを備えるフィルムの端面加工用カッターであって、上記切削部は設置面から突出しており、切削部の頂面に切削刃が形成されており、設置面に対して垂直方向から切削刃を見た場合、上記切削刃の回転軸側の端部と回転軸とを通る直線を基準線とするとき、上記切削刃が上記回転軸の回転方向に20度以上、35度以下の範囲で傾斜して設けられていることを特徴としている。
【0014】
上記の発明によれば、上記切削刃が、基準線に対して20度以上、35度以下の範囲で傾斜して設けられているため、端面加工対象であるフィルムを、回転体の中心点(回転中心)を通る水平面を含む領域に設置した場合、フィルムに対して切削刃を緩やかな角度にて接触させることができる。その結果、フィルムの端面に対して、欠け、または、損傷を抑制しつつ、端面加工が可能となる。すなわち、フィルムの端面に対して、クラックの発生を抑制しつつ端面加工が可能である。また、回転体の中心点を通る領域を端面加工において活用でき、端面加工が可能な範囲を広く確保することができる。
【0015】
また、本発明のフィルムの端面加工用カッターでは、上記切削刃が上記回転軸の回転方向に25度以上、30度以下の範囲で傾斜して設けられていることが好ましい。
【0016】
これにより、フィルムに対して、切削刃をさらに緩やかな角度にて接触させることができる。したがって、フィルムの端面に対して、欠け、または、損傷をさらに抑制することが可能となる。
【0017】
また、本発明に係る端面加工機は、上記フィルムの端面加工用カッターと、フィルムの積層体を支持する支持装置とを備えるフィルムの端面加工機であって、上記設置面に対して支持装置を水平に移動させる移動装置を備えるものである。
【0018】
上記端面加工機は、上記端面加工用カッターを備えており、支持装置に支持したフィルムの積層体に対して、切削刃が備えられている垂直面に対して支持装置を水平に移動させることによって、フィルムの積層体の端面加工を行うことができる。上記フィルムの端面加工用カッターを備える端面加工機によれば、フィルムの端面に対して、欠け、または、損傷を抑制しつつ、端面加工が可能である。
【0019】
本発明に係るフィルムの端面加工方法は、上記課題を解決するために、回転体と、回転体の回転軸に対して垂直な設置面に設けられた複数の切削部とを備え、上記切削部は設置面から突出しており、切削部の頂面に切削刃が形成されており、設置面に対して垂直方向から切削刃を見た場合、上記切削刃の回転軸側の端部と回転軸とを通る直線を基準線とするとき、上記切削刃が上記回転軸の回転方向に20度以上、35度以下の範囲で傾斜して設けられている端面加工用カッターを用いるフィルムの積層体の端面加工方法であって、上記回転軸を通る水平面を含むシート領域において、回転する上記複数の切削刃にフィルムの積層体を接触させることによってフィルムの端面を切削し、フィルムの積層体の下面に対して切削刃が接触する出口角と、フィルムの積層体の上面に対して切削刃が接触する侵入角との差が、45度以下であることを特徴としている。
【0020】
上記の発明によれば、シート領域が上記水平面を含むため、回転体の中心点を通る水平面付近、すなわち、端面加工用カッターの中心部付近にて、上記積層体の端面加工を行うことができる。これにより、回転体の中心点を通る領域を端面加工において活用でき、端面加工が可能な範囲を広く確保することができる。さらに、切削刃には傾斜が設けられているため、緩やかな角度にて積層体に接触して切削が行なわれる。従って、端面加工を行うシート領域を広く確保すると共に、積層体に欠け、損傷などの発生を抑制しつつ端面の加工を行うことが可能である。
【0021】
また、本発明に係るフィルムの端面加工方法では、上記侵入角が、9度以上、14度以下であることが好ましい。
【0022】
これにより、切削刃を緩やかな角度にて、積層体の上面に接触させることができる。その結果、フィルムの端面に対して、欠け、または、損傷を抑制しつつ、端面加工が可能となる。すなわち、フィルムの端面に対して、クラックの発生を抑制しつつ端面加工が可能である。
