説明

フィルムロール

【課題】常温または低温で保管しなくても、すなわち、高温環境下で保管しても、巻巣が発生し難い表面保護フィルムロールを提供する。
【解決手段】表面保護フィルムを巻き取ることによって形成されるフィルムロールであって、空気噛み込み率が3.8〜8.2%であり、28℃〜50℃の温度下で60日間保管した時点における、ロール内層にある全ての気泡の直径が10mm以下である表面保護フィルムロール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムロール(特に、表面保護フィルムロール)に関する。
【背景技術】
【0002】
表面保護フィルムは、主に、被保護物の表面をキズ、埃または汚れ、および望まざる化学反応などから保護する目的で用いられる。その被保護物は、ガラス、プラスチックまたは樹脂、および建築基材など非常に広範囲に渡っている。その中でも特に金属板加工用、メッキマスキング用、および液晶等に用いられる光学具材保護用の表面保護フィルムなどは被保護物の製品価値に密接に関わってくるので、産業上非常に重要である。
【0003】
前述のように表面保護フィルムの用途は非常に広範囲に渡っているが、当然に、表面保護フィルムの厚さ、粘着力、および物性等も用途に応じて異なってくる。さらには用途が同じでもユーザー毎に求められる幅、長さ、および色などの仕様が異なるため、表面保護フィルムロールの製品形態の数は、非常に多い。
【0004】
上記のような背景に加え、原料高騰やCO2排出削減などの社会状勢を鑑みれば、多形態の製品を高品質かつ効率良く製造することは、重要な課題である。
【0005】
ところで、表面保護フィルムは基本的に接着性の有る「接着層」と接着性の無い「基材層」とで構成される。したがって、表面保護フィルムは、生産時においては、接着層の接着面が剥き出しになっているため、接着面に異物が付着しないように、表面保護フィルムをロール状に巻き取ってロールの形態にして保管することが、行われる。ここで、ロール状に巻く際には特にシワと空気溜まりが生じないようにしなければならない。シワや空気溜まりが一旦生じると、表面保護フィルムの接着性から、通常、これらを取り除く事は、極めて困難である。
【0006】
表面保護フィルムの巻き取りは、製品(表面保護フィルムロール)の品質および外観に非常に大きな影響を与えるので、巻取条件(巻取速度、フィルム張力、接圧ロール圧等)だけでなく、表面保護フィルムの幅方向の厚みムラ、搬送ロールの摩耗および平行度、接圧ロールの摩耗および平行度等は、厳密に管理されている。このときの品質判定は主にシワや表層空気溜まりなどの外観で行われる。
【0007】
一方、上述したように表面保護フィルムロールの製品形態は非常に多いので、製品幅が狭い場合においては予め幅が広い親ロールを製造し、その親ロールを必要な製品幅に切断する方が合理的である。このときの品質判定は主に切断後の紙芯の外観及び表面保護フィルムの切断端面の外観で行われる。
【0008】
このとき、特に夏から初秋にかけて、切断した端面に層と層が一部離れたものが多発する現象(以下「巻巣」と呼ぶ)が、多数発生する。巻巣が発生すると後工程の端面研磨において製品が著しく破損するため、製品として扱うことができない。これにより生産効率が著しく低下するので、巻巣発生の問題を改善することは大きな課題であった。
【0009】
巻巣は表面保護フィルムロールを常温または低温で保管すれば殆ど発生しないが、大量に保管する場合には、倉庫に大がかりな空調設備が必要になる。これは、空調に伴うCO2排出の観点から、好ましくない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、常温または低温で保管しなくても巻巣が発生しにくい表面保護フィルムロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
巻巣発生の現象を詳しく調査したところ、以下のようなメカニズムで巻巣が発生することが明らかになってきた。まず夏場の高温環境により、倉庫に保管した表面保護フィルムロールが全体的に熱をもってやや膨張する。このときロール内部で噛み込んだ空気がロールの軸方向で移動しやすくなる。これらの空気が局所的に溜まって気泡となり、その部分で粘着面と基材面の張り付きを剥がしてしまう。この剥がれた部分に、必要な製品幅に切断するための切断面が入ると、巻巣が発生する。
【0012】
