説明

フィルム忌避製剤

【課題】
蚊を近寄らせず、蚊が肌に止まらないようにし、たとえ蚊が肌に止まっても蚊に刺させないためのフィルムを皮膚上に形成するフィルム忌避製剤を提供する。
【解決手段】
ニトロセルロースを、アセトン、酢酸3−メチルブチル又は酢酸イソブチルの混合物に溶解し、更に、溶解剤としてエチルアルコールを添加した基剤に、ひまし油及びジメチルシリコーンオイルを含有させ、必要に応じて、忌避成分や、柔軟性や強度を高める成分や、保湿剤等を含有させ、皮膚に塗布した後に溶解剤が揮散し塗布部位の皮膚上に透明或いは半透明の膜を形成するフィルム忌避製剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は害虫、特に蚊に対する忌避製剤に関し、特に皮膚上に薄い膜を形成するフィルム忌避製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の害虫忌避剤は天然或いは合成の忌避成分をローション、スプレー等の外用液剤の投与形態で衣服や露出した肌に直接投与するのが一般的であった。更に忌避効果を有する成分をマイクロカプセルで包摂して繊維に付着処理し、その繊維で虫除けを目的とした衣料を作成したり、シリコンゴムに混入して輪状に整形し、虫除けリングとして外出時に手首や足首にリングを装着するのが現状である(特許文献1)。
なお、フィルムを形成する皮膚外用剤として、特許文献2及び特許文献3として、ピロキシリン、アセトン、エタノールと薬効成分を含有させるものが提案されている。
更に、ニトロセルロースとエタノールの溶液にひまし油を加えた外用組成物が、特許文献4に提案されており、皮膚上に使用する外用剤にオリーブ油を含有させることは、特許文献5、特許文献6として提案されている。
【特許文献1】特開2004-51564号公報
【特許文献2】特開平05-58914号公報
【特許文献3】特開昭47-39621号公報
【特許文献4】特開2003-514835号公報
【特許文献5】特開2003-73263号公報
【特許文献6】特願2006-160606号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近時、地球温暖化に伴い、熱帯地域の蚊が上陸する北限が上昇して蚊によるウイルスの感染源が拡大している現状にある。特に、近年において多数の発病者を出した西ナイル熱ウイルスが大きな問題となっている。感染ルートはペットとして輸入された野鳥によりウイルスが国内に持ち込まれたり、感染地域の蚊が航空機や船舶で運ばれた可能性がある。西ナイル熱ウイルスに感染すると2日から14日の潜伏期間の後、突然39度を越す高熱をだし、発疹と共に頭痛、筋肉痛等の症状が出て新型肺炎に類似した症状も見られる。感染者の約20%が発病し、その1%が重症化し、脳炎を起こして死に至るといわれている。又、蚊はマラリア、黄熱病、フィラリア、デング熱などの病気を媒介する。これらの危険性を持った害虫、特に蚊に対して刺されない為の防御方法として殺虫剤を利用する方法があるが不特定多数の箇所に殺虫剤を使用することは実際に不可能であり、又、殺虫剤は人体に付着したり、呼吸により吸引した場合は健康に害を及ぼす危険性が大である。
【0004】
これに対して忌避剤を利用する方法は採用する忌避成分が天然由来の植物やハーブ類が多く、肌に直接振りかけても、吸気により吸入しても安全であることからスプレー、軟膏、クリーム、ジェルといった外用製剤として利用されている。又、これらの成分を繊維に加工して衣服に仕立てて蚊を防御したり、シリコンリングに加工して手首に嵌めることで蚊を寄せ付けない方法が取り入れられている。蚊は動物の呼吸で発生する二酸化炭素をセンサーで感知して近づき、動物の体温で生み出される上昇気流を感じると下降して刺すという優れた機能を持っている。
【0005】