【発明の効果】
【0023】
本発明のフィルムの端面加工用カッターは、以上のように、回転体と、回転体の回転軸に対して垂直な設置面に設けられた複数の切削部とを備えるフィルムの端面加工用カッターであって、上記切削部は設置面から突出しており、切削部の頂面に切削刃が形成されており、設置面に対して垂直方向から切削刃を見た場合、上記切削刃の回転軸側の端部と回転軸とを通る直線を基準線とするとき、上記切削刃が上記回転軸の回転方向に20度以上、35度以下の範囲で傾斜して設けられているものである。
【0024】
それゆえ、端面加工対象であるフィルムを、回転体の中心点を通る水平面を含む領域に設置した場合、フィルムに対して切削刃を緩やかな角度にて接触させることができる。その結果、フィルムの端面に対して、欠け、または、損傷を抑制しつつ、端面加工が可能となる。すなわち、フィルムの端面に対して、クラックの発生を抑制しつつ端面加工が可能であるという効果を奏する。また、回転体の中心点を通る領域を端面加工において活用でき、端面加工が可能な範囲を広く確保することができるという効果も奏する。
【0025】
また、本発明に係るフィルムの端面加工方法は、以上のように、回転体と、回転体の回転軸に対して垂直な設置面に設けられた複数の切削部とを備え、上記切削部は設置面から突出しており、切削部の頂面に切削刃が形成されており、設置面に対して垂直方向から切削刃を見た場合、上記切削刃の回転軸側の端部と回転軸とを通る直線を基準線とするとき、上記切削刃が上記回転軸の回転方向に20度以上、35度以下の範囲で傾斜して設けられている端面加工用カッターを用いるフィルムの積層体の端面加工方法であって、上記回転軸を通る水平面を含むシート領域において、回転する上記複数の切削刃にフィルムの積層体を接触させることによってフィルムの端面を切削し、フィルムの積層体の下面に対して切削刃が接触する出口角と、フィルムの積層体の上面に対して切削刃が接触する侵入角との差が、45度以下である方法である。
【0026】
それゆえ、シート領域が上記水平面を含むため、(1)中心点を通る水平面付近、すなわち、端面加工用カッターの中心部付近にて、積層体の端面加工を行うことができる。これにより、回転体の中心点を通る領域を端面加工において活用でき、シート領域を広く確保することができる;(2)さらに、切削刃には傾斜が設けられているため、切削刃は緩やかな角度にて上記積層体に接触して切削が行なわれる。従って、シート領域を広く確保すると共に、積層体に欠け、損傷などの発生を抑制しつつ端面の加工を行うことが可能であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1(a)は、本実施の形態に係るフィルムの端面加工用カッターを示す側面図であり、図1(b)は本実施の形態に係るフィルムの端面加工用カッターを示す正面図である。
【図2】図1のフィルムの端面加工用カッターにおける切削部の取り付け部分を示す斜視図である。
【図3】本実施の形態に係る端面加工機を示す斜視図である。
【図4】本実施の形態に係るフィルムの端面加工用カッターについて、切削刃および積層体の位置関係を示す図である。
【図5】実施例または比較例に係る切削刃の傾斜を示す図である。
【図6】本実施例1にて端面処理をした加工サンプルに係る端面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<フィルムの端面加工用カッター>
本発明の一実施形態について図1ないし図5に基づいて説明すれば、以下の通りである。まず、本発明の端面加工用カッターの構成について説明する。図1(a)は端面加工用カッターを示す側面図であり、図1(b)は、端面加工用カッターを示す正面図である。回転体10は支持台10aに固定されており、回転軸Aを軸として一方向に回転する。回転体10は回転軸Aに対して垂直な設置面Sを有している。なお、回転体10は円盤形状となっているが、当該形状に限定されるものではない。
【0029】