上記のことから空気の噛み込みと巻巣には密接な関係があり、表面保護フィルムロールの空気の噛み込みを制御する技術は大きな課題である。
【0013】
本発明者らは、鋭意検討の結果、表面保護フィルムロールの空気噛み込み率を一定の範囲に制御し、かつ
高温条件下での長期保管後における、ロール内層にある全ての気泡の直径を一定のサイズ以下に制御することによって、上記課題を解決できることを見出し、さらなる検討の結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、表面保護フィルムを巻き取ることによって形成されるフィルムロールであって、
空気噛み込み率が3.8〜8.2%であり、
28℃〜50℃の温度下で60日間保管した時点における、ロール内層にある全ての気泡の直径が10mm以下である表面保護フィルムロール
等を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、常温または低温で保管しなくても、すなわち、高温環境下で保管しても、巻巣が発生し難い表面保護フィルムロールが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[用語]
本明細書中、特に記載の無い限り、「表面保護フィルムロール」(フィルムロールと略称する場合もある。)とは、必要な製品幅に切断する前の親ロールを意味する。
【0016】
[表面保護フィルムロール]
本発明の表面保護フィルムロールは、
表面保護フィルムを巻き取ることによって形成されるフィルムロールであって、
空気噛み込み率が3.8〜8.2%であり、
28℃〜50℃の温度下で60日間保管した時点における、ロール内層にある全ての気泡の直径が10mm以下である。
本発明においてロール状態に巻き取られる表面保護フィルムは積層構造を有し、粘着特性を付与する粘着層と、弾性率,強度,伸度等の物性やロール展開性を主に付与する基材層とを含む。
【0017】
前記基材層は、単層であっても、複層であってもよく、その主成分も特に限定されない。ここで、主成分とは、膜(フィルム)を形成する成分を意味する。当該基材層における主成分の含有量は、基材層100重量部に対して、通常、70重量部以上である。その例としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、エチレン−n−ブチルアクリレート共重合体、およびポリプロピレンなどのホモポリマー、ランダム共重合体、またはブロック共重合体であるオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、およびポリエチレン−2,6−ナフタレートなどのポリエステル;ナイロン6、ナイロン6,6、および部分芳香族ポリアミドなどのポリアミド;ポリ塩化ビニル;ならびにポリ塩化ビニリデン等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。これらのうち、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、ならびにポリエチレンテレフタレートが好ましい。
特に、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびポリエチレンとポリプロピレンの混合物が好ましい。
【0018】
前記粘着層は好ましくは主成分としてゴム系樹脂成分を含有する。ここで、主成分とは、膜(フィルム)を形成し、弾性および粘着性を付与する成分を意味する。当該粘着層における主成分の含有量は、粘着層100重量部に対して、通常、50重量部以上である。当該ゴム系樹脂成分は、好ましくはスチレン系重合体ブロック(A)と共役ジエン系重合体ブロック(B)とのブロック共重合体、スチレン系重合体ブロック(A)とスチレン系モノマーと共役ジエン系モノマーとのランダム共重合体ブロック(B’)とのブロック共重合体、またはこれらの水添物を主骨格とするスチレン系エラストマーから構成されている。より具体的には上記スチレン系エラストマーは下記の(1)〜(3)のスチレン系エラストマーである。
【0019】
(1)スチレン系重合体ブロック(A)と共役ジエン系共重合体ブロック(B)とのブロック共重合体を主骨格とするスチレン系エラストマー。例えばA−B、A−B−A、(A−B)n、(A−B)nXの一般式で示すことができる。ただしXはカップリング剤の残基を示し、nは1以上の整数である。
