説明

フィルム延伸装置およびフィルム延伸方法

【課題】 配向軸が高精度に配向し、かつ、厚み精度の高いフィルムを得ることができるフィルム延伸装置、およびフィルム延伸方法を提供すること。
【解決手段】 加熱炉と、フィルム送り出し部分と、この送り出し部分から連続的に送られるフィルムの幅方向両端部を把持する左右各複数対のクリップと、各クリップの走行を案内する左右各一対のガイドレールと、ガイドレールを移動させる複数の駆動軸と、を備え、加熱炉内に前記フィルムを通過させるとともに、クリップによって把持させた前記フィルムを延伸することができるフィルム延伸装置において、複数の駆動軸が、略平行に形成されており、かつ、駆動軸によって、左右各一対のガイドレールが左右独立に移動することで、ガイドレールのレールパターンを変化できるようになっていることを特徴とするフィルム延伸装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム延伸装置およびフィルム延伸方法に係り、さらに詳しくは、光学フィルムを高精度で延伸するための延伸装置および延伸方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイなどの表示装置には、表示性能を改善するために、様々な光学フィルム(たとえば、偏光膜の保護フィルム、位相板など)が使用されている。このような光学フィルムは、一定の配向角となっている配向軸を有し、かつ、この配向軸を高精度(たとえば、±0.5°の精度)に配向させることが求められている。
【0003】
このような光学フィルムを製造する方法としては、熱可塑性樹脂から構成されるフィルムを、幅方向の長さが、たとえば1.2〜2倍程度となるように、加熱、延伸して、配向軸を揃える方法などが挙げられる(たとえば、特許文献1)。
【0004】
特許文献1には、フィルムの両側を把持する複数のクリップを走行させるための一対のガイドレールを、逆ねじを切ってある駆動軸上に形成することにより、このガイドレールのレールパターンを左右対称に変化させることができるようになっているフィルム延伸装置が開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されている延伸装置では、フィルムの幅方向における左右の温度ムラに起因して、フィルムの幅方向に対してフィルムの左右で不均等な配向角分布が生じてしまい、結果として、フィルム幅方向に渡って配向角が均一に揃わないという問題があった。
【0006】
さらに、上記光学フィルムとしては、配向軸を高精度に形成するとともに、この配向軸が、フィルムの幅方向に対して一定の傾斜(たとえば、15°や45°など)を有しているような構成とすることも求められている(たとえば、特許文献2,3)。
【0007】
特許文献2には、プラスチックフィルムを横または縦方向に一軸延伸しつつ、フィルムの左右両端を、それぞれ異なる速度で引張延伸することにより、フィルムの配向軸を前記延伸方向に対して傾斜させる方法が提案されている。ここでは、左右の延伸部品を独立に駆動させる駆動源より、左右の延伸部品を介して、フィルムの左右両端の送り速度に違いを持たせることを特徴としている記載されている。
【0008】
さらに、上記光学フィルムとしては、配向軸を高精度に形成するとともに、この配向軸が、フィルムの幅方向に対して一定の傾斜(たとえば、15°や45°など)を有しているような構成とすることも求められている。このような配向軸が一定の傾斜を有するフィルムを得る方法としては、たとえば、延伸の前後において、フィルムの送り方向を変化させる方法が提案されている(たとえば、特許文献3)。
【0009】
特許文献3には、フィルムに予熱を与える予熱部と、上記予熱部と同じ方向にフィルムを送るとともに、フィルムを延伸する延伸部と、上記予熱部および延伸部と異なる方向にフィルムを送る熱処理部と、を有する延伸装置が開示されている。この文献は、特に、フィルムの縁部の一端を把持する一方の把持具と、フィルムの縁部の他端を把持する他方の把持具との間に一時的に速度差を設ける速度差発生手段を発生させることを特徴としている。この文献によると、このようにすることにより、フィルムへの把持具の噛み込み不足などに起因するフィルムのシワを取り除くことができ、配向軸のズレを解消することができるという旨が記載されている。
【0010】
しかしながら、上記特許文献2,3に記載されている延伸方法や延伸装置では、フィルムのシワや配向軸のズレの問題を解決するために、フィルムの各縁部を把持する各把持具に速度差を設けているため、幅方向のフィルム厚みにバラツキが生じてしまい、フィルムの巻き取りが困難となってしまうという不具合が発生してしまう。
【0011】
【特許文献1】特開2001−138394号公報
【特許文献2】特開2000−9912号公報
【特許文献3】特開2004−9542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、レールパターンを多様に変化させることにより、フィルム幅方向に対するフィルムの配向角を自在に設定でき、さらに、フィルムの配向軸をフィルム幅方向に渡って左右均等に高精度に配向させることができ、かつ、高精度でフィルム厚みやレタデーションを制御できるフィルム延伸装置、およびフィルム延伸方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、フィルムを延伸するためのフィルム延伸装置において、フィルムの幅方向両端部を把持する左右各複数対のクリップを案内するための左右各一対のガイドレールが、それぞれ独立に移動できるようにすることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明のフィルム延伸装置は、
フィルムを加熱するための加熱炉と、
フィルムを送るための送り出し部分と、
前記送り出し部分から連続的に送られるフィルムの幅方向両端部を把持する左右各複数対のクリップと、
前記各クリップの走行を案内する左右各一対のガイドレールと、
前記ガイドレールを移動させる複数の駆動軸と、を備え、
前記加熱炉内に前記フィルムを通過させるとともに、前記クリップによって把持させた前記フィルムを延伸することができるフィルム延伸装置において、