特に、体温の高い人や子供やお酒を飲んだ人では同じ原理で刺されやすい傾向にある。忌避剤の蚊に対する忌避率は開放系であるために50〜60%であり、蚊から完全に逃れることは不可能である。肌に忌避剤を塗ったり、吹き付けるタイプの製剤では忌避効果は上がるものの肌に止まった蚊の何割かは刺すことが現実である。
本発明は、上述した現状の問題点に鑑みてなされたもので、その課題は、いかに蚊を近寄らせず、いかに肌に止まらせず、たとえ肌に止まっても蚊に刺させないためには如何にすればよいかという点にある。
なお、フィルムを形成させる前掲の特許文献2乃至特許文献6は、フィルムを形成するものであるが、人の皮膚において、蚊など害虫に刺されないようにガードするものではなく、特に、忌避剤を含ませるという技術思想はない。
本発明のもう一つの課題は、従来のフィルムを形成する皮膚外用剤によってフィルムが皮膚に形成されても、運動する際に違和感を感じることなく、又、ニトロセルロースの独特の臭いを薄めるようにする点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、生薬やハーブ等の忌避成分の特性と忌避効果を落とさずに、より以上の害虫(蚊)に刺されることに対する確実な防御効果と安全性と利便性を兼ね備えた簡便な新規製剤についていろいろと考察し、実験と試作を重ねた。そして、従来の忌避製剤の代表であるスプレー剤と蚊に刺された後の治療用のパッチ製剤、クリーム製剤、ジェル製剤、貼付剤の特徴(ジェルの使用前の剤形:液体に近い半固形、スプレーの組成:液体、パッチ・貼付剤の使用後の剤形:半固形)を活かした組成の新ジェル剤型を試作してみた。新ジェル製剤を皮膚に適用してみると使用前は半固形のジェル状であったものが皮膚に薄く塗布した後、時間経過とともに塗布した皮膚上でパッチ製剤に近い皮膜を形成した。
本発明者は、この事実を基にして更に研究を重ねた結果、この発明を完成させることができた。
【0007】
この発明に係るフィルム製剤は前記課題を解決したものであって、請求項1の発明は、ニトロセルロースを、アセトン、酢酸3−メチルブチル又は酢酸イソブチルの混合物に溶解し、更に、溶解剤としてエチルアルコールを添加して基剤とし、該基材にひまし油及びジメチルシリコーンオイルを含有させ、皮膚に塗布した後に溶解剤が揮散し塗布部位の皮膚上に透明或いは半透明の膜を形成して、虫に刺されることを防ぐことを特徴とするフィルム忌避製剤である。
請求項2の発明は、前記基剤の中に溶解する忌避成分として、DEET、トルアミド系複合化合物、除虫菊エキス、及びレモンユーカリ、レモングラス、ミント、シトロネラ、ブラックパイン、クローブ、ジャスミン、ビャクダン、ペパーミント、ラベンダー、ユーカリ、ティートリー、ゼラニウム、レモン、シナモンから選択されるエッセンシャルオイルの1種類以上を含有させたことを特徴とする請求項1に記載のフィルム忌避製剤である。この場合に、忌避成分が多すぎるとフィルム形成が出来なくなるので5重量%程度以下が良く、蚊等の虫を寄せ付けないようにするには0.05重量%以上を混合すればよい。
【0008】
すなわち、上述した各発明は、ニトロセルロースをアセトン、酢酸3−メチルブチル又は酢酸イソブチルに溶解し、更に溶解剤としてエチルアルコールを添加したものに忌避成分を適量(有効量)加えて、更に補助成分としてひまし油とジメチルシリコーンオイルを配合して製剤としたものであり、皮膚に塗布した後溶剤が揮散し、透明、或いは半透明のフィルムを塗布した部位の皮膚上に即座に形成することにより塗付部位をシールドし、忌避成分の揮散を抑制(コントロール)し、忌避効果の持続性を発揮する。更に形成されたフィルムで肌をシールドすることによって忌避作用を示さずに肌に残った蚊が針で刺すことを防御する。つまり肌に防御盾に相当する膜を形成するのである。
忌避成分を塗付した部位と水分との直接の接触を防止することによって手洗い等によって塗付した忌避成分が肌から流出するのを防ぎ、更に衣服等の接触による忌避成分の喪失を防ぐことが忌避効果の持続性を高めることにつながる。形成されたフィルムは半ODT(半密封)であり通気性を有するために従来のパッチ製剤に特徴的な貼付部位の副作用(かぶれ、発赤、水泡等)はまったく認められていない。