切削部1aは切削刃Bを有しており、設置面Sに設置されている(切削部1b〜1fについても同様である)。切削部1aは設置面Sから突出しており、切削部1aは頂面を有している。設置面Sに対して垂直方向から切削部1aを見たとき、切削部1aは矩形形状を有している。切削部1aでは、切削刃Bは短辺の位置に形成されている。しかし、切削部1aの頂面は上記の形状に限定されない。例えば、頂面が矩形形状であり、切削刃Bが長辺の位置に形成されていてもよい。また、頂面が、正方形形状、その他の多角形形状(例えば、三角形形状)、円弧形状であってもよい。
【0030】
切削刃Bは切削部1aの頂面に少なくとも1辺形成されていればよく、例えば、上記頂面の2つの短辺に形成されていてもよい。切削刃Bは切削部1aの刃の部分であり、この部分でフィルム端面の切削が行われる。切削刃Bはフィルムと接触する必要があるため、設置面Sから離間した位置に設けられている。切削刃Bと設置面Sとの距離は、フィルムのサイズ等により適宜変更される。
【0031】
ここで頂面における短辺とは、切削部1a〜1fが矩形形状である場合における長辺と接する短辺(幅)のいずれかを意味する。また、切削刃Bの端部とは切削部1aが矩形形状の場合には、切削刃Bのうち長辺と接する部分を意味する。
【0032】
切削部1a〜1fは、互いに等間隔に設けられており、連続する3枚(1a〜1cおよび1d〜1f)をそれぞれ一組として、回転軸Aからの距離が順次短くなるように配置されている。すなわち、切削部1aに対して、回転体10の回転方向の逆側に位置する切削部1bは、回転軸Aからの距離が切削部1aより短い。また、切削部1bに対して、回転体10の回転方向の逆側に位置する切削部1cは、回転軸Aからの距離が切削部1bより短い。このように3枚の切削部1a〜1cが配置され、さらに切削部1a〜1cの回転軸Aの位置を中心点とした180度回転対称位置に、もう一組の切削部1d〜1fが配置されている。また、切削部1a〜1cはその順に設置面Sからの突出量が大きくなっている。この形状により、切削部1aは、回転軸Aからの距離が最も長くかつ設置面Sからの突出量が最も小さく、切削部1cは、回転軸Aからの距離が最も短くかつ設置面Sからの突出量が最も大きくなる。
【0033】
そして、設置面Sに対して垂直方向から切削刃Bを見た場合、切削刃Bの回転軸A側の端部と回転軸Aとを通る直線を基準線とするとき、切削部1a〜1cおよび切削部1d〜1fの各切削刃Bの向きは、回転体10の回転方向(図1(b)中の矢印方向)に30度傾斜している(図1(b)中の傾斜角θ1=30度)。換言すると、切削部1a〜1cおよび切削部1d〜1fの各長辺の向きは、回転方向から内側に30度傾いている。上記傾斜角θ1は30度に限定されず、20度以上、35度以下の範囲であればよい。なお、切削部1a,1b,1dおよび1eは、荒削り用の切削刃であり、多結晶ダイヤモンドからなる。一方、切削部1cおよび切削部1fは仕上げ用の切削刃であり、単結晶ダイヤモンドからなる。上記材質は好ましい形態として選定され、当該材質に限定されるものではない。
【0034】
図2は、切削部1aを回転体10へ取り付ける部分の構造を示す。切削部1aは、台座20を介して回転体10へ取り付けられる。台座20は、円柱形状の胴部21の側面に、切削部1aが収まる幅の溝部22を有し、上端には鍔部23を備える。また、回転体10の設置面Sには、胴部21の断面形状と同形の取付孔11が設けられ、さらに取付孔11を二分するように取付溝12が設けられる。切削部1aの取り付けに際しては、切削部1aを台座20の溝部22に嵌め込み、取付ボルト24により固定する。
【0035】
そして、切削部1aを取り付けた台座20の胴部21を回転体10の取付孔11に嵌め込むと、鍔部23により取付孔11の周縁部に係止される。胴部21を取付孔11に嵌め込んだ状態であっても、台座20は回転可能であるので、切削部1aの方向を任意に調整できる。切削部1aの方向を決定した後、締付ボルト13により、取付溝12が閉じる方向に締め付けを行うことによって、台座20が回転体10に固定され、切削部1aの取り付けが完了する。