(2)スチレン系重合体ブロック(A)とスチレン系モノマーと共役ジエン系モノマーとのランダム共重合体ブロック(B’)とからなるブロック共重合体を主要骨格とするスチレン系エラストマー。例えば(2−1)(A)と(B’)各1ブロックが結合したもの:A−B’ブロック共重合体、(2−2)スチレン系モノマーと共役ジエン系モノマーのうちスチレンが漸増するテーパーブロック(C)を含むもの:A−B’−Cブロック共重合体、(2−3)テーパーブロック(C)に代えてスチレン系重合体ブロック(A)を含むもの:A−B’−Aブロック共重合体、(2−4)これらの繰り返しやカップリングしたもの:(A−B’)n、(A−B’)nX、(A−B’−C)nX、(A−B’−A)nXなどの一般式で表すことができる。ただしXはカップリング剤の残基を示し、nは1以上の整数である。
(3)上記(1)、(2)のスチレン系エラストマーの水添物からなるスチレン系エラストマー。
【0020】
上記スチレン系エラストマー(水添物を含む)において、その構成成分であるスチレン系モノマーと共役ジエン系モノマーとの含有割合は、好ましくは重量比で5:95〜20:80である。スチレンの含有量が5重量%未満では、粘着剤の凝集力が低下するため再剥離時に被着体に糊残りが生じることがあり、20重量%を超えると粘着剤の粘着力が不足して被着体への貼付が困難になることがある。
【0021】
上記(1)、(2)の水添物において、共役ジエン系重合体ブロック(B)と上記スチレン系モノマーと共役ジエン系モノマーとのランダム共重合体ブロック(B’)中の共役ジエン部分の二重結合の少なくとも80%が水素添加により飽和されていることが好ましく、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95〜100%である。水素添加の割合が80%未満では耐熱性や耐候性が劣下する恐れがある。
【0022】
また上記スチレン系エラストマーの重量平均分子量は、GPC法によるポリスチレン換算で30,000〜400,000が好ましく、より好ましくは50,000〜200,000である。重量平均分子量が30,000未満では粘着剤の凝集力が低下するため再剥離時に被着体に糊残りが生じることがあり、400,000を超えると粘着力が不足すると共に流動性が悪くなる恐れがある。
【0023】
上記スチレン系エラストマーの共役ジエン系重合体ブロックはポリブタジエンが水添されたエチレン・ブチレン構造が好ましく、エチレンとブチレンのモル比(エチレン/ブチレン)が0.6〜3であることが好ましい。エチレンとブチレンのモル比が0.6未満では得られるエラストマーのタックが高すぎるために、製造時のハンドリングが悪くなる恐れがある。エチレンとブチレンのモル比が3を超えると得られるスチレン系エラストマーの弾性率が高すぎるため、粘着剤として使用出来なくなる恐れがある。
【0024】
上記粘着層の組成は例えばスチレン系エラストマーとしてSEBSなどを用い、スチレン系エラストマー100重量部に対し粘着付与剤を3〜40重量部、好ましくは5〜30重量部の範囲内で配合した組成を用いることができる。
【0025】
粘着付与剤としては、例えば脂肪族系共重合体、芳香族系共重合体、脂肪族・芳香族系共重合体系や脂環式系共重合体等の石油系樹脂、クマロン−インデン系樹脂、テルペン系樹脂、テルペンフェノール系樹脂、重合ロジン等のロジン系樹脂、(アルキル)フェノール系樹脂、キシレン系樹脂またはこれらの水添物などの、一般的に粘着剤に使用されるものを特に制限なく使用できる。これら粘着付与剤は1種のみが用いられてもよくまたは2種以上併用されてもよい。もっとも、剥離性や耐候性などを高めるには水添系の粘着付与剤が好ましい。なお粘着付与剤としては、オレフィン樹脂とのブレンド物として市販されているものを使用することもできる。
【0026】
本発明に係る表面保護フィルムの粘着層には軟化剤が添加されてもよい。軟化剤を添加することにより粘着層の接着力を高めることができる。軟化剤としては、例えば低分子量のジエン系ポリマー、ポリイソブチレン、水添ポリイソプレン、水添ポリブタジエンやそれらの誘導体が挙げられる。前記誘導体としては、例えば片末端または両末端にOH基やCOOH基を有するものを例示でき、具体的には水添ポリブタジエンジオール、水添ポリブタジエンモノオール、水添ポリイソプレンジオール、水添ポリイソプレンモノオールなどが挙げられる。特に、被着体に対する接着性の向上を抑制する目的からは、水添ポリブタジエンや水添ポリイソプレン等のジエン系ポリマーの水添物やオレフィン系軟化剤等が好ましい。具体的には株式会社クラレ製の商品名「クラプレンLIR−200」等が入手可能である。これらの軟化剤は1種のみが用いられてもよくまたは2種以上含有されてもよい。