又、非水性であるため含有成分の安定性が高く、一般的な外用製剤に特有の皮膚に対する悪影響を及ぼす危険性のある防腐剤や界面活性剤を使用する必要も全く無い。
【発明の効果】
【0009】
本発明のフィルム忌避製剤によれば、ニトロセルロースを、アセトン、酢酸3−メチルブチル又は酢酸イソブチルの混合物に溶解し、更に溶解剤としてエチルアルコールを添加して基剤とし、必要に応じて、忌避成分を加えて、補助成分としてひまし油とジメチルシリコーンオイルを配合したものであり、皮膚に塗布した後溶剤が揮散し、透明、或いは半透明の皮膜を皮膚上に形成することにより塗付部位を密封・保護し、含有忌避成分の蒸散忌避効果とその持続性を高め、蚊の飛来と止まりを予防し、更に忌避作用を示さなかった蚊が肌に止まって刺すことを防止する。最悪の場合にたとえ刺されても形成された皮膜によって痒みによる患部を掻き壊しによる炎症の発生も防止することができる。更に、フィルム自体が忌避成分を含有するために蚊の触角を刺激し、接触忌避効果を発揮する。
又、忌避成分を含有しない基剤単独でも膏体を薄く塗布した皮膚上に皮膜を形成することによって皮膚自体をガードし、衣服や草木等による擦過といった物理的刺激から皮膚を守る作用を発揮する。つまり強靭な第二の人工角質層にもなりうる作用を有する。
更に、ニトロセルロース等のフィルム形成の基材だけでも膜を形成するが、柔軟補助成分としてジメチルシリコーンオイルとひまし油とを配合し、人間の手足等の皮膚が伸び縮みする部位には、簡単に剥げ落ちることや、亀裂が生じることがない。特に、ジメチルシリコーンオイルを配合すると飛躍的に柔軟性と密封性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明のフィルム忌避製剤の好適な実施例について説明する。
[実施例1]
本発明の皮膚上にフィルムを形成するフィルム忌避製剤の好適な実施例1を説明するが、先ず、この実施例1の配合比を次の[表1]に示す。
実施例1の成分比
[表1][組成比:重量%]
ニトロセルロース・・・・・・・・・・6.0
エチルアルコール・・・・・・・・・74.0
酢酸3−メチルブチル・・・・・・・・5.0
アセトン・・・・・・・・・・・・・10.0
ジメチルシリコーンオイル・・・・・・4.0
ひまし油・・・・・・・・・・・・・・1.0
【0011】
[調製方法]
上記の組成比になるように実施例1のフィルム製剤は、次のような手順で調製する。先ず、ニトロセルロースの2〜10重量%、好ましくは6.0重量%を、酢酸3−メチルブチルの3〜8重量%、好ましくは5.0重量%に溶解させたのち、更にアセトン12〜8重量%、好ましくは10.0重量%を添加して、液温30℃にて良く攪拌する。 次に、この溶解液にエチルアルコール80〜60重量%、好ましくは74.0重量%を加えて良く攪拌したのち、ジメチルシリコーンオイル((信越化学工業(株):シリコーンKF-96-1000CS)、商品名「ジメチコン」粘度1000(25℃mm2/S),比重0.970,屈折率10403,揮発分0.5以下(150℃/24h%),流動点-50℃以下,引火点315℃以上)を1〜5重量%、好ましくは4.0重量%が良く(1重量%以上で膜の柔軟性が増すが、多すぎると却って膜が弱くなる。)、この重量%を攪拌下に少量ずつ添加し、更に、同様に、ひまし油を0.3〜3重量%、好ましくは1.0重量%(1重量%以上で膜の柔軟性が増すが、多すぎると却って膜が弱くなる。)を攪拌下に少量ずつ添加し、3時間撹拌・練合した後、24時間室温放置して製造する。
本実施例では、フィルムの形成素材としてニトロセルロースを、フィルム形成及び溶解剤として酢酸3−メチルブチルとアセトンを、純然たる溶解剤としてエチルアルコールを混合して基材としている。さらに、この基材に液状の柔軟剤である油脂であるひまし油とジメチルシリコーンオイルを皮膜の柔軟性と密封性とを向上させ、皮膚のフィット感を増強させ、これに伴って蚊等の虫が刺すこと対する皮膚の強度を向上させている。