【0036】
なお、当該端面加工用カッターの直径は、250mmであるが、上記距離は特に限定されるものではない。回転体10を構成する材料にもよるが、一例としては、150mm以上、600mm以下とすることができる。
【0037】
また、切削部1aおよび1d,1bおよび1e,1cおよび1fがそれぞれ同じ形状であり、垂直面における回転軸Aの位置を中心点として、線対称となっている。これにより、端面加工用カッターのバランスが保持されることとなる。このように、端面加工用カッターのバランスが保持されていれば、切削刃の枚数は特に限定されるものではなく、4枚、6枚、8枚、9枚、10枚または12枚などに変更してもよい。本実施の形態に係る端面加工用カッターは、以下に示す端面加工方法に用いることができる。
【0038】
<フィルムの端面加工方法>
次に、本発明の端面加工用カッターを備える加工機(端面加工機)を用いて、光学フィルムを多数枚重ね合わせて構成した偏光板を積層した積層体の端面を加工する実際の端面加工方法を、図3に基づき説明する。図3は、本発明に係る加工機(端面加工機)を示す斜視図である。
【0039】
積層体Wは、長方形のフィルムを重ね合わせた直方体形であり、支持装置30により支持される。上記フィルムとしては、特に限定されるものではなく、ポリビニルアルコール系フィルム、トリアセチルセルロースフィルムに代表されるセルロース系フィルム、エチレン‐酢酸ビニル系のフィルムなどが挙げられ、特に限定されるものではない、また、複数層の光学フィルムから構成される偏光板は、一枚の厚さが厚いため、多量のフィルムの端面加工が可能な本発明の加工機の加工対象として特に好ましい。
【0040】
支持装置30は、平板形の基盤(移動装置)31上に、門形のフレーム32が設けられている。そして、基盤31上には旋回するテーブル33が、フレーム32の対向する位置には上下動するシリンダ34が設けられ、積層体Wはテーブル33とシリンダ34に、ジグ35を介して挟まれ固定される。
【0041】
基盤31の両側には、上記回転体10を有するカッター(フィルムの端面加工用カッター)100が互いに向かい合って設けられる。カッター100は、積層体Wの大きさに合わせて回転軸方向に移動可能であり、基盤31は、カッター100同士の間を通過するように移動可能である。切削に当たっては、積層体Wを支持装置30に固定し、基盤31によって、カッター100を積層体Wの大きさに合わせた位置に移動する。そして回転体10を回転させ、向かい合うカッター100同士の間を通過するように基盤31を移動させる。
【0042】
この際、まず、回転体10の最も外側に位置する切削部1aおよび1dが積層体Wに接し、その端面を切削する。基盤31が進行すると、続いて切削部1aおよび1dよりも内側に設けられた切削部1bおよび1eが積層体Wに接する。切削部1bおよび1eは切削部1aおよび1cよりも突出量が大きいので、切削部1aおよび1cにより切削された端面を、さらに深く切削する。このようにして、切削部1a,1b,1dおよび1eが積層体Wの端面を徐々に深く切削していく。最後に、単結晶ダイヤモンドの刃を有する仕上げ用の切削部1cおよび1fが積層体Wの端面を切削し、鏡面仕上げをする。このように一組の向かい合う端面の処理が完了した後、テーブル33を回転させ、他の端面を処理する。実際にはこれらの装置に駆動装置や制御部等が付属するが、ここでは省略する。
【0043】
なお、本発明の端面加工用カッターは、上記実施形態に限定されるものではなく、例えば、切削刃の突出量や、回転軸からの距離は、各切削刃について同一であってもよい。また、切削刃の傾斜角は各切削刃にて異なっていてもよい。
【0044】
次に、当該端面加工方法の特徴的な事項について説明する。本説明では、図3に示す30度傾斜した切削刃を備える加工機を用いて説明するが、切削刃の傾斜角が異なる他の加工機を用いて当該端面加工方法を実施することも可能である。
【0045】