【0027】
軟化剤の分子量は特に限定されない。もっとも分子量が小さ過ぎると粘着層から被着体側へ軟化剤が移行する恐れがあり、あるいは剥離力が大きくなる恐れがある。逆に軟化剤の分子量が大きくなり過ぎると、接着力向上効果が低下する恐れがある。従って軟化剤の数平均分子量は5,000〜100,000程度が好ましく、より好ましくは10,000〜50,000の範囲内である。
【0028】
軟化剤の添加量が多くなり過ぎると高温下における糊残りが生じがちとなる。従って、軟化剤は上記スチレン系エラストマー及び軟化剤の合計100重量部に対して40重量部以下であることが好ましく、より好ましくは20重量部以下、さらに好ましくは10重量部以下である。
【0029】
また本発明に係る表面保護フィルムの粘着層には、本発明の課題達成を阻害しない範囲で必要に応じて他の添加剤を添加してもよい。このような添加剤としては紫外線吸収剤、酸化防止剤、接着昂進防止剤などが挙げられる。上記紫外線吸収剤としては特に限定されず、例えばサリチル酸系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等の通常使用されるものが挙げられる。上記酸化防止剤としては特に限定されず、例えばフェノール系(モノフェノール系、ビスフェノール系、高分子型フェノール系)、硫黄系、リン系等の通常使用されるものが挙げられる。上記接着昂進防止剤としては脂肪酸アミド、ポリエチレンイミンの長鎖アルキルグラフト物、大豆油変性アルキド樹脂(例えば荒川化学社製、商品名「アラキード251」等)、トール油変性アルキド樹脂(例えば荒川化学社製、商品名「アラキード6300」等)などが挙げられる。
【0030】
本発明の表面保護フィルムロールに用いられる表面保護フィルムの製造方法は特に限定されない。例えて挙げれば、溶融した基材原料と粘着原料を共押出によりシングルラインで積層一体化する方法、予め製膜された基材層を構成する原反フィルムに粘着層を構成する液状原料を塗布・乾燥することによって積層一体化する方法などである。なかでも、共押出により基材層と粘着層とを成形する方法が好ましい。
【0031】
上記の共押出によって積層一体化する方式としては主にTダイ方式、インフレーション方式等が挙げられるが特に限定されず、無延伸、一軸延伸、逐次二軸延伸、同時二軸延伸のいずれでも良い。上記において予め製膜された基材層を構成する原反フィルムの製膜方式もTダイ方式、インフレーション方式等が挙げられるが特に限定されず、無延伸、一軸延伸、逐次二軸延伸、同時二軸延伸のいずれでも良い。また、上記の原反フィルムに液状原料を塗布する方法としては主にダイ方式、グラビアロール方式、メタリングバー方式等が挙げられるが特に限定されない。
【0032】
上記基材層と粘着層の厚み比率(基材層/粘着層)は2/1〜20/1が好ましく、全体的な厚みは10〜200μmが好ましい。粘着層の厚みに対する基材層の厚みの比率が2未満になると、粘着層の弾性率の影響が大きくなる。このため、ロール巻取後の収縮が大きくなり、内層でロール端面が波状になる問題が発生する。粘着層の厚みに対する基材層の厚みの比率が20を越えると、基材層の弾性率の影響が大きくなる。このため、粘着層が被保護物の表面の凹凸に追従しなくなり、被保護物に貼り付け後に保護フィルムが浮きやすい、若しくは剥がれやすい等の問題が発生する。
【0033】
本発明における表面保護フィルムロールの空気噛み込み率は3.8〜8.2%に制御される。空気噛み込み率が8.2%を越えると、高温条件下で保管された場合、巻巣が発生して生産効率を低下させてしまう。空気噛み込み率が3.8%未満であると、粘着面が基材面に強く張り付いているため、製品使用時に巻き出す際に大きな展開力が必要になる、巻き出しトルクが不安定になりフィルムに段状のシワが入るなどの問題が起こり、製品が表面保護フィルムとして使用できなくなることがある。
【0034】
本発明において、空気噛み込み率は、
直径lメートルの紙芯に、厚さaメートルの表面保護フィルムをLメートル巻き取ったとき、ロールの周長Rメートルを幅方向(すなわち、ロールの軸方向)に等間隔でn点測定したときの、次式によって求めた空気噛み込み率αの値である。
【数1】

nは、通常、10〜30である。