ここで、酢酸3−メチルブチルを添加するのは、ニトロセルロースの溶解性を高めると同時に揮発成分が揮散するときのニトロセルロースの分子間を結合し、膜形成を補助するためである。又、ジメチルシリコーンオイルを添加するのは形成された皮膜の柔軟性を高めると同時に皮膚への親和性(密着性)を高めるもので、ひまし油だけの場合と比較して、これらの機能が飛躍的に向上するが、これは、ジメチルシリコーンオイルがニトロセルロースの分子間結合の空間を補充する、つまり、細胞と細胞とを充填する細胞液(保湿成分)として作用するためと考えられる。
【0012】
[実施例2]
次に、本発明の皮膚上にフィルムを形成するフィルム忌避製剤の好適な実施例2を説明するが、先ず、この実施例2の配合比を次の[表2]に示す。
実施例2の成分比
[表2][組成比:重量%] 実施例2
ニトロセルロース・・・・・・6.0
エチルアルコール・・・・・67.2
酢酸3−メチルブチル・・・・5.0
アセトン・・・・・・・・・10.0
レモンユーカリ・・・・・・・0.3
DEET・・・・・・・・・・5.0
キチン・キトサン・・・・・・1.5
ゴマ油・・・・・・・・・・・3.0
ジメチルシリコーンオイル・・1.0
ひまし油・・・・・・・・・・1.0
【0013】
[調製方法]
上記の組成比になるように本実施例のフィルム製剤は、次のような手順で調製する。先ず、ニトロセルロースの2〜10重量%、好ましくは6.0重量%を、酢酸3−メチルブチルの3〜8重量%、好ましくは5.0重量%に溶解させたのち、更に、アセトン12〜8重量%、好ましくは10.0重量%を添加して液温30℃にて良く攪拌する。
次に、この溶解液にエチルアルコールの80〜60重量%、好ましくは67.2重量%を加えて良く攪拌したのち、レモンユーカリ、DEET、ジメチルシリコーンオイル、ゴマ油、ひまし油、最後にキチン・キトサンと順次攪拌下に少量ずつ添加し、3時間撹拌・練合した後、24時間室温放置して製造する。
すなわち、上記のニトロセルロースがフィルム形成素材であり、酢酸3−メチルブチル、アセトン、エチルアルコールは揮発する溶剤(フィルム形成成分(基材)にも関与)で塗布後30秒から1分程度でが揮発するとともに、製剤の表面にフィルムが形成されるようにする。
ここで、酢酸3−メチルブチル、及び、ジメチルシリコーンオイルを添加するのは、実施例1と同じ理由である。
実施例2と実施例1が異なるのは、蚊等の害虫に対する忌避成分を含ませたものであるが、上記実施例2の組成において、忌避成分は通常虫除け剤として使用されているDEET(ジエチルトルアミド)の5.0〜15.0重量%、好ましくは5.0重量%を、レモンユーカリの0.6〜0.1重量%、好ましくは0.3重量%を攪拌添加する。
又、形成される膜であるフィルムの摩擦係数を調整し、フィルムの強度、柔軟性、更には密封性を高めるための材料(強度向上剤、柔軟剤、密封剤)として、ゴマ油の6.0〜1.0重量%、好ましくは3.0重量%を攪拌添加し、ジメチルシリコーンオイル(実施例1と同じ)を1〜6重量%、好ましくは1.0重量%を攪拌添加し、更に、ひまし油の4.0〜0.5重量%、好ましくは1.0重量%を攪拌添加する。
これらの強度向上剤、柔軟剤、密封剤としては、前記実施例でのひまし油、ゴマ油、ジメチルシリコーンオイルの他に、馬油、ゴマ油、ひまし油の外に、アセチル化ヒアルロン酸、ミツロウ、カルナバロウ、ラノリン、シソオイル、エゴマ油、オリーブ油、ヒノキオイル、ひまし油の天然油が使用できる。
更に、皮膚へのなじみや保湿性といった生体適合性の改善や皮膜の補強を目的とした皮膜形成補助剤として、キチン・キトサンの3.0〜0.5重量%、好ましくは1.5重量%を攪拌添加する。
【0014】
[蚊忌避試験1]