複数の前記駆動軸が、略平行に形成されており、かつ、
前記駆動軸によって、前記左右各一対のガイドレールが左右独立に移動することで、前記ガイドレールのレールパターンを変化できるようになっていることを特徴とする。
【0015】
本発明においては、前記左右各複数対のクリップは、前記フィルムを幅方向両端部で把持して、前記加熱炉内を移動させ、加熱、延伸することができるようになっている。そして、この前記左右各複数対のクリップを、それぞれ左右独立に移動させることにより、フィルムの温度むら等に起因するフィルムの配向軸の配向角のずれを高精度に補正することができるようになっている。
【0016】
さらに、本発明においては、前記左右各複数対のクリップは、それぞれ左右一対のガイドレール上に配置されており、このガイドレールのレールパターンに沿って移動できるようになっている。そのため、前記左右一対のガイドレールを、それぞれ左右独立に移動させ、レールパターンを、それぞれ別々に変化させることにより、左右各複数対のクリップが、左右独立に移動できるような構成になっている。
【0017】
しかも、本発明では、複数の前記駆動軸が略平行に形成されている。そのため、前記左右各一対のガイドレールを、比較的に自由に移動させることができ、多様なレールパターンを形成することができる。特に、本発明によると、横延伸や種々の斜め延伸を好適に行うことができる。なお、本発明においては、複数の前記駆動軸の全てが、略平行になっていることが好ましい。また、本発明において、複数の前記駆動軸が「略平行」に形成されているとは、複数の前記駆動軸が実質的に平行になっていれば良く、たとえば、完全に平行な状態より0〜5°程度の範囲で、傾いていても良い。
【0018】
本発明においては、前記フィルム延伸装置は、前記フィルムに応力を加えられるような機構となっていることが好ましい。特に、前記フィルムの幅方向に応力を加えられるようになっていることが好ましく、より好ましくは、前記フィルムの幅方向両端部を把持する左右の各クリップ間の距離を変化させることにより、前記フィルムの幅方向に応力を加えられるようになっている。
【0019】
好ましくは、前記フィルムの左端および右端を、それぞれ把持する左右それぞれのクリップは、互いに同じ速度で移動することを特徴とする。左右それぞれのクリップを左右で同じ速度で移動させることにより、フィルムを延伸する際における、フィルムの移動距離を一定にすることができる。そのため、左右のクリップによりフィルムを把持する際における噛み込み不良により、フィルムにシワが生じてしまうことを有効に防止できるとともに、延伸後のフィルムを良好に巻き取ることができる。なお、本発明において、「同じ速度」とは、左右それぞれのクリップを実質的に同じ速度で移動させるという意味であり、多少の速度差が生じてしまった場合、たとえば、左右のクリップ間に0.1%以下程度の差が生じてしまった場合にも、本発明の範囲外とはならない。
【0020】
本発明においては、前記左右各一対のガイドレールが、それぞれ別々の駆動軸上に形成されていることが好ましい。このような構成とすることにより、前記左右各一対のガイドレールを、それぞれ別々の駆動軸により、それぞれ別々に移動させることができる。
【0021】
本発明においては、略平行に形成された複数の前記駆動軸を、一定間隔で配置することが好ましい。複数の駆動軸を一定間隔で配置することにより、前記左右各一対のガイドレールのレールパターンを高度に制御することが可能となり、結果として、フィルムの配向軸の配向角のずれを、より高精度に補正することができる。複数の前記駆動軸間の間隔は、特に限定されないが、200〜5000mmの間隔とすることが好ましい。
【0022】
本発明においては、複数の前記駆動軸間の距離は、各駆動軸間において異なる距離とすることも可能であるが、全ての前記駆動軸間の間隔を略等しい間隔とすることが好ましい。あるいは、本発明においては、前記左右各一対のガイドレールを移動させるための一対の駆動軸と、他の一対の駆動軸との間隔を、略等しい間隔にすることが好ましい。
【0023】
また、本発明においては、フィルム送り方向からフィルム引き取り方向に向けて見た場合に、複数の前記駆動軸を、互いに重なり合う部分を有するように形成することが好ましい。このような構成とすることにより、前記左右各一対のガイドレールのレールパターンを比較的に自由に形成することができ、より広角度での斜め延伸が可能となる。特に、本発明においては、前記左右各一対のガイドレールを、それぞれ別々の駆動軸上に形成した場合においても、それぞれ異なるガイドレールを移動させるための各駆動軸を、互いに重なり合う部分を有するように配置することにより、多様なレールパターンを形成することができるようになる。
【0024】
好ましくは、前記送り出し部分は、複数の前記駆動軸に対して所定角度で前記フィルムを送り出せるように、移動可能となっている。前記送り出し部分をこのような構成とすることにより、より広角度での斜め延伸が可能となり、製造されるフィルムの配向軸の配向角を、フィルムの幅方向に対して比較的に広角度(たとえば、15°や45°)とすることができる。また、前記送り出し部分を、移動可能とすることにより、前記左右のクリップのフィルムへの噛込み不良を有効に防止することができる。なお、前記送り出し部分は、複数の前記駆動軸に対して、角度0°(すなわち、駆動軸と平行)〜45°の範囲で移動可能となっていることが好ましい。
【0025】
好ましくは、前記フィルム延伸装置は、さらに、フィルム引き取り部分を有しており、
複数の前記駆動軸に対して所定角度でフィルムを引き取れるように、前記フィルム引き取り部分が、移動可能となっている。
【0026】
前記引き取り部分を、前記駆動軸に対して所定角度でフィルムを引き取れるように形成することにより、引き取り側でも、前記フィルムの配向角を調整することができ、前記フィルムの配向角をより広角度とすることができる。そのため、フィルムのシワの発生を有効に防止することができるとともに、フィルムの巻き取り性が向上するため、フィルムを長尺で巻き取ることが可能となる。なお、前記引き取り部分は、複数の前記駆動軸に対して、角度0°(すなわち、駆動軸と平行)〜45°の範囲で移動可能となっていることが好ましい。