なお、空気噛み込み率は表面保護フィルムロールを巻き上げた時点以後、高温環境下に曝されない限り、任意の時点で測定することができる。ここでの「高温」とは、30℃以上を意味する。
【0035】
本発明における表面保護フィルムロールは、表面保護フィルムを接圧ロールを用いて面圧を付与しながら巻き取ることによって、製造される。このような巻き取りは、市販の装置を使って実施することができる。
【0036】
ここで、本発明における表面保護フィルムロールの「空気噛み込み率」と「28℃〜50℃の温度下で60日間保管した時点における、ロール内層の気泡の直径」は、表面保護フィルムを巻き取るときの接圧ロール径、表面硬度、面圧および巻き取り速度によって制御することができる。
接圧ロール径は130〜200mmが好ましい。接圧ロール径が130mm未満では接圧実効面積が小さいため、巻取中のフィルムロールに対する水平度バランスが悪くなり、巻取時にシワが入りやすい。さらに空気噛み込み率が小さくなる傾向があり、製品使用時の巻き出す際に大きな展開力が必要になる、巻き出しトルクが不安定になりフィルムに段状のシワが入るなどの問題が起こり、製品が表面保護フィルムとして使用できなくなることがある。一方、接圧ロール径が200mmを越えると、大きさや重量の理由から取り扱いが困難であることや、製品巻取長に制約が多くなるなどの弊害が大きく実用的ではない。
接圧ロールの表面硬度は15〜60度が好ましい。接圧ロールの表面硬度が15度未満であると、巻取中のロールに対する接圧ロール当たりの不均一さが顕著になりやすく、巻取中のロールにシワが入りやすい。一方、接圧ロールの硬度が60度を越えると巻取中のロールへの抱きつきが悪くなり、ロールにシワが入りやすい。
接圧ロールの面圧は250〜450N/mが好ましい。接圧ロールの面圧が250N/m未満であると空気噛み込み率が8.2%より大きくなるため、巻巣が発生しやすい。一方、接圧ロールの面圧が450N/mを越えると、粘着面が基材面に強く張り付いてしまうため、製品使用時の巻き出す際に展開力が重い、巻き出しトルクが不安定になりフィルムに段状のシワが入るなどの問題が起こり、製品が表面保護フィルムとして使用できなくなることがある。
巻取速度は50〜180m/分(min)が好ましい。巻取速度が50m/分未満であると、巻取中のフィルムロールに対する張力−面圧バランスが悪くなりフィルムにシワが入りやすい。一方、巻取速度が180m/分を越えるとフィルムのばたつきを接圧ロールで吸収できなくなり、ロール内部で突発的な空気巻き込み部分が発生し、結果的に巻巣が発生しやすい。
【0037】
このようにして製造された表面保護フィルムロールは、適宜、6〜120mmの製品幅に切断される。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例によって、本発明の表面保護フィルムロールに用いられる表面保護フィルムおよび本発明のフィルムロールを更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0039】
(表面保護フィルムの製造)
東燃化学社製BC3M(ポリプロピレン)を75重量部と三井化学社製ミラソン12(低密度ポリエチレン)を25重量部で混合し、基材層用に使用する原料として準備した。またJSR社製ダイナロン1321P(スチレン系化合物重合ブロックとスチレン−共役ジエンランダム共重合ブロックからなるエラストマーの水素添加樹脂)を100重量部、荒川化学社製アルコンP100(粘着性付与樹脂)を20重量部で混合し、粘着層用に使用する原料として準備した。
【0040】
基材層用原料と粘着層用の原料をそれぞれ別の溶融押出機に供給し、溶融・押し出した後、金型Tダイに送り込んだ。Tダイ内部で基材層/粘着層の2層に積層されるよう合流させ、金型スリット(幅0.8mm、長さ1.3m)からシート状に共押出して溶融積層シートとした。
【0041】
この溶融積層シートを表面温度30℃に冷却されたチルロールで密着冷却固化し、未延伸粘着フィルムを作製した。このとき基材層用及び粘着層用の押出量をスクリュー回転数により、基材層の厚さが50μm、粘着層の厚さを10μmとなるように調整し、トータル厚み60μmの表面保護フィルムを作製した。
【0042】
(表面保護フィルムロールの製造)
作製した表面保護フィルムは搬送時に厚くなっている両端部をカットし、巻取幅を1000mmに調整した。これを直径が100mmであり長さが1020mmの紙芯に接圧ロールを用いたワインダーで下記に記載するように条件等を替えて巻き取ることにより、表面保護フィルムロールを作製した。