上記の組成、及び調整方法で製造した実施例1及び実施例2のフィルム忌避製剤の作用・効果を以下の条件で検証した。
(1)被検体:
実施例1及び2のフィルム忌避製剤(上記のフィルム忌避製剤:以下「実施例1」「実施例2」という。)
比較例1:通常市販の忌避スプレー製剤(C社製忌避ハーブ配合スプレー製剤:以下「比較例1」という。)、ただし、次の(2)のにように被験者は異なる。
(2)被験者:成人ボランティア2群(A群、B群)×5名(10名)
(男性48歳〜60歳)
【0015】
(3)試験方法:
ボランティア5名(A群)の左手と左足の全面に実施例2を塗付し、同一人物の右手と右足に比較例1(A群)を同様に塗付し、又、別のボランティア5名(B群)の左手と左足の全面に実施例1を塗付し、同一人物の右手と右足に比較例1(B群)を同様に塗付した。
塗付10分後にやぶ蚊が生息する山地(香川県東かがわ市白鳥秋葉山麓)に夕方6時から7時までの1時間、椅子に座った状態でフィールド試験を実施した。やぶ蚊の飛来数(肌にとまった回数)と実際に肌を刺した箇所の数を計測し、10例(被験者1〜5,1a〜5a)の各積算数を求めた。
【0016】
(4)試験結果
[蚊忌避試験1]の試験結果を図1の(表3)と図2のグラフに示して説明する。
実施例1(B群)では蚊の飛来数では左手で4匹、左足で5匹であったが刺された回数は手足ともに0であった。実施例2(A群)では、蚊の飛来数では左手で2匹、左足で2匹であったが刺された回数は手足ともに0であった。
これに対して、A群の比較例1は蚊の飛来数で右手10匹、右足11匹であり、刺された回数も飛来数と同じであり右手10回、右足11回であった。又、B群の比較例1は蚊の飛来数で右手12匹、右足13匹であり、刺された回数は飛来数とほぼ同じの右手11回、右足13回であった。
以上の結果から、実施例2では比較例1(A群)に比べて蚊の飛来数も1/5と少なく、実施例1では実施例2に比べて飛来数はやや多いが、比較例1(B群)に比べて蚊の飛来数も1/3と少なく、実際に刺された回数は実施例1及び実施例2とも0であり、比較例1が飛来数と同じ回数刺されたのに比べても遥かに優れた忌避効果と吸刺防止効果が確認された。
【0017】
[蚊忌避試験2]
前述した組成、及び調製方法で製造した実施例1及び、実施例2のフィルム忌避製剤と、更に、実施例3を調製して[蚊忌避試験2]を行った。
[実施例3]
実施例3の成分比
[表4][組成比:重量%]
ニトロセルロース・・・・・・・・8.0
ポリビニルアルコール・・・・・・1.0
エチルアルコール・・・・・・・71.2
酢酸イソブチル・・・・・・・・・5.0
アセトン・・・・・・・・・・・10.0
除虫菊エキス・・・・・・・・・・0.5
ジャスミン・・・・・・・・・・・0.3
キチン・キトサン・・・・・・・・1.0
ジメチルシリコーンオイル・・・・2.0
ひまし油・・・・・・・・・・・・1.0
【0018】
[調整方法]
上記の組成比になるように本実施例3のフィルム製剤は次のような手順で調整する。
先ず、実施例2とほぼ同様に、ニトロセルロースの2〜10重量%、好ましくは8.0重量%と、ポリビニルアルコール0.5〜2重量%、好ましくは1.0重量%を、酢酸イソブチルの攪拌下で溶解させた後、更に、アセトンを添加して液温約30℃にて良く攪拌する。次に、この攪拌液にエチルアルコール71.2重量%を加えて約30分攪拌した後、除虫菊エキス、ジャスミンを順次攪拌下に少量ずつ添加し、最後の成分を添加後3時間攪拌する。その後24時間室温にて放置して製造する。
すなわち、上記のニトロセルロース、ポリビニルアルコールがフィルム形成素材であり、酢酸イソブチル、アセトン、エチルアルコールは揮発する溶剤で塗布後1分から2分程度で揮発するとともに、製剤の表面にフィルムが形成されるようにする。
ここで、酢酸イソブチルを添加するのは、酢酸3−メチルブチルと同様にニトロセルロースの溶解性を高めると同時に揮発成分が揮散するときのニトロセルロースの分子間を結合し、膜形成を補助するためである。又、ジメチルシリコーンオイルを添加するのは、実施例1と同様に形成された皮膜の柔軟性を高めると同時に皮膚への親和性(密着性)を高めるものである。