図4を用いて、積層体Wとカッター100(切削刃B)との位置関係について説明する。図4は、カッター100の正面方向から見て、カッター100および積層体Wの位置関係を概略的に示す図である。同図では、説明の便宜のため、切削部1aのみを図示し、時計周りに、切削部1aが移動した状態を示している。図4に示すように、設置面Sに対して垂直方向から切削刃Bを見た場合、切削刃Bの回転軸A側の端部Eと回転軸Aとを通る直線を基準線Rとするとき、切削刃Bは、上記回転軸の回転方向に20度以上、35度以下の範囲で傾斜して設けられている。すなわち、傾斜角θ1は20度以上、35度以下の範囲である。
【0046】
この切削刃Bの配置により、端面加工対象である積層体Wを、回転軸Aの中心点Oを通る水平面を含む領域に設置した場合、積層体Wに対して、切削刃Bを緩やかな角度にて接触させることができる。その結果、積層体Wの端面に対して、欠け、または、損傷を抑制しつつ、端面加工が可能となる。すなわち、積層体Wの端面加工の際、クラックの発生を抑制しつつ端面加工が可能である。また、回転体の中心点Oを通る領域を端面加工において活用でき、端面加工が可能な範囲を広く確保することができる。
【0047】
上記傾斜角θ1は、25度以上、30度以下であることがより好ましい。上記の範囲内であれば、積層体Wに対して、切削刃Bをさらに緩やかな角度にて接触させることができる。したがって、積層体Wの端面加工の際、端面の欠け、または、損傷をさらに抑制することが可能となる。
【0048】
図3を用いて説明したように、支持装置30に固定された積層体Wは、カッター100付近の所定領域に移動される。当該所定領域をシート領域40と称する。シート領域40は、中心点O(回転軸Aが位置している)を通る水平面を含む領域である。シート領域40は、中心点O(回転軸Aが位置している)を通る水平面を含む領域であり、加工に供されるフィルム積層体の端面(積層体Wの厚み)である。シート領域40は積層体Wが配置される場であり、積層体Wの少なくとも一部は、シート領域40に配置されて、積層体Wの端面が切削刃Bによって切削される。
【0049】
上記シート領域40の位置は、切削刃Bの侵入角θ2および出口角θ3によって規定される。侵入角θ2は、積層体Wの上面に対して切削刃Bが接触する角度であり、出口角θ3は、積層体Wの下面に対して切削刃Bが接触する角度である。
【0050】
本端面加工方法で用いるカッター100は切削刃Bが回転体10の回転方向に傾斜して設けられており、シート領域40の出口角θ3と侵入角θ2との差が45度以下である。表1に出口角θ3と侵入角θ2との差が45度である場合の各角度を示す。
【0051】
【表1】

【0052】
出口角θ3と侵入角θ2との差の下限はシート領域40の高さを小さくすることによって0度に近付くが、多くのフィルムを加工する観点から、下限は、傾斜角の角度以上であることが好ましい。すなわち、傾斜角θ1が25度の場合、出口角θ3と侵入角θ2との差は、25度以上であることが好ましく、傾斜角θ2が30度の場合、出口角θ3と侵入角θ2との差は、30度以上であることが好ましい。上記下限であれば、後述するように切削刃Bのピッチの差異をより小さくでき、フィルムの端面の品質をより均一にすることができる。
【0053】
シート領域40が上記のように規定されていることによって、(1)中心点Oを通る水平面付近、すなわち、カッター100の中心部付近にて、積層体Wの端面加工を行うことができる。つまり、特許文献1の切削加工方法のように、シート領域40はカッター100の下側に限定されていない。これにより、中心点Oを通る領域を端面加工において活用でき、シート領域40を広く確保することができる。さらに、(2)切削刃Bには傾斜が設けられているため、切削刃Bは緩やかな角度にて積層体Wに接触して切削が行なわれる。従って、シート領域40を広く確保すると共に、積層体Wの端面加工の際、端面の欠け、損傷などの発生を抑制しつつ端面の加工を行うことが可能である。
【0054】
