説明

フィルム状接着剤

【課題】 フィルム状接着剤の貯蔵安定性を損なうことなく、加熱時間の短縮を達成できるフィルム状接着剤を提供する。
【解決手段】 (A)エポキシ樹脂;(B)前記エポキシ樹脂の硬化剤としての固形粉末を核とし、当該核を皮膜で被覆しているマイクロカプセル型潜在性硬化剤;及び(C)前記マイクロカプセル型潜在性硬化剤の固形粉末を溶解する有機溶剤を含むフィルム状接着剤であって、前記(C)有機溶剤の含有率が0.001重量%〜0.35重量%である。さらに(D)導電性粒子を含有してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、LCDのガラスパネルとフレキシブルプリント配線板(FPC)のような回路基板同士の接着に使用されるフィルム状異方導電性接着剤のように、加熱硬化反応により被接合部材同士を接着させるフィルム状接着剤、及びこれに用いる接着剤用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
回路基板同士の接合、例えば、図1に示すように、電極1a、1a…が所定間隔をあけて並置されたLCDガラスパネル1と、電極2a、2aが所定間隔をあけて並置されたフレキシブルプリント配線板(FPC)2の接合には、フィルム状の異方導電性接着剤3が用いられている。具体的には、LCDガラスパネル1とFPC2とを、各電極1a、2aの組が相対するように向かいあわせ、これらの間に、フィルム状異方導電性接着剤3を挟み込み、一方の回路基板(図1においてはFPC2)を、クッション材4を介して、プレス熱ヘッド5により、他方の接合部材(図1においてはガラスパネル1)へ向けて、加熱加圧することにより、接合している。
【0003】
フィルム状異方導電性接着剤としては、バインダー成分としてエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、当該樹脂の硬化剤、及び導電性粒子を含有する樹脂組成物をフィルム成形したものが用いられており、例えば、特開2006−299025号公報(特許文献1)や特開2007−112949号公報(特許文献2)に開示されているように、導電性粒子がフィルムの厚み方向に配向されているものもある。
【0004】
このようなフィルム状導電性接着剤は、プレス熱ヘッド5を用いた加熱により溶融流動して、同一面上にある電極(1a−1a間、及び2a−2a間)の隙間を埋めるとともに、相対する電極同士(1aと2a)の隙間を埋めることで、回路基板同士を接合している。フィルム状異方導電性接着剤3を用いて接合された状態を図2に示す。相対する電極間の隙間(d)は、同一面上の隣接電極間距離(D)に比べてはるかに狭いことから、接合された状態(図2)において、フィルム状異方導電性接着剤3の厚み方向に配向した導電性粒子が、相対する電極(1a,2a)間の隙間に介在することにより、接合される回路基板間の導通を達成することができる。一方、導電性粒子の含有量は、相対する電極間の隙間(d)と比べてはるかに大きい同一面上の隣接電極間距離(D)を埋めるほども多くないので、隣接する電極間(1a−1a間、及び2a−2a間)の絶縁性は保持される。
【0005】
また、このようなフィルム状異方導電性接着剤では、室温で保存可能なように硬化反応が抑制され、加熱により硬化反応が開始するように、潜在性硬化剤が用いられている。
【0006】
潜在性硬化剤としては、バインダー樹脂であるエポキシ樹脂との組合せにおいて、例えば、特開2006−249342号公報(特許文献3)の段落番号0029、特開2007−91959号公報(特許文献4)の段落番号0021、特開2010−44967号公報(特許文献5)の段落番号0023に記載されているように、マイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤が好ましく用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−299025号公報
【特許文献2】特開2007−112949号公報
【特許文献3】特開2006−249342号公報