【0027】
好ましくは、前記フィルム延伸装置は、さらに、延伸後のフィルム特性を測定するためのフィルム特性測定装置を具備しており、
前記フィルム特性測定装置による前記延伸後のフィルム特性の測定結果に基づいて、前記左右各一対のガイドレールが、複数の前記駆動軸によって、左右独立に移動可能となっている。
【0028】
延伸後のフィルムの厚み、レタデーション、配向角などのフィルム特性を測定して、その測定結果に基づき、前記左右一対のガイドレールを、それぞれ左右独立に移動させる、いわいるフィードバック制御を採用することにより、フィルム特性をより高精度に制御することができる。
【0029】
好ましくは、前記フィルム延伸装置は、フィルムの幅方向に渡って温度制御できるようになっている加熱手段を、さらに有している。本発明においては、前記加熱手段を、さらに形成することにより、フィルムの幅方向における厚みおよび配向角を実質的に均一とすることができる。特に、前記加熱手段は、フィルムの縁部付近を加熱するようになっていることが好ましい。
【0030】
好ましくは、前記加熱手段は、前記フィルム特性測定装置による前記延伸後のフィルム特性の測定結果に基づいて、温度制御可能となっている。
前記加熱手段を、前記延伸後のフィルム特性の測定結果に基づいて、温度制御する、いわいるフィードバック制御を採用することにより、フィルムの幅方向における厚みおよび配向角(レタデーション)をより高精度に制御することができる。なお、前記加熱手段は、複数形成しても良い。
【0031】
本発明のフィルム延伸方法は、
フィルムを連続的に送り出し、送られた前記フィルムの幅方向両端部を、左右各複数対のクリップで把持し、
前記クリップにより前記フィルムを幅方向両端部を把持した状態で、前記フィルムを加熱するとともに、前記左右各複数対のクリップを、左右各一対のガイドレール上を走行させることにより前記フィルムを延伸する方法であって、
前記左右各一対のガイドレールが、略平行に形成された複数の駆動軸上に配置されており、
複数の前記駆動軸により、前記左右各一対のガイドレールを左右独立に移動させ、前記ガイドレールのレールパターンを変化させることを特徴とする。
【0032】
本発明のフィルム延伸方法においては、上記いずれかのフィルム延伸装置により、フィルム延伸を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0033】
本発明のフィルム延伸装置によると、略平行に形成された駆動軸上にガイドレールが配置され、このガイドレールが、それぞれ独立に移動できるようにしてあるため、配向軸が高精度に配向し、フィルム厚みおよびレタデーションが高い精度で制御された光学フィルムなどの各種フィルムを製造することができる。特に、本発明のフィルム延伸装置によれば、配向軸をフィルムの幅方向に対して一定の傾斜(たとえば、15°や45°など)を持たせて形成した場合においても、配向軸が高精度に配向し、フィルム厚みおよびレタデーションが高い精度で制御されたフィルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るフィルム延伸装置の概略断面図、
図2は図1に示すII−II線に沿うフィルム延伸装置の断面図、
図3は本発明の一実施形態に係るフィルム延伸装置の第1、第2レール付近における拡大図、
図4は図3に示すIV−IV線に沿う第1、第2レール付近における要部断面図、
図5(A)は配向軸を補正する前のフィルムの状態を表す図、図5(B)は配向軸を補正した後のフィルムの状態を表す図、
図6は斜め延伸時におけるフィルム延伸装置の断面図、
図7は斜め延伸時におけるフィルムの状態を表す図、
図8は斜め延伸時におけるフィルム延伸装置の断面図、
図9は斜め延伸時におけるフィルムの状態を表す図、
図10は本発明の他の実施形態に係るフィルム延伸装置の断面図、
図11(A)は図3に示すXI−XI線に沿う第1、第2レール付近における要部断面図、図11(B)は従来における第1、第2レール付近における要部断面図、
図12は本発明の他の実施形態に係る第1、第2レール付近における要部断面図である。
【0035】
第1実施形態
図1に示すように本発明のフィルム延伸装置は、オーブン1と、オーブン1内を通過するように配置されているレール3と、フィルム9を供給するためのフィルム供給ロール11と、フィルム巻取りロール12とを有している。
【0036】
このフィルム延伸装置においては、まず、フィルム供給ロール11から供給されたフィルム9を、繰出しロール13によりレール3付近に送られる。そして、このフィルム9は、レール3上に配置されている複数のクリップにより把持された状態でオーブン1内を移動し、オーブン1内で加熱・延伸される。その後、加熱・延伸されたフィルム9は、特性測定装置10a、10bにより各種フィルム特性を測定した後に、引取りロール14を介して、フィルム巻取りロール12により巻き取られるようになっている。
【0037】
なお、本実施形態のフィルム延伸装置においては、必要に応じて、加熱・延伸されたフィルム9を、トリミング処理、コロナ処理等の後処理を施すための各種装置、あるいはマスキングフィルムを貼り付けるための装置を配置してもよい。
【0038】
オーブン1は、熱風によりフィルム9を加熱するための装置である。このオーブン1は、複数の上部仕切板4、下部仕切板5により、複数のゾーンに区切られており、各ゾーンの温度をそれぞれ異なった温度に制御できるようになっている。また、オーブン1内を通過するレール3の両端には、レール3付近に移動してきたフィルム9をオーブン1内へと送る送り出し部6と、オーブン1内から送られてきたフィルム9を引取る引取り部7とが形成されている。
【0039】
図2に、図1に示すII−II線に沿うフィルム延伸装置の断面図を示す。図2に示すように、オーブン1内は、複数の上部仕切り板4および下部仕切り板5(図示省略)により、複数のゾーンに区切られている。なお、本実施形態においては、各ゾーンは、送り出し部6側から、それぞれ予熱ゾーン、延伸ゾーンおよび熱固定ゾーンとなっている。そして、それぞれの仕切り板4,5は、複数の駆動軸20と略平行に形成されている。
【0040】