上記組成の実施例3おける忌避成分として、通常虫除け剤として使用されている除虫菊エキス、の0.8〜0.05重量%、好ましくは0.5重量%を、ジャスミンの0.6〜0.1重量%、好ましくは0.3重量%を攪拌添加する。
又、膜形成時の膜に強度と柔軟性と密封性を高める目的で、ジメチルシリコーンオイル(実施例1に同じ)を1〜6重量%、好ましくは2.0重量%を攪拌添加し、更に、ひまし油の4.0〜0.5重量%、好ましくは1.0重量%を攪拌添加する。更に、皮膚へのなじみや保湿性といった生体適合性の改善や皮膜の補強を目的とした皮膜形成補助剤として、キチン・キトサンの3.0〜0.5重量%、好ましくは1.0重量%を攪拌添加する。
【0019】
以上の実施例1、実施例2、及び、追加した実施例3のフィルム忌避製剤の蚊に対する忌避効果を以下の条件で検証した。
(1)被検体:フィルム忌避製剤(上記の実施例1、実施例2、実施例3の製剤)
対照製品:通常市販の忌避スプレー製剤の比較例2(通常市販の忌避スプレー製剤:C社製レモンユーカリ配合スプレー製剤)、及び、無処置を比較例3
【0020】
(2)試験方法:
雌のヘアレスマウスの背部全面に実施例1、実施例2、実施例3を塗付し、数分後に皮膜形成を確認した後、ステンレス製固定ゲージ(14×40×10cm)の中に入れた。同様に比較例2をヘアレスマウスの背部前面にスプレーした後、同じゲージに入れた。ヘアレスマウスが安定した後、アカイエカ30匹の供試験虫(ジエチルエーテルで麻酔し、予め雌成虫のみを選別しておいたもの)を放したゲージの中に入れ、1〜6時間後に吸血数をカウントし、各製剤の吸血率(吸血した供試虫/全供試虫×100)を求めた。比較例3として忌避成分無処理のヘアレスマウスも同様に同一ゲージ内で試験観察した。
【0021】
(3)試験結果:
[蚊忌避試験2]の試験結果を図3の(表5)に示して説明する。
無処置対照の比較例3のヘアレスマウスは、設定1時間後に10箇所、2時間後12箇所、3時間後18箇所、6時間後28箇所と経時的に吸血回数は増加し、最終6時間後の吸血率は93.360%となった。比較例2も設定1時間後3箇所、2時間後7箇所、3時間後10箇所、6時間後23箇所と経時的に増加したが無処置の比較例3に比較してはやや少なく、3時間後18箇所で33.3%であったが、最終6時間後の吸血率は76.6と忌避効果が薄れると急激に上昇した。これに対して実施例1、実施例2、実施例3では3時間の試験期間中、全く刺されることは無く吸血率0%であった。
このように、従来の市販の忌避剤は効果は1時間程度で薄れてきて、6時間も経つと無処置と同様程度に薄れてしまうが、本発明の実施例1乃至3のフィルム忌避製剤は、皮膚上に膜を形成することにより塗付部位を密封して蚊の攻撃からか保護し、又、保護効果や忌避効果は確実に長時間維持し、これらの効果が6時間以上の持続性を維持することが判る。
【0022】
ここで、実施例2及び実施例3のフィルム忌避製剤におけるフィルム形成状態と柔軟性を検証するため、次の[表6]に示すように、フィルム形成剤として酢酸3−メチルブチル及び酢酸イソブチルを含まない比較例4と、ジメチルシリコーンオイルを含まない比較例5の試料を作成して比較検証した。
[比較例4]、及び、[比較例5]
比較例4、比較例5の成分比
[表6][組成比:重量%] 比較例4 比較例5
ニトロセルロース・・・・・・6.0 6.0
エチルアルコール・・・・・72.2 68.2
酢酸3−メチルブチル・・・・0.0 5.0
アセトン・・・・・・・・・10.0 10.0
レモンユーカリ・・・・・・・0.3 0.3
DEET・・・・・・・・・・5.0 5.0
キチン・キトサン・・・・・・1.5 1.5
ゴマ油・・・・・・・・・・・3.0 3.0
ジメチルシリコーンオイル・・1.0 0.0