【0043】
巻き取った表面保護フィルムロールは、直ちに屋外倉庫へ搬入し夏場の環境下で2ヶ月間保管した。その後屋外倉庫から搬出し、一部を切断評価した。残りをスリッター機で巻き返し、内部空気噛み込み率を測定した。
【0044】
(評価・測定法)
本実施例で用いた評価・測定法を下記に示す。
【0045】
(1)巻取中のシワ
巻取中のフィルムロールを目視で全長観察し、シワが全く発生しなかった場合に○を記し、シワが1回以上発生した場合は×を記した。
(2)空気噛み込み率
直径lメートルの紙芯に、厚さaメートルの表面保護フィルムをLメートル巻き取ったとき、ロールの周長Rメートルを幅方向に等間隔でn点測定したときの空気噛み込み率αを次式によって求める。
【数2】

なお、空気噛み込み率は表面保護フィルムロールを巻き上げた時点で測定した。
【0046】
(3)経時におけるロール内層の気泡判定及び展開時の段状のシワ判定
フィルムロールを屋外倉庫に夏期の60日間保管(倉庫内部温度は最大50℃、最低28℃)した後、フィルムロールをスリッター機で巻き返した。気泡が確認できた時点でスリッター機を止め、その都度気泡の個数とミリメートル単位で直径を計測した。判定を下記の基準で評価し、○を合格とした。
(気泡の判定基準)
○ :気泡の直径が10mmを越えるものが無い
△ :気泡の直径が10〜30mmのものが5個/ロール以内、かつ30mmを越えるものが無い
× :気泡の直径が30mmを越えるものが5個/ロール以内
××:気泡の直径が30mmを越えるものが6個/ロール以上
また、スリッター機で巻き返し中のフィルムロールを目視で全長観察し、段状のシワが全く発生しなかった場合に○を記し、段状のシワが1回以上発生した場合は×を記した。
【0047】
(4)巻巣の有無
フィルムロールを屋外倉庫に夏期の60日間保管(倉庫内部温度は最大50℃、最低28℃)した後、コルテック社製ロール切断機を用いて、ロール1本から10mm幅を10本、60mm幅を5本、110mm幅を4本切断・採取した。このとき切断端面の巻巣の有無を観察した。結果を表1に示す。巻巣が無い場合を合格として、○を記した。一方、巻巣がある場合を不合格として、×を記した。
【0048】
[実施例1]
上記実施例で示した製膜方法で作製した表面保護フィルムを、直径が180mmかつ表面がNBR素材で硬度は20度の接圧ロールを用いて、面圧300N/m、巻き取り速度80m/分で1500mを5ロール巻いた。1ロールあたり両端を含まない5cm間隔の19点で空気噛み込み率を求め、屋外倉庫に運び出した。夏場2ヶ月間保管した後、3ロールで切断評価、2ロールで経時におけるロール内層の気泡判定を行った。巻巣及びその他不具合の結果を表1に示す。
【0049】
[実施例2]
上記実施例で示した製膜方法で作製した表面保護フィルムを、直径が180mmかつ表面がNBR素材で硬度は20度の接圧ロールを用いて、面圧400N/m、巻き取り速度60m/分で1500mを5ロール巻いた。1ロールあたり両端を含まない5cm間隔の19点で空気噛み込み率を求め、屋外倉庫に運び出した。夏場2ヶ月間保管した後、3ロールで切断評価、2ロールで経時におけるロール内層の気泡判定を行った。巻巣及びその他不具合の結果を表1に示す。
【0050】
[実施例3]
上記実施例で示した製膜方法で作製した表面保護フィルムを、直径が145mmかつ表面がNBR素材で硬度は50度の接圧ロールを用いて、面圧300N/m、巻き取り速度80m/分で1500mを5ロール巻いた。1ロールあたり両端を含まない5cm間隔の19点で空気噛み込み率を求め、屋外倉庫に運び出した。夏場2ヶ月間保管した後、3ロールで切断評価、2ロールで経時におけるロール内層の気泡判定を行った。巻巣及びその他不具合の結果を表1に示す。
【0051】
[比較例1]
上記実施例で示した製膜方法で作製した表面保護フィルムを、直径が180mmかつ表面がNBR素材で硬度は20度の接圧ロールを用いて、面圧400N/m、巻き取り速度40m/分で1500mを5ロール巻いた。しかし巻取速度の遅さから、5ロールいずれもシワが入ったため巻取時の外観検査で不合格であった。
【0052】
[比較例2]
上記実施例で示した製膜方法で作製した表面保護フィルムを、直径が180mmかつ表面がNBR素材で硬度は20度の接圧ロールを用いて、面圧400N/m、巻き取り速度200m/分で1500mを5ロール巻いた。1ロールあたり両端を含まない5cm間隔の19点で空気噛み込み率を求め、屋外倉庫に運び出した。夏場2ヶ月間保管した後、3ロールで切断評価、2ロールで経時におけるロール内層の気泡判定を行った。巻巣及びその他不具合の結果を表1に示す。