なお、本実施形態においては、送り出し部6は、複数の駆動軸20に対して、0°〜45°の範囲で移動可能な構成となっており、フィルム9を所定角度で送り出せるようになっている。なお、図2中、送り出し部6’は、複数の駆動軸20と平行な状態、すなわち0°の状態である。同様に、引き取り部7も、複数の駆動軸20に対して、0°〜45°の範囲で移動可能となっている。本実施形態においては、送り出し部6および引き取り部7をこのような構成とすることにより、後に説明する斜め延伸を良好に行うことができる。
【0041】
また、図1に示すレール3は、図2に示すように、第1レール3aと第2レール3bとから構成されており、この第1レール3aは、さらに、第1内側レール31aと第1外側レール32aとによって一周するようになっている。同様に、第2レール3bは、第2内側レール31bと第2外側レール32bとによって一周するにようになっている。
【0042】
そして、第1レール3aと第2レール3bとは、略平行に配置されている複数の駆動軸20上に配置されており、後に詳述するように、この第1レール3aと第2レール3bとは、駆動軸20の軸方向に、それぞれ別々に移動可能となっている。なお、図2には、一実施形態として、フィルム9の配向軸をフィルム9の幅方向と実質的に同一とするための横延伸用のレールパターンを示したが、第1レール3aと第2レール3bとは、第1側壁1a方向、あるいは第2側壁1b方向にそれぞれ別々に移動させることができ、様々なレールパターンを形成させることができる。特に、本実施形態においては、図2に示すように、全ての駆動軸20を略平行に形成しているため、後に説明するように多様なレールパターンを形成することができ、広角度での斜め延伸が可能となる。
【0043】
図3に示すように、第1内側レール31aおよび第1外側レール32a上には、これらのレール上の全周に渡り、複数の第1クリップ33a,34aが、配置されている(図3中では、第1クリップ33a,34aの一部のみを示した。)。ここで、各クリップは、無端チェーン(図示省略)により連結されており、引取り部7上に形成された第1ギア70aにより、第1内側レール31a、第1外側レール32a上を、図2および図3に示す矢印方向に、移動するような構成となっている。
【0044】
同様に、第2内側レール31bおよび第2外側レール32bに形成された複数の第2クリップ33b,34bも、第2ギア70bにより、図2、図3中に示す矢印方向に移動するようになっている。
【0045】
上記第1内側レール31a、第2内側レール31bは、フィルム9を移動させるためのフィルム走行用のレールである。具体的には、まず、送り出し部6付近の第1把持部分31a−1および第2把持部分31b−1で、第1内側レール31a上に配置されている第1クリップ33aがフィルム9の一端を、第2内側レール31b上に配置されている第2クリップ33bがフィルム9の他端を、それぞれ把持する。そして、フィルム9の一端を把持する第1クリップ33aと、他端を把持する第2クリップ33bが、それぞれ、第1内側レール31a、第2内側レール31b上をレールパターンに沿って移動していき、フィルム9をオーブン1内で加熱・延伸した後に、フィルム9を引取り部7付近に向けて送るようになっている。
【0046】
なお、フィルム9を把持する第1クリップ33aおよび第2クリップ33bの移動速度は、特に限定されないが、好ましくは、5〜50m/分程度とする。ただし、本実施形態では、フィルム9の移動距離を一定にするという観点より、第1クリップ33aと第2クリップ33bとの移動速度は、実質的に同速度とする。移動速度を、実質的に同速度とすることにより、延伸後のフィルム9を良好に巻き取ることができる。
【0047】
一方、上記第1外側レール32a、第2外側レール32bは、フィルム9を引き取り部7付近まで移動させた後、第1開放部分31a−2および第2開放部分31b−2で、フィルム9を開放した第1クリップ34aおよび第2クリップ34bを、送り出し部6付近まで戻すための戻り走行用のレールとなっている。
【0048】
フィルム9は、第1クリップ33aおよび第2クリップ33bにより把持され、オーブン1内を移動する際には、まず、予熱ゾーンにて、延伸されるのに十分な温度に加熱される。予熱ゾーンにおけるフィルム9の加熱温度は、フィルム9を延伸する目的などに応じて適宜調整すればよいが、たとえば、フィルム9を構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)付近とすることが好ましい。次いで、予熱ゾーンで加熱されたフィルム9は、延伸ゾーンにて、幅方向に横延伸された後に、熱固定ゾーンにて、延伸後のフィルム構造を安定化される。
【0049】
なお、熱固定ゾーンにおいては、フィルム9の進行方向の温度差が原因となり、フィルム9の配向軸が円弧状となってしまう、いわゆる「ボーイング現象」を解消するために、第1レール3aと第2レール3bとの間隔を若干広げて、フィルム9を再度、延伸しても良い。
【0050】
図3に示すように、本実施形態では、複数の駆動軸20は、複数の第1駆動軸20aおよび第2駆動軸20bから構成されており、この複数の第1駆動軸20aおよび第2駆動軸20b上に、第1レール3aおよび第2レール3bは、それぞれ形成されている。この第1レール3aは、第1保持部30aを介して、第1駆動軸20aに移動自在に接続されている。そして、この第1駆動軸20aは図3に示すようにねじが切ってあるとともに、第1モーター(図示省略)に接続されており、第1モーターにより第1駆動軸20aを回転させることにより、第1レール3aは、第1駆動軸20aの軸方向に移動するようになっている。
【0051】
同様に、第2レール3bは、第2保持部30bを介して、第1レール3aと接続されている第1駆動軸20aとは別の第2駆動軸20bに移動自在に接続されている。そして、この第2レール3bは、第2モーター(図示省略)により第2駆動軸20bが回転することにより、第1レール3aとは独立に移動できるようになっている。
【0052】
本実施形態では、上述のように、第1レール3aと第2レール3bとは、それぞれ別々の第1駆動軸20a、第2駆動軸20bに接続されている。そのため、この第1駆動軸20a、第2駆動軸20bを別々に回転させることにより、第1レール3aと第2レール3bとを別々に移動させることができ、互いに異なるレールパターンに変形できるようになっている。