【特許文献4】特開2007−91959号公報
【特許文献5】特開2010−44967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
マイクロカプセル型潜在性硬化剤は、潜在性硬化剤の中では、長期保存性、速硬化性のバランスに優れているものであるが、通常、フィルムの加熱到達温度180℃、加熱時間(到達温度までの昇温時間含む。以下、同様)10秒間、加熱することを要する。
近年、生産性の観点から、加熱加圧時間の短縮が求められている。また、加熱時間が長いと、回路基板(図1ではFPC2)が受ける熱量が増大しすぎて、伸びたりしてしまうことがあり、この場合、回路基板に並置された電極間距離が大きくなって、ひいては、相対する被接合部材の電極同士にずれが生じるといった問題を惹起することになる。このような点からも、加熱加圧時間の短縮が求められている。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、フィルム状接着剤の貯蔵安定性を損なうことなく、加熱時間の短縮を達成できるフィルム状接着剤、及び当該フィルム状接着剤の製造に好適な接着剤用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明のフィルム状接着剤は、(A)エポキシ樹脂;(B)前記エポキシ樹脂の硬化剤としての固形粉末を核とし、当該核を皮膜で被覆しているマイクロカプセル型潜在性硬化剤;及び(C)前記マイクロカプセル型潜在性硬化剤の固形粉末を溶解する有機溶剤を含むフィルム状接着剤であって、前記(C)有機溶剤の含有率が0.001重量%〜0.35重量%である。
【0011】
前記固形粉末は、イミダゾール系誘導体であることが好ましく、前記有機溶剤は、ケトン系溶剤、特にメチルエチルケトンであることが好ましい。
【0012】
また、本発明のフィルム状接着剤は、さらに、(D)導電性粒子を含んでいてもよく、この場合、前記導電性粒子は、アスペクト比5以上の粒子であることが好ましい。
【0013】
本発明のフィルム状接着剤は、(A)エポキシ樹脂;(B)前記エポキシ樹脂の硬化剤としての固形粉末を核とし、当該核を皮膜で被覆しているマイクロカプセル型潜在性硬化剤;及び(C)前記マイクロカプセル型潜在性硬化剤の固形粉末を溶解する有機溶剤を含有する組成物において、前記(B)マイクロカプセル型潜在性硬化剤と前記(C)有機溶剤との重量比((B):(C))が100:0.001〜100:1.15である接着剤組成物により好ましく製造される。
【発明の効果】
【0014】
本発明のフィルム状接着剤は、マイクロカプセル型潜在性硬化剤の固形粉末を溶解する有機溶剤を0.001重量%〜0.35重量%含有しているので、フィルム状接着剤の貯蔵安定性を損なうことなく、従来よりも、接合時の加熱時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】フィルム状異方導電性接着剤を用いた、回路基板同士の接合方法を説明するための図である。
【図2】フィルム状異方導電性接着剤を用いて接合された回路基板を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、今回、開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0017】
〔接着剤用組成物〕
はじめに、本発明のフィルム状接着剤の原料となる接着剤用組成物について説明する。
本発明のフィルム状接着剤の原料となる接着剤用組成物は、(A)エポキシ樹脂;(B)前記エポキシ樹脂の硬化剤としての固形粉末を核とし、当該核を皮膜で被覆しているマイクロカプセル型潜在性硬化剤;及び(C)前記マイクロカプセル型潜在性硬化剤の固形粉末を溶解する有機溶剤を含む。
以下、各成分について順に説明する。
【0018】
(A)エポキシ樹脂
エポキシ樹脂は、その硬化物が、機械的特性、電気的特性、熱的特性、耐薬品性、接着性等の点で優れているという理由から、導電性接着剤の分野のバインダー成分として、好ましく用いられる。
【0019】