【0053】
[比較例3]
上記実施例で示した製膜方法で作製した表面保護フィルムを、直径が180mmかつ表面がNBR素材で硬度は20度の接圧ロールを用いて、面圧200N/m、巻き取り速度80m/分で1500mを5ロール巻いた。1ロールあたり両端を含まない5cm間隔の19点で空気噛み込み率を求め、屋外倉庫に運び出した。夏場2ヶ月間保管した後、3ロールで切断評価、2ロールで経時におけるロール内層の気泡判定を行った。巻巣及びその他不具合の結果を表1に示す。
【0054】
[比較例4]
上記実施例で示した製膜方法で作製した表面保護フィルムを、直径が180mmかつ表面がNBR素材で硬度は20度の接圧ロールを用いて、面圧500N/m、巻き取り速度80m/分で1500mを5ロール巻いた。1ロールあたり両端を含まない5cm間隔の19点で空気噛み込み率を求め、屋外倉庫に運び出した。夏場2ヶ月間保管した後、3ロールで切断評価、2ロールで経時におけるロール内層の気泡判定を行った。巻巣及びその他不具合の結果を表1に示す。
【0055】
[比較例5]
上記実施例で示した製膜方法で作製した表面保護フィルムを、直径が180mmかつ表面がNBR素材で硬度は12度の接圧ロールを用いて、面圧400N/m、巻き取り速度80m/分で1500mを5ロール巻いた。しかし接圧ロールの硬度の低さから巻取中のロールに対する不均一さが顕著になり、5ロールいずれもシワが入ったため巻取時の外観検査で不合格であった。
【0056】
[比較例6]
上記実施例で示した製膜方法で作製した表面保護フィルムを、直径が100mmかつ表面がNBR素材で硬度は70度の接圧ロールを用いて、面圧300N/m、巻き取り速度120m/分で1500mを5ロール巻いた。1ロールあたり両端を含まない5cm間隔の19点で空気噛み込み率を求め、屋外倉庫に運び出した。夏場2ヶ月間保管した後、3ロールで切断評価、2ロールで経時におけるロール内層の気泡判定を行った。巻巣及びその他不具合の結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1からも明らかなように、本発明による表面保護フィルムロールは夏場を経由して倉庫に保管されていても効率良く切断・製品化できる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の表面保護フィルムロール、常温または低温で保管しなくても、すなわち、高温環境下で保管しても、巻巣が発生し難いので、不良品の発生率が低く、生産効率に優れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面保護フィルムを巻き取ることによって形成されるフィルムロールであって、
空気噛み込み率が3.8〜8.2%であり、
28℃〜50℃の温度下で60日間保管した時点における、ロール内層にある全ての気泡の直径が10mm以下である表面保護フィルムロール。
【請求項2】
表面保護フィルムが基材層と粘着層とを含み、
当該基材層の主成分がポリエチレン、ポリプロピレン、またはポリエチレンとポリプロピレンの混合物である請求項1に記載の表面保護フィルムロール。
【請求項3】
表面保護フィルムが、共押出により基材層と粘着層とが成形された表面保護フィルムであることを特徴とする請求項1または2に記載の表面保護フィルムロール。
【請求項4】
表面保護フィルムを接圧ロールを用いて面圧を付与しながら巻き取ることによって、表面保護フィルムロールを製造する方法であって、
表面保護フィルムの巻取速度が50〜180m/分であり、
接圧ロールの面圧が250〜450N/mであり、
接圧ロールの表面硬度が15〜60度であり、
接圧ロールの直径が130〜200mmであることを特徴とする、
表面保護フィルムロールの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の製造方法で製造された表面保護フィルムロール。

【公開番号】特開2010−99950(P2010−99950A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274021(P2008−274021)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】