【0053】
そのため、たとえば、フィルム9を延伸し、配向軸(図中の破線)をフィルム9の幅方向と同じ方向に配向させる場合において、図5(A)に示すように、配向軸が、フィルム9の幅方向に対して傾斜してしまった場合に、次のような方法により配向軸を補正することができる。すなわち、図5(B)に示すように、第2内側レール31bを、第2駆動軸20bにより、第2駆動軸20bの軸方向に移動させ、第1クリップ33a−1〜33a−4に対して、第2クリップ33b−1〜33b−4のフィルム9の進行方向への移動を遅らせることにより、フィルム9の配向軸の傾斜を補正することができる。
【0054】
また、本実施形態においては、図3に示すように、一対の駆動軸20(第1駆動軸20aおよび第2駆動軸20b)間の間隔dを一定間隔とすることが好ましい。一対の駆動軸20間の間隔dは、特に限定されないが、200〜5000mmとすることが好ましく、より好ましくは400〜2000mmとする。一対の駆動軸20間の間隔dを上記のように一定間隔とすることにより、第1、第2レール3a,3bの位置を除々に変化させることができ、滑らかなレールパターンを形成し、無理なくフィルム9の配向軸のずれを補正することができる。
【0055】
なお、本実施形態においては、全ての駆動軸20間の間隔dを略等しい間隔とすることがより好ましく、このような構成とすることにより、フィルムの延伸状態に関わらず(すなわち、フィルム延伸開始時や延伸終了前に関わらず)、フィルム9の配向軸のずれを補正することができる。
【0056】
なお、本実施形態では、第1、第2駆動軸20a,20bの回転による第1、第2レール3a,3bの移動は、図1に示す特性測定装置10a,10bによる延伸後のフィルム9のフィルム特性の測定結果に基づいて行う、フィードバック制御を採用している。そのため、フィルム9のフィルム特性をより高精度に制御することができる。特性測定装置10a,10bにより測定するフィルム特性としては、延伸後のフィルム9の厚み、レタデーション、配向角などが挙げられる。
【0057】
本実施形態において、フィルム9の配向軸の配向方向を補正する際の上記第1内側レール31aおよび/または第2内側レール31bの移動距離は、特に限定されないが、通常20〜100mm程度とする。なお、図5(A)、図5(B)中においては、第1外側レール32aおよび第2外側レール32bは、それぞれ省略した。
【0058】
次いで、図4を使用して、第1クリップ33a,34aおよび第2クリップ33b,34bについて詳細に説明する。
図4に示すように、第1クリップ33aは、クリップ台331a、クリップ本体332a、およびピン333aを支点として移動可能となっているクリップレバー334aとから構成されている。この第1クリップ33aは、クリップ台331aを介して、第1内側レール31a上に移動可能に配置されているとともに、クリップレバー334aとクリップ本体332aとで、フィルム9の縁部の一端を把持している。
【0059】
さらに、第1レール本体35aを介して第1内側レール31aと接続されている第1外側レール32a上には、フィルム9を把持していない第1クリップ34aが、同様に、移動可能に配置されている。ただし、第1外側レール32a上の第1クリップ34aは、フィルム9を把持していないため、クリップレバー344aは、第1レール本体35a方向に向いている。
【0060】
なお、第2クリップ33b,34b、第2内側レール31b、第2外側レール32bについても、それぞれ、第1クリップ33a,34a、第1内側レール31a、第1外側レール32aと同様な構成となっている。
【0061】
ただし、第2クリップ33b,34b、第2内側レール31b、第2外側レール32bは、第2保持部30bを介して、第2駆動軸20bと移動自在に接続されており、これに対して、第1クリップ33a,34a、第1内側レール31a、第1外側レール32aは、第1保持部30aを介して、第1駆動軸20a(図4中においては、第2駆動軸20bの裏側に存在している。)と移動自在に接続されている。
【0062】
そして、第2クリップ33b,34b、第2内側レール31b、第2外側レール32bは、第2駆動軸20bが回転することにより、第2駆動軸20bの軸方向に移動可能となっている。同様に、第1クリップ33a,34a、第1内側レール31a、第1外側レール32aは、第1駆動軸20aが回転することにより、第1駆動軸20aの軸方向に移動可能となっている。
【0063】
また、本実施形態においては、図4に示すように、第1駆動軸20aと第2駆動軸20bとは、フィルム送り方向からフィルム引き取り方向に向けて見た場合に、互いに重なり合う部分を有するように形成することが好ましい。このような構成とすることにより、第1レール3aと第2レール3bとを、それぞれ別々の駆動軸(第1駆動軸20aおよび第2駆動軸20b)上に形成した場合においても、多様なレールパターンの形成が可能となり、特に、後述する斜め延伸を良好に行うことができる。
【0064】
次いで、図6〜図9を使用して、本実施形態の斜め延伸について説明する。
本実施形態においては、図2に示すように横延伸のレールパターンとした場合の他、図6または図8に示すような斜め延伸用のレールパターンを採用することもできる。
【0065】
すなわち、図6においては、引取り部7側の第1、第2レール3a,3bのレールパターンが、第1支点36a、第2支点36bを支点とし、第2側壁1b側に傾斜するようなパターンとなるように、第1、第2レール3a,3bを第2側壁1b側に移動させている。そのため、図7に示すように、フィルム9の配向軸(図7中の破線)を、第1支点36a、第2支点36bを境として、フィルム9の幅方向に対して角度θ1の傾斜とすることができる。
【0066】
また、図8においては、引取り部7側の第1、第2レール3a,3bのレールパターンが、第1支点36a、第2支点36bを支点とし、第2側壁1b側に傾斜するようなパターンとするとともに、送り出し部6側の第1、第2レール3a,3bレールパターンも、第2側壁1b側に傾斜するようなパターンとしている。そのため、図9に示すように、フィルム9の配向軸(図9中の破線)を、第1支点36a、第2支点36bを境として、フィルム9の幅方向に対して角度θ2の傾斜とすることができる。