A成分のエポキシ樹脂の種類は特に限定せず、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、その蒸留品、ナフタレン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、シクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂に分類される高分子量エポキシ樹脂などが挙げられ、これらは2種以上混合して用いてもよい。また、アルコキシ含有シラン変性エポキシ樹脂、フッ素化エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂等の変性エポキシ樹脂を用いてもよい。
【0020】
接着剤用組成物、特にフィルム状導電性接着剤用組成物、更にはフィルム状異方導電性接着剤におけるエポキシ樹脂の含有率は、同一面上の電極間の絶縁性保持の点から、通常、50〜90重量%程度であり、好ましくは50〜80重量%程度である。
【0021】
(B)マイクロカプセル型潜在性硬化剤
本発明で用いられるマイクロカプセル型潜在性硬化剤とは、A成分であるエポキシ樹脂の硬化剤として作用する、常温で固体粉末を核とし、当該核を膜で被覆したものである。以下、前記核を、「硬化剤本体」と称して、核と被覆膜の組合せを意味するマイクロカプセル型潜在性硬化剤と区別する。
【0022】
硬化剤本体となる、常温で固体の粉末には、イミダゾール系誘導体が好ましく用いられる。具体的には、エポキシ化合物とイミダゾール化合物あるいはイミダゾール化合物のカルボン酸塩との付加物を、適当な粒度に粉砕したものが好ましく用いられる。
【0023】
上記イミダゾール誘導体としては、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−エチル−5−メチルイミダゾール、2−フェニル−3−メチル5−ヒドロキシメチルイミダゾールなどが挙げられる。
【0024】
上記エポキシ化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF及びブロム化ビスフェノールA等のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ダイマー酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル等が挙げられる。
【0025】
被覆膜としては、(A)エポキシ樹脂との相性が良好であるという理由から、ウレタン結合を有する被膜が好ましく用いられる。具体的には、硬化剤本体である粉体表面のOH基に、イソシアネート基を有する化合物を重合反応させて得られる被膜が好ましく用いられる。
【0026】
上記イソシアネート化合物としては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなどが挙げられる。これらのイソシアネート化合物を、常温にて、上記硬化剤本体である固体粉末表面において重合することにより、硬化剤本体を被覆する被膜が形成される。
【0027】
このようなマイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤は、硬化剤本体となるイミダゾール系誘導体が被膜で被覆されているので、原則的にエポキシ樹脂との接触が阻止され、その結果、常温での硬化反応が抑制される。一方、加熱により硬化剤本体が溶融して、流動化することで、被覆膜から溶出し、エポキシ樹脂中に拡散して、硬化反応を進行させる。
【0028】
以上のようなマイクロカプセル型潜在性硬化剤は、通常、平均粒子径1〜10μmであることが好ましい。ここで、平均粒子径の測定は、レーザー回折型測定装置RODOS SR型(SYMPATEC HEROS&RODOS)を用いて、キシレン有機溶剤により固形分として取り出したマイクロカプセル粒子を測定し、体積積算平均粒子径を平均粒子径とした。
【0029】