ひまし油・・・・・・・・・・1.0 1.0
【0023】
[比較例4、5の調製方法]
上記の組成比になるように比較例4は、ニトロセルロースにアセトンとエチルアルコールを加えて液温30℃にて良く攪拌したのち、レモンユーカリ、DEET、ジメチルシリコーンオイル、ゴマ油、ひまし油、キチン・キトサンと順次攪拌下に少量ずつ添加し、以下処方1と同様に調製する。
同様に、比較例5は、ニトロセルロースに酢酸3−メチルブチル、アセトンを添加して液温30℃にて良く攪拌する。次にこの溶解液にエチルアルコールを加えて良く攪拌したのち、レモンユーカリ、DEET、ゴマ油、ひまし油、キチン・キトサンを順次攪拌下に少量ずつ添加し、上記比較例4と同様に調製する。
【0024】
[被膜形成試験]
上記の実施例2及び実施例3と、上記の比較例4及び比較例5のフィルム忌避製剤の被膜形成状態と柔軟性を以下の条件で検証した。
(1)被検体
実施例2、実施例3、比較例4、比較例5、
(2)試験方法
スライドグラス上に、実施例2、実施例3、比較例4、比較例5を、各々綿棒を用いて2cm×2cmの面積を各3箇所に一定量を均一に塗付した。室温にて1〜3分後の被膜の形成状態を目視にて確認した。物理的に被膜(フィルム)が形成されていることを確認するために、被膜が形成されたスライドグラスを生理食塩水に浸漬して1時間後にピンセットを用いて被膜の剥離を確認した。
又、上記のスライドグラスとは別に、成人男性ボランティア(3人)の手の甲に、上記と同様に2cm×2cmの面積に被検体を塗付し、1〜5分後の被膜の形成を目視にて確認した。次に手をバスケット内の水に浸漬し、手の甲での被膜の形成を目視にて確認した。
【0025】
(3)試験結果
上記の試験結果を[表7]に示した。実施例2、実施例3のフィルム忌避製剤は塗付後1分で明確な被膜の形成を確認した。生理食塩水で30〜50μ程度のフィルムの剥離によって被膜の形成が確認された。
これに対して比較例4のものは(酢酸メチルブチルを処方除去)はスライドグラス上に被膜らしきものは確認されものの確実ではなく、溶媒揮散後のニトロセルロースとキチン・キトサンと思われる白い粉末状の物質の残留が確認された。同様な結果がヒトの皮膚上(手の甲)でも確認された。
比較例5のフィルム忌避製剤(ジメチルシリコーンオイル処方除去)は、塗付1分後には被膜の形成が不十分であったが塗付2分後には被膜を形成し、その後の生理食塩水への浸漬でスライドグラスからのフィルムの剥離によって被膜の形成が確認された。又、ヒトの皮膚上(手の甲)でも被膜の形成が確認された。
【0026】
[形成被膜の柔軟性試験]
上記の実施例2、実施例3、比較例4、比較例5のフィルム忌避製剤の内、上記試験で被膜形成が認められた比較例4を除いた実施例2、実施例3、比較例5の製剤について、形成された被膜の柔軟性を以下の条件で検証した。
(1)被検体
実施例2、実施例3、比較例5、
(2)試験方法
上記の被膜形成試験においてスライドグラス上に形成されたサンプルについて40℃に設定した恒温槽に各3枚ずつセットし、設定1〜5時間後の被膜の状態(亀裂の程度)を目視にて検査した。又、人の手の甲に形成された被膜に対して、ドライヤー(1200w)の中温にて約30cmの距離から熱風で乾し、1〜5分後の被膜の状態を目視にて検査した。
【0027】
(3)試験結果
上記の試験方法による試験結果を表8、表9に示した。
[柔軟性試験の結果1]
[表8]の柔軟性試験の結果1の表に示すように、スライドグラス上に形成された被膜(実施例2、実施例3、比較例5)に対する柔軟性試験で、実施例2、実施例3のフィルム忌避製剤は、恒温槽設定後の1〜5時間においては全く被膜に亀裂は確認できなかった。これに対して、比較例5のフィルム忌避製剤では設定後1時間で軽度の亀裂が確認され、以後経時的に亀裂は進行し、最終判定の設定後5時間では強度の亀裂と被膜の破壊現象が認められた。
【0028】
[柔軟性試験の結果2]