【0067】
特に、図8に示すようなレールパターンを採用した場合においては、第1、第2支点36a,36b付近のレール角度を大きくすることができるため、フィルム9の配向軸の傾斜角度を、比較的に大きくすることができる。そのため、傾斜角を比較的に大きな角度(たとえば、45°程度)とすることが可能となる。
【0068】
本実施形態では、第1レール3aおよび第2レール3bを、略平行に配置された各駆動軸(第1駆動軸20a、第2駆動軸20b)により、それぞれ別々に移動させることができるようになっているため、第1レール3aおよび第2レール3bを比較的自由に移動させることができる。しかも、本実施形態では、送り出し部6および引き取り部7が、駆動軸20に対して、0°〜45°の範囲で移動可能となっている。本実施形態では、第1、第2レール3a,3bは、フィルム9の送り出し部6付近、フィルム9の引き取り部7付近では、第1固定板60a、第2固定板60b、および第1ギア70a、第2ギア70bを介して、第2側壁1b側まで移動させることができ、たとえば図8に示すようなレールパターンを形成することができ、上述のように、フィルム9の配向軸の傾斜角度を比較的に大きくすることができる。
【0069】
本実施形態によれば、第1、第2駆動軸20a,20bにより、第1レール3aと第2レール3bとをそれぞれ異なったレールパターンとすることができる。そのため、この第1レール3aと第2レール3b上に配置され、フィルム9の一端および他端を把持する複数の第1クリップ33aと第2クリップ33bとを、それぞれ独立に移動させることができる。したがって、フィルム9の温度むら等に起因するフィルム9配向軸の配向角のずれを高精度(たとえば、±0.5°の精度)に補正することができるため、本実施形態の延伸装置は、高精度なフィルム特性が要求される光学フィルムなどの製造に好適に用いることができる。
【0070】
第2実施形態
図10、図11に示す本実施形態のフィルム延伸装置は、第1実施形態のフィルム延伸装置と以下に示す以外は、同様な構成と作用を有し、その重複する説明は省略する。
【0071】
本実施形態においては、図10に示すように、レール3の上側および下側に筒状の加熱装置37,38を、予熱ゾーンから延伸ゾーンにかけて配置してある。この加熱装置37は、図10のXI−XI線に沿う断面図である図11(A)に示すように、クリップレバー334a,334b付近(フィルム9aの縁部付近)にそれぞれ一本ずつ配置してあり、同様に、加熱装置38は、クリップ本体332a,332b付近(フィルム9aの縁部付近)にそれぞれ一本ずつ配置してある。本実施形態では、この加熱装置37,38をフィルム9aの縁部付近に配置し、フィルム9aの縁部付近を加温することにより、フィルム9aの幅方向における温度を制御することができ、図11(A)に示すように、フィルム9aの厚みを実質的に均一にすることができる。
【0072】
従来においては、フィルム9bにおいて、縁部付近と比較して中央部付近の温度が高くなる傾向にあった。そのため、図11(B)に示すようにフィルム9bは、中央部付近が薄くなり、縁部付近が厚くなってしまうという不具合が発生するとともに、幅方向のレタデーションが悪化するという問題があった。これに対し、本実施形態では、加熱装置37,38によりフィルム9aの縁部付近を加温することにより、フィルム9aの幅方向の温度むらを解消することができる。そのため、フィルム9aの幅方向の厚みを均一化することができるとともに、レタデーションを改善することができる。
【0073】
各加熱装置37,38の加熱温度は、それぞれ独立に制御できるようにすることが好ましく、加熱温度を独立に制御することにより、より効果的にフィルム厚みを均一化することができる。また、各加熱装置37,38は、第1、第2レール3a,3bとともに移動可能となっており、第1、第2レール3a,3bのレールパターンを変化させた場合においても、フィルム9aの縁部付近を加温可能となっている。
【0074】
さらに、本実施形態では、各加熱装置37,38の加熱温度は、図1に示す特性測定装置10a,10bによる延伸後のフィルム9のフィルム特性の測定結果に基づいて変化させる、フィードバック制御を採用している。そのため、フィルム9の幅方向のフィルム特性をより高精度で制御することができる。
【0075】
なお、本実施形態では、図10に示すように加熱装置37,38を予熱ゾーンから延伸ゾーンにかけて配置したが、たとえば、延伸ゾーンにのみ配置するという方法を採用しても良い。また、本実施形態では、図11(A)に示すように加熱装置37,38を合計4本配置したが、その本数は特に限定されない。本実施形態では、フィルム9aの上側および下側に加熱装置37,38を配置したが、たとえば、フィルム9aの上側にのみ加熱装置を配置しても良い。
【0076】
また、本実施形態において、たとえば、図6あるいは図8に示すようなレールパターンを採用し、斜め延伸を行う場合には、斜め延伸による歪みを解消するために、フィルム9aの幅方向における温度が、第1クリップレバー334a側から、第2クリップレバー334b側に向けて徐々に高くなる、あるいは除々に低くなるような構成としても良い。
【0077】
第3実施形態
図12に示す本実施形態のフィルム延伸装置は、第1実施形態のフィルム延伸装置と以下に示す以外は、同様な構成と作用を有し、その重複する説明は省略する。
【0078】
本実施形態においては、上述の第1実施形態とは異なり、第1駆動軸200aと第2駆動軸200bとを、上下の関係となるように配置した。すなわち、第1クリップ33a、34a、第1内側レール31a、第1外側レール32aは、第2駆動軸200bの下側に位置する第1駆動軸200aに接続されて移動可能となっている。そして、同様に、第2クリップ33b、34b、第2内側レール31b、第2外側レール32bは、第1駆動軸200aの上側に位置する第2駆動軸200bに接続されて移動可能となっている。
【0079】
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0080】