また、侵入角θ2は、9度以上、14度以下に設定されていることが好ましい。これにより、切削刃Bを緩やかな角度にて、積層体Wの上面に接触させることができる。その結果、フィルムの端面に対して、欠け、または、損傷を抑制しつつ、端面加工が可能となる。すなわち、積層体Wの端面加工の際、クラックの発生を抑制しつつ端面加工が可能である。
【0055】
なお、カッター100によって積層体Wが端面加工される際の積層体Wに対する切削刃Bの各ピッチは、中心点Oを通る水平面を通過するため、ピッチの一部が上下対称のピッチとなる。これに対して、特許文献1の図2に示されるように、積層体Wをカッター100の下部に沿って配置した場合、切削刃Bのピッチは、中心点Oを通る水平面を通過することがなく、下方へ接近するほど狭いピッチとなる。
【0056】
すなわち、本発明に係る端面加工方法では、シート領域40が中心点Oを通る水平面を含むため、ピッチ同士のサイズの相違が小さくなり、各ピッチのサイズはより均一である。このため、端面加工後の端面の各部分において品質の差が生じ難いというメリットがある。
【0057】
次に、シート領域40の距離X1、X2およびYについて説明する。距離X1は、シート領域40のうち、中心点Oを通る水平面から上部の領域の高さを示す。一方、距離X2は、シート領域40のうち、中心点Oを通る水平面から下部の領域の高さを示すが、距離X1と同じ距離である。また、距離Yは、シート領域40のうち、中心点Oを通る水平面から下部の領域の高さを示すものである。切削刃Bには、基準線Rを基準として、回転体10の回転方向に30度の傾斜が設けられている。
【0058】
図4には、(1)距離X1、X2の両方を28mmに設定した場合の出口角θ3、および、(2)距離X1を28mmに、距離Yを62mmに設定した場合の出口角θ3が示されている。
【0059】
まず、(1)の場合、侵入角θ2を14度、出口角θ3を46度とすることができる。すなわち、傾斜角θ1が30度であり、出口角θ3と侵入角θ2との差は、約32度であるため、切削刃Bのピッチの差異をより小さくでき、フィルムの端面の品質をより均一にすることができる。一方、(2)の場合、侵入角θ2を14度、出口角θ3を59度とすることができ、出口角θ3と侵入角θ2との差は、45度である。このように、出口角θ3を大きく設定した場合には、シート領域40の幅を大きくすることができ、多量の積層体Wの端面を処理することができる。なお、この場合、距離Zは63mmである。上記距離X1、X2およびYはもちろん上記の値に限定されるものではなく、侵入角θ2および出口角θ3が上述した範囲内であれば変更可能である。
【0060】
また、例えば、切削刃Bを、基準線Rを基準として、回転体10の回転方向に30度傾斜させた場合、侵入角θ2を14度、出口角θ3を59度に設定するため、距離X1およびX2を28mm、距離Yを62mmに設定することができる(回転体10の直径R1は250mm)。なお、距離R1を変更した場合、「距離X1(mm)=0.13×R1(mm)−4.5(mm)」、「距離X2(mm)=0.13×R1(mm)−4.5(mm)」、「距離Y(mm)=0.24×R1(mm)+2(mm)」の両式から距離X1、X2および距離Yを算出することができ、侵入角θ2を14度、出口角θ3を59度に維持したまま、距離R1を変更することができる。
【0061】
このようにして積層体Wを切削した場合、従来の傾斜角0度(回転体の垂直面における円の直径方向と同一方向)の切削刃を有するカッターを用いる場合と比べて、脆弱層に与える損傷を低減させることができる。さらに、本発明のカッター100によれば、従来のカッターと比較して、厚い積層体を切削する場合であっても安定的に良品(ひび割れが充分許容できる領域内にあるもの)を生産することができる。
【0062】
具体的には、直径250mmの回転体を有するカッターにより切削する場合において、従来は厚さ40mm程度の積層体の切削が限界であったところ、切削刃の傾斜角を30度とした場合には、厚さ100mm程度の積層体の切削が可能となった。すなわち、生産効率が2.5倍に高められたことになる。また、アクリル樹脂などの硬い材料も上記と同じ方法で切削することができ、従来のカッターを用いた場合と比較して、欠けの発生を低減できる。