以上のような構成を有するマイクロカプセル型潜在性硬化剤としては、マイクロカプセル粒子単独でなく、液状エポキシ樹脂などに分散させた状態で用いられてもよい。また、市販のものを用いてもよく、例えば、硬化剤本体がイミダゾール系誘導体のマイクロカプセル型潜在性硬化剤としては、旭化成イーマテリアルズ社製のノバキュアシリーズが挙げられる。
【0030】
このようなマイクロカプセル型潜在性硬化剤は、その種類により適宜選択されるが、硬化剤本体がイミダゾール系誘導体の場合、エポキシ樹脂に対して、重量比(エポキシ樹脂:マイクロカプセル型潜在性硬化剤)で3:1〜1:3程度の割合で用いられる。
【0031】
(C)硬化剤本体を溶解させる有機溶剤(硬化剤溶出用有機溶剤)
C成分として用いる有機溶剤(硬化剤溶出用有機溶剤)は、マイクロカプセル型潜在性硬化剤の硬化剤本体を溶解させることができる有機溶剤であり、硬化剤本体の種類により適宜選択される。硬化剤本体がイミダゾール系誘導体の場合、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、2−ヘキサノン、2−ペンタノン、ホロン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、フェノール、クレゾール等の芳香族アルコール類などが用いられる。これらのうち、硬化剤溶出性の点から、メチルエチルケトンが好ましく用いられる。
【0032】
本発明で用いられるマイクロカプセル型潜在性硬化剤の被覆膜は、具体的には網目状構造を有している。このため、有機溶剤は、網目から進入して、被覆されている硬化剤本体と接触することが可能であり、溶解した硬化剤本体を、被覆膜から溶出させることが可能となる。従って、硬化剤本体の溶出量は、C成分である有機溶剤の含有量に応じて決まる。
【0033】
硬化剤溶出用有機溶剤の配合量は、マイクロカプセル型潜在性硬化剤との重量比率(有機溶剤:マイクロカプセル型潜在性硬化剤)で、0.001:100〜1.15:100が好ましく、より好ましくは0.01:100〜1.1:100、さらに好ましくは、0.02:100〜1.05:100である。硬化剤溶出用有機溶剤がマイクロカプセル型潜在性硬化剤量に対して多すぎると、溶出する硬化剤本体の量が過剰となり、常温で周囲のエポキシ樹脂の硬化反応が進みすぎて、ひいては組成物の室温保存性、フィルム状接着剤の室温保存性を確保できなくなる。一方、硬化剤溶出用有機溶剤量が少なすぎると、溶剤配合による効果が得られにくく、加熱時間の短縮効果はほとんど得られない。
【0034】
(D)導電性粒子
フィルム状接着剤がフィルム状導電性接着剤の場合、さらに導電性粒子を含有する。
導電性粒子としては、導電性を有する粒子であればよく、例えば、半田粒子、ニッケル粒子、金メッキニッケル粉、銅粉末、銀粉末、ナノサイズの金属結晶、金属の表面を他の金属で被覆した粒子等の金属粒子;スチレン樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂等の樹脂粒子に金、ニッケル、銀、銅、半田などの導電性薄膜で被覆した粒子等が使用できる。このような導電性粒子の粒径は特に限定しないが、通常、平均粒径0.1〜5μmである。
【0035】
これらのうち、導電性粒子を所定方向(本発明においてはフィルムの厚み方向)に配向させやすいという点から、磁性を有する粒子が好ましく用いられる。また、導電性粒子を厚み方向に配向させやすいという観点から、アスペクト比5以上の導電性粒子が好ましく用いられる。具体的には、微細な金属粒が直鎖状につながった形状、あるいは、針状粒子が好ましく用いられる。このような導電性粒子は、フィルム成形の際に磁場の作用により、厚み方向に配向させることができる。
【0036】
導電性粒子の含有量は、用途により異なるが、回路基板の接合に用いられる異方導電性接着剤では、同一面上に並置された隣接する電極間間隙を導通させるには不十分な量で、且つ相対する電極間を導通させることができる量であり、具体的には、導電性接着剤の全体積に対して、0.01〜10体積%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜1体積%である。
【0037】
(E)その他の添加剤