たとえば、上述の実施形態においては、第1、第2レール3a,3bは、第1、第2駆動軸20a,20bをモーターで回転させることにより、それぞれ独立に移動させたが、第1、第2駆動軸20a,20bをシリンダー構造として、圧力を制御することにより、第1、第2レール3a,3bをそれぞれ独立に移動させるような構造としても良い。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0082】
実施例1
まず、光学フィルムの原料樹脂として、ガラス転移温度が136℃であるノルボルネン系樹脂(日本ゼオン(株)製 ZEONOR1420)を準備した。次いで、このノルボルネン系樹脂を、窒素を流通させた熱風乾燥機を用いて温度110℃にて、3時間乾燥し、常法により、Tダイ式溶融押出成形装置により、幅1000mm、厚さ100μmのフィルムとし、ロール状に巻き取ることにより、ノルボルネン系樹脂の未延伸フィルムを得た。
【0083】
上記にて得られたノルボルネン系樹脂の延伸フィルムを、図1〜図4に示す延伸装置を用いて、以下に示す方法により延伸し、延伸フィルムを得た。
すなわち、まず、オーブン1の手前の第1、第2把持部分31a−1,31b−1付近にて、フィルム供給ロール11から送られてくる未延伸フィルムの両端を、第1クリップ33aおよび第2クリップ33bで把持した。なお、未延伸フィルムを把持する際には、第1、第2クリップ33a,33bのクリップレバー334a,334bを、クリップクリップクローザーにより動かすことにより、未延伸フィルムを把持した。次いで、把持した未延伸のフィルムを上記第1、第2クリップ33a,33bにより、オーブン1内の予熱ゾーン、延伸ゾーンおよび熱固定ゾーンを通過させることにより加熱すると共に、幅方向に延伸し、延伸フィルムを得た。
【0084】
なお、加熱および延伸する際におけるフィルム移動速度は、10m/分とした。また、予熱ゾーンの温度を153℃、延伸ゾーンの温度を150℃、熱固定ゾーンの温度を140℃とした。また、延伸前後におけるフィルムの延伸倍率(出口グリップ間隔を入口グリップ間隔で除した数値)は1.6倍とし、延伸後のフィルムの幅が、1600mmとなるようにした。なお、フィルムを加熱および延伸する際には、いわゆる「ボーイング現象」を解消するとともに、配向角が0°になるように、最適なレールパターンを組んで延伸を行った。
【0085】
次いで、得られた延伸フィルムの両端にトリミング処理を施し、最終的なフィルム幅を1400mmとした。そして、得られた延伸フィルムについて、以下に示す方法により、幅方向のレタデーション(Re)、幅方向の配向角、およびフィルム厚みを測定した。なお、各測定におけるサンプルは、延伸フィルムを幅方向と平行な方向に、幅60mmでカットすることにより調製した。
【0086】
幅方向のレタデーション(Re)
上記にて得られたフィルムについて、Re測定装置(王子計測製 KOBURA−21SDH)を用いて、幅方向のReを測定した。測定は、得られた1400mm幅のフィルムに対して、左端部から右端部まで、幅方向に沿って100mm間隔で行った。すなわち、左端部(0mm)〜右端部(1400mm)まで、合計15点の測定を行った。なお、この15点の測定は、フィルムの長さ(MD)方向50m毎に3回の測定(すなわち、15点×3回の測定)を行い、この3回の測定値の平均を求めることにより行った。測定の結果得られたフィルムのReのバラツキ(Reの最大値と最小値との差)を表1に示す。Reのバラツキは、小さいほうが好ましい。
【0087】
幅方向の配向角
上記にて得られたフィルムについて、偏向顕微鏡(ニコン製)を用いて、幅方向の配向角を測定した。なお、測定は、上述の幅方向のReと同様に行った。すなわち、幅方向に沿って100mm間隔で15点の測定を、3回行い、その平均値を求めた。フィルムの幅方向の配向角の測定結果を、配向角評価として、表1に示す。なお、本実施例では、幅(TD)方向を0°とした時に、幅方向において、配向角が±1°以内となっている幅長さを求めることにより評価した。すなわち、表1において、配向角評価が、1000mmである場合には、幅方向1000mmに渡り、配向角が±1°であったことを意味する。配向角評価の値は、大きいほうが好ましい。
【0088】
幅方向のフィルム厚み
上記にて得られたフィルムについて、デジマチックシックネスゲージ(ミツトヨ製)を用いて、幅方向のフィルム厚みを測定した。なお、測定は、上述の幅方向のReと同様に行った。すなわち、幅方向に沿って100mm間隔で15点の測定を、3回行い、その平均値を求めた。測定の結果得られた幅方向のフィルム厚みのバラツキ(フィルム厚みの最大値と最小値との差)を表1に示す。幅方向のフィルム厚みのバラツキは、小さいほうが好ましい。
【0089】
実施例2
実施例1の延伸条件に加えさらに、図10および図11(A)に示すようなフィルムの幅方向に渡って温度制御をするための加熱装置37,38を使用して延伸を行った以外は実施例1と同様にして、延伸フィルムを製造し、得られた延伸フィルムについて、実施例1と同様にして、幅方向のRe、幅方向の配向角、およびフィルム厚みを測定した。得られた測定結果を表1に示す。なお、実施例2においては、加熱装置37,38は、延伸後の幅方向フィルム厚さが、延伸前の幅方向フィルム厚さ分布と同程度になるように温度制御を行った。
【0090】
【表1】

【0091】
評価1
実施例1,2の幅方向のRe、幅方向の配向角、およびフィルム厚みの測定結果を表1に示す。
表1より、左右各一対のガイドレールが左右独立に移動する機構を有する本発明の延伸装置を使用した実施例1,2においては、幅方向のRe、幅方向の配向角、およびフィルム厚みのいずれも良好な結果となった。特に、実施例2においては、左右各一対のガイドレールが左右独立に移動する機構に加えて、フィルムの幅方向に渡って温度制御をするための加熱装置を使用したため、各特性が大幅に改善されていることが確認できる。
【0092】
実施例3