【0063】
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0064】
本実施例では、カッター100を用いてフィルムの端面加工を行った。図5に示すように、実施例ごとにカッター100の切削刃Bを前傾、比較例では前傾または後傾に変更した。前傾とは、回転体10の回転方向に切削刃Bが傾斜した状態であり、後傾とは、回転体10の回転方向とは逆方向に切削刃Bが傾斜した状態である。説明の便宜上、図5には、カッター100の切削部1aのみを示し、台座等を省略している。
【実施例1】
【0065】
図3に示した加工機において、基準線Rを基準として、切削刃Bを回転体10の回転方向に30度傾斜させた(図5に示す前傾の状態)。また、回転体10の直径は250mm、積層体Wの「距離X1+距離Y」が90mmであり、距離X1が28mm、距離Yが62mmである。その他の条件として、積層体Wを、カッター100に対して水平方向に移動させる送り速度は、0.5m/min.であり、カッター100の回転数を4800rpm、積層体Wに対するクランプ圧を0.15MPaに設定した。
【0066】
積層体Wは、300枚の偏光板が積層されたものである。それぞれの偏光板は、厚さ0.1mm以上、0.4mm以下の光学フィルムおよび保護フィルム(プロテクトフィルム)から構成されている。
【0067】
上記積層体Wの寸法は、52インチサイズとして、流れ方向が約1500mmであり、幅方向が約830mmである。流れ方向の長さが端面の長さに該当する。なお、本実施例では上記寸法の積層体Wを用いたが、積層体Wの寸法は、その用途、例えば、携帯電話機器、テレビ機器、車載機器などに応じて適宜変更される。
【0068】
積層体Wの端面を数mm切削し、端面加工後の積層体Wから光学フィルムおよび保護フィルムの加工サンプルを取分けて、クラック試験を行った。
【0069】
<クラック試験>
クラック試験では、端面加工後の加工サンプルに関して、蛍光灯を照射し、ルーペを用いて目視にてクラックの状態を観察した。上記クラック試験の結果を表2に示した。
【実施例2】
【0070】
基準線Rを基準として、切削刃Bを回転体10の回転方向に30度傾斜させた以外は、実施例1と同様に端面加工を行った。得られたサンプルに対して、実施例1と同様にクラック試験を行い、結果を表2に示した。
【実施例3】
【0071】
基準線Rを基準として、切削刃Bを回転体10の回転方向に25度傾斜させた以外は、実施例1と同様に端面加工を行った。得られたサンプルに対して、実施例1と同様にクラック試験を行い、結果を表2に示した。
【実施例4】
【0072】
基準線Rを基準として、切削刃Bを回転体10の回転方向に20度傾斜させた以外は、実施例1と同様に端面加工を行った。得られたサンプルに対して、実施例1と同様にクラック試験を行い、結果を表2に示した。
【0073】
〔比較例1〕
図3に示した加工機を用いて、基準線Rを基準として、切削刃Bを回転体10の回転方向に対して逆方向に45度傾斜させた(図5に示す後傾の状態)以外は、実施例1と同様に端面加工を行った。得られたサンプルに対して、実施例1と同様にクラック試験を行い、結果を表2に示した。
【0074】
〔比較例2〕
基準線Rを基準として、切削刃Bを回転体10の回転方向に45度傾斜させた以外は、実施例1と同様に端面加工を行った。得られたサンプルに対して、実施例1と同様にクラック試験を行い、結果を表2に示した。
【0075】
【表2】

【0076】
表2の結果から、クラック試験に関して、実施例1〜4での、斜角角が35度、30度、25度、20度の場合、クラックはほとんど観測されないか、全く観測されず、積層体Wの高さが90mmという多量の処理対象について、端面に損傷をほとんど生じさせることなく端面加工を行うことができた。特に、実施例2,3に示すように、傾斜角を前傾25度および前傾30度とした場合には、クラックは全く観察されず、非常に良好な端面加工を行うことができた。さらに、実施例1にて端面処理をした加工サンプルに係る端面を、図6に示す。同図は、顕微鏡写真であり、クラックがほとんど生じておらず、端面割れも生じていないことが分かる。