本発明の異方性導電性接着剤には、上記成分の他、必要に応じて、補強材、充填剤、カップリング剤、硬化促進剤、難燃化剤などを含有してもよい。
【0038】
また、バインダー成分用樹脂としては、A成分であるエポキシ樹脂以外に、必要に応じて、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂等の他の熱硬化性樹脂を含有してもよいし、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等の熱可塑性樹脂などを含有してもよい。
【0039】
以上のような組成を有する接着剤用組成物において、溶剤によりマイクロカプセル型潜在性硬化剤の核となる硬化剤本体の一部がC成分の有機溶剤により一部溶出、あるいは固形粉末の一部が高粘度溶液のようになり、被覆膜から溶出しやすい状態になっていると考えられる。但し、溶出している硬化剤本体の量は微量であるから、常温保存中に進行する硬化反応があっても少なく、室温保存性に支障を与えるほどではない。
【0040】
〔フィルム状接着剤〕
本発明のフィルム状接着剤は、以上のような成分を含有する接着剤用組成物をフィルム状に成形したものである。フィルム状接着剤の製造方法は特に限定しないが、通常、以下のような方法で製造される。
【0041】
接着剤用組成物を(C)成分とは別の溶剤(以下、「希釈用溶剤」と称し、(C)成分としての硬化剤溶出用溶剤と区別する)に溶解して、接着剤の塗工用溶液を調製する。ここで、希釈用有機溶剤は、マイクロカプセル型潜在性硬化剤の被覆膜、硬化剤本体に対して不活性な溶剤、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン、酢酸エチル、酢酸ブチル、芳香族炭化水素などが挙げられる。フィルム状接着剤が異方導電性接着剤の場合、乾燥中に、導電性粒子が厚み方向に配向できるような揮発速度を有する溶剤が好ましく用いられる。具体的には、PGMEA、PMA等のエステル系が好ましく用いられる。
前記塗工用溶液の固形分率としては、特に限定しないが、40〜70重量%であることが好ましい。
【0042】
調製した塗工用溶液を、基材フィルム上に塗工、流延、加熱乾燥してフィルム状とする。
フィルム状接着剤を製造するための乾燥温度は、使用する有機溶剤により異なるが、通常、60〜80℃程度である。
乾燥は、フィルム状接着剤におけるC成分(硬化剤溶出用溶剤)の残存率が0.001〜0.35重量%、好ましくは0.005〜0.35重量%、より好ましくは0.01〜0.35重量%となる条件で行うようにする。
【0043】
(C)溶出用有機溶剤は、希釈用溶剤と同様に製造時に蒸発するが、初期の添加量や乾燥条件をコントロールすることにより、上記範囲の量を残存することができる。また、上記範囲の量が残存することにより、硬化剤本体の溶出しやすい状態を維持できる効果も期待できる。
【0044】
フィルム状接着剤が、(D)成分として、アスペクト比5以上の導電性粒子を含有する場合、加熱乾燥前または同時に、磁場を通過させて、導電性粒子を厚み方向に整列させておくことが好ましい。
フィルム状異方導電性接着剤の厚みは、特に限定しないが、通常10〜50μmであり、好ましくは15〜40μmである。
【0045】
本発明のフィルム状接着剤は、マイクロカプセル型潜在性硬化剤の硬化剤本体の一部が溶出し、硬化剤本体が単独の状態で含有された状態となっている、あるいは被膜の網目から一部溶出したような状態になっていると考えられる。このような状態の硬化剤本体は、マイクロカプセル型潜在性硬化剤として存在している硬化剤本体と比べて、加熱初期、すなわちエポキシ樹脂が溶融しはじめると硬化反応を開始できる。換言すると、硬化反応が従来よりも早く開始される。また、バインダー樹脂の流動とともに、硬化剤本体がエポキシ樹脂中に早期に分散することが可能となり、硬化反応が一様に開始されるので、結果として硬化反応の進行が速くなる。よって、本発明のフィルム状接着剤は、従来のフィルム状接着剤よりも、硬化反応の開始が早く、しかも効率的に進行できるので、従来よりも早く硬化反応を終了させることが可能となる。このことは、加熱硬化時間を短縮できること、ひいては、接着剤の加熱硬化に必要な熱量総量を減らすことができること意味する。