次に、[表9]の柔軟性試験の結果2の表に示すように、人の手の甲の皮膚上に形成された被膜に対する過酷条件下(ドライヤー乾燥)における柔軟性試験では、 実施例2、実施例3のフィルム忌避製剤は、5分間のドライヤー処理に対して形成被膜の亀裂が全く認められなかったのに比較して、比較例5フィルム忌避製剤では3分後に軽度の亀裂を確認し、最終判定の5分後には中等度の亀裂の進展を認めた。
以上の結果から、フィルム忌避製剤の処方において成分である酢酸3−メチルブチル又は酢酸イソブチルが被膜の主成分であるニトロセルロースの溶解性と溶剤揮散後の被膜形成に大きく関与するものと考えられた。又、ジメチルシリコーンオイルは形成被膜の柔軟性(皮膚追従性)を得る為に必須の成分であることが確認された。
【0029】
以上のように、本発明の皮膚上にフィルムを形成するフィルム忌避製剤の各実施例は、透明、或いは半透明のフィルムを皮膚上に形成することにより部位を覆うので、塗付部位を密封・保護し、含有忌避成分の蒸散忌避効果とその持続性を高め、蚊の飛来と止まりを予防し、更に忌避作用を示さなかった蚊に対しても肌に止まって刺すことを防止する。最悪の場合にたとえ刺されても形成された皮膜によって痒みによる患部を掻き壊しによる炎症の発生も防止することができる。更に、フィルム自体が忌避成分を含有するために蚊の触角を刺激し、接触忌避効果を発揮する。
又、忌避成分を含有しない基剤単独でも膏体を薄く塗布した皮膚上に皮膜を形成することによって皮膚自体をガードし、衣服や草木等による擦過といった物理的刺激から皮膚を守る作用を発揮する。つまり強靭な第二の人工角質層にもなりうる作用を有する。
副次的作用として、化学的刺激や細菌感染から皮膚を保護し、シールド効果、及び、保湿効果を長時間維持することが可能である。
なお、本発明の特徴を損なうものでなければ、上述した実施例に限定されるものでないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施例1,2と比較例1とに対する蚊忌避試験1の効果試験の[表3]である。
【図2】図1の[表3]をグラフにした図である。
【図3】本発明の実施例1乃至3と比較例2及び3とに対する蚊忌避試験2の効果試験の[表5]である。
【図4】本発明の実施例2、3と、比較例4、5の被膜形成試験の結果の[表7]である。
【図5】本発明の実施例2、3と、比較例5の柔軟性試験の結果1の[表8]である。
【図6】本発明の実施例2、3と、比較例5の柔軟性試験の結果2の[表9]である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトロセルロースを、アセトン、酢酸3−メチルブチル又は酢酸イソブチルの混合物に溶解し、更に、溶解剤としてエチルアルコールを添加して基剤とし、該基材にひまし油及びジメチルシリコーンオイルを含有させ、皮膚に塗布した後に溶解剤が揮散し塗布部位の皮膚上に透明或いは半透明の膜を形成して、虫に刺されることを防ぐことを特徴とするフィルム忌避製剤。
【請求項2】
前記基剤の中に溶解する忌避成分として、DEET、トルアミド系複合化合物、除虫菊エキス、及びレモンユーカリ、レモングラス、ミント、シトロネラ、ブラックパイン、クローブ、ジャスミン、ビャクダン、ペパーミント、ラベンダー、ユーカリ、ティートリー、ゼラニウム、レモン、シナモンから選択されるエッセンシャルオイルの1種類以上を含有させたことを特徴とする請求項1に記載のフィルム忌避製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−273918(P2008−273918A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−122901(P2007−122901)
【出願日】平成19年5月7日(2007.5.7)
【出願人】(593095070)有限会社日本健康科学研究センター (12)
【Fターム(参考)】