フィルム移動速度を8m/分、予熱ゾーンの温度を140℃、延伸ゾーンの温度を140℃、熱固定ゾーンの温度を140℃とし、フィルムの延伸倍率を1.4倍とし、配向角が15°となるように、送り出し部6および第1、第2レール3a,3bを調製した以外は、実施例1と同様にして、配向角が15°の延伸フィルムを製造し、得られた延伸フィルムについて、実施例1と同様にして、幅方向のRe、幅方向の配向角、およびフィルム厚みを測定した。得られた測定結果を表2に示す。なお、実施例3においては、延伸後のフィルムの幅は1400mmであり、幅1400mmのフィルム両端にトリミング処理を施し、最終的なフィルム幅を1200mmとした。
【0093】
【表2】

【0094】
評価2
実施例3の幅方向のRe、幅方向の配向角、およびフィルム厚みの測定結果を表2に示す。実施例3においては、フィルムのシワが発生せず、フィルムの長尺での巻き取りが可能であった。
【0095】
表2より、送り出し部6および第1、第2レール3a,3bを調製することにより、配向角を15°とした実施例3においては、配向角を0°以外の一定角度とした場合においても、幅方向のRe、幅方向の配向角、およびフィルム厚みのいずれも良好な結果となった。
【0096】
なお、実施例1〜3においては、光学フィルムの原料樹脂として、ノルボルネン系樹脂を例示したが、ノルボルネン系樹脂以外の光学特性に優れた樹脂を使用した場合においても、同様な結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係るフィルム延伸装置の概略断面図である。
【図2】図2は図1に示すII−II線に沿うフィルム延伸装置の断面図である。
【図3】図3は本発明の一実施形態に係るフィルム延伸装置の第1、第2レール付近における拡大図である。
【図4】図4は図3に示すIV−IV線に沿う第1、第2レール付近における要部断面図である。
【図5】図5(A)は配向軸を補正する前のフィルムの状態を表す図、図5(B)は配向軸を補正した後のフィルムの状態を表す図である。
【図6】図6は斜め延伸時におけるフィルム延伸装置の断面図である。
【図7】図7は斜め延伸時におけるフィルムの状態を表す図である。
【図8】図8は斜め延伸時におけるフィルム延伸装置の断面図である。
【図9】図9は斜め延伸時におけるフィルムの状態を表す図である。
【図10】図10は本発明の他の実施形態に係るフィルム延伸装置の断面図である。
【図11】図11(A)は図3に示すXI−XI線に沿う第1、第2レール付近における要部断面図、図11(B)は従来における第1、第2レール付近における要部断面図である。
【図12】図12は本発明の他の実施形態に係る第1、第2レール付近における要部断面図である。
【符号の説明】
【0098】
1… オーブン
1a… 第1側壁
1b… 第2側壁
3… レール
3a… 第1レール
31a… 第1内側レール
32a… 第1外側レール
3b… 第2レール
31b… 第2内側レール
32b… 第2外側レール
33a,34a… 第1クリップ
33b,34b… 第2クリップ
9… フィルム
10a,10b… 特性測定装置
20… 駆動軸
20a… 第1駆動軸
20b… 第2駆動軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムを加熱するための加熱炉と、
フィルムを送るための送り出し部分と、
前記送り出し部分から連続的に送られるフィルムの幅方向両端部を把持する左右各複数対のクリップと、
前記各クリップの走行を案内する左右各一対のガイドレールと、
前記ガイドレールを移動させる複数の駆動軸と、を備え、
前記加熱炉内に前記フィルムを通過させるとともに、前記クリップによって把持させた前記フィルムを延伸することができるフィルム延伸装置において、
複数の前記駆動軸が、略平行に形成されており、かつ、
前記駆動軸によって、前記左右各一対のガイドレールが左右独立に移動することで、前記ガイドレールのレールパターンを変化できるようになっていることを特徴とするフィルム延伸装置。
【請求項2】
前記左右各一対のガイドレールが、それぞれ別々の駆動軸上に形成されている請求項1に記載のフィルム延伸装置。
【請求項3】
前記送り出し部分は、複数の前記駆動軸に対して所定角度で前記フィルムを送り出せるように、移動可能となっている請求項1または2に記載のフィルム延伸装置。
【請求項4】
前記フィルム延伸装置は、さらに、フィルム引き取り部分を有しており、
複数の前記駆動軸に対して所定角度でフィルムを引き取れるように、前記フィルム引き取り部分が、移動可能となっている請求項1〜3のいずれかに記載のフィルム延伸装置。
【請求項5】
前記フィルム延伸装置は、さらに、延伸後のフィルムのフィルム特性を測定するためのフィルム特性測定装置を具備しており、
前記フィルム特性測定装置による前記延伸後のフィルム特性の測定結果に基づいて、前記左右各一対のガイドレールが、複数の前記駆動軸によって、左右独立に移動可能となっている請求項1〜4のいずれかに記載のフィルム延伸装置。
【請求項6】
前記フィルム延伸装置は、フィルムの幅方向に渡って温度制御できるようになっている加熱手段を、さらに有している請求項1〜5のいずれかに記載のフィルム延伸装置。
【請求項7】
前記加熱手段は、前記フィルム特性測定装置による前記延伸後のフィルム特性の測定結果に基づいて、温度制御可能となっている請求項6に記載のフィルム延伸装置。
【請求項8】
フィルムを連続的に送り出し、送られた前記フィルムの幅方向両端部を、左右各複数対のクリップで把持し、
前記クリップにより前記フィルムを幅方向両端部を把持した状態で、前記フィルムを加熱するとともに、前記左右各複数対のクリップを、左右各一対のガイドレール上を走行させることにより前記フィルムを延伸する方法であって、
前記左右各一対のガイドレールが、略平行に形成された複数の駆動軸上に配置されており、
複数の前記駆動軸により、前記左右各一対のガイドレールを左右独立に移動させ、前記ガイドレールのレールパターンを変化させることを特徴とするフィルム延伸方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−159775(P2006−159775A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−357065(P2004−357065)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】