【実施例】
【0046】
本発明を実施するための最良の形態を実施例により説明する。実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0047】
〔フィルム状接着剤の作製〕
エポキシ樹脂として、4種類のエポキシ樹脂((a)JER(株)製のエピコート1256(重量平均分子量5万)、(b)JER(株)製エピコート1004(重量平均分子量1600)、(c)DIC(株)製のTSR960(ゴム変性エポキシ樹脂)、及び(d)DIC(株)製のエピクロン4032D)を用いた。
マイクロカプセル型潜在性硬化剤として、マイクロカプセル型イミダゾール系硬化剤((e)旭化成エポキシ(株)製ノバキュアHX3932)を用いた。
硬化剤本体溶出用有機溶剤としてメチルエチルケトン、希釈用有機溶剤としてカルビトールアセテートを用いた。
導電性粒子としては、1μmから12μmまでの鎖長分布を有する直鎖状ニッケル微粒子を用いた。
【0048】
上記(a)〜(e)を、重量比でa:b:c:d:e=55:20:15:10:50の割合で混合し、溶出用有機溶剤と希釈用有機溶剤とを異なる比率で混合した3種類の混合溶剤及び希釈用溶剤のみのいずれかに溶解し、遠心攪拌ミキサーを用いて3分間混合して、固形分60%の均質溶液を調製した。尚、溶出用有機溶剤のマイクロカプセル型イミダゾール系硬化剤に対する配合比率は、表1に示す通りである。
【0049】
次いで、固形分の総量(Ni粉末+樹脂+無機フィラー)に占める割合で表される金属充填率が、0.2体積%となるように上記Ni粉末を添加した後、遠心ミキサーを用いて撹拌することで均一分散させ、溶出用有機溶剤の含有率が異なる4種類の塗工用溶液を調製した。
【0050】
上記で調製した4種類の塗工用溶液を、離型処理したPETフィルム上にドクターナイフを用いて塗布し、磁束密度100mTの磁場中で60℃、30分間、乾燥、固化させることにより、直鎖状粒子が磁場方向に配向した。以上のようにして、表1に示すように、溶剤残存率が異なるフィルム状異方導電性接着剤No.1〜4を製造した。溶剤残存率は、GC−MSにより測定した値である。No.4は、メチルエチルケトンを含有しない接着剤溶液を用いて作製したフィルム状接着剤である。フィルム状異方導電性接着剤の厚みはすべて20μmであった。
【0051】
〔回路基板接合体の作製及び評価〕
幅50μm、高さ18μmのAuメッキしたCu回路が50μmの間隔をあけて124本配列されたFPCと、幅150μmのITO回路が50μm間隔をあけて形成されたガラス基板とを用意した。その後、124か所の接続抵抗が測定可能なデイジーチェーンを形成するように向かい合わせて配置し、上記で作製したフィルム状異方導電性接着剤No.1〜4を用いて、フィルム状導電性接着剤の到達温度180℃、加熱時間(到達温度までの昇温時間含む)6秒間、3MPaの圧力で加圧して接着させ、FPCとガラス基板との接合体を得た。
また、従来例として、No.4のフィルム状異方導電性接着剤を、従来の加熱加圧条件である、到達温度180℃、加熱時間10秒間、3MPaの圧力で加圧して接着させ、FPCとガラス基板との接合体を得た。
【0052】
作製した接合体について、下記方法により初期抵抗及び耐熱・耐湿性を測定評価した。評価結果を、フィルム状導電性接着剤の溶剤残存率とともに、表1に示す。
【0053】
(1)初期抵抗(Ω)
上記で作成した接合体において、接続された124か所の抵抗値を四端子法により求め、その値を124で除することで、1か所当たりの接続抵抗を算出した。
【0054】
(2)耐熱・耐湿性
上記で作成した接合体を、85℃、85%Rhに設定した高温・高湿槽内に投入し、100時間経過後に取り出して、再び抵抗値を測定した。
【0055】
【表1】

【0056】