【0077】
これに対して、比較例1,2のように傾斜角を45度とした場合には、サンプルに100本以上の多数のクラック、または、それ以上の無数のクラックが観察された。このように、多数のクラックが生じると、端面割れなどの原因となるため好ましくない。本実施例にて示したように本発明の端面加工方法によれば、クラックの発生を抑えつつ、厚さが90mmである多量の積層体Wの端面加工を行うことができ、本方法は非常に有用である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、特に偏光板などのフィルムの端面加工を多量に行うことができるため、偏光板の加工分野および偏光板を部品として用いる分野において広く応用することができる。
【符号の説明】
【0079】
1a,1b,1c,1d,1e,1f 切削部
10 回転体
30 支持装置
31 基板(移動装置)
40 シート領域
100 カッター(フィルムの端面加工用カッター)
A 回転軸
B 切削刃
E 端部
O 中心点
S 設置面
R 基準線
W 積層体(フィルムの積層体)
θ1 傾斜角
θ2 侵入角
θ3 出口角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体と、回転体の回転軸に対して垂直な設置面に設けられた複数の切削部とを備えるフィルムの端面加工用カッターであって、
上記切削部は設置面から突出しており、切削部の頂面に切削刃が形成されており、
設置面に対して垂直方向から切削刃を見た場合、上記切削刃の回転軸側の端部と回転軸とを通る直線を基準線とするとき、
上記切削刃が上記回転軸の回転方向に20度以上、35度以下の範囲で傾斜して設けられていることを特徴とするフィルムの端面加工用カッター。
【請求項2】
上記切削刃が上記回転軸の回転方向に25度以上、30度以下の範囲で傾斜して設けられていることを特徴とする請求項1に記載のフィルムの端面加工用カッター。
【請求項3】
請求項1または2に記載のフィルムの端面加工用カッターと、
フィルムの積層体を支持する支持装置とを備えるフィルムの端面加工機であって、
上記設置面に対して支持装置を水平に移動させる移動装置を備えることを特徴とするフィルムの端面加工機。
【請求項4】
回転体と、回転体の回転軸に対して垂直な設置面に設けられた複数の切削部とを備え、
上記切削部は設置面から突出しており、切削部の頂面に切削刃が形成されており、
設置面に対して垂直方向から切削刃を見た場合、上記切削刃の回転軸側の端部と回転軸とを通る直線を基準線とするとき、
上記切削刃が上記回転軸の回転方向に20度以上、35度以下の範囲で傾斜して設けられている端面加工用カッターを用いるフィルムの積層体の端面加工方法であって、
上記回転軸を通る水平面を含むシート領域において、回転する上記複数の切削刃にフィルムの積層体を接触させることによってフィルムの端面を切削し、
フィルムの積層体の下面に対して切削刃が接触する出口角と、フィルムの積層体の上面に対して切削刃が接触する侵入角との差が、45度以下であることを特徴とするフィルムの端面加工方法。
【請求項5】
上記侵入角が、9度以上、14度以下であることを特徴とする請求項4に記載のフィルムの端面加工方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−93086(P2011−93086A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219762(P2010−219762)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(500248618)メガロテクニカ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】