No.4は、メチルエチルケトンを全く含有しないフィルム状接着剤である。従来例と同じ組成を有するフィルム状接着剤であるが、従来例よりも加熱時間が短くなったため、加熱硬化反応が十分に進行せず、エポキシ樹脂硬化物のネットワーク構造が不十分となっている。このため、従来例と比べて、初期の抵抗値が若干高くなっており、特に100時間後の抵抗値が上昇していた。加熱不足は、接合部分における耐熱・耐湿性不足の原因となり、結果として、接続信頼性が従来よりも低下したことがわかる。
【0057】
No.1,2は、硬化剤本体であるイミダゾール誘導体を溶解する溶剤であるメチルエチルケトンを0.01〜0.35重量%含有するフィルム状接着剤である。No.1の初期抵抗、高温高湿条件下での100時間保存後の抵抗値のいずれも従来例と同程度であった。No.2は、メチルエチルケトンの含有率がNo.1よりも高いため、初期抵抗値がNo.1、従来例と比べて若干高くなっているが、No.4と比べて、100時間後の抵抗値の上昇の程度は小さかった。従って、溶出用溶剤で、少量の硬化剤本体を予め溶出させておくことにより、昇温過程の早期の段階で硬化反応が開始され、さらにエポキシ樹脂の流動に伴って、硬化剤本体が迅速に拡散できたため、従来よりも短い加熱時間で、従来と同程度の加熱硬化体を形成することができると考えられる。
【0058】
一方、No.3は、メチルエチルケトンを0.4重量%含有しているフィルム状接着剤である。初期抵抗値が高いだけでなく、高温高湿下での100時間保存後の抵抗値は100Ωを超えていた。これは、メチルエチルケトンの含有量が多すぎたため、溶出した硬化剤本体の量も多くなり、フィルム状接着剤の状態で、すでに硬化反応が進んでいたためと思われる。このことは、接合体作製のための加熱加圧過程で、バインダーであるエポキシ樹脂の流動が十分でなく、導電性粒子が、相対する電極間の隙間を十分に埋めるように、樹脂が流動できず、抵抗値が高くなったと考えられる。さらには、接合体における接着剤の加熱硬化物は、硬化剤本体の拡散が十分でない状態で硬化反応が進行して形成されたものであることから、ネットワーク構造の緻密性が不足し、耐熱・耐湿性が大幅に低下したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のフィルム状接着剤を用いれば、接合作業における加熱時間を短縮できるので、フィルム状接着剤の加熱反応による接合作業の効率化、省エネルギー化を図ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂;(B)前記エポキシ樹脂の硬化剤としての固形粉末を核とし、当該核を皮膜で被覆しているマイクロカプセル型潜在性硬化剤;及び(C)前記マイクロカプセル型潜在性硬化剤の固形粉末を溶解する有機溶剤を含むフィルム状接着剤であって、前記(C)有機溶剤の含有率が0.001重量%〜0.35重量%であるフィルム状接着剤。
【請求項2】
前記固形粉末は、イミダゾール系誘導体である請求項1に記載のフィルム状接着剤。
【請求項3】
前記有機溶剤は、ケトン系溶剤である請求項1又は2に記載のフィルム状接着剤。
【請求項4】
前記ケトン系溶剤は、メチルエチルケトンである請求項3に記載のフィルム状接着剤。
【請求項5】
さらに、(D)導電性粒子を含んでいる請求項1〜4のいずれか1項に記載のフィルム状接着剤。
【請求項6】
前記導電性粒子は、アスペクト比5以上の粒子である請求項5に記載のフィルム状接着剤。
【請求項7】
(A)エポキシ樹脂;(B)前記エポキシ樹脂の硬化剤としての固形粉末を核とし、当該核を皮膜で被覆しているマイクロカプセル型潜在性硬化剤;及び(C)前記マイクロカプセル型潜在性硬化剤の固形粉末を溶解する有機溶剤を含む接着剤用組成物であって、
前記(B)マイクロカプセル型潜在性硬化剤と前記(C)有機溶剤との重量比((B):(C))は、100:0.001〜100:1.15である接着剤用組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−241319(P2011−241319A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115413(P2010−115